FF7の小説

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「今日は、俺は一人でぶらぶらするんだったよな?」
「そっそ、俺も今日はデートの番人しなくってもいい」
「………器用だなザックス、なんでこんなに料理上手なんだ?」
「クラウド、それじゃ会話になってねえよ」
「そうか? で、どうしてこんなに上手なんだよ? 補給部隊にいたことないんだろ? いたからってうまくなるもんでもないけど」
「そっ、そういや、なんで、あのお坊ちゃんは、あんなにセフィロスを敵視すんのかね。女をわざわざ横取りするなんざ、陰険そのものだよな。
俺らがこんな手の込んだマネしなきゃなんないのは、みんなあいつのせいだ」
ザックスは、あくまでも料理にこだわるクラウドをかわすため、いかにも思い出したようにセフィロスの肩に手を掛けた。
「そうやっていつも話をそらすんだな」クラウドの呟きは聞こえないふりをしている。セフィロスは意味深な眼差しをザックスに向けて少し笑い、クラウドに視線を移す。
「おまえならわかるだろう、クラウド。私も一歩間違えばあいつの二の舞だからな」
「知らん」
「ナンだよ、ちゃんと教えろよ!」
「おまえなあ…」
ザックスは自分のことはすっかりさっぱり棚に上げ、真っ直ぐな瞳で詰問する。
クラウドはこの瞳に弱い。大抵、根負けして、目をそらしてしまう。「しかたないな」小さく呟いて、観念したように話し始める。
「あいつ、いろいろセフィロスに叫んでただろ、あれ責めてるんじゃなくて、あれがあいつの理想なんだ。そうであって欲しいという…。言葉にするのって、難しいな…
一人でしか生きられないと思いこんでいるああいう奴は、一人で生きている強い奴に憧れて、そいつにはずっと一人でいて欲しいと思うんだよ」
「わっかんねえな、俺そういうの」
「お前にはわからないよ、たぶん」
「どーしてそーゆうかわいげのないこと言うのかね」
ザックスはクラウドのこめかみを拳でぐりぐりと締めつける「まだ目が醒めてないんだっ、起こしてやろっと」と言いながら。セフィロスは苦笑し、
「…ザックス、少し加減しろ。…わからないで済めばそれに越したことはない。お前が今まで幸せだった証拠のようなものだ」
「ますますわからないぞ、それ」
ぱたっとクラウドを解放する。痛い頭で自分がそうだったから、と付け加えるのをクラウドは止めておいた。これ以上はザックスを混乱させるだけであり、
加えてセフィロスの『二の舞』の言葉など彼はとっくに忘れているのでそれでも構わないだろう。
少し大きめのコート、セーターに膝丈のタイトスカート、ソックスにローファー、長い髪は風になびいている。
ショーウィンドウに映る自分は、自分ですら少しばかり上品な女の子に見える。「情けない」呟く。
そのショーウィンドウに、ルーファウスの姿も映りこむ。
クラウドはそろそろといかにも恐ろしげに振り向いた。
「クラフ、そのコートは英雄には似合いませんよ」
その言葉に虚を突かれたクラウドは、再度向き直り、ショーウィンドウの本来の目的である商品を見る。
そこには子供っぽいダッフルコートがペアで明るく華やかにディスプレイされている。
脱力感とともにこれを着たセフィロスが頭に浮かぶ。爆笑、を必死に押さえ、
「そうね、彼はきっとこういうの嫌よね。でも、私は着せてみたいと思うわ」
吹き出しそうな顔でルーファウスに答える。そのあまりに邪気の無い笑顔にルーファウスは瞬間つまったが、
「今日は僕とご一緒しません?」
「えっ、あの…。」
「ヒマだ、と顔に書いてある」
「そんな…私、叱られる」
「君が告げ口しなきゃ大丈夫だ」
でも、とためらうクラウドの手を強引にとりさっさと歩いていく。

【板についてきたよな〜、安心してみていられるもんな、セフィロス】
ザックスは、物陰から、セフィロスに話しかける。
「安心している場合ではない、玄人がいる。そこからツォンは確認できるか」
【ルーファウスの後ろだ。プロだと?】
「傭兵かもしれん。性急だな」
【あいつ殆ど丸腰なんだぞ!】
「だがこれでケリがつく」
【俺が出る。お前はそこから指示してくれ】
「複数だ。私もここから降りる…まずいっ、ザックス急げ!」
セフィロスはビルの屋上から外階段を駆け下りていたが、途中でふわりと飛び降りた。


「ツォン!」
ザックスの自分を呼ぶその言い様にツォンはすばやく反応し、ルーファウスとクラウドを抱えて大きな消火栓の後ろに隠れた、はずだった。
爆発音のような音とともにその形はなくなり、水が滝のように勢いよく流れ出している。既にツォンは2人を抱え、建物の陰へと走っている。
ザックスは悲鳴とともに逃げる群衆の流れに逆らい、3人の元へ急いだ。

「バカが! 街中でキャノンとはな。ここに居ろ。お前は防御だけでいい」
ザックスはツォンへ目線を向ける。
「お前達の戦争ごっこに僕を巻き込むとは、いい度胸だな、えっ?」
頷くツォンの腕の中で、ルーファウスは不愉快そうだ。しかし、ザックスはそれには答えない。バスターソードに手をかけたまま動きを止め、様子をうかがっている。
クラウドは長い髪を適当に束ねると、スカート側面を裾から上まで裂き、靴とソックスまでも脱ぎ捨てた。
裸足の戦闘は危険だが、足をとられるよりはいいと判断したのだろう。バッグから、護身用でしかない銃を取り出しスカートのベルトに挿む。
あとは何も持っていないことは、ザックスにもわかっている、だが。
「じゃ、ね。敵の狙いは、この私」
クラウドは、にっこり笑い、ばっと踊り出る、狩られる狐のように。
「ここは頼んだ!」
ザックスはツォンへ叫ぶと自分もクラウドの後を追う。

「英雄の女、だけのことはあるな…」
ルーファウスは呟いていた。
既にセフィロスは戦闘状態。ザックスが加わるとそれは見事なコンビネーションに変わる。互いにわざと作った隙を互いが埋めあう。右へ行けば左に、上へ行けば下に。
クラウドはそれを悠長に眺めているひまも無く、ひたすら逃げまくる。クラウドに仕掛ける者はことごとくその2人に倒される。その後、方針が変わったのだろう、セフィロスとザックスを直接攻撃し始めた。


 
見れば年若い女が一人静かにルーファウスのモトへ歩いていく。それに気づいたクラウドは、跳ぶように急ぎ走った。
「こんなところで何をしている? 行け」
女へ向けた、ルーファウスの冷たい声が、走りよるクラウドの耳にも響く。

 ふふっ

その女は笑い、クラウドに銃口を向けた。
「私は物分りのいい女じゃないわ。目移り癖はいつか治る、いつか私を迎えてくれると信じて待ってた、はずだったのに…。人殺しってクセになるのね、知らなかった。
いつからかあなたが興味を示す女を殺し始めて、途中で自分が何をしたいのかわからなく…なった」
クラウドに向けられていた銃口がルーファウスへとゆっくりと移動する。ツォンの右手もゆっくりとスーツの内ポケットへと。
「英雄セフィロスの彼女はお優しいこと」
そう言うと、女はかばってくれたその胸を銃で撃つ。クラウドは後ろへ吹っ飛び壁に当たって血反吐を吐いた。同じ銃口がルーファウスに向けられ、容赦無く2発3発と撃ちこまれていく。ただし、その前に立ちはだかるツォンへと。
銃弾の衝撃の度に足がグラつくが、決して倒れない。反撃しようにもすでに両手がきかないのだ。呆然とツォンへ駆け寄ろうとするルーファウスの足首をクラウドは掴み、転ばせた。変わりによろけた足で立ちあがる。
「こっち…だ」
僅か8発の弾などとっくに使いきっている。注意をそらすだけでしかない空っぽの銃を女へ向ける。
「私だって、愛されていれば優しくもなれた…」
女は銃を構えなおし、クラウドに狙いを定める。ツォンはそれでもだらりと下げた両手を肩で持ち上げながら女の方へ向かって歩き続けている。ルーファウスは今度こそ駆け出していた。
「行くな、ツォン!」

振り向かないツォンの動かぬはずの掌だけがルーファウスへ向かって開かれた。
「…いいこ…です…から…そこに…いて…くだ…」

制止するその掌から綺麗な赤い雫が零れ落ちる。

――幼い頃、眠れぬベッドで
――大きな掌が胸で優しくリズムを刻む
――ぬくもりで心の中が満ちるころ
――深い眠りに落ちていく


呼応するかのごとく大きく見開かれたルーファウスの瞳から透明な熱い雫が零れ落ちる。

――取り残された小さな自分
――おもちゃを全部投げ捨てて
――泣いて叫んで求めたものは
――その掌ではなかったか


 いつの日もいつの時も、一人ではなかったと。
また、頭上で何かが光る。バスターソードによってその光が遮られ、キャノンと共にぐしゃりと何かが落ちてきた。
ほぼ同時に、ツォンに背を向けた英雄の音もなく振られたその長剣が、女の首と胴体を切り離していた。

時を止めていたツォンが安心したかのように崩れ落ち、同時にルーファウスの悲痛な叫びが響いた。
「ツォン! だめだだめだ、目を開けろ。置いていくなっ。…一人にしな…いで…イヤだ…お願い……」
涙は瞳に任せるままに、漏れる嗚咽もはばからず、ツォンの胸に顔をうずめる。

「まったく、どいつもこいつも…」
小さく呟きながら、セフィロスはツォンに歩み寄り、膝をついた。そして、回復マテリアを使う、何度も、何度も。
「頑丈な奴だな。重症には違いないが、命は恐らく大丈夫だろう。私にできるのはここまでだ」
嗚咽の止まらないルーファウスは、しゃくりあげながらも、セフィロスをにらみつけ、
「礼は…ィック、言わ…ヒッ…な…フィッ」
「それでいい」
立ち上りかけたセフィロスはもう一度膝をつき、
「おかしなプライドなど捨て、防弾チョッキぐらいつけておけ。……死にたがる奴の面倒はみきれん」
ツォンの耳元で囁くように言った。
ザックスはクラウドを抱えて、あたりかまわず怒鳴り散らしていた。
「どーするつもりだったんだっ、ばかっ」
避けるつもりに決まってるだろ、とクラウドは言いたかったのだが、喋ると痛いので為されるがままに黙っていた。
非常に不機嫌そうなセフィロスが、チラリとクラウドの服をめくる。いくら戦闘用サポーターといえど、あの至近距離では火傷は免れ得ないが、防弾としてはその役目を果たし、弾はあばらにめり込むだけで済んでいるようだ。
「お前もな…」とだけ言い、回復マテリアを手にするザックスに向かって
「ツォンを本部に連れていってやれ」
「なんで、俺が…」
「クゥは、私が預かる。」
ザックスの手からクラウドをモノのように取り上げた。
「早く行け」
「お前っ、ク…、くっそー。行きゃいいんだろっ」
歩きかけて振り向く。
「早く手当てをしてやってくれ」


ザックスはツォンを担ぎ車の後部座席に乱暴に放りこんだ。「うっ」と小さくツォンが呻く。
「この野蛮人め、もっと丁寧に扱え!」
噛みつかんばかりにルーファウスが怒鳴る。ようやく調子が出てきたらしい。それでもその手はすぐさまツォンの手を握る。
「そんなに大事ならもっと早くから大事にしてやれ」
ザックスは小さな声で言う。が、それどころではないルーファウスの耳には当然届いていない。
 走行中、少しでも揺れると罵声が飛び、その度に、にったあ、とザックスが笑う。
ハタで見ているツォンのなんとも複雑な表情が(それが痛みという要因を差し引いても)、ザックスのニタニタ顔に拍車をかけていることは、もちろん、ザックス以外にはわからないことだったろう。


「ツォン、悪かったな。お前にも今回のことは話すわけにはいかなかった。でも、良かったな、なんかうまくいきそーで」
医務局のベッドにツォンを降ろしながらザックスは言った。
「何の…こと、だ…」
ツォンは首を少しあげて、苦しい息のしたでザックスに問う。
「とぼけんなって。俺もお前といっしょだからな。はねっかえりのじゃじゃ馬なんて好きになったらもうどうしようもない。それが良くもあるんだけど、な」
傍若無人なそのソルジャーの笑い声は、今のツォンの耳には心地良かったらしく、彼もまた、つられたように笑顔をこぼした。

「自分でやるからいい」
セフィロスを振りほどこうとしたその手は逆に掴まれてしまう。
「敵に情けをかけ自分が殺されるのか」
セフィロスは咎めるわけではなく、ただ少し寂しげな翠の瞳でクラウドの青の瞳を覗きこんだ。そう、クラウドにとってそれが傷よりなにより一番痛い。
そのせいでツォンも撃たれたのだから。
「癒着を剥がすが、少し痛いぞ」
「いっ…」
それでも実際、傷の方が痛い。サポーターに付いた肉片がセフィロスの瞳を曇らせた。
「自業自得だ、痛い目を見なければ考えることすらできんのだろう?」
言いようとは反対の優しい手がクラウドの傷を覆う。みるみる内に治っていく傷口を眺めながら、
「つい、条件反射だったような気がする」
珍しく反省の色をみせているクラウドに、
「そうでなければ何なのだ、あの女をかばう必要などないのだからな」
身もふたもない追い討ちをセフィロスはかけた。
「……初めから見てたのか?」
「標的となっているおまえから目を離すはずなかろう?」
クラウドは素直に小さく「ごめん」とだけ言った。
もともと、プレジデント直々の依頼なのだ。最近続けて、ルーファウスが軽く口を聞いただけの通りすがりの女までもが殺されている。
一人や二人ではない。ルーファウス自身、記憶の断片にも残っていない女なのに、だ。セフィロスの女とは、即ちルーファウスにも目をつけられた女なのだ。
エスカレートし始めていた。このままでは、やがてルーファウスの命も危いだろう。
プレジデントは息子を守るためにセフィロスに頼んだ。そして、セフィロスは餌をまく。始めにルーファウスがかかり、次に犯人がかかる。
しかし、今回は英雄の本命。追いつめられた女には、傭兵に頼るしか道はなかった、自滅への道だということを承知のうえで。

 あのケガ人も今ごろは幸せだろう、でも、押し倒すのも一苦労だよなとザックスはのんびりと欠伸をしながら思っていたが、ふと、疑問が湧く。
「あんな親でも、子供の危機はわかるもんなんかねえ」
セフィロスは可笑しそうに笑ったあとで、
「単なる偶然だ。殺された女の中に、プレジデントの愛人がいたのだろう、それで血眼になって調べたら自分の息子に行き当たった、そんなところだ」
「どーして、そう思う?」
「事情を言わない、それが証拠だ」
「ふーん。でもお前、いくら向こうから言い寄ってきたとは言え、関わりのある女が次々殺されて、今までよく動かなかったな?」
「関わり?誰が?」
「あっそ」
ザックスは眉間に皺をよせた。このまま不毛な会話に突入するのは目に見えている。
「そういや、あのルーファウスがクラフは大丈夫か、だってよ。さすがセフィロスの女だ、とか言ってやがんの。ツォンは感づいてるかもな、言わねぇだけでさ」
さっさと話題を切替えた。セフィロスとは長いつきあい、こんなことはザックスにとっては日常茶飯事のことなのだろう。
「セフィロス、俺、クラフはもうやらなくてもいいよな?」
ため息交じりでクラウドはセフィロスに尋ねた。
「さあな」
セフィロスの笑いをかみ殺したような返答に、一抹の、いや、かなりの不安を覚えるクラウドだった。
おそまつ。

しかし長かった。読んでくれる人はお疲れ様。

作者も大変だったろう。
217191:02/03/23 20:39 ID:???
今考えるととてつもなく恐ろしい提案をしてしまった。
190殿スマソ。真っ白に燃え尽きたりなんぞしていませんように・・・。

>216
そこのサイトの話はかなり好きだ。はねっかえりなクラウドが(・∀・)イイ!
さらにへたれ英雄
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 その日、セフィロスは本気で”ついていな”かった。
 それこそ、気の毒なくらいに。
 珍しくセフィロスは欠伸をかみ殺す。
 メガネをかけたその、眼には、僅かに欠伸をかみ殺したときにこみ上げてきた涙があった。
 眠い。
 セフィロスは先から何度も繰り返される欠伸をかみ殺しては、朝刊の文字を追う。
 頭がぼんやりしてきて、細かい字を追っていると、また眠気が襲う。
 普段、セフィロスは、寝起きは悪くない。
 というか、クラウドに比べたら断然いい。
 大体、セフィロスは、今日朝の目覚めに、問題があったのだ。
 突如として、セフィロスが安眠を奪われたのは、目覚ましのベルがなる2時間以上も前だったのだ。
 ……もっともそれは、クラウドのせいだったのだが。
 本来、余り寝相が良くない……はっきり言えば、最悪のクラウドが、何をどう間違ったのか寝返りを打った途端に、ぐっすり寝ていたセフィロスの鳩尾に、思い切り、かかと落としをくらわせてくれたのだ。
 さすがにこれには息が止まって、セフィロスは涙ぐみながら咳き込むはめとなった。
 そして……そのまま眼が醒めてしまい、息苦しさと睡眠不足のまま……こうしてセフィロスは、今ごろになって、かすかな眠気と戦うことになっている。
 「あ、俺、今日、結構運勢いいんだ」
 クラウドはトーストにかぶりつきながら、TVの占いの結果に、嬉しそうに言う。
 セフィロスから見たら”砂糖の固まり”にしか見えない、シュガートーストを食べているクラウドの眼は、TV画面に注がれている。
 特に、クラウドは世界情勢や株式市場や、政治に興味があって、朝、この時間TVを見ているわけではない。
 最後の最後に”今日の12星座の占い”というのがクラウドのお目当てなのだ。
 もはや、この時間にこのチャンネルで、この占いを見るのはこの家の習慣といってもいい。
 セフィロスは、そういったものを信じない上にはなっから小バカにしているのだが、クラウドは何故かちっとも信じてなさそうなくせに占いを気にする。
 特に”いい占い”ならば信じる傾向があるらしく、今日のクラウドの星座は12星座のうち、一番いいようで、機嫌がいい。
「自分の思わぬ面を外にさらして、ライバルたちに差を見せ付けるチャンスだって……けど、なんだろう。今日、特にマテリア学の講義と通常業務以外、何もないのに」
 クラウドは眉根を寄せて考える。
 いい運勢、はいい運勢であるのだろうが、全く思い当たる事がないのだ。
「そんなものだろ」
 セフィロスはエビアン水を片手に、新聞を見ながら溜息をつく。
 大体、この世の中の約12分の1は、クラウドと同じしし座なのだ。
 はなからあたるはずがない、といわんばかりのセフィロスに、クラウドは口唇を尖らせた。
 だが、本人もそこまで真剣にとっていないので、文句も言わずに熱いミルクティーをすする。
 しかし、
「あ!」
 クラウドがびっくりしたように立ち上がった。
 「な、なんだ?」
 その突然の行動に、セフィロスは思わず……寝惚けていたせいで余計に……びっくりして聞き返す。
 片手に持っていたグラスが思わず揺れて、セフィロスはネクタイや、シャツにたっぷりエビアン水をかけるという羽目になった。
 指にはさんでいたタバコの日も消えているくらいだ。
 「セフィロス、セフィロス!!!セフィロスの星座、今日、ワーストワンだ!気をつけないと!!!
 ”オフィスでのあなたを見る他人の眼に注意。みんなのあなたについての認識が変わるかもしれない”だって言ってるよ?」
 「……」
 「どうする?」
 「……どうもしない」
 そう真面目な顔をしたクラウドの言葉に、なんと返していいかわからずに、溜息をついた。
 「しかも、今日、セフィロス”水難の相”だって。気をつけないと」
 「……」
 セフィロスはしみになったネクタイを解きながら言う。
 「水難なら、たった今……あった」
 「……?」
 その皮肉が通じたのか通じてないのか、しかしクラウドは、
 「セフィロス、今日、なんか、水の近くに寄る事ってあったっけ?」
 ときいてくる。
 「さあ、特に何もなかったと思うが?」
 確か、朝一で会議が入っていて、後は通常通り、デスクワークのはずだ。
 思い切り水をかけてしまったので、セフィロスは着替えるために、立ち上がった。
 だが……。
 だが、このセフィロスが小バカにしている占いは……今日のセフィロスのついていない一日を象徴する幕開けとなったのだ。
 「……」
 セフィロスは睡眠不足に加え、いまや胸焼けとも戦いながら、会議用に配られた書類を見ていた。
 寝不足は頭痛を引き起こし、胃もたれは、精神的にもムカムカを連れてくる。
 ツォンや、他のソルジャーもよっぽどセフィロスに退室を勧めようかと思うほどの顔色の悪さで、セフィロスは、殆ど投げやりなまでの速さで会議を進めていた。
 恐らく現在はマテリア学の講義室にいるクラウドがこの場にいたならば、退室を促して、この場をツォンに任せただろう。
 それくらい、セフィロスの顔色は悪かった。
 「……次、さっさと説明してくれ」
 セフィロスは口元に手をやったまま、死にそうな声で言う。
 「あ、は、はい」
 慌てて、ソルジャーの一人が報告のために立ち上がった。
 原因は、いっぱいのコーヒーにあるのだ。
 もっとはっきり言えば、ザックスに。
 朝一の会議に出席するはずのザックスの姿がなく、しかもご丁寧にPHSをきっているザックスをセフィロスは探しまくるという羽目に出勤早々陥ったのだ。
 どうも残業でそのまま会社に泊まりこんだらしく、それならば大人しく自室で眠ればいいものを、ご丁寧に仮眠室で寝ていたザックスを叩き起こすこととなった。
 その際、寝起きのザックスが、自分用と、お詫びのしるしにおごるといって寄越した喫煙コーナーのいっぱいの紙コップコーヒーが、全ての元凶だった。
 機械の設定にミスがあったのか、セフィロスの手元に渡ったブラックコーヒーには……たっぷりとシュガーシロップが入っていたのだ。
 自らも寝不足のためにセフィロスは、ザックスの好意に甘えて、そのコーヒーに口付けたのだが……結果的にその砂糖水としか思えないほどの甘さに、たった一口とはいえ、胸焼けを覚えてしまった。
 ほぼ顔面蒼白で、しかも、死にそうなほどの声で会議を進めるセフィロスに、ツォンは横で溜息をついた。
 この上なく機嫌が悪そうなセフィロスに、誰もがたじろいでいる。
 「……解った」
 ちっとも解ってなさそうな……いわゆる、早いところ話を終えてしまいたいという態度もありありのセフィロスは頷くと、ザックス、と他のソルジャーたちと席を並べているザックスの名前を呼んだ。が。
 「お、おい、ザックス……ッ!!!」
 他のソルジャーがザックスを揺すり起こす。
 ザックスは、やはり昨日の残業がこたえたのか、コックリコックリと、一番前の席なのに、度胸がいいことに居眠りの真っ最中だ。
 しかも、幸せそうな顔で……寝言まで言っているのだ。
「……そのサルを叩き起こせ」
 セフィロスの言葉に、ザックスの隣のソルジャーが、「え?」と素っ頓狂な声を上げる前に、セフィロスは書類の束をザックスの額に向かって投げた。
 フリスビーのようにそれはクルクルと空中で回りながら、目標物に向かう。
 「いてっ!!」
 周囲のソルジャーたちがそれを避け、一人、それにあたったザックスが眉根を寄せて、眼を開ける。
 「……ン?なんだ?」
 「……人の真ん前で眠るとはいい身分だな、ザックス」
 セフィロスはにっこり笑う。
 声も低い上に、顔色も悪く……恐ろしく怖い。
 「……あ、い、いや……これは、その……眼を閉じて、このミッションにおける戦略を考えたというか……」
 「……」
 「や、やっぱ、一ソルジャーとして……色々な事態に対応できるように……予備の戦略なんか……」
 この上なく恐ろしい、顔色の悪いにこやかなセフィロスの微笑みを間近にザックスが、すいません、と小さく呟いた。
 「……さっさと、昨日預けた兵器開発部から回されてきたサンプルを出せ」
 セフィロスはそう言うと、それから、とザックスを見て、もう一度極上のにっこりとやらを見せる。
 「折角戦略とやらを幾つか考えてくれたようだし、それを、きちんと書類にして提出してくれ。まだちっとも戦略なんて考えていなかったから、俺としては助かる」
 「う……鬼……」
 ザックスはセフィロスに負けず劣らず真っ青になりながら、ポケットの中にあった小型のサンプルを取り出した。
 プラスチック製のそれを片手にザックスがそれを、セフィロスにと放り投げようとした瞬間、
 「バ……!!ザックスッ!!」
 「ザックス君、規定値以上の衝撃を与えてはっ!!!」
 空を舞った小型サンプルに、セフィロスとツォンが同時に真っ青になって叫ぶ。
 「え……あ……そっかッ!!!やばっ!!!!」
 きょとんとした顔のザックスが、それに気付いて真っ青になった。
 が、もう遅い。
 ザックスの手から離れた、兵器開発部が持ってきた新型サンプルは……一定以上の振動に反応すればある、反応を出すものなのだ。
 「あ……成功じゃん」
 「呑気なことを言ってるな、バカッ!!なんでもいいから消すから早く手伝えッ!!!」
 ザックスの感心したような言葉に、セフィロスの過密間ばかりの声が響く。
 セフィロスの眼の前にあった資料やなんかは……そのサンプルの発火により、真っ赤な炎を上げていた。
 ソルジャーたちが慌てて、前に駆けつけてそれを消そうとするが。
 ばしゃっ。
 「あ……」
 「……」
 「……」
 「……」
 「……」
 会議室は嫌な沈黙に包まれた。
 ザックスも、他のソルジャーも……ずぶ濡れになって、呆然としているセフィロスを前に、声がないのか……真っ青だ。
 ぼたぼたと水がセフィロスから滴り落ちている。
「……その、消すのを手伝えとのことでしたので」
 功労者というべきかどうなのか、火を消した、ツォンの声が嫌に大きく響いた。
「それに何でもいいとおっしゃいましたし」
「……」
「あ、ほ、ほら、にーさん、水も滴るいい男っぽくていいって、なあ」
「……あ、う、うん、そうデスよ。セフィロスさん」
 ザックスや他のソルジャーたちは、びしゃ濡れセフィロスに言った。
「すいません、つい……」
 消火のために、セフィロスの真上から火を上げている書類に……中身がたっぷり入った水差しをまっさかさまにして、水をかけたツォンが……水差しをコトンと机の上に置いた。
「にーさん、ほら、ツォンも気が急いていたんだしさ!」
「そ、そうですよ。臨機応変でしたよ、ツォンさんの行動!さすが、タークスの主任!!!」
「……そう、セフィロスも思ってくれると嬉しいのですが……」
 ザックスや、ツォン、他のソルジャーの声をセフィロスは、既にどこか、遠くで聞いていた。
 もはや、呆然とするしか、セフィロスには術がなかった。
「ほらほら〜〜〜〜〜にーさん。こんなじゃ、風邪引くし」
 ザックスがそういって、わざとらしいにこやかさでもって、濡れに濡れたセフィロスの顔を拭いてやる。しかも、ぎしぎしとめいっぱいで……痛いくらいに。
「……それ、ここの備え付けの雑巾ですよ」
 ザックスがそこらからとった雑巾を見て、ツォンが小さく呟く。
「え?あ!!!わ、わるい、にーさんっ!!!」
 だが、もうセフィロスには怒る気力もなかった。
 眠たさに頭痛に胃もたれに……この事態……どうにでもしてくれ、というような思いで、ただただ黙りこくっている。
 だが、逆にそれは周りの恐怖を駆り立てるのか、皆が、ゴクッと息を飲んだときだった。
 コンコン、とノックがして、そして。
「なにかあったのかい?」
 会議室に入ってきたルーファウスがセフィロスの周りに出来た人垣と、異様な空気に眉根を寄せて、問う。
「あ、ルーファウスサマ」
 どうかなさったのですか、とツォンが問う。
「会議はまだ終わっていない?ちょうど、良かった」
 ルーファウスはそう言うと、ポケットから、何か取り出す。
「今日、治安維持部のソルジャーたちが会議をするのを思い出してね。これも取り上げてもらおうと思って持ってきたんだ」
 ルーファウスの手にあるのは、小さな、丸いガラスのケースだった。
 中に、何かがはいっている。
 白い粉のようなものと、ガラス一枚隔てた液体があった。
「何?これ、ケッコー綺麗じゃん」
 ザックスガはそれを受け取ると、白熱灯にすかして見せた。
 白い粉は、どこか光にさらすとオレンジ色に見える。
「取り上げるとは、これも何かの開発途中の兵器なのですか?」
 ツォンの言葉に、ルーファウスは溜息をついて頷いた。
「余りお勧めじゃないけどね、一応、勧めてくれと言われているから、一応ね。兵器開発部と、宝条が一緒に開発したものだから」
「ほ、宝条?」
 ルーファウスの言葉に、ザックスは真っ青になった。
「あ……わッ!!!」
 そして。
 その拍子に……そのちいさなガラスのケースはザックスの手を離れ……
「っ!!やばい!!皆、離れるんだっ!!!!」
 焦ったルーファウスの声が響くと同時に、まだ呆然としているセフィロスの眼の前に落ちた。
 そして、それと同時に……パリン、というガラスが割れる音がし……白い気体が上がる。
 そして、その気体は段々と大きくなり……眼の前にいたセフィロスが気体の向こうに見えなくなった辺りで、
「どくんだッ!!!水をかけないとッ!!!」
 ルーファウスが、その気体に向かって……先ほどツォンが手にしたのとは違う水差しを手にとり……同じように中にある水を、勢いよくそれにぶっ掛けた。
「……」
「……」
「ガラスが割れて、ガラスのケースの中の粉末と液体を混ぜ合わせると、催涙ガスが飛び出るという代物なんだが……いかんせん、規模が大きくてね」
「……」
「……」
「実践向きにはならないかなと思って。……だが放っておいたら、この本社中に高濃度の催涙ガスが蔓延するところだったよ」
「……」
「……」
「しかし、まあ、もっとも初期段階で水でもなんでもいいから液体にくぐらせれば、それ以上の催涙ガスの発生は押さえられるんだが……」
「……」
「……」
「その点を考えても、少し兵器には向かないと僕は考えているんだけどね」
 ソルジャーたちも、ザックスも、ツォンも……誰も何もいえなかった。
 嫌な沈黙に、ルーファウスの説明が響く。
 だが、やはりこの会議室は……怖いくらいの静寂にと飲み込まれていた。
 ルーファウスの言葉どおり、水をくぐらせると、発生していたガスは見る見るうちにしぼんでいく。
 そして。
「に……にーさん、だ、大丈夫か?」
「せ、セフィロスさん?」
「……大丈夫ですか?」
「……あ、離れろといったのに、離れなかったのかい?セフィロス?」
 全身先以上にずぶ濡れ……そして……
「……」
「……」
「……」
「ちょっと、かわいいね。泣いているセフィロス」
 ルーファウスの言葉どおり、涙をボロボロこぼしているセフィロスがそこにいた。
 みな、なんと言って言いか解らないというように、黙りこくっているが……
「ぷ……ッ!!わ、わりい、に、にーさん」
 ザックスが、もうたまらない、というように噴出した。
 ぶつっとセフィロスは何かが切れるのを感じた。
「うるさい!それ……が!ッ、わ、る……いとおも、ってる……ッ、う……っく……た、いど、か!」
 しかし……本気で眼が痛く、涙が後から後から出てくるせいで、言葉にも力が入らない。
 それどころか、ザックスやツォンや、ルーファウスを睨もうにも、眼に力が入らないのだ。
 針で刺したような痛さが眼の奥にある。
 それのせいで、後から後から涙が出てくる。
 言葉も眼も……涙のせいでどうしようもないほど、弱々しくなる。
「……うわ、セフィロスさん、カワイイ」
 ソルジャーたちからそんな言葉がぽそっと洩れる。
 セフィロスはそれが誰かは知らないが、顔を上げて睨んでやろうとしたが、やはりそれは逆効果だった。
 顔を上げた途端、また、あの翠の眸からは、大きな涙が落ちていく。
「にーさん、今、何やっても逆効果だって。かわいすぎ」
 ザックスがそういって、笑う。
「っく、う……るっ……さ、いっ!」
「んな、俺ばっか怒るなよ〜〜ツォンだって、副社長だって……」
「うる、さいっ!おま……え……ッく……もっ」
「だ、だから、わ、悪いと……思ってば!」
 ザックスはそういって謝ってはいるが、何分肩が震えている。
 ……セフィロスからしたら、ものすごく説得力がない。
 そして、ザックスはとうとう、噴出しやがったのだ。
「ぷっ……く、だ、ダメだ!だって、思ったよりも、か、カワイイーーーあんたの泣き顔―――ッ!!!普段のあんたからすると犯罪級にかわいい〜〜〜っ」
 ザックスはそう言うと、ずぶ濡れのまま、ボロボロと大粒の涙をこぼしているセフィロスを見て、本気で笑い始めた。
 本気でセフィロスはザックスをぶってやろうかと思ったが、涙はボロボロこぼれるし、何よりも……眼が、とてつもなく……それこそ、焼けるように痛いのだ。
 全ての景色は、涙の向こうにあり、不透明なフィルターを通したかのようだった。
「いや、笑い事じゃないでしょう」
 ツォンはそういって溜息をついて、何とかとりなそうとしているが、幾分彼もまた、肩が震えているので言葉に説得力なんていうもの本のひと欠片すらも見受けられなかった。
「わ、悪い……セフィロス……本社中の被害を考えた場合にはどうしても……嫌、でもそれ以上に、まさか”英雄セフィロス”のそういう顔が見れるとは……クックック」
 ルーファウスは容赦がない。
 いかにも楽しげに笑っている。
「ルーファウスサマも、ザックス君も笑ってる場合では……セ、セフィロス……ク、クク……だ、大丈夫ですか?医務室に行きますか?」
「そ、そうだよな……ク、ックッ……と、とりあえず、医務室に……っ、く〜〜〜っ」
「え?まだもう少し、これ、見ていたいんだが……」
 笑いの含まれたツォンの言葉に、ちっとも悪びれていないザックスの言葉に、もう好き勝手なルーファウスの言葉。
「……〜〜〜〜〜ッ!!!もういいっ!!!」
 セフィロスはそう言うと、一人で医務室に行こうと、立ち上がり、会議室を出ようとした。
「ああ、セフィロスさん、危ないですよ!!ついて行きますって!!!」
 ソルジャーの一人がそういった瞬間だった。
 ごんっ。
 視界が悪いセフィロスは見事に会議室の扉にぶつかった。
「……?」
 クラウドは不思議そうな顔で、向こうからのどよめきのような、ざわめきのようなものに眉根を寄せた。
 執務室に帰ろうとしたクラウドは、マテリア学の教本を抱えたまま、そちらに眼を向けた。
 いやに、一般兵やソルジャーがざわついているのだ。
「なんかあったのか?」
 クラウドは顔見知りの一般兵を捕まえると問う。
「あ。クラウド、それがさ、セフィロスさんが……」
「……?」
「なんか、泣いてるって」
「は?」
 その言葉の意味を捉えかねて、クラウドは素っ頓狂な声を上げる。
「あーーークラウドじゃん」
 どよめきが大きくなったかと思うと、自分を呼ぶ声に、クラウドはそちらを振り向いた。
 クラウドを呼んだのはザックスだった。
 ツォンやルーファウスの姿もそこにはあり、クラウドはそちらに向かいかけた……が。
「……セ、セフィロス?」
 顔を手で覆うように……正確には眼をだが……しながらセフィロスがこちらに歩いてきているのを見て、クラウドはギョッとした。
 慌てて駆け寄ると……何故か全身びしゃ濡れの上に……
「ちょ!!なんがあったんだ?」
 覆った手の間から、ボロボロと涙がこぼれている。
「……クラウ、ド?」
 セフィロスが顔を上げ……
「〜〜〜〜〜つッ」
「セ、セフィロス!!!だ、大丈夫?」
 見事、壁にぶつかった。
 クラウドはセフィロスを覗き込んだ。
「な、なんで泣いてるんだ?」
「っ、こ……れ、は」
 セフィロスが僅かに顔を赤くし、そして涙声で何か言おうとするが、よく聞こえない。
「ッ、……っく」
「え、ちょっと!!」
 また眼の奥を指す刺激に、セフィロスの眼から、涙がボロボロとこぼれては床に落ちる。
「何?なんがあったんだ?」
 クラウドが慌てる。
「いや、事情は簡単なんだけどね……」
 ルーファウスが溜息をつく。
「ちょっと、催涙ガスを浴びたというか……。ねえ、セフィロス、ホントにあなたはうちのトップソルジャーなんだよね?
 離れろ、といって、他のソルジャーたちはすばやく避けたのに、あなただけぼんやりしてて」
「は?」
 ザックスやツォンが、まさに水難としか言いようのないセフィロスの周りで起こった事情を、一から説明すると、クラウドはぽかんと口を開けた。
「んで、医務室に行くっていうから連れて行ってやるって言うのにさ〜〜自分で行くって駄々こねてさ」
「うる、さいっ!!お前らに連れて行かれるくらい、な……らッ、自分、で……っつ〜〜〜〜〜!!」
「あーはいはい、まだ眼、痛いんだろ?ムリすんなよ。おかげで、幾度となく壁にぶつかっときながら」
「〜〜〜〜ッ!!!」
 ザックスの言葉に、セフィロスがまた眼を尖らせる、が。
「セフィロス、先も言ったけど、今、どんな事をしても、いってもカワイイの一言に尽きるよ?」
 ルーファウスがクスクス笑って、追い討ちをかける。
「……っ」
 セフィロスは何か言いかけたが……また眼の痛さに、涙が溢れてくるのを感じて、ただ俯いた。
 銀色の長い睫毛が震えて、濡れた翠色の双眸から、また新たな涙が生まれる。
 少し苦しげにセフィロスの眉根は寄せられていて、既に濡れている頬をつたって、透明な涙が落ちていく。
 涙は綺麗な首筋をつたって、身体にも落ちていく。
 セフィロスが苦しそうに瞬きをするたびに落ちていく涙。
 どこか苦しそうに洩れる声。涙が少し混じっているのが解る。
 それはまるで、彫刻や、絵画のように時間が止まったかのようだった。
「……〜〜〜〜〜〜〜いた……っ」
 よほど痛いのか、セフィロスはかすかに眼に手をかざすようにして、痛い、とそう小さく呟く。
 ざわめいていた廊下に、何故かその声は響いたように思われた。
「……セフィロスさん、結構かわいいかも」
「うん、かわいいかも……」
 どこからともなく聞こえてきたその言葉に、セフィロスは構っている余裕は今はなかったが、だが……クラウドは別だった。
 ようするに。
 ようするに……この廊下に集まっている一般兵やソルジャーたちはセフィロスのこの姿を見るがためにここにいるのだ。
 廊下だけじゃない、廊下に面した執務室の窓や戸、果ては階段……あちこちから視線を感じる。
「……あ?クラウド?どしたって───……???」
 ザックスが一気に空気の変わったクラウドを見る。
 元々、クラウドは端整な顔立ちをしている。
 繊細そうな眉根は深いそうに寄せられ、大きな眼は細められていた。
 おかげでいつもよりも、どこか少し大人びたような空気が、クラウドにはあった。
 何よりも、全くの他人に見せる冷たさとも、ザックスたちに見せる柔らかさとも違う……もっと攻撃的な冷たさ。
 それを纏ったクラウドに、気付いたのはザックスだけではなかった。
 ルーファウスやツォン、そして、セフィロスの後についてきた会議室にいた他のソルジャーたちも、それに気付く。
 クラウドが……普段は全くその欠片すらも思わせないのに、たまに見せるこういう冷たい空気は、他者を圧倒させるような何かがある。
 が。
 その空気は、また一瞬にして、氷解し、暖かな柔らかなものとなった……。
 ……───ような気がした。
 表情だけは、やさしげなものとなったのだが。
 だだ……───。
「セフィロス」
 そしてその途端に、クラウドはにっこり笑って、セフィロスの名前を呼んで、セフィロスを覗き込んだ。
「……?」
 セフィロスが涙のフィルターの向こうにクラウドを捕らえる。
 すると、クラウドはにっこり笑ったまま、セフィロスに、少しかがんで、とそう言った。
「……?」
 セフィロスが言われたとおりに少しかがむと、クラウドはセフィロスの頭を抱くようにして、自分の胸に抱くようにした。
 クラウドの兵服に押さえつけられて、涙がジンワリとそれに滲む。
「な、んだ?」
 相変わらず涙声でセフィロスが、何が起こっているか解らないとばかりに問う。
「だって、今、俺ハンカチもってないし」
 クラウドはそう言うと、幾分か自分のサイズより大きな兵服をハンカチ代わりに、セフィロスの涙を拭うようにした。
「ちょ……ッ。待て、どうせ……とまらな、い、から……それに……」
 セフィロスが慌てて身体を起こそうとするが、クラウドはそれを許さずに、
「いいから、じっとしてなよ。いい子だから」
 といって、セフィロスの涙を拭った。

 にっこりと笑ってはいるが……その空気は明らかに、あの、ナイフのように鋭い冷たさがあった。
 表情とは裏腹には、その青い瞳には、冷たさがたたえられている。
 その容姿が端正なぶん、それは迫力があり、容易に他のものを圧倒する。
「おい……ッ!」
 セフィロスもさすがにまだ抵抗をする。
 泣いているところを見られただけでも、余り嬉しくないのに……クラウドに涙を拭われるなんて、冗談じゃないとでもいいたげに。
「いいから、じっとしてってば。泣き虫のくせに」
「……は、あ?」
「セフィロスがボロボロ泣いてるのは事実じゃん。泣き虫」
 クラウドはそう言うと、まだにっこりと笑ったまま、まだまだ溢れてくるセフィロスの涙を親指の腹で拭ってやる。
「あの……なッ。誰が……」
「うそ、ほら、イイコイイコ。あ……ちょっとは涙おさまった?また泣き虫になる前に、医務室に連れて行こうか?」
 セフィロスの言葉をにっこりと、柔らかに……あまつさえ余裕をもって遮って、クラウドは微笑む。
 いつもの両者の立場が逆転したように、クラウドがセフィロスを上手くあしらっているその光景に、一同は唖然とした。
 依然、クラウドは微笑んだままだが……しかし実際は決して……そんなことはない。
 セフィロスは何も感じないのか、だが……周りにいたソルジャーたちは、それを感じ取り、冷汗をかいた。
 恐らく、この場にいた誰もが……息を飲んでいた。
 ……───クラウドの冷たい空気に。その恐ろしさに。
 もっとはっきり言えば、笑顔の真意に。
 にっこり笑っているだけに、剥き出しの冷たさよりもそれは、もっと他者を恐れさせた。
 「……にっこり笑ってるけど、全然眼が笑ってねー。すげー怒ってるわ、クラウド」
 ザックスがぼそっと呟いた。
 セフィロスをかがませて、自分の胸で抱くようにして涙を拭いてやっているのも。
 服を掴んで、涙を拭いてやっているのも。
 まるでセフィロスを子供扱いしているように上手くあしらうのも。
 あれは何もかも……牽制なのだ。
 セフィロスの事を”カワイイ”と判断して、セフィロスを見ている他の皆へ向けた、意思表示なのだ。
「すごい牽制だね」
 ルーファウスも溜息をつく。
「普段ああなのに……いざとなったら、やりますねえ。クラウド君も。今のセフィロスよりもよっぽど男前ですよ?」
「……うん」
 ザックスは複雑な心境で頷いた。
「けど、ちょっと、にーさんがこの後かわいそうかも」
「……?」
 ザックスの言葉に、ルーファウスが首をかしげる。
「多分、にーさんがカワイイ、っていうのが他の皆にあるからこそ、クラウドのあの思惑というか計算なんだろうけど……」
 まあ、クラウドのあの怖さを前に、いくら”カワイイ”ても、にーさんを誰もどうこうしようとしないっていうか、普段のにーさんが怖いって言うのもあるし、クラウド怖いしで、したくてもなにも出来ないだろうけど、
 と……ザックスはそう言ってから溜息をついた。
「それ前提で、余計にクラウドのあの男前見せられて……なんか、二人の関係が……色々逆転してるって勘違いされてそうで」
 ザックスの言葉を聞いていたルーファウスはしばらく黙ってその意味を考えていたが……
「ああ、なるほどね。色々か、そうだね……色々誤解が生まれてそうだ」
 泣いているセフィロスのかわいさ見たさに廊下に集まっていたソルジャーや一般兵たちの視線の中に、色々と……複雑な彩が含まれ始めるのを見て、納得したように頷いた。
 一人、セフィロスだけが、何も知らず、クラウドに手を引かれ、またボロボロと涙を流しつつ医務室に向かう。
 ───”オフィスでのあなたを見る他人の眼に注意。みんなのあなたについての認識が変わるかもしれない”。
 ───”パパとママ、どっちがいい?”
 扱いにくい、もしくは、単純すぎて複雑。 単純なくせにクラウドの精神構造というのはセフィロスにはいまいち……と言うか、ちっとも解らない。
 クラウドの見かけと言うのは、恐らく綺麗、な部類に入るのだろうと思う。
 黙っていれば、クラウドは硬質の、どこかピンと張り詰めた冷たい空気がある。
 冷たい、そして繊細な美貌だ。
 出来のいい陶器人形のような、静かな表情はセフィロスの眼から見ても、確かに端正だと思う。
 静かな表情の中で、吸引力の強い、見るものを引きこまんばかりの深い青がじっと深さをたたえるかのようにそこに在る。特にその青が凛としている。
 しかし、そんな端正な美貌には、どちからと言えば、男性的という言葉は当てはまらない。
 かといって完全に、女性的、というわけでもないのだが。
 どっちつかずの曖昧な美貌は、ただ一言でいうと、”綺麗。”なのだろう。
 ただ、クラウドはその言葉を余り好んでいないのも事実だ。
 また、表情を出したときのクラウドと言うのは、恐らくは”カワイイ”に分類されるのだと思う。
 見ているこちらがはっとするような表情をして見せるクラウドのそれは、クルクルと変わり、確かにカワイイ、のだと思う。
 普段……人見知りするせいか、感情を隠すようなところがあるくせに、一旦懐くと、感情をストレートにぶつけてくる。
 そういうところがセフィロスは気に入っていたし、カワイイ、とそう思う。
 ただ、クラウドはその言葉をを余り好んでいないのも事実だ。
 「綺麗」だの「カワイイ」だのと言う言葉をクラウドは「女性に使うものだ」と言うように認識しているらしい。
 この辺りが、いまいち言葉では説明しづらいのだが、セフィロスに「カワイイ」と言われる分には、そう嫌でもないようなのだが、他人にその言葉を自分に言われる事をひどく厭い、神経を尖らせる。
 つまりは、クラウドは自分の性別が「女性」だと信じて疑われない事にある意味、コンプレックスをもっているらしい。
 服装も、結構気を使っている節があるし、一度……まだこんなになる前に、ザックスと一緒に入った店か何かで
 「水曜日は女性の方にはサービスとして、食後にケーキをプレゼントいたします」と言われたときには、流れる水の如く静かに怒りながら自分の性別を訂正したらしい。
236なにげない日常。↑もです。:02/03/26 09:10 ID:???
 クラウドは、セフィロスに「カワイイ」と言われるのだけは別として……ともかく”女性”に勘違いされるのを嫌う。
 「近所のスーパーと隣り合わせになっている薬局で、オムツが安売りらしい。」
 クラウドが入手したその情報は、その日のセフィロスとクラウドの帰りの行動を決定した。
 セフィロスは入手ルートである、朝刊の折込チラシを、死ぬほど恨み、毎朝とっている新聞をやめようかと真剣に考えたほどだ。「あら、かわいいわねーーー」
「あーーーう?ばあ」
「あらあら、そうなの〜〜〜〜……」
 さっと、眼がクラウドに移る。
 そして、次にセフィロスに移る。
 なんともいえない、何を考えているか解らない表情で、その女性はにっこり笑った。
 むしろ、それは”含み笑い”といった方が適切だろうか。
 セフィロスにはその含み笑いの意味はもう充分解っていた。
 どうせ、自分に対して犯罪だとかそんなことを思っているに違いない。
 セフィロスは……まあ自分でも認めたくないが前からではあったが、この数日で、そんないかにも”犯罪だ”といわんばかりの視線にあってきたのだ。
「……ママたちと一緒にお買い物なのねー。よかったわねーーー」
 店内ですれ違った見知らぬ女性が、表面上だけは微笑ましそうに言った言葉に、セフィロスはなんと答えていいものかと考えた。
 情けない事に、実際、両手にザックス用の紙おむつを三つも四つも抱えながら、返答に困るセフィロスというのも、なかなか間抜けではあったが。
「まだママって言わないかしらね、このくらいだと」
 クラウドの腕の中で、指をしゃぶっているザックスにかけられた問いに、代わりにクラウドが答える。
「はい、まだです。……ね、だよね」
 クラウドが今度はセフィロスに同意を求めるが、セフィロスは答える術など持っていなかった。
 というか、困惑が強すぎて言葉がなかったと言うべきか。
237なにげない日常:02/03/26 09:11 ID:???
「あらーーーそうなの。早くママって言って欲しいでしょ?ほら、”マンママンマ”。いってごらん?”マンマ”」
「あーーーう?」
「やっぱりまだムリかしらね?」
「うやあ〜〜?」
「大体どのくらいで、言葉とかいうんです?」
 眼の前で展開される世界に、セフィロスはますます黙りこくるしかない。
 機嫌よくクラウドは応じているが、一体どこまでこの眼の前の女性の言っている事……及び間違った認識を理解しているのだろうとセフィロスは考えた。
 明らかに、子育てを自分も体験したと言う女性が、後輩に声を掛けたと言うこのシチュエーションは、普段のクラウドからしたら表情を一気に冷たくして訂正でもしそうなのだが。
 もっともセフィロスは、それ以上に……少しも地に足がついていないという、このシチュエーションに言葉を失っていた、というのもあるのだが……。
 いつもの会社帰りまではいい。
 私服のクラウドに、スーツ姿にメガネをかけたセフィロス。
 二人のいつもの会社帰りだ。
 が。
 やはり、現在セフィロス宅で”赤ちゃんをやっている”なんていう愉快な状態にあるザックスをはじめとして、セフィロスの手に、お特用ムーニーちゃんが大量にあるなど、この事態はまさに……。
 まさに、今までセフィロスが体験した事のない異常さが付き纏ってはいるのだが。
 いくらセフィロスでも、結構かさばる紙おむつを必死に4つも抱えている様は……さすがに情けなさを通り越して、もはや滑稽だ。はっきり言っておかしい。
 絶対に会社の他の誰かに見られたくない姿ではあるが……この薬局に隣接しているスーパーは、今日に限っていつもよりも治安維持部の人間を多く見かけた気がして、セフィロスは本気で泣きたくなった。
 どうせ、明日辺りにはお徳用オムツをセフィロスが抱えていたことが治安維持部中に回る事くらい、セフィロスは十二分解っている。
 そして、もう、この泣きたい気持ちとやらは、セフィロスは本当にいやと言うほど味わい尽くしているのだ
 だからもう、呆然として、
「ザックス、マンマって言ってみて。ほらほら。マンマ」
「大体うちの子はどのくらいだったかしらねー。でもね、赤ちゃんにも個人差があるのよ?」
 というやり取りが眼の前で繰り広げられているのを、ただただ見ることしか出来ない。
238なにげない日常:02/03/26 09:13 ID:???
「でも、まあ頑張ってね。ママって、坊やが早く言ってくれるといいわね。初めはね、わたしは色々大変だったけど、ママって言われると嬉しかったわよ。頑張ってっ!!!」
 ようやく、話が終わったのか、その見知らぬ女性が眼の前から去っていく。
 セフィロスは、知らぬうちに大きく息を吐き出していた。
「ママだって」
 クラウドが、笑って言う。
「……そう見えるんだろ」
 セフィロスは曖昧にそう言ったが、しかし次の瞬間、クラウドから帰ってきた言葉に……一気に眼が醒める思いも味わった。
「そうかな?そう見えるのかな。セフィロスって俺には女の人には見えないけど」
 かなりピントのずれた言葉に、セフィロスは、持っていたお得用ムーニーちゃんを全部床に落としてしまった。
「わ!セフィロス!何……?」
 クラウドが驚いて、それを拾い上げようとする。
 ちょっと待て、とセフィロスも数個オムツを持ったまま頭を抱えた。
「どうして俺が女になるんだ?」
「え?なんで?」
「”何で”は、そっちの台詞じゃないだろう」
「あーう」
 セフィロスの言葉に、だって、とクラウドはザックスをあやしつつ、ケロンとした顔で答えた。
「さっきの女の人、セフィロスの事、ママってよんでたじゃん。ママと一緒にお買い物、って」
「……絶対に俺のことを言っていたんじゃないと思うが?」
「え?なんで?」
「……お前のことを言っていたんだと思うぞ?」
「まさか、俺、男だよ?」
「いや、だから」
 セフィロスは頭を抱える。
「今のは絶対お前に言っていたんだぞ」
 セフィロスの言葉に、クラウドが眉根を寄せる。
「絶対、俺じゃないよ!セフィロスが言われたんだってば!」
「……絶対、お前だと思う」
 本人が嫌がる嫌がらないは別として、客観的に見た場合、性別が曖昧な容姿のクラウドがよく女性のように見られるのは事実なのだ。
 おそらく、何もせずに歩いているだけでも、誰も兵役についている少年だなんて思っていないだろう。
239なにげない日常:02/03/26 09:16 ID:???
 おまけに……こうやって……ザックスを抱いていて、自分が横にいれば、何故かみな、ザックスのことを弟や親戚の子供と言うような認識はしないらしい。
 クラウドの事を”かなり若い母親”というように認識するようだ。
 ……───そして自分はいいところ犯罪者だ。
「ザックス、ザックスはどう思う?絶対、今の人”ママ”って、セフィロスのこといっていたよね?」
「あ゛ーーーう?」
「ほら、ザックスだって、そのとおりだって言ってるじゃん」
「今のは絶対言っていない。というか、今のこいつには解っていない」
「解らないじゃん、ね、ザックス」
「うきゃーーーーー」
 クラウドが口唇をザックスの頬に寄せて言うと、ザックスが嬉しそうにキャッキャッと笑う。
「ほら」
 クラウドが勝ち誇ったように言った。
240なにげない日常:02/03/26 09:17 ID:???
 が。
「……絶対、さっきの”ママ”とやらは俺じゃない」
 セフィロスは紙おむつを抱えなおして断言した。
「大体、俺のどこをどう見たら、女に見えるんだ?」
「そうかな?見えるよ、セフィロス、性格は悪いけど顔だけはいいじゃん」
「あーう」
「ほら、ザックスも”そうだ”って言ってるよ?」
「絶対違う、大体、俺の場合は身長が合わない」
「……なんかのスポーツ選手と思われたかもね」
「ムリがありすぎる」
「セフィロス、着やせするから、体格もそう……」
 そうムリじゃないよ、とクラウドはいおうとしたが、が。
 が、190センチ以上の身長はともかく、ファーストソルジャーとしてのセフィロスの体格はどう見ても女性には見えはしない。
「ムリに決まってるだろう、どう見ても」
「う゛ーーー?」
 ザックスが面白くなさそうな顔をしたクラウドを見て、首をかしげる。
「じゃあ、さっきの人、何で”ママ”って言ったんだ?」
「だから、さっきも言ったが、お前のことを言っていたんだと思うぞ?」
「……そんなことないもん!」
「じゃあ、誰に言ってたんだと思う?俺か?ザックス本人にか?」
「〜〜〜〜〜〜」
 クラウドはむーーーッとしかめっ面をした。
241なにげない日常:02/03/26 09:18 ID:???
「───この件に関しては、ふとした……いや確たる疑問が沸きあがるんだが、それは、俺は一体どういう風に対処すべきだと思う?」
 セフィロスはずっしりとした重さを抱えつつ、深く深く溜息をついた。
「一般的な幸せ、かつ、非常に安定した幸福を前に、それは愚痴という言葉を借りたノロケか何かですか?」
 ツォンが書類の束を一枚一枚チェックしていき、ファイルにと収めていき、冷静に切り替えした。
「……〜〜〜〜〜違う」
「ツォンの意見に賛成だね。現にセフィロス自身、きちんと保証された身分だ。僕がいうのもなんだが……つくづく思うんだが良かったと思わないかい?うちが実績さえ残せば、性格面には眼をつぶる職業を提供する企業で」
 こちらは手伝うつもりはきっとないのだろう。
 ルーファウスがピラピラと書類を空に泳がせながら笑う。
「……」
「それに歳の離れた幼な妻に」
「お前、それは自分で言っていて、その表現が少し……いや、かなり違うと思わないか?」
 セフィロスの言葉に、そうですか?とツォンが問い返す。
「それに、健康で憎たらしいほど……いやいや、元気でかわいらしい子供。さっきしばらく抱いていたら、腕が痛くなった……全く」
「〜〜〜〜〜〜〜そっちはもっと違う」
 少しイライラとしたセフィロスの言葉に、ルーファウスは深く息を吐き出して、当たりのくせにとそういった。
 そして、セフィロスの腕の中で一人平和に、食後の睡眠にと入っているザックスを見る。
「全く何が不満なんだか……全く、我侭だよ、セフィロス」
「……」
 ルーファウスの言葉に、セフィロスは息を深く吐き出して、黙り込み、再び仕事にもどり始める。
 勿論、膝の上にザックスを抱え、片腕で固定して、だ。
「ああ、そういえば」
 セフィロスから渡された書類に眼を通していたツォンが、肩をすくめた。
「前から言おうかと思っていたのですが、あなたと違ってクラウド君はザックス君相手にご機嫌ですが、ただ、ちょっと……」
「……?」
「一応ザックス君も乳児ですし、聞かせる歌は選んだ方がいいかと思うのですが」
 いいにくそうなツォンに、セフィロスはあれか、と溜息混じりに呟いた。
 クラウドは機嫌のいいとき、たまに歌を歌う。
 別に珍しい事でもない。
 何かをしているときに歌うのはクラウドのくせだ。
242なにげない日常:02/03/26 09:20 ID:???
 洗濯物をたたんでいるときや、食器を洗っているとき、ザックスにミルクを与えているときなどもに歌う。
 ただ、その内容はツォンの言うとおりに、余りいい内容だとはいえない。
 ”息の根を止めておけばよかった” だの ”冷たく閉ざされた世界に落とされた変わらない痛みを味あわせてやるさ” だの ”腐食していく身体” だのといったいわゆる物騒なものが多いのだ。
「ああ……それは僕も聞いた。なんだか、ザックス君を寝かしつけるときに、”鉄の柵で作った折に閉じ込める”だの”首輪と足かせでもこしらえて”とかっていう曲を歌っていたよ?ザックス君はそれを聞いてすやすや寝てたけど」
「……わたしは、ミルクを与えるときに”あなたの使命はわたしのために太ること”だの”ソーセージにする”だの”一滴の血も残さないで”食べるだのと言う曲なら聞きましたが。
 ああ……ザックス君はそれを聞きながら、すぐに泣きやんで、ミルクを飲んでましたよ、そのときは」
「……少し聞くが」
 セフィロスは書類から顔を上げて、真剣な眼でツォンとルーファウスを見た。
「俺にはいまいち解らないんだが、あの歌はどうなんだ?ザックスに聞かせていても特に何の影響もないのか?」
「……」
「……」
「どうなんだ?」
「……今度、乳幼児に聞かせる音楽ばかりを集めたCDでもプレゼントしますね」
 ツォンがセフィロスの問いには答えずに、ただただ、にっこりと笑った。
「それで……話を戻すけど」
 ルーファウスが吐息を吐き出した。
「別に、そんなことで喧嘩する事もないと思うんだけど?」
「そうですね、どっちがパパでもママでもいいじゃないですか」
 ツォンが賛同する。
「……おい、だが、俺は事実を言っただけだぞ?なのになんで……」
 なんで、あんなに怒ってるんだ?
 と、セフィロスは心中に続けた。
 クラウドは昨日の一件で、どうもかなりご機嫌が斜めらしい。
243なにげない日常:02/03/26 09:21 ID:???
 昨日から、ザックス相手にはニコニコ笑っていても、セフィロスにはニコリとも笑わない。
「クラウド君が女性に勘違いされるのを嫌っている事くらい、あなたの方がよく知っていると思うけど?」
 ルーファウスがくすりと笑う。
「……だが、どう考えてもこの状況で俺の方が”ママ”とかいう愉快な立場じゃないと思うぞ?」
「何をあなたもムキになってるんですか、大体……」
 恐らく自分なりに引っかかるのだろう、言い募るセフィロスに、ツォンが肩を落とした。
「表面上があなたのいうように、そう、だったとしても、わたしはクラウド君の方がいざというときにしっかりしていると思いますけどね、あなたよりは。いざというときはへたれなあなたより、クラウド君は男前ですし」
「ああ、それは確かにいえてるね」
「〜〜〜〜〜〜〜」
 セフィロスは再び頭を抱える。
 だが、反論の余地は情けない事にちっともない。
「大体、そんなことで喧嘩するなんて、クラウド君はクラウド君らしいといえばそれまでだけど……あなたも大概大人気ないですよ、セフィロス」
 ツォンがのんびりと、書類のやり直しをセフィロスにとつき返しながら言った。
244なにげない日常:02/03/26 09:22 ID:???
「ザックス、帰ろうか」
 講義が終わって、執務室に帰ってきたクラウドが、そろそろ眼がさめていたザックスを抱きかかえる。
 ツォンもルーファウスも、もう既にいない。
 ソファの上のカゴの中で眠っていたザックスは、クラウドに抱きかかえられると、完全に眼がさめたのか、楽しげな声を出す。
 が。
 クラウドはセフィロスのほうを見ると、
「?」
 べーっと、舌を出して見せた。
 どうも、まだ”ご機嫌斜め”が続いているらしい。
 セフィロスは溜息をつく。
 が、それは意外にも室内に大きく響いた。
「言っとくけど」
 ザックスを抱っこしたまま、その溜息に対抗するようにクラウドが言葉を発した。
「昨日のは!!」
「……」
「俺は絶対認めない……からね」
「……」
 セフィロスはもう一度溜息をつく。
 クラウドはこうなるとガンコ、というよりは強情、強情と言うよりはかたくなだ。
「勝手にしろ」
 セフィロスは、そう言った後に、ふっとツォンの言葉を思い出した。
 確かに自分も大概大人気ないのかもしれない、とそんなことを思いつつ。
 セフィロスの言葉に、クラウドがむっとまた眉根を寄せる。
 その時だった。
245なにげない日常:02/03/26 09:23 ID:???
「あ゛うーーーーーんぎゃーあああああーーーーん〜〜〜〜〜」
 ふっと、二人の気配を察したのか、それまでクラウドに抱かれてご機嫌だったザックスが、いきなり堰を切ったように泣きはじめた。
「ザ、ザックス?どうかした?どっか痛い?」
 クラウドがあたふたとザックスをあやしつつ、オムツやなんやを確認する。
「おい、うるさいぞ、何とか……」
「解ってるけど……でも、何で?いきなり……」
 執務室中にザックスの大声が響きわたる。
「ど、どうしよう、セフィロス……ミルクかな?」
「違うだろう、おい、貸せ」
 セフィロスがそういってザックスを受け取ると、抱っこして揺すり、あやす。
 クラウドが心配げにザックスを覗き込む。
 二人に抱っこされるような形になったザックスのおかげで、セフィロスもクラウドも先程よりも近い位置にと寄り添う事となった。
 そして。
「……」
「……」
 段々とザックスの泣き声が弱まるにつれ、ふっと、セフィロスもクラウドも互いの眼を見る。
 気まずいような、どこか照れくさいような……そんな空気が二人の間に流れた。
「う゛えっく」
 先ほどまでのどこか尖った空気が、段々と氷解されるにつれ、ザックスはその泣き声を収めた。
「……」
「……」
 互いに無言のまま、どうしたものかと言う顔だ。
 その微妙な沈黙を先にセフィロスの咳払いが破った。
「悪かった」
「……〜〜〜〜俺も」
 ごめん、とクラウドが小さく呟く。
「〜〜〜〜〜〜〜もう、仲直りしよっか。いつものようにザックスがストップ、かけてくれたし」
 クラウドはそう言うと、ザックスを抱いたセフィロスの服の袖をきゅっと引いて、苦笑した。
「そうだな」
 肩を落としながらしながらセフィロスがそれに賛同する。
246なにげない日常:02/03/26 09:25 ID:???
「あーーーう」
 ザックスがしゃくり上げるような、それでいて、どこか満足そうな声を上げる
 それにしても、とクラウドが、セフィロスに縦抱っこされたザックスの背中を撫でながら言った。
「前からそうだったけど……ザックスって、赤ちゃんになってまで、結構苦労性かもね」
「……」
「あ゛うーーーーー」
 ”全くあんたらって、手がかかるよな”
 自分を見て、言葉になってない言葉を発したザックスに、いつものザックスが自分たちに言っていたそんな言葉を思い出して……セフィロスは溜息をついた。
 喧嘩したときに、いつもストップをかけてくれていたのは、考えてみればザックスだ。
「セフィロス、一緒に……かえろ」
 クラウドが少し困ったような笑みを浮かべて、セフィロスを見上げた。
 喧嘩が終わったときの、謝るような、そしてどこか……セフィロスに甘えたような……そんなあまやかな表情で。
 セフィロスがよく知っていて……そしてセフィロスが好む、こういう時の、クラウドが見せる独特の甘さが、空気に滲む。
「そうだな」
 セフィロスも苦笑を浮かべ、クラウドの頭に手を置こうとした……───が。
「あ!ついでに、今日は帰り道のディスカウントによってかえろーよ!今朝、広告見たんだけど、ベビー用品が半額なんだって」
「……」
 ……───セフィロスはやっぱり、毎朝とっている新聞を変えてやろうかと、本気で思った。
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まだまだ続く。

転載すんなよ…
職人でもなんでもないじゃんココ
そろそろやめとけ
>>247
かも。
しかし、続きも読みたいと思う自分は逝ってよしですか?
249名無し:02/04/01 17:06 ID:iIs+dfx6
ロシアンルーレット 一か八かの勝負さ運命をかけてみろ そうさ LIVE OR DIE 
堕ちるとこまで堕ちたら何も恐くないはず がんじがらめ 篭の中の鳥みたいに生きてくつもりかい? 目を覚ませよ 腹をすかした狼の気持ち忘れるなよ 
熱いヤツほど馬鹿をみる嫌な時代 だからこそ誰にも真似の出来ない 生きざまを見せてやれ クールな眼差しで 
自分貫いて倒れるなら本望さ 自分捨てちゃって 生きてるヤツラよりはマシ 
ROCK’N ROLL!!! どうせ見るなら魂で夢を見ろ 笑うヤツラは笑わせておけばいい マジなヤツほど馬鹿をみる嫌な時代 だからこそ誰にも真似の出来ない 笑顔を見せてやれ
ワイルドばらまいて自分信じてボロボロになってもいいさ 自分ごまかして ヘラヘラ生きるよりはマシ 
自分貫いて倒れるなら本望さ 自分捨てちゃって 生きてるヤツラよりはマシたった一度の人生さ 生きるも死ぬもオレ次第 最後に笑うのは誰だ?
晒す
人様の小説まるごと転載するなよ……。
大好きな所なのに、さすがにやりすぎ。

……ってか、1週間も前で止まっていたのを晒すな。>250
こうしてエアリスはクラウドの子を宿した