無敵無敗女王のピンチ・まさかの惨敗

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248名無しさん@ピンキー
 試合当日、場内は異様な熱気に包まれていた。マットを支配する邪悪な悪党王者
とタイトルを奪われた美しいアイドルのリターンマッチ、しかも、負けた方がリング上
で丸坊主にされる、というシチュエーションがファンの関心を倍増させていた。
 ただし、ファンの大多数はキューティーびいきである。みな極悪軍団の傍若無人な
振る舞いには辟易していた。特に熱狂的少女ファンたちは、自分達のヒロインの完全
復活を固く信じていた。
 しかし、不心得な男性ファンの中には、プロレス美女キューティー浅尾の再度の恥
態を期待して来ているものもいるのだった。
 キューティーとコングはリング上で対峙した。浅尾は女らしいピンクで揃えたタンクト
ップとビキニパンツだった。女性美が強調された雌豹のようなセクシーな姿だ。
だが、表情には悲壮感が漂い強張っていた。もし負けたら失うのは髪の毛だけではな
い。負け方によっては引退も覚悟しなければならない事態に追い込まれるかもしれな
いのだ。
――勝つのよ、絶対勝つのよ!
 そう自分に、何度も言い聞かせてはいたが、こみ上げてくる不安を抑えることがで
きないのだった。
 チャンピオンの方はキューティーとは対照的に露出の少ない脚までタイツに覆われ
たワンピースだった。不敵な笑みを浮かべ、余裕しゃくしゃくの様に見えた。キュー
ティーの力はすでに見切っているつもりなのか。
 選手紹介の後、遂に試合開始のゴングが鳴らされた。キューティー浅尾の運命を
決める試合が始まったのである。
249名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 19:20:44 ID:AXHK+O9t0
――短期決戦よ! 勝つにはそれしかない!
 ほとんど相手の事を知らないまま敗れ去った前回の試合と違い、今度はキューティ
ー陣営もコング松本の事を研究していた。
 無尽蔵のスタミナを誇るチャンピオンに勝つには、機先を制する先制攻撃で、短時
間で決着をつけるしかないというのが結論だった。試合が長引くほど不利になるのは
間違いない。しかも組み付かれてもダメだ。離れて得意の空中殺法で勝負を賭けるし
かない。
「いくわ!」
 ゴングが鳴るなり、こっちに向かって突進してくるコングに向かって、キューティー
が飛んだ。強烈なジャンピングニーアタックだ。
「グワッ!」
 これがクリーンヒットして、珍しくチャンピオンがダウンした。更に立ち上がってくる所
にドロップキックを浴びせた。これでもう一度ダウンを奪うと、ドロップキックの二連発
が決まった。
(いけるわ!)
 失っていた自信が蘇って来た。これなら勝てるという手応えが掴めたのだ。
「キューティー! キューティー!」
 場内はキューティーコールに包まれた。アイドルの繰り出す華麗な連続空中殺法
で観客は沸きかえった。
 このチャンスに一気に畳み掛けるしかない。倒れたコング松本にストンピングの嵐
を浴びせる。そして上体を起こして背後に回る。自らの脚をコングの首に巻きつけた。
首四の字固めである。
「グワッ!」
 コング松本が顔を歪めて苦しむ。キューティーの作戦がズバリはまって有利な展
開に持ち込んだ。超満員の観客は元女王のタイトル奪還を確信した。
250名無しさん@ピンキー:2007/11/21(水) 19:22:30 ID:AXHK+O9t0
 試合が始まって、それほど時間は経ってないが浅尾にとって最大の勝機が訪れた。
これを逃してはならない。ここを先途とばかりに、コングの首をギュウギュウ締め上
げる。リングの中央でロープブレイクもままならない位置だ。キューティーに最高の
チャンス到来。
「さあ、さっさとギブアップして楽になりなさい!」
 と余裕の浅尾。
「ヘイ、コング、ギブアップ?」
 レフェリーの問いに、悪党王者は
「ノー! こんな技利くか!」
 とギブアップを拒否した。しかし、顔面は紅潮して外す事はできない。この首四の
字が効果を上げているのは明らかだった。もはや勝負の行方は見えたかに思えた
時である。コング松本はレフェリーの死角を突いて、見えないようにキューティーの
尻に自分の手を伸ばした。すると、次の瞬間
「きゃああっ!」
 と悲鳴を上げて、キューティー浅尾はせっかくの技を解いてしまったのである。何
が起こったのかは観客にも見えなかった。
「ううっ! 卑怯なマネを……」
 アイドルは、お尻を押さえて痛がった。実はコングは苦し紛れにキューティーのビ
キニの上から彼女のアナルに指を突っ込んだのである。人間は肛門を鍛えることは
できない。これはプロレスの神様と言われるカール・ゴッチが密かに得意としていた
裏技・高等反則だった。
「よくもやってくれたな」
 ようやくダメージから回復したコング松本が立ち上がった。こうして、キューティー
浅尾に訪れた最大かつ最後のチャンスはあえなく失われたのである。