――ああ、ダメだ。 もう技がない……
勝ちムードから一転、キューティー浅尾は奈落の底に突き落とされてしまった。必殺の
フライングボディアタックがまったく通用しなかったのは大変なショックだった。焦って
早く出しすぎてしまったのだ。
彼女は勝負に勝つのに絶対に必要な自信を失ってしまった。まだ試合は終わってはいな
かったが、既に負けたような精神状態に追い込まれた。こんな時は、本当に負けてしまう
ことが多いのである。
「さんざんやってくれたな。この借りは返すぜ」
キューティーの必殺技を軽々と返したチャンピオンは、残忍な表情を浮かべて獲物の方
ににじり寄っていった。コングはキューティー浅尾の身体を高々と持ち上げると、彼女を
トップロープの上にまたがらせた。
――な、何をする気!?
不安げに怯えた顔のキューティーに構わず、、コングは場外にいる極悪軍団の一人に彼
女の左脚を持たせ、自分はリング内で右脚を掴んだ。そして両方の脚を思い切って引っ張
ったのである。先ほどの肛門攻めに続き今度は股間攻めだ。
「いやあああああっ!」
美しい妖精ががトップロープにまたがったまま、絶叫を上げて悶絶する。当然の事なが
らこれは反則行為だ。
「反則じゃない!」
「やめさせてええっ!」
浅尾の少女ファンたちが、憤ってコング松本にブーイングを浴びせながら抗議の声を上
げた。
しかし、男性客の多くが、トップロープにまたがったビキニパンツのアイドルが、美貌
を歪め悲鳴を上げて悶える姿に、SMプレイの三角木馬での美女拷問を連想して、被虐心
を満足させていた。
悪党チャンピオンはどこ吹く風だ。カウント5以内なら反則も認められているのがプロ
レスである。カウント4で手を離し、キューティーはようやくロープ地獄から逃れること
ができた。
だが、コングのダーティーな攻撃はなおも続く。キューティーの両脚を引きずってコー
ナーの鉄柱まで引っ張っていく。そして自分は場外に出ると、キューティーの両脚の間に
鉄柱を挟ませておいて、両足首を掴んで引っ張ったのだ。
「きゃああああっ!」
卑劣な鉄柱股間攻めに耐えられず、キューティーの再びの悲痛な叫び声が響き渡った。
スーパーアイドルはリング上で股間を抑えてのたうち回った。いくら反則攻撃を受けたと
はいえ、こんなにぶざまでかっこ悪い姿を見せるのは初めてだった。
「ああ……」
「しっかりして、キューティー!」
前回タイトルを奪われるまでは、常に気高く凛とした姿しか見せてこなかったヒロイン
のみっともない様子に、ファンからも落胆の声が聞こえてきた。