☆☆FFDQ板最萌トーナメント二回戦Round9☆☆
淡い蝋燭の光に満たされた寝室。
私は大きなベッドの傍に立って、昏々と眠り続ける一人の男の顔を見つめている。
男の名はディリータ・ハイラル。混乱に陥っていたイヴァリースを平和に導いた英雄。
この国を治める畏国王。
彼は私を一番幸せにして、一番不幸にした人。
彼は私がこの世で一番憎んで…一番愛した人…。
あなたに告げたいことがあって、私はさっきからここにこうしている。
でも私はあなたに触れることはおろか、声をかけることも出来ない。
何故なら私は、あなたに刺されて死んでしまったから…。
死んだ王女の身代わりとして、王位を継承させる人間…ただそれだけの存在であった私。
王女であることが唯一の誇り、唯一の生き甲斐であった私は、自分が何処の誰とも知れ
ない身代わりだと知った時、生きる気力さえも失った。
泣くことしか出来ない私を、厳しく励ましてくれたのは、まだ一介の騎士に過ぎなかっ
たあなた。
「オレを信用しろ、オヴェリア。おまえに相応しい王国を用意してやる!オレが作ってや
る!おまえの人生が光り輝くものになるようオレが導いてやろう!」
あなたは亡き妹の名にかけて、そう誓ってくれた。
私達を結んだのは、「利用され続けた者」としての共感。
あなたもまた貴族に利用され、最愛の妹を奪われ、権力を憎んでいた。
乱世の波に翻弄され、大きな権力の駒として利用され続けていた私達は、「時代」とい
う共通の敵を持ち、想いを同じくすることが出来た。「同病相憐れむ」そんな言葉がぴった
りの結びつきだった。
私はあなたを信じた。信じようとした。
だけどささいな行き違いが原因で、あなたに対する疑惑が生じた。あなたもまた、「王女」
である私を利用しようとしているに過ぎないのではないか…一度そう疑い出すともう止ま
らなくなった。疑惑は私の中で雨雲のように膨れ上がり、何時しか私は、あなたに対する
信頼を失っていった。
……いいえ、あなたの所為にするのは間違っているわね。
あなたは必死なだけだった。この国を手に入れる為に。私の為の王国を作る為に。
あなたの言葉を信じられなかった私が愚かなだけ。
結局、私はあなたを信じることが出来ず、ゼルテニア城の教会跡地であなたに短刀を向
けた。
「……そうやってみんなを利用して!ラムザを見殺しにしたように、私も見殺しにするの
ね!」
そう叫んで刃を突き立てた私を、あなたは信じられないような瞳で見つめ…次の瞬間、
私を短刀で刺し返していた。あれはあなたの意思というより、戦士としての本能が起こし
た行動だった。
その時のあなたの顔を、私は忘れられない。
迷子になった子供のような、途方に暮れた表情。呆然と見開かれた瞳。あなたのあんな
顔を見たのは、あれが最初で最後だわ。
大地に伏した私は、暗くなっていく視界の中で、あなたが持ってきた薔薇の花びらが風
に舞うのを見た。
あなたは、その日が私の誕生日だったことを覚えていてくれていた…。
私が刺した傷が深く、あなたは昏睡状態が続いている。
あなたが苦しそうな息の中で私の名を呼ぶ度、私の胸は痛くなる。
どうして時間は、巻き戻すことが出来ないのかしら。
一度でいい、もう一度あの日に戻ることが出来るのなら…私は花束を受け取って、あり
がとうと言えるのに。あなたに向かって、にっこりと笑えるのに。
二人で幸せになれるのに。
…馬鹿ね。今更こんなこと考えてもどうにもならない。私は死んでしまったんですもの。
長くはここにいられない。いかなくてはならないの。
さようなら、ディリータ。
でも最後にこれだけは言わせて。
私はあなたを愛していた。私の人生は嘘で塗り固められた、お芝居のような人生だった
けど、その気持ちだけは本当だったの。それだけは何時か分かって欲しい。
何時か私は、小鳥になってあなたの元に帰ってくる。青い翼を持った小さな鳥になって
あなたに春の歌を捧げたい。
だからディリータ、その時は微笑んで、私の名前を呼んでね。