たとえ胃の中水の中−被食系妄想・12(胃に)優しく
昼休み、キョンは古泉に「話がある」と言って裏庭に呼び出された。
キョンは自分しか呼ばれないと言うことは恐らくハルヒのことで、どうせまたろくでもない
ことに違いあるまいと思っていたが案の定、裏庭でキョンを待ち受けていた古泉は
とんでもないことを言い始めた。
「このところ涼宮さんのフラストレーションが急激に蓄積されているせいで、また
異常空間の入り口が発生してしまいましてね…しかも、今度は我々全員で塞ぎに行くと
言う訳にも行かない場所なんですよ」
キョンは古泉が何を言いたいのかよくわからなかったが、古泉は「百聞は一見に然ず」
とかなんとか言いながらSOS団のサイトからプリントアウトしたハルヒの写真を取り出し、
一点を指で指し示した。
「ここです」
「!?……涼宮がどうかしたのか?」
「だから、異常空間が発生してるのは、涼宮さんの“ここ”なんですよ」
「わからん。もっとハッキリ言ってくれ」
「つまり、涼宮さんのお腹の中に異常空間の入り口が発生してるんですよ」
「はあ」
そりゃいつぞやのカマドウマ退治みたいにキョン・みくる・長門・古泉の4人で塞ぎに行く
なんて出来ないだろう。どっかの漫画みたいに小さくなって体の中に入れるとでも言うの
なら話は別だろうが。
「今は発生してまだ日が浅いので涼宮さんも自分の体の中で異常が起きていることには
気付いていませんが、あと1週間もすれば入り口が拡張してこの間のカマドウマみたいな
化け物が涼宮さんのお腹を食い破ってオギャー、なんてことも」
「ちょっと待て。そうなったら、その、涼宮は死ぬんじゃないのか?」
「多分そうでしょうね。そして、その時は恐らくこの世界も破滅を迎えることに」
全く冷静さを欠くこと無く恐ろしげなことをさらさらと言ってのける古泉の態度に背筋が
寒くなる思いを我慢しつつ、キョンは問い直した。
「涼宮を……もとい、世界の破滅を防ぐ方法は?」
「我々の技術を持ってすれば簡単です。しかし、涼宮さんに怪しまれてもいけない。そこで
あなたの出番と言うことになる訳です」
キョンは「あなたの出番」の中身を知らされる前に途轍も無く嫌な予感がした。古泉は
キョンのそんな反応も想定の範囲内と言わんばかりに、またとんでもないことを言って
のけた。
「あなたには選ばれし『ミクロの勇者』となって涼宮さんの体の中に入り、異常空間の
入り口を塞いで来て欲しいのです」
「ちょっと待て。そんな漫画みたいな技術が有るかどうかは問わない。多分、有るんだろう。
だが、どうして小さくなって涼宮の体に入るのが俺じゃなきゃいかんのだ。お前や長門、
それに朝比奈さん……は居ても戦力になるかどうかわからんが…‥が付いて来た方が
早く片付くだろう」
「だから、我々が一度にまる一日も姿を消すと涼宮さんに怪しまれるじゃないですか。
その点、あなた一人だったら涼宮さんはいつものサボリだと思って怪しむことも無いですし
適任なんですよ」
「だが、俺はお前や長門みたいに何か能力を持ってる訳じゃないぞ」
「ご心配なく。我々も外からサポートします」