絶望のドン底に突き落とされた磔台のキューティーは、まるでこれから死刑執行され
る囚人の様に怯えていた。
(ああ、誰か、誰か、わたしを助けて!)
もっとも、これから髪を切られて丸坊主にされる運命の彼女にとっては、女の命とも
言われる自慢の黒髪を失うことは、死刑同様かもしれなかった。
コング松本は、キューティーの十字架の右に置かせた脚立を登っていった。そして、
磔で身動きとれないキューティーに近づくと、
「フフ、どうだいキューティー、今から丸坊主にされる気分は?」
と馬鹿にしたように尋ねた。これに対して、既に戦う気力を完全に奪われた元女王は、
涙目になって、哀願した
「お願い。助けて! みんなの目の前で髪を切られて坊主にされるなんていやっ! せ
めてこっそりと切ってちょうだい!」
この期に及んで、誇りを捨て見苦しく助けを請うアイドルレスラーの姿を見たコング
松本の口元に嘲笑が浮かんだ。
「バカめ! 今までチヤホヤされてさんざんいい思いしてきやがったくせに、こうなっ
た途端、助けてくれとはな!」
このキューティーの醜態は、コングにとっては更なるキューティーいびりへの原動力
にしかならないのであった。妖精の頭頂部の頭髪を乱暴に引っつかんで引っ張った。
「い、痛い!」
思わずキューティーは顔をしかめる。そしてコングは引っ張った髪に鋏を入れて切り
落とした。そして頭頂部の切り落とした髪の根元あたりをバリカンで刈っていった。
「いやっ! いやっ!」
嫌がるキューティーを一顧だにせず、コング松本は大胆にバリカンを入れていった。
すると、頭のてっぺん辺りの髪の毛だけがきれいになくなってしまったのだ。
「ギャハッハ、まるでカッパじゃん!」
カッパ頭にされたキューティーを見た観客から残酷な笑いが漏れた。彼女の美しいル
ックスと日頃のお高い態度とのコントラストが鮮烈すぎた。
「フフフ、こりゃ傑作だ!」
コングも笑いころげた。
「それ! 本人にも見せてやれ!」
コングが指示を飛ばした。すぐに脚立がもう一台用意された。コングと反対の方から
極悪軍団の若手が一人、大きな鏡を持って上がっていく。キューティーの眼前に鏡が突
き出される。鏡に彼女の顔が映し出された。
「いやああああああっ!」
マットの妖精の悲鳴が響き渡った。
鏡に映った自分の惨めなカッパ頭を見せつけられたキューティー浅尾は、大変な衝撃
を受けた。
(こ、これがわたし?)
自分の美しさを確信し、揺るぎない自信の持ち主であった彼女のプライドがガラガラ
と音を立てて崩れていった。
「ああっ! ああ……」
キューティーの目からは大粒の涙がこぼれ、号泣した。これまでどんな時でも決して
沈着冷静さを失わなかった彼女が初めてファンの前で見せる姿だ。
だが、嗚咽を続けるキューティーに観衆からの非情な失笑が容赦なく浴びせられたの
であった。
「キャハハ、何よあの頭! 落ち武者みたいね」
「笑っちゃうわ、普段カッコつけてるから」
この観衆の笑いと野次とがキューティーの心を更に深く傷つけた。だが、これでまだ
終わりではないのだ。コングはキューティーの残った髪に更にハサミとバリカンを入れ
て行く。