わたしの決意は固い。
ついさっきまで悩んでいたけど、やっぱりそうするしかないってわけね。始めは魔法使い、僧侶を経て、次に吟遊詩人。そして踊り子をマスターした今、高みを目指すためにあの職業をマスターせねばならない。
全ては天地雷鳴師になるため。
魔法使いと僧侶のマスターによってわたしはいつでも賢者に転職できる。
……でも、そんなの気持ち悪いじゃない。
わたしは完璧主義者。基本職を全部マスターしてからでも遅くは無いわ。
ええ、そう。
そうにきまってる。
わたしがとても深遠な悩みに懊悩していたら、能天気なあいつってばわたしをせかすのよ?
「マリベル、どの職業に転職したいかは、決まったのかい?」
うっさいわね、アルス。
もとから何に転職するかは決まってるの。ただ、決心がつかなかっただけ。踊り子と吟遊詩人、そしてもう一つの職業をマスターすれば、上級職スーパースターへの道が開ける。 ……でも。
うー。
「マリベル……。早く決めないと。神官さんも、暇なわけじゃないんだよ」
分かってるって言ってんでしょ!いちいちうるさいわね!
……あんた最近、調子に乗ってるでしょ?キーファがいなくなって、パーティのイニシアティブを握れるのが自分だけだって思ってるのね。
そりゃ、ガボはガキだし、復活した英雄様って思ってたメルビンは、とんでもない爺様だったんだもん。消去法的にあんたしかいないでしょうよ。
……え、わたし?
わたしはいやよ。そんな面倒ごとを背負い込むの。
そういう細細とした面倒な役割は、昔からアルス、あなたがするって決まってるの。いい?あなたは一介の漁師の息子。わたしは、フィッシュベルの網元の娘なんだからね!
そう言ってやったら、アルスってばいつもみたいな曖昧な笑い方をして誤魔化すの。
今のあいつは上級職の海賊をしてる。以前に魔物使いをしていたから、これで二つ目の上級職ってことになる。
……ふんっ。わたしは崇高な目的があって基本職を極めてるんだから!お手軽な職業を連続して上級職になった、あんたなんかと一緒にしないでよね!
「マリベル……そろそろいい加減に決めないと……」
あ―――――――っ!!
うっさいうるさいうるさあああああいっっっ!!
決めればいいんでしょ決めれば!
……いまあんた、笑ったでしょ。
…………まあいいわ。
わたしがなりたいのは……。
広大なダーマ神殿の大広間で、わたしは神官様に言ったの。
次にわたしがなりたい職業。
それは……。
「げひゃひゃひゃひゃっ!」
ガボが笑い転げる。
なによっ!
「だってよ、まさかマリベルが、笑わせ師になるなんて……」
そう言って、今もひーひー言ってお腹を抱えてるの。
むかむかむかむか。
あんまりむかつくから、笑ってるガボのお尻を蹴っ飛ばしてやったわ。ガボったら、いきなり悲鳴をあげて飛び上がるの。今度はわたしが腹を抱えて笑ってやったわ。
「うひー。なあアルス……やっぱ、マリベルっておっかねえぞ」
失礼ね!!
「うひー!」
四つん這いになってガボは逃げてったわ。どうせ、夕食の時間になったら戻ってくるでしょうけど。
メルビンは、剣の稽古をするとか言って、その辺に出て行った。きっとまた、腰を痛めて戻ってくるに違いないわ。
……ちょっと待ってよ。
てことは、いまわたしってば、アルスと二人っきりって訳?
……別に意識してるわけじゃないわよ、あんな奴。あいつはただの幼馴染。あんなたよっりなさそうな奴、わたしの好みじゃないわ。……最近ちょっと、たくましくなってきたけど。
でも、あいつは漁師の息子。わたしは網元の娘よ!身分が違うわ!……キーファって王子様だっけ。あんまり身分違わないかも。
……あーダメダメ!
変なこと考えて気を紛らわせて!
わたしが直面してる大問題は、もっと別のことでしょ!?
笑わせ師をマスターしないと、スーパースターになれないけど、まずその笑わせ師の第一段階に、試練があったわけで。
………………なによ。どうして最初に覚えなきゃいけないのが、『ぱふぱふ』な訳!? これは誰かを実験台にしなくちゃいけないと思うけど、
ガボみたいなガキは嫌だし……って言うかあいつ人間ですらないし。といって、メルビンみたいな爺様は間違っても好みじゃない。
一応大まけにまけて、アルス。あんたに決めてあげたんだからね。ありがたく思いなさい!
……ところが、いざ言い出す時分になって、わたしってば言い出せないの。
焚き火を挟んで向かい合って、何となく無言。……そっか。いつもはわたしがまくし立ててるから、アルスってば相槌を打つばっかりなのね。
気付かなかったけど、アルスが自分から口を開いたのって、少ないかも。
うー。
今はそんなことを考えてる暇じゃないでしょ!
このままじゃわたし、永久に笑わせ師のままよ!そんなのイヤ!!
……言わなくちゃ。
強く決心したわ。言うべき台詞。アルスに練習台になってもらうって言うこと、言わなくちゃ。
わたしは心の中で気合をいれて、口を開いたの。
ねえ、アルス……って。でも、意気込んでいた一瞬前とは裏腹に、私の口から出た声は、とても小さかった。
焚き火が爆ぜる音にまぎれて、アルスには届いていないかもしれない。
わたしは決意していた気持ちがたちまちのうちに沈んでいくのを感じた。
やっぱりだめ。恥ずかしすぎるわ……。
そうやって俯いてたら、アルスが自分から口を開いたの。珍しいこともあるものね。気っと明日は雨だわ。
「笑わせ師のことについて、悩んでたんだろ、マリベル」
うっ……。
「ダーマ神殿の宿屋で、バニーのお姉さんに聞いたんだ。笑わせ師がまず最初に、何を覚えなきゃいけないのか」
……………。
……わかってたんなら、早く言いなさいよ。余計な気を使っちゃったじゃない。だいたいあんたって、いっつもそうなのよ。
「うん。だから、今回は気を使おうと思ったんだけど、だめだったかな。……で、マリベル。僕でよかったら、いいよ」
………え?
いいの、アルス?
お願いして、いい?
「いつもみたいに、僕に命令しなよ。『わたしの練習台になりなさい』ってさ」
ぷっ……。
なにそれ。それじゃまるで、いつもわたしが高飛車な態度取ってるみたいじゃない。
「みたいじゃなくて、そうなんだけど……」
……何か言った?
「ううん、何も」
わたしの予備知識にあったのは、男の笑わせ師と女笑わせ師は、同じ『ぱふぱふ』という技でも系統が違うということ。
男の笑わせ師のそれは、なんかもっと下ネタめいた下品な代物。それでモンスターを気持ち悪がらせて麻痺させるの。
でも、女笑わせ師の『ぱふぱふ』は違う。モンスターを気持ち良くさせて動きを止めなくちゃいけない。
どっちかっていうと、エッチな技。
それを今から、わたしがアルスにかけようというのだけど……。正直な所、服を着ていると感覚がつかめないから、最初は服を脱いで練習するように。そう、笑わせ師の教本にはあった。
わたしは完全な初心者な分けだから、一応教本にしたがって服を脱ぐ。
あんまり恥ずかしいから、アルスの服も脱がせた。
……これであいこってもんだわ。
アルスったら、こういう状況になってもまだ恥ずかしそうにしてる。そりゃ、わたしだって恥ずかしいわよ。でも仕方ないじゃない。避けては通れないステップなんだから。
わたしは自分で言うのもなんだけど、結構……いやかなり可愛いと思う。エスタード島しかこの世界に無かった頃は、わたしに迫る美人さんはキーファの妹のリーサ姫しかいなかったんだから。
アルスがこのわたしを見てドキドキするのはまあ許可。だって当たり前だもんね。でも……わたしがアルスを見てドキドキすのはおかしいわ。だってアルスってそんなにカッコいいわけじゃないのよ!?
「マリベル……早く始めないと風邪引いちゃうよ」
わぁってるわよっ!
わたしは恐る恐るって感じでアルスに近寄った。
えーと、まずは経験の無い人は、肌を触れ合わせる事から……だっけ?
アルスの体に手を伸ばした。こう……なんていうか触ってみての感想なんだけど、いつの間にこんなに筋肉ついたのかしら?胸板が薄いって印象は無いし……。
だんだん体を近づけていく。自慢じゃないけど、わたしの胸ってかなり形がいいから、それが接近してくるのを見てるアルス的には生唾モノよね。うふ、我慢できるかしら?
胸が触れるぎりぎりの距離で、近づくのをやめて、ちょっと上目遣いに。……やだ、アルスったら目を逸らした。
一人前に意識しちゃってぇ。かわいいー。
……て思った瞬間、わたしの胸に強烈な刺激が走った。!?……なにコレ!?
アルスに触れるか触れないかってところで止めてた胸が、びみょーな感じでアルスの胸板にタッチしている。えーと、つまりは、……起ってる。
むかーっ!
そんな馬鹿な話あるはず無いじゃない!わたしは理不尽な現状を無視するために、アルスに抱きつくみたいにくっついてやったわ。
わたしの形のいい胸が、アルスとの間でつぶれる。ちょっと痛い。
「マ……マリベル……。僕、横になったほうがいいかな?」
……む。そのほうが確かに楽かも。アルスのくせに気が利くじゃない。
アルスが横たわって、わたしは跪くみたいにしてその上に跨った。言っとくけど、裸ってわけじゃないわよ?長旅のために特注した持ちのいいペチコート。胸元はちょっと大胆にカットが入ってるの。
アルスは下からわたしを見上げて、ゴクリって唾を飲んだ。……ふふっ。緊張してる。……と言っても、わたしはそれ以上に緊張してるかもしれない。
「ねえマリベル」
……あによ。
「言いにくいんだけどさ」
……だから、なによ?わたし、じれったいのは嫌いなんだけど。
「そのペチコート。どう考えても邪魔じゃないかなぁ」
……そ……そうかも。……って、分かってたわよそんなことあんたに言われなくても最初っから今からそうしようかなって思ってたところなんだから余計なこと言わないでよ!「ご……ごめん」
で。
わたしは勢い良くペチコートを脱ぎ捨てたわ。……脱ぎ捨て……たんだけど。
……うう〜。
「マリベル、また今度にしようか?……時間が無い訳じゃないんだから」
……いやよっ!!今はなんかしゃがみこんだ姿勢のまま立ち上がれなくてみっともないかもしれないけどあんたわたしを誰だと思ってるのっ!
やるったらやるのっ!
ちょっとやけ気味の気分でわたしはアルスの上に胸を押し付けた。
そうしたらわたしは、ちょうど下腹部の辺りになんだかいやーな感触を感じてしまった。……ぐにゃってヤツ。ちょっと、固かったかもしれない。
まさか。これは。
アルスったら照れ笑いなんかして、頭を掻いていた。
……ふ……ふん、そ……そうよね。わたしの体を意識しつつ、アルスが平常でいられる訳無いもんね。
わたしは平気を装って、……じゃなくて、全然平気なのよっ!だから、胸を中心にした場所でマッサージするみたいにしてアルスの上を行ったり来たりする。
どう、気持ちいい?
「いやあ……。微妙かな」
なんですってぇっ!……このわたしがこうまでしてあげてるのよ!?気持ち良くないわけ無いじゃないっ!
わたしは非常手段の行使を決断した。
これだけ意思力を総動員して羞恥心を押さえ込んだっていうのに、効果が無いんじゃ立つ瀬が無い。むしろ、後で思い返すたびに恥ずかしいじゃない!だったらいっそのこと、行く所まで行ってしまった方がいい。
手を伸ばして、アルスの…………を触った。
……うっわー。こんなに熱いんだ。しかもなんか、ぬるぬるする……。
途端にアルスったら切羽詰った顔してわたしの下から逃げようとするの。
「マ……マリベル、それはだめ、反則だってば!……まずいよ!」
そんなこと、先刻承知よ!ぜったいあんたに気持ちいいって言わせて見せるんだから!思わず力をいれてそれを握っちゃったわ。そしたら、アルスは「うっ……!」って苦しそうな声を出した。
「マリベル!本気でまずいんだってば!頼むよ、手を離して!」
ふふーん、その懇願する態度は気持ちいいけど、許してあげないわ。わたしに恥をかかせた罰っ!
……熱っ!……なに!?なんかでてきた!?……うわぁぁ、なんかべとべとするし、あったかいの。それに……どんどんでてくる。……やだ、体にかかってる!
「うっ……ううー……」
……もしかして、気持ち良いわけ?
……ほ……ほほほほほ!や……やったぁ!みた?アルス、わたしが本気を出せばざっとこんなもんなの!
「マリベルぅ……多分それ、ぜんぜん違うよ……」
うぅぅぅ……うるさぁいっ!わたしがいいっていったら、いいのよ!
うわ、これ、すっごく変な臭いする……。やだ、臭い残りそう……!それに、なんかこのにおいをかいでると変な気分になりそう。男って、どうしてこんなものが出てくる訳?
わたしがアルスの上でぶつぶつ言ってたら、いきなりあいつは体を起こしてきて、わたしを地面に転がした!
きゃっ!……アルス、なにすんのよ!
「いや、さすがに僕にも、最低限のプライドはあるわけでさ……」
な……なによ?
何よその手!?やぁっ!変なとこ触んないで!
アルスの手がわたしの恥ずかしい所に伸びてきて、なんだか濡れた音がするの。一瞬だけど、背中にびりっていう感じが走った。
……ひ……!なに、これ?
「あのさ……一応僕も、痛くは無いように気を使うけど、なにぶん初めてなもんで、痛いと思うから勘弁してね」
……なによそれ!?まっ……まさかしようってわけ!?ちょーっと待って!!
「いやぁ……止まらなくしたのはマリベルじゃないか。練習の後始末はしないと」
後始末?そ……そうよね。これってば笑わせ師の練習の一環なのよ、きっと。だって、そうじゃなければアルスがこんなに押しが強いわけないもの。
アルスがわたしのあそこに触れながら、胸に向かって手を伸ばしてくる。
やンッ!……そこ、敏感なんだから。触り方にデリカシーが無さ過ぎるわよ!
「ご……ごめん!でも、マリベルだってぼくのおちんちんさわるとき、結構乱暴だったよ……」
きゃーっきゃーっ!そんな下品な単語聞きたくなーいっ!!
……って、うあぁぁぁんンッ!?調子に乗ってっ……さわ……らない、で……!?ちくび、強すぎ、指……!!
「マリベル大丈夫!?なんだか……すごくいっぱいあふれてきた……!」
うぅぅー。……もう、訳わかんない。頭ボーっとしてるの。
そしたらアルスが、わたしの耳元に口を寄せて囁く。
「マリベルのここ、すっごく、ぐちょぐちょだってば」
やぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!なに言ってんのよ!?信じらんないそんな恥ずかしい事言うなんて!!
「うん、自分でもちょっと恥ずかしかった」
照れて真っ赤になってるアルス。でも多分、もっとわたしは真っ赤だわ。だってすっごく顔が熱いもの……。
「マリベル……そろそろいいかな……僕、そろそろまた出そうなんだ……」
え……?出そうって、アレが?
…………つまり…………していいかっていうこと?
突然回りの音が聞こえにくくなった。顔が熱くなりすぎて、目が変な感じ。世界がへんてこに見える!頭がくらくら!ぐらぐらするっ!!頭の血管の中を血が流れる音が聞こえる気がする!!
うっわー!!
だめ。もうだめ!
わたし、もうだめっっっ!!!
「マリベルッ!!」
押し倒された!
きゃーっきゃーっ!!どうなるのどう!なるのかわからないってばすっごくもう。パパパパパパニック状態っ!!
いきなりあっつい感触があそこに触ったの!で、ぐにって、ぐにって入ってくるあわわわわどうしようこれまずい何これ反則だわ訳分かんないよどうしたら良いのだめ大きいってなんかやだ裂けて。
……痛いぃっ!!
ずんって、ずんってわたしの奥に入ったわ!痛いの、すっごく!でも、熱くて、じんじん言ってる!……あ…あ……!ぐちゅぐちゅ音を立てて動いてる……!エッチな音……やだ、おなかの中すっごくおかしい感じで……。
……いきなり、力いっぱい突いて来た!
ばかぁっ!……わたし、おかしくなるってばぁっ!
「くぅぅ、マリベルごめん、僕もう……!」
え……あ……、何!?
熱ぅッ……!!
なんだかリズムを刻むみたいにして、熱いのが私のおなかの中に吹き出してきた。多分さっきのアルスの…………から出たアレだわ。
………私の中に出てるの……!?
熱い……すごく……いっぱい出てる気がする。アルスがわたしの上でうめいている。
なんだか、かわいいかも。
まだ出続けている気がしたけど、わたしはなんか気分がよくなって、アルスの頭を撫でてあげた。
……ねえアルス……。
「……うん?」
わたしはしばらくしてから、アルスに声をかけた。
アルスってば放心状態で、私の中から…………を抜いた後も、黙ってるの。まあ、元々あんまり喋る性格じゃないんだけどね。
わたしは実はなんかじんじんしてるんだけど、そんなこと気取られたらアルスにしたり顔で心配されちゃったりして、イニシアティブ握られちゃうじゃない。超却下よ!
……でさ、アルス。コレくらい気持ちいいことできれば、わたし笑わせ師の方は大丈夫かな?大丈夫だよね?
そしたらアルスは、なんか曖昧な笑顔を浮かべた。
「うーん。関係ないと思うな、これは。……僕はとっても気持ちよかったけど……」
なななな、なぁんですってぇっ!
肩に回してきたアルスの手を、スパーンとはらってやったわ!
なによそれ!ずるいわ!計画的はんこ―よっ!
「いや、それはマリベルが勝手に勘違いを……」
むきーっ!!
何と何を勘違いするって言うのよーっ!!こんなに痛い思いしてただの勘違いでしたってそれで済むと思ってるのあんたアルスっ!
「あ、あの、ゴメンなさいっ!」
あああああーっ、その気弱な態度がまたむかつくのよ―っ!!
大体あんたがそうやって優柔不断っぽく語尾を曖昧模糊としたまま現状を据え置いているからわたしはこのように不愉快千万な状況に心境を置く事になるって言ってるのよあんた理解できてるのドゥユーアンダスタンッ!?
「あぁぁぁ……マリベル、汚れちゃったでしょ、僕水汲んで来るーっ!」
アルスが服を抱えて、いきなりダッシュ!
うきーっ!覚えてなさいよアルスっ!どこまで逃げても責任とって最後まで練習台になってもらうんだからッ!!
わたしは決意した!
覚悟しなさいよ、アルス!?