http://game.2ch.net/ff/は差別だ!
「――でね、そこでリュカが持ってきたのが」
そこまで言って、ビアンカは少し声をひそめた。
「・・・エッチな下着・・・、だったのよ」
「まぁ・・・」
マリアは唇にティーカップを当てたまま、小さくまばたきする。
ビアンカは真っ赤な頬をおさえて、マリアにささやきかけた。
「変だよね、こういうの。リュカってば、ちょっと異常なんじゃないかしら」
二人のうら若き人妻が、白いテーブルクロスをはさんで向かい合っていた。
ここは大陸一の栄華を誇る、ラインハット城の一室。
男たちが旧交を温めに、城下町で一杯きこしめている間、妻たちは城の一室でゆっくりと
上等の紅茶と菓子を楽しんでいるのだった。
近況報告や世間話がひと段落ついた頃、ビアンカが持ち出したのは夜の生活の話、である。
冒険の合間には、いつも子供たちや仲間モンスターの目があったので、夫婦生活は終始
ノーマルなものに徹していた。ビアンカも、ようやく初めての戸惑いが解けて、行為に
応えられるようになってきた時期である。
しかし、大魔王ミルドラースを倒し、世界が平和になった今。
夫婦生活に割ける時間と余裕が出てくると、それに伴う戸惑いや疑問も、ともに派生してくる。
気心の知れた女同士、打ち明け話に徹することができるのも、まあ世界平和の恩恵であろう。
「あの、でも、ビアンカさん?」
マリアが修道女特有の、諭すような上品な声で言う。
「そのくらいで異常呼ばわりは、リュカさんがかわいそうですわ。殿方の自然の摂理ですもの。
これもビアンカさんを愛しているからだと思って、許してさしあげて」
「で、でもマリアさん。あなただったら、ヘンリーさんにエッチな下着をつけてって頼まれたら、OKする?」
マリアはポッと頬を赤らめる。
「え、ええ。まあ・・・ね。それに現に、あの人もかなり無茶な要求をしてきたりもしますのよ」
「たとえば?」
「・・・その・・・修道院時代の服を着て・・・、とか・・・」
「ま・・・まぁ・・・」
二人の女は顔を赤らめてうつむいた。
それでもマリアは笑顔を作り、ビアンカに言った。
「だって、あの人が喜ぶ顔を見るのはやっぱり嬉しいんですもの。初めは少し恥ずかしい
でしょうけれど、ビアンカさんも勇気をお出しになってみて。そういうことも、夫婦の絆を
深める一環ですから」
「そうね・・・」
ビアンカはうつむいたまま、ちらりと考えた。
(あの下着をつけたら、リュカ、喜んでくれるかな・・・。そりゃ、喜んでくれたら
嬉しいけど、うーん、でもやっぱり、恥ずかしいな・・・)
ひとり、ジレンマに陥るビアンカであった。
後日、ラインハット城。
「聞いて聞いて、マリアさん!」
「どうしましたの?」
「リュカってばひどいのよ。私、頑張って・・・その、エッチな下着をつけたのね。そうしたら
だんだん要求がエスカレートして、絹のエプロンとか踊り娘の服とか、挙句の果てには昨日なんか、
ただの布切れまで持ち出してくるんだもの!」
「そ、それは・・・エスカレートしすぎですわね」
「でしょう!?」
「そんな場合には」
顔を赤くして怒るビアンカに、マリアは悠然と微笑みかけた。
「たとえ愛する旦那さま相手でも、きっぱりと拒否することも大切ですわ。主導権はこちらが
握らなくては。ビアンカさんは強力な呪文が使えるのですから、たまには思い知らせてやるのも
手ですわよ」
かつて清らかさを神に認められ、神の塔の扉を開いた修道女であったマリアは、高らかに
そう宣言するのだった。
――その夜、グランバニア城の王と王妃の寝室の屋根が、メラゾーマで吹っ飛んだ。
後に『グランバニアの異変』と呼び称されたその事件の真相を知るものは、当事者を除いては、
当時のラインハット王妃、ただ一人であったという。