とりあえず立ててみました。
3 :
新田美穂 過去分:2009/12/20(日) 23:04:36 ID:C4FpS0p00
新田美穂の前にはインタビュアーとカメラマンが陣取っていた。美穂は20歳。
現役東大生の美人だ。タンクトップを盛り上げる乳房は形がよく、ウエストは
キュッとくびれ、ミニスカートに包まれた尻は引き締まっている。スリーサイズは
88、56、90。伸びやかな太ももは陶磁器のごとく色白だった。ツンッと
高い鼻は自尊心の高さを象徴しており、アーモンド型の瞳は、覗き込んだ男を
瞬く間に虜にしてしまう。黒檀色の髪は吐息で舞い上がるほどサラサラで、
豊かな量が腰元まで流れ落ちている。
「次戦への抱負をお願いします」とインタビュアー。
「美しく勝つ、それだけよ」
美穂は自分が最も綺麗に見える角度で微笑んで見せた。インタビュアーが生唾を
飲み込んだのが見て取れる。
「対戦相手は28歳のベテランです。山篭りをして技に磨きをかけているそうですが」
「その間、私は美に磨きをかけておくわ」
「おお、余裕ですね!」
「もちろんよ。私は必死でトレーニングに励んでいる弱い犬とは違うの。対戦相手、
何て名前だっけ?」
「二階堂久恵選手です」
「ああ、そんな名前だったわね。昨日、戦ってる映像を見たけど、私、思うのよね。
山篭りなんてしたら、雨に濡れた惨めでブサイクなブルドックみたいな外見に
なっちゃうんじゃないの? 観客は気持ち悪がるわよ」
「手厳しいですね」
「平均以下の容姿の女は、死に物狂いで美を磨かなきゃ。28歳じゃ、肌はボロボロ
でしょうに、ますます醜くなるわよ」
4 :
新田美穂 過去分:2009/12/20(日) 23:05:30 ID:C4FpS0p00
「余裕の発言ですね。さすが女子チャンピオン。しかし、今回はプレッシャーも
あるのでは?」
「私が? いつもどおり勝だけよ、美しく、ね」
「しかし、あの約束は重荷じゃありませんか?」
1ヶ月前。
美穂が試合で見事なKO勝利をし、余裕で防衛した直後だった。二階堂久恵が
リングに上がり、次は私と戦え、とマイクアピールしたのだ。勝者のインタビューを
邪魔した久恵に腹が立ち、美穂は彼女を罵った。リングは口撃の応酬となった。
「勝つのは私よ、新田美穂!」
「醜い犬ほどよく吠えるものね」
「何ですって!」
「私の勝利は決まってるのよ。あなたじゃ私には勝てない」
「ふざけんな。勝つのは私よ! もし私が負けたら引退してやるわ!」
「へえ。じゃあ、私が勝ったらあなたの言うことを何でも聞くわ」
「その言葉、忘れたとは言わさないわよ。本当に“何でも”ね?」
「私のモットーは有限実行なの。女王に二言はないわ」
「ふふふ、それは楽しみね。覚悟してなさい」
久恵は不敵な笑いを残し、リングを去った。
翌日のスポーツ新聞は、美穂が一面を飾った。
『負けたら“何を”することになるのか!』
『女王が負けたら何でも言うことを聞く宣言!』
世論は盛り上がり、後には引けない大勝負となった。
5 :
新田美穂 過去分:2009/12/20(日) 23:09:32 ID:C4FpS0p00
しかし、美穂は負ける気は全くなく、適度にトレーニングをこなし、後は
お洒落してバーに行き、声をかけてくる男どもを焦らし、カクテルを奢らせ、
軽くあしらうという暇潰しをしてすごした。
「なあなあ、俺と飲まない?」
声をかけてきた男は、50点の容姿だった。それでも男性ファッション誌に
登場していてもおかしくない程度の外見は備えている。まあ、つきあってもいいだろう。
美穂は男の奢りで適度に酒を飲んだ。
美穂は男の腕時計を見やり、微笑を見せて言う。
「ねえ、私、時間が分からなくて困ってるのよね。その時計、くれない?」
「おいおい、冗談だろ。これはロレックスだぜ?」
「あっ、そう。だから?」
「いくらするか分かってんの?」
「さあ。興味ないから。そんな程度の時計、いくつも持ってるもの。でも、
買うときも貰うときもいちいち値段なんて気にしてないわ」
男は困惑した顔で頭を掻いている。
美穂は立ち上がった。
「別にいいわ。私は時計をくれる男を捜して一緒に飲むから」
男は美穂の腕を掴み、「待てよ、分かった、分かったって」と言いながら、
腕時計を外して差し出した。美穂は受け取り、自分の腕に巻いた。
別にロレックスの腕時計なんて欲しくもないが、男がどれだけ自分の
美貌に魅了され、言いなりになるか確かめたかったのだ。
美穂は再びスツールに座り、酒を飲み始めた。
6 :
新田美穂 過去分:2009/12/20(日) 23:11:20 ID:C4FpS0p00
30分後、男が言う。
「なあ、そろそろ行かないか? ホテルがとってあるんだ」
美穂は呆れ顔を作って男を見た。
「私に相応しい男は、高学歴、高収入、高身長のハンサムだけよ。残念ながら
あなたじゃ私に釣り合わないわ」
「はあ? ふざけんなよ。時計やったろ!」
「時計程度で買収できると思わないで」
ぴしゃりと言い放つと、男は立ち上がり、「なめんな!」と殴りかかってきた。
美穂は座ったまま上体を反らすと、拳をかわし、男の後頭部を鷲掴みにしてカウンターに
叩きつけてやった。鼻が潰れる音がし、鼻血が広がる。
「あら、残念。50点の容姿が20点にマイナスね」
美穂はロレックスの時計を迷惑代として貰ったまま、バーを後にした。
男なんてバカばかりなんだから、適度に微笑んでやれば勘違いして何でも
買ってくれる。ブランド物のバッグも自分のファイトマネーで買ったものより、
男から貢がれたもののほうが圧倒的に多い。
美穂は完全な勝ち組人生を歩んでいた。頭脳明晰で東大に通い、類稀な美貌を持ち、
レースクイーン顔負けのスタイルを維持し、格闘技大会で女王に君臨している。
マスコミからはちやほやされ、水着の写真集も3冊出版した。
美穂は格闘技は後2年でやめて一流商社に就職するという人生プランを持っていた。
向かうところ敵なしだった。
もちろん、嫉妬やねたみによる敵も多い。大学内でも、美穂の高飛車な態度が
気に食わない女たちや、告白して手ひどく「自分の顔を見て出直したら?」と振られた
男たちは、美穂を嫌っている。
7 :
新田美穂 過去分:2009/12/20(日) 23:12:50 ID:C4FpS0p00
しかし、美穂は気にしていなかった。底辺の人間は恵まれた人間をねたむものだし、
嫉妬されればされるほど自分の完璧さが実感され、嬉しかった。
気分転換に銀座で買い物をしようと思い、電車に乗った。尻に触れる手のひらの感触があったのは、
満員電車に揺られて3分後だった。美穂は車内をさりげなく見回した。最初に目に飛び込んで
きたのは、一人の青年を挟んで斜め後ろに立つ脂ぎった顔の中年オヤジだった。こいつが痴漢か?
確信はなかった。男の位置から触るには、相当腕が伸びないと無理かもしれない。しかし、美穂は
男を睨みつけ、「痴漢です、この人」と冷淡に一言。
すると、声が聞こえた男全員が中年オヤジを見据えた。
「私は何もしていません、本当です、私じゃないんです。信じてください」
犯人かどうかは知らない。ただ、息も臭そうなこの中年オヤジに生理的嫌悪感があり、半径5メートル
以内から消えてほしかっただけだ。事実、中年オヤジは次の駅で乗客数人に放り出された。駅員に
突き出そうとした青年に美穂は、「私は忙しいし、そこまでするのは可哀想だから見逃してあげて」と
優しく言った。青年は感激した眼差しを向けてきた。本当は痴漢の証拠がない事実を駅員に突っ込まれたく
ないだけだったのだが。
美穂は満員電車にしてはまあまあ快適な時間を過ごし、銀座で買い物をして帰った。
部屋は高級マンションの25階だった。家賃や生活費は、男から貢がれたブランド物のバッグや
指輪を転売して得たお金で払っていた。売っても売っても貢物は部屋に置ききれないのだから、
邪魔な物を処分して何が悪い? 男たちはどうせ、私の笑顔を見られるだけで満足し、何も気づか
ないんだから。
美穂は毎日の日課をはじめた。隣室の部屋でエアロバイクを漕いで汗を流し、多種多様な
トレーニングができるマシンでバストアップ、二の腕やウエストの引き締め、太ももやふくらはぎの
シェイプに励んだ。自分を美しくするための努力は惜しまない。仰向けになっても形が決して崩れない
88センチの美乳はこうして作られる。
8 :
新田美穂 過去分:2009/12/20(日) 23:21:41 ID:C4FpS0p00
運動後は大理石の浴槽に浸かり、一日の疲れを落とした。自慢の体を洗うときは、コットン100%の
専用タオルで爪先から円を描くようにマッサージしながらボディーシャンプーを泡立て、足先と背中は
ボディブラシで優しく洗った。髪は、余分な皮脂を落とし、キューティクルを保護する作用のある天然
ハーブのシャンプー――50ml五万円――で時間をかけて丁寧に洗った。黒髪は光り輝いている。
バスタオルで体を拭いた後は、枝毛ができないように濡れた状態では決してブラシを入れず、バスタオルでも
こすらず、軽く挟むようにして水気を取った。専用のオイルをつけ、ドライヤーで痛まないようにケアした。
腰元まで流れ落ちる絹糸さながらの髪質は、毎日のケアで日々磨きがかかっている。踵を返す瞬間、背中で
フワッと翻る黒髪。そして再び背中を覆う。シャンプーのCMに出ている美髪の女優でも感嘆させる自信があった。
10年間丁寧に細心の注意を払いながら伸ばし続けてきた自慢の髪だった。
入浴後は、新陳代謝を促進するハーブティーを飲み、高価なサプリ――コラーゲンとアミノ酸の含有量が高い――
を嚥下した。爪の手入れも怠らない。両手足の爪を爪磨きで丁寧に磨き、蛍光灯に掲げる。爪は宝石のような
輝きを放っていた。表面は高級車の車体のように滑らかだった。
バスローブを着て境内の前に座り、鏡に自分の美顔を映しながらマッサージとケアをした。小顔で
シャープな顎のラインだ。鼻筋は綺麗に通り、桜色の唇は適度にふっくらとしている。
女神にも嫉妬されそうな完璧な美貌ね――。
就寝前には朝や昼よりも丁寧に歯を磨いた。歯科医御用達の専用液で10分間磨き、真珠を思わせる
真っ白な歯をさらに綺麗にした。小学生のころの歯列矯正で歯並びも完璧だった。100万ドルの笑顔を作る
ための歯だった。白い歯を見せて微笑めば、男なら誰でも魅了されるだろう。
明日は男から貢がれたエステの無料パスを使おう。
美穂は自分の美貌に満足してベッドに入った。寝る際は、長く美しい豊かな黒髪を枕の上に出し、決して
体で敷かないようにしている。男が見惚れ、女が嫉妬すらおこがましく感じるほどの美を磨くには、努力あるのみ、
だった。ミス東大に選ばれたこの美貌は常に高めていかなければいけない。
9 :
新田美穂 過去分:2009/12/20(日) 23:23:15 ID:C4FpS0p00
現在。試合当日。
「ねえ、ちょっと! 水はまだなの!?」
控え室の椅子に座り、伸びやかな脚を組んでいる美穂は、付き人の女を非難した。付き人の女は
鈍亀みたいに動きが遅い。気も利かない。こんな女にはなりたくないわね。
「すみません、すみません」と付き人の女が頭を下げる。平身低頭、土下座でもしそうな勢いだった。
美穂はため息を吐くと、「すみませんじゃなく、申し訳ありません、でしょ」
「も、申し訳ありません。ただいまお持ちします!」
付き人の女は鈍亀にしては頑張り、すぐさまミネラルウォーター入りのコップを持って戻ってきた。
美穂は礼を言うこともなく、受け取って水を飲み干した。
そして、試合開始の時刻が訪れた。
新田美穂はピンクのチューブトップと白のミニスカート姿で入場した。スカートの下はもちろん白の水着
である。黒檀色の髪が腰の周りでスモークに舞っている。美穂の全身はスポットライトの中で輝いていた。
整った顔立ちに誰もが釘付けだ。磨き続けている美貌が最も引き立つ瞬間だった。
20000人も収容できるドーム型の会場は満員だった。美人である美穂のファン、美穂のセクシーな
何らかの罰ゲームを期待する男たち、高飛車で外見に劣る女を見下す美穂の負けを期待する女たち――。
美穂は観客の注目を一身に浴びながらリングインした。ブーツを脱ぎ、生脚を見せつけながら。
リングの中央に立つと、両手をウエストに添え、腰を右側に少しスライドさせ、なだらかな体のラインを
強調するポーズをとった。グラビアアイドルさながらの絵になると自覚しての行動だった。フラッシュが
全身に注がれる。最高だった。全世界をこの手におさめた気分になる。
リングには二階堂久恵が待ち構えていた。彼女は肩までの茶髪をウルフヘアにし、タンクトップと迷彩柄の
ズボンをはいている。一重の三白眼と低い鼻のせいで顔の造作は悪い。
「山篭りでまた老けたんじゃない?」と美穂が挑発すると、久恵の顔が屈辱に歪んだ。ますます醜くなった。
あんな容姿じゃ、底辺の男にしか相手にされないんじゃないかしら。
乙です。
連投規制があるかもしれんから念のために支援しときます。
アナウンサーが声を上げる。
「青コーナー、二階堂久恵〜! 28戦26勝2敗。26KO〜。赤コーナー、新田美穂〜! 38戦全勝。
30KO〜!」
美穂は久恵に微笑を返し、付き人の女から花束を受け取り、久恵に投げつけた。花束はリングに落ちる。
「引退するあなたに祝福よ」
久恵は野犬のように鼻を鳴らした。
「あんたこそ、覚悟しておきなさいよ。負けたら何でも言うことを聞く約束だったわよね」
「水着でセクシーダンスでも踊ればいいのかしら?」
「そんなことさせるわけないじゃない。常に注目を浴びていたい女王様は、セクシーポーズなんて
喜んでするでしょ。何の罰ゲームにもならないわ」
「じゃあ、あなたが勝ったら私に何を命じる気?」
負ける気はこれっぽっちもないが、一応訊いた。
久恵はリング下に視線を投じた。緑色の手術着を身に着けた外科医らしき男が3人立っている。その隣には
手術台があり、手足の部分に皮のベルトが備えつけられている。精神病者を拘束するベッドみたいだった。
久恵の口から飛び出た言葉は、耳を疑うようなものだった。
「私が勝ったら、あなたを不細工に整形させてもらうわ。二度と今の美しい顔に戻れないようにね」
冗談としか思えない発言に唖然としていると、ゴングが鳴った。久恵が殴りかかってきた。不意打ちだった。
反応が遅れたのは、突如として尿意を覚えたからでもあった。
今朝ちゃんとトイレに行ったのになぜ?
美穂は拳を右へかわそうとした。反応が遅れた。拳が頬をかすめる。瞬間、久恵の左膝が腹部にめり込んだ。
「げ、げふっ」
美穂は体を二つ折りにした。舞のように華麗な体捌きが自慢の美穂にとっては、攻撃を食らう経験はめったに
なかった。だから激痛に面食らった。おなかを押さえていると、ローキックが飛んできた。色白の太ももに
音が弾ける。男の軽量級キックボクサー並みだった。
は、早い……。
想像以上の実力に美穂は面食らっていた。再びローキックを食らった。衝撃が弾ける。2発、3発、4発。
伸びやかな前脚を上げてブロックを試みる。しかし、久恵は巧みに軸足の太ももの内側を狙ってきた。
「うぐっ」
激痛に顔を顰めながらも反撃する。しかし、脚には力が入らず、よろけた。パンチはむなしく空を切った。
久恵の蹴りの猛攻。太ももに浴びる激痛の連打。
「あうっ、うぐっ、くっ」
尿意が気になり、時折内股になってしまい、攻撃をよけられなかった。
あっという間に太ももが赤く変色した。もともと透き通るように肌が白いため、赤く腫れたら日焼けのように
目立つ。女王として負けるわけにはいかない。美穂は久恵に組みついた。瞬間、右足の親指に激痛が走った。
踵で思い切り踏まれたのだ。見下ろすと、親指の爪が弾け飛んでいた。
「あぐううう!」美穂は叫び声を上げた。久恵は容赦なく足の指に踵を叩きつけてくる。
な、何すんのよ。手入れの行き届いた私の綺麗な爪を!
美穂は怒りに任せて払い腰を仕掛けた。久恵は重い腰で踏ん張って耐え、
再び踵で指を踏みつけてきた。
「うぐうっ!」
美穂は思わず久恵を離した。距離をとり、自分の足の指を見下ろす。親指も人差し指も薬指も青く変色し、
ウインナーみたいに膨れ上がっていた。親指の爪はなく、肉が見えている。痺れるような激痛が足首まで走っている。
右足は足首から先の感覚がなかった。
「大事な足をよくも!」
許せない。そう思って顔を上げると、久恵が眼前に迫っていた。鉈で切り払うような蹴りが太ももに炸裂し、
美穂は薙ぎ倒された。久恵がのしかかってくる。美穂は仰向けのまま、下から左脚で蹴り上げた。
当たらなかった。普段の切れがないのは、高まる尿意が気になるからだった。早期決着を意識すればするほど
動きが大きくなる。左脚はキャッチされ、脇に抱え込まれた。アキレス腱固めだった。足首が絞り上げられる。
「あううっ! い、痛い、離して!」
「誰が離すか!」
久恵は上体を反らし、腕に力を込めた。アキレス腱が切断されそうだった。美穂は美貌を脂汗まみれにしながら
うめいた。
な、何とかしなきゃ――。
指の痛い右脚で顔面を蹴りつけてやろうとした。久恵は足の裏を両掌で受け止め、両手で美穂の足の指を折り
曲げ始めた。骨折しているであろう足の指をさらに曲げられ、美穂は悲鳴をほとばしらせた。久恵は密かに
尖った爪を立てて、美穂の爪が剥がれた親指の肉に食い込ませてくる。
「ぎゃあああ!」
美穂は絶叫した。叫びながら無我夢中で暴れ、蹴り、もがき、転がるように脱出した。立ち上がり、肩で息をする。
「どうしたんだよ、女王様? 限界かい?」
久恵の勝ち誇った口調に美穂は桃色の下唇をかみ締める。
「私はチャンピオンなのよ!」
反撃しようと脚を踏み出した。瞬間、足の指に激痛が走った。踏ん張れなかった。指の骨折と爪の剥離。
これによって得意の打撃の力は半分以下になっていた。連打を浴びせかけるも、新人選手なみの切れだった。
28戦26勝の久恵には全く通じない。
久恵の戦法にまんまとはまってしまった。打撃系の選手にとって、脚を痛めつけられ、指を潰されるのは
致命的だった。
試合開始から15分が経ったときには、美穂は息を喘がせていた。膀胱が内側から圧迫され、決壊を起こし
そうだった。駄目よ、駄目。試合中にそんな大恥を晒したら、動画が世界中に配信され、二度と世間に出られなく
なってしまう。
美穂は、これは本当の私の実力じゃない、と現実を否定した。勝ったら不細工に整形させてもらう、なんていう
久恵の悪質な冗談に動揺し、不意をつかれ、尿意が気になり、流れを持っていかれただけだ。
久恵が大振りのパンチを繰り出してきた。これならカウンターで迎撃――そう思ったときだった。再び足の指に
激痛が走った。久恵は大きく踏み込む際、美穂の足の指の上に踏み込んだのだ。
瞬間の激痛でカウンターは放てず、ガードするので精一杯だった。久恵は膝頭を跳ね上げた。よけられなかった。
腹に炸裂し、美穂の上体が浮き上がる。
「うげえええっ」
美穂はみっともなく胃液を撒き散らした。リングに倒れ込む。久恵のフットスタンプが美穂の頬を踏み抜いた。
美穂は口内でペキッといういやな音を聞いた。激痛にうめきながら血反吐を吐き出すと、粘着質の液体の中に
前歯が一本、混じっていた。口元を押さえながら「ああ、私の歯が……」と悲痛な声を漏らす。
男を魅了してきた真っ白に輝く私の歯が折れた! 歯は一本でも失えない。骨折と違って折れたら直らない。
「な、何てことをするのよ!」
上体を起こしたとき、美穂は扇状に広がる長く豊かな黒髪を掴まれ、うつ伏せに押しつけられた。
「い、痛っ!」
久恵は美穂の背中に馬乗りになり、両手を顎の下に添え、美穂の体を反り上げさせた。苦しみに喘ぐ美穂。
「どうだ、このバカ女! 参ったか!? 降参か!?」
「ぐううっ、だ、誰がギブアップ、なんて、するもんですか……」
「じゃあ、みっともなく負かしてやるよ!」
久恵は右手で美穂の体を反らしたまま、左手で美穂の鼻の穴を持ち上げた。指の鼻フック状態でツンッと
高い鼻が豚鼻になる。鼻の穴が拡張される。
「い、いや〜、こんなの、いや〜」
美貌を売りに水着の写真集まで出した美穂には、耐えられない屈辱だった。歪んだ顔を観客に見られるなんて
死にも勝る。カメラのフラッシュが焚かれる。
信じられない屈辱だ。だが何より心配なのは、思い切り引き上げられたせいで鼻の穴が0・1ミリでも大きく
なったらどうしよう、ということだった。美貌を気にした隙をつかれ、久恵の腕が首に巻きついた。
「うぐぐぐぐ」
美穂はうめき、逃れようと必死になった。しかし駄目だった。チョークスリーパーは完璧に決まっていた。
ああ、女王の私が何もできないなんて……。
美穂は気絶し、敗北のゴングが鳴った。ミニスカートから伸びる太ももの付け根からは、黄色い液体が流れ出し、
リングに染み広がっていた。
意識を取り戻した美穂は、リングの中央で肘掛け椅子に皮ベルトで拘束されていた。それでも、被虐美を
醸し出しているのは美貌のなせる業だった。ピンクのチューブトップは二つの釣鐘型に盛り上がり、白い腹部に
可愛らしいへそがあり、ミニスカートから伸びる太ももは見事に引き締まっている。もっとも、あざが目立って
いたが。
「ふざけないで! 早く離しなさいよ!」
美穂は負けん気を発揮し、毅然と声を上げた。頬にあざがあっても美貌は全く損なわれていない。しかし、
頬は真っ赤に熱かった。失神したときに感じた感触。失禁? 今も水着に濡れた感触が残っている。
自分はもしかして――。
恐怖と羞恥に何も考えられなくなった。
久恵はリング下の椅子に座り、机の上のパソコンを起動させていた。パソコンの映像は会場の大スクリーンにも
映っている。そこには、美穂の顔写真があった。久恵は画像加工ソフトを立ち上げ、美穂に言う。
「ふふふ、私がパソコン上で加工したとおりの顔にあんたは整形されるのよ、そこの美容整形外科医たちにね。
うーん、どんな顔に加工してやろうかな〜」
美穂は恐怖を覚えた。久恵は本気だ! 怯えた声で言う。
「冗談でしょ、ねえ、冗談よね? 整形なんて許されるはずないわ」
「残念ね。主催者にも話は通してあるの。大金でオーケーしてくれたわ」
「そんな、そんな馬鹿な話、あるわけ――」
美穂は周囲を取り囲んだ3人の男を見やり、言葉を失った。緑色の手術着を着ており、注射器やメスを手にして
いる。観客が盛り上がった。
「いいぞー!」
「やっちゃえ、やっちゃえ!」
誰もがこんな非道な罰ゲームに興奮してる!? そうか、しょせん他人事だからか。テレビ番組でゲームに
負けた女優に罰ゲームをさせるかどうか、ネットで投票したら大多数が『させろ』に投票するだろう。自分に
何も被害が及ばないなら、他人が恥ずかしがったり悔しがったりする姿を見るのは面白いに決まっているのだから。
罰ゲームを見れないより、見れるほうが盛り上がるのだから。
美穂は一人でもいいから味方を捜そうと周囲を見回した。リングの下には付き人がいる。助けを求めようと口を
開いたとき、付き人の女の唇が嬉しそうに吊り上った。その瞬間、美穂は悟った。試合前の控え室。鈍亀女の
持ってきた水を飲んだ。あの中に利尿剤が入っていたのではないか。普段から虐げられていることを疎ましく思い、
裏切って久恵に取り入ったのでは? 二人で私を罠に嵌めるため、負かすため、周到に計画していたのでは?
愕然とした。飼い犬に手を噛まれたのか。
支援いるかな?
※すいません、どうも連続投稿規制にひっかかってうまく貼れない&そろそろ出かけなきゃいかんので
他の方、よろしければ前スレからコピペして投下お願いします。
久恵はキーボードを操作し、美穂の画像をいじりはじめた。大スクリーンに映る美穂の顔写真の髪の部分が
入れ替わる。モンタージュ写真を作るように、顔は美穂のものだが、髪型だけが入れ替わるのである。
腰まで流れるサラサラの黒髪が肩までのミドルヘアになったとき、美穂は動揺して声を張り上げた。
「私の髪を一ミリでも短くしたら絶対許さないから!!」
天然ハーブのシャンプーとトリートメントで毎日ケアし、10年間伸ばしてきた自慢の黒髪である。朝日を
浴びたとき、茶色がかって輝くまでの髪。腰元までストレートに流れ落ちる髪――切られてたまるか。
しかし久恵は無視し、髪型を入れ替えた。美穂の画像がオカッパヘアになる。
「そ、そんな髪にしたら承知しないわよ!」
久恵は振り返り、呆れたように言った。
「はあ? オカッパなんてそんな可愛い髪型にするわけないじゃん」
久恵はパソコンを操作し、次々と髪型を入れ替え、ある髪型で停止した。美穂はそれを見て声を失った。
大スクリーンに映る美穂の髪型は、俗にいう『波平ヘア』になっていた。短い黒髪が両サイドに残っているだけで、
前頭部から後頭部まで肌色に禿げ上がっている。
久恵が美穂に歩み寄ってきた。右手にはバリカンを持ち、口元は意地悪く吊りあがっている。
「これくらいは私にもできるわね〜」
「いやよ、いや。冗談じゃないわ」
美穂は拘束を外そうともがいた。しかし無駄だった。重い肘掛け椅子がガタガタと揺れただけだった。
「覚悟しなさい、新田美穂。何でも言うことを聞く約束だったでしょ。私はあんたを波平ヘアにしてやりたいのよ」
スイッチを入れ、バリカンを美穂に近付けた。顔が恐怖に歪む。冗談じゃない。美容師ですら恐れ多くて触るのを
ためらった髪よ。あんたなんかに触る権利はないんだから!
久恵の持ったバリカンが、美穂の額の真ん中から滑り込んだ。
「ひっ、ひいっ!」
このスレは『いい子がひどい目に遭うのはフィクションでもいや。たとえ性悪女でも現実で傷つけたりはしないけど、
妄想やフィクションの中でくらいスッキリしたい、良識ある方たちで楽しみましょう』というスレです。^^
作者です。
読者のみなさん。
本作品は『美人が少女たちに恐喝・リンチに遭うフェチその2』でレス番号19から連載されていたものです。
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1257548731/ 物語は作者のアイデアによって書かれたのではなく、シーンごとに読者の方々にリクエストやアンケートを募り、
そのつどそれを取り入れて進んできた作品です。
上記のスレを覗けば、どのようなリクエストやアンケートがあってどのように物語が方向転換してきたか、
分かって面白いかもしれません。
※私が3つコピペした後、その続きを3つコピペしてくださる親切な方はいませんか?
3つずつ交互にコピペすれば、2人が同時に同じ章をコピペして重複することもなく、効率的かなと思うのですが、
この時間だとさすがに誰もいませんかね。
とりあえず、このレスも1つとして数えられるので、続きを2つコピペしておきたいと思います。
冷徹なギザギザの刃が豊かな髪の中に突き刺さる。黒い髪の束がバサバサと目の前を流れ落ちていく。
「バカ、バカ、何考えてんの!? 信じらんない! 本当にやるなんて!」
色とりどりの宝石を踏みにじるような行為だった。朝にシャンプーしたばかりの髪は、薔薇のようなかぐわしい
香りを残しながら、リングに舞い落ちていった。
「うわあ、超楽しい! 他人の自慢の髪を奪ってやるのってこんなに楽しいんだ〜」
久恵は嬉々としながらバリカンが前後に往復させた。試合前の煽りVTRでさんざん『不細工扱い』された
鬱憤を晴らすように。
「いやあああああ!!!」
美穂は喉が裂けんばかりに絶叫した。
「お、お願い、お願いだから髪だけはやめて!!」
バリカンの動きが止まると、視線を上げ、大スクリーンを見やった。いつの間にかパソコン画面から、リングのアップに
切り替わっている。美穂の額から後頭部にかけて、畑でも耕したみたいに青白い道が何本もできていた。
「ひどい、ひどい、本当にバリカンなんかを使うなんて!」
久恵は再びバリカンを動かし始めた。鼻歌混じりだった。
「やめてよ、やめて。同じ女なら分かるでしょ、この命を切られるショックは!」
眼前を髪の束が雪崩れ落ちていく。私の髪が、私の髪が……あんたなんかと違って大事に大事に長年伸ばしてきた
のに……こんなのって……。自尊心ごと刈り取られていくようだった。
走馬灯のように今までの自分の完璧な姿が脳裏を流れる。微風の中で梳き流した艶やかな黒髪が腰元でサラサラと
舞うとき、男たちは吐息混じりに眺めた。誰もが振り返り、足を止め、高級ホテルの黒いレースのカーテンが風になびいて
いるのを見る目を向けてきた。女たちですら、嫉妬の声よりも先に感嘆の声を漏らすほどの髪質だった。美穂は満足感と
優越感に身震いしながら街を闊歩したものだった。重さを全く感じさせない髪。触れた者はみな驚く。指で髪を梳かした
ときのあまりの軽さに。空気のような軽さに。
なのにもう、その髪は刈られてしまった。リングに散らばっている。ごみのように。
私の髪はもう戻らない。ウィッグでは絶対に出せない艶と質なのに。ど真ん中を刈られたら、もう坊主にするしかないでは
ないか。そしてまた元の長さになるまで待つ? いやよ、いや! ショートヘアまで2年? ミドルヘアまで4年、5年?
ロングまでは7年? 元の長さまでは10年はかかる。ああ、10年? 私は30歳になっている。それまでの間、
もう自慢の髪に櫛を入れる贅沢もできないの?
久恵は楽しそうにハサミを取り出すと、美穂のサイドの髪を乱暴に切り始めた。シャキンッと硬質の音が響くたび、
透き通った絹糸のように黒髪が舞い落ちる。 今や、リングの中央には黒髪の絨毯ができていた。
「……もう、好きにしてよ」美穂は投げやりに言った。
恐る恐る顔を上げると、スクリーンには醜い頭の美穂の顔があった。尼さんのようなスキンヘッドならまだ特有の色気が
あるかもしれないが、両サイドに黒髪を残して中央の髪が刈られた波平カットでは、ただただ惨めなだけだった。
う、嘘でしょ。これが私なの?
完璧に整った自分の顔立ちなら、役のために髪を剃った長澤まさみなんかよりも美人で、色気があるはずだと思って
いた。そう思うことでわずかな慰めを見出していた。髪を剃った女優は国内外にいる。なのに、中途半端に横髪が残って
いるせいで信じられないほどみっともなかった。顔の形が完璧に整っていても、顔の中で一番存在感を示しているのは
波平頭だ。誰もの目がそこに吸い寄せられ、色気も何も感じない。
世界一の女優でも、波平頭にされたら滑稽なだけだろう。笑い者になるだけだ。誰も格好いいとは思わず、惨めな頭を
罵倒するだろう。
「ねえ、美穂。これで終わりとか思ってるわけじゃないわよね?」
美穂は涙を流すだけで答えない。自分の容貌の悲惨さに打ちのめされ、言葉を返す気力も失っていた。
「バリカンで刈っただけじゃ、青白いもんね〜。波平カットはちゃんと禿げでなきゃ」
久恵が取り出したものを見た美穂は、両目を剥いて悲鳴を上げた。彼女の手には、小瓶が握られている。
ラベルには『ドイツ製 超強力永久脱毛剤』の文字。下には、『塗布後5分で毛根を完全に死滅させ、男性の髭でも
一度塗るだけで完全に脱毛できます。一生生えてくることはありません』
美穂は悲鳴を上げながらもがいた。皮のベルトが手首と足首に食い込む。
逃げなきゃ、何とかして逃げなきゃ!
久恵は無駄な抵抗を試みる生贄を見る目で陰湿に微笑し、超強力永久脱毛剤の小瓶のキャップを開けた。
「おとなしくしてなさい。たっぷり塗ってあげるから」
「いやいやいや、絶対にいや!」
美穂がいやがればいやがるほど久恵は嬉しそうに、そして楽しそうに口元を緩めた。唇には満足の笑みが
浮かんでいる。
「お願い、お願いします。それだけは、それだけは許してください」女王のプライドも何もかなぐり捨てて懇願した。
しかし久恵は耳に手を当て、「え? 何、聞こえなーい」とすっとぼけている。
久恵は美穂の頭上で超強力永久脱毛剤の小瓶を傾けた。透明の液体が垂れ、バリカンで刈られて青白くなって
いる部分に落ちた。久恵は手のひらで超強力永久脱毛剤の液体をまんべんなくこすりつける。ライトを浴び、
液体を塗られた部分がキラキラと光る。
「や、やめ……やめて、お願い。お願いだから洗い流して! 早く、早く!!」
ぬ、抜けちゃう。私の髪が抜けちゃう。こんなのひどすぎる。私が何したっていうの? あんまりよ。ああ、
このままじゃ二度と元の髪に戻せなくなる。10年経っても20年経っても髪が生えてこないなんて――。
「ああ、お願い。お願い、もう許して!」
もがいているうちに時間は刻一刻と経過していく。大スクリーンに掲示されている電光時刻が徐々に減っていく。
美穂の頭の中に過去の栄光が流れる。女子格闘技チャンピオンとしてテレビに出演したときだった。共演の
グラビアアイドルたちがため息混じりに見つめてきた髪。雑草が薔薇を眺めるように見つめてきた髪。美の
プロたちが素直に負けを認めた髪。彼女たちの眼差しを見るたび、勝ち組の人生を実感した。それなのに……。
時間はすぎる。1分、2分、3分、4分。
観客が残酷にもカウントダウンを始める。
「10……9……8……7……6……5……4……」
切羽詰った美穂が叫ぶ。
「早く、早く洗い流してよ! 間に合わなくなっちゃう!!」
「……3……2……1……0!!!」
無情の『0』の声を――観客全員の興奮と期待に満ちた声を聞いた瞬間、美穂は「ああ……」と力なく
つぶやき、両肩を落とした。絶望感に押し潰された。
「さあ、効果のほどはいかがかしらね〜」
久恵は歌うように言いながら、美穂の頭の液体をタオルで拭き取った。真っ白い生地の全面に黒い毛が大量に
付着していた。毛根から抜けた5ミリの髪である。溶かした海苔をぬぐったようにタオルは黒く汚れている。
美穂は恐る恐る顔を上げ、大スクリーンを見上げた。心臓が止まった。両サイドに黒く短い髪を残しているだけで、
前頭部から後頭部まで肌色に禿げ上がっていた。毛根は完全に消えうせていた。
観客から爆笑が起こった。
「ぎゃはははは!」
「波平だ! 波平だよ!!」
「きゃははっ、いい気味! ざまあみろよ!」
美穂は茫然自失だった。『もう一生毛が生えない』という言葉の重みが鉛の塊となり、両肩にのしかかってきた。
押し潰されそうだった。現実とは思えない。誰もが羨む髪は戻ってこない。もう戻ってこないんだ……。
観客の笑い声だけがどこか遠く、耳にこだまし続けていた。
大スクリーンには再びパソコンの画面が映っていた。画像加工ソフトの中に美穂の顔写真がある。頭は波平ヘア
のままだった。久恵は楽しそうにマウスを掴んでいる。
「ふふん、ふん♪ さあ、お待ちかねの整形タイムよ〜」
観客は雄叫びを上げた。会場は異常な興奮に包まれている。
「基本は……やっぱり豚鼻に整形よね〜♪」
うつろな瞳を見せていた美穂は、釣り糸で持ち上げられるように顔を上げた。大スクリーンに自分の顔が映って
おり、ポインターが手探りするように動いている。
久恵はポインターを美穂の鼻に重ねると、マウスを上に動かした。画像の中の美穂の鼻が上向きに伸び上がる。
続けて鼻の穴を中心に左右に広げる。今や、美穂の鼻は球根のように低く大きくなっていた。鼻の穴はでかい。
「まだ甘いかな〜♪」
久恵は心底楽しげにマウスを動かし、項目から『広げる』を選んでクリックし、美穂の鼻の上にポインターを
重ねた。カチカチカチ。左クリックの音が響くたび、美穂の鼻は全体的に肥大化した。真正面を向く鼻孔がます
ます広がっていく。
久恵は私の命より大事な髪を永久脱毛しただけじゃ飽き足らないというのか。
「も、もう充分でしょ!!」と美穂が悲痛の声を上げる。
画面の中でも自分の美貌が崩されることに耐えられなかった。不快だった。
「はあ? 何言ってんの? 髪なんてなくなってもウィッグでごまかせるじゃん。帽子かぶるだけで美人に戻れる
んだから何の罰ゲームにもならないわ」
罰ゲーム――。
そんな軽い気持ちで私の大事な美髪は奪われたのか。信じられない。それに、何? ウィッグをかぶればすむ?
そんなわけないじゃない。もう大好きな海水浴にも行けないし、温泉にも行けない。風になびく美髪を心地よく
感じることもできない。風が吹くたび、ウィッグが飛んでいかないか戦々恐々としてすごさなきゃいけない。
作り物の髪で隠せば何も問題がないなんて、信じられない言い草だ。
心の中に巨大な穴が開き、そこを冷えた風が吹き抜けていくような気分だった。二度と生えない私の髪。誰もが
嫉妬した私の髪が……。
雨に濡れた野良犬より惨めだった。もう優越感を感じることもできない。不細工な女を見て見下し、けなしても、
反撃されるだろう。『うるさいのよ、この禿げ女!』と。私は勝てない。もう口喧嘩で勝てない。禿げ頭の女より、
不細工な女のほうが精神的には数段上だ。今までは、私が厳しい言葉を叩きつけると、底辺の女たちは反論しようと
必死に私の体の粗を探し、何も見つからないと分かるや、悔しげに唇を噛み、すごすごと去っていったのに。
この頭じゃ、すごすご引き下がるのは私のほうだ。
そう思ったら涙があふれ出てきた。
「ううっ、ううう、うううっ……」
美穂は泣きながら必死で禿げ頭を隠そうとした。皮ベルトで拘束された両手は動かなかった。頭さえ、頭さえ
隠せたら美貌が戻ってくるのに。整った完璧な顔の造作はまだあるんだから。
久恵はますます愉快そうにマウスを操っている。
画像の中の美穂の鼻孔は一円玉サイズにまで広がっている。二つの穴が真正面を向いているため、醜い醜い
豚鼻になっていた。天然の豚鼻女でもこんなに不細工ではない。
「うわあ、驚き! 豚鼻にするだけで美人が台無しになるね〜」
波平頭の豚鼻女――画像の中の美穂は久恵が美人女優に見えるほどの醜女だった。100人にアンケートをとれば、
全員が久恵を選ぶだろう。そのことが美穂には死にたいくらいのショックだった。今まで見下してきた雑草に
見下し返されるなんて……。
美穂は変わり果てていく画像の中の自分を見つめ続けていた。
「次は目を小さくしちゃおと!」
久恵は項目から『すぼめる』を選択し、美穂の目にポインターを合わせた。カチカチカチ。左クリックを一回
するたび、二重のアーモンド形の目と水晶のような瞳が縮小される。それにともなって両目の間隔が開き、
完璧な造作だった顔が平べったくなっていく。
「今度は唇よね。男がキスしたくもなくなるような唇にしてやらなきゃ♪」
今度は再び『広げる』をクリックし、ポインターが桜色の唇に重なる。左クリックの連続。そのたび、美穂の
官能的な唇が膨れ上がり、不細工なタラコ唇になる。
美穂は変貌していく画像の中の自分を見つめ、恐怖に身震いした。パソコンの加工ソフトの中だから、
どんな人間離れしたブス顔でも簡単に作れてしまう。クリック一つで。マウスの数センチの移動で。久恵は
画像の中で整形しているから、自分がどんなに残酷で非道なことをしているか、実感がないのではないか。
だからフォトショップで写真をちょっと加工して遊ぶような気持ちで整形計画を立てているのでは?
久恵は次に縦1.5センチ、横5センチの長方形を二つ作り、美穂の眉の上に重ね、中を黒く塗った。
海苔のような眉の完成である。
「面白いね、これ〜。きゃはは」
久恵は高笑いしながら、『広げる』を選択して両頬を膨らませた。ぶりっ子女優が口内に空気を入れて
怒った顔を作っているような膨れっ面。しかし、常にその状態だと不細工なだけである。
美穂は非現実的な世界に迷い込んだ気分で大スクリーンを見上げていた。変わり果てた自分の顔写真は、
もはや他人の顔だった。しかし、隣に立つ美容整形外科医たちの目の光を――神が与えた最高の美貌に
メスを入れられる興奮に輝く狂った目の光を見たとたん、全てが現実として実感させられた。
私は本当にあの顔に整形させられてしまうんだ……。
「ふふん、まっ、こんなものかしらね〜♪」
久恵は満足げにつぶやき、決定をクリックした。
椅子からの拘束が解かれたとたん、美穂は逃げようとした。しかし、周囲に陣取っていた用心棒
みたいな男3人に馬鹿力で押さえ込まれ、手術台に引きずられていった。大の字にされ、両手足は皮製の
ベルトでしっかり拘束された。唯一の逃げるチャンスは生かせなかった。
美容整形外科医の一人が注射器を取り出し、歩み寄ってきた。
「いやっ! 絶対に駄目。許さないから。絶対に許さないから。あんな顔にしたら殺してやる!」
美穂は叫びながら、拘束ベルトよ切れろとばかりにもがいた。びくともしない。筋骨隆々のプロレスラーでも
引き千切れないかもしれない。
美容整形外科医二人に顔を押さえつけられた。額にベルトが装着され、数ミリ震わせることも不可能になった。
鼻に注射器が刺さり、麻酔液が送り込まれていく。
美穂は「ああ……」と絶望の声を漏らした。
「大丈夫だからね〜。静脈麻酔は併用しないから意識はあるよ」
何が大丈夫なのか分からない。自分の顔が不細工に整形される過程を見せつけ、絶望する様を楽しむつもり
なのか。だったら絶対に泣くものか。美穂は精一杯の憎悪を込め、美容整形外科医たちを睨みつけた。
「ベルトで固定したのは、動かれると危ないからなんだよ。ただ、局所麻酔しかしてないから、体が痛みを
想像して血圧があがったり、脈が上がったりして苦しくなると思うけど、まあ、我慢してね」
軽々しく言い放つと、別の一人がマイクを握り、高々と宣言した。
「ただいまより、鼻尖拳上手術と鼻翼拡大手術を行います!」
顔の印象を左右する鼻。知り合いの画家には「君の正面像は理想的な黄金分割だよ。横から見ても
非の打ち所がない審美三角のラインをしているね」と褒められた鼻だった。それを醜く整形される?
想像したとたん、強がりも消えうせそうだった。しかし、美穂は表情に出さなかった。逃れることが
できないなら、相手を喜ばせることだけはしてやるもんか。
美穂の目には大スクリーンが見えていた。意図的だろう。足側の高い位置に巨大な画面があるため、
仰向けになっていても映像が見える。見えてしまう。
美穂は思わず目をギュッと閉じた。
鼻の穴に専用のメスが差し込まれた。中を切開されたのが分かる。軟骨がメスでカットされた。
ツンッと高く整った鼻の骨が専用にノミで削られていく音が耳に響いてきた。
体の内部を切り刻まれる恐怖に心臓が高鳴った。息苦しさを覚えた。呼吸が乱れる。しかし、痛みは
全く感じられなかった。メスの恐怖が薄れると、自慢の鼻を醜く整形されるショックが胸にこみ上げてきた。
同級生たちがへし折ってやりたいと妄想しては何も方法がなく、歯噛みしてきたであろう高い鼻。そんな
ねたみを感じるたび、容姿端麗で頭脳明晰な自分への自信が高まり、ますます鼻を持ち上げるように顎を上げ、
無能でダサい他人を見下してきた。そんな私の鼻が今の自分の地位同様に低く貶められようとしている。
尊厳と自尊心の象徴だった鼻を削られ、美穂は再び涙を流した。注射器が刺さり、鼻全体を球根さながらに
大きくする手術が施されている。
目を開けると、大スクリーンに映る自分の顔のアップが目に飛び込んできた。鼻を持ち上げつつ左右に広げる
ように整形されているため、鼻孔は真正面を向いている。
観客たちの頭の中が透けて見えるようだった。
自信満々で堂々としているミス東大の鼻っ柱が折れた――。
きっと溜飲を下げているだろう。そう思うと悔しくて、悔しくて、悔しくてたまらなかった。
人生で他人に見下されたことなんて一度もないのに。誰もが私を見上げていたのに。
間を置き、観客が爆笑する声、嘲笑する声が耳を打った。
「豚よ、豚。牝豚だわ!」
「いや、掃除機女だ!」
「ギャハハ、それいいな。ぴったり! 紙くずや埃を全部吸い取ってくれそうじゃね?」
確かにそのとおりだった。鼻の穴は掃除機の吸引力をイメージさせるほど巨大になっていた。
掃除機の筒を二つ並べたみたいに見える。
顔を不細工にされたら、もう一生マスクをして生きるしかない。ウィッグで隠せる禿げ頭と違い、
顔そのものを隠して生きなきゃいけないなんて……。
波平頭の豚鼻女。もしこの姿で人前に出たら、全員の視線が頭と鼻を交互に行き来し、そんな連中は
内心の爆笑をこらえるのに必死だろう。いや、面と向かって痛罵されるかも。そんな光景を想像したら、
もう生きているのが苦痛に思えてきた。
「どう、美穂。少しは私たち不細工の気持ちが分かった?」
久恵が言った。余裕の笑みを浮かべながら自分を『不細工』だと卑下できるは、目の前に自分以下の
醜い女がいるからだろう。事実、もし久恵の顔と今の自分の顔を取り替えられるなら、迷わず取り替える
だろう。唇と輪郭と目は残しておきたいが。
美穂は瞳に殺意を込め、久恵を睨み返した。
美容整形外科医たちは美穂を豚鼻に整形し終えると、次の手術に移ろうとした。そのときだった。
観客の男が大声で叫んだ。
「どうせなら歯も全部抜いちゃえよ!!」
一人の観客の提案は瞬く間に広がり、他の観客も「そうだ、そうだ」「賛成!」と声を上げる。
「全抜歯希望!!」
観客が声を揃え、手拍子をはじめた。
「抜歯! 抜歯! 抜歯! 抜歯! 抜歯! 抜歯!」
美穂は唖然としながら、その地鳴りのように異様な叫びを聞いていた。久恵も気圧されたようだったが、
名案を思いついたらしい、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべた。自分にないものを全て持っている女に――
美貌、スタイル、学歴、頭脳、若さ、金、将来を持っている女に嫉妬し、その女を徹底的に貶められることに
無上の喜びを見出している笑みだった。
「せっかくなんでみなさんの期待に応えちゃいましょうか。美穂の歯を抜いてみたい希望者を募って、
抽選して一本ずつ抜歯させてあげるってのはどう?」
観客の半数が総立ちになり、興奮の叫びを上げた。
美穂は恐怖に見開いた目で会場を見回していた。歯を抜く? 歯を?
歯は抜けたらもう二度と生えてこないのよ。何を考えてるの?
美穂は顎と歯ぐきに麻酔注射をされていた。口はだらしなく意思とは無関係に開いている。
久恵は歯の数を数え、31本――1本は久恵に踏み折られた――と知るや、抽選券を作製し始めた。
美穂は無駄な抵抗と知りながら、「うー、うー、うー」と喉からうめき声を出した。
15分かけて抽選が行われた。希望者は20000人の観客のうち3000人。信じられない。
3000人? これだけの人間が自分の美を壊してやりたいと思っているのか、イジメのように場の
雰囲気に流されているのか。前者だったらショックだと思った。なぜなら、希望者の半数は男だったから。
男だったら誰でも、神から授けられた私の美に感動し、それを守りたいと思うものだと思っていたから。
選ばれた男は13人。女は18人。
美容整形外科医が歯の抜き方を懇切丁寧に説明し始めた。選ばれた男女は目を興奮に輝かせ、
鼻息も荒く、素直に「はい。はい。はい」とうなずいている。
一人目は茶髪の女子高生だった。必死で化粧して底辺の男に何とか「可愛いね」と言われる程度の容姿だ。
目は陰湿に澱んでいる。男に冷たくされるたび、毎夜毎夜、ネットの掲示板に女優の悪口を書き込んで
鬱憤を晴らしているタイプの少女。抜歯鉗子(歯を抜くための専用ペンチ)を握り、開いたり、閉じたり
してみせている。怯えさせようとしての仕草だろう。分かっている。意図は分かっている。だから
決して怯えを見せたくなかった。
しかし、女子高生のニッと笑った顔を見ると、自分の瞳に恐怖の影が躍っていたことが分かった。
何よ、煙草のヤニで黄ばんだ汚い歯をしているくせに。歯並びも悪いくせに。こんな状況じゃなかったら、
私を見つめては自分の惨めな容姿に打ちのめされている程度の人種のくせに。
美穂が歯列矯正をしたのは小学校のころだった。そのころから自分の美を自覚していた。男子たちが自分を
見る目を意識し、見られる側の人間として行動するようになった。中学に入学したときにはホワイトニングをし、
透き通るような真っ白の歯を得た。完璧な歯並びと白さ。高校のころには、歯磨き粉のCMに起用したいと学校を
通じて依頼があったほどだ。
CMに出演してからは、男が何でも買ってくれるようになった。底辺の女のように「奢って」などと
無粋な台詞を口にしなくてもよかった。商品を一瞥しただけで率先して買ってくれた。お礼は笑顔で充分。
股を開くしか代価を支払う方法がない女と違い、笑顔で歯を見せると、男たちは100万ドルの価値を
実感したように興奮し、小学生のようにはしゃいだ。
自慢の完璧な歯だった。試合では顔を傷つけさせたことは一度もない。久恵に歯を一本折られたときは、
リングに穴が開いて奈落まで落ちていくようなショックを覚えたが、高価な差し歯で泣く泣く我慢しよう、と
漠然と考えていた。それなのに歯を全部抜く? 冗談じゃない。絶対にいやだ。
「さあー、ど、れ、に、し、よ、う、か、な、て、ん、の、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り」
女子高生は楽しげに歌い、歯を1本1本吟味していった。
「前歯に決まり!」
美穂は瞳を下に向けた。抜歯鉗子が口内に挿入されたのが見えた。
「うー、うー、うーーー!!」
上顎が下方に引っ張られる感覚があった。
やめて、やめて、歯はやめてよ! 生えないのよ、抜いたらもう生えないんだから!
口の中にクポッという何とも奇妙な音がこもった。耳からというより、体の中から聞こえた。
女子高生が高々と腕を掲げる。 極上の真珠のように輝く白い歯が抜歯鉗子に挟まれていた。
歯の後ろ側は『v』のように二股になっていた。根元から抜けている。
女子高生は農家の体験学習で見事に大根を引っこ抜けて喜んでいるような顔ではしゃいでいた。
彼女にとっては単なる罰ゲームを実行しただけだろう。場の空気に同調し、深く考えず、ただ
面白そうだからやってみた、程度の気持ちで歯を抜いたのだろう。でも、私の歯なのよ? 大事に
大事に磨いてきた私の歯なのよ? 一時的な楽しみのせいで私はもう一生歯抜け。20歳の大学生が残りの
人生を差し歯ですごさなきゃならない気持ちが理解できる? できないでしょ。できるはずがない。
理解できるなら最初からこんな残酷なことするはずないもの。
人生は一度きりしかない。だからこそ、最高の自分で最高の毎日を生きたいと思うものなのに。なのに
人為的な力によって人生を貶められる――神様の贈り物である美貌を人為的に壊される――こんなのって
あんまりじゃない。
「ざまあみろ!」
女子高生の吐き捨てた言葉は胸に食い込んだ。
私がそんなに憎いの?
次の瞬間、女子高生は真珠の歯を地面に落とし、ヒールで踏みつけた。歯が砕ける音が響いた。なぜか歯を
抜かれた以上にショックを受け、打ちのめされた。
女子高生は長年の夢が現実なったというような顔でフフンッと鼻で笑った。
大スクリーンには、前歯が2本もない歯抜けになった滑稽な顔が映っていた。
二人目は男のようだった。低い声が言う。
「ホント、ざまあみろだよな。いい気味すぎて笑っちまう。実は、さっきお前の全抜歯提案したの、俺なんだよね〜。
名案を出したから特別に抽選抜きだってさ。ラッキー。役得、役得」
男の顔に見覚えがある気がした。見ると、青色のフェイスマスクを鼻にしている。日韓Wカップで
日本のサッカー選手の誰かが装着していたようなマスクだった。鼻骨を骨折しているのだろう。
骨折――?
あっと思った。思い出した。10日ほど前、バーで声をかけてきた男だ。ロレックスの時計を貰った。
確か、殴りかかってくる男の顔面をカウンターに叩きつけ、鼻をへし折ってやった。
あのときの男か! 躊躇なく女に殴りかかる最低男!
「ククク。どうだよ? 今も高学歴、高収入、高身長のハンサムを望んでんのかよ? どうかなあ。
今のお前じゃ、デブの中年オヤジでも逃げ出すんじゃね? 金貰っても抱きたくねえよな。まあ、
全頭マスクでもかぶって肉便器に徹しりゃあ、ヤッてくれるかもしんねけどな」
美穂は屈辱に打ち震えた。男の言い分がなまじ当たっているだけになおさら悔しかった。
「あ〜あ、こんなになっちまって」
男は美穂の額から頭頂部を手のひらで撫で上げた。ツルツル。美穂は愕然とし、パニックに襲われた。
大スクリーンを通して自分の頭を見ていたときとは違う。頭に伝わってきた滑るような感触。ゆで卵でも
撫でたような感触。ツルツル。それは本来は髪のあるべき部分が完全に禿げ上がっている証拠だった。
実感してしまった。毛根すら存在しない波平頭にされたことを。自分の前頭部から後頭部は完全な無毛で
あることを。
美穂は眉を八の字にしながらも、狂ってしまいたい衝動と必死で戦った。髪、髪、髪、髪。私の髪。
失ったものの大きさを意識するたび、胸が痛くなり、交感神経が緊張し、全身がカッカした。
ドライアイスの塊が血中を流れているような感覚だった。自分の半身が殺されたらきっとこんな
動揺とパニックとショックを味わうのだろう。
「何、何? もしかして悲しんでんの? まだまだこれからだよ〜、美穂ちゃん」
異性に『ちゃん付け』で呼ばれたのは初めてだった。屈辱を感じた。もちろん、初対面で馴れ馴れしく
『ちゃん付け』してくる男は大勢いた。しかし、『ちゃん付け』は軽く見られている証拠である。
冷淡な言葉で不快を表したら、誰もが動揺し、二度と『ちゃん付け』をしなくなった。
私はいつから男に低く扱われるようになってしまったんだろう……。
認めたくはないが分かっていた。美を奪われたときからだ。顎が動かせるなら歯を噛み締めたい。男は
その歯を奪おうとしている。
「うー、うー、うううー!」
抗議の声は喉を通り、2本の前歯が欠けた口を通って出てきた。男はゲラゲラ笑いながら抜歯鉗子を
掲げて見せびらかし、明らかに美穂の瞳が恐怖に揺れる様を楽しんでいた。
「鼻の骨折と歯一本じゃ割に合わないけど、まあ、慰謝料代わりに貰っといてやるよ」
ふざけないでよ! 日が経てば治る骨折と、一生生えてこない歯一本が同価値? そんなわけないじゃない。
あんたの50点の顔の鼻と私の完璧な顔の鼻でも、ダイヤの指輪と模造品くらいの違いがあるんだから!
絶対に許さない。もし私の歯を抜いたら、今度街中で会ったとき、肘で全部の歯を叩き割ってやる!
「怖い顔すんなって。ブスがますますブスになんぞ」
美穂は愕然とした。ブス? 生まれてから一度も言われたことがない言葉だ。嫉妬や恨みの感情を持っている
馬鹿たちから浴びたのを除いては。
心が傷つけられたのが分かった。以前なら底辺の人間の戯言だと聞き流し、逆に自分の完璧な容姿を実感して
笑っていた。でも今は違う。禿げ頭で豚鼻で歯抜け。大スクリーンに映る顔からは、女としての美しさを微塵も
感じられない。だからこたえる。ブスという残酷な単語が胸の奥に突き刺さる。
男はついに美穂の口に抜歯鉗子を突っ込んだ。下の前歯を挟んでいるのが分かる。
「あええー」
やめてーと声を上げたつもりだった。男は歯を抜きやすいように美穂の顎を鷲掴みにした。
そして引いた。力いっぱい。歯が抜けた。根元から。
抽選に当たった観客たちが列を作り、一人一本ずつ歯を抜いていった。一人が抜くたび、美容整形外科医が
手馴れた動作で止血し、口内に溜まった血を布に染み取らせた。
30分後、美穂の桜色の唇は梅干のようにすぼまり、老婆のような容貌になっていた。顔だけ見たら、
禿げ頭のおじいさんにしか見えない。完璧なラインを形成している顎や頬も、二重でアーモンド型の大きな
目も、水晶のような瞳も、波平頭と豚鼻と梅干唇のインパクトの前では役には立たない。
歯ぐきの麻酔が解けると、美穂はつぶやいた。
「ひょ、ひょんにゃの……ひゃんわりよ……」
こんなのあんまりよ、とつぶやいた声は信じられない音だった。美穂は突然言葉を一言も喋れない人間に
なってしまったような恐怖を覚えた。声は出ているのに意味をなさない。自分は猿か何かなの? 未知の
言語が飛び交う世界にただ一人迷い込んだみたいだった。
私の声が……私の美声が……。
得意の英語やフランス語は? もう喋れないの? 授業中、私が口を開き、英文を一つ発しただけでも
クラス中の視線が口元に集まり、天使の祝福のように聞こえる声に誰もが聞き入った。私が頼みごとをすると、
男どもは誰もが海の精セイレーンに引き寄せられる船乗りみたいに従った。
自慢の声だった。将来は一流商社で持ち前の語学力を生かし、海外で活躍しようという明確な目標を持っていた。
この美貌と美声と頭脳があれば、上流階級の人間との食事もさぞ絵になるだろう、と。
なのにまともに喋れなくなってしまった。自分の頭脳まで貶められた気がした。東大に現役で合格した私が
日本語も満足に喋れないなんて。言葉を忘れた人間みたいだ。
訴えたい怒りや絶望の思いは胸に渦巻いているのに、赤ん坊みたいに舌足らずな情けない自分の声を聞きたく
なくて何も言えなかった。猿轡などで強制的に声を封じられたのではなく、喋りたいのに自分の意思で喋ることが
できない――これは想像以上にこたえた。
美穂が拘束されている手術台の横には、まだ青いフェイスマスクの男が立っていた。
「よお、よお、何だよ、何でだんまりなんだ? つまんねえじゃん」
私はあんたを楽しませるために存在しているんじゃない!
「まあ、いいや」男は鼻で笑うと、煙草に火をつけ、一服した。「なあ、お前も吸う?」
無視を決め込んだ。一言も話す価値のない男だ。相手にするな。
男は「吸うって言っても、鼻からだけどな」と言った。天井を向いている大きな鼻孔に煙草が挿し入れられた。
男が煙草から指を離した次の瞬間、直径1メートルのマンホールの穴に直径30センチの丸太が落ちるように
煙草が滑り落ちた。赤く燃える煙草の先端が視界から完全に消えた。
「ふひゃあああああああっ!!!」
大きな鼻孔を滑り落ちた煙草は、完全に鼻の奥まで落ち、粘膜を内側から焼いた。美穂は激痛に咽び、
「ふひい、ふひい、ふひい」と鼻から息を噴き出した。その惨めで滑稽な姿に会場中が大爆笑した。いくら
鼻息を荒くしても、空気は巨大な鼻孔から噴き上がるだけで、煙草は飛び出してこない。熱い、熱い、痛い!
「わりい、わりい。鼻の穴がでかすぎて落ちちまったな」
再び会場が大笑いした。美穂は気にするどころではない。
「ひょって、ひょって! ひゃついの!!」
ふひい、ふひい、ふひい。
パニックだった。煙草が鼻の穴から一生取り出せない気がして怖かった。
懸命に鼻息を上げ、煙草を出そうとした。打ち上げロケットみたいに飛び出させようと必死になった。
代わりに鼻水がプチュッと天高く飛び上がり、ぺチャッと頬の上に落ちた。高性能の集音マイクが
その音を拾って会場に響かせると、物凄い爆笑が沸き起こった。
額には大粒の汗が噴き出ていた。どれくらいの時間が経っただろう。1分か、2分か。煙草の火は
鼻水で消火されたらしい。鼻孔の奥には、数センチの煙草が残ったままになっている。
「今度はちゃんと吸わせてやるからな」
男は次々に煙草に火をつけ、片方の鼻の穴に4本ずつ煙草を押し込んだ。今度は滑り落ちなかった。
美穂は天井を向いた豚鼻に8本の煙突を立て、鼻から煙を吸い込んでは、口から吐き出していた。
会場は喝采を送らんばかりの爆笑に包まれた。
「機関車だ!」
「最高ね!」
「そんなに排気ガスを出すなよ〜」
「馬力ありそうだよな。八気筒エンジンじゃん」
「キャハハハハ!」
信じられない屈辱と恥辱だった。底辺のお笑い芸人でもこんな惨めなまねはしないだろう。数時間前の自分
からは――誰もがうらやむ美髪と美貌を持っていた自分からは想像もできない。数時間前の自分なら、
バラエティに出演しても役どころは決まっていた。最上段の綺麗な椅子に座り、ときおりカメラに向かって
微笑を浮かべてやる。視聴率はそれだけで取れる、そう確信していた。
なのに今の自分は……。
煙草が短くなり、鼻の周囲が焼けそうになるまで美穂は煙草責めから解放されなかった。
フェイスマスクの男は見世物小屋で愉快な芸を楽しんだように満足した顔で観客席に戻っていった。
美穂は涙に霞む瞳で久恵のほうを見た。もう許して、と眼差しで訴える。
久恵は高校生らしき男女数人と話していた。身振り手振りで何かを言い合っている。久恵は何かを
言われ、うなずくと、手術台に歩み寄ってきた。
「整形の続きをしようと思ったけどさあ、あんたに恨みがあるって子たちが来てるのよね〜。生中継見て
渋谷から駆けつけてきたんだって。ガードマンと押し問答してまで入ってきたの」
高校生グループに見覚えはなかった。金髪の少年少女が私に恨み? 一体何なの?
「覚えてねえの?」男子高校生が言った。「1年くらい前さ、俺が声かけたらさ、肘鉄食らわせたよな。
ちょっと食い下がっただけなのにさ。仲間には金的蹴り。あんたをナンパしてのされるカッコわりいトコ、
待ち合わせ中だった彼女に見られて振られるしさ、本当、お前、最低の女だよ」
記憶にない。叩きのめした礼儀知らずの馬鹿男たちの顔なんていちいち覚えていない。
次に女子高生が言った。
「彼氏があんたの顔をテレビで見るたび、褒めるんだよね。超美人だよな、とかさ。この前なんて、
お前もあの10分の1でも美人ならいいのにな、なんてつぶやいたのよ」
久恵が楽しげに言う。「みんなあんたに恨み晴らしたいって言ってるんだよね。叶えさせてあげてね」
金髪の女子高生は顔側に歩み寄ってくると、美穂の大きな鼻の穴を覗き込んだ。
「鼻クソがすげえじゃん! 綺麗にしてやるよ。これ、用意してきたんだよね〜」
眼前に突き出してみせたのは、毛が固そうな歯ブラシだった。
女子高生は美穂の鼻孔に歯ブラシを突っ込んだ。硬質のブラシが粘膜を削る。激痛が渦巻いた。目から
強制的に涙が流れ出た。鼻水があふれ、グッチャ、グッチャ、ニッチャ、ニッチャという粘着質の音が大きくなった。
鼻水が掻き混ぜられているのが分かる。彼女が歯ブラシを乱暴に抜き挿しするたび、ブラシに絡まるドロッと
黄みがかった半固形物が見えた。以前の鼻なら真下にブラシが抜けただろうが、今は鼻孔が真正面を向いている。
ブラシの様子がよく見える。見えてしまう。
「ひひゃい、ひひゃいひゃらひゃめへ!!」
「何言ってるか分からないでちゅよ〜、日本語で喋ってくだちゃいね〜」
赤子をあやす口調だった。こんな頭の悪そうな年下の女子高生にまで馬鹿にされるなんて。
女子高生は豚鼻の穴から歯ブラシを抜き出した。痰のように黄色く白っぽい粘液がブラシに絡みついており、
腐った生卵のようにびろーんと尾を引いている。
「うわっ、きたね!」
会場の大スクリーンに歯ブラシのアップが映し出される。嫌悪感たっぷりの「うわあ」という観客の声が耳に
突き刺さった。美穂は巨大な画面から目をそらした。信じられない屈辱だった。昨日までは、自分の完璧な
容貌とそのイメージを保つため、下品に見える行為は決して人前でしなかった。ゲップ一つでもしようものなら、
美貌の女神も普通の人間に堕ちる。鼻をすすり上げる行為だけでも、自分の作り上げたイメージが壊れ、
自分を崇拝する人間を失望させると思っていた。
なのにこんな……。
「一度洗わなきゃ使えねえ!」
女子高生は、梅干のごとくすぼまる美穂の桜色の唇に歯ブラシを近づけた。
意図を悟り、美穂は、いやっ、と口を閉じた。絶対に口内に入れさせる気はなかった。歯ブラシが梅干唇の
真ん中に突き刺さる。歯を食いしばって侵入を阻止したともりだったのに、歯ぐきと歯ぐきの合間から汚い
鼻水だらけの歯ブラシが押し込まれた。歯が一本もないせいで顎を閉じても侵入を防ぐことができなかった。
歯の感触を全く感じることができない舌が口内で暴れた。塩辛いような、しょっぱいような味が舌に広がり、
吐き気を催す腐臭が口内から鼻孔をついた。唾液と鼻水が混じり、淫靡で粘着質の音が響いた。
やだ、気持ち悪い……。
女子高生は、歯が抜けて凹凹凹凹凹凹状態の歯ぐきににじりつけるように歯ブラシを動かした。
振られた不細工女が惨めに男の膝にすがりつき、鼻水と涙で顔をグチャグチャにしながら懇願する――そんな
光景を見るたび、嫌悪を催したものだった。泣き顔が必要なとき、涙は綺麗に流さなくてはいけない。そう
思ってきた。だからこんなふうに鼻水を噛み締めるはめになるとは、全く想像したこともなかった、今日までは。
女子高生は歯ブラシを抜き取ると、口をクチャクチャと鳴らし、唾を溜め、美穂の顔の上で唇から垂らした。
汚らしい液体が重力に従って伸びてくる。
美穂は顔を振って避けようとした。しかし、額を固定するベルトのせいで無駄な足掻きに終わった。
天井を向いた大きな鼻孔は、二つの筒型のゴミ箱みたいだった。女子高生の口から垂れた汚物が鼻の穴に落ち、
悪臭を伴って鼻の奥に纏わりついてきた。
やだ、サイテー。汚い。
美穂は鼻から飲み込みたくなかったから、鼻息を噴き上げた。煙草を飛ばそうとしたときと同じく、唾と鼻水の
混合液が飛び上がり、宙で停止し、顔の上にペチャッと落ちた。女子高生は腹を抱えて笑っている。
「わ、わたしさあ」と笑いながら言う。「あんたみたいにさ、髪の毛先から爪先まで完璧に手入れが行き届いてますよ、
みたいな顔して生きてる女、大嫌いなんだよね」
自分の人生が冴えないのは、自分自身の努力不足でしょ。努力して最高の人生を掴んでいる人間に嫉妬するなんて
お門違いなのよ!
「毎日手入れしてんでしょ、その眉。綺麗に整ってるもんね」
当たり前でしょ。眉頭と眉山と眉尻が最も美しく優雅に見えるように鏡で研究し、アイブローシザーズや専用の
ブラシで完璧に整え、一本でも余分な毛は見逃さずアイブローニッパーズで丁寧に抜いているんだから。
あんたみたいに油性マジックで充分な顔じゃないのよ、私の顔は。
女子高生は「何かムカつく顔」と言い、バッグからI字剃刀とシェービングクリームを取り出した。
彼女の狙いを知り、美穂は両目を剥いた。まさか剃る気? 冗談でしょ。眉はメイクの成否を左右する
重要なポイントなのよ。一ミリの違いでも美が変わってくるんだから。第一印象は眉で決まる、それが美穂の
持論だった。なのに眉を剃られたら……。
宇宙人みたいな顔になってしまう。
「カワイクしてやるよ!」
女子高生は美穂の右眉にシェービングクリームを軽く噴きつけた。I字剃刀が眉に触れた。
「ふひゅうう……!!」
斜線を描くようにI字剃刀が動いた。銀色の刃が盛り上がったクリームをすくい、サラブレッドのたてがみを
思わせるほど優雅に流れる黒い毛を絡め取りながら眉が剃られた。弓なりに整った眉は半分になっていた。
ひどい。平然と剃るなんて。
女子高生は再びI字剃刀を滑らせ、残り半分も剃り落としてしまった。タオルでクリームを拭うと、色白の肌が
あらわになった。右眉は完全に剃られていた。
次に女子高生が取り出したのは、眉用のピンセットだった。
「左眉は丁寧に抜いてやるよ!」
ピンセットが一本の眉毛を摘む。大スクリーンにその模様がアップで映っていた。一思いに引き抜くのではなく、
痛みを与えるようにジワジワと引っ張り上げていく。毛を引っ張られ、皮膚と毛穴が小山のように盛り上がった。
痛い! 眉が抜けた。毛の根元には白っぽい毛根が付着している。女子高生はピンセットに息を吹きかけ、フッと
毛を宙に舞わせた。
1本ずつ十数本を抜かれた。眉を抜かれた部分の皮膚は赤くなっていた。針で突っついたように血の粒が
プクッと盛り上がっている。
「次はまとめていってみよう!」
女子高生は楽しげに笑うと、久恵からペンチを受け取った。眉毛を容赦なく十数本まとめて挟む。
グッと力を込めると、毛の束と一緒に皮膚が引っ張られ、まぶたが引き千切られそうな痛みが襲ってきた。
「ひひゃいっ!!」
思わず“音”が出た。
「あれ〜、抜けないなあ。強情な毛ね!」
女子高生が全身の力を使って引っ張った。ブチブチブチッ! 抜けるのではなく、根元から千切れた。
美穂は「ふぎゅひゃああああ!」と絶叫した。歯が一本もない惨めな口内を晒しながら。
結局、毛抜きの拷問は10分以上続いた。
両眉がなくなってしまうと、久恵が現れて『ドイツ製 超強力永久脱毛剤』を塗りこめ、毛根を殺してしまった。
両眉を失った顔が大スクリーンに映っている。観客が喝采を送った。
本当に宇宙人みたいな顔になっていた。美しかった自分の顔だとはとても思えない。側頭部に短い黒髪を残し、
前頭部から後頭部まで見事に禿げ上がり、球根のような豚鼻があり、顔の真ん中に二つの大きな黒い穴が開いている。
桜色の唇は口内に吸い込まれるようにすぼまっている。眉がないため、表情が死んでいる。殺されてしまった。
眉の微細な動きは人間の感情を瞳と同じくらい伝えるのに。眉尻を寄せて不快を示すことも、眉頭を吊り上げて
怒りを表明することも、八の字にして切なげに相手を見つめることもできない。もうできなくなってしまった。
スタイルは完璧なのに――チューブトップに包まれた88センチの美乳とくびれたウエスト、ミニスカートから
伸びる太もも――、顔の美貌は破壊され尽くしてしまった。アンバランスだった。精巧なモデルのマネキンの顔を、
横だけに黒髪の生えた子豚の顔にすり替えたような印象がある。
美穂は現実を否定したくてかぶりを振り続けた。
次に逆恨みによる報復を実行したのは、別の女子高生だった。目をつけたのは、久恵のローキックを受けて
赤く腫れている左の太ももの反対――右の太ももだった。
ペンチの角を用い、上質の布地に釘抜きで引っかき傷をつけるように肌に傷をつけた。色白で透き通る太ももには、
赤い傷で乱暴に『ブス女』『ハゲ女』と書き殴られていた。自慢の肌を蹂躙され、美穂はますます打ちのめされた。
傷はいつ治る? 1週間? 2週間? もし傷跡が残ったらどうしよう、クラブのブラックライトに当たったら
浮き上がるくらい傷跡が残ってしまったら。
横山ノック状態に髪と眉を永久脱毛され、鼻を豚同然に整形され、歯と発音を奪われたほうが何倍も――いや、
比べものにならないくらいショックなのに、肌の傷程度でショックを受け、悲しみ、不安になっている自分が
滑稽だった。
もしかすると、顔の美貌を取り返しがつかない状態にされてしまったから、他の部分だけでも、乳房や肌だけでも
綺麗なままで残したい、と思っているのかもしれない。顔を崩された以上、レースクイーン顔負けでラウンド
ガールが同じリング上で嫉妬するこのスタイルだけが唯一のプライドのよりどころなのだ。だからこそ、肌に
傷をつけられたら、髪や歯や鼻に比べれば小石に躓いた程度のことなのにこんなに悲しい気分になるのだ。
「じゃあ俺は爪ね」と男子高校生。「そんなものじゃ、物足りないけど」
美穂は男子高校生を睨みつけた。私の爪は、泥団子をこねるのが似合うようなあんたの爪とはわけが違うのよ。
爪の美と健康を保つための栄養素をサプリで摂取し、2日に1回は爪磨きで磨き(普通は1度磨けば1週間は美しさ
を保てる)、透明の宝石を溶かした液体で表面をコーティングしたみたいな艶と輝きを維持しているんだから。
「でもま、他に奪えそうなとこないし、仕方ねえか」
男子高校生は残念そうに言い、ペンチを握って歩み寄ってきた。
大スクリーンでは、左足の親指の爪がペンチに挟まれている映像が映し出されていた。足先のドアップだった。
ネズミをいたぶる猫のようにじっくりと、少しずつ爪が反らされていく。爪の悲鳴が聞こえるようだった。
神経を切断されそうになっているような激痛が指先から駆け抜けた。
「ふぁ、ふぁか! ほ、ほうひゃめらしゃい!!」
口から”音“を発して抵抗する。しかし無駄だった。皮膚を剥ぐように爪が剥がれた。全神経が足の指に集まり、
激痛が全身を駆け巡って頭にまでのぼってきた。美穂は声にならない悲鳴を上げた。
大スクリーンに映る足先。爪が剥がれた部分は、真っ赤なザクロでもすり潰して塗りたくったみたいに見える。
見るからに痛々しく、事実、激痛にピクピクと痙攣していた。
美穂は肩で息をしながら再び男子高校生を睨みつけた。彼の頭の中には、当時の私の姿が――しつこいナンパに
肘鉄砲で応えた私の姿があるに違いない。
「すごいね〜」とショートカットの女子高生。「私にもやらせてよ!」
何がすごいのか分からない。爪を引き剥がされた光景を見てもひるむことなく、自分もやりたいと手を挙げる
神経が信じられない。私にそこまでの恨みがあるわけ?
女子高生がペンチを受け取ってやってきた次の瞬間、心臓が止まるかと思うほどの激痛が走った。
「ふぎゅあああああっ!!」
女子高生は、爪が剥がされた親指をペンチで挟み、上下左右に揺さぶっている。指のザクロがささくれ立つような
光景が大スクリーンに映っていた。
「あっ、ごっめーん。間違えちゃった〜。てへ♪」
美穂は涙に霞む瞳で女子高生を睨んだ。
そんな容姿でカワイコぶったって誰も喜ばないわよ!
女子高生は、小指の輝く艶やかな爪をペンチで挟んだ。瞬間、美穂の体は恐怖に硬直した。先ほどの爪を
剥がされた激痛が実際に痛みをともなってよみがえってきた。怖かった。泣き叫びたいくらい怖かった。
口を閉じ、叫ぶものかと決意したのは、生まれつきのブス女に――しかも年下の女に馬鹿にされ、
笑い者にされたくないと思ったからだった。
一ミリ、一ミリ、ゆっくりと、ゆっくりと、持ち上げるようにして爪を反らし始めた。美穂は頬を震わせ、
いつ一気に剥がされるのか、覚悟を決めては肩透かしを食らわされ、詰めていた息を何度も吐き出した。
爪が目に見えて反り始めると、激痛が指先から足首まで駆け巡った。
そして、小指の爪も引っぺがされた。
美穂は絶叫した。
全ての足の指の爪が剥がされたときには、激痛に耐え切れず、尿を漏らしながら失神していた。
高校生の少年少女が満足して引き下がり、美穂が意識を取り戻すと、観客が口々に叫びだした。
「生ぬるいよ!!」
「目を狐目にしてやれよ!!」
「自慢のおっぱいも貧乳にしちゃえ!」
「それで逆に乳首を肥大させたら面白いんじゃないの〜」
「きゃははは、それって超ウケる〜」
美穂は愕然とした。ひ、ひどい。何でそんなことが言えるの? みんな、私っていう一人の人間の人生を
考えたこと、あるの? 面白半分で好き勝手言ってるけど、そんなふうに整形をされてしまう私の悲しみや
絶望は考えたことがあるの? 血の滲むような努力で美を磨いてきた体なのよ。生まれながらに神から与えられた
つぼみが薔薇に育ち上がったのは、毎日のたゆまぬ努力の成果なのよ。それを、それを、それを台無しに――
滅茶苦茶に、踏みにじってしまう気なの?
冗談じゃない。私の胸をどうこうする? ありえない。貧乳は女として劣性な証拠だという持論がある。
女として遺伝子が劣っている証だ。小さな胸は人生の敗北者だと思うし、娘に遺伝したら可哀想だから
貧乳女は結婚すべきじゃないとさえ思っている。病気か障害の一種みたいなものだ。第一、貧乳の女って
心も貧しくない?
だから貧乳の女は哀れだと思う。そんな女の前を通るときは、88センチで完璧なふくらみを持つ美乳を
強調するように通り過ぎたものだった。優越感。それが人生の楽しみでもあった。温泉も好きだ。非の打ち所の
ない自分の体を同性に見せびらかせるから。欠陥品の女の嫉妬と羨望を一身に浴びられるから。勝ち組には
負け組みを見下す権利があると思う。
絶対、私の完璧な体には誰にも手出しなんてさせない!
しかし会場の空気は異常だった。試合の敗者にはどんな罰や刑でも許される、そんな空気が生まれていた。
むしろ、敗者は二度と地べたから這い上がれないように貶めてやれ、とさえ思っているかもしれない。
美穂は好き勝手言う連中を軽蔑し、睨みつけた。
久恵は「リクエストも飛び交ってるし、ちょっと観客たちの意見を聞いてみましょうか」と言うと、
パソコンを操作し、大スクリーンに文章を映し出させた。
@『整形計画通り、美穂の目を吊り上った狐目に整形してやるor目くらいは大きいまま残しておく』
A『整形計画通り、美穂の唇に脂肪を注射してめくれたタラコ唇にしてやるor唇くらいは綺麗なままにしておく』
B『整形計画通り、美穂の頬に脂肪を注入して発酵パン状態にしてやるor輪郭くらいは美形のままにしておく』
C『脂肪を吸引して、美穂の型崩れしない88cmの美乳を貧乳化してやるor女の象徴の一つくらいは許してやる』
D『美穂の乳首に脂肪を注入して、人前で二度と裸になれない肥大化乳首にしてやるor可哀想だから許してやる』
久恵は大勢のスタッフに命じて投票用紙を観客たちに配らせた。
「さあ、美穂。あんたの未来は観客たちが決めてくれるわ。もうあんたの体はあんたのものじゃないのよ。
あんたの体を好きにする権利は観客にあるの。せいぜい許してもらえる項目が一つでも多くあるように
必死で祈っておくのね」
美穂は観客を見回した。
今の状態で開放されたら”最悪“までは堕ちないはず。髪は高級ウィッグをかぶろう。眉は描けばいい。
歯は総入れ歯にする。最近のものは本物と見まがうばかりらしいではないか。太ももの傷は癒える。
足の爪は伸びる。豚鼻は――どうだろう。分からないが、希望的に見るなら、整形で治せる可能性はある。
そんなふうに思ってしまうのは、心が壊れないようにという自衛本能なのだろうか。
何にしても、これ以上取り返しのつかない体にされることだけは避けないと。
勝ち組人生と女神の美貌を取り戻せなくなる。
どうする? 演技でも媚びて許してもらう? この私が? 馬鹿で低俗で下品な一般素人たちに媚びるなんて
冗談じゃない。私は神から与えられるべき美貌は全て与えられた女なのよ。人間として格下の連中に頭を下げる
ようなまね、絶対にできない。それに、どうせ媚びようとしてもまともに喋れないのだ。それなら今の自分に
できることは一つ――『これ以上私の完璧な体に手を加えようとしたなら、絶対に許さない。一生かけて復讐して
やる!』という意思を込めて観客一人一人の顔を睨み据え、『処置する』に投票する気概を失わせることくらいだ。
美穂は、投票用紙に何やら書き込んでいる観客を睨みつけた。
しかし心の奥底ではこう信じていた。人間は美しいものが好きだし、美人を見ると誰もが得した気分になる。
常日頃から誰もが『ブスは存在だけで迷惑』『ブスを見たら元気がなくなる』と発言している。美人を不細工に
変えたい人間がいるとはとても思えない。私に嫉妬している一部の馬鹿女を除けば、誰もが私の美を
守ろうとしてくれるはず。観客の投票は味方が圧倒的に多いはず。罰ゲームとはいえ、私の美を損なわせたい
人間なんていないだろう。
何事にも挑む前から勝利を確信する癖が身に染み付いている美穂は、内心で女王の余裕を持ち、観客たちが
投票を終えるのを見守っていた。
残念ね、久恵。あんたに賛同する観客なんてほとんどいないわ。観客の大多数は私の味方よ。
投票用紙を回収し終えると、久恵が流し読みして言った。
「顔の整形に賛成投票はゼロね」
ほら、みなさい。美穂は勝利を確信し、久恵を見て鼻で笑った。
「理由が分かるかしら、美穂?」
考えるまでもないでしょ。私の美貌に傷をつけたがる人間なんていない。それだけよ。
「何よその目は。勝ち誇った顔してどうしたの? 勘違いしてるといけないから、みんなが顔のブス整形に反対する
理由を教えてあげるわね。『目や頬はあえてそのままのほうが鼻や眉や髪や歯の惨めさが引き立つから』
『そのほうが醜い部分が引き立つから』『もともとは美人だと分かる状態をキープしておけば、そのバランスが
崩れることで、せっかく美しい部分が残っていても全て台無しになる。そのほうが未練も強くなりそうでいい』」
美穂は唖然とした。私の美しさを損ねることに罪悪感を感じて反対に投票したんじゃないの? 美しい部分を
残しておいたほうがより惨めだから? 信じられない。観客の残酷さが信じられない。私の美を守りたい一心での
否定派じゃないのか。ただ、綺麗な部分を残しておけばそのほうが悲惨で惨めだから。そのほうが見て面白いから。
そのほうが私を傷つけられると考えたから。
否定派も別に私の美を崇拝し、私を助けてくれようと反対したわけではない。
「C番、D番は全員が賛成してるわよ。『貧乳にしてやれ』『焦げ茶色のブツブツ乳輪にしたら気持ち悪いだろうから
そうしてやれ』『巨乳過ぎて垂れ下がった醜いおっぱいにしてやれ』『CDのように大きな乳輪にしてやれ』『水風船
みたいに腹まで垂れ下がったデカパイにしてやれ』うーん、観客たちはあんたの自慢の胸を整形したがってるわね」
冗談じゃないわよ! 毎日欠かさないトレーニングとバランスの取れた栄養補給で作り上げた胸なのよ。
グラビアアイドルさえ陶然とするような私の美乳を醜くする? 絶対に許されない。観客は一時の面白さと爽快さで
『処置する』に投票しているんだろうけど、私の人生はこれからも続くのよ。
惨めな胸じゃ生きていけない。
「さて」と久恵は言いながら笑った。「満場一致で胸の整形を実施ね」
リングに一人の女が上がってきた。懐かしい顔だった。名前は由紀子。高校時代の同級生だ。貧相だったはずの
胸が膨らんでいるのは、上げ底ブラかパッドか整形か。
由紀子は険しい顔をしている。
「あんたさ、覚えてる? 合コンに行ったときさ、あたしが胸の大きさに悩んでてパッドで大きく見せてるって
知ってるくせにさ、聞こえよがしに男に言ったよね。私、貧乳の女は欠陥品の人間だと思う、って。あたし、
居心地悪かったよ。男たちはさ、君たち二人はいいおっぱいだよね、なんて言ったんだよね」
由紀子は美穂のチューブトップを毟り取った。仰向けでも型崩れしない88センチの美乳がプルンッと飛び出した。
桜色の乳首は完璧な形で天井を向き、色白の山の中央で存在を主張している。大スクリーンにアップで映ったとき、
観客席に感嘆の吐息が広がった。
美穂は羞恥に頬を赤く染めた。
「あたしさ、男に誘われたけどさ、断って逃げ帰ったんだよ。裸になって胸見られたら、どんなふうに思われるか
怖かったから。あたし、それ以来、自分に自信を失ったの。男が服の上から胸を見るたび、パッドを入れてる
惨めさを意識して泣きそうだった。大学に行っても、まだ誰とも付き合えてない。なのにあんたはさ、男は誰もが
私の虜、みたいな顔して大学生活満喫しちゃってさ」
だから何? 逆恨みじゃない。高校時代のそんな笑い話程度のエピソードでさ。
「許せないんだよね。だからあんたのおっぱいを私の何倍も惨めにしてやる!」
由紀子が美容整形外科医から受け取ったのは、注射器だった。透明の筒の中に白っぽい液体が詰まっている。
彼女は美穂の胸の前まで歩み寄ってきた。
「好きな男の前で服を脱げない惨めな気持ち、あんたにも思い知らせてやる!」
由紀子は憎悪を撒き散らし、興奮と愉悦に鼻息を荒くした。
美穂は「うううー」と音を発しながらもがいた。上半身を揺する。乳房が震えた。
「往生際が悪いのよ!」
由紀子は美穂の乳房を鷲掴みにすると、桜色の乳首に注射器の針を突き刺した。チクッと痛みが走る。
彼女がピストンを押し始める。
やめてええ!!
綺麗な桜色の乳首が勃起するように膨れだした。1センチ、2センチ、3センチ。乳首に圧迫感を覚えた。
肥大化するたび、桜色の色素が引き伸ばされ、薄茶色に変色しはじめた。例えるなら、桜色の絵の具10mlに
2mlの茶色い絵の具を混ぜたような感じだ。
「ひっ、ひいいっ!」
「全部注入してやるわよ〜♪」
由紀子の親指がピストンを押し込むたび、乳首は肥大化した。脂肪を注入し終えたときには、桜色の乳首は
薄茶色になって赤ん坊のおちんちんサイズにまで勃起していた。今にもおしっこを迸らせそうだ。
「脂肪は30分もしたら内部に癒着するから、縮小化できないそうよ。よかったね」
そんなのいや。早く吸引してよ!
心の叫びは届かず――届いたとしても由紀子はより楽しげに、反対側の乳首も同じく肥大化させた。
美穂は自分の乳房を見下ろし、ショックを受けた。張りのある88センチの美乳の先端に赤ん坊のおちんちんが
ついている。こんなみっともない乳首を持っていたら一生のコンプレックスになることは間違いない。
何てことするのよ!
美穂は憎悪を込めて由紀子を睨みつけた。自分が貧乳なのは劣等遺伝のせいでしょ。だからって恵まれた
人間の胸に嫉妬しないでよ!
由紀子は美容整形外科医に訊いた。
「ねえ、この最低女の乳輪を大きくすること、できないの?」
「普通は乳輪を大きくする手術なんてないんだけど、それは美を追求する範囲での話でね。つまり、美観を損なって
も構わないなら大抵のことはできちゃうっていう。乳輪が小さくて悩んでる患者さんの乳輪を大きくするとしても、
醜い感じで大きくすることは望まないはずでしょう? だから、そういうことさえ考えなければ、大きくできるよ」
「じゃあ、大きくしてやって!」
「方法を教えてあげよう」
美容整形外科医が事細かに説明しながら美穂の乳輪の根元に注射器を刺し、由紀子に引き継ぐ。
「後は注入してやるだけだよ。そうすれば乳輪が引き伸ばされて大きくなる」
由紀子は鼻歌を歌いそうなほど楽しげに注射器のピストンを押し始めた。美乳を引き立てるようにバランスよく
備わっていた桜色の乳輪が徐々に広がりだした。乳輪の拡大に伴い、モントゴメリー腺(乳輪に存在するブツブツの
皮脂腺)が誇張されていく。まるで乳輪の下から極小のストローで何箇所も空気を吹き込み、気泡を作り出している
ようにブツブツが浮き上がってきた。
「ひょんな、ひょんなのって……」
美乳に備わる肥大化乳首と巨大乳輪。アンバランスさが乳房の美観を台無しにしている。みっともない乳首と
ブツブツ乳輪のせいで、完璧な形と大きさの胸も下品に見える。
自分の美乳の惨状に唖然としていると、脂ぎった中年オヤジがリングに上がってきた。
「私にも恨みを晴らす機会を与えてほしいねえ」
男に見覚えはなかった。昔のアッシー、メッシーではありえない。私は貢がせる相手を選ぶ。貢がせて自分の格が
落ちるような相手からは何一つ受け取らない。こんな醜い中年オヤジから物を貰った記憶はない。一体誰?
「覚えてないんだねえ。信じられないよ。あんたにとっちゃ、私なんて人生の敗残者。中年のブ男だろうからね。
この前、あんたに電車で痴漢扱いされたんだよ」
思い出した。尻を誰かに触られたとき、外見で一番怪しい男を指差し、痴漢扱いした。息が臭そうで生理的に
嫌悪感があったから車両から追い出したかった。案の定、男は乗客に引きずり出された。私は痴漢じゃない、と
騒ぎはじめたため、痴漢の証拠が必要だと駅員に責められたくないから、「駅員には突き出さないであげて」と
乗客たちに優しい女を演じて見せた。
「思い出したかな? 私はね、あの日以来、人生が転落してねえ」
何よ、もとから冴えない人生だったんでしょ。だいたい、私は見逃してあげたじゃない。駅員に突き出したら
可哀想だと思ったから許してやったのに恨みって何よ!
「駅に放り出された姿を同期の奴が目撃していてね、私と課長の座を争うライバルだから、当然上司に密告。
私は車内で痴漢オヤジ呼ばわりされて昇進はなし、左遷されたよ、あっという間にねえ。妻子は私を信じず、
愛想をつかして家を出る始末。ああ、あほらしい。15年間真面目に働いてきたのに、たった一日、ただ
電車で会社から帰ろうとしていただけで痴漢扱いされて仕事も家庭も崩壊。ああ、何てあほらしいんだろ」
妻子に逃げられたのは自分に信頼がないからでしょ。自業自得よ。逆立ちしても痴漢するように見えない男なら、
会社の同僚も家族も信じてくれただろうし、何の問題もなかったはずよ。
「全てを失ってからは、あんたを刺し殺して自分も死のうと思って同じ電車に毎日乗ってたけど、考えたら
殺したって空しいよなあ。死んだ人間は無になって後悔もできないし、苦しむこともない。だけど、こんな
復讐の機会が巡ってくるとはねえ」
中年オヤジが美容整形外科医から受け取っていたのは、黒い装飾のレーザーガンだった。
「ひゃ、ひゃにひゅるき?」
「色素を沈着させるレーザーを照射してやるんだよ。日焼けマシンに入ってるみたいになるそうでね。乳首の日焼け。
色は沈着したら絶対に戻らないそうだ」
「ば、ばひゃなまねはやえて!」
舌足らずの声で叫ぶ。
由紀子が「それって最高!」とはしゃぐ。
何が最高なのよ。そんなの最低よ。私の生まれ持った綺麗な乳首の色を醜くする?
中年オヤジが容赦なく乳首に狙いを定め、引き金を引いた。赤色の可視光線が照射される。美穂は身をよじり、
懸命にレーザーから逃れようとした。いやよ、いや。絶対にいや。人の体を何だと思っているのよ!
由紀子に乳房をガシッと握り締められると、体を揺すっても光線から逃れられなくなった。赤ん坊のおちんちん化
させられた醜い乳首が変色し始める。茶色い色素が徐々に沈着していく。
「や、やえへええ! わひゃひのちふびがああ!!」
美穂は、歯が全て抜かれて歯ぐきに張りつくような唇で悲鳴を上げた。中年オヤジは陰湿な冷笑を浮かべながら、
光線の照射を続けている。脂肪注入で4、5センチに伸ばされた乳首は、日焼けするみたいに色が変わり、今や
薄茶色から海老茶色になり、だんだんと焦げ茶色になってきた。
「誰も痴漢なんてしたくなくなる体にしてやるからな。男が味方したくなくなるような体に、ね」
照射は5分、10分と続いた。乳首と乳輪への色素沈着が終わる。
美穂は自分の胸を見下ろし、現実を否定しようと首を振り続けた。目の前で起こっていることが信じられなかった。
型崩れしない88センチの乳房は相変わらず堂々と盛り上がっているが、中央の乳首は天井に向かってそそり立つ
のではなく、萎えた赤ん坊のおちんちんみたいにヘナッとしていた。しかも女遊びしまくった男のペニスなみに
焦げ茶色になっている。コイン大だった完璧な乳輪は直径が二倍に拡大していて、茶色いモントゴメリー腺の
ブツブツが目立っている。腐った米粒の群れのように見える。
外国人のラウンドガールにも負けない自信があった美乳に、惨めで下品な茶色い肥大化乳首と巨大ブツブツ乳輪が
ある。口に含んだらばい菌に侵されそうな形と色合いだった。ホームレスでも嫌がりそうなほどの醜悪さだ。こんな
汚らしい乳首にされたら、理想の男が現れてもモノにできない。ブラを外したとたん、顔を顰めるだろう。男の
最初の一言も想像できる。おずおずと、『あの、言いにくいんだけどさ、それ、触っても病気とか感染らないよね?』
想像したあまりの光景にショックを受け、意識が遠のきそうだった。
わ、私の自慢の胸が……ああ、もう人前で絶対に服を脱げない醜さにされてしまった……。
美穂は悄然とうなだれた。
由紀子は醜女を見下す口調で言った。
「まだまだ許してやらないわよ!」
「いいぞ、いいぞ!」と観客が盛り上がる。「もっとひどい目に遭わせてやれ!」
全世界が敵に回ったようだった。今までは誰もが味方だったのに……あれは全部偽りだったの? なぜ誰もが
私の不幸を望むのよ!?
「ずいぶん嫌われてんのねえ、あんた」と由紀子が小馬鹿にしたように笑う。「ふふんっ、あんたの自慢のおっぱい、
私よりぺチャパイにしてやるから!」
恐ろしい発言を聞かされ、美穂は身を震わせた。大事な乳首と乳輪を穢しただけじゃ飽き足らず、胸まで
悲惨なことにしようというのか。冗談じゃない。そんなことされてたまるか。劣性遺伝の女が人為的に仲間を
作るなんて許されない!
由紀子が歩み寄ってきたとき、「待った!」と声が上がった。ピシャリと棒で打つような制止の声だった。
美穂は救いを求め、声の方向に目を向けた。ロープを飛び越え、颯爽とリングインしたのは筋肉質の肉体を
タンクトップで包んだ青年だった。
彼は確か――坂田康平。格闘家だ。以前、会うたびにブランド物のバッグを貢がれた記憶がある。
救いの主が現れた。一縷の希望だ。さあ、早くこの残酷な茶番を終わらせて!
「……お前、何嬉しそうな顔してんの?」
「へ?」
「お前、俺に何したか忘れたわけじゃねえよな?」
美穂は坂田の顔を見つめ、記憶を掘り起こした。土中深く埋もれていた記憶がよみがえったとき、あっと
声を上げた。
男子と女子の格闘家同士の対談企画で知り合って以来、坂田は数百万相当のブランド品を貢いだ。美貌の
女神を恋人にしたい一心だったのか、ホテルに連れ込みたい一心だったのかは分からない。とにかく優しい言葉を
連発して貢物を持ってきた。しかし半年も経つと、坂田は金策に走り回るようになった。女にちょっとプレゼントを
しただけで金に困る程度の男に価値はない。だから彼がサラ金から借金していると聞いてからは、携帯のアドレス帳
から『坂田』の名前を抹消し、連絡を取らないようにした。
着信拒否されても避けられていると分からない単細胞は、マンションの前で待ち伏せし、声をかけてきた。
鬱陶しく思ったから無視すると、馬鹿力で腕を掴まれた。手首を握りつぶすぞと言わんばかりの握力だった。
女子チャンピオンといえども、男子の一流格闘家に簡単に勝てると思うほど自惚れてはいない。だから、横目で
交番の存在を確かめると、悲鳴を上げた。警察官が飛び出してきた。
後は、いかつい男に付け狙われている美女を演じるだけだった。赤く変色した前腕を見せ、「暴力を振るわれた
んです」と訴えた。女の武器をフルに使い、頭脳の勝利だった。警察官は坂田の弁解も聞かず、彼を連行していった。
「俺はよ、お前のせいで人生を狂わされたんだ。お前にいいところを見せたい警察官に現行犯で逮捕されてよ、
マスコミに嗅ぎつけられてよ、女子格闘家をストーカーした犯罪者扱いだよ。ベルト剥奪、無期限の試合出場禁止、
サラ金の借金が膨らんで自己破産。地位も名誉も希望も失っちまった。お前のせいでな」
責任転嫁して逆恨みする坂田に呆れた。
警察に逮捕されたのは、あんたが私の腕を握り締めたからでしょ。染み一つない完璧な肌にアザを作ったんだから、
それくらいの報いは受けるべきだったのよ。
「お前みたいに始末の悪い女、とことん惨めな目に遭わせてやるよ」坂田は由紀子を一瞥して言った。「なあ、
ただ貧乳にしてもつまんないだろ」
「何でよ? 貧乳を病気みたいに思ってるこの女にはショックなはずよ」
「胸の小さい女なんて大勢いるじゃねえか。仲間由紀恵なんて人気あるしな。貧乳ってだけで人生が終わるなら、
女の4分の1くらいは終わってる」
「……じゃあ、あんたはどうしてやりたいのよ?」
「俺か? 俺はな、ババアのようにしわしわの垂れ乳にしてやりたいね」
美穂は我が耳を疑った。何とんでもないことをさらっと言うの?
由紀子は両目を見開いて笑みをこぼした。
「垂れ乳! それはすごいわね。最高!」
「だろ」
「しわしわの垂れ乳に比べたら貧乳のほうが何百倍もましよね。貧乳が最高のおっぱいに思えるくらいよ」
「こいつは若さを奪われるのもこたえるはずだ」
「しわしわの垂れ乳かあ。何かワクワクする!」
「こいつはそれくらいされても当然の女だ」
「だよね〜、私もそう思う」
二人は恐ろしい会話を交わすと、美容整形外科医に相談し、機械を用意した。小型の青いボックス型をしている。
四肢拘束状態の美穂は、暴れ狂った。大事な胸に手出しはさせない!
しかし革ベルトがギチギチと音を立てただけに終わった。美容整形外科医は乳房の下部に麻酔を打つと、
カニューレ(金属製の細い管)を挿入した。88センチの美乳から管が突き出ているのは、異様な光景だった。
「超音波のエネルギーが脂肪細胞を液状にして、それを吸い取るんだよ」
美穂は何度も首を振り、「ひゃめて!」と訴えた。坂田と由紀子はワクワクした顔で見守っている。
自慢の胸を潰されたら私の人生はもう……。
坂田は美容整形外科医から機械の操作方法を教わると、「ババアのような胸にしてやるよ!」と言い放ち、
スイッチを入れた。モーター音が響き渡った。悪魔の呪文のように聞こえた。
「ひゃ、ひゃえてえええ!」
胸と髪は女の象徴だと思っている。女性器と違い、髪は女が常に見せびらかしている部分だし、胸は衣服の
上からでも形が分かる。裸にならなくても、女を女たらしめているパーツだ。二つを奪われたら女として
死んでしまう。
視線を落とすと、自慢の美乳が波打っていた。明らかに左胸よりいびつになっている。真ん丸く膨らませた
水風船から少しずつ水を抜くように乳房が縮みはじめていた。美しい形を保ったままサイズが縮むのではなく、
中の脂肪を無理やり抜かれたことで垂れ乳になってきている。
「ひいいいっ!!」
わ、私が何したっていうのよ!
10分後、右の乳房は悲惨なことになっていた。萎えて真下に垂れている巨大なペニス状態だった。
引き締まった色白の腹部に右の乳房がヘナッと張りついている。先端には拡大された焦げ茶色のブツブツ乳輪と
肥大化した乳首がついている。
な、何よこれ。こんなの私の胸じゃない。ううん、人間の胸ですらない。
左の乳房にもカニューレが挿入されると、由紀子は「今度は私の番ね♪」とはしゃぎ、スイッチに指を伸ばした。
ふざけないで! 他人を落としたって自分は偉くならないのよ! こんなことしている暇があるなら、もっと
自分を磨きなさいよ!
由紀子はスイッチを入れたり切ったりしながら、少しずつ嬲るように乳房の脂肪を吸引した。
1分ごとに垂れていく乳房を見せつけられ、美穂は半狂乱になった。
やめてよ、やめてよ、もうやめて!
そして15分後……。
「はい、完成!」
美穂は自慢の胸が貶められた様を見て愕然とした。決して型崩れしない88センチの美乳は死んでいた。
まるで肌色のナマコが二つ胸にへばりついているようだった。先端にはグロテスクな焦げ茶色の乳輪と乳首。
「うわあ、悲惨だね〜」と由紀子が笑いを噛み殺しながら言う。
「ひ、ひりょい……ひりょすぎる……」
こんな胸にされてしまったら二度と人前に出られない。ああ、どうしたらいいの? 同性の誰もがうらやみ、
異性の誰もが魅了される自慢の美乳だったのに。毎日のエクササイズで完璧な形を保っていた胸だったのに。
衣服から覗く谷間を見せるだけで男を従わせられた胸だったのに。
由紀子は美穂の焦げ茶色の肥大化乳首を指先で摘むと、右のナマコ乳房を引っ張り上げるように持ち上げ、
それから指を離した。ペチャっと音がしてナマコ乳房が腹に落ち、張りついた。由紀子が爆笑し、つられて
観客たちも大笑いした。
美穂は信じがたい光景にショックを受け、絶望感と惨めさに打ちのめされた。由紀子はこの遊びが気に入った
らしい、両手で両胸の乳首を摘んで引っ張り上げては指を離し、ナマコ乳房がヘチャッと腹に落ちる様を――
力なくくずおれる様を何度も楽しんでいた。そのたび、観客が爆笑の渦に包まれる。
「悲惨すぎ〜」
「超ウケるんですけど!」
「あんな女、100万払われてもデートできねえよ!」
「俺も無理無理。絶対無理。ハゲで豚顔の垂れ乳女なんてありえねえし!」
観客の嘲笑や心ない言葉に心は傷つき、息苦しさと動悸を覚えた。
美穂は放心状態で身動きすらできなかった。
由紀子が「ああ、満足した♪」と満面の笑みで言ったとき、観客の中から声が上がった。
「まんこもレーザーで真っ黒にしてクリも肥大化させてやれ!」
「肥大化クリを弄って慰めるしか生きる楽しみがない女にしてやれ!」
観客による精神的なリンチだった。いや、肉体的な被害を伴っているのだから”精神的“ではすまない。
美穂は茫然自失状態から意識を取り戻すと、いやよ、もうやめて、と暴れ始めた。
女神に嫉妬する餓鬼どもの醜さをまざまざと思い知らされた気がした。
「だけどその前にさ」と坂田が美容整形外科医を見た。
「脂肪吸引したのはいいんだけど、また脂肪注入したら
元通りになっちゃうんじゃ意味ないんだよね」
満足げな表情だった由紀子が「確かに!」と叫ぶ。
美容整形外科医は注射針と小瓶を持っていた。
「問題ないよ。皮膚が吸着する液体を流し込めば、脂肪を注入するスペースは消えるから。例えるなら、
空気を抜いた紙風船の内部に接着剤を注入するようなものでね。空気を送り込もうとしても、完全にくっついて
いるから不可能というわけ」
「じゃあ、この女は一生この垂れ乳のまま?」と由紀子が心底嬉しそうに言う。
「お望みとあらば」
「もちろん望むに決まってるじゃない!」
美穂は信じがたいやり取りを聞き、何でそこまでするのよ! と内心で叫ばずにはいられなかった。私の
美貌に敵わないからってあんまりじゃない! あんたより胸が大きくて綺麗だからって、ここまで貶める
必要ないじゃない! そんな根性だから顔も醜くなるのよ!
「肥大化した乳首や茶色い乳輪は?」
「注入された脂肪はすぐに細胞と癒着してしまうから、もう吸引はできないんだよ。皮膚の下で一体化するから。
色素が沈着した乳輪も同じでね。男のペニスと同じ。黒くなったらもう白くは戻らないだろ。大丈夫。
乳首の大きさも乳輪の色も一生このままだから」
美穂は美容整形外科医の言葉を聞き、無意識のうちに首を振って現実を否定していた。嘘よ。もとに戻せない
なんて嘘に決まってる。
「では皮膚の吸着処置をはじめよう」
美容整形外科医が迫ってきた。死神の足音のようだった。美穂は抵抗を試みたものの、皮のベルトは四肢を
完全に拘束しており、ナマコ状態の乳房を左右に揺らすだけに終わった。注射器が刺さり、液体が乳房に
注ぎ込まれると、美穂は圧倒的な絶望感に打ちのめされた。
私の胸は一生このままなの? 整形でも戻せないの? 冗談よね?
「ああ、一つ言い忘れ」と美容整形外科医。「ずいぶん無茶な整形をしちゃったから、乳腺組織が壊れて
母乳を作れない身体になっちゃってるけど、まあ、あまり気にしないでね。最近は赤ん坊用のミルクも
進歩してるから」
美穂はなぜかその言葉に大きなショックを受けた。結婚や出産なんて考えたこともないのに。子供を産んで
体型が変わることを嫌っているのに。どうして? もしかすると、自分の歩く道の前に無限に広がる可能性を
人為的に一つ潰されたからかもしれない。ないものねだり。
美穂は美容整形外科医を睨みつけた。私にこんなショックを味わわせるなんて! 一体何様よ!
悲しみに暮れている間もなかった。痴漢の中年オヤジが例のレーザーガンを持ってニヤニヤしている。
「お待ちかねのご開帳だよ」
中年オヤジは美穂のミニスカートをカッターナイフで切り、一気に剥ぎ取った。スラリとした色白の太ももと
ふくらはぎが伸びている。三角地帯は白い水着が覆っていた。
「ひゃ、ひゃだ」
大勢の観客の前でスカートを奪い取られる行為に羞恥を覚え、思わず声が漏れた。
中年オヤジのカッターナイフが水着の端に切れ込みを入れる。美穂は動揺した。観客の前で全裸にされ、
大事なところまで晒されようとしている。大した顔と身体じゃなくても裸を見せるだけで価値が出るAV女優じゃ
あるまいし。私の裸はそんなに安くないのよ! あんたみたいな社会の落伍者、1000万払ったって私の裸は
拝めないんだから。私の裸には1000万ドルの価値があるんだから。エリートの中のエリートの中から
選ばれた最高の男しか見られないのよ。
水着の両端が切れた。中年オヤジが水着を鷲掴みにする。
「ひゃめへよ! ひょんなおおぜいのまへで!」
中年オヤジは「はあ?」と顔を顰めた。「あんたみたいな女として終わった生き物の裸なんて誰も見たくねえよ」
水着を剥ぎ取るのをやめ、美穂の頭を撫でる。ぬめぬめと脂ぎった手のひらの感触がツルツルの頭皮に伝わった。
「あ〜あ、こんなハゲになっちゃって。私は45だけど、髪の薄さが気になってたんだよね。でもあんたを
見てたら元気が出てくるよ」クククと笑う。「あんたに比べたら私なんてフサフサなほうだからね」
目の前が真っ暗になるようなショックだった。中年オヤジは前頭部から半分も禿げ上がり、残り半分の髪を
必死に伸ばして額の面積を狭めようと悪あがきしている頭だったからだ。そんな奴より私のほうがひどい
状態ってどうなの?
中年オヤジの手のひらが前頭部から後頭部までの無毛地帯を撫で回す。大スクリーンを見るまでもなく、
横山ノック状態にされた自分の頭の惨状が実感され、心臓が苦しくなった。次々と醜くされる身体のショックで
忘れていたのに、思い出さされ、改めて愕然とした。
「誰があんたみたいな垂れ乳ハゲ豚の裸なんてみたいかよ。間違って届いたAVのパッケージに写ってたら、
再生せずに即返品するレベルだぞ」
信じがたい侮辱だった。底辺の最も卑しい仕事であるAV女優にすら劣ると言われるなんて。
女の価値は服を脱がなくてもどれだけの男を魅了し、虜にできるか。事実、私は笑顔を見せるだけで大勢の男が
寄ってきた。勘違いして高値の花をホテルに連れ込みたがる男には、あんたには私の笑顔すら見る資格はないと
ばかりに冷めた眼差しを向けてやった。すると、男は平謝りして許しを乞うた。なのに――。
会場が中年オヤジに同調し、見たくねえよ! と叫び始めた。これじゃ、興奮の声を上げられたほうが何倍も
ましだ。昨日までは誰もが私の下着の奥を見たがり、貢物の額を増やしていった。オークションのように。もちろん、
全員に思わせぶりな態度をとり、実際は笑顔で受け流してきた。なのに今は誰もが見たくないと叫ぶ。信じられない。
何よりショックなのは、言い返せないことだ。今まで私を悪く言う人間の言葉なんて負け犬の遠吠えだったのに。
女神に嫉妬するブルドッグの悪口に傷つくわけがない。それなのに――。
「一生男は無理って身体にしてやるからな!」
ふざけないでよ。100年生きたって私の1か月分にも満たない程度の人生の価値しかないくせに。私の衣服に
指一本触れる資格もないくせに。こんな状況じゃなきゃ、私の香りすら嗅がせてないわよ! もったいない。
中年オヤジはついに水着を剥ぎ取った。三角形に整えられた陰毛が観客に晒された。しかし、恥ずかしがるに
恥ずかしがれなかった。醜女が恥らう姿など滑稽なだけだ。恥ずかしがる姿を見せたら笑い者にされるだろう。
そのほうが何倍も屈辱だった。
由紀子が手術台に歩み寄ってきた。「とりあえずさ、邪魔な毛は抜いちゃおうよ。ほら、手術前って剃毛? って
やつをするじゃん」
彼女は陰毛を何本か掴むと、思い切り引っこ抜いた。
「ひぐうっ!」
思わず悲鳴が出た。敏感な部分に激痛が走る。何すんのよ。肌に赤い跡が残るじゃない!
由紀子は人差し指と親指で摘んだ陰毛をしげしげと眺めている。
「汚いわね〜、ゴミ箱はないかしら」由紀子はわざとらしく周囲を見回した後、「はっけーん♪」と声を上げ、
抜いた陰毛数本を美穂の鼻の穴に人差し指で押し込んだ。
「ふぎぎっ……」
不快な感触が鼻の奥に詰まっている。気持ち悪い。
由紀子は陰毛を次々と毟り取っては、美穂の豚鼻に捨てていった。鼻孔がむずむずし、くしゃみが出た。
陰毛混じりの鼻水が真上に飛び上がり、ほっぺたにペチャっと落ちた。鼻の穴が真正面を向いている事実を
再認識させられ、改めてショックに襲われた。
「キャハハ、おもしろ〜い。私も一度やってみたかったんだよね〜、打ち上げ花火!」
屈辱のあまり、胸が苦しくなった。
「さあ、キレイ、キレイしましょうね〜♪」
由紀子は笑いながら恥丘にドイツ製の超強力永久脱毛剤を塗り込み始めた。
「ひゃめへー!」
必死の訴えもむなしく、5分後には無毛の恥丘が出来上がった。大人の女として完璧な脚と腰のラインを
たどっていくと、赤ん坊のようなツルツルの股間が目に入る。
観客の女たちの笑い声が会場に広がった。
「アソコの毛もない! チョーウケるんですけど!」
「キモー。あの身体でパイパンはありえないよね」
「アハハ、惨めすぎ!」
「人間として終わってるっつうの」
「ねえねえ。頭はオヤジ、鼻は豚、歯と声と胸はババア、股間は赤ん坊……これな〜んだ?」
数百人の観客が声を揃え、「新田美穂!」と叫んで爆笑する。
恥を掻かされ、馬鹿にされ、笑われる――人生で初めての経験だった。精神的にいたぶられるのがこんなにも
苦しいなんて。観客や由紀子や坂田の一言一言と笑い声が釘のように心に刺さり、痛みが広がった。
由美子は美穂の下半身側に移動し、大の字に開かれた股ぐらを覗き込んだ。大スクリーンには、美穂の下腹部が
下から舐めるように映し出されている。サーモンピンクの秘裂がつつましく備わっていた。官能的な唇のように――
バージンのように、型崩れもせず閉じている。
「ムカつくくらい綺麗ね」
当たり前でしょ。私はあんたみたいな下品な女じゃないのよ。最高の男をつかまえるために身体の隅々まで完璧に
手入れしてきたんだから。身体を与えてやってもいいと認めた男は過去に2人だけ。しかも、1度目で満足させて
くれなかったから、数えるほどしかしていない。援助交際や売春で下品な色と形になっているあんたのものとは
違うのよ。欲求不満に負けて自分で慰めるときも、綺麗な色と形を保つために下半身はほとんど触らない。
私の美貌は禁欲と摂生と努力で磨き上げたものなんだから。
由紀子は手術台に上り、美穂の両脚の合間から彼女を見下ろした。
「ホント、ムカつく」
由紀子は汚れた靴の裏で美穂の秘部を踏みにじった。敏感な粘膜がねじられ、激痛に襲われた。美穂は「あうう」
とうめき声を漏らした。
「ひゃめへよ! かたくすれしたらひょうすんのよ!」
「何言ってるか分かんないわよ、おばあちゃん」
悔しい。こんな女にまで馬鹿にされるなんて。
しかし、言い返せないのも事実だった。確かに今は老婆と赤ん坊を足して2で割ったような声だった。声を
出すたび、自分の奪われた美声にショックを受け、惨めったらしい声に動揺してしまう。だから喋りたくても
ためらってしまう。でも、何も言わないまま低俗な連中のオモチャにされるなんて耐えられない。
「ひょんなことひて、ただじゃしゅまないわよ!」
「だから分かんないって、おばあちゃん」
由紀子は笑いながら言うと、さんざん性器を踏みにじった。痛みを与えるように靴の裏を左右に動かした。
神聖な場所を穢す喜びに満ちた顔で。
やがて由紀子は手術台から飛び降りると、美容整形外科医の指示を受けながら、豆粒サイズのクリトリスに
注射器を突き刺した。
「ひぐうっ!」
躊躇なくポンプを押し込む。豆粒が枝豆サイズに剥き上がり、肥大化しはじめた。ピンク色のナメクジが
身を伸ばすように大きくなっていく。
「な、なな、なな……」
衝撃的な光景に言葉も出ない。
由紀子はナメクジ状態のクリトリスに変形させると、満足げに笑い、美穂のラビアを両手で掴んだ。力任せに
左右に引っ張る。つつましく閉じていたサーモンピンクのつぼみが花開くように広がった。
「ひ、ひたいっ! ひゃめへよ! あんひゃとちがってだいじにひてきたんだはら!」
中年オヤジも寄ってきた。「私にも協力させてほしいね」と言いながら、ラビアを掴んで引っ張る。男の力は
凄まじい。陰唇は3、4センチは伸びている。
「ちぎれりゅう〜!」
美穂は叫び声を上げた。目を合わせる価値もない男に嬲られるのは屈辱だった。私を抱かせてやった二人の男は、
私の裸を見たとたん、ガラス細工を扱うように丁寧に扱ったのよ!
中年オヤジと由紀子は20分以上、ラビアを引っ張り続けた。
二人が手を離したときには、サーモンピンクの襞がたるんだゴム状態になり、食虫花のように唇を大きく醜く
広げていた。美青年が感涙するほど綺麗に整っていた襞は、今や下品でビロビロになっていた。2匹の桃色の蛭が
張りついているようにも見える。
由紀子が指先でピンッと弾くと、ユルユルに伸びきった襞がプルプルと震えた。2匹の蛭が生き物めいて震えた。
下品すぎる光景だった。
「キャハハ、きもい形!」
美穂は大スクリーンに映った自分の女性器を見つめ、大きなショックを受けた。二人の男しか受け入れていない
アソコは――オナニーのときもめったに触れないアソコは、援助交際常習者のようなヤリマン女のものみたいに
醜く変形している。伸びたゴムと同じく、もうもとの形には戻らないだろう。こんな形になるのがいやだから、
鍵付きの宝石箱に保管したダイヤのように大事にしてきたのに。
こんなんじゃ、男が触れたいとも思わなくなってしまう……。
下着姿になったときの光景が目に浮かぶ。ショーツの股間部は、2匹の体長10センチの蛭でも隠している
かのようにいびつに膨らんでいる。それを見た男は何て思うだろう。水着にもなれない。股に蛭を隠し持ったような
水着で人前を歩くなんてできない。下品な性器の形が丸分かりだ。
美は正義なのに。中高時代、程度の低い問題の山に嫌気がさして宿題をしてこなくても、先生は咎めなかった。
無謀にも告白してきたダサい男子を手ひどい言葉で――気弱な性格ならトラウマになりそうなほど厳しい言葉で――
切り裂いても、取り巻きの人間は「美穂の言うとおりよ。分をわきまえなさいよね」と同調した。
中学校でも高校でも、今通っている大学でも、全男子の3分の1をこっぴどくふった。残りの3分の2は
高嶺の花に恐れ多くて告白できない身をわきまえた連中だ。告白してきた連中の中でやんわりと断ってもいいと
思った男は毎年2、3人しかいない。大半の者は、学歴はあっても顔面の偏差値が低かったり低身長だったり、
未来の負け組人生が透けて見えているような男ばかり。そんな連中は、程度を教えてあげるためにも――相手の
今後のためも思い――厳しい言葉でふるようにしている。『告白の前に鏡を買うことからはじめたら?』『豚が女神に
恋するなんて滑稽だと思わない?』『身長を後15センチ伸ばして、身体を鍛えてから来てね。そうしたら今度は
やんわりとふってあげるから』
言い返せた男は一人もいない。
完璧な美貌――腰まで流れる絹糸のごとき長い黒髪、整った眉、二重で大きな瞳、鼻梁が通った鼻、官能的に
濡れた唇、真珠を思わせる輝く歯、女神の歌声のような美声、張りがある88センチの完璧な美乳、くびれた
ウエスト、ツンと盛り上がったヒップ、伸びやかな脚、染み一つない白磁器のような肌、身体にまとった花のような
かぐわしい香り――を持った女に言われたら、誰もが口をつぐむしかない。反論なんてできない。
惨めになるだけだから。
それなのに、今の私は大事な宝石を次々に奪われている……。
自分の身体の惨状が信じられず、美穂は大スクリーンから目をそらした。
ああ、最高の男にこそ相応しい最高の身体だったのに。
美穂は恨みを込めて二人を睨みつけた。
「ひゃにんをおとひめなきゃ、じびゅんをへいとうかできないやつってしゃいてい! ひょんなだから、じんせいの
らくごひゃになるのひょ!」
短い言葉を口にするときはまだしも、長い台詞を口にしたら、その意味不明さがはっきりと分かった。自分の
耳に入ってくる音は、日本語の体をなしていない。しかし言わずにはいられなかった。自分を磨く努力をしない
ズボラ人間だから人生の落伍者になるのよ。一山いくら、みたいなバーゲンセール品になるのよ。高級なブランド
服を安物に貶めるなんて最低。
人間としての精神を疑う。そんな連中は生きていても何の価値もない。一級の彫刻を壊すような人間が社会に
何をもたらせるっていうの?
中年オヤジは舌打ちした。
「私を落伍者にしたのは誰だと思ってる? 痴漢冤罪に巻き込まれなきゃ、昇進して妻子を喜ばせ、幸せな人生を
生きていけたんだ!」
だからそれは自業自得でしょ。痴漢に疑われたのは脂ぎった下品な顔が原因だし、無実を信じてもらえなかった
のは、日ごろの行いが悪かったからでしょ。
中年オヤジは憎しみに満ちた目でレーザーガンを掲げた。
「さあ、真っ黒クロスケにしてやるからな」
何て最低な奴! 産業廃棄物以下の存在の癖に!
世の中には、踏み台にされる人間と、それを”階段“にして天まで上る人間がいる。私は後者だし、この会場に
いる低能たちは間違いなく前者だ。それなのに私を最下層の”階段“に貶めようとしている、誰もかれもが。
美穂の価値観は幼少期の母親の影響だ。母の口癖は「男は利用するだけ利用するのよ。決して利用されちゃ駄目。
学歴、職業、資産、外見、性格――その全てが備わってる男以外に存在価値はないんだから、安売りしちゃ駄目よ」
だった。しかし母には娘のような美貌はなかった。だから金持ちの老人たちを騙し、資産をいただいて狡猾に生きる
しか道はなかった。介護ヘルパーとして働き、健康にいいと騙して塩分やコレステロールの多い不健康な食事を
食べさせ、体調を崩した老人を優しく介護して感謝を引き出し、遺言書の仲間に入れてもらう――究極の自作自演。
30人以上は騙したという。おかげで子供のころから何不自由ない生活を送ることができた。小学校のころには
月に8万円もお小遣いを貰ったし、登校するときの服装もお洒落な高級服ばかりだったし、美容品も専門店の
高級品を使っていた。母は事あるごとに言ったものだ。「老人には服が2着あれば事足りるし、美容品も不要だし、
私がお金を遣ってあげて何が悪いの? だいたい、死んだら資産なんてクソの役にも立ちゃしないんだから、
私が有効活用してあげてるだけよ。だから私もあんたには何の資産も残さないわ。いいわね。18歳になったら
自分で生きていくのよ」
美穂はその教えを守っていたが、年頃になると母親を見下すようになった。美と金を価値観にしている癖に、
容姿は場末のホステスが関の山。だから、そんな母親を見るたび、思った。類稀な美貌がある私は、母のように
”犯罪スレスレ“の手段を用いなくても、母の何十倍もの幸福を得られるわ。
事実、笑顔一つで男は言いなりだった。嫉妬する女も私を前にしたら何も言い返せず、惨めにすごすごと舞台裏へ
引き下がった。完璧な美貌。それが最大の武器だった。
母は、不健康な食事で寿命を縮めたであろう老人たちの呪いを受けたように、病気で早々に他界した。
18歳になる前に死んだから遺産は残っているはず、と思ったが、最低の母はすでに貯金を遣いきっていた。
死を予期した母は、最期に海外旅行先で金をばら撒いて美貌の青年たちをはべらせたのではないだろうか。
思えば、奇跡の美貌に産んでくれたことと、幼少期に充分な生活費を与えてくれたこと以外には、何の役にも
立たない母親だった。
結局、勝ち組人生を続けるために、高校生のころから大学生や大人を利用し、貢物で生活するはめになった。
バイトは考えたことがない。下働きは底辺の人間がすることだし、女神は他人に仕えたりはしないものだから。
この美貌さえあれば誰もがかしずく。なのに今は、生まれたときから勝ち組人生を歩むことが決まっていた女に、
心も顔も貧しい負け組連中が嫉妬し、徒党を組み、女神を天空から地に堕とそうと躍起になっている。何てことなの。
ああ、底辺の人間なんかと関わるんじゃなかった。金持ちで高学歴で外見の整った勝ち組の男たちなら、自分の
人生に余裕があって自信もあるから、女神をねたむなんてことは絶対にない。私の美貌に宝石の価値を見出し、
さらに美しさを引き出してあげようと考えるはずだ。
中年オヤジが下半身のほうに歩み寄ってくると、美穂は両目を剥いてもがいた。
自分の人生の責任を私に押しつけないでよ!
そもそも人生は不公平なものだ。私みたいに天が二物も三物も与られることもある。私には美貌、知性、
運動神経――全てが備わっていた。その一方、美貌も知性も運動神経も人並みかそれ以下の由紀子みたいな女もいる。
社会に何の貢献もしていない中年オヤジもいる。そんな不公平を受け入れて分相応に生きなきゃいけないのよ、
人間は。恵まれた人間を蹴落とそうなんて、絶対に許されない!
中年オヤジは照射器を股ぐらに差し込み、スイッチを入れた。赤黒い可視光線が照射された。女性器目掛けて
一直線に発射されている。
「ひ、ひい! ひゃめへよ! おんなにとっへひょれがどんなにひょっくなことか、わかっへるの!?」
「分かってるよ。だからやるんだよ」
中年オヤジは平然と言い放った。
「ひゃ、ひゃめ……ひゃめなさいよ!!」
観客たちが「いいぞ、やっちまえ!」と歓声を上げる。会場は異様な盛り上がりを見せていた。
美穂は可視光線から逃れようと腰を左右に揺り動かした。革製のベルトで大の字に拘束されているため、動かせる
範囲に限度があった。懸命に腰を振る。
「頑張れ〜、タマちゃ〜ん!!」観客から野次が飛んだ。
一呼吸の間を置いて爆笑が広がった。美穂は遅れて気づいた。サザエさんに登場する猫だ。オープニングだか
エンディングだかで猫がリンゴの中から現れ、リンゴの上半分を持ち上げながらクネクネと腰振りダンスを披露する。
私の必死の抵抗をそんな滑稽なものに例えて笑い者にするなんて……。
「逃げるのやめちゃったのかな?」
中年オヤジに言われ、腰を止めていたのに気づいた。美穂は一瞬ためらったものの、笑われるのを承知で再び
クネクネと腰を左右に揺り動かし始めた。大スクリーンでは、ビロビロにされた襞がプルンップルンッと揺れている。
赤黒い可視光線は容赦なく女性器を追いかけ、照射してきた。
「ひやよ、ひや! ば、ばひゃなまねはひゃめて! ひろが、ひろが……」
赤黒い光線の中でも、襞にどす黒い色が沈着しはじめているのが見て取れた。もどらなくなっちゃう。私の大事な
部分が……綺麗なサーモンピンクだったアソコが黒くなっちゃう。
美穂はますます速く大きく腰をくねらせた。はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、と荒い息が鼻と口から漏れる。
「スゲー腰使い!!」
美穂は秘部の色を守ろうとただ必死だった。
はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ――。
中年オヤジは追跡を楽しむような顔でレーザーガンを小刻みに動かし、秘部を照射し続けた。腰を大きく左右に
揺り動かしても、レーザーは最小限の動きで――手首をわずかに動かすだけですむのだから、最初から勝負に
なるはずがなかった。10分も経つと、美穂の全身には汗の玉が浮き出ていた。息はセックスの最中みたいに乱れ、
顔は上気していた。
しかし、観客は誰一人として興奮の声を上げず、ただ、醜く変わり果てた女の滑稽で必死な腰振りダンスを
笑っているだけだった。
疲労に負け、腰の動きが緩慢になりはじめた。レーザーを逃れるために必死で動かしているつもりでも、実際は
クネッ……クネッ……クネッ……クネッ……クネッ……とスローモーションになっていた。激しい腰の動きを
続けたせいで脇腹はズキズキ痛み、背骨はひび割れそうだった。
さらに10分が経過したとき、美穂はぐったりと息絶えたように腰を動かせなくなった。ナマコ状態にされた
乳房が張りつく胸だけが上下している。
「も、もう……はあ、はあ、はあ……ひゃ、ひゃめ……はあ、はあ……ひゃめて……」
中年オヤジは「逃げなきゃ真っ黒になっちゃうよ〜」と笑いながら照射を続けた。美穂は再び腰をクイッ、クイッ、
クイッと動かしたが、可視光線を避けるだけの動きはできなかった。
5分後、中年オヤジが「終了〜」と声を上げた。美穂は恐る恐る大スクリーンを見上げた。巨大な画面には、
汚らしい女性器が――自分のものとは思えない女性器が映っていた。ビロビロに引き伸ばされたラビアは、黒墨を
塗りたくったみたいにどす黒く色素が沈着していた。サーモンピンクだった陰唇が完全に変色している。まるで、
黒焦げになった焼肉を二枚、ラビアからぶらんっと垂れさせているような有様だ。豆粒サイズだったクリトリスは
肥大して皮が剥け、黒色のナメクジに見える。下品で、みっともない、最低のおまんこだった。
乳首と同じく、舐めたらばい菌か毒に侵されそうな色合いと形だ。
こ、こんなのひどすぎる――。
永久脱毛された赤ん坊の股間にグロマン……これじゃあ、二度と男の前で服を脱げない。温泉だって無理。
女友達同士で旅行もできない。ああ、一生誰にも見せられないアソコにされてしまった。
取り返しがつかないという現実に打ちのめされ、美穂は失神しそうなほどのショックを受けた。心に深く
突き刺さる残酷な悪罵を観客が口にする。
「うわっ、臭そう!」
「腐ってるみたい!」
「きたねっ!」
美穂は耐え切れなくなり、大スクリーンから目をそらした。自分の身体にあんなグロテスクで見苦しいものが
ついていることが信じられなかった。身体の隅々まで――爪の先からまつげまで完璧に手入れし、染み一つ、ニキビ
一つない美貌を保ってきた。それなのに、女の一番大事な部分が……。
「まんこだけじゃなく、ケツ穴も汚くしてやるからな」
中年オヤジが言い放ち、大きく開かれた美穂の股の間に顔を差し入れた。
「この綺麗な色を二度と見れなくしてやる」
大スクリーンに映し出される菊門は桜色をしていた。セックスの際に後背位をとったとしても――男の支配欲を
満足させる犬のような体位は一度もとったことがないし、これからもとる気はないが――、恥ずかしくないくらい
鮮やかな色をしている。汚れは全く沈着していない。
「も、もうひゃめてよ」
中年オヤジは聞く耳を持たず、桜色の菊門に照射をはじめた。アナルの皺の隙間に墨を流し込んでいるように
だんだんと色素が沈着し、肛門が薄汚れていった。
15分後、尻の穴は、どす黒いウンチを排泄し続けてその色に染まってしまったようになっていた。
黒い菊門からは、茶色い排泄物ではなく、便秘で熟成してガチガチに固まった塊がひり出されそうに見える。
「スカトロ女優以下のケツ穴になっちまったなあ、ククク」
中年オヤジは満足げに笑い声を上げた。
美穂はショックと絶望感と惨めさのあまり、反論もできなかった。
由紀子は痛快で仕方がないという顔で笑っている。
「あ〜あ、これじゃあもう一生男は無理じゃない? どうすんの? もう勉強だけで生きてくしかないね〜」
由紀子は便所虫でも触るような顔で美穂のビロビロのラビアを弾いた。
「何かあんたみてると、生きてく元気がわいてきたなあ。ちょっと胸が小さいくらい、あんたに比べたら何の
ハンデにもならないもん」
由紀子は美穂の身体を上から順に眺めた。他人がコンプレックスに思っているだろう部分を見抜いて優越感に
浸る女特有の表情で、横山ノック状態に永久脱毛された頭、全剃り永久脱毛された眉、豚鼻に整形された鼻、
全抜歯された口、脂肪吸引でナマコがへばりついたようなしわしわの垂れ乳にされた乳房、焦げ茶に色素が沈着
したブツブツの巨大乳輪、肥大化した焦げ茶の乳首、永久脱毛されたパイパンの恥丘、ビラビラで真っ黒くされた
グロマン、黒く変色した肛門を、楽しむみたいに眺めていく。
「もう二度と美人面できないね。可哀想。私なら死んじゃうなあ。こんなになったら生きてけな〜い」
何も言い返せなかった。取り返しのつかない身体。もうどうしていいのか分からない。誰もがうらやむ女神の
美貌は永遠に戻らないの? 天から誰もを見下ろしてきた私が、誰からも見下される女に成り下がってしまうなんて。
悪夢としか思えなかった。
茫然自失の状態でショックを噛み締めていると、沈黙を嫌うように観客たちが残酷なリクエストを始めた。
女たちの嫉妬と敵意に満ちた声が会場に広がる。
「どうせなら臭い身体にもしてやってよ!」
「美人らしいいい香りしてるのが気に入らないからワキガにしちゃえ!」
「やっちゃえ、やっちゃえ!」
「アソコも臭くしてほしい!」
「そうしたらとことん惨めになるはずよ!」
何を言い出すの? 私から香りまで奪い去ろうというの? 目に見える美貌だけじゃ満足できず? なぜ観客たち
は一人の人間をここまで貶めることに賛成し、盛り上がれるのだろう。一体何が楽しいの? 私が惨めな気持ちに
なったらそんなに嬉しいの? なぜ私を惨めにしたいの?
「肌が綺麗なのが気に入らないから、ブツブツのニキビ面にしてやって!」
「賛成! 顔も身体もブツブツだらけになればいいのよ!」
「ニキビや吹き出物だらけにしちゃえ!」
男の観客たちも、「いいね。肌を汚くしてやるのは大賛成!」と同調する。
美穂は、男たちが同調したことにショックを受けた。なぜ? 私の肌を汚れ物にして何の得があるのよ! 男は
誰でも美人を見たら喜ぶものでしょ。テンションが上がるんでしょ。私みたいな絶世の美女と言葉を交わしたら、
それだけで何日か幸せ気分ですごせるんじゃないの? なのになぜ? なぜ私の美貌を奪いたがるの? 私が
毎日毎日磨いてきた白磁器のような肌をブツブツにして何が嬉しいの? ブスは存在自体が罪のはずでしょ。
美人は正義でしょ。ブスがやったら不快で迷惑で鬱陶しいことでも、美人がやれば嬉しくてありがたいものになる
でしょ。今の世の中、ブスが忘れ物したら『最低限の能力が欠如した馬鹿』で、男も忘れたものを貸すなんて
迷惑極まりないからウザがるけど、美人が忘れ物したら『おっちょこちょいで愛嬌のある可愛い子』で、男は我先に
と忘れたものを貸して仲良くなるきっかけを作ろうとする。誰もが美人を望んでいる。ブスは世界から一掃されれば
いいと思っている。なのに、最高の美人を醜くする意味なんてあるの?
観客の提案に対し、一人の美容整形外科医が困った顔でマイクを持ち、説明した。
「うーん、これは弱りましたね〜。リクエストを実行したいのは山々なんですが――」
美容整形外科医がそう言ったとき、美穂は『そこまでは現代医学でも不可能なんです』と続くものだと思った。
「――匂いや肌となると、一朝一夕ではいかないんですよね。今実施しても、効果が出るのは数週間先なんですよ」
予想した台詞とは違ったものの、安堵した。その場で効果を見られないなら観客が賛成するはずがない。連中は
目の前で罰ゲームを受ける被害者を見て楽しみたいだけなのだから。
しかし、観客たちは「それでもいいよ!」と一斉に叫んだ。「臭く汚くなるなら全然オッケー!」
美穂は信じられない思いで観客の声を聞いていた。連中はその場かぎりの罰ゲームを見たいんじゃなく、
勝ち組人生を歩んできた私が永遠に不幸になればいいと思っているのか。
そんなことして何の得があるの?
「早くやっちゃって!」
「二度と美人面できないようにしちゃえ!」
観客の中に聞き覚えのある声が混じっている気がした。大学の同期生の女たち数人の声にも思えた。
「じゃ、ま」美容整形外科医がアタッシュケースを取り上げた。「せっかくだから観客のみなさんのリクエストに
応えましょうか。成果が見られないからつまんないでしょうし、施術はさっさと終わらせちゃいますよ。大丈夫。
病気なんかにはならないから。ただ臭くなるだけ」
ただ? 女にとってアソコが匂うってことがどれだけつらいか知ってるの? 冗談じゃない。グロマンに相応しい
悪臭が漂っていたらどうなる? 男は萎えるだろう。性器の形が奇怪でも、女の穴だから自分で処理するよりは
ましだろう、と思う男ですら、穴を使いたいと思わなくなるんじゃないの? そんな程度の男にすら避けられる
アソコにされたらもう生きていけない。
「即効性はないんで、しばらくは美しい匂いと肌で生活できますよ。それに、施術したからといって必ず
効果が出るわけじゃなく、発生のリスクが30倍くらいに高まるだけなんです」
別の美容整形外科医がゴム手袋をはめ、ガラス製の小瓶を取り出して蓋を開けた。傾けて液体を指に垂らす。
茶色いクリーム状の液体が指先に盛り上がる。
「これはね、膣内のデーデルライン桿菌っていう善玉菌の働きを低下させる薬剤と、ガルドネレラみたいな細菌を
混ぜ合わせたものでね。早い話、デーデルライン桿菌が減少したら雑菌を殺せなくなるから、悪臭のもとになる
細菌が繁殖するってわけ。あっ、洗っても無駄だよ。洗ってどうにかなるくらいなら、細菌が原因の膣炎だって
洗うだけで治せることになっちゃう」
美容整形外科医が指先を股の間に近づけてくると、美穂は叫び声を上げた。
「ふざへないへよ、ばかっ! ゆ、ゆるしゃないから!!」
「強力な雑菌だから薬でも死なずに何年も常駐し続けて、日々繁殖するんだ」
美容整形外科医の指が容赦なく膣内に挿入された。
「ひっ!!」
菌入りのクリームを塗られる不快感――生理的な嫌悪感があった。
膣内の壁をまさぐるように指が動いている。まんべんなく塗り込めるつもりだろう。
「ひゃ、ひゃめへっていっへるでしょ! ころふわよ! ぜっはいころひてやるんだから!」
一通り塗り終わって指が抜かれると、美穂は肩で息をしながら美容整形外科医を睨みつけた。男はひるんでも
いないようだった。こんな貧弱な体の中年男、手足さえ自由なら両腕の骨くらいマッチ棒みたいにへし折って
やるのに!
「じゃあ、次は脇だね」美容整形外科医はしれっとした顔をしていた。「ワキガはね、アポクリン汗腺が分泌する液体
を細菌が分解することで起こるんだよ。だから薬でアポクリン汗腺の分泌力が過剰になる体質に変えてしまう。その
後は細菌をすり込むだけ。手術治療でも完全に治すことはできないからね。アポクリン汗腺をできるだけ切除して汗
の量を減らして、悪臭を軽減させるのがせいぜいだから」
恐怖心やショックを煽るように言うと、注射器に液体を吸い上げ、静脈に針を刺した。腕は二人の美容整形外科医
に押さえられているせいで動かせない。ポンプが押し込まれ、正体不明の液体が体内に消えていく。
「ば、ばひゃなまねはひゃめて!」
抵抗もむなしく液体は全て静脈に流し込まれた。
「効果は抜群だからね〜。これで多汗体質に変わっちゃうよ」
美容整形外科医は別の容器から粘着質の液体を掬い取り、スベスベで綺麗な脇に塗り始めた。脇を締めようと
腕に力を込めるも、革製のベルトで大の字に拘束されているため、無駄な足掻きだった。
「皮脂腺に入り込んで増殖するから洗っても駄目だよ」
美穂は美容整形外科医を睨みつけた。美が台無しになるリスクを高める施術なんて信じられない。発症したら
私は一体どうなってしまうの?
「さてと、最後のリクエストだね。肌、か」美容整形外科医は懐中電灯にも似た照射器を5つ取り出した。「ニキビの
原因って何か知ってる? 肌の質も影響してるけど、薬の連用や洗いすぎも原因になるんだよね。でも一番悪影響が
あるのは細胞を傷つけるレーザー照射なんだ。医療行為でよく使われるあれ。正常な肌機能が低下するんだよね」
だから何なのよ。私にそんなことしたら絶対許さないから。私の頼みなら喜んできいてくれる男たちに命じて
復讐してやるから!
美容整形外科医はマイクを持ち、「施術に興味がある人はいますか!?」と観客に呼びかけた。大勢の人間が
名乗りをあげ、5人が選ばれた。全員が女だった。女子高生から中年女までと年齢層が広い。誰もが男から
告白された経験もなさそうな顔立ちだ。こんな下品な顔した連中に嬲られるなんて……。
照射器を受け取った5人は、クリスマスプレゼントを貰った子供の顔をしていた。
「これで光を当てるだけで汚い肌になるんでしょ? 面白そー♪」
「吹き出物ができるリスクが30倍だって」
「染み一つないこの脚、見てると何だかムカつくのよね〜」
「肌もホント綺麗。私なんかさ……」
努力もしないで他人に嫉妬する人間は最低! 私は、寝転んでお菓子を食べながら漫画を読んでばかりいるような
ズボラ女とは違うのよ。自分の美貌を自覚してからの10年間、合計20000時間近くは美容に費やしてきた。
毎日毎日、一日も欠かさず美を磨いてきた。ぐうたら食っちゃ寝、食っちゃ寝してきたあんたたちとは身体の価値が
違うのよ! ドブの中の石ころと、ショーウインドーの中の宝石くらい違うんだから!
悔しさを噛み締める間もなく、女たちがスイッチを入れてオレンジの光を照射はじめた。
「私、顔をいただくわ」中年女が愉悦に満ちた顔で言う。
「じゃあ、私はこの太もも!」
「え〜、じゃ、私は肩で我慢する」
ひいっ、よってたかって何よ! 何すんのよ!
「ひゃ、やめなしゃいよ! あんひゃたちにわはしのはだのかちがわはるっへいうの?」
「もう充分幸せな人生を満喫したでしょ」中年女は才能と努力不足で不幸になった自分の人生を呪うような口調で
美穂の顔に照射を続けた。「あたくしは下民とは違うのよ、みたいな顔してさ」
「あんひゃたちみたいなたにんをきずつけるにんげんにそんざいかひなんへないのよ!」
「あんたに言われたくないわよ」
「わはしはね、あるひてるだけで、みちゆくひとたひをしあわへなきぶんにしてきはのよ!」
女たちはますます敵意と嫉妬にあふれた顔をし、光を顔に、胸に、腹に、脚に、当てていく。
美穂は照射から逃れようと身体をよじり、顔を背け、脚を揺り動かした。女たちは「きゃはは」と笑いながら、
血統書付きの猫をいたぶる野良犬の顔で照射を続けた。中年女は二重顎を震わせながら陰険に冷笑している。
自分には永遠に取り戻せない”若さ“を持つ女に――自分には生まれたときから与えられなかった”美貌“を持つ
女に、嫉妬しているのだろう。
「ほ、ほんひょにひゃめてよ!」
嫌がれば嫌がるほど、女たちは陰湿な笑みを浮かべ、光を縦横に動かした。
オレンジ色の光の輪が頬を襲い、胸元を襲い、へその周りを襲い、腰元を襲い、太ももを襲う。腰を浮かして身を
ひねると、丸みのあるヒップに光が当てられる。もう逃げることはできなかった。
15分後、女たちは満腹の表情でスイッチを切った。
「これだけ照射したら、どこかには効果が出るでしょ」
「いい気味だわ」中年女は豚みたいに鼻を鳴らした。「ざまあみろよ。ああ、爽快!」
私の輝く人生に嫉妬するなんて最低。あんたみたいな日陰の女は、まぶしい太陽から目をそらすようにして
分をわきまえながら生きていればいいのよ!
美穂にとってニキビや吹き出物のリスクを背負うことは、HIVと同じようにショックなことだった。陽性に
なったらいずれ訪れる災厄に怯えながら生きていかなければならない。それは幸せを掴んだとたんにやってくる
可能性だってある。
大の字に拘束された美穂は、息も絶え絶えだった。
「そろそろ敗者への罰ゲームも許してやろうかな」
利尿剤を盛って勝った久恵が、チャンピオンベルトを腰に巻きながら言った。
ああ、これで開放されるのか……。
取り返しのつかない罰ゲームを実行されたにもかかわらず、美穂は安堵を覚えた。永遠に続くように思えた
ブス整形のリンチ。ようやく開放される。安堵したら反抗心や気力は全て消えうせてしまった。
屈強な男3人が皮製ベルトを外すと、美穂はしばらく大の字になったまま動かなかった。いや、動けなかった。
全身を打ちのめす疲労感、絶望感、そんなものがない交ぜになり、身体を起こすのさえ億劫だった。
「ほら、美穂。最後よ。私と戦った元チャンピオンとしてポーズをとりなさいよ」
美穂は久恵を見た。一体何を言っているの?
「自慢のポーズも忘れたの? リングインしたときと勝ったときとするでしょ」
久恵に二の腕を掴まれ、強引に立たされた。
「ほら、しゃきっとしなさいよ」
命じられるまま、数え切れないほどとってきたポーズをとった。両手をウエストに添え、腰を右側に少しスライド
させ、なだらかな体のラインを強調する。いつもの決めポーズだった。グラビアアイドルさながらの絵になると
自覚していたポーズ。しかし今は違う。
スラリと伸びたモデル同然の美脚、丸みを帯びた鮮やかなラインのヒップ――完璧なスタイルを下から順に
見上げていくと、黒く変色したビロビロのグロマンと無毛の恥丘があった。引き締まったウエストと可愛らしい
へその上には、醜い惨めな垂れ乳があった。肌色のナマコ状態の二つの乳房は真下に垂れ、腹にへばりつき、
焦げ茶色の肥大化乳首が矢印のように地面を指し示している。悲惨な胸が圧倒的な存在感を示しているせいで、
非の打ち所のない身体もくすんでいた。シャープな顎のラインと、二重で大きい瞳が綺麗な美顔には、豚の鼻と
歯抜けの口、波平頭があった。
足元には、いまだ光り輝く美髪の絨毯が敷き詰められている。背中全面を覆うほど豊かに流れ落ちていた自慢の
黒髪の死骸だった。それは10年の人生を終え、リングに無残な死に様を晒していた。失ったものの大きさに
悲しみが突き上げてくる。
格好いいポーズと醜い身体のアンバランスさに観客が爆笑した。リング下からはフラッシュが焚かれる。
女として最も光り輝いていなくてはいけない部分――長い黒髪、筋の通った鼻、真っ白い歯、美しい声、
豊満で形のいい乳房、桃色の乳首、整った陰毛、サーモンピンクの女性器――を全て奪い尽くされ、惨めな醜女に
貶められてしまった。
ああ、私はこれからどうしたらいいのだろう。
醜い身体でグラビアポーズをとりながら、美穂は漠然と考えていた。
――日常篇へ続く――
男なんて高級和菓子にたかるハエのように群がってきた。和菓子の価値が落ちたら困るから、何十匹もハエ叩きで
叩き潰してきた。私以外の女なんて大半はそんなハエがお似合いのブサイクな連中だった。女神の美貌の前では
誰もが霞んでいた。それなのに高級和菓子はたかるハエに汚く貶められてしまった……。
開放された美穂は控え室に駆け込んで服を着込み、顔にシャツを巻いて容貌を隠し、逃げるように会場を出た。
タクシーを拾い、運転手から奇異なものを見る目を向けられながらも、マンションに帰った。
住み慣れたマンションの自室に入ったとたん、現実に引き戻され、動揺した。試合会場は異様な雰囲気だった。
誰もが麻薬中毒者さながらハイになり、敗者にはどんな罰でも許されるような空気が充満していた。だから、
信じがたいほど非人道的な目に遭わされても、どこか非現実世界の出来事みたいに感じていた。しかし、自室に
戻ると、失ったものをいやでも実感させられた。
部屋には数多くの表彰状やトロフィーや写真が飾ってある。栄光の軌跡だった。中学で優秀な成績を収めて
表彰され、空手の大会で優勝し、高校のミスコンで優勝し、地区対抗の水泳大会で準優勝し、テニスの県大会で
ベスト4。完璧な人生のハイライトがここにある。絶世の美女が金色の王冠を頭に載せている写真、空手着姿でも
女らしい見事な肢体が想像できる姿で表彰台に立っている写真、水着姿で銀メダルを掲げて笑っている写真、
引き立て役にすらならない部活仲間たちとテニスウェアで写っている写真――どれもが過去の栄光で、今後は一生
手に入らないものだった。
高校の教師が殺されたというニュースを聞いたとき、周囲の目をひきつけたくて涙を流したことがあった。
そんなときは、顔の造作を全く崩さず、長いまつげを伏せ、目元から真珠のような涙を一粒、流して見せた。
新聞記者が迷わず写真を撮り、翌日の一面を飾った。『教え子の悲痛』という見出しとともに。
一時的に学校に問い合わせの電話が――あの美少女は誰かという電話が相次いだという。当然のことだから、
私の崇拝者が盛り上がっても気にせず、澄まし顔で椅子に座っていた。
常に美しい私。そんな私はもういない。
今日はもう寝よう。今は何も考える気になれない。
洗面所へ行き、超ミクロの特殊スポンジが先端に付いている歯ブラシと、亜塩素酸ナトリウム配合の専用液を
習慣で取り出し、美穂はあっと声を漏らした。そうだった。毎日朝昼晩と磨き続けてきた輝く歯はもうないんだ。
自業自得で私に鼻をへし折られた男の逆恨みで全抜歯が提案され、観客30人に次々と抜かれたんだった。
ああ、私の輝く歯が……鏡の前で笑顔を作るたび、蛍光灯の光にきらめいた真っ白な歯が……私にはもうない。
一生ない。この超ミクロの特殊歯ブラシも専用液ももう使うことはない。
怖くて鏡を見ることができなかった。
美穂は疲労感に打ちのめされた。寝室に行き、ベッドに倒れ込むと、泥のように眠ってしまった。
目覚めたのは昼の4時だった。長い悪夢を見ていたようだった。上体を起こしたとき、枕の上方から
引き連れられてくる黒髪の重みがなかった。いつもなら起き上がったとたん、背中一面にファサッと美髪の感触が
あるのに……頭は不自然に軽い。
美穂は動悸を覚えながら、恐る恐る自分の頭部に手をやった。20年間、あって当たり前だった感触がない。
極細の絹糸を梳くような感触の代わりに、ゆで卵を撫でたような感触があった。
「ひっ、ひいっ!」
悪夢の記憶がよみがえる。椅子に拘束され、久恵が近づいてきた。背中全面を覆いながら腰元まで流れ落ちる
黒髪をニヤニヤ見つめながら、バリカンのスイッチを入れる。凶悪なモーター音が頭に迫る。頭髪のど真ん中に
刃が滑り込み、長さ1メートルの髪の束がバサバサと足元に落下する。ハサミがサイドの髪も短く切り刻む。
ショックから立ち直る間も与えられず、ドイツ製の永久脱毛剤が塗られた。刻一刻と時間が過ぎ、他人の気持ちを
想像できない無神経な観客たちが楽しむようにカウントダウンする。5分後、髪は毛根から脱毛し、青白かった
頭部が肌色のハゲ頭になった。耳にこびりついて離れない爆笑、嘲笑。
自慢の美髪は永遠に奪われてしまった。
美穂は重い腰を上げ、鏡台の前に立った。勇気を振り絞って鏡を覗く。豚鼻で眉なしの波平頭があった。目も
輪郭も肌も美顔を保っているのに、鼻は真正面を向いて大きな穴を主張し、頭はサイドに黒髪を残して無残に
禿げ上がっている。
信じられない姿だった。
「ひひゃあああっ!」
美穂は絶叫し、鏡の前から逃げ出した。髪が……髪が……私の髪が……こんなの私じゃない。
しかも惨めなことに悲鳴も舌足らずだった。美穂はショックに打ちのめされ、ベッドに突っ伏した。一人で自室に
いながらまともに喋れない――それは、別世界のような会場にいたときより怖かった。これは現実だった。
「わひゃひのこへはどうなっへるの?」
声に出してみた。赤ん坊と老婆を足して2で割った声。喋れない。誰にも意思を伝えられない。これが毎日毎日、
死ぬまで続くの?
心臓が苦しくなり、息も満足にできなくなった。
悲しみやショックは次第に怒りに変わった。会場にいた全員を憎く思った。許せない。
久恵や坂田や中年オヤジや女子高生たちは、面白半分の復讐心と嫉妬で私の美貌を奪った。観客たちは一時の
ノリで私を惨めな姿にすることを望んだ。誰もが、楽しければいいや、勝ち組女の不幸は痛快だ、という醜い
興奮を満たすために好き勝手を言い、残酷なアイデアを次々に提案したけど、それらを実行された私はその姿で
これからも生きていかなきゃならない。
観客の誰もがもう私のことなんか忘れて日常に戻っているだろう。ああ、勝ち組女の惨めな姿を楽しんだ、と
一日に満足しながら。せっかく罰ゲームに参加できるんだから参加しなきゃ損だ、みたいなノリで名乗りを上げた
連中は、抽選に当たると、1人1本ずつペンチで私の歯を抜いた。商店街の掴み取りで商品をゲットしているような
気軽さで。
私の歯を面白半分で抜いた連中は、今ごろ楽しく友達と遊んでいるのだろう。だけど、私の人生はあの一日では
終わらない。誰も思い至らなかったのだろうか、私の人生はずっとずっと続くことに。
悔しかった。観客たちのたった一日のストレス解消のために自分の一生が――未来が――希望が、全て
踏みにじられ、台無しにされたことが。それとも何? 観客の誰よりも恵まれた人生を20年間も送って
きたんだから、残りの人生は誰よりも惨めで悲惨に生きろ、それが公平だろ、とでも言いたいの?
勝ち組の人生に選ばれた女神が勝ち組のまま生きて何が悪いのよ! 生まれたときから人生の勝運に見放された
醜い人間たちは、本当に最低。心まで醜いなんて。
美穂は空腹を覚え、冷蔵庫を開けた。美容のために毎日食べているリンゴが4つ切りにしてある。一切れ取り出し、
齧った。柔らかな歯ぐきと歯ぐきがリンゴを挟んだだけだった。噛み切れない。何てことなの。
美穂はショックを受けた。
冷蔵庫から伊勢海老を取り出し、ナイフで身を切って口に入れる。身が口の中で軽く押し潰されただけだった。
美穂は思わず海老を壁に投げつけた。激突した瞬間、殻が砕け、そして床に落下した。好きなものもおいしいもの
も食べられない。以前は、朝は野菜中心の食事を軽く食べ、昼は学食ではなく男の奢りで大学裏のイタリアン
レストランに行き、夜は同じく男の奢りで老舗の日本料理店に行った。カロリーや栄養を気にしながらも、最高の
食事をしてきた。なのに今はリンゴ一つ海老一つ齧れない。
惨めすぎる。私をうらやむ連中もこんな惨めさは経験したことがないはずだ。低俗な連中が今の私の姿を見たら、
一体何と言うだろう。いい気味? ざまあみろ? 可哀想?
悔しさに唇を噛み締めたいのに、歯がない。
美穂は夕方まで呆然としてすごした。空腹に耐え切れなくなると、帽子を目深にかぶり、マスクで顔を隠し、
コンビニへ行った。豆腐やウィダーインゼリーを購入した。噛まずに食べられるものを買うしかない。
部屋に戻ってウィダーインゼリーを吸うと、袋がしわしわに縮んだ。自分の口元や乳房を連想してしまい、
吐き気を覚えた。
一番惨めな気持ちになるのは、お風呂に入るときだった。服を脱ぐと、黒く変色した性器やナマコみたいに垂れた
乳房が嫌でも目に入る。眉毛の先から爪の先まで完璧に手入れし、磨いてきた身体の成れの果て。私を見た男全員を
魅了し、私を見た女全員を嫉妬させた身体だったのに。
浴室の鏡は取り払ってあるが、胸や股間は鏡がなくても見えてしまう。最悪の気分だった。誰もが女神扱いした
私の美貌が奪われてしまった。ゴミ箱に捨ててもいくらでも代わりがいるような連中の嫉妬のせいで。
入浴時には細心の注意が必要だった。足の指の爪を剥がされた部分にお湯がかかると、剥き出しの神経にハンダ
ゴテを当てられたような激痛に襲われるため、足をビニール袋の中に入れて足首の部分をゴムで縛り、即席の防水
対策をしなければいけなかった。浴槽に浸かるときも大変だった。まず大理石の両縁を両手で掴み、体操競技の
平行棒をするみたいに全身を支え、下半身を持ち上げる。真横から見たらV字だ。その体勢のまま徐々に体を沈め、
腰からお湯に浸かる。両足のふくらはぎから先はお湯から出していないといけない。
美穂は垂れている乳房を持ち上げてみた。びろーんという感じで張りがない。手を離すと、ナマコ乳房はペタッと
腹に落ちた。
何で私がこんな目に――。
お風呂に入るたび、そう思ってつらくなる。以前は時間をかけて丁寧に洗っていたのに、今は適当に終わらせて
いる。美肌を保つためのケアを頑張って続けても、豚鼻や垂れ乳が治るわけでもましになるわけでもない。醜い
身体をいくら磨いても、人間には及ばないのだから――こんな卑屈な考え方をする自分がいやだった。惨めだった。
勇気を持ち、愛用の洗顔クリームで顔を洗った。手のひらが撫でた感触――豚鼻の感触にショックを受け、
顔に泡をつけたままベッドに駆け戻り、布団に潜り込んで泣いた。
女神の美貌が……グラビアアイドルすらうらやむ私の美貌が……。
化粧品類、美容グッズ、ブランド物の衣服やバッグ――全てがガラクタに見えた。これらは美人にこそ似合う
品々だ。高級な衣服も化粧も美人が身に着けるから映える。世界の華となる。なのに……。
人間としての自信を奪われ、鏡を見るのに耐えられない。前は化粧しているときが一番楽しかった。自分が最も
美しく見える角度を探し、決め顔を作る。なのにもう今は無理。どんな表情も滑稽に見えるだけだ。そうか、ブスは
こうやって笑顔が死んでいくのか。
翌日になると、専門店で毎月購入している『薬用バージンピンク』を取り上げた。これは、メラニンの生成を
抑制し、乳首と乳輪を桜色に保つ製品だった。7年間の愛用品だ。中学に入学したころから、汚い乳首の女に
ならないよう、毎日、乳首と乳輪とアソコに塗っていた。
美穂は乳房を見た。腹にへばりつく垂れ乳の先端には、肥大化した乳首と巨大化したブツブツの乳輪があり、
焦げ茶色の色素が沈着している。下品な色と形に変わり果てている。毎日毎日、欠かさず手入れして綺麗な桜色を
維持してきたのに、一日にして――陰湿な器具で十数分照射されただけで台無しにされてしまった。
自慢の身体だったのに……。
久恵が整形の希望を募る投票用紙を観客に配ると、リクエストには、『桜色の乳輪を大きくして焦げ茶色のブツブツ
乳輪にしてやれ。そうしたら気持ち悪いはず』とか『乳輪も乳首も色素を沈着させて焦げ茶色にしてほしい』とか
『乳輪も大きく色も汚く!』とか書かれていた。私が悲しむ姿を見たいサディストの男か、私の美貌に嫉妬する
女か、いずれにしても、生徒が作った粘土細工の女神の彫刻に醜いパーツを付け足す悪戯でもするような気軽さで
書かれたリクエストだった。
私が7年間、桜色の乳首を保つためにケアを続けてきた事実を知っていたら、連中はリクエストしただろうか。
投票用紙には、『ついでにオマンコもヒダをビロビロにして色素を沈着させ、真っ黒くして』と書かれていた。
“ついでに”って何よ。ケーキを注文した後に果物を一個つけてほしい、と頼むような軽さじゃない。おまけ
みたいなノリで私のアソコは黒く変色させられたの? 他の投票用紙には、『まんこもケツ穴も汚くしてやって
くれ!』とか『オマンコと肛門を黒くするのもいいな』とか書かれていた。誰もが私の毎日の努力を知らず、
そんなことをされたら私がどれだけショックを受けるか想像もできず――いや、それとも、私がどれだけショックを
受けるか想像できたからこそリクエストしたのだろうか。
観客のリクエストを実行してレーザー照射したのは、自分の冴えない人生を私に責任転嫁する痴漢の中年
オヤジだった。最低の人間だった。女の美を傷つけるようなクズだから、そんな性根を見破られて疑われ、
同僚や妻子から嫌われ、捨てられるのよ!
美穂は悔しさを噛み締めた。
7年間の地道な努力がたった十数分で台無しにされるなんて。
悪夢としか思えなかった。
美穂は苛立ち、『薬用バージンピンク』を壁に投げつけようと振りかぶった。そこで思いとどまる。
一縷の望みを抱き、無意味と知りながらも焦げ茶色の乳首と乳輪と黒いアソコにクリームを塗り始めた。
『薬用バージンピンク』は綺麗な色を保つためのクリームであって、茶色くなった色をピンクに戻す薬ではない。
それは分かっている。分かっているけど、塗らずにはいられなかった。
焦げ茶色に変えられてしまった乳首と黒く変えられてしまったアソコ。
私の7年間の努力は一体何だったの?
今はとにかく悲惨な部分を隠す方法が必要だった。
美穂はパソコンを起動させて専門店のHPへ行き、理想のウィッグを探した。背中の真ん中まである人毛の
フルウィッグは10万円だった。
アデランスのようなところに行けば良質のカツラが作れるかもしれないが、スタッフに頭を見せたくない。以前の
私からしたら雑草にしか見えない容姿の女に対応され、哀れみと優越感のチラつく顔で診察されたくない。エステ
でも主導権を握るのは私だった。エステティシャンは私の美貌に感嘆し、ガラス細工を扱うように私の身体に恐る
恐る指を触れる。それなのに、カツラや育毛の専用店に行き、見下されながら治療されるなんて絶対に耐えられない。
3日後、眉を描くと、届いたフルウィッグをかぶった。手のひらで鼻と口を隠し、恐る恐る鏡を覗き込んだ。
そこには以前の顔があった。流れる黒髪、弓なりにカーブする眉、アーモンド型の大きな目、シャープな顔の
ライン――残念ながら、髪は、毎日の絶え間ないケアで磨き上げた美髪には及ばない。昔の私が一日入浴を
怠った後で鏡を見たらこうなっているだろう、という髪質だ。でも、輝く髪を毎日見てきた私だから差に
敏感なだけで、他人の目には以前と同じに見えるだろう。
美穂は垂れきった乳房を二つに折り畳むと、パッド入りブラの中に押し込んだ。外見上は美乳に見える。
最低限の体裁は整えられた。
美穂はマスクで鼻と口を隠すと、歯科医院を訪ねた。総入れ歯を作るためだった。受付の女にも口は見せず、
来院目的を書いたメモを見せるにとどめた。50歳くらいの歯科医は、美穂の口を見たとたん、驚きの顔で固まった。
一体どうされたんですか、との質問には、事故に遭ったの、と説明した。口から出た声は、『ひこにあっはの』と
聞こえた。それでも意味は通じたらしい。
20歳の女子大生の身で総入れ歯――これほど惨めで情けないことはないだろう。自分の歯で何も噛めない。
二度と輝く真珠の歯は戻らない。ショックな現実だが、総入れ歯は必要なことだった。
美穂は顎関節の徹底した検査を受け、治療方針を聞き、カウンセリングを受けた。
「製作には時間がかかりますよ」
「さいたんでつふって。こんひゃこえじゃ、せいかふもできはい」
「うーん、最短だと1週間、ですね」
妥協するしかなかった。1週間なら大学を休んでも留年することはない。
それからの1週間、美穂は電話にも出ず、チャイムも無視して引きこもってすごした。大学の友達数人が
『大丈夫? 病気か何かなの?』と訊いてきたメールにだけ返信した。
『風邪をひいただけ』
夜になると、自然にため息が漏れた。
今日もお風呂に入らなきゃ……。
今まではお風呂が大好きだった。体を綺麗にし、美を保つための入浴。しかし、今は違う。入浴には一日分の
勇気を振り絞り、決意しなくてはいけない。
美穂は浴室の電気を消し、スチール缶に入った細いアロマキャンドルに火をともした。
真っ暗な浴室内を炎が淡く照らしている。蛍光灯の豆電球よりも暗いため、最低限の視界しかない。腕や足の
先は薄闇の中に溶け込んでいる。垂れた乳房やビロビロにされた性器をはっきり見ずにすむようにだった。
自慢だった身体は――日々磨きがかかる身体は毎日見ても見飽きなかったのに、今では電気を消した部屋でしか
服を脱げない。悲惨すぎる。悲しすぎる。
その場かぎりの興奮のために私の輝く人生を奪った観客たち。本当に最低。私はあなたたちとは違うのよ。
毎日毎日光の世界の中心になって生きてきた。それをこんな姿にするなんて……。
美穂は暗いバスルームで衣服を脱いだ。ブラを外すと、二つ折りにしていた乳房が垂れて腹にペタッとへばりつく
感触があった。極力身体の惨状は想像しないようにした。ウィッグを外し、全裸で浴室に入る。
暗闇の中だと、少し気分が落ち着いた。鏡がないから無毛の頭は見えないのに、蛍光灯の明かりに晒しているのが
耐えられなかった。明るい中だと、無防備で惨めで恥ずかしい。“暗くて見えない”という事実がいくらかの安心感を
与えてくれる。
美穂は浴槽には浸からず、身体を洗い始めた。以前は入浴がリラックスタイムだった。マロニエエキスや
ヒアルロン酸配合の入浴剤を入れ、お湯でほぐれた肌の角層深くに成分が浸透して蜜肌を作る湯に30分は
浸かった。蜂蜜のようになめらかで輝く肌を生むために。優美なローズの香りを身にまとうために。でも、今は
違う。全裸は最も惨めで屈辱的な状態だ。1分でも早く服を着たい。ウィッグをつけたい。髪のない頭や垂れた
乳房を隠したい。
暗闇の中で目をそらしながら性器を洗った。焼肉用の生肉が二つ垂れ下がっているような感触があった。
手のひらでボディーシャンプーをこすりつけるたび、ビラビラのラビアが左右にめくれた。醜く変形した陰唇を
いやでも実感させられた。
涙をこらえながら洗うと、今度は泡立てた専用タオルで胸を洗った。パッド入りブラの中で二つ折りにしていた
乳房は、折れ目の部分に汗が溜まって汚れているだろう。触るのさえいやでも丁寧に洗わなくてはいけない。
ナマコ状態の乳房を持ち上げ、腹部にへばりついていた裏側をタオルで洗った。脂肪が吸引されたせいで皺に
なっている部分も汚れが溜まりやすい。そこも丁寧に洗った。触っているだけで涙がこぼれ落ちそうになる。
全身を洗い終えると、毛穴に詰まった汚れも落とせるマイクロバブルシャワーで泡を流した。
美穂は惨めさを噛み締めながら、50mlで5万円の天然ハーブのシャンプーを手のひらに出した。こんな
高級なシャンプーで何を洗うっていうの?
卑屈な気分になりながらも、手のひらで泡立てて頭に“塗った”。ツルツルした感触だった。石鹸のせいで
小鳥も足を滑らせそうなほどだ。死にたい気分になる。
以前の20分の1の時間で髪が洗えてしまう。その事実がショックだった。
シャワーで流し終えると、もう何度目かも分からないため息をついた。セクシーに見えた私の濡れ髪はもう一生
見られない。感触で頭の状態が想像できてしまう。今は肌色の頭皮に水滴が散らばっている光景があるだろう。
風呂上りに鏡を見て悦に入ることはもうできない。
私はもうずっとこんな惨めな思いを噛み締めていかなきゃいけないの?
美穂は一度浴室から出ると、ウィッグを持って戻ってきた。
これも洗わなきゃ――。
美穂は薄闇が漂う浴室でタイルにペタンと尻を落とすと――正座に近い格好だ――、水を入れた洗面器にダメージ
ヘア用シャンプーを溶かし、真っ黒の人毛ウィッグを浸した。タイマーをセットし、10分経つまで身じろぎせず、
洗面器の中のウィッグを見つめ続けた。
タイマーが鳴ると、ブラシを使い、泡立った洗面器の中でウィッグを溶かし洗いした。アロマキャンドルの揺れる
炎が美穂の影をタイルに刻んでいる。サッカーボールを真後ろから照らしているように真ん丸い頭の影が炎に
揺らめいている。バリカンで刈られ、永久脱毛剤でツルツルにされた頭の形だった。
全裸の美穂は、薄暗い浴室で一人、自分の惨めな頭の影を見ながら、ただ黙々とウィッグを洗い続けた。
ウィッグを流水ですすぐと、リンスを溶かして1、2分待った。そして、雑巾を絞るように黒々としたウィッグを
絞った。
3日に1度はこんなふうにウィッグを洗わなくてはいけない。1年で120回、10年で1200回、私は
ハゲ頭を晒しながらウィッグを洗い続けなくてはいけない。惨めすぎる。
毎日楽しみにしていたお風呂がこんなにも苦痛な時間になるなんて……。
以前の私はスポットライトや太陽のまばゆい光が似合う絶世の美女だった。華やかさの象徴だった。なのに今は
薄暗い場所のほうが安心する女に成り下がってしまった。輝いていた美貌の身体はもはや存在せず、闇の中に隠して
おきたい醜い身体が残っている。
風呂から出ると、さっさと身体を拭いた。頭はあっという間に乾いた。毎日30分はかけてケアしていた美髪は
もうなく、剥き出しの地肌はタオルで撫でただけで水気が消えた。パッド付きブラの中に折り畳んだ乳房をしまい、
丸首のロング丈Tシャツを着て、白のショーツと膝丈の灰色のスカートをはいた。普段なら入浴後は堅苦しくない
服を着るのに、今は自分の身体に自信がないせいで外見だけでも着飾らなくては精神の安定がはかれない。
人毛ウィッグを乾いたタオルで包んで水気を取り、ドライヤで乾かしてかぶり、禿頭を隠した。眉を描く。
これで豚鼻と歯抜けの口以外は昔の美貌をある程度取り戻している。
美穂は豆腐とおかゆで夕食を終えると、サプリを飲み込んで最低限の栄養を補給した。
尿意を覚え、トイレに入った。ショーツを下げて太ももの先に絡ませ、洋式便器に腰を下ろす。欲求のままに
膀胱を緩める。次の瞬間、小便がピピピピピッと前後左右に飛び散った。
嘘!?
反射的に腰を上げてしまい、小便が辺り一面に飛散した。
「な、ななななな……」
慌てて腰を下ろした。
何が起こったのか分かったのは、排尿を終えてからだった。由紀子や中年オヤジに伸ばされたラビアのせいだ。
尿道を包むように2枚の陰唇が垂れているため、小便が壁に乱反射するみたいに飛び散ったらしい。信じられない
状態だった。シミ一つないモデル然とした太ももに小便の水滴が付着し、膝に絡むショーツまで流れ落ちている。
個室の中にも液体が飛び散り、アンモニア臭が漂っていた。
おしっこも満足にできないなんて……。
あまりの惨めさに愕然とした。
美穂は濡れたショーツと、液体で黒く変色したスカートを脱いで汚物箱の上に置いた。丸首のロング丈Tシャツ
だけの下半身裸でトイレットペーパーを引き出し、太ももを拭いた。陰部の周囲も汚く濡れそぼっている。
大量のトイレットペーパーを便器に捨てると、一度水を流した。それから便座の周囲やタイルの掃除をはじめた。
誰もがうらやみ憧れる女神のような存在だった私。世界は自分のものだと思って生きてきた私。そんな私が
下半身裸で便器に飛び散ったおしっこを掃除している――自分の滑稽で惨めな姿を思い知らされ、泣きたくなった。
人間としての尊厳は?
トイレ掃除には30分以上かかった。それでもアンモニア臭は取れていない。今度、消臭剤を買ってきてトイレに
撒かなくてはいけない。
次から用を足すときは、両手でラビアを引っ張って尿道を開放しよう。そうしないと、またおしっこが一面に
飛び散ってしまう。
もう、疲れた。
今日は寝よう。
ウィッグをつけたまま寝ると、髪を痛め、元通りに戻すのに手間隙がかかるという。枕との摩擦でも痛むらしい。
寝るときは仕方なくウィッグを外してベッドに入った。頭部に枕カバーのザラザラと冷たい感触が触れる。
ツルツルの後頭部に枕カバーがペッタリと張りつくようだった。
気持ちいいはずの就寝の時間まで惨めさを噛み締めなきゃならない現実に、涙がこぼれそうだった。少し身じろぎ
しただけで頭部に吸いついた枕の生地が追いかけてくる。
不快感からなかなか眠れなかったが、疲労のせいか、すぐに睡魔に屈した。
夢の中では、美人で美髪をきらめかせていたころの自分の姿が何度も出てきた。踵を返すたび、陽光に輝く
豊かな黒髪が宙に舞い、音も立てず腰まで流れ落ちてくる。容姿に恵まれない女たちの羨望と嫉妬の眼差し。
男たちの感嘆の声。髪同様に輝いている瞬間だった。
目覚めると、夢の余韻を引きずり、以前と同じように髪があると錯覚してしまう。だから、身を起こして豊かな
黒髪が背中に覆いかぶさってこなかったとき、半ばパニックに陥ってしまう。夢か現実か。夢が現実であるように
祈りながら頭を触り、昨日と変わらない剥き卵の感触を感じてショックを受ける。
毎日毎日その繰り返しだった。
夢の中で髪があるだけに、希望の世界から絶望のどん底に突き落とされる。これなら、夢の中でも髪がないほうが
何倍もましだ。
「も、もうひやああっ!」
朝が来るたび、現実を否定しようとしても否定しきれず、叫び声をあげた。舌足らずな叫び声を。
久恵に奪われた自慢の美髪。罰ゲームはその人間が一番大事にしているものを奪うから面白いのだろう。
ゴミ箱に捨てる予定のものを壊しても盛り上がらない。久恵にはそれが分かっていた。だから、私が以前から
人々に見せつけるように翻していた豊かな黒髪を真っ先に狙った――。
でも、想像できなかったのだろうか。髪切りデスマッチで選手の大事な髪を剃るのは一瞬。盛り上がるのも
バリカンがうなっているあいだだけ。一日が終わって観客が解散したら、誰もが一時の興奮は忘れてしまう。
髪を失った選手を見て盛り上がることはもうない。丸坊主にされた選手は、試合後もその頭で生活しなきゃ
いけないのに。何ヶ月も、何年も。
それなのに久恵は永久脱毛剤まで塗布した。そんな行為に何の意味があるの? どっちにしろ観客たちが盛り
上がるのは当日だけなのに。解散したら誰もが興奮を忘れてしまうのに。残されるのは、悲しむ期間が数年から
一生に延長された私の苦しみだけ。
久恵は私に永遠の苦しみを与えたかったの? だとしたら最低。顔も心も醜い最低女よ。
そのとき尿意を覚え、トイレに入った。習慣でそのまま排尿しそうになり、慌てて尿道を締めた。
美穂は両腕を股間の前から回そうとしたが、骨格の構造上、無理があった。前からでは両手を差し入れられない。
仕方なく洋式便器の上で腰を15センチほど浮かし、中腰になると、両手を両太ももの外側から回して左右の
ラビアを掴み、ビロビロの陰唇を横に引っ張った。くぱあっと性器が広がっているのが分かる。
他人に見られたらあまりに滑稽な格好のまま、美穂は用を足した。
最悪の気分だった。これからはトイレのたびにこの姿勢をとらなくちゃいけない。
約束の日になると、美穂は歯科医院を訪ね、色んな説明を受けながら総入れ歯を嵌めた。元通りになったと思い、
診察室の鏡を覗き込んだ。相変わらずの豚鼻だったが、美顔が戻っている。唇や口元の細かい皺は消え、以前の
美しさをほとんど取り戻している。感動のあまり目頭が熱くなった。
「これで私は喋れる。元通りに喋れる」
声が復活した。喋る際に多少の違和感を覚えるものの、赤ん坊と老婆を足して2で割る声からは解放された。
まともな日本語を喋れるのがこんなに素晴らしいことだったなんて!
醜いながらも、少しだけ自分の世界を取り戻したことが嬉しかった。
笑顔を浮かべてみた。
――あれ?
違和感があった。四角い歯が隙間なくびっしりと並んでいるため、作り物めいている。歯に表情がない。
100万ドルの笑顔は戻っていない。
喜んだ分、不満足にショックを受けた。でも、仕方ない。そう思わなくてはいけない。歯抜けの老婆顔よりは
100万倍ましなんだから。
「――聞いてますか?」
美穂は鏡を見たまま「何?」と訊いた。
「唇を必要以上に引っ張ったりすぼめたりしないでくださいね。唇の使い方に注意しないと、入れ歯が浮き上がって
しまいますから」
「何言ってんの?」美穂は振り返った。「もう元通りに使えるんでしょ?」
「入れ歯は魔法の歯じゃありません。必要な注意はあるんです、どうしても。例えば、強く噛む場合は前歯を
使わないで奥歯を使ってください。前歯を使うと入れ歯が外れる可能性がありますから」
「あなた、ヤブ医者? それでお金を取る気?」
「あのねえ、前歯ってのは笑ったときに見える歯なんですよ。不恰好だとまずいでしょ。だから、噛む機能は
二の次にならざるをえないんですよ。優先すべきは外見との調和ですから」
まあ、確かにそうかもしれない。前歯で噛めてもブサイクな歯になっては意味がない。
「……分かったわ」
美穂は他にも何点かの助言を受けると、健康保険を適用してもらって2万を支払い、マンションに帰った。
夜になると、デパートで購入した刺身を食べてみた。
噛めた!
美穂は嬉しくなり、味わうように食べた。
――何これ?
味が変だった。鮮度も質も見極めて買ったのに何で? 冷蔵庫から他の食べ物を取り出し、食べた。同じく味が
変だった。入れ歯のせい?
美穂は歯科医院が閉まる前に電話し、問いただした。
「あ〜、それはですね、総入れ歯の弊害なんですよ。口蓋粘膜や歯ぐきも味を感じる上で重要な働きをしている
んですが、総入れ歯はその部分をすっぽりと覆ってしまいますからね。微妙に味や温度が分からなくなるんです」
「何よ、ヤブ医者!」
怒鳴って電話を切った。怒鳴らずにはいられなかった。
入れ歯をしたのに私は一生味わう楽しみを奪われたままなの? 男の奢りで食べたイタリアン、懐石料理、
フレンチ――どれもおいしかったなあ。あの美味は二度と味わえないの?
美髪を奪われ、歯を奪われ、美貌を奪われ、食事や入浴の楽しみまで奪われた。失ったものの大きさを実感した
とたん涙が出てきた。
私はこんな仕打ちを受けるようなことを何かした?
ただ、神様からひいきされて与えられた才能を磨き、相応の幸せを掴んできただけじゃない。
輝く人生のレールから放り出され、真っ暗なトンネルの中に取り残された気分だった。それも出口の見えない
トンネル。人生の終着点まで闇の中……。
美穂はお箸で刺身をつまみ、涙の塩味とともに噛み締めた。
食事が終わると、美穂は浴室から洗面器を持ってきた。水を入れてテーブルに置く。
歯科医に言われたケアをしなければいけない。
美穂は右手の親指と人差し指で『C』の字を作ると、口内に差し入れて歯を掴み、上下に揺らすようにして
引き抜いた。カポッと滑稽な音がして総入れ歯が外れた。唇に皺が寄って歯ぐきにへばりついたのが分かった。
美穂は惨めさに打ちのめされながらも、専用の歯ブラシで総入れ歯を磨き始めた。
ゴシゴシゴシゴシ……物音一つしない部屋に総入れ歯を磨く音だけが響いていた。
総入れ歯をひっくり返し、歯ぐきの裏側や歯と歯の合間を歯ブラシで磨く。
他人には死んでも見せられない姿だった。
会場に集まっていた観客たちに対する怒りが抑えられない。私の真珠の歯を1本1本抜いていった観客たちは、
コメディ漫画みたいに次の日になったら何もかも元通りになっているとでも思っているんじゃないの? 歯は
抜けたら一生生えてこないって理解してる? それなのに引っこ抜くってどういう神経?
農家の体験学習で見事に大根を引っこ抜けて喜んでいるような顔ではしゃいでいた女子高生の顔を思い出すと、
両肩を揺さぶって問いただしたい気分になる。私の歯を抜いたことも忘れて友達同士でチョコレートでも齧っている
女たちに言ってやりたい。
私の今の惨めな状況を知ってる? この総入れ歯を見なさいよ! あなたたちのしたことの結果よ! 私は一生
これと付き合っていかなきゃならないのよ! 分かってるの!?
観客席から私の全抜歯を提案した低レベルなナンパ男なら、何て答えるだろう。あの下品な負け組男なら、
『せっかくだし俺のモノでもしゃぶれよ』くらい言うかもしれない。私の肘鉄で全ての歯を叩き割ってやったら、
歯を失った私の悲しみの100万分の1でも理解できるだろう。
逆恨みで私の歯を奪うってどうなの?
美穂はため息をついた。
総入れ歯を洗い終えると、水を満たした蓋付きの容器に沈め、保管した。
本当なら寝るときもつけておきたかった。そうすれば自然の歯がある気になる。でも歯科医に忠告されている。
水中に保管せず乾燥させてしまったら、入れ歯が変形したり変色したりひび割れたりするという。歯肉を休ませる
ためにも夜は外したほうがいいらしい。就寝中も入れていたら細菌が繁殖し、口臭の原因になるとか。
美穂は総入れ歯に別れを告げ、寝室に行った。歯ぐきにひっつく唇を意識しながらベッドに入った。
寝ているあいだに顎の筋肉が衰え、口元が老けていったらどうしよう。
そんなことを考えていたら朝方まで眠れなかった。
翌日、美穂はあることを閃き、大会の主催者に連絡をとった。刈られた自分の美髪はどうなったのか、もう
捨ててしまったのか、問いただした。
「運がいいことにまだ残ってますよ。スタッフが掻き集めて保管してましたから」
「取りに行くから絶対捨てないで」
なぜもっと早くに思いつかなかったのだろう。同じ人毛ウィッグを使うなら、長年磨き続けて輝きを放つ自分の
美髪で作ったほうがいいに決まっている。
美穂は主催者を訪ねて髪を受け取ると、専門店に足を運んだ。不幸中の幸いか、バリカンで根元から刈られた髪は
1メートルの長さを保ったまま残っていた。以前と変わらない質と長さの髪を取り戻せるだろう。応対した男には、
規定の料金の5倍を払うから、高品質のウィッグを最短で作ってほしいと頼んだ。
後日、自分の美髪で作られたウィッグをかぶると、質の低いウィッグは捨てた。そして、ありったけの勇気を
掻き集め、有名な美容整形外科を訪ねた。
鼻や乳房や性器を元通りにできないか相談した。
しかし期待外れの――最も聞きたくない台詞を聞かされた。
「軟骨や鼻骨が完全に削られていますから、普通の鼻にするのは不可能です。鼻そのものを付け替えるしか方法は
ありませんが、そうすると、フランケンシュタイン博士の怪物みたいな顔になってしまいますよ」
「胸は?」
「皮膚が癒着していますからね。残念ですが、脂肪注入はできません。スペースがないんですよ」
「じゃあ、その……アソコは?」
「パンツだってゴムが伸びたら買い換えますよね。それと同じなんです。伸びたラビアはもうもとにはもどらない
んです、残念ながら。現代医学では性器の交換までは行われていませんから」
他にも数軒の美容整形外科を訪ねたものの、答えは変わらなかった。
美穂はため息をつきながら帰宅した。アイドルもうらやむ美顔なのに、鼻が豚。真正面から見ると、台形の
小山に二つのトンネルが並んでいるように見える。胸も性器も醜い形のまま――。
これじゃあ、大好きだった海水浴にも温泉にも行けない。
私の人生の楽しみの大半が奪われてしまった。下品な連中の手によって。
大学を休み続けるわけにはいかない。醜い身体にされたあげく、留年したら経歴まで汚れてしまう。
取り柄が何一つない女に成り下がるのだけはごめんだった。
美穂は覚悟を決める意味を込め、友人に電話で宣言した。
「月曜日から大学に行くから。みんなによろしィく言ってェおいて」
「え?」
「えってェ何? おかしいことォ言った?」
「ううん。聞き取りにくかったから」
「大学に行くって言ったァのよ」
「ああ、了解」
美穂は電話を切ると、違和感に思い至った。試しに独り言を喋ってみた。声は戻っているのに微妙に変だった。
何だか『サ行』と『タ行』が発音しにくい。やっぱり入れ歯が悪いの?
再び歯科医院に電話すると、歯科医が「またあなたですか」と鬱陶しそうに答えるのも無視し、症状を説明した。
「それはですね、総入れ歯を入れると、口蓋や歯ぐきに義歯床をかぶせるわけですから、どうしても口の中が狭く
なってしまうんですよね。だから自然の歯だったときのようには舌を自由に動かせないんです。サ行やタ行の
発音の際は、舌を下の歯の裏に当てて発音するでしょ。微妙な舌の動きが必要なんです。そういうわけで、サ行や
タ行は発音しにくいんですよ」
信じられない。これじゃ得意の英語もフランス語ももう満足に喋れない。ネイティブ顔負けだったのに。
「本当役立たァずね!」
再び怒鳴って電話を切った。
総入れ歯をしたら、全て元通りになると思っていた。なのにまさかこんなに不便が多いなんて……。
大事な真珠の歯の全抜歯を提案した鼻骨骨折の最低男と、真珠の歯を一本一本抜いていった負け組集団に対する
憎しみが沸き上がった。あんな底辺の人間たちに私の美貌を壊されるなんて。
悔しさを噛み締めていると、携帯が振動した。『貢ぐ君』専用の携帯ではなく、本命候補専用の携帯だった。
隆裕からのメールだ。ニューヨークに旅行したときに知り合った26歳の青年。モデルか映画俳優のように整った
容貌の持ち主だ。高級スーツを隙なく着こなせるお洒落な青年。大企業の御曹司で時期社長候補。一流レストランに
通い慣れているタイプだった。
本命候補専用の携帯には、海外や日本の一流企業で活躍する勝ち組53人のアドレスが登録してある。隆裕は
ダントツの一位だった。
美穂は胸の高鳴りを抑えながらメールを見た。
『父が社長職を退くことが決まり、半年後には僕が跡を継ぎます。念願の瞬間がやってきました。僕の社長就任式
にはぜひ美穂さんをパートナーとして招待したいと思っています。あなたはパーティーの華になれる女性です。
気品があり、思いやりがあり、美貌もある。同僚やアメリカ人たちが僕の幸運をうらやましがる光景が今から目に
浮かぶようです 隆裕』
興奮にますます胸が高鳴ったものの、自分の惨状を思い出して気分は沈んだ。
私はパーティーの華になれない身体にされてしまった。醜い連中のせいで。
美穂は深呼吸して気持ちを落ち着けると、返信を書いた。
『おめでとうございます、隆裕さん! あなたなら社長に相応しいと前から思っていました。輝くばかりの未来が
広がりますね。そんなあなたのパートナーとして選ばれてとても光栄です』
3週間前に撮影した自分の笑顔の写メを添付し、送信した。
最高の男を逃すわけにはいかない。
本命候補者たちには礼儀を知り尽くしたお嬢様を演じていた。53人とのメールには、一流の男たちが恋人の
理想像として思い浮かべるであろう完璧な美女として返信している。
一人一人の趣味や性格を把握し、まめに褒め、『彼女とのメールは楽しい』と思われる努力をしてきた。
勝ち組は勝ち組を求めるものだから、欠点のない女としてメールを続けている。『貢ぐ君』専用の携帯のように
相手を見下すような文章は決して書かない。だから、53人全員が私を好いてくれている。
スタイルもよく、上品で優雅な美女――男の前で簡単に裸を見せない生真面目な美女として見られている。
変わり果てた今の姿を知られるわけにはいかない。彼らの心を繋ぎとめておくために写真が必要なときは、完璧な
美貌を持っていたころの写メを送ってごまかし、そのあいだに何とか美貌を取り戻す方策を考えよう。
メールなら醜くされた外見を知られることは決してないのだから。
本命候補専用の携帯は、美穂が最も大事にしているものだった。
彼らにだけは嫌われたくない――。
美穂は翌日に備え、美を磨くことにした。悲惨な身体にされたあげく、美肌まで失ったら目も当てられない。
残されている部分こそ輝かさなくては。
ニキビやシミやソバカスを防ぐ『薬用美尻ジェル』は、入浴時に塗って洗うだけだった。シミやくすみのない
お尻を作るジェルだ。
金属繊維で編まれ、微弱電流が流れる特殊な手袋で全身をマッサージし、毎分7000回転の振動を肌に与えて
美肌を磨くビューティーローラーも使った。毎秒350万回の超音波&イオンで張りと艶を出すビューティー
ソニックも使う。海塩やパパイン酵素やコラーゲンが配合された高級パックをする。
以前から行ってきた努力だった。
肌が自慢の女優にも負けない美肌は、日々の努力の賜物だ。
月曜日。美穂は腰まで流れる美髪で作ったウィッグと総入れ歯を装着し、乳房を折り畳んでパッド入りのブラに
しまい込んだ。金属製のアクセサリーが映えるベージュのタンクトップと、ヒップの丸みを強調するミニスカートを
身につけた。脚を長く見せる黒のブーツを履く。バッグも衣服もブランド物で揃えた。
美穂はコンパクトを開き、男を惑わせる得意の表情を作って鏡を覗き込んだ。そこには分をわきまえない
豚鼻の女がいた。心臓がカッと熱くなり、動悸がした。
ああ、こんな鼻、いや……。
ウィッグとブラと総入れ歯さえ身につけていれば、女としての輝きを取り戻している。スラリと長い色白の脚、
丸みがあってツンと上向きのヒップ、くびれたウエスト、服を盛り上げる形のいい胸、シャープな顎のライン、
二重でアーモンド型の大きな目、艶やかな唇、腰元まで流れ落ちる黒髪――なのに全てを台無しにしているのが
豚鼻だった。女として完璧な美貌なのに、豚の鼻。台形の鼻が真正面を向き、10円玉サイズの穴が二つ。
完璧すぎる美貌を許さない神様が唯一の汚点を顔の真ん中に作ったような様だった。
タンクトップとミニスカートを選び、シミ一つないスベスベの白い腕や脇や太ももを見せているのは、元美人
としてのプライドだ。私は鼻こそ醜くされたけれど、誰もがうらやむ完璧な美脚と美肌を持っているのよ、という
プライド。絶世の美女の唯一の欠点は鼻だけなのよ、と。
今までは、ジーンズにTシャツ姿でも、2時間かけて着飾った大多数の女たちより魅力的だと自覚していた。
どんな表情でも、どんな仕草でも、どんな格好でも、どんな台詞も、様になり、ドラマの美人女優以上に決まって
見えるのは、日々の努力で磨き上げてきた類まれな美貌があるからだった。
でも今は――。
美穂は悩んだすえ、白いマスクをした。最近は新型インフルエンザが流行っているから不自然ではない。
覚悟を決めて外に出た。通勤中のサラリーマンや通学中の学生が大通りを行き交っている。
通行人たちの視線が怖かった。気持ちが後ろ向きになり、以前はあれほど快感だった他人の視線が不安を煽るだけ
のものになっていた。今までは、服を脱いだら完璧なボディがある、という自信が根底にあった。だからどんなに
地味な格好でも、最高に着飾ったモデルなみに堂々と歩けた。でも今は違う。禿げた頭をウィッグで隠し、歯は
総入れ歯でごまかし、胸はパッド入りの硬いブラで偽っている。下着の中の陰部は陰毛がなく、性器はグロテスク。
虚飾だらけの身体。外見をどんなに着飾っても、脱いだら女として最低の醜い身体がある――そんな劣等感が胸の
奥に渦巻き、妙におどおどした気持ちになってしまう。
他人に視線を向けられるたび、虚飾の下の醜い身体を見透かされているんじゃないか、そう思って不安になった。
他人の視線が怖い。マスクで鼻と口を隠していても完璧なスタイルの美人だと分かるから、誰もが視線を向けて
きているのだろう。でも、怖い。
ああ、これが惨めということなのか。
堂々と歩いている人々を見るたび、本当の惨めさを思い知らされる。
顔をマスクで隠して出歩いていると、卑屈な気持ちになった。空気に素顔を堂々と晒して生きていけない自分。
指名手配犯みたいに顔を隠し、コソコソ人目を気にしなければいけないなんて。隠し事をしている負い目から
こんな後ろ向きな気持ちになってしまうのよ。
美穂は勇気を振り絞り、マスクを外した。
通行人たちの視線があからさまに変わった。身体を見て興奮の表情を浮かべ、顔を確認して残念そうにため息を
つく男たち。デブで不細工な女が通りすぎ際、美穂の顔を見て勝ち誇ったように――自分より醜い顔が世の中に
存在することに安堵し、自分の幸せを噛み締めるように、笑みを浮かべた。
冗談でしょ。何笑ってるのよ。あなた程度が私より格上のつもりなの? 鼻以外のパーツは、アイドルがうらやむ
ほど完璧な造りなのよ。よく見なさいよ。
女子高生たちとすれ違ったとき、背後で笑い声が弾けた。
「うわっ、超臭そう!」
「すげえ鼻!」
「鼻毛とかすごそう! 顔から汚臭が漂ってるよね!」
「ああいう勘違い女、マジ痛いんですけど。肌を露出させりゃ、豚面がごまかせると思ってんのかね」
「脚を露出してりゃ、顔がブスでもバカな男が寄ってくるもんね。それを期待してんでしょ」
拳を握り、唇を噛み、走り出したいのを必死で我慢した。逃げたら負けだと思った。私は生まれながらのブスじゃ
ない。試合に負けてひどい罰ゲームで豚鼻にされた美人なのよ。そんなプライドだった。
あんなの負け惜しみよ、負け惜しみ。私が完璧な美肌とモデル同様のスタイルを持っているから、嫉妬したのよ。
そして、完敗を認めるのが悔しくて何とか私の身体に欠点を探し、豚鼻を見つけた――ただそれだけよ。毎日磨いて
きた私の自慢の身体を見て唖然としたからこそ、連中は私の鼻を非難して自分たちのプライドを保とうとした。
だから私は毅然としていればいい。10代で早くも肌が死んでいる女子高生の言葉なんて聞くに値しない。
どうせ20代後半には、子育てが生きがいの中年女さながらの肌になるような連中の言葉なんだから。
美穂はフィギュアスケートの女子選手にも負けない美脚をさらけ出しながら歩いた。シミ一つない完璧な脚。
170センチの身長のおかげで伸びやかな自慢の脚。
今度は男子高校生二人組がすれ違いざまにつぶやいた。
「女でブスとか、マジいらねえんだけど」
「何のために生きてんの」
何? まさか私のことを言ったの? 鼻を豚にされただけでブス扱い? 他のパーツをよく見なさいよ!
心の中で怒鳴ってもむなしいだけだった。完璧な美貌も鼻をフックで縦横に広げられたら台無しになってしまう。
アイドルが可愛らしさを保ったまま鼻を自分で持ち上げて見せるのとは違って、低俗な女のお笑い芸人かAV女優が
フックで作られるような醜い豚鼻――。
気分はどん底だった。
フックで作られた豚鼻なら見た者も一時的に笑うだけだし、豚鼻にされた女もフックを外してもらえば美人に
戻る。でも、私は整形で豚鼻にされてしまった。見る者たちは私が生まれながらの豚鼻女だと思って笑い、蔑み、
見下すだろう。それが何よりも惨めで悔しかった。
雑草に馬鹿にされるなんて耐えられない。悪意を持った人間たちに踏みにじられた薔薇のほうが雑草より
惨めなんて思いもしなかった。
以前は街を歩くことが快感だった。男たちは誰もが振り返り、地上に降り立った女神を見る目を向けてきた。
女たちは誰もが羨望か嫉妬の目を向けてきた。特に痛快だったのは、カップルの男の視線を集めたときだ。私に
彼氏の心を奪われた女の悔しそうな顔といったら。そんな顔を見るたび、優越感を覚えたものだった。
彼女を捨てて声をかけてくる男には、こう言うことにしていた。
『これからさみしく一人で服を買いに行くところなの』
すると十中八九男は『一緒に行くよ』と言い、高級ブティックについてくる。店の雰囲気を見て物怖じする男には、
その時点で、はい、さようなら。躊躇せず入店できる男は役に立つ。後は無言で気に入った服を見つめるだけ。
男は美人のご機嫌をとるために高い服を買ってくれる。褒美に笑顔をプレゼントし、別れる。服の一着や二着で
女神を裸にできると思っている相手は冷淡にはねつけてやる。
人生の勝ち組として輝く日々を謳歌していた。
それなのに……私の人生に何の責任も持たない連中が面白半分で残酷な罰ゲームを次々に提案し、実行した。
髪、眉、鼻、歯、乳房、性器。私の美貌は奪い尽くされた。年収1千万程度の稼ぎも得られない男たち、異性から
告白もされない女たちの嫉妬によって。
女は顔だとよく言われる。私は美貌、知性、若さ、運動神経と4拍子揃っていた。男なら誰もが空想の中でしか
相手にされない最高の女として生きてきた。女なら誰もが代わりたいと思う人生を歩んでいた。負け組連中は
そんな私を惨めに貶めた――本当に最低。許せない。
駅に着き、電車待ちをしていると、一人の男が声をかけてきた。枯れ木みたいに貧弱な身体で天然パーマ。
全身でがり勉ですよと主張しているような眼鏡。背も私より2センチほど低い168センチ程度。
「あ、あの、新田さん」男はいきなり薔薇の花束を取り出し、言った。「僕、同じ大学の山下充です」
「誰も名前なんてェ聞いてないわよ」
「す、すみません、ただ、僕、前から新田さんのことが好きでした」
カチンときた。外見も冴えないうえに、何の工夫もない小学生なみの台詞。似合わない薔薇の演出。
「う、受け取ってください」
「花が欲しけりゃ自分で買うわ。花を贈ったァら女が喜ぶと思ったら大間違いよ。世の中にはね、花束を贈るだけで
女を喜ばせられる一流の男と、実益になる物を貢がなきゃ女の笑顔も引き出せない二流以下の男がいるの。
あなたは一流なの?」
「え? え? そ、それは……」
「これだけは世界中の誰にも負けないって胸を張って言えるものがある?」
男はますますおどおどし始めた。
「そ、そこまではちょっと……」
「ないなら告白なんてまね、しないで」
「でも、その、気持ちを伝えたくて……」
「あなた、私を傷つけて平気なの?」
「え? ぼ、僕は別に何も……」
「あなた程度の男にも告白できるくらい今の私が安っぽくなってしまったのかと思ったら、泣きたくなる」
鼻がこんなになった私となら付き合えるとでも思ったわけ? ふざけないでよ。
「付き合うなら同じレベル同士で付き合うべきじゃない? ゴミ箱漁ったらお似合いの女が埋もれてるでしょ」
「す、すみません」
何て情けないんだろう。それでも男? 貧弱な身体をしていても、腹を立てて殴りかかってくる度胸はないの?
正当防衛で堂々と殴り倒してのストレス発散もできず、ますます鬱憤が溜まった。
電車が到着すると、美穂は男を置き去りにして電車に乗った。
大学に着くと、以前の美貌を知っている学生たちから驚きの眼差しを向けられた。全員の視線が鼻を見つめた後、
いけないものを見たみたいにそれていく。
大会は衛星チャンネルでしか放送していないし、週刊誌の類の発売もまだだから、専門のスポーツ新聞でも
購入していないかぎり、整形の罰ゲームは知らないだろう。よかった、と思った。髪がなく、胸を垂れ乳にされた
ことまで知られていたら生きていけない。
取り巻きの百合、洋子、萌、エリカが声をかけてきた。化粧して中の上の容姿を維持している4人だった。
常日頃から私の美貌を褒め、憧れるばかりの存在。
「ど、どうしたの、その……鼻?」と百合が訊いた。
「……試合で強烈なのもらって、手術でも直せなくて」
「ええ!? 可哀想! ひどいよねえ。大事な顔にそんなことするなんてさ」
他の3人が「ホント、ホント」と同調する。
美穂は自嘲の微笑を残し、幾何学Uの講義を受けるために教室へ入った。一斉に視線が向けられる。好奇の
視線だった。
大学内で視線を感じると、ウィッグがずれているんじゃないか、ウィッグだと気づかれているんじゃないか、
そう思って不安になった。心臓が高鳴る。胃がキリキリ痛む。
入れ歯だと見抜かれたくなくて笑顔も封印した。
横からクスクスと笑い声が聞こえ、振り返った。女子大生二人が慌てて目をそらした。二人の囁く声が聞こえる。
「……ブタが……」
「いるよね……」
「悲惨だよね……だからさ……」
「鼻が……」
美穂は惨めな豚顔を晒しているのに耐えられず、教科書に視線を落とし、流れ落ちる黒髪で顔を隠した。
何で私がこんなコソコソしなきゃならないの?
久恵の残酷な仕打ちだった。美貌をねたまれ、気高く筋の通った鼻を豚鼻に整形された。衣服やウィッグでは
決して隠せない場所を整形された。フックで吊り上げられたような鼻を人前に晒す恥辱、屈辱。一生そんなものを
抱えて生きていけというの?
授業が終わり、廊下に出たときだった。車椅子の女子大生とすれ違った。名前は恭子。茶色い梳き流しの髪と
つぶらな瞳が特徴で、薄幸の美少女という雰囲気だ。中学のころに飲酒運転による事故に巻き込まれ、自分の足で
歩けなくなった女。
恭子は美穂に非難の目を向けた後、何事もなかったように車輪を漕いで去っていった。
勘弁してよ。しつこいわね。ミスコンの件を恨んでいるならお門違いよ。
半年前のミスコンのときだった。エントリーした恭子は、前評判が高かった。自分の不幸も気にしていないような
笑顔をいつも浮かべ、誰にでも思いやりを持って接するから人気があった。偽善者っぽく思えて私は嫌いだったが、
恭子は大勢に好かれていた。ミスコンでは最大のライバルになるだろう。
美穂は何が何でも優勝し、地位と名誉を獲得したかった。一流商社に勤めないなら女子アナになる、というのが
将来の展望だったから、東大のミスコン女王は必須だった。数千倍の倍率を勝ち抜いて女子アナになるには、
一流大学でミスに選ばれていることが最大の武器になる。
女王になるには恭子の存在は邪魔だった。彼女は卑怯な存在だ。車椅子をこれ見よがしに操って登場すれば、
誰もが憐憫を覚え、同情票を入れる。そんな汚い武器で勝負されたくなかった。だから、主催者を色気で篭絡し、
参加条件をちょっと変更させた。女王は文武両道であるべきだから、エントリーは運動部でそれなりの結果を
残した美女に限るべきだ、と説得したのだ。
結果、歩けない彼女は参加できず、美穂がダントツで女王に輝いた。
後日、主催者から裏事情を聞いた恭子は、泣き顔で怒鳴りつけてきた。
「やり口が卑怯よ! 参加を拒否されて私がどんなに惨めだったか分かる?」
「同情票で勝とうとするほうが卑怯だと思うけど?」
「そんなこと思ってない!」
「たとえあなたが思わなくても、周りが同情するのよ。ミスに選ばれたいなら、パラリンピックみたいなものを
作ってもらったらどう? 優勝できるわよ、この大学に参加者は一人しかいないんだから」
「……あなた、最低ね」
「哀れみを武器にするほうが最低じゃない?」
「ふざけないでよ。私は自分に自信が持ちたかっただけなのに!」恭子は涙を振りまきながら叫んだ。「私はこんな
脚だから気持ちが後ろ向きになるの! だからミスコンに出たかったの。優勝できなくてもいい。ただ、出たかった
の! そうしたら、私にも人並みの人生があるんだって思えるから!」
「勘弁してよ、そういう美談ですよ、みたいなアピールは。私はね、ミスコンなんだから、正々堂々と美しさを
競えるようにしただけよ」
「わ、私は……」
「言い返せないでしょ。私の言ってることが正論だからよ。全く。恨むんなら自分の不幸を恨みなさいよね。
私に八つ当たりするなんてお門違いもいいところよ」
「ひ、ひどい……私だって好きでこんな脚になったんじゃ……ないのに……」
「前世で悪いことでもしたんじゃないの? 因果応報かもよ」
「な、ななな……」
恭子は唇を打ち震わせた後、車椅子を操り、去った。その日以来、恭子の友人たちからは恨まれている。
嫌がらせの手紙や不幸の手紙も数多く貰ったし、面と向かって「卑怯者!」と罵られたこともある。でも、
一番許せないのは恭子の偽善者っぷりだった。彼女は最初のとき以来、私を口撃しなかった。ミスコンの話は
もういいの、新田さんの言い分も理解できるから、みたいな顔をして仲間に接している。一人きりのときは
非難の目を向けてくるくせに、聖人君子ぶって気持ち悪い。
本当は私を殴り倒し、車輪で踏みにじりたいくせに、人前では決してそんなことをしない女。陰で狡猾に私を
陥れようと行動している節もない。おかげで私が悪者扱いされてしまった。一番狡猾な復讐方法だ。自分が
聖女ぶればぶるほど、自然と私が悪女になる。卑劣すぎる。私は純粋に美貌で勝負できる場を作っただけなのに。
思い出すだけで不愉快になる。
美穂は嫌な気分を引きずりながら、次の授業を受けるために教室を移動した。
午前の講義が全て終わると、食堂に行った。硬い食材が混ざっている定食を避け、パスタを注文した。前歯で
噛まないように注意しながら食べる。学生たちの視線が集まっているのが感じられた。みんなが見ているのは、
髪なのか鼻なのか口なのか。
視線が気になり、落ち着いて食べていられなかった。笑い声が聞こえると、ビクッとして振り返り、何の話題で
盛り上がっているのか耳を澄ませた。
私のことを笑っているの? それとも昨日のドラマの話題?
美穂は極力口元を見せないようにしてパスタを食した。
食事が終わると、女子トイレのドアを開けた。ドアの開いている個室を全て覗き込み、誰もいないのを確認する。
巨大な鏡を見つめると、ため息が漏れた。完璧な美貌の真ん中に豚鼻がある。鼻さえ隠せたら、以前と同じ女神の
美貌なのに……。
美穂は自分の美髪で作ったウィッグを触り、ずれていないか確認した。それから女子トイレのドアに耳を添え、
足音が近づいてこないことを確かめた。
緊張の汗が手のひらに滲む。心臓の鼓動が速まる。
口臭や口内炎を避けるには欠かせない行為――。
美穂は指で『C』の字を作って総入れ歯をカポッと外した。豊かで官能的な桃色の唇に細かな皺が寄り、歯ぐきに
ぺったりと張りついた。口元にも皺ができている。年齢が一気に老けた。若さを奪われた。
惨めな顔に泣きたくなりながらも、バッグから歯ブラシを取り出した。毎食後磨かないと、カビの一種である
カンジダ菌が繁殖するという。
カビだらけの歯なんて冗談じゃない。
美穂は専用の石鹸をつけ、総入れ歯を磨き始めた。
髪も歯もある人間が行き交い、生活する大学という場所で、一人、女子トイレで総入れ歯を外して磨く惨めさ。
全ての学生より低い位置に蹴落とされた気がした。
突然、足音が聞こえた。ビクッとして全身が硬直した。緊張が身体中を駆け抜ける。複数の足音は女子トイレの
前を通りすぎていった。
心臓はバクバクと高鳴っていた。
美穂は胸を撫で下ろすと、安堵の息を吐き、再び総入れ歯を磨き始めた。
磨き終わり、総入れ歯を水洗いしたときだった。複数の足音が女子トイレの前で止まった。ドアの磨りガラスに
女の顔の輪郭が映っている。
嘘!?
ちょ、ちょっと待ってよ。
美穂は女子トイレ内を見回し、迷わず個室の中に駆け込み、鍵を閉めた。女子トイレのドアが開いたのと同時
だった。楽しそうな笑い声が入ってくる。3人のようだった。声に聞き覚えがある。同じ授業を履修している
雅代と瞳とサリナだった。
美穂は総入れ歯を嵌めると、個室の中で立ったまま声を殺していた。
何て惨めなの。今までの私は堂々と何も恐れることなく生きてきた。なのに人目に怯えてトイレの個室に
隠れなきゃならないなんて。
3人の女子大生はトイレに入る様子はない。1人じゃ何もできない3人組が鏡の前に並び、化粧直しをしている
光景が目に浮かぶ。
どうせ大した顔じゃないでしょ。化粧なんて気にしてないで出て行きなさいよ!
3人の声が聞こえてきたのはそのときだった。
「――ねえ、知ってる? あいつの髪、カツラなのよ」
心臓が跳ね上がった。まさか私のこと言ってる? 違うよね。数学講究の教員の篠塚のことでしょ?
「マジで!? 嘘でしょ!?」
「マジマジ。美容の薬の飲みすぎでさ、副作用で髪が抜けちゃったらしいの」
「え〜、それ悲惨。マジ話?」
「何人も噂してるよ。鼻もさ、整形で作った鼻が崩れてああなったんだって」
「ウッソー。整形だったんだ。最低!」
「胸もさ、脂肪注入で大きくしてたんだけど、無理が祟って脂肪が漏れ出ちゃって、今はしわしわなんだって」
「え? じゃあ、あれ、今、ブラでごまかしてんの?」
「そうそう。らしいわよ」
誰の話かは明白だった。信じられない。一体誰よ、そんなデマを蔓延させている奴は!
試合会場に来ていた誰かに違いない。思えば、肌を汚くしてやれ、と叫んだ声の中に、聞き覚えのある声が
混ざっていた。大学の同期生の誰かが来ていたのだろう。
許せない。生まれながらの美人の私が整形女? 美貌で絶対にかなわない相手を貶めるときの常套手段だ。
美人女優にネットで整形疑惑が付きまとうのと同じで。
噂を広めた奴は、私が反論できないと見越して吹聴したに違いない。整形で作った美貌が崩れたんじゃなく、
試合に負けた罰ゲームで非道な整形をされたんだと主張したら、誰もが専門のスポーツ新聞や週刊誌を探して
購入し、私の変わり果てた裸を目撃する。衣服やウィッグや入れ歯で隠している中身を見られたら、惨めすぎて
もう人前に出られなくなる。
真実を説明できないのが悔しい。
美穂は唇を噛み締めた。
「それにしても、あれ、カツラだったんだあ」
カツラじゃなくてウィッグよ! 個室の中の美穂は心の中で反論した。中年オヤジが縋るカツラじゃなく、
髪がある女でもお洒落でかぶるウィッグなのよ!
思わず自嘲の笑いが漏れそうになる。カツラでもウィッグでも何が違うの? 髪がないのは変わらないのに。
「キャハハ。もう一生孤独のまま惨めに人生終わるよね、絶対」
「整形女の成れの果てじゃん」
「人工的に顔を変えて美人ぶってた罰よね〜♪」
我慢の限界だった。一流大学に通っていても大した未来がない負け組連中が私を馬鹿にするなんて、許せない。
必死で男に媚び、貢物を持って追いかけなきゃ相手にもされないくせに。
美穂はわざと水を流して音を出し、毅然と個室を出た。女たちは一瞬ひるんだように一歩後ずさりした。しかし、
踏みとどまり、悪びれもしない顔でニヤニヤと笑い始めた。
「整形女に聞かれちゃったみたい」
「ねえ、やっぱり目や輪郭も作り物なの?」
「私は整形なんてしてないわ」美穂は言った。「生まれながらの美貌なのよ」
「キャハハ、整形女が何か言ってる!」
美穂は見下すようにため息をついた。
「あなた、便器と結婚したらどう? 性格も外見も吐き出す言葉も汚い女には、流してくれる旦那が必要でしょ」
「は、はあ? 何言っちゃってんの、コイツ。ムカつくんだけど」
「告白するなら見ておいてあげるわよ。まあ、振られるかもしれないけど」
「ふざけんな!」
雅代は顔を真っ赤にして怒鳴っている。
ご愁傷様。口論ってのは怒ったほうの負けなのよ。
美穂は勝者の余裕を滲ませた笑みをたたえ、鼻で笑ってやった。頭の悪い低レベルの人間ってのは、口論でも
平凡な言葉しか思い浮かばない。私を言い負かそうなんて100年早いのよ。
「それとも腕力に訴える? 叩きのめしてあげるけど?」
両拳を握り、ファイティングポーズをとる。雅代はビクッと肩を震わせ、一歩、後退した。
ふんっ、口でも力でも勝てないくせに調子に乗らないでよね。
そのときだった。突然、目の前を黒髪が滑り落ちた。一瞬何が起こったのか分からず、美穂は呆然と立ち尽くして
いた。サリナの手に黒髪が流れるウィッグが握られている。
「いやああああっ! 見ないで!」
美穂は思わずしゃがみ込み、惨めな禿げ頭を両手で隠した。女たちが指を差し、腹を抱えて笑い転げている。
服を着た人間たちの前でただ一人裸を晒しているような羞恥だった。自信も尊厳も木っ端微塵に打ち砕かれ、
絶対的な武器と鎧を奪われた無力感に打ちのめされた。
「うわあ、若さを保つ海外の危ない薬で脱毛しちゃった、って本当だったんだあ」
「悲惨すぎ!」
「欲張った天罰よねえ」
哀れみと嘲笑混じりの言葉に続き、携帯で写メを撮影する音が聞こえた。
「や、やめ……と、撮らないで……」
「ねえねえ、もう一回言ってみてよ。便器と結婚が何とかってさ」
「ファイティングポーズは?」
美穂は「か、返してよ!」と叫び、ウィッグをクルクル回すサリナに飛び掛った。彼女は美穂の頭越しに
ウィッグを放り投げた。人毛の塊は放物線を描いて背後に消える。振り返ると、瞳がウィッグを受け止めていた。
フライボールをキャッチした野手のように誇らしく笑いながら。
「返してって言ってるでしょ」
美穂は瞳に踊りかかった。しかし、ウィッグは再び頭上を飛び、雅代の手に渡る。
美穂は瞳の腹部に拳を叩き込んでひざまずかせ、ウィッグを持つ雅代に駆け寄ろうとした。彼女は個室に逃げ
込んだ。ドアを閉められる前に追いついたとき、美穂は信じられないものを見た。洋式便器の中に人毛のフル
ウィッグが浸かっていた。
「ひ、ひどいっ……私の髪が……」
美穂は唖然と立ち尽くした。
「ああ、ごめんねえ。もしかして自分の髪で作ったウィッグだった? 洗って使えば?」
雅代は仕返しとばかりに鼻で笑うと、個室を出た。
美穂は力なく膝を落とし、洋式便器の水に浮かぶ黒髪を見つめた。背後から写メを撮る音がする。
「や、やめて!」
両手で頭を押さえた。
「キャハハ、便器と見つめ合う女の図、ゲット!」
「プロポーズでもすんの?」
突然、背中に衝撃を受け、美穂は洋式の便座に顔をぶつけた。鼻っ柱に激痛が走る。
私を――足蹴に、した?
背後で再び写メを撮る音がした。
「便器に誓いのキスをする女の図、ゲット!」
カッとした。殴り倒してやろうと立ち上がったとたん、殺気を察したのか、雅代は逃げ出した。女子トイレの
ドアを開け、廊下に向かって叫ぶ。
「みんな! トイレにすごい女がいる!!!」
「や、やめて!」
複数の足音が駆けてくる。
美穂はパニックに陥り、慌てて個室のドアを閉めた。鍵をかける。
ドアが激しく叩かれる。心臓に直接響く音だった。女が荒々しく叫ぶ。
「おいっ、かくれんぼしてんじゃねえよ!」
美穂は屈辱と悲しみを噛み締めながら、個室に引きこもり、自分の美髪で作ったウィッグを指先でつまみ、
便器の水の中から引っ張りあげた。背中を覆えるだけのボリュームがある髪は丸まり、黒い塊になっていた。
先端から水が滴り落ちている。
美穂は髪をトイレットペーパーで拭き始めた。唯一無二のウィッグ。10年間伸ばし、細心の注意を払いながら
ケアしてきた私の美髪で作ったウィッグ。穢されても、これに代わるものはない。
外から女たちの声がする。
「ねえねえ、隣から覗けるんじゃない?」
「ひっ、ひいっ!」
慌ててウィッグをかぶる。便水に濡れた髪は肌にへばりつくようだった。薔薇の香りは消えうせ、カルキ臭い
悪臭が鼻孔をついた。
壁の上部の隙間から雅代とサリナが顔を出している。
「便器の水で洗ったカツラかぶってるよ!」
「ちょっ、ずれてるずれてる!」
「コントに出てくる校長先生かっての」
美穂は、勝者がのぼる台から蹴落とされたショックと屈辱にうめいた。
頭を押さえながら女子トイレを駆け出ると、午後の授業も放棄してマンションへ逃げ帰った。
最悪の気分だった。
ファイトマネーを得ようにも、ウィッグじゃ試合なんてできない。格下に組みつかれ、振りほどく前に長い
髪を握り締められる光景が目に浮かぶ。大勢の前でウィッグを奪われたら、恥ずかしさのあまり戦えなくなる。
頭を抱える私に攻撃を加える対戦相手。華麗に攻撃しようとしても、頭を晒す羞恥に耐えられず、キレもなくなる。
新人にも負けてしまいかねない。
豚鼻じゃ、CMの依頼もこないだろう。雑誌の表紙を飾ることもない。私の機嫌をとるためにブランド品を
貢いでくる男もいない。
下働きはごめんだし、じゃあ、どうやって収入を得よう。今はまだ貯金があるけど……。
一人暮らしをはじめたばかりの高校時代の記憶がよみがえる。高級エステ代や美容品や衣服を自由に得るには、
お金が足りなすぎた。自分を安売りするしか能がない周りの女子高生たちは、援助交際で売春婦を演じていたが、
そんなまねは絶対にできない。
高校時代の美穂が選んだのは、自分の身体を売らずにすむ方法だった。電車内で中年オヤジの前に陣取った後、
駅に出てから標的の腕を掴む。ひとけのない場所まで連れて行き、「痴漢したでしょ。警察に行きましょ」と脅す。
相手は否定するが、通行人のいるほうに向かって「誰か!」と叫んでやれば、標的はパニックになり、観念する。
私は頭の悪そうな女子高生じゃない。髪を金髪に染め、ピアスをし、けばけばしい化粧で老けて見える連中とは
違う。流れ落ちる黒髪と整った美貌が輝き、清純に見える。だから標的の誰もが降参する。誤解や冤罪を訴えても、
警察がどちらを信じるか一目瞭然だから。
美穂は、売春婦を2時間演じて2万を得る女子高生と違い、頭脳的に5分で5万を稼いだ。どうせキャバクラ代や
酒代に消えるお金だろうし、私が有効利用したほうがいいと思っていた。逮捕されたら可哀想だから、警察に
突き出したことは一度もない。1日1人を目標にし、荒稼ぎした。おかげで高校生のころから、同級生が年に
1度しか通えないような高級エステに足繁く通えたし、専門店で高価な美容品も大量に買えた。
男を魅了する美は、高校時代の努力があってこそだった。大学に入ると、男がいくらでも寄ってきたから、
冴えない中年オヤジを相手にする必要はなくなった。
高校時代みたいに痴漢をでっち上げる? でも、鼻がこんなじゃ、痴漢されたと信じてもらえないかもしれない。
久恵に美貌を奪われたせいで余裕のある生活が滅茶苦茶になってしまった。
翌日。大学に着くと、周囲の見る目があからさまに変わっていた。廊下に固まる同期生の集団が美穂を横目で
見やり、ヒソヒソと聞こえよがしに囁いている。
「来たよ……」
「うん。車椅子の子の怪我、あの女が原因なんだって」
「整形だってばれそうになったから、階段から突き落としたって」
「嘘でしょ。そこまでする?」
「最低」
根も葉もない噂に美穂は唖然とし、同期生の集団を睨みつけた。女たちは、「行こ。私たちも突き落とされるよ」と
足早に立ち去った。
廊下を進むたび、複数の学生たちのヒソヒソ話が耳に入ってきた。
「ミスコン……投票者にお金をばらまいたんだって」
「……私、枕営業したって聞いたけど」
「……両方じゃない? 卑怯すぎ!」
「整形とか八百長とか、虚飾の人生だね……」
「邪魔な車椅子の子……参加させないように手を回したんでしょ」
「その子、ショックで自殺未遂したって……」
「ひどすぎ……」
「昨日もトイレで瞳ちゃんが殴られたらしいよ」
「内臓破裂寸前だったとか」
馬鹿言わないで。一発みぞおちに拳を叩き込んだくらいで内臓が破裂するわけないでしょ。
美穂は早足で廊下を抜けると、ひとけのない物置の前に来た。背後から金属がこすれるキーッキーッという
耳障りな音が近づいてくる。
振り返ると、車椅子を漕ぐ恭子の姿があった。彼女を見たとたん、苛立ちがこみ上げてきた。
「聖人君子気取るなら、真相を公言しなさいよ。怪我は飲酒運転の車のせいでしょ。ミスコンの件は私の言い分が
正論でしょ。あんたが説明すれば噂の大半は収まるのよ」
「……私にそこまでする義務、ある?」
「デマを否定しないってのは、デマの蔓延に協力してるってことなのよ」
恭子のこういうところが嫌いだった。自分は何もせず、相手が自滅するのを待つ女。
「そんな噂が流れるなんて、前世で悪いことしたんじゃない? 因果応報かもよ」
半年前に彼女に叩きつけた言葉を返され、カチンときた。恭子は車椅子を操り、背中を向けて去ろうとした。
「待ちなさいよ。連中の噂話はね、私の美貌に嫉妬して私を貶めようとしてるだけなのよ。私に非はないわ」
無視して車椅子を漕ぐ恭子の首根っこを掴み、引き戻そうとした。彼女の上半身がねじれてかたむき、恭子は
車椅子から転げ落ちた。彼女は背中を押さえた後、右足を抱え込み、うめいた。
「痛いっ! 背中が。あ、脚が……脚が……」
「演技はやめなさいよ」
「ほ、本当に痛いの。お、お願い。病院に……」
「悲劇のヒロインを気取らないで。そうすれば誰もが味方になってくれると思ってるんでしょうけど」
美穂は呆れてかぶりを振ると、叫ぶ恭子を置き去りにし、物置の前を立ち去った。
実は根気強く毎日リハビリをして最近は一人で立てるようになっていた恭子の脚が悪化し、一生立てないほどの
状態になったと聞かされたのは、2日後だった。また歩けるようになるかもしれないと希望に顔を輝かせていた
矢先の悪化だったという。車椅子から落ちた際、背中を打って神経が圧迫されたことが原因だった。「すぐに病院で
治療できていたら問題なかったのに」と医者が残念そうに言ったらしい。
「蹴り倒して悪化させたんだって」
恭子が悪評の発生源に違いない。見舞いに来た友達全員に吹聴しているのだろう。
恭子の入院する病院に乗り込んで彼女の両肩を揺さぶってやりたかった。
本当は歩けるんでしょ。全部私を悪者にする演技なんでしょ。この卑怯者!
現象数理Tの教室に行くと、中から笑い声が聞こえた。
美穂はドアの陰に立ち止まり、恐る恐る中を覗いた。
「新田美穂の物まねしまーす」とサリナが手を挙げる。顎を上げ、気取った口調で言う。「美人にも苦労は多いのよ。
低レベルの男たちが高級和菓子にたかるハエみたいに集まってくるんだから。分をわきまえないバカたちをあしらう
だけでも大変なの」
「似てる、似てる!」と数人が手を叩きながら爆笑する。
自分の台詞や言い回しが嘲笑のネタにされることが耐えられなかった。
雅代が携帯を仲間に回した。グループの男女が順に画面を見て笑っている。雅代がトイレで撮影した写メだろう。
携帯を見た者は、一様に珍獣でも見た顔をした。
「艶が自慢だったみたいだけどさ、別に今も嘆くことないじゃんね」
「そう? カツラってあまり艶ないけど」
艶がない? あんたの目は節穴? これは最高に光り輝く自分の美髪で作った人毛ウィッグなのよ!
「違う違う。ウィッグ外したらもう光り輝いてるし!」
再び教室に広がる爆笑の声。美穂は屈辱に唇を噛み締めた。
「ざまあみろよね」
「個人輸入された未認可の薬で禿げたんでしょ?」
「そうそう。吸血鬼みたいに永遠の若さを手に入れようとして失敗。髪が抜けちゃったの」
「いい気味〜♪」
「ホント、ホント。あいつ、私たちのこといつも見下してたもんね。それがさ、美貌の追求のしすぎで脱毛する
なんて痛快!」
「女として終わったよね」
女たちが笑うと、下品な顔の男たちが携帯のディスプレイを覗き込みながら同調した。
「こんなハゲで豚鼻の整形女、告られても勘弁だよな」
「無理無理。絶対無理。裸になって迫られても逃げ出すね、俺。まあ、全頭マスクで顔を隠してくれりゃ、
同情で抱いてやってもいいけど」
二人は以前、無謀にも告白してきた男だった。見つめられたら薔薇でさえ枯れそうなほど醜い外見だったから、
『枯葉剤には近寄りたくないの』と振ったのを覚えている。
そんな二人にすら女として興味を持たれないなんて……。
「でもさでもさ」雅代が言う。「脂肪が漏れて乳がババアになってアソコも型崩れしたらしいよ」
「マジで? じゃあ、全頭マスクされても無理だな。勃たねえよ、絶対」
「ならどうしたらヤレる?」
「うーん、そうだなあ。バーチャルゴーグルみたいなものを俺がつけて、誰か“女”が映ってたら、ヤレるかな。
新田以外ならとりあえず誰でもいいや」
耳を塞いで逃げ出したかった。女神の美貌を持っていた私が女扱いすらされず、底辺に堕とされている。
意識から締め出している自分の今の姿が鮮明によみがえってきた。ウィッグや入れ歯や衣服で隠して忘れようと
必死になっているのに、一皮剥けば現れる本当の身体。髪も眉も歯も失い、鼻は豚鼻にされ、胸はナマコのように
垂れ、乳首も乳輪も茶色く肥大化し、アソコは黒ずんでビロビロ。陰毛もない。
着飾って鼻さえ隠せば誰にも負けないのに、裸になったら女の最下層に転落する。久恵の罰ゲームに参加した
観客たちの提案で醜く変えられてしまった身体。
ブス――。
以前の私には最も遠い場所にあった単語なのに。
気にしないように気にしないように、忘れたくて忘れたくて必死になっているのに、心ない連中の言葉で
現実を思い知らされてしまう。
「でもさ、あの高飛車な女がこの先無残な身体で生きてかなきゃならないって想像したらさ、何だか興奮するよな」
「するする。ざまあみろって感じ。あのクソ女が死にたいくらい悲しんでるって想像しただけでヌける!」
「私さ、前々からあの女の不幸を願ってたんだよね。事故って顔面大火傷すればいいのにって思ってた」
「あっ、私も私も。ネットの『嫌いな人間を呪うスレ』に書き込んだもん。新田美穂、不幸になれ、って」
そう言ったのは奈々枝と久美子だった。友達だと思っていた二人だ。
「女王様でございます、みたいな顔してたあの女が惨めったらしい姿を晒してると気分いいよね。調子に乗ってた
天罰って感じ」
「そうそう、世界中の男は私に惚れて当然、って顔してたもんね」
女たちが言うと、二人の男が再び同調する。
「整形だなんて知らなかったからさ、大学の男の半数くらいは告って玉砕したんじゃね?」
「男なんてより取り見取りだったから、何人こっぴどく振っても気にならなかったんだろ」
全員の悪罵の数々が胸にえぐり込んでくる。昔なら平気だったのに……。
雑草の中に一輪の薔薇があれば、雑草たちは目立つ薔薇を疎ましく思い、枯れさせようと思うものだから。
そんな雑草たちのねたみは、自分の完璧な美貌を実感させてくれる肥料だった。
でも、不幸のどん底に落とされた今は、ただただ悔しい。いい気味だと思われていることに耐えられない。
思わず扉を握り締めたときだった。カタッと扉が音を立てた。同期生たちが振り返る。視線が絡まった。
美穂は反射的に踵を返して逃げそうになったものの、寸前で踏みとどまった。逃げた背中を爆笑が追いかけてくる
状況には耐えられない。
毅然と振る舞えば、陰口を叩くしか能のない連中なんて黙らせることができる――はずだ。
「あっ、聞こえちゃった?」奈々枝が笑った。「ぶっちゃけ、私、友達のふりしてただけなんだよね」
久美子がしれっとした顔で言葉を継ぐ。
「前からあんたのこと大嫌いだったんだあ。合コンだってさ、自分ばかりモテるからっていい気になってるしさ、
そのくせ、告ってきた男、全員こっぴどく振るしさ。私がいいなって思ってた男はあんたしか見てないし、なのに、
あんたは『30点の人生を生きてる人間には興味がないの』なんて彼のこと馬鹿にしたんだよ。私がどんなに
惨めだったか分かる? 30点の男に惚れてる女だって言われたも同じ」
「世界中の幸せを独り占めしたみたいな生活して、他人を見下して利用する最低女よ、あんたは」
友達だと思っていた二人の裏切りだった。欺かれていた悔しさを押し隠し、砕かれたプライドの破片を
守るために何とか毅然と振る舞った。
「ふんっ。引き立て役にうってつけだから友達のふりをしてあげてたのよ。そんなことも分からないなんて。
ご愁傷様。私が本気であなたたち雑草と付き合うわけないじゃない。品種が違うんだから」
言い負かしたと思った。私に口論で勝てる女なんていない。
一拍の間を置き、女たちがギャハハと爆笑した。
「うわあ、何か言ってるよ、この末期ハゲ」
「毛根もないくせに超エラそう!」
美穂は動揺した。心臓の鼓動が速まり、息苦しさを覚えた。羞恥と屈辱に全身が熱くなる。めまいがした。
何て容赦のない言葉を浴びせてくるの?
下唇をギュッと噛み、奈々枝たちに詰め寄ろうとした。
「うわっ、こっち来んなよ。ハゲが伝染ったらどうしてくれんのよ!」
足が硬直した。一歩踏み出したまま止まった。残酷な言葉の数々が心をえぐる。何てひどい言葉を平然と
口にするの? 私が髪を失った頭にどれだけ傷つき、どれだけ苦しみ、どれだけ思い悩んでいるか分からないの?
お風呂に入るたびに受けるショック。自慢の美髪を永遠に失った頭を見るたびに味わう悲しみ。私が毎日毎日
どんなつらい思いをしているか知ったら、そんな残酷な言葉は口にできないはずよ。
美穂は悔しさを噛み締めながらも、女たちを睨みつけ、負けじと言い返した。
「そうやって口から汚物を吐き出してるから、顔も汚くなるのね。謎が解けたわ」
「キャハハ、睨んでる、睨んでる! 豚が怖い顔で睨んでるよ!」
「ハゲ女きもい。死ね。ハゲ死ね」
「もう一生まともな社会生活や恋愛ができないくせに生意気!」
一言一言が心に突き刺さる。精神的なダメージは明らかに自分のほうが大きかった。
何を言っても、『ハゲ』の一言で完璧に言い負かされてしまう。心をズタボロに傷つけられたことが悔しかった。
美貌の鎧を纏っていたころは、無数の矢を射られても平気だった。他人の悪口で傷ついたことなんてない。
絶対的な優位があったから、低レベルな悪罵は負け犬の遠吠えに聞こえたし、そんな悔し紛れの哀れな台詞を
聞くたび優越感に浸れた。堂々としていられた。
でも、美貌の鎧を奪い取られ、素っ裸にされた今は違う。言葉の矢は肌に深く突き刺さり、心までえぐる。他者に
対して抱ける優位性が何もない。美を失ったらここまで心に余裕がなくなるものなの? こんなにもろく無防備に
感じるものなの?
惨めさに打ち負かされ、涙がこみ上げてきた。
「ちょっ、泣いちゃったんじゃね?」
「もしかして傷つけちゃった?」
「アハハ! 傷ついてる! 傷ついてる! 前は他人の悪口なんてしょせん下等動物の鳴き声よ、みたいな顔で
平然としてたのに!」
以前の私は他人からどんな悪口を言われても、薔薇に嫉妬する雑草の戯言だと分かっていたから傷つかなかった。
今では逆になっている。薔薇は彼女たちで雑草は私。女なら、中の下の顔に生まれるか、豚鼻のハゲに生まれるか、
選択を求められたら誰もが前者を選ぶ。彼女たちにとっては、自分のコンプレックスとは比べ物にならないほど
大きなコンプレックスを持っている女から口撃されても、痛くも痒くもないのだろう。
二人の男が前に手ひどく振られた仕返しとばかりに言い募る。
「何、何、泣いてんの? バーカ、誰もお前みたいなブスには同情なんてしねえよ」
「そうそう、人間様は、醜い生き物に感情移入なんてできないからな」
惨めだった。完全な立場の逆転だ。
「早く出てってよ。一緒にいたら私たちの格が下がるじゃない」
格が下がる? 信じられない。薔薇に憧れる雑草たちにそんなことを言われるなんて。格が下がるのを承知で
付き合ってあげてたのは私なのよ。
「そんなさあ、ソーセージでも突っ込んで栓をしなきゃ鼻クソがこぼれ落ちてきそうな豚鼻の女、一緒に隣
歩かれたら迷惑なんだよね。男もどん引きして声かけてこないだろうしさ」
残酷な言葉の矢に胸を射られ、美穂は瞳に涙を溜めながらつぶやいた。
「……私が悲しむ姿がそんなに愉快なの? 私が惨めな気持ちになったらそんなに嬉しいの?」
男二人は、何当然の質問してんのこいつ、という顔で答えた。
「愉快に決まってんじゃん。メシウマってやつ? もう最高」
「もっと苦しめよ。笑ってやるから」
美穂は我慢できず、拳を男の顔面に叩きつけた。男の鼻骨がひん曲がり、鼻孔がスプリンクラーになったように
鼻血が噴出する。男は悲鳴を上げながら倒れ、鼻を押さえながら悶えた。
美穂は自分の行動に唖然としていた。口論に負けて先に手を出してしまった。
口論は怒ったほうの負けなのに。言い負かされて暴力に訴えるのは負け犬なのに。
女たち数人が悲鳴を上げると、中年の女教師が駆け込んできた。
「何やってるの、あなたたち!」
細面の女教師は白髪を染めており、口元と目元に苦労皺が刻まれている。人生の勝利を諦めたような顔だ。
最近は懸命に婚活に精を出していると聞く。
「中野君が新田さんに殴られたんです」雅代が言った。
「どういうことなの?」
「この女たちが悪いのよ」美穂は正当性を訴えた。「私を……その、だから……」
「はっきり言いなさい!」
言えるわけないじゃない! 禿げた頭を笑われたから腹が立って殴ったなんて! 怒った理由として惨めすぎる。
「……だから、その、わ、私の頭を笑いものにするから……」
「頭って何なの?」
美穂は自分の口から屈辱的な言葉を言えず、黙り込んだ。そうすれば、女たちの誰かが言うだろう。しかし、
そんな期待を見透かしているのか、女たちは何も言わなかった。
「頭って何なの?」
「……その、私、だから、ウィ、ウィッグだから」
「ウィッグ?」
「カ、カツラみたいなものです。それを笑いものにされて、つい……」
中年の女教師は女たちを睨み、「本当なの、あなたたち?」と尋ねた。
「違いまーす。新田さんのカツラが脱げて転がってきたから、拾ってあげたんですけど、そうしたら、
『返しなさいよ』とか叫びながら中野君を殴ったんです。彼、渡してあげようとしただけなのに」
美穂は「白々しい嘘をつかないで!」と叫んだ。「ウィッグが簡単に外れるわけないでしょ」
中年の女教師は、皺が伸びるくらい大きな口を開けてピシャリと言った。
「新田さん、早く謝りなさい!」
何よ、最低。私のほうが正しいって分かるでしょ? 嘘ついてるのはこのバカ女たちだって分かるでしょ?
それとも、前にあなたの授業中に間違いを指摘して恥を掻かせたことを逆恨みしてるわけ? 教師のくせに生徒を
教えるだけの知識がないあなたが悪いんでしょ。
「処分を受けたいの?」
どうあっても私を悪者にしたいのね。
美穂は救いを求めて教室を見回した。以前なら大多数の男が無条件で同調し、手を差し伸べてくれただろう。
今は誰一人として味方してくれない。尾ひれがついて広まったせいで、『整形した人工の顔と身体で男を欺いた
卑怯な女』として憎まれている。
「……悪かったわよ」美穂は、鼻を押さえている中野に言った。「これでいいでしょ」
「あなた謝り方も知らないの!? 頭を下げてすみませんでしょ!」
中年の女教師はヒステリックに叫び、美穂の頭を荒っぽく鷲掴みにした。
髪を引っ張られ、ウィッグがズルッと滑り落ちた。永久脱毛剤で髪を奪われた頭が開陳され、美穂は「いやあ」と
叫びながらへたり込み、床に落ちたウィッグを拾ってかぶり直そうと必死になった。教室がざわめいた。雅代の
写メで見たのと同じ頭を実際に見て誰もが衝撃を受けている。
爆笑や嘲笑に沸く教室の中、美穂は前後も乱れたままウィッグをかぶり、床まで垂れる長い黒髪の合間から
中年の女教師を睨み上げた。彼女は哀れな女を蔑む目をして鼻で笑っていた。何よ、こんな頭の女よりあたしの
ほうが幸せね、みたいな顔は!
私の輝く肌を見なさいよ。シミもホクロもない蜜肌なのよ。もうすぐ老人斑が浮き出るような女とは違うのよ。
ウィッグだと知り、恥を掻かせてやろうとわざとやったのは間違いなかった。そんな陰険な性格だから結婚も
できないのよ。あんたなんか、どうせ男に貢いで貢いで貢いだあげく、捨てられる程度の女じゃない。ううん、
40歳が間近だからもう女ですらない。
今の美穂には、相手を見下し返して教室で大恥を掻かされた屈辱をほんの少しでもやわらげるしかなかった。
次の授業のために教室を移動しようと廊下を歩いているときだった。曲がり角の先から『美穂』という単語が
聞こえてきた。思わず足を止め、壁から様子を窺う。
知らない女子大生3人が噂話に花を咲かせていた。
「知ってる? 新田美穂ってさ、ミスコンのライバルたちを男友達にレイプさせたんだって」
な、何よ、それ。そんなことしてないわよ!
美穂は根も葉もない中傷にショックを受けた。ミスコンの女王は実力で勝ち取ったものなのに……。
どんな噂にも最初に言い出した嘘つきがいるはずだが、それが誰かは分からない。噂の発信源となっている
人間は、こう言うだけでいい。『ねえねえ、新田美穂ってこれこれらしいよ』するとそれを聞いた人間がまた別の
人間に広める。今度はより事実っぽく。『新田美穂ってこれこれだって』そして次。『新田美穂ってこれこれ
だから最低!』伝言ゲームも数人目になると、嘘から出た誠でデマも真実になっている。
「美奈ちゃんっていたじゃん。彼女が大学やめたのって、そのレイプが原因なんだって」
美奈ちゃんって誰よ。聞いた覚えもない。大方、家庭かお金の事情でやめたんでしょ。噂に真実味を加味する
ために誰かがその女の名前を持ち出したに違いない。
悪意ある噂を広めているのは誰だろう。私の輝きの影に隠れて不遇の時をすごした女が、今こそ好機だとばかりに
中傷をばら撒いているの? それとも、ミスコンで敗れた女が美貌で負けたという屈辱的な現実を否定するため、
女王は卑怯な行為をしたから優勝した、と吹聴しているの? あるいは、どんな荒唐無稽で無茶苦茶なデマでも
真実になるのが面白くて好き勝手言っている愉快犯がいるとか?
美穂は3人組がたむろする廊下を避け、目的の教室に向かった。
以前の私なら、陰口の現場に遭遇したら堂々と澄まし顔で出て行って一言、冷淡な口調で言っていただろう。
『日の当たらない場所でしか生きられない人間って、そうやって日陰でコソコソ悪口言うしか脳がないのね』
陰口を叩いていた連中は決まり悪そうに口を閉じ、反論を考えるものの、欠点のない完璧な美貌を前にしたら
何も責めるべき部分が見当たらず、結局はすごすごと尻尾を巻く。しかし、今は無理だった。豚鼻の女が毅然と
登場しても笑い者になるだけだし、どんな冷徹な台詞を口にしても、『ハゲ女』の一言で打ち負かされてしまう。
口論では絶対に勝てない。
情けない気分だった。
美穂は教室に入り、授業の準備を始めた。突然サリナが現れ、目の前に分厚い本が突き出された。図書館の奥に
長年眠っていたように埃まみれの本だ。彼女が埃叩きで本の表紙をはたくと、白煙のように埃が舞う。
「な、何すんの……よっ」
手のひらで埃の幕を払ったときだった。真正面を向いた大きな鼻孔が埃を大量に吸い込み、ムズムズした。
鼻を押さえる間もなくくしゃみが出た。鼻の穴から鼻水が前方に飛び出す。粘着質の物体は1メートル先の床に
ペチャっと着地する。
サリナの企みを知っていたのだろう、ワクワクした表情で遠巻きに様子を窺っていた学生たちが爆笑した。
「キャハハ、ミサイルが飛んだ!」
「きたなーい」
「教室汚すなよな」
美穂は言い返すこともできず、くしゃみを繰り返した。ポケットティッシュを取り出す余裕もなく、鼻孔を
押さえる両手のひらが鼻水でベチョベチョになる。
「掃除機が咳き込まないでよ〜」サリナが笑っている。「せっかく大きな吸い込み口が二つもあるんだから、埃を
全部吸引してよね」
日常生活でまで笑いものにされるのは耐えられなかった。
くしゃみが収まると、美穂は悔しさを噛み締めながらも、サリナを一睨みした。ミニスカートから伸びる
蜜肌の脚を組み替え、女王は下民なんて相手にしないのよ、という態度をとった。唯一残されたプライドは、
誰にも負けない美肌を見せびらかすことくらいだった。
美穂は惨めな気持ちのまま帰宅した。
一つのコンプレックスだけでも人間としての自信を失うのに、多重苦のようにいくつもコンプレックスを
作られたら、外出することにも躊躇してしまう。今の私を相手にする男なんているの?
天国から地獄へ急転直下。女神のように誰もがあがめた私が最下層に堕とされてしまった。
美穂はデスクトップ型パソコンを起動させると、育毛関連のサイトをネットサーフィンした。毛髪のサイクルに
関する説明を読み込んでいると、チャイムが鳴った。ウインドを閉じ、パソコンをスリープさせ、ドアを開ける。
同期生の女4人が立っていた。百合、洋子、萌、エリカだった。取り巻きの連中だ。私の美貌を見て感嘆し、
褒め称えるしか能のない連中。
「何なの?」
「新田さんが元気ないから、元気付けようと思って。上がってもいい?」
元気づける? うぬぼれないでよ。あなたたちは私の髪を生やし、歯を生やし、胸を元通りにできるの?
あなたたちにできることなんて何もないのよ!
以前なら容赦なく追い返しているだろう。でも、今は躊躇した。冷淡に扱ってソッポを向かれたら、味方を
失うことになる。デマの蔓延のせいで数少なくなってしまった味方を。
「入って構わないわ」
リビングに招き入れると、4人は各々が楽しい話題を喋り始めた。暗い話題を避けているのは分かるが、
芸能人の恋愛がどうの月9のドラマがどうのと話されても、相槌に困る。
美穂は適当にあしらった。
30分ほど経つと、百合が立ち上がった。
「あの、トイレ貸してくれない?」
♯♯♯♯♯♯♯♯♯
百合はトイレに入ると、鍵を閉めた。
みんなで練った復讐計画だった。
百合は7年間付き合ってきた彼氏を奪われた。正確には、美穂を紹介したら彼氏がのぼせ上り、彼女に高級品を
貢ぐようになってしまったのだ。美穂は友達の彼氏だと知りながら品々を受け取り続けたあげく、彼氏の貯金が
底をつくと、「すぐ女にプレゼントもできなくなる程度の男に価値はないの」と切り捨てた。
百合自身も惨めな思いをさせられていた。絶対の美貌を持っていた美穂から、事あるごとにコンプレックスを
非難された。口元にニキビができたら、『肌の手入れが悪いのよ』と責められた。下手に出て対処法はないかと
訊いたら、「私の肌にニキビは一つもないもの。対処法なんて知るわけないでしょ」と鼻で笑われた。
百合は素早く行動を起こした。ポーチの中から超小型の隠しカメラを取り出し、換気扇のフィルターの中に
設置した。洋式便器全体が盗撮できる場所だ。他にも台の下部に仕掛け、下からも映せるようにした。
浴室の換気扇のフィルターの中にも設置する。レンズの直径は1ミリだから絶対に分からない。浴室全体が
鮮明に映るように角度を調整した。無線LANで半径3キロまで電波が飛ばせるタイプだ。高性能だからカラーで
くっきり盗撮できるし、赤外線機能付きだから暗闇でも問題ない。
トイレと浴室に隠しカメラの設置を終えると、百合は便器にトイレットペーパーを押し込んだ。水が流れない
ようにしてから、トイレのドアを開けた。
「ごめん、美穂!! トイレ、詰まっちゃった!」
美穂は鬱陶しそうにため息をつくと、トイレに入ってきた。便器を見て再び大きなため息を漏らす。
「ちょっと、勘弁してよね。私の部屋を汚しに来たわけ?」
百合は「ごめん」と両手を合わせた。
洋子と萌とエリカは、百合が美穂をトイレにおびき寄せると、すぐさま動き始めた。散開し、各々が持参した
超小型隠しカメラをリビングと寝室に設置し始めたのである。ソファが映るテレビの下、テーブルが映るキッチンの
隙間、部屋全体が映るトレーニング器具の上部――。
洋子の恋人は美穂の色香に惑わされ、衝動的に肩を抱き寄せてキスしようとした。瞬間、肘鉄砲を鼻に食らって
鼻骨骨折。整形してもひん曲がった鼻は治せなかった。しかも、肘鉄砲だけで充分だっただろうに、急所への
痛烈な一撃のおまけにより、股間が潰されて勃たなくなってしまった。洋子はそれでも彼をまだ好きだったから、
やりすぎだと美穂に訴えた。すると美穂は冷淡に言った。
「私の唇は安くないのよ。勃たない男なんて男として用を成さないんだから、別れたら?」
結局、彼は男としての自信を失い、自ら洋子の前から姿を消した。大好きだった彼。幼馴染で友達関係を長く
続けながらも、淡い恋心を消し去れず、友達歴16年目に思い切って告白し、恋人歴を刻み始めた矢先の
出来事だった。誠実で優しかった彼が浮気するなんて信じられず、美穂に何度も問い詰めたら、真相が分かった。
「彼が本当の愛を持ってるか確かめてあげたのよ。駄目ね、あんな浮気男は。私がちょっと胸元を見せて思わせ
ぶりな台詞を口にしたらクラッとしちゃって」
大好きだった彼は美穂に誘惑され、気の迷いを起こして迫ったら鼻と急所を潰された。ひどすぎる。
洋子は美穂の知人の中では綺麗なほうだった。だから、美穂は自分のほうが魅力的だと証明するため、そんな
口実を掲げて誘惑したのではないか、と疑った。
萌は同い年の友達にパシリ扱いされることが好きじゃなかった。美穂と二人で買い物に行き、帰りに金払いの
よさそうなイケメンにナンパされると、必ず彼女に言われる。
「袋、預かっておいて。夜11時なら帰ってるから、届けて」
人がいい萌は嫌な顔一つ見せず従った。11時に美穂のマンションを訪ねてまだ留守だったら、美穂が
帰宅するまで部屋のドアの前で待った。入れ違いになって、買ったものを取り出す時間が遅れたら可哀想だと
思ったから、深夜2時になってもドアの前で座って待っていた。真冬のことだった。寒風に晒され、身体を
震わせながら、かじかむ両手をこすり合わせた。
帰宅した美穂の第一声は、「あんた、人の部屋の前で何やってんの?」だった。女王様の住居の前に居座られたら
邪魔なのよ、という口調だった。
「あ、あの、これ、袋……」
おずおずと買い物袋を差し出すと、美穂は「ああ」と思い出したように受け取り、他には何も言わず部屋に消えた。
萌は閉まったドアを何分も見つめ続けた。美穂が温かいコーヒーでも持って出てきてくれるんじゃないか、と
期待して。
期待はかなわなかった。15分後、美穂の部屋の明かりは消えた。
寝室担当の萌は、ベッドが4方向から盗撮できる位置に超小型カメラを設置した。罪悪感に悩まされながらも、
本棚やタンスの上に仕掛ける。
エリカは4人の中で唯一美穂を中学時代から知る女だった。美穂の悪質なやり口はよく知っている。彼女は決して
自分に被害が及ばないように立ち回る。高校時代、美穂が生徒会長に立候補したときだった。内申書のために立派な
経歴が欲しかったのだろう。美穂は形勢が不利と見るや、不良タイプの男友達に言った。
「比呂美が辞退してくれると嬉しいんだけど」
「どうすればいいんだ?」
「自分で考えてよ」そして、さも今思いついたばかりのように言う。「あっ、彼女、遅くまで学校に残ってるから、
毎日帰宅は夜9時ごろになるみたいよ。帰りはひとけのない夜の公園を1人で通るんだって」
男は“自分の頭で”何をすべきか考え、仲間と一緒に対立候補の比呂美を輪姦した。バージンだった彼女は、
ショックのあまり、高校を中退した。噂によると、リストカットを繰り返し、今でも実家に引きこもっているという。
大学に入ったころの美穂は、完璧な美貌を手に入れていたから、中高時代のように裏側で小細工をしなくても、
望むものが何でも手に入るようになっていた。だから、大学入学後は卑劣な行為をしていない。そのせいか、誰もが、
美穂は高飛車で言葉は厳しいけど悪女というわけではない、と思っている。だが、中高時代の美穂を知ったら、
イメージはひっくり返るだろう。美穂は、どんな小汚いことをしていても中高時代なんて過去の話だからもう
無関係、時効だから私には何の罪もない、みたいな顔をしているけど、当時ひどい目に遭った人間は決して忘れない。
エリカは、真面目で頑張り屋の比呂美が好きだった。彼女が友人たちの押しに負けて立候補したときは、美穂と
対決するはめになることを気に病んでいた。まさか輪姦事件に発展するとは……。
美穂と不良の会話を聞いていたエリカは、危機を比呂美に伝えたかったが、美穂に『分かってるわね』という
目で睨まれて何も言えなかった。美穂を敵に回すということは、高校の男の半数を敵に回すということだ。
美穂が不機嫌になると、男たちは元凶を責める。美穂に心酔するワルたちに恨まれたくない。命令されなくても、
連中は彼女の心情を察して行動するから。
今では後悔している。夜の公園を通らないよう比呂美に忠告していたら、彼女は無事だったのに……。
美穂は絶対の美貌を持っているからワガママなのだろう。何を言っても、何をやっても、咎められることがない。
ブスが言ったりやったりしたら非難轟々でシカトの対象になる行為でも、美人だから許される。そんな毎日を
送ってきた美穂は他人から嫌われるという経験がない。全世界から好かれて当然という顔で生きている。
だから、ひどい目に遭った人間の気持ちを思い知ればいいと思う。
昨日、雅代やサリナたちが『新田美穂を傷つける会』を結成した。会員は15人。会の趣旨は単純明快だ。美穂を
悲しませれば悲しませるほど点数が高い。一番傷つけることができたら優勝。
エリカは百合や萌や洋子と一緒に会に加入した。会の趣旨を聞くとイジメの加害者集団みたいで嫌な気分に
なるけど、女王だった美穂に4人で仕返しする勇気はなかった。悲しいことに従者根性が染みついてしまっている。
それに、彼女の味方は減っているとはいえ、どこにどんな信者がいるか分からない。ひ弱な4人じゃ、裏切りに
気づいた美穂の命令でどんな目に遭わされるか……。
会に加入したのは、ウサギが雌豹に立ち向かうために仕方なくだった。
リビング担当のエリカは、机に置かれたデスクトップ型パソコンの電源が入っているのを確認すると、
スリープモードを解除し、キーボードを操った。あるサイトに行き、スパイウェアをダウンロードした。
隠しカメラを設置中の洋子が「何してんの?」と訊く。
「スパイウェアのインストール。これで美穂がパソコンで何をしているか全部確認できちゃうの」
ネットの利用状況を監視するタイプだ。企業が社員のパソコンを監視するのに使っている。これをインストール
しておけば、美穂がどんな検索単語を入力したか、どんなサイトを見ているか、どんな順でそれぞれ何分ずつ
閲覧したか、ネットでどんな商品を購入したか、メールで誰とどんなやり取りをしたか、24時間監視し、エリカの
パソコンに逐一送信する。しかも定期的に画面をキャプチャし、全操作のログを記録する機能もある。
このスパイウェアは存在を隠す機能があるため、第三者のパソコンに一度仕込んでしまえば、ネットワークを
通して標的の全操作が盗撮できる。パソコンはプライバシーの宝庫だから、標的の考えや望みや趣味嗜好を
知ることができる。
例えるなら、透明人間になって美穂の背後に立ち、パソコンの画面を覗き見ているのと同じ効果があるのだ。
謀反を起こすには女王の弱みを知らなくてはいけない。
仕掛けには1分もかからない。インストールが終わると、履歴を消して証拠隠滅をした。
次に目をつけたのは、美穂のパソコンの上部に設置されている目玉型の黒いWEBカメラだ。ビデオチャットを
するときに利用するカメラである。
「これ、ハッキングしちゃう? 高性能なWEBカメラだから綺麗に映ると思うよ」
「そんなことできるの?」と洋子が訊く。
「うん。WEBカメラとマイクをスパイウェアで乗っ取っちゃうの。パソコンの電源が切れてても、WEBカメラを
起動させちゃうんだよね。接続してないと起動しないはずのWEBカメラが常時作動状態。監視カメラに早がわり!
美穂もまさかビデオチャット用のWEBカメラが盗撮してるなんて思いもしないと思う。盗撮した映像は転送されて
私のパソコンで見れるの」
「それいいじゃん!」
エリカは慣れた操作でWEBカメラのハッキングを終えた。仕事を全て終えると、二人は小さく笑い合った。
「これで美穂のプライバシーはゼロだね」と洋子。
「プライバシーも私生活も丸裸だよね。24時間監視できるし」
「……でも、何だか私たち、集団ストーカーなみだよね」
「そんな考えはやめようよ。これは正義なんだから。独裁者を倒すためにスパイしてるの、私たちは。
そう考えようよ。私たちが罪悪感を覚える必要なんてないはずなんだから」
「うん、そだね」洋子はうなずいた後、両手を叩き合わせた。「あっ、そうだ。みんなでさ、美穂が1週間以内に
オナニーするかどうか賭けをしようよ」
「それ、面白そう!」
「私はするほうに賭ける」
「私も! みんなはどうかな?」
「後で聞いてみよ」
♯♯♯♯♯♯♯♯♯
押しかけてきた取り巻き連中が帰ると、ようやく落ち着けた。
低レベルな会話を繰り返したあげく、トイレまで詰まらせるなんて本当どうしようもない連中ね。役に立たない
なら立たないなりに迷惑だけはかけないでよ。私を褒め称えるしか脳がないくせに。
午後10時になると、美穂はバスルームで裸になり、明るい浴室に入った。乳房が腹に垂れ下がっている。
相変わらず肥大化した焦げ茶色の乳首は床を指していた。裸で一歩を踏み出すたび、引き伸ばされたラビアが
内股でこすれる感触があった。最低の不快感だった。
裏切った付き人の卑怯な利尿剤のせいで動きが鈍り、久恵に敗北したあの日から、女神としての人生が180度
変化してしまった。完璧な人生を悠々と送ってきたのに……。
美穂はふと1年前のことを思い出した。海水浴場でナンパしてきた男がいた。
「一ノ瀬アメリよりスタイルのいい女、初めて見た!」
ブ男だったから即座に切り捨てた。後日、一ノ瀬アメリというのが誰だか分からなかったので、ネットで
検索した。『ROOKIE'S』というAVのパッケージが最初にヒットした。大勢の前で股を開くしかお金を稼ぐ手段が
ない人間と比較されたと知り、腹立たしく思った。何より、こんなAV女優なんて比べ物にならないくらい
私のほうが完璧なスタイルと美肌を持ってるでしょ、と男を探し出して言ってやりたかった。
でも、今の私なら、そのパッケージの彼女くらいのスタイルが取り戻せたら満足できる――そう本気で思った。
誰もがうらやむ美貌を持っていたのに、会場に集まった嫉妬と悪意によって髪も鼻も胸もアソコも醜くされた。
前は水着が大好きだった。バストアップ効果やウエスト引き締め効果のある下着やインナーをつけられない分、
体のラインがもろに現れる。人工的に外見を偽っていた女たちの欺瞞が暴かれ、自分は小細工なしで完璧な
肢体をアピールできる。歩くだけで世界の視線を集められる女だった。男全員の思考を停止させられる美貌だった。
でも今は……。
日が経つにつれ、下品なリクエストをしたゴキブリみたいな連中に対する怒りが沸きあがってくる。
私にこんな惨めな思いを味わわせるなんて何様のつもりなの!
ゴキブリは容赦なく踏み潰し、殺虫剤で息の根を止めてやればよかった。ブスなんて相手にしない、という態度で
放置し続けたから、わらわらと繁殖し、徒党を組んで羽音を立てながら襲い掛かってくるのだ。よってたかって
私の美貌を穢すなんて。
ブスは生きているだけで迷惑なのよ!
美貌を奪って同類を作ろうというやり口が気に入らない。
屈辱と怒りに唇を噛み締めながら、自分の美髪で作ったウィッグを外した。タイルの壁に丸型の鏡を貼りつける。
恐る恐る鏡を覗き込んだ。両サイドに3センチほどの黒髪を残し、前頭部から頭頂部まで禿げ上がっている。
永久脱毛剤のせいで毛根は死滅していた。
ああ、最低の、頭――。
不細工な女が自分の顔に抱いているコンプレックスよりも強いコンプレックス。ブスは大勢いても、髪がない女
はまずいない。円形脱毛症の女か抗がん剤の副作用に苦しむ女か。少なくとも大学の女たちには髪がある。
街中を歩いている女たちにもある。私はそんな女たちより悲惨な状態にされてしまった。
こんな滑稽な頭を負け組連中に見られたのだと思うと、恥ずかしさで胸が苦しくなる。
ハゲオヤジの頭そのものだった。久恵の陰険なアイデア。尼さんみたいなスキンヘッドなら色気を感じる物好きも
いるだろうけど、波平状態にされたら滑稽で惨めで笑いものになるしかない。
以前は、吐息で舞い上がる長い絹糸のごとき黒髪に同性の誰もが嫉妬し、感嘆のため息を漏らし、背中一面を
覆う豊かな髪に触れたがった。そんな女たちは今、私の黒髪が永遠に失われたことに溜飲を下げている。
今後、ハゲ頭を隠す男のカツラを奪う悪戯をするみたいな軽い気持ちでウィッグを奪われないともかぎらない。
警戒していても不意打ちでひったくられたらどうにもならない。そんなとき、ウィッグの下から波平頭が
飛び出したら、爆笑と嘲笑の的になる。
それならいっそ――。
思い切って全部剃ってしまおう。
中途半端な状態よりましかもしれない。
美穂は深呼吸して気持ちを落ち着けた。しかし、心臓の音は皮膚を突き破りそうなほど高鳴っている。自分の髪を
自分で剃る――生まれてから一度も想像したことがない行為だった。
でも、ウィッグを奪われて惨めな頭を晒し、低俗な連中の笑いものになるのは耐えられない。覚悟を決めよう。
美穂は夕方に百貨店で購入した電動バリカンを取り上げ、スイッチを入れた。ウィィィィィンというモーター音を
聞いた瞬間、脳の奥底に埋めていた悪夢がよみがえった。身動きできないように椅子に拘束され、久恵がニヤニヤと
勝ち誇った顔で迫ってくる。バリカンという凶器が雄たけびを上げている。10年間伸ばした自慢の美髪に刃が
食い込む。目の前を雪崩落ちる黒髪の束。喉から飛び出す悲鳴。命より大事な髪を奪われていく絶望感。
皮ベルトのせいで逃げたくても逃げられない無力感。私が泣き声を上げるたび、爆笑する観客たち――。
忘れたかった記憶が押し寄せてきて身体が震え始めた。トラウマめいた動揺が胸を襲う。
「いやあああっ!」
叫びながらバリカンを投げつけた。バリカンは壁に跳ね返り、タイル張りの床に落ちた。それは凶悪なうなり声を
上げながら、タイルの上で振動を続けている。陸に打ち上げられたピラニアがしぶとく生きようともがいている
ように見えた。
美穂はかぶりを振りながら立ち上がり、壁際まで後ずさった。
バリカンに対する恐怖心は、胸の奥深くに食い込んでいた。
私の命を奪った凶器――。
息は乱れ、全身に脂汗が染み出す。
駄目、バリカンは使えない。
震える指を伸ばし、スイッチを切る。
息を整えながらT字カミソリを見つめた。
直接剃ってしまおう。
美穂はシェービングクリームを手のひらに出すと、両手でこすり合わせて泡立てた。頭を挟み込むようにして
泡を側頭部に塗りつける。鏡を見ながらT字カミソリを3センチの黒髪に寄せる。刃が触れるか触れないかの
距離に近づいたとたん、T字カミソリが小刻みに震え始めた。
本能が――美人だった女としての本能が躊躇させる。
なぜ? なぜ私がこんなまねをしなくちゃいけないの?
10年間伸ばし続けてきた髪は、身体の一部だった。今は3センチの短髪にされているとはいえ、それを剃ると
いうことは、肌を傷つけるに等しい。自分で自分の肌を切るようなまねはできない。したくない。
でも――。
美穂は震えが収まるのを待ち、覚悟を決めた。
T字カミソリを這わせると、シャリ、シャリと音がした。二枚刃には剃られた黒髪が詰まっている。側頭部には、
刃に集められた白いクリームの山の中に黒い塊が見え隠れしている。
美穂は蛇口をひねり、お湯でT字カミソリを洗った。綺麗にしてから再び刃を黒髪に走らせる。頭皮を傷つけ
ないように細心の注意を払いながら、剃った。普段は避けていた鏡を直視しなければならない屈辱。無毛にされた
頭から目をそらせない状況に胸が痛む。
美人というだけで醜い連中から嫉妬され、美貌を奪われるなんて……。
浴室で全裸になり、命より大事な自分の黒髪を剃っていると、惨めで屈辱的な気分になった。
一時間以上かかった。以前なら美容に費やしている時間を剃髪に使わなくちゃいけないなんて……。
美穂はシャワーで泡と毛を洗い流した。命同然だった髪の亡骸が排水溝に吸い込まれていく。
喪失感を覚えながらも、美穂は鏡を見た。とたんに激しく後悔した。
思っていたのと違う……。
側頭部は青白くなっており、毛根が死滅した前頭部から頭頂部の肌色と差が浮き彫りになっていた。禿げた
部分と剃った部分の境界線がはっきり分かる。もともと髪が豊かだったから、剃っても青々としている。これじゃ、
ハゲを隠すために剃ってますよ、とアピールしているみたい。
尼さんや海外の女優のような綺麗なスキンヘッドじゃない。不自然なハゲ頭だった。
剃ってから気づいた。髪を剃った女優や尼さんがそれなりにセクシーに見えるのは、全面に毛根があるからだ。
同じスキンヘッドでも統一感があるから、髪がないならないなりに格好良く見える。でも、私は違う。永久脱毛剤で
前頭部から頭頂部まで毛根を殺されてしまった。色の違いが醜く見える。
こんな頭、いや……。
豚鼻以外は完璧な美貌がある私なら、髪を剃ったその辺の女優よりセクシーに見えるのだと思い込んでいた。
でも現実は違う。みっともないだけだった。中年オヤジみたいに未練がましく伸ばしているよりはましという
程度だ。
何をしても駄目なのね。ハゲ頭にされた女は一生コソコソ隠し続けろってわけ?
だからといって、脱毛剤を買ってくるようなまねは絶対にできない。横も前も後ろも完全に毛がないほうが
見た目がよくなると分かっていながらも、自分の手で残りの髪を脱毛するなんてできない。そんなことをしたら、
何日も経ってから後悔してしまうだろう。
惨めな気持ちでたたずんでいると、尿意がこみ上げてきた。夏場だからといって裸ですごしすぎた。
美穂は内ももをすり合わせると、全裸のまま隣のトイレへ駆けた。垂れた乳房を揺らしながら。
漏らす前に洋式便器に座る。間一髪だった。しかし、次の瞬間、小便がピピピピピッと飛び散った。反射的に
腰を上げてしまい、以前の二の舞になった。小便が個室内に飛散したのだ。
美穂は慌てて両手を後ろから回し、中腰の姿勢で、ビロビロにされたラビアを広げ、排尿した。
「ああ、最低……」
尿を出し終えると、美穂はトイレットペーパーを引き出した。太ももの周りを拭き、股を拭き、全裸のスキン
ヘッド姿で汚れたトイレの掃除をはじめた。尿の悪臭は個室に立ち込めている。
何で私がこんな目に……。
美しいというだけで私を恨み、私を貶めた連中なんて、産業廃棄物と抱き合わせにして海に沈めてやりたい。
翌日、学年主任から呼び出され、恭子の脚の怪我の件で事情を聞かれた。
「彼女がバランスを崩したものだから、支えようと両手を差し出したんです。でも、私が下手に車椅子の取っ手を
掴んでしまったせいで、彼女、背中から落ちてしまって。私は助けを呼ぶためにその場を離れたんですけど、
私が人を連れてくる前に彼女を見つけた生徒が119番してました」
大学の評判を重視して事なかれ主義を貫く大人たちは、その説明を信じた。信じたふりかもしれないが、それで
納得し、お咎めなしだった。
責任を追及されるとしたらそのほうが異常だと思う。実際、恭子の後ろ襟を掴んだだけで彼女は倒れ、勝手に
脚を悪化させたのだから。マッチ棒みたいにやわなんじゃないの? 健康な人間だと思って肩を叩いたら相手が
骨粗しょう症で骨が折れた――これで罪に問われる人間がいる?
学年主任の判断は正しい。私が非難される理由なんて何もないもの。
残念だったわね、恭子。大袈裟に騒いで自分の過失を私のせいにして私を転落させようなんて、無理なのよ。
聖人君子面して狡猾な女ね、全く。
正義が勝ったという喜びも、日に日に尾ひれがついていく噂の悪質さには辟易した。
廊下で女子大生3人が話している。
「あのくびれ、脂肪吸引で作ったらしいよ」
「うわっ、最低! 私たちなんて、昼ごはん少なめにしたり、デパートで階段使ったり、努力して頑張って
ダイエットしてるのにさ」
その程度は努力って言わないのよ! 太りすぎたおばさんじゃあるまいし。
「掃除機で吸い取るのって反則だよね。楽して綺麗になろうとか、性格いやしすぎ」
「整形してない場所ってあるのかな?」
「目玉くらいだったりして」
日々の努力で磨き上げた美貌を整形扱いされるのは屈辱だった。
昔から美は正義だと思ってきた。でも、醜い女たちにとって美は罪だった。美しすぎるという理由でねたまれ、
憎まれ、あげく罪に相応しい罰として美を奪われた。連中の理屈で言うなら、罪=美なのだから、美を失った時点で
罪は消えてなくなるはず。なのに好機とばかりに誹謗中傷を繰り返す。
何て低俗なの。
美しかったことがそんなに憎いわけ?
陰湿なセクハラを精神的なレイプというなら、連中がしていることは精神的なリンチだった。最低の人間たちだ。
美貌ゆえに憎まれるなんて、醜い女たちの世界の常識は狂っている。
美穂は噂話が聞こえないふりを装い、3人から離れたところを通った。一人が聞こえよがしに「人造女」と
吐き捨てた。美穂は唇を噛みながらも無視を決め込んだ。
突然、背後から小さな足音が聞こえた。ビクッとして振り返る。恥を掻かせるため、誰かがウィッグを奪おうと
足音を忍ばせているのではないか。そんな疑念が胸をよぎる。
足音の主は、教室に向かう教授のものだった。
美穂は安堵の息を吐いた。
敵兵の接近を許したら命を奪われる兵士の気分だった。私にとっては、文字通り命を奪われるに等しい。
衆人環視の場で惨めな頭を剥き出しにされることは。
帰宅した美穂は、デスクトップ型パソコンで育毛関連のサイトをネットサーフィンした。見ていると涙目になる。
踏みにじられた雑巾みたいに自分の顔が惨めに歪んでいるのが分かる。
育毛剤の販売サイトにたどり着くと、適当なハンドルネームをつけて掲示板に書き込んだ。
『無駄毛の処理の最中に誤って永久脱毛剤が前髪についてしまい、10円玉くらいの広さが禿げてしまいました。
毛根がなくても効果がありますか? 教えてください。切羽詰ってます』
女神同然の生活をしていた私がこんな書き込みをしている――想像しただけで惨めさが増した。
パソコンにメールが届いたのはそんなときだった。確認すると、スポーツインストラクターの青年からだった。
パソコンのメールには、一流の男たちの名前が並んでいる。スポーツ選手や俳優、モデル、大企業の御曹司。
出会った人間とメアドを交換するのと違い、本人のHPにメールを送り、知り合い、長い月日をかけて親交を
暖めてきたのだ。
スポーツインストラクターの青年は、今夜ビデオチャットをしたいと書いてきていた。美穂はパソコンの上部の
WEBカメラを見つめた。目玉型の黒いカメラが光っている。
WEBカメラは、海外や遠くの県で活躍する勝ち組たちと話すときに利用している。でも、今は無理だ。ビデオ
チャットをしたら、相手に豚鼻を見られてしまう。負け組連中とは違い、勝ち組との交友は大事にしているのに、
嫌われたくない。だからビデオチャットの誘いは巧みに断った。
美穂はしばしパソコン画面を見つめた後、スポーツインストラクターの青年が1ヶ月前に送ってきたメールを
開き、添付されている写真を見た。ジムのトレーニングマシーンを背景に青年が笑顔で写っている。タンクトップは
ギリシャ彫刻なみの肉体美に盛り上がっていた。
彼になら私の身体を与える価値があると前から思っていた。だけど、今の私は人前で裸になれない。
美穂はネットで検索し、引き締まった身体の男の下半身が写っている画像を探した。誰のものかも分からない
立派なペニスの無修正画像を画面の下方に配置し、スポーツインストラクターの青年の顔写真を上方に配置する。
そして、彼の裸を妄想し、椅子に座ったままミニスカートの下からショーツに指を差し入れた。
脂肪吸引された胸は揉んでも快感を得られないため、自然と下半身を選択した。
美穂は椅子に座ったまま脚を開き、パソコン画面の2つの写真を見つめながら、自分を慰め始めた。
感触で中指がビラビラの陰唇に包まれているのが分かる。指先を折り曲げ、小刻みに動かしていると、息が
乱れだした。目を半分閉じ、桜色の唇を半開きにし、画面のペニスを陶然と見つめながら、自慰を続けた。
静かな部屋に、淫靡な粘着音だけがいつまでも響いていた。
日曜日。
美穂はマンションを出ると、ワインレッドのポルシェ限定モデルに乗り込んだ。ファイトマネーやCMの出演料の
大半を注ぎ込んで購入した1000万の車だった。自分の稼いだお金で買った数少ないものがこれだ。他人から
貢がれても愛着が湧かない。だから、自分で買った。自分の身体と同じくらい手間隙をかけて整備し、大事にして
いる最高の愛車。
美穂はポルシェで遠出をして休日をすごした。自慢の車を走らせていると、日々の鬱屈もやわらいだ。
美貌を奪われた今、プライドのより所は知性と何不自由ない暮らしとこの愛車だけだ。
新たな面倒事がドアをノックしたのは翌日だった。
恭子が刑事告訴したらしく、検察庁に呼ばれて事情を聞かれたのだ。
美穂は事実無根だと主張し、それが認められて起訴されなかった。恭子に暴力を振るった証拠が何もないから、
検察官も有罪をもぎ取るのは難しいと判断したのだろう。
事情聴取に呼ばれたこと自体が不本意だった。
しかし、罪の追求が不可能と分かるや、恭子は民事裁判を起こし、損害賠償請求をしてきた。
1年かかろうと2年かかろうと、美穂は理不尽な“暴力”には徹底して争う気だった。
美穂は裸で浴室に入ったとき、勇気を振り絞って鏡を見た。知らないうちに横の髪が伸びていた。
側頭部の毛根は必死に頑張り、3ミリの坊主頭程度に黒くなっている。髪が伸びる姿を見ると、無意味なのに
嬉しくなってしまう。でも、黒く伸びたせいで再び滑稽なハゲ頭になっていた。
手のひらで撫でると、徹夜した男の無精髭みたいにジョリジョリしていた。
また、剃らなきゃ……。
美穂はT字カミソリを取り上げ、側頭部にシェービングクリームを塗りつけた。
せっかく伸びてきた髪だけど、剃るしかない。伸びれば伸びるほど禿げた部分との対比で惨めに見えるのだから、
綺麗に、綺麗に、剃らなきゃ。
美穂は涙をこらえつつ、T字カミソリを側頭部に当てた。
1ミリでも伸びていたらみっともない。これからは毎日剃らなくてはいけない。
最低の気分だった。毎日お風呂に入るたび、自分の髪を剃らなきゃいけないの?
憂鬱な気分のまま剃髪を終えると、シャワーで洗い流した。昔のような濡れ髪はなく、鏡には剥き卵状態の頭が
光っており、付着した水滴がキラキラしていた。信じられない光景を見続けていることに耐えられず、浴室の電気を
消し、アロマキャンドルに火をともした。薄暗くして自分自身の目から惨めな身体を隠すと、冷たいタイルに尻を
落とし、自分の毛で作ったウィッグを洗剤入りの洗面器に浸けた。3日に1度の欠かせない作業だった。
タイマーで10分をはかり、ブラシでウィッグを溶かし洗いした。真ん丸い頭の影がタイルに揺れている。
全裸の美穂は、薄暗い浴室で一人、頭の影を見ながらウィッグを洗い続けた。
作業を終えると、身体を洗い、風呂を出た。
肌触りのいい生地のパジャマを着ると、コンビニで買ったパスタで食事をした。水を入れた洗面器を持ってきて
習慣をはじめる。C字にした指を口内に突っ込み、上下左右に揺らしながら総入れ歯を抜いた。カポッと間抜けな
音がする。桜色の唇に皺ができ、歯のない歯ぐきに吸いつく感触があった。
負け組連中が面白半分で全抜歯したせいで、食事のたびに味わわなくてはいけない屈辱感だった。
美穂はテーブルに置いた洗面器の上で総入れ歯に歯ブラシをこすりつけ、作り物の歯を一本一本磨いた。
ウィッグの洗髪も総入れ歯の歯磨きも、決して人には見せられない姿だった。優雅に勝ち組の暮らしをしていた
私が部屋でこんな作業をしているなんて、負け組み連中に知られたら死んでしまう。
変わり果てた身体のことは忘れたいのに、毎日強制されるケアがそれを許してくれない。
惨めな思いを噛み締めながら作業を終えると、ウィッグを専用の台に掛け、水の入った容器に総入れ歯を保管し、
ベッドに入った。
299 :名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 02:05:01 ID:8n+aHwfNO
永久脱毛剤による10円玉大の禿げに対する効果について、お答えいたします。
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翌朝、美穂は鏡を見てショックを受けた。睡眠は髪を伸ばす。夜10時から深夜2時までが最も成長ホルモンを
分泌する。そのせいで、昨夜はお風呂で綺麗に剃ったのに、朝起きたらもう青さが目立っている。
嘘でしょ。
今は伸びる髪が恨めしかった。
美穂は服を脱ぎ捨てると、浴室に入り、再びT字カミソリとシェービングクリームを用意した。今後は毎朝毎朝、
大学に行く前に剃らなきゃいけない。自慢だった私の黒髪。それを毎朝毎朝――。
でも何よりつらいのは、日の当たる世界へ出て行く前に、鏡で自分の頭を見なきゃいけないことだった。
目を閉じて剃ることはできない。髪を剃りはじめる前までは、浴室から鏡を排除し、自分の顔を見るときは
ウィッグをつけているようにし、髪を奪われた頭を見なくてもすむように工夫していた。だけど、これからは
毎朝毎朝直視しなきゃいけない。
現実から目をそらせないほどつらいものはなかった。
以前なら朝起きて身なりを整えると、全世界を手中に収められそうな自信がみなぎった。でも、今は違う。
朝が来るたび髪のない頭を直視し、長かった美髪を惜しみながら髪を剃り、ウィッグなんてものをかぶらなきゃ
人前にも出れない頭だと思い知らされる。人間としての自信や尊厳を根こそぎ奪われる。
こんな気分のまま外出したら、人目が怖くなる。惨めになる。
久恵は私が毎日こんなに惨めな思いをしているなんて想像もできないだろう。ただ、敗者から自慢の髪を
奪ってやれ、くらいのノリでバリカンと永久脱毛剤を使ったのだから。
さらに翌日。美穂は服を着替えようとして目を疑った。
自慢の美脚に――左太ももに、赤色の米粒を撒き散らしたようなニキビができている。恐る恐る鏡を覗くと、
右頬にも5つ6つの吹き出物があった。美穂にとっては、悪魔の侵食だった。
「いやあああっ!!」
プライドのより所を失った瞬間だった。
蜜肌が……毎日ケアしてきた輝く肌が……。
会場で無責任に好き勝手を叫んでいた観客たちの声が聞こえてくる。
「肌が綺麗なのが気に入らないから、ブツブツのニキビ面にしてやって!」
「賛成! 顔も身体もブツブツだらけになればいいのよ!」
「ニキビや吹き出物だらけにしちゃえ!」
「いいね。肌を汚くしてやるのは大賛成!」
「早くやっちゃって!」
「二度と美人面できないようにしちゃえ!」
美穂は幻聴に耳を塞ぎ、悲鳴を上げながらしゃがみ込んだ。
これじゃあ、誰もがキスすら嫌がる。気持ち悪い。自分でも触りたくない。
ニキビや吹き出物とは無縁だったから、できてからどうしたらいいのか分からなかった。衝動的に軽石で
ブツブツを削り取ってしまいたくなった。しかし、そんなことをすれば肌がどうなるか、想像できるだけの冷静さは
持っていた。
ああ、こんな肌でどうしたらいいの?
残された唯一の武器――陶磁器のように輝く肌――を奪われると、自分に何の自信も持てなくなった。
私の人生は終わった――そんな思いが胸を突き上げてくる。
大学に行きたくない。でも、行かないと留年してしまう。美貌を失い、未来を失い、学歴まで失ったら、
他人に誇れるものがなくなってしまう。
美穂はこみ上げてくる涙をこらえ、ジーンズと長袖のシャツで大学に行った。自慢だった肌まで隠さなくては
いけない屈辱感は、言葉で言い表せない。豚鼻を晒している惨めさを跳ね飛ばすため、美脚と美肌を見せびらかし、
美人としてのプライドを保っていたのに……。
大学に着くと、同期生たちが美穂の顔を見て「ぷっ」と吹き出したり、見下したりした。赤いブツブツが数個
散った頬は醜かった。取り巻きの百合も笑いを噛み殺しているように見える。思い返せば、彼女のニキビを
冷笑したことがあった。私の悲しみを少しでも思い知った? という気持ちだろう。
サリナと雅代が「汚い。何かの病気? 私たちに感染さないでよ」と蔑みながら離れていった。
美穂は泣き喚きたい気分になりながら、一日を耐え忍んだ。帰宅すると、ネットの検索でニキビや吹き出物を
治療する薬を探し、何種類も購入した。
幸いにも、治療薬を塗りまくっていると、1週間で肌は元通りになった。
安堵より恐怖心のほうが強かった。
会場の女たちは、輝く蜜肌に嫉妬し、身体全面にレーザーを照射した。顔なんて特に念入りに照射された。
もしかしたら、数日後には全身が吹き出物だらけになるかもしれない。赤色の米粒を体中にぶちまけたような
有様になるかもしれない。
イスラム教の女みたいに顔を隠して生活しなきゃならないはめになったら?
最悪の未来像を想像し、眠れない日々が続いた。眠れても全身がブツブツだらけになった悪夢で目が覚めた。
寝汗がパジャマを濡らしていた。
大学に行くのが億劫だった。
嫉妬に狂った一部の連中が嘘を蔓延させたため、今や『整形で作った美貌でみんなを欺いていた人造人間』扱い
されている。恭子を蹴り倒して介護生活を余儀なくさせた『極悪女』扱いされている。
そんな最低女が相手なら苦しめてやるのが正義だと誰もが思い込み、正義感で責めてくる。誰もが私を苦しめれば
苦しめるほど、正義にかなっていると信じている。
冗談じゃない。恭子は自業自得でしょ。
色々なことがありすぎ、無料で作ったメアドをチェックしたのは、育毛剤販売店のHPへの書き込みから結構日が
経ってからだった。掲示板には捨てアドを記載していたので、育毛剤の製造会社の人間からメールが届いていた。
一般的な永久脱毛剤なら毛根は残っている可能性もある、と書かれている。
デスクトップ型パソコンの前の椅子に座る美穂は、キーボードを叩き、駄目もとで返信を送った。
『丁寧なお返事ありがとうございます。実は市販の脱毛剤ではなく、ドイツ製の超強力な永久脱毛剤なんです。
輸入物に手を出すなんて血迷ってしまったとしか思えません。これでも効果があるでしょうか?
ぜひ詳しいお話を聞かせてください』
大学に行くたび、嘲笑の対象になるのは、ウィッグで隠している禿げ頭だった。髪のことを言われたら一番
傷つくと悟った雅代たちは、弱点を容赦なく責めてくる。
最近では「ハゲ」という単純な悪口だけでなく、隣の席で美容院のカタログを広げ、美容師がカットしたモデルの
写真を数人で見ながら、「こんな髪型いいよね」「私も今度これにしてもらお」「お洒落だよね」と大声で盛り上がる。
美穂は二度と美容院に行けない悲しみを噛み締め、耳を塞いでその場から逃げ出したい衝動と戦った。残酷で陰湿な
雅代たちは、直接的なものより間接的なもののほうが心を傷つけるのに効果的だと判断し、新聞に載っている
ハゲ頭の政治家を笑いものにし、遠回しに髪のない美穂を笑った。
実際に笑われると、ショックで動悸がして胸が苦しくなるも、だから何なの、という態度で開き直り、
傷ついていないふりをするしか自分のプライドを守る方法がなかった。
頭をあんなに笑われるなんて……惨めで悔しい。
帰宅した美穂は、寝室でウィッグを外した。歯噛みしながら、自分の頭に両手を当てた。ツルツルしている。
相変わらず剥き卵の感触。
「ホント最悪……」
つぶやきながら頭を撫でたときだった。むずかゆいような感覚が広がった。
何これ――。
ツルツルの頭を撫でさするたび、凪いだ海面に微風がさざなみを立てるような感覚があった。小波は頭皮から
身体の中心部に直接伝わってくる。少しでも気持ちいいと思ってしまった自分を全否定するも、手のひらの動きは
止められなかった。
「ふうっ……うっ……」
なぜ? なぜこんなふうに感じてしまうの? 髪を失った頭を撫でる行為によって、惨めな自分を受け入れ、
感覚に素直になるから?
戸惑いながらも、快感の高まりは抑えられなかった。衝動に素直になり、衣服を脱ぎ捨てると、全裸でベッドに
尻を下ろし、美脚をM字に開いて股間を覗き込んだ。巨大などす黒いヒルが2匹張りついているようなラビアの
上端に、同じくどす黒いナメクジみたいな肥大化クリトリスがあった。目をそらさず、人差し指と親指で陰核を
つまみ上げる。快感の電流が身体の中心を貫き、美穂は思わず「ひうっ」と身を反らせた。
つ、つまんだだけでこんな……。
思えば、サーモンピンクで型崩れしていない性器を保つため、自慰でも胸を揉むのが中心だった。あまり
アソコをいじったりしなかった。
それにしてもこんな……。
美容整形外科いわく、男性ホルモンの投与によって陰核は肥大するらしい。脂肪注入して肥大させたのなら、
余分な脂肪が快楽神経を埋めてしまうかもしれないが、陰核への男性ホルモンの注射で陰部神経の密度はそのままに
肥大させられた状態だと、常に皮を剥かれた状態でいるわけだから……。
美穂は未知の快感に飲まれ、指で肥大化クリトリスをしごきあげた。
「くふうっ……ううっ……うくっ……」
一度しごくたび、身体が海老反りになる。陰核は徐々に勃起し、少女の小指くらいに存在を主張し始めた。
美穂は仰向けに倒れこむと、美脚をM字に開いたまま、右手でクリトリスを上下にしごき、左手でツルツルの頭を
撫でながら快感をむさぼった。日々のストレスを弾き飛ばすように。
10分も起たないうちに息も絶え絶えになり、絶頂の大波が身体の内側で渦巻いていた。
撫でただけでこんな気持ちいいなら、男に頭を舐められたらどんな感じがするんだろう……想像しただけで
身震いし、子宮が収縮した。
イ、イクッ――。
美穂は甘い鼻息を漏らしながら全身を打ち震わせた。ビラビラになったラビアが痙攣しているのが分かった。
しばらく余韻に浸った後、息を整え、ナイトテーブルの引き出しを開けた。分厚い文庫本を取り出し、開く。
本の中心部が四角形にくり貫かれており、ピンクローターが隠してあった。
美穂にとって自慰は羞恥の対象だった。男やセックスの話題をあけすけに話す女たちも、オナニーの話題だけは
口にしない。自分で慰める行為に惨めさを感じるのか、セックスの相手もいないことを知られるのがいやなのか。
だからローターは完璧に隠していた。
美穂はローターのスイッチを入れると、肥大化したクリトリスと乳首を交互に痺れさせ、二度目のオナニーを
はじめた。
306 :名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 11:05:55 ID:8n+aHwfNO
再度、ご返事にお答えします。
強力な脱毛剤との事なので、毛根がなくなってしまったと仮定すると、後頭部などより、毛根をとり、
それを四分割して培養し、四倍に増やして培養した毛根を再度、禿げた部位に移植する方法があります。
また、一度塗っただけで、完全に脱毛にできるほど、便利で強力な脱毛剤はないように思います。
一度、皮膚科を受診されてはどうですか?
十分なお答えにはなっていないかもしれないですが、諦めずに頑張っていきましょう。
あなた様の髪が回復されることを願います。
307 :名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 12:19:02 ID:8n+aHwfNO
新田さん、ご無沙汰してます。服部です、覚えて貰えてないよね。
黒いレンジローバーに乗ってて、新米弁護士をしていて、何度か料亭でお食事に付き合って貰った服部です。
お元気にされていますか?
美穂さん、いつも本当に綺麗にされていて、緊張してしまって、楽しんで貰えてなかったですよね。ごめんなさい。
水泳、テニス、されてるって聞いたから、また、一緒にできたらな、って思います。
軽井沢の別荘にテニスコート造って、コーチに来てもらって、練習中です。男女差もあるし、そこそこゲームになるかなぁ。
良かったら、是非、ご一緒してください。
あと、一番新しい美穂さんの水着の写真集、買いました。
やっぱり、スタイルもいいし、綺麗だし、太陽に輝く髪が本当に素敵ですね。
格闘技もされてるとお聞きしましたが、想像つかないな。
すごく強いのだと思うけど、怪我とか傷とか、大丈夫? 本当に心配です。ほどほどにね。
僕なんかでは、全然つりあわないとわかってるけど、一緒に横を歩いてもらえるだけでも光栄なので、是非また、ご連絡ください。
作者です。
空き時間に3つずつコピペすること丸一日(1時間に3レスの制限がかかるので)。;
ようやく全てが移動し終えました。
最初に数多くの過去分をコピペしてくださった方、本当にありがとうございました。
私1人だと70時間くらい必要でしたから、非常に助かりました……というか、
こちらにあの長い分量をコピペするのは無理だと思っていたので、予想外の驚きで嬉しく思っています。
移動に時間がかかり、その間に読者のみなさんが離れていないといいのですが。
新しい部分は、明日――というか、もう今日ですが、朝から昼にかけて投下しておきます。
物語の流れは今までどおりでいいですよね?
とりあえず、おやすみなさい。
応援してくださっている方々に感謝します。^^
♯♯♯♯♯♯♯♯♯
百合と洋子と萌とエリカは、全員でお金を出して借りたアパートの一室にいた。美穂のマンションから2キロの
場所である。
部屋の中には小型テレビが3台あり、その前に雅代と瞳とサリナを中心に7人の女が陣取っていた。隣には、
以前美穂に手ひどく振られた4人の男がいる。
画面には美穂の部屋の盗撮映像が鮮明にカラーで映し出されていた。美穂は垂れ乳とスキンヘッドを晒した全裸で
大股を開き、ベッドの上でオナニーにふけっている。盗聴器を通して乱れた息遣いが聞こえてくる。
「うわっ、激しっ!」サリナは爆笑した。「ローター使って腰痙攣してるし!」
「キモ」瞳が美穂に腹を殴られた恨みを返すように吐き捨てた。「この豚鼻のハゲ女、キモすぎ!」
「嘘でしょ。おばあちゃんの胸じゃん! 何であんなにしわしわなの?」
「何あれ、悲惨!」
「前に20人くらいで海水浴に行ったとき、胸を見せびらかすようにしてたよね、あいつ。どう、完璧な美乳でしょ、
あんたたちとは違うのよ、みたいな態度で堂々と服を脱いでたけど、もう無理だね」
「俺、駄目だわ」男の一人が立ち上がる。「エロいっていうより、醜い。見てられねえ。垂れた乳は揺れてるし、
髪はないし、色気のかけらもねえよ」
男はエリカのノートパソコンの前に座り、美穂のパソコンの盗撮記録を眺めて暇潰しを始めた。エリカの
パソコンには、美穂と育毛剤業者のメール内容や、ニキビ解消のために美穂が閲覧した複数のホームページのログが
残されている。
美穂の元取り巻きである百合たちは、内心で何か違うと感じていた。
自分たちは美穂に虐げられてきた復讐をしたいと思っている。コンプレックスを冷笑され、従者みたいに扱われ、
幼馴染の彼氏を男として再起不能にされ、優しい子だった女友達をレイプさせた復讐をしたかった。
美穂にも被害者の痛みを知らしめたかった。
美穂のいない場所で彼女を笑いものにしても意味はない――そんな気がした。
「ねえねえ」とサリナが言う。「百合さあ、美穂の携帯に電話してみてよ」
「え?」
「もうすぐイキそうだしさ、電話したらどうなるか、反応見てみたいじゃん」
場の空気はその軽い悪戯に対する期待で張り詰めていた。百合は断ることもできず、自分の携帯で美穂の
名前を選び、電話した。サリナはテレビにイヤホンを繋ぎ、盗聴している美穂の声が美穂に聞こえないようにした。
♯♯♯♯♯♯♯♯♯
性感が高まり、絶頂の波が押し寄せてきたときだった。
携帯がメロディーを奏でた。美穂はビクッと全身を硬直させた。股間にローターを押し当てたまま、動きが
完全に止まる。
誰よ、こんなときに!
美穂は苛立ちながら上体を起こし、ナイトテーブルから携帯を取り上げた。ディスプレイには百合の名前。
無視しようと思ったものの、何か自分に関係のある一大事かもしれないと思い直し、電話に出た。最近は同期の
人間から電話がないから、電話してくるということは何かが起きたのかも……。
「何よ?」
素っ気無く応じたつもりだったが、絶頂間近でお預けを食らわされたせいで声が上ずった。
感づかれなかっただろうか?
「あの……元気かな、と思って」
「はあ? それだけ?」
「うん。今何してる?」
美穂は自分が全裸で電話している事実を意識してしまい、羞恥に返事が遅れた。ひどく無防備な感じだった。
以前は自宅で電話に出たときでも、優雅に応じたものだったが、今は醜い身体を晒している。着飾っている百合を
想像し、頭の中で自分の現状と比べて気恥ずかしさを感じた。
「これから懐石料理を食べに行くところよ。化粧も服もばっちり決めたんだから、邪魔しないでくれる」
「あっ、ごめん。その……じゃあ、切るね」
電話が切れると、美穂は携帯をベッドに叩きつけた。
興奮の高ぶりは一気に冷めてしまった。身体は中途半端なまま欲望の炎がチロチロとくすぶっているのに、
気持ちは冷静になっている。
我に返った美穂は、惨めさに打ちのめされた。以前はどんな男でもベッドに誘い込める自信があったし、
だからこそ、30代の中年女みたいに性にガツガツしなかった。オナニーの回数も少なかった。なのに今は、
みっともなく肥大させられたクリトリスや乳首を刺激し、髪のない頭を撫でて快感をむさぼっている。
私、一体何をやっているの?
美穂はデスクトップ型パソコンを起動させ、メールチェックをした。
弁護士の服部からメールが来ていた。勝ち組の人生を邁進する友人の1人だ。紳士的な態度と笑顔が魅力的な
男で身長も高い。民事事件が得意で将来を嘱望されている。数年後には年収数千万を超えるのではないか。
このタイミングで偶然彼からメールが届いたのは、私をひいきにしている神様が正義の私に使者を遣わせて
くれたのではないか、と思った。
しかし、メールを読み終えた美穂は、後ろめたい胸の痛みを覚えた。
服部はメールで、美人だったころのスタイルや髪を褒めていた。以前の姿を知り、今の姿を知らない者から、
美人だった外見を褒められると、自分の惨状を思い知らされて悲しくなる。顔を合わせたときに相手が抱く
ショック、失望――そんなものを想像すると、自分は恋愛すらできない顔と身体にされたのだと思い知らされる。
美穂は気を取り直して返信を書き始めた。
『服部さん。もちろん覚えていますよ。忘れるわけがないじゃないですか。その節は私のほうこそ楽しい時間を
過ごさせてもらいました。また一緒にテニスしたいですね。
写真集、買っていただいたようでありがとうございます。でも、そんなに褒められるほどじゃありません。
恥ずかしいです』
以前なら勝ち組からの褒め言葉には、無意味な謙遜もせず、うぬぼれも見せず、ただ『ありがとうございます』と
素直に返しただろう。しかし、卑屈になってしまったせいで、褒め言葉を否定する文を書いた。
返信を書き終えた美穂は、追伸として本題に踏み入った。『実は今、困ったことになっています』と切り出し、
車椅子の同級生の女性が体勢を崩したので助けようと手を伸ばしたら、それが災いしてしまい、相手が転んで脚を
悪化させてしまった、と説明する。首根っこを掴んだなんて書かない。お嬢様に相応しくない行為を知れば、服部は
失望して弁護を引き受けてくれないだろう。
『完全に逆恨みされてしまって……途方に暮れています。助けようと手を伸ばしたのだと訴えても、聞き入れて
もらえません。脚が悪化したショックで、誰かに怒りをぶつけないと耐えられないのかもしれません。私を
憎むことで彼女が元気に前向きに生きられるというならそれでもいいと思うのですが、損害賠償請求までされたら
闘うしかありません。悲しいですが』
寝たきりになった癖に逆恨みで私を追い掛け回すストーカー女。本当に最低!
『相手は、一生の介護に必要な医療費と損害賠償合わせて1億4千万を私に請求しています。とてもじゃないけど、
そんな大金は払えません。どうか勝訴をもぎ取ってください。お願いします』
現在、貯金が1000万、貢物の総額が500万、愛車が1000万――1億4000万なんて考えられない。
美穂は舌打ちした。本当に図々しい女。本気で1億4000万も勝ち取れると思っているの? 私が三流弁護士に
弁護させても、1000万前後に減額させるでしょうね。
見てなさいよ、恭子。服部なら間違いなく勝訴をもぎ取ってくれる。そうしたら、今度は私が名誉毀損で逆に
訴えてやるから。
数百万は迷惑料をいただかないと気がすまない。無意味に数十万も弁護料を使わされるのだから。
『服部さん。誠に勝手ですが、今は学業が忙しく、論文に追われる毎日で裁判に関わる余裕が全くありません。
民事裁判は弁護士さんだけで闘えましたよね。どうかよろしくお願いします』
民事裁判は、被告が裁判を無視し続けて法廷からの催促状にも応じなければ、欠席裁判で自動的に敗訴となり、
相手の要求額をそのまま払うことになる。しかし、被告が欠席しても弁護士さえ出廷していたら問題はない。
だから、民事裁判では弁護士に任せきりにする被告も多い。
これは幸いだった。法廷で服を脱ぐわけではないから頭や胸は大丈夫でも、豚鼻だけは隠せない。変わり果てた
顔を服部が見たらショックを受け、弁護を降りてしまうかもしれない。顔は合わせないほうがいい。
3日後――。
美穂はスーパーでコンニャクを購入し、帰宅した。
入浴して頭を綺麗に剃ると、全裸でベッドに乗り、座ったまま美脚をM字に開いた。左手の人差し指と親指で
肥大化したクリトリスをつまみ上げると、どす黒いナメクジを伸ばすように引っ張った。右手の歯ブラシを表皮に
触れさせ、一度、こすってみた。陰核の皮の神経全てを細毛が刺激し、甘い痛みを伴った快感が走り抜ける。
「ああっ……」
甘美の吐息が漏れる。
歯を磨く要領で歯ブラシを上下させた。細毛の一本一本が肥大化した陰核をこすり、性感の高ぶりが子宮から
全身に広がっていく。
カシュッカシュッカシュッカシュッカシュッカシュッ……。
歯ブラシで刺激するたび、勃起したクリトリスが痙攣し、女性器が熱を持つ。
「うあああっっ……!」
美穂は裸身をのけぞらせ、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。横目でナイトテーブルを見やる。ネットのアダルト
玩具店で購入して届いたばかりのローションがカップに注いである。腕を伸ばし、カマボコ板サイズにカットした
コンニャクを取り上げ、ローションに浸した。粘着質の糸が引くコンニャクは淫猥だ。
美穂はヌルヌルのコンニャクを頭に載せてみた。ピチャッとローションが弾ける音がした。コンニャクを
前頭部から頭頂部まで滑らせた瞬間、ゾクゾクする快感が頭皮に広がった。男の舌に舐められているようだった。
「あぁぅっ……うぅ……」
自分の手のひらの何倍も気持ちよかった。
ツルツルの頭を撫でる快感を知ってから、最高の男に舐められたらどんなに気持ちがいいか、想像していた。
でも、惨めな身体に整形された今の自分じゃ、底辺の男を捕まえるのが精一杯だろうし、仮に最高の男を
ベッドに連れ込めても、無毛の頭を晒して「ここを舐めて」とは絶対に言えない。
妄想の中の男の舌は日増しに強く鮮明になり、興味に抗えなかった。そこで思いついたのがコンニャクだった。
代用品で男の舌を感じられるんじゃ?
実際に試してみると、想像以上だった。妄想の中で最高の男を思い浮かべ、コンニャクの舌で頭を舐めると、
催眠術でツルツルの頭と性器がリンクしたみたいに感じた。クンニの快感に似ている。赤ん坊のおちんちんくらい
肥大化した焦げ茶色の乳首は硬く勃起し、同じく肥大化したクリトリスはビンビンになった。
「ふぅ……うんっ……」
右手のコンニャクを無毛の頭にすりつけ、スキンヘッドをローションまみれにし、M字に開脚した太ももの
合間で左手の歯ブラシを小刻みに動かす。
「ひうっ……」
皮を剥かれた状態で伸び上がっている陰核は、性感の神経が剥き出しにされているようだった。無数の毛先が
無数の神経の隙間を刺激する。ローターや指では大雑把にしか触れない細部にも触れる歯ブラシの毛。
「あうっ……はあうぅ……」
頭と性器から押し寄せる快感の大波が身体の中心部でぶつかり合い、嵐となって荒れ狂っているようだった。
美穂は快楽に溺れながらオナニーに没頭した。
快楽をむさぼっている間だけは、惨めに貶められた自分の身体のことを考えなくてもよかった。
美穂はヌルヌルのコンニャクを頭から性器に移動させ、擬似クンニをはじめた。普通の男なら、ばい菌が
繁殖してそうで舐めるのを嫌がるような色合いのラビアも、コンニャクなら躊躇なく舐めてくれる。
男の前で裸になれない身体にされた美穂は、自作の小道具で擬似セックスをし、性的欲求を発散させるしか
なかった。
「くうぅ……」
股間にはコンニャク、乳首には歯ブラシ。
刺激と快感が入り混じり、津波が押し寄せる。
も、もう駄目――。
美穂は潮を吹きながらイッた。陸に打ち上げられた白魚のように白い裸身がビクンッビクンッと跳ねる。
M字に美脚を開いたまま、しばらく余韻に浸った。
我に返ると、美穂は自分のはしたない行為に愕然とした。
何やってんだろ、私――。
額からはローションが垂れ、白いシーツにポタッポタッとシミを作っている。美穂は大事なものを自分自身で
穢したような自己嫌悪を覚え、長い時間、コンニャクと歯ブラシを呆然と眺めていた。
コピペ&作品投下乙です!
美穂、知らず知らず堕ちてきましたねえ……
楽しみです!
しかし筆が速い上にクオリティ高いですね
素晴らしい
作者様乙です
専スレもできた事だし思うさま執筆なさってください
次回更新楽しみにしてます
投下乙
美穂がどこまで堕ちるやら見物ですなあ
コンニャクが物足りなくなるが男に相手にされないので犬を飼い盗撮されてる事も知らずに交尾...
なんて展開に期待。
こんなにエキセントリックなネタなのに、快楽に溺れていく過程が説得力充分なのは
人物の心理描写の丁寧さなんだろうなあ。流石です。
しかし、つるつる頭にローションまみれのコンニャクとか、舐められたいとか…
エロエロすぎて最高っす!
徐々に変態性癖がエスカレートしていく美穂いいねえ。
美穂さん、お返事ありがとう。服部です。
早速ですが、民事裁判の件、是非、僕にやらせてください。
親切な気持ちで、体の不自由な方に接してあげる美穂さんの優しさに付け込んだ不当な訴えに違いなく思います。
実際に調査して、対応いたします。
美穂さんは、優しすぎるのかもしれないですよ、心を強く持って、普段通り、勉学に励んでいてくださいね。
何があっても、僕は美穂さんの味方だし、不当な訴えは、許せない。
あと、弁護料は、心配しないでね。
解決したら、また、お祝いに食事にでも付き合ってやってください。
いつも楽しみに読ませて頂いております。
これからの展開が、どうなるのか、いろいろ方向性があって、予測できないですね。
どんな形でも、格闘技会に復帰できないでしょうか?付き人として、覆面選手として、不細工さらし、再戦など。
以前と対比して、屈辱を感じてる場面に、今後も期待します。
強制的に屈辱的な事を命令される場面も心待ちにしてます。
作者です。
みなさん、ありがとうございます。やっぱり感想は嬉しいもので、モチベーションが高まってきます。^^
しかも思っていたより多くの方が読んでくださっているようで。
164様、プライドの塊みたいな美穂は1人ではなかなか堕ちないので、ハードな命令ができるパートで
命じてもらえれば、と思います。;
167様、お金がどうしても必要な状況に陥れば、大会で久恵の付き人をせざるをえない、なんて展開も
ありそうです。
猟奇や拷問や、方々から非難が出そうな責めでなければ、できるかぎり、期待に応えられるよう書いていきます。
作者様、ありがとうございます。
久恵の再登場、期待してます。
ワクワク!
美穂は大通りを歩いていた。以前はデパートや街中のショーウィンドーが大好きだった。鏡やガラスの前を
通るたび、微笑を浮かべ、姿勢を正し、密かに流し目でそこに映る自分の美貌を確認した。今では鏡を見るのが
つらい。つらすぎる。ショーウィンドーが目に入るたび、瞳を合わせたら命を取られでもするように視線を
反らしている。
コンビニの前に男子高校生たちがたむろしており、1人が自分自身の鼻を指で持ち上げ、仲間たちと笑っていた。誰の顔を揶揄しているのか分かり、美穂は早足で通り過ぎた。横断歩道ですれ違ったOLたちは、「ちょっ、みんなで
見たら可哀想でしょ」「豚が顔面から地面に激突したみたいな顔してる!」と笑った。
生まれながらのブサイクだと思われているのが屈辱だった。豚鼻以外は非の打ち所がないはずなのに。
世間の目がこんなにも残酷だったなんて。
イライラしながら歩いていると、男の声が追いかけてきた。
「あの〜、整形に興味ありませんか?」
美穂は声をかけてきた男――三十歳前くらいだろう――を見た。点数をつけるなら30点。昔の自分ならそう
判断しただろう。
「どうです、整形?」
「整形? 整形ですって? 馬鹿にしないでよ。そりゃね、今の私はこんな顔をしてる。でもね、半月前までは
誰もがうらやみ、あがめる超美人だったの! 本当よ。生まれつきじゃないのよ、これは。だから元に戻せない
ことも知ってる。軽々しく言わないで!」
「すみません、そんなつもりじゃ……事情は知っているつもりです」
「え?」
「新田美穂……選手ですよね」
「私を知ってるの?」
「有名人ですから。僕、美穂選手のファンなんですよ」
「ファンだった、の間違いじゃないの?」
今の容姿はファンを失望させてしまうだろう。
「いいえ、僕は今でも美穂選手への思いは変わりません」
美穂は鼻で笑った。
「昔なら手が届かなくても、今なら僕でも届く、なんて思っているならお門違いよ。私はプライドの安売りなんて
絶対にしないから」
踵を返して歩み去ろうとした。
「待ってください。そんな大それたことは考えていません。美穂選手の弱みに付け込む気なら、整形を勧めたり
なんて絶対にしませんよ」
「どういうことなの?」
「僕、あの試合を衛星チャンネルで見ていました。許せないと思いました。美容整形は美しくなるための技術です。
少なくとも僕はそう信じてきたし、今でもその思いは揺らぎません。整形で醜くする――こんなことは断じて
許されませんよ!」
拳を握って熱く語る男は、次の瞬間、信じられないことを口にした。
「僕なら戻せます。美穂選手の顔も胸も、もしかしたら髪も、全部元通りにできます」
美穂は診察室で恥を忍んでウィッグを取り、椅子に座っていた。モニターの画面には、拡大された頭皮が
映っている。白衣を着た男の持つスコープが無毛の頭を移動するたび、毛根が見当たらない毛穴が見える。
「一見、毛根はありませんが、復活の可能性は充分にあります」
「本当? じゃあ身体はどうなの? 本当に戻せるの?」
「僕を信じてください。こう見えてもアメリカ留学して最先端の整形技術を学んだんです。鼻も胸も性器も
全部元に戻してみせます。大掛かりな手術ですから準備に2週間はかかりますが、とりあえずその間、通院して
ください。成長ホルモンを注射して毛根の活性化を促します」
美穂は注射を受けた後、同じく毛根を活性化させる効果があるという飲み薬を貰って帰宅した。「毎日3回、
5粒ずつ飲んでください」と言われた薬を飲み、就寝した。
翌朝はデスクトップ型パソコンを起動させ、メールチェックを行った。服部から返信が届いていた。相変わらず
紳士な文面だ。
『優しすぎるなんて買いかぶりです、服部さん。私は徹底抗戦しようとしているんですから。本当なら彼女に
いくらかでも賠償金を払うべきなんでしょうけど、故意にやったことではないので、お金を払いたくないんです。
和解じゃなく、勝訴が欲しいんです。身勝手でしょうか。
でも、それが私の偽らざる気持ちなんです。どうかよろしくお願いします。
解決したら、ぜひ食事をご一緒しましょう』
持つべきものは勝ち組の弁護士だと思った。彼は民事専門だから、悪党の人権がどうのと主張して世間から
非難されることもない。以前一緒にプレイしたテニスを思い出し、頬が自然と緩んだ。最近は、顔も性格も醜い
ゴキブリみたいな連中ばかり周囲にいるから、彼みたいな紳士との会話は嬉しかった。
やはり、負け組と関わるとろくなことがない。一流の大学に入っていても、他に誇れる部分がないから、勝ち組の
女神に嫉妬し、容易に手のひらを返す。その点、勝ち組の人間は心に余裕がある。
恭子、覚悟しなさいよ。服部の尋問で叩き潰されてしまうといいわ。敗訴するだけじゃ許さないから。名誉毀損で
訴えて数百万は毟り取ってやる。可哀想に。寝たきりでそんな大金、払えるの?
美穂は二重の不幸に陥った偽善者女の未来を想像し、胸のすく思いがした。
最近の裁判はスピード化しているから、判決は3ヶ月くらいで出るかもしれない。どうだろう。
2週間後、美穂は診察室で椅子に座っていた。白衣の男が拡大スコープで見ると、頭皮の毛穴が画面に映し
出された。毛穴の奥には黒っぽい毛根が見え隠れしていた。
毛根が復活してる!!
美穂は衝撃に声も出せなかった。期待に胸が高鳴り、呼吸が速くなった。
髪の毛はまた生えてくるんだ――。
喜び、頭の中で計算した。3ヶ月で短髪。1年でショートヘア。大学3年の半ばにはショートヘアになっている!
感動ものだった。嬉しさのあまり、涙があふれ出て止まらなかった。
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
何度も頭を下げた。思えば他人に頭を下げたのはいつ以来だろう。
彼なら容姿も元通りにしてくれる、という確信が持てた。
「整形手術は明後日の土曜日に行いましょう」
全て元に戻るなら一度だけ抱かせてやってもいい、たとえ30点の男でも。
歯は総入れ歯だが、それはもう我慢しよう。髪も眉も生え、豚鼻も垂れ乳も性器も元に戻るなら歯くらい何だ。
最先端の総入れ歯を買えばいい。最近は本物と何も変わらないではないか。
私は女神に返り咲ける!
希望に胸が打ち震え、躍りだしたい気分になった。美貌が戻ってくる。日陰の人生に太陽が射す。しおれた薔薇が
生き返り、大輪の花びらを咲かせる。
私はまた未来を――希望を取り戻せる。
嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
整形で作った美貌が崩れて元の醜い身体になったと思い込む連中には、試合の記事を見せてやればいい。
生まれながらの美貌を嫉妬で醜く整形されたと知れば、態度を改めるだろう。醜い身体の写真を見られても、
もう輝く美貌を取り返しているのだから恥じる必要もない。一時的にブスのきぐるみを着ていたようなもの
なのだから。
覚えてなさいよ、手のひらを返して私を笑いものにした連中。絶対に許さないから。
翌日、大学に行くと、着飾った雅代やサリナや瞳が男連れで立ちはだかり、いつもどおり絡んできた。
「豚ちゃん、鼻息で授業の邪魔しないでね」
「昔さ、あんた言ったよね。化粧で素材を偽ってるあなたは、産地偽装の豚肉と同じだって。私、今こそその台詞、
あんたに返してあげる。ウィッグでハゲ頭を隠した産地偽装の豚女!」
「整形で崩れた身体で大変ね、ブス!」
美穂は女3人の悪罵を聞くと、あははははっと笑い声を上げた。
不思議だ。明日の手術で美貌が戻ると分かっているだけでこんなにも心に余裕が戻るものなのか。連中の
悪口なんて、美貌に嫉妬したブスたちが一時だけ付け入る隙を見つけて吠えているようにしか聞こえない。
「な、何がおかしいのよ、この豚!」サリナが動揺した顔で言う。「笑ってんじゃないわよ!」
「3日天下は充分楽しめた?」
美穂は胸を張り、顎を上げ、女たちを冷めた目で見下した。気持ちはもはや女王だった。今の顔で格好つけても
滑稽に見えるのは分かっている。だが、明日には世界を取り戻しているのだ。私の世界を。
「ふんっ」美穂は鼻で笑った。「せいぜいいい気になってれば。しょせん、今だけよ、このブス軍団!」二人のブ男を
睨みつけて言ってやる。「次に会ったとき、土下座して私の靴を舐めながら謝っても許さないから。コウモリ男なんて
貢ぐ君にも使ってやらないわよ」
「何だと?」
「カリカリして臭い息を撒かないでよ。肌が枯れるじゃない」
「ふ、ふざけんなよ!」
男が鼻息荒く凄むと、美穂は悠然と踵を返した。
「じゃあ、月曜日に会いましょう」
ウィッグをしたままの美穂は、全裸の上にロング丈の検査着を着て手術台に寝転んでいた。
「目覚めたら元通りですからね」
全身麻酔を受けると、心地よく眠りにつけた。夢の中の美穂は輝いていた。陽光にきらめく黒髪をひるがえし、
まばゆい美顔で颯爽と歩く。誰もが振り返り、声をかけようとするものの、あまりの美貌に気後れし、結局
遠巻きにするしかない。世界の中心を歩いていると実感できた。
希望に満ちた夢だった。
目を覚ますと、診察室のベッドの上だった。ウィッグは外されている。
手術は終わったの?
回転椅子には白衣姿の男が座っており、「もう元通りですよ」といたわるように言った。
美穂は唾を飲み込み、緊張の息を吐いた。自分の顔に触るのも怖い。本当に元通りなの? 整形の跡も分からない
くらい綺麗に戻ってる?
美穂は勇気を振り絞り、鏡の前に立った。鏡に映る自分の顔は――スキンヘッドの下に豚の鼻があった。
1円玉サイズの黒い穴が2つ真正面を向いている。
え? 何これ? どういうこと? 何も変わってない――。
検査着の上から胸に触れる。真っ白いローブがぺちゃんと潰れた。張りのある88センチの美乳は戻っていない。
悪夢の世界に迷い込んだようだった。あまりに長いこと醜女になった自分を見すぎ、幻覚を見ているのではないか。
そう思ったときだった。
「大成功!!」
女の叫ぶ声が聞こえた。衝立の陰から十人の男女が飛び出してきた。同期生たちだった。雅代、サリナ、瞳、
ブ男数人――1人が『ドッキリ 大成功!』とマジックで描いたボードを掲げている。
美穂は何が起こったのか分からず、呆然と闖入者たちを見つめていた。女たちは腹を抱え、ゲラゲラと大笑い
している。男たちも目に涙を浮かべながら馬鹿笑いしていた。
何? 何が起こっているの?
「こいつ、まだ分かってないんじゃね?」
「超ウケるし!」
「誰か教えてあげなよ!」
瞳が雅代を肘で突っつきながら言う。彼女が目元の涙を拭いながら説明した。
「実は私たち、『新田美穂を傷つける会』を発足させたんだよね。整形で作った身体で男を騙しまくったうえ、
恭子を寝たきりにした罰を与えるために。それでさ、誰が一番美穂を傷つけられるかゲームしたんだよね」
「私、私!」サリナが元気よく手を挙げた。「このドッキリ、私がアイデア出したの!」文化祭でクラスの出し物を
提案して全員賛成の投票を受けた者が見せるような笑顔で自慢げに言う。
「全部嘘なの」とブ男が言った。「整形で元通りに戻せるとかさ、毛根が復活したとかさ」美容整形外科医の男の
肩を叩きながら。「こいつ、元医学部中退の会社員。俺の知り合いなんだよね。つまり偽医者。病院も借り物。
飲み薬も偽ものでさ。あっ、一昨日の拡大スコープの映像はね、抗がん剤をやめて毛根が復活し始めた患者の頭皮を
撮影した録画映像なんだよね。お前の頭皮の映像じゃないんだ」
「そうそう」雅代が笑う。「マジで自分の毛根が復活した! とか思っちゃった? ごめんね、違うんだよね〜」
「分かった? 最初からドッキリ企画だったってわけ」
「でも、夢見れて嬉しかったでしょ? ぷぷぷ」
そんな、そんな、嘘よ、嘘に決まってる。
美穂は開いた口をパクパクと動かした。声はかすれて出てこなかった。天変地異が起こり、世界が引っくり返った
ように自分の意識がグルグル回っている。心臓が破れそうなほど動悸がしている。
瞳がリモコンを操作すると、机の上のテレビに映像が映し出された。病院で偽医者に向かい合っている美穂の姿が
映っている。盗撮映像だった。
「全部撮ってたんだよね。隠し撮り」
映像の中の美穂は、大学の廊下に立っていた。背筋を伸ばし、胸を張り、女王のまねをする豚鼻女が女たちに言う。
「ふんっ。せいぜいいい気になってれば。しょせん、今だけよ、このブス軍団!」
次に男2人を睨みつけ、勝ち誇った顔で言い放つ。
「次に会ったとき、土下座して私の靴を舐めながら謝っても許さないから。コウモリ男なんて貢ぐ君にも使って
やらないわよ」
鼻息を荒くする男に対し、「カリカリして臭い息を撒かないでよ。肌が枯れるじゃない」と言い、悠然と踵を返し、
背中を見せて言う。
「じゃあ、月曜日に会いましょう」
10人の男女はその台詞を聞いたとたん、また爆笑した。
「きゃはは、いい気になっててごめんなさい! ブス軍団でごめんなさい!」
「ハゲ豚女なんかの貢ぐ君には裸で迫られたってなりたくないです!」
映像が替わる。美穂は希望に満ちた目から涙を流しながら、「ありがとうございます、ありがとうございます!」と
偽医者に頭を下げている。次は全身麻酔を受ける直前の美穂だった。未来への希望にあふれる顔で微笑み、偽医者の
言葉に素直にうなずいている。麻酔が投与されると、ベッドの上で意識を失った。偽医者が「美穂さん?」と何度も
声をかけ、起きないと確信するや、隣の部屋から同期生たちを連れて戻ってきた。同期生たちは、満ち足りた顔で
眠る美穂の顔を指差して笑い合っている。
「本当に元に戻ると思ってんのかな?」
「見てよ、この幸せそうな――豚面!」
サリナがベッドの上側に近づき、麻酔で眠る美穂の頭からウィッグを取り去った。無毛でツルツルの禿げ頭が
バンッと飛び出してきた。
「キャハハハ!」
「実際に間近で見るとすげえな、このハゲ! 50歳の俺のオヤジでもこんなに禿げてねえよ!」
「人間として終わってるよね〜」
同級生たちが禿げ頭を笑い者にして揶揄しても、美穂は幸せそうな寝顔を見せている。
「ホント、マジですげえ恥ずかしい頭だよな」
「ノックちゃんて呼ぼうぜ!」
サリナが無毛の頭を撫で、「すごーい、ツルツル〜。私の肌もこれくらいスベスベならいいのに」と笑う。
同級生たちは美穂の検査着を脱がせ、全裸にして携帯で撮影を始めた。雅代と瞳が美穂の垂れ乳をつまみ上げ、
プラプラと揺すった。
「おばあちゃんのおっぱいですよ〜♪」
「やだ、すごいしわしわ〜」
10個の携帯が身体を囲む。写メを撮影する音が広がる。
男の一人が美穂の美脚を掴み、M字に割り開いた。どす黒く変色したビロビロのラビアが開帳された。弛緩する
美穂の身体は、意識がないまま人形のようにもてあそばれている。
「きたねー色!」
「臭そう!」
同期生たちは美穂の惨めな身体を撮影し続けていた。
「いやああああああっっ!!!!」
美穂は盗撮映像を見ていられず、頭を隠して――両手で必死で頭を隠してしゃがみ込んだ。同期生たちの笑い声が
耳に突き刺さってくる。ひどい。ひどい。ひどい。惨めすぎる。惨めすぎるよ、こんなの。
からかわれてたなんて。偽りの希望に喜ぶ様を笑い者にされてたなんて。
希望ある将来も、美貌にあふれる自分の未来像も、全て崩れ去った。楽園への階段を一歩一歩のぼり、ついに
最後の一段に足をかけたとたん、大穴が開いて奈落まで落ちたようなショックだった。
あまりの現実に意識が遠のき、美穂は気絶した。
意識を取り戻したとき、同期生たちが大笑いしながら言った。
「いやあ、ショック死したかと思ったよ!!」
一瞬ポカンとしていた美穂は、やがて現実を思い出し、焦った。何とか、何とかプライドを保たなきゃ――。
しかし、たとえ這いずり回ったとしても、砕け散ったプライドの破片を掻き集めることはできそうになかった。
「まさか気を失うくらいショックを受けるとは思わなかったよ〜」
「私の優勝よね」サリナが喜びの声を上げる。「絶対美穂を一番傷つけたでしょ、これは」
人間にはやっていいことと悪いことがある。そんなことも分からないの? 餓死寸前の子供が目の前にターキーを
チラつかされ、本当にくれるのかどうか不安になりながらも手を伸ばしたのに、口にしたら蝋細工だった――こんな
まねだけは絶対にしちゃいけない。ううん、お願いだからしないでよ。ひどいよ。あんまりよ。
尾を引くショックのせいで、言い返そうと思っても口元がピクピクと痙攣するだけだった。涙だけは見せるものか
と涙腺を閉めるも、意に反して瞳は潤み、視界が霞んだ。
「アハハ、やりすぎちゃった? 毎日育毛サイト見まくって気にしてる頭だもんね、きっと」
育毛サイト巡りを言い当てられ、動揺した。コンプレックスを見抜かれた気がした。
美穂は籠の中のウィッグを引っ掴み、半泣きになりながら、検査着のまま診察室を逃げ出した。
さすがにふさぎ込み、美穂は3日間大学を休んだ。騙されているとも知らず、調子に乗って格好をつけ、気取った
決め台詞――カリカリして臭い息を撒かないでよ。肌が枯れるじゃない――を吐いた自分を消し去りたかった。
悠然と踵を返し、「じゃあ、月曜日に会いましょう」と言い残して立ち去った後、連中はさぞ笑っただろう。
それを想像しただけで死にたくなる。
あんな下等な連中に騙されるなんて――。
気力を振り絞って大学に行ったが、廊下を通る雅代たちが目に入ったとたん、階段の陰に隠れてしまった。
屈辱のあまり、顔を合わせられなかった。それでも、授業には出なきゃいけない。
覚悟を決めて教室に入ると、楽しげに――スキップでもするようにサリナたちが駆け寄ってきた。
「美穂〜、心配したんだよ。自殺しちゃったんじゃないかと思ってさ。キャハ」
自殺? ふざけないでよ。あんた程度の人間が私をそこまで追い詰められたと思ってるわけ? 自殺なんて、
弱虫の負け組人間がすることよ。私は勝ち組の人間なんだから、大事な人生を捨てるわけがないでしょ。必ず全てを
取り戻して見下してやるから。
負けたままで終わるつもりは決してなかった。
「あっ、一つ言い忘れてた」とサリナ。「もう分かってると思うけど、あんたが2週間ずっと打ってもらってた注射と
飲んでた薬、毛根活性の効果なんてないから。あれ、実は男性ホルモンなんだよね。と言っても、別に声が野太く
なったり、身体が筋肉質になったり、髭が生えたりするわけじゃないから安心して。ただ、女でも処理を怠ったら
伸びてくる腋毛とか鼻毛とかケツ毛とかがちょっと濃くなるだけだから」
美穂さん、こんにちは。服部です。
大学での学業、がんばってますか?
早速で申し訳ないですが、恭子さんの民事訴訟の件です。
美穂さんが、検察庁、大学で、事情を説明され、刑事訴訟は、不起訴となりましたが、今回は、恭子さんがバランスを崩されたあと美穂さんが救助もせず放置したため、病状が悪化し、損害を被ったとする損害賠償請求です。
事実関係を明白にし、美穂さんに否がない事を証明しなくてはなりません。
助けを求めにその場を離れられてからの経過を教えていただきたいのです。
恭子さんも、誰かに責任を擦り付けないとやりきれないから、こういった訴えをされているのでしょう。
美穂さんの誠実で優しい人柄が、相手に伝わればよいのですが。
また、ご連絡ください。
ドッキリなんて、本当に最高のシチュエーションでした。
やっぱり、作者さんのセンス抜群ですよ。
付き人による利尿剤、女子高生による歯ブラシで鼻水を口に入れられるとこ、変わり果てた後の入場時と同じポーズ、飛び散った自分のオシッコ掃除するとこ、
今回のドッキリのシーンが、大好きな場面です。
うまく精神、プライドが維持できてるとこがまた、スゴイにつきます。
久恵、サリナ、いいキャラです。
持ち上げたところで落とすってのが最高にいいですね。
あとは損害賠償請求の件で全面敗訴となれば最高ですが、難しいかな…
実は服部は恭子の遠縁。
弁護すると見せかけて奈落に突き落とす機会を狙っているんだよ!
…苦しいか。
うわっ、美穂だけじゃなく見てるこっちまで完全に騙された!
作者さん流石です。
これは強烈だ…
でもまた一度は本当に美貌復活させてほしいですね。
強烈な精神的責めと、スキンヘッドオナニーみたいな淫靡なシーンとのバランスがいいなあ。
いやあ驚いた。
相変わらず作者さんたいしたものだ。
しいていうなら、ちょっと美穂がかわいそうに思うような心理描写が増えてきてるように思えるので
美穂はもっともっと憎々しい女でいてほしいな。
服部が恭子に取られてしまう展開とかもいいな。
恭子は幸せになって、落差を見せつけて欲しい。
188 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 17:00:10 ID:wGgfM2a9O
もっと悪人じゃないとスッキリざまーみろとは思えない
作者です。
みなさんありがとうございます。そこまで言ってもらえると、作者冥利につきます。
本当は「ざまあみろ」みたいな痛快なシーンにしたかったんですけど、こんなに驚きが先行するとは、と作者の
ほうが驚いていたりします。;
182様、結構前に書いたシーンまでそんなふうに覚えていてもらって光栄です。^^
全面敗訴は――弁護士が実は出廷していない、なんてことになれば、恭子の要求額どおりの敗北確定ですけど、
そうでもないかぎり、難しいかも? 果たしてどうなるんでしょう。服部さんの行動は私にも未知数です。;
以前からリクエストの多かった美貌復活は、現状の屈辱が続いた後に必ず取り入れます。
後は、できるだけ悪女になるように努力します。
雅代が腕組みをして言い放つ。
「今後、鼻と脇と尻の無駄毛の処理禁止ね」
「はあ? ふざけないでよ。何で私がそんな命令に従うと思うわけ?」
美穂は雅代たちを睨みつけた。
「生意気な目しちゃって。また言ってよ〜。『このブス軍団!』ってさ」
美穂は思わず目線を反らしてしまった。診察室で間抜けなくらい見事に騙されたことがよみがえり、嵌められた
情けなさが心理的な上下関係を作ってしまった。意識下に、逆らっても滑稽なだけ、という思いが芽生えた。
「まっ、私たちは別にどっちでもいいけどね〜」
雅代は携帯を取り出し、画面を開いて見せた。手術台に乗って眠る全裸の美穂の写メだった。ツルツルの頭も、
ナマコ状態に垂れた乳房も、M字に割り開かれた美脚の中心にある下品な性器も鮮明に写っている。
「今はさ、私たち数人しか持ってないけど、大学中に広まったら悲惨だよね〜。あるいは世界中とかさ」
衣服でひた隠しにしてきた惨めな身体が暴露され、大学中に広まったらどうなる? 低脳な連中に全裸を
見られたら、もう大学に顔を出せなくなる。女神の落ちぶれた姿を知られ、笑われ、馬鹿にされたくない。
「分かった? 無駄毛の処理禁止よ」
「……何でそんなことを? そんなことして何になるっていうの?」
「女のくせに髪がないのに腋毛や鼻毛が伸び放題とか笑えるでしょ」
笑える――。
ただそれだけのために……あなたたちを笑わせるためだけに……惨めな姿であなたちを笑わせるためだけに
無駄毛の手入れを怠り、女を捨てて鼻毛や腋毛を伸ばしっぱなしにして生活しろというの? 事情を知らない人間が
そんな私の姿を見たらどう思う? ブスに生まれついて自分がブスだと自覚したときから羞恥心もプライドも
捨て去り、他人の目なんか一切気にせず気ままにぐうたら生きてる最低女だと思われてしまう。
プライドを押し通すべきか、一時だけでも雅代の言いなりになるべきか。
帰宅して服部からのメールを読んだとき、美穂は頭を悩ませた。
事実関係を明らかにする必要があると言われても困る。実際は、恭子の首根っこを掴んで引き倒し、彼女が
痛がりながら「助けを呼んで」と懇願するのを無視し、教室に行って授業を受けていたのだから。しかも、
男子トイレの前に置かれていた『立ち入り禁止』の看板で通路を塞ぎ、恭子が倒れている方に人が行かないように
もした。あんたのせいで悪評を立てられた私の苦しみの一部でも思い知ればいいのよ、しばらく痛みを味わって
反省しなさい、と心の内で吐き捨てながら。
結果的に、恭子の叫び声を聞きつけた生徒が119番通報したのは1時間後だった。
事なかれ主義の学年主任は、助けを求めるために現場を離れた、という説明で“納得”した。1時間も人を
捜し回っているなんてありえないにもかかわらず。それどころか、大学は積極的に隠蔽してくれた。検察には、
事故があったのは通報の数分前だと説明している。
でも、裁判になれば隠し通すことはできないかもしれない。
『ごめんなさい。正直に言います。服部さんを失望させたくなくて言い出せませんでした。実は、怖くなって
逃げてしまったんです。彼女が倒れたとき、痛がっている姿を見て動転してしまって、私、教室に逃げ入って
震えていました。彼女は自力で車椅子に戻ったとばかり思っていました。冷静になってみれば、私が落ち着いて
助けを呼んでいたら、彼女の脚は悪化しなかったと思います。今回の事故は私に全ての責任があります。
私のせいです。彼女の人生が病院のベッドに縛り付けられることになったのは、私が何もかも悪いんです』
美穂は考え抜いた文面で服部にメールを送った。美人が――服部は昔の私しか知らない――痛々しいほど自分を
責めていたら、男は誰でもかばいたくなる。
君のせいじゃないよ、君が全責任を負うことはないよ。
美人が罪の意識に苦しんでいるのに、責める男はいない。
翌日、美穂はデスクトップ型パソコンにメールが届いているのに気づいた。見知らぬアドレスからだった。
タイトルにはぶしつけにも『新田美穂へ』と記されている。どうせ中傷メールか何かだろう。
最近は成りすましメールが多いからその一種かもしれない。仲がいいAとBを喧嘩させたいとき、2人のメアドを
知っているCが『成りすましメールサイト』にアクセスし、送り先にAのメアドを入力し、送信者欄にBのメアドを
入力する。そしてメール内容欄にAの悪口を書き、送信する。すると、何とAのパソコンには、Bのアドレスから
その悪口が届いたように表示されるのである。その結果、AはBに怒り、喧嘩が勃発。
恐ろしいシステムだと思う。馴染みのメアドから届いたメールが実は第三者からのものだった、なんて。
美穂は一度、教授のアドレスから悪口を受け取ったことがある。成りすましメールの存在を調べなきゃ、
危なく教授を殴り飛ばすところだった。
美穂はとりあえず、最近増えてきた中傷メールだと思いながら新着メールを開いた。
『貴女は私の命令に従わなければなりません。詳しくは添付した動画を見てください。次のメールは午後十時です。
追記。設置されているものを1つでも外したら大変なことになりますよ』
何なの、これ? 命令? 私に何か命令しようっていうの? 設置されているものって何?
美穂は腹立たしく思い、メールをゴミ箱に捨てようとした。しかし動画の存在が気になった。ウイルスが
隠れている危険もあるが、対策はしてあるし、たぶん大丈夫だろう。
危険性より疑惑のほうが勝った。
美穂は動画をダウンロードし、再生した。MediaPlayerが開き、映像が流れ始めた。鮮明な映像の中には、
美穂自身の顔がアップで映し出されていた。目を半分閉じ、長いまつげを震わせながら、半開きの口から甘い
吐息を吐き出している。真正面を向いた大きい鼻の穴の中には、鼻毛も見える。
え? な、何これ?
美穂はパソコンの上部に設置されたWEBカメラを見つめた。
まさか――盗撮? WEBカメラが?
心臓は狂おしいほどに高鳴っていた。額に滲み出た脂汗が1滴、鼻筋を流れて顎の先端から滴り落ちる。
記憶に新しい映像だった。スポーツインストラクターの青年の顔写真とネットで見つけた無修正のペニスを並べ、
パソコンの前でささやかな自慰にふけっているときの顔。目を反らしたいほどみっともない表情だった。豚鼻の女が
滑稽な顔で息を乱している。鼻息が荒く、色気のかけらもない顔だった。牝牛が鼻から煙を吐いている光景を
想像してしまい、叫び散らしたくなった。
美穂は震える息を吐き出すと、両手のひらでWEBカメラの目玉を覆った。
盗撮されていた。私がパソコンの前でした行為が全て。信じられない。冗談でしょ。一体誰が? どうやって?
スパイウェア?
映像が切り替わると、今度は半泣きの顔が映し出された。豚面を歪め、惨めさのどん底に沈んでいる顔だった。
育毛関連のサイトを覗き回っていたときの顔。
私、こんな情けない顔でネットをしていたの?
顔も知らない相手に覗かれていたショックは、計り知れなかった。だけど不幸中の幸いだったのは、WEBカメラ
が乗っ取られただけですんだことだった。パソコンの前でした行為はたかが知れている。オナニーも顔が映っている
だけだし、決定的な弱みを握られたわけじゃない。もちろん、動画が大学で広まったら、全員から笑いものにされる
だろうけど、何者かも分からないストーカーの言いなりになるよりましだ。
メールを消去しようと思ったときだった。
動画の映像が切り替わった。ハイライトのように次々と場面が変わる。リビングで総入れ歯を磨いている映像、
薄暗い浴室でスキンヘッドを晒してウィッグを揉み洗いしている映像、トイレに飛び散った尿を全裸で掃除している
映像、育毛剤を頭に振りかけて無駄な努力をしている映像、そして――寝室のベッドでコンニャクオナニーを
している映像。しかも4方向から盗撮されており、表情も、垂れ乳も、ビラビラのどす黒い性器も、何もかもが
鮮明に映されている。
美穂は悲鳴を上げながらMediaPlayerを閉じた。フランスのエトワール凱旋門が綺麗なデスクトップだけが
残った。
何、何、何? 何なのこれ?
嘘でしょ。嘘でしょ。冗談はやめてよ。全部撮られてた? 部屋中に隠しカメラが設置されているの?
まさか。一体誰が? ストーカーがピッキングして侵入したの?
パニックに陥り、真っ白になった頭の中を疑問符が飛び交う。心臓はバクバクと音を立てて荒れ狂い、胃は
引き千切られそうなくらい痛かった。プライバシーを土足で踏みにじられ、私生活に踏み込んでこられたショック。
めまいすら覚えた。
卒倒しそうだった。ウィッグを外して洗っている場面や、垂れ乳を晒して肥大化したクリトリスをいじりながら
コンニャクでオナニーにふけっている滑稽な場面が人々に知れ渡ったら生きていけない。
美女の盗撮シーンならネットにあふれているし、話題性も少ないかもしれない。女は興味を示さないだろうし、
男は興奮して喜ぶだけだろう。しかし、醜い身体を晒している映像は違う。男に気持ち悪がられ、女に蔑まれ、
全世界の笑いものになる。
自分の身体を見た男が興奮するのではなく、笑う――そんな状況には耐えられない。
美穂は室内を見回し、隠しカメラの存在を探した。犯人は今も覗いているのだろうか。
全面ガラス張りの部屋にいるような無防備感と羞恥だった。気絶できたらどれほど楽だろう。目覚めたら全て
悪夢で終わっている――。
「今も見てるんでしょ! 姿を現しなさいよ、この臆病者! 変態!」
こんな卑劣な奴、見つけ出したら背骨を叩き割ってやる。二度とベッドから起き上がれないようにしてやるから!
恭子みたいに負け組人生を歩むことになってから後悔しても遅いのよ!
午後10時になると、新着メールが届いた。
唾を飲み、メールを開く。どこかのサイトのアドレスの下に文章が書かれている。
『私の命令に従わなければ、盗撮映像に個人情報を添付して流出させます。いいですね。では、上記のサイトの
掲示板に下記の文章を書き込みなさい。一字一句正確に。なお、文章の最後に貴女のコメントを許します』
美穂は脅迫者が書いた文面を読んだ。
『私の名前は美穂。20歳の女子大生です。私は美人なのをいいことに好き放題して生きてきました。ブスな女を
見下し、ブサイクな男を馬鹿にし、気に食わない男は鼻を叩き割ってやり、勝ち組人生の邪魔になる女は不良に
レイプさせたり大怪我させたり、色んな手段を用いて蹴落としてきました。罪の意識はありません。
そんなとき、被害者たちに復讐されました。自慢の美髪を剃られて永久脱毛され、美乳は脂肪を吸引されて
しわしわにされ、陰毛も永久脱毛され、性器も醜く黒くされました。私は自分こそ被害者だと思っています。
嫉妬に狂った負け組連中を憎んでいます。
そんな私は、その被害者の1人に決定的な弱みを握られてしまい、逆らえなくなってしまいました。
私はその被害者に強要され、この掲示板に書き込んでいます。大勢の罪なき人々を傷つけ、苦しめた罰として
1ヶ月間、ここの掲示板で調教されなくてはいけません。
なお、命令に従った証拠として自分で撮影した動画を投稿します。目にはモザイクを入れますが。
本日6月15日から7月15日までの1ヶ月間頑張れば解放されます。ただし、命令拒否は1回につき2日間、
終了期日が延びます。同じ命令だったら何度拒否しても延長は2日です』
添付されていたアドレスにアクセスすると、『SM調教掲示板』とケバケバしい文字で書かれている掲示板が
画面一杯に広がった。匿名で誰でも書き込めるようだった。
冗談でしょ。私を調教?
美穂は部屋を見回しながら怒鳴り声を上げた。
「ふざけるんじゃないわよ!」
私の私生活を盗撮し、脅迫してきたのは一体誰なの? 脅迫者は整形が崩れて元の醜い身体に戻ったのではなく、
美貌を整形で奪われたのだと知っている。会場に来ていたか、衛星チャンネルで試合を見ていたか。
誰にしても、見つけたら、両足をへし折って恭子の隣のベッドに送り込んでやる!
内心で強がっても空しいだけだった。生殺与奪の権利は敵が握っている。逆らったら最悪の事態を招いてしまう。
個人情報付で盗撮映像をばら撒かれたら、二度とまともな社会生活を送れない。
1ヶ月? 1ヶ月耐えればすむわけ? でもそんな保証がある?
保証はない。でも、従わないとどうなるかだけは確実に分かっている。
私はこんな卑劣なストーカーの命令に従わなきゃいけないの?
美穂は30分以上思い悩んだ末、指示された文面の下にコメントを付け加えた。
『上の文章は命令されて仕方なく書き込んだだけだから。私は、こんな掲示板にいる最低の卑怯者たちに敬語を
使うほどか弱い女じゃないし、男が右を向けと言ったら右を向くような女でもない。SMごっこがしたいなら、
鞭打たれて喜ぶ変態M女とすることね。私に何かを命令するような奴は、現実で出会ったら叩き潰してやるから』
匿名の掲示板で調教遊びに興じている連中なんて、男に逆らわない頭の悪い女にしか威張れなれないんだから、
強気なコメントを書いておけば命令しようなんて気にはならないだろう。そもそも、こういう変態連中は従順な女が
好きなんだから、こんなふうに毅然とした女には興味を持たないはず。
掲示板に命令さえ書き込まれなければ、何もしなくてすむ。
美穂はそう計算し、脅迫者に指示された文章の最後に自分のコメントを書き加えてから、掲示板に書き込んだ。
そして、デスクトップ型パソコンの電源を落とした。
しかし、苦痛なのは隠しカメラを取り外せないことだった。
私は何者かに盗撮されていると知りながら、そんな部屋で1ヶ月も生活を続けなきゃいけないの?
作者です。
ようやく命令パートにたどり着きました。このやり方を好意的に受け取ってもらえると嬉しいです。
みなさん。ぜひ服部さんみたいに物語の中に参加してやってください。
重複になるので命令文は物語の中で繰り返しませんから、美穂が書き込んだ『SM調教掲示板』の住人に
“なりきって”美穂にさせたい命令を書き込んでやってください。
『私の名前は美穂。20歳の女子大生です〜〜〜〜中略〜〜〜〜私に何かを命令するような奴は、現実で出会ったら
叩き潰してやるから』の書き込みに反応する形でどうぞ。
分かりやすいように感想と命令は別レスにしてもらえるか、命令を『』の中に書いてもらえると、助かります。
ハードな命令も聞かせられるパートを後に用意しているので、ウィッグや入れ歯を外で取り外させたり、
大学のような公の場で全員に恥を目撃されるような激しい命令は、温存しておいてください。ばれるかばれないかが
美穂の行動次第、という命令ならだいたい従わせられると思います。後、公の場ではなく、自室で何かをさせるなら
ウィッグを外させたり、結構屈辱的な命令も可能です。
※今はまだ直接責めを加える人間は表に登場しないので、加害者が不要な命令に限られますが。
とはいえ、美穂は2日の延長と引き換えに命令を断る権利を持っているので、これはオーケーかな、駄目かなと
あまり深く考えず、命令してやってください。
美穂さん、服部です。
ご返信ありがとうございます。
恭子さんの件で、現状をお知らせします。
恭子さんが倒れた時美穂さんが一緒にいたこと、倒れてから病院に到着するまでかなり時間がかかり放置されたことを示す診断書があります。
また、不起訴にはなりましたが、美穂さんに倒されたと恭子さんは、妄想してしまっており、美穂さんに敵意までいだいてしまっているようです。
美穂さんを煩わせず、僕だけで何とかしようと思っていましたが、難しいようです。
失望させてしまったのは、僕の方ですね。
本当に申し訳なく思います。
僕と一緒に恭子さんをお見舞いして、美穂さんの人柄を知って貰って、示談で納得して貰うのが一番だと考えます。
お忙しいのは、わかりますが、一度、僕と話せる時間を作ってください。
一緒にがんばっていきましょう。
高飛車な書き込み。
あんた、元美人なんかしらんけど、今、ドブスなんやろ?
ホンマか、わからんし、美人と今の写真、比較出来るようにアップしてみて。
元が良かったら、書き込み増えるかもよ。
ラッキー、美人はお得やね。
作者です。
199様がお手本のようなレスの書き方をしてくださいました。
こんな感じで進行していけたらいいな、と思います。
せっかくですから、続きを投下。
4時間後、美穂は服部からのメールを読み、唖然とした。
示談? 一度会う? 冗談でしょ。何言ってるの? 責任感と罪の意識が人一倍強い女を演じすぎ、服部は
私が彼女に謝って事を済ませたいと思っていると考えている。何てことなの。恭子みたいな卑劣な弱虫女なんかに
下げる頭は持ってないわよ。払うお金も一円たりともない。
全ては虚弱体質の恭子が悪いのに、示談なんて私が非を認めたみたいになるじゃない。
美穂はため息を漏らすと、服部への返信を書いた。
『示談で済ませられたら一番だと私も思います。でも、身勝手ですが、納得できないんです。彼女は私に不満を
ぶつけることもなく、いきなり告訴し、それが無理と分かるや、損害賠償請求を起こしました。話し合いを拒否
したのは彼女なんです。だから私は勝訴が欲しいんです。勝った後であれば、彼女に謝罪するなり、慰謝料を
払うなりする気はあるんです。ただ、裁判所の命令で払わされたくないんです。強制されて謝罪するって何か
変じゃありませんか? 訴えを取り下げてもらうためにする示談も同じです。だから、彼女に謝るなら全てが
終わってからだと考えています。法廷で最後まで闘い、彼女に勝ってください。お願いします』
美穂はパソコンを起動させたついでに『SM調教掲示板』を覗いた。
変態男たちは、『私Mです、調教してください』とか『恥ずかしいことしたいんです。ネットでご主人に
なってくれる方はいませんか』とか書いている自尊心ゼロの馬鹿女たちに惹かれているだろう。立派にプライドと
人格を持った私の書き込みには興味が持てず、スルーしているはず。心の中では『こんなタイプの女に命令しても
萌えないんだよなあ』とかつぶやいているに違いない。
掲示板をスクロールし、美穂は眉を顰めた。
「はあ?」
意外にも書き込みがあった。写真をアップしろと書いてある。品性のかけらもない関西弁だ。公の場で標準語を
使う知能もないの? 写真なんてアップするわけないじゃない。そう書き込んでやろうと思ったときだった。
メールが届いた。脅迫者からだった。
『写真の命令は拒否しちゃ駄目ですよ。せっかくなので、比べやすいように水着の写真を選ぶこと。いいですね。
目線だけは入れるのを許してあげましょう』
美穂は歯を食いしばり、パソコンに保存されている自分の写真を探し出した。元美人のプライドで、数ある
中でも一番輝いているものを選び出した。ビキニを身につけ、腰まである長い黒髪が海辺の陽光に輝いている
写真だった。鼻筋は意志の強さを象徴して真っ直ぐ筋が通っており、輪郭はシャープなラインを描いており、
真っ白な真珠の歯を見せている。白磁器のごとき肌を晒し、88センチの美乳はビキニトップを盛り上げ、
ウエストはキュッと引き締まり、ヒップはツンッと上がっていて、太ももはスラリと伸びている。
画像処理ソフトをダウンロードし、目に黒い横線を入れた。それでも絶世の美女だと見て取れる。
そして、最もしたくない行為――醜くされた顔を永遠に刻み取る行為をした。デジカメを使い、自分自身の顔を
撮影したのである。ウィッグはつけているし、眉も描いてあるが、鼻が豚になっている。真正面を向いた台形の
鼻にトンネルが二つ。これだけでブサイクな印象になっている。
私の自慢だった顔、こんなになっていたの?
鏡で見るより衝撃的だった。鏡を見ているときは、豚鼻でも美顔に見える角度を無意識に作っていたのだろう。
写真では顔の角度を変えることはできない。これをアップしろっていうの?
美穂は屈辱を押し隠しながら、美人だったころの全身が写った水着写真と、豚鼻にされた顔を正面から
撮影した写真を並べて掲示板に貼りつけた。両方の目には黒い横線が入っている。これでも充分美人の女と
同一人物だと分かるだろう。鼻以外は同じなのだから。
そして、美穂は怒りを掲示板の文章にぶつけた。
『これで満足? ふんっ、私に命令するなんて何様なの? それに嫌味で下品な関西弁。文章から下劣さが滲み
出ているみたい。高卒? それとも中卒だったりするの? あんたこそ、美人に嫉妬するドブスでしょ、どうせ。
私の輝く姿を見てせいぜい歯軋りしてなさい』
少しだけ気が晴れた。
美穂は再びパソコンの電源を落とした。
服部です。
美穂さん、意に添えず、申し訳なく思います。
率直に伝えます。
このまま、民事訴訟をされると美穂さんは、敗訴します。
本人が出廷しなければ、最悪相手側の壱億四千万の要求も認められる可能性もあります。
僕は、美穂さんに協力して、賠償額の減額、訴訟の撤回を求めていきたいと思っていましたが。
納得がいかない事は、よくわかりますが、一度、考えてみてください。
他の法律事務所に相談されて、意見を聞かれてもいいと思います。
恭子さん側は、ご友人なども、事情を説明される用意もあるようです。
美穂さんは、僕と会おうともせず、簡単に勝てるものと思っておられるようですが、美穂さん本人の問題ですよ。
きつい文章になって、申し訳ないですが、事実です。
学校内で、この件について、美穂さんの味方になってくれそうなご友人や先生方とも相談していきましょう。
美穂さんとは、もっと楽しいお話をしたいのですが、事情が事情なので。
お気を悪くされたなら、僕を切ってくださってかまいません。
優秀な弁護士さんもたくさん知り合いにおられると思いますし。
『この水着の美女って、マジで、美穂なんけ?
それか゛、このブタに?
有り得んわぁ、今は、珍獣やん。
えらそうやし、感じわるぅ
お前こそ、頭悪いんちゃうん?
珍獣の方、顔だけやし。おんなじ水着、珍獣にも着して、アップし直せ、バーカ』
205 :
休養格闘家:2009/12/27(日) 16:01:19 ID:MowJnuC1O
ビッチがいい気味だなw
まあまずは軽めから命令してやるから慈悲に感謝しろ。
まずはお前の本当の姿をお披露目するところからだ。なお、この命令は腋毛を少し伸ばしてから実行するように。
まず、できるだけ露出度が高くセクシーな、ノースリーブの服を着ろ。寒い?元美人なら気候は我慢してセクシーな服を着るくらい慣れてるだろ。
そしてたまには電車通学してみようか。その服装で、マスクをつけて電車通学だ。
その状態で吊り革に両手でつかまり、周囲に腋毛でもアピールしてもらおうか。
周囲の奴はこの時点では美人と見えてるだろうから、驚きながらも興奮するやつもいるだろう。
そうしたら、近くのいやらしそうな親父の手をとって思う存分体を触らせてやれ。
それでしばらくそうしながら、ウィッグも外して情けないツルツル頭も披露するんだ。周囲にもオヤジにもな。
それで駅に着くまでの間、オヤジの手を自分の頭にやって撫で続けさせろ。頭も舐めてもらえ。
感想を聞くのもいいな、スキンヘッド姿と、頭の感触の。
この時点ではスキンでも美人には見えてるんだからオヤジも拒否らんだろ。
で、相手の興奮も高まった頃に、マスクを取って入れ歯も外し、そのぶざまな不細工面を周囲にもオヤジにも見せてやれ!
オヤジ、一気に興奮から落ちるだろうな(笑)
いきなり拒否るかもだが、拒否られても強引にやり続け、撫でさせ続けろ。
顔の感想も聞け。シワパイも触らせてみな。
で、大学に着いてもそのままの姿でいきな。
周囲の奴も腫れ物に触るように扱うかもしれないが無視とかはつまらんからお前から積極的に感想を聞きに行け。
聞いたら礼に、歯無しの口か鼻毛だらけの鼻の穴をおっぴろげて見せるか、頭を触らせてやれ。舐めさせてもいいぞ(笑)
まず最初はこれくらいかな。
もっとここから発展させていけそうだから楽しみにしておけや。
てめえみたいな糞ブスが命令してもらえるだけでも有り難く思うんだな(笑)
妄想小説にしても酷すぎる
よくこんな酷いこと思いつくな
作者の精神を疑う
207 :
かず:2009/12/27(日) 18:22:17 ID:GVHBWg2w0
そろそろ足きます?
208 :
休養格闘家:2009/12/27(日) 19:18:33 ID:MowJnuC1O
追伸。
いっておくが断らない方がお前自身のためだぜ。
断ったらもっとハードな命令をしてやるからな。
それも断ったらまたさらにハードな命令を…わかるな?
そうなれば命令はどんどんハードになっていくうえに解放までの日数は無限に伸び続けるばかりだ。
あんたに学力ほどの知能があるというなら、おとなしく命令をサクサクこなしていったほうが利口ってこった。
作者です。
206様。
楽しんでくれている読者の方も何人かいらっしゃるので、スレが変に荒れる前に真面目に答えておきますね。
まず、非難の対象が作者でも、結果的にそれが読者批判になっていることをご理解ください。
私にこんな多彩なアイデアや展開を閃く頭脳や妄想力はありません。そんなものがあれば、第二の新堂冬樹
(暗黒小説を書く小説家)になっています(笑)
>>19 で書いているように、本作品は『美人が少女たちに恐喝・リンチに遭うフェチその2』で連載していたものです。
そちらを見てもらえれば分かるように、物語のアイデアや展開は全て読者の方からリクエストや提案という形で
戴いたものです。漫画で言うなら、私が『作画』で読者のみなさんが『原作』という感じでしょうか。
作品が被害者視点なのは、私自身がいじめっ子の気質やSの気質を持ち合わせていないからです(別にMの気質を
持っているわけでもないですが)。加害者の気持ちになれないので、加害者役は読者の方にお任せします、
そのかわり、提案された責めを受ける被害者の心情なら描けますよ、ということで。
ですから、精神を疑われても、常に被害者側に立っていた私自身は別に痛くないのですが、206様のレスは、
私にアイデアや提案をくださった読者の方々に直接降りかかります。
フィクションを楽しんでいる読者の方々が――主に、206様の言う“酷いこと”を思いついた読者の方々が――
カチンッとくる発言は控えてほしく思います。
スレが荒れないことを願いつつ、失礼します。
>>209 ああ悪かった
謝るよ
精神を疑うべき相手は、あんたよりも読者だってことがわかった
ここは作者さんの意を汲んで荒らしはスルーしておきますか
『美穂の弱みを握ってらっしゃるマスター様、見てらっしゃいますか?
美穂は、他のSM調教の掲示板のメスブタの中でも一番、豚面で、見た目最低レベルなんだし、文面もアタマ悪そうだし、イジメすぎたら、かわいそうじゃないですか?
命令、拒否って、2日延長なら、実行したら、2日短縮してやってもよくないですか?
やっぱり、ダメですよね?
俺に出来るのは、かんたんな命令を出してやるぐらいのもんさね。
ほれほれ、助け舟の命令だよ。
1つ、ご迷惑をおかけした皆様に土下座して謝る
2つ、美穂自身の現状について、髪、鼻、乳房、性器など、分かり易く皆さんにご説明する
3つ、自分をセクシーポーズでアピールして、優しい命令をもらえるようお願いすること
美穂タン、がんばるんだよ。
上の休養格闘家さんのは大学の友達に曝しちゃうのがあるから今はダメかな
でも責めの内容自体はすごく好きなので、大学のパートは削って電車の中のはぜひやってほしいです
電車ならふだん見知らぬ人だけなのだからバラシも問題ないでしょうし
ぜひ見たい
翌日、大学から帰ってから美穂が最初にしたことは、メールチェックだった。服部から1通届いている。
予想に反して厳しい言葉が並んでいた。普段温厚な紳士の服部から手厳しい言葉を受けると、ショックだった。
出廷しないと敗訴の可能性がある? 1億4千万も? それは非現実的な数字だった。
示談なんて冗談じゃない。恭子に頭を下げるくらいなら、背後からナイフで刺されたほうがましだ。
でも――。
美穂は歯噛みしながら服部にメールを返した。
『実のところ、大学に私の味方は1人もいません。私に関する根も葉もない悪評が蔓延しており、誰もが私を
憎んでいます。悲しい生活です。私は何も悪いことはしていないのに。だからこそ、勝訴が欲しかったんです。
示談をしたら、噂が真実だと認めることになります。それはつらいことです。
私が法廷に立てば、勝訴を得られますか?
見込みがないのなら……仕方がありません。示談の方向性を探ります。示談の条件を彼女に聞いてください。
条件が分かり次第、もう一度お返事します』
返信を終えると、『SM調教掲示板』を開いた。
例の関西弁がまた書き込んでいた。美貌がまぶしすぎ、自分の日陰の惨めさを思い知って逃走したと思ったのに。
まさか男なの?
美穂は文章を読んだ。読み終えたとたん、屈辱と怒りに頬はピクピクと痙攣し、拳はわなわなと震えた。
ブタ? 珍獣? 鼻以外のパーツは完璧なのに化け物扱いするわけ? 信じられない。あんたはどれだけ完璧な
容姿を持ってるのよ。
それに私は東大生よ。頭が悪いわけないじゃない。
大学名を書き込めないことが悔しかった。個人情報を自分から暴露するわけにはいかない。大学名さえ書ければ、
この関西弁も、自分は愚かにも勝ち組を笑った負け組だと思い知り、尻尾を巻いて逃げ去るだろうに。
苛立ちを抑えることは難しかった。20年の人生の中で他人から命令されたことは一度もない。悪口なら、
嫉妬に狂ったブスや、辛辣に振った男から言われたことがある。しかし、乱暴な口調で命令されたことはない。
一番屈辱的だったのは、『珍獣にも“着して”アップし直せ』と書いてあったことだ。『水着を“着て”アップし
直せ』ではない。写真の美女と同じ人間ではなく、別の生き物のようなニュアンスで書かれている。
こんな侮辱を受けるなんて――。
殴り飛ばせないのが悔しかった。目の前で命令されたなら、鼻をへし折ってやるのに。
美穂は仕方なくタンスから水着を取り出した。写真のものと同じやつだ。いくら敵意を持って反発しても、結局
命令どおりにしなきゃならないことが屈辱だった。
寝室で下着姿になると、盗撮犯の視線から逃れるためにバスタオルを巻き、ショーツを脱いでビキニボトムを
はいた。問題は乳房だった。パッド入りブラでごまかしている乳房。同じくパッドをして水着を着る? しかし、
あの関西弁は乳房がどうなっているか知っている。偽ったら次は何を命じられるか……。
美穂は覚悟を決めてバスタオルとブラを外した。垂れ乳が真下に落ち、肥大化した焦げ茶色の乳首が床を指す。
ビキニを取り上げ、生地で先端を包むようにして紐を持ち上げた。首の後ろで結ぶと、鏡を見た。ビキニトップは、
まるで横木から紐で吊るすタイプの天秤みたいになっていた。二つの皿の部分にナマコが乗っかっている状態だ。
悲惨……。
そもそも、88センチの美乳を包むために買った水着が合うわけがない。
美穂は鮮やかな色合いの水着と惨めったらしい乳房の対比に愕然としながらも、デジカメで全身像を撮影した。
デスクトップ型パソコンの前に座り、画像を取り込んで黒い目線を入れ、アップしようとしたときだった。
別の人物から書き込まれている命令に気づいた。
最初の文――命令してやるから感謝しろ――にカチンときた。何で私が感謝しなきゃいけないのよ、馬鹿。
他人から命令されたことがない美穂は、噛み締めた唇を震わせた。
腹立たしかったものの、『軽めから』と書いてあったので少し安堵した。1ヶ月耐えて終わらせるには、
出された命令に従わなきゃいけない。命令拒否をして2日延長されたら、それだけ屈辱の日々が続いてしまう。
少しだけプライドを捨てればすむ命令なら、まだ耐えられる――そう思って命令を読んだ。
読み進めるにつれ、顔から血の気が引いていった。そして読み終えたときには、怒りのあまりパソコン画面を
殴り飛ばしそうになった。ビッチ、不細工面、糞ブス、てめえ――顔も知らない頭の悪そうな人間にここまで
馬鹿にされるなんて……しかも『軽めから』という言葉に騙された。何が軽いの? 無茶苦茶じゃない。私に生き
恥を掻かせるつもり?
2日延長してでも拒否してやる――そう思ったとき、3時間後に書かれた追伸に気づいた。命令を断ったら
次はもっとハードな命令を下すと書かれている。
先手を打たれた格好になった。最初の命令を読んだときは、期日が2日延びても拒否するつもりだった。絶対に
できない命令だから。2日延ばしてでも拒否すれば、相手も無茶な命令だったと反省し、次は軽い命令に落として
くるだろうと計算していた。しかし、男は逆の行動に出た。拒否すれば次はもっとハードな命令をする――。
信じられない脅迫だった。そんなことをされたら期日はどんどん延び、一生掲示板で奴隷として生きるはめになる。
こんな命令に従うくらいなら盗撮映像をばら撒かれたほうがまし、と思う命令が出るようになるまで。
美穂は屈辱に打ち震えながらも、休養格闘家と名乗った男の命令に従わざるを得ないことを悟った。
3人目の命令を読むと、美穂は最初の2人のときとは違う怒りを覚えた。中学時代から常にトップクラスの成績を
維持してきた私の文面がアタマ悪そう? 見た目が最低レベル? ネットの底辺の掲示板でしか生きられない
馬鹿女たちよりも下? ふざけんじゃないわよ!
しかも、イジメすぎたら可哀想? 同情ほどムカつくものはない。私が憐れまれる理由なんてないでしょ。
勘違いしないでよ。私があんたたちの命令を聞いてやってるのよ! 低俗な命令を読むたび、哀れな人間の
負け組人生を想像して笑っているのよ、私は!
馴れ馴れしい。何が『美穂タン』よ。秋葉にあるオタクの巣窟に帰りなさいよ。
目の前に現れたなら顔面を叩き潰してやるのに。
それに、何が助け舟よ。本当に役立ちたいなら黙っていなさいよ。簡単な命令だろうと何だろうと、私に
命令した時点で迷惑なのよ。
美穂はわなわなと拳を震わせながら、3つの命令をじっと見つめた。“ご迷惑をおかけした皆様”って誰?
掲示板の変態連中のこと? 私に謝れって?
予想外だった。M女を責めて楽しむ弱虫連中は、自尊心を持った女を敬遠するものだとばかり思ったのに。
逆に敵意剥き出して命令を出してくる。
盗撮犯からメールは届いていない。実行したら2日短縮なんて提案に応じる気はないのだろう。15個の命令を
こなして解放、なんて甘いということか。
美穂は動画デジカメを三脚にセットした。角度を調整してから、寝室の絨毯に立つ。緑色のタンクトップと
膝上10センチのスカート姿だ。怒りに震える脚を徐々に折り曲げ、正座した。噛んだ唇は屈辱に引き攣っている。
デジカメのレンズを睨みつける。無人の寝室で1人、こんなことをしている自分に惨めさを感じた。
本当なら『悪かったわよ』と吐き捨てて終わりにしたい。しかし、それでは納得されないだろう。命令に
従ったのに拒否扱いされてはたまらない。
美穂は二度、深呼吸した。両手のひらを膝の前方につき、長い黒髪を垂らしながら額を下げた。絨毯に触れるか
触れないかの距離。両腕は屈辱にピクピクしていた。
「ご……ご迷惑をおかけして……すみませんでした」
声は怒りと恥辱に震えていた。
10秒ばかり頭を下げ続け、顔を上げた。二つ目の命令をこなし始める。
美穂は、腰まで流れる美髪のウィッグを梳くようにして説明した。
「これはウィッグです。永久脱毛された頭を隠しています」アーチ型を描く眉を撫でる。「眉も永久脱毛されました。
だから描いています」鼻を触り、「親指が入りそうなほど大きな穴が正面を向いています。自慢の誇り高い鼻は、
整形で見てのとおり豚鼻にされてしまいました」口を開いて白い歯を見せる。「歯は総入れ歯です。逆恨みした
連中に一本一本抜歯されました」一言発するたび、心の大事な部分が剥ぎ取られていくようだった。タンクトップの上から乳房を触る。「胸はパッド入りブラでごまかしています。脂肪を抜かれて垂れ乳にされ、乳首と乳輪は茶色に
汚され、肥大化させられました」ミニスカートに隠された股間を見下ろす。「性器は引き伸ばされ、黒ずんだ色に
されました」
美穂は震える声で説明し終わると、デジカメのレンズに顔を向けた。
「これでいいでしょ。満足した?」
当然ながら反応はない。
美穂は絨毯に身を横たえ、膝上10センチのスカートから色白の美脚を伸ばし、タンクトップに包まれた上半身を
少しだけ起こした。昔写真集でとったセクシーポーズの一つを作り、動画デジカメのレンズを見つめながら言う。
「……どうか……優しい命令をお願いします」
言葉や行動を強制されるほど腹立たしいものはなかった。自分の意思を奪い取られた気がする。しかし、1ヶ月
耐えればすむ、と自分に言い聞かせ、我慢した。
美穂は動画をパソコンにダウンロードし、目にモザイク処理を施してから『SM調教掲示板』にアップした。
黒い目線を入れた水着姿の対比写真も並べ、コメントを付け加える。
『これで満足した? 従ってやったでしょ、この変態! 女に相手にされない低脳で下品なブ男は、顔が見えない
ネットの世界で威張るしか能がないのね。可哀想。哀れすぎる。あんたたちは従順なM女と遊んでいればいいのよ。
二度と私に命令しないで!』
謝罪も懇願も命令されたから仕方なく実行しただけで、心まで屈服したわけじゃない、と主張するためにも、
文章に怒りをぶちまけた。自分自身のプライドを保つために。
乙です!
いやあ、これ最高に面白いね
実際に命令者の書き込みに対応した展開がなされてるのがリアルで最高に面白い!
ここの住人が、プライドの高い生意気女を翻弄してる爽快感もあるしね
作者の手腕に感服!
これからも期待してます
俺はこんな小説認めない
人間としての尊厳を奪い、暴力的な行為をするようなのは最低だ
即刻やめるべき
221 :
できる夫:2009/12/30(水) 04:54:51 ID:zUQqjkUDO
『貴女馬鹿ですか?
そんな態度をとればさらに恨みを買って酷い目に遭わされそうだという事くらい
三流大学どころか小学生にだって普通わかりますよ。
どうやら貴女はお勉強ができるだけのただの馬鹿のようですね。
いや、小学生にも遠く及ばない知性なようですから、前の方が言われていたように珍獣でしょうか。
外見だけでなくおつむの中身まで珍獣だなんて笑えますね(笑)我々が飼ってあげましょうか。
そんなペットには人間用のトイレなど相応しくありませんね。
今日から命令終了の日までの期間、貴女は人間用のトイレ使用禁止です。
家では犬猫用のトイレ、あるいはゴミ箱か洗面器になら排泄を許しましょう。
大学など外出先ではゴミ箱か、あるいは本当の犬っころみたいに外でやったって構いませんよ(笑)
常に我々の監視の目がある事をお忘れなく…
ペットには管理の一環として健康チェックも必要です。
これから貴女は大便をするたびにその写真をUpしなさい。
元美人には屈辱かもしれませんが、まあ今は珍獣ですからお似合いですね(笑)
その際、他人の大便をUpされても迷惑ですから、排泄シーンも動画で撮影しUpすること。
その日の大便の状態に関する詳細な説明と感想コメントもつけておくように。
ペットの健康状態のために汚い排泄物まで見てあげようだなんて、なんて優しい飼い主でしょう(笑)
感謝しなさい。』
222 :
sage:2009/12/30(水) 08:27:44 ID:l3BH/xpK0
『写真見ました。
すっごく可哀想ですね……
あの、命令と言うより提案なんですが、デパートに行ってみるのはどうですか?
化粧品売り場でプロの販売員さんにメイクのアドバイスをしてもらえば
そのお鼻もきっと見違えるようになると思うんです。
あたしの知り合いでちょっと団子鼻っぽい子がいたんですけど、
お化粧でびっくりするぐらい綺麗になったんですよ。
プロの技術は凄いです。ぜひとも試してみて下さいね!』
223 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 17:24:16 ID:QX1g+GBs0
作者さんのいろいろな書き込み命令に対する対応は、本当にすばらしいと思います。
224 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 17:41:51 ID:QX1g+GBs0
服部です。
連絡に時間がかかってしまって、申し訳なく思います。
恭子さん本人には、対応いただけず、ご両親に彼女の意向を伺ってきました。
恭子さんご本人は、倒れた際に、腰部を強く打ちつけ、脊椎神経を圧迫したことで、
損傷し、下半身の感覚を失い、排泄もご自分ではままならないような状態です。
今回、この事故には、美穂さんが倒れた彼女を放置したことにも、
少なからず責任があり、その損害賠償をもとめられています。
僕のほうから、示談解決を提案しましたところ、
ご両親は、恭子さんの早期の立ち直りを期待し、長引かせることを望まないことから、
応じていただけそうです。
美穂さんは、どのような対応をご希望でしょうか?
実際に裁判となると、事故直後、怖くなって助けを呼ばなかったでは、
勝訴はできないです。
大学内での悪評を気にされている時ではないと思います。
そんな噂を気にされるなんて、美穂さんらしくもないですし、
なにより、美穂さんには明るく開けた未来が待っているのですから。
熟慮いただき、ご返事ください。
示談金は、3000万円ぐらいで、お考えいただけるように願います。
225 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 18:05:39 ID:QX1g+GBs0
『おっ、珍獣に水着着して写真アップできてるやん。
なんや、このたれ乳、気色わるぅ。パンツのとこもなんやグロ過ぎやし。
人間様の水着は、無理あったわなぁ。
ほんまにすまん、わいがわるかったわ(笑)
今度からよー考えて、命令さしてもらうわな。
えーーーっと、まずは、珍獣用の服とかないし、気色悪いけど、
服とか何も着せんでええよ。
犬みたいに可愛いないけど、犬用の首輪、買うたって、それだけ付けたら、
それでええわ。
犬の、お座り、ちんちん、お手のポーズで、もっかいアップしてチョンマゲ。
首輪のセンスええかどうか、見たるよってな、ええやつ探してくんねんで。
ペットシートもついでに買うて来いや。
ペットシートから飛び散らかさんと、オシッコとフン、できるかも見たるよってにな。
こんで、写真3つと動画2つやでぇ。
いくつか数えれたら、その数、とりあえずワンでええから、鳴いてみぃや。
うわぁ、できる夫って、すげぇーな。マジで、尊敬するわ。
健康管理してくれるみたいやん。
よかったなぁ。
わいは、一回しか見たれへんでー。
めし、まずなるわ。 獣医には、なられへんタイプやなぁ。
スカトロジストできる夫いいわーw
美穂をボコる展開はOK?
神、いつも楽しく読ませて頂いております。
ここまで完成度の高い小説は初めてです。
これからも体調に気をつけて頑張って下さい。
一日遅れたけどあけましておめでとうございます
作者さん、皆さん今年もよろしく
>>227 作者さんじゃありませんが、いいのではないでしょうか。
私は格闘技をやっている女なのですが、道場で女子では誰が相手でも圧倒できますが
男子とやると数ヶ月の人にも苦戦します。。。男女の差って格闘技ではそれくらい絶望的です。
だから醜くされても強さまでは失っておらず美穂の最後の自信となっているのを打ち砕くという意味で
かなり有効なのではと思います。
私と違い、美穂は男子相手でもトップ選手相手でもなければそう遅れをとらないと勘違いしていそうですし
例えばプロでもなんでもない格闘技を齧った一般男性になすすべなくボコボコにやられるとかいいかも。。。
うん、見たいです。
上の休養格闘家さんなんかどうかな?なんて無茶振りしてみたりw
____
/ \
/ ⌒ ⌒ \ あけましておめでとうございます。
/ (●) (●) \ 美穂さんにも皆様にも
| __´___ | 本年が良いお年になりますように。
\ `ー'´ /
できる夫きたw
あけおめ
まったりなこのスレ好きです
このいい雰囲気は頭悪すぎなどっかのクソ作者とは違うここの作者さんの人柄でしょう
これからもよろしく
『なんか説明されたけどわかんないな〜。
ちゃんと画像で見せてもらおうかな。
普段はヅラとか入れ歯とかメイクでごまかしてるんでしょ?
その完全武装の姿と、そういうの全部とっちゃった本当の美穂の写真あげてよ。
ああ、脱いでくところの動画なんていいな。
ヅラをとって、眉を描いたの消して、入れ歯も外すとこ。
過程見られるのも笑えるw
あと、頭を剃るところも動画であげてもらおうかな。
女のくせに自分で頭剃るとか笑えるから見せろよつるっぱげちゃんw』
『つるつる頭撫でてオナニーするところ動画でアップしろ』
作者さーん
帰ってきてよ〜
どうしたのだろうか?
年末年始は忙しくしてらっしゃるのでは?
・年末年始で忙しい
・規制に巻き込まれた
・筆が止まっている
このどれかだと思うんだ
いずれにしても不可抗力なので仕方ない、じっと待つのみさ
ああ、規制はあるねえ。
俺もこの前まで規制に巻き込まれて一週間近く書き込めなかったし・・・
結構長く捕まるからね。
荒れないようスレの雰囲気を良い状態で保って待ちましょう。
239 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 00:23:48 ID:U7/x1TWe0
あげ
240 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 03:28:45 ID:QdGonudr0
すげぇな。作者は何者だ?
美穂の性格が最悪なのはわかってるのに
美穂目線で書かれると美穂に同情してしまう
自分自身でしてきたことなのにやり返される美穂が可哀想とまで思えてきた
作者です。すみません、年末大規制に巻き込まれ、強制ROM状態でした。;
年末年始でプロバイダが休みだったり擦れ違いがあったり……解除までもどかしい日が続いていました。
返信一つ書く暇がないほど忙しいなんてありえないので、無反応になったら規制に書き込まれたと思って
おいてください。;
227様、猟奇や拷問のような激しいものでなければ、リクエストがあれば応えられる範囲で。
241様、神様は読者様です(笑)。アイデアに感想に、と色んなものを貰ってますし。私は読者のみなさんの
リクエストにできるだけ応えて書くだけです。^^
ハードな命令を避けるため、命令どおり腋毛を処理していない自分に嫌気が差した。
決して屈服したわけではない。ただ、盗撮犯からデータを取り返すために従っているだけ――そう言い聞かせる。
私は最善と思えることをしているだけよ。必ず卑劣な盗撮犯を暴き出し、仕返ししてやるから。
美穂はデスクトップ型パソコンを起動させ、まずメールチェックをした。服部からのメールがあった。和解に
3000万? 冗談でしょ。貯金を全額降ろしても1000万だし、貢物と愛車を売っても1000万前後。
1000万も足りない。バイトして毎月数万ずつ何十年も賠償金を支払い続けろってわけ?
冗談じゃない。100万だって高いというのに3000万も払うわけがない。
美穂は携帯で知人に電話し、恭子の実家の電話番号を聞き出した。怒りのままに番号をプッシュし、電話した。
恭子の母親が出たとたん、名前を名乗って言い募った。面倒事を作り出した張本人の声を聞くと、怒りの言葉は
止まらなかった。
「この強欲女! 未来のない寝たきり女のために私の輝く未来が潰されたらたまんないわ。娘と同じで心まで
汚れきってるのね。常識ってものを持ちなさいよ。他人の世話になるだけで社会に何一つ貢献できない女と、将来
社会に多大な貢献ができる女と、どっちが大事か考えるまでもないでしょ。世間は私が返り咲くのを待ってるのよ。
分かったら言いがかり訴訟を取り下げて。取り下げないなら闘うから。絶対に和解なんてしない。いい?
絶対よ。私は1円だって払わない。今後、一切あなたみたいな金の亡者との交渉に応じる気はないから。法廷で
決着をつけましょう!」
唖然として声を失っている恭子の母親を無視し、一方的に電話を切った。胸がスッとした。
美穂は息を吐いて平静を取り戻すと、服部にメールを書いた。
『申し訳ないですが、考えるまでもありませんでした。私は和解に応じる気はありません。失望しましたか?
そうかもしれませんね。私は以前服部さんから受けた言葉をここで返します。気を悪くされたなら私を切って
もらって構いません。服部さんにはもっと素直な依頼人が大勢いらっしゃるでしょうから。
服部さんが弁護を降りるというなら、法律家の知り合いがいない私は3流弁護士を雇って弁護させるしか
ありません。続けてくれるのなら、法廷で決着をつけてください。私は彼女の母親にそう宣言しました。
最近は裁判もスピードが重視されていますし、裁判官の方も裁判の長期化を嫌うでしょうから、2ヶ月もあれば
判決が出るはずです。専門家の意見を無視した愚か者だと思われるでしょうが、闘ってください。依頼者が無実を
訴えているのに有罪答弁する弁護士は倫理に反すると聞きます。私は和解する気はありません。次のメールは
2ヵ月後、判決が出たときに届くことを祈っています』
メールを送信し終えると、美穂は『SM調教掲示板』にアクセスした。
性懲りもなく新しい人間からの命令があった。
最初の数行を読んだだけで怒りがこみ上げてきた。自尊心を守るために書いた文章で馬鹿扱いされたことに
腹が立った。しかし、『できる夫』の言い分がもっともなことはもっと腹立たしかった。たとえ心までは屈して
いなくても、表面的な主従関係は出来上がってしまっている。私が吠えても、相手は厳しい命令でやり返すことが
できる。簡単に。キーボードを打つだけで。
最初から勝ち目のない関係。昔の私がブスに中傷されても、絶対的な美貌があるから平気だったのと同じで、
掲示板の連中も私から何を言われても平気なのだろう。私の罵詈雑言に腹が立っても、命令で仕返しできる。
そして私は逆らえない。
美穂は命令の続きを読み進めた。1行読むたびに口の端が震え、歯は怒りにカチカチと鳴った。目を疑った。
予想もしていなかった命令だった。人間の想像力に――サディストたちの想像力に愕然とした。土下座や謝罪なら
想像の範囲でも、まさか、こんな……。
人間用のトイレが禁止? 嘘でしょ。何言ってるの? 何で他人に私生活まで管理されなきゃいけないわけ?
女神から普通以下の人間に堕とされたあげく、珍獣扱いされて動物にまで貶められなきゃいけないの?
美穂は唇をわなわなと震わせながら考えた。
命令終了までの1ヶ月間ずっと? 1日や2日なら我慢できても、1ヶ月も我慢するなんて不可能だ。どうする?
2日の延長と引き換えに命令を拒否すれば、トイレ禁止の命令はもうされなくてすむ。しかし、重い枷となって
いるのは『休養格闘家』の忠告だった。命令を拒否すればどんどんハードな命令を出していくぞ――公の掲示板で
そんな反則めいた裏技を披露されたせいで、今では掲示板の住人の誰もがその手法を目にしている。トイレ禁止の
命令を拒否したら、『できる夫』も次はもっと凶悪な命令を下すかもしれない。
盗撮犯が約束を守るなら、1ヶ月我慢すれば終わる。でも、延長を繰り返すはめになり、永遠に解放されなく
なったらどうすればいい?
拒否権が唯一の武器だったのに、盲点を突く脅迫のせいでもう使用できなくなってしまった。どんな命令でも、
個人情報付きでコンニャクオナニーの盗撮動画が流出するのとどちらがましか比較し、従わなくてはいけない。
トイレを禁じられたらどうなる? 朝自室で済ませておけば、半日なら我慢できるだろう。被害は最小限ですむ。
目線で正体を隠せる分、盗撮動画流出よりましかもしれない。
美穂は唇を噛み締めた。
人間用のトイレを禁じたあげく、排泄物までアップさせ、さらには私にそれを解説しろなんて――私にどれだけ
恥を掻かせれば気がすむのよ。
苛立ちながら次の書き込みを読んだ。文章から見て女のようだった。可哀想などと同情の書き込みがされている。
読んでいるだけで怒りを感じた。即返信を書く。
『私は他人が望むものなら何でも持っていたし、何でも得られた女なの。同情なんてされる筋合いはないわ。
“あたしの知り合いの団子鼻っぽい子”なんてのはどうせあんたのことでしょ。化粧して隠さなきゃ人に
見せられない容姿の女が私に何を提案しているのよ。私はね、あんたみたいな底辺のブスの嫉妬でこんな鼻に
されたのよ。分かる? あんたみたいな女は見てるだけで虫唾が走るわ。分かったらもう書き込まないでね。
私は、男に命令されて、嬉しいです〜♪ なんて馬鹿っぽい発言を返すあんたとは生きる世界が違うのよ。
SM調教掲示板なんかでしか相手にされない変態女は、自分の掲示板に帰って、そこで同じく頭の悪いご主人様から
命令されて喜んでいればいいわ』
書き込みを終えてから画面をスクロールすると、関西弁の男からの返信があった。下品な言葉遣いに苛立ちながら
読む。
『今度からよー考えて、命令さしてもらうわな』
何よ、まだ命令する気なの?
悔しかった。強がりのような罵声を書くしか反撃の手段がない私に対し、命令して私に思うまま屈辱を与えられる
関西弁の男。完全な出来レース。勝者は最初から決まっている。敗者は負けると知りながらも懸命にあがくだけ。
両手足を縛られた芋虫状態で放り出された気分になる。
以前は私に勝てる人間なんて存在していなかったのに。女子格闘技では向かうところ敵なしだったし、美貌でも
私に太刀打ちできる者はいなかった。男は誰もが私をあがめ、私の前にひれ伏した。それなのに今は、肉体労働で
低賃金を受け取るしか能がないような下品な関西弁の男に命令され、逆らえない。そんな男に犬扱いされなきゃ
いけないなんて――。
私から衣服を剥ぎ取り、惨めな身体を晒させ、笑いものにしようって魂胆? 家畜同然に堕とし、人間としての
尊厳まで奪い、プライドを踏みにじる気?
腕を震わせながら画面をスクロールする。新しい命令が書き込まれていた。屈辱に耐え忍んで説明したのに
相手は納得せず、今度は変わり果てた身体を晒しながら説明しろと書いてある。美穂は胃が締めつけられる痛みを
覚えた。
ウィッグや総入れ歯の装着を許さない裸を強制されるのは、最も恐れていた命令の一つだった。虚飾にまみれた
身体。決して人に見せられない身体。それを剥き出しにしようというのか。
低脳な掲示板の連中にその姿だけは見せたくなかった。負け組連中以下の存在だと思い知らされてしまう。
掲示板の馬鹿たちはきっと画面を見ながら笑うだろう。偉そうに他人のことを見下していたくせに、お前はもう
女として終わってるじゃないか、と。
そんな光景を想像しただけで耐えられなくなる。
しかし何よりも屈辱なのは、変態M女たちよりも尊厳と人格を軽視されていることだった。
他の掲示板のM女たちには誰もが丁寧な口調で命令しているし、内容も、ノーパンでコンビニへ行ってください、
とか、ノーブラで電車に乗ってみましょう、とか、プリクラで胸を出して撮るとかどうですか、とか、そんな軽い
命令なのに、私には無茶苦茶な命令が書かれている。珍獣だの、笑えるだの、ビッチだの、いい気味だの、
人格否定の言葉もあふれている。内容もちょっと恥ずかしい命令じゃなく、徹底的に屈辱を与えるようなもの
ばかり。
盗撮犯の陰険なやり口を思い知らされた。本人を前にしたら命令も躊躇するだろうし、命令されたほうも
反論できる。しかし匿名の掲示板は違う。文字だけだから何でも“書ける”。実行するのは現実の人間なのに。
それを実感できていないから誰もが平然と面白半分で好き勝手を書く。書ける。
盗撮犯本人が脅迫に現れず、掲示板に書き込ませたのはこういう理由だったのかもしれない。
今や、顔を隠している命令者の誰もが陰険な想像力を駆使し、どうすれば一番屈辱と羞恥を与えられるか
頭をひねり、面白い実験でもするかのように命令を書き込んでいる。
まだ5日も経っていないのにこれだけの命令が書き込まれるなんて――。
しかし、美穂には一つ一つこなしていくしかなかった。どんなに不本意でも、どんなに耐え難くても、個人情報
付きで盗撮動画が流出するよりましな命令であるかぎり。
作者さん復活おめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします。
そして命令へのレスポンス最高ですね。
美穂がこれからそれぞれの命令をどうこなしていくか楽しみです。
だいぶたまってますからね〜
やはり規制でしたか。
何はともあれ戻ってきてくださってよかった。
相変わらず文才すごいですな。
美穂が命令を消化していったらまた命令書き込みもさせていただきますね。
ガンガン書き込みたいけど
とりあえず美穂の命令実行待ち〜
美穂は大学に行くときの格好をした。弓なりの眉を描き、背中一面を豊かに覆う黒い美髪のウィッグをかぶり、
パッド入りブラで半袖シャツの胸を豊満に盛り上げ、白磁器の肌を見せつけるミニスカートをはいた。豚鼻以外は
絶世の美女に相応しい外見だった。
デジカメを三脚にセットし、全身像を撮影する。
以前なら美を切り取る最高の手段としてカメラやビデオが大好きだった。しかし、今は違う。ギャップを見て
笑いものにしたい命令者のために写真を撮っている。これほど無意味で惨めな撮影は初めてだった。命令者が
書いていた『過程見られるのも笑えるw』の一言が頭の中をグルグル回っている。
美穂は動画デジカメを洗面台に固定し、録画ボタンを押した。歯を噛み締めながらレンズを一睨みし、
クレンジングフォームで洗顔した。鮮やかに描いた眉は落ち、眉なしの顔が現れた。これだけで情けない顔だった。
美顔が自慢だったころの面影もない。
動画デジカメの前でウィッグを鷲掴みにした。腕が震え、動かなかった。本能が拒絶している。カメラの前で
惨めな頭を晒すことを。
それでも、命令を拒否したら期日が延びてしまう。5日進んで2日戻る――そんなのはごめんだった。
盗撮犯が仕掛けた馬鹿げた“ゲーム”はさっさと終わらせたい。
美穂は意を決してウィッグを取り去った。半日経っているせいで側頭部が青々としており、毛根がない前頭部から
頭頂部の肌色と醜い対比になっている。掲示板の負け組たちにこの頭を知られるのだと思うと、屈辱に身体が
わなわなと震えた。
しかしこれで終わりではない。掲示板の負け組男は本当の“素っ裸”になるよう命令している。
美穂は動画デジカメのレンズを見つめると、桃色の唇を大きく上下に開き、人差し指と親指でCの字を作って
差し入れた。歯ぐきを両側から押さえ込み、指を左右に揺らすようにしながら引っ張った。カポッと間抜けな音が
して総入れ歯が外れた。歯がない歯ぐきに唇が吸いつき、皺が寄り、顔が一気に老け込んだ。
「ああ、しゃいあく……」
思わず呟きが漏れた。
美穂はカメラのレンズから顔を背け、うなだれた。真正面を晒しているのがつらかった。
屈辱を噛み締めながら、半袖シャツを脱ぎ、ミニスカートを落とした。下着姿になると、何秒か躊躇した末、
パッド入りブラを取り外した。二つ折りにしていた乳房がこぼれ落ち、脂肪の抜かれた胸が垂れた。500円玉より
一回り大きな乳輪は焦げ茶色になっており、同じく汚れた色の乳首は肥大化して赤ん坊のおちんちんみたいに
伸びている。
純白のショーツに指をかけ、引き下ろした。痴漢冤罪を訴える脂ぎった中年オヤジと貧乳コンプレックスの
馬鹿女に引き伸ばされたビロビロのラビアがこぼれ出た。レーザー照射により、色は黒ずんでいる。
美穂は命令を思い返した。
『頭を剃るところも動画であげてもらおうかな。女のくせに自分で頭剃るとか笑えるから見せろよつるっぱげちゃんw』
こんなに馬鹿にされながら実行しなきゃならないわけ?
美穂は動画デジカメを持って浴室に入った。浴槽の縁に三脚を載せ、カメラを固定する。顔全体が写る距離と
角度に調整していると、惨めさに打ちのめされた。笑われるためだけに位置を調整している私は、何て滑稽で
情けないんだろう。
こんな写真と動画をアップしたら、立場が明確になってしまう。笑う者と笑われる者――。
美穂はシェービングクリームを手の平に出すと、両手で側頭部を挟むようにしてこすり、泡立てた。
T字カミソリを掴み、鏡を見つめる。前頭部から頭頂部まで肌色に禿げ上がり、白い泡が両側に盛り上がっている。
眉がなく、歯のない唇とその周辺に細かな皺が寄っているせいで、禿げた白髪の老人に見えた。
「ひ、ひやああ……」
思わずうめき声を上げながら視線を反らした。普段は総入れ歯とウィッグを同時に外した顔を見ないから、
こんなにひどい顔だとは想像もしていなかった。
誰もがひれ伏す女神だった私がこんな……。
屈辱とショックに動揺しながらも、鏡を見据え、T字カミソリを側頭部に当てた。毛の流れに逆らって滑らせる。
2枚刃が白いクリームを盛り上げながら通ると、肌色の道が出来た。白いクリームの山の中に、1ミリの黒い髪の
粉が混ざっている。
ジョリ、ジョリ、ジョリ――。
無人の浴室に髪を剃る音だけが篭っていた。
切れ味鋭いT字カミソリは、男の無精髭を剃るように側頭部を綺麗にしていく。
ああ、何で私がこんなことを……。
眉と歯のない顔でスキンヘッドを晒しながら黙々と毛を剃っていると、惨めでどうしようもなくなり、瞳に涙が
浮き上がってきた。男の誰もを魅了できる泣き顔も今や醜いものだった。
負け組連中に泣き顔なんて見せるものかと思えば思うほど、涙が出てきた。最悪の気分だった。
美穂は10分かけて髪を剃り終えると、シャワーで頭と涙を流した。白い泡も毛の粉も流れ落ち、浴室の蛍光灯に
キラキラ光る肌色のスキンヘッドが姿を現した。
動画デジカメを止めると、タオルで頭の水滴を拭ってからリビングに戻った。全身像が写る場所にデジカメを
置き、タイマーモードにしてソファの前に立つ。直立不動の体勢で両拳を震わせながら、レンズを睨みつける。
シャッター音がした。
問題なく撮れたか確認すると、スキンヘッドの眉なし歯なし豚鼻女が惨めな身体を晒して写っていた。
乳房はビロンッと垂れ、肥大化した焦げ茶色の乳首は絨毯を指し、パイパンの恥丘の奥には、どす黒く色素が
沈着したラビアが顔を覗かせている。自毛の艶やかなウィッグと総入れ歯と衣服で完璧に飾ったときの写真と
比べたら、完全な別人だった。豚鼻以外は絶世の美女の条件を満たしている写真と最低の身体の写真。虚飾を
剥ぎ取られた身体は、女として終わっていた。これをネットに載せろというの?
しかし、命令は絶対だった。美穂は目線とモザイクを入れる処理をし、写真と動画をアップした。
コンプレックスと弱みを見られる負い目のせいで、強気なコメントは何も書き込めなかった。
乙です!
すごいな・・・
あの命令をこれだけ屈辱的かつ興奮できる表現に仕上げるなんて
作者氏はバケモノか!?
これからも期待しちゃっていいですかね
見せるために、ウィッグとか入れ歯とかこれまで自分を飾っていたものを外していく様子がエロくて最高!
特に剃髪シーン、こういうシチュエーションだと屈辱きわまれりで、妙にエロいね。
ライトで青光りとかしちゃってるんだろうな〜
『ヒャッハ〜なんじゃこりゃ!?
女として終わってるって言うか人間として終わってるだろこれ!?
珍獣っていうか妖怪っていうか?
何が元美人だよギャッハハハ!!
元がどうでも今バケモンじゃどうしようもねえだろ。
元美人とかも誰が信じるんですかっつーレベルだねこれw
特に頭剃ってるの超笑えるんですけどwww
一応女なんだよね?
笑える頭に自分で磨きかけてどうするよwww
でも剃らないともっと笑えるからなwww』
『折角だから、俺も命令をだそうか。
まぁ、決して難しい指令じゃないから安心しろ
お前、元美人だか知らねーけど、どうやらつるっぱげらしいな、
そのハゲ頭にトイレのラバーキャップを付けて撮影しろ。
もちろん“何も”付けてないすっぴんでだ
あと衣装だが、銀色全身タイツに胸と股間に切り込みを入れて、
胸と性器が見える様に撮影しろ。
一応撮影と言っても、画像と動画どっちもだからな』
258 :
休養格闘家:2010/01/12(火) 03:12:50 ID:FZAgQFmg0
『よお珍獣。笑える姿どうも。
ああしてみると想像以上にひっでえ姿だなwざまあねえぜ。
でもここでの態度から見るに、あんな状態でもまだ自信満々で高飛車なのは治ってねえみたいだな。
もしかして、ネットの連中は見えないところで吠えてるだけとか
私は男なんかより強いから直接会ったらボコボコにしてやりたいとか思ってねえか?
所詮女のくせに、底辺クラスに弱い男ばっかたまたま虐めてっから勘違いしてんなよw
ま、とにかく。だとしたら朗報やるよ。
直接、憎い命令者……つまりは俺だな。この俺を殴るチャンスをやろう。
今度の休日、時間は夜の10時くらいがいいかな。場所は○×倉庫に一人で来い。
そこに俺がいる。ヴァーリトゥードルールで勝負してやるよ。
ネットでイライラする相手を直接殴れるなんて滅多に無いぜ?
そこでもし俺に勝てれば、この前出した命令は取り消しにしてやるよ。
悪い話じゃねえだろう?
ま、俺は女相手でも戦う以上は平等にボコボコにさせてもらうけどなw
そうそう、賢いらしいからわかってるとは思うが一応言っておくが、警察とかに知らせたら厄介な事になるぜ。
お前の笑える動画が全世界に半永久的にバラまかれるだけだからな。
俺はどうせいつ死んでもいいと思ってるんだから捕まっても構わないんで、お前が困るだけだから。
それと、これを見ている他の皆さんもよかったら観客としてどうぞ。
良かったらこの試合を撮影してくれる人もいるといいっすねー。
ああ、女を思いっきりボコる機会なんて滅多にないからな。それもこんなムカつく女、楽しみでたまらねえぜ。
ただでさえ終わってる顔をさらに何倍ものでかさに腫れあがらせてやろうかな。
マウントからボコボコにしてやるのもいいねえ。』
259 :
休養格闘家:2010/01/12(火) 03:20:35 ID:FZAgQFmg0
ちなみに休養格闘家のデータ。
身長は165cmと低めですが鍛え抜かれた肉体で体重はほぼ筋肉で88kgという豆タンク型。
イケメンではないですが意外に精悍な顔をしています。
プロとかではないですが総合格闘技や柔術のアマ大会で何度かの優勝歴あり。
現在、色々あり人生に自暴自棄になっています。
よって怖れ知らず。
美穂の顔が原型とどめなくなって、失禁・脱糞するまで痛めつけたいですねw
糞尿にまみれ顔もボコボコになった姿で土下座して、もうやめてとか女だてらにすいませんでしたとか言わせて
美穂の最後の自信をズタボロにさせたいです。
作者です。
248様、249様、254様、255様、ありがとうございます。
こういう小説の更新は早いほうがいいと思い、本気で小説を書いていた昔に比べて今は10倍速くらいで
書いているので、正直、文章の質はかなり荒いです。;
そういう自覚があるので、投下前はいつも、果たしてこんな程度でいいんだろうか、とドキドキしています。
なのでそんなふうに言ってもらえると自信を持てます。^^
250様、命令があれば遠慮せずガンガン書き込んでやってください。作者としては、
命令の数が多いほうが構成しやすいですし、「これだけリクエストがあるんだから頑張って書こう」と意欲も
出てきますから。^^
259様、次の休日が物語の転機の一つになりそうですね。
他の方も、次の休日の展開について意見があればどうぞよろしくお願いします。
全裸を強制されると、1枚1枚花びらを毟られていく薔薇の気分になる。茎だけにされる惨めさ……。
美穂は、腰まで流れる豊かな黒髪のウィッグをかぶり、総入れ歯を入れ、眉を描いていた。絨毯には
ペットショップで購入した赤色の首輪が置かれている。
次の命令をこなさなくてはいけない。
首輪を取り上げ、革の赤いベルトを色白の細い首にあてがう。屈辱に震えながら首を一周させ、金具をカチッと
留めた瞬間、人間としての尊厳が地に堕ちた気がした。命令者や盗撮犯に逆らう気概を根こそぎ奪われたような
無力感。自ら奴隷に成り下がることを認めてしまったようだった。
美穂は眉間に皺を寄せ、眉を八の字にしながらデジカメをセットした。レンズの前で絨毯に正座する。赤い
首輪から伸びる黒色のリードは、ナマコのようになっている乳房の真ん中を垂れ、腹の前を通って白磁器のような
太ももの上から絨毯に落ちている。
上体を少し傾け、両手を膝の前についた。顔を上げ、『お座り』のポーズをとった瞬間、シャッター音が響いた。
次は『お手』だった。『お座り』の姿勢で左手を膝の前に置いたまま右手を持ち上げた。拳を軽く握るようにし、
肘を曲げたまま、空想の飼い主の手に載せる。
カシャッ。シャッター音が惨めな姿を記録に残す。
命令の一つ一つが人間としての誇りを奪っていく。
美穂は命令者を憎みながら、3つ目の写真に取り掛かった。
一番実行したくないポーズ――。
美穂は和式便器に跨るような格好で腰を落とした。バランスをとるために両膝を開いているせいで、
真正面からはどす黒いビラビラのラビアと黒い肛門が丸見えになっている。そのままの姿勢で両手を持ち上げ、
肘を曲げ、拳を軽く握り、手首を曲げた。『おちんちん』のポーズだった。赤い首輪から伸びる黒いリードは、
垂れ乳の横を流れ、身体の側面から右太ももを通って絨毯に垂れている。顎を落とし、大口を開けて真っ赤な舌を
伸ばし、犬が「はっはっ」と喘ぐ顔を作った瞬間、シャッター音が鳴った。
ポーズを解き、自嘲するように自分を鼻で笑う。
命令されてそれを忠実に守っている自分に嫌気が差す。女神だった私が犬のまねをしなきゃいけないなんて。
天から地に堕ちた屈辱に身が震える。
デジカメを取り上げ、写真を確認した。最後の写真は悲惨だった。ウィッグと総入れ歯で最低限の身なりは
保っているものの、開けた口から舌を伸ばしているせいで馬鹿面晒した豚鼻女になっている。『おちんちん』を
しているブルドッグにも見える。肛門の周りには3ミリ程度の無駄毛が生えている。
ああ、最悪。みっともない。剃っておけばよかった。
雅代たちに無駄毛の処理禁止を命じられてから剃っていなかった。従うか逆らうか悩んでいるうちに盗撮犯から
盗撮動画が届き、ショックのあまりどうするか忘れてしまっていた。掲示板で命じられたのは腋毛の処理禁止
だけだから、鼻毛や尻の毛は、明日入浴したときに処理してしまおう。
雅代たちの命令なんて絶対に聞くものか。
美穂は三脚を寝室にセットすると、動画デジカメの位置と高さを調節した。
次の命令は『つるつる頭撫でてオナニーするところ動画でアップしろ』だった。雅代たちの命令は拒否できても、
掲示板に書かれた命令は拒否できない。握られている弱みの大きさが違いすぎる。
美穂の格好は全裸だった。眉を描き、総入れ歯はしている。ベッドに仰向けに寝転ぶと、両手を股間に伸ばした。
性器を刺激して気分を盛り上げようとしたものの、トラウマがよみがえり、指は動かなかった。全ては、盗撮犯に
頭を撫でながらオナニーにふける場面を隠し撮りされたからはじまった。隠しカメラを外さないように脅迫されて
いるせいで今も部屋中にピンホールカメラが設置されている。寝室にはベッドを囲むように4台。
再びオナニーをして盗撮犯に笑われなきゃいけないの?
美穂は自嘲した。だから何? どうせ盗撮犯には全てを見られている。掲示板の命令を実行して犬のポーズを
とるところも見られているじゃない。
覚悟を決めてビラビラのラビアを両手の中指で何度も弾くようにしながら刺激した。快感が昇ってこない。
気持ちが冷めていて興奮が何もない。掲示板の連中に馬鹿にされるためだけに自慰をしていると思うと、
指を秘部に差し入れて振動させても駄目だった。
明かりに反射するスキンヘッドを撫でてみる。快楽の神経が遮断されているように何も感じない。どうしよう。
命令を実行できなかったらどうなる? 期日が2日延びたらそれだけ悪夢は長引くし、命令がエスカレートしたら
延長を何度も続けるはめになる。
美穂は唇を噛むと、頭を撫でさすりながら、中指を膣に抜き差しした。鼻から甘い息を抜くように、「ふぅん、
うぅん、ふうぅ」と息を漏らす。目を半開きにし、桜色の唇から喘ぎ声を出す。
「あああんっ、あん……」
演技するしか方法が思いつかなかった。
気分は冬の空気のように冷え冷えとしていて、頭は冷静なのに馬鹿みたいに感じているふりをしていると、
自分自身の間抜けな姿が客観的にイメージできてしまう。惨めだった。ベッドで大の字になり、開いた股間に
右手を伸ばし、ツルツルの頭を左手で撫でながら、喘いでいる女――。
「はあぅ……ううぅん……」
私、何してるんだろう――。
「き、気持ちいい……」
自然に漏れる言葉ではなく、意識して頭で考えて口にしている言葉。
美穂は頭を撫でる回数を増やし、膣を刺激する指の動きを速めた。快楽をむさぼろうとすればするほど、頭は
逆に冷静になっていく。
気分が全く乗らないのにするオナニーほど屈辱的なものはなかった。全然濡れてこない。気持ちよくない。
ただ惨めなだけだった。
美穂は10分ほど頭を撫でながら性器を愛撫してから、腰と股間を震わせるように痙攣のまねをした。
「ううっ……イ、イクッ……」
大の字になり、全身の力を抜く。
何が悲しくてこんな滑稽なまねをしなきゃいけないわけ?
美穂は上半身を起こすと、這うようにベッドから降り、動画デジカメの録画を停止した。デスクトップ型
パソコンを起動させ、映像を取り込んで目にモザイク処理をする。映像の中の美穂は、白いシーツのベッドで
変わり果てた裸身を身悶えさせ、蛍光灯を反射して輝く頭を撫でていた。豚鼻で髪がない女が見せる快感の
表情は、目を背けたくなるほど不細工だった。真正面を向いた大きな鼻孔から鼻息が漏れている。
久恵の目論みは見事に成功していた。絶世の美女も鼻をフックで吊り上げただけで美貌が台無しになる。
そんな鼻に整形されたせいで滑稽極まりない顔になっている。しかも今は髪もない。
映像を閉じたかったが、モザイク処理のためには直視するしかない。
美穂は時間をかけて作業を終えると、『SM調教掲示板』にアクセスした。新しい書き込みがあった。
目を通すにつれ、頬がピクピクと引き攣った。
珍獣、妖怪、バケモン――。
ブス扱いされるだけでも耐え難いのに、人間以下の扱いをされている。
そこらじゅうにウジャウジャいる不細工な連中を見下してきた私が、そんな奴らよりも醜いというの?
美穂は怒りのあまり、ペン立てを掴んで投げ飛ばした。それは壁に激突し、シャーペンやマジックが飛び散り、
絨毯に広がった。笑われるのが一番屈辱的だった。輝く女神の人生を20年間歩んで来たから、他人から見下されて
笑われる経験をしたことがない。久恵に敗北し、変わり果てた姿に整形されるまでは。
格下だと思っている相手にゲラゲラ笑われるほど悔しいものはない。
元美人として――いや、人間としての尊厳とプライドを守ろうとするたび、私の全てを否定する嘲笑と罵声で
打ち砕かれ、踏みにじられる。這いつくばってその破片を掻き集めて修復を試みても、惨めな身体を笑われ、再び
ボロボロにされる。
人を食ったような『w』の文字が頭の中をグルグル回っていた。徹底的に馬鹿にされているのが分かる。美穂は
画面を睨みつけながら、怒りで顔を真っ赤にした。
しかし一番胸に突き刺さったのは、そんな嘲笑の中にある『一応女なんだよね?』という一言だった。『w』が
ついていないだけに、本気の質問のように見える。素で性別を確認されたように見える。
絶世の美女だった私が性別を問われるような身体に落ちぶれるなんて……。
歯噛みしながら画面をスクロールさせる。新しい命令が増えていた。
ラバーキャップを頭につけて撮影しろ? “何も”つけず、穴あきの全身タイツ姿で?
信じられないほど屈辱的な命令だった。もう間違いない。命令者たちは『屈辱』を重視して命令を書いている。
私に何の恨みがあるっていうのよ!
毅然とした態度で書き込みをしても、連中は1分ほど使ってキーボードを打つだけで私の自尊心を踏みにじれる。
それが悔しかった。割に合わない。
命令を実行した感想を書く奴隷女たちと違い、モザイクで目を隠しているとはいえ、命令に従った様子を動画で
投稿しているせいで注目を浴びていた。文字だけの女たちより、実際に命令を実行する様を見られる女のほうが
リアルでいいのだろう。
匿名の掲示板は男側のプライバシーが守られる。だから、とりあえず書いてみてやれ、と誰もが気軽に命令を
書き込む。書くのはただだし、時間もかからないし、何一つ損がないから。そして私は、そんな気軽に書かれた
屈辱の命令に身体を張って従わなければいけない。
美穂は犬のまねをした写真3枚とオナニー動画一つを『SM調教掲示板』にアップすると、命令者全員に向けて
文章を叩きつけた。
『命令するなら、せめて他の部屋の女たちみたいに“少し恥ずかしい”類のものにしておきなさいよ。何で
徹底的に“屈辱”を与えようとするわけ? 私に何の恨みがあるの? 他の部屋の女と扱いが違いすぎるじゃない』
『言い忘れたが動画にはラバーキャップを取るまでを収録しろ
しっかりと跡がつく様に付けろよ
ただ付けても面白くないから、付けながらダンスしろ』
『休養格闘家さんマジぱねえ!徹底的にこのクソメス豚を屠殺してやってくださいwww
俺も観にいきますよ。すっげえ楽しみwww
最近の女どもって男が下手に出てるので調子こいて、男なんてたいした事ねえって思ってるからな。
ここらで男の強さと怖さを思う存分思い知らせてやってほしいね。
久々にこりゃ痛快だわwww
んで、美穂ブタちゃん!いやあ、笑える画像&動画うpご苦労様www
すげえブサイクな犬wwwこないだ近所で見た野良犬よりずっとブサイクっていうwww
シワパイべろんべろんしとるし、歯がない口で舌出してハッハッってすんげえツラwww
ケツ毛も伸びててきったねえwww肛門黒ッ!!!
でも面白いから、ケツ毛そのまま伸ばとけ。剃るの禁止な。
女の癖に笑えるwwwと思ったけど、もうこうなると女じゃねえな、メスだwww
つうか人間?いや、マジで素で、いくら命令されたからってここまでやる?
プライドってもんのカケラでもあったらさあ。
超恥ずかしくねえの?頭も顔も体もおかしいんだなwww
で、あんな醜態見せといてなんであんな威勢いいわけww説得力なさすぎだろwww
もっとおとなしい命令にしてほしきゃそれなりの態度とれよブサイク馬鹿女www
あんな姿までホイホイ見せておいてそのカキコはねえわwww
そうそう、あとオナニー演技してんなよwwwすぐわかんだよこの大根役者www
マジで感じてるヴァージョンうpやり直しな!
今度、演技して適当なやっつけ仕事でうpしたらヤバ〜イ命令出しちゃうよ〜んwww
いいな、ちゃんとやれよ。いい加減自分の立場ってもんわかれよ、いくらアタマ悪くてもさあ。
犬の方がもうちょっと学習能力あるわwwwウヒャヒャヒャwww
あ〜、ツルツルハゲ頭ピッシャピッシャ叩きながら笑いてえ〜www
今度の休日、ボコボコになって動けなくなったらやってやろwww』
『あ、鼻毛も伸ばしときなw処理禁止ねwww
デッカイ鼻の穴から丸見えでおもしれ〜www
元美人とかいっても、こうなっちゃもう完全に終わりだなwww
本当は自分でもわかってるんだろ?』
いいねえ。
男の顔面なんか叩き割ってやると勘違いしてる最後の自信を完全にぶっこわしてほしい!
休養格闘家氏の完全勝利は当然として、徹底的にボコってほしい!
男の強さを見せてやれ!
270 :
かず:2010/01/13(水) 12:19:15 ID:41Xfw5n60
更新お疲れ様です
そろそろ足の痛めつけきますか?
『休養格闘家さんいいねえ。
どうせあの生意気メスはネットの住人なんて影で隠れてなきゃ何もできない、
直接出てこいとでも思ってるんだろ。
直接会ってそれをボコボコにして根っこから打ち砕くって新しいねw
超期待してますぞ!』
最近、「女は強い」とか調子こいてるのが多いので
そういうものを全部ぶっこわしてくれるような展開期待。
この素晴らしい文章力で、自分の望む展開が再現されるってのは最高かと思う。
マウントからボッコボコに殴りまくって無様に命乞いさせてほしいね!
顔もボコボコに腫らさせて変形させてやって。
ただでさえブタ鼻だけど殴り潰してさらに醜く、入れ歯も破壊してやってほしいw
命乞いさせられたあげく許してもらえず、痛みと恐怖と無力感に泣き叫びながら
失神・失禁で完全敗北する美穂希望!
いつも、楽しく読ませていただいております。ただ、注文させていただいてもよろしいでしょうか?
リアルに想像してしまうと、美穂はあまりにもブサイクにいじり過ぎたために、オンナとして見られないし、責めたいと思うよりも、俺の視界に入ってくるなブスという感じになっており、そんな美穂を対象に執着して責め続けるのは、さすがにキツいです。
お願いです。美穂の顔立ちだけは治してやってください。体の醜さはそのままにして、そのギャップで男が精神的な優位に立って責めるというのは非常に楽しいと思います。
例えば素晴らしい技術を持った美容外科医を登場させて、美穂の希望を聞いて顔立ちだけはキレイにしてあげるのだが、こいつもかなりの変態マニアで、体は醜いままの方が楽しいと思っており、美穂の懇願に応じず、逆に無茶ぶりを吹っかけてくるというのはどうでしょう?
その要求に美穂が悪魔に身を売るような状況になっていけば最高かも。
慌てなさんな。
作者さんは美穂の顔と髪は一旦復活させると何度もおっしゃってるんだから。
ただ、タイミング的に休養格闘家さんに顔面をグッチャグッチャに破壊されてからっていうのは確かにぴったりかもしれないね。
そういえばまた大規模な規制が行なわれたらしいけど作者さんは大丈夫だろうか…
無反応になったら規制と思ってということだけど
278 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 12:58:39 ID:SbtEAQ8N0
規制かな?
神よ、我々はいつまでもあなたを待ちますぞ。
作者です。
PINK板規制に巻き込まれ、解除されたと思ったら2重の全サーバー規制に巻き込まれ……。
踏んだり蹴ったりでした。すみません。;
命令を一つこなした後(←ここはもう書いてあります)に大学でワンエピソード→倉庫で格闘→
整形で美を取り戻す、という展開でどうでしょう?
作者さんお帰りなさい。
私の思いつきなんですが、美穂を転落させるきっかけをつくった由起子が、美しくなっていると言うのはどうでしょう?しかも、改造前の美穂に似ている!
由起子を整形した天才整形医を突き止めるが、そこで知らされる衝撃の事実!
そして、美貌を取り戻すために出された悪魔の条件!
高額の賠償金も命じられ、いよいよ美穂は美を取り戻す目的とプライドの究極の選択をいく度も迫られながら、一つずつ取り返していく…。
そんな展開はいかがでしょう!
一気に美人に戻すのではなく、一つずつの方が面白いかもしれません。
まぁ、私の勝手な希望ですので、読者の皆さんの意見と作者さんの意見を尊重します。でも参考にしていただけると嬉しいです。
毎日優雅に暮らしていた私が、掲示板に書かれた命令をこなすだけの日々を送ることになるなんて……。
書き込みの一文が脳内を占めていた。
『笑える頭に自分で磨きかけてどうするよ』
自分で剃るように命令したくせに……。
実行した結果を笑われるのは腹立たしく、悔しかった。しかも、惨めな身体を見た命令者は図に乗り、再び
虚飾を剥ぎ取った身体でもっと屈辱的な命令に従うよう命じてきた。私が逆らえないのをいいことに。
美穂は苛立ちながら『SM調教掲示板』を見た。『休養格闘家』の書き込みがある。
私がプロのリングで女子チャンピオンだったことを知らない男は、馬鹿な書き込みをしている。私は手出し
出来ない軟弱男の鼻をへし折ってきたわけじゃない。磨き上げた技を用い、殴りかかってきた男たちを地に
這いつくばらせてきたのよ。
次の休日は明後日にやってくる。男が本当に姿を現したら、モザイク目線なしの顔を見られることになるが、
問題はない。『休養格闘家』を叩きのめし、見物に現れた馬鹿たちも叩きのめせばいい。全治数ヶ月の怪我を
負えば、連中は自らの身の程を知り、二度と命令を書き込もうなんて思わなくなるだろう。もっとも入院していたら
キーボードを打つこともできないだろうけど。
順調に事が運べば、明後日に全てが終わる。命令を書き込む連中を叩き潰せば、掲示板はもう機能しない。
残りの25日は命令に従う必要もなくなる。
美穂は希望を見出すと、返信を書き込んだ。
『私が警察に知らせるわけないでしょ。何馬鹿なこと言ってんの? 私は傷害罪で捕まりたくないから。あなたも
負けた上に警察に駆け込むなんて恥の上塗りはやめてよね。
屠殺されるのはあんたらのほうよ、馬鹿! “格闘家”なんてハンドルネームつけてる奴なんて、所詮ネット弁慶
でしょ。いきがった書き込みをするから後に引けなくなって、今頃どうしようか暗い部屋で震えてるんでしょ。
私はね、格闘技経験者なのよ。本当に姿を見せたら叩きのめしてやるから。
ふんっ、ネットでしか吠えられない負け組連中が何言ってるの?
私は30人以上の男の鼻をへし折ってきたし、15人以上の男の急所を潰してきた。同じ目に遭わせてやるから。
覚悟しないさいよ。私が勝ったらあんたたちのお尻の穴にゆで卵を詰め込んで蹴飛ばしてやるから』
掲示板の書き込みを読み進めると、動画と写真を見た男に大笑いされていた。
美穂ブタちゃん――。
私をブタ扱いするなんて許せない。一流のレースクイーンが負けを認めるほどのスタイルと美貌を持っていた私が
ブタ? 他人に浴びせても決して浴びせられることはなかった悪口。それを浴びせられるなんて……。
しかも野良犬以下だと笑われている。
女の裸に首輪……SM趣味のある男なら誰もが興奮するシチュエーションなのに、興奮されるどころか、
馬鹿にされ、笑われていることが屈辱的だった。顔も胸も肛門も笑われている。他の掲示板に書き込んでいる
M女以下ってわけ?
しかも私が嫌いな低俗な書き方――美穂はギャル文字やネットの下品な文字が嫌いだった。虫唾が走る。
特に『w』の文字は大嫌いだった。どうしても、他人を見下した下品な笑いのイメージがある。いじめられっ子の
滑稽な動きを見ていじめっ子たちが笑っているときのような笑い方だ。
『面白いから、ケツ毛そのまま伸ばしとけ。剃るの禁止な』
冗談でしょ。腋毛だけじゃなく、お尻の毛も剃るの禁止? 理由は面白いから――ただそれだけのために、
私の身体を醜くしようっていうの? 鼻や胸や性器を醜く整形された以上、他の部分だけでも美貌を磨いて
最低限の輝きを保ちたいのに。
みっともないから明日剃ろうと思った矢先の禁止令。最悪の気分だった。
『マジで素で、いくら命令されたからってここまでやる?』
な、何て言い草よ。私が従うことを望んでいるんでしょ。命令しておきながら従ったら引くなんて。
命令を実行するときは、必死で非現実世界の出来事だと割り切っている。命令者が望む行為だと自分に
言い聞かせ、あんたの希望と欲望に従ってやっているのよ、という気持ちで実行している。だからこそ、自尊心を
保っていられる。でも、『いくら命令されたからってここまでやる?』とどん引きしているような台詞を返されると、
いやでも現実に叩き戻されてしまう。私の行為は異常で変態だ、と思い知らされてしまう。
笑われるより何十倍も惨めな気持ちになる。『変顔』を要求されたアイドルが思い切り美貌を崩して凄まじい顔を
したら、誰も笑わず、白けた空気が流れた場面に似ている。笑われたほうがどれだけ救われるか。
美穂は歯軋りした。
それに、ホイホイ見せているわけないじゃない。私がどれだけ屈辱を噛み締めながら実行しているか。
頭も顔も身体もおかしい……ブサイク……馬鹿……犬のほうが学習能力ある……。
生まれてから一度も浴びせられたことがない言葉の数々。試合に負けた罰ゲームで醜く整形されるまでは
誰からも言われたことがない。類稀な美貌とスタイルと運動神経と頭脳を併せ持ち、輝く女神の人生を
生きてきた私がこんな底辺の負け組連中に見下されるなんて。
文章を読み進めるうちに羞恥で顔が赤くなった。オナニーの演技が見抜かれている。感じたふりだと
バレるのは途轍もなく恥ずかしかった。しかも駄目だしされ、やり直しを命じられた。こんな屈辱的な言葉を
浴びせられる状況で気分が乗るわけないのに……。
『あ、鼻毛も伸ばしときなw処理禁止ねwww』
「はあ?」
思わず声が漏れた。ば、馬鹿言わないでよ。
雅代たちに命じられ、これだけは拒否しようと決めていたのに、掲示板で処理を禁止されるなんて思わなかった。
『元美人とかいっても、こうなっちゃもう完全に終わりだなwww 本当は自分でもわかってるんだろ?』
「お、終わってないわよ!」
パソコン画面に向かって反論した。
やめてよ、ふざけたことを言うのは! 人の前で服を脱げない身体にされた現実を忘れようとしているのに……。
わ、私はまだ勝ち組の側の人間なんだから!
残されたちっぽけな自信まで奪うようなことを言わないで!
美穂は動画デジカメの録画ボタンを押すと、自分自身の姿を寝室の鏡に映した。
ウィッグを外しているので頭は蛍光灯に輝き、眉は洗い落とされ、歯のない唇は細かい皺だらけだった。
銀色の全身タイツが第2の皮膚のように身体に張りついている。底辺のお笑い芸人が馬鹿面晒してするような
格好だった。一流のファッションに身を包み、自信満々で街を闊歩していたころからは想像もできない姿だ。
命令を実行するため、愛車のポルシェを走らせて探してきた全身タイツだった。
股間部の生地を摘んで引っ張り、ハサミでチョキンッと切った。指を離すと、生地がパチンッと肌に吸いついた。
円形にくり貫かれた銀のタイツの穴から、どす黒いラビアがビロロンと飛び出している。
へばりついた2匹のナマコ状態の乳房は、銀色の全身タイツに圧迫され、しわしわの形を浮き上がらせている。
同じくつまんでハサミで切ると、丸い穴から乳房がこぼれ落ちた。焦げ茶色の乳首は相変わらず肥大して
絨毯を指している。
顔と頭と乳房と性器以外の部分を銀色のペンキで塗ったような状態になっていた。形のいいヘソの穴もくっきり
浮き上がっており、ツンと上がったヒップや伸びやかな脚が強調されている。しかしスキンヘッドで眉がないため、
銀色の宇宙人のコスプレをしている痛い女のようだ。
いや、垂れた乳房とビロビロの陰唇以外に“女”の要素がない。
何て間抜けな格好なの。
美穂は動画デジカメのレンズを一睨みすると、トイレのラバーキャップ――通称スッポンを持ってきた。逆さまに
したお椀型の黒いゴムの底から緑色の柄が伸びている。
黒いゴムの部分を見つめ、自分の愚かさに嫌気が差した。全身タイツを買いにいったついでに新品の
ラバーキャップも買っておくべきだった。思い返せば、訪ねてきた取り巻きの百合がトイレを詰まらせたとき、
これを使って詰まりを直した。洋式便器に突っ込んだ。
一度使用したものを頭につけるわけ?
しかし買いに行く時間はもうない。
美穂は諦め、ラバーキャップに洗剤をつけて何度も何度も洗った。黒いゴムが溶けるのではないかと思うほど
執拗に洗い、雑菌を殺した。
寝室に戻り、動画デジカメの前に立つ。鏡には、スキンヘッドで穴あき銀タイツ姿の豚鼻女がトイレの
ラバーキャップを持って映っている。同じ姿がデジカメに撮影されているのだと思うと、逃げ出したくなった。
しかし命令はこれからだった。
美穂は屈辱に打ち震えながら、ゴムの部分を両手で挟むように持ち、頭の真上に移動させた。頬は痙攣し、
心臓は締めつけられた。
トイレのスッポンをツルツルの頭につける女――世界中捜してもそんな変態は見当たらないだろう。
思い切ってゴムの部分を下ろした。生暖かい感触が無毛の頭に触れた。柄の根元を持ち、黒いゴムの部分を
スキンヘッドに押しつけるようにする。空気がお椀の中に凝縮されるのが感触で分かった。それでも力を入れて
柄を真下に押さえつけた。
恐る恐る手を離す。スキンヘッドに黒いゴムのお椀が吸いつき、緑色の柄が天井に伸びている。滑稽なちょんまげ
にも見えた。
動画デジカメに全身が写るように移動し、レンズを睨みつける。
「ほれでまんぞふ?」
思わず苛立ちの言葉を発した。声は赤ん坊と老婆を混ぜたような舌足らずだった。
恥ずかしすぎて惨めすぎてレンズを見つめていられず、うなだれると、ゴムから真上に伸びる柄がお辞儀する
ように傾いた。他人が見たら爆笑する光景でも、当事者には屈辱的なだけだった。
あまりの姿に瞳が潤む。誰もいない部屋で一人、乳房と性器を放り出した穴あきの全身タイツを着て、ハゲ頭に
トイレのラバーキャップを吸いつかせているのは、ひどく惨めだった。
美穂は拳を握り締めると、心を殺し、頭の中でリズムをとりはじめた。海外のクラブで華になっていたころの
ダンスをはじめた。両手を『L』字にして軽く広げ、ヒップラインを綺麗に見せながら腰を緩やかに振る。膝の力を
抜いて上半身を揺すると、垂れた乳房がブランブランと揺れた。
空想上の髪を掻き上げる仕草をし、セクシーな身体使いを披露する。頭上のラバーキャップが前後左右に
メトロノームのように揺れた。ビヨンッ、ビヨンッ、ビヨンッ、と音がする。
色気のあるダンスと穴あき銀タイツのギャップが滑稽極まりなかった。
上半身を前に倒すと、乳房が完全に垂れた。胸から2匹の肌色のナマコがぶら下がっている状態になる。
焦げ茶色の巨大乳輪と肥大化乳首が絨毯を指したまま踊る。
美穂は膝立ちになって太ももを開き、どす黒く伸びたラビアを見せながら、円を描くようにスキンヘッドの頭を
回した。普通なら長く艶やかな黒髪が舞うシーンだが、代わりにラバーキャップの柄が旋回した。
立ち上がり、両手を広げて回転する。遠心力で乳房が垂直に浮き上がる。
踊りながら鏡を横目で見ると、銀の穴あき全身タイツを着てスキンヘッドにラバーキャップを付けた変態女が
勘違いダンスを見せていた。ラテンのノリで腰を回し、歌姫さながらの仕草を真似る。
か、格好悪すぎる……。
消え入りたい気分だった。音のない部屋で1人、踊り狂っている女――。
美穂はそれでも踊った。両肘を持ち上げ、腰を振り、乳房を揺らし、両腕を天井に向かって高々と上げる。
壁に両手をつき、動画デジカメのレンズに向かって銀色の尻を突き出し、流線型のヒップを振った。尻文字で
『の』の字を描くようにする。
クラブで男たちの視線を一身に集めたダンスも、銀の穴あき全身タイツから垂れ乳やどす黒いラビアを見せながら
歯なしのスキンヘッド姿で踊ると、ただみっともないだけだった。
腕を振り、腰を落とし、尻を振る。踊るたびにラバーキャップの柄がビヨンビヨンと揺れた。
美穂は10分ほど踊り続けたすえ、横に突き出した腰に左手を当て、ウエストをひねって決めポーズをとった。
ハードな運動で額には汗の玉が光っている。息は乱れ、口から「はあ、はあ」と喘ぎ声が出る。
呼吸を整えながら、ラバーキャップを外そうと柄を引っ張り上げた。
「痛たたたっ……」
思わず声が漏れた。真空状態で吸いついたラバーキャップは外れず、頭蓋骨を引っぺがすようにスキンヘッドの
頭を鷲掴みにしている。
万歳するように両手を頭上に掲げ、柄を掴んで引っ張り上げる。芸人がかぶったパンストを自分で脱ごうと
している格好で必死になった。皮膚が引っ張られ、目尻が持ち上がる。鏡に映る顔はますます醜くなった。
ハゲ頭と豚鼻だけでも悲惨なのに、アーモンド型の魅惑的な目まで細くなって吊り上がっている。
外れてよ、もう!
美穂は顔を歪めながらもがいた。
「ふぎぎぎぎっ……」
汗みずくになりながらスッポンを外そうと四苦八苦した。
5分ばかり格闘を続けたとき、キュポンッと空気の抜ける音が響き、黒いお椀型のゴムが外れた。美穂は
勢いあまって尻餅をついた。
「はあ、はあ……はあ……」
銀色の全身タイツに包まれた肩を上下させ、垂れ乳を揺らしながら息を喘がせた。
は、外れた――?
鏡を見ると、肌色のスキンヘッドにラバーキャップのゴムの跡がついていた。巨大な目玉みたいに赤色の跡が
くっきりと刻み込まれている。
美穂は情けなさに拳を握りながら立ち上がり、動画デジカメの録画を止めた。
ラバーキャップを付けて踊る動画にモザイク目線を入れ、『SM調教掲示板』にアップした。
長い一日が――5日目が終わった。
休日。汽笛が鳴り渡る港には、倉庫が建ち並んでいた。潮風の匂いに混ざり、錆びた鉄の悪臭が漂っている。
美穂は約束の倉庫を見つけ出すと、鉄製の扉をスライドさせて開け、中に入った。薄暗い倉庫内を裸電球が
ほのかに照らしている。周囲には木材が散らばっていたり、木製の箱が積んであったり、車のタイヤが転がって
いたりした。何ヶ月も放置されているようだった。
悠然と奥に進むと、人影を発見した。
黒いTシャツを着た男が立っている。身長はヒールを脱ぎ捨てた美穂より数センチ低い。しかし、筋肉が
シャツを盛り上げている。体重は90キロ近くあるだろう。素人とはいえ、捕まったら苦労するかもしれない。
男の精悍な顔立ちには自信が見え隠れしている。
馬鹿な奴。根拠のない自信はすぐに引っぺがしてやる。男ってだけで女に勝てると思ったら大間違いよ。私は
気に食わない男を何十人も病院送りにしてきたんだから。
美穂は両手を腰に当てて顎を上げ、男を見下ろすようにした。美穂の格好は、黄色いタンクトップに白の
ミニスカートだった。パッド入りのブラで胸の盛り上がりを強調し、自慢の美脚を見せびらかしている。黒髪は
腰まで流れ落ちている。豚鼻以外は完璧な美貌を引っさげていた。
背後で倉庫の扉が閉まる音がした。しかし美穂は動じなかった。
倉庫の端には数人の人影が並んでいる。見学に来た『SM調教掲示板』の連中だろう。馬鹿な奴らね。
『休養格闘家』が二目と見られない顔で瀕死になったら、次は自分たちの番だとも知らないで。
作者です。
281様。
一つずつ美を取り戻していく、というのは名案かもしれません。
敗北後、最初に治るのは鼻と歯(インプラントで固定)でしょうか。
美穂の倉庫での格闘と、その後の展開をどうするか、みなさんの意見を待ってます。
291 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 14:22:35 ID:adTR4fJq0
281さんの
設定でいろいろ妄想が膨らみます。
特に由起子が改造前の美穂に似てる美人になってるなんて
倒錯的でツボです。
美穂は一つずつ美しさは取り戻すが
徐々に”今の由起子”に似てきて周りにはバッタモノ扱いされ
辱められる展開なんてどうですか?
作者さんお帰りなさい!
やっぱいいわ〜。
しかし美穂は馬鹿だねえ。
弱い上に女には遠慮がある素人男を殴ってきたくらいで自信ありすぎで。
高学歴のくせに馬鹿だから男女の強さの差が全然わかってないなあ。
体格差も筋力差もある上に格闘技かなりやってる男じゃ勝ち目ないくらいわかんないかなあw
特に格闘技はアマチュアでも大会でプロに勝つようなのはざらにいるわけだし
技術的にも選手層的にもも男子のほうが圧倒的にハイレベルなのに、認識甘すぎ。
自信満々な人生を送ってきすぎて、身を滅ぼすな。
楽しみだ。
倉庫の格闘はもちろん、美穂が全くいいところなく全ての技が全く通じず大惨敗で自信を完全に打ち砕かれるのを希望!
何なら、自慢の打撃をわざと食らってやって、ちっとも効かないのをアピールしプライド完全崩壊させてもいいな。
最後はマウントで容赦なくボコ!
整形に関しては、少しずつより一気にもとの美貌を取り戻すほうがいいです。
髪は伸びるの待ちだけど
test
作者様おかえりなさいませ。
心待ちにしていました。
美穂のぶざまな踊りと舌足らずの憎まれ口がすごくいいです。
展開についてですが、倉庫での格闘はもちろん美穂がなすすべなく一方的な惨敗がいいです。
だってそうじゃないと道場で男の人に全然勝てない私の立場がないですしw
善戦とかじゃなくて完全にやられるだけというのがいいです。
組技でも得意の打撃でも、威力はもちろん技術的にも圧倒されて
唯一の残った強さという誇りも完全に失うのがいいですね。
由起子と美穂の顔について。
由紀子の整形には反対です。
だって美穂を責めるのに整形疑惑でも責めていましたから
責める側の由起子が整形してしまったら説得力なくなっちゃいますから。。。
美穂の整形はひとつずつじゃなくて、条件とかもなく普通に問題なく美貌復活がいいです。
まずは希望を取り戻さないとあとでまた絶望する時の落差がなくなりますから。。。
髪が伸びる期間や手術を繰り返すことなども含め、例えば2年後くらいに美貌復活した美穂が登場という形になさってはどうでしょうか。
281です。
休養格闘家ですが、グロ、ゲテモノ女大好きという設定で、美穂の攻撃を軽やかにあしらいかわしながら、胸をあらわに剥いて
「うひょ〜たまんねー乳だねぇ、この垂れっぷり!うちのばあちゃんよりも凄えよ」
と侮蔑しながらモミモミするなどセクハラ攻撃を繰り返し、最後には体力を消耗しきった美穂を組み敷いて、歯のない口でフェラさせ
「うわ〜やっぱ歯のない口は名器だわ、癖になるわ」
と美穂の顔に放尿してしまうという流れでどうですか?
ガチンコで格闘して美穂を怪我させて病院送りにするよりも、ブライドをとことん傷つけることが出来ると思うんですが。
由起子ですが、やっぱり美穂とは裏と表の最大のライバルであって欲しいし、美穂が醜いときは美人に、しかも周囲に愛される美人になっていた方がよいと思います。しかも、美穂の全てを乗っ取ることを企んでいたりと…。
由起子が醜いままじゃ出番もないし使いようがないからね。
美穂の美貌を取り戻すことについては、一気に取り戻しちゃったら,最初に戻って繰り返すみたいな感じになってしまうでしょう。
凄まじい辛酸を舐めながら一つずつ取り戻す方が、そのプロセスに美穂の葛藤を描写出来る面白さがあると思います。
例えば、乳房の再生を両方同時にしてもらえると思ったのに麻酔から目覚めたら、片方だけだったという美穂のショック、想像してみたら面白そうではないですか?
296 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 03:05:17 ID:yMvT0YUW0
美穂から吸い取った胸の脂肪細胞が由紀子に移植されていて、
由紀子が巨乳になっているのとかどうですか。
立場が逆転した状態で昔の仕返しとばかりに美穂と合コンやプールに行って、
由紀子が巨乳、美穂は貧乳扱いされるのとか屈辱的だと思います!
由紀子は別に醜いわけじゃなくて胸が小さいだけでしょう。
美穂に馬鹿にされたそのコンプレックスがあるからこそ復讐が痛快なのだし
整形してまでとなると美穂側に近くなるから、それは違うと思う。
それに元美人の美穂が元々美人じゃない人相手にももう見下されるほどの存在になってしまったというのがいいのであって
相手が美穂に匹敵する美人になってしまったら意味がないと思う。
よって由紀子の整形は顔も胸も反対。
美穂の美貌を取り戻す過程も一つずつというのはあんまり……
やっぱりブスが整形で綺麗になるわけじゃなくもとの美貌を取り戻すというイベントなので
ここはショックや葛藤を与える部分ではない。
変にジリジリやらず、次に姿を現した時は復活していたというくらい一気に復活がいい。
それで美穂が完全に復活したと思い増長してこそ、後の転落がまた生きるわけで
徐々に辛酸をなめながらではあまり美貌を取り戻すという希望を与える意味がないと思います。
ここに関しては変に罠などは混ぜず、きちんとすんなり美貌復活させてやったほうがいい。
休養格闘家VS美穂はもちろん休養格闘家の完全勝利がいいですね。
それも、美穂がほんの少しの有利な局面も作れない完全なる一方的展開で。
女であるのに男に勝てると思っていたという美穂の自信や愚かさを執拗に叩かれながら
美穂はあらゆる面で全く歯が立たずねじふせられるというのがいい。
関節技で弄ぶように四肢を壊されていき、思わず美穂は命乞いをみっともなくするというのもいいですね。
で、許して欲しくばとギャラリーの衆人環視の前で色々と恥ずかしいことをさせられる。
例えばウンコさせられるとかいいですね。
でも、散々笑われたあげく「不満だ」とか色々理由をつけられ、懇願にも関わらず一本ずつ手足を破壊されていく。
最後は恐怖に泣いて鼻水も小便ももらしながら土下座して懇願する美穂に馬乗りになり
マウントパンチラッシュで徹底的に顔面破壊というのがいいです。
それで顔面が何倍にも無惨に腫れあがり美穂は入院、腫れがひいても顔はグシャグシャで
そのまま皆の前には現れなくなったが、年月が流れて再び現れた美穂の美貌は完全に復活していたという展開が希望です。
やはり規制でしたか…何はともあれ再開おめでとうございます
!
今回はまた美穂のかっこ悪さやみじめさが前面に出まくっていていいですね!
ご意見求められてるこれからの展開についてですが
倉庫は皆さんが言うように美穂が完膚なきまでに力の差を見せ付けられ惨めに敗れ去る方向で
美穂が屈辱に感じそうな、女なんだから男に勝てるわけがない
という部分を前面に押し出した感じでいいようにやられてしまうのがいいですね
どこか女が本気で殴られるはずがないとたかをくくっていたところがある美穂が
信じられないほど遠慮なくボコボコにされ本気の男に恐怖を覚えるとか
休養格闘家氏が名前どおり、実はもうここ数ヶ月は燃え尽きて格闘技もやってないとかだと
さらに美穂の屈辱度合いが跳ね上がる
そんなブランクありにいいようにやられちゃうのかっていう
前にも出ているように勝ち目がないのを悟った美穂が許しを得るために恥ずかしいことをさせられ
笑いものにされたあげく許してもらえないとかもいいですね
ギャラリーの前で自分の意志でウンコはいいなあ
あと許してほしければ食えとか
ギャラリーにも頭を地面にこすりつけて土下座とか
そしてリアルでこの場面の動画や写真をいっぱいとられてしまいますます逆らえなくなり馬鹿な美穂とか
最後はとことんみっともなく泣き叫びながらグッチャグッチャのフルボッコにされて恐怖のあまり失禁・脱糞のあげく失神
そのボロ雑巾のようなかっこわるい姿もネットに公開
由紀子は特に再登場の必要もない気がしますし登場するなら整形は反対ですね
美穂が美を取り戻していくのは一つづつではなく一気にがいいです
やっぱりギャップフェチの自分としてはよくも悪くも落差がないと興奮できないので
落差という意味では前に出ている美貌を取り戻す過程での屈辱にも反対かな
やはりそこは完全に美穂のターンにしないと…上げて一気に落とす!ってことで
メリハリとギャップは大事
休養格闘家さんとの対決はもちろん休養格闘家さんの一方的完全勝利で
格闘自体はガチで、性的だったりする辱めはかなわないという恐怖で脅してさせるのがいいな
由紀子の整形は俺も反対
美穂が少しずつ美を戻したり何かを犠牲にして美を戻すのも反対
他の人たちも書いてるように、上げる時は上げてやらないと
美穂のダンスシーンが超かっこわるくて最高!
無様すぎ!
スッポン引っ張って「ふぎぎぎ」なんてのも本当かっこわるくて興奮!
これからの展開は倉庫では美穂が全くいいところなくボコボコに負けて
顔面完全崩壊はもちろん大前提なんだけど
その後に整形とか姿を隠すのは反対・・・せっかくだから今の美穂をもうちょっと楽しみたい。
それにまだ実行前の命令もいっぱい残っているからここで物語を切るのは得策ではない。
グチャグチャに崩壊させられた顔面のまま、残りの命令をこなす生活を余儀なくされるというのがいいな。
倉庫では、途中で許しをこうて色々恥ずかしいことをさせられるものの結局許されず
ボロ雑巾のようにやられて、ダメージで動けず朝まで放置されるとかどうだろう。
動けないので小便大便も垂れ流し。
もちろん、その様子ややられっぷりはネットに公開される。
美穂は見られたくないのと休養格闘家氏に脅され、病院には行かず。
その結果、顔はグチャグチャに壊されたままで、鼻などはただでさえ酷かったのがさらに潰れてしまう。
なんていうのが見たい。
美貌復活はその状態で暫く毎日を送り、命令期間が終わってからでも遅くはない。
ふむふむ。人それぞれストーリーがあるんやな。
ところで、一度確認しておきたいんだけど、皆さんは美穂のキャラを最終的にどうしたいのかな?
A.最後まで馬鹿は治らない。
B.改心して、愛される人になる。
C.心が折れて発狂する。
D.被虐に目覚め、進んで責めを求める。
俺的には、美穂の内面の変化が欲しい。最後まで勘違いしたままじゃ、ドラマ的にも面白くないしな。
ある精神病院の一室で、芋虫のような体で横たわり「私は勝ち組よ、あんた達なんかと違うのよ」とエンドレスに呟き続けながら蠢くラストもつまらん。
やっぱり、BとDの方向でやって欲しいな。まぁ最後は衝撃のラストが待っている訳だが(笑)。
性悪だから責められるのが痛快なんであって改心は嫌だな。
これまでここまで性格悪くきてる人間がそう改心できるとは思えんし
仮に改心したとして、それで歩けなくなった子やレイプされた子や痴漢冤罪で全てなくした人が救われるわけではない。
これだけの悪事を働いてきたのに改心で許されてめでたしなんて到底認められないな。
ここは美穂は最後まで性悪でいてほしい。
展開をどうするかについて。
倉庫の格闘では美穂は少しも歯が立たずひたすらやられてしまうのがいい。
で、ボロボロになって動けなくなった美穂は、休養格闘家が「好きにしろ」と観客に言って、観客たちに輪姦される。
それも、さんざん顔や体を馬鹿にされながら。
休養格闘家は「元からブスのうえにボコボコで見られた顔じゃないんだからやれるかって」と帰ってしまう。
強い男より、弱い外野に犯されるほうが美穂にとって屈辱だろう。
最後はザーメンまみれでぐったりの美穂に
「きったねえなあ。便器だなこりゃ。便器らしくしてやるよ」
と、全員で美穂に糞小便を笑いながらひっかけてゴミみたいに打ち捨てる。
あ、由紀子整形や美穂少しずつ整形は反対で
美穂はボコられた後もそのまま崩れた顔で命令を続けさせられるのがいいね。
美貌復活前にとことん落ちるところまでは落としましょう。
作者です。
みなさん、色んなアイデアをありがとうございます。
作者が何か書くと提案がそっちに引きずられそうだったので、この2、3日レスは控えていました。
正反対の意見もあってなかなか難しいところです。一気に美貌を取り戻したら繰り返しになる危険性があるという
危惧はなるほどと思いましたが、でも、希望を与えるという点や、ギャップ効果を考えると一気に元通りに
なるほうがいいのかな、と。
とりあえず、意見の違いがない倉庫のシーンを書き上げることにします。
他にも何か提案や意見があればいつでもお願いします。
>>301 作者さん次第だけどBだけはありえないな。
>>303 今度の更新も期待してます!
格闘で美穂がウィッグを奪われ、入れ歯も砕かれるというのはどうでしょう?
顔がボコボコに変形した上にこれからは安物のウィッグと入れ歯にせざるを得ず、バレバレになるとか。
もちろん格闘で負けるのはウィッグをとられた隙にとかじゃなく完全に実力で惨敗で。
むしろ休養格闘家は遊び半分の余裕の戦いぶりだといいですね。
美穂はフェミくさいから、女の分際で勝てると思ってるのが馬鹿だとかそういう方向で責めるのもいいな。
最後は、これまで出た意見のように関節技で全身四肢破壊、レイプ、ザーメンまみれどころか
糞尿まで浴びせられて放置されるのいいですね!
整形にかんしては由紀子は反対、美穂は一気に美貌復活で。
美穂の場合、元は美人でそれを取り戻すわけなので一気に戻った方がいいです。
306 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 15:52:52 ID:zSWlfkLr0
顔がボコボコに変形してこれからは安物のウィッグと入れ歯にせざるを得ない設定は
いいですね。
なおかつ元の美人の頃の顔を印刷したマスクを与えられてかぶったり脱がされたり
する指令をされて元の自分との落差に落ち込むとか
307 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 18:47:45 ID:zGemksHYO
皆さんアイデアすごいな!
倉庫の戦いは皆さんの意見のようなの賛成。
美穂はほんの僅かほども有利な場面はないほうがいいです。
これ以上なく力の差を見せ付けられ完全に負ける。
由紀子の整形は反対。
美穂は美貌を一気に取り戻すほうに賛成。
やはりギャップがいいしここは美穂が勝ち誇らなければいけないところだから。
308 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 10:39:32 ID:F4UWwmdb0
美穂が戦いに敗れ美貌復活前の屈辱として
ウィッグを奪われ入れ歯も砕かれ
代わりにどう見ても40・50代にしか見えないような
髪型のウィッグを強要されファッションも以前のものは禁止され
周囲にブサイクおばさん扱いされる。
しかも格闘はウィッグをとられたから戦えず負けるとかじゃなく、
ちゃんと戦っても全く歯が立たないというのがいいね。
それで愕然とする美穂に
「俺はアマチュアだしそこでも別に無敵のチャンピオンってわけでもねえぞ?練習仲間にも俺より強い奴は2〜3人くらいはいるかな」
「ま、いくら素人を何人ぶっとばそうが女じゃ所詮こんなもんだな」
なんて台詞できまり。
美穂の自信完全崩壊!
>>308 それめっちゃ良い。
是非 取り入れてほしいね。
美穂の美貌を一気に取り戻す意見が多いですね。しかし、どんな流れで戻すのでしょう?物語の世界の人物は皆、美穂を一気に戻すことに賛成しないでしょう。
上げて落とすこと前提にしたら手術を引き受ける整形医もいないでしょう。これから恭子との裁判で間違いなく負けるであろう美穂に手術費用の支払い能力は無いでしょう。
まぁこの話自体がありえないんだけど、随所にリアリティを散りばめることで、面白さがあると思います。
休養格闘家との対戦後は裁判も敗れて無一文になり、大学も陰謀で掲示板の動画を知られて退学処分になり、あるブローカーの紹介で、エロなど何でもありの闇プロレス組織にに入るという流れで、
休養格闘家にめちゃくちゃにされた顔でヒール役で出て、懸賞金を稼ぐなどして市橋容疑者のように地道に手術費用を稼ぐなどしたほうがリアリティがあると思います。
時々負けて没収されたり、雅代とかに盗まれたりとか、惨めさの極致を味わいつつ、美貌を取り戻すことをモチベーションに頑張る美穂を見たいです。
一気派はどんなストーリーを考えているのかな?
>>308 君はいったい何を言っているんだ?
ストーリーを考えるのは読者じゃなくあくまで作者さんだろ。
つうか、腕のいい医者を探して顔を戻す手術を受けるのなんて別に非現実的な展開じゃないだろ。
闇プロレスなんてトンデモな展開がそれよりリアリティあるとでも?
そのリアリティの基準がわからん。
美穂の場合裁判で負ける気はないんだし、美貌さえ戻ればいくらでもまた男に貢がせられるんだから
どう考えても普通に手術受けて美貌戻す方が闇プロレスなんかよりはリアリティもあるしギャップ的にもその方が良い。
美穂復活のイベントにまでダラダラと中途半端な苦境を続けてたら全くメリハリなくなって落差ないだろ。
そんなくらいなら美貌復活なんて美穂にとっての幸せイベント自体必要なく
今のまま続ければいいって事になると思う。
というわけで俺も美貌は一気に復活、
しかも変な苦境とかなく上げる時はちゃんと上げるという感じで希望。
>>311 めちゃくちゃにされた顔でヒール役ってのはいいね。
ヒールって事はかなりのきたないヤジも試合中延々と
受けるはめになるだろうし。
314 :
312:2010/01/31(日) 00:34:24 ID:xdIjdSg1O
315 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 14:38:57 ID:hlrzzMiO0
大学へはおばさんかつらとファッションで行くのをを強制され
顔の傷を隠すための妙に濃い化粧で美穂とは始め誰も気づかず
ばれたら笑い者になり
リングの上では元の美人レスラーから真逆の罵声を浴びせられる立場へと変わり
相手の美人レスラーとのファンの扱いの落差にさらに落胆する
倉庫の隅の暗がりをゴキブリや蜘蛛やミミズが這い回っていた。
美穂は眉間に皺を寄せ、内心で『最低の場所ね』とつぶやいた。昔から虫の類が大嫌いだった。下品で気持ち悪い。
生理的嫌悪感がある。
以前はスポットライトの下で輝いていた私がこんな陰気な場所で闘うことになるなんて……。
身の程知らずの馬鹿はさっさと葬ってしまおう。
美穂はすねを覆う白色のリングシューズを履き、紐を結ぶと、ショルダーバッグを床に置いた。持参したビニール袋を
掲げる。その中には真っ白いゆで卵が12個入っている。
「あんたたち!」美穂は見物人たちを見回しながら声を張り上げた。「覚悟しなさいよ! 私が勝ったら次はあんたたちの
番だから。全員裸の四つん這いでこのゆで卵をお尻の穴に入れさせてやるから!」
痛快な光景だろう。馬鹿な男たちが這いつくばり、許しを請いながら自分でゆで卵を肛門に挿入している姿は。
『SM調教掲示板』で調子に乗った天罰を与えてやる。二度と他人に命令する気が起きないよう、男としての自尊心を完璧に
奪ってやる。ゆで卵は多めに用意してきたから、10人の見物人全員に行き渡る。
見物人たちは動じず、アタッシュケースを掲げた。
「奇遇だな。俺らも負けたお前を責める道具を色々と持ってきたんだよ」
本当に愚かな奴らね。私に勝った前提で持参しても意味なんてないのに。
美穂は悠然と見物人たちに歩み寄ると、唐突に蹴りを放った。前蹴り4連発の不意打ちだった。的確に4人の股間を
打ち抜く。
「うぐぅっ……」
カエルが潰れたようなうめき声を上げ、4人が股ぐらを押さえながらうずくまった。
立っている6人のうちの1人が「な、何すんだよ!」と抗議の声を上げる。
「闘う前のウォームアップがしたかったの」
美穂は、股間を押さえている男の一人の腹に爪先を叩き込んだ。男は「げぼっ」と醜い声を出し、引っくり返った。
「これは見物料よ」
美穂は悶絶する4人を一瞥し、踵を返して倉庫の中央へ戻った。背後から4人が「お、覚えてろよ!」と負け惜しみを
叫ぶ。
少しスカッとした。『SM調教掲示板』でどの命令を書き込んだのが誰かは知らないけど、10人の中に何人か混ざっている
のは間違いない。ネット世界で調子に乗った報いを与えられて溜飲が下がった。
「勘違いしないでよね。ネットで私を従わせられたのは、あんたたちの力じゃないのよ。私を脅迫してきた卑怯者の恩恵を
受けただけ。そいつの後ろ盾がなかったら、あんたたちなんてキャンキャン吠えるしか能がない野良犬なのよ」
美穂は自信満々だった。倉庫に単身乗り込んできたのもその現われだ。ネットの世界でしか吠えられないネット弁慶たちが
何人集まっても怖くない。負ける気なんてこれっぽっちもなかった。1人で敵わないと判断して数人で襲い掛かって
こられても、蝶のように華麗に舞い、一撃で鼻と急所を叩き潰して勝てると疑っていなかった。
だから10人の敵に取り囲まれている今も不安は全くなかった。むしろ、『休養格闘家』が瀕死の敗北を喫したとき、
蜘蛛の子を散らすように逃げていく見物人を1人残らず捕まえて叩きのめせるかどうか、それだけが心配だった。
見ると、『休養格闘家』はシャドーボクシングの真似事をしていた。
思わず失笑が漏れる。弱い人間は外見から入らないと闘う度胸も搾り出せないのだろう。体重が重いだけの牛男なんて
私に触ることもできないわよ。
「さあ、はじめましょう」
美穂はキックボクシング流のファイティングポーズをとった。『休養格闘家』も拳を顎の前に構えている。
それっぽい真似なら小学生でもできるのよ。
「言っておくけど、力の差を思い知って早めにギブアップしても許さないから。私、調子に乗った身の程知らずの馬鹿って
大嫌いなのよね。そういう男を見ると、徹底的に立場を教えてやりたくなるの。降参しても叩きのめすから。顔面が潰れて
瀕死になるまで」
美穂はステップを踏みながら相手の周囲を回り始めた。どんなふうに華麗な技を決めるか、考えていた。後ろ回し蹴りで
こめかみを打ち抜く? それだと死んでしまうかもしれない。こんなムカつく勘違い馬鹿でも死んだら寝覚めが悪い。
ハイキックで倒した後、馬乗りになって鼻っ柱に肘を叩き落してやろう。
勝利のイメージを固めると、美穂はジャブを打ちながら間合いを詰めた。右ボディーを打つフェイントをし、右の美脚を
放った。風切り音が倉庫を走った。旋風のごとき右ハイキックが『休養格闘家』の首筋に炸裂する。
勝負あり――。
そう確信したが、『休養格闘家』は揺らがなかった。丸太を蹴ったような感触が足首に伝わってきた。
「う、嘘……」
美穂は慌てて脚を下ろすと、平然と首をコキコキ回す『休養格闘家』を見つめた。
一撃でのせなかった?
体重差か。90キロの牛を薙ぎ倒すには一発じゃ駄目ってことね。
美穂は気を取り直し、一気に踏み込んだ。ワンツーを顔面に叩き込み、横蹴りを腹に打ち込む。砂袋を蹴ったような感触に
身体が押し返された。『休養格闘家』はニヤニヤ笑っている。
嘘でしょ? 何十人もの男を一撃でひざまずかせてきた私の攻撃が効かないなんて……。
痩せ我慢よ。そうに決まってる。
美穂は右のボディーアッパーを食らわせ、そのまま腕を折り畳んで右肘を振った。頬を打ち抜いた。得意のコンビ
ネーションだった。『休養格闘家』の顔が20度ほど回る。
「どう!?」
顔を戻した『休養格闘家』は余裕の表情を崩していない。
美穂は動揺し、思わず後ずさりした。
「今度は俺の番だな」
『休養格闘家』が猛牛のように飛び込んできた。美穂は反射的に顔面のガードを固めた。動揺の余韻を引きずっていた
せいでフットワークを忘れていた。視界の下に拳の影が見えた。
し、しまった――。
捌きが間に合わず、強固な拳がスレンダーな腹部にめり込んだ。内臓が喉から飛び出すかと思うほど強烈な一撃だった。
「うぐっ!」
胃液がコンクリートに飛び散る。
い、痛い……。
美穂は身体をくの字に折りながら腹を押さえ、上目遣いに見上げた。『休養格闘家』は追撃をせず、一撃の効果を確かめる
ように突っ立っている。
「ううぅ……」
信じられない激痛だった。華麗なフットワークと体捌きが自慢の美穂は、利尿剤を飲まされて負けた久恵戦まで攻撃を
食らったことがない。練習でも肌を痛めるトレーニング――メディシンボールを腹に落としたり、わざと攻撃を受けたりする
トレーニング――は一切しなかった。生まれ持った90パーセントの運動神経と10パーセントの努力で勝ち進んで
きたから、攻撃を受けることに慣れていなかった。
何てことなの。一撃で両脚の運動神経が鈍ってしまった。
美穂は唇を噛み締めると、不意打ちで右フックを放った。大振りの技はスウェーで簡単にかわされ、『休養格闘家』の
カウンターの左ボディーフックがレバーに炸裂する。腹をえぐり取られたかと錯覚するほどの衝撃だった。
「あぐうぅ……」
美穂は思わず片膝をついた。綺麗に描いた黒く細い眉が八の字になり、額から脂汗が滴り落ちる。
見物人たちが「いいぞ!」「やれ! やれ!」「痛めつけろ!」と歓声を上げていた。先ほど急所を蹴り飛ばされた男たちも
立ち上がり、拳を振り上げながら「やっちまえ!」と叫んでいる。
何で? 何でなの? 私が華麗に勝利するはずだったのに……。
格好つけておきながら無様な姿を見せることほど屈辱的なものはない。派手な入場をしたのに秒殺されるようなものだ。
「おいおい、どうしたんだよ?」『休養格闘家』が呆れたように言う。「もう終わりじゃねえだろうな?」
「ふ、ふざけんじゃないわよ!」
私が負けるなんて選択肢は最初からないのよ!
美穂は立ち上がり、パンチを打つフェイントをした。『休養格闘家』が上体を引いた瞬間、身体を沈めてタックルをした。
全体重を浴びせるようにぶつかる。しかし、相手はびくともしなかった。巨木に掴みかかったようだった。
「そ、そんな……」
戸惑いのつぶやきが漏れたときだった。『休養格闘家』の上体が背中に覆いかぶさり、両腕が腹に巻きついた。大蛇に
締めつけられているみたいだった。
「あああぁ……ぐうぅ……」
息が出来ない。肺が圧迫され、空気が搾り取られているように。
突然、身体がコンクリートから離れた。反射的に両脚をばたつかせる。視界が反転した。天井が見える。ミニスカートは
まくれ上がって白のショーツが露出し、長い漆黒の美髪は地面まで垂れている。
「ひっ、ひいっ……」
じょ、冗談でしょ!?
大技のモーションに見物人たちの歓声が上がる。
「ちょ、ちょっと待って……そんな技は――」
言い切る前に視界が急転直下した。パワーボムだった。美穂は背中からコンクリートに叩きつけられ、息が止まった。
全身の骨がバラバラになったような衝撃だった。
意識が一瞬遠のいた。
『休養格闘家』は大技を決めた余韻に浸っているのか、技を放った直後の片膝立ちの姿勢で止まっていた。
チャ、チャンス!
美穂は朦朧とする意識に活を入れ、相手の太い腕を両腕で掴み、下から美脚を絡ませた。
「どう!? 私が寝技を使えないと思ったら大間違いなのよ!」
下からの腕十字の体勢だった。
後は肘を伸ばしてやれば決まる。
「今さらギブアップしても許さないから。腕をへし折って一生お箸が持てない腕にしてやる!」
一時でも私に痛い思いをさせたんだから天罰よ。完全に破壊してやる。
美穂は背筋を利用し、太い腕を伸ばしにかかった。相手の筋肉が抵抗する。
「無駄よ。こうなったらもう終わり――」
突然、背中がコンクリートから離れた。52キロの身体が浮き上がる。
「え? う、嘘でしょ?」
『休養格闘家』は片腕で美穂を持ち上げ、立ち上がった。そのまま腕を振り下ろすように沈み込む。
ま、まずい――。
逃げる間はなかった。美穂は背中をしたたかに叩きつけられ、再び息が詰まった。両手足は離れていた。パワーで
腕十字を潰されてしまった。
美穂は咳き込みながらのた打ち回った。
「真面目に闘えよな。俺がギブしても顔面が潰れて瀕死になるまで許さないんだろ?」
美穂はうめきながら仰向けになった。『休養格闘家』の靴底が目に入った。丸太の底を落とすように腹を踏み抜かれ、
美穂は胃液を撒き散らした。
「げ、げふっ……」
2度、3度、4度とストンピングを食らった。腹を守ろうと腕を下ろしたとたん、顔面の前に靴底が広がった。
「ひっ……」
反射的にガードを上げた。瞬間、再び腹を踏みつけられた。海老のように身体が曲がる。胃袋が破れそうだった。
口の中に胃液の苦味が広がる。
再びストンピングの雨が降り注ぐ。ガードの隙間を縫って腹に何発も靴底が突き刺さる。
一撃ごとにプライドが踏みにじられた。
男なんかに負けない――そう思っていた自信が一つ一つ壊されていく。
苦痛に咳き込んだとき、タンクトップの胸倉を両手で掴まれ、無理やり上体を起こされた。そのまま引っ張り上げられた。
襟に喉が締めつけられ、息が出来ない。美穂は宙に浮いた両脚をばたつかせ、腹部に膝蹴りを叩き込んだ。『休養格闘家』は
平然とした顔をしている。
「は、放して! 放しなさいよ!」
唐突に解放され、美穂は落下して尻餅をついた。うめきながら顔を上げると、目の前に拳が飛んできた。アッパーが
顎を打ち上げた。首が折れ曲がるほど顎が跳ね上がる。
「あぐうっ……」
美穂は弾け飛んで地面に倒れ伏した。顎が粉々になったような激痛にのた打ち回る。
顔を攻撃されたのは、久恵にストンピングを食らったときの1回だけだった。顔を殴られることがこんなにも痛い
なんて初めて知った。
背後からブーツの足音が近づいてきた。美穂は立ち上がると、ファイティングポーズをとった。しかし『休養格闘家』が
精悍な顔に攻撃的な意思を宿しているのを見たとたん、恐怖に駆られた。首を振りながら後ずさる。背中に倉庫の壁が
ぶつかった。
『休養格闘家』が近づいてくる。
う、動かなきゃ――。
両脚は震えて機能しなかった。『休養格闘家』が目の前に立ちはだかった。
美穂は恐怖に突き動かされ、投げやりなフックを打った。簡単によけられ、『休養格闘家』の拳が風を切り裂く。美穂は
「ひいっ」と怯えの悲鳴を漏らしながら顔を反らし、目を閉じた。
衝撃は襲ってこなかった。恐る恐る目を開けると、眼前で拳が止まっていた。
す、寸止め――?
「ビビッてんじゃねえよ、この馬鹿女」
完全にもてあそばれているのだと分かった。
見物人たちは『休養格闘家』の圧倒的な強さに歓声を上げ、美穂に野次を飛ばし始めた。
「ざまあみろ!」
「女が男に勝てるわけねえだろ!」
「女に本気で殴りかかれない男の甘さに付け込んで勝ってきただけなんだよ、お前は!」
「調子に乗ってんじゃねえよ!」
言い返すことが出来なかった。悔しかった。屈辱だった。
男と女の圧倒的な差を思い知らされ、美穂は残された唯一のプライドが砕け散る音を聞いた。
駄目。勝てない。全然敵わない……。
美穂はミニスカートを翻し、踵を返した。コンクリートを蹴り、腰元まである美髪を揺らしながら必死で逃げた。
鉄製の扉にたどり着くと、懸命に開けようとした。扉は南京錠で施錠されていた。ガタガタと音が鳴るだけで開かない。
ああ、いや、そんな――。
複数の足音が追いかけてきた。見物人たちだった。
「何逃げてんだよ!」
美穂は背後から見物人の1人に両腕を掴まれた。
「は、放して!」
もがいても拘束からは逃れられなかった。平均的な日本人の体型をしている男が相手なのに振りほどけなかった。
体重差は10キロもないはずなのに。
信じられなかった。男が本気で押さえ込みにかかったら、女は何も抵抗できず、なすがままになってしまうの?
磨き上げた技と力が素人相手に通じないなんて……。
悪夢としか思えない。
美穂は後方に引っ張られ、尻餅をついた。そのまま万歳をする格好で仰向けに引きずられていく。
「ああ、いやっ……」
中央に戻ると、解放された。目の前には『休養格闘家』が威風堂々と立っている。獣の前に引き戻された恐怖に美穂は
泣きたくなった。
周りを見回すと、先ほどより近い位置で10人の男たちが取り囲んでいる。逃げ場はなかった。
美穂は自らの愚かさとうぬぼれを後悔し始めていた。ネット弁慶が何人集まっていても怖くないと思い、1人でやって
来てしまった。自分がひどい目に遭わされる可能性なんて一ミリも考えていなかった。今は男の集団が心底怖かった。
使い捨てられた古い倉庫に女が1人。周りには私に敵意を持った男たちが11人。
私はなんて馬鹿なことをしたんだろう。挑発に乗り、単身乗り込んできてしまった。女として危機を自覚し、無視する
べきだった。身の程知らずは私だった……。
プライドを失った美穂に闘う気概はほとんどなかった。
美穂は尻餅をついたまま上体を起こした。
「ギ、ギブアップするわ」
屈辱の宣言を口にした。でも解放されるなら我慢できる。耐えられる。
これで私のプライドと一緒に闘いも――悪夢も終わる。
「はあ?」『休養格闘家』は不快そうに眉間に皺を作っていた。「何言ってんの?」
「え?」
「ギブアップなんかで終わるわけねえじゃん」
「な、何言ってんのよ。負けを認めたんだからそれで終わりでしょ」
「おいおい、お前が最初に言い出したことだろ。ギブアップしても許さないってよ」
自分自身の台詞が頭の中をリフレインする。
力の差を思い知って早めにギブアップしても許さないから。降参しても叩きのめすから。顔面が潰れて瀕死になるまで。
「もちろん俺も同じ気持ちだぜ。ギブアップしても許さねえから」
美穂は絶望感に打ちのめされた。自分の台詞が自分に返ってくる――自業自得、そんな言葉が頭に浮かんだ。
予定では、『休養格闘家』を華麗に打ち倒し、ギブアップ宣言も無視して叩きのめす。自らの愚かさを思い知って逃げ惑う
見物人たちを薙ぎ倒し、四つん這いにしてゆで卵を自分の手で肛門に挿入させる。そうやって馬鹿な男たちのプライドと
尊厳を粉々にしてやるつもりだった。それなのに……。
『休養格闘家』が歩み寄ってくる。美穂は身体の芯から沸き上がってくる震えを必死で隠した。力が違いすぎる。
美穂は震える美脚に力を込めて立ち上がると、覚悟を決めて殴りかかった。『休養格闘家』が左手で拳を捌く。瞬間、
美穂は囮の右腕を流しつつ、右ハイキックを側頭部に打ち込んだ――はずだった。蹴りは右手の平で受け止められていた。
まずい。慌てて蹴り脚を引こうとしたが遅かった。ゴリラのような握力で足首を握り締められていた。
「足癖のわりい女だな、マジで」
『休養格闘家』は両手で美穂の足首と足の甲を握り締め、瞬間的に外側へひねった。ビキッと音が響き、激痛が脳髄まで
駆け上がってきた。
「ぎゃああっ!」
美穂は倒れ込み、右足首を押さえながら転げ回った。骨は折れていないが、捻挫状態になったのは間違いない。
「生意気な女は徹底的にお仕置きしねえとな」
美穂はうめきながら立ち上がった。後ずさるときに右足に体重を乗せた瞬間、激痛が走った。思わず片膝をつき、
足首を握り締める。激痛を抑え込むように。
「あうううぅ……い、痛い……」
翼をもがれた蝶も同然だった。脚を失えば得意のフットワークは見せられない。パワーも破壊力も桁違いの男相手に
片足で何をしろというの? 両脚が無事で元気なときの得意技も効かなかったのに。
最初に右ハイキックが首に炸裂したときの光景がよみがえる。『休養格闘家』は平然としていた。腕十字もパワーで
簡単に跳ね返された。何一つ技が通用しないのに片足で勝てるわけがない。
「俺が闘い方の手本を見せてやるよ」
『休養格闘家』が胸倉を掴み、背中を向けて腰を入れた。払い腰だった。美穂は宙で半回転し、背中から叩きつけられた。
『休養格闘家』が腕を握り締めたまま両脚を絡めて倒れ込む。腕十字だ。美穂の右腕は完全に伸び切っていた。
「いぎぎぎっ……い、痛い……こ、降参! 降参するから放して!」
美穂は両脚をバタバタさせた。
「馬鹿言うなよ。お前、俺に腕十字を決めたとき、躊躇なく折ろうとしたよな。俺も同じことをしてやるよ」
「ま、待って! あれは本気じゃなかったの」
「調子いいこと言ってんなよ」
「も、もう許して」美穂は半泣きになりながら懇願した。「お、お願い。お願いだから折らないで」
「今さらそれは虫が良すぎるんじゃねえの?」
「あ、謝れって言うなら謝るから。だから――」
「ほう? 反省の態度を示すってわけ?」
美穂は何度も顔を縦に振った。
「……いいだろう」
『休養格闘家』は美穂の腕を放し、立ち上がった。見物人たちを見回す。
「じゃあ、見物人全員が『許してやってもいい』って言ったら許してやるよ」
美穂は腕を押さえながら上体を起こし、不安を覚えながら見物人たちを見つめた。勝負の直前に股間を蹴られた男4人は、
憎しみのこもった目をしている。
「あ、あの……私、どうしたら……」
「反省してるって示したいなら、態度と行動で見せてもらわなきゃな」
作者です。
投下しようと思ったら規制に何日も巻き込まれてしまいました、すみません。;
>で、許して欲しくばとギャラリーの衆人環視の前で色々と恥ずかしいことをさせられる。
みなさん、何か命令があれば前回のように書き込んでやってください。
SM調教掲示板での命令が 『』 だったのに対して、今度は直接美穂に発する台詞ということで 「」 の中に。
例 できる夫「許してほしかったら〇〇しろ」
掲示板の人間が見物に集まっているという設定ですから、書き込まれた台詞(命令)に添って続きを書いていきます。
※後に美貌を取り戻すことを考えると、身体が再起不能になるようなことはできませんが。
328 :
かず:2010/02/01(月) 10:19:13 ID:S9txAG/n0
足の指も折って千切って再起不能にしてやってください
329 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 14:08:46 ID:2mRB/QNPO
復活おめでとうございます!
美穂の全く歯が立たないやられっぷりと、女のプライドの壊され加減がマジたまらんです!
最高に興奮しました!
命令も後で考えて書き込みますね
傍観者「それ、入れ歯とウィッグなんだろ?じゃあ私らの前でそれ外して、その上にウンコして見せてもらおうかな。
見て笑ってやるから。あ、でも汚いもの見せるんだからちゃんと見てもらえるようお願いと謝罪してからな」
331 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 00:38:18 ID:4D/avaK/0
傍観者2「でも俺たちは優しいから安心しな。ちゃんと”新しい入れ歯とウィッグ”
用意してるんだぜ。このおばちゃんパーマのかつらに豪華な金歯だ。しかも俺はエコにも
うるさいから地球に優しいリサイクル品だ」
休養格闘家の友人:「多少はやってるみたいだったが、まあ女じゃこんなもんだろ。
こいつは馬鹿っぽいからこんな当たり前の男女のレベルの違いもわからなかったんだろうがよ。ひゃはは」
(休養格闘家に)「おい、もうに2〜3ヶ月くれえ練習休んでるって言ってたけど、これならすぐにでも大会出ても全然いけるんじゃん?(笑)」
休養格闘家:「おいおい、冗談キツいぜ。こんなんで大会出てもお話になんねえよ。今は相手が糞弱かったからってだけでさ(苦笑)」
友人:「じゃあこの女の愉快なショーでも見せてもらって、モチベ回復させてまた頑張らないとな(笑)」
「そこの傍観者の兄ちゃんが面白い提案してくれたからな。
でも別の兄ちゃんがウィッグと入れ歯寄越すらしいから、その前にそれが欲しくばって事でちょっとやってもらうか。
まず、せっかく俺らのケツにでも詰めるつもりで卵持ってきたんだから、無駄にする手はないな。
詫びを入れながら卵入れろ!って事で(笑)
ウンコしてケツの中に飽きスペースができるだろうから、そこに卵入れてもらうか。
数もうまい具合に人数分分以上あるんだろ?四つん這いにさせて高く上げたケツの穴をを自分で広げさせて、一人一個ずつ入れてってやろうぜ。」
休養格闘家:「あー、俺はパス。糞ブスのきったねえケツの穴なんぞに触りたくねえよ(苦笑)」
友人:「お前、潔癖の気があるからなあ。じゃあその分は俺が入れさせてもらうわ。
で、全部入ったら鶏の産卵をやってもらう。
そうだな、ウンコしたウィッグと入れ歯の上にまた産んでもらうか。
あ、ひりだす時、「コケコッコー!」って鳴きながらしろよ、鶏なんだからよ(笑)」
「で、それが終わったら……そうだなあ、せっかく歯無しなんだし、お詫びの意味で全員に順番にお願いしてフェラさせてもらえ。
歯のない女のフェラって最高っていうが、まず味わう機会なんてないからな。楽しみだぜ」
休養格闘家:「あー、俺はそれもパス。こんな糞ブスにフェラなんてされたくねえよ、萎えちまう。
俺にだって女の質くらい少しは選ぶ権利くれよな(苦笑)」
休養格闘家の友人:「あ、産む時に「産まれます!」って宣言してからな。
で、「コケコッコー!」の時はちゃんと羽みたいに手をパタパタさせろよ、鶏なんだから(笑)」
傍観者「裸踊りでもしてみろよw笑ってやるから」
凄えよ。
下剤飲まされた久恵戦(そういえば、久恵は美穂戦に備えて山ごもりまでしてるのに、なんで実力で勝とうとしなかったんだ?今度はガチンコで再戦を望みたい。)は、かなり後味の悪い感じがあったけど、今回は気持ちよく読めたよ。
美穂が完敗をはっきり悟り、自業自得を身にもって感じているのがよかった。
俺も見学者として出演したいんで、セリフ書くね。長くてすまん。
虫の息で横たわる美穂に近寄る男。
男は美穂に優しそうな声で話しかける。
「美穂さん、かなりやられちゃったね。僕は美穂さんを応援に来てたんだけどね。
じつは僕、美穂さんのファンだったんだ。僕、いじめられっこでさ、毎日いじめられて嫌なことばかりだったんだけど、試合で、美穂さんがカッコよく相手を倒すことで忘れられたんだよ。
ある日、このままじゃいけないと思い、美穂さんに勇気をもらおうと、試合後に握手を求めたよ。
だけど、美穂さんに怒られちゃった。触るなって。ぼくをみる目つき、あいつらと同じだった。悲しかったな。
でも、恨んでないよ。僕が馬鹿だったんだからね。
それにしても、こんな顔にされちゃって、男の人が近寄らなくなっちゃうね。
可哀想だから、いいこと教えるね。
(ズボンを脱ぎ、チンポを出す)さあ、しゃぶってみて。
フェラが上手になればみんなやさしくしてくれるよ。僕がいじめられなくなったのもこれさ。
ほら、さっさとしゃぶれよ!
なにやってんだよ!
気持ちを込めて、しゃぶるんだよ。
馬鹿野郎。舌を使えよ!
俺ら練習台になってやるから、皆さんにお願いして、抜かせて下さいと言って、全員から抜いてみせろよ」
これは、他の見学者の暴行などで、美穂が悲惨な顔になってからでお願いします。
途中、こんな化け物みたいな顔でしゃぶられても抜けねぇよと、全頭マスクを被せてしまうのもいいかもしれません。
採用は作者さんにおまかせします。よろしくお願いします。
初老の傍観者「ワタクシも…不潔な菊門に触れるのはご遠慮願いたいですな。
ワタクシの分のゆで卵は…そうですな。ご自身の手で入れて頂きましょう。
四つん這いになって、お尻を高く突き上げながら、赦しを請いながら、
ご自分でご自分のアヌスに入れてくださいませ。」
337 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 15:46:16 ID:4gYI5Tg4O
凄いよ、作者凄過ぎる…誰か漫画化してくれないかな…でも一番凄いのは作者様の人柄です
エロ眼鏡「休養格闘家さん見事な戦いぶりでしたよ!
でもしゃぶらせてる間、暇じゃないっすか?
どうせならこいつ、豚にしちまいましょうよ!
俺、鼻フック持ってきてるから、これに紐つけてこいつの鼻につけて、
こいつの背中に休養格闘家さんが跨がってこの紐引っ張って手綱にするって面白くないっすか?
こいつは休養格闘家さんを背中に載せて四つん這いでブーブー鳴きながらはい回ってフェラするってわけですよ」
無責任男「こいつ、ボコボコにした後みんなでションベンでもぶっかけて便器にしちまおうぜ!」
最近、今までのストーリーの流れを踏まえて発言してない人が多いような気がする。
単に最初から読んでないのか、それとも内容が破綻したドラゴンボールをみて育ったゆとり世代だからだろうか?
この物語の大事なポイントを一度まとめてみた。ついでに独断で見どころも書いた。各自これを参考に妄想を膨らませて作者さんに面白いアイデアを提供してあげようぜ。
美穂の改造された部分は、普通レベルの整形外科では、全て、修復不可能である。
久恵の試合後、美穂はひととおりの医者にみてもらっているが、どうしようもないと断られている。
そんな美穂を美しく出来るのは、あり得ないレベルの整形医を登場させるしかない。
段階的でも一気にでも、一回元に戻した美穂をまた崩したらこの物語は終わりだろう。
恭子との裁判では、負けたくない意地から和解の勧めを拒否し、一流の弁護士を切っている。勝てる見通しは無い。
焦点は慰謝料の金額と刑事裁判への告訴の可能性で、美穂が無一文になり路頭に迷うのか、または刑務所行きになるのかが注目される。個人的には女子刑務所の美穂も面白そうだ。
自宅では、部屋中監視されており、行動を隠すことが出来ない。美穂は醜態が世に出るのを恐れており、掲示板の要求に渋々従っている。
だが、掲示板の中に口の軽い奴がいてYouTubeなどで一般に流出させてしまう可能性がある。すべてバラされたと知ったときの美穂はどんな行動に出るだろうか?
私がひそかに注目しているのは、この物語に登場する女性に「お前も相当悪いぞ」とツッコミ入れたくなる性悪女が多く登場していることだ。
こいつらは美穂に何らかの恨みを持っているが、妬み、逆恨みの部分が大きく完全には同情出来ない。
こいつらと付き合っていて、うっかり浮気がバレたりしたら、ものすごい粘着質な責めを受けるだろう。
この物語は美人性悪女を酷い目に遭わせる物語だ。美人性悪女であれば、美穂でなくても酷い目に遭わせることはオッケーのはずだ。
作者さんもその辺を計算しているという見方は考えすぎであろうか?
美穂を貶めた女どもが美穂の復讐で酷い目に遭うという、まさに共食いの場面があれば、また面白そうである。
皆さんはどうでしょうか?
>>341 何その上から目線。
全てあんたの勝手な見解でしかないし、内容にも根拠も説得力も無い。
だいたい、みんなのリクエストはその人次第だし、ストーリーの流れからどんな展開を妄想するかも人によるだろ。
自分の解釈した流れだけが正しいとか思ってんなよ。
自分の嗜好や意向と違うからって破綻とか言ったり簡単にゆとり呼ばわりすんな。
つうかやたらとゆとりって言っておけばいいと思ってるやつって……
そんなに他者のアイディアを馬鹿にし、自分の考える展開だけが絶対だと思うなら自分でスレ立ててそっちで書け。
重視するポイントなんて人それぞれ。
自分とポイントが違うのが理解できんからってゆとり呼ばわりとはとんでもないな。
完全に他の案出してる人を見下してるだろ。
そんな態度でポイントあげてやったから参考にしろと言われてもはっきり言って大きなお世話としか思えん。
あんたがあんたのポイントをどう考えるかは自由だが、他人に押しつけんな。
>>341 皆それぞれにとらえた流れやツボにしたがってリクエスト出してただけなのに
読んでないんじゃないかとかゆとりとか、あんたこそ馬鹿だろ。
自分の理想を言うだけならいいが他人のそれをないがしろにして自分基準にすんな。
すっこんでろ。
まあまあ皆落ち着いて。
たぶん奴さんも悪気はない。
まあ天然であんなふうに心から考えてるってのはそれは問題だし
あの言い方は俺も腹は立ったけど。
でもそんなのでスレの雰囲気が悪くなったら逆にもったいないから
あんなのはまるっとスルーして平和に行こう。
的外れへの不満の意見見て思ったが比較的に知的な奴にドSが多いってやべぇな
ネット女「あたしはしゃぶらせるものなんてないんだけどー。
あ、じゃあかわりにあたしのオシリの穴なめてよ。
痔で最近あまり拭けなくて困ってたのよw
ちゃんと全部なめとって綺麗にしてよね!
あと、あんた腋毛伸ばしてるんだって?
腕上に上げてそれじっくり見せてよ。
で、そのまま腰カクンカクン振ってダンスしてみなさいw
それはウンチするより前がいいかな。
あー、あとその時、これからやりますって合図代わりにオナラしなさいよ。
自分で大勢の前でオナラして腋毛晒す女なんて笑えるわw」
神は規制に捕まっているのか…
作者です。
すみません、今の今まで再発や再再発で3重規制の巻き添えになっていました。;
解除されて2日後にまた規制されるとは思いもよりませんでした。
とりあえず投下を優先します。
「あんた腋毛伸ばしてるんだって?」
聞こえてきたのは女の声だった。見物人は全員男だと思い込んでいたが、男の陰に潜むように女が混じっていたらしい。
女の表情は元美人の成れの果てを笑ってやろうという悪意に満ちていた。
「腕、上に上げてそれじっくり見せてよ。で、そのまま腰カクンカクン振ってダンスしてみなさい」
美穂は女を睨みつけた。以前の私ならこんな女に命令されることなんてなかったのに――。
「あー、後そのとき、これからやりますって合図代わりにオナラしなさいよ。自分で大勢の前でオナラして腋毛晒す女なんて
笑えるわ」
「なっ……」
信じがたい命令に言葉を失った。私を笑い者にしようってわけ? 反省の態度って言うから、ひざまずいて敬語で頭を
下げる程度だと思っていた。それでも耐え難いことだと思っていたのに、腋毛を見せてオナラして腰を振れ?
「い、いやよ、誰がそんなこと――」
尻をついている美穂の前に、『休養格闘家』が指をポキポキ鳴らしながら近づいてきた。
「反省の態度を示せって言っただろ。見物人が許してやってもいいって言わないかぎり、ボコるぞ」
「そ、そんな……」
美穂は怯えながら周囲を見回した。周りを取り囲む連中は誰一人として同情の眼差しを見せていない。出された命令に
従わないと許す気はないようだった。
「……わ、分かった。言うとおりにするから」
美穂は諦めの境地で立ち上がった。味方もいない。逃げ場もない。見物人たちの機嫌をとらないと、『休養格闘家』に
痛めつけられる。
悔しさに唇を噛みながら、両腕を持ち上げていった。拳銃を突きつけられた者が降参を示すポーズだった。
胸を豊かに盛り上げるタンクトップから両脇が覗いた。色白で引き締まった二の腕の付け根は色っぽくくぼんでいる。
しかしそこには薄い陰毛のような腋毛が卑猥に生えていた。
「汚いわね」女が見下すように言い捨てた。「無駄毛の処理なんて最低限の身だしなみでしょうに」
剃ることを禁じられたからよ! あんただって知ってるくせに!
反感を買いたくないから口に出して言い返せなかった。
「ほら、合図はどうしたの?」
女は、元美人の惨めで滑稽な姿を早く笑い倒してやりたくて仕方なさそうに言った。
オナラ――。
本当に私はそんなまねをするの? 男たちに屈服して?
美穂は『休養格闘家』を見つめた。彼は威圧するように眼力を放っていた。思わず視線を反らす。
駄目、逆らえない。逆らったらどんな目に遭わされるか。
美穂は諦め、うな垂れた。艶やかで豊かな黒髪が揺れる。
覚悟を決めておなかに力を込めた。歯を食いしばり、肛門に圧力をかける。腸の中に充満するガスが出口に押し寄せている
感覚があった。
「ああ、いやっ……」
プスッ、と空気が抜ける音がした後、ブビブブブッブリブリと実が漏れたような下品な音が響き渡った。可愛らしい
音ではなく、汚らしい音だった。硫黄のような、卵の腐ったような悪臭がミニスカートの下からじわじわと広がる。
「くせえ!」
「女捨てすぎだろ!」
「窓がないからたまんねえよ」
口々に罵倒され、死にたいくらい恥ずかしかった。見物人たちの顔をまともに見られない。
「下品な女ね、本当。ほら、合図したなら早くはじめなさいよ」
美穂は羞恥と屈辱のあまり目を閉じると、見物人たちを視界から消し、万歳したまま腰を前後に振りはじめた。
低俗なオヤジがするように、ペニスを相手に突き立てるような動きだった。女がすることではなかった。腰を振るたび、
長い黒髪が揺れ動く。
「レーザーラモンHGかよ!」
「チョー笑える!」
卑猥な腋毛を晒したまま、猿のように腰を振り続ける女――美穂は自分の滑稽な姿に泣きたくなった。敗北者は勝者に
逆らえない。
腰を振るたび、自分の愚かさを噛み締めた。ネット弁慶なんて何人寄り集まっても同じだと見下し、単身、無人の倉庫に
乗り込んできてしまった。思えば、今まで男を叩きのめしたのは全部不意打ちだった。気に食わない男が現れると、いきなり
肘を鼻っ柱に叩き込むか蹴りを金的に叩き込むか、どっちかだった。後は先に大振りで殴りかかってきた男の勢いを
利用してのカウンター。男はまさかカウンターを受けるとは思っていないから見事に食らってくれた。
私は不意打ちで素人を叩きのめして自惚れていたのかもしれない――。
認めたくなかった。それを認めたら最後のプライドを失ってしまう。一流の実力を見せているつもりで胸を張っていたら、
全て接待だったと知らされるようなものだ。格好悪すぎる。
カクカクカクカクカク――。
美穂は額に汗の玉を浮かべながら、5分以上腰を前後に振り続けた。見物人たちの冷めた視線と嘲笑を一身に浴びながら。
「それ、入れ歯とウィッグなんだろ? じゃあ私らの前でそれ外して、その上にウンコして見せてもらおうかな。
見て笑ってやるから。あ、でも汚いもの見せるんだからちゃんと見てもらえるようお願いと謝罪してからな」
美穂は突きつけられた条件に唖然とした。精一杯着飾って乗り込んできたのは、女子格闘技の元チャンピオンとしての
プライドだった。着飾れば、隠せない豚鼻以外は完璧な美貌に――モデルやアイドルすら感嘆する美貌に戻る。美しく華麗に
強さを見せつけ、女王として立ち振る舞うつもりだった。だから、最初に男たち4人の急所を蹴り飛ばし、何も恐れない
風格を見せつけた。
それなのに……。
見下していた連中の前で虚飾を剥ぎ取られ、家畜みたいに排泄して人間としての尊厳まで奪われるなんて。
ネット弁慶たちに「ざまあみろ」「いい気味だ」と思われることに耐えられない。
「い、いやよ!」美穂は訴えた。「そんなまね……」
美穂の前に『休養格闘家』が立ちはだかった。
「あっそ。じゃあ仕方ねえな。続きをしようか。両手両足の骨をへし折って顔面も潰してやる」
『休養格闘家』にタンクトップの胸倉を掴まれると、美穂は「ひいっ」と情けない悲鳴を漏らした。全身に染みついた
恐怖に歯がカチカチと鳴る。本能が負けを認めていた。
「ま、まま、待って……待ってよ」
「お前は気に食わない女をレイプさせたり寝たきりにさせたりしてきたんだろ。反省を態度で示す気がないなら、その
報いを受けてもらおうか」
「せ、せめてウィッグだけは……これ、自毛のウィッグなの。だから――」
「お前に拒否する権利はねえんだよ。従うかボコか。どうする?」
美穂は周囲を取り囲む男たちを見渡した。誰もが復讐心と嗜虐心に目をギラギラさせている。今まで私に叩きのめされて
きた男たちの分まで思い知らせてやる、と目が言っている。
調子に乗って無策で乗り込んでくるんじゃなかった。南京錠がかけられているせいで倉庫からは逃げ出せず、助けてくれる
人間もいない。
もう従うしかない――。
美穂は唇を噛みながら、座り直した。
「女の癖に調子に乗りやがって」見物人が忠告する。「お願いと謝罪も忘れるな」
美穂は黙ってうなずくと、正座した。きめ細かで色白の太ももの上に載せられた拳は、屈辱に震えている。
「み、みなさん……」いざ口を開くと、声は引き攣り、打ち震えていた。「ど、どうか……」
言うの? この私が?
「あの、私が……私が……」
言ってしまったらもう後戻りはできない。自分の意思で心の屈服を認めることになる。いいの? 本当に?
「私が……」
『休養格闘家』を見上げた。雄牛のような肉体は筋肉質で力強い。拳は石の塊に見える。顎を打ち抜かれたときの
痛みは身体が覚えている。逆らったらどんな目に遭わされるか。
「私が……ウンチ……す、するところを見てください。調子に乗ってすみ……ませんでした」
心がポキッと折れる音を聞いた。
「お、女の癖に生意気を言ったり、蹴ったり、本当にすみませんでした」
屈辱的だった。単細胞の男たちと違って女は何倍も優れた性だと思っていたのに――。
「は、反省の態度を示すため……今から自分のウィッグと入れ歯にウンチします。み、見苦しいでしょうが……」
後は言葉にならなかった。唇が震えて何も言えない。
美穂は立ち上がると、ミニスカートの中に手を突っ込み、白色のショーツを引き下ろした。丸めるようにして膝から
足首まで下げ、片脚ずつ抜いて地面に置く。
「おいおい」見物人が厳しく言う。「スカートで隠そうなんて思ってないよな?」
美穂はうな垂れ、ミニスカートを脱いだ。永久脱毛されてパイパンになった恥丘が露出した。股の間では、どす黒く
色素を沈着されたビラビラのラビアが揺れている。
「うわっ、きたねっ!」
「何だよ、それ」
「AV女優でももっと綺麗だぞ」
見物人に野次を飛ばされ、笑われ、美穂は逃げ出したくなった。以前なら1000万ドルの裸だと自負していたのに、
今は1銭の価値もないように嘲笑を浴びている。
「も、もう許して……」
『休養格闘家』が無言で歩を詰める。豆タンク型の肉体が大きく見えた。
美穂は恐怖に顔を引き攣らせると、観念してウィッグを握り締めた。背中一面を覆う黒い美髪のウィッグを思い切って
取り去る。ツルツルの頭が飛び出した。
「ギャハハ、スゲー!」
「マジかよ!」
見物人たちが大爆笑した。
「こんな頭であんな偉そうな態度をとってたのかよ」
「闘う前のウォームアップがしたかったの」1人が美穂の声真似をした。「これは見物料よ」
再び爆笑が起こる。
美穂はウィッグと一緒に握っている拳を腰の横で震わせ、屈辱に耐え忍んでいた。
「ほれ、次は入れ歯だろ」
催促されると、美穂は諦めて頭を垂れた。黒く輝きを放つウィッグを地面に置いた。人差し指と親指で『C』の字を
作り、口元を隠すようにして差し入れた。歯全体を根元から揺らすように抜き出す。
カポッ――。
「うわあ、ひでえ面だな」
「人間として終わってるよな」
好きでこんな顔になったんじゃないのに……。
輝く真珠のような歯は、私の美貌に嫉妬した連中に一本一本抜かれたのよ!
言い返しても惨めになるだけだった。
美穂は黙って総入れ歯をウィッグの上に置いた。パッド入りブラで胸を豊かに盛り上げているタンクトップだけの
下半身裸姿でしゃがみ込む。ウィッグと総入れ歯を和式便器に見立てて位置を調整する。伸びやかな美脚をM字に
開いているせいで、正面からは性器も肛門も丸見えだった。尻の穴の周辺には無駄毛が生えている。パイパンの恥丘と
対照的で滑稽だ。
自分が信じられない。弱みを握られて従うのではなく、男の恐怖に屈して自ら従っている。生まれてはじめての
屈辱にプライドはボロ雑巾同然だった。男たちに踏みにじられ、汚され、ズタボロにされる――。
何をしても許されるほどの美貌を持っていた私が人前で排泄しなきゃいけないなんて……。
「ほら、笑ってやるから早く出せ」
AV女優のほうが何十倍もましだった。排泄してもそれに興奮する男がいる。でも、私は違う。笑われる。
「反省の態度を示さなきゃ、フルボッコだぞ」
美穂は惨めさに打ちのめされ、屈辱に口の端を引き攣らせた。女王のように格好つけてネット弁慶たちを
見下しておきながら返り討ちに遭い、私を敵視する連中の前で生き恥を晒さなきゃいけない――。
これほど悔しいことはなかった。私の不幸や恥を望む人間たちにその希望を叶えてやるなんて耐えられない。以前は、
私を敵視する人間がどんなに望んでも私は些細な失態すら犯さず、相手を歯軋りさせてきた。そのたび悦に入った。
それなのに……。
美穂は覚悟を決め、肛門に力を込めて気張った。
「うううっ……!」
笑い者にならなきゃいけないと思うと、出るものも出なかった。
色素が沈着させられて黒ずんでいる肛門がイソギンチャクのように軽く開いたり閉じたりした。そのたび、周辺の
無駄毛が海草のように揺らめく。
プフッ――。
軽く空気が漏れると、発酵した腸内のガスが続けざまに噴出した。
ブスッ、ブスッ、ブブブゥ!
放屁だった。
「ひ、ひやっ!」
羞恥のあまり、美穂は自分の両耳を押さえた。再び卵の腐ったような悪臭が鼻をついたとき、自分の耳を押さえても
意味がないことに思い至った。見物人たちには聞かれている。
耳から手を放した瞬間、見物人たちの揶揄が飛び込んできた。
「マジかよ、また屁したぞ」
「うわっ、くせえ」
「勘弁してくれよ。倉庫に毒ガスが蔓延してるよ」
「悪臭で扉を開けさせようって作戦じゃね?」
早くも美穂の自尊心は粉々になった。最後のプライドのより所だった格闘でアマチュアに手も足も出ない完敗を喫し、
ギブアップを認めてもらうためにこんな恥を掻かされている――。
それでも逆らう気力は湧いてこない。
「んんっ……くっ……うんんん……」
腹に力を込めて息む。悪夢は一秒でも早く終わらせてしまいたい。
M字に開いた色白の太ももがプルプルと震えた。黒ずんだ肛門が何かを喋りたそうに閉じ開きしている。
「あうっ……くうぅ……んっ」
気張り続けていると、腸の奥から塊が押し寄せてくる感覚があった。アヌスが口を開き、茶色い便の先端が顔を覗かせる。
腸の形に熟成した1本の糞がむりむりと菊門を押し広げ、重力に従って這い出てきた。
ああ、私は家畜同然の行為をしている――。
「み、見はいで」
美穂は羞恥と屈辱に顔を真っ赤にし、うな垂れたまま排泄を続けた。茶色い蛇のように長い便がひり出され、黒く輝く
美髪のウィッグと白い総入れ歯の上に横たわった。
全てを失った瞬間だった。
久恵に髪を永久脱毛された以上、残された最後の自毛なのに――それを自らの排泄物で汚してしまった。
「マジでしやがった!」
「鼻がひん曲がっちまう」
「いいざまだな、おい」
「きたねえな、このハゲ女!」
ブリュッ、ブリュッ、ブブブッ――。
嘲笑を浴びながら、排泄音とともに2本目がひり出された。糞便はおびただしい量となって排泄され、とぐろを巻く
茶色い蛇のように総入れ歯を覆い隠している。足元から糞便の悪臭が漂ってくる。
「ああっ、もうひやっ……」
脱糞とともにプライドも自尊心も出し切ってしまった。決して負けたくなかった連中の前で屈服したことが
ショックだった。
こんな姿を見られたら、もう格好もつけられない。
全てを出し終えた美穂は、臭い排泄物を呆然と見つめた。
3ヶ月もブランクのあるアマチュアに負けて元女子格闘チャンピオンとしてのプライドをズタズタにされ、ウィッグと
総入れ歯を剥ぎ取られて女としての自尊心を奪われ、排泄行為で人間としての尊厳を踏みにじられた。
敗北感に打ちのめされていると、見物人の1人が笑いながら言った。
「ケツは自分のパンティーで拭けよ」
ティッシュペーパーも使わせてくれないの?
美穂は白の下着を取り上げると、素直に従った。股の間から腕を差し入れ、ショーツで肛門を拭った。白い生地には
茶色い汚物がこびりついている。男たちに見られないようにしながら二つ折りにし、再び肛門を拭き、さらに折り畳んで
また肛門を拭いた。
「これで……いいでひょ? もうじゅうぶんでひょ?」
「俺らは全然納得してねえぜ」男が『休養格闘家』を見た。「この女の愉快なショーでも見せてもらって、モチベ回復させて
また頑張らないとな」
そろそろ両足をいたぶって再起不能に・・・
投下乙!&復活おめ!!
規制連発で災難でしたなあ。
待ったかいあって今回はいつもにましてすごい!
文中にもあるように、恐怖で自らの意思で恥ずかしすぎる行為をやてるっていうのがミソだね。
あの美穂が、ついにここまで堕ちたかと思うと……興奮がやばい。
あの超美人が人前で自らウンコするところまで落とされたんだから。
この先も期待してます!
>>359 足攻めSSのスレが確かあったからそっち行けな、かず。
>>360 まあ、元美人だけどね。
てか、美人に戻った時も是非お願いしたいね。
にしても、神はさすがだ…。
いつも、本当にありがとうございます。
個人的には、ブスが美人に整形しても美人と認識しにくいが
美人がブス整形(しかも一部だけ)なら美人と認識できるので全然今の状態で抜けるぜ。
作者さん最高!
欲を言えば美穂はプライドを砕かれた絶望の表現は申し分ないんだが
状況的にさらに恥ずかしがってもらえるともっといいな。
ここからも期待!
ネット弁慶「ブタになるんならさ、ブーブー鳴いてみろよ。せっかくケツ芸見せてんだから尻で」
作者です。
ありがとうございます。
みなさんの好意に感謝しています。期待に応えられるよう頑張ります。
愉快なショー? 私に一体何をさせるつもりなの?
美穂は不安で押し潰されそうになりながら男を見つめた。
「まず、せっかく俺らのケツに詰めるつもりで卵持ってきたんだから、無駄にする手はないな」
男は透明のビニール袋を取り上げた。中には美穂が持参した12個のゆで卵がぎっしりと詰まっている。袋はパンパンだ。
ま、まさか……。
「詫びを入れながら卵入れろ! って事で」
「そ、そんな!」
「ウンコしてケツの中に空きスペースができただろうから、そこに卵入れてもらうか。数もうまい具合に人数分以上あるんだろ?
四つん這いにさせて高く上げたケツの穴を自分で広げさせて、1人1個ずつ入れてってやろうぜ」
恐ろしい提案に美穂は声も出なかった。自業自得という言葉が脳裏をよぎる。身の程知らずの見物人たちを精神的に
叩きのめすために持参したゆで卵。それを私が使うことになるなんて……。
しかも私に全部入れる? 冗談でしょ。そんなの入るはずがない。1個でも苦しいと思って、見物人1人につき1ずつ
用意してきた。それなのに12個全部私に?
「あー、俺はパス」『休養格闘家』が汚物を見る目で言った。「糞ブスのきったねえケツの穴なんぞに触りたくねえよ」
残酷な一言が胸に突き刺さる。
「お前、潔癖の気があるからなあ。じゃあその分は俺が入れさせてもらうわ」
他の見物人たちは、復讐心で目がギラついていた。闘いの始まる前の台詞を誰もが思い出しているのだろう。
『覚悟しなさいよ! 私が勝ったら次はあんたたちの番だから。全員裸の四つん這いでこのゆで卵をお尻の穴に入れさせて
やるから!』
調子に乗って生意気言った女の尻に逆に入れてやる――そんな言葉が伝わってくる。
美穂は恐怖に逃げ出したくなった。お尻の穴に物を入れるなんて想像を絶する行為だった。
初老の見物人が進み出てきて言った。
「ワタクシも……不潔な菊門に触れるのはご遠慮願いたいですな。ワタクシの分のゆで卵は……そうですな。ご自身の手で入れて
頂きましょう。四つん這いになって、お尻を高く突き上げながら、赦しを請いながら、ご自分でご自分のアヌスに入れてくださいませ」
コンクリートの地面にゆで卵が2つ置かれた。美穂はゆで卵と見物人たちを交互に見やった。それだけは許してほしい、と
眼差しで訴えた。
「早く四つん這いになって尻を突き出せ」
選択の余地はなかった。
美穂は正座したまま背中を見物人たちに向けた。地面に両手をつける。しかし、尻を上げることができなかった。
他人に尻の穴を突き出す――それは完全な屈服のポーズだった。誰に対しても常に主導権を握ってきた美穂にとって、
四つん這いは奴隷か犬の姿だった。
「何のろのろしてんだよ!」
突然、見物人の1人に背中を蹴り飛ばされた。美穂は正座したままつんのめった。暴力の恐怖が雪崩となって押し寄せ、
逆らう気力を流し去った。プライドの心棒はへし折られ、再起不能なまでに踏み壊されてしまっていた。
「ううぅ……ううっ……」
タンクトップ以外は素っ裸の美穂は、屈辱にうめきながら、両手をついて腰を持ち上げていった。
誰もいない自室で命令を実行するのも耐えがたかったが、衆人環視の中で実行するのはもっと屈辱的で惨めだった。
四つん這いになると、背中からヒップにかけて流れるような曲線が描かれた。髪と歯を失い、性器と肛門を汚されても、
アイドル顔負けの肌も、レースクイーンすら嫉妬するスタイルも維持している。
美穂は左腕で上半身を支えながら、右手を背中側から回し、手のひらで肛門と性器を包み込んで隠した。見物人たちに
尻の穴を突き出してみせるなんてできない。
身体を支える左腕が震えているのは、体重がかかっているからではなく、羞恥のせいだった。
「隠してんじゃねえよ!」
見物人たちの足音が迫ってきた。
美穂は「ひっ」と小さく悲鳴を漏らし、右手のひらを外した。どす黒く色素を沈着された肛門とビラビラのラビアを
冷えた空気が撫でる。男たちに尻を突き出しているのだと実感してしまい、恥ずかしさのあまり頬が燃えるように
熱くなった。
「お、お願ひ……み、見はいで……」
見物人たちが馬鹿にするように大笑いした。笑い声が剥き出しのヒップに降りかかってくる。
「ケツ突き出して見せつけておきながら、見ないではねえだろ」
美穂は半泣きになりながら胸を地面につけると、両腕を横から尻たぶに回した。腕の支えを失ったことにより、丸みを
帯びた完璧な形の白いヒップは天井に突き上げるような角度になっている。
男たちの顔が見えないことがより恥ずかしさを増した。
四つん這いで尻を高く上げて相手に突き出す――それは、美穂が想像しうるかぎり最も屈辱的で恥ずかしい格好だった。
奴隷か犬に成り下がった気がする。こんなの女の――いや、人間のとるポーズじゃない。
見物人たちの視線を尻にビンビンと感じる。出来るものなら、這ってでも視線から逃げ出したかった。
せめて下着さえつけていたらまだ耐えられる。でも、これじゃああんまりにも……。
「なにカマトトぶってんのさ」見物人の女が嘲るように言った。「ウンコまでしたくせに尻の穴くらいで恥ずかしがってさ、
男の気を引こうなんて思ってんじゃないわよ」
思わず横目で自分の排泄物を見てしまった。黒いウィッグの上の総入れ歯を包み込むようにこんもりと積み上がった糞便。
匂い立つような茶色をしている。
美穂は慌てて視線を反らした。
今さらながらに羞恥が込み上げてきた。『休養格闘家』の恐怖に負け、暴力から逃れたい一心で命令に従った。自分でも
信じられない行為だった。生き恥――完全な生き恥だ。これからの人生、どんなに着飾ったとしても、もう二度と颯爽と
歩くことはできないだろう。人前で排泄した女……その汚名は一生消えない。誰が忘れても私は忘れられない。
コンクリートに頭を叩きつけて記憶を消せたらどんなに楽だろう。
「ほら、早く尻の穴を広げて見せなさいよ」
美穂は左頬を地面につけたまま首を後ろに回し、恨めしく女を見上げた。
同性ならそんなことをするのがどんなに恥ずかしいか、分かるでしょ?
「早くしなさいよ。お尻を広げて許しを請うのよ」
容赦のない言葉が突き刺さる。美穂は羞恥に全身が焼けつくような思いを味わいながら、おずおずと両手で左右の尻たぶを
掴んだ。覚悟を決め、震える腕を両側に割り開いた。尻の肉に半ば隠されていた肛門と性器が露になる。
好きなだけ突いて、と尻で哀願しているようなポーズだった。
は、恥ずかしい。もう消えてなくなってしまいたい。
美穂は羞恥に打ち震えながらゆで卵を見つめ、声を絞り出した。
「……み、みなしゃんにこんなものを入れようと考えてすみません。お詫びに、責任を持っへ、私のおひりの穴に全部
入れたいと思ひます」
男たちにしようとしたことが12倍になって帰ってくるなんて……。
美穂は羞恥と屈辱に震えながら、ゆで卵を取り上げた。直径5センチ近くある。とてもお尻の穴に入るとは思えなかった。
それでも命令には逆らえない。
尻を天井に突き上げた姿勢の美穂は、左手で片側の尻たぶを割り開きながら、右手に持ったゆで卵を肛門にあてがった。
見物人たちの視線を感じ、恥ずかしさで息苦しくなった。
「ううっ……こ、こんな……」
美穂はゆで卵を押し込むようにした。アヌスは抵抗し、押しつければ押しつけるほど口を閉じた。ゆで卵の先端すら
挿入できない。
駄目、全然入らない。そもそもこんな大きなものがお尻に入るわけがない。
指先で押し込むたび、楕円形のゆで卵の形がいびつに変形しているのが分かる。
「オラオラ、頑張れよな」
「俺たちに入れさせる気だったんだろ。だったらお前のケツにも入るだろ」
惨めさと恥ずかしさがないまぜになり、目元に一粒の涙が浮き上がった。
「ふうー、ふうー」
美穂は息を吐いて肛門の力を抜いた。思い切りゆで卵をアヌスに押しつける。菊門がわずかに口を開き、ゆで卵の先端が
肛門の皺に包まれるように少しだけ挿入できた。押し込む力を緩めたらあっという間に弾き返されそうだった。
「あぐぐぐっ……」
括約筋が裂けて切れそうだった。直径2センチ程度の先端部分しか入らない。
怖くなった。こんなに大きなものを無理やり押し込んだらどうなるのだろう。もし取り出せなくなったら? 身体の中に
異物を入れるなんて信じられない。膣ではなく腸。指で掻き出すことができない場所。そんなところにゆで卵を入れるなんて。
羞恥と力みすぎで顔は真っ赤になっていた。人間としての尊厳が地に堕ちてしまった。男たちがするときは“仲間”が
10人もいる。屈辱的で恥ずかしい行為も全員でやれば精神的ショックは少なくてすむ。でも私は違う。服を着た見物人の
前で1人下半身裸で尻を突き上げ、自ら肛門にゆで卵を押し込もうと必死になっている。
楕円形のゆで卵が変形しないように指で横側を押さえながら、尻の穴に押しつけた。肛門が徐々に広がり、ゆで卵の
真ん中まで迎え入れた。
「い、痛い……」
括約筋が切れたかと思うほど肛門に激痛が走っている。
半分まで入ったら後は押し込むだけだった。
美穂は意を決してゆで卵を押し込んだ。チュポンッと音を立ててゆで卵が腸内に滑り込む。肛門は怯えたようにキュッと
すぼまって口を閉じた。直腸に重い圧迫感と異物感があった。内側から腸壁が押し広げられているのが分かる。
やだ、気持ち悪い。苦しい。おなかが変。
すごいスレ発見…なんじゃこりゃあ。
文章力、ストーリー内容やハードさ、何もかもズバ抜けすぎじゃないか。
しかも読者参加型でリクエストまでとって、それを実現させているとは…
最初から一気に読みきってしまった。
なるほど、言われてる通り作者氏は神!
規制とか大変みたいだけど、これから楽しみにしてますよ!
命令にも参加させてもらいます。
応援します。
新人見物人「ネットの動画でスキンヘッド撫でてオナニーで演技イキしてたろおめー?
どうせ男にやられるところでも想像してたんだろうからフェラうまくできたらかなえてやろう。
みんなでそのツルツルの頭撫でたりピシャッピシャッ叩いたりなめたりしてやるから
「私は恥ずかしいハゲ女です!こんなツルツル女のくせに淫乱です!ツルツル頭撫でられてイキますー!」
って叫びながらアソコとケツ自分でえぐりまくってイケ。
潮吹きか失禁失神でも見せてみろやハゲ。」
投下キテター!
羞恥表現、屈辱っぷりの表現、なにもかもすごすぎ!
漏れそうになっちゃったぜ。
作者さんがんばってください!
ここの作者さんはマジすごいわ
作者です。
ありがとうございます、みなさん。
370様、新しい読者の方にもそんなに評価してもらえて嬉しい限りです。どうぞご参加ください。
373様、小説では新堂冬樹の『溝鼠』が結構すごかったです。
美穂は「はあ、はあ」と喘ぎながら、2つ目のゆで卵を手に取った。
これも入れるの?
美穂は白くてツルンッとしたゆで卵を再び肛門にあてがった。括約筋を緩め、指に力を入れて押し込む。菊門が徐々に
広がり、ゆで卵を包み込む。
「うぐっ……」
一度緩んだ肛門は、2つ目のゆで卵をいともたやすく飲み込んだ。出入り口付近の直腸にとどまっていた1つ目のゆで卵を
腸の奥へ押しやりながら、2つ目が入った。まるで直径15センチの長い洞穴に直径21センチのバレーボールを無理やり
押し込んだように、ゆで卵は狭い腸内をゴリゴリ削りながら進んだ。
珍妙な芸を披露している気分になり、美穂は惨めさと羞恥の極致を味わった。
腸が異物を押し出そうと蠕動している。
美穂は必死に括約筋を引き締め、見物人たちを見上げた。
「これでもう許ひて……」
「馬鹿言うなよ」『休養格闘家』の友人が言った。「お前が持ってきたゆで卵、まだ10個も残ってるじゃねえか。
言っただろ。全部入れるってな」
『休養格闘家』の友人はビニール袋からゆで卵を取り出し、8人の見物客たちに1つずつ配りはじめた。全員が白く
輝くゆで卵を手にし、ニヤニヤと笑っている。
あれを全部入れられるの――?
ゆで卵なんて持ってくるんじゃなかった。
後悔しても遅かった。1人目の男が好奇心一杯の表情で近づいてきた。
「ほら、食わせやすいように早くケツを広げろよ」
美穂は観念し、両手を尻に回した。鋭角的に突き上げた尻の谷間に手のひらを差し入れ、扉を開けるように両側に開いた。
どうか隅々まで見てくださいと言わんばかりの姿勢だ。男の目の前に無駄毛の生えた排泄器官が開陳されている現実――
恥ずかしさで尻まで赤くなりそうだった。
「きたねえもん見せられてホント迷惑だぜ。オラ、謝れよ」
「ううっ……汚いおひりを見へてすみません……」
屈辱だった。レーザー照射で黒ずんだ肛門にされなければ、無駄毛の処理を禁じられなければ、誰もが息を呑む
美尻なのに。専用のジェルで毎日ケアし、シミ1つないヒップを維持しているのに。
男の鼻息がアヌスにかかり、美穂は思わず腰を逃がしかけた。ゆで卵のツルンッとした感触が尻の穴に当たる。
ねじ込むようにしながら押し入ってくる。
「ひっ、ひいっ……」
3つ目のゆで卵が、直腸を塞いでいる2つ目のゆで卵とぶつかり、中で変形するのが感触で分かった。ゆで卵は狭い
入り口を押し広げ、腸内の2つのゆで卵を強引に奥へ押しやりながら飲み込まれた。男が人差し指でグッと押し込むと、
ツルツルのゆで卵の表面に粘膜がこすられ、むず痒い感覚が肛門に広がった。
「あふうっ……」
思わず尻を引いた。
美穂は腹部の圧迫感と異物感に苦しみながら、息を喘がせた。
ああ、おなかが苦しい。もう駄目――。
「次は俺の番だな」
2人目が鼻歌混じりに近づいてきた。
美穂は両手で尻を割り開いたまま待つしかなかった。容赦なく4つ目のゆで卵を押し込まれた。直腸の中にある3つの
ゆで卵が抵抗し、なかなか入らなかった。しかし、男は力ずくで押し込んだ。
「あぐうっ……」
美穂はうめいた。狭い腸の奥までゆで卵が侵入し、腸が破られるかと思った。新しいゆで卵が押し込まれるたび、
ツルツルした表面が腸の内側をこすりながら奥へ進む。
男は4つ目を飲み込ませると、人差し指を肛門にねじり込んだ。指先が4つ目のゆで卵に触れている感触がある。
グリグリと悪戯するように嬲られた。
体内の感覚で分かる。ゆで卵は直腸の突き当りまで埋め尽くしていた。
「まだまだだぜ」
「だ、駄目。もうおなかが一杯なの……」
男たちは聞き入れてくれなかった。3人目、4人目の男が順にゆで卵を肛門に押し込んだ。力任せに無理やり。
「オラ、俺のもちゃんと食え! 食えったら!」
直腸に4つ並んだゆで卵がS字結腸にまで押しやられた。早くも限界だった。腸の中はゆで卵でパンパンだった。今や、
ゆで卵は直腸内だけではなく、S字結腸の中にまで詰め込まれていた。もうウズラの卵ですら入るスペースはないように
思えた。それでも5人目が躊躇なくゆで卵を押し入れてくる。ゆで卵は入り口に半分ほど埋没したまま止まった。
男が尻から食べさせようとゆで卵をねじるたび、中のゆで卵とこすれ合ってゴリゴリと音が腸内に響いた。
「ま、待っへ。も、もう無理……ほれ以上は入らないひ……」
「責任持って12個全部食えよな!」
男はゆで卵を潰さないように、それでいて馬鹿力で押し込んできた。グボッと腸内に気味悪い音が響き、縦に6つ並んだ
ゆで卵が一気に腸管の奥深くに押し込まれた。それと同時に7つ目がキュポンッと肛門に吸い込まれた。
「あっ、あひいっ……!」
美穂は涙声で悲鳴に似たうめきを漏らした。ひ、ひどい。もう無理だって言ってるのに。
6人目がゆで卵をボールのように放り投げては受け止めながら歩み寄ってきた。
「ほ、本当にもう無理。ゆ、許ひて。おなかが痛ひの」
「許すわけねえだろ。お前が持参したゆで卵なんだ。自分でちゃんと残さず食えよ」
男は「俺の金玉蹴った仕返しだ。食らえ!」と叫び、容赦なく8つ目のゆで卵を無理やり押し込んだ。
美穂は言い知れぬ恐怖に震えた。心臓は胸が痛いくらい動悸を打っている。
S字になっている部分にまで――指では絶対に届かない部分にまで大きな卵を詰め込まれてしまっている。ひどすぎる。
男たちは、ゆで卵みたいな大きなものをこんなに奥深くまで押し込んだらどうなるか、まるで気にしていない。
押し込まれる者の不安には無頓着だ。人間の身体が壊れるかもしれないという考えがないようだった。何個詰め込めるか
オモチャで実験しているような気軽さでお尻に入れてくる。取れなくなったらどうしよう。
7人目は何度ゆで卵を押し込んでも跳ね返され、2、3分格闘して諦めた。人差し指と中指を揃えて肛門に突き刺し、
激しく揺らすようにしながら差し入れてきた。
「ふぎぎぎっ……く、苦しひ……」
腸の中のゆで卵群がいびつにひしゃげているのが分かる。男の2本の指が徐々に埋没し、それに伴って直列に並ぶ
ゆで卵がS字結腸の奥へ押しやられた。
「ひぎっ……」
男はふーっと息を吐くと、9つ目のゆで卵をゆうゆうと挿入した。
8人目が10個目のゆで卵を何とか押し入れると、『休養格闘家』の友人が歩み寄ってきた。手のひらで2つのゆで卵を
もてあそんでいる。
「最後は俺だな。後2つだから頑張って食えよ」
美穂は息も絶え絶えに男を見上げた。自分自身で尻の穴を広げて晒している羞恥より、腸の奥深くまで大きなゆで卵が
詰め込まれる恐怖のほうが強かった。
美穂は尻から手を放すと、四つん這いで芋虫のように這って逃げはじめた。
「おいおい、どこ行く気だよ」
見物人たちがあっという間に逃げ道に立ちはだかる。這いつくばったまま方向を変えると、別の見物人たちが壁を作る。
「ううっ……」
美穂は男たちを見回した後、観念して尻を上げ、再び屈服のポーズをとった。両手で肛門を割り開く。気を抜けば
ゆで卵がロケットのように飛び出しそうに思えるほど、腸内の圧迫感は増していた。
『休養格闘家』の友人が尻の前にしゃがみ込んだ。視線が肛門に突き刺さり、美穂はわずかに身じろぎした。
「どうしてほしいか言ってみな」
もう入れないで、という哀願が口から飛び出しかけた。言っても駄目だろう。きっともっとひどいことをされる。
彼が望んでいるのは拒絶の言葉じゃない。
「わ……わたひのお尻に食べさへてくださひ……責任を持っへ完食しまふ」
「よし。じゃあ望みどおりにしてやるよ」
ゆで卵がアヌスにあてがわれた。先っぽが1センチ埋没しただけで直腸内のゆで卵とぶつかり、ゴリッと不快な音を
立てた。『休養格闘家』の友人は卵を潰さないように両端を持ち、巧みに押し込んできた。
腸内でボゴッと音が響き、S字結腸を突き破るように10個のゆで卵が一斉に奥へ前進した。
「うぎいっ……」
美穂は口を金魚のようにパクパクさせ、空気をむさぼった。11個目のゆで卵は直腸に詰め込まれていた。
「さあ、最後だ」
『休養格闘家』の友人は復讐を楽しむように12個目のゆで卵を肛門に押し当てた。力をこめるも、腸の突き当りまで
詰め込まれているかのように抵抗を示した。身体のことを少しも心配していない彼は、力任せに押し込んできた。腸の
内圧が懸命に侵入を阻止している。
「ううっ……ぐぎぎっ……」
ボゴッ!
一際大きな音が体内に響いた。11個のゆで卵が身体の奥に押しやられ、12個目が飲み込まれた。肛門はヒクヒクと
痙攣を繰り返したすえ、口を閉じた。
このスレ最高なんだけど、あまりにエロすぎて
見ると我慢汁出ちゃうからおいそれと見られないんだよな…
美穂の状態屈辱的過ぎてたまらんな・・・惨めきわまりない!
しかも自分の行動が全部裏目裏目に出てより自分を結果的に追い詰めてるところがたまらん。
すげえ面白い!さすがに美穂もトラウマになるな。もう強気キャラに戻れんだろ?ゆで卵と言われただけで、フラッシュバックしたりとか。
もうここでとことん屈服させて欲しい。
今後のストーリー展開が楽しみだわ。
想像するとすごい状態だな…
興奮できすぎる。
あのお高い美人が、つるつる頭で自分の髪と入れ歯にウンコして、
ケツの穴をたかだかと掲げて卵を入れるおねだり…たまらん。
今度はコケコッコーか!?
あの美穂がここまで落ちるとは…
最初の状態や強気さからの対比を見るとたまらん。
女として最低最悪に恥ずかしいことばかりされてるのが最高。
あと、休養格闘家は欲望とかに支配されてない高潔さがあるのでそれが対比になってて良いね。
より美穂が惨めに見える。
386 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 22:14:15 ID:Gga4VWLH0
さらなる転落を希望も含めて勝手に想像すると…
〜顔面は鼻以外も酷いことに…
〜代わりに強要されるおばちゃんの髪のかつらと異臭を放つ
ほどの使い古された入れ歯の着用そして若者ファッションの禁止
〜そして見る影もなく”生まれ変わって”大学登校し扱いはブサイクおばさんへ…
〜そしてプロレスの世界へ何とか復帰するも…
美人レスラーからヒール役ブサイクレスラーへと成り果てしかも登場時毎回”美人だった頃の”
顔を模したマスクとウィッグの着用を義務付けられ相手に剥ぎ取られるや罵声を浴びる
屈辱を味わう…
とにかく今後も楽しみにしております。
>>386 それ、かなりいいね。
しかも簡単に書いた文章でも胸が踊るんだから、これに
神の表現力が加わったら間違いなくえらい事になるね。
美穂は突き上げた尻を上下させながら苦しみに喘いだ。腸で妊娠したような圧迫感だった。12個のゆで卵で栓をされた
恐怖に身が凍る思いをした。
苦しく、恥ずかしく、惨めだった。
「マジで全部食いやがった」
「すげえケツだな。人体の神秘ってか」
「生意気なハゲ女め。ざまあみやがれ」
美穂は正座すると、見物人たちの嘲笑を聞きつつ、タンクトップの上から腹部を押さえた。異物感に腸内がゴロゴロ
している。
「全部入ったなら鶏の産卵をやってもらう」『休養格闘家』の友人は残酷に言い放った。「そうだな。ウンコしたウィッグと
入れ歯の上にまた産んでもらうか。あ、ひりだすとき、『コケコッコー!』って鳴きながらしろよ。鶏なんだからよ」
美穂は唖然として男を見上げた。鶏のモノマネをしながら産卵?
想像しただけでめまいがする。
「ゆ、許ひて……も、もう……」
「反省を態度で示すのがいやってことは、ギブアップはなしだな」
美穂は立ち上がる気力もなく、四つん這いで自分の排泄物の前まで這っていった。身体を起こし、M字開脚状態で
汚物をまたいだときだった。見物人の1人が言った。
「鶏はシャツ着たまま卵産むのかよ」
美穂は言葉を失い、無言で男を見返した。タンクトップだけは許してと目で訴える。胸を晒すのは下半身を晒すより
耐え難いことだった。
「家畜の分際で服なんて着てんじゃないわよ!」
同性から悪意を叩きつけられ、美穂は悔しさに震えた。輪を作る見物人たちが間合いを詰めてくる。
「ひっ……ぬ、脱ぐから……脱ぐから暴力はやめへ」
格闘技をはじめて以来、気に食わない男たちを何人も叩きのめしてきた。その“暴力”の痛みを身で思い知り、美穂の
気概はくじけていた。
美穂は両腕を交差させてタンクトップの裾を掴み、脱ごうとして躊躇した。
「カマトトぶって色っぽく脱ごうとしてんじゃないわよ。もう色気なんてない変態ブスの癖に!」
同性ならではの目ざとさで些細な仕草まで責められ、心は傷ついた。
美穂は思い切ってタンクトップを脱いだ。パッド入りブラがお椀型に盛り上がっている。
「さっさと取りなさいよ!」
ブラジャーを引き千切られ、脂肪吸引された二つの乳房がこぼれ落ちた。肌色のナマコ同然の乳房がペタッと腹に
張りつき、焦げ茶色でブツブツの巨大乳輪の先に同じく焦げ茶色の肥大化乳首がついている。
「ひっ、ひいっ……いやああ、見なひで!」
垂れた乳房を両腕で抱きかかえて隠した。以前なら誰に対しても恥じ入るパーツが何一つない身体だったのに、
今は死んでも人に見せられない身体だった。女神の美貌としてあがめられていた人生の輝きは消え、コンプレックス
だらけの女に落ちぶれてしまった。
「あ、産むときは『産まれます!』って宣言してからな」『休養格闘家』の友人は笑いながら言った。「で、『コケコッ
コー!』のときはちゃんと羽みたいに手をパタパタさせろよ。鶏なんだから」
最後のプライドまでへし折ってやる、二度と立ち直れないくらい尊厳を踏みにじってやる――男たちからはそんな
敵意が伝わってくる。
美穂は涙に潤む瞳で見物人たちを見回し、「そんなひどいことさせなひで……」と哀願した。以前なら『そんなこと
できるわけないでしょ』と一喝していただろう。しかし、『休養格闘家』に完敗し、虚飾を剥ぎ取られて全裸にされ、
排泄姿まで晒した今では強気な態度は潰れていた。
美穂は涙をこらえながら、両腕を胸から放した。乳房がビロンッと垂れ下がる。
伸びやかな美脚をM字に開き、恥部をさらけ出した格好で両腕を身体の横に垂らした。諦めて気張った。肛門に
力を入れ、腸の圧力でゆで卵を押し出そうとする。
「うむむむっ……」
どす黒いアヌスが空気を求めるようにパクパクと蠢き、白いゆで卵が顔を出した。
「う、産まれまふ!」美穂は宣言すると、腰の横で両腕をパタパタと上下させた。「コ、コケコッコー!」
止めていた息が声と一緒に漏れ、肛門から力が抜けた。半分近く顔を出していたゆで卵は、キュポンッと音を立てて
再び尻の穴に吸い込まれた。
「あひいっ……」
滑稽な様に爆笑が弾ける。
家畜のモノマネほど屈辱的なものはなかった。誰も見ていないところでするだけでも惨めな気分になるだろうに、
大勢の――しかも自分に敵意を持つ連中の前でするなんて、舌を噛み切りたくなるくらいの羞恥だった。
恥ずかしすぎてめまいがした。意識が遠のいたり鮮明になったり、グルグルと回る。
美穂は再び産卵に挑戦した。息を止めて腹部に力を入れる。ゆで卵が徐々にひり出されてきた。半分を越えたとき、
「コケコッコー!」と鳴き、両腕で羽ばたきながら最後の力を込めた。尻の穴から真ん丸いゆで卵がポンッと飛び出し、
横たわる汚物にべチャッとめり込んだ。
犬のモノマネをさせられたときとは比べ物にならないほど惨めだった。
美穂は両肩を上下させて荒い呼吸を繰り返した。
2つ目に挑む。
「う、産まれまふ――コ、コケコッコー!」
両腕をパタパタさせると、2つ目のゆで卵がロケットのように噴出した。
見物人たちは手を叩きながら笑い転げている。
「マジかよ、最低の芸だな!」
「惨めすぎて見てられねえよ!」
「もう人前に顔出せねえんじゃね?」
涙が目尻に盛り上がり、一滴、頬を伝った。涙は本物だったが、そろそろ誰かが『もう可哀想だから許してやろうよ』と
言ってくれるのではないか、と淡い期待を抱き、見物人たちを見回した。
「同情引こうとしてんじゃないわよ、ブス」
平手打ちを食らった。頬がパンッと音を立てて弾ける。
「涙が許されるのは可愛い女だけなんだよ。あんたみたいなハゲの醜い女が泣いたって誰も同情しないんだよ!」
女たちから常に羨望と嫉妬を集めていた私がこんなふうに言われなきゃならないなんて……。
人生がキラキラと輝いていた当時の記憶が走馬灯のようによぎる。どんなわがままも許され、冷淡な言葉も似合い、
誰にも負けない美貌と強さを持ち、望むものは何でも手に入った。男たちは私の機嫌をとるために何でも貢ぎ、女たちは
歯を噛み締めて嫉妬した。
美穂はあまりの落差にショックを受けながらも、3つ目のゆで卵を排泄しようと息んだ。腸が圧力をかける。ゆで卵が
出口に下りてくる感覚があった。
「う、産まれまふ!」
思い切り気張った。ゆで卵は出てこなかった。直腸の出口で横たわっているのか、アヌスは口を開けているのにゆで卵は
全く出てこない。
「うぐぐぐぐっ……」
美穂は何度も何度も腹に力をこめた。尻の穴が閉じたり開いたりを繰り返す。
「だ、駄目。で、出なひ……」
M字に美脚を曲げている美穂は、恥も外聞もかなぐり捨てて肛門に中指を差し入れた。指先にゆで卵の感触がある。
指で位置を調整しながら気張る。しかし無理だった。指が一本突き刺さった状態でゆで卵が出るわけもない。
どうしよう。
戸惑いながらも一案を思いついた。中指の爪をゆで卵に刺し、腸の中で潰してしまおう。そうしたら出るはずだ。
美穂は中指の爪でゆで卵を刺そうと試みた。しかしゆで卵は指先に押されて奥に戻っただけだった。
「ああ……」
落胆のため息が漏れる。
美穂は歯を食いしばり、腹圧をかけて気張った。腸の圧力でゆで卵を出口の前まで押しやりながら、中指の爪で逆に
押しつける。前後から腸圧と指に挟まれたゆで卵は直腸内でいびつに変形した。そしてついに爪が刺さった。そのまま
肛門の中をまさぐるように爪でえぐると、ゆで卵がグチャグチャに潰れた。
「コケコッコー!」
気張ると、ブリュッ、ブリュッと下品な排泄音とともに潰れたゆで卵の残骸が排出された。
「おいおい、流産じゃねえかよ」
美穂は嘲笑を無視し、4つ目を出そうと気張った。腸は蠕動しているのに排泄される気配はない。
「コケコッコー、コケコッコー、コケコッコー!」
美穂は夢中で叫びながら両腕をパタパタさせ、飛びたくても飛べない鶏のように羽ばたき続けた。産卵はできなかった。
腸が蠢くだけでゆで卵は出てこない。
アレ? どうなってるの? 出ない。全然出ない。
美穂は羽ばたくのをやめ、股の間から腕を差し入れた。尻の穴に中指を挿入し、指先で届くところまでまさぐる。
信じられないことにゆで卵に指先が当たらなかった。
う、嘘でしょ。どうしよう。どうしよう。
うわあ……コケコッコーはすんごい屈辱だなこれ……イイ!
基本的に動物のモノマネは屈辱感すごいね。
めちゃ興奮するわ!
>>386 美穂は元々プロレスラーではなく格闘家。
だからその後半のプロレス関係の展開はありえない。
こんな状態でプロレスやる必要性も気力もなかろうし。
残りの9個のゆで卵はS字結腸に詰め込まれていて、そこで詰まってしまっているようだった。子供用の洞窟に
大人が無理やり身体を押し込み、途中で身動きが取れなくなったように。
美穂はパニックに陥り、「いや、いや、いや」と叫びながら息み続けた。
「ふぎぎぎぎっ……ふぎぎっ……」
ゆで卵群は完全に腸の真ん中で止まっていた。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
指も届かない腸の奥で9個ものゆで卵が詰まっている。ああ、どうしたらいいの。出ない。取れない。取り出せない。
美穂は恐怖で半狂乱状態だった。
見物人たちは身を折って爆笑している。
「ケツに詰まってやんの」
「押し込みすぎ? ギャハハハ」
「12個も入れたもんな。5、60センチは奥まで入っただろうし」
「ま、肛門科に行ったら何とかしてくれるだろ」
平然と口にされた信じられない言葉を聞き、美穂は泣き顔で男たちを見上げた。肛門科? 医者を訪ね、お尻の穴に
入れたゆで卵が取れなくなったから助けてください、なんて訴えろっていうの? 医者や看護師の軽蔑するような視線が
容易に想像できる。そんな恥を掻くなら舌を噛み切りたい。
美穂は何とかしようと気張り続けた。顔中を脂汗まみれにし、コンクリートに汗のシミを作りながら10分以上息んだ。
指を肛門に差し入れて確かめてみる。指先にゆで卵は当たらなかった。
体内からゆで卵が取れなくなるほど怖いものはなかった。誰か助けて……。
「出ないならしょうがないな」『休養格闘家』の友人は何事もなかったように言った。「次行こうか」
傍観者「おい、食べ物を無駄にすんなって教わらなかったのか?
このゆで卵、全部食えよ。
あ、おめえみたいなのはもう人間の誇りなんて捨てたんだから、手なんか使わず
四つんばいで犬食いしろよ。
トイレになったウィッグとウンコに顔を近づけて卵を残さず喰うんだ」
作者です。
ありがとうございます、みなさん。
果たしてこんな感じでいいんだろうか、といつも若干不安を感じながら投下しているので、
このように評価してもらえると安心して続きを書けます。^^
もう少し恥ずかしがってほしい、みたいな意見や指摘も、それを参考に書いたら作品がよくなると分かるので、
こういう感想も非常に助かります。
展開に関して正反対の希望があると、どうしても片方を採用できないので、それが心苦しくはありますが、
頑張って続きを書いていきます。
命令はあまり不自然にならないように選んで順に書いているのでどうぞお待ちください。
↑
>命令はあまり不自然にならないように選んで順に書いているのでどうぞお待ちください。
命令レスの順に描かれていなくても忘れたわけではないので心配しないでください、という意味です。
命令を書き込むのを待ってくださいという意味ではないです。;
乙&把握です!
命令処理能力、すごいと思いますよ。
これだけの色々な命令をうまく物語の流れに乗せて実行させ
それであの表現なんですから。
これからも期待してます!
神、いつもありがとうございます。
エロ眼鏡「なんだよ、ケツの中でタマゴつまっちまったのか?
じゃあ穿り出してやらないとな。
俺ら10人くらいで次々アナルセックスで精液浣腸してやりゃブビュブビュ出てくるんじゃね?
ほら、わかったらお願いしてみろよ」
傍観者「いいなアナルセックス。噴水みたいにザーメン噴き出すくらい注ぎ込んでやろうぜ。
あ、油性マジック持ってきてるからこいつの頭とか体に落書きしてやんねえ?」
美穂は愕然としながら男を見上げた。押し込んだゆで卵が取り出せなくなった私にまだ何かさせる気なの?
「そうだなあ、せっかく歯なしなんだし、お詫びの意味で全員に順番にお願いしてフェラさせてもらえ」
フェラ? 男たちのペニスを口に咥えろっていうの?
美穂には信じがたい行為だった。
男のペニスを口に咥えて”奉仕“するなんて、何の価値もない底辺の女がする行為だと思っていた。男を気持ちよく
するためだけに唇を使う、物を食べる口に汚いモノを含む――冗談じゃない。身体に宝石のような価値がある女なら、
常に男の奉仕を受けるべきだという持論があった。女は男の性欲処理の道具じゃない。男を喜ばせる存在じゃない。
フェラなんて男に隷属するしか能のない女のする下品な行為よ。でも今は反論ができなかった。
「歯のない女のフェラって最高って言うが、まず味わう機会なんてないからな。楽しみだぜ」
美貌に嫉妬する観客に歯を1本1本抜かれた口で今度は性欲を処理しろっていうの? 出会った男の誰もがキスしたいと
願った私の唇が性欲処理の道具にされる?
「あー、俺はそれもパス」『休養格闘家』が豚とのキスでも強要されたような嫌悪感たっぷりの顔で言った。「こんなブスに
フェラなんてされたくねえよ。萎えちまう。俺にだって女の質くらいは選ぶ権利くれよな」
美穂は傷つき、屈辱に身体を震わせた。フェラをしたいわけじゃない。でも、されたくないと拒絶されると、女として
性欲処理道具の価値すらないと言われたようで悲しくなった。
眼鏡をかけた男が進み出た。
「でもしゃぶらせてる間、暇じゃないっすか? どうせならこいつ、豚にしちまいましょうよ」
豚――。
レースクイーンも嫉妬する完璧なプロポーションを維持していた私が豚? 飼育場でブヒブヒと鳴く汚らしい豚の姿と
自分の姿がイメージの中で重なり、何をされるのか不安で胸が一杯になった。
”犬“や”鶏“と違い、名称を聞くだけで不快になる――それが”豚“だった。私をその豚にする?
眼鏡の男が紐を取り出した。先端に2つの白いフックがついている。
「これをこいつの鼻につけて、こいつの背中にあなたが跨って、この紐を引っ張って手綱にするって面白くないですか?」
面白半分に提案され、美穂は屈辱に打ち震えた。人間の陰湿さを思い知らされた気がした。
「こいつはあなたを背中に乗せて四つん這いでブーブー鳴きながら這い回ってフェラするってわけですよ」
美穂は身体をわなわなと震わせた。昔から男を言いなりにしてきた。頼み事も命令も、微笑んでやるだけできいてくれた。
絶対的な美貌で常に男の上に立ち、従わせてきた。それなのに、豚になってフェラ?
眼鏡の男が「早く這いつくばえよ」と迫る。
美穂は見物人を見回し、許しを請うように首を振った。男たちは威嚇するような眼差しをしている。
するしかないの?
美穂はガックリとうな垂れ、四つん這いになった。乳房が重力に負けて真下に垂れ下がる。身体から2つのナスビを
ぶら下げているような有様だった。服の上からでも男たちを魅了した88センチの美乳は、もうない。
豆タンク体型の『休養格闘家』が近づいてきた。米袋を3つ4つ乗せられたような重みが加わり、背中が弓なりに凹む。
シミ一つない色白の細腕が折れ曲がりそうになる。
「あぐっ……」
人間椅子にされた屈辱と苦痛に顔が歪む。
目の前に眼鏡の男がしゃがみ込み、鼻フックを見せびらかした。
「豚鼻だから引っ掛けやすそうだな」
真正面を向いた鼻孔にフックが差し込まれる。フックから伸びる紐を受け取った『休養格闘家』が引っ張り上げる。
鼻の穴の敏感な粘膜がえぐられる激痛に美穂はうめいた。
「ひぐっ……い、痛ひ!」
「手綱を引かれたら」眼鏡の男がニヤニヤしながら言う。「豚が鳴くんだぞ。さあ、1人目のところまで這えよ」
美穂は顔を上げた。見物人たちは数メートル間隔で散らばっている。倉庫内を這い回らせようという意図だろう。
観念して1歩を踏み出した。片腕を前に進めたとたん、反対の腕に体重がのしかかって折れそうになった。天性の才能で
闘ってきたから、筋肉をつけるようなトレーニングはしていない。
美穂は90キロ近い体重を背中に乗せたまま懸命に這った。這うたび、しわしわの乳房が振り子のように揺れた。
肥大化した焦げ茶色の乳首も揺れる。スキンヘッドから汗の玉が垂れた。
見物人たちが「いいぞ、いいぞ!」とはやし立てる。
服を着た男たちの中でただ1人全裸になり、男の欲情を煽り立てもしない惨めな身体を晒して這い回る――これほど
惨めな行為はなかった。
突然、手綱代わりの紐が引っ張り上げられた。鼻孔の粘膜が引き裂かれるような激痛が走り、鼻の穴が大きく真上に
広がる。
「あぐうっ! い、痛いっ……や、やめへ!」
言葉に反応してますます引っ張り上げられた。顔が反り上がり、天井が視界に入った。『休養格闘家』は釣りで浮きを
ピクピクさせるように紐を上下させた。
無言の重圧と激痛に屈服し、美穂は声を絞り出した。
「ぶー、ぶー」
か細い鳴き声を口にしたとき、女が近づいてきた。腹部をしたたかに蹴り上げられ、「ゲボッ」と声が漏れる。90キロの
体重に押しつけられているせいで蹴りの威力を逃すことができず、内臓が破れるようなショックを受けた。
「カワイコぶってんじゃないわよ。もっと豚らしく鳴きなさいよ」
美穂は思わずキッと女を睨みつけた。男に対する潜在的な恐怖を植えつけられていても、女にまでは負けない――そんな
心理からだった。だが、女が再び脚を後ろに大きく振りかぶると、先ほどの激痛を思い出し、美穂は鳴いていた。
「ブヒッ、ブヒッ、ブヒイイィッ!」
見物人たちの爆笑が耳を打った。舌を噛み切りたい羞恥に頬が真っ赤に染まる。
美穂は顔を見せられず、うな垂れたまま四つん這いで這った。紐が引っ張られ、顔が持ち上がる。見物人たちの蔑む
顔をいやでも見てしまい、頭の中がグルグルと回った。卒倒しそうだった。
「ブ、ブヒイィッ……」
私は豚――。
惨めさのあまり、涙が頬を伝った。世界を手中に収めたような満ち足りた人生が一転、私は薄暗い倉庫で豚になっている。
誰にでも勝てるとうぬぼれていた天罰なの?
美穂が這った後の地面には、涙の黒いシミが点々と出来ていた。
すると、ネットの中でしか威張れないようなタイプの男が言った。
「豚になるんならさ、ブーブー鳴いてみろよ。せっかくケツ芸見せてんだから尻で」
惨めさのどん底に突き落としてやる、という命令だった。
豚の鳴きまねをさせるだけじゃ足りないの?
敗者への罰――負けた者はどんな目に遭わされても仕方ない。
「ううっ……」
美穂は這うのをやめ、腹圧をかけた。腸が蠢き、収縮し、ブピッ、ブピッと放屁が漏れる。ゆで卵が発酵して腐ったような
悪臭が鼻先に漂ってきた。
涙があふれる。
誰か同情してよ。もう許してよ。何で私がこんな目に遭わなきゃいけないの?
「何すんだよ、くせえな」『休養格闘家』が紐を引っ張る。「空気清浄機を作動させろよ」
意図を察した美穂は、無様に広がった鼻孔から空気を吸い込んだ。悪臭を食べているような嫌悪感だった。自分の放屁の
味が舌に広がる。
美穂は『休養格闘家』を背中に乗せたまま這い、『休養格闘家』の友人の前にたどり着いた。両腕は筋肉が痙攣し、
腰は重圧でズキズキと痛んでいる。
『休養格闘家』が背中から降りると、美穂は正座して地面に額をこすりつけた。
「な、生意気な態度をとっへすみませんでひた。数々の非礼をおわびしまふ……ど、どうか、ご奉仕させてくだはい」
顔を上げると、目の前に立つ『休養格闘家』の友人のズボンからペニスが飛び出し、そそり立っていた。
「誠意を持って舐めろよ」
「は、はひ」
美穂は膝立ちになると、おずおずとペニスに顔を近づけていった。
「服従のキスからだ」
美穂は思わず顔を離し、『休養格闘家』の友人を見上げた。超一流の男にした与えなかった唇でペニスにキス?
耐え難い命令だった。しかし逆らうことはできない。
屈辱に震えながら唇を寄せ、黒光りするペニスの側面にキスした。苦味が唇に付着し、嫌悪感に顔が歪む。
我慢して舌を伸ばした。苺色の舌は細かく震えている。舌先がペニスの先端に触れた。塩辛い味が広がる。覚悟を決め、
アイスキャンディーを舐めるように舌を這わせた。ペニスが濡れそぼつと、唇を開けた。
ペニスとの距離が迫るたび、心臓がドクドクとわめいていた。
男のモノを咥えるのは屈服の証――。
高級料理しか入れたことがない口に性器を入れる――。
心理的な抵抗があり、ペニスをなかなか咥えられなかった。
「早くしろよ。誠意が足りないんじゃね?」
ブタのマネ超興奮するな…やばいわ。
屁でまでブタのマネさせられて、無様なことこのうえない!
ここからの抜歯フェラも楽しみ
女のエロくて色っぽいそそる様子を描くのではなく
ただひたすらにぶざまで汚くて滑稽なまでにおとしめる様子を描くのがこのスレならではで最高だな!
今までの感じなような方向性でずっといってほしい。
しいて贅沢な要求をさせてもらうなら、美穂が落とされていてもなおもっと憎々しげに描かれているといいな。
あと、誇りを打ち砕かれた悲しみだけでなくもっと女としての恥ずかしさなどが全面に出てくると最高。
いいスレ発見!
こういう感じの小説ってありそうであまりないよね。
ヒロインがここまで惨めになるのってまず、そうない。
作者はすごいと思う!
また性悪女のみをターゲットにしているところがスッキリしていいね。
これからもチェックしよう。
作者さま、お疲れさまです。
楽しく読ませていただきました。
ひとつ、気にいらない点があるのですが、登場する他の女性も生意気なことです。
倉庫にいる女、勘違いしてるんで、そいつにも「さっきから聞いてりゃ、おまえ、勘違いしてんじゃねぇよ」と捕まえて、裸にして、レズプレイさせて欲しいです。
主催者が、実はその目的で生贄にするために参加させていたという設定だと最高です。
すべての生意気な女に、酷い目にあわせてやってくれ!
>>411 それもいいかもしれない。
美穂とレズっぽく絡ませればより幅が広がりそうだし。
美穂のことを笑ってたけど、とりあえず髪と眉を無理やり全部剃り落としてやって
歯も叩きおってやって、美穂と同じような姿にして嘲笑してからレズプレイさせるとかいいかも。
お互いのツルツル頭を舐めあうとか、お互いのひり出した卵を直接口で受けて食べるとか。
>>411 > すべての生意気な女に、酷い目にあわせてやってくれ!
それは反対。
取り敢えず悲劇のヒロインは美穂一人の方がいいと思う。
酷い目に合う女性が増えてしまうと、被害者同士で同情や慰めといった「傷の舐め合い」が可能になるので惨めさや辛さが軽減してしまう。
>>413 確かにそれはあると思う。
つらい事がある度、仲間同士で慰めあうだろうしね。
よって、俺も反対かな。
てか、今まで美人に虐げられてきたブスという設定
だろうから、あれくらい横着な方が自然な感じがする。
設定でブスとかいう話はどこにもないし、そこはある程度美人ってことにも全然できるのでは。
生意気女がやられると気持ちいいし俺は賛成。
性格の悪い女同士だと傷のなめあいより傷つけあいや貶めあい、
あるいは陵辱者たちに対して自分だけが媚びて助かろうという醜い争いも見られそうだしな。
何よりレズプレイが加わるとかなり幅が広がって良い。
うん。別の生意気な美人を連れ出して、美穂に貶めさせたりすると、興奮するかも。
傷のなめあいや同情のシーンは作者さんの力量で、出さなきゃいい。
とりあえず、倉庫の女を貶めることになっても、美穂が同情することはあり得ないから。
俺も混じってる生意気女も巻き込むのは賛成。
同情したり相手を気遣ったりするような性格の女どもじゃないしな。
レズプレイ、特にスキンヘッド舐め合いレズは見たい。
せっかくアタマで感じる美穂の設定があるしね。
スキンヘッド舐め合いレズいいね。その後生意気なスキンヘッドレズでAVに出演させられたり
人身売買させられたりするといいと思う。
スキンヘッドレズはすごくいいけど、AVや人身売買までいっちゃうとなあ。
そうなるともう日常じゃなくてそういうことされるのが当たり前の世界になってしまうから萌えんわ。
やはり今の路線でいくのがいい。
作者です。
正反対の意見があって、さあどう構成しようかとしばし頭をひねっていました。
確かになるほど、貶め合うことで傷の舐め合いは避けられるのですが、作品としては、
同じ境遇の仲間ができることで物語から漂ってくる惨めさが薄れる気もします。
倉庫でレズを始めると、命令をこなした後、ボコボコにされて放置され、帰ってからダサい格好を強制、の流れに
繋がりにくいという理由もあったりします。;
で、思ったのですが、レズは美穂の美貌が復活してからでいかがでしょう。
これだと、何か2人で勝負をさせて負けたほうは髪を剃る、とか脅して醜い争いを演じさせることもできますし、
勝ったのに許してもらえない美穂、とか、幅も広がりそうです。そのほうがちゃんとした性悪の美人を登場させられますし。
倉庫で仲間を作ると、すでに美貌を奪われている美穂は失うものが何もないので、同じ境遇の人間が増えるなら
その分惨めさが半分になって得、という状態なんですよね。;
どうせなら、美穂にも守りたいものがある状態のほうが盛り上がる気も。
それに、倉庫の『女』は347様のキャラクターなのでひどい目に遭わせるのはちょっと……という感じです。;
(ネットの掲示板で美穂との勝負を呼びかけておきながら、それで集まった観客の1人を手のひら返しで
突然リンチすると、集まった男たちが美穂以上の悪党になりそうです)
いかがでしょう、みなさん。
421 :
ま:2010/03/03(水) 09:42:50 ID:dE9vlKdZ0
なるほど、作者さんのいうことも一理ありますね。
ただ、倉庫の女を襲うことで美穂以上の悪党になってしまうというのは、違うと思うんだけどね。
休養格闘家の保護下でゆで卵を無理やりぶっこんでいる時点で、もう相当の悪党だと自覚していますし、女を襲わせても襲わせなくても大して違いはないと思います。
私があの場にいたら、美穂に徹底的に恐怖を植え付け、男たちを決して逆らえないようにするためにも、生贄を襲わせるかも。
倉庫の女が勘違い発言で、男たちの怒りを買い、美穂とキャットプレイをするハメになる。
女を倒すことが美穂の解放条件になる。
一見、格闘を知っている美穂に有利と感じられるが、休養格闘家との一戦とその後の責めでかなりダメージを受けており、また女は鉄パイプを手にとりなりふり構わずに責めてくるので、互角の戦いになると思うし、面白そう。
まぁ、これは読者としてのワガママな妄想なんで、また、347様の気持ちもあると思いますので、スルーしていただいてもいいですよ。
勝手なことをいいながらも今後の展開を楽しみにしている一読者でした。
>>420 私の作者さんの意見に賛成です。
というか、ここまでうまくみんなの意見をまとめて
いるんだから誰も文句はないのでは?
347です。
別に『女』はいくら酷い目にあわせてくれていいですよ!
というか、むしろやってほしいほうですw
それと、男たちが美穂以上の悪党になるって解釈はやっぱり作者さん美穂に感情移入してるのかな?って思いました。
このスレ的には性悪女は酷い目にあわせていいわけですから、それで男たちが美穂以上の悪党ってことはないですよね。
むしろ、そんな男たちの行動をそれでも良いと思えるくらい、美穂などの責められる女側を悪に描くのが良いかと。
とりあえず意見は出しましたが、基本的には作者さんにお任せします!
作者です。
みなさん、ご意見どうもありがとうございます。
423様、わざわざご丁寧にありがとうございます。
>というか、むしろやってほしいほうですw
そう言われると期待に応えたい! と強く思うのですけど……被害者の予定で『女』を描いていなかったので、
美穂を責めるためだけにやって来た『女』を手のひら返しで突然リンチするのには心理的な抵抗が。;
描くときは片側に感情移入して描くので、「美穂」対「責め役」のときはずっと「美穂」側に立って描いていたのですが、
「第三者の女」対「責め役」になって、「美穂」から意識をどちらかに移さなくてはいけなくなったとき、
男の私としては、どうしても同じ男の「責め役」側に立ってしまうせいかもしれません。
「被害者の性悪女」側に立って描いているときは陰湿な責めも平気で描けるんですけど、「加害者」側に立つとどうしても
ひどいことが描けないんですよね。;
最初から第2の性悪女として登場させたキャラなら平気なんですけど、今回はそうでなかったので。
すみません。
みなさん。美貌復活後には、美穂と絡む性悪女を出して期待に添えるようにしますので、どうかご容赦ください。;
美穂は覚悟を決めると、顔を近づけていき、ペニスを咥えた。苦味と悪臭が口に広がり、脈打つ肉棒が熱かった。顔を
前後にスライドさせる。唇で性器の汚れをこすりとっている気分になり、ひどく汚く思えた。
大口を開けているせいで顔の輪郭は崩れているだろう。そんな顔を見られるのは恥ずかしかった。
「たまんねえ」『休養格闘家』の友人はうめくように言った。「歯が当たらねえから巨大な赤貝に包まれてるみたいだ」
屈辱と羞恥に揉まれ、相手の顔を見上げることができない。
美穂は性器をしごき上げる道具として唇を使い、それがまた惨めさをいっそう煽り立てた。太いモノを頬張り、懸命に
顔を振る。
「んぐっ……んぐっ……」
唇を出入りするペニスは唾液にぬらぬらと黒光りし、蛇のように生き生きとしていた。
「ほら、もっと吸うようにしろよ」
命じられたとおりに従った。唇がすぼまり、頬がへこむ。
悪夢の時間を早く終わらせるために、美穂は必死で”奉仕“した。顔を前後に揺する。
「イカさなきゃ終わらねえぞ」
じゃあさっさとイってよ、もう!
心の中で怒鳴り、顔を打ち振る。膝立ちの美穂が顔を振り立てるたび、垂れた乳房がピタンピタンと揺れては腹に
叩きつけられた。
「うんぐっ……うぐっ……んぐっ……」
ああ、もういや。恥ずかしい。
ペニスが剥き出しの歯ぐきをこすりつける感覚が不快だった。いやでも歯がないことを思い知らされる。
クチュ、クチュ、クチュと淫靡な粘着音が倉庫内に響いていた。
「クソッ、下手だな。せっかく歯なしなんだから舌もうまく使えよな」
美穂はペニスを前後にしごきながら、口の中で舌を蠢かせた。しかし初めてのフェラで勝手が分からない。男を
気持ちよくさせる術が分からない。
「もういいよ、俺が使ってやる」
『休養格闘家』の友人は美穂の頭を両側からガッと掴み、腰を突き出した。そそり立つペニスが根元まで突き刺さり、
先端が喉の奥まで侵入してきた。
「――んぐっ!!」
咽びながら両手で『休養格闘家』の友人の太ももを押し、顔を離そうとした。しかし彼は喉の奥にペニスを挿したまま
腰を回すようにした。
「ゲボッ……」
「お前みたいな女、男を満足させることもできなかったら価値ねえだろうが」
『休養格闘家』の友人が腰を前後に激しく振り立てた。陰毛が唇に叩きつけられる。
パンッ、パンッ、パンッと肉を打ち合わせる音が鳴る。口のレイプだった。
「おお、これ最高! 柔らかい肉に包まれて超気持ちいい」
苦しいだけだった。喉の奥がえぐられ、嘔吐感が突き上げてくる。
「も、もうやめ……んぐっ……やめ……んぐっ」
何分も口を犯された。
歯さえあれば噛み切ってやるのに! そうして私を嬲ったことを後悔させてやるのに!
突如、ペニスが波打ち、膨れ上がった。
「ひっ……」
「おら、全部飲めよ!」
ペニスが弾み、生暖かい液体が口内に噴出した。歯ぐきや舌の裏側にもザーメンが絡みつき、生臭い悪臭が鼻をついた。
断続的に性器から精液が吐き出される。
いやっ、き、汚い!
「1滴でもこぼしたらやり直しだからな」
そんな――。
美穂は吐きそうになりながらも、ザーメンを飲み下した。生暖かいドロドロの液体は喉にへばりつき、臭みを放っていた。
食事が通る場所を汚されたショックに美穂は呆然となった。胃に収まった精液はどうなるの? 消化され、私の身体の中に
吸収されるの?
私は身体の中に精液を染み込ませた女――。
風俗嬢のように落ちぶれてしまった。
「さあ、2人目だぞ。ほら、豚になれ」
『休養格闘家』に命じられると、美穂は渋々四つん這いになった。背中に乗られ、華奢な腕が折れ曲がりそうになる。
それでも耐え忍び、這った。
1メートル進んだところで鼻フックが持ち上げられた。豚鼻が大きく縦に広がり、「んがっ……」とうめき声が漏れる。
「ブ、ブヒイイィッ……」
条件反射で鳴いてしまったことが恥ずかしくてたまらなかった。
豚のモノマネなんてもういやあっ!
1歩、2歩、3歩と這うたび、胸から垂れ下がった乳房が揺れる。
「尻を振りながら這ってみろ」見物人から命令が飛ぶ。
美穂は白桃のような形のいいヒップをクイッ、クイッと左右に振りながら這った。鼻フックが引っ張り上げられると、
豚面で「ブヒイッ……」と弱弱しい鳴き声を漏らす。
は、恥ずかしすぎる。もう女として生きていけない。望むものなら何でも手に入り、高台から他人を見下ろすような
人生を送っていたのが夢のようだった。ダサい顔の男を鼻で笑い、スタイルの悪い女を見下し、超一流の勝ち組にだけ
”上品なお嬢様“として接してきたのに、その私がこんな――倉庫で豚のまねをしているなんて。
以前の私を知る者たちに見られたら自殺ものの醜態だ。
美穂は2人目の男の前まで這い進んだ。
女王として倉庫に颯爽と登場したとき、金的を蹴り飛ばした男の1人だった。不快な顔をしていたから最初に蹴り上げた。
二度と男性器が使い物にならなくなるよう思い切り蹴った。面白半分で倉庫に来たことを後悔させるため、金的を潰して
やろうと思った。見物の代償にオカマとして残りの数十年を送らせてやるつもりだった。
その男のペニスを咥えなきゃいけないなんて。
『休養格闘家』が背中から降りると、美穂は土下座してツルツルの頭を地面にすりつけた。
「お、男の大事な部分を蹴ってしまひ、本当ひ……申し訳ありませんでひた……お、お詫びに誠心誠意、ご奉仕さへて
いただきまふ……」
「女の癖に男に手を上げやがってよ」男は仰向けに寝転がると、「さあ始めろ」と言い放った。
奴隷のように這いつくばって奉仕しろということか。
美穂は口惜しさを味わいながらも、四つん這いで男の下半身まで這い進み、ズボンのチャックを下ろした。下を向いた
茶色いペニスが飛び出す。勃起していない。
こんな格好で咥えろっていうの?
美穂は仕方なく顔を下ろしていった。桃色の唇を開き、男性器を咥え込む。歯のない柔らかい口の粘膜で肉棒を包み、
舌を這わせながら顔を上下に振る。
「んぐっ……ううん……」
1分も経つと、チュパ、チュパと唾液が絡み、ペニスがそそり立ち始めた。
「確かに歯なし女のフェラはすげえや。”普通の女“とは段違いだな」
私は普通の女以下――。
口を性欲処理の道具に使われる女――。
美穂は惨めさを噛み締めながら、頭を振り立てた。真正面を向いた鼻の穴を陰毛がくすぐる。ペニスが出入りするたび、
口内粘膜が削られる。
「うんぐっ……うぐっ……」
口を開けっ放しているせいで顎がだるくなってきた。
ペニスが脈打ち、白濁液が喉の奥に叩きつけられた。
「ううっ……げほっ……」
薬味の苦さが舌に広がり、ザーメンが口の粘膜に絡みつく。ペニスから口を離すと、ザーメンがネバネバと糸を引き、
性器の先端と唇に白い橋がかかった。精液の筋がよだれのように顎を伝う。
美穂は吐き気を催しながらも、男の排泄物を飲み下した。
2人目が終わり、3人目も終わると、今度は女だった。
「あたしはしゃぶらせるものなんてないんだけどー。あ、じゃあ代わりにあたしのお尻の穴舐めてよ。痔で最近あまり
拭けてなくて困ってたのよ」
信じられない命令に美穂は固まった。肛門を舐めろっていうの? ペニス以上に汚らしい排泄器官を――。
「ちゃんと全部舐め取って綺麗にしてよね!」
女がショーツを下ろしてスカートをまくりあげた。
美穂は躊躇しながら両手で女の尻たぶを掴むと、左右に割り開いた。小豆色の肛門があらわになる。尻の穴を間近で
見たのは初めてだった。汚らしさに吐き気すらする。
何で私がこんなことをしなきゃいけないの? 昔の私が大輪の薔薇なら、この女は野良犬に踏みにじられるような雑草。
そんな女の尻に口づけするだけでも我慢ならないのに、肛門を舐めろですって?
男が隣にいなきゃ私に意見も口にできないような弱い女の癖に――。
美穂は屈辱に震えながら、女の肛門に舌を這わせた。腐った魚と卵をすり潰してこすりつけた錆びだらけの鉄を舐めて
いるような味がした。
以前の足攻めはいつぐらいになりますか?
431 :
347:2010/03/05(金) 15:01:18 ID:xsgTyj+50
作者様、把握いたしました。
美貌復活後楽しみにしています!
その時のスキンヘッドレズについては、美穂は頭はつるつるにされていても顔はいじられていないほうがいいですね。
顔まで醜くされていると未練がなくなるというか
神だけ奪われている状態のほうがそのことについての苦痛や悲しさ恥ずかしさは引き立つと思いますので。
何にせよこれからも期待しています!
同じ女では特に比較して見下していただろうからこれは屈辱すぎる!
完全敗北宣言に等しいな。
顔面に屁でもかましてやって、苦しがるのを嘲笑してほしい。
顔は戻してほしいけど歯と髪は入れ歯とカツラがあるからね
歯と髪も戻さないと完全復活にならないから自信も回復しないよ。
歯抜けとスキンヘッドはイヤだって感覚はないと萌えないし
復活すればせっかく戻ったそれをまた奪う楽しみもできる。
何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ。以前なら誰もが私の機嫌を取るために聞き飽きた褒め言葉を口にしながら
擦り寄ってきたのに。
屈辱を味わいながら舌先で肛門を舐めているときだった。突然尻の穴が蠢いたかと思うと、ブホッと放屁が顔を襲った。
悪臭を思い切り吸い込んでしまい、美穂はむせて咳をした。
く、臭い……な、何てまねするのよ!
男たちが大笑いした。オナラした女を笑っているのではなく、食らった美穂を笑っていた。下品なまねをしたほうじゃなく
されたほうが笑い者になるなんて。
自分の立場を思い知らされた気がした。同性にも蔑まれる女――。
男たちがいなかったら、こんな女、平手打ちした後、その低い鼻をフライパンで叩いたみたいに平べったくしてやるのに。
美穂は女から許しを貰えるまで舐め続け、再び四つん這いになって次の男のもとへ向かった。
屈辱の“奉仕時間”が終わると、1人の男が進み出てきた。
「ネットの動画でスキンヘッド撫でてオナニーで演技イキしてたろ、おめー? どうせ男にやられるところでも
想像してたんだろうから叶えてやろう。みんなでそのツルツルの頭撫でたりピシャッピシャッ叩いたり舐めたり
してやるから、『私は恥ずかしいハゲ女です! こんなツルツルの癖に淫乱です! ツルツル頭撫でられてイキますー!』
って叫びながらアソコとケツ自分でえぐりまくってイケ」男は見下した目で吐き捨てた。「潮吹きか失禁失神でも
見せてみろやハゲ」
ハゲ――病気にでもならないかぎり、女なら決して浴びせかけられることのない中傷。そんな言葉をぶつけられるたび、
心に鋭い痛みが走った。ブサイクな人間の悪口を言って笑ったことはあっても、笑われたことはない。試合に負けて美貌を
奪われるまでは。
美穂は思わず男を睨みつけた。
私にどれだけ恥を掻かせれば気がすむの?
こんな連中、以前なら高級和菓子にたかるハエのように扱ってきた。でも立場は逆転してしまった。地面に叩き落されて
潰れた和菓子は人間に見向きもされず、ハエや蟻の餌になる。そういうことなのだろう。
「いいね、いいね!」男たちがはしゃいだ。「オナニーショーの開演、開演!」
高校のころ女友達が言っていた。AVでも、撮影のときはその行為が恥ずかしくないと女優に思わせる空気を作る配慮を
するという。それでもいやなのに、私に生き恥を掻かせてやろうと目をギラギラさせている連中の前でオナニーなんて
できるわけがない。
「早くやれよ」『休養格闘家』が威圧的に命じた。「顔面潰されたくないだろ」
美穂は唇を引き攣らせた。諦めて言いなりになるしかない。逆らっても痛い目に遭わされるだけ損だ。男なんて私の
足元にひざまずいてご機嫌窺いするだけの存在だったのに……。
「頭を触りやすいように座った姿勢でしろよ」
美穂は観念して腰を下げると、ためらいながら美脚をM字に割り開いた。和式便器に跨っている姿勢だ。屈辱と羞恥の
あまり、唇の左端がヒクヒクと痙攣している。抑えようとしても抑えられない。
恥ずかしすぎる。こんな格好でするなんて信じられない。一人で密かにするときに寝転んで慰めるのと違って、
こんなの、ただ見世物になるための格好じゃない。
自分の顔が紅潮するのが分かった。おずおずと指を性器まで下ろしていくと、懇願するように男たちを見上げた。本能的に
許しを貰おうとしていた。だが、男たちは痴態を笑う準備をしているようだった。
美穂は口の端を痙攣させながら、右手の中指を乾いた膣に挿入した。
「うっ――」
指先を奥まで差し入れると、手の平にビラビラのラビアと肥大化したクリトリスが押し潰される不快な感触があった。
指で円を描くようにするたび、陰唇と陰核がグニュグニュと手の平の中で変形した。
自分自身で性感を高める行為を恐れるように探り探りのオナニーをはじめると、口の端の痙攣がますます強くなった。
屈辱と羞恥に赤らんだ顔が引き攣る。AV女優がビデオの中で恥ずかしい行為を強制されていたとしても、こんなふうに
唇の横が引き攣ることはないだろう。本物の惨めさと恥ずかしさを味わうと、こんなふうになるものなのか。
左手を尻のほうから回し、中指を肛門に触れさせた。不浄の排泄器官。直接触るだけでも嫌悪感がある。それなのに
挿入しなきゃならないなんて。
ゆで卵が取り出せずにパニックになったとき、人目もはばからず肛門をまさぐったことは忘れていた。
美穂は覚悟を決めて指の先端を押し入れた。ゆで卵が出入りした尻の穴は緩んでいて、容易に根元まで埋没した。
直腸内を撫でるように指先を回すと、奇妙な感覚に「ひうっ……!」と声が漏れる。
全裸の美穂はM字開脚の姿勢で身体の前後から腕を回し、性器と肛門に中指を突っ込んで掻き回していた。
快感の小波は屈辱と羞恥の大波に飲まれ、舌を噛み切りたい惨めさが強まっただけだった。口の端に合わせて吐息も
痙攣している。
「ううっ……くうぅ……」
ああ、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。惨めすぎる。
美貌が健在で男たちの目を釘付けにし、興奮させているのだったらどれだけ救われるか。でも、男たちを
興奮させるのではなく、笑われるという現実。女としてこれほどつらいことはない。
美穂は両手の中指で二穴をまさぐり、懸命に快感を得ようとした。屈辱の時間は1秒でも早く終わらせたい。指を
出し入れする速度を速める。膣液と腸液が指に絡みつき、クチュ、クチュと淫靡な音が鳴る。
次第に官能の小波が身体を襲ってきた。
「んっ……あふうぅ……」
抑えようとしても抑えられない濡れた吐息が漏れる。
「色っぽいとか思ってんじゃねえよ、豚鼻のハゲ女!」