コンクリートがすっかりと固まったね。君の体を支えていた
仮組みのパイプをはずすよ。
ギプスの手と足の先から少しだけ出た君の指が、時折くねくねと
動き、君が生きていることを示してくれる。白魚のような君の手の
指、豆粒のような君の足の指。そっと触れると、君の温かみが
伝わってくる。君と触れ合える、最後の接点。
つらいけど、約束だから、手の指と足の指を、ギプスで包むよ。
これで、君は完全に石膏で覆われる。
これで君を、全く見ることができなくなる。
これで君は、完璧なレリーフになる。
僕を除いて、誰も、君の居場所を知る者はいない。
誰も、君を、僕から引き離せるものはいない。
君は、死ぬまで、僕のそばにいることができる。
これが、君の望みだったね。君は、今、幸せかい?
はずしてあった腰板を、君がいるところを除いて元に戻そう。
腰板から上は、漆喰を塗りなおすよ。壁を埋めたコンクリートの
上も、君の体の上も、継ぎ目が分からないように、漆喰を塗ろう。
これで、もう君は、完全に壁の一部だね。
レリーフのある壁の完成だ。
レリーフになった君の姿は、向かい側にある大きな鏡で見る
ことができるはずだ。どう?自分の姿は、気に入ったかい?
僕はずっと君のそばにいて、君の世話をし続けるよ。君が
一日でも長く生きていられるように。
君のバイタルサインの消えるその日まで。
〜 Fine 〜
ご支援ありがとうございました。
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