http://game.2ch.net/ff/は差別だ!

このエントリーをはてなブックマークに追加
「ビアンカ!ビアンカ!・・・まったくもうすぐご飯なのにどこ行って・・・」
そろそろ中年の域に達しつつある恰幅のいい女性が家の外で自分の一人娘を捜している
「わたしならここよーお母さーん」

頭上から声が聞こえてきたので母親は上を見上げた
・・・娘のビアンカが大きな木の枝によじのぼっている
アルカパの町からこの山奥の村に引っ越ししてきてからも相変わらずのおてんば娘だ

「もう・・・何でそんなところに登ってるんだい?お前は」
「だって高いところからなら遠くまで見える気がするものー
 アルカパの町とか・・・サンタローズの町とか」
母親は思わずガクッとバランスを崩しそうになった
いや、確かに方角はそちらであっているが、あの町とは大陸すら違う
もはや遙か彼方だ。少々高い所に登ったところで見えるわけがない

・・・まあそんな地理的なことを子供が理解しているかどうかはわからないが
じっと遠くを見ようとしている娘の姿は何だか微笑ましくもあった。
(アルカパ・・・それにサンタローズねぇ
照れくさいからかあんまり口には出したがらないけど、
やっぱり懐かしいんだね。あの子のこと)
「まあ、とにかく下りてらっしゃいな、お昼にしますから」
「はーい・・・あっ!!」
(!!)
母親は思わずハッとなって口を押さえた
下りようとしていた娘がバランスを崩し、ドサッと下まで落ちてきた

「ちょ・・・ちょっと大丈夫かい!?」
「うーん、だ、だいじょうぶ・・・ちょっと腰打っちゃったけど
 え、えへへ、ごめんなさい」
体に付いた土を落としながら悪戯っぽく笑うのを見て、母親はほっと胸をなでおろした。
まあ、かつては子供だけでオバケ退治をしたこともあるくらいで
体の丈夫さは決して大人にもひけをとらないほどなのだけど、
全く人をヒヤヒヤさせるのに事欠かない子だ

「あ、あれ・・・?」
娘が変な声を上げた。というのも彼女の結んでいたはずの髪が片方ほどけて乱れていた
どうやら落ちたときにリボンが一つ破けてしまったらしい。枝に引っかけたのだろうか
「あれ、お気に入りのリボンだったのになぁ・・・」
さも残念そうに言う。彼女は宝物にしていたリボンは三つあったが
一つは幼なじみの少年にあげた。そして一つは今破れてしまった
ついに彼女の手元にあるリボンは今ある一つだけになってしまった
「これじゃ、髪結べないよぉ・・・」
「まったく、木になんて登っているからだよ」
「ごめんなさい・・・」
母親に言われてビアンカは素直に謝った。どうやら相当ショックだったようだ

「もう・・・ほら後ろを向いてごらん」
「え?う、うん」
娘は母親に背中を向けた。すると母はもう一つ残されたリボンの方もほどく
「あ、あれ?お母さん、何するの?」
「このままじゃ髪型が変だろう?リボン一つでもできるようにしてあげるよ
 ・・・うん。これでよし」

「わあ・・・」
ビアンカは母が差し出した鏡を見た。さっきまでとは違う自分の姿が映っている
「わあ、ステキ!何だかちょっと大人っぽくなったみたい!ねえそう見えない?」
「アハハ、そうだね、そう見えるとも」
娘が思った以上に嬉しそうにしているので、母親も楽しそうに顔をほころばせた

「えへへ、大人、大人かな?」
新しい髪型になったといっても中身はいつものおてんば娘
さっきまでのショックもどこへやら、笑顔でクルクル回っている。
その陽気さに鳥の鳴き声や、木のざわめきすらもまるで彼女に笑いかけているかのよう
とても心地よく彼女の耳の中に入ってくる
「そういえばさ・・・」
ビアンカは回転を止めて母親の方へ振り返った
「大人って言えば、お母さんは大人よね?」
「・・・ええもちろん」
「でも生まれたときから大人ってわけじゃないんだよね?」
「まあ・・・そりゃそうだね」
何だか変なことを聞いてくる

「いつから大人になったの?そうだよいつから大人に、お母さんになったの?」
いきなり質問を浴びせかけてきた

「いや、いつ大人になったかって・・・」
この世界の人々には『これを迎えれば成人』といった儀式のようなものは存在しない
いつが『大人』と『こども』を分けるかといえばそれは・・・
「ねえ教えて、ねえ、ねえ、ねえ!」
「それはね・・・」
「うんうん!」

「やっぱり・・・言わない」
答えを期待して聞く姿勢に入っていたビアンカが派手にずっこけた
「なんでー!?教えてくれたっていいじゃない!お母さんってばぁ」
「ははは、そうねぇ。じゃあビアンカがもっと大きくなった頃に教えてあげるよ」
「ほんとだよ?約束だからね!」

・・・ああ、約束だよ
・・・
医者が首を振った。それはもうダメだという合図だった
あれから数年、少し成長したビアンカの前にぐったりと倒れた母がいる
「そんな、うそでしょ・・・?
 うそだよ、あんなにあんなに元気だったじゃない。それなのに・・・」

ビアンカが、ベッドの上の母親の体を揺さぶる
「お母さん!お母さん!起きて、起きてよ
 お母さんまだわたしの約束守ってくれてない!
 言ったじゃない!大きくなったら教えてくれるって
 わたしまだ大人になってない!まだお母さんから何も聞いてない!
 約束・・・なんだから・・・わたしこれからもがんばって大きくなるんだから
 ねえ・・・起きて・・・起きてよ・・・
 今なら・・・死んだフリなんてひどい冗談ね・・・って
 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ怒って・・・そうしたらすぐに許してあげるから
 だから目を開けて・・・起きて・・・起きてよ・・・お母さん・・・」

母親の傍らで娘が泣いていた。いつまでも、泣いていた
『ごめんね・・・』
話しかけてやりたいけど、もう声も何も届きそうにない
お前には本当に感謝している。森の中で赤ん坊だったお前を拾ったあの時から
子どものいなかった私たち夫婦には、その笑顔はまるで天使のようだった
本当に感謝している・・・約束守れなくてごめんね
でもお前ならわかる
きっとわかるよ・・・わたしたちに喜びをくれた、お前ならね・・・

・・・
「お母さーん、お母さーん」
洗濯物を干していた母親の所に一人の女の子がとびついてきた
「わっ!泥だらけじゃないの!洗濯する方の身にもなってほしいわ」
えへへ、とおませな娘が悪戯っぽく笑う
「まったくもう、そういうところ一体誰に似たんだか」
(って、絶対あたし似よね・・・ホントよく似てる・・・)

「ねえ、お母さん。お母さんは大人だよね?」
あれ?どこかで聞いたようなセリフね
「いつお母さんはお母さんになったの?いつ大人になったの?」
あらら、やっぱりこの質問なのね

あの時お母さんが言わなかったの、わかるわ
だって恥ずかしいもの。面と向かって言うのって

でも答えは決まっている。口にはなかなか出しにくいけど・・・こうよねお母さん
『宝物を、見つけた時からよ』
お父さんやあなたたちという大切な宝物を・・・ね