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☆☆大ピンチ! キューティー浅尾☆☆ :
コング松本の執拗な反則股間攻めでキューティーは肉体的、精神的に大変なダメー
ジを負った。これにはさすがにブレイクタイムが取られた。
痛めた股間を押さえて悶えながらも、浅尾は必死に逆転の手を考えていた。
――コングは、わたしの弱点は知り尽くしている。わたしに勝つためにはスピードを奪う
ことだ。スピーディーな動きを封じてしまえばスタミナに勝るコング有利の展開になって
くる。このラフファイトもそのための布石なのだ。
必勝の策として繰り出した奇襲先制攻撃もうまく凌がれてしまった。もはや、キューテ
ィー浅尾にはコングを倒すための技は何も残っていない。
――どうしらいいの? 何か手は?
焦るキューティーの脳裏に何かが閃いた。
――そうだ、目には目をだ。汚い手をやられっぱなしでいる事はない。反則には反則で
お返しするのだ。
だがチャンピオン時代のキューティー浅尾は、汚い手は絶対使わないクリーンファイト
で知られていた。無敵の美しい女王には反則などふさわしくない。
――もし、わたしが反則なんかしたら、ファンはどう思うだろう?
そこで頭を振った。ダメだ、こっちは崖っぷちまで追い詰められているのだ。このまま
いけば確実に負ける。手段を選んでいる余裕なんかない。
ようやくキューティーの股間の痛みが薄らいだところで、試合が再開された。コング松
本は、浅尾を捕まえようとして近づいてきた。そこへ前へ踏み込んだキューティーはコン
グの股間を狙って利き脚の右脚を蹴り上げたのだ。アイドルの放った反則キックはもろ
に命中した。
これには、観客たちは驚愕を隠せなかった。
「股間蹴り! 反則じゃん」
「あの誇り高いキューティー浅尾が反則を犯すなんて!」
会場はどよめいた。股間蹴りをくらったチャンピオンは派手にひっくり返った。そして、
自分の股間を押さえながら上体を起こし、顔をゆがめて
「キューティー! 貴様、こんな卑怯なマネを……」
自分の事は棚に上げて抗議するかに見えたのだが、突然
「なーんちゃって」
と、何事もなかったかの様におどけて立ち上がった。倒れこんで右脚を痛がっている
のは挑戦者の方だった。
コングは嘲ったかの様にニヤリと笑うと
「バカめ! キューティー! お前がそんな反撃に来ることくらいお見通しさ! あらか
じめファウルカップをつけといたんだよ。それも特別製の硬いやつだ。ククク、脚は大丈
夫かい、折れたかもな」
キューティー浅尾の決死の反撃もコング松本には読まれていた。鋼鉄製の特製ファ
ウルカップ。キューティーは鉄の球を蹴ってしまったようなものだった。脚が折れてはい
なかったが、またしてもマットのアイドルはのた打ちまわるのだった。
――そんなっ! わたしが反則をする事まで読まれてたなんて……
惨めだった。脚の痛みよりも、精神的なダメージの方が大きい。これまで決して反則
などすることがなかったのだ。クリーンファイトに徹するとの誓いを自ら破り、悲壮な
覚悟を決めてまで犯した反則攻撃だった。それが相手に読まれていて、不発に終わっ
てしまうとは。
「やだっ!、キューティーが反則を犯すなんて!」
「汚いマネするキューティーなんて見たくない!」
「ガッカリしたわ、キューティーには」
浅尾の反撃は空振りに終わったが、彼女の懸念の方は的中した。少女ファンたちに
とって、ヒロインの犯した反則行為は大変な衝撃だった。キューティー浅尾は絶対に汚
い反則などしない、というのがファンにとっても誇りだったのだ。元女王は最も熱心な崇
拝者たちからも見放されつつあった。
それでも、試合は続いていく。キューティーの動きは完全に鈍くなってしまった。恐れ
ていた接近戦に持ち込まれる。これからコング松本の猛攻に耐えねばならない。