【クリフトの野望-バトランド編 (26)】
一方、その頃。 山岳地帯の小国バトランド。
バトランドの戦士団長・ライアンは、一人の少年を連れて、城へ向かって歩いていた。
そこへ、一人の商人の男と出会った。
商人 「おや ライアン様。 お出かけですか?」
ライアン 「ああ。 今日は大事な会議で城へ出勤だ。」
商人 「そちらのお子様は、息子さんで?」
ライアン 「ははっ。 拙者に子供などおらぬよ。 この子は拙者の弟子だ。」
少年 「うん。 ボク、ホイミンって言うんだよ。」
商人 「これはこれは、可愛らしい お弟子さんですな。」
ライアン 「この子は将来、王立の文官を目指していてな。 拙者とともに城の見学へ行くのだよ。」
【クリフトの野望-バトランド編 (27)】
バトランド城内の会議室。
国王・大臣・文官たちとともにライアンとホイミンは席についている。
王 「みなも知っての通り、現在、我が国バトランドは危機的状況にある。
エンドールの軍備拡張、それに対抗するサントハイム。
そしてそれを不気味に見守るキングレオも何を企んでおることやら…」
ライアン 「これからは、海の時代だと言われております。
我が国も 『プリンス リック』 や 『あやかし』 に匹敵する大型軍艦を製造して、
大国に対抗せねば。」
大臣 「無理を申すな、ライアン。 軍艦製造には、莫大な費用を要するぞ。」
文官 「さよう。 我が国は兵の装備もままならぬ苦しい財政。
軍艦など造ってしまったら、民の生活が成り立たなくなってしまう。」
【クリフトの野望-バトランド編 (28)】
ライアン 「では、どうすれば良いと言うのか?
もし、エンドールに攻められたら、我が国はひとたまりも無いではないか。」
ホイミン 「ボク、軍艦なんていらないと思うよ。」
大臣 「何?」
ライアン 「これ、ホイミン! 口を慎め! お前の出る幕では無いぞ!」
ホイミン 「だってバトランドの城は険しい山岳地帯にあるんだよ。
敵は簡単に攻めて来れないよ。」
文官 「まあ、確かにその通りだな。 当分は軍備対策は不要かと…」
ライアン 「いやいや、楽観は出来ぬ。 イムル村の北の海は無防備だ。
そこから大軍が上陸して迫って来たらどうする? 撃退は困難だぞ。」
文官 「…では聞くが、敵が我が国を攻め込むことなど現実性があるのか?
資源の乏しい我が国に わざわざ兵を向けるなど、何の有益性があると言うのか?」
【クリフトの野望-バトランド編 (29)】
ライアン 「だからそれが楽観だと言うのだ。
ソレッタを見よ。 ソレッタは資源も土地も無い貧国だ。
しかし、それがサントハイムによって、同盟条約を名目に属国化されてしまったのだぞ。
我が国も、あの気違い神官にかかれば、何をされるか分かったものではない!」
ホイミン 「大丈夫。 我が国は敵国に対抗出来るはずだよ。」
ライアン 「いちいち口をはさむな!」
王 「はっはっは、ライアンよ。 面白い子を連れた来たようじゃな。」
ライアン 「もッ、申し訳ございませぬ!」
王 「いや、良い良い。 その子は将来、我が国にとって貴重な人材となるやも知れぬ。
そなた、名は何と申すか?」
ホイミン 「ボク、ホイミン。」
王 「では、ホイミンよ。 そなたの話の続きを聞かせて貰おうか。」
【クリフトの野望-バトランド編 (30)】
ホイミン 「うん。 我が国には地の利があると思うんだ。 みんな、軍艦の大砲の射程距離って知ってるの?
もしあれが北の海から発射されたって、イムル村までも届かない。
バトランドの城はさらに奥地の川の向こうだから、天然の守りが万全だよ。」
王 「ふむ、そうか。 では陸戦の防備はどうする?
エンドールの兵力は我が軍の8倍。 サントハイムは7倍じゃぞ。」
ホイミン 「ふふっ ボク知ってるんだよ。
エンドール兵なんてヤクザ者の寄せ集め。 サントハイム兵なんて百姓の寄せ集めだってね。」
王 「ん? 何じゃそれは?」
ホイミン 「エンドール兵は士気の低い傭兵がほとんどだよ。 実戦では統率力はイマイチだろうね。
サントハイム兵は最近になって徴兵された元農民ばっかしで、特殊な軍事訓練は中途半端だから弱そう。
一方、我がバトランドの戦士団は、伝統的な兵法学のもとで、幼い頃から徹底的に戦士のエリート教育を
受けた世界最強の兵団だよ。 エンドールやサントハイムなんて敵じゃないね。」
【クリフトの野望-バトランド編 (31)】
大臣 「そりゃ子供の理屈だな…。 師匠であるライアンの立場を持ち上げたい気持ちも分かるが。」
ライアン 「ホイミン、それくらいにしておけ。 あとは我々 大人の話だ。
こんな圧倒的な兵力差では、兵の個人力で戦争の勝敗が決まるような簡単な話では無いのだぞ。」
ホイミン 「うん。 あと必要なのは同盟国からの援軍だね。」
大臣 「同盟国? ガーデンブルグか?
あそこだって小国だし、女戦士たちにそう期待出来るとは思えぬが…」
ホイミン 「違うよ。 デスパレスとの同盟だよ。」
大臣 「デッ!? デスパレス!??」
ホイミン 「デスパレスのモンスター軍団の力と我がバトランドの兵法が一致協力すれば無敵だよ。
モンスターは、人間とは比べものにならないほどの戦闘能力を持ってるからね。」
ライアン 「馬鹿を言うなッ! 誇り高きバトランドの戦士がモンスターなんかと手が組めるかッ!」
【クリフトの野望-バトランド編 (32)】
ホイミン 「誇りって? モンスターじゃダメ?」
ライアン 「モンスターなど、下等な生き物だぞ! そんな汚らわしい連中と共に戦うなど虫酸が走るわ!」
ホイミン 「下等だなんて、ひどいよ。 ボク、昔はモンスターだったのに…。」
ライアン 「あ…いや、お前のことじゃなく…ええっと、その…」
ホイミン 「ボクはね、戦士の誇りとは国を守ることだと思うんだ。
国を守るためなら余分なプライドは不要だよ。」
ライアン 「…しかし、うーん、それは……」
ホイミン 「我が国は国力が乏しいから装備に予算を割けない。
だから、世界で最も優れた兵法学をうまく生かしながら、
それを兵の個人力と組み合わせて戦うことが、大国に対抗する唯一の手段だと思う。」
王 「しかし…あのデスパレスとの同盟など可能なのか?」
【クリフトの野望-バトランド編 (33)】
ホイミン 「もちろん。 あの国は今、王を失って混乱状態にあるんだ。
国力も疲弊して、常に外部勢力の侵略におびえている。
そんな中、我が国との同盟締結は、まさに助け舟じゃないのかな?」
王 「王がいない国を相手に同盟じゃと? 誰と交渉する気じゃ?」
ホイミン 「かつてデスパレスを治めた元・国王はボクの知り合いなんだ。
ボクに任せてくれたら、交渉はきっとうまくいく。
王様! この同盟の交渉はボクに任せて!」
王 「むぅ…。 検討する価値はありそうじゃな…。
まずは相手国の情勢を知らねばならぬ。
ライアンよ。 ホイミンとともに偵察を頼んだぞ。」
ライアン 「か・かしこましました…。」
ホイミン 「うん。 ボク、頑張るよ。」
【続く】