【クリフトの野望 (1)】
深夜のサントハイム城の会議室。
ブライとクリフトの二人は国家の危機を案じ、夜遅くまで残って国防の議論を続けていた。
ブライ「クリフトよ。 我が国は今、対立国であるエンドールの強大な軍事力に対して
脅威にさらされておる。 なんとかこの現状を打破する良い手立ては無いものか?」
クリフト「私に考えがございます。 ボンモールにエンドールと戦ってもらうのです。」
「なんじゃと? ボンモールはエンドールの同盟国ではないか?」
「おや、お忘れですか? つい最近までボンモール王はエンドールに対し、
激しい敵対感情を持っておられたではないですか。」
「しかし、今は両国の王子と王女が結婚したばかりの時期。 同盟破棄は不可能じゃろう。」
「ボンモールには人を騙すキツネが、エンドールには悪賢いタヌキがいると聞きます。」
【クリフトの野望 (2)】
ブライ「…キツネを利用し、ボンモール王をそそのかして エンドールへ兵を向けさせる…と。
そう うまくいくとは思えぬな。」
クリフト「ククククク…策には策を重ねるものですよ。 ブライ様。」
さらに、我が国とソレッタ国との同盟を提言いたします。」
「ソレッタじゃと? あの辺境の弱小国か?」
「辺境とは失敬ですね。 あの国は我が国とは目と鼻の先の近隣国ですよ。
実際に船で行くと分かりますが大変近い国です。」
「して、ソレッタとの同盟に どんな意味があると言うのじゃ?」
「私は旅の途中、ひどい病…パデコイド病に悩まされましたが、あの国に救われました。
それ以来、あの国とは何か不思議な縁の様なものを感じています。」
「なるほど。 パデキア栽培と交易ルートの独占…。 これが目的じゃな。」
【クリフトの野望 (3)】
クリフト「さすがはブライ様。 その通りでございます。」
ブライ「パデキアで利益を得ようと? 素人が慣れぬ商売の真似事など するものではないぞ。」
「商売ではありません。 これは『布教活動』なのです。」
「どういうことじゃ?」
「もし、エンドールでパデコイド病が大流行したらどうなるでしょうね?」
「それまで待つつもりか? 気の長い話じゃな。」
「ククククク…私のアダ名をお忘れですか? 私は『ザラキ馬鹿』…。
せっかちな殺したがり屋さん…」
「むッ! ま・まさか貴様ッ……!!」
「パデコイド病は、性交渉による感染力が大変強い病気です。
カジノと見世物に溺れた享楽主義のエンドールの愚民どものことですから、
あっという間にパデコイド病の餌食でしょう。」
【クリフトの野望 (4)】
ブライ「わしは貴様という人間が恐ろしい! 意図的に病原体をバラまく気じゃな?」
クリフト「そこで我々、サント教の神官の出番という訳です。
パデコイド病がエンドール国中に蔓延し、国は死者と病人であふれかえる。
人々が絶望の底に落とされたとき、サントハイムより救世主が現れます。」
「それが貴様じゃな。」
「そうです。 神の力による治療と称し、患者にパデキアの根を飲ませます。
この即効力を見せ付ければ、誰が神の奇跡を疑いましょうか?
これを繰り返せば、エンドールでのサント教信者は確実に増えるでしょう。」
「内部破壊か。」
「内部創造と言っていただきたい。 ここでサント教信者による反乱軍を結成します。」
「反乱軍!? 勝算はあるのか?」
【クリフトの野望 (5)】
クリフト「ククククク…… 勝算? もちろん勝算などありませんよ。
反乱軍はやがて政府軍に鎮圧されるでしょう。」
ブライ「何? では何のための反乱軍か?」
「ただ彼らには鎮圧されるまでの間に、カジノや酒場などの退廃的な文化を破壊してもらう。
エンドール国民の快楽追求の思想は、我がサント教の教義とは相反するものですからね。」
「貴様の作戦にはあきれるわい。
そんな作戦はエンドールはもとより我が国の参謀たちにも受け入れられるまい。」
「そして、エンドールの敬虔なサント教信者たちは、聖地サントハイムを目指すでしょう。
関所から入国した信者たちを移民の町へと移住させます。
やがて、大量の移民を受け入れた我が国の国力は、エンドールをも凌駕するものとなりましょう。」
「…もうよい、もうよい。 貴様の妄想はそこまでじゃ…。 少し頭を冷やすんじゃな。
だいたい、そんな無茶な作戦を王に承認いただけるわけがなかろう。」
【クリフトの野望 (6)】
クリフト「いいえ。 既に私は国王直々に軍事大臣の任命を受けております。
軍事に関する全ての権限は、この私に委ねられています。
ブライ「なんじゃと!? そんな事聞いとらんぞ!」
「今後、私のことは大臣閣下とお呼びいただきましょう。
現在、病気の国王から、一切の指揮を私に一任されております。」
「病気じゃと…!? ……貴様ッ! 国王に何をした!?」
「ククククク…何のことでしょう? 言いがかりは困りますな。」
「兵よ! 兵よ! ここへ参れ!」
そこへ、数人の武装した兵士が駆けつけた。
ブライ「クリフトに謀反の疑いがある! クリフトを牢へ連行せよ!」
【クリフトの野望 (7)】
兵「………………」
ブライ「…ん? どうした、おぬしら…わしの命令が聞こえんのか?」
クリフト「ブライ様がご乱心だ! 拘束せよ!」
兵「はッ!」
ブライ「や・やめろ…! 何をする!」
クリフト「あなたはもう ご高齢だ。 そろそろ ご引退願おうか。」
「許さんぞ、クリフト! サントハイムは貴様の勝手にはさせん!」
「もう あなたの時代ではない。
今や、サントハイムの…いや世界の支配者はこの私となるのです!
「馬鹿な妄想は捨てろ!」
「兵よ、ホフマンを呼べ! ソレッタへの出港を準備せよ!」
【続く】