☆☆FFDQ板最萌トーナメント二回戦Round9☆☆
「あー、もう、どうしろってのよぉ!」
魔法使いさんが、二つの棺おけを前に頭をかきむしっている。
あたしはけらけら笑って、魔法使いさんの肩を叩いた。
「心配ないですよ〜。どうにかなりますって」
きっ。
あたしのセリフに反応して、魔法使いさんは勢いよくあたしをにらみつけた。
大きく息を吸って、一気にまくしたててくる。
「あんたねー、どこがどうなったら『どうにかなる』のよ! ここはダンジョンの最下層、
勇者はミミックのザラキでやられちゃうし、回復役の僧侶もさっきの戦闘のメガンテで
棺おけの中。あたしはMPゼロだし、あんたはまったくの役立たず! これでどうにかなる
もんなら教えてほしいわね!」
ぜいぜいぜい。
魔法使いさんの小さな肩が大きく上下した。
「それでも、何とかなりますよ〜。だってあたし、運だけはいいから。今回もきっと
乗り切れるって、そんな気がしてるんです」
「……あ、あんたねえ」
魔法使いさんは脱力したように肩をがくっと落とすけれど、あたしはそんなこと
気にしない。だって気にしてたって、事態がどうなるわけでもないもんね。
「さ、ここでじっとしててもしょうがないし、とっととダンジョン出ちゃいましょうよ〜。
そしたらキメラの翼で町まで戻れるんだし」
「モンスターに会ったらどうするのよ!」
あたしは胸の谷間をごそごそとやって、間から小さな瓶を取り出した。他人の家の
タンスをあさっていたら、偶然みつけた聖水だ。
「これで、何とか乗り切りましょ。これを体にふりかければ、モンスターにしばらく
会わずにすみますよ。ほ〜ら、ちょいちょいちょいっと♪」
鼻歌を歌いながらあたしは、まず魔法使いさんに瓶の半分を、そして残り半分を
自分の体に振りかける。うーん、冷たい! 風邪、引いちゃわないといいなあ。
「ねえ、あんたって不思議なコね」
「そうですか?」
「普通、こんな事態で落ち着いてなんていられないわよ。もうちょっと取り乱す
とか、泣き出すとか、するもんだと思ってた」
ふーん。そういうものなのかなあ。
でもあたしは、泣いたりするの苦手なんだよね。だってさ。
「あたしね、アリアハンで母と二人暮ししてたんです」
唐突に話題が変わったせいか、魔法使いさんはキョトンとする。
あたしは構わずに、ニコニコしながら話を続けた。
「あたし、働くのが嫌いで、なんとなーくノホホンと日々を過ごしてて、
気がついたら遊び人になっちゃってたんですよね。それなのに、なぜか急に
『勇者様と世界を救う冒険ツアー』にご指名されちゃったでしょ。あたしも母も、
そりゃもうびっくり。あははは」
「ツ、ツアーってねあんた……。観光旅行じゃないのよ」
「母もそう言ってました。ずいぶん心配だったみたい。あたしが旅に出る
直前まで、何度も繰り返してこう言い聞かせてくれましたよ」
あたしは目を閉じて、一言一句おぼえている、母さんの言葉を反復した。
『お前は頭も悪いし、魔法も使えないし、世界を救う勇者様のパーティに加わる
には、あんまりに頼りないねえ。でもね、お前の唯一の長所は、いつも明るさを
忘れないで笑っていられることだよ。だから旅に出たら、いつも笑顔を忘れてはだめ。
どんなに苦しいときでも、絶望的なときでも、お前だけは笑っていなさい。
そして周りの人も、笑わせてあげなさい。勇者様のパーティが、いつも明るくいられるように』
「だからね、あたし、いっつも笑顔だけは忘れないでいようって決めたんです。
それがあたしの唯一のとりえだから」
魔法や剣が使えなくても、笑っていることだけはできる。
おどけて勇者さんたちを笑わせることはできる。
それが世界を救う役に立つのなら――それってかなり、素敵なことじゃない?
「……」
魔法使いさんは、しばらく黙った後。
帽子のつばを引き下げて顔を隠し、くるっと後ろを向いてしまった。
あれ? 怒らせちゃったのかな?
でもすぐに、魔法使いさんがこうつぶやいたのを、あたしはちゃあんと耳にした。
「……そうね。少なくとも今は、あんたの笑顔に助けられてるのかもね」
なんだか嬉しくて、あたしはまた笑顔を浮かべずにいられなかった。抑えても抑えても、
くすくす笑いが浮かんでくる。
そして同時に、あたしは確信していた。
ぜーったいに、だいじょおぶ。あたしたち、このダンジョン、出られるわ。
だって、笑う門には福来たるって言うじゃない。
あたしの持ち前の運の良さに加えて、さらなる笑顔で福までついてくるんじゃあ……
出られない要素の方が、圧倒的に少ないもの。ね!