【クリフトの野望 (8)】
クリフト一行を乗せた2隻の新型軍艦「あやかし」・「さえずり」は、サラン港からソレッタ王国へと向かった。
クリフトは、ホフマンとサントハイム兵たちを引き連れて、ソレッタ城にてソレッタ王に謁見した。
ソレッタ王は、サントハイムからの同盟条約の提案を喜んでいた。
クリフト「ソレッタ国王陛下。 お久しゅうございます。
私は、サンハイム王国軍事大臣、クリフトと申します。
本日は、我が国との同盟条約の締結の交渉に参りました。」
ソレッタ王「よくぞ来た、クリフトよ。 歓迎するぞ。」
「今や、世界が火花を散らし合い、毎日が戦争前夜の気分という物騒な情勢であります。
こんな中、両国が共に力を合わせ平和的に発展してゆけたら、両国にとってこの上ない幸福かと存じます。」
「うむ。 そなたら大国と同盟を結べるとは、我々としても心強いかぎりじゃ。」
「…さて、ホフマンよ。 同盟条約文書を読み上げよ。」
【クリフトの野望 (9)】
ホフマン「はッ! ……第一条!
ソレッタ国政府には、政治・財政および軍事顧問として有力なるサントハイム人を登用せしむること!
第二条! ソレッタ国政府は、国家が有する一切の権利・利益などの処分に付き、
サントハイム王国政府がこれらを承認すべきことを約す!」
王「なッ!? なんじゃ、それは……!」
ホフマン「第三条! ソレッタ国政府は、サント教を国教と定め、須らく国民にこれを啓蒙し信教に
努めせしむるべきことを約す!
第四条! ソレッタ国政府は、サントハイム王国の優越なる地位を承認することにより、
ここに以下の条款を締結せり!
第五条! ………」
王「おい! いい加減にせい! 何のつもりじゃ!」
クリフト「ククククク… 何か ご不満な点でも?」
【クリフトの野望 (10)】
王「ふざけるな! 何が同盟条約か! そんなもの属国命令ではないか!」
クリフト「おや、国王陛下ともあろうお方が現在の世界情勢をお読みになれないとは、遺憾ですな。
むしろあなたは、この『同盟』に感謝しなければならないのですよ。」
「なんじゃと?」
「現在、我がサントハイム・エンドール・キングレオの各国は互いに軍備増強を競い合い、
いつ戦争が勃発するやという恐るべき状況にあります。
各国がその気になれば、こんな弱小国はあっという間に火の海でしょう。
我々は、そんな危機からあなたがたを護衛いたそうと申し上げているのです。」
「馬鹿馬鹿しい。 わざわざこんな辺境の地まで兵を向ける物好きがいるものか。」
「いいえ。 将来は各国がヨダレを垂らしてこの豊かなパデキア農園を欲しがることでしょう。
…皮肉なものですね。 貧国からの脱却を案じ、なまじ新奇な産業を見つけてしまったために、
それを大国に目をつけられるだなんて…。」
「なるほど、貴様の狙いは、パデキアというわけかッ!?」
【クリフトの野望 (11)】
クリフト「ちなみに、我が新型軍艦は、現在、適切な爆破実験の標的を探しています。
私は、この豊かな土地が灰塵に帰すところなど見たくはありませんね。」
王「……! 恫喝のつもりかッ、卑怯者め!」
「ククククク… 面白い例を紹介しましょう。
我が新型軍艦・『あやかし』の一発の砲撃力は、イオナズンの1千倍のエネルギーに相当します。
おそらくこの城は、一発の砲撃で、原型を留めず一瞬で消滅しましょう。」
「むッ………。」
「あなたは常に国民の幸福を願う王だとの評判を聞いております。」
「…………。」
「この度も国民にとって最も幸福となるご判断をいただきたいものですが。」
「…………。」
「さあ、王よ。 条約文書を お受け取りなさるか。 それとも…?」
「……分かった…。 条約を受け入れよう…。」
【クリフトの野望 (12)】
クリフト「ククククク… 素晴らしい。 あなたは噂どおりの聡明な王ですね…。」
王「む…無念じゃ…。
わしらが心をこめて育てた大事な土地が、こんな紙きれ一枚によって奪われるだなんて……」
そこへ、軍艦から一人の兵士が慌ててクリフトの元へ駆けつけた。
兵「ハァハァ… ク・クリフト閣下! 大変です! 本国から、連絡がッ!」
クリフト「どうしたッ!?」
「アリーナ姫から、クリフト閣下へ軍事大臣解任の命令が出ました!」
「ククククク… それは困りましたね…。 あのアリーナ姫がこの私に対して『謀反』とは。
『謀反人』は処罰しなければいけませんね……。」
ホフマン「しょ・処罰って……!? クリフト閣下!?」
「…さあ、サントハイムへ帰国だッ!」
【続く】