無敵無敗女王のピンチ・まさかの惨敗

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234名無しさん@ピンキー
 ある日の試合場、メインイベントはコング松本の防衛戦だった。またしても圧倒的なパワ
ーと冷酷なラフファイトでもって、キューティーの後輩格のベビーフェイスのレスラーを叩き
のめして防衛記録を伸ばしたのだ。
 極悪軍団の取り巻きに囲まれて、チャンピオンベルトを誇示していた時である。突然、観
客がざわめいた。リングサイドに突然、キューティー浅尾が姿を現したのである。そして、
マイクを持ってリングに上がると、コング松本を指差して言い放ったのである。
「極悪軍団、これ以上の狼藉はわたしが許さないわ! そのベルトは本来わたしの物よ。
コング、わたしの挑戦を受けなさい!」
 会場が静まり返る中、コング松本はひるむ事もなく、ニヤリと笑って
「相変わらずこしゃくな女だね。あれだけやっつけられて、まだ懲りてないらしいな」
 と言い返し、意外な提案をした。
「だが、お前との決着は既についてる。挑戦を受けてほしいなら、ただじゃ面白くないね。
敗者髪切りマッチだ! これなら受けてやる」
 会場はウォー!! とどよめいた。
「うっ!」
 キューティーは、一瞬たじろいだ。敗者髪切りマッチとは、お互いの髪を賭けて戦う試合
で、負けた方は、問答無用でリングの上で丸坊主にされてしまうのである。

235名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 17:28:49 ID:N72N1WmV0
 髪は女の命とも呼ばれている。浅尾にとっても、さらさらした黒いロングヘアーは常にケ
アーを欠かさないほど大切にしていた。自分を崇めるファンの目の前で、それを切られて
しまうなど、絶対に許されない。アイドルの動揺を見透かしたコングは、たたみ掛けた。
「どうして、逃げるのか? ハハハ、尻尾を巻いて逃げ出した方が、卑怯者のお前にはお
似合いだよ!」
 そして、極悪軍団と共にガッハッハと、嘲笑を浴びせた。カッとなったキューティーは、
「いいわ、受けてやる! 敗者髪切りマッチで勝負よ!」
 と自らむざむざ罠にはまるかのように受けてしまった。
「フフフ、いいだろう。タイトルマッチは三日後だ。逃げるなよ、キューティー!」
 不敵な笑いを浮かべたコング松本は、極悪軍団を引き連れて、興奮状態に陥る試合場
から引き上げていった。
「キューティーさん、いいんですか、あんな勝負受けて?」
 心配した付け人や後輩レスラーたちが近寄ってきた。
「大丈夫よ、勝てばいいんだから」
 気丈に返事をしたが、内心は不安で一杯だった。勝負は既に始まっているのだ、これは
心理戦、場外戦なのだ。負けた方が髪を切られる。対等な様でそうではない。
 ヒールで不細工なコング松本と比べると、ベビーフェイスで、アイドル顔のキューティー浅
尾の方が、負けた場合のダメージは遥かに大きい。それを承知で、キューティーに心理的
重圧をかけるために、敗者髪切りマッチを受けるように追い込んだのだった。
――なんて、狡猾なの……
 元女王は歯噛みしたが、もう遅かった。

236名無しさん@ピンキー:2007/11/19(月) 17:30:54 ID:N72N1WmV0
「コング松本とキューティー浅尾、互いの髪を賭けて対決!」
 翌日のスポーツ紙はキューティーのリターンマッチを大々的に報じた。前回の悲惨な試合
の事もあって、試合は異常な関心を呼び、入場券はプラチナチケットと化した。
 そんな中、当のキューティー浅尾はこれまでに類例のないプレッシャーとも戦わなければ
ならなかった。勝てば、自分が再びチャンピオンに戻れる。だが負ければ、自分を応援して
くれるファンの前で丸坊主にされてしまうのだ。
――そんな事、ありえない!
 頭を振って懸命に否定した。前回の試合に負けて以来、必死で特訓してきたのだ。この試
合のための秘密兵器も用意している。勝てないはずはない。
 だが、あの超人的なパワーの持ち主のコング松本に果たして通用するのか? 不安を完
全に拭うことはできなかった。
――勝てばいいのよ、だけど……
 試合前のイメージトレーニングで、常に自分の勝利を思い浮かべてきたキューティーだっ
たが、今回は、自分が負けて黒髪を切られて丸坊主にされるネガティブイメージばかりが浮
かんできた。
――だめよ! こんな弱気でどうするの!
 キューティーは自分を叱咤したが、不安を払拭できないまま、とうとうタイトルマッチの当日
になってしまったのである。