【機械化】サイボーグ娘!十三人目【義体化】

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1名無しさん@ピンキー
サイボーグ娘に萌えるスレです。
人工皮膚系・金属外骨格系どちらも(それ以外も)OKです。
事故や病気で体を失って機械化した娘、特殊な作業に特化した体を得る為に機械化した娘、萌えるじゃないですか!
無理やり機械の体に改造されてしまった娘も、自分の機械の体で悩む娘も、能天気な機械化娘も、萌えるじゃないですか!
そんな趣旨のスレです。

アンドロイド娘とはかなり方向性が異なるので別スレにしてみました。
アンドロイド娘は完全人工な娘、サイボーグ娘は生身だったのを機械に改造した娘です。
区別の目安としては、脳味噌が生身か造り物か、という事になります。

前スレ
【機械化】サイボーグ娘!十二人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1159573979/
前々スレ
【機械化】サイボーグ娘!十一人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1156433128/
21の続き:2006/11/02(木) 12:50:23 ID:OR6/StqM0
【機械化】サイボーグ娘!十人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1151160523/
【機械化】サイボーグ娘!九人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1144849034/
【機械化】サイボーグ娘!八人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1134767816/
【機械化】サイボーグ娘!六人目【義体化】 (実質七人目)
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1126369982/
【機械化】サイボーグ娘!六人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1120438550/
【機械化】サイボーグ娘!五人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1115785525/
【機械化】サイボーグ娘!四人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1109861097/
【機械化】サイボーグ娘!三つめのパーツ【義体化】
http://pie.bbspink.com/feti/kako/1082/10828/1082827604.html
【機械化】サイボーグ娘!二回目の手術【義体化】
http://pie.bbspink.com/feti/kako/1064/10645/1064515330.html
【機械化】サイボーグ娘!【義体化】
ttp://wow.bbspink.com/feti/kako/1062/10626/1062698217.html
サイボーグ娘スレッドSS保管庫
http://www.geocities.jp/hokuman_hailaer/hokanko/
31の続き:2006/11/02(木) 12:55:51 ID:OR6/StqM0
前スレが既に容量超過になっていたのでスレ立て告知が出来ませんでした。
一応、一覧チェックしたつもりだが、もし重複だったらスマソ。

manplusさんへ
投下中に突然書き込めなくなって焦っていることでしょう。
続き読みたいんでよろしく。
4名無しさん@ピンキー:2006/11/02(木) 15:25:19 ID:BKu6SrWQ0
1さんスレ立て乙です。

レーシングガールは瞳タンの周囲のマンセーっぷりが少々異常な気がします。
美人でプロポーション抜群でレース技術もピカ一。そういう人種ってエマだけでなく
他のレーサー仲間の嫉妬とか憎悪の対象にはならないのでしょうか?
明らかにクルーのミスで負けているのに自分を責めるのもややもすると嫌味に取られ、
反発を浴びかねないと思いますが。
話は面白いけど完璧すぎる主人公キャラが私はイマイチ好きになれないです。
5manplus:2006/11/02(木) 20:17:11 ID:1kIAsJuN0
「速水選手、入賞おめでとうございます。私が、生体医学分野を主にチェックするサーシャ=スミノフです。
よろしくお願いします。」
「私が、機械医学分野を主にチェックするルナ=マクナブです。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
スミノフが瞳にメディカルチェックの説明を始めた。
「国際自動車連盟としては、過去の過ちを教訓に、このような大がかりな検査をサイボーグ体に対して行うようになりました。
サイボーグドライバーのみなさんの人権を無視していると思われる部分もあると思いますが、サイボーグドライバーの
保護のために必要な処置なので理解してください。それでは開始させていただきます。」
スミノフの事前の説明が終わると突然、マクナブが、瞳のレーシングスーツを脱がせ始めた。突然のことであった。
瞳はあっという間に全裸になってしまった。マクナブは、まず瞳の着用していたレーシングスーツの分析を開始した。
瞳の着用していたものがレギュレーションに合っているのかを細部に渡りチェックするのだ。
その間に、全裸の瞳は、スミノフの攻撃に晒されていた。
「速水選手。まずおしっこをこの採尿袋に収集します。尿道に採尿アタッチメントを押し当てますから、おしっこを
してください。」
瞳は衆人環視の中で排尿をしなければならなかった。
レーサーになってから、ドーピングは何度も経験していたが、全裸で、しかも、部屋全体から見られるような状態で、
おしっこをしなくてはいけない状況の検査は、さすがに体験したことがなかった。係官に監視されて、
個室で排尿させられるのには慣れていたが、このような状況においての排尿は、屈辱以外何ものでもないと思った。
いくら、透明性を確保するためとはいえ、ドライバーの人権を完全に無視した検査方法に瞳は、憤りを覚えたが、
この場ではただ耐えて指示に従うしかなかった。
瞳は、意を決して採尿袋におしっこをした。
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、おむつを使用して、スーパーF1マシンの中で垂れ流しのように排尿を
行う習慣があるので、自分の心理と関係なく、膀胱に溜まった尿が、全て排尿袋に収容されていくのだった。
6manplus:2006/11/02(木) 20:17:46 ID:1kIAsJuN0
スミノフは、瞳の排尿が終了したのを確認して、採尿袋を尿道から外し、傍らの尿検査機に瞳の尿を入れた。
瞳は次に肛門バルブに集便器具のホースを取り付けられ、直腸内と、排便タンクに溜まった便を洗いだされ、
検便に回された。
瞳は、毎朝排便するときのように腸を洗われる苦痛に顔を歪めた。
その苦痛の表情まで、周囲から見られなくてはならなかった。これ以上の屈辱はないほどの検査だった。
瞳に対しての更なる屈辱は続く。スミノフは瞳の性器にクスコを入れて瞳の性器を拡張させ、内視カメラを入れた。
瞳の性器内に不正なものが隠れていないかを確認するための検査なのだ。
次に、口に内視カメラを差し込まれ内臓に不正なものが隠れていないかのチェックを受けた。
最後に人工血液を微量採取され、検査機にかけられた。全ての結果はすぐに出て、スミノフが瞳に、
「ご苦労様でした。生体部分のドーピング検査は全て終了しました。異常は見つかりませんでした。」
するとマクナブが、検査を交代して、瞳のサイボーグ体の全ての点検口を開けて、体内の機械や電子機器が
国際自動車連盟の基準通りのシステムになっているのかが丁寧に確認されるのであった。
長い時間をかけて細部まで点検され、瞳の身体の点検口が閉じられ、最後に人工皮膚の点検が終了するとマクナブは、
「これで全ての検査を終了しました。異常は認められませんでした。ヒトミ、おめでとう。」
そういって、頬に祝福のキスをしてくれた。
7manplus:2006/11/02(木) 20:18:19 ID:1kIAsJuN0
「ヒトミ、スタッフを呼んでくるわ。シャワーと着替えを別室でおこなっててください。今日は本当におめでとう。
次回はポデュームの中央に立てることを祈っているわ。」
スミノフが讃辞の言葉と頬に祝福のキスをしてくれた。
移動用スタンドにマクナブに呼ばれた森田が部屋に入ってきて瞳を大事に抱きかかえて移し替え、
裸のままで併設のドレッシングルームに運んでくれた。
 瞳を森田は簡単にシャワーを浴びさせた上で、簡単な着替えを着せてくれた。
「瞳さん。残念でしたね。」
「そんなことないよ。これが今の実力なんだよ。二位で表彰台に置いてもらうことが出来たなんて幸せじゃない。
充分満足しているよ。」
「瞳さん。私の前で我慢しなくていいんですよ。私は、瞳さんの分身なんですから。」
「つぐみさん。ありがとう。だけれど、女王様に涙は似合わないでしょ」
瞳はそういって、森田に向けて軽くウインクした。森田は、瞳の心の中を思うと、涙が止めどなく流れ出した。
8munplus:2006/11/02(木) 20:29:38 ID:1kIAsJuN0
 この年のレースで瞳のもとに優勝が転がり込んでくることはなかった。初参戦チームの陥りやすいミスや
不運という魔物の洗礼を全てのレースで受ける結果となったのだ。
しかし、年間の28戦で、2位22回、3位6回と圧倒的な安定感を示して、表彰台に常にあがるという快挙をやってのけた。
 スーパーF1は、F1とは違い、2戦同一エンジンというレギュレーションが、ものすごい意味を持つのである。
距離が長く、超高速のレースが繰り広げられるため、メインエンジンに対する負担は想像を絶するものがある。
だから、各チームとも、同一エンジンで闘う第1戦目にかけるのか、第2戦目にかけるのかを決めてレースを行うのが常識である。
どちらかのレースではエンジンを大事に温存して使用したとしても、2戦とも完走することは難しいのである。
まして、二戦とも表彰台にあがるドライビングをすることなどあり得ないことなのである。
だから、スーパーF1グランプリの表彰台にあがるドライバーは、28戦全て違うドライバーと言うこともあり得るほどなのである。
そんな過酷なレースの中で、いとも簡単に、28戦連続してトラブルフリーで完走し続けて、しかも、
全てが表彰台に置かれるようなレースが出来る瞳は、全く次元の違うドライビングをしていることの証明なのである。
他のドライバーはどこかで無理をするのだが、瞳のドライビングは、無理をすることなくて速いのである。
瞳のそのようなドライビングは、スーパーF1では、驚異的なことなのである。
 当然ながら、瞳は、年間の総合優勝を飾ってシーズンを終えたのであった。
優勝が一度もなく、総合優勝をさらってしまうことはまさに常識をはずれていた。
それでも、瞳は公言していた『カーナンバー1番』を来期に手にすることが出来たのであった。
 ピットクルーは、自分たちの責任を痛感して過ごしたシーズンであった。
しかし、新規参入チームの経験のなさをどのように練習しようとも埋めることが出来なかったのである。
そんなピットクルーに対して、瞳は文句や恨み言を一言も言わなかった。
それ故に、ピットクルーの瞳を慕う気持ちと結束力は強まっていったのであった。
最初の頃は、瞳の要求の桁外れの高さにビットクルーとの感情的な対立もあった。
9manplus:2006/11/02(木) 20:30:30 ID:1kIAsJuN0
その感情的な対立を乗り越えたからこその結束力と瞳への尊敬は強いものがあった。
ピットクルーはオフの間も必死にトップチームの仕事に近づけるような練習を行っていた。
瞳をポデュームの中央に立たせるため、エマをポイント圏内に入賞させるため。
 瞳は、その光景を見ていて、次のシーズンに手応えを感じていた。自分がもっと速く走れば、
ピットクルーの努力とあわせて、良好な結果が出ることを確信していたのだった。


「監督、これを見ましたか?」
「見たわ。『マンスリー モータースポーツ』でしょ?」

【プリンセスは負けない!】
今期のカンダスーパーガールズの戦いを振り返るとエースドライバーの速見瞳が、中位以上のチームに
移籍していたら好かったのにと思わざるを得ない。チームのピット作業に足を引っ張られていなければ、実は、
彼女は28戦全勝というスーパーF1史上だけでなく、モータースポーツ史上初めてのシーズン完全制覇の快挙を
成し遂げていたことだろう。
 新規参入チームとしての不利はあるとは思うが、我らが“プリンセスヒトミ”を置いておくには本当に
相応しいチームなのであろうかという疑問が残るのである。これだけの単純ミスを犯してくれるピットとメカニックに
来期に発展していくだけの余力があるのかという疑問を持たざるを得ない。
“プリンセスヒトミ”に去られる前に、チームの立て直しを妻川監督は英断するべきである。
10manplus:2006/11/02(木) 20:31:12 ID:1kIAsJuN0
 また、セカンドドライバーの鈴木エマに関しては、実力がないにもかかわらず、“プリンセスヒトミ”を意識しすぎである。
そのために過剰な敵愾心を見せてしまい、チームのセカンドドライバーとしての役割を放棄していると思われてしまう。
今期の入賞回数ゼロ、10位以内一度、ゼロポイントでは、エースドライバーのサポートだけでなく、
チームへの貢献度でも疑問が残る。スーパーF1一年目のドライバーとしてのハンディキャップを差し引いても、
実力的にかなり劣るものがある。来期に向けてのシーズンオフの使い方をもっと謙虚に行ってほしいものだ。
鈴木エマの将来性も超長期的には無いとはいえないが、今のモチベーションでは、はっきり言ってこれ以上の成長は
望めない。ピットクルーもさることながら、来期は、カーナンバー2を欠番にしても、鈴木エマを解雇して、
速見瞳に集中するという策も必要なのではないか?
 ドライバーに対する来期の英断も妻川監督には必要になってくるものと思われる。
 いずれにしても、参入2年目から、勝負の年になることは間違いない。それが、“プリンセスヒトミ”を
エースドライバーに据えたチームの宿命なのだ。そのことを頭に入れて、妻川監督は、チームを再編してほしいものである。


11manplus:2006/11/02(木) 20:39:34 ID:1kIAsJuN0
「監督。予想以上に厳しい記事ですね。」
「美由、私の力が足りなかったものだから、みんなにも心配かけちゃったね。瞳をエースに据えると言うことの方が、
新規参入チームのエクスキューズよりも大きいと言うことか・・・。ここまで、瞳に対するマスコミの評価と同情が
集まるとは思わなかったわ。」
「やっぱり、瞳さんは、桁外れのスーパースターだと言うことなんですね。瞳さんはなんて言っていますか?」
「奴は、あの性格だから、何一つ文句も泣き言も言わないのよ。」
「そうですか・・・。瞳さんが一番悲しい思いをしているんでしょうね。」
「そうかもね。一番責任を感じているのは、瞳なんじゃないかな。『もっと速く走れたんじゃないか』とかね。
あのレースのあそこでミスをしなければとか、いろいろ考えているんじゃないかな。チームを思いやる気持ちは
人一倍だものね。」
「そうですね。エマとの関係にしても、誰よりも悩んでいたみたいですし・・・。」
「レースで勝てることが最良の薬だと思っているの。ピットワークの問題も、瞳とエマの関係も、全てうまくいくと思うんだ。」
「そうですね。」
「だから、来期は頑張りましょう。もう一年間は、この体制でやることを社長とも申し合わせているし、今の状況で、
マスコミやファンが何を言おうとも頑張るしかないのよ。」「解りました。ピットクルーもかなりの努力をしていますし、
マシンも、瞳さんの細かな指摘を取り入れて熟成がかなり進んでいますから、来期は最初から、瞳さんがポデュームの
中央に置かれるようになると思います。」
「カンダスーパーガールズのメカニックとTSに期待しているわ。それに、瞳も来期はかなり、期するところがあるみたいよ。
オフは、基礎トレーニングをするといって、一日中、EMSの電極を全身に繋ぎっぱなしで生きているみたいよ。
ものすごい悲鳴を上げながら、通常付加の五倍近い筋力負荷のトレーニングを行っているみたい。
女王様が、M女のようにいじめられてるんだから、笑ってしまうわ。」
12manplus:2006/11/02(木) 20:40:05 ID:1kIAsJuN0
「監督、そんなにちゃかしちゃいけませんよ。瞳さんだって必死なんですから。」
「私たちも、負けないようにします。」
「みんなが真剣だから、絶対来期は優勝を勝ち取ってやろうね。それに、エマも頑張っているみたいだから、彼女も、
ポイントを取れる順位はおろか、表彰台も狙えると思うわ。記事に対して、そうじゃないんだという意思表示をしてやりましょう。」
「監督、頑張ります。」


「ミセス溝口、ご無沙汰しています。」
「ミスターロイド、いつ日本にいらっしゃったのですか?急な来日の中で、我が社にお越しなんてどうしたのですか?」
「カンダは、我々国際自動車連盟にとって、重要なパートナーの一人です。日本に立ち寄ったときは、
必ず寄ることがセオリーというものです。」
「とはいえ、ミスターロイド。この様な緊急の来日で真っ先に私のところに来ると言うことは、
だだの表敬訪問と言うことではなさそうですね。」
「ミセス溝口は、勘が鋭いです。実は、ミセス溝口にたってのお願いがあってやって参りました。」
「私への頼みですか?」
「そうです。」
「ミスターロイド、お話を伺いましょう。」
「ミセス溝口、ありがとうございます。早速なんですが、本題を話してもよいでしょうか?」
「どうぞ。」
13manplus:2006/11/02(木) 20:40:38 ID:1kIAsJuN0
「実は、カンダスーパーガールズのことです。」
「うちのセカンドチームのことですか・・・?」
「そうです。カンダスーパーガールズから、ヒトミをファーストチームへ移籍させてもらえないかと思って・・・。」
「うちのファーストチームには、ロベルト=バートとライル=スコットの2名の契約ドライバーがいます。
どちらも、今期勝利を挙げていて、実力的にも、契約を破棄するような必要のないドライバーです。
速水瞳が入る必要がありません。」
「それは充分に分かっています。しかし、ヒトミが、今の状態ではかわいそうです。それに、モータースポーツ界が
今のヒトミの置かれている環境に満足していない。ヒトミは、常に勝つことが出来る環境で勝ち続けてこそヒトミなんです。
そのような環境に私も置いてあげたい。それがヒトミに対する思いやりだと思うのです。」
「そうでしょうか?速水瞳は、今の環境で満足しているし、カンダスーパーガールズを強くすることに生き甲斐を
持っています。それをチームを変えろなんて、私からは言えません。」
「そうですか・・・。では、鈴木エマを解雇して、ヒトミ一人に集中するチーム体制にするのはどうでしょうか?
国際自動車連盟も、例外的に、カーナンバー2番を欠番にして、来シーズンを送ることを認めても好いと思っています。」
「それも、速水瞳が、良しとするでしょうか?確かに、速水瞳も鈴木エマの処遇に悩んではいますが、速水瞳自身は、
鈴木エマを育てていく決意を固めています。速水瞳は、あくまで鈴木エマと一緒にやっていくつもりです。」
「そうですか・・・。しかし、今のように未熟なスタッフでは、ヒトミ本来の走りが出来ないのではないでしょうか?
それはヒトミにとって不幸なことだと私は心配しています。」「ミスターロイドがそこまでご心配してくださるなら、
速水瞳本人に聞いてみましょう。瞳さんをここに持ってきてちょうだい。」
インカムに溝口が告げると社長室のドアが開き、瞳が運ばれてきた。
「ヒトミを呼んでいたのですか?」
「まさか!ミスターロイドの予定なんて私に、解るはずなどありませんわ。たまたま、今期終了の挨拶にカンダに
来ていたのです。まったくの偶然です。」
「そうですか・・・。」
14manplus:2006/11/02(木) 20:50:58 ID:1kIAsJuN0
「社長。お呼びですか?」
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用移動スタンドに立てられたヒトミが社長室の溝口の横に置かれた。
「瞳さんの顔を見たいという人が、やってきたものでね。」
「社長、いったい誰ですか?」
「私だよ。」
「ロイド会長。今日はどうしてここに?」
「ミスヒトミの顔が見たかったものでね。」
「瞳さん。ロイド会長は、今のカンダスーパーガールズに対して、瞳さんが満足していないんじゃないかと言っているのよ。
場合によっては、チームの体制をテコ入れしないといけないのではと言っているの。その辺について、
瞳さんの意見を聞こうと言うことになったの。」
「私は、監督ではないのでチーム編成にまで言及することは出来ないと思うのですが・・・。」
「ミスヒトミ、私は、そのような立場を超えて、“プリンセスヒトミ”としての個人的な考えを聞きたいのだよ。」
「瞳さん。遠慮せずに忌憚のない意見を話してくれていいのよ。」
「はい、社長。判りました。」
瞳はここで一呼吸を置き、ロイドに向かいしゃべり始めた。
15munplus:2006/11/02(木) 20:52:27 ID:1kIAsJuN0
「会長。お気遣いありがとうございます。でも、私は、このカンダのセカンドワークスである“カンダスーパーガールズ”
の可能性に魅力を感じています。我がチームは発展途上ではありますが、昨シーズンの開幕から徐々に経験を
積み上げています。このモータースポーツ界が新規参入チームにとって苦しいものであることは事実ですが、
このチームに関しては、昨シーズンの最終戦で来シーズンに繋がる動きをしてくれています。きっと来シーズンは
3戦以内で、私を表彰台の中央に押し上げてくれることと思っています。そんな手応えを感じています。
会長は私と鈴木エマの関係をご心配と伺っていますが、鈴木エマは、私が表彰台の中央にあがれなかったのが原因で、
彼女のせいではありません。来期の中盤には、ポイント圏内に来る走りを見せてくれるでしょう。
そのぐらいの才能のある子なのです。もう少し私に任せてくださいませんか?私が勝つことで彼女との関係も
よくなるでしょう。必ず、スーパーF1グランプリの看板娘にしてみせます。ですから、ロイド会長。この場はもう少し、
長い目で見ていてください。きっと、私が、会長の期待に添うチームに来シーズンはしてみせます。」
「ミスヒトミ、かなり力強い確信があるのかね。」
「はい。確信があるのです。」
「分かった。“プリンセスヒトミ”がそこまで言うのなら、もう1シーズン、様子を見ることにしよう。」

16manplus:2006/11/02(木) 20:53:08 ID:1kIAsJuN0
「会長。お願いします。」
「ミセス溝口。ミスヒトミの確信に私も賭けることにするよ。」
「ありがとうございます。私も、来期の瞳さんに賭けています。」
「会長も、社長も、賭けるなんて大袈裟な。でも、会長。私は、国際自動車連盟には、もちろん感謝していますが、
その前に、私をここまで引き上げてくれたカンダに、そして、溝口社長に感謝しています。私は、カンダと共に
歩むべきドライバーだと思っています。カンダが私を必要ないと言うまで、カンダのドライバーでいるつもりです。」
ヒトミの言葉にロイドは目頭が熱くなった。
「ミセス溝口。ミスヒトミは、亡きセナの生まれ変わりかもしれませんね。本当に、セナやミハエルを思い出す。
私もミスヒトミの言葉に目頭が熱くなってしまいました。カンダは、好いドライバーを育てたものですね。
“プリンセスヒトミ”と言う称号が本当に相応しいドライバーです。来期が本当に楽しみです。それでは、ミセス溝口、
私はこれで失礼します。」
ロイドがヒトミへの期待を胸にカンダの社長室を後にしていった。ヒトミと溝口はその後ろ姿を見送り、
来シーズンに期するものが湧き上がってくるのを感じていた。
17munplus:2006/11/02(木) 21:13:48 ID:1kIAsJuN0
昨日の投稿はご迷惑とご心配をおかけしました。
容量がギリギリだと言うことは、頭の中にあったのですが、
たりるだろうという甘い考えで投下してしまいました。
甘かったです。
>>1さんの言われるように焦ってしまいました。
そのお詫びとして、週末に投下しようと思っていた分を
今日、昨日の残りに追加で投下しました。
ということで、今日はここまでです。

3の444さん
確かに鈴木エマのようなタイプの女性は、私の中では初めて登場するキャラです。
瞳に対する敵愾心が今後どのようになっていくのか、そして、瞳との和解は、
どのようなものになるのかをエマの立場から書いてみたいなと思っています。
ひょっとしたら、続編形式での投稿になるかもしれません。

次回の投稿では、瞳とエマの和解をイントロとしていれようと思います。

18manplus:2006/11/02(木) 21:14:22 ID:1kIAsJuN0
続きです。

>>4さん
瞳のキャラ、完璧にしすぎたかなと思ってもいるのです。
でも、美人で何をやらせても完璧なんだが、なぜか両性から好かれてしまうような
女の子もごく希にいるものなんです。
美人だけれどかわいくて、行動も完璧なんだけれど、少しユーモラスで憎めない女の子として
瞳のキャラを設定しています。
しかし、順風満帆では終わらせる気はありません。
それでは瞳のためになりませんから。
勝利を挙げる過程で、ピットクルーとの対立、ドライバー同士の葛藤を
追々描いていきます。そこで、瞳さんには苦労していただこうと思っています。
それでも、へこたれずに前向きにものを考えていく女性になってくれたらと思うのですが、
いかがでしようか?
このエピソードも番外編形式になるかもしれませんが、必ず投稿しますので、
待っていてください。

というのも、そろそろ、杏奈が、自分の物語を完結させてくれと言い始めています。
中断していた杏奈の物語を書き上げてから、再び瞳を登場させようかなとも思っています。
杏奈の完結を優先させるか、瞳の物語を優先するか、十人の皆様のご意見も聞きたいと思っています。
194:2006/11/03(金) 00:38:26 ID:BcdcwU/e0
お返事ありがとうございます。
> 行動も完璧なんだけれど、少しユーモラスで憎めない女の子として
行動が完璧な女性ならユーモラスで憎めない女の子というキャラもたやすく演じられるはず、
と思ってしまうのは私が歪みすぎているのでしょう。きっとw
読者として我がままを言わせてもらうと私は完璧な女性を望んでおりません。
瞳タンにはこれから周りによるものではなく自分が原因となる壁にあたってもらって
思う存分ガンガン悩んでもらいたいものです。

> 杏奈の完結を優先させるか、瞳の物語を優先するか、十人の皆様のご意見も聞きたいと思っています。
おまかせします。書きたいときに書きたいものを書くほうがきっと面白いものがで出来上がると思います。
20manplus:2006/11/03(金) 02:27:34 ID:oPa0F3Mr0
>>4さん

ご意見ありがとうございます。
参考にさせていただきます。

ところで、十人は、十人の間違いです。
失礼しました。

>>4さん
もう一つだけ、瞳を完璧な女性に描いた理由を書いておきます。
トップドライバーは、マシンに乗ると勝負にこだわるから人が変わることもあるけれど、
セナにしても、シューマッハにしても人格者なので、
その後継者としての瞳を完璧な女性ドライバーとして書いています。
ワークスへの忠誠やタイヤメーカーとの関係もその辺を意識して書いています。
しかし、心の葛藤や勝負にこだわるがための周囲との軋轢は、描いていきたいと思っています。
おっしゃるとおり、がんがん悩んでもらうことを考えております。
21manplus:2006/11/03(金) 02:29:59 ID:oPa0F3Mr0
間違いを見つけたのに、間違いのままにしたようなものでしたね。
十人ではなく、住人です。

スレの住人と書きたかったのですが・・・。
寝ぼけていてすみません。
22pinksaturn:2006/11/03(金) 13:12:56 ID:cb6Sg7np0
(オプションパーツの続きです。)

−−(31)国盗り物語−−

(西欧連 タカ派・ヌーベルラテン党大会)

党首・ルパン:「寒い!。石油を売り惜しむ異教徒のせいだ。何で俺達が我慢せにゃならんのだ!。
それなのに奴らの仲間がスラムに住み着いて、我々の税金である福祉予算の世話になっている。
政府は何をやっているんだ。石油を寄越さないなら、あいつらを追い返せ。
受け入れないなら侵攻して再植民地化汁!。そもそも湾岸だって昔はラテン領だったんだ。
今すぐに油田地帯を異教徒から取り戻し、我々の手で世界秩序を再建すべきだ。」

幹事長・ジゲン:「我が党への支持はうなぎ登りだ。明後日の選挙では必ず政権を獲れる。
そうなれば、我慢しなくて済むようになるぞ。党員諸君!。今こそ行動の時だ。」

街宣部長・ゴエ:「一刀両断。異教徒討つべし。」

党員たち:「世界秩序をラテンの手で!うぉーーー。」


(西欧連のTVニュース)

アナウンサー:「西欧議会議員選挙の結果はヌーベルラテン党の地滑り的勝利となりました。
党首のルパン氏は、不法移民から3世代以内の住民を出身国に追放することを公約しています。
出身国が受け入れに応じなければ西欧連加盟国の有志連合軍による侵攻を行うとのことです。」
23pinksaturn:2006/11/03(金) 13:14:13 ID:cb6Sg7np0
(経済特区 アリババ連盟合同領事館)

総領事:「外務大臣、わざわざお越し頂き相済みません。」

弥生:「お安いご用です。ご用件とは、西欧連の動きのことですね。」

総領事:「ええ、我々は石油資源に恵まれていますが国土の多くが砂漠という国が多いのです。
追放移民の受け入れというヌーベルラテン党の要求に従えば飢餓を免れません。
拒めば攻撃されるのは間違いないでしょう。彼らは侵略するつもりで無理難題を言っているんです。
地上戦ならば我々には自爆攻撃も辞さない聖戦士がいくらでも居るから負けるとは思いません。
しかし、ミサイルや極超音速機を防ぐ手段がないのです。何とか助けて貰えませんか?。」

弥生:「ご存じの通り、我が帝国には外国どうしの紛争に干渉しないという原則があります。
例外は、国連決議によるPKOに特区自治政府の判断で特区海軍が参加することだけです。
一方の当事者が常任理事国の入った西欧連では、国連決議が成立する余地がないですね。」

総領事:「やはり難しいですか。助けてくれたら原油価格で配慮しますが。」

弥生:「弾道ミサイルについてだけは、衛星軌道の安全確保を理由に阻止する余地があります。
但し、あなた方の弾道ミサイルも同様に扱われるし、巡航ミサイルには手出しできません。」

総領事:「弾道ミサイルはあっちが遙かに優勢ですから、双方使えなくしていただいて結構です。
それだけでもやっていただけると有り難いです。でも、やっぱり巡航ミサイルも怖いですね。
こっそりサイボーグ兵を派兵して迎撃して貰うって言うのは絶対に無理ですか?。」

弥生:「我々には太股の燃料電池換気のためにミニスカートしか穿けないと言う制限があります。
こんな格好でうろつかれたら、あなた方の国では風紀上お困りになるのでしょう?。」

総領事:「それは...私も個人的には好きなのですが、国民の手前難しいです。
わかりました。弾道ミサイルだけお願いします。ところでもう一つご相談がありまして。」
24pinksaturn:2006/11/03(金) 13:14:50 ID:cb6Sg7np0
弥生:「武器輸出や派兵のことでなければ伺いますが。」

総領事:「そもそも言いがかりを付けられた移民問題は砂漠で食料が出来ないのが根本原因です。
砂漠の緑化が急速に進められれば、移民の帰還を受け入れることだって出来たんです。
あなた方が金星に落とそうとしている氷隕石を砂漠に落として貰うことは出来ませんか?。
大きな氷隕石を落とせばオアシスが形成されて、周囲を緑化できると思うのですが。」

弥生:「満漢人民共和国には月基地の水補給用として氷隕石を売る契約をしています。
単純なコスト論でしたら、およそ同重量の原油とバーターで可能ではあります。
ただ、無人の金星に落とすのや月軌道渡しと違い、地上に大きいのを落とすのは問題があります。
砂漠なら直接の被害はないでしょうが、舞い上がる埃で世界的な寒冷化が起きてしまいます。
北米連への報復に使った2000d程度の隕石でも、北半球全体に多少の影響はあったのです。
しかもあれはボタ山、即ち工場衛星が資源採掘のため穴だらけにした軽石のような隕石でした。
世界的な食糧難の原因は、寒冷化よりも北米連の農地への直接被害と輸出停止が主でしたがね。
恐らく氷隕石のような堅く詰まった物を落とせば、同重量でも遙かに衝撃が大きくなります。
砂漠に突然オアシスを発生させるとなると、数万dの氷が必要ですから尚更難しいですね。
強行すれば北半球全体を敵に回すことになるのですから、とてもお引き受け出来ません。
小さな氷隕石を繰り返し同じ場所に落とすのなら出来ますが、手間分高くつきますよ。」

総領事:「一度シミュレーションぐらいやってみていただけませんか?。
原油の高騰で我々には十分な資金がありますし、水があれば原油ばかりに頼らずに済むんです。
我々の原油輸出が減ることは、地球温暖化阻止というあなた方の政策に合致するのでしょう。」

弥生:「試算はしてみますが、気候変動を許容範囲に抑えると砂漠緑化効果はないかも知れませんね。」
25pinksaturn:2006/11/03(金) 13:17:16 ID:yXuL7xL70
(帝国御前会議)

弥生:「...ということでアリババ連盟の要請のうち弾道ミサイル阻止だけはご承認下さい。」

朝子8世:「あくまでも軍事援助ではなく、独自政策としての軌道安全確保ならば良いでしょう。
宙軍大臣、弾道ミサイルが衛星軌道の安全に差し障るという根拠データは出せますか?。」

朝子10世:「北米連のICBMについて言えば、停戦後に回収したデブリは36個です。
弾頭分離の際に飛ばされたノーズコーンが多いですね。上昇中に撃墜した時は殆ど出ていません。
したがって、軌道の安全のため分離前に阻止するというのは十分な根拠があります。」

朝子8世:「なるほど。そのデータを外務省から世界のメディアに流しなさい。
我が帝国は、軌道の安全のため全ての弾道ミサイルを上昇中に迎撃するとのコメント憑きでね。」

弥生:「砂漠緑化向けに氷隕石を販売することは、安全性につき要検討として回答を保留しました。
実際のところ、出来るものなのでしょうか?。」

朝子10世:「今のところ大きな氷隕石を小分けする適当な手段が、核での発破しか無いんです。
冥王星軌道からの遠距離輸送を考えると、わざわざ小さいのを運んだら高くつき過ぎますよ。
工場衛星付近に大きな氷隕石を係留し、太陽熱で溶かして採水した使い古しを回すならアリかな。
それで良ければいずれ出来るようになるけど、最初の1個が出るまでに10年はかかるかしら。
アリババ連盟が大いに本気で、予約金でも入れてくれるなら準備しても良いですけど。」

弥生:「なるほど。その通り回答して置くけど、総領事レベルで決められそうな話じゃないわね。」
26pinksaturn:2006/11/03(金) 13:17:53 ID:yXuL7xL70
朝子8世:「先々の話もだけど、紛争があれば対人地雷とかも使われて義肢の需要が増えそうね。
西欧連やアリババ連盟なら支払い能力は十分だから、そっちの営業もついでにやっておくのよ。」

朝子10世:「財政は大事ですが、増え過ぎると工場要員の休養ローテーションが苦しいですね。」

民部大臣:「衛生工場の義肢生産能力はもう限界に近いのでしょうか?。
満漢の達磨ッ子政策特需による義肢販売数の伸びは、最近頭打ち傾向ですよね。」

朝子10世:「ええ。特区の民間医療機関が手術の工夫で義肢を共用化したせいで伸びていません。
こちらとしては保証外の使い方だと警告はしましたが、向こうの自己責任でやるのは自由です。
同番トランスポンダの重複購入自体を差し止めるのは、基本契約上出来ませんからね。
それに、満漢が強引に共用化をやっていなかったら生産が間に合わなくなったでしょう。
供給能力の不足で文句を言われるよりは、自己解決してくれた方が良いような状況ですよ。」
27pinksaturn:2006/11/03(金) 13:18:30 ID:yXuL7xL70
(経済特区 メタロリホスピタル)

例のダルマッ娘好き整形外科医:「これで8組72人やりましたが全部うまく動きましたね。
帝国当局はトランスポンダの重複接続は保証外だと言ってきましたが、これなら心配ないです。
やっぱり酉山先生の技術は凄いですよ。お陰で、収益倍増です。」

酉山:「これで満漢の飢餓が回避できると良いのですが。しかし不思議ですね。
最近来る満漢人は女の子ばかりじゃないですか。どういう訳ですかね?。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「ああ、それは...(おっと、言ったら怒られそうだな。
酉山先生は人助けのつもりで義肢の共用化を引き受けたんだ。)満漢政府の方針でしょう。
労働者が対象だから女の子の方が機械化による力のゲインが大きいためではないですかね。」

酉山:「そうですか。あの娘達も能動義肢を巧く使いこなして力を発揮できたらいいですね。
先生もずいぶん慣れてきたから、もうそろそろ私の契約が切れても出来ますよね。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「(ホッ。深く突っ込まれなくて良かった。)更新しないんですか?。」

酉山:「ええ、実は私設研究所をこの特区に移転することになって、準備のため一旦帰国するので。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「それはザンネン。一緒にやらせていただけると勉強になりますのに。」

酉山:「移転が済んだらここを本拠に活動します。人体改造技術の開発案件があったらまた宜しく。」
28pinksaturn:2006/11/03(金) 13:28:36 ID:Tqdzs/2O0
(満漢人民共和国 月面基地建設作業船)

船長:「着陸迄後一日也。酸素消費量如何?。」

航宙士官:「計画量比九分也。建設作業員全達磨娘化方針大正解。」

船長:「好!。上々也、即本国宛成果報告。着陸準備着手。」

航宙士官:「了解。我点検、船倉内建設作業員収納所。」


(満漢人民共和国 月面基地建設作業船内建設作業員収納所 別名蛸部屋 http://pinksaturn.fc2web.com/mankan-takobeya.htm#takobeya

航宙士官:「月面苦力隊、機嫌如何?。」

達磨娘・月面苦力1号:「最悪!。此収納所激狭、全裸固定、排尿管常挿、食事唯液体、超非人間的。」

達磨娘・月面苦力2号:「突然連行、四肢切断、貨物取扱。我々負担何罪?。不覚自身。」

達磨娘・月面苦力3号:「藻前等手足有、食事豪華、行動自由。不公平也。」

達磨娘・月面苦力4から27号:「「...「禿同。待遇改善汁。」...」」

航宙士官:「為酸素消費節約、此待遇必要。我不関与月面労働者人選。当局許可強制労働。不平発言者酸素濃度低減。」

達磨娘・月面苦力1号:「酸素濃度低減頭痛恐怖。不平取消。」

達磨娘・月面苦力2号:「苦痛不要。待遇現状可。」

達磨娘・月面苦力3号:「見猿、言猿、聞猿。」

達磨娘・月面苦力4から27号:「「...「同様。」...」」
29pinksaturn:2006/11/03(金) 13:29:23 ID:Tqdzs/2O0
(スペースシェリフ・ワン 月周回軌道警戒中)

リンダ:「満漢の船が着きましたね。やはり、裏といっても境界近くに基地を置くつもりだわ。」

スージー:「地球との通信の都合ってこともあるだろうから、むやみに紛争へ結びつけない方が良いわ。」

リンダ:「満漢は中継衛星を使わないつもりでしょうか?。」

スージー:「それらしい物は飛ばしていないようだわ。」


(高速航行中の”なると”)

理美:「計画最高速度に達しました。」

マサ:「推進剤の残量は約1250dです。減速時は軽いから半分なら余裕ですね。」

真理亜:「よし、加速止め。慣性航行に入る。加速度警戒解除。重力ブロック始動。
引き続き前方障害物警戒。マサ、人柱の餌やりをしてきなさい。」

マサ:「えーっ、なんで一番恨まれてる私がぁ。」

真理亜:「この艦では藻前が一番暇なんだよ。早くやって来い。」

マサ:「あいつらの嫌み聞くと疲れるんだよなぁ。」

真理亜:「退屈な長期飛行では週に一度くらい疲れることもやらないと呆けるわよ。
カロンに着いたら突貫工事で採水施設を建てなきゃいけないんだから呆けたら困るわ。」

マサ:「はーい。やれやれ、私らは飯要らずだってのに、なんで人柱は玄米専用仕様なんだろな。
しかし副長って肩書きは一見偉そうだけど、要するに何でもアリの雑用係って訳だったのね。
そもそも世界の軍隊の相場だと、たった20人しか居ない船でフツーそんなポスト無いもんなぁ。」
30pinksaturn:2006/11/03(金) 13:30:29 ID:Tqdzs/2O0
(満漢人民共和国 月面基地建設作業船内月面作業服装着室 http://pinksaturn.fc2web.com/mankan-takobeya.htm#goutaiutyuufuku

航宙士官:「達磨娘一体目填込完了。剛体宇宙服前面部咬合良好。六角頭螺子締込。定旋回力旋具、力量規定内。
背嚢酸素供給栓開放。二酸化炭素廃気吸収器機能良好。義肢吸着。太股酸素給気栓開放。燃料電池始動良好。
月面苦力1号宛命令!、月面苦力2号剛体宇宙服組付実施、以下第一当直班九人同様連鎖的組立!。」

達磨娘・月面苦力1号:「横着漢!。藻前介護汁。」

航宙士官:「不許反抗。酸素圧削減希望?。」

達磨娘・月面苦力1号:「否。我作業着手。」

航宙士官:「好。至急連鎖的組立!。半時間以内必須。組立後即刻建設資材搬出開始命令。」

(スペースシェリフ・ワン 月周回軌道警戒中)

リンダ:「あ、満漢の輸送船から何か出てきました。宇宙服を着た人間かな?。えっ、何じゃあれは?!。
ガラスのドームが付いた鉄の箱に裸の手足が生えているわ。サイボーグなのかしら?。ぞろぞろ出てきた。
裸足にサンダル履きって、なんちゅう格好してるの。格好悪いの通り越してシュールだわ。」

スージー:「ズームでよく見てみようか。ふむ、あれは達磨娘ね。満漢は達磨ッ子政策やってるでしょ。
拡大してドームを覗くと判るわ。達磨娘を入れた箱に、小娘帝国の輸出用義肢を付けたのよ。
達磨娘は手足の分だけ酸素消費が少ないから、真空中での建設作業には向いているわ。
満漢ではまだ完全なサイボーグが出来ないだろうし、出来ても人海戦術だとコストが大変だからね。
箱の空調が強力なのかな。中の娘は全裸ね。実利一辺倒の満漢らしいやり方だわ。」

リンダ:「あんな惨めな格好で宇宙に出されなくて良かったですよ。きっとその他の待遇も最悪だわ。」

スージー:「格好悪いけど、手足が外付けなら宇宙服を剛体に出来るから信頼性は良さそうね。
あれだけごつければ酸素搭載量も相当多くできるし、内圧も1気圧近くに出来るでしょう。
かなり長時間の作業が出来そうよ。人数もぞろぞろ多そうだしあれならすぐに基地が出来そうね。
興味深いわ。周回しながら詳しく観察しましょう。我が国もしっかりしないと資源競争に負けるわよ。」
31pinksaturn:2006/11/03(金) 13:44:19 ID:q/YlJu7I0
(西欧連ーアリババ連盟国境付近)

追放不法移民:「厭だ、あっちには食べ物がない。」

西欧連護送兵:「さっさと歩け。」

アリババ国境警備兵:「我々には今さら帰還者を受け入れる余地はない。」

西欧連護送兵:「元々お前らの国の者だ、そっちで何とかしろ。さあ、おまいらあっちに行くんだ。」

アリババ国境警備兵:「何を勝手な。おい、止めないと撃つぞ。」

西欧連護送兵:「撃ったらどうなるかわからんのか?。空を見てみな。お前らの国なんか無くなるぜ。」

アリババ国境警備兵:「ふん、戦闘機ぐらいで俺達が引き下がると思うなよ。」

アリババ国境警備隊長:「待て。上の指示を仰ごう。」

西欧連護送兵:「お前らの隊長は賢明だな。戦闘機だけじゃないぜ。ミサイルだって有るんだ。」

アリババ国境警備隊長:「そいつはどうかな。弾道弾は使えなくなっているんだろ。」

西欧連護送兵:「だったら撃ってみなよ。さあ、不法移民ども、さっさとそっちに行け!。」
32pinksaturn:2006/11/03(金) 13:45:10 ID:q/YlJu7I0
追放不法移民:「厭だ、食べ物のないところになんか帰りたくない。」

西欧連護送兵:「見せしめに2,3人撃ち殺しても良いって言われてるんだぞ。」

追放移民に紛れたテロリスト:「じゃあ、俺を撃てよ。どのみちこの爆弾でお前らは道連れだ。」

西欧連護送兵:「あ、いつの間に!。うわあ、逃げろ。」

テロリスト:「そうは行くか。ほれ!(自爆)。」

追放不法移民:「ぎゃああ、ひいい、...」

両陣営の兵:「むむ、攻撃したな、くそ、反撃だ、撃て撃て...」
33pinksaturn:2006/11/03(金) 13:45:41 ID:q/YlJu7I0
(経済特区 西欧連領事館)

領事:「...ということで、この紛争はアリババ内部の過激派が仕掛けたテロが原因です。
よってテロリストの本部を破壊するための精密弾道弾については妨害しないで頂きたい。」

弥生:「いかなる弾道弾の使用にも正当性などありません。必ず衛星軌道に危険が及びます。
したがって我々は、その全てを上昇中に処理します。例外は認められません。」

領事:「どうしてもご理解いただけないのか。アリババからいくら貰ったんですか?。」

弥生:「何も貰っていませんよ。弾道弾さえ使わなければ我々は一切干渉しません。
実際ね、原油値引きを餌にしたあちらからの軍事援助要請を蹴ったのですよ。
あなた方の軍事力は優勢なのでしょう。地上戦でけりを付けたら良いじゃないですか。」

領事:「我々にはアリババの連中のようなむやみに死にたい兵なんか居ないんだ。
犠牲を必要最低限に抑えるには弾道弾の使用が必要なんです。」

弥生:「そのためなら他国の宇宙ロケットがデブリに当たっても構わないと?。
ずいぶん勝手な話じゃないですか。ならばこちらが勝手に自衛するのはお互い様ね。」

領事:「ええい、もう良い。それならあんたらの製品なんかもう買わないぞ。」

弥生:「私らは押し売りなんかしませんよ。必要ないならご自由に。
でも、これから紛争で手足が無くなってお困りになる方々はどう言われるかしら。」

領事:「くっ。あの程度の義肢くらい自力で開発してみせる。」

弥生:「それではお手並み拝見といきましょうか。うちのは非常に安いんですけどね。
何しろ満漢さんが大量に買ってくれるので量産効果が上がってまして。でわ失礼。」
34pinksaturn:2006/11/03(金) 13:49:28 ID:WZpmgSpK0
(経済特区 アリババ連盟合同領事館)

総領事:「たびたび済みません。西欧連から何か働きかけを受けていませんか?。」

弥生:「テロ組織本部を狙う弾道弾を見逃せと言ってきましたが拒否しました。」

総領事:「それは助かります。奴らはテロ壊滅を口実に我々の指揮中枢を無力化する気です。
紛争の発端になった自爆テロだって、もしかしたら奴らの二重スパイに踊らされた者かも。
そもそも、警備兵がうようよ居るところへ簡単に爆弾が持ち込めたなんておかしいです。
テロの犠牲者だって、西欧兵は数人だけで殆どが追放される不法移民だったんですよ。」

弥生:「お礼や言い訳は要りません。あくまでも衛星軌道の安全のためです。」

総領事:「そうでしたね。それでは、砂漠に氷隕石を落とす件はどうでしょう?。」

弥生:「大きな氷隕石を経済的に小分けする方法は核爆発しかないそうで非現実的です。
見込みがある唯一の方法は工場衛星の採水に使って小さくなった残りを回すことです。
適当な大きさの物件が出るまでに10年くらいかかるし、計画的に用意しないと出来ません。
それには相応の先行投資が必要になると言うことです。」

総領事:「ふむ、氷隕石を小さくするのに10年ね。ま、将来課題ということですね。
ところで、紛争で四肢切断者がだいぶ出ていましてね。急いで復帰させたい者等が居ます。
100名ほど至急やってくれないかと打診したのですが、どこも満漢の先約で一杯でして。
おまけに、何故か男の股関節手術はやりたくないと言う施設が多くなっていて困っています。
貴女の力で何とか出来ませんか。それから、外皮を装甲仕様にできないですか?。」
35pinksaturn:2006/11/03(金) 13:49:59 ID:WZpmgSpK0
弥生:「手術施設が足りないなら我が公家の所有する空きビルに臨時診療所を開きましょうか。
人手は貴族の整形有資格者なら4人ほど知り合いが居るので短期間なら手配できますよ。
100人なら1週間で処理できるでしょう。それ以上続けるのは難しいですけど。
それから、貴族なので当然女医と言うことになりますが、問題ないですか?。」

総領事:「足の手術のため股間を女医に晒すのは嫌がられますが、この際仕方ないですな。
聖戦士たる者、大儀のためにはそれくらい我慢せよと言い含めてから連れてきますよ。
ところで、外皮の装甲は出来ませんか?」

弥生:「武器輸出にあたるので出来ません。但し標準品でもメタロリ系の外皮は強いですよ。
特に膝下は硬質外皮タイプを選択すれば実力は装甲に近い性能があります。ただ...」

総領事:「それにも何か問題が?。」

弥生:「メタロリ系の硬質外皮は、本来女性のファッション用として設計されています。
したがって、ハイヒールブーツの形態のみになります。踵は一応選択交換式です。
しかし太さはかなり自由になりますが、高さは最低でも9センチ以上になります。
足首関節の構造で制約されて、それ以下ではまともに歩けるように出来ないんですよ。
したがって、そちらの聖戦士に似つかわしい外見には到底なりませんね。」

総領事:「非常時なのだからそれも我慢させますよ。とにかくお願いします。」

弥生:「承知しました。但し、燃料タンクがある太股への被弾には気を付けて下さい。
燃料電池の換気も必要なのでプロテクターを着ける場合は考慮する必要があります。」
36pinksaturn:2006/11/03(金) 13:50:57 ID:WZpmgSpK0
(満漢人民共和国 月面基地建設現場)

達磨娘・月面苦力1号:「穴掘、鉄骨組立、鉄板貼付。嗚呼、毎日毎日類似労働反復。」

達磨娘・月面苦力2号:「全休息時間収納庫全裸磔、手足無最悪。労働時間比較的善。」

達磨娘・月面苦力3号:「最低限正常食及休息時間之自由希望。」

達磨娘・月面苦力4号:「無理無理。手足九人宛四組。休息時間使用不可。」

達磨娘・月面苦力5号:「我々一生此状態?。悲惨也。」

達磨娘・月面苦力6号:「此労働多分生産的意味有。比較的善、対比達磨性奴隷。」

達磨娘・月面苦力7号:「達磨娘之扱、性奴隷、見世物一般的。恐怖。」

達磨娘・月面苦力8号:「嗚呼、性奴隷厭。見世物絶対厭。」

達磨娘・月面苦力9号:「当局否認人権。鬼畜行為大差無、対比性奴隷及見世物。」

監督官:「呉留亜!。無駄口不許容、当局批判処罰。交代時間迄第七区画完工必須。」
37pinksaturn:2006/11/03(金) 13:52:49 ID:tNGQEBSP0
(北米連 砂漠の民間宇宙港)

スージー:「...着地、逆噴射。速度低下...ゼロ。スペースシェリフ・ワン、着陸完了。」

愛国民兵会会長:「ご苦労さん。月の様子はどうだった?。」

スージー:「待機中に周回軌道から観察した限り、今のところ紛争の兆しはありません。
しかし、満漢は1組9人の作業員が24時間3交代の人海戦術で急速に基地を建設しています。
あの勢いで施設を拡張されたらじきに月の裏だけでは収まりきれなくなりますね。」

愛国民兵会会長:「満漢の技術レベルで、1回目の輸送にそんな大勢の作業員が送れるのか。」

スージー:「作業員は全員が達磨娘です。手足の分だけ酸素消費が少ないからできたのです。
それからもう一つ侮れないのは、科学探査は二の次で実利一辺倒の行動というところですね。
だから、科学飛行士なんか連れていかず建設労働者に絞って人員を投入できたんです。」

愛国民兵会会長:「うーむ、人権のない国との競争は厳しいな。いずれ紛争になるぞ。
奴らにまともなサイボーグ技術が無くたって、大勢が相手ではお前達に勝ち目はない。
このままではいずれ月を取られてしまう。一度宇宙局の連中の尻を叩かないといかんな。
折角お前達が小娘帝国の生命維持物資を見つけてきたのに、模倣品すら出来ておらん。」

リンダ:「早く血液補給の制限が無くなってくれればいいのになあ。
メカフェチ仲間の友人からは羨ましがられるんですよ、お前だけ良い思いしてるって。
普通の人はいくら望んだってサイボーグになれないですからね。」

愛国民兵会会長:「リンダの変態仲間の望みはともかく、このままではヘリウム資源が危ない。
言いなりだった産油国が離反しだした今では、核融合発電が我が国の生命線なんだ。
儂はこれから宇宙局に乗り込んで生命維持技術の研究促進を強く申し入れて来るぞ。」
38pinksaturn:2006/11/03(金) 13:54:26 ID:tNGQEBSP0
(アリババ連盟北部の砂漠地帯)

西欧連戦車部隊長:「異教徒どもを蹴散らせ!。油田地帯は近いぞ。」

通信兵:「先行した強行偵察戦車隊の通信が途絶えました。強敵に遭遇したようです。」

西欧連戦車部隊長:「砂丘の陰に隠れていた奴にバズーカでも食らったのかな。
戦闘機隊に空爆を要請しろ。砂丘の陰に隠れたって上空からは丸見えだ。」

通信兵:「SOS受信後すぐに道路から1`以内の範囲をくまなく爆撃したそうです。
上からもよく判らず、絨毯爆撃しても砂しか舞い上がらなかったそうです。」

西欧連戦車部隊長:「それなら敵は生き埋めになっただろう。よし進撃だ。」

(アリババ聖戦士隊の隠れ場所)

聖戦士隊指揮官:「くっくっく。道路付近だけ爆撃しておけば大丈夫だと思っているな。
さんざん無駄玉を打ち込んで行ったぞ。ここには全く気づいておらん。
予想通り、俺達が重装備のまま砂の上を時速40`で走れるとは想像出来ないようだ。」

聖戦士1:「こんな恥ずかしい外見の足になった甲斐がありましたね。」

聖戦士2:「普段は困りますが、装甲スーツを着けてしまえばそんなに変じゃないですよ。」

聖戦士3:「小娘帝国の連中は不信心で気にくわないが技術は大したものだ。」

聖戦士隊指揮官:「俺の足が無くなったのは西欧連がばらまいたクラスター爆弾のせいだ。
だから辱めを受けた相手は女医をあてがった小娘帝国じゃなく西欧連だと思うことにしている。」

聖戦士1:「そうですね。それが筋ってもんです。足の恨みは奴らの首で晴らしますよ。」

聖戦士隊:「腕には心臓を!。脚には首を!。」
39pinksaturn:2006/11/03(金) 13:55:10 ID:tNGQEBSP0
聖戦士隊通信兵:「見張り所からです。敵の本隊が2`に迫っています。」

聖戦士隊指揮官:「うむ。行くぞ。全員、バズーカは持ったな?。よし、走れ!」


(西欧連 戦車隊)

先頭の車長:「ん?。なんじゃあれは?。砂丘の陰づたいに人影だ。機銃掃射!。」

射手:「はい。着弾どうですか?。」

車長:「速い!。もっと右だ。いや左だ...くそ、主砲も撃つんだ。うわあバズーカ!」

戦車部隊長:「どうした?。敵か?。一体どこに隠れていたんだ。全車、応射しろ!。」

通信兵:「大変です。敵兵はバズーカを数10丁持っています。次々にやられています。お助け。」

戦車部隊長:「泣き言を言うな。おい射手、右45度掃射だ。ばか、遅い。うわあ、脱出。」

聖戦士隊指揮官:「こら!。お前だけ逃げられると思っているのか。首は貰った。」

戦車部隊長:「ひ、ひいいぃぃ(首チョンパ...)。」

聖戦士1:「うおー。隊長に続け!。脱出した敵の首を刎ねるんだ。」

聖戦士隊:「手足の恨みを晴らせー、首だ、首、首!。神は偉大なり。」
40pinksaturn:2006/11/03(金) 13:59:09 ID:3fNQaCUc0
(ヌーベルラテン党本部)

ジゲン:「アリババに侵攻した地上部隊が大損害を受けました。戦車隊が壊滅です。
戦車から脱出して捕まった者は、一人残らず首を刎ねられました」

ゴエ:「戦死者の遺族などから抗議の電話がかかりまくっています。」

ルパン:「なんだよう。こないだの選挙ではあんなにやれやれって言ったくせに。」

ジゲン:「これでは収拾がつきません。政策を変えましょう。」

ゴエ:「これ以上の侵攻は無理です。不法移民の送還は諦めてスラムの隔離をやりましょう。」

ルパン:「しかたがない。追い返せないなら、よそ者に食料や燃料を消費させないことだ。
すぐに主要都市分のスラム隔離壁建設予算を立案するんだ。」
41pinksaturn:2006/11/03(金) 14:00:03 ID:3fNQaCUc0
(満漢人民共和国 人民党本部)

外務委員長:「西欧連対蟻婆侵攻失敗也。戦力低下。我共和国相対的地位向上。」

周:「達磨娘政策順調也。今月、食肉壱百屯確保済。三交代労働者食料消費半減未満。休息時間運動不能化、至極有効也。」

宇宙委員長:「月面基地第一棟竣工。He3採取塔七割進捗。作業員増派如何?」

毛:「好。漁夫之利最善。達磨娘政策一層推進。月面基地増派又可也。但、紛争回避。」

宇宙委員長:「我希望月面進出記念切手発行。図案此也 http://pinksaturn.fc2web.com/mankan-takobeya.htm#kinen

毛:「達磨娘政策成功強調良好。発行許可。」

宇宙委員長:「謝々。」

周:「西欧連方法愚劣、然方針妥当。我思、産油国非戦乗取方法検討必要。」

外務委員長:「産油国B王国、国王趣味達磨娘収集。達磨娘工作員投入如何?。」

毛:「B王国?。我認識彼国王女子高生趣味。実際第一王妃女子高生。」

外務委員長:「表面公式王妃女子高生。裏趣味后達磨娘。是事実。」

毛:「了承。慎重作戦準備希望。失敗絶対不許容。失敗時、工作員及指揮官皆一族処刑食肉工場送付。」
42pinksaturn:2006/11/03(金) 14:00:39 ID:3fNQaCUc0
(経済特区 アリババ連盟合同総領事館)

総領事:「義肢の件で無理していただいたおかげで、侵攻を食い止められました。」

弥生:「あれでも民生品です。使い方の工夫はそちらの問題ですから。」

総領事:「当座の紛争はしのげましたが、根本的な解決はまだこれからです。
やはり、砂漠緑化のために時間をかけても氷隕石を調達せよと本国から指示してきました。
先行投資分はとりあえず原油5000dの現物払いでやって貰えませんか?。」

弥生:「そうですか。では冥王星に接近中の艦に予備調査を始めさせましょう。
それだけ出していただければ、とりあえず手頃な氷隕石が見つかるまで探させられます。
地球への到着時期やサイズ調整の所要期間は候補が見つかってから提案いたします。」

総領事:「本国からは少々高くついても、6年くらいでやって欲しいと言われています。」

弥生:「きついですね。小さい氷隕石を急いで動かすとかなり不経済になります。
例えば1万d級の氷に移動装置を3基設置すると、到着時に40%程は目減りしてますよ。
つまり、6000dの氷に通常輸送3万d相当+手間分のコストがかかることになります。
それでも6年で落とせるかどうか微妙なところですね。」

総領事:「紛争の火種を消すためなら、それくらいの不経済は許容します。」

弥生:「わかりました。では最も急ぐ条件で手配しましょう。」
43pinksaturn:2006/11/03(金) 14:13:05 ID:3fNQaCUc0
(高速飛行中の”なると”)

マサ:「本国から圧縮通信です。ふーん、ふんふん、大したニュースはないですね。
余所どうしの紛争は相変わらずですが、本国は至って平和のようですよ。」

真理亜:「どれ。ちゃんと最後まで読んだの?。仕事の注文が憑いてるじゃないの。」

マサ:「え、何だっけ。あ、ホントだ。1万d級の氷隕石も幾つかマークしておけだって。
こんな小さいの運んだって不経済なのになんでわざわざ。まあいいかボーナス憑くし。」

真理亜:「わざわざ大きさを指定して来るんだから、買い手が憑いたって事よね。
小さい方が移動が速くできるから、高くても早く欲しいって客が居るんでしょう。」

マサ:「間もなく減速開始地点ですね。耐G警戒態勢に入りましょう。」

真理亜:「ほお、藻前も少しは気が利くようになったわね。」

マサ:「へへ、隕石探しは得意なんでやる気が湧いてきましたよ。金になりそうだし。」

真理亜:「なるほど。じゃ、速度、方位の再確認もやって。」

マサ:「対冥王星秒速485.4`、方位は公転に対し後方15万`、南10万`です。」

真理亜:「推進剤最少コースで行くわよ。旋回、公転面内179.7度、南0.2度。」

理美:「メインジャイロ始動。方位が合うまで20秒です。」

真理亜:「方位合わせ終了8秒後にメインエンジン始動よ。最短時間で全開にして。
側面レーダーは進行方向に修正。最大出力で障害物警戒。全員耐G警戒態勢。」

理美:「方位合いました。原子炉出力上げます。25%。推進剤電離開始。グリッド通電。
電圧上がってきました。50万ボルト。噴射始めます。全開まで12秒。」
44pinksaturn:2006/11/03(金) 14:14:21 ID:3fNQaCUc0
知子3世:「機関各部応力監視数値異常なし。順調に推力出てますよ。」

マサ:「かなり軽くなってるから、体感でもずいぶん来てますね。補助エンジン要らないかも。」

真理亜:「無理ね。重力の弱い冥王星じゃこっちが強引に合わせないと捕まえてくれないわ。」

(無事、カロンに到着後)

マツ:「降下艇、着陸位置良し。足凍結防止処置。」

ミツ:「クレーン動かすわね。180度後方、フック下げ...」

知子3世:「燃料棒が割れたら困るから低重力でも油断しないでよ。」

マオ:「採水施設の資材は何とか降ろし終わったけど、組み立てが大変ねえ。」

ミキ:「マサさんは氷隕石探しの仕事が入ったからって手伝ってくれないしね。」

マオ:「あの人は結局地味な工事より飛行が好きだから良い口実が出来たわね。」

ミキ:「そうそう。隕石探しくらい別に採水が始まってからでも出来るのにね。」

ササ:「まあまあ、その分は私らが頑張りますから良いじゃないですか。」

知子3世:「いい加減な人が組み立てると原子炉が破裂するんだからこれで十分よ。」

マオ・ミキ:「そりゃそうですが、私らだって早く済ませて好きなスケートやりたいわ。」

知子3世:「結局貴女達もそういうつもりか。とにかく炉心の設置は慎重にやってよ。
危険な装置だけは、留守に不具合が出ても人柱にいじらせるわけに行かないんだからね。」

マオ・ミキ・マツ・ミツ・ササ:「はーい。気を付けますぅ。」
45pinksaturn:2006/11/03(金) 14:15:41 ID:3fNQaCUc0
(重機で隕石探し中)

マサ:「お、氷隕石だ。1万dっちゅうとこんなもんかな。近づい...ハックション。
え、?。なんでサイボーグがくしゃみ?。そんな馬鹿な。故障?。冗談じゃないわ。
一次生命維持装置監視ログチェック...ん、防毒フィルタに異物衝突?。へ?。
あ、口の中に小さな氷が刺さっている!。室温下げすぎて呼気に霧氷が出来たのか。
ああ驚いた。新型人工皮膚”白雪姫”が調子良いからって、暖房ケチりすぎたな。
だけど、重機は目一杯暖房するとエンジン推力減って飛行特性がかったるいのよね。
ここいらで使うなら、九七重機は古いから抜本的な寒冷地対策をしないとダメだな。資材降ろすってんで、二式降下艇が空いていなかったのも痛かったわ。」


(満漢人民共和国 工作員養成所)

作戦部長・孫:「使命伝達。桜花、梅花両名宛B王国後宮潜入指令。」

桜花:「後宮?。王族籠絡任務?。」

孫:「最終目的産油国国家略取。第一段階準備、子宮摘出、意志剥奪薬注入器置換。」

桜花:「嗚呼。不妊体化!。」

孫:「工作員常時生命無保証。生殖考慮不要。」

梅花:「B王国達磨娘以外後宮立入不可。」

孫:「当然承知。第二段階準備、宇宙娘々帝国経済特区経由四肢処置也。準備費用現金支給。
身体準備内容、私用装飾名目手足切断、腕機能併合硬質金属外皮能動義足取付実施。
B王国後宮、昼間用務時限定義足許可、義手終日使用禁止。国王拝謁時全裸達磨必須。」

梅花:「涙。我々手足功夫猛訓練鍛錬済。全部無駄。」

孫:「命令絶対。拒否者及失敗者一族抹殺。即時行動!。手術室受入準備済。」
46pinksaturn:2006/11/03(金) 14:19:42 ID:PNyRlD4d0
(帝国定例御前会議)

民部大臣:「経済特区の民間施設で四肢切断手術を受けた満漢人に怪しい者がいました。
神経断端トランスポンダ取付のための検査映像におかしな物が映っていたと報告がありまして。
子宮のあるはずの位置に薬剤を少しずつ膣へ放出する注入器らしき器具を埋め込んでいました。
それに、実利優先の満漢人では前例のないメタロリ外装の腕機能併合足を付けていきました。
費用は領事館からの公費負担ではなく、美容目的の私的な手術だと言って現金で払っています。」

刑部大臣:「違法薬物所持の証拠はないのですか?。」

民部大臣:「特区の警察では尻尾が掴めませんでした。器具だけでは検挙できませんから。」

弥生:「工作員なのは間違いないわね。トランスポンダ番号で追跡手配をかけましょう。
友好国に潜入したときは、それで探知網にかかるでしょうから、潜入先で対処します。
非友好国で悪さをするだけなら放置しても構わないですよね。」

朝子8世:「薬物で要人を陥れる気ね。各友好国駐在の大使館に警戒を指示なさい。」


(B王国 後宮)

侍従長:「ご要望だった、満漢人の達磨娘が手に入りました。」

国王:「労働者みたいな香具師だったら承知せんぞ。」

侍従長:「滅相もない。上玉の2人セットでございます。」

国王:「そうか。早速味見する。案内せい。」
47pinksaturn:2006/11/03(金) 14:20:41 ID:PNyRlD4d0
(在B王国 帝国大使館)

情報収集担当書記官:「街灯に仕掛けた探知機に手配されたトランスポンダがかかりました。」

駐在武官・睦月:「何の手配?。手術代不払いで逃げた香具師とかなの?。」

情報収集担当書記官:「工作員の疑いですね。それに薬物犯かも。」

睦月:「そお。かかった場所は?。」

情報収集担当書記官:「王宮前通りを王宮の方に向かって。王宮に入った可能性もあります。」

睦月:「王宮かぁ。後宮入りを狙う達磨娘を装って潜入し国王に何か仕掛けるつもりね。
国王金持ちだからそういう娘が良く来るのよね。自推から人身売買まで幅広くね。
場所が場所だけにしっかり証拠を掴まないと手出しは出来ないわね。良いコネが必要だわ。」

情報収集担当書記官:「親衛隊長なら面識があります。賢い人物だし、信用もおけます。
始末が悪いのは侍従長以下の侍従達です。賄賂で怪しげな者を簡単に入れてしまうんです。」

睦月:「ふーん。脇の甘い国ねえ。とにかく親衛隊長に会ってみなくちゃね。」

情報収集担当書記官:「私が個人的なお茶会に親衛隊長を招待するのは可能です。」

睦月:「じゃあすぐやって頂戴。ここの一番良い部屋を使って良いわ。」
48pinksaturn:2006/11/03(金) 14:22:12 ID:PNyRlD4d0
(3日後)

親衛隊長:「先日の北米工作員の件でお世話になった上にご招待いただいて申し訳ない。」

情報収集担当書記官:「こちらこそ時々良い情報を頂いてますからお互い様です。
ところで、国王陛下のご機嫌は如何です?。」

親衛隊長:「最近ちと後宮でのご趣味が度を超していて心配です。
ご政務で溜まったストレスもおありでしょうから、あまりとやかく言うわけにも...。」

情報収集担当書記官:「そうですか、我々の懸念が当たっていなければいいのですが。」

親衛隊長:「どういうことです?。」

情報収集担当書記官:「重大な事ですので、貴族の駐在武官が説明します。」

親衛隊長:「貴族?。すると、ここに帝国本体のサイボーグ武官がおいでなのですか。」

情報収集担当書記官:「この国は産油国ですから大国の工作員たちに狙われています。
それに対抗するため一昨年から、密かに滞在して大使館業務全般を指揮しているのです。
先日の北米工作員のときは犯罪行為でない企業乗っ取り案件なので表面に出ませんでした。
しかし今度はそれで済まないようです。睦月侯、お願いします。」

睦月:「こんにちわ。帝国駐在武官・特命全権公使の睦月大佐です。」

親衛隊長:「あ、大使のご息女、貴女がサイボーグ武官だったのですか。」

睦月:「一度お会いしただけで憶えていて頂けて光栄ですわ。
さて、早速本題ですが満漢人の達磨娘が2人、後宮に入り込んでいますね?。
その者達は、我々が工作員の疑いありとしてマークしていた人物です。
性器を改造して、膣から少しずつ薬物を投与できるらしき体になっています。」
49pinksaturn:2006/11/03(金) 14:24:09 ID:nZVDLJ9J0
親衛隊長:「むう。そういえば、あの2人が入ってから国王の後宮通いが急に増えて...。
とんでもないことだ。すぐにあいつらを締め上げて正体を暴かなくては。」

睦月:「もし薬物の影響で国王が心を奪われていたら、あなたが不興を買ってしまいます。
工作員ではなく、あなたが排除されてしまうことになったら取り返しがつきません。」

親衛隊長:「ううう、何とかしなくては...。」

睦月:「国王陛下の尿か血液のサンプルが手に入れば解毒剤が作れます。」

親衛隊長:「侍医から手に入れることは出来ます。しかしどうやって投与しようか。」

睦月:「奴らと同じ手でやりましょう。私の体に同じ仕掛けを組み込むのは簡単です。
私がス連から売られてきた性奴隷の達磨娘に化けて後宮に売り込まれるようにします。」

親衛隊長:「性奴隷商人の役は誰がやるんですか?。」

睦月:「本物を使います。投資顧問業のシャイロックという男の本業は人身売買です。
昔、経済特区の臓器売買管理法に違反して捕まえたときに弱みを握ってあるのです。」

親衛隊長:「そんな胡散臭い者を信用して良いのですか?。」

睦月:「シャイロックの持つ巨額の資金を全て黒菱銀行の口座で管理させているのです。
黒菱銀行は我が黒の公家が経営権を握っていて、裏切ったら資金を凍結できるのです。
シャイロックは命よりもお金が大事な金の亡者ですから、絶対に逆らえません。」

親衛隊長:「なるほど。しかし陛下が貴女と寝るという保証はないですね。
味見は必ずなさるでしょうが、短時間では解毒しきれないでしょう?。」

睦月:「私の体はノーブルセクサボーグという高級娼婦仕様機種をベースにしています。
一度味見さえさせられれば、必ず繰り返し求められる筈です。確かめてみられますか?。」
50pinksaturn:2006/11/03(金) 14:25:35 ID:nZVDLJ9J0
親衛隊長:「病みつきは困るから結構です。では私は早速血液サンプルを入手します。」

睦月:「よろしく。書記官、体の準備をするから換装器具の操作を手伝って頂戴。
丁度、ス連から仕入れたロングの人毛があったから完璧に仕上げられるわよ。」

情報収集担当書記官:「ところで、足が無いと燃料電池の搭載場所に困りませんか?。」

睦月:「普通の部品表には載っていない脇腹の空きスペースに収まる特殊な機種があるのよ。
出力はA型の半分で無補給持続時間も短いけど、手足を動かす必要もないから十分だわ。」


(数日後、後宮)

シャイロック:「ぐへへへ、どうです?。貴重な白人の上玉ですよ。」

侍従長:「西欧や北米の達磨娘は貴重だが、最近はス連人なら結構簡単に手に入るんだ。」

シャイロック:「そう仰らずに、いっぺん王様に味見していただいて下さいよぉ。」

侍従長:「うむ、そのなんだな、お前が誠意を見せてくれれば...」

シャイロック:「アフィリエイト料18%で如何ですか?。」

侍従長:「うーん、どうしようかな。」

シャイロック:「えい、しかたない。20%、ね、ね、良いでしょ。」
51pinksaturn:2006/11/03(金) 14:26:56 ID:nZVDLJ9J0
(その夜)

侍従長:「陛下、お試しで白人の達磨娘を入れてみたのですが味見なさいますか?。」

国王:「そうか。たまには白人も良いな。支度させい。」

侍従長:「そのつもりで、待機させてあります。こちらへ。」

国王:「気が利くな。ふむ、こいつか。おい、名は何という?。」

睦月:「テレシコワでございます。」

国王:「白人の性奴隷は珍しいな。何故、売られてきたのじゃ。」

睦月:「宇宙飛行士を目指していたのですが、手足を切断すればなれると騙されて。
スユーズ社の社員を騙ったマンプラスキーという男が、実は詐欺師だったのです。悔しい。」

国王:「変わった事情だな。ふむ、なかなか引き締まった体をしているな。いひひ。
どれどれ、おおお、達磨娘は運動できないからガバガバの奴が多いが、締まりが良いな。
う、う、うう、これは気持ちいい。邪魔な手足がないのにこの鍛えられようは最高じゃ。
気に入った。贔屓にしてやるから精々忠勤励め。しっかり仕えたら望みを叶えてやる。
わしの国の経済力をもってすれば、いずれ宇宙進出も夢ではないぞ。」
52pinksaturn:2006/11/03(金) 14:30:52 ID:p2/sqxf40
(数日後)

桜花:「このごろ、国王が淫りに来ないわね。薬の効果は大丈夫かな。」

梅花:「新入りのテレシコワとか言う白人に填っているようなのよ。でも大丈夫よ。
あの薬には習慣性があるから、そろそろ来るわよ。」

桜花:「来たら念のため国王のガウンに盗聴器を仕掛けましょう。訓練通り舌で出来るわね。」

梅花:「ええ。3Pのとき後ろに回った方がやればいいわね。あ、侍従が来たわ。」

侍従:「陛下がお見えだ。すぐに義足を外せ。」

桜花・梅花:「はい。ただいま。(早速、チャンスね。)」

(翌日)

国王:「テレシコワと淫っていると頭が冴えてくる気がする。満漢双美人と逆だな。
あの2人と淫った前後はいつも記憶が曖昧になるのにな。」

睦月:「お気づきになられたようですね。漸く毒が解けたようです。」

国王:「なに!。どういうことだ?。」

睦月:「あの二人は工作員です。膣からあなたの意志を奪う薬を出しています。」

国王:「ぎょっ。そういうお前は一体?。」

睦月:「私の本当の名は睦月、帝国特命全権公使・駐在武官の睦月大佐です。
我々は、あの二人をマークしていました。親衛隊長から得た情報でこちらに来たのです。
侍医殿から手に入れたサンプルからあの二人が使っている薬の解毒剤を用意できました。
それを体に仕掛けてス連人の達磨娘に化け、陛下に抱かれるよう仕組んだのです。」
53pinksaturn:2006/11/03(金) 14:31:30 ID:p2/sqxf40
国王:「不覚!。許さんぞ。親衛隊を呼んで締め上げてやる。」

睦月:「親衛隊長には、いま私がメールを出しました。逃げ道を塞ぐまでお静かに。」

桜花:「逃げたりはしないわ。陛下を人質にさせていただきますわ。」

国王:「無礼者!。わしの前で義足を着けるとは何ごとじゃ。」

梅花:「ガウンに盗聴器を仕掛けましたの。ばれた以上、性奴隷の芝居は終わりね。
動かないで下さい。この義足は器用に銃が撃てますのよ。」

睦月:「やってみれば?。本当に出来るかな。」

桜花:「ふふ、帝国の武官さん、いくらサイボーグでも達磨状態じゃ絶体絶命よね。
貴女には、この場で消えて貰うわ。この徹甲弾入りのピストルでね。さよなら...」

睦月:「(身体制御CPU貴族特権モード、強制ハッキングリモートプログラム起動。)
さっさと撃たないの?。どうしたの?。ん、ん?。」

桜花:「え?。指が...」

梅花:「くっ。蹴り殺してやる。あちょーーー。あ、あれ。」

桜花:「ぎゃっ。梅花、何をするの。」

睦月:「うふふ。貴女達の足は、私の手足になったのよ。観念なさい。」
54pinksaturn:2006/11/03(金) 14:32:56 ID:p2/sqxf40
(後日)

国王:「危ないところでした。薬で操って国を乗っ取ろうとしていたとは。」

睦月:「大国はどこもここの石油をタダ同然で収奪しようと狙っていますよ。」

国王:「工作員を捕まえたのは良いが、どうやって口を割らせるかな。
一族が人質になっているのか拷問しても国の命令だとは白状しません。」

睦月:「たとえ白状させたって相手が満漢では抗議しても無視でしょう。」

国王:「うーん、腹立たしいが戦争して勝てる相手じゃないし...。
見せしめにあの工作員どもを公開処刑で打ち首にしてやろうか。それも危険かな。」

睦月:「我々の国では捕まえた工作員は人権削除刑に処されます。
大国が相手では無駄なので抗議はしていません。見せしめも命令者には効果がないでしょう。」

国王:「人権削除刑?。どんな刑罰ですか。」

睦月:「非人という実験動物の身分になって主に非人間型のサイボーグにされます。
たいていは人柱という施設管理装置にして無人惑星開発施設の管理を一生やらせます。
我が国の法において正規のサイボーグには人権があるから、そんな使い方は許されません。
その代わり、極刑相当の犯罪者を活用しています。」

国王:「いいなあ。あいつらもただ処刑せずにそれくらいの目に遭わせてやりたいな。
そうだ、ここでは私が法律だから、その人権削除刑を取り入れて宣告してしまおう。
それで、宣告後にあなた方で引き取ってして処刑くれませんか?。」

睦月:「いいですよ。では私どもでお引き取りしましょう(人柱素材2体確保ね)。」

国王:「それから、もう一つお願いがあるのですが。」
55pinksaturn:2006/11/03(金) 14:37:46 ID:oPZ9z1Xp0
睦月:「何でしょう?。」

国王:「もう一度寝て下さい。貴女本来の姿でいいです。填ってしまいました。」

睦月:「あなたの国が特定友好国になって下さるなら喜んで、と言いたいところです。
しかし、我々の外交方針として恫喝や買収は許されません。関係が長続きしないですから。
そういう判断は、相手国が国益を良く見極めて自発的にしてもらうように規制されています。
勿論、あなたが、プライベートでいち売春客として特区を訪問されたならお供しますわ。」

国王:「外遊なんかするには、まず国内を安全にしないと。よーし、頑張るぞお。」


(満漢人民共和国 工作員養成所)

外務委員長:「孫部長宛、処罰通告。一族処刑、食肉工場送付宣告。」

孫:「暫時容赦!。工作員連絡途絶。此“予想外”也。失敗未確認。実際B王国無抗議。」

外務委員長:「言訳無用。」

孫:「堪忍、堪忍、堪忍!。我絶対善後策実施。約束必守。」

外務委員長:「好。唯一回機会付与。藻前自身性転換達磨娘化、追潜入敢行、事実確認。」

孫:「大泣。其過酷杉。他工作員使用許可願。」
56pinksaturn:2006/11/03(金) 14:53:39 ID:oPZ9z1Xp0
外務委員長:「否。藻前自身追潜入絶対条件。拒否即一族処刑。」

孫:「嗚呼...了解。自身潜入準備。但、準備時間猶予必要。」

外務委員長:「即刻手術。遅延即反抗認定一族処刑。覚悟如何。」

孫:「即断承知。諸煩...。」


(今回は帝国の娘達よりも満漢やアリババに輸出された製品の義肢が主役になってしまいました。
氷の収集をやっただけでは、まだまだ地球外素体生産地の開拓は出来ません。
次は帝国の娘達に一層忙しく飛び回って貰うことになります。
次回予告:(32)金星プラットフォーム)

(ミス発見。マサの乗っていた重機は皇紀九〇年式でした。)

>>18 manplus様
護衛戦闘機搭乗員までダルマだったり、夏休みはとっくに終わってしまってもノリノリで四肢切断フェア継続中ですね。
お誘いした甲斐がありました。
瞳は瞳でこのまま驀進とか、新たなRQ出身スーパーF1レーサーが現れるとか、
実は宇宙用サイボーグを作ってるのが杏奈の会社だったとか色々想像をかき立てられますね。
いずれにしても今後の発展期待。
57名無しさん@ピンキー:2006/11/04(土) 17:39:22 ID:K54zvuuG0
毒々しい風刺がききまくっていますねw
さすがです。
58名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 00:38:49 ID:u+qEN9+b0
このスレでJIMTOF逝った香具師いる?
工場のロボットとか旋盤とかの工作機械の展示会みたいなやつ。ビッグサイト。
確か8日くらいまでやってたはず。漏れは昨日逝った。
メカメカで超萌えた。
ロボットとかの内部のパーツみたいなのも展示してた。
ヤギーたんの体の中にこんなのが入ってるかと思うとさらに萌えた。
593の444:2006/11/07(火) 02:17:46 ID:XQsnKTF40
「では、八木橋さんにも参加していただけるということで、早速ですが、まず、今年の展示会用の衣装をお渡
ししたいと思います」
  斉藤部長は、早口でそう言うと会議に同席して部長達のアシスタント役を務めていた女性社員を目で促し
た。この場で衣装を渡してくれるなんて、ずいぶん準備のいいことだ。
  そうかあ、振袖かあ。あれって結構高いんだよね。まさか、くれるわけじゃないと思うんだけどさ、それにし
ても前もって貸してくれるなんてずいぶん気前がいいよね。今夜着てあげたら、藤原きっと喜ぶかも。汚した
りシワにならないように注意しなきゃ。いやいや、振袖もトーゼン標準義体用のサイズで作られているから、
平均よりちょっと高めの私の身長じゃ、サイズ合わないかも・・・。そもそも着付けなんて習ったことないから
一人じゃ着れないし・・・。などなど、アレコレ余計な心配をしつつ、彼女の配る半透明のビニールの袋に入っ
た展示会の衣装を大事な宝物みたいに両手で受け取る私。
  でもね・・・、私の妄想もそこまでだった。袋を手にした私はすぐに、あることに気がついちゃったんだよ
ね。
(この服、振袖にしては妙に軽い。軽すぎるよ)
  なんだか嫌な予感がした。だから、ちょっとみっともない気がしたけど、私は配られたそばから袋を破い
て、恐る恐る中のモノを取り出してみたんだ。
「うわ、何これっ!」
  袋の中から出てきた私の予想を越えたシロモノにうろたえる私。袋の中から出てきたのは白地に薄いパ
ープルのラインが入った、衣装って言うよりも、セパレーツの水着っていったほうが近いシロモノ。それも、ご
丁寧に同じ色のソックスまで用意するという念の入れよう。
  今年の展示会用の衣装って、コレなわけ?藤原に付き合って、変てこりんな服を着ることも多いけど、そ
れはあくまでも藤原一人に見せるためのもの。みんなが水着姿になっているビーチじゃあるまいし、こんな服
恥ずかしい服、展示会で着れるわけがない。これってセクハラもいいとこだ。
  だから、私は衣装というのも恥ずかしい布切れと二人の部長を交互に見ながら、ぷーっと頬っぺたを膨ら
ませて不満を表明してみせた。
603の444:2006/11/07(火) 02:18:46 ID:XQsnKTF40
「では、続いて古堅部長から、今回の展示用義体CS-30のコンセプトを説明をしていただきます」
「開発部の古堅です。では八木橋君、手元の資料をご覧ください」
  でも、二人はそんな私の反応を知っていて、わざと気がつかないふりをしているのか、目も合わさずに議
事を進行しようとしている。ハナっから遥々亭をエサに私を釣って、こんな恥ずかしいカッコをさせようって魂
胆だったんだね。私は、そのもくろみどおり釣り針つきの疑似餌を夢中でパクついた間抜けなお魚さんだっ
たってわけだ。
(悔しいっ!)
  机の下に隠した拳をぎゅうっと握り締める私。
  遥々亭ごときで、あんな衣装をハイハイ言って着れるほど私のプライドは安くないんだからね。

「あのう。これは、何でしょうか?」
  私は机の上に例の衣装を広げて、古堅部長のわけのわからない専門用語交じりの解説を一方的に断ち
切った。
「今説明したように今年の展示会用の衣装だが、何か問題でも」
  斉藤部長は肩をすくめてとぼけてみせる。
(何が、何か問題でも、だよう。問題アリアリじゃないか。このバーコードハゲっ!)
  脂ぎったハゲ頭を睨みながら私は内心毒づいた。でも、表面上はあくまでも冷静を装って
「さっき見た去年の展示会の衣装とゼンゼン違うみたいなんですが?」
「ふーむ。つまり、君はこの衣装では不服だというわけかね」
  斉藤部長は、さも意外だと言わんばかりに、わざとらしい作り笑いを浮かべた。
  それでまたカチンときた。怒ったら相手の思う壺だってわかってるけど、ここまで馬鹿にされて黙っていら
れないよ。
「だって、これじゃまるでレースクイーンじゃないですか。私が参加するのはスーパーF1じゃないですよね。義
体展示会ですよね。なのにどうしてこんな衣装を着なきゃいけないんですか?義体にとって一番大事なのは
外見じゃなくて中身の性能じゃないんですか?外見なんて飾りです。偉い人にはそれが分からないのでしょう
か?イソジマ電工の義体はとっても優秀ですよ。そんなこと義体ユーザーの私が一番知っています。なの
に、性能で競わないで安易に見た目を取り繕う方向に走るなんて、社員として恥ずかしいです」
613の444:2006/11/07(火) 02:19:40 ID:XQsnKTF40
  斉藤部長に鼻息荒く訴える私。
  でもね。やっぱり相手は海千山千の本社の部長だよ。こんなコムスメの言うことを素直にハイって聞いて
くれるほどヤワじゃなかった。
「実に生真面目な、わが社のお手本のような意見だね」
  斉藤部長は、この程度の反撃など予想の範囲内と言わんばかりにオトナの余裕たっぷりにうなづいてみ
せる。
「義体は、結局生身の肉体を模したものだから、外見は今の技術水準をもってすればどこの会社のものだ
ろうと、そう大差はない。重要なのは中身の性能だ。八木橋君の言ったことは全くもってそのとおり。しかし
っ!」
  斉藤部長は突然語気を強めたので、私はその勢いに負けてびくっと身体を震わせた。
「いくら電合成リサイクルシステムなんて言っても、一般人が興味を示すか?義体の性能がどんなに優れて
いても、見栄えが悪ければ世間もマスコミも注目しないんだ」
  斉藤部長ふうっと大きなため息をついたあと、言葉を続ける。
「君にも分かるようにたとえ話をしてみよう。ウチが、俺のような形の男性型義体を出展したとする。しかも、
カッコは、そうだな、白のランニングシャツ一丁にしてみようか?」
  ニヤリと笑って薄くなった自分の頭を芝居がかった仕草でなでつける斉藤部長。白のランニングシャツ一
丁。斉藤部長は日曜日はホントに言うとおりのカッコでソファでゴロゴロしてそうだ。その光景を想像してたら
私は、自分がカッカしてたのも忘れてついつい口元をほころばせてしまった。
「で、ギガテックスは、夢崎ひなた形の義体を出展してきたとしよう」
  今度は国民的アイドル歌手を引き合いに出す斉藤部長。
「で、まあ、そうするとだ。マスコミやカメラ小僧どもはどっちのブースに集まる?ギガテックスか?それともウ
チか?」
「えーと、そ、それは・・・まあ」
「八木橋君。遠慮しなくていいぞ」
623の444:2006/11/07(火) 02:30:04 ID:XQsnKTF40
「ギガテックスでしょう。私もギガテックスに行くと思います。申し訳ないですけど」
「『私も…』以下はチト余計だが、まあそうなるよな。ガハハ」
  私の答えに満足そうに、でもちょっぴり自虐的に笑ってみせる斉藤部長。
「そこで本題。去年のギガテックスの展示用衣装が、どんなだったか覚えているか?」
「バニーガールでした」
  あんなインパクトのある映像、忘れようと思ったって忘れられるもんか。
「そう。バニーガール。で、結果、マスコミも新聞もギガテックスの義体ばかり大々的に取り上げて、ウチの取
り扱いはほんのわずかなものだった。去年はウチの主力商品CS-25もギガテックスのMMC-HT-20Aも特に
革新的な技術を採用していたわけじゃないから、この取り上げられ方の温度差は、ほとんど義体の見た目
の差、衣装の差といっていい。ウチが莫大な費用をかけて、総売り上げの1%にも満たない全身義体を開発
するのは会社の宣伝になればこそ。カネをかけて新形義体を開発して展示会に出しても、巷の話題にならな
きゃなんの意味もないのだよ。そこで、今回の役員会で、世間の注目を浴びるために展示義体には去年よ
りもインパクトのあるカッコをさせるということに決まったわけだ」
「その答えがこの衣装というわけですか?」
  どうだと言わんばかりに胸をそらす斉藤部長をあきれて見つめながら私はため息をついた。ギガテックス
がバニーガールで注目を集めたからって、その後追いでウチの展示用義体にレースクイーンまがいのカッコ
をさせるなんて、なんて安直な発想だろう。そんな二番煎じみたいなことばっかりやってるから、ウチはいつ
までもギガテックスに勝てないし、私の給料だって上がらないんだYO!
「そう。ま、標準義体に換装するから標準義体の主が八木橋君だとバレることはないから、多少の気恥ずか
しさには目をつぶって、頑張ってくれたまえ」
  ただでさえカリカリしているのに、斉藤部長のこの余計な一言。がっはっはという耳障りな笑い声が、さら
に私を苛立たせる。相手は私よりずーっと上のエライ人。だから、頭にきても、あくまでも冷静に話し合わな
きゃ、なんて思っていたけど私、もう駄目だ。我慢できないよ。
633の444:2006/11/07(火) 02:30:48 ID:XQsnKTF40
  もし私が生身の身体の女子社員だったら斉藤部長、同じこと言えるだろうか?言えるわけないよね。も
し、こんな服を生身の女性社員に着るように、なんて強要する会社があったらそれこそセクハラで大問題に
なっちゃうはずだもの。でも、私の身体は機械仕掛けの義体なんだ。斉藤部長には、私の身体自体が、着
せ替え可能な服とか着ぐるみみたいに見えているんだろう。そして、私自身の存在意義なんて、その着ぐる
みの制御装置くらいにしか思っていないんだ。
  悔しいっ。悔しいっ。悔しいっ。
  特別手当は喉から手が出るほど欲しいし、遙々亭に入って美味しいタコ焼きだって食べてみたい。でも、
私にだってプライドがある。ここまで馬鹿にされて、目の前にぶら下げられたニンジンと引き換えにハイハイ
会社のいうことに従えるほど私は素直じゃないんだ。
(断ってやるっ)
  もしかしたら、この話を断ることで査定にバツがつけられるかもしれない。それでもかまうもんか。
  私は義体の制御装置じゃない。八木橋裕子なんだっ。
  私は唇をかみ締めながら斉藤部長のうすーい頭をにらみつけた。

「八木橋君」
  私が後先考えずに罵倒のコトバを口にしようとした丁度そのとき、今までずーっと黙りこくって私と斉藤部
長のやり取りを眺めていた古堅部長が唐突に口を開いた。
「君はタコ焼きが好きだそうだね。汀君に昔は三十個は平気で食べていたなんて話をしたことがあるそうだ
が本当かね?」
  古堅部長は三十という数字を妙に強調しながら、あきれ顔で私に聞いてくる。
「あ・・・えと、あの・・・はあ」
  突拍子もない話を突然振られて、とっさになんて答えていいか分からず、私は曖昧な調子でうなずいた。
「タコ焼き、お腹いっぱい食べてみたいと思わないかね?」
  古堅部長は、顔に穏やかな笑みを浮かべながら言った。
643の444:2006/11/07(火) 02:31:50 ID:XQsnKTF40
  そりゃあタコ焼きは大好きだよ。いや、正確には好きだった、かな。汀さんに言ったことだってホント。高
校生の頃、部活帰りにそのくらいは軽く食べていた。今だってもしタコ焼きが食べられる身体だったとしたら、
いくらでも食べてみせるし、タコ焼き大食い選手権なんてものがあれば、優勝する自信だってある。
  でも、ここで素直にお腹いっぱい食べてみたいって答えていいんだろうか?ううん、ダメだダメだ。もし食
べたいって言ったら、遥々亭で腹いっぱい食べさせてやるから展示会では素直にこの衣装を着て晒し者に
なりなさいって言われるに決まってるんだ。その手にはひっかからないんだからね。 
  斉藤部長とのやりとりで「上の姿勢」とやらに疑心暗鬼の私は、今度は古堅部長に向かって、心の中でア
ッカンベー。
「つまり遥々亭で腹いっぱい食べさせてやるから今回の件は我慢しろってことですか!物でつるのは、卑怯
だと思います!」
「違う違う。そうじゃない」
  古堅部長は、私の剣幕にあわてて、首を横に振る。
「現在我々義体ユーザーは、コンピューターの作り出した仮想空間上でしか食事を摂取することができない
が、これが実際の身体でできるようになったら、どうだ。今回展示会に出品するCS-30では、NTL社が開発し
た新型サポートコンピューターを搭載することで、とうとう全身義体に味覚の機能を搭載することに成功した」
  大げさなアクションもなく、あくまでも、淡々と語られるコトバ。余りにも簡単にさらっと言うものだから、私、
うっかり聞き逃しそうになった。
  全身義体に味覚の機能を搭載したって?今までの技術では不可能とされていたのに?
「部長っ!すごいじゃないですか!」
  これってトンデモないことだ。ためこんでいた怒りも忘れて思わず、身を前に乗り出す私。
「摂取した食物を義体のエネルギー変換するのはまだ無理だから、食事といってもあくまでも形式的なもの
でしかないがね」
653の444:2006/11/07(火) 02:41:08 ID:XQsnKTF40
  謙遜気味なコトバと裏腹な古堅部長の自信に満ち溢れた力強い口調から、今回のCS-30に賭ける意気
込みが伝わってくる。そりゃそうだ。たとえマネゴトであっても義体に食事を取る機能ができれば、私が学生
のときにしてたみたいに「ダイエット中だから食事できない」なんて苦しい言い訳をしないですむし、藤原に
「八木橋さんは食事できないなら僕も我慢する」なんて変に気を使ってもらわなくてもすむんだ。何より、現実
世界ではもう二度と感じられないだろうとあきらめていた味覚が蘇るんだ。これって素晴らしいことだ。イソジ
マ電工の「もっと本当の身体に近づきたい!」っていうスローガンはやっぱりダテじゃないよ。
「そこで」
  古堅部長はもったいぶるように言葉を切って、咳払い。
「実は君に頼みがある。君にしかできない大切な仕事だ」
「はあ」
「今回のCS-30で行う義体パフォーマンスは、食事を取ってもらうことに決まった。CS-30の特徴をアピール
するためにはそれが一番手っ取り早いからな。そして、そのパフォーマンスに最もうってつけなのが」
  古堅部長はすぅっと息を吸い込むような仕草をしてから、まっすぐ私を見据えた。
「八木橋君。君なのだよ」
「わっ、わっ、私ですかあっ!」
  古堅部長のバクダン発言に、素っ頓狂な声を上げてうろたえる私。
「遥々亭で食事を一緒にとったときの君の美味しそうに杏仁豆腐を食べる姿は、今でも頭に焼き付いてい
る。生身の身体でも、あそこまで美味しそうにモノを食べてくれる人はそうはいないだろう。そういう意味で、
私はこの仕事は君が一番の適任者だと思っているのだ。勿論社内には、いつものように社外の義体ユーザ
ーを使う意見もあったが、それを押し切って今日の会議に君を呼ぶよう提案したのは実は」
  古堅部長はそこではじめて歯をみせた。
「私なのだよ」
  古堅部長のまたもやのバクダン発言。張りつめていた会議室の空気が一気に緩み、全身の力がどっと
抜けた。古堅部長。それって私が食いしん坊って言ってるのと同じなんですけど。機械の身体になってまで
食いしん坊っていう評価をされるのは嬉しいやら悲しいやら。
663の444:2006/11/07(火) 02:42:04 ID:XQsnKTF40
「CS-30が世間の注目を浴びるかどうか、そして、ものを食べることのできる義体が今後の主流になっていく
かどうかは、ひとえに君の食べっぷりにかかっているのだ。どうだ。たいへん素晴らしい、やりがいのある仕
事と思わないかね」
  一人でしきりにうんうんうなづく古堅部長。どうやら自分の考えに悦に入っているみたい。
  でも古堅部長の申し出は確かにたまらなく魅力的。義体の味覚をアピールするというくらいだから、きっと
義体化前でも食べたことがないような山海の珍味ってやつが目の前にこれでもかというくらいに並ぶに違い
ない。それをひたすら食べていればいいなんて、なんて素晴らしい仕事なんだろう。いや、えと、私は決して
食いしん坊なんかじゃない。これは、
「もっと本当の身体に近づきたい」
  このスローガンにわが身を捧げる崇高な行為なんだ。
  でも・・・、ちょっと待って。さっき、斉藤部長、展示会の衣装は役員会の決定でこの恥ずかしい服に決ま
ったっていってたけど、ひょっとして、この服を着たまま食事をするってこと?いくら標準義体に換装するとは
いえ、大勢の変態どもの注視のもと、水着まがいの衣装を身に着けて、テーブルの前に次から次へと運ば
れる料理をひたすら食べ続けるなんて、そして、その光景が全国ネットでお茶の間に流れるなんて・・・まさ
か、そんなことはないよね。
「うー。食事をするって、ひょっとして、この衣装でってことですか?」
  上目遣いに、おずおず古堅部長に確認を取る私。
「服装など大義の前には小さなことではないか。はははははっ」
  キャラに似合わぬ高笑いをする古堅部長。
  うー、この際仕方がない。世の中の全身義体ユーザーのために我が身を捧げる覚悟を決めよう。だけ
ど、その前にもう一つ聞きたいことがある。
「今回の件が終わったら、私の義体もタダでCS-30に換装してもらえるんですよね?」
「すまん。それは無理。換装にかかる予定費用は社員割引でも2千万円の予定」
「に、にせんまんえんーーー!?」
673の444:2006/11/07(火) 02:42:57 ID:XQsnKTF40
「そう。二千万」
  古堅部長はきっぱりと言い切った。
「しかし、君の活躍活躍いかんによってCS-30が世間の注目を浴びれば製造コストがぐっと下がって、君の
手に届く値段になるかもしれんなあ。だがまあ、本人が嫌というなら残念だが仕方がない。やはり今回は深
町君にでも・・・」
「あああああーっ!ちょっと、ちょっと待ってくださいいいいい!」
  私の絶叫、きっと廊下中に響いたに違いない。
「私やります。いや、是非やらせてください。お願いします!」
  気がついたら私、またもや立ち上がって部長たちに向かって深々とお辞儀をしてた。
  いや、その、決して食い気に負けたってわけじゃなく、崇高な自己犠牲の精神から出た行動であっ
て・・・・・・うー、やっぱり悔しいっ。古堅部長の意地悪っ!
683の444:2006/11/07(火) 02:57:18 ID:XQsnKTF40
今日はここまで。
展示会(上)はあと一回だけ続く予定です。

manplusさんadjustさん。
スーパーF1にNTL社。勝手に使っちゃいました。すみません。

>>58
今回は展示会ネタなのに、そういう展示会には一度もいったことのない私なのです。
どういう雰囲気ですか。状況描写する参考にしたいので、教えていただけると
嬉しいです。ばくぜんとした聞き方で申し訳ないですけれども。
69名無しさん@ピンキー:2006/11/07(火) 07:38:03 ID:u+qEN9+b0
「ギガテックスが路線変更してきて、ギガテックス社員が水着のイソジマ社員に冷ややかな目を向ける」
「いきすぎた露出競争で、客かマスコミに批判される」
の二択になりそうだな。

ところで、開催中ずっと喰ってたら、喰ったものはどこへ行くんだ?w
70pinksaturn:2006/11/07(火) 13:58:45 ID:8yfKlM530
>>59
バニーよりエロい初代トップ絵衣装キター!。
なるほど、ようやくあの衣装の由来が公開された訳ですな。
713の444:2006/11/08(水) 02:27:16 ID:g840/S7p0
>>69
> ところで、開催中ずっと喰ってたら、喰ったものはどこへ行くんだ?w
さあ?お腹の中にゴミ箱があるんじゃないですかね。
でも、うっかりゴミ箱を付け忘れて食事をすると大変なことにw
>>70
よくぞ気づいてくれました。さすが!
72名無しさん@ピンキー:2006/11/08(水) 21:59:00 ID:7qhtMJ+U0
>>71
食べた食料の体積>胴体のサイズ、と言いたかったのでは?

ひたすら食べるシーンを見せる為だけに、上半身だけにされて台に固定されたサイボーグの女の子…
なんて展示会はイヤかも。
多分そのコはものすごく嫌そうな顔しながら食べてそうだし。
73名無しさん@ピンキー:2006/11/08(水) 23:47:40 ID:7qhtMJ+U0
>>72
自己レス

でも、機械然とした無表情で機械的に食べてるより、たとえ嫌そうな表情でもそんな姿でも人間らしい仕草をしているコの方が萌える…。
74adjust:2006/11/09(木) 00:08:58 ID:NcPYVDjV0
>>58
地方在住なので、地元の小規模なものにしか行ったことないんですが
メカ好きとしては結構はまりますね。
当時はカタログやら説明資料をどっさり持って帰ってました。
マニュアルセットをどさっとくれるところもありました
もっとも、地元のやつは会社の名刺と入場料取られましたが

>>68
>>72-73

人前で表情だけはにこやかに、もくもくと食べ続けるヤギー萌え
食べたものがどう処理されるのかは 3の444様に期待してまってます

食べるというのを実現するのも、技術的に燃えますね
嗅覚、味覚、舌運動、咽喉運動、咀嚼運動、それぞれの物理的感覚
ついでに鼻から逆流運動など
これを実現するサポートコンピュータか、これはNTLに対する挑戦か(自爆)

753の444:2006/11/09(木) 15:24:07 ID:8Zls73ku0
>>72
ヤギーは勘違いしているようですが、美味しいものが出るとは限らないですね。
例えばジャイアンシチューのような、世にもまずいものをまずいと認識できる
ということもアピールする必要があるかもしれません。
ちなみにギガテックス完全義体は、脳の食欲を感じる中枢をいじってるそうですよ。
だから、特に食べたいという欲求を感じることもなく幸せです。
なんて設定はどうかなあと考えております。
>>74
うーむ。味を感じるのは味覚だけじゃなくて当然嗅覚も必要になりますね。
すっかり忘れてた。しかもサポートコンピューターだけでなく義体にも改良を
加えなくてはならないとは。こういう技術的な話を私の筆力で果たしてどこまで
書けるものやら…。
私のほうこそadjustさんの手による橋本和美さんと元調理師の義体の人のペアの、
味覚開発話を読んでみたいです。
76名無しさん@ピンキー:2006/11/09(木) 22:35:35 ID:QcVTF+lg0
>とんでもない料理
ビーフカタストロフを喰わされて、跡形も無く溶けて無くなるヤギー…
嫌だ、そんなの絶対嫌だ!w
77名無しさん@ピンキー:2006/11/09(木) 22:59:28 ID:WTnkNXoO0
ジャイアンシチューってせみの抜け殻が入ってたりするやつだっけ・・・w
78adjust:2006/11/09(木) 23:14:28 ID:9pYgyII00
大福やら塩辛やらその他いろいろだ
”すごい”らしい スネオ談

>>75
>私のほうこそadjustさんの手による橋本和美さんと元調理師の義体の人のペアの、
>味覚開発話を読んでみたいです。

脳内で開発検討会議中です(笑)
今書きかけているのがあるので、それを先に出して
そのあと考えて行きたいと思っています
CS-30となると、”今”の話になりますね

よろしくお願いします。
79名無しさん@ピンキー:2006/11/09(木) 23:31:09 ID:QcVTF+lg0
>>75
>嗅覚
嗅覚はさすがにまだ実現してないって事でも問題ないのでは?
たとえ味覚だけでも実現していれば、食事を楽しむ事はかなりできるはず。
(もちろん嗅覚もあればその十倍は楽しいだろうが)

でも、嗅覚は、視覚・聴覚・触覚と違って基本的原理は味覚とほとんど同じだったりする。
あくまで同じなのは基本的原理だけで、実際に実現するときの技術面は色々固有の問題があるだろうけれど。
80adjust:2006/11/09(木) 23:52:02 ID:9pYgyII00
>>79
>でも、嗅覚は、視覚・聴覚・触覚と違って基本的原理は味覚とほとんど同じだったりする。
>あくまで同じなのは基本的原理だけで、実際に実現するときの技術面は色々固有の問題があるだろうけれど。

そのとおりですね、味覚と嗅覚は発達の過程はほとんど同じです。
動物の中には味覚と嗅覚が分化されてないものもいる
味覚は液体、または唾液に溶けた物質を感じ取る。
嗅覚は鼻の粘膜に溶け込んだ物質を感じ取る

その辺から攻められるかなと考えていたので、しゃしゃり出てきました。すみません
813の444:2006/11/10(金) 20:33:03 ID:r5jxhs+C0
adjustさん
おお!すでに検討会議に入っていましたか!いつもの理系的萌え要素満載の
お話を期待しております。
> CS-30となると、”今”の話になりますね
私のほうの話は時代が気まぐれにあちこち飛ぶのでいつが今なんだか…
時系列でいうと前作の10年ほどあとのお話になりますかね。
82名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 20:58:10 ID:b1qe6C2a0
>>71 食べ物を粗末にしたら駄目なんだぜ?

       ……もったいねぇ〜
「?」
  ……もったいねぇ〜
「う」
             ……もったいねぇ〜
「うーーーー」
   も〜〜〜った〜〜〜い〜〜〜ねぇ〜〜〜〜〜
「うわあああっ!!!1!」



はあはあはあはあはあはあ……

ベッドの上で上半身を起こしたまま毛布の端を握り締めて呼吸を整える。機械の身体じゃなかったら、心臓が破
れるくらいドキドキして、汗をびっしょりかいていることだろう。

怖い夢を見た。ニンジンやダイコンやナスやキュウリのお化けが私を取り囲んで、声を揃えて「もったいない」っ
て責め立てる夢。

子供の頃、おじいちゃんの家に行くと、畑で採れた野菜や果物を食べさせてくれた。新鮮な野菜は本当に美味し
かったし、おじいちゃんご自慢のリンゴはどんなお菓子よりも好きだった。でも、やっぱり、子供の私には、ど
うしても食べられない物もあった。お皿の上の食べ残しを見て、おじいちゃんは悲しそうな顔をしながら、もっ
たいないお化けのお話をしたものだ。

おじいちゃん、お話がとってもうまいんだ。よく、絵本を読んでくれるようせがんだよ。おじいちゃんのお話を
聞いていると、まるで登場人物がすぐそばにいるように感じられた。だから、小さい頃は、ホントにもったいな
いお化けがいるって、私、信じてた。お化けが出てくる夢を見て、怖くてトイレに行けなくて、おねs……げふ
んげふん。
83名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 21:03:10 ID:b1qe6C2a0
あー、その、おじいちゃんの布団の中に潜り込んだのも1度や2度のことじゃない。おじいちゃんの大きくて暖か
い手をぎゅって握り締めながら、ごはんを残さずに食べられるいい子になろう、って固く心に誓ったっけ。栄養
カプセルしか口にできなくて、好き嫌いなんかとは無縁の身体になってからは、そんな思い出も夢のことも、すっ
かり忘れていた。

その夢をまた見ちゃったんだ。これはきっとアレのせいだろうなあ……。

***

義体展示会も、明日1日を残すだけになった。食事の実演を何度も何度も繰り返していると、いいかげん最初の
頃の興奮や熱気も冷めてくる。黙々と料理を口に運んでいたら、お客さんの中から、こんな質問が出た。

「食べた物はどうなるんですか?」
「腹部に設置されたゴミ箱に入ります。ゴミ箱の容量は、およそ4食分です。生ゴミとして溜まるだけなので、
夏場は早めの廃棄が必要ですねw」
「えー! ゴミなんですか? 栄養分を吸収したり、エネルギーに変えたりしないんですか?」
「そのような技術は、鋭意研究開発中です」
「ふーん。食べ物が何の役にも立たないで、ゴミになっちゃうのかあ。なんだか勿体無いですねw」

お客さんとスタッフがそんなやり取りをするのを、口の中一杯に食べ物を頬張りながら聞いていた。

勿体無い。確かにそうかもしれないよ。CS-30型義体で食事ができると言ったって、ただ食べる真似をしてるだ
け。相変わらず私の脳みそには栄養カプセルが必要だし、身体を動かすためのバッテリーは毎晩充電してるんだ
もの。この食べ物は、私が味を楽しむためだけに消費され、生ゴミとして捨てられる。勿体無い。勿体無い。私
がごはんを残すと、おじいちゃんも、よくそう言ってたなあ。

***
84名無しさん@ピンキー:2006/11/10(金) 21:07:47 ID:b1qe6C2a0
あの時は、あまり深くは考えなかった。夢を見たからっていうわけじゃないけど、食べる真似をするだけの機能
が義体に付くのは、本当に嬉しいことなんだろうか。勿体無いと思いながら食べる料理は、本当に美味しいって
感じられるんだろうか。こんな引け目を感じていたら、またお化けの夢を見ちゃうかもしれない。私はそんなの
は嫌だなあ。

今日も朝早く起きて展示会場に行かなきゃならないけど、いろいろ考え始めたら明け方近くまで眠れなかった。
会場で古堅部長に会ったら聞いてみよう。

部長、本当の食べる喜びを感じられる義体はできるんですか?  私、怖い夢を見なくてもいいようになれますか?

85pinksaturn:2006/11/10(金) 23:51:54 ID:OW7Fbh3/0
>>71 >>82-84
生ゴミじゃあんまりなんで、せめて肥料製造機ぐらい組み込めないですかね。
高級ホテルの残飯を使った肥料は効果抜群で好評らしいですよ。
来場者のお土産に八木橋印の肥料なんてどうですか。
863の444:2006/11/11(土) 01:00:12 ID:XZJZQgly0
>>82
 ちょっと、そこのお客さん。食べたものが無駄になるとおっしゃいました?
 少々誤解されているようですね。義体が食べたものはちゃーんと無駄にならないようにできているんですよ。
 まず、標準義体の彼女に、このみかんを食べてもらいます。どうですか、美味しいですか?
甘くて美味しいって?
それはよかった。何しろ愛媛みかんの最高級品ですからそう言ってもらわないと困ります。
 さて、食べたものですが、腹腔内にある分離機、だいたいこのあたりにあるわけですが、に送られて、水分
と残りかすに分離されるわけです。通常は水分のみ、貯蔵タンクに送られるわけですが、今回は排水モード
にしておりますので、そのまま、こちら、えーと分かりやすいようにハッチを開いてみて、はい、ここですね。
こちらの排水タンクに貯まるしくみになっております。
 えー、では、タンクを取り出してみましょうか。ガチャリと。
 で、こちらのタンクに貯まった液体をコップにそそいでみましょう。
 はい。たちまちのうちに新鮮な絞りたての生ジュースの出来上がりです。義体ユーザーは、みかんの味が
楽しめる。おまけに食べたみかんはジュースとしてちゃーんと人の役に立ちます。
 どうぞ。ご賞味ください。
 え、ふざけるな?そんなもの飲めるかって?
 大丈夫です。ジューサーでジュースを作るのと何もかわりませうわなにをするやめaあせdrftgyふじこlp;@:
87名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 01:24:56 ID:+HHiZNVT0
ネタを根底から否定されちゃったよ……orz
88名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 18:22:23 ID:+HHiZNVT0
#原作者に否定されてもキニシナイ! 。・°・(ノД`)・°・。

翌日。やっぱり目覚ましでは起きられなくて、念のためにセットしておいた義体の時計機能からの覚醒信号でた
たき起こされた。眠ったのは1時間くらいだろうか? 眠い、眠い。これじゃ、食事の実演の最中に居眠りしちゃ
いそうだよ。困ったなあ。

会場に着いて、古堅部長を探したけど見つからない。何か用事でもできたんだろうか? 今日が展示会最後の日
だっていうのに……。ブースの中を見渡しても、いつものスタッフの姿も見当たらない。ただ1人。事前の顔見
せでは会った記憶がないスタッフが、手持ち無沙汰な様子で会場の隅の椅子に腰掛けているだけ。こんなんで今
日1日過ごすんだろうか? 大丈夫かな? 不安だなあ……。

食事の実演も今日で最後。このCS-30型標準義体とも今日でお別れだ。真似だけとはいえ、何年ぶりかで本物の
食べ物を口にすることができて嬉しかった。明日から寂しくなるなあ。この4日間で経験した味覚を大事に覚え
ていよう。

食事の実演が始まったら、案の定、眠気が襲ってきた。半分寝ながら箸を動かして食べ物を口に運んでいると、
またお客さんから昨日と同じ質問が出た。

うー、その話はもういいよう……。

でも、今日初めて会ったスタッフは、ちょっと違う受け答えを始めたんだ。

「えー! じゃあ、食べた物はゴm」
「ちょっと、お客さん! 少々誤解されているようですね」
お客さんの言葉を遮ると、おもむろに懐からみかんを取り出した。は? この人、いつもそんな所にみかんを入
れてるの? スタッフは何事もなかったかのように平然と笑ってる。何か雲行きが怪しくなってきた……。
89名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 18:27:11 ID:+HHiZNVT0
スタッフは私の口の中に無理やりみかんを丸ごと(もちろん皮も剥かずに)押し込むと、あろうことか私のお腹の
メンテナンスハッチをいじり始める。
「わっ、な、何をするんですかっ!」
口の中がみかんで塞がっていても、喉の奥のスピーカーから声を出すのに支障はない。こういう時は義体って便
利……いやいや、そうじゃなくて! スタッフに抗議しても、私の言葉なんかゼンゼン聞いちゃいない。私がみ
かんを飲み込むのを見計らって、ハッチの中に無造作に手を突っ込むと、排水タンクを取り出しちゃった!

そりゃあ、私の身体は機械だよ。検査の時にはハッチを開けられることもあるし、部品を交換されることもある。
でもね。例え、外見が私とはゼンゼン違う標準義体に入っているとしても。デモのために必要不可欠なことだと
しても。こんな大勢の見ず知らずの人達の前で、そういうことを私に無断でやるのは勘弁して欲しいよ。

スタッフは、そんな私の気持ちなんかに気づいている気配もない。排水タンクの中身を、これまた懐から取り出
した大きなコップに移すと、得意げに掲げ持って見せびらかしている。

絞りたての美味しいみかんジュースです、だってさ。冗談じゃない。私は歩くジューサミキサーですか? まる
で、『今ならこのダイコンおろし器とセットで驚きの29,800エン』なんて言っているテレビの通信販売番組みた
いじゃないか。この身体は、そんなことをするためにあるんじゃないよ!

ジュースを見せられたお客さん達だって、ドン引きだ。そりゃそうだよね。なにしろ、一度、私の口の中を通っ
たものだもの。いくら清潔ですとかジューサーと変わりませんとか言われたって、抵抗があるのは当たり前。こ
れが、もしも夢崎ひなた形の義体だって言うなら、また話は違うかもしれないけどさ。

「おや、おかしいなあ? ここは笑うトコですよ? 今日のお客さん、ノリが悪いなあ。あははは」
ノリが悪いって……あんた、ここは義体展示会だよ? 皆、真面目に新型義体の食事機能のお披露目を見に来て
るんだ。こんな素人の笑えないマジックショーまがいのモノ、受けるわけないじゃないか。
90名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 18:31:00 ID:+HHiZNVT0
「しかーしっ! こんなこともあろうかと、密かに開発を進めてきたコレ。コレさえ見ていただければっ! ご
納得いただけること間違いなしっ!!」
そういってスタッフが懐から取り出したのは、直径15cm、長さ20cmの銀色の円筒形の物体だった。……ちょっと
マテ。あんた、一体どうやってそんな物を……。

私が突っ込む暇もなくスタッフは私のお腹の中から分離機を取り出すと、その代わりに銀色の円筒を取り付け
ちゃった。
「これこそは、我がイソジマ電工と業界最大手の家電メーカーであるフラット社との長年の共同研究が見事に実
を結んだ世紀の大発明品。超小型高速肥料製造機なのですっ!」
……肥料……製造機?

「どんな生ゴミでもこれさえあれば、あーっという間に、立派な高級有機肥料に生まれ変わります。低温域でも
高効率の新開発特殊有機触媒の働きで、1kgの生ゴミが肥料に変わる時間が、たったの15分!」
……だから、生ゴミ生ゴミってゆーな。
「ご希望があれば、今この場で実演してサンプルをお持ち帰りいただけます。家庭菜園やハーブガーデンをお持
ちのあなた。奮ってご参加くださいっ!」
……誰もぴくりとも動かない。

「さらにっ! 生ゴミの供給は義体ユーザーご本人の口からだけではありません! なんと、ここ。この通り補助
供給口を2つご用意させていただきました!」
そう言って、円筒正面の大きな赤いボタンを押す。すると円筒左右の側面が大きく割れて開口部が現れた。な、
何なんだ、コレは……orz
「これさえあれば、ご近所のお宅から出る生ゴミを一手に引き受けて処理することが可能です。義体ユーザーご
本人は大量の肥料が手に入り、ご近所の奥様方には喜ばれる。一挙両得、一石二鳥とはこのことです!」
……ジューサミキサーの次は、歩く肥料製造機? 一体、この人は私のことを何だと思ってるんだ。お客様の前
で内輪揉めするわけにはいかないから、黙って従っているしかないけど、何かとっても悔しいよう!
91名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 18:44:42 ID:+HHiZNVT0
その後も、スタッフは、未来から来たとかいう青色の狸型ロボットよろしく、懐から次々にヘンテコなアイテム
を取り出しては、私の身体に組み込んで得意げに説明した。初めのうちは、お客さん達も、つまらなそうな顔を
していたけど、私がおもちゃにされるだけなのに腹がたってきて、思ったことをハッキリ口に出すようになって
からは、何度も大きな笑い声があがるようになり、あたりのブースからも人が集まるようになっちゃった。そん
な風にしてあっという間に1時間が過ぎていた。あーあ。私、一体何やってんだろうなあ。

お昼過ぎ。ようやく会場に古堅部長がやってきた。あのスタッフはいつの間にかいなくなり、いつものスタッフ
達がブース内を駆け回る姿が見られるようになっていた。早速、私が古堅部長に食って掛かったのは、言うまで
もない。

「古堅部長!」
「おや、八木橋君。ずいぶん早いね。珍しいな」
部長の陰にいた課長が、私に声をかける。あれ? 何で課長が? ま、まあ、いいや。今は古堅部長をとっちめ
なきゃ。
「早くなんてないですよう! それより部長! 今日の午前中のデモ!」
「うん? ああ、すまなかったね」
「すまないじゃないですよう! 何であんな変な物ばっかり作るんですかっ! 私達、全身義体ユーザーは開発
部のおもちゃじゃありません!」

「……何を言っているのだね、八木橋君?」
「何って……あの、分離機を応用したジューサーとか、新開発の肥料製造機とか、それからそれから……」
「八木橋君?」
「とにかく! もう、あんな実験台になるのは二度とゴメンです!」
「課長、何のことか分かるかね?」
「……古堅部長、もしかしてアレが出たのでは?」
……ちっとも話が噛み合わない。あくまでも、しらばっくれるつもりなんだろうか?
92名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 18:48:27 ID:+HHiZNVT0
「ああ、そうか。アレか。なるほどな。しかし、まさかウチのブースに出るとはな」
「ええ、私も心外です。そんなにウチのブースは……」
なんか、この光景、昔も見たような気が……。たしかカラオケボックスで課長と先輩が似たようなやりとりをし
てたっけ。課長、また私をからかう気?
「アレって何なんですか!? 課長、また漫画のネタで私をからかうつもりですか?」
「漫画って何のことだ?」
「さあ、私にも何のことやらさっぱりです」
「八木橋君、君が何を言っているのかは分からないが、アレと言うのは、この会場に出る怪人のことだ」
部長、真面目な顔をして、とんでもないことを言い始める。

「ここでは年間何十ものイベントが開かれて、そのたびに何十万の人間が集まるのは知っているね? それも、
ただ集まるだけではなくて、さまざまな人間の欲望がぶつかり合うわけだ。そいう場所には、ツキものがあるの
だよ」
……部長、「ツキ」って言葉を変に強調して発音した。付き物って言いたかったんじゃないの? ……もしかし
て、もしかして、憑き物ってこと?

「うん? その表情を見ると、分かってくれたようだね。そう、この会場には憑き物がいる。俗に瓜馬メッセの
怪人と呼ばれている」
「か、怪人ですか?」
「そうだ。客の入りの割りには盛り上がりに欠けるブースがあると、スタッフがいない隙をついて奇妙なパフォー
マンスをして見せる。結果、客が一人もいなくなる。実に恐ろしい怪人だよ」
「な、何でそんな変なものが……」
「さあなあ……? 大事な商品のデモに失敗して客が集まらず、会社に大損させたスタッフの怨念が凝り固まっ
た物だとか言われているがな。だから、場が盛り上がって客が集まれば、満足して消えるのかもしれないな。ま
あ、そんなことはどうでもいい。それより、どうして君は午前中、ここにいたのかね?」
「え? だって食事の実演が……」
93名無しさん@ピンキー:2006/11/11(土) 18:53:07 ID:+HHiZNVT0
「はて? スタッフの都合がつかないから、実演は中止と申し送りしたはずだが?」
「…え?」
「午前中は、実演関係のスタッフは誰もいなかったろう?」
じゃあ、あのスタッフは……さっきのブースの盛り上がりは……。……ええええ〜〜〜〜っ!
「では、私は別件の打ち合わせがあるので、これで失礼するよ。今日が最終日だから、八木橋君もがんばってく
れたまえ。君にとっても、CS-30型義体を手にすることができるかどうかがかかっている、大事な展示会なのだか
らね」

そう言って部長と課長は、会場を去っていった。部長に聞こうと思っていたことは、結局聞くことができなかっ
た。でも、そんなことはどうでもよかった。もったいないお化けは、おじいちゃんが話してくれた、ただの作り
話だけど、古堅部長の言う怪人は……。私が会ったあのスタッフのことは、誰に聞いても知らないという答えが
返るだけだった。私は瓜馬メッセの怪人に会ったんだろうか。あの場の盛り上がりに満足してくれたんだろうか。
分からない。

でも、ただ一つ、はっきりしていることがある。この義体なら、小さい頃みたいに夜怖くてトイレに行けなくな
ることはない。それだけが唯一の救いです……orz




82-84と本投稿は、サイトへの掲載を遠慮させていただきます。そんなことをお考えとは思えませんが念のため。
94名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 17:54:12 ID:5IM4BNW10
『ジュース製造ユニット』『肥料製造ユニット』


排出方によっては、極めて特殊な需要が有りそうだな…裏で。(;´ω`)
95名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 19:44:38 ID:pMzhak080
>>94 妄想したw (食事中の方は読まないように)

「さて、そういう訳で、今日は新開発の義体内蔵型調理ユニットによるカレー作成の実演会です。アシスタントは全身義体
ユーザーでケアサポーター部新入社員の……」
「八木橋裕子でーす。よろしくお願いしまーす」

用意する物:ジャガイモ2個、ニンジン1本、タマネギ2個、牛角切り肉300g、カレールウ(お好みの物)、水1,500c

「さて、早速、実演に入りましょう。下ごしらえは不要です。このまま、八木橋さんに食べていただきます。八
木橋さん、噛んじゃ駄目ですよ」
「……このジャガイモ、泥がついてるんですけど?」
「大丈夫、大丈夫。洗浄モジュールがどんな頑固な泥汚れも綺麗さっぱり洗い落とします」
「え〜〜〜、タマネギの皮くらい剥いてくださいよう」
「駄目駄目。そういう手間をかけずに済むところが、この調理ユニットの売りですよ?」
「しくしく。あ、このお肉、生なのでは?」
「もちろん。熱加工モジュールが程よく焦げ目付きで炒めあげてくれますよ。これもこの調理ユニットの(ry」
「しくしくしく。私、水を1,500ccも飲めないよう」
「水が足りないと、洗浄モジュールが動きません。それにユニット内が焦げ付きます。焦げ付きの方は、後で分
解清掃すればいいだけのことですが。当然、サポートコンピューターの電源も落とします。ええと、およそ36時
間くらいですねw」
「しくしくしくしく。せめて、カレールウを水に溶くくらいは認めてよう。これ激辛50倍じゃないか」
「駄目駄目駄目駄目〜〜〜〜っ!」
「え〜〜。何で?」
「あ? えーと。それは単なる私の趣味ですw」
「横暴〜〜〜〜!!!」
「ほらほら、もう時間があまり無いですよ? 時間内に収録が終わらないと手当てが出なくてただ働きですが?」
「しくしくしくしくしく」
96名無しさん@ピンキー:2006/11/12(日) 19:50:49 ID:pMzhak080
「で、私、この後は何をすればいいの?」
「何も」
「へ?」
「後は、全部調理ユニットがやります。八木橋さんは、そこで座ってじっとしていてくれればOKです」
「……それ、私なんて必要ないんじゃないの?」
「いえいえ、カレーが出来上がった後で、ご活躍いただきますから」
「???」
「調理ユニットの動作に支障が出ないよう、動かずにじーーーーっとしていてくださいね」

***

「さあ、そろそろ頃合ですか。八木橋さん、出番ですよ」
「あー、いくら義体だからって、座ったまま身動きもできないのは疲れるなあ。それで、私、何をすれば?」
「このテーブルの上にあがってください」
「ご飯を盛ったお皿が並んでるけど、いいの?」
「ええ、それで、スカートと下着を下ろして中腰になって」
「はいっ?」
「ご飯の上に、出来上がったカレーをかけていただければ、と。八木橋さん、義体暦7年でしたっけ? この姿
勢を取るのも久しぶりでしょうから、外さないよう注意してくださいねw」
「……あの、もしかして、カレーの取り出し口って……」
「はい、いわゆる【自主規制】に接続されていますので」
「だあぁぁぁ〜〜〜っ! こんなのやってられるかあぁ〜〜〜!!!1!」

お粗末。
97adjust:2006/11/12(日) 23:28:42 ID:YZnGUrMS0

以前に書きかけていたエピソードで、飛ばしていた部分を
補完させていただきます。
大西関連の話になります

今のこのスレでは、味覚関連の話が広がっているようですが
残念ながら、味覚ではありませんのでスレ違いかもしれません

それと、落ちがなくて(いつもだけど)、つまらないかもしれませんので
内容については、あらかじめお詫びします

98adjust:2006/11/12(日) 23:29:37 ID:YZnGUrMS0
その1 

「はあ、きつかったねえ」
 大西知美は鮨づめのワゴン車から這い出して、背伸びをした。同じ研究室の学生も、一人、二人と車から這い出す。
 「ああ、重かった、さすがともっち、全身義体なだけあるわあ」
 「ごめんね、しっかり握っていたんだけど」
 大西の横に乗っていた三島絵里は、痣にでもなっていやしないかと、ノースリーブで丸出しの腕を撫で回す。男子学
生の荒っぽい運転で一度ならず、普通より重い大西にのしかかられた三島はかなり災難であった。
 しばらくして、研究室の助教授と講師が大衆セダンで滑り込んでくる。
 「おまえたち、早すぎ、むちゃすんなよー」
 などと、文句をつけながらスマートに降りてくる教員たち。ワゴン車に鮨詰めの学生たちと比べれば、ちょっと殺意
が沸くほどの違いであった。這い出した場所は港の中。星修大学海洋センター所属の海洋調査船、星修丸が来週の出航
を待っていた。
 「全員いるかあ、何人か落としてないよな、点呼してくれ」
 教員の指示で、同じ研究室の学生たちが集まる。わやわやとひとしきり雑談の後、金子助教授が説明を始める。
 「あー、あそこに見えるのが本学の海洋調査船、星修丸だ。あの船に積まれている海中探査機に、うちの研究室の測
定器を載せてもらうことになっている。本来の調査は海流観測なんだが、それに便乗して、低周波通信の実験を行う予
定です。」
 金子助教授は男子学生と大西にちらりと視線を送る。
 「来週から一週間、私と島村、大西があの船に乗り込んで、海流調査の合間に通信実験をすることになります。その
間は講師の杉浦先生の指示に従ってください。いいですか」
 とくに異議があるわけでもなんでもないから、学生たちはあいまいな返事を返す。
 「それでは、海洋センターの見学に入ります、まず最初は海洋センターのセンター長に挨拶に行きますから、静かに
ついてきてください」
 金子助教授が学生を先導して、海洋センターに向かう。大西は潮風にさらされ赤錆が浮いた海洋センターを見渡した。
 「ともっち、海洋調査って本当に行くんだね。大丈夫なのお」
 三島が、大西の背中を突っついた。
 「うん、電気はあるみたいだし、大丈夫だよ」
99adjust:2006/11/12(日) 23:30:58 ID:YZnGUrMS0
その2

 「いや、そうじゃなくて、...」
 大型客船でもない限り、このような船の中は男所帯というのが普通である。もっとも、偶然ではあるが星修丸の一等
航海士は女性であり、少なくとも船内の規律と美化は他の同様の船と比べて、高く維持されていた。そうでなければ、
くじ引きで決まった乗り組みの担当を降りたかもしれない。
 「一応、船室もあるから、プライバシーは大丈夫だよ。もっとも、私なら、甲板に寝てても大丈夫だけど」
 ふっ、と遠い目をして、さびしい笑いを返す。
 「それに、何も危ないことがあるわけでもないしね。誰もなにもしないしできないよ」
 「うん。それはそうなんだけど...」
 三島が、まずいことを言ったなと心の中で思いながら、次の言葉に考え込む。
 それを察して大西はにぱっと笑って、三島に言った。
 「それに、私はくじ引きに当たってよかったと思ってるよ。船に一週間も乗り込むなんて初めての経験だし、退屈す
るだろうけど、船で退屈することも体験してみたいし。」
 「ともっちらしいね」
 「うん、そうかもしれないね、もともと好奇心は強いみたいだよ。冒険大好きっ子だから」
 小学生の頃に図書館で読みふけった冒険譚やSF、ミステリーなどが脳裏をよぎる。もちろん、そんなハプニングなど
望むべくも無いが、それでも未経験の世界には胸が躍った。
 前のほうで助教授がセンター長と談笑していた。講師の先生の指示でいっせいに挨拶。そんななか、一つのアイデア
を思いついていた。その内容に、ちょっといたずらっぽい不敵な笑顔をもらしてしまう大西であった。
 
 
 「はあ、サポートコンピュータの仕様書見せろってこと?」
 橋本のブースを訪ねてきた大西が求めてきた要望に、いやそうな声を上げる橋本。
 「仕様書って...、内容にもよるけど、ある程度から上は企業秘密じゃなかったかな」
 後ろの棚からファイルを取り出す橋本、ぱらぱらとめくりながら、イソジマ電工の企業秘密の範囲を確かめる。もと
より流出させるつもりなど全く無いので、その範囲なんか頭に入っていない。ついでに範囲がはっきりと書かれている
項目が見つからない。
100adjust:2006/11/12(日) 23:39:05 ID:YZnGUrMS0
その3 

「首の後ろのプラグがありますよね。下のほうの」
 「なんかあったわね」
 「上のプラグは専用なんですが、下はPC用の汎用プラグなんです」
 「ああ、そうか、IPコネクタね。それで何かやるの?」
 大西はどう説明しようか少し悩んだが、考えながら口に出す
 「内蔵記憶装置のデータを外に出したいんです。ちょっとデータ変換して」
 「へえ、だけど、標準アプリで画像とか動画のデータは出せたとおもうけど」
 「なんか、データフォーマットが違うみたいで、うまく表示できないんですよ」
 橋本は、内蔵アプリの全てを把握しているわけではない。制御と関係ない部分はどーでもいいので、軽く斜め読みし
た程度である。
 「へー、そうなんだ」
 深く考えることも無く、うなずく橋本。
 「すみません、その部分見せていただけますか」
 いくつかの書類から、大西がファイルを選び出す」
 「ん、いいけど、企業秘密があるかもしれないから貸せないよ。読むだけならいいけど」
 「はい、それでいいです。ちょっと興味がありますから」
 ぱらぱらとめくる大西。しかし橋本は気づいていなかった。義体には画像記録の機能が付いていることに。
 
 
 出航の次の日、調査海域に到着した星修丸からつり降ろされる海中探査機WaveExplorer3の準備が始まった。金子助
教授と男子学生の島村が、WaveExplorer3に取り付けられた、低周波音波通信機のチェックを行う。大西は星修丸側に
取り付けられた送受信機のテストを行っていた。
 画像として映し出される低周波数の音波。2箇所の受信機からの信号が表示機を真っ白に埋め尽くす。ほとんどは船
自身が発生する信号である。しばらく記録しておいて信号の特性を切り分け、船体から発生するノイズをフィルタする。
船体からのノイズ、砕ける波のノイズ、それらを除去するとノイズのカーテンは薄まり、少しずつなにか規則性のある
信号が浮かび上がってくる。割とはっきり写っているのは、フィルタでも除去しきれないスクリューのノイズ。それ以
外のは海流なのか、それとも何かの渦か。
101adjust:2006/11/12(日) 23:40:04 ID:YZnGUrMS0
その4

 一通り作業が終わったのか、WaveExplorer3はクレーンで海上に釣り下ろされる。
 「ぺこん...ぺこん...」
 WaveExplorer3の送信機が海中に沈むと、大西の装着したヘッドホンから発信信号が伝わってくる。
 「ようし、始めようか」
 金子助教授が汚れた手をタオルで拭いながら、大西の後ろに立つ。島村はまだWaveExplorer3を見守っているようで
ある。隣の部屋では本来の作業である海流調査のスタッフが会話を交わしていた。
 「位置測定は出来るね」
 助教授の言葉に、大西は2つのマイクから拾われた信号を、つまみで照合させる。2つの受信機の時間差が一致した
ところから、距離と方向を求める。しかし大西にはそれをする必要は無かった。左右のヘッドホンから聞こえる音が自
然に大西に位置を伝えていた。
 「受信機から見て、左30度くらい。距離は50mってとこですねえ」
 義体の作り物の信号を、自分の感覚と合わせるテクニックはすでに身に着けている。耳からの信号を心理的な位置関
係に表し、その比率を計算して現実の距離を出す。
 「おお、すごいな」
 間髪いれず答える大西に、助教授が目をむく。機械で測定しているわけでもないのを見て、耳だけで判断したことを
知る。助教授がつまみを操作して、確かにその位置にあることを確かめた。
 「ぴったりだね、大西さん。たいしたもんだ」
 「いえ、こういう機械の使い方は慣れてますから」
 大西が照れた。しばらくの沈黙の後、内心の動揺を隠しながら、助教授に他のいくつかの表示について質問する。
 「こことか、ここに目立つ信号がありますけど、これはどう処理しますか?」
 「うーん、ここは、50Hzの10dbあたりか、これは海流の渦だね。そのままにしておいていいよ。海流同士がぶつか
って渦を巻いているんだ。場所が変わるからそのうち無くなる。」
 「こっちは?」
 「これは、...よくあるゴーストノイズかな。魚か鯨じゃないかと思うけど、まだ僕にはわからない。これもそのうち
消えるよ」
102adjust:2006/11/12(日) 23:41:08 ID:YZnGUrMS0
その5

 大西は、助教授の指導で通信機の操作を続けていく。WaveExplorer3が距離をとるにつれて、通信信号がノイズにま
ぎれていった。信号が弱くなると緻密な操作と適切なフィルタリングが必要になっていく。
 「距離は?」
 「1000m位です」
 うーむ、と助教授は考え込む。信号の減衰が激しいことは予測していたが、今回使用した通信機での周波数領域では
予想外に減衰が大きい。対策をしなければ、表示機に映し出される信号はノイズに埋もれてしまう。しかし大西はそれ
とは別の感触を持った。
 「............」
 ヘッドホンを押さえつけて、じっと耳を澄ます大西。ノイズの中ではあるが、発信機からの信号は大西の耳にはしっ
かりと聞こえていた。
 「大丈夫です。まだ聞こえます。」
 ボリュームを上げ、ノイズも大きさを増す中、その中に身を隠そうとする信号を大西は聞き取る。
 「距離2000m、方向変わりません」
 表示機に映し出される信号はもう区別が付かない。しかし、大西の脳はそのノイズの中から必要な信号を篩い分ける。
 「大丈夫です、聞き分けられます」
 助教授はスピーカを止め、別のアンプからヘッドホンをつなぐ。
 「ああ、大西ほどじゃないが、なんとなく聞こえる気がするな。...パーティ効果?」
 使い古された音響学の単語が口を付いた。人はパーティのたくさんの人の会話のざわめきから、特定の相手の言葉を
聞き分けることが出来る。これをパーティ効果と呼ぶ。昔から使われてきた言葉で、音声認識の重要な要素でもある。
 「5000m、停止したのかな、止まったみたいです」
 しばらく、真剣な顔で耳を澄ます助教授。しばらく息を止めて聞き続けたが、ついに、ぶはあっと息を吐いた。
 「さすがにそこまではわからん。なんとなくしか聞こえない。すごいね、何でわかるのか調べてみたいね」
 助教授も大西の体のことについては知っている。しかし、原理的にいって、義体にそんな分析機能があるわけが無い
ことはわかっていた。これは、大西の脳がなせる業であった。
103adjust:2006/11/12(日) 23:47:27 ID:YZnGUrMS0
その6

 大西は助教授の賞賛に戸惑いながら、助教授に聞いてみる。
 「すみません、すこし試してみたいことがあるんですが、よろしいでしょうか。」
 「ん、なんだい」
 「その音声信号を、直接義体につないで聞いてみたいんです。スピーカやヘッドホンで音声が歪みますから、それを
そのまま空気を伝えないで聞いてみたらどうなるかと思って...」
 ほう、と助教授が興味深そうに大西を見つめる。
 「そんなことが出来るの?」
 「はい、知り合いにやり方を教わって、プログラムを作って見ました。」
 もちろん、実際にはやり方を教わっているわけではない。ちゃっかりとデータを盗みだしただけである。
 「大丈夫なら、やってみてもいいよ」
 助教授の許可を得て、アンプからノートパソコンにケーブルをつなぎ、その信号をノートパソコンでデジタル化する。
大西は髪をかきあげ、首の後ろのコネクタを露出させる。そして、そっとノートパソコンからのケーブルを差し込んだ。
 「じゃあ、やってみますね」
 ノートパソコンの変換プログラムを起動。義体の受信プログラムも起動。ノートパソコンで変換されたデジタルデー
タが、大西の体に流れ込み、そのデータを受信プログラムが神経パルスに変換して直接大西の脳に流しこむ。
 「...............」
さーっというノイズが、直接脳内に流れ込んでくる。脳がこの信号に戸惑う様子がわかる。しばらく聞き続け、脳がそ
の新しい刺激に慣れたとき、音として聞いたときよりはるかに大きな空間が心の中に広がった。
 「......すごい...」
波のうねり、船がかき分ける波、力強いスクリュー音、遠くに聞こえるWaveExplorer3のかすかな動き。そして、それ
以外にも何かの気配を感じる。その空間が大西の心の中にはっきりと映し出された。
その感覚はしばらくの間、大西を朦朧とさせていた。
 「.........はっ」
 はっとわれに返って、かなりあわてて振り向く。きょとんとした助教授の表情を見て、大西は無理やり平静を装った。
 「え、えっと、うーん、すっごくよく聞こえます。船が上にあるとか、遠くに調査機が進んでいるとか。直接聞くと
こんなに違うんだということがよくわかります」
104adjust:2006/11/12(日) 23:48:13 ID:YZnGUrMS0
その7

 「ほおー、うーん」
 助教授が考え込む。
 「そんなに違うんだねえ、僕も聞いてみたいなあ」
 ちょっとあっけにとられた、金子助教授であったが、気を取り直して、先生の顔に戻る。
 「それはそうと、通信音波はわかるんだね」
 「はい、わかります。遠くのほうからこちらに信号を送っている感じがしっかりわかります」
 「そっか、それじゃ、また分析の方法を考えてみるよ。すくなくとも情報は来ているわけだから方法はあるはずだ」
 「はい、そうですね」
 大西は、うなずく。助教授はその大西の姿に満足し、大きくうなずいて返した。
 「さ、それじゃ今日出来ることはやってしまおう。その後で次のことは考えよう。」
 「はい」
 男子学生の島村が戻ってきた。大西の首につながれているケーブルをみて、一瞬ぎょっとしたようであったが、平静
を装って大西の横に座る。それをみて助教授が言った。
 「おう、お疲れ、今日の分のデータ取りやるぞ。ゲイン調整してくれ」
 「は、はい」
 島村はアンプの調整に入る。
 「大西さん、20dbmくらいでいいの」
 「OKだよ。それくらいが一番聞こえるよ」
 「了解、じゃそれくらいで...」
 島村は調整に集中する。しかし、いまいち集中しきれず、耳が真っ赤になっているのは何が理由なのか。
 ちなみに、大西にはずっと前から彼氏がいるのであった。
 
 
 調査最終日、データ取りを進めていた大西と、島村であったが、通信が安定しないことに悩まされていた。レベルメ
ータを見ながら、必死でゲインを調整する島村だが、予想外のところで信号の強度が上下する。大西が直接義体に接続
しても、いまいち原因がわからない。カーテンに包まれたように信号の発信源がぼやけてしまうのである。
105adjust:2006/11/12(日) 23:49:22 ID:YZnGUrMS0
その8

 「今日はうまくいかないな」
 助教授が後ろからその姿を見ながらつぶやく。
 「データはしっかり記録しといてくれ、帰ってからの分析材料だから」
 言われるまでも無く、記録テープは常に回り続けている。距離は7000m、大西が直接義体に取り込まなければもう聞
こえない。かすかなささやきは位置を変え、時折位置を失う。大きいうねりのように変化する信号は、何か巨大なカー
テンに翻弄されているように変化する。大西と島村が、受信機を操作しても、もうほとんど足しにならない。
 「もう限界だな」
 助教授が静かにいった。
 「何かがそこにあるように感じるんですよ。でも信号はこないです。」
 大西はもどかしげに助教授に訴える。直感が何かを使えていることを教えている。しかし、それが何かわからない。
 「周波数特性が悪いのかな」
 島村が受信機を操作する。通信帯域をいっぱいまで広げるが、大西の耳にはほとんど変化が無い。受信機は帯域が広
がる分、白いノイズの量を増やす。
 「これでも変わらない?」
 「うーん、聞いてる分には変わらないね。もう耳では聞こえないかな」
 「そうだろうな、ここまで低いと、体感サウンドの方が効くだろーな」
 島村は自分のオーディオセットをイメージした。超低音は強力な低音スピーカでは体を振るわせるような効果を出す。
それを狙った、いすにつける低音システムもある。
 助教授はあきらめて、自室に戻っていった。
 「そうか、耳には、フィルタがかかっているのかもしれない」
 大西が気づく。生身でも、そもそも20Hz以下の音波は一般的に可聴領域の外になる。超低音ではそもそも聞き取る神
経が存在しなくてもおかしくない。たとえあったとしても、その神経が接続されているとは限らない。
 「耳で聞こえないなら、測定器で読むしかないよね」
 「そうだな」
 島村が大きくあくびをして、いすの上でのけぞる。
 「ちょっと休憩」
106adjust:2006/11/12(日) 23:50:55 ID:YZnGUrMS0
その9

 「うん」
 大西もケーブルをつけたまま目を閉じた。意識がすうっと消えていく。
 (超低音、体感...)
 !!!
 半分まどろみながら消えていく意識の奥で、何かがごちゃ混ぜになる。その中で耳と体が一緒になる。
 (体で聞く?...そうだ!)
 大西はパソコンからの信号を受け取るソフトウェアを見直した。聴覚神経に行くように設定されているプログラムを
書き換え、体感神経系にセットする。低周波が耳に聞こえないとしても、体感神経は触感として信号を受け入れること
が出来る。ちょっと不安なので、信号の強さをうんと小さくし、注意しながら、プログラムを再起動した。
 「......」
 「何にもわからないね。失敗したかな」
 サポートコンピュータを意識の中だけで操作して、信号を強くしていった。それに応じて、しびれたようにたくさん
の神経が規則性の無い刺激を脳に伝えてくる。全身をぴりぴりと刺激が襲う。
 「はふう」
 大西が、刺激に身を任すと、全身の刺激の規則性がなんとなく見えてくる。ふわっとなでるような刺激、周りからち
くちくと覆うような刺激。
 体全体を撫で回すような刺激は、彼との営みを思い出させる。生身をなくし性感を無くした、それでも彼に応じる大
西。そのときに受け入れる前戯がまさにこんな感じであった。
 「ひょっとして」
 つい声に出して、大西はあわてて目を開く。横では、島村がうたた寝している。たった今思いついたたくらみを実現
するには、ここではあまりにも危険である。しかしそのたくらみを放棄するには、そのたくらみはあまりにも魅力的で
あった。
 「かたん」
 わざと音を立てて、いすを動かす。浅い眠りの島村ははっと目を覚ました。
107adjust:2006/11/12(日) 23:52:03 ID:YZnGUrMS0
その10

 「ごめん、起きちゃったね」
 「いや、いいけど...」
 ちょっとぼーっとしている島村、その島村に向かって大西が両手を合わせる。
 「ごめん、ちょっと席を外してくれないかな。充電しなくちゃならなくなっちゃった。」
 媚びるようにみつめて、大西が“お願い”する。それが何を意味するのかを考えて、島村はあわてて立ち上がる。
 「すまん、気づかなくて」
 「ごめんね、いつもはそんなこと無いんだけど」
 島村があわてて立ち去った後、ドアを閉め、言い訳のとおりにわき腹からソケットを出して電源につなぐ。そのあと
で、サポートコンピュータを操作し、体感神経系に送られている信号を、性感神経系にも送り込んだ。
 「あ」
 小さい声が漏れる。抑えようとしながらも、残る正気に刺激がきりきりと食い込んでくる
 小さい刺激からだんだんと大きな刺激へ、巨大な舌が全身を嘗め回すような刺激が、大西を襲う。
 「はあっ」
 寄せては返す波のような刺激が大西の体を翻弄する。高まっていく刺激。思わずボリュームを上げていく。強くぴり
ぴりとした刺激も大西にとっては心地よい。
 「ふうっ、ふうっ」
 全身の刺激が、脳を攻め立てる。ゆっくりと高まっていく快感が小さな絶頂を破裂させる。
 「あんっ」
 すこし落ち着いて息をつく。しかし刺激の強さは変わっていない。いやむしろ体が慣れた分だけより大きい快感が全
身をうねる。二度、三度、小さな快感がそのたびに脳内で熱く破裂する。しかし、最後はまだ来ない
 「うえええん」
 もうそこまで大きい絶頂が近づいているのに、性器の無い大西は性器にだけ強い刺激を送り込むすべを知らない。多
くの神経系で、その部分がどこなのかわからない。近づいても近づいても、そこにはたどり着けない。何も無い股間に
手を伸ばす。どんなに押さえても、こすっても期待したものは何も返ってこない。
108adjust:2006/11/12(日) 23:52:47 ID:YZnGUrMS0
その11

 「ひっく、ひっく、うええん」
 あまりの切なさに涙がこぼれる。
 しかし、刺激は止まらない。全身の刺激がうねる。そしてまたうねる。永久とも思える時間に気が狂いそうになる。
 「ひーん、欲しいよおおっ」
 そのとき、全くの偶然か、欲しい部分の刺激が大西の脳を大きくかきまわした。
 「はあああっつ」
 大西の脳内が真っ白の光であふれた。そして焼け付くような感覚が神経の限界を超えて飽和した。
 
 「はあっ......」
 「はあっ..」
 「.......」
 行為の後の興奮が冷めていく。今も全身を覆う刺激は、どこか遠いところのものに感じられる。また高まりそうな刺
激に身を任せそうになりながら、でも、大西はあわてて、刺激を送り込むプログラムをとめた。
 「こんこん...こんこん...」
 ドアをたたく音が聞こえる。
 ここでわれにかえって真っ青になる大西。(顔色変わらんけど)変な状態でないかあわてて見回して、わき腹の充電ケ
ーブルを外し、シャツで隠す。
 「はいはーい、こめんなさい」
 首の後ろにつながれているケーブルに引っ張られて倒れそうになりながら、大西はドアを開けた。
 空けたとたん、助教授と島村が真剣な顔で通信機に向かう。そのいつもと違う雰囲気に大西は今のがばれたかとあせ
る。
 「どうしたんですか」
 「なんだか、WaveExplorer3がトラブルらしい。操縦できなくなったそうだ。こっちの記録に何か残っていないかと
思ってね。大西さん、なにか変化なかったかな?」
 「!」
109adjust:2006/11/12(日) 23:57:40 ID:YZnGUrMS0
その12

 そういえば、イク瞬間は何か大きな刺激があったような気がする。それまでは物足りなかったのに、その瞬間だけ十
分な刺激があったから。
 「たった今、強い信号が入ったように見えました。いままでは、ほとんど聞こえなかったんですが、その瞬間だけは
っきりとわかるほど大きい信号でした」
 内心の動揺を押し隠しながら、気取られないように出来るだけ正確に報告する。助教授は大西の言葉にうなずいて、
テープを巻き戻した。
 「.........」
 「これですかね」
 「これだろう」
 島村と金子助教授が信号波形を覗き込む。広い帯域の信号が重なった波形は、形がうまく読み取れないが、レベルが
大きくなっているのはよくわかる。しかし何が起こったかはさすがに読み取れない。
 助教授が船内電話を取った。
 「金子です。山内教授をお願いします...ああ、金子です。こっちの記録でも波形が大きくなっているのを確認しま
した。はい、まだ何かまではわかりませんねえ...」
 海流調査の山内教授と連絡を取る金子助教授、そのやり取りを聞きながら、大西はサポートコンピュータを操作し、
入ってくる信号をまた体感神経系へ接続する。もちろん性感神経系にはつながない。ざわっとしたノイズが入り、大西
は島村に頼む。
 「もう一度、さっきのとこ再生できるかな」
 「ああ、いいよ」
 ぽんぽんと二度、つまみを動かして記録時間を戻す。再生
 「おおっと」
 全身に広がる空間感覚。聴覚としては聞こえない水圧を全身で感じる。くるくると体の周りで渦を巻く。そして全身
に圧迫感。巨大なものが近づいてくる。
 「?...くじらさん?」
 大西たちが乗っている船と同じような圧迫感。しかしそれよりははるかに敏捷に変化する。そしてがつんっと音にま
で聞こえる硬い音。
110adjust:2006/11/12(日) 23:58:27 ID:YZnGUrMS0
その13

 「くじらに叩かれた?」
 そして、ふっと再生が終わる。神経を集中していた大西は、とたんに脱力した。
 「ふう」
 「なにかわかった?」
 島村が聞いた。
 大西はしっかりとうなずくと金子助教授に行った。
 「WaveExplorer3はくじらに叩かれました。近づいてきた得体の知れないものに、うちの子供に手を出すなと母親が
怒ったみたいに感じます」、
 「.........」
 予想外の説明をされてぽかーんとしている金子助教授。助教授もくじらやほかの海棲生物の可能性を考えなくもなか
ったが、見てきたように話す大西の姿のほうが予想外であった。島村も度肝を抜かれたが、彼はこの状況がどれほど非
常識であるかはいまいちわかっていない。
 「わかるのか?」
 かすれたような声で助教授が聞く。
 「はい」
 笑顔で答える大西。
 「そうか、わかるのか...」
 自分に言い聞かせるようにつぶやいた助教授は、今の音声を通信機から出力させる。
 「すまんが、いまの調査機の状態をみてくれないか?」
 「やってみます」
 入ってくる信号を耳と体で真剣に聞き取る。暗闇の海の中、そこで息づく生き物が大西にささやきかける。
 WaveExplorer3は、新たな命令を受け取って、ひっくり返った機体をゆっくりと戻し始めていた。
 「ああ、あぶないよ、ゆっくりと動かないとお母さんがまた怒るよ」
 「そうだよ、ゆっくりと、そうそう、赤ちゃんくじらが遊びに来たよ」
111adjust:2006/11/12(日) 23:59:12 ID:YZnGUrMS0
その14

 「......」
 助教授と島村は目配せした。助教授は船内電話をWaveExplorer3を操作している部署につなぐ。島村は状況を説明す
るために直接操縦室に走った
 「くじらさんごめんね、この機械を帰らせてくれない?」
 「大西さん、どのように動けばいいか指示して」
 「わかった、このまま、そのままのスピードで動いて。はやくもおそくもしないでね」
 「そうだよー、大丈夫だよ。くじらさんに悪いことなんてしないよ」
 大西の指示をきいて、調査機の操縦が行われていく。びっくりさせないように静かに、しかし存在ははっきりと示す
ようにメリハリのついた操縦である。位置がわからないほどに静かだと、相手を警戒させてしまう。
 「うわあ、コミュニケーションしてるよ」
 魚群探知機の映像を見ながら島村がつぶやく。気を取り直して大西に呼びかける。
 「大西さん、WaveExplorer3のマイクの音を聞けるそうですが、どうしますか」
 「ありがとう、入れてください」
 魚群探知機から見える魚群とくじら、それらの間を縫うようにWaveExplorer3は、緩やかに姿勢を変えながら進む。
さあっと左右に分かれる魚群、その中をエスコートするようにくじらの家族が調査機についていく。時々ロールするの
にあわせて、くじらの一家もくるりとついてきた。
 「WaveExplorer3の右後方スクリュー故障です。音を立てていて苦しそうだよ。左スクリューは正常なので、右後方
スクリューを止めて、操舵で調整してください。」
 数十秒後、右後方のスクリューが停止する。その分だけ速度が落ちるが、それ以上に静かになった。
 「どうしたの?」
 巨体が機体の下に回りこんでいる気配を感じて、大西が怪訝な顔をする。WavwExplorer3のマイクの音は、調査船か
らの遠距離音波よりはるかに明瞭に入ってくる。その信号は一度超音波に変換され、調査船との通信回線に乗る。その
後、音声に戻され、大西の体に送られてくる。
 (ふわっ)、もって行かれるとしか言いようがない速度で、WaveExplorer3が強い海流に押し流される。本来このよう
な渦流には無防備な機体は翻弄されやすい。
112adjust:2006/11/13(月) 00:05:06 ID:ShI80rw30
その15

 「あらら」
 回転による渦と、あわ立つ音、ごぼり、ごぼりと音を立てて機体が回転する。その中で、寄り添う気配に大西は驚い
た。
 「フオーン、きゅいっ、きゅうう」
 初めての肉声が耳に通じた。
 「!」
 その声に大西は全身がしびれたような錯覚を覚えた。
 「助けてくれてる。ありがとう。だいじょうぶだよ。」
 大西がつぶやく。大西の声が相手に伝わるわけではない。しかしそれを聞いて、操縦するスタッフが相手に答えるよ
うに機体を波打たせる。
 それにほっとしたのか、、「きゅーっ」っという声を一言。それを最後にその気配は遠ざかっていった。
 
 細心の注意を払い、できるだけ低速で近づく調査船、星修丸。普通より多くの時間をかけたもののWaveExplorer3の
回収はほぼ問題なく成功した。研究の成果については、ノイズも多いが、情報量も多いので新たな通信法を考案する必
要があることが当面の課題となった。そして、それからしばらくして金子助教授の論文発表により、この事項が公にさ
れた。もちろん大西の個人情報などはまったく公表されていない。
 「ひっく、ひっく」
 しかし、企業秘密が流出したことは、イソジマ電工とNTL社のわかるところとなった。
 「ぐすん、ぐすん」
 ライバル社に悪用されたわけではないから、イソジマ電工は寛大にも、ほとんど不問としてくれることになった。し
かし、NTL社としては、それだけではすまされることはなかった。
 「ふえーん」
 そのため、橋本は始末書と余計な仕事を、引き受けさせられることになったのである。
113adjust:2006/11/13(月) 00:09:26 ID:ShI80rw30
このエピソードはこれでおしまいです
ありがとうございました

味覚、食に対する話が今のスレで話題になっていますが、それについては
次の作品で書かせていただきます。遅くて申し訳ありません

114名無しさん@ピンキー:2006/11/13(月) 10:41:23 ID:YkCbUyz00
>>97
凄い、凄いよ! 最後まで一気に読んじゃったよ。

機械じゃなくて生身の脳みその力。でも義体じゃなければその力は発揮できない。スマートな着想に
びっくり。作業している室内の緊迫感。くじら親子と遭遇した WaveExplorer3。リアルな描写で脳内
に映像が浮かびまくり。

ともっち、彼氏いるんだね。義体バレしてるのに、好きになってくれた人がいるんだね。幸せだね。
性感無いのに彼氏に精一杯応えようとするともっち、テラセツナス。冒頭の三島さんとのやりとりの中で、
さりげなく出てくるともっちの悟りきった台詞もテラセツナス。

自然が生み出した低周波信号での自慰は、とってもキモチよさそう。性感の波に揉まれながら、なか
なかイケずに悶えるともっち。萌え萌えだよう! でも、ひとつだけ。「あまりの切なさに涙がこぼ
れる」ってアリですか?

ともっちの大冒険の陰で、とばっちりを喰って仕事が増えてる橋本さん、カワイソス。機密情報を社員以外
に見せてる時点で守秘義務違反っぽいから、自業自得というところかなw

ちょっとした思い付きから、こんな冒険をして、しかもWaveExplorer3の危機まで救っちゃう。義体の
技術資料を持ち出すところとか、島村君を部屋から追い出しちゃうところとか、WaveExplorer3を通じて
くじらとコミュニケーションするところとか。機転のきくともっち、とってもカッコいい。adjustさんの
作品に出てくる女性は、みんな本当にカッコいいね。憧れちゃうよ!

素晴らしい作品でした。次回作にも期待しています。
115munplus:2006/11/13(月) 20:58:40 ID:7e5Yrftl0
 カンダスーパーガールズは、スーパーF1参戦初年度のシーズンオフにチームを立て直し、
カンダスーパーガールズのスタッフは、瞳も含めて更なる進化を遂げて2年目の開幕戦を迎えた。
 パースの開幕戦は、天候の急変への対応で各チームのピット作業が混乱をして、
完走が34台中17台のサバイバルレースとなった。
セーフティーカーが、三回も入る荒れようだったが、その中で、カンダスーパーガールズは、
タイヤ選択のミスやピットの混乱が続きエマをリタイヤに追い込んでしまったが、
瞳は、持ち前の天才的操縦で3位表彰台をゲットした。
 第二戦のクライストチャーチは、異例の気温上昇で、日本の夏のような気温と路面温度での開催となった。
常春のニュージーランドでは、珍しい高温になったため、TS、ダンロックの両タイヤメーカーも、
持ち込んだタイヤが全て合わない異常事態の中の開催となり、タイヤの消耗レースの様相を呈したこのレースでも、
カンダスーパーガールズは、エマを参戦初の入賞である8位まで持って行くことに成功し、
瞳は、レース中盤にパンクによるアクシデントで順位を落としながらも、二位表彰台を確保する走りをみせたのだった。
 南半球での2試合を終えて、2週間後にはヨーロッパラウンドが開幕し、
モータースポーツの本場のヨーロッパでスーパーF1サーカスが第2の開幕を迎えることになるのだ。
 瞳は、2週間後のチェコに備えて、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー輸送用カプセルに梱包される作業を受けていた。
オーストリアのザルツブルグにあるカンダスーパーガールズ専用のヨーロッパ基地にある瞳のヨーロッパ大陸内の
第一の住まいへの長時間の移動のための用意である。
 瞳は、この2週間の南半球のレースで今期のカンダスーパーガールズの活躍の手応えを感じていた。
シーズンオフの間にカンダの社長室でロイドに約束したとおり、3戦以内で自分が表彰台の中央に置かれる可能性が
高いという確信を持つに充分なレースだった。
パースは、突然の大雨が降り、レース中のセーフティーカーが三度も入る異常事態の中であったからピットクルーの
動揺は仕方ないし、突然の豪雨での同時ピットインで瞳のマシンが待つ形になってしまったことは、
ピットクルーの責任ではなかった。
116manplus:2006/11/13(月) 20:59:21 ID:7e5Yrftl0
第二戦のクライストチャーチは、タイヤの消耗レースという様相が強く、タイヤメーカーが通常のニュージーランドの
秋の気温を想定して持ち込んだタイヤがレース期間中の異常気象に合わなかっただけで、パンクは誰にでも起こったことであり、
たまたま、瞳がバッドラックを引いてしまっただけだ。
現にエマは、スーパーF1参戦で初めてのポイントを獲得している。
つまり、ピットクルーは今期に入ってノーミスなのだ。
瞳は、条件が整えばいつでも勝てるという確信を持つに至ったのであった。
「瞳、いつもは、荷物になるから嫌だって言っているスーパーF1マシン専用サイボーグドライバー移動専用カプセルへの
収納作業なのに、やけに楽しそうだね。」
「だって、恵美さん。チェコは勝てそうな気がするんだもん。神様が今度は私たちにほほえんでくれるような気がしてならないの。」
「“プリンセスヒトミ”の当たらない予言というやつね。」
「ぶぅ〜〜。当たらないとは何よ。今度こそ確信があるんだから。ピットクルーはノーミスなんだよ。
本当に頑張ってくれているもの。ミスしたのは恵美さんだけだもの。」
「瞳、お願い!それは言わないで!胸に矢が3本くらい突き刺さった気分。違う言い方をすれば、
胸を38口径で打たれた気分なんだから。」
「だって、事実だもの。普通は監督がパニクッて、エマちゃんと私の同時ピットインを指示することはないもの。
セーフティーカーが入った直後の戦略的同時ピットインなら解るけれど、セーフティーカーが入ることが
決まったとたんに同時に入れちゃうんだもの。セーフティーカーが入るのは次の周回なのに。」
「そこまではっきり言うか!」
「だって、本当じゃないですか。監督の重大な失敗と言わずに何というのですか、妻・川・監・督。路面が
濡れたままの状況で、エマちゃんのタイヤをドライにしたのも誰なんだろう?ねっ。か・ん・と・く。」
「そこまで言うと立派な嫌みだ。南太平洋にカプセルごと捨ててくれるわ。」
「私を捨てると始末書何百枚書かされるか解りませんよ。本社の取締役会を
立ったままで何回過ごさなくちゃいけないことになるか?」
117manplus:2006/11/13(月) 20:59:53 ID:7e5Yrftl0
「うっ!口の減らないヤツめ。核心をついているだけに反論しにくい。」
「監督も、瞳さんもやめてくださいね。じゃれ合うのは。時間がないんですから。移動カプセルの蓋閉めますよ。
二人ともうるさいから、早く移動モードにしちゃいますからね。」
「美由さん。それはないよ〜〜。」
「うるさい!二人が一緒にいるとろくな事がないんだから、早く瞳さんの意識を奪っちゃいます。
続きは、ザルツブルグに着いてからお願いします。」
瞳の頭上にスーパーF1マシン専用サイボーグドライバー移動専用カプセルの蓋が降りてきた。
瞳にはそれに抗う術はなかった。あっという間に半覚醒状態の移動モードに落とされてしまった。
瞳は、この移動モードという、意識があるようで無い、夢を見ているような状態の中で、自分のチェコでの勝利を
思い描いて過ごすことになったのである。それが正夢になることは、この時はまだ知るよしもなかったのだが・・・。


118manplus:2006/11/13(月) 21:09:12 ID:7e5Yrftl0
 ザルツブルグのカンダのスーパーF1ヨーロッパ基地で瞳とエマのスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、
連戦が続くヨーロッパラウンドに備えての徹底的な整備と点検、トレーニングが行われ、それと平行して、
スーパーF1マシンの徹底的な点検整備と、バージョンアップが行われた。スーパーF1マシンに関しては、
参戦2シーズン目の開幕時のマシンから更にバージョンアップした“KSG−5”が完成されたのであった。
開幕第三戦のチェコグランプリに向けての臨戦態勢がここに整っていくのであった。

 瞳は、チェコへの移動をチームとは別に自分にカンダが与えてくれた特別仕様の車を使用して行うことにしていた。
当然、一人では車に乗ることが出来ないので、森田が同伴することになった。
瞳が車を自分で運転するときはいつも、森田が同伴し、瞳を車にセッティングしたり、異動先で瞳を車から外して、
移動用スタンドでの移動の介助を行っていたのである。
 瞳は、ヨーロッパラウンドで、ヨーロッパの移動に自分で運転しての移動を好んでいた。
チームから離れてものを考えられることで、次のレースに入り込みやすくなるような気がしていたからである。
また、森田との二人での会話、もしくは、後部座席に誰かを乗せて、
その人も含めた会話でのリラックスができたからである。
それに、移動用カプセルでの物扱いで移動するよりも人間らしいと思えたからでもあった。
更には、一般道路を車で運転することに寄る気分転換にもなるのである。
 瞳は、移動の車の中でのたわいもない会話の中で次のレースへの精神を研ぎ澄ましていくのであった。
「ご主人様。いよいよ、ヨーロッパラウンド初戦ですね。」
「つぐみさん。ご主人様という呼び方はやめてください。」
「でも・・・。私にとっては瞳さんは、ご主人様なのですから。女王様でもいいんですよ。」
「つぐみさん。私、怒りますよ。」
「だって・・・。本当のことじゃないですか。私の愛と献身を受け入れてくれているじゃないですか。」
119manplus:2006/11/13(月) 21:10:08 ID:7e5Yrftl0
「でも、そういう、ご主人と奴隷のような関係までは受け入れたつもりではありません。あくまでも、
多少の上下関係があるパートナーなんですからね。」
「私の中では、女王様と隷属の従者の関係なんですが、女王様がお気に召さなければ、お気に召すように頑張ります。」
瞳には、森田が何を頑張るのやら、わけが分からないままでいた。
しかし、自分のことを女王様として仕えたいという森田が、瞳は愛おしく思えて、
ついつい、主従関係があるビアンの関係を認めてしまったのだ。
ただし、瞳は、女王様と奴隷の関係までは絶対に認めなかったのだ。
瞳にとっては、人間同士、仲間同士の関係以上に踏み込みたいと思わなかったのである。
瞳は、あわてて話題を変えたが、森田の愛を受け入れてしまったことが、この先、瞳の性癖や嗜好に
数多くの幸運なのか災難なのか解らない問題が、降りかかってくることは想像出来ないでいた。
しかし、瞳のこの方面の性癖と嗜好は、森田によって開花させられてしまったのである。
「ヨーロッパラウンドの第一戦が明日から始まるけれど、今回は手応えを感じているんです。」
「手応えと言っても、瞳さんは、どのレースもトップタイムで走っているんですよ。今度だって、瞳さんは大丈夫ですよ。」
「違うのよ。チーム全体に手応えを感じているの。今度こそ、表彰台の中央に置いてもらって、
シャンペンをかけられるような手応えがあるの。」
「チーム全体が勝てる雰囲気になってきたと言うことですか?」
「うん。私はそう感じています。三位、二位と来ているし、チームもノーミスで気分ものっているしね。
この雰囲気の中で勝つことが出来れば、勝ち癖がつくことになると思うんだ。ザルツブルグでのチームの
仕事も良かったしね。頑張り甲斐があるわ。」
「私は、みんなの健闘を祈っています。そして、瞳さんの健闘を。」
「つぐみさん。ありがとう。」
「ところで、エマさんとの関係はどうですか?改善の方向が見られないように見えるのですが・・・?」
120manplus:2006/11/13(月) 21:10:39 ID:7e5Yrftl0
「うん。徐々に解決していくことだと思うし、少しずつではあるけれど、解決の方向に向いていると思うの。
エマちゃんも、初のポイントを稼いで、安定してきているしね。今度のレースで、私が優勝すれば、
一気に解決してしまうような気がするんだ。」
「そうなればいいですね。私、瞳さんが一方的に悪者になっているようで、とっても心が痛いんです。」
「ありがとう。心配してくれて。でも、私にはどうしようもないことだから、時が解決してくれるのを待つしかないと思うの。」
「でも、最愛の瞳さんが・・・。」
「つぐみさんのその言い方は、ちょっと引っかかるけれど、心配してくれるのは嬉しいわ。」
「私、こういう言い方しかできないから。ごめんなさい。」
「マリアも、ジャンヌも心配してくれて、何度も連絡をくれているし、ジャンヌは、エマちゃんと話しもしてくれているみたいなんだ。」
「みんな、瞳さんのことが心配なんですよ。特に、スーパーF1界で、女性は少数派だから結束したいし、
その中心に瞳さんがいて欲しいんだと思います。だから、周辺でさざ波が立って欲しくないんだと思うんですよ。」
「分かっているんだけれどねぇ・・・。」
瞳は、その先の言葉を飲み込んだ。そして、
『自分が最良の結果を出せば、全ての状況が変わる。だから、次のチェコに自分の持てる全てをかけて、結果を出して、
状況を自分で切り開く。』
と一人心に誓うのだった。
瞳の操作する車は、そんな二人の思いを乗せて、チェコグランプリの会場であるプラハ郊外のクリスタルリンクに到着した。

121manplus:2006/11/13(月) 21:20:16 ID:7e5Yrftl0
「今日の瞳、いつになく、気合いが入っているわね。」
「本当ですね。去年のクリスタルリンクの予選のラップよりも早いタイムで周回を重ねていますね。凄いです。
瞳さんのドライブテクニックがますます凄くなってきていますね。」
「美由。そういう事じゃなくて、ここ一番に賭けているような気迫があると言うことなの。」
「監督の言いたいことは、そっちですね。それは私も感じています。何かここで燃え尽きちゃうんじゃないかと思うほどの
集中力ですね。」
「そうなの。心配になるぐらいだわ。まだ、公式練習よ。予選、決勝もあるんだから・・・。」
「監督もチーフも、何を心配しているんですか。瞳さんは、ここで自分が勝つことが全てに於いて
うまく転がるんだという気で、チェコに入っているんです。完全に勝つ気充分のモードになっているんですよ。
変な心配をしないでください。」
山口が、妻川と柴田をたしなめているところに、瞳からのチームラジオが入る。
「香織さん。データーはとれた。そろそろ、ガレージに入りたいんだけれどいいかしら?ガレージで、
明日のセッティングの打ち合わせをしたいから、TSの荻島さんも呼んでおいて。」
「瞳さん。了解しました。瞳さんがそういうと思って、ガレージの用意は出来ています。いつ戻ってきても大丈夫です。」
「ありがとう。今最終コーナー手前から、ピットロードに入るところよ。すぐにガレージにはいるわ。」
間もなくして、カンダスーパーガールズのピットの前に、カーナンバー1の瞳のマシンが、誇らしげに戻ってきた。
ピットクルーが素早く、瞳のマシンを後ろ向きにガレージに納めた。
香織は、素早く、瞳に繋がれているケーブルを全て外して、マシンからの拘束を解き、瞳を抱き上げるようにして、
マシンから取り出して、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用の移動用スタンドに瞳を移した。
ピットクルーが去年とは見違えるほどの手際の良さで瞳のマシンにチェック用のケーブルを接続し、
データーを取り始める。
122manplus:2006/11/13(月) 21:20:49 ID:7e5Yrftl0
そして、瞳のレーシングスーツを香織とつぐみは脱がせて、データー取得時用のセパレートの水着に
手早く着替えを行った。
レース期間中は、瞳はピットクルーの前で平気で全裸にされてしまうが、そんなことは、瞳も、
ピットクルーも特別恥ずかしいというような意識は持っていないのであった。
もう慣れてしまった光景なのである。
もっとも、瞳にとっては、自分では何一つ、自分の意志で動くことが出来ない手脚のないダルマのような身体に
なってしまっているので、どんなに恥ずかしいと訴えようとも、抵抗する術はないのだ。
香織は、瞳のへその部分に、データー取得用のケーブルを接続し、瞳と、チームのメインコンピューターをオンラインにした。
さらに、手脚の切断面のケーブルインターフェイスに、瞳自身を点検するためのケーブルを接続した。
最後に、瞳の服の股間の前に作られた穴の部分から、自動排尿処理ユニットからのドレンホースを
瞳の股間の尿道部分に取り付けた。
ミーティングとデーター吸い上げ、瞳の身体のシステムの点検が長引いた時に瞳の尿意を解決するためのものであった。
点検およびデーターを吸い上げるまでは、瞳のへそや手脚の切断面に繋いだケーブルを外すことは出来ないため、
トイレに瞳が行けないのを補助するための処置なのである。
瞳は、一通りの外部計器類やコンピューターとの接続を終えて、コードだらけの異様な姿になったのである。
このガレージの中にいるメンバーや他のガレージのスタッフも含め、スーパーF1に関わる関係者にとっては、
ごく普通の光景なのであるが、
この瞳の姿を初めて見る人がいれば、瞳は本当に生体脳のある人間なのだろうかと思うことだろう。どう見ても、
調整中のアンドロイドにしか見えないことだろう。
瞳は、マシンの処理と自分自身の身体の処理を終えた時点で、ピットにいる瞳担当のクルー全員を瞳の周りに集めた。
123manplus:2006/11/13(月) 21:21:22 ID:7e5Yrftl0
「みなさん。非常によい仕事をしてくれてありがとう。非常に順調です。二三の問題点は、コンピューターにデーターとして
吸い上げられるから、それを参考に修正をお願いします。明日の予選は、第一ラウンドと準決勝は、ギリギリの
燃料搭載で行うから、そのつもりでいてください。二回の走行は、一発で決めるからね。予選決勝の前に、燃料を
フルタンクで積んでください。決勝レースは、最後までピットインをせずに一回目のピットインまでに、出来る限りの
マージンを稼ぐことにします。そして、安心した気持で、みんなが作業出来るようにしますから、慌てずにピット作業を
こなしていきましょう。一位のままで送り出せば、その後のピットも楽にこなせると思うから、第一回目のピットインに全てを
かけるようにしてください。」
『了解しました。』
ピットクルーみんなが声を合わせる。瞳とピットクルーーの信頼感は、
昨シーズンの一年間の間に対立から信頼へと変化していた。
去年と違い、これだけのことを瞳が言えば、ピットクルーも瞳がどのようなレースプランを立てて予選と決勝を
戦うのかが理解できるまでにレベルアップしていたのだ。
「それから、荻島さん。」
「瞳さん、何ですか?タイヤに対して何か?」
「予選の最終ラウンドと決勝のスタートでフルタンクで戦った時に、第一回の給油まで持つタイヤはどれかな?」
「今日の公式練習で履いてもらったタイヤだったら、明日、あさっての予想路面温度だと、
ギリギリ大丈夫と言ったところです。」
「これが、ミディアムの硬さでしたよね。」
「はい。今回持ち込んだのは、超ソフトとソフトとミディアムです。ウインターテストのときの硬い方の2種類は
持ってきていません。」
124manplus:2006/11/13(月) 21:30:31 ID:7e5Yrftl0
「分かりました。予選の準決勝までは超ソフト、予選最終ラウンドと決勝全ては、ミディアムで、対応しますから、
その用意をしておいてください。」
「瞳さん。この路面温度だと、超ソフトは、6周が精一杯です。気をつけてください。」
「分かっています。ウォームアップも含めて、4周でカタを付けちゃいます。」
「瞳さん。よろしくお願いします。」
他のドライバーの発言なら、まともに取り合うこともない萩島だったが、瞳の言葉には説得力があったし、
昨シーズンの28戦と今期の開幕からの2戦で、瞳の実力を目の当たりにしていたので、
すんなりと受け入れられてしまうのだった。
瞳なら、たぶん今回も、ポールポジションに難なく着くことが可能だろう。特に、このクリスタルリンクは、
高低差があり、テクニカルな低中速のコーナーが並び、その上、抜きにくいコース設定のため、
スーパーF1グランプリでも屈指のドライバーの技量がものを言うコースなのだ。
また、コーナーが多い分、タイヤに負担のかかるコースになっていたのである。
荻島は、瞳がタイヤメーカーに対して、ものすごく気を遣ってくれ、全幅の信頼をtsのタイヤに置いてくれていることに
対して、感謝していたし、瞳に対して絶大の信頼と尊敬をしていたのであった。
歳は荻島の方がはるかに上なのではあるが、去年一年間で、荻島は瞳に対しての尊敬と信頼は
確固たるものになったのだ。


日本時間の深夜、眠い目をこすりながら、スーパーF1グランプリファンが、テレビの前に釘付けになっていた。
いよいよ、チェコグランプリの中継録画が始まったのだ。
番組の冒頭は、キャスターの瞳の予選の活躍を伝える熱狂的な第一声で始まり、クリスタルリンクの説明に入った。

125munplus:2006/11/13(月) 21:31:34 ID:7e5Yrftl0
『ここ、プラハ郊外のスーパーF1グランプリ専用サーキットは、全長28.18q、高低差59メートルで、
テクニカルな中速コーナーと低速コーナーの連続で、ホームストレート5.64qとバックストレート7.44qを繋ぐ、
スーパーF1グランプリ屈指のテクニカルなコースです。このコースでのグランプリは、
大変タイヤに負担のかかるレースとなり、マシンのバランス、ドライバーのテクニックが試されるレースとなります。
その意味でも、バランスのいいマシンを投入してきた“カンダスーパーガールズ”のレースに注目が集まっています。
特に、“プリンセスヒトミ”こと、速水瞳選手の卓越したドライビングテクニックで、このグランプリで自身の
スーパーF1グランプリ初優勝がなるかが注目されています。それでは早速、予選の模様を振り返ってみましょう。
速水は、第一ラウンドタイムアップギリギリのタイミングでガレージを出て、一周のウォームアップを終え、
タイムアタックに入ります。5区間あるセクターをベストベストでタイムを刻み、難なくトップタイムで準決勝進出。
そして、準決勝でも、最後にガレージを飛び出して、僅か一周で、孤高のトップタイムを刻み、難なく、
予選決勝に駒を進めました。予選決勝は、少しタイムを落とした自重気味の走りをしましたが、
それでも飛び抜けたタイムをたたき出し、ディクソンが持つクリスタルリンクの記録を0.002秒上回るタイムで、
指定席の一番グリッドを確保しました。冒頭で、河田紫乃ちゃんが叫んだとおり、クリスタルリンクで初の
日本人ドライバーのポール獲得となりました。紫乃ちゃん、日本人初のスーパーF1グランプリでの表彰台中央ゲットの
期待がかかりますね。』
『はい。島村アナ。きっと、速水選手ならやってくれますよ。速水選手も今度こそと言う決意を胸に
チェコ入りしているようですからね。私たち、レースを志したり、レースに興味を持つモデルやレースクイーンの
憧れの存在ですからね。是非、是非、頑張って欲しいものです。』
『と言うことは、紫乃ちゃんも、レースに参加出来れば、その美しい手脚が無くなってもいいというのですか?』
126manplus:2006/11/13(月) 21:32:07 ID:7e5Yrftl0
『もちろんです。でも、私たちには、どんなに頑張っても、速水選手のように、スーパーF1マシン専用サイボーグ
ドライバーにオファーがかかるような才能がないのが残念です。』
『よかった。速水選手と同じように美しい手脚を紫乃ちゃんが無くしてしまうことはないですね。』
『残念ながら・・・。そうです。ところで、現地レポーターの佐伯さん、速水選手のタイムが、
予選の時より伸びませんでしたね。』
『紫乃ちゃん、いいところに気がつきましたね。さすが、スーパーF1グランプリ通を売りにしているアスリート出身の
モデルですね。チームからのコメントはもちろん戦略なので聞くことが出来ませんが、予選の第一ラウンドと準決勝では、
燃料をギリギリで積んでのアタックだったと思われます。そして、予選決勝では、燃料搭載もフルタンクで、
タイヤも決勝で使用するものを履いてのタイムアタックだったと思われます。タイヤとマシンに気を遣っての
体力温存での走りだったものと思われます。この辺は、スタート後に、妻川監督から取材します。ご期待ください。』
『という、佐伯さんからのレポートですが、そうであれば、他のライバルのドライバーが、比較的早めのピットストップを
行うのに対して、速水選手は、その間にタイムマージンを稼いで、悠々と第一回目のピットストップを迎えることが
出来るものと考えられます。紫乃ちゃん期待出来ますね。』
『はい。がんばれ、瞳!がんばれ、大和撫子!』
『それでは、CMを挟んで決勝レースの模様を高島アナの実況でお伝えします。』

127munplus:2006/11/13(月) 21:45:49 ID:7e5Yrftl0
『チェコのプラハのスーパーF1ウィークの日曜日は、その戦いの幕が落とされるのを今や遅しと待っています。
時速700キロで駆け抜けるマシンと、そのマシンを操作するために人間の身体を捨て去り、
機械装置の一部となるための処置を受けたドライバーが、このクリスタルリンクのスターティンググリッドに準備万端に
用意されて並んでいます。その数34、その選ばれし精鋭が、フォーメーションラップの長い隊列を組んで
いま旅立っていきました。その先頭には、我らが“プリンセスヒトミ”こと、速水瞳がいます。ディクソン、リネカー、
ミラーを従えての、まさに王者の行進であります。その隊列の10番目に孤高のプリンセスを守るべく、鈴木エマが、
順調にスタートしていきました。執拗な蛇行を各車が繰り返し、ウォームアップを行っています。チェコのファンは、
“プリンセスヒトミ”のスーパーF1グランプリ初優勝の歴史的瞬間に立ち会おうと、
クリスタルリンクのスタンドを埋め尽くしています。
メインスタンドで、バックスタンドでふられる“プリンセスヒトミ”の応援の旗。
そして、孤高のプリンセスを応援するチアーホーンの騒音が、スタンドから地響きのように鳴り響いています。
その中を34台のモンスターマシンと、そのモンスターマシンを操る異形の騎士が、
スターティンググリッドに戻って参りました。マシン34台が全て、スターティンググリッドについたことを確認し、
マーシャルの旗が振られ、シグナルが変わるのを待ちます。チェコ、クリスタルリンク、一周28.18q、75周、
2113.5qで繰り広げられる選ばれし者たちの戦いの火ぶたが切っておろされるのをいまやおそしと待っています。
シグナルが変わって、いよいよ、チェコ決戦の火ぶたが切って落とされました。
第一コーナーの飛び込みを制したのはやはり速水でした。他の追随を許すことのない異次元の速さで、
楽々とトップで第一コーナーに消えていきました。その後では、2番手争いが熾烈になっています。
その間隙を縫うように、リネカーが2番手をキープしました。そのスリップには、
ディクソンがピッタリとついています。』
128manplus:2006/11/13(月) 21:46:19 ID:7e5Yrftl0
『このクリスタルリンクでのピットストップの時間は、ピット制止時間プラス35秒。各チームは、クリスタルリンク特有の
問題であるタイヤの消耗から考えて、7回もしくは、6回のピットストップ作戦で来ると思います。最初のピットインの
タイミングは、予選の燃料積載が少ないチームが多いことが予想され、トップチームは、7週目あたりになると思います。
ただ、予選下位チームと速水選手は、燃料を満タンで決勝レースに臨んでいる可能性があり、
10週目以降のピットインになる可能性があります。』
『山井さん、ピットレポートありがとうございます。オープニングラップを各車が戻って参りました。速水、リネカー、
ディクソン、ミラー、リー、そして、鈴木健闘の6番手です。速水と二位のタイム差は、早くも3秒13ついています。
佐藤さん。速水選手の走りをどの様にご覧になりますか?いくら予選で2周しか使っていないタイヤでも、
フルタンクに近い走りなんでしょうか?』
『信じられないかもしれませんが、間違いなくフルタンクで走っていると思います。おそらく、二位のリネカーと
三位のディクソンは、6周から8周目でのピットイン、速水は、15周目までピットインを引き延ばす作戦で、
約八周の間プッシュし続けて、安全圏でピットに入る作戦だと考えられます。』
『カンダスーパーガールズのピット作業を安心してみていられるマージンで速水選手がピットインをすることを
期待しましょう。』

129munplus:2006/11/13(月) 21:47:23 ID:7e5Yrftl0
『そろそろ、トップチームがピットインのタイミングを迎えます。あっ!リネカーとディクソンが同時にピットインです。
カンダスーパーガールズが、作業の準備を開始した模様です。どうやら次の周回で鈴木選手が、ピットインのようです。
ディクソン、9秒5で、ピットを後にします。あっ!リネカーのマシンの給油のリグが抜けません。大きくタイムをロスして、
14秒5でピットを後にします。これは大きいタイムロスだ。』
『高島さん。速水選手、ここでファステストラップを出しました。プッシュしています。』『山井さんのレポートです。
速水がここで、ファステスト、ファステストの連発をしています。見かけのディクソンとのタイム差は、
50秒まで広がっています。通常にピット作業をこなして送り出せば、トップでコースに復帰出来るタイム差になっています。
しかし、速水は入りません。“プリンセスヒトミ”は、これだけのマージンでも気に入らないのか!
敵を完膚無きまでに叩きのめして戦意喪失させるために、まだまだマージンを稼ぐというのか?!
タイヤの消耗も限界に達しているはずなのにどこまで走るんだ。これが、美人女帝と言われるヒトミハヤミの
ドライビングなのか!がんばれヒトミ、今度こそ、表彰台の中央に置かれるようになってくれ!』
『高島さん。カンダスーパーガールズ、用意します。』
『17周までピットインを引っ張って、今、速水がピットロードに入ります。ディクソンとのマージンは、
97秒34まで拡がっています。ピットで余程のことがない限り、再びトップでコースに復帰出来るマージンを
持っての堂々のピットインです。11秒5、少し眺めのピットストップを恙なくピットクルーが作業を終え、
110qの速度規制ももどかしくコースに速水が復帰していきます。後続のディクソンは、まだホームストレートに現れません。』
130manplus:2006/11/13(月) 22:00:06 ID:7e5Yrftl0
『高島さん。山井です。速水選手のタイヤを見てください。TSが持ち込んだ固めのミディアムをチョイスしているのですが、
まったく摩耗を感じさせません。いかに、KSG−5のマシンバランスが良いか、さらには、そのマシンを駆る速水選手の
ドライビングテクニックが卓越しているかの証明だと思います。こちらを見てください、同じマシンで鈴木選手が
交換したタイヤです。7周も多く周回を重ねている速水選手のタイヤよりも消耗しています。もう一周遅ければ、
ブリスターが激しくなったと思います。TSの萩島さん、今日の速水選手の走りはいかがですか?』
『タイヤの摩耗を見ての通りです。フルタンクでスタートして、しかも八周の間、プッシュし続けたタイヤが、
もう一度使用出来るぐらいの摩耗でタイヤ交換出来ているなんて、本当にタイヤウーマンとして嬉しい限りです。
瞳さんに今度こそ、勝利をもぎ取ってもらいたいと思っています。TSは、ウェット、インターミィディエイトとも、
万が一の天候の急変のために、すぐに交換出来る体制を引いて万全の支援体制をとっています。
一ファンとして、優勝を祈る心境です。』
『以上、ピットレポートでした。』
『TSの魔法の靴、佐藤さん、頼もしいですね。』
『高島さん、ボクもF1で過去に走りましたが、その時のルノーのアロンソのマシンのタイヤを見ているようでした。
まったくタイヤにストレスがかからないなんて、このスーパーF1では、考えられないドライブです。
それに、ピットの制止時間から言って、4ストップ作戦を取る可能性があります。次のピットストップが、32周前後、
その次が、47周、最後が63周前後になると思います。信じられないですよ。でも、このコースは、燃料よりも先に
タイヤを気にするコースですから、速水選手の走りなら、その心配がないですから、この間隔のピットストップを
実現出来ると思います。ピットやマシンにかなりのトラブルがない限り、余裕のレース展開になるんじゃないでしょうか?』
『本当ですね。まさに、セナ、シューマッハ、アロンソを継承した日本が生んだ、皇帝の走りと言ったところでしょうか。』
レースが周回を重ね、ヒトミが順調にピットインをこなしていくに従い、実況のボルテージも最高潮に向かっていった。
131manplus:2006/11/13(月) 22:01:14 ID:7e5Yrftl0
『65周目、短いピットインを終え、速度規制区間を越えてコースに“プリンセスヒトミ”が復帰していきます。
マシンのエンジンセーブで、ラップタイムを落としているため、ディクソンとの差が、縮んでいるとはいいながら、今でも、
ディクソンのマシンはホームストレートに見えてきません。タイム差は、20秒あります。
神よ、ヒトミのマシンに何事もなく、チェッカーを受けさせてくれ!“プリンセスヒトミ”の初優勝を後押ししてくれ!』
高島の実況が祈るようなものに変わる。
 瞳が順調に周回を重ねる姿をカメラがとらえ続ける。そ
の間にエマも順調に周回を重ねるが、順位は七位とポイント圏内ギリギリであった。
それでも、エマが、必死で初のポイント獲得に向けて他車とのバトルを繰り広げていたのである。
エマにとってはカンダスーパーガールズのマシンのポテンシャルをかっての健闘であった。
 高島のボルテージも、残りが10周、9周、7周と減っていくごとにどんどんあがっていった。
そして、ついにラストラップの瞳の映像をカメラがとらえた。
132manplus:2006/11/13(月) 22:01:48 ID:7e5Yrftl0
『ついに、“プリンセスヒトミ”が最後の周回に入りました。女帝としての威厳を保ちながらの堂々のラストラップに速見が
入っていく。がんばれ!瞳、勝利に向けて!日本のファンが、そして、世界のファンが、あなたを後押ししているぞ!
もう後続の影すら見えない!“プリンセスヒトミ”の影を踏む物は誰もいない。エンジンを労りながらの走りをしてくれ。
頼む、チェッカーまでエンジンの炎が消えないでくれ、マシンが保ってくれ!さぁ、速見のマシンが最終コーナーを
立ち上がる。カンダスーパーガールズのスタッフが、ピットを出て、速見のチェッカーを早く見ようと、
金網にしがみついている。もう、速見のスーパーF1グランプリの初勝利は間違いありません。メインスタンドが総立ちで
速見を出迎える。ものすごい歓声に包まれて、今、速見瞳がチェッカーを受けます。速見瞳、
スーパーF1グランプリでの初優勝です。クリスタルリンクの全ての観衆からものすごい音量のヒトミコールが速見瞳の
勝利を讃えます。速見のウイニングランの始まりです。ディクソンとリネカーが追いついて、その二台を従えての堂々の
ウイニングランだ!今ゴールラインに鈴木エマが7位入賞でチェッカーを受けました。カンダスーパーガールズ、
参戦以来初のダブル入賞です。おめでとう!ヒトミ。おめでとう!エマ。』
 深夜の日本にヒトミの優勝の映像が伝えられた。

 同じ時間、現地では、駆けつけた溝口を交えてのヒトミの祝勝会とエマの初入賞の祝賀会が、
プラハ市内のホテルで開催されていた。
ヒトミの姿を一目見ようとするファンと、ヒトミの姿をカメラに納めようとするプレスが押しかけて、
プラハの街は騒然としていた。

133manplus:2006/11/13(月) 22:10:33 ID:7e5Yrftl0
「ごめんなさい。やっと、業務から開放されて、チャーター機で駆けつけたんだけれど、
チェッカーを瞳さんが受けるところを見れなかったわ。飛行機の中で実況は見ていたけれどね。
エマさんもよくやってくれましたね。やっと、カンダスーパーガールズが、本領を発揮したというところだと思います。」
 主賓の席に置かれた瞳とエマを溝口は嬉しそうに見つめた。
「社長、乾杯をしたいのですが、御発声をお願い出来ますか?」
マネージャーが、溝口に乾杯の音頭を依頼すると、
「乾杯の音頭をとるのは、私じゃないわ。妻川常務の役目でしょ。何よりも嬉しいのは、彼女なんだから。
これで、カンダを首にならないですんだわけだしね。」
溝口は悪戯っぽく笑いながら妻川に乾杯を譲るようにし向けた。会場から爆笑が漏れる。
「社長。こんなことで首になっていたら、首がいくつあっても足りません。冗談は程ほどにしてくださいね。」
「妻川監督、瞳さんの結果が出なかったら、カンダを去ろうとまで思っていたんじゃないの?
そのくらい、今期に進退をかけていたのは、長い付き合いだから解っていたのよ。好かったわね。最良の結果になって。
さぁ、乾杯をよろしく。今日は楽しくやりましょう。決して、最後まで、みんなを逃さないわよ。
ホテルのレストランを追い出されるまで、私と付き合うのよ。」
「社長。勘弁してください。社長が本気になると最後は、私と美由と瞳の3人が逃げ遅れるんだから。」
「恵美さん。私も道連れにしないでください。」
「監督、瞳さんの言うとおりです。もう、道連れはたくさんです。」
「二人ともつべこべ言わない!今日は誰の祝賀会だと思っているの?当事者が逃げてどうすんのよ。」
「妻川監督もつべこべ言わずに乾杯しなさい。」
「はい。」
再び会場から、笑いが起きる。
134manplus:2006/11/13(月) 22:11:04 ID:7e5Yrftl0
「それでは、僭越ながら、乾杯の音頭をとらせていただきます。今日は、カンダスーパーガールズにとって、
本当の意味でのスタートの日だと思います。瞳、初優勝おめでとう。あなたが、エースドライバーの重責に
苦しみながらも結果を出してくれたことをとっても嬉しく思っています。結果が出ないと言っても、昨シーズンは、
28戦全部表彰台だったから、普通のドライバーなら、もの凄い偉業だという評価になるんだけれど、
“プリンセスヒトミ”にとっては、いくらスーパーF1初参戦の年といっても、表彰台の中央に置かれないと世間が
納得しないという重圧に打ち勝って、勝利を引き寄せてくれて、本当に嬉しかったです。エマも、初入賞、
初ポイント獲得だね。やっと花開いた大器という感じで、嬉しく思っています。瞳という越えられない壁が
身近にいるという重圧によく我慢出来たね。本当におめでとう。そして、二人を支えたスタッフのみんな、今日から、
真の王者として、更に重圧と栄光の中で、より充実したスーパーF1サーカスを送れると思います。今まで我慢して、
努力してきた分、プライドを持って、これからのシーズンを過ごせると思います。真のヒロインは、瞳でもなく、エマでもなく、
ましてや私でもない、スタッフ全員だと思います。そんなスタッフを持てたことを、私は、誇らしく思っています。
今日は本当にご苦労様。そして、おめでとう。今日はそんなカンダスーパーガールズのスタッフ、
ドライバーにねぎらいと感謝を込めて乾杯をさせていただきます。乾杯!」
妻川の言葉を皮切りに、祝宴が始まった。しかし、誰一人笑顔のものはいなかった。
今までのことをみんなが思い、歓喜の涙が全員とまらなかったのだ。
瞳もエマも、妻川も、そして、溝口まで万感の思いの中の祝勝会になったのである。
瞳は、心ゆくまで勝利の美酒に酔いしれた。
もちろん一人で飲めるわけがないので、森田の介助でお酒や料理を口に運んでもらっていたのである。
135manplus:2006/11/13(月) 22:11:36 ID:7e5Yrftl0
「瞳さん。本当におめでとうございます。私、自分が手脚となっているドライバーがこんなに感動を与えてくれる
ドライバーで好かったと思っているんです。私のご主人様の喜びを共有出来るなんて最高です。」
「つぐみさん。ご主人様は止めなさいっていっているでしょ。今度から、言った回数お仕置きだからね。」
「は〜〜い。悦んで、お仕置きを受けます。」
瞳は、自分の手脚があったのであれば、手で頭を抱えたい心境であった。
森田には、お仕置きをすると言うことは、至極の悦びの調教を授けられると言うことなのだ。
お仕置きを受ける苦痛や恥辱が、森田にとっては至情のエクスタシーとなるのである。
瞳にとっては、痛いことがエクスタシーになる精神構造が信じられないでいた。
しかし、お仕置きをすることに至情の喜びとエクスタシーを感じるようになった自分がいるのにも気がつき始めていた。
最近では、ノーマルのパートナーに対しても、攻めることの悦びを覚えることがあったのである。
その時のパートナーの反応は、苦痛というものではなく悦びとして受け入れる表情を見せ始めていることにも気がついていた。
自分の嗜好が変わりつつあり、それに併せて、周囲の嗜好が変わってきていることにも気がついている瞳であった。
「瞳、つぐみの愛を受け入れると厄介だろ。」
「恵美さん。声が大きいです。まだ、あまり誰にも言っていないんですから。」
「瞳、人の噂に戸は立てられないからね。スーパーF1界では、もう公然の秘密よ。結構知っている関係者は多いし、
プレスも、女王様として、当然の嗜好として、とらえているから、ゴシップにもならないだけよ。」
「うえ〜〜ん。どうしてばれちゃうんですか?」
「ばれてはいないけれど、雰囲気としてみんなが感づいちゃうのよ。」
「この世界は怖いんだから。嫌になっちゃう。」
「ご主人様に公然とお仕え出来ることになれば、もっと嬉しいです。」
136manplus:2006/11/13(月) 22:21:54 ID:7e5Yrftl0
「こら、つぐみさん、お仕置きの対象だからね。」
「嬉しいです。ご主人様にお仕置きをいただけるなんて。それから、そろそろ、私のことを“つぐみ”と
呼び捨てにしてください。臣下のものに“さん”をつけるのは可笑しいです。」
「でも、そう呼べないよ。やっぱり、私は、“つぐみさん”だよ。」
「そうですか・・・。」
「瞳、つぐみが寂しい顔しているよ。」
「恵美さん、また、からかう。止めてください。それに、私は、さん付けでしばらく呼びたいのです。つぐみさん、勘弁してね。」
「申し訳ありません。ご主人様のご判断を促すような勝手なことをしてしまいました。」
瞳は、森田が瞳の愛奴と言う地位に悦びを感じていることに困惑してしまっていた。
瞳には、これが悦んでいいことなのか、悲しむべきことなのか解らなくなりかけていたのであった。
「瞳、徹底的につぐみの愛を受け入れてあげることね。半端な気持じゃ受け止められないよ。徹底的に女王様として、
Sとしての感性を磨くことね。」
「そんな〜〜。恵美さん、そんな真剣に言わないでくださいよ。私、極度のSじゃないですよ。
それにこんな姿になっちゃって、人に抵抗する術が無くてもそれを黙って受け入れられるなんて、なんて、
かわいいM娘なんだろうかって思っているんですよ。」
「どうだかね。なすがままじゃなくて、自分がしたいことを人にさせているんだからSなんじゃないの。
それに、どんなに極度のSだって、Mのサガを少しは持っているものよ。
それが、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとして、一人では何も出来ないことで、
自分の行動を手脚となって代わりにしてくれるスタッフになすがままに身体を許す部分になっていると思うのよ。
そして、その行為こそが、標準人体では具現化し得ない至高の奉仕を受けている事だし、至極の征服欲の
充足なんじゃないの。そういう意味でも、瞳は、人を征服する潜在的嗜好が具現化して最高の精神的悦楽に
浸っているんだと思うわ。」
137manplus:2006/11/13(月) 22:22:27 ID:7e5Yrftl0
「瞳さん、羨ましいわ。私も手脚を切除して、何人かのスタッフに奉仕されるような身体になりたいわ。
会社経営専用サイボーグというものを開発して、秘書用サイボーグにびしびし命令を出して、副社長や
常務をこき使いたいし、秘書からの至高の奉仕を受けてみたいと、瞳さんたちの生活を見て思っているのよ。」
「社長まで、そんなこと言わないでください!」
「瞳さん。人の上に立つ存在は、常に、人を思う気持ちと一緒に、愛情を持って人を調教することも必要よ。
それに、人の上に立ったことによる征服感から来る人身コントロールも必要なものなのよ。もっとSとして、
女王様としての自覚を持ちなさい。」
「瞳、社長の言う通りよ。でも、私も、社長の前では、Mとして、社長に服従していろということなんですね。」
「恵美さん、その通りよ。私の前にひざまずきなさい。」
溝口がちょっぴりいじわるっぽい表情を浮かべると、妻川が、悪戯っぽく答える。
「はは〜あ。女王様、プリンセスヒトミ様。」
「恵美さんが遜るのなんて似合わないことこの上ないです。」
「瞳さん。ほんとだね。そこら中が痒くなるわ。」
「社長、人にやらせておいて何と言うことをいうんですか。」
「監督は、やっぱり、Mは似合わないということですね。」
「ドクターまでよくいうよ。このマッドサイエンティスト!究極のS医者!」
「社長。今度、監督を手脚のない姿にして、専用の監督椅子で采配を振るうような姿に改造してしまいましょう。
私たちに手も脚もでないように。開発予算を考えてください。手脚を取り外して、瞳さんやエマちゃんのような姿にして、
介助をつけないで、放っておけば、ちょうどいいお仕置きになりますから。睡眠薬で眠らせて、
その間に処置台に縛り付けちゃえば、こっちのものですから。」
「そうね。恵美にとっていい経験かもね。予算化考えてみるか。」
138manplus:2006/11/13(月) 22:23:12 ID:7e5Yrftl0
「そうですね。恵美さんにも、私の気持ちをわからせるいい機会ですよね。」
「この、鬼社長に、キチガイ医者、それに、どS女王サイボーグドライバー。3人束になってかかってきおって!
妻川恵美は、負けないぞ!」

夜が更けるまで無礼講が続き、みんなが酔うに従い、座の雰囲気が滅茶苦茶になっていくような気が瞳にはしていた。
こういう雰囲気になると、フランクにものを言い合う雰囲気になるのはいいのだが、思いもよらぬ人間が
はじけてしまうような予感が瞳に走った。
そして、その予感は、幸か不幸か、的中したのである。
瞳と溝口、妻川、石坂に森田も加わっての罵り合いとも思える程の強烈なじゃれ合いを瞳の横でじっと聞いていたエマが、
意を決したように瞳に話しかけた。
139manplus:2006/11/13(月) 22:33:26 ID:7e5Yrftl0
「私も、瞳さんの臣下の愛人の一人に加えて欲しいんです・・・。もちろん、私は、立川さんの介助を受けなくては、
瞳さんへのご奉仕は出来ませんが、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーにしか出来ない臣下の礼を
とることは可能だと思うんです・・・。例えば、コース上でとか・・・。今まで、瞳さんのあまりの凄さに圧倒されちゃって、
その才能が疎ましく思えて、反発をすることでしか瞳さんに対する尊敬の感情を表すことが出来ずにいたんです。
ジャンヌさんも何度も何度も、アドバイスをしてくださいましたし、マリアさんにも窘められたりしたんですけれど、
自分の心の整理が出来なくて・・・。それに、今まで、瞳さんが優しく接してくれるから、却って素直に言い出すきっかけを
失ってしまっていたんです。いつもは、何周も周回遅れにされちゃって、後方で瞳さんの走りを見る機会が無かったのが、
今日、同一周回にいることが出来て、その走りを後方で見ることが何度か可能になって初めて気がついたんです。
自分が瞳さんを比較の対象にするのが間違いだったんだって。ジャンヌさんの言うように、瞳さんは、
今の現役ドライバーの中で唯一次元が違う存在なんだというのが分かったんです。そうしたら、表彰台の中央に
置かれた瞳さんが、私の女王陛下に見えちゃって、その女王陛下に楯を突いていた自分の小ささと、
そんな私にも優しく接してくれて、自分があれだけ勝てないことに悩んでいたのに、それでも、私が入賞出来ないことを
自分のことのように心配してくれた瞳さんの大きさに気がついて申し訳ないと同時に、今までの苦労を乗り越えて
瞳さんが誇らしげに表彰台の中央に置かれてシャンパンを浴びているのが、只只、嬉しく思えちゃって、
涙が止まらなかったんです。そして、自分が瞳さんの愛を受けたかったんだと気がついたんです。
でも、瞳さんの周りには多くの人が、瞳さんを好きで集まってきていて、私の入り込む隙間なんて無い事への僻みが、
妬みになってしまったんだって。だから、素直に瞳さんに愛してもらうために、自分から近づかなかったらいけないんだと、
もっと素直になってストレートに瞳さんの胸に行かないといけないんだって。だから、あえて言います。
瞳さん、愛しています。瞳さんの物に私をしてください。私の全てを捧げたいのです。」
140manplus:2006/11/13(月) 22:34:15 ID:7e5Yrftl0
「ちょっと待って。大丈夫だよ。エマちゃんは、私の中の居場所はあるよ。いつでもおいで、私は、
エマちゃんのことを妹と思っているんだよ。どんなに私の片思いだろうが、エマちゃんが妹として、
私の側に来てくれるんなら歓迎だよ。」
瞳は、次のエマの言葉を予想していたから、その予防線を張ったつもりであった。
しかし、その予防線はエマにあっさり突破されてしまうことになる。
「瞳さん。私のような跳ね返りで、勝ち気な女は、瞳さんの妹では側に居れないんです・・・。やっぱり、
瞳さんの愛を受け入れるために臣下にならないといけないんです。社長や監督それにドクターの話を聞いていて、
瞳さんが私の女王様になってもらうことが、私の心の中での最善の瞳さんへの慕いかたなのだと、強く思えたんです。
私を瞳さんのスレイブに加えてください。私の手脚である立川さんとも話をしました。立川さんも私が瞳さんの従者の
立場になることに賛成してくれました。その為の行為を手脚としてサポートしてくださることにも賛成してくださいました。
だから、瞳さん。私の愛を受け入れてください。森田さんとの関係を壊すつもりはありません。
森田さんの下の存在でも構わないんです。それに、瞳さんのノーマルのパートナーとの関係に
立ち入るつもりもありません。私の愛を受け入れてください。後生です。」
「私からもお願いします。エマは真剣なんです。エマの愛を受け入れてあげてください。エマの手脚となって、
私がご奉仕します。そのエクスタシーをエマに私がエマの電子回路と繋がって伝えるようにしますから。それに、
森田さんとの関係の邪魔にならないようにします。」
エマのサポートスタッフの立川真理子が、エマの援護をした。
141manplus:2006/11/13(月) 22:34:48 ID:7e5Yrftl0
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーのサポートスタッフは、
自分がスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの代わりに感じた手脚の感覚情報を体内に内蔵されている
感情代理感受用データ処理コンピューターを通じて、自分のへそのターミナルと
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーのへそのターミナルをケーブル接続して、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーのサブコンピュータに送り、その情報を
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの生体脳に送ることで、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが、
自分の感覚として、処理出来るようなシステムを取り付けられていたのである。
その細かな特性は、各スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの個々の特性に合わせて調整されたうえで、
担当のスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに伝えられるようになっていた。
真の手脚としてのサポートスタッフの使用が可能になっているのである。
つまり、サポートスタッフもスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーを満足させるための仕様を身につけるために
サイボーグ手術を受けているのであるが、その範囲は、手脚などの代替感覚をスーパーF1マシン専用
サイボーグドライバーに送るためのごく限られた電子機器の埋め込みだけに限られてはいるのであった。
つまり、サポートスタッフは、ごく一部の電子機器と大部分の生体器官を残された、きわめて標準人体に近い
サイボーグであり、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーのように、スーパーF1マシンをコントロールするために
大部分を電子機器や機械部品に置き換えられたスーパーサイボーグではないのである。
「そんなこと言われても・・・。」
瞳が口籠もっていると横から森田が、
「私は構いませんよ。私のご主人様は、私だけのものではないですから。ご主人様を愛する全ての人のものであって、
その人たちよりも、私が第一だと言うことはないです。エマさん、安心して臣下の礼をとってください。
私に気を遣うことはないですから。逆に、私が、ご主人・・・いえ、瞳さんの愛をエマさんに表現してあげることも
出来るんですから。」
142manplus:2006/11/13(月) 22:44:02 ID:7e5Yrftl0
「森田さん。本当ですか?嬉しいです。森田さん、よろしくお願いします。」
「エマさん。よろしくお願いします。瞳さん、これで決まりですね。」
「つぐみさん。勝手に決めるんじゃない!」
「だって・・・。エマさんがかわいそうじゃないですか。」
瞳はため息をついた。森田にしても、エマにしても、こんなにレズっ気があったとは思いもしなかったし、
その求愛が自分に向けられるなんて夢にも思わなかったのである。瞳に対する嫉妬がエマから消えたことは、
瞳にとって嬉しいことであったが、嫉妬が消えたと思ったら、
更に禁断の垣根まで越えてしまう極端さに瞳は呆れていたのである。
「瞳、モテるわねぇ。」
「恵美さん!からかわないでください。エマちゃんは真剣なんだから、あんまりからかっているとエマちゃんに失礼ですよ。」
「そうやって怒ると言うことは、瞳は、エマの愛を受け入れる気があると言うことなんだね。この女たらし!」
「違います!」
「瞳さん、女性にも、もてるというのは大事なことよ。それが女王陛下の条件の一つよ。」
「溝口社長まで、私をいじめないでください。」
「あら、いじめてなんかいないわ。本当のことをアドバイスとしていったまでよ。」
「う〜〜。」
溝口と妻川にからかわれ、瞳は、更にどうしていいものかと思ってしまった。
しかし、不安げに見つめているエマを放っておくこともできずに、
143manplus:2006/11/13(月) 22:44:43 ID:7e5Yrftl0
「わかったわ。エマちゃんの気持ちを受け入れてあげる。ただし、臣下としてと同時に、妹としての立場であなたを
考えることにするけれど、それでいいね。」
「うわぁ〜〜い。瞳さんありがとうございます。私、瞳さんに対して、一生懸命尽くしていきます。
一生瞳さんのそばで瞳さんに従います。」
「やれやれ・・・。」
瞳はため息をついた。それを見ていた、溝口や妻川、柴田、そして、石坂までもが、ゲラゲラ笑っていた。
小さいけれど、意味深な事件が起こった祝勝会の席は、夜遅くまで続くのであった。
“カンダスーパーガールズ”のチームスタッフ全員の本当に喜びに包まれた宴に終わりはなかったのである。


144manplus:2006/11/13(月) 22:45:16 ID:7e5Yrftl0
 このチェコグランプリから、“カンダスーパーガールズ”の大躍進は始まった。
このシーズン、瞳は、弾けたように勝利を重ね、12勝を挙げ、もちろん、表彰台からはずれたグランプリは一度もなかった。
まさに、“プリンセスヒトミ”の貫禄をファンやマスコミ、スーパーF1グランプリ関係者に見せつけたシーズンだった。
一方のエマの成績も、最高順位3位が3度で、入賞が10回と大健闘の一年となった。
ドライバーズランキングは、もちろん瞳が一位に輝き、エマも、12位に食い込むこととなった。
チームの成績であるコンストラクターズランキングも一位となり、“カンダスーパーガールズ”は、
ドライバーズランキングと共に1位を独り占めにした。
ホンダやフェラーリ、メルセデス、ルノーが築いた王国を今度はカンダスーパーガールズが築く番になったのである。
 追われる立場になる来期に向けて、カンダスーパーガールズのチームは更なるまとまりを
みせてシーズンオフを迎えたのだった。まさに、勝利が最良の薬であるということを如実に物語るシーズンとなった。
 瞳と、エマは、それぞれに忙しいシーズンオフを迎えることとなった。
 瞳は、来シーズンは、スーパーF1グランプリ史上に残る快挙をやってのけることを目指して、
トレーニングとテストを重ねる毎日を送っていた。
瞳は、カンダスーパーガールズに新たな栄冠を与えていくことだろう。
それが、“プリンセスヒトミ”の使命なのだという気持ちを持って。
その気持ちがある限り、瞳が勝ち続けていくことは確実であった。
エマは、自分の更なる向上のためにテストやトレーニングを重ねていった。
もちろん、瞳のアドバイスを素直に受け止めての努力である。
一度素直になってしまうと瞳のアドバイスは、乾いた布に水が吸い取られるがごとく、エマは吸収していった。
エマの天性の素直さと向上心でエマの才能はどんどんふくらんでいくのであった。
カンダスーパーガールズと瞳の栄光のシーズンが来期は約束されているような期待を持たせるシーズンオフであった。
瞳と森田、そして、エマの関係がどのように発展していったのかは本人たちにしかわからないことなのであったが・・・。
 
 (完)
145manplus:2006/11/13(月) 22:55:45 ID:7e5Yrftl0
味覚ネタが続いている中で、私も、流れを中断してしまうような投稿で、
申し訳ありません。瞳たち、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、
基本的に、味覚組織を温存している設定です。

ところで、瞳が初優勝したことで、ひとまず、レーシングガールの本編を
終了させていただきます。
ただし、これで瞳がお目にかかれないわけではなく、
皆さんのご期待の物語を続編形式で投稿するつもりです。

今考えている内容は、
1.鈴木エマと瞳の関係は、今回で結論を出しましたが、ここまでに至る、エマの心の物語を
  まとめてみようと思います。
2.瞳の手脚のないサイボーグとしての日常生活。
3.新しいレースクイーンの登場人物のサイボーグ化。
4.女性レーサーの4人によるはちゃめちゃなパーティー。(味覚ネタに近いもの)
5.瞳の引退とその後。

このぐらいのネタを考えています。

その他のリクエストがあれば、物語として作っていくことも考えていきたいと思います。

今度の投稿は、杏奈の続きの物語か、瞳の続編を投稿しようと思っています。
146manplus:2006/11/13(月) 23:33:20 ID:7e5Yrftl0
続き

いずれにしても、瞳のレーサーとしての一流だけれども、
お馬鹿な娘キャラで暴走させるつもりです。

その瞳にエマやリンダや新キャラなどを絡ませるつもりです。
147名無しさん@ピンキー:2006/11/15(水) 23:39:07 ID:f5WQmvTQ0
#保守がてらに、ヤギーミニ劇場を一回一レス細切れ投下。

突然だけど、みんな、ペットは好きかなあ? 犬好きの人、ネコ好きの人、鳥や魚や爬虫類好きの人。いろいろ
なペットがいるよね。私は、大抵の生き物は好きだよ。家族旅行でモンゴルに行った時は馬に乗って草原を走るっ
ていう体験をした。ペットとはちょっと違うけど、あれが私の生き物に関する最高の思い出かなあ。でもね。

今の私の身体は機械の塊なんだ。外見は元の身体と見分けがつかないくらいそっくりにできている。だから、私
が何も言わなければ、誰もこれが作り物の身体だなんて思わない。そう、「誰も」だよ。

犬を撫でようとすれば噛み付かれる。猫を抱こうとすれば引っ掻かれる。手乗りインコに突っつかれたこともあっ
たかなあ。きっと、人間と違って動物達は、私の外見じゃなくて、何か本質的な部分で私がまともな生き物じゃ
ないことを感じ取っているんだよ。ロボットでもない。人間でもない。とても異質なものに見えるんだろうね。
私に噛み付いた犬が、アニーやクララベルには尻尾を振って駆け寄って行く様子を見て、私、とても寂しかった。
こんな言い方したくないけど、私はロボットにさえ負ける存在なのかって思い切り凹んだよ。

それでも。どんなに嫌われても。私はやっぱり生き物が好きだなあ。いつか、仲良くなれる日が来ることを心の
どこかで期待してる。何の根拠もないけどね。はは、馬鹿だよね、まったく。
148adjust:2006/11/15(水) 23:49:18 ID:xmH+NN4S0
>>114 様
感想ありがとうございます
意図したところが伝わるか不安だったのですが、おおむねわかっていただけたようで、ほっとしています。

>自然が生み出した低周波信号での自慰は、とってもキモチよさそう。性感の波に揉まれながら、なか
>なかイケずに悶えるともっち。萌え萌えだよう! でも、ひとつだけ。「あまりの切なさに涙がこぼ
>れる」ってアリですか?

切なくても、満足できないというマイナスの意味でそういう表現にしたのですが、あまりいい表現では
ないようですね。精進したいと思います。マイナスととったか、プラスととったか、読みづらかったかも
しれません。


manplus様
記述量がすごいですね。
瞳女王陛下の続編、希望します。
瞳さんがどんな操縦をしているのか、どのように愛を受け入れるのか(笑)
ゆっくり見させていただきたいと思います。
最後の手足がない状態では、逆に思いっきり奴隷にされそうな気もします。

149名無しさん@ピンキー:2006/11/16(木) 00:47:21 ID:ajKfJZ5D0
> でも、ひとつだけ。「あまりの切なさに涙がこぼれる」ってアリですか?
八木橋ワールドの義体には涙を流す機能がないんだということを
言いたいのだと思います。
150adjust:2006/11/16(木) 20:41:30 ID:V7B+pRh+0
>>149 様
ぐわあああっ、やってしまった。たしかに涙を流す機能が無いので、描写が
不適切ですね。ご指摘ありがとうございました。
 114様も失礼しました。

>>147
ヤギー、カワイソス、でも、動物は人とかロボットを区別しているわけではないから
サイボーグでも大丈夫なような気もします。がんばれヤギー


151pinksaturn:2006/11/16(木) 23:48:30 ID:CzfmDxoQ0
>>149 >>150
幻肢痛と同様の現象によってそのように感じたと解釈すればおかしくないかも。
>>147
現実に九州の方で、電動車椅子の老人が大型犬に襲われて死亡した事件がありました。
人間には聞こえない周波数の機械音が原因ではないかと言われています。
ブルーソネットの第1巻でも税関で犬に見破られるシーンがありましたね。
1523の444:2006/11/17(金) 01:01:53 ID:/LC9UZlk0
「誰にも知られちゃいけない。誰にも知られちゃいけない」
  会議からの帰り道、変身もののヒーローよろしく、そんなことをぶつぶつつぶやきながら私はエレベーター
からケアサポーター課へと続く長い長い廊下を歩く。何を知られちゃいけないかって?そんなの決まってるじ
ゃないか。私が展示会に出ることを、だよう。
  古堅部長から立ち去り際、「企業秘密にもかかわることだから君が義体展示会に参加することはまだ誰
にも言わないように」なんて厳しい顔で釘を刺されたけど、もとより他言する気なんてさらさらない。だって、も
しうっかり口を滑らせて、こんなコスチュームを着てデモンストレーション用標準義体として展示会に参加す
る、なんてことがバレた日にはみんなの笑いのネタにされることが目にみえてるもん。中には冷やかし半分
に展示会会場まで来ちゃうヒマ人もいるだろうし。もし、そんなことになっちゃったら・・・
(お嫁に行けないね)
  カビが生えたような古臭いコトバが頭に浮かんで独り苦笑いを浮かべる私。私の正体が誰にもバレない
標準義体に換装するからこそ、嫌々でもなんとかこのコスチュームを着れるんだ。もし標準義体の中の人が
私だってバレてしまったら、それこそ自殺ものだよ。
  そんなことを考えながら、おもーい足取りでよろよろ歩いていると、
「八木橋さーん。こんにちはー」
  だしぬけに背後から声をかけられて、ぎくりとする。
  恐る恐る振り向いた視線の先に立っていたのは、くるくる巻き毛の小柄な女性。いつもいつもなぜか絶妙
のタイミングで声をかけて私をびっくりさせてくれる名人のタマちゃんだ。
「うー、タマちゃん。今日は」
  なるべく平常心を装ってさりげなく挨拶したつもりだけど、内心動揺しまくりで、若干声が上ずり加減。
「八木橋さん。今日、遥々亭に行くんでしょ?」
1533の444:2006/11/17(金) 01:03:00 ID:/LC9UZlk0
  ポンと私の肩をたたいて屈託ない笑みを浮かべるタマちゃんだけど、そのコトバに私はまた、ぎくり、ぎく
り。なんでタマちゃん、そのことを知ってるわけ?タマちゃん、いったい何をどこまで知ってるの?
「あ、あのう、なんでそのことを?」
  私は怯えた子犬みたいに警戒心たっぷりの目つきで、おどおど探りを入れる。
  タマちゃんは私にとってはじめての担当ケアサポーター。だいぶ昔、この会社に入るずっと前に総務に異
動になっちゃったけど、主に私が原因で数多く義体トラブルに巻き込まれているせいで、義体には相当詳し
い。「八木橋さんを担当してると、いろいろ勉強になりまーす」なんて冗談なのかホンネなのか分からないこと
を言われたのも一度や二度じゃない。おまけに開発部の古堅部長の彼女ときてる。だから、今回の展示会
の一件、タマちゃんには全て筒抜けでも何もおかしくないんだ。
「なんでって、遙々亭は総務の担当でーす。八木橋さんのために焼きたてホカホカのタコ焼きを三十個用意
しておくようにっていう依頼が開発部からあがってまーす。それより、ケアサポーター部のあなたが利用する
のに開発部から依頼があがるなんて、いったい何の接待?理由を聞きたいのはこっちのほうでーす」
  怪訝そうに首をかしげるタマちゃんを見て私は内心ホッと胸をなでおろす。さすがのタマちゃんも、全てを
把握しているわけではなさそうだ。
「うん。ま、いろいろとね」
  私は適当にコトバを濁しつつ、わざとらしく腕時計を見たりして忙しい自分をアピール。タマちゃんが何も
知らないのなら、こんなところで立ち話する理由なんかないよ。さっさとケアサポーター課に戻らなきゃ。
「ところで、八木橋さん」
  タマちゃんは、長居は無用とばかりに挨拶もそこそこに足早にこの場を立ち去ろうとする私を呼び止た。
私的にはこれ以上立ち話を続けるのは気が進まなかったけど、タマちゃんを無視するのもなんだか悪い気
がして足を止めて振り返る。
  これが失敗のもとだった。
1543の444:2006/11/17(金) 01:03:41 ID:/LC9UZlk0
「私、さっきから気になっているんだけど。八木橋さんが持ってるそれって、いったいなーに?」
  キラリと妖しく光るタマちゃんの瞳の先にあるもの。それは・・・例のコスチュームの入った袋だよう。
「あ、いや、これはっ!なんでもないんだ。なんでもないんです」
  私は水着の入った袋を、先生にタバコを見つかりそうになった不良になりきれないチョイ悪君みたいにあ
わてて背中の後ろに隠す。自分でもあきれるくらい不自然極まりない行動。その結果は、トーゼンのことなが
らますますタマちゃんの興味をそそっただけ。
「あら、別に隠さなくてもいいじゃない。見せてよ」
  タマちゃんは、獲物を追い詰めた猛獣さながらに壁を背にした私にじりじりっと歩み寄る。そして私の後ろ
にひょいと手を回り込ませて袋を鷲づかみ。
「見せてよ」
「ダメですってば」
「見せてくださーい」
「ダメダメ」
  袋を引っ張り合って、ひとしきり押し問答を繰り返す私たち。そして・・・
「ふふふ。ジョーダンでーす・・・」ってタマちゃんがおどけたように笑うのと、苛立った私が「だめですっ。見な
いでっ!」って私が必死こいて力いっぱい袋をひっぱったの、ほぼ同時
  びりびりびり。ビニール袋が裂ける音。、
  はらり。
  かすかに布のこすれ合う音を立てながら、私の両足の間に落ちる例のコスチューム。
「あらら」
  タマちゃんは、すかさずそれを拾い上げる。
(あう)
  青いストライブの入った白いパンティーを目の前で広げられて、ごくりと息を飲み込む私。もし、生身の身
体だったなら、心臓がバクハツしそうなくらいドキドキして、恥ずかしさで顔は耳まで真っ赤になってたはず。
タマちゃんは、ちょっと私をからかおうっていうイタズラ心を起こしただけなんだ。でも、私は、本気になって過
剰反応したあげく自爆。
1553の444:2006/11/17(金) 01:15:31 ID:/LC9UZlk0
  ・・・・・・
  嫌味なくらい爽やかな白のコスチュームを挟んで向かい合う二人の間に流れるなんともいえない気まず
い空気。誰も通りかからなかったのが、せめてもの救いだよ。
「えーっと、これは、大変失礼いたしましたっ!」
  息の詰まるような沈黙を破ったタマちゃんは、意味ありげな笑いを浮かべて、私の手に押し付けるように
して水着そっくりのコスチュームを返すと、そそくさその場を立ち去ろうとする。そのタマちゃんの態度と行動
で、彼女がコレを見て何を考えたかすぐ分かったよ。
  普通の人だったら水着を買うなんて当たり前のことかもしれない。でも、私の身体は120kgもある金属の
カタマリなんだ。だからプールに行っても水の底に沈むだけで泳ぐことなんてできやしない。海なんて行こうも
のならよっぽど気をつけないと人工皮膚の継ぎ目から身体の中に海水が入り込んで義体がサビサビになっ
ちゃう。つまり、義体の私が本来の使用目的で水着を買うことなんて、ないんだ。そんな私が水着を買うとし
たら、そのう、やっぱりすぐに思いつくのはコスプレ方面のお遊び目的だよね。
  でもタマちゃん違うんだって!これは私の趣味じゃなくって仕事なの!私だって好きで着るんじゃない
の!
「待って、タマちゃん違うんだ。誤解だよう!」
「ふーん、何が違うの?」
  感情の全くこもっていない喋りと顔に浮かべた薄笑いで、タマちゃんが私の言うことをこれっぽっちも信じ
てないってことがよーくわかる。
  もうこうなったらやけっぱち。古堅部長からは口止めされてたけど、タマちゃんになら私が展示会に参加
すること、バラしてたっていいや。誰にも話さないでってお願いしておけば、タマちゃんなら黙ってくれそうだ
し、何より、このまま私が自分の意思でこんな水着を買ったって誤解されっぱなしなんて耐えられないよ。
「だから誤解なんだってば。これは、私が買ったんじゃなくて、今年の義体展示会用のコスチュームなんだよ
う。私が、新型義体の中の人役をすることになったんだよう」
「ふーん、そうなんだ。それは大役ご苦労様でーす。じゃ、今日の遙々亭はその打ち合わせか何かに使うの
ね」
1563の444:2006/11/17(金) 01:16:59 ID:/LC9UZlk0
  口ではそう言いながらもまだ疑わしげなタマちゃん。
「でも、展示会用の衣装はまだ決まってないはずでーす。古堅部長から今年の展示会用衣装は参加者の希
望を聞いてからデザインを決めて発注するって先週言われたばかりですけど」
「はあ?」
  タマちゃんのコトバに私は自分の耳を疑った。一瞬聴覚器官が故障したのかと思った。
  古堅部長が参加者の希望を聞いてから衣装デザインを決めるって言ってたって?そんなのヘン。こんな
服を着るのが希望だなんて、私一言も口にしてないよ。だいたい、さっきの会議で部長たち、今年の展示会
の衣装は役員会で決まったって言って、半強制的に私にコレを押し付けたじゃないか。
「そんなの嘘だっ!嘘々。衣装のデザインなんて私何も聞かれてないっ。斉藤部長から『今年の展示会用の
衣装はこれで決まった』って言われて一方的にこれを渡されただけだよう」
「はぁ?斉藤部長がそんなこと言ったの?遥太郎は何も言わなかったの?」
  今度はタマちゃんが驚く番。いつの間にか、古堅部長をファーストネームで呼び捨て。
「うん。去年の展示会の標準義体は綺麗な振袖姿だったのに、ギガテックスのバニーガールに巷の話題を
ぜーんぶもってかれたから、今年は、ウチももっとインパクトのある衣装にすることに役員会で決まったんだ
ってさ。その結果が、このコスチュームなんだって」
  コスチュームをもう一度袋につめなおしながら、私は不貞腐れて唇を尖らせて見せる。
「実は今日のことは誰にも話すなって古堅部長から口止めされてたんだ。お願いタマちゃん。このこと、誰に
も言わないで。こんな服で展示会に出るなんて知られたら恥ずかしくて会社に出て来れないよ」
「じゃあ、私が遙太郎から今年の展示会用衣装は参加者の希望を聞いてからデザインを決めて発注するっ
て言われたことは?」
「ぜーんぶ嘘!」
  私は、口から唾を飛ばすような勢いで吐き捨てた。私の言葉を聞いたタマちゃんは、なぜか難しい顔をし
て黙り込む。
「分かりました。八木橋さんの言葉、信じましょう。なぜなら・・・」
  やがて口を開いたタマちゃんは、ポツリとそうつぶやくと、深い溜息をついた。そして周りを見回し、誰もい
ないことを確認したあとでこっそり私に耳打ちする。
1573の444:2006/11/17(金) 01:18:18 ID:/LC9UZlk0
「遙太郎はね。実は水着フェチなんでーす」
「ええええええ!!」
  廊下に響き渡る私の絶叫。今、私、ありえないことを聞いた。
  水着フェチって、その、水着に異常な性欲を感じるっていうアレ?あのお固い古堅部長がそんな性癖の
持ち主だなんて意外すぎる。
「しぃっ!」
  タマちゃんは眉間にしわを寄せて相変わらず難しい顔をしながら、私をたしなめる。
「こんなの、いかにも遙太郎が好きそうな服でーす。この服のデザイン、間違いなく遥太郎の息がかかってま
ーす。遥太郎の奴、どうしても今年のコスチュームをコレにしたくて、私と八木橋さんに姑息な嘘をついたん
です」
「じゃあ、役員会で決まったっていうのは・・・」
「もちろん大嘘でしょ。抱き込んだのは斉藤部長くらいじゃないかしら」
  タマちゃんは、はぁ、と大きなため息をついた。
「じゃあ私、古堅部長に騙されてたってコト?」
  自分の性癖を満足させるために勝手に展示会用のコスチュームを捏造したなんて、全くあきれた。何が
「服装など大義の前には小さなことではないか」だ。会議のやり取りを思い出したら腹が立ってきた。
「そういうこと。ま、どんな手段を使ってでもCS-30を売り込みたいっていう遙太郎の気持ち、分からなくもない
けどね。それにしても・・・」
  タマちゃんは、コスチュームの入った袋に目を落とす。
「これはやりすぎ。これじゃ八木橋さんが可哀想・・・八木橋さん。こんなの着たくないでしょ?」
「当たり前だよう」
「ふふっふっふっふっ、よーく分かりました」
  タマちゃんは、ニヤッと笑ってペロリと舌なめずり。でも、目がゼンゼン笑っていない。
「彼には、ちょっとお仕置きが必要みたいね」
  そう言ってテレビに出てくる悪女さながらの妖艶さで笑うタマちゃん。
  いったい何をたくらんでるのやら。
1583の444:2006/11/17(金) 01:49:25 ID:/LC9UZlk0
本日はここまで。
なんとか今回で完結させようと思ったのですが、力尽きました。次回投下で終わらせます。

adjustさん
音を性感として感じるようにサポートコンピューターのプログラムをいじる。すばらしい発想に脱帽です。
くじらにイかされるっていうアイディアも、いかにもサイボーグものらしい、ありえないシチュエーションでの
エロという感じでたいへん萌えました。
ヤギーは、義眼で撮影をするとき目が光るという設定ですが、今回大西さんは橋本さんにバレないように
仕様書を盗撮しましたね。こういう盗撮を防ぐためにカメラを使用するときわざと目が光るように
ヤギーの時代に改良されたのかなあと思ったり。
義体は・・・涙を流さないですね。八木橋ワールドに則って書いていただいている限りは。
他にも、顔色が変わらなかったり、汗を流さなかったりするので、感情を表現するのに結構苦労することが
多いです。
次回作、期待しています。

manplusさん
堂々の完結、おめでとうございます。
今回はアナウンスのみの迫力あるレースシーンがよかったです。
俺はダルマ娘が好きなんだぁ、ということとF1が好きなんだぁ、ということがものすごく伝わってきて、
読んでいて楽しいです。深い知識に裏付けられた作品を書けるみなさんがホント羨ましいです。

>>147
動物が人を区別するのって外見ではなく体臭かなあと思います。特に犬なんかはそうですよね。
だから、おじいちゃんが飼っているヤギーにとても懐いていた犬も、もしヤギーが義体化したら、犬にとっては
誰だか分からなくなり吠えられたりかみつかれたりするのではないでしょうか。
仕方ないので、ヤギー、おじいちゃんの家に残っていた中学生頃の服を無理やりピチピチになりながらも
着る、とか妄想。どうせ破けるんだろうけど。
159名無しさん@ピンキー:2006/11/17(金) 23:37:21 ID:2P0zoKkT0
>>157 妄想したw

水着、それは人類に残された最後のフロンティア。そこには常人の想像を絶する美麗なデザイン、革新的な素材
が待ち受けているに違いない。これは、イソジマ電工開発部長にして無類の水着好き、古堅遥太郎の驚異に満ち
た物語であるw

***

「でありますから、本件提案の新方式に基づき製造される防水防錆コーティングは、耐久性こそ従来製品に比較
して18%低下するものの大幅な低廉化が実現できるのであります。現状、当該コーティングは海洋開発事業の従
事者に限定しての適用となっておりますが、次期CS-20型標準仕様への盛り込み及び現義体ユーザーへの有償施
工サービスの開始を併せて提案いたします。前向きなご検討よろしくお願いいたします」

「古堅君。面白い提案だとは思うが、いかんせんこの開発費では割に合わないのではないかね? 耐久性が下がっ
ては開発補助金の申請は無理だろう。有償サービスにしても、たいした収入になるとは思えんよ」
「し、しかし、これが実現されれば現状禁止事項とされている海岸地域への立ち入りが可能となります。我が社
の企業理念の観点からは、むしろ優先的に取り組むべき課題ではないかと」
「君のいつもの主張だね。だが、現実がそんなに甘くないことも、繰り返し議論してきたと思うがね。あれをま
た蒸し返す気はないぞ」
「お言葉ではありますが、ここ数年の我が社の義体のセールスポイントが、特殊公務員向け機能の追加と性能改
善ばかりになっております点をご考慮いただけないでしょうか。企業イメージ向上も、我々の重要な課題と考え
ます」
「しかしねえ。これができたからと言って、泳げるようになるわけでもないんだろう? 味覚機能の開発の時、
君は確か、食事機能を伴わなければ意味がないと言っていたのではなかったかね?」
「私もその件は覚えているぞ。中途半端なことをすると、かえって義体ユーザーを苦しめるだけだという君の熱
弁で、満場一致で長期計画への織り込みを決定したのだったな。今回の件も水に浮く義体の開発とセットで論じ
るべきものではないか? 君としたことが、一体どうしたんだね?」
「そ、それはそうですが……。で、では、実用化判断は無理としても、せめてフェーズ1の試験研究費だけでも
認めていただくわけには……」
160名無しさん@ピンキー:2006/11/17(金) 23:43:03 ID:2P0zoKkT0
***

義体開発部第一開発プロジェクト 古堅部長殿

第63回開発推進委員会の決定事項について

第63回開発推進委員会における審議の結果、下記の通り決定したので通知します。

議題番号:3
審議区分:開発判断
案件名:防水防錆コーティング Type4
提案元:義体開発部第一開発プロジェクト
審議結果:否決

***

「遥太郎、そんなに落ち込まないで」
「まったく、幹部会の石頭ども、何も分かっておらん! このコーティングが世の義体ユーザーにどれほど望ま
れていることか!」
「でもコーティングができたからって、泳げるようになるわけじゃないんでしょう?」
「たとえ泳げなくても、海辺ですることはいくらでもあるだろう。潮風に吹かれながら日光浴することですら、
今の義体ではできんのだぞ! たとえ泳げなくても、海水につかるだけでもいいではないか!」
「遥太郎、本当に理由はそれだけなの?」
「ほ、他に何があるというのだ?」
「私とプールに行っても、いつも他の娘の水着ばかり見てるじゃないの! 私に変な水着を着せるだけじゃ足り
ないの? おおかた、『コーティングさえあれば、海辺でぴちぴちギャルの水着が見放題!』とか考えてたんじゃ
ないの?」
161adjust:2006/11/17(金) 23:44:58 ID:GJO9USoq0
>>158
感想ありがとうございます。本来この話は大西編の続きとして書いていましたので、
ねたが似たような話になってしまいました。盗撮についてはイソジマ電工にもNTLにも
ばれてしまいましたので、何らかの手を打ってくることでしょう。(笑)

>>152-157
斉藤部長と古堅部長の悪巧みですか。
部長といえば、役員クラスのお偉方のはず。

「斉藤殿、これが今回の八木橋の悩殺水着でございます」
「おぬしも悪よのう、古堅殿」
「いえいえ、斉藤殿にはかないませぬ。ホッホッホッ」
「今度の開発予算、悪いようにはせぬぞ」

「む、何奴!」
「汀環之介だ、余の顔を見忘れたか」

忘れても覚えてても、一刀両断されそうです
162名無しさん@ピンキー:2006/11/17(金) 23:47:44 ID:2P0zoKkT0
「そ、そんなことは断じてない! 私は、あくまでも義体ユーザーの幸福を考えてだな……」
「じゃあ、私、もう遥太郎が用意した水着、着なくてもいいのかなあw」
「いかん! それはいかん! 私の唯一の楽しみが無くなって……はッΣ(°Д°;)
「ふふふ。遥太郎は正直ね。これが社外では超堅物で通っている古堅部長と同一人物だなんて、誰も信じないわ
ね。そんなに海辺で水着が見たかったの?」
「う、うむ」
「ん〜〜〜? 聞こえないなあw もっと大きな声ではっきり言ってくれないと」
「見たかった! だが誤解しないでくれ。私にとって、環の水着姿が一番だっ!!」
「あ……///」
「……」
「もう……。ホント、男ってしょうがないなあ」
「……水着、着てくれるのか?」
「ええ。あんなこと言われちゃ、ね」
「そうか! それならッ! こんなこともあろうかと密かに入手しておいた、このDioL特別デザイン150着限定
超レアアイテムの純白すけすけブラジル水g」
「ッ!! バカバカっ! 遥太郎のバカっ! このスケベっ! ド変態! 死んでしまえっ!」

***

結局、古堅部長は、コーティングの防水性を犠牲にする代わりに開発費を大幅に削減し、他の開発項目と抱き合
わせで、無理矢理審議を通したそうな。海水につかることはできないが、潮風にあたるくらいなら何とかなると
いう苦渋の選択であった。ヤギーが栄浜海岸で空き缶拾いのバイトをすることができたのも、全て古堅遥太郎の
執念のおかげだったのである。

水着フェチ恐るべしッ!!!

#「水着フェチ」で妄想したものの、本編には遠く及ばずorz サイトへの掲載は無しの方向でw
163adjust:2006/11/17(金) 23:59:26 ID:GJO9USoq0
流れをぶった切ってしまって申し訳ない。チェックミスでした
話は面白いですよ。作者と内容がかぶらないといいのですが
ちょっと心配です
164名無しさん@ピンキー:2006/11/18(土) 23:27:33 ID:5VTeBvVQ0
#不定期連載 ヤギー1レスミニ劇場 (2)

にゃあ。

アニーの部屋から猫の鳴き声がする。開け放たれたドアから、部屋の中をそーっと覗いてみる。

にゃーん。

アニーと子猫が小さなボールで遊んでた。飼い猫なのか野良猫なのか分からないけど、最近はるにれ荘に来るよ
うになった小さなお客さま。はるにれ荘のお年寄り達にはペットを飼わないという暗黙のルールがあって、あま
り子猫には近づかないようにしてるみたい。私は子猫の方から嫌われちゃってるから近づくなんて問題外。結果
として、アニーが忙しい中で時間を見つけて相手をしていることがほとんどだ。

こうして子猫と無心にじゃれ合っているアニーの姿を見ていると、フツーの女の子としか思えない。いかにも楽
しげで、ちょっぴり、ううん、かなり羨ましい。私なんて、最初の日に撫でようとして手を出した途端、手酷く
引っ掻かれちゃった。小さな身体一杯に敵意をみなぎらせて私を威嚇する様は、お前みたいな半端者に関る気は
これっぽちもない、って宣言しているようだった。その一方で、アニーやクララベルの手は喜んで受け入れた。
機械の身体だから駄目なわけじゃないっていうことだよね。機械女とかお人形さんとか陰口を言われるのも悲し
いけど、こんな小さな猫にまで身体のことで嫌われるなんて切ないなあ。

もう手にすることができない幸せそうな光景を、バイトに行く時間ぎりぎりまで静かに眺める私だった。
165pinksaturn:2006/11/19(日) 09:56:58 ID:9l0A3W4l0
(2週間ぶりにオプションパーツの続きです。今回は帝国流の宇宙建設労働がメインです。)

−−(32)金星プラットフォ−ム−−

(カロンの基地建設現場 採水施設用原子炉組み立て中)

知子3世:「はい右端もうチョイ上げて、あと3センチかな。うんOK。」

マオ:「クレーン、位置連続補正モードにします。収縮誤差吸収可能時間3分。」

マツ:「リベット打っちゃって良いですか?。」

知子3世:「やって。温度差でずれないうちに手早く頼むわ。ミツとササも1/3ずつね。」

ミツ、ササ:「やりまーす。それっ、連射連射。」

ハル:「頂上部はまだ打たないんですか?。」

知子3世:「恐らく3,4カ所は研磨で縁を合わせてからでないと耐圧限界が落ちるわ。
地上と違って漏れても余所から文句は来ないけど、シュラウドが弱いと出力が減るでしょ。
計画より5%以上目減りしたら、採水に時間がかかって帰還が遅れるのよ。」

ミキ:「なるほど。ここで慌てるとかえって時間を損するんですか。機関は難しいなあ。」
166pinksaturn:2006/11/19(日) 09:58:00 ID:9l0A3W4l0
知子3世:「シビリアン徴兵の娘は素体訓練で原子炉工学ってやらないから仕方ないわ。
所詮昔からある蒸気機関だから本当はたいして難しくないんだけど、馴染みが薄いとね。
じゃあ、ミキのクレーン20センチほど上げて上蓋浮かせて頂戴。うん、そこよ。
マオ、場所を体内CPU直接ファイル交換モードで指示するからポート開けて。
よし、エキシマビーム発射用意。研磨だから出力は18%から始めるわ。よし、ここ。」

マオ:「氏ね氏ねビーム、弱出力連続照射。」

知子3世:「はい、止め。次の場所行くから降下艇移動させて...うん、そこ。停まって。
研磨位置バイナリデータファイルプッシュ、発射はじめ。」

マオ:「氏ね氏ねビーム、弱出力連続照射。」

知子3世:「よーし。あと1カ所で良さそうだわ。移動して頂戴。そこ。位置プッシュ。発射。」

マオ:「氏ね氏ねビーム、弱出力連続照射。」

知子3世:「ミキ、クレーンゆっくり下げて。ハル、マツ、ミツ、ササ、リベット用意して散開よ。
良し、ぴったり密着したわ。急いでリベット打っちゃって。収縮限界は3分以内よ。」

ハル、マツ、ミツ、ササ:「はあはあ、何とか間に合いました。」

知子3世:「よーし。ミキはクレーン畳んだらシュラウド一周しながらエキシマで継ぎ目の溶接よ。
初期動作用の水作るからマオはエキシマで氷の切り出し、他の娘は氷を炉心の周りに積み上げて。」
167pinksaturn:2006/11/19(日) 09:59:09 ID:9l0A3W4l0
(帝国御前会議)

朝子10世:「今日審議していただきたい議題は、氷隕石の収集体制と使用計画に関してです。
”なると”からの定期報告によると、カロン採水施設は無事原子炉に点火できました。
したがって、次の高速連絡艦は予定通り専ら隕石移動装置の輸送を行えばよいことになります。」

弥生:「1回に運べる隕石移動装置の数は確か3基でしたね。何とか増やせませんか?。
初回は金星向けと満漢月基地向けに各1基が確定ですから、自由に使えるのはあと1基でしょ。
先に報告したように、金払いの良いアリババ連合の依頼をこなすには一度に3基が必要です。」

朝子10世:「通常4機搭載する重機と2隻搭載する降下艇を減らせば増やすことは可能です。
”なると”で使用中のものを現地に残してくれば、その分は次の艦から降ろせます。
航行中にエンジングリッドの整備が必要になるケースを考えると重機2機は最低必要です。
また、残してきた搭載艇を取りに行くために降下艇1隻も必要ですから半減が限度です。
それでなんとか隕石移動装置2基を余分に積み込めるでしょう。」

財部大臣:「冥王星とカロンの重力均衡点に置いてくれば降下艇が不要になりませんか?。」

文部大臣:「摂動で重力均衡面から外れたら冥王星かカロンに落ちてしまいますよ。
1年近くも無人で放置するならカロンに降ろして置くしかないでしょう。」

朝子10世:「その通りです。それに故障補充の余地も考えに入れておきませんと。」

財部大臣:「取りに行くための降下に重機を使えないのですか?」

朝子10世:「極低温のため暖房に電力をかなり回すのでエンジン推力が大幅に低下します。
カロンに自航降下させるのはかなり危険なので、置いてくる際も降下艇の荷台でとなります。」

朝子8世:「氷隕石の経済価値を考える財部大臣の意図も分かりますが無理は避けましょう。」
168pinksaturn:2006/11/19(日) 10:04:41 ID:ohmpB4BI0
民部大臣:「高速連絡艦をもっと建造するとか大型化するというわけには行きませんか?。」

朝子10世:「高速連絡艦を余分に建造しても乗組員の員数を揃えることが難しいんです。
耐G特性の制限がありますからサイボーグなら誰でも良いわけじゃないですからね。
艦の大型化も船体強度や工場衛星のドック施設、エンジンなど開発設計に時間がかかります。」

刑部大臣:「もう少しシビリアンの徴兵率を引き上げられませんか?。」

文部大臣:「現状で素体の質が限界だと言われていますので教育で補うのは苦しいですよ。
精神主義を振りかざして素体適性の足りない者を徴兵しても使えるサイボーグになりません。」

朝子10世:「下士官・兵や若手士官よりも幹部が足りないので徴兵を増やしても無駄です。
脳血管の耐G特性は年齢とともに劣化しますから、幹部の耐G検査合格率が低いんです。」

地軍大臣:「そうですねえ。地軍の戦闘機搭乗員ですら体を鍛えても脳がきついですから。
根本的に脳の耐G強度を上げる技術って出来ないものですかねえ。」

文部大臣:「帝大では脳血管を構成する細胞の若返りを促す薬を研究しています。
しかし、血管形状的に弱い場合は効果がないし、副作用が酷くてまだ非人実験の段階です。
血管壁が緻密になりすぎて物質交換が抑制され、気力や知能の低下が起きてしまうのです。
それに安全な薬が出来ても、脳卒中が予防されるだけで脳神経自体の強度は変わりません。
やはり、人格を構成しない小脳や脳幹・脊髄を機械化して脳自体を縮小するのが有効です。」

朝子10世:「脳下位機能の機械化は特例志願兵活性化のためにも研究に力を入れています。
しかし、最下位機能である脊髄ですら肝心な性感が代替できず難航しているのが現状です。
この件は議論に時間がかかるので別途報告の場を設け、本題に戻りたいと思います。」

朝子8世:「当面は高速連絡艦の大幅な増強が出来ない前提で資源の配分を考えましょう。」

財部大臣:「金星の可住化は一説には1000年かかるといわれる気の長い事業です。
第一便の氷隕石をどうしても使わなくてはならないというわけでもないでしょう?。」
169pinksaturn:2006/11/19(日) 10:05:39 ID:ohmpB4BI0
朝子10世:「”みくら”の探検時に送ったのが5万dの大隕石なので転用が効きません。
アリババ連盟のように金払いがよくて満漢のように地上以外で使う買い手が憑けば別です。
しかし、今のところ地上外での販売見込みは満漢の1個だけだし、要求時期も合いません。
溶けるものだから、買い手の受入準備が出来てから引き渡さなくてはいけないんです。
また、金星への投下は開始したら定期的に繰り返さないと効果が無くなります。」

文部大臣:「最初に落としたのが溶けきらないうちに次を入れないとダメなんですよ。
水たまりが消えて蒸発してしまうとかえって水蒸気による温暖化効果が生じます。
雨が降る低温スポットを維持し続けないと炭酸ガスの吸収は進みません。」

民部大臣:「なかなか大変ですね。水だけに頼らず、植物による炭酸同化を起こせませんか。
初めは効果が僅かでも、一旦正の循環が始まれば後は加速度的に効くでしょう。
可住化実現時期が100年でも早められるなら財部省も納得しやすくなりますよね。」

文部大臣:「雨が降るといっても硫酸混じりなので氷の付近でも地上じゃ無理です。
その代わり、上層大気に浮かべた浮遊プラットフォーム上での水耕を計画しています。
灼熱の金星でも、上層大気には氷点下の低温層があるから高度を選べば良いんです。」

朝子10世:「文部省案に沿って金星プラットフォームの試作は進んでいます。
巨大な水素気球で長さ2000b、幅1000bの板を釣った飛行船の一種です。
炭素固定施設の他に自転が遅すぎて実現不能な静止衛星に代わる基地の役も果たします。
物は出来ましたが、最初の1基をどうやって金星大気に浮かべるかが難問になっています。
1基設置できてしまえば、あとはそこを拠点に組み立てながら浮かべていけるのです。
しかし、最初の1基だけは完成状態で大気圏に突入させ、巧く減速しなくてはなりません。
高度が下がったり地上に降りてしまったら気球が保ちませんから非常に危険なのです。
このため、突入操作を有人でやるわけにはいきません。リモート操作になります。
原理は降下カプセルと同じですが、巨大なためアイスシールドの条件決定が難しいんです。」

財部大臣:「投入成功率はどれくらいなのですか?。」
170pinksaturn:2006/11/19(日) 10:06:26 ID:ohmpB4BI0
朝子10世:「金星への大気圏突入事例が少ないため予測に幅があり、5から20%です。
まずは、縮小版の観測ゾンデを何度か突入させて経験を積む必要がありますね。
アイスシールドが溶けてから高温層に落ちる前に急速に気球を膨らませられるかが鍵です。
リモート操作者の能力にも大きく依存します。」

財部大臣:「すると、最初の1基が浮かぶまで相当数のロスが出ますね。きついなあ。」

朝子10世:「隕石資源と用途のアンバランスのため工場衛星では常に鉄と水素が余剰です。
他の金属のため金属質隕石を処理すると鉄が余り、酸素のため水を分解すると水素が余ります。
売れる分は地上に降ろしていますが、重量や体積の関係で採算のとれる案件が足りないんです。
この余剰資材を活用すると2ヶ月で1基は出来るのでコストは製造と輸送の手間分だけです。」

民部大臣:「水素気球だと爆発事故の危険性がありますよね。」

文部大臣:「金星大気は酸素が乏しいから今は大丈夫ですよ。将来増えたらあり得ますがね。
一応、将来の成分変化に備えてヘリウムに切り替えられるように浮力の余裕を取っています。」

朝子8世:「氷隕石落下後の地上観測拠点は必要なので余剰資材の範囲で試すべきと思います。
財部大臣としては、同意し難いですか?。」

財部大臣:「財政への影響が軽微な範囲であれば異存ありません。」

朝子8世:「では、宙軍大臣は極力コストを引き下げることに留意して進めて下さい。
第一便の隕石移動装置は5基搭載、金星と満漢向け各1基、アリババ向け3基で良いですね。」

弥生:「高速連絡艦の出航時期は決まっていますか。」

朝子10世:「当然”こっそる”も新造艦ですから幹部内定者が艤装検査に入っています。
そこで問題が起きなければ、15日後に出航する予定です。隕石移動装置は在庫で足ります。」

弥生:「良かったわ。産油国のアリババ連盟には不義理をしたくないですからね。」
171pinksaturn:2006/11/19(日) 10:23:24 ID:ohmpB4BI0
(カロンの採水基地建設現場 ドーム建屋組み立て中)

真理亜:「ドームが建つのって以外と早いわね。資材輸送をせかされたのには驚いたわ。」

知子3世:「こちらこそ艦長が自ら降りてきたのには驚きました。」

真理亜:「停泊中の留守番はかったるいから、たまには副長に押しつけないとね。
それに資材輸送が遅いっていわれるほどの早技建築を見ておきたかったし。」

知子3世:「原子炉さえ動いちゃえば降下艇のちゃちなクレーンに頼らなくなりますからね。
あと40時間でここは屋内になって太陽灯も憑くので極低温に注意しなくて良くなりますよ。
水の汲み上げも始まったので50時間で原子炉のリザーブ分は満タンになります。
その後は電気分解に回せる分が出るので、いよいよ田んぼと人柱の設置ですね。」

真理亜:「人柱の餌やりをしなくて済むようになるとマサの機嫌が良くなるわね。
本国から氷隕石探しに色々細かい注文が来たから、そろそろ虐めを軽くしてやらないとね。」

知子3世:「あ、人柱といえば移動トロッコのレールを天井が閉じる前に搬入しないと。」

真理亜:「ついでに手伝うわよ。降下艇を天井の穴付近にホバリングさせれば良いわね。」

知子3世:「お願いします。取り込みはビルクレーンで一掴みですからすぐ済みます。」
172pinksaturn:2006/11/19(日) 10:30:57 ID:ohmpB4BI0
(経済特区 メタロリホスピタル 受付兼お客様相談室)

カリスマ看板娘:「いらっしゃいませ。手足のことなら何でもありの当院にようこそ。」

孫:「(嗚呼、((((;゚Д゚)))、逃亡希望、逃亡即一族処刑...。)あ、あのぉ...。」

カリスマ看板娘:「どういった手足をお望みでしょう。といっても、口頭では難しいですよね。
お客様がわかりやすいように、私は3機種を併用しています。左腕がノーマル機の標準外装です。
こちらは、機能外観とも生身の腕の延長になります。但し、腕力は平均の1.5倍近く出ます。
この左脚は、メタリック外皮です。膝下はさらに品種が分かれて、これは硬質金属外骨格型です。
このタイプは、最近アリババ聖戦士が耐西欧連紛争で活躍した関係で人気が出てきていますね。
一応民生仕様の合法品ですが、重い荷物を担いで時速40`で走れますし、耐衝撃性も良いです。
踵は差し替え可能ですので、足元の悪い場所で重労働をされる方にも安心してお勧めできます。
標準型でも脚力は同等ですが、ヘビーデューティ用途だと靴がすぐに傷むという問題があります。
靴代を考えるとお得なのですが、大東亜国とか住宅様式によっては使いづらい地域もありますね。
こっちの右脚は外装が左足と同型式ですが、手指の憑いた腕機能併合型となっております。
甲の部分に生えた指を肩の神経からコードレスで制御しますので腕が要らなくなり経済的です。
民生仕様の脚はどの形式も制御基板に5軸集積レーザー加速度センサが組み込まれております。
通常は神経断端の信号に従いますが、歩行やジャンプでは加速度を検知して自動補正します。
このため、歩行の際に腕でバランスを取る必要は無く、腕が無くても転倒し難いので安心です。
地底アイスワールド特区分園のショーに出ている”腕無しスケーターチーム”をご存じですか。
慣れればあのように高度な技も出来てしまうんです。ブレードは特注ですけどね。
私だって、踵を15aのピンヒールにしていますが、今まで一度も転んだことがありません。」

孫:「(依然無腕恐怖。)絶対転ばないですか?。」
173pinksaturn:2006/11/19(日) 10:31:40 ID:ohmpB4BI0
カリスマ看板娘:「私はこの脚にする以前はよく転ぶドジッ娘だったのです。
ここに就職してこの足にしたお陰で、すっかり、もう完全に汚名を返上できました。
それに関節の自由度が大きいので、ほら、こんな風に髪を整えたり化粧もたやすく出来ます。
よほど背骨が固い人以外は生活に支障ありません。おしっこの後あそこを拭くのも楽勝ですよ。
ということで、私には右腕がありません。代わりに断端信号中継器が入った蓋が憑いています。
もし、その他のタイプもご覧になりたければ別のモデルの娘もお呼びしましょうか?。」

孫:「(苦、依然命令絶対、勇気絞出。)う、腕機能併合型の膝下硬質メタリックで。」

カリスマ看板娘:「でしたら、お見積もりはこのように。カードはお使いになりますか?。
当院独自の低利ローンもございますが、ご利用の際は売春安全法による検査済証が必要です。
万一、滞ってしまった時には売春による収入が担保となるので公認の方限定でございます。」

孫:「(売春担保!。超非道徳。論外。)げ、現金でお願いします。」

カリスマ看板娘:「お手持ちは、どちらの貨幣になりますでしょうか?。」

孫:「じ、人民圓で持参したのですが。」

カリスマ看板娘:「なるほど。最近は発行国の国際的地位が向上して強いですからね。
すると現在のレートですとこのようになります。ほら、脚で電卓操作も楽勝ですよ。」

孫:「(交換率良好、支給資金少々余剰、非常逃亡費残存一安心。)でわこれで。」
174pinksaturn:2006/11/19(日) 10:44:48 ID:ohmpB4BI0
(メタロリホスピタル 第一手術室)

孫:「ぐうぐう。」

例のダルマッ娘好き整形外科医:「えーと、骨盤部検査CT映像は...。
なんだよう、元男か、卵巣無いぞ。貴重な美マンだって聞いたから休日出勤したのに。
当直検査技師の奴め、ろくに映像見ないで外ばっかり眺めていたな。騙されやがって。
うーん、しかし確かに良い仕上がりだな。満漢の手術は荒っぽいって評判なんだがな。
一部には巧い奴もいるんだな。しかし、膣奥の人工物は何の意味があるんだ?。
まあいいや。きもい性器さえ突き出ていなければちゃんとしたダルマッ娘にできる。
さくっと四肢離断して仕上げるだけだな。」

検査技師:「失礼します。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「あ、お主見事に騙されたな!。映像ちゃんと見たの?。
あ、そっちの人誰よ?。手術室に部外者入れちゃダメじゃん。」

検査技師:「特区公安省違法薬物取締本部の方が...。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「えっ?。私は違法薬物なんか扱っていませんよ。」

麻薬取締官:「失礼します。先生じゃなく、そっちの娘です。検査映像から疑いが。」

検査技師:「以前、膣から薬物を出すように改造した娘が見つかったことがあって。
それで膣奥に人工物を仕込んだ者がいたら、一応届け出ることになっていたんです。」

麻薬取締官:「気づかれずに調べたいので全身麻酔中に膣の薬物検査をさせて下さい。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「そうですか。それならどうぞ。」

麻薬取締官:「タンポンを入れて5分後に抜きます。滅菌済だから影響はないです。」
175pinksaturn:2006/11/19(日) 10:46:05 ID:ohmpB4BI0
ダルマッ娘好き整形外科医:「じゃあ、腕の離断を先にしてます。ざくっと...」

麻薬取締官:「よし、抜き取り。術中検査台をお借りして良いですか。」

検査技師:「でしたら、こちらをお使い下さい。」

麻薬取締官:「ポータブル微量分析機セットよし。スタート、...」

検査技師:「出ましたか?。」

麻薬取締官:「うーん、白か。ただの人工粘液でしたね。練習用の液なんだろうな。
非常に怪しいが、これでは逮捕できない。泳がせるしかないですね。お邪魔しました。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「あっそお。よかった邪魔が長引かなくて。っで動脈が...
よし摘めたな。静脈に直結してこれで漏れ無しと。さて神経だな。ん、ここだここ。
トラポン端子延ばして、こんなもんかな。試験器オン、微調...ぴくぴくしたな。よし。
肩胛骨マウントのクランプはここで良いよな。仮固定して骨切りだ。チュイーンと...
ホイ切れた。マウント締め付けてトラポン本体収納よしと。フラップ閉めて縁縫い...
うーん、いつも我ながら美しい仕上がりだ。肩のラインはこうでなくっちゃね。
これで右肩はよしと。連絡か、もしー、保存処理部?、右腕取れたから持って行ってね。
さて、肩は飽きたから先に股関節やっちゃうか。やっぱVラインやってなんぼだよなぁ。」

保存処理技師:「右腕取りに来ましたー。あれ?。次、左腕じゃないんですかぁ?。
気まぐれやられると手順狂っちゃうんですけどぉ。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「メンゴ。いつもは脚からなんだけど邪魔が入ってね。」

保存処理技師:「しょうがないなぁ。じゃ、両脚のあと最後に左腕ですね。はいはい。」
176pinksaturn:2006/11/19(日) 10:46:57 ID:ohmpB4BI0
ダルマッ娘好き整形外科医:「内股のフラップライン取りはこれで良いな。ざくっと。
で、動脈動脈...居た居た。摘んで切ってこっちに繋いで...よし漏れ無し。
さあ神経だ。ほじほじ...よし掴んだ。トラポン端子入れて、テスト...。
反応良いな。じゃ、骨切りと骨盤の穴開け、ドリルでチュイーン...開いたな。
プレートで挟んでボルト...トルクよし。トラポン収納。神経余長問題なし。
さーて、腕の見せ所のフラップ縫いだ...うーん、見事なVライン。こうでなくちゃ。
よし、一気に左脚も行くぞぉ。私の早さなら保存はまとめてで間に合うよな...。」

保存処理技師:「脚取りに来ま...一度に両足ですかぁ。ちゃんと1本ずつ呼んでよ。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「切断からの余裕時間は十分だろ。リズムってのもあるの。
それよりどうよ、この見事なVラインの仕上がりは。やっぱ美マンは突端にあるべきよ。
これは人工だけど、やっぱ、カエルみたいに股開かないでセクースできるって良いよね。」

保存処理技師:「先生の腕は見事です。でも、見とれてないで左腕も真面目にやってよ。」

ダルマッ娘好き整形外科医:「わかってるって。任せてちょ。」
177pinksaturn:2006/11/19(日) 10:49:01 ID:k/adcFt30
(麻酔科集中監視室)

麻薬取締官:「ここは見事に合理化されてますね。一人で10件の手術を見るとは。」

麻酔科医:「全自動全身麻酔装置なんで、アラームが無い限りマンガ読んでいられます。
アラームが重なったらちょっと厳しいけど滅多にないですし。ところで、何か?。」

麻薬取締官:「あの1番の娘は、何時間で覚醒しますか?。」

麻酔科医:「急ぎの用件ですか?。手術はじき終わるので苦痛を無視ならすぐにでも。
なるべくなら、10時間くらいはそのまま寝かせてやりたいですけどね。」

麻薬取締官:「別に急ぐわけでは無くて、逃亡可能な時期を知りたいだけです。」

麻酔科医:「まさか。先払いだし、義肢が憑いて一通り訓練するまでは居るでしょう。」

麻薬取締官:「工作員の疑いがあるので、泳がせておいて密かに監視したいんです。
尾行要員の手配にどれくらい時間の余裕があるか知りたかっただけです。」

麻酔科医:「そうですか。だったら逆に覚醒する時刻を遅らせてあげましょう。
2時間なら延ばしても個人差の範囲って事で怪しまれないと思いますよ。」

麻薬取締官:「助かります。では、一旦失礼します。」
178pinksaturn:2006/11/19(日) 10:49:50 ID:k/adcFt30
(”なると”艦橋)

真理亜:「採水施設内の田んぼが出来たそうだから、早速人柱を設置するわよ。
マサ、マオ、ミキの3人でやって来なさい。」

マサ:「ふう、あいつらと一緒に降りるのかぁ...。」

真理亜:「あら、別れが辛いの?。地球に連れて帰りたいの?。」

マサ:「滅相もありません。すぐやってきます。マオ、ミキ行くよ!。」


(”なると”倉庫)

マサ:「カロン採水施設へ設置するため藻舞等を移送する。」

キャサリン:「お前達のためになんか働くもんか。置き去りなら黙って勝手にしろ。」

キャロル:「お前らが立ち去ったらカロンの採水施設なんか滅茶苦茶にしてやる。」

マサ:「どう思おうが勝手よ。だが、田んぼに送られるのは採取した水の5%だわ。
施設の調子が悪くなって水が不足したら命の綱のハイパーコシヒカリが枯れるわね。
そうなったら、酸素と玄米が欠乏して藻前らはお陀仏ってことになるわよ。
こっちは採水の調子が悪くても次の船の補給が少し手間取るだけで大して痛くないわ。
命と引き替えに効果の乏しい仕返しをしたいなら自由にやって良いのよ。
マオ、ミキ、暴れないように腕の神経接続止めたからこいつらを台車に移して頂戴。」
179pinksaturn:2006/11/19(日) 10:50:37 ID:k/adcFt30
(カロン基地上空)

マサ:「そういえば田んぼが出来たって聞いたけど大エアロックはまだだっけ?。」

マオ:「耐圧溶接が面倒だから見かけは出来ていても使えないかも。」

ミキ:「人柱って生命維持が1次相当だから真空にさらせないんでしたっけ?。」

マサ:「体内の予備水を予備電池の電力で電気分解できるから暫くは保つわね。
切換は自動だったかな?。念のため強制リモートで切り替えておいた方が良いか。」

マオ:「そうしておいた方が安心ですよ。」

マサ:「あ、見えてきたわ。ササたちが1号艇でエキシマビーム撃っているわね。
ということはやっぱり大エアロックは溶接の途中だから、まだ使えないな。
とりあえずなるべく近くに降りて真空に晒す時間を少なくしようか。
高度2000b、落下速度秒速10b、4足逆噴射0.2b/秒/秒。
よしちょっとだけ後ろ、戻して...噴射最大、止め、ひと吹き、はい着地。
うーん、後ろ過ぎたか。5歩前進かな。ゾウの気分でよいしょっと、いいわ。」

マオ:「キャサリンの方を降ろしますね。ミキはキャロルを頼むわ。」

ミキ:「え?。見分けが付くんだっけ?。」

マサ:「正式な素体番号は無いけど、近づくとき無線LANのIDは出るでしょ。
IDの数字が小さい方がキャサリンよ。まあ、どっちも同じ人柱に過ぎないけど。」
180pinksaturn:2006/11/19(日) 10:53:46 ID:oscFLo0M0
(カロン基地内採水施設)

マサ:「うわあ、眩しいなあ。日焼けしちゃいそう。厚化粧してこなかったのに。」

知子3世:「確かに壁面の陽光LEDは普通の白色LEDと違って紫外線多いですよ。
だけど、この新人工皮膚”白雪姫”は宇宙焼け対策も良いから変色しませんね。」

マオ:「極低温どころか中は熱帯の暑さですね。地盤の氷が溶けませんか?。」

知子3世:「長い間に沈むのは避けられないわ。だから底板が大きめなのよ。」

ミキ:「なるほど。ドームに比べて無駄に広いと思ったら入り口確保のためか。」

マサ:「トロッコはどこだっけ?。早く人柱を置いてしまおうよ。」

知子3世:「機器搬入の邪魔だから入り口と反対側に停まっています。」

マオ:「あったわ。2柱のどっちをどっちに置いても構いませんか?。」

知子3世:「トロッコの運転は無線LANじゃなく直結だから区別無いわ。」

ミキ:「人柱の底面ソケットをトロッコのピンに合わせて挿せば良いんですね。」

知子3世:「挿したら、動かせるか試させて。メニューは地球で使っていたでしょ。」

マオ:「さあ、キャサリン、ベロマウスで”電車でGO”のメニュー出しなさい。」

キャサリン:「ふん。無視無視。」

マオ:「言うことを聞きません。」
181pinksaturn:2006/11/19(日) 10:55:21 ID:oscFLo0M0
マサ:「しょうがないなあ。おい非人の人柱!。もう餌やりはしてやらないんだ。
これから藻前等は自力でここの田んぼを管理して玄米取らないと飢え死にだよ。
そのトロッコが不良品だったらたちまち飢え死にだぞ。それで良いなら勝手にしろ。」

キャサリン:「ちっ。わかったよ。べろべろ、べろ、電車ね。前進、べー。」

マオ:「ああ、動いた。でも、随分のろいですね。これで田んぼ一周は大変だわ。」

知子3世:「コストダウンのために模型用のDCCをそのまま乗せているのよ。」

マサ:「なるほど。パワーがいまいちなはずだわ。だけど信頼性大丈夫かな?。」

知子3世:「何しろ北米連からの輸入品だから単体の信頼性はいまいちだわ。
でもレールの給電ブースターは並列に余分を入れてるから一部壊れても平気ね。」

マサ:「北米製品か。それが不良で氏ぬんならこいつらも諦めがつくかな。
じゃあ、次、キャロルのトロッコ動かしてみな。」

ミキ:「キャロル、前進しなさい。」

キャロル:「ちぇっ。べろべろ、べろ、電車メニュー、前進、べー。」

マサ:「動いたね。いいわね。これで藻前等は一生そのレールの上で暮らすんだ。
単線のループでポイントもないから喧嘩しても助け合わないと氏ぬぞ。」

キャサリン、キャロル:「ぷいっ、「ふん。こっちの勝手でしょ。」」
182pinksaturn:2006/11/19(日) 10:56:18 ID:oscFLo0M0
マサ:「やれやれ。やっと厄介払いが出来たわ。マオ、ミキ、帰って休もうよ。」

知子3世:「ついでに集めた水を艦に運ぶ電気魔法瓶のテストをして下さい。
工事中の大エアロック内に満タンで置いてあるから、ただ乗せて行くだけです。
着いたときに凍結などの問題がなければ、そのまま補給に使って構いません。」

マサ:「了解。たぶん問題は起きないから雀奴に良いセクース土産が出来たわ。」


(静止軌道工場衛星付近の金星プラットフォーム試作現場)

リエ:「殆どただの鉄板とはいえ、このまま惑星間を移動するのは大変ですね。
どうやって動かしたら良いんですか?。」

華子:「500d入りの水タンクを前後に連結して隕石移動装置で押すのよ。
水ならメインベルト産隕石からもかなり取れるから最近は余っているでしょ。
推進に半分強消費して残りを凍らせ大気圏突入シールドに使おうってわけ。」

リエ:「なるほど。シールドの付け加減が難しそうですね。」

華子:「その通り。溶け具合で空力特性が変わってしまうから操作も難しいわ。」

リエ:「宙軍省からは、私の小隊にとりあえず2週間の護衛を命じてきたんです。
だけど、金星までの移動時間って遙かに長いですよね?。」

華子:「隕石と同じ事で基本的には無人航行なのよ。警備は地球付近だけで十分ね。
プラットフォームを奪っても他国には使い道がないけど政治的な意味はあるから。」

リエ:「確かに惑星間有人飛行は帝国以外殆どやってないから警備は無駄ですね。
テロリストに原子炉を盗まれたらまずいから地球付近だけは付けるって事ですか。」

華子:「そういうこと。これから2月ごとに1基出来ちゃうから宜しくね。」
183pinksaturn:2006/11/19(日) 10:58:43 ID:nt+9WNPo0
リエ:「警備自体はお安いご用だけど、大気圏投入の操作は請け負いたく無いなあ。」

華子:「1基目が浮かぶまでには、20基くらい失敗が出るのは宙軍省も承知よ。
誰に操作をさせるかまだ議論中で、惑星間の移動が終わる頃まで決まらないようね。
とりあえず、条件出しの小型ゾンデ飛行船突入実験は空けられる要員でやるけどね。
”こっそる”が出て工場の手が空いたら、すぐに”さいぱん”の準備をする予定よ。
たぶん、リエの部下からも誰か借りるようになるわね。」

リエ:「特殊な物のリモート操作にたけたサイボーグって少ないですからね。
だいたい、優秀な娘は殆ど冥王星定期航路に取られちゃっているし。
うちも大して筋が良いのは残っていないですよ。うーん、誰が良いかな。」

華子:「みどりは軌道警備に残っていたわよね。」

リエ:「うちに残っている娘の中ではトップですけど、この仕事にはどうかな。
冬子やハルに比べると、リモート系の能力はいまいちなんですよ。
できれば、マサやハルが帰ってきてから始めて欲しいですね。」

華子:「そういえば、5基目が金星に着く頃には”なると”が帰って来てるわね。」

リエ:「あの艦のメンバーなら巧い香具師が多いから動員しちゃいましょう。」

華子:「それも気の毒だから、その前の6基からどれか1基は成功させたいけどね。」
184pinksaturn:2006/11/19(日) 10:59:30 ID:nt+9WNPo0
(経済特区公安省違法薬物取締本部)

弥生:「それで、その者はまだ泳がせているのですね。」

本部長:「はい。薬物の検出が出来ていないので今は密かに監視するしかないです。
昨日、義足の訓練を終えて退院したので、間もなく出国すると思われます。」

弥生:「それでは念のため、各大使館にトランスポンダ番号の手配をかけましょう。
出国が確認できれば、行き先が友好国なら入管に要員を待機させて識別できます。
入国を許可するかどうかはその国次第ですが、事情を教えればたいてい拒否します。
追い返されるようではその時点で任務失敗でしょう。満漢なら処分されますね。
非友好国に行って悪さをするぶんには、放置で構いませんね。」

秘書:「ターゲット移動の報告が入りました。」

本部長:「ふむ。空港でなく港に向かったか。」

弥生:「港ねえ。今日の出航予定は...うん、アイランドループか。」

本部長:「そこらの島国を巡る循環高速船ですから、どこへ行くか読み辛いですね。
薬物も途中から乗り込んだ仲間から渡されるのなら我々は手出しできません。」

弥生:「経路に友好国も3つあるわ。先日似た手口の工作員が摘発されたB王国もね。
でも、一度捕まったところにまたしつこくは来ないかな?。捕まったの知らないのか。
成果が上がらないのでテコ入れに行くつもりなのかも。ま、今度来ても門前払いね。」
185pinksaturn:2006/11/19(日) 11:00:18 ID:nt+9WNPo0
(”なると”からカロンに向かう降下艇)

マオ:「これで水の輸送も3便目か。どうやら人柱どもも真面目に働いているようね。」

ミキ:「やらなきゃ飢え死にだからね。あいつら執念深いから復讐は諦めないわ。」

マオ:「ところで、超音波ブレードは持ってきたわね?。」

ミキ:「当然だがや。何のためにこんな衣装で輸送任務を引き受けたと思っとるがね。
そもそも、今回の主役は私だよ。あんたは前回しくじったから引き立て役やるのよ。」

マオ:「いつそんなことを決めたのよ!。勝手な。」

ミキ:「これ http://pinksaturn.fc2web.com/miki-yuusyoukinen.htm 見てみなよ。
あんたは、前の転倒片腕脱落事故のイメージ引きずって技が小粒になっとるがね。
あれじゃ、永久に私には勝てないわ。私は人気急上昇でストーカーまで憑く勢いだし。」

マオ:「トップ絵ごときでいい気になりなさんな。あんた最近太めじゃん。
それじゃあジャンプが鈍くなるわよ。かわいさとジャンプ力で私に敵うもんですか。」

ミキ:「太めなのは耐寒性能上げるため人工皮膚を厚めに作らせたからよ。
カロンの寒さではその方が関節の動きがよくなるから却ってジャンプもうまく行くのよ。」

マオ:「もうじき着陸だね。おや?。1号艇がまだ停まっているわ。どうしたのかな。
向こうは珍しく理美が担当していたわね。この機会にドーム見学でもしてるのかな。」

ミキ:「いくら普段留守番が多いからって、あの娘は油売るような性格じゃないわ。
何か問題があって、水の積み込みがうまく行っていないのよ。」
186pinksaturn:2006/11/19(日) 11:05:16 ID:vYw1cRmT0
(カロン基地内採水施設)

マオ:「遅れているようね?。なんか、トラブルでもあったの?。」

理美:「井戸が深くなったので、凍結防止用に送る高圧蒸気の調整が必要だったんです。
不慣れな人柱がしくじったみたいで、先端の方が凍結しちゃったみたいなんですよ。
ハルさんが機関長と連絡とりながら修復したんだけど汲み上げ量の回復待ちが必要です。」

ハル:「さっきまで出が悪かったから、電気魔法瓶が一杯になるまであと1時間かかるの。
そっちの分は、それから入れ始めたら手動で無理矢理ペース上げてもさらに2時間かな。」

ミキ:「そんなんでこの先人柱だけになったら大丈夫かな。すぐ水不足で氏んだりして。」

ハル:「機関長の話だと、もっと時間がかかってよければ人柱だけで対処できたんだって。
あいつらは原子炉の調整権限が狭いから、思い切った出力引き上げが出来ないそうなの。」

マオ:「3時間待ちか。おかげでたっぷりスケートやる時間が出来たわね。」

理美:「あ、アイスショウですか。見たいなあ。直接見るのは初めてだわ。」

ミキ:「予備の超音波ブレード持ってるから貴女達も滑らない?。」

ハル:「良いですね。だけど、足を改造しなくても付けられるんですか?。」

マオ:「私らは技がやりやすいように改造してるけど、普通の足首関節軸でも付くわよ。
関節の軸受け塞いでるネジ込み蓋開けて、代わりにブレードの固定ボルト差し込むの。」

理美:「スケートって初めてなんです。いきなりカロンでなんて大丈夫かな。」
187pinksaturn:2006/11/19(日) 11:06:09 ID:vYw1cRmT0
(カロン基地前の氷原)

理美:「あら。全然難しくないわ。少しは転ぶかと思ったのにいきなり出来てる。」

マオ:「そりゃそうよ。宇宙に出るときはジャイロスタビライザーが入ってるもん。
地上生活用の機器構成ならいくらサイボーグでも油断したら転ぶけどね。」

ハル:「昔、マサさんがやったみたいに他人の運動データをコピーすれば別ですね。」

理美:「えーっ、それじゃあ苦労してものを憶える楽しみが無いじゃないですか。
サイボーグだからって、そんな機械人間になりきるようなことしちゃいけないわ。」

ハル:「あの人は隠れてズルするために徹夜でビデオからデータの変換をやったのよ。
方向が違うだけで、ちゃんと努力もしてるわ。それも人間性なのよ。」

ミキ:「でもズル無しでいきなりそれだけ滑れるなら理美は筋が良いわね。
貴女は本当に天才かも知れないわ。帰ったら私らのアイスショウ手伝わない?。」

理美:「え、初心者がそんな...無理です。あ、そろそろ採水が終わりますね。」

マオ:「そう言わずに考えておいてよ。さて、私らは販売用のビデオ撮りやろうか。」

ミキ:「よーし。本気出すわよ。」

マオ:「主役は譲らないわよ。」

ミキ:「頑張るのは自由だけど、前みたいにこんなの http://pinksaturn.fc2web.com/miki-yuusyoukinen.htm#mekabare は無しよ。」
188pinksaturn:2006/11/19(日) 11:08:21 ID:vYw1cRmT0
(B王国 首都の港 岸壁の入国管理所)

帝国大使館・情報収集担当書記官:「あ、ヒットした。こいつ手配者ですよ。」

入国管理官:「貴女は入国拒否です。船に戻りなさい。」

孫:「そんな、何故ですか。」

入国管理官:「不審者手配リストに載っている特徴に一致します。戻りなさい。」

孫:「何もしていないのに。ひどいじゃないですか。」

入国管理官:「これからやるつもりだという疑いがかかっています。退去しなさい。」

孫:「(苦。我推定島嶼巡回高速船内人民党監視員潜伏。帰船即任務失敗確定発覚。
一族処刑不可避。現状最善選択肢単身逃亡也。監視員始末必要。監視員誰?。
判別方法不明...。)恨みますよぉ。こんな酷い国には二度と来ません。ぷいっ。」
189pinksaturn:2006/11/19(日) 11:12:47 ID:K4cZu4NN0
(アイランドループ船内)

パンク男:「へい、彼女!。イカス手足してるじゃん。やっぱ最近流行の帝国製?。」

孫:「(疑念。此奴監視員?。一見外人風。西域満漢人外人判別困難。油断不可。)
まあね。あんた、何人?。北米?西欧?」

パンク男:「一応北米人さ。太平洋の離島育ちで本土に住んだことはないけどよ。」

孫:「北米連かぁ。最近大変ね。」

パンク男:「別にぃ。俺の島は関係なかったぜ。食い物も普通にあるし。
ただよお、愛国主義者みたいのが道徳とか言って威張りだしてよお。うざいんだなあ。
俺みたいなモヒカンとか入れ墨やピアスにまでがみがみ文句言うバカが増えてな。
人体改造なんて別に自分の体なんだからぁ、みんな好きなようにしたって良いじゃん。」

孫:「(単純軟派?。一応利用検討。)ねえ、暇なら足に燃料入れるの手伝ってよ。
一応自分でも出来るけどやるときの姿勢が苦しいんだ。」

パンク男:「おう。ヒマヒマ。そういう足がどうなってるか見たかったんだ。」

孫:「(興味津々也。一発姦淫意志剥奪可能。対監視員盾要員確保。)
そんじゃ、お願い。船室まで付き合ってね。」
190pinksaturn:2006/11/19(日) 11:13:35 ID:K4cZu4NN0
(船内食堂)

船内ラーメン店員拉麺男=人民党監視員:「孫依然在船。当然任務放棄。電話報告。
イ尓好。当方監視員xxx号。孫工作員未上陸確認。任務放棄認定。処置伺。」

監視員司令所:「当然殺処分。部外者不識希望。深夜船上抹殺海洋投棄最良。」

拉麺男:「承知。」


(孫の船室)

パンク男:「へええ、太股内側のねじ込み蓋を抜いてエタノール入れるんだ。
ねえ、この足外せるの?。どうやって外すの?。外して見せてよ。」

孫:「お願いを聞いてくれる?。そしたら、足外した状態で淫らせて上げるわよ。」

パンク男:「何でも聞く!。」

孫:「誰かに命を狙われている気がするの。助けてくれないかな。」

パンク男:「なあんだ。そんなことか、オレ喧嘩強いからお安いご用だぜ。」
191pinksaturn:2006/11/19(日) 11:14:39 ID:K4cZu4NN0
(深夜の甲板)

パンク男:「ねえ、あんたの目的地ってどこなの?。」

孫:「行くつもりだった島で上陸を拒否されて、あてが無くなっちゃった。
おそらく、私を追っている悪者が手を回したのよ。」

パンク男:「だったら、悪者をやっつけてからオレの島に行こうよ。」

孫:「(薬物効果十分模様、此奴潜伏先利用)それもいいわね。」

拉麺男:「孫也。襲撃機会。撲殺即海洋投棄。邪魔者一名。為時間節約、巻添殺必要。
検討...。結論、風来坊一名行方不明無問題。処刑実行優先。唖猪ーーー!。」

孫:「(殺気!。回避。)誰!。」

パンク男:「ゴルァ!。お前か、この娘を狙う悪者ってのは。ボコにしてやる。」

拉麺男:「唖猪唖猪唖猪。(苦、独活大木撲殺手数大也。)」

パンク男:「いててて。やったな、このやろう、絞め殺してやる。うがー。」

拉麺男:「唖猪唖猪唖猪。(苦、打撃効果小。絞技応酬応戦。)絞!。」

パンク男:「ぐっ。先に絞め殺してやる。うううう苦し...。」

孫:「(監視員抹殺専門家。北米男不利。衆目誘致有利)きゃー、誰かあ。」
192pinksaturn:2006/11/19(日) 11:16:55 ID:lnn+KoBu0
拉麺男:「(苦、至急決着必要。絞殺集中。)絞!。」

孫:「(監視員絞殺夢中。背後蹴技機会!)ピンヒールキーック!。」

船内警備員:「何ごとです?。喧嘩ですか?。」

拉麺男:「絞!...苦!。(激痛。不覚。金属義足蹴技威力絶大。肋骨亀裂。
衆目不都合。一旦退散。後日再襲撃。海中飛込決意。)跳躍!...」

孫:「暴漢に襲われた私を助けようとしてこの人が首を絞められました。」

船内警備員:「大丈夫ですか。うわ、白目剥いてる。おい、あんた...。」

パンク男:「うーん、このやろう、じたばた。」

船内警備員:「お、生きている。水音がしたね。犯人は海に飛び込んで逃げたか。」

パンク男:「うう、ぷるぷる。あ、犯人は?。」

孫:「海へ逃げたわ。ありがとう、あなたのお陰で助かった。」

パンク男:「喧嘩は強いって言っただろう。どんなもんだ、撃退したぜ。
悪者に追われて行くところがないならオレの島に行かないか?。」

孫:「(此奴之島北米連領。基地存在期待。機密知識売込保護要求。)そうね。」
193pinksaturn:2006/11/19(日) 11:17:48 ID:lnn+KoBu0
(金星周回軌道 プラットフォーム設置実験任務中の”さいぱん”)

奈々:「今日のところはお試し用のゾンデだから、気楽にやって良いのよ。」

みどり:「そりゃそうですが、全敗だったら後でお姉ちゃんに笑われますよ。
そうかと言って、半分以上成功したら本番1号機もやるんですよね。
あんな大きな施設ロスしたらやっぱり負い目になるから気が重いです。」

奈々:「ま、良いじゃないの。失敗にペナルティ無しで成功ボーナスのみだし。
さあ、液体窒素の吹き付けが済んだわ。始めて頂戴。」

みどり:「ふう。じゃ、始めますよ。リモートリンクプロトコル起動。応答確認。
仮設バーニア点火。ゾンデ減速率0.01`b/秒/秒。突入1時間前...。」

奈々:「さて、船外作業班、失敗前提で2個目にアイスシールド被覆始めて。」

みどり:「うう。期待が薄いのも良いような悔しいような。」


(6時間後)

みどり:「...5号ゾンデ底面温度100度。氷消失、逆噴射点火。対気速度M4。
M3、M2、予備パラシュート放出。速度M1.2、M0.8、メインパラシュート放出。
底面温度600度。トップカバー投棄、気球ガス注入開始....速度300`、
気球膨張完了、落下速度20`、落下停まりました。浮いてきます。計測器動いています。」

奈々:「何とか3勝2敗になったわね。手ぶらで帰らずに済むわ。」

みどり:「えーっ、本番やるんですか?。1号ゾンデは浮いたけど計測器が壊れましたよ。」
194pinksaturn:2006/11/19(日) 11:19:13 ID:lnn+KoBu0
奈々:「あれは氷が薄すぎたせいでしょ。貴女の操作に問題はなかったわ。
どうせダメもとの計画なんだから、本番だってやってみることに意義があるのよ。
じゃ、みどりは明日の突入操作に備えて重力ブロックでしっかり寝ておきなさい。
船外作業班は1号プラットフォームにに氷付けて。10時間後に突入実験よ。
氷の厚みは一番良かった3号ゾンデの条件を拡張して先端部2bで行きましょう。」


(10時間後)

みどり:「前部外付け固体推進器点火。プラットフォーム減速率0.008`b/秒/秒。
大気圏突入まで80分。固体推進器燃焼終わり。投棄...」

奈々:「減速のGによる歪みは予想より小さいわね。」

みどり:「予想値は氷で包まれたことによる補強効果を除いてますからこんなものです。
問題は氷が無くなった後の高温で落下傘や気球に引っ張られたときの変形でしょう。」

奈々:「結構癖が読めてるじゃないの。案外、1基目で成功しちゃうかも。」

みどり:「もうヤケです。結果がどうなろうと知りませんよ。さて、大気抵抗来たな。
底面中央部温度まだマイナス170度です。氷が保ちすぎて低くならないと良いけど。
だいぶ溶けてきたかな。先端底面0度超えました。急速上昇中。逆噴射始め...。
対気速度は順調に落ちてますが、落下速度が大きいです。中央部の氷が余分なんだわ。
速度M3、落下大きいので予備パラシュート無理矢理出しますよ。よし効いたわ。
続けてメインパラシュート放出。何とか持ちこたえています。速度300`。
気球ガス注入...大きいから遅いな...早く膨らめよぉ...停まったわ。
プラットフォーム上の監視カメラ出します。映像来ました。あ、こりゃダメだわ。」
195pinksaturn:2006/11/19(日) 11:21:16 ID:k/adcFt30
奈々:「うーん。超音速でパラシュート出すしかなかったから無理な力が掛かったわ。
だけど、よくパラシュートが保ったわね。高温になっていると鉄の方が弱いとはねえ。
浮くには浮いたけど補強の梁が曲がっちゃって鉄板の着陸床がよれよれかあ。」

みどり:「これじゃあカプセルで降りたら転げ落ちて氏んじゃいます。失敗でした。」

奈々:「まあ、でも浮いたんだから引き分けね。設備はどれくらい生きてるかしら?。」

みどり:「あちこち壊れています。太陽電池は1/4しか機能しません。
推進プロペラ動かしてみますね。あーあ、1基しか動かないわ。気流に流されますね。
水耕水槽は割れていないわ。一応炭酸同化は出来ますね。水を補給にいけないけど。」

奈々:「今回は地上に落ちて溶けないだけで上出来よ。成功成功、さあ帰ろうか。」

みどり:「あとちょっとで大成功だったのに、悔しいわ。」
196pinksaturn:2006/11/19(日) 11:22:50 ID:k/adcFt30
(冥王星ーカロン重力均衡点の”なると”船外)

知子3世:「オーライ、オーライ。はいそこで停止。理美、ヴァギナルハッチ空けて。」

理美:「おっぴろげ。オープン。」

知子3世:「ハル。2号降下艇2b上昇、正確にね。理美、魔法瓶のノズル入るわよ。」

ハル:「ぴったり填りました。圧送かけます。」

理美:「あひ。あうあう...キター...はあはあ。」

ハル:「これで2700d満タンですね。」

知子3世:「人柱がしっかり働くようになって助かったわね。」

ハル:「あいつらも、まだ飢え氏にしたくはないらしいですね。」

真理亜:「さて、本国の指示通り降下艇と重機2機をカロンに置いて来ないとね。
置いてくるのは、整備状態からすると1号艇と3,4号機が良いかしらね。
マサ、ハル、マオ、ミキの4人でやって来なさい。」

マサ:「置き場所は、カロン基地ドームのエアロック前で良いですね?。
あ、ところで魔法瓶はどうしますか?。」

知子3世:「エアロック内ならドームの熱が伝わるから絶対氷に埋もれません。
それに戸締まりが出来るから、中の方が核物質の管理上も好ましいでしょう。
魔法瓶は空なら軽いから重機と一緒に乗せていっても積載超過にはなりません。
置き場所はやはりエアロック内が良いでしょう。念のため2号艇は補給して下さい。
満載で降りて帰ってくるとなると推進剤がぎりぎりになります。」
197pinksaturn:2006/11/19(日) 11:23:41 ID:k/adcFt30
真理亜:「こんな遠いところに部外者が来るとは考えられないけど一応そうしようか。
うん、エアロックに入れておいて。あとは、4人が帰ったらすぐ帰還するからね。
他の者は全員で発進に備えて艦内の高加速対応状況を点検しなさい。」

マサ:「それじゃあ重機を降下艇の荷台に置くから4号機はハルがやって。行くよ。」


(”なると”艦橋)

真理亜:「さて、4人の帰還待ちの間に本国に報告送るか。あら、向こうから来てる。
なになに、金星プラットフォームの設置が難航しているからなるべく早く帰れとね。
手伝いに動員されたら帰ってすぐ地上には降りられないか。誰にやらせるかな。
マサは思いっきり文句出そうだな。まあ仕方ないか。」

マサ:「ただいま戻りました。さあ早く帰って遊びましょう。」

真理亜:「早く帰るのは大いに結構なんだけどね。休養入りはちょっと遅れそうよ。」

マサ:「えーっ、どういうことです?。」

真理亜:「金星のプラットフォーム設置作業がね、余りうまく行ってないのよ。
リモートで大気圏突入させて浮かべるのが難航していて、早く帰って手伝えだって。」

ハル:「誰か軌道警備に残っている娘で巧いの居ませんでしたっけ?。」

真理亜:「みどりが1基浮揚に成功したけど、熱と急減速のGでよれよれになったわ。
プラットフォームが酷く変形して降下カプセルが降りられそうにないくらいにね。
その後条件を変えてやった2基は突入時の熱や高度下げすぎで燃えて落ちたわ。」

ハル:「みどりはリモートの腕前がいまいちなのよね。あいつじゃしょうがないか。」
198pinksaturn:2006/11/19(日) 11:25:40 ID:svnBVHae0
マサ:「そりゃ、腕前の問題かな?。氷が薄けりゃ突入の摩擦熱で保たないでしょ。
逆に厚すぎたら溶けるのが遅れて気球の展開高度が低くなって気温でやられますよね。
厚みをいくら加減したって、あの巨体じゃそもそも両立する条件が無いのかもね。
別の方法が要りますよ。」

真理亜:「別の方法?。」

マサ:「ええ。例えば、別の氷塊でも突入させてスリップストリームに入れるんです。
そうすれば、プラットフォームのアイスシールドを薄くして逆噴射を早くできます。」

真理亜:「なるほど。マサとハルでやれるかな?」

ハル:「みどりのしくじった尻拭いだし、私は当然手伝いますよ。」

マサ:「工場衛星に寄ってると余計時間かかるから、”なると”で直行しませんか。」

真理亜:「金星までは減速の軌道をずらせば行けるけど帰りの推進剤はどうする?。」

マサ:「別の艦で運んできて貰えないかな。どうせ、資材を運ぶ艦を出すんでしょ。」

真理亜:「それもそおねえ。こっちは遠いんだから、2ヶ月は節約できるわね。
その通り要求してみましょう。先に行って余分の氷塊も作っておくようにってね。」

マサ:「スリップストリームで摩擦が減った分、逆噴射エンジンの増設も要ります。」

真理亜:「その工事もやっておくように伝えるわ。さて、さっさと発進しようか。
理美、加速始めて頂戴。」

理美:「原子炉出力上げます。推進剤電離開始、グリッド通電。」
199pinksaturn:2006/11/19(日) 11:26:20 ID:svnBVHae0
知子3世:「メインエンジン応力計測値OKよ。補助蒸気推進器いつでもどうぞ。」

理美:「原子炉出力110%、推進剤補充注入開始、過熱水通路開放。」

真理亜:「加速来たわね。予定通り、1時間の高加速警戒体制維持。」


(半年後)

マサ:「そろそろ、2番艦”こっそる”とすれ違う頃ですね。挨拶ぐらい出来るかな。」

真理亜:「最接近時の距離は近いけど速度差が大きいから、音声通話は無理かもね。」

マサ:「パケット通信は送ってみましたが、...あ、これって、返信の電波か。
さすがにドップラーシフトが目立ちますね。やっぱり、蓄積再生しか無理かな。
内容は、...結局簡単な挨拶だけか。」

真理亜:「金星の工事準備状況について本国からの伝言入ってないかな?」

マサ:「いいえ。寄り道ご苦労様、大変ですね、とだけです。」

真理亜:「ま、何も言ってこないならちゃんと進んでるんでしょ。」
200pinksaturn:2006/11/19(日) 11:27:17 ID:svnBVHae0
(金星周回軌道 先行した”さいぱん”)

奈々:「よし、この軌道でプラットフォームとの位置関係を固定よ。工事始めて頂戴。」

みどり:「プラットフォーム先端に逆噴射用の固体ロケットを増設するんですよね。
高度が下がりすぎる前に減速して気球を開く意図は分かるけど氷はどうするんでしょう。」

奈々:「氷だけの塊を先に落としてそのスリップストリームに入れる気らしいわ。
その代わりプラットフォームのアイスシールドを薄くして破りやすくするのね。
直径40bの氷塊を別に送ってきているでしょ。あれを使うのよ。」

みどり:「そんな、編隊飛行みたいな状態で大気圏突入なんか出来ますか?。」

奈々:「難しそうだけど、”なると”の面々の腕前ならあるいは成功するかもね。
先端の大型ロケット以外にも姿勢制御エンジンを増強しておけっていうからね。
そんなに一人で制御できないから、何人かで分担して操作するつもりかしら。」

みどり:「お姉ちゃんもやるのかな。悔しいけどこういうことは敵わないわ。」
201pinksaturn:2006/11/19(日) 11:31:05 ID:duFpptFn0
(数週間後)

理美:「対金星速度秒速11`。補助蒸気推進器使用終了します。」

真理亜:「針路、推進剤残量は?。」

マサ:「針路このままで衛星軌道に乗れます。推進剤残り250d。」

真理亜:「メインエンジンは引き続き最大出力を保て。姿勢0.3度東に。」

マサ:「金星の第2宇宙速度ちょうどです。」

理美:「前進バーニア噴射。100%、12秒。」

マサ:「金星の重力に捕らえられました。」

真理亜:「メイン止めて。あとはバーニアでちびちび合わせましょう。」

理美:「メインエンジン停止。回頭始めます。ジャイロ旋回中。止めます。
船体軸線軌道接線に合いました。後進バーニア20%、28秒。」

みどり:「”なると”金星の衛星軌道に乗りました。会合まで60分です。」

奈々:「さすがに空っぽだと減速早いわね。真理亜、遠いところご苦労様。」

真理亜:「奈々侯、お久しぶりです。そちらこそ準備工事ご苦労様です。」

奈々:「ちゃんと注文通り仕込んで置いたわよ。ところで補給はすぐやる?。
こっちは満載で来たから、ヴァギナルハッチ直結で500d出せるわよ。」

真理亜:「会合し次第お願いします。」
202pinksaturn:2006/11/19(日) 11:32:17 ID:duFpptFn0
奈々:「オッケー。船外作業班、ヴァギナルハッチにジョイントホース挿して。
操舵員、ヴァギナルハッチ空けて待機。」

”さいぱん”操舵員:「はい、ぱくりんこ。早く入れて!。うっ、入った。」

真理亜:「理美、落ち着いて合わせるのよ。」

理美:「船体背面姿勢にします。”さいぱん”まで100`、速度差0.6`。
後進10%15秒、...残り40`...残り5`、速度差秒速0.07`。
後進5%2秒...微調整...速度差無し、直下で対向しました。」

真理亜:「ヴァギナルハッチ空けて、そろり下降よ。」

理美:「開けました。上部バーニア5%0.5秒。距離10b...あっうう。
ジョイントホース填りました。」

奈々:「良いようね。操舵員、潮吹き始め!。」

”さいぱん”操舵員:「自慰体感イメージ再生...潮吹き出ました。」

理美:「あっ、来ました。はあはあ。液が入ってきます。ううううう...。」

みどり:「推進剤移動量、現在300d、...450d。」

”さいぱん”操舵員:「自慰打ち切りイメージ再生...潮吹き停まりました。」

理美:「補給バルブ閉鎖。船体離します。下部バーニア5%、0.5秒。
うっ、抜けた。上部バーニア5%0.5秒噴射。ランデブー維持します。」
203pinksaturn:2006/11/19(日) 11:33:13 ID:duFpptFn0
真理亜:「ご苦労さん。準備状況の確認打ち合わせは私と奈々侯でやっておくわ。
マサ、ハル、理美は、明日の操作に備えて重力ブロックで完全休養のこと。」


(翌日)

真理亜:「手順の確認は良いわね。それで遠隔操作の分担なんだけど考えてある?。」

マサ:「ええ、先行する氷の操作はハルに任せるのが良いでしょう。
プラットフォームの方は、第二列と第三列のバーニアを理美、残りを私がやります。
そして前部大型固体ブースターの点火は理美にやって貰いたいと思います。
やり直しや中止が効かないので、最初の冥王星探検の経験分いくらか有利ですからね。」

理美:「でも、あの時はあらかじめ十分計算された軌道計画に合わせるだけでしたよ。
状況を見て臨機応変に対処したわけではありません。」

マサ:「今度も固体ブースターの点火タイミングは事前計算で行くから同じ事よ。
先行する氷が作る空気の渦なんかによる乱れは、バーニアで補うしかないからね。
第2,3列は主に姿勢と横ズレの修正だから操舵員の方が得意だしね。
前後のバーニアは大気抵抗差に応じて氷塊につかず離れずを保つから誰でも難しいわ。
しょうがないから、案を考えた私がやります。どうせしくじっても罰はないしね。
あとの、パラシュートや気球の展開は高高度で減速し切っちゃえれば楽勝よ。」

真理亜:「なるほど。それでいいわ。じゃあ、始めて頂戴。」

マサ:「よし全員リモートプロトコル機動。相互モニタリンクも張るのよ。
いいかな?。じゃ、減速開始。シールド外仮設バーニア点火!。出力65%。」

ハル、理美:「シンクロよし。バーニア点火。」

マサ:「うん、揃ってるな。いけそうだぞ。」
204pinksaturn:2006/11/19(日) 11:35:01 ID:VGaKpIOs0
ハル:「氷塊、上層大気抵抗受け始めました。」

マサ:「うん、距離詰まりだしたな。仮設バーニア全開、離れるな。ダウン5%。
振動起きてるね。理美、横揺れ押さえ込んでね。」

理美:「はい、まず前右上8%、次、後ろ左5%...戻りました。」

マサ:「渦でいくらでも揺れるから独断でがっちり抑え続けるのよ。」

理美:「やってます。うう、忙しい。保って頂戴...。」

ハル:「氷塊のバーニア焼失。自由落下に移りました。あとは合わせて下さい。
直径20bに縮小。5分ほどで溶けきりますね。」

マサ:「大型固体ブースター点火タイミング同期始めて。」

理美:「10秒前、9,8,..点火。」

マサ:「少し前を下げて。」

理美:「8度で良いですか。」

マサ:「うん、そんなもんでいいよ。プラットフォーム前縁温度120度。
速度マッハ5か。落下角度減ってきたな。いいぞ。もうちょいだ。マッハ3.5。
あと少し保ってくれ。」

理美:「固体ブースター燃え切ります。」
205pinksaturn:2006/11/19(日) 11:35:53 ID:VGaKpIOs0
マサ:「よし、前部バーニア全開。理美は姿勢維持頼むよ。」

理美:「何とか持ちこたえてますが、緩くピッチングが生じてます。」

マサ:「マッハ1.5。もうチョイで予備パラシュート出せるから頑張って。」

理美:「ヨーイングも出てきました。もう限界です。」

マサ:「わかった。もう大丈夫だろ。予備パラシュート展開。よし、衝撃軽いぞ。
やった。音速を切った。前縁温度300度なら変形はないな。」

理美:「速度マッハ0.3。もう、メイン良いんじゃ?。」

マサ:「高度は十分だ。よし、メインパラシュート展開。」

ハル:「外気温−10度超えました。そろそろ止めましょう。」

マサ:「よし、気球ガス注入。...落下速度80`切ったな。保ったよ。」

真理亜:「とりあえず浮いたわね。各部点検やって。」

理美:「監視カメラ一巡させます。目立つ変形はないですね。温度も下がってます。」

ハル:「太陽電池各系統機能しています。推進プロペラ展開します。動きました。」

マサ:「水耕施設破損無し。付属実験室、気密良好。どうやら使えそうですね。」

真理亜:「よくやったわ。ご苦労さん。」

マサ:「でも、あそこに誰かが降りて作業するんでしょ。降りるの怖いなあ。」
206pinksaturn:2006/11/19(日) 11:37:33 ID:VGaKpIOs0
真理亜:「プラットフォームの広さは十分だからよほどへましなければ外れないわ。
それに、ここで使うカプセルには非常用の浮揚気球展開装置だって憑くのよ。」

マサ:「でも、高度が下がりすぎてからじゃ手遅れになりますよ。」

真理亜:「そおねえ、初めは無人カプセルのリモートで練習が要るかな。」

マサ:「地上に降りたら絶対に脱出は無理ですよね。」

真理亜:「気球やロケットが耐えられる温度じゃないから上がる手段がないわ。
液体窒素で思い切り冷やして悪あがきしても2時間ほどでカプセル内は生存不能ね。
まあ今回は藻前が降りなくても良いから安心しなさい。さ、帰ろうか。」

奈々:「ご苦労様。早速無人カプセルの降下テストを始めるわ。」

みどり:「カプセルぐらいなら私だって。お姉ちゃんに負けっ放しはなしよ。」

真理亜:「我々はすぐに地球へ帰還します。それでは、お先に。理美、出して。」

理美:「原子炉出力上昇。40%。メインエンジン始動します。」

マサ:「今度こそ休養入りできますね。」

真理亜:「まあね。でもその次はまた冥王星方面で氷集めかな。」

マサ:「金星可住化って1000年かかるんでしょ。この生活が一生続くんですね。」

真理亜:「どうかな。もっと難問が持ち上がって大変になったりして。」


(極低温世界から灼熱の金星へと今回は過酷な旅でした。孫工作員にはもう1発大きな悪行をさせたかったのですが、手術に手間取りすぎました。
観測拠点が出来て、いよいよ金星への氷投下作戦が始まります。それとは別に、マサ達には難問?が持ち上がる予定です。次回予告(33)金星冷却作戦)
207pinksaturn:2006/11/19(日) 12:48:20 ID:VGaKpIOs0
>> 145
manplus様 レーシングガール第一部完成おめでとうございます。
今後の構想、どれも禿しく妄想をかき立てられますね。
瞳が勝ちすぎたせいでレギュレーションが改正されてしまい、再改造が必要になる。
新たな条件で勝つため操縦系に性感を使うことになり、悶えながら事故らずに走るための特訓をやるとか。

そろそろ、杏奈も再登場でしょうか。
社長の受注活動を助けるため、顧客に合わせてたびたび小改造をやるとか。
会社に潜入した産業スパイを罠にはめて防衛省納入用の素体にしてしまうとかいうのはどうでしょう。
企業ものらしく秘書機能をフルに発揮して乗っ取り合戦に勝つところなども見たいですね。

>> 158
バニーはやらなかったけど、古堅部長のイメージ壊れまくっていますね。

>>147 >>164
この世界ではフラワーリングぐらいできないかな。
手に入れたとしてもヤギーだけは何か別の理由で失敗しそうですけど。
208名無しさん@ピンキー:2006/11/20(月) 23:17:16 ID:rG2ho0cu0
>>164

パラパラと雨が降ってきた。このところ金欠なので、目一杯バイトを詰め込んだ毎日が続いてる。今日もバイト
で帰りがこんなに遅くなっちゃった。天気予報によれば夜から雨が降り出して、夜中過ぎには雪に変わるらしい。
今年一番の寒さになるだろうとも言っていた。私の身体は暑さ寒さには鈍感だ。今だって、暑いのか寒いのか体
感ではゼンゼン分からない。気候に合わない厚着や薄着で目立ったり恥をかいたりしたくないから、出かける前
には天気予報を必ず確認する。この身体になってすぐに身についた習慣だ。雨に濡れても風邪をひくようなこと
はないけれど、コートを濡らしてしまうと後の手入れが面倒だよ。本降りにならないうちにはるにれ荘に着くよ
うに足を速めようとした。

にゃあ。

あれ? 猫の鳴き声がする。今、私がいるのは、はるにれ荘にほど近い小さな公園の中。中央に植えられたひと
きわ大きな木のそばだ。とても立派な枝ぶりだけど、病気か何かで枯れちゃって、近々切り倒されることが決まっ
ているそうだ。枯れ枝が通行人の上に落ちてきて怪我をすることがないように、仮設の柵で囲まれている。その
柵の前に立って耳を澄ませてみる。

みゃああ。

やっぱり猫の鳴き声だ。それも子猫のものみたい。でもあたりを見回してもそれらしい姿はない。普通の人だっ
たら公園のみすぼらしい街灯の光の下で猫を探すなんて無理だろう。でも私の暗い所でもよく見える義眼なら、
昼間と何ら変わらない。

にゃあああ。

不思議なことに、その声は上の方から聞こえてくる。上……?
209名無しさん@ピンキー:2006/11/21(火) 23:45:10 ID:ECEJYgq80
>>208

葉を全て落として枝だけになった大木の、地面から7〜8メートルくらいの所に声の主がいた。太い枝の先端近く
に身を縮めてしがみついている子猫の姿。一体どうしてあんな所に……。自力で降りられなくなっちゃったんだ
ろうか? 空は一面の雨雲で覆われて月明かりもない。街灯の光はあんな所までは届かない。この時間、子猫の
存在に気がつくのは私くらいのものだろう。どうしよう……。

いくら猫でもこの高さから落ちて無事に済むとは思えない。今夜は雪。氷雨に打たれて寒気に晒されたら、子猫
の命がどうなるか。ここは私がどうにかするしかないんだろうか。

自慢じゃないけど、私は木登りは得意な方だ。青森のおじいちゃんの家の庭には大きな木が何本もあった。木の
天辺まで登っておじいちゃんをはらはらさせたのは一度や二度のことじゃない。お父さんは、こんなお転婆では
嫁の貰い手がないって嘆いてた。何を言われようと、木の上から見渡す光景は、子供の私にとって新鮮で不思議
でわくわくする世界だった。

だから、もしもこんな身体じゃなかったら、何もためらうことはなかっただろう。でも。

今の私の体重は120kg。元の身体の3倍近くあるんだよ。子猫がいる枝は太いけど、枯れ枝が私の体重を支えられ
るだろうか。枝が折れるようなことになったら、かえって酷いことになる。登っても大丈夫かどうかの判断が、
今の私にはできないんだ。

ザアァァァァ……

悪いことに雨脚が強くなってきた。そのうち雨が雪に変わるだろう。ここでぐずぐずしていても、何の解決にも
ならないよ。
210名無しさん@ピンキー:2006/11/22(水) 16:59:44 ID:FppigDFq0
>>209
どうやって解決するんだろう。

悩んだ末に子猫に向ってロケットパンチを繰り出すヤギー。
遠隔操作でひゅーっと飛んでく右手をうまく操って、子猫をはっしと握りしめてから巻き戻し。
木の下で待機するヤギー。落ちてくる子猫と右手をナイスキャッチ。

なんてね。
211名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 00:08:42 ID:KG5ViBuj0
>>210 妄想したけど、ヤギーはそんなにカッコよくないと思うんだ。 4レス消費。

どう考えても、あの枝が私の体重を支えられるとは思えない。でも、早くあの子を木から降ろしてあげないと、
この寒さで体温がどんどん下がっちゃう。かと言って、助けを呼ぶあてもないし……。

仕方がない。使いたくはないけど、アレをやるしかないみたい。

サポートコンピューターのメニュー画面を呼び出して、特殊装備「R」を起動する。

義眼ディスプレイの視野の中央に、目盛りのついた十字線が現れる。子猫がいるあたりを注視すると、自動的に
ズーム機能が働いて、子猫の姿が大写しになる。そのまま子猫を見続けていると、視野の隅に赤い文字が浮かび
上がる。

「ターゲット1 ロックオン」

これでよし。

袖を捲り上げて右腕の肘の少し上くらいまでが露出するようにして、子猫に向かってそろそろと差し上げる。そ
のまま、子猫の姿から目を離さないようにして、ボタンを押すイメージを強く思い浮かべる。

ゴッ!!

鈍い響きとともに、私の右腕の肘から先が、子猫めがけて飛び出した。

これが特殊装備「R」ことロケットパンチ。昭和の時代のロボットアニメに出てきた主役メカに装備され、おも
ちゃ好きの男の子達を虜にしたという、伝説の超科学兵器。その作品に関った人たちも、まさか、こんな形で実
現することになるなんて考えていなかっただろう。
212名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 00:18:10 ID:KG5ViBuj0
腕の中には小型のロケットモーターが内蔵されていて、500メートルくらいの距離を自力で飛行する。腕と身体
の間は光ケーブルを編みこんだワイヤーで繋がれているから、飛び出した後も、ある程度のコントロールをする
ことができるようになっている。身体の側には、これまた小型のウィンチが内蔵されていて、ワイヤーを巻き取
る仕組みも用意されている。飛びっぱなしで腕が無くなってしまったら困るもんね。もちろん、光ケーブルを経
由して手を握ったり開いたり、なんていうこともできるんだ。

特殊公務員の人達には、とっても便利な機能……なのかもしれないけど、フツーの生活を送っている私には、な
んとも微妙なものだよね。タマちゃんから、この機能のことを教えられた時は、正直、かなりショックを受けた。
だってさ、こんな機能がついてる身体なんて、それこそ超合金のおもちゃみたいじゃないか。府南病院で受けた
リハビリには、この機能を使いこなすための課程もあったんだけど、その時は、こんな機能絶対使うもんか、っ
て思っていた。

それを結局使う羽目になっちゃった。人生、何があるか分からない。今は、誰も通りかからないのが逆にありが
たいよ。こんな姿、誰かに見られた日には……。でも、「R」はまだしも、「B」とか「S」とか「D」とかを
使う時が来るなんて、想像すらしたくない。

飛び出した私の腕は、今はサポートコンピュータがコントロールして、子猫に向かって正確無比なコースで突き
進む。これで子猫の所まで行ったら、手で子猫の身体を掴んで、そのままウィンチで私のもとに引き戻すってい
う寸法だ。

でも。

なぜか、子猫を狙ったはずなのに、私の腕はコースをそれて、子猫のいる枝を掴んじゃった。

えーーー、なんでーーーorz

そしてウィンチが物凄い音を立てて腕を引き戻そうとする。ウィンチの力で、太い枝がぎりぎりと音を立ててし
なっていく。駄目だ、駄目だよう! これじゃ枝が折れて子猫が落ちちゃうよう!
213名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 00:23:51 ID:KG5ViBuj0
あわてて止めようとしたけど、焦れば焦るほど、ウィンチを動かすモーターの回転音が大きくなるばかり。

ギギギギ……ボキッ!!

とうとう枝が折れちゃった。うわあああーーーー!!!

右往左往しながら、落ちて来た子猫を左手で受け止める。ほっとする暇もなく、折れた枝が私の頭の真上に。

ゴンッ

落ちてきた。

……ったあああああああああ!!!1!

この程度の衝撃でどうにかなる身体じゃないけど、痛みを感じる機能はちゃんとある。きっかり15秒間、目から
火花が飛び散るくらいの激痛が私を襲う。あまりの痛みに朦朧として、子猫を抱えたまま、その場にへたり込む。

にゃああ?

子猫も心配そうに、私の顔を見上げてる。どうやら、子猫は無事なようだ。よかった。よくないけど、よかった。
214名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 00:28:52 ID:KG5ViBuj0
そういえば、私に抱きかかえられているのに、子猫は嫌そうなそぶりをみせていない。子猫を地面に下ろして、
そっと撫でてみる。

みゃあああ。

撫でられて、子猫は嬉しそうな鳴き声を上げる。……私がこの子を助けようとしたことを分かってくれたんだろ
うか? 私のこと、受け入れてくれたんだろうか?

***

翌日から、はるにれ荘にやってくる子猫の相手をするのが、アニーと私の日課になった。予定とは大幅に違った
けど、結果オーライトということか。これも「R」のおかげかなあ。 ちょっとだけ、義体の設計者達を見直し
た私だった。

215名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 00:57:45 ID:aBxrc7wJ0
GJ!
ところで
「B」とか「S」とか「D」って一体何?
216名無しさん@ピンキー:2006/11/23(木) 02:30:06 ID:KG5ViBuj0
何も考えていません。ご想像におまかせしますw
217名無しさん@ピンキー:2006/11/24(金) 00:19:17 ID:YLB41p5z0
>>209

意を決して柵を乗り越えて木に登り始める。雨で滑りやすくなっているから何度も何度も手がかりを確認して、
時間をかけて太い幹を慎重に登っていく。

ようやく子猫がいる枝に着いた時は、もうコートがぐっしょり濡れていた。登る前に脱いでおくべきだったと気
付いたけど、もう遅い。子猫も同じような状態だろう。急がなきゃ。

予想以上の枝のしなり具合に肝を冷やしながら、枝に手をかけて、そろそろと前に進みだす。枝はもってくれる
だろうか? ミシミシと枝があげる悲鳴も、今は無視するしかない。進める限り子猫のそばまでいって声をかけ
る。

みゃああ。

雨に打たれて濡れそぼった姿はとても弱々しく見える。私が手を伸ばしても小さな鳴き声をあげるだけ。私の顔
をじっと見つめながら前足を出しかけては引っ込める。私の手につかまろうか、それとも私から逃げようか、迷っ
ているみたい。

「駄目だよ。それ以上後ろにさがったら落ちちゃうよ。お願いだから私の手につかまって!」

その声に、子猫は前足を一杯に伸ばすけど、私の手には届かない。私もこれ以上前に出たら枝が……
パキッ
もたないよ。でもいつまでもこうしているわけにはいかないんだ。雨に霙が混じっている。私には分からないけ
ど、雪になる直前の凍りつくほど冷たい雨が降っているはず。これ以上ここにいたらこの子の身体は……。

ええい、一か八かだ!
2183の444:2006/11/24(金) 02:59:07 ID:C1jV5oGD0
  ふわり
  まるで魔法で宙に浮いていた身体がソファに軟着陸したみたいに、唐突に私の背中にほどよくクッション
の効いた柔らかな椅子の背もたれの感触がよみがえる。
  まぶたの向こう側にかすかな光を感じて、ゆっくりと目を開けたあと、動きを確かめるように二回、三回と
ゆっくり瞬きを繰り返す。
  私の周りをすっぽり包むように取り囲んでいるのは、蛍の光に似た淡い光りを放つ計器類と、形容し難い
複雑な形状の機械装置。
(あーあ、戻ってきちゃったな)
  私は軽くため息をつきながら、機械装置から伸びて首筋の接続端子に刺さっているプラグを引き抜い
た。ちょっと寒いくらいに調節されたレストラン遥々亭の室温も、部屋の片隅で燃える暖炉の炎の暖かくて柔
らかなぬくもりも、もう感じることはない。さっきまで口の中に入っていたタコ焼きの味もどこかに消えうせた。
今いる場所が暖かいのか、寒いのか、もう分からない。心臓の鼓動も感じない。何もかも正常だ。

  私は今、ちょうど遙々亭から現実世界に戻ってきたトコロ。
  仕事が終わってからの古堅部長との遥々亭での打ち合わせと称する会食パーティーは結局すこぶる盛
り上がらないものだった。
  だって、タマちゃん、古堅部長にお仕置きするなんて物騒なことを口にしたけど、具体的に何をやるかっ
て聞いたら「ふふふ、それは秘密でーす」ってはぐらかすばかりで、ちっとも教えてくれないんだよ。
  その代わりタマちゃんがため息交じりに教えてくれたことといったら、防水防錆コーティングなんていう大
ゲサな名前のついた世にもアホらしい義体用水着を以前古堅部長が開発したこと。しかもなぜか女性用だ
け。そして、その試作品を実験と称して海洋開発事業団の女性に着せて彼女たちの大顰蹙をかったこと。
2193の444:2006/11/24(金) 02:59:54 ID:C1jV5oGD0
  おかげ様で、古堅部長の身に一体何が起こるのか、食事の間中ずーっと気になって気になってしょうが
なかったし、古堅部長って表向きは古堅っていう名前どおりの堅物で会社では通っているくせに実は水着フ
ェチのむっつりスケベなんだって思ったら、もう可笑しくて可笑しくて、笑いをこらえて真面目な顔を作るのに
精一杯。古堅部長は打ち合わせの間ずっと好物のゴーヤチャンプルをもぐもぐ食べながら、イソジマ電工の
開発する義体の何たるかについて、私には理解不能の難しいコトバを駆使してしゃべり続けていたけど私に
はぜーんぶ上の空で、タコ焼きを頬張りながらふんふん適当な相槌を打つだけの私。これじゃ、ロクな会話
が成り立つわけがないよね。
  でもね、何かが起こる瞬間を今か今かと待ち続けていた私の期待を裏切って、結局、遥々亭では何も起
こらなかった。結局、タコ焼きをむしゃむしゃ食べ続け、時折思い出したように部長の相槌を打つだけのひど
く退屈な「打ち合わせ」は、いともあっさりと終わっちゃったんだ。

「おかえりなさい」
  遙々亭から抜け出した私をタマちゃんは笑顔でお出迎え。
  「タマちゃん、結局何も起こらなかったよ」私はそう不満をこぼしかけて、はっと言葉を飲み込む。
  私の視線はタマちゃんの後ろに居並ぶむっさい作業服の男どもに釘付け。
  私たちが遙々亭に入っている間、義体のモニタリングやら、仮想空間の設定をコントロールするのはタマ
ちゃんの仕事。だから、タマちゃんがここにいてもちっともおかしくない。でも、なんで柏木さんや、諏訪さんた
ち開発課の面々までここに勢ぞろいしてるわけ?しかも、みんなカメラ小僧みたいに首からデジカメなんか
ぶら下げちゃってさ。
  なんでなのってタマちゃんに聞こうとしてふと横を見ると、もうタマちゃんはそこにいなかった。いつの間に
か、もう一台の、古堅部長の入っているはずの遙々亭の前でどこから持ってきたのかマイク片手にスタンバ
イ。司会者気取りでコホンと咳払いを一つして、その場の注目を自分に集めたかと思うと、
「では、イソジマ電工が自信を持って皆様にお送りする次世代型義体、CS-30のご登場でーす。みなさん拍
手でお出迎え下さい」
2203の444:2006/11/24(金) 03:00:34 ID:C1jV5oGD0
  遥々亭のほうを振り返りつつ、大げさなアクションでみんなを煽るタマちゃん。タマちゃんのコトバが引き
金になって沸き起こる部屋が割れんばかりの盛大な拍手。
  あの遥々亭の中にいるのは古堅部長じゃないか。なんでここでCS-30が出てくるわけ?
  開発課の人たちも、みんなでカメラをぶら下げて一体何をしようっていうんだろう?
  いろんな疑問が私の頭に浮かんでは消える。何が起こっているのかサッパリ分からず、みんなのノリに
乗り遅れた私は、タマちゃんと開発課の人たちを見比べながらぽかんとするばかり。
  拍手が合図だったのか、お化けひょうたんのような形をした古堅部長の遙々亭が、まるで桃太郎の入っ
ている桃みたいにパカッと二つに割れて、入り口部分が上に跳ね上がる。そして、桃の実にあたる複雑な内
部構造が剥き出しになった。
(ええっ?)
  中の光景に、私は一瞬自分の目を疑う。
  だって、お化けひょうたんの中に備え付けの、よく歯医者さんの診察台に置いてあるような形の椅子に腰
掛けていたのは、古堅部長、ではなく、桃太郎、でもモチロンなくて、綺麗な女の人だったんだ。この遥々亭
の中に入っていたのは古堅部長のはずなのに、いつの間に中の人が入れ替わったんだろう。大掛かりな手
品を見せられたような、何だかとっても不思議な気分だ。
  それにしてもこの女の人、綺麗だけど美人特有の研ぎ澄まされた刃物みたいな冷たい感じはゼンゼンし
ない。そして可愛らしいけど決してあどけない子供顔特有のちょっぴりバランスの崩れた目鼻立ちというわけ
でもない。つまり、整った顔立ちだなあとは思うけど、その他のほめ言葉をなかなか捜しにくい、あまり印象
に残らない容貌。おそらく、彼女がCS-30形の標準義体なんだろう。綺麗だけど余りにもクセのない顔立ち
をしてるってことは、それで説明がつく。
  でも、何より驚いたのは、この人の着てる服。白地に薄いパープルのラインが入った、セパレーツの水着
って、これ、さっきタマちゃんに取り上げられた私の展示会用のコスチュームと全く同じものじゃないかっ!何
でこの人が、こんなコスチュームを着てるわけ?
  私は顔中にはてなマークを浮かべながらタマちゃんの方を見た。
2213の444:2006/11/24(金) 03:12:08 ID:C1jV5oGD0
  すぐに私の視線に気がついたタマちゃんだけど、私に向かっていたずらっぽくウィンクしただけ。
「八木橋さん。まあ、黙って見てなよ」
  タマちゃんの代わりに、作業服姿にカメラを首からぶら下げた柏木さんが、私に近づいてこっそり耳打ち
する。
「これから面白いことが起きるからさ」
  
  タマちゃんに導かれて立ち上がった女の人は、そわそわそわそわ、なんだか落ち着きなさげに周りを見
回してから、ちょっと戸惑い気味に口を開いた。
「これはいったい何の騒ぎだ。お前たち、なんでこんなところにいる?」
  彼女の第一声は、澄み切った声色は女性だったけど、口調はまるでみたいでちょっとびっくり。でも、もっ
と驚いたのは、ぎょっとしたような顔つきで、喉をおさえつつ虚空に瞳を彷徨わせるこの人自身だったみた
い。
「ななななんだ、この声の設定は・・・」
  彼女は、そう呟いたあと、いかにも恐る恐るといったふうにゆっっくりと自分の身体を見下ろす。そして自
分の履いているショーツをぐいっと引き伸ばして上から覗き込む。
  一瞬の沈黙ののち・・・
「なんだーっ!この身体はっ!」
  部屋のドアがびりびり震えるような、彼女の絶叫。
「タマっ!これはいったいどういうことだっ!」
  彼女のコトバを無視して逃げるように、私のそばにやってきたタマちゃん。今度はさあさあ、と柏木さんた
ち開発課の面々を舞台袖に押し出してから、私の方を振り返ってにやりと笑った。ううん、タマちゃんだけじゃ
ない。柏木さんも、諏訪さんも、開発課の人たちみんな、うろたえる彼女の様子を見て、お腹をかかえて大笑
いしてる。それで、なんとなく私にも義体の中の人が分かっちゃった。
「うー、タマちゃん。まさかとは思うけどさ、あの標準義体の中の人ってひょっとして・・・」
「ふふふ、古堅部長でーす。あなたたちが仮想空間に入っている間に、柏木さんに頼んでこっそり部長の身
体を取り替えちゃった」
2223の444:2006/11/24(金) 03:13:53 ID:C1jV5oGD0
 タマちゃんは、頭を抱えながら舞台の上を檻の中の熊みたいにうろうろうろつきまわる水着姿の彼女、い
やいや、古堅部長を、おかしそうに眺めながら今回の作戦を説明してくれた。
「古堅部長には、身を持って八木橋さんの立場を体験してもらうことにしましたそうすれば自分がどんなこと
を言っていたのか理解できるでしょう。開発課のみなさんも大喜びで、この撮影会に参加してくれました」
  そう、古堅部長も私と同じ全身義体。だから、脳みそさえ入れ替えればどんな義体にだって入ることがで
きる。男性が女性型の義体に入って、完璧な女性になりきることだって、法律に触れるから余りよろしくはな
いけど実はカンタンなこと。それで、古堅部長には、さっきのコスチュームを着た女性型の標準義体に入って
もらって、展示会で私が味わうであろう苦痛を嫌というほど体験してもらうって、例のこのコスチュームの採用
をあきらめさせるっていう寸法だね。さすがタマちゃん。あったまイイ!

「じゃ、みなさん、用意はいいですかー?」
「いつでもOK」
  タマちゃんの問いかけに、デジカメを手に持ってうなずきあう開発課の人たち 。
「では、カメラ部隊。撮影準備用意!」
  タマちゃんが軍隊の指揮官さながらに片手を高々と振り上げる。命令を受けた開発課の男どもは、特殊
部隊顔負けの俊敏な動きで遥々亭の前に立ち尽くす古堅部長の周りを取り囲み、下から古堅部長を見上
げるようなカッコでカメラを構える。そして、そのカッコのまま、じりじりと包囲の輪を狭めていく。美女を取り囲
む飢えたる野獣の群れ。たちまちのうちに、さっき見たばかりのギガテックスバニーちゃんの撮影風景が私
の眼の前に再現されちゃった。
「タマっ。これは、お前の仕業か?こんな馬鹿な真似、すぐにやめさせるんだっ!」
  部下たちの全面包囲を受けた古堅部長は、それに怯むことなく精一杯の威厳を込めて怒鳴りつけたつも
りだろう。でもさ、例の透き通った可愛らしい声じゃ、まるで迫力がない。口調と声色のギャップがおかしくて、
私は思わずくすりと笑ってしまう。
「こちら、部長がご自身で考えた展示会用の衣装だそうですが、どうですかー?ご自身で身につけてみたご
感想は?」
2233の444:2006/11/24(金) 03:15:22 ID:C1jV5oGD0
  攻撃の矛先を向けられた当のタマちゃんも余裕しゃくしゃくで、包囲の隙間にマイクを差し込んで古堅部長
に質問返し。
「なっ、なぜ、そのことを・・・」
  ハタ目にも気の毒なくらい狼狽する古堅部長。
「ふふふっ。このコスチュームを着ることになる八木橋さんの気持ち、ちょっとはお分かりいただけましたでし
ょうか?個人的な趣味で衣装を決めたらだめでーす。展示会のコスチュームは、展示会に参加する人が決
めることになっていたはずですが、いつからそのルールが変わりましたか?」
「この衣装にしたのはCS-30の宣伝効果を考えてのことだっ!義体技術の発展のためには必要なことなん
だっ!わ、私の個人的な趣味などでは断じてないぞっ!」
「なるほどー。宣伝大いに結構でーす。では、その義体で古堅部長自身に宣伝にはげんでもらいましょう」
  タマちゃんは、古堅部長の苦し紛れのいいわけを一蹴して、再び腕を振り上げた。
「撮影はじめっ!」
  タマちゃんの合図ではじまるフラッシュの一斉射撃。
「こ、こらあ!お前ら、いい加減にs
「部長、ちゃんと顔を上げてくださいよ。隠してちゃ駄目ですよ」
「その怒る姿、超萌えッス!」
「部長。表情固いですよ。もっとニッコリ」
  部長の可愛らしい怒鳴り声は、悪ノリした即席カメラ小僧たちによってあっという間にかき消される。
「カメラ部隊。さらに前進っ!」
  タマちゃん調子に叫ぶタマちゃん。古堅部長への包囲の輪はさらに縮まって、
「うわうわうわ、何をするやめあせdrftgyふじこlp!」
  もう滅茶苦茶。ちょっとコメントは差し控えさせていただきますw
「古堅部長。どうです?コスチュームの件は、いったん白紙ということで宜しいですね?」
  頃合を見て、カメラ小僧たちを下がらせたタマちゃん。さっきまで整っていた髪も、すっかりぼさぼさに乱
れて、憔悴しきった様子でその場にへたりこんじゃった古堅部長を見下ろして高らかに勝利宣言。
「分かったよ。分かりました。やめればいいんだろっ!やめればっ!やめますっ!」
224名無しさん@ピンキー:2006/11/24(金) 03:43:47 ID:mt/lEuI40
C
2253の444:2006/11/24(金) 03:48:15 ID:C1jV5oGD0
 いつもの威厳はどこへやら。情けない口調でそう吐き捨てたあと、だだっ子見たいに床に寝転んでしまっ
た古堅部長を満足そうに眺めたタマちゃん。私に向かって勝利のVサイン。
  タマちゃんの知恵のおかげで、こんなコスチュームを衣装を着ることもなくなり、これにて一件落着。めで
たし、めでたし、だね。

「さあ八木橋君。何をしている。もう、練習の時間だぞ!」
  6時半きっかり。いつものように、ケアサポーター課のドアが勢いよく開かれて、古堅部長が元気よく事務
室に入ってくる。
「ねえねえ。最近あの人よく練習練習って言いながらここに来るけど一体何なの?ウザすぎ」
  今日は大残業デーだって午前中から嘆いていたみわっち、古堅部長の余りの場の空気の読めない能天
気ぶりに苛立ったのか、私のほうを振り向いて顔をしかめてみせる。
「はは・・・」
  曖昧な苦笑いでごまかすしかない。何の練習をしてるか、なんてゼッタイみんなに知られるわけにはいか
ない。
(もう!必ず行くから、こっちにはこないでって言ったのにいっ!)
  内心怒りにうち震えながら、あわてて私は荷物をまとめて、ケアサポーター課のみんなの冷たい視線を背
中に受けつつ、古堅部長のもとにのろのろ歩いていく。
(はあ)
  満面の笑みで私を出迎える古堅部長。でも私の口から出るのはため息ばかり。
  なんでこんなことになっちゃったんだろう。どうして私いつもこんな目にばかり遭うんだろう。
2263の444:2006/11/24(金) 03:49:19 ID:C1jV5oGD0
______________________________________________________________________________________________________________________________________________________

送信者:[email protected]
日時:e18年
宛先:八木橋さん
CC:
件名:ごめんね

八木橋さん。ごめんね。
まさか遥太郎が、あれで見られる喜びに目覚めてしまうなんて計算外でした。
まさか遥太郎が、自分も標準義体に換装して展示会に出るって言うなんて計算外でした。
まさか遥太郎が、私が参加するんだから衣装を決める権利は当然私にある、なんて言い出すなんて計算外
でした。
まさか遥太郎が、毎日義体換装してポージングの研究にあけくれ、あまつさえ八木橋さんをそれに付き合わ
せるなんて計算外でした。
まさか遥太郎が、ここまで変人だとは計算外でした。
まさか。まさか。うわーーーーーーん、八木橋さん。本当にごめんなさい。私が余計なことをしたばっかりにこ
んなことになってしまって。。
あーあ、私も付き合う男、考えようかな。
                                               汀環
_______________________________________________________________________________________________________________________________________________________

   おしまい
2273の444:2006/11/24(金) 03:49:58 ID:C1jV5oGD0
展示会(上)
これにて完結です。お付き合いありがとうございました。
次は中断中の学園祭の続きを書いていこうと思います。
>>217
ロケットパンチは読者サービスでしたか。
こちらが本来の続きですね。
どうやって猫を助けるのでしょう。ちょっと想像つきません。
続きが楽しみです。
228名無しさん@ピンキー:2006/11/24(金) 04:10:54 ID:mt/lEuI40
乙です。
古堅さんは全身義体の人だったのですね。義体開発者に最適かも。
八木橋さんの世界の生身の人は電脳化しているんでしょうか。
229pinksaturn:2006/11/24(金) 11:02:28 ID:rBsADq4z0
結局、さんざん練習させられた挙げ句に本番であの水着を着たんですね。
古堅部長様、自爆テロ乙!。神は偉大なり。
230名無しさん@ピンキー:2006/11/24(金) 22:01:19 ID:NzeS+iE70
Dはドライブモード、Sはサイレントモード、Bは…
231adjust:2006/11/24(金) 22:59:14 ID:eemUPqXi0
>>209,217 様
手に汗を握る展開のはずですが、やさしい雰囲気のお話ですね。ヤギーの
お友達になってくれるといいですね。続き期待しています。

>>211-214 様
ロケットっすか、甲殻の系統でしょうか、それともかすかな記憶しか残ってませんが、
ハンドルのボタンを押すといろんなものが出るアレでしょうか。(おそらく初出時はまだ生まれてない。)

3の444 様
展示会(上) お疲れ様でした。
古堅部長崩壊ですか。崩壊の余波はかなり広範囲に広がったようで
ヤギーが被害担当艦と言うことですね。
崩壊のすさまじさに笑わせていただきました。
232名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 21:08:50 ID:/HVb6eml0
・・・Bってブレs・・・あ、出ないか。
233名無しさん@ピンキー:2006/11/25(土) 23:49:09 ID:yn0qM5e60
>>217

身体を思い切り乗り出して、子猫の身体をつかもうと手を……
みぎゃあああっ!
出しかけた時、子猫も腹をくくったのか、私に向かって飛びついてきた。私の腕を伝って、まっすぐ私の顔の方へ。

ガリガリガリガリッ!!!

私の顔を足掛かりにしようとして、後ろ足の爪で嫌と言うほど引っ掻いていく。
「わ、私を踏み台にしたぁっ!」
そのまま子猫は枝から幹伝いに地面へと降りていった。手近な茂みに身を潜めて木の上の私の方をうかがってい
るみたい。

「よかった……」

途中はどうあれ子猫は無事に木から降りることができた。あとは私が、
パキッ
そっと、
ミシッ、ペキッ
枝をt
パキパキパキ……ボキッ!!

「わあぁぁぁぁぁっ!」
枝を抱えて落ちるだけ……。
234名無しさん@ピンキー:2006/11/26(日) 00:30:55 ID:R9yDnGP80
>>233
顔の皮膚の張替え代、高くつきそうですね。
235無名:2006/11/26(日) 15:47:19 ID:b3WHXFf00
 思いがけない憂鬱 その1

 「ええっ、来週かなちゃん休むんですって?」
 放課後、クラスメイトたちが帰る中、和真君とまさる君、それに祐喜ちゃんがかなの席に集ってかなの話を聞いていた。話の中でかなが来週休みをとる話題が出たため、みんなは意外な顔でかなを見つめていた。
 「いきなり休むって、かなやんどうしたんだよ?」
 「いやね、お兄ちゃんが『学校に休みの届けを出してくれ』って言われたからさっき出してきたんだ」
 驚くにも無理はない、この学校に転校してからかなは、今まで早退はしても休む事なんてしなかったからだ。それをかなの口から出たからみんなはビックリしてるのだ。
 「でもいきなり言われるなんて、何かがあるんでしょうね」
 祐喜ちゃんは心配そうにそわそわしてる。自分が休むわけじゃないのにね。
 「なるほど、来週かなちゃんは病院でメンテナンスをするんだね。しかも大掛かりな」
 まさる君が手をポンと叩いた。
 「ああそうか、かなやん人間ドックに入るんだな」
 「そうじゃないって。僕達サイボーグは年に一回大掛かりなメンテナンスをしなければならないんだ。いくら生体パーツを使っていても骨格だけは成長しないからね。それを取り替えるために3日ほど病院でメンテをすることになっているんだ」
 まさる君、助かったよ。かながこんなこと言うと話がこんがらがっちゃうからね。
 「そ、だからかなは入院のような形で、少しの間病院にお世話になるんだ。まあ、皆と会えないのはちょっと寂しいけど」
 「かなやんがいない間は俺がこの学校を守ってやるぜ」
 「あんた、いつ学校のヒーローになったんだよ」
 こうして話が進む間に日が暮れ初めていった。
 「もう帰る時間だね。そろそろ正門が閉まるから早く帰ろう」
 かなたちは少し急いで玄関へと向かった。靴を履き終わり、外に出るときれいな夕焼けがかな達の前に姿を現した。
236無名:2006/11/26(日) 15:47:55 ID:b3WHXFf00
 「こりゃ明日も日本晴れだな」
 「山のもみじも赤く色づいてきたね」
 かな達は正門を出ると、夕焼けに染まった山を改めて見つめた。
 「そうだ、かなやんが退院したらあの山へハイキングに行かないか?今の季節ならおいしそうなものがいっぱい実ってるからな」
 やっぱりね、和真君の考えてることはこんな事だろうと思ってたよ。
 「うん、いいね。その時は松原さんたちも誘おうか」
 「賛成。ハイキングは仲間がいっぱいいたほうがいいもんね」
 「じゃ、再来週にでもハイキングに行くことにしよう。松原さんたちにも明日そのことを言っておこう」
 話が済んで、祐喜ちゃんとまさる君と別れたかなと和真君は、坂道を上がって帰り道を歩いて行った。
 「かなやん、メンテナンスって痛いのか?それとも苦しいのか?」
 「そんな事ないよ。さっき和真君が言ったとおり人間ドックみたいなものだから心配ないよ」
 「…そうか。実は俺、病院ってあまり好きじゃないんだよな。薬臭いし、変な感じだし…。前に病院に行った時だって逃げ出したくなるほどだったからな」
 意外だな、和真君は苦手なものがないと思ってたんだけど、病院が苦手だったなんてね…。
 「もしかして和真君、歯医者とかも苦手なの?」
 そのことを聞かれた和真君は、黙ってしまった。
 「ふふん、やっぱりそうか。痛いの怖いんだね、和真君は。ぷぷぷ」
 「か、かなやん、皆には内緒にしてくれよ。恥ずかしいから」
 「はいはい、分かりましたよー。そのことは内緒にしてあげるよ」
 こうしてからかいながら、目印のバス停のところまで歩いて行った。
 「それじゃ和真君、また明日ね」
 「ああ、また明日な」
 三叉路で和真君と別れたかなは、外の風景を見ながらゆっくりと家に帰うことにした。
もう11月に入ったからこの近くも紅葉が多くなっている。去年初めてここで見た紅葉はとっても真っ赤できれいだった。
もう少し経てばこの周りも真っ赤になるんだろうな。
237無名:2006/11/26(日) 15:48:39 ID:b3WHXFf00
 「ただいまー」
 家に帰ったかなは、ゆきなおばさんに挨拶をしてから自分の部屋に入った。そしてランドセルを机の上へ放り投げた。
 「…あと少しでメンテナンスか…。何か憂鬱だなぁ」
 今回受けるメンテナンスは、今までとは違って全身を検査する作業が入る。そのため2,3日はかかるらしい。かなはその検査を始めてやることになるのだ…。
 「もしかしたら身体をバラバラにされるのかも…」
 そう考えたら、何だかぞ〜っとしてきた。自分の身体がバラバラにされるかもしれないんだから怖くないはずがない。かなは次第に不安になっていった。
 それから約1時間後、下からかなを呼ぶ声が聞こえてきた。
 「かなちゃん、夕ご飯が出来たわよ。下に降りてらっしゃい」
 かなは静かに下に降りて食卓の椅子に座った。
238無名:2006/11/26(日) 15:55:10 ID:b3WHXFf00
 「どうしたの、かなちゃんらしくないわよ」
 不安を隠しきれないかなを見て、ゆきなおばさんは声をかけた。
 「一体どうしたのよ、元気がなかったらおいしくご飯を食べれないわよ」
 「…ゆきなおばさん、かなね、検査受けるの怖いんだ。そうしたら不安になっちゃって…」
 恐る恐るかなは答えると、ゆきなおばさんはかなをギュッと抱きしめて、優しく答えてくれた。
 「かなちゃん、怖がる事はないわ。検査といっても人間ドックを受けるのと変わりないの。だから心配しないで検査を受けるのよ」
 ゆきなおばさん、なんて優しいんだろう…。本当の親じゃないのにこんなに親切にしてくれるなんて…。そんな事を考えてると何だか涙が出てきちゃったよ…。
 「…ありがとう…。かなね、自分が普通の人間じゃないって事ばかり思っていたからこんなに不安になっちゃったんだ…。
でも、ゆきなおばさんのおかげでその不安もどこかへ吹き飛んじゃったよ。本当にありがとうね」
 かなが安心したそのとき、かなのおなかからグ〜っと言う音が聞こえてきた。
 「安心したらおなかがすいてきちゃった。早く食べよう」
 「かなちゃんったら。じゃあ夕ご飯食べましょう。今日はかなちゃんの好きな鮭フライよ」
 そんな訳でかなはゆきなおばさんと二人で夕ご飯を食べることにした。今までの不安が吹き飛んだのか、今日はご飯を2杯もおかわりしちゃったよ。
でもこれで安心して検査を受ける事が出来るよ。
239無名:2006/11/26(日) 16:33:57 ID:b3WHXFf00
皆さんこんにちは、無名です。
「思いがけない憂鬱」その1をお送りしました。
今回は、はじめのシーンだけでしたが、何とか完成しているところまで載せました。
その2は12月の初旬にでも掲載する予定です。

>>manplusさん
遅らせながら、第1部完結おめでとうございます。
今回はレースデビューから連戦連勝のシーンで終わっていますが、
最後のレースシーンが少し駆け足になってしまったのが少し残念に思います。
(それがメインじゃないからだと思いますが)
ピットクルーたちの動向やその後の物語は後で語られるだろうと思いますが、
とりあえずはお疲れ様でした。

>>pinksaturnさん
中国側の強引な命令を受けた孫さんお気の毒です。一方金星冷却化計画という大々的な計画は、
けっこうドラマッチックになりそうな予感がします。
妨害をしてきた孫さんがあっけなかったのは残念でしたが、今後の活躍の期待したいところです。
240無名:2006/11/26(日) 16:38:20 ID:b3WHXFf00
>>味覚について
上のほうで味覚の話題があったようですが、サイボーグになっても五感は残しておきたいでしょうし
(五感を再現するのは大変ですが)、本人も楽しみが減ってしまうのですから、
できるだけ再現するようにするべきではないかと思います。
ただ、物語によってはそれが不必要になってしまったり、完全に再現できない義体も数多くあります。
うちの物語の義体は、五感を再現されているので基本的には心配ありません。人工細胞を使っていますからね。

>>217
これは面白い!ヤギー姉さんの腕がロケットアームになって飛ぶギミックが搭載されているとは!
ほかの武装(?)のことも気になりますが、これだけでおなかいっぱいです。ありがとうございました。
それにしても最後の>>233 のシーンはヤギー姉さんらしいですね。木の上の猫を助けるために自己犠牲になってしまって
自分は大怪我を負うというのはいつものパターン(?)かもしれませんね。
241無名:2006/11/26(日) 16:55:32 ID:b3WHXFf00
>>3の444さん
古堅部長が義体なのはびっくりしました。それを利用して仕返しをするとは、
さすがタマ姉。これで古堅部長もあんな無茶なことはしないでしょうね。
それでヤギー姉さんが尻拭いをさせられてしまったのは不幸としかいえませんけど・・・。
次回は学園祭の続きですか、楽しみに待っています。
242名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:05:23 ID:lvk6mCbo0
『目線くださ〜〜い』

<パシャ、パシャ、カシャ、パシャ、カシャ、カシャ、カシャ>

盛大にあがるシャッター音。まったく、何を考えているのやら……。

『ありがとうございました〜〜』

ここは瓜馬メッセ。日本でも有数の巨大複合展示会場。モーターショーやビジネスショウのような誰でも知って
いる大型イベントから、業界関係者限定のこじんまりとしたイベントまで、毎週のように様々なイベントが開催
されている。お堅いビジネス関係のものだけじゃない。おもちゃショーやゲームショウなんかは、家族連れの来
場者が多くてとても賑やかになる。今日、僕は、そういう展示会の一つを見に来ている。

義体展示会。

世界中の義体メーカーが集まって、それぞれのメーカーの最新製品を展示する。病院の関係者、自衛隊や宇宙開
発機構や深海資源開発センターの職員、テレビ局や新聞社からの取材班、そして一般の来場者。ここで開催され
る展示会の中でも、特に知名度が高くて、来場者数も多いイベントだ。義体技術者を志望する僕が、ここにいる
のもそんなに不思議なことではない。でも、今日はちょっと事情がある。

指導教官の教授から展示会の企業招待日のチケットを渡された時は、びっくりした。招待状に、必ず来るように
と、イソジマ電工の人事担当者からのメッセージが添えられていたんだ。先月、推薦入社の面接を受けて結果も
まだわからないというのに、こんな指示を出されるものなんだろうか? 教授に聞いても詳しいことは何も知ら
ないようだったし、人事担当者に問い合わせるのも印象を損ねるような気がしたので、とりあえず指示に従うこ
とにした。
243名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:09:46 ID:lvk6mCbo0
同じ研究室の義体フェチの友人にチケットのことを話したら、ずいぶん羨ましがられた。一般公開日には、全身
義体ユーザーがキャンペーンガールよろしく艶やかな衣装をまとって愛嬌を振りまく姿を見ることができる。バ
ニーガールやらチャイナ服やら、趣向を凝らしたコスチュームで、会場が溢れかえる。それはそれで、魅力的な
光景だとは思う。でも、企業招待日はちょっと違うんだ。

招待日には、義体メーカーの関係者だけではなく、その取引先の病院や自衛隊幹部の人達が来る。全身義体を見
慣れたそんな人達に、バニー姿で接客しても仕方が無い。自社技術をアピールするために、一般客には見せられ
ないようなものを、各社が競って用意する。例えば、スケルトンモデルの義体とか(当然、脳みそが丸見えだ)、
義手義足の着脱やメンテナンスハッチの開閉の実演を時間を決めて実施する。そんな過激な光景が会場の随所で
繰り広げられる。

友人が羨む気持ちも分からなくはないけれど、会社からの指示ということは、後でレポートを求められるかもし
れない。もし彼にチケットを譲ったら、レポートも彼に任せることになる。イソジマ電工の人工皮膚の手触りに
ハアハアしたとか、ギガテックス社の凹凸を強調したボディラインは絶妙だとか、ハイラール社の義足の曲線美
は神業だとか書きかねない。駄目だ。駄目だ。ここは、やっぱり自分で行かなくちゃ。

人事担当者のメッセージでは、14時から14時30分の間にイソジマ電工のブースに来るよう指示されていた。少し
早めに会場に着いて、他の義体メーカーのブースをあちこち覗いてみた後で、受付に行って記帳して資料を受け
取った。こういう展示会には、あまり来たことがない。歩き疲れたのと、会場の熱気に当てられて、どこかで一
休みしたい気分だった。

ちょうど、ブースの片隅に置かれた椅子に空きがあったので、これ幸いと腰をおろす。ギガテックス、ハイラー
ル、ボーグ、ect、etc…。どこの義体メーカーも、女性型全身義体のデモをしてた。友人が言っていた通り、い
ろいろな形で自社技術のアピールをしている姿が見られたけど……。
244名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:14:04 ID:lvk6mCbo0
あの全身義体の中の人達は、どんな気持ちであんなデモをしていたんだろう。今の義体技術は、外見だけは元の
身体そっくりの義体を作れるまでに発展した。だから、もう外見の出来具合ではなくて、特殊公務員の職務向け
の機能や性能の向上、維持管理コストの低減なんかにセールスポイントが移ってきているという印象を受けた。
確かに、それは義体を工業製品として見たら、正しい方向なんだろう。でも、福祉医療機器という面で見たらど
うなんだろう? もっと他に求めるべきものがあるんじゃないだろうか。たとえば、より生身の身体に近い義体
とか……。

「おい、君」

それにしても、標準義体を使ったデモというのは興味深い。同じ顔、同じ体格の女の子が何人もそろっていると
いうのは、普通ではまず見られない。イソジマ電工のブースにも、そういう全身義体のコンパニオンが5人いる。
胸元に付けたネームカードには、会社名と、アルファベットの一文字だけが書かれている。「A」「F」「H」
「S」「Y」。義体の中の人の名前のイニシャルなんだろうか。彼女達もこれがなかったら、互いに見分けがつ
かないんだろうか。たぶん、来場者に対する対応マニュアルがあるんだろう。説明する時の物腰や言葉遣いも統
一されているので、一層見分けるのが難しい。

「おい。私の言葉が聞こえないのか?」

でも、こうやって彼女達一人ひとりをじっくり観察していると、やっぱり表情や振る舞いに微妙な違いが見えて
くる。中の人それぞれの人柄が滲み出てきているようだ。たとえ器は変わっても、その中にいる人の人格まで変
わるわけじゃない。本当に大事なのは器じゃなくて、中のh

「うわあっ!」

突然、首筋に冷たい物が押し付けられて、思わず間の抜けた声を上げてしまう。振り返ってみると、全身義体の
コンパニオンの一人が手にジュースの缶を持って立っていた。胸のネームカードを見ると「F」と書かれている。
あまり感情を表に出さず、身のこなしにも無駄のない子だったかな?
245名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:18:49 ID:lvk6mCbo0
「な、何を一体……?」
「さっきから声をかけていたんだぞ? そんなに彼女達は魅力的かな?」
相変わらず賑やかなコンパニオン達のいる方に眼をやって、非難の調子が混じった声を出す。
「いや、そういうわけじゃないけど……」

さっき考えていたことは、あんまり人に言えるようなことじゃない気がして、言葉を濁してしまう。

彼女は僕の向かいの椅子に腰掛けて、改めて缶を差し出した。全身義体の人は飲食ができない。彼女の前でジュー
スを飲むのにためらいを感じて、受け取ったものかどうか迷っていると、彼女はくすりと笑ってこう言った。

「私のことを気にしているのか? 遠慮することはない。もう、こういうのには慣れてしまったよ」

屈託のない笑みを浮かべて、さらりと言ってのける彼女。全身義体の人に接した経験が少ない僕は、そんな言葉
にも胸の痛みを感じてしまう。でも、せっかくの好意だからと缶を受け取った。

「うん。それでいい。変に気を回される方が、かえって傷つくこともあるからね」
「あの、こんなところで、僕と話をしていていいの?」
「今は、休憩時間だよ。機械の身体だからって、働きづめというわけじゃない。慣れない客対応は気疲れする。
まあ、休むというよりは気分転換のため、というところかな」
「そ、そうなんだ」
「で、君が嫌でなかったら、少し相手をしてくれないか」
「それは構わないけど」

義体の人って、自分の身体のことをこんなに率直に話すものなんだろうか? 研修や見学で会った全身義体の人
達は、みんな大なり小なり義体に対して引け目を感じているようだったけど。こんな風に自分の身体のことを考
えることができる人には、生身の身体に近い義体は、いらないのかもしれないなあ。
246名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:22:45 ID:lvk6mCbo0
でも、この子、変わった喋り方をする。中の人は男性社員だったりしてね。義体メーカーとはいえ、全身義体の
女性社員がそんなに沢山いるとは思えないし、理屈の上では異性タイプの標準義体の中にだって入れるんだし。
まあ、いくら人手が足りないからって、そんなことをしたいと思う人はいないか。よっぽど特別な理由があるな
ら別だろうけどw

「私は見ての通り全身義体だ。こんな人形と話をするのは、本当に嫌じゃないのか?」
「……そんな言い方、しない方がいいよ」
「どうして? たいていの者は、この身体を見て、可哀想とか気味が悪いとか言うのではないか? たとえ、面
と向かって言わないとしても、心の中ではそう思っているのだろう」
「僕も同じ事を考えている、と?」
「違うのか?」
全身義体の人と直接話すのは初めてだ。今まで、そんなこと真剣に考えたことがない。さっきの言葉だと、身体
のことは気にしてないみたいだったけど……。

「たとえ君の身体が義体だからって、何も変わらないよ。君の喋り方も、身のこなし方も、考え方も、そして身
体も、全部ひっくるめて君なんじゃないか。君は君。それ以外に何があるのかなあ?」
「……君は変わっているな。まあ、私ほどではないだろうが。変なことを聞いてしまったな。すまない」
「僕が嘘を言っているとは思わないの? さっき君が言ったみたいに、面と向かって本心を口にしたりしないか
もしれないよ?」
「君の言葉に偽りは無い。私はそう感じた。今、君が本心を語ってくれたと信じるよ。だからこそ、こんな言い
方をしてしまったことを申し訳ないと思う」
「ううん、いいよ。君には大事なことなんでしょ」
「そうだ。しかし……」
「じゃあ、もう、この話は終わりにしよう」
「そうだな」
彼女は、僕の胸元に目をやって、改めて話題を振ってくる。
247名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:26:36 ID:lvk6mCbo0
「君は、星修大の学生だね?」
「そうだよ。義体工学科の4年生。来年卒業しちゃうけどね」
「それで就職先は、ギガテックスあたりかな?」
「やっぱり、そう思うの?」
「たいがいの義体技術者志望の学生は、ギガテックスへの就職を希望すると聞いている。あそこなら、思う存分
技術を究めることができるのだろう? 給料もいいそうだし」
確かに彼女の言っている通りだと思う。でもギガテックスでは、僕のやりたいことはできないんだ。

「それを君が言うの? 君だって、イソジマ電工の社員なんでしょ?」
「それはそうだが。私は、一般論を述べただけだ。君は違うのか?」
「僕も、イソジマ電工の社員になる予定だよ。面接の結果待ちだけどね」
「ほう? それは、また奇特なことだ。一つ聞いていいかな?」
「何を?」
「いや、イソジマ電工を志望した理由をさ」
「……聞いても、笑わない?」
「それは、聞いてみなければ分からないな」
「……じゃあ、言わない」
「はぁ……」
彼女は小さな溜息をつく。
「君は、自分の考えにそんなに自信がないのか? よほどくだらない理由でなければ、誰も笑ったりしないだろうに」

「……僕はね、イソジマ電工の企業理念に惹かれたんだよ」
「”もっと、もっと本当の身体に近づきたい”というやつか?」
「そう。今の全身義体は、外見からじゃ見分けがつかないくらい元の身体そっくりにできているけど、それで十
分だとは思えないんだ。栄養カプセルしか口にできないし、味も匂いも分からない。温度感覚は身体の一部にし
かなくて、暑さ寒さも感じられない。義眼の暗視機能とかズーム機能とかを改善する前に、元の身体でできてい
たことを、もっと再現するべきじゃないのかなあ?」
「……そこまであからさまに義体の欠点を言われると、私でも多少は傷つくな」
彼女があまりにも率直な物言いをするので、ついつられて余計なことを言ってしまった……。
248名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:30:40 ID:lvk6mCbo0
「あ……、ゴメン……」
「ふふふ……、冗談だ。もう慣れたと言ったろう? むしろ、そこまではっきり言える君を見直したよ」
「そ、そうかな?」
「そうだ。確かにイソジマ電工の企業理念に照らし合わせれば、君の言っていることは正しいよ。じゃあ、入社
したら、そういう義体の開発に携わりたいと思ってる?」
「うん、できればね」
「例えば、どんな?」
「実はね、僕の研究テーマは、汗をかく義体なんだ」
「汗を、かく?」
彼女にも予想外だったのか、目を丸くして聞き返してきた。うーん。やっぱり笑われるかな。

「暑い時や感情が昂ぶった時に、汗をかくって大事なことでしょ? だから、僕は、人工皮膚の中に微細な輸液
管を形成する技術を研究してるんだ。それさえできたら、後は、サポートコンピューターでマイクロポンプを制
御して、人工汗液の貯蔵タンクから適当な量を送り込めばいいってわけ」
「それは、また変わっているな。そんな義体ができたら義体ユーザーは喜ぶだろう。でも、製品化は難しくない
のかね?」
「そうだね。教授には、いろいろ言われたよ。”そんな物を研究しても、補助金が出ないから製品化の見込みが
ない。もっと他に有益なことがあるだろう”とかね。教授とは随分議論したなあ。さすがにイソジマ電工のOBと
いうだけあって、僕の考えには賛成してくれていたけど、就職には不利だからって、なんとか僕を説得しようと
したんだ」
「教授と君が議論する姿が眼に浮かぶよ。それでも、自分の意見を押し通したんだね?」
「僕には、それが正しいことだと思えたから。おかげで、ギガテックスへの推薦は逃したけど」
「さもありなん。でも、それを残念には思っていないのだろう?」
「まあね。それに、もともとイソジマ電工が第一志望だったし」
会話が途切れて、彼女は何か考え込んでいる。
249名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:34:35 ID:lvk6mCbo0
「うん、気に入った!」
「え? 何?」
「君が気に入ったと言ったんだ。君とはぜひ一緒に仕事をしてみたいね」
まさか、こんな肯定的な答えが返るとは思わなかった。目を輝かせて僕の顔を見つめる彼女。標準義体のどこと
なく人形めいた整った顔が、彼女の感情に動かされて、本当に生き生きとした表情を作っている。
「……ありがとう。そんな風に言われたのは初めてだよ」
彼女があからさまに好意を示してくれるので、胸がドキドキし始めた。顔が赤くなったりしてなきゃいいけど。

『ふるげんさ〜〜ん。そろそろ戻ってくださ〜〜い』

デモを続けているコンパニオンの群れの中から呼び声があがる。彼女、ふるげんっていう名前なんだろうか?
確かにイニシャルは、ネームカードと同じ「F」だけど。

「ああ、今行く。すまない、もう休憩時間が終わってしまったようだ。君との話が楽しくて、つい時間が経つの
を忘れてしまったよ」
「うん。僕も楽しかった。ありがとう」
「では、これで。また会える時を楽しみにしているよ」
「え? あ…うん。じゃあ」
別れ際に差し出された彼女の手はとても暖かかった。しっかりと握り返してくるその手から彼女の心が伝わっ
てくるような気がした。ああ、本当にこんな人と一緒に仕事ができたらと、心の底から感じた瞬間だった。

彼女、イソジマ電工の社員ということは、入社したら、僕の先輩になるっていうことか。僕は技術系志望だけれ
ど、彼女はどうなんだろう。面接の時には話せなかった僕の本当の希望を聞いてもらえたのと、彼女の前向きな
姿勢を見られたのは、大きな収穫だった。イソジマ電工に入社を決めたけど、本当に僕がやりたいようなことが
できるんだろうかと、心の底では不安に思っていた。でも、あんな人がいる会社なんだ。僕も、きっと頑張れる。
250名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:38:32 ID:lvk6mCbo0
3週間後。イソジマ電工汐留本社ビル43階の面接会場控え室。今度は面接に来るようにという人事担当者からの
連絡を貰って、またびっくりした。だって、先日、内定通知が届いたのに、なんで面接が必要なんだろう? 教
授に聞いても分からなかった。まさか、僕の成績か研究テーマを吟味して、内定取り消しとか言われるんだろう
か? 展示会の後の浮かれた気持ちも消え去って、また不安が戻ってきた。

控え室には僕の他に6人いた。前の面接の時は、確か20人くらいいたはずだ。やっぱり何か悪い知らせがあるんだ
ろうか? 進行役の女性社員に呼ばれて面接会場の部屋に入って行って、15分くらいで戻って来る時は、みな、
なんともいえない顔をしていた。いい知らせと悪い知らせを同時に聞いて、心の整理をつけかねている、そんな
感じ。控え室に残った僕達の方を見る、意地の悪そうな目つきも気になった。もうすぐ自分と同じ目に会うんだ
ぞ、っていうことか。何があったか聞きたいけれど、戻って来るとすぐに進行役の女性に促されて部屋を出て行
ってしまう。控え室に残された人数が少なくなるにつれて、不安は増すばかり。

最後にようやく僕の名前が呼ばれた時は、もうどうにでもなれって感じに近かった。指示されるままに、面接会
場の扉をノックして中に入る。部屋の中にいたのは1人だけだった。初めて会う30代後半くらいの男性だ。この人
が今日の面接官か。机の上にはネームプレートも置いていない。どこの部署のどんな立場の人かも分からない。
鋭い目つきをしていて、感情を余り表に出さない、とても冷静な人という印象だ。
「ああ、よく来てくれました。どうぞ、かけてください」
「はい」
思ったよりは、柔らかな言葉遣いだけど、それで安心するわけにもいかない。一体、何を言われるんだろ。

「今日は、なぜ呼ばれたか知っていますか?」
「いいえ」
「今日の面接は非公式なものです。内定通知が届いていると思いますが、あなたが入社してからのことについて、
いくつかお話したいことがあって、ご足労願いました。技術系を志望していると聞きましたので、その関係で少
し詳しいことを聞きますが、よろしいですか?」
「はい」
本当にそれだけなんだろうか?
251名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:42:15 ID:lvk6mCbo0
「まず、あなたの研究テーマについて話してください」
僕の研究テーマを聞いてどうするんだろう? 義体産業の関係者で、展示会場で会った彼女みたいに真摯に僕の
話を聞いてくれる人は、まずいない。やっぱり、こんな変なテーマを選ぶ学生なんか採用したくないってことだ
ろうか。

でも、聞かれたからには、答えないわけにもいかない。仕方なくテーマの概要を説明する。男性は、鋭い目つき
で僕の顔を見つめながら、質問を挟まずに最後まで説明を聞いていた。

「それで、あなたの目標は? そんなテーマを選ぶからには、何か目標があるのでしょう?」
前の面接の時には、ここまでは聞かれなかった。当たり障りのない志望動機と、御社の業務に貢献したいという
通り一遍の言葉を並べただけで、大した波乱もなく終わってしまった。立派な企業理念を掲げていても、その通
りにならないのが現実だ。理念は理念として尊重した上で、地に足の着いた意見を述べるのが就職活動のセオリー
だ。でも、ここまで来たら、もうそれでは済まないだろう。

「御社の企業理念の通り、”本当の身体”に近づくための開発を目指したいと思います」
彼女の笑顔を思い出しながら、思い切って心の内を口にした。これで駄目だといわれるなら、イソジマ電工との
縁も、それまでのことだったんだ。

「それは、汗をかく義体の開発をしたいと言うことですか? そのような製品は前例が無いので需要の予測がで
きませんし、開発費の捻出も大変です。特殊公務員の職務向け機能の開発に加わることは希望しないのですか?
その方が業績があがると思いませんか?」
「そういうことは誰か他の人にお任せしたいと考えます。私は、義体ユーザーが本当に望む物を開発したいんです」
男性は、それを聞いて考え込む。しばらく気まずい沈黙が続く。あなたのような人材を求めていない。そんな台
詞が返ってくるのを、半ば予想し始めた頃、ようやく男性が口を開く。
252名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:47:13 ID:lvk6mCbo0
「うん、いいでしょう。あなたの気持ちは分かりました。汗をかく義体は私も面白いと思います。4月から開発プ
ロジェクトを立ち上げられるよう、これから提案書を作りましょう。あなたにも発案者として、ぜひプロジェク
トに参加していただきたい。いろいろな意味で、きつい仕事になるでしょう。覚悟はいいですね?」
僕はあっけにとられた。まさかこんな物が本当に製品になるなんて考えてもいなかった。それに、いくら発案者
とはいえ、新人をそんな簡単に開発スタッフに加えるなんてあるんだろうか? でも、男性の表情は、その言葉
に嘘は無いと言っている。

「教授の反対を押し切って就職に不利な研究テーマを選んだあなたなら、この仕事がどんなにきつくても期待に
応えてくれると信じていますよ」
「え? ど、どうしてそれを?」
教授との議論のことは、ここでは話していないのに。

「では、改めて。私は古堅といいます。義体開発部の部長を務めています」

古堅。ふるげん。ま、まさか!?

「これで、一緒に仕事ができますね。私は嬉しいですよ」
「あの、失礼ですが、部長は全身義体なのでは……?」
古堅部長は、不思議そうな顔をする。
「ええ。ご存知の事と思っていましたが」
「じゃあ、もしかして今日呼ばれたのは展示会で……?」
「あの時は、本音を語っていただけて大変参考になりました。今日、面接したのは、皆、展示会にご招待した方々です。」

椅子から立ち上がって僕の前に立つ古堅部長の顔には、あの時の彼女を思わせる屈託のない笑みが浮かんでいた。
差し出された部長の手は、やっぱりとても暖かかった。しっかりと握り返してくる、その手の力強さも記憶にあ
る通り。

確かに、一緒に仕事ができるようにはなったけど。まさか、彼女が部長だったなんて。僕の気持ちは、どこへ持っ
ていけばいいんですか……orz
253名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:55:08 ID:lvk6mCbo0
後日。友人にこのことを話したら、大笑いされた。イソジマ電工の古堅部長と言えば自社の企業理念を体現する
存在として誰でも知っている有名人らしい。全身義体ユーザだということも、周知の事実。”ふるげん”なんて
いう名前も、そうそうあるわけじゃない。”先に話してくれていたら、すぐに教えてやれたものを。一人でいい
思いをしたバチがあたったんだ。” そう友人に言われて返す言葉がなかった。

さらに数日後。某巨大掲示板の義体板都市伝説スレに、かなり脚色を加えられていたけれど、事の顛末が書き込
まれていて、追い討ちをかけられた。友人を問い詰めたら、”書き込んだのは自分じゃない。でも何人かには話
した”っていう答え。ああ、確かに口止めはしなかったけどさ。

ほら、そこの君。全身義体の女の子に愛を囁かれて浮かれているのはいいけれど、中の人が本当に女の子かどう
か、ちゃんと確かめた方がいいよ。僕みたいになりたくなかったら、ねw

254名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 22:58:06 ID:lvk6mCbo0
「なあ、都市伝説スレの書き込み、あいつの事じゃないのか?」
「ああ、多分そうだな」
「古堅部長には姪がいるんじゃなかったか? 全身義体の」
「そうだっけか?」
「会ったのは姪の方だろ?」
「そうかもな」
「あいつは姪がいることを知らないのか?」
「知らんだろうなあ。古堅部長のことも知らなかったんだし」
「……教えてやらないのか?」
「面白いから、もう少し黙っていようかと。それに、入社したらいずれは分かることだしな」
「あいつも、ろくな友人を持ってないなあw」
「それはお前のことかw」
255名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:02:38 ID:lvk6mCbo0
12時47分。イソジマ電工汐留本社ビル21階社員食堂。

12時頃には、立錐の余地も無いほど混み合う食堂も、この時間になると僕みたいに午前中の会議が長引いて遅い
昼食をとっている職員がちらほらいる程度。メニューの品目もほとんど尽きて、残っているのはカレーと特別定
食だけ。少し迷ってから、無難にカレーを選ぶ。時間の余裕が無い時に、特別定食なんて贅沢をする気にはなれ
なかった。誰もいないテーブルの窓際に腰を下ろして、おもむろにスプーンを取り上げる。

長い集合研修期間がようやく終わって、希望通り開発部に配属されたのが先週のこと。まずは、自分が仕事の内
容を覚えるためと、他のメンバーに顔を覚えてもらうために会議には全て出席するよう指導者から言われている。
今日も朝から立て続けに3つの会議に出て、開放されたのは12時半を過ぎていた。午後は午後で、1時から6時まで
会議がびっしり詰まっている。出席するだけの立場なので、特に配布資料とかの準備はない。でも遅刻するわけ
にもいかないから、さっさと食事を済ませてしまわなくては。

確か、1時からは検証チームの定例打ち合わせだった。義体の開発工程の最終段階。1チームに1人、全身義体の社
員がいて、試作品を実際に使った検証をすると聞いている。手とか足とか内蔵機器とか毎週のように交換されて、
行動も全て記録される。実際の生活の中で予期しない不具合が起こることがないように、数万に及ぶ検査項目を、
時間をかけて念入りにこなしていく。義体が工業製品である以上、必要なことだと理解はでききる。でも、その
検証を自分の身体でやるっていうのは、よほどの覚悟がいると思う。毎日毎日、自分の身体が作り物だっていう
ことを自覚させられるんだ。今日の打ち合わせには、もちろん、その人も出席するはずだ。古堅部長を除くと、
全身義体の人に会うのは初めてだけど、一体、どんな人だろう……。そんなことを考えながら、窓の外をぼんや
りと眺めていた。

「失礼。ここに座ってもかまわないかな?」
「え? ああ、どうぞ」
256名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:06:22 ID:lvk6mCbo0
反射的に答えてから、気がついた。食堂の席は1割も埋まってない。このテーブルだって、席についているのは僕
だけだ。なのに、どうしてこの人は、わざわざ僕の向かいの席に座ろうとするんだろう? 不思議に思って、さ
りげなく向かいの席の人物に目をやった。

ドキッ。

見かけは、高校生くらいに見える女の子。肩まであるストレートの髪と、切れ長な目。整った顔つきからは、理
性的とか冷たいとか、そんな感じがした。でも、なによりも印象的なのは、その彼女がまっすぐに僕を見つめて
いるっていうことだ。

彼女の前には水が半分ほど入ったコップが一つ。ただそれだけ。お弁当を持ち込んで、飲み物だけ食堂の物を使
う女性社員は結構いる。でも、水だけというのは、いくらなんても不自然だ。ダイエット中? それだったら食
堂なんかにいるはずがない。

訳が分からない。でも、彼女に聞くわけにもいかないから、なるべく顔を上げないようにして、黙々と食事を続
ける。彼女は、コップに手を触れる気配すらなく、ただじっとしているようだ。まさか、ずっと僕を見てるのか。
どうにも気になって、次第にスプーンを動かす手が鈍ってくる。

「どうした? 早く食べないと、昼休みが終わってしまうぞ?」

僕に向かって言っているのは明らかだけど、なぜそんなことを……。

「私に遠慮しているのか? 目の前で飲食されることには、もう慣れたから気にすることはない」

「あの……」
「ん?」
「君は?」
「くう」
「クー?」
257名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:10:15 ID:lvk6mCbo0
「違う。”くう”だ。ふるげん くう。くうは1字。訓読みでは”そら”だ」
「いや、そうじゃなくて……」
あれ? ふるげん? 古堅?
「もしかして、どこかで会ってる?」
「もしかしなくても、会っているよ。 義体展示会は、君のおかげで楽しかった」
義体展示会で会った女性と言ったら、一人しかいない。

「え!? じゃあ、あの時、イソジマ電工のブースで話をしたのは……」
「そう、私だ。覚えていてくれたのか?」
「もちろん! でも、あれは古堅部長だったんじゃ……」
「部長? 遥太郎のことか?」
確かに、古堅部長の名前は遥太郎だったと思うけど。部長を名前で呼び捨てにするって、この子は一体……?
「どうして、ここで遥太郎が出てくるんだ?」
「だって、部長と面接した時に、義体展示会で会ったって……」
「遥太郎が、君に会ったと言ったのか?」
「う、うーん。そう聞いたと思うけど……」
もう記憶が曖昧で、正確に何と言われたかは、思い出せない。
「おかしいな。あの時は遥太郎に頼まれて、入社希望の学生の何人かと話をしてレポートを出したんだ。遥太郎
は別件の海外出張が入っていて会場には行けなかったはずだ。だから、それは君の思い違いだろう」
そうか、それで教授との議論のことを……。

「そうかもしれない。でも、よかった」
「何が?」
「いや、僕はてっきり、部長が標準義体に入っていて、僕と話をしたのかと思ってた。考え方のしっかりした素
敵な女性から一緒に仕事をしたいって言われて、とても嬉しかったんだ。でも、面接で、それが部長だったと分
かって……」
「がっかりした?」
「う、うん、まあ……」
258名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:14:21 ID:lvk6mCbo0
「……面接の後、遥太郎が言っていたよ。せっかく希望通りの配属になると伝えているのに、なぜあんなに落胆
した顔をするのか分からない、と。君達は皆、同じような誤解をしていたわけだな」
「そういうことになるね……」
「ふう……。どうしてそんな誤解ができるんだ? 遥太郎と私とでは、身のこなしも話し方も違うだろう?」
「それはそうだけど。全身義体で、”ふるげん”なんていう名前の人が、そんなにいるわけない……」
全身義体。そうだ、もし、あのときの話をしたのがこの子だというなら、この子も全身義体っていうことじゃないか。

「そんな理由なのか。それは少しがっかりだな」
「え、どうして?」
「私を私として認識できるだけの印象を君に与えられなかったということだろう?」
「そんなことないよ! 君と話した時のことは忘れなられないよ。あんなに楽しく話をしたのは、初めてだよ」
「そうか? それなら嬉しいが……」

キーンコーンカーンコーン……

お昼休みの終わりを告げる鐘の音。

「ああ、ほら、昼休みが終わってしまったぞ? 食事がまだ途中ではないか。すまない。私のせいだ」
「いいよ、気にしないで。きみのせいじゃないよ」
「だが、私と違って、君には食事をきちんと取ることが必要だ。自分の楽しみに気をとられて、君の健康を損ね
るようなことをした自分が許せない」
「いいってば」
「いや、駄目だ。何か埋め合わせをさせて欲しい」
「埋め合わせなんて……。うーん。じゃあさ、明日のお昼休みに、また僕と会ってよ」
「そんなことでいいのか?」
「うん。君と話しているのは楽しいよ」
「それでは埋め合わせになっていない気もするが、君とまた話ができるなら、私も嬉しいよ。うん。その提案を
受け入れよう」
何でも言ってみるものだ。これで、明日も空と会うことができる。
259名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:18:39 ID:lvk6mCbo0
食べ残しのカレーに名残を惜しみつつ、食器トレーを返却棚に置いて、二人揃って廊下に出る。
「じゃあ、古堅さん、午後イチの会議があるから、僕はこれで」
「クーだ」
「え?」
「君の口から出る”クー”という呼び名の響きは、私の耳にはとても心地よく聞こえるんだ。だから、これから
も”クー”と呼んでくれないか?」
「いや、あの……」
「駄目か……」
「いや……駄目じゃないけど……」
「では呼んでくれ」
「今、ここで?」
「そうだ」
「……クー?」
「うん。君にそう呼ばれると、ドキドキする。この心臓なんかない身体でも、誰かにときめくことができて、嬉
しい。それが君なら、なおさらだ」
「あ、あの、そんなこと……」
「ん? 何か問題があるか?」
廊下には、昼休みが終わって自席に戻る人たちや、僕のように会議場所に向かう人達が沢山いる。そこで、こん
なことを大声で言われては……。現に、何人かの女性社員が、こちらを見てくすくす笑ってる。

「さあ、ぐずぐずしていると打ち合わせに遅れてしまう。皆、君を待っているんだぞ。期待の新人が来ると聞いて
いるからな。」
「え? え? 皆って?」
「検証チームのメンバーに決まっているだろう」
「僕が検証チームの打ち合わせに出るって、どうして知ってるの?」
「私もメンバーだから知っているのは当然だ。君は打ち合わせの出席者リストを見ていないのか?」
これって、つまり、彼女と一緒に仕事ができるってこと?
260名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:22:46 ID:lvk6mCbo0
「う…うん。忙しかったから、会議場所と時間しか見てなかった。ごめん……」
「まあ、いいさ。こんな時間に食事を取っているところを見ても、君が忙しいのはよく分かるよ。慣れないこと
をして大変だろう」
「でも、自分で希望したことだから」
「そうだったな」
「あの、クーは、検証チームで何をしているの? 進捗管理とか?」
「何を言っている。全身義体の私がすることと言ったら、一つしかないだろう?」
「それって、まさか……」
自分の身体で試作品の検証をする。どんな人なんだろうって思っていたんだけど。それが空?

「この身体は、次期主力商品になる予定のCS-20型の試作機だ。これからは、君がこの義体のセッティングをする
んだぞ?」
「ぼ、僕が? だって、僕はまだ、ここに来たばかりだよ?」
「私がそう希望したんだ。君みたいに優秀な技術者なら、私が手取り足取り教えれば、義体の構造や扱いくらい、
すぐに覚えるだろう。君の手が私の身体を触り尽くしてくれるのかと思うと、ゾクゾクする」
「あ、あの、クーさん?」
「クーだ。さん付けされるのは嫌いだ」
「クー。僕、そんなことできないよ!」
「……私の身体は、そんなに魅力がないのか?」
「違うよ! 僕が言いたいのは……」
「む。もう5分過ぎてしまったぞ。仕方がない。ほら、こっちだ!」
僕の手を引いて廊下を走り出す空。その手の暖かさと力強さは、やっぱりあの時に感じたものと同じだった。

あの女性は、てっきり古堅部長だと思っていたけれど、まさかこんなことになるなんて。空は、一体、どうして
僕にこんなに好意的なんだろう? 僕が空に会うのは、今日でまだ2度目なのに。空は、僕の何を知っているん
だろう? あまりに急な展開で、頭の中は疑問符だらけ。
261名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:28:51 ID:lvk6mCbo0
でも、一つだけ確かなことがある。この人と一緒に仕事をしたい。いや、この人とずーっと一緒にいたい。それ
は、あの時も今も変わらない。時間はまだ沢山ある。疑問は、ゆっくり時間をかけて解いていけばいい。今は、
この手の暖かさを感じているだけで十分だ。

「クー!」
「ん? なんだ?」
いぶかしげな顔で振り向く空。
「こらからもよろしくね!」
「ああ、こちらこそ」

前に向き直る一瞬、空の笑顔が見えた気がした。あの時に見た笑顔と同じ、彼女の心の暖かさが一杯にこもった
明るい笑顔。これからも、この笑顔を見守りたい。自然と、僕の顔にも笑みが浮かんでくる。もう一度、今度は、
心の中で繰り返す。

クー、こらからもよろしくね!

262名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:31:34 ID:lvk6mCbo0
12時11分。イソジマ電工汐留本社ビル21階社員食堂。

配属から1ヶ月。顔見せはもう十分、ということで出席する会議も必要なものだけになり、それなりの仕事も任
されるようになって、決まりきった日常という言葉が当てはまってもいいかな、と思い始めた今日この頃。

あの日から、空とは食堂で一緒に過ごすのが習慣になっている。空は、もちろん食事をするわけではなく、相変
わらず水が少し入ったコップを置いて、僕の向かいの席に座っている。僕が食べるのを、空がぼんやり眺めなが
ら、取り留めのない会話をするだけの時間。でも、空と一緒にいられるこの時間は、僕にはとても大事なものだ。

「今日は君に頼みたいことがある」
今日のメニューは僕の好物のビーフ・ストロガノフ。食べることに気を取られて、つい生返事をしてしまう。
「ん〜〜。それって、僕にできること?」
「そうだ。正確には君にしか頼めないことだ」
「じゃあ、いいよ。いつもクーには世話になっているし」
「そうか! よかった。君のことだから、きっと断ると思っていた」
ん? なんか引っ掛かる言い方だなあ。ああ、何をするか聞いてなかったっけ。
「あの、クー。僕に何をして欲しいの?」
「私と寝て欲しい」
……空の言葉を聞いて、一瞬固まった。近くの席にいる人たちも、お喋りをやめて僕達の方を見つめてる。賑や
かな食堂には似つかわしくない静寂がその場を支配する。

「あ、あの、クーさん? 今、何と?」
「私と寝て欲しいと言ったんだ」
とんでもない台詞を、平然と繰り返す空。

「わあああっ! ちょっと、クー、なんて事を!」
「何か問題でも?」
「大有りだよっ!!!1!」
263名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:35:47 ID:lvk6mCbo0
大慌てで食器トレーを持ち上げると、ぽかんとした表情の空を促して、その場を去る。一気に喧騒の場と化した
テーブルでは、口々に勝手な言葉が交わされる。
「ねえ、今の聞いた?」
「あー、空ちゃん大胆だねー」
「もう、そこまで進んでたのか orz」
「彼氏の方、真っ赤だったわよ」
「あの野郎、今夜は審問会だぁ〜〜〜」
聞こえない、聞こえない。

空の手を引いて早足で向かったのは、32階にあるシステムラボの電波暗室。重い扉を閉じれば、外界からは完璧
に遮断される。今、空と話すには、これくらいの環境が必要だ。まったく、空ったら、何を言い出すか分からない。

「一体どうしたんだ? まだ食事の途中だったのに。今日のメニューは君の好物なのだろう?」
「クー! さっきのアレ!」
「アレとは?」
「もう、何でいきなり、あんなコト言い出すのさ!?」
「あんな事……? 君と寝たいということか? いきなりというわけではないんだが」
「だって、だって、僕、まだクーとはキスだってしてないよ!」
「それは君が隙を作ってくれないからだ。私はいつでもOKなのだが」
「そういうことじゃなくって! そんなことするの、まだ早いと言ってるんだよ」
「早くなどない。もう来週に迫っている」
「え?」
「来週から、試験項番1092が始まるだろう?」
「え? え?」
264名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:39:37 ID:lvk6mCbo0
空が何を言っているかわからない。
「性感機能の試験が来週から始まるということだ。君も試験工程表には目を通していると思ったが? 先週から
ずっと、君が言い出してくれるのを待っていたんだ。でも、今日がリミットだ。今日中に、誰を相手にするか課
長に申請しなければならない」
……性感機能の試験……? そうだ、そういう項目があるのは気づいてた。でも、それと、空の言葉との対応が
つかなかった。まさか、実地の試験があるっていうことじゃ……。

「来週は機械的な刺激を使った機能試験だから、まだいいが」
「もしかして、その先は……」
「もちろん、男性を相手にして、実際に性行為をすることになる。運用試験なんだから当然だろう? もっとも、
私の身体では厳密に言えば性行為には該当しないがな」
空とセックス、する? あまりに意外だったので、何も言葉が出てこない。そんな僕の様子を見て、空は溜息を
つく。

「やっぱり駄目か。仕方が無い。検証チームのメンバーの他の者にあたってみよう。相手が誰であれ、刺激さえ
あれば性感信号が発生する仕組みだからな。相手が君でなくて残念だが、試験には支障ない」
え? 空が他の男性と……。だ、駄目だ。駄目だ! そんなこと、させるわけにいかないよ!

「クー!」
「ん、どうした」
「駄目だよ。駄目! クーがそんなことするなんて、僕は嫌だ!」
「そんなことを言われても、試験をしないわけにはいかないだろう。この試作義体を作るのに、一体どれだけの
費用がかかっているか知らないわけではなかろうに。試験せずに製品化して、不具合が出たら遥太郎の責任にな
るんだぞ? 私には、そんないいかげんなことはできない」
「……それは……」
「君が嫌なら、誰か他の者を選ぶ。私には、そうするしかない。いいんだよ。嫌なものを無理強いするつもりは
ない」
265名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:45:26 ID:lvk6mCbo0
「違うんだ! クーとしたくないんじゃない。ただ、急だったから、びっくりして……」
「本当か? 本当に私としたいと思ってくれるのか?」
「当たり前だよ! だって、僕は……」
「僕は?」
「……クーの事が好きなんだ! 誰よりも! だから、他の人とそんなことして欲しくない!」
「これは作り物の身体だぞ? 刺激さえあれば、誰を相手にしても同じように快楽を感じる身体だぞ?」
「でも、クーの心は違うでしょ!」
「……君の言う通りだ。すまない。君に少し意地悪をした。君が私のことをどう思っているか、不安だったんだ」
「クー……」
「では、私の相手をしてくれるんだな?」
「うん」
「最後まで?」
「うん。どんな事だろうと、クーと一緒なら」
空が僕の身体を抱きしめる。

「君にそう言ってもらえて、私はとても嬉しい。この気持ちを、言葉だけでしか表すことができないのが悔しいよ」
空の義体は、涙を流すことも、顔を赤らめることもできない。動悸が早まることも、嗚咽で言葉が詰まることも
ない。嬉しい時も悲しい時も、ただ普段と同じように、言葉と表情と行動でしか、その気持ちを表せない。
「クー」
「ん?」
「僕も嬉しいよ」
「そうか……。ありがとう」
僕も空の身体を抱きしめる。間近で見る空の顔は、いつもの通り、いやいつも以上に綺麗だった。どちらからと
もなく、顔を寄せ、唇が重なり合う。空の唇は、暖かくて柔らかかった。
266名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:51:13 ID:lvk6mCbo0
しばらくそうして身体を寄せて、お互いの温もりを確かめ合った後。

「では、少し早いが、ここで事前確認をしてみようか? 何事も、十分な備えをするのは大事なことだ」
「クーってば……」
「こんなことを言うのは恥ずかしいが、実のところ、私は初めてなんだ」
「え?」
「義体になる前には、したとがない。だから、これが初体験ということになる」
「クー……」
「優しく、して欲しい」

……

その日の午後の打ち合わせは、二人とも45分も遅刻して、それぞれ、上司から大目玉をくらったのは言うまでも
ない。食堂での空の発言は、瞬く間に社内に広がった。当然、いろいろと聞かれたけど、二人ともしらを切り通
した。空の方は、あまり気にしていないようだったけど、説得する僕の必死の形相を見て、それなりに理解はし
てくれたらしい。どうせ試験が始まれば同じことするのに、という空の言葉はもっともだけど、社内恋愛は、やっ
ぱりまずいです。分かってください…… orz

そんなこんなで、一気に空との距離が縮まった。この先も、空に振り回されっ放しになるのは、ご想像の通り。
それはまた、別の機会を見て。

267名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:54:30 ID:lvk6mCbo0
一つだけ、忘れていたことがある。電波暗室は、扉を閉じると外界からは完全に遮断される。だから、万一の事
故に備えて、小さな監視カメラが設置されていて、その映像は警備センターのモニターに常時映し出されている
し、レコーダーにも記録されている。そして、守秘義務が課せられるのは、企業秘密に関することや、個人情報
に関することだけだ。当然、社内の情事なんかは、守秘義務の対象外。3日後には、僕と空の関係を社員全員が
知るところとなっていたのは、まあ、不可抗力ということで…… orz

イソジマ電工の社風が、こんなにリベラルでなかったら、と思うと今更ながらに背筋が寒くなる。もちろん、左
遷させられることじゃなくて、空と離れ離れになることに耐えられないっていう意味で、だ。古堅部長に呼ばれ
た時は、正直、もう駄目かと思ったけど、あの穏やかな笑顔で、空をよろしくと言われた時は、それこそ世界が
ひっくり返ったような気分。空曰く、遥太郎なら当然の反応だ、とのことだけど……。まったく、あの二人の考
えていることは分からない。互いの理解の深さを見て、血の繋がりというのはそんなに強いものかと改めて感心
した。

もうしばらく、空と一緒の時間が過ごせる今、僕の最大の関心事は、

「ん? 何を書いているんだ」
わわわ!
「な、何でもないよ。ほら、スケジュールの確認をしてただけ!」
「そうか?」
空は、一瞬、疑わしげな目をして僕の手の中にある手帳を見つめたけど、すぐに僕の顔に視線を移して、いつも
のように、唐突に話題を振ってくる。
「今度の週末は空いているか?」
「週末? うん、何も予定はないよ」
「手帳を確認しないのか?」
「い、いや。ほら、今まで見てたから、大丈夫」
やっぱり、疑わしげな視線を手帳に向ける空。
「で、クーは、どこに行きたいの?」
268名無しさん@ピンキー:2006/11/27(月) 23:58:35 ID:lvk6mCbo0
もはや公認のカップルになった今、僕と空は週末毎にデートする日々が続いてる。結果オーライということだと
思うけど、こんなに心臓に悪いことはもう二度とごめんだ。空の僕に対する気持ちは疑いようがない。でも、も
う少し周囲への配慮というものがあってもいいんじゃないだろうか。もっとも、そうなったら、それはもう、空
じゃなくなっちゃうか。

僕が好きになったのは、いつも冷静沈着で、感情をほとんど見せず、誰にも頼らない。それでいて、僕のことは
地球上の誰よりも愛してくれていて、いつでもどこでも自分の気持ちをストレートに僕にぶつけてくる。どう見
ても矛盾の塊としか思えない。そんな人。

空。君と出会えて本当に良かったよ。願わくば、君も僕と出会えて良かったと、心の底から思えるような人生を
送ることができますように。

今度こそ、了
269名無しさん@ピンキー:2006/11/28(火) 23:03:47 ID:5lkEggfI0
府南病院での私のリハビリ訓練も終盤に近づいてきた。訓練の後に控えている義体操縦免許の認定試験に合格さ
えすれば、退屈な病院生活から解放される。吉澤先生や看護婦さん達やタマちゃんは、とってもよくしてくれて
いるけど、16歳の女の子が何ヶ月も病室に閉じ込められているのは、あまり嬉しい状況じゃないよね。だから、
リハビリ訓練が着々と進んでいくのは、ホントはとっても嬉しいことなんだ。どんなに辛くて苦しいリハビリだっ
て、その後に待っているはずの楽しい高校生活のことを考えれば、耐えられる。

……はずだった。

フツーの生活を送るための一般リハビリ課程をやっているうちは何の問題もなかったよ。でも、私の身体は、特
殊公務員になることを前提にして作られた物。宇宙や海底で作業する時は、どんな危険な状況になるか分からな
い。そのために、いろいろな特殊な機能が組み込まれている。リミッターを外せば150馬力になる筋力や、義眼
の暗視機能やズーム機能なんか、それに比べればゼンゼン可愛いものと思えるくらいの突飛な機能がね。もちろ
ん、特殊公務員の人達からみれば、その機能の有無が生死を分けることさえある大事なものなのは、分かってる。
でも、今の私は、ただの女子高生なんだ。女子高生の腕は、轟音をたてて飛んで行ったりしないよね、フツー。
私はそんな光景をこの目で見ちゃったんだよ。自分の腕が。飛んでいくのを。どんな気持ちか、分かってくれる
かなあ。

「そろそろ『R』の方はいいかしら? だいぶ様になってきたみたいだから、次の特殊装備の訓練に移りましょう」
私の首筋のコネクターにパソコンからのケーブルを繋ぎながら、タマちゃんが非情な宣告を下す。

『R』……通称『ロケットパンチ』。腕に内蔵されたロケットモーターで肘から先を発射する。腕と身体はワイ
ヤーでつながれていて、自分の身体を支えたり、手が届かない場所にあるものを取ったりすることができる。多
分、便利な機能なんだろう。こんな機能、自分ではゼッタイ使うつもりはないんだけど、身体に組み込まれてい
る以上、使いこなせなければ義体操縦免許は取れないことになっている。だから、この1週間位、思い切り嫌な
顔をしながら、それでも訓練は続けてきた。でも、これは、まだ最初の一つ。あといくつあるんだろう。
270名無しさん@ピンキー:2006/11/28(火) 23:07:45 ID:5lkEggfI0
特殊装備は、それぞれアルファベット1文字の略称がついているみたい。大昔にはやった自動車レースをモチー
フにしたアニメで、主人公が乗っていたレースカーにちなんでいるそうだ。ハンドルについた『A』から『G』
のボタンを押すと、車がジャンプしたり、カッターが飛び出たり、水中に潜れたり……。何度かリバイバルされ
ているから、義体開発関係者の誰かの頭の中に、それが残っていたらしい。一見、フツーのレースカーなのに、
いざピンチの時には、ボタン一つで特殊装備が発動して、主人公が颯爽とそのピンチを切り抜ける。現実の世界
でも、そんな風にうまくコトが運んで欲しいっていう気持ちは分かるけどさ。その装備を使う側のことも、少し
は考え欲しいなあ。

特殊装備そのものも同じだよ。『ロケットパンチ』って、アニメの中で身長が何十メートルもあるロボットが超
兵器を使って取っ組み合いを演じていた頃に出てきた物なんだ。カラフルでごてごてと装備を沢山くっつけた装
飾過剰な最近のアニメのロボット達とは趣が違う、白と黒のすっきりとしたデザインのロボット。弟の隆太も持っ
ていた超合金のそれには、しっかりと『ロケットパンチ』が再現されていた。それを思い出したら余計、自分の
身体がおもちゃみたいに思えてきた。まさか、オプションの真っ赤な翼の飛行装置と合体してマッハ3で飛べる
とか、左手がバラバラッて変形しておっきなドリルになったりしないよね。

レースカーのボタンは『G』までだったけど、もしかして私の身体には26文字全部に対応する特殊装備があるっ
てこと? そう思ってタマちゃんに聞いたんだけど、タマちゃん、何も答えずに私のことを哀れみを込めた目で
見つめるだけだった。そんな態度を取られたら、私も、それ以上聞けなくなっちゃうよ。特殊装備に関するリハ
ビリの時は、タマちゃんもいつもの陽気な調子はゼンゼンなくて、淡々と事務的に進めているっていう感じ。まっ
たく、溜息しか出てこないよ。

「…橋さん。聞いてる?」
……聞いてませんでした。
「え、えーと、次の特殊装備は何かなあ」
271名無しさん@ピンキー:2006/11/28(火) 23:12:42 ID:5lkEggfI0
「……聞いてなかったということですね。特殊装備は、文字通り特殊な状況でやむを得ず使用が認められる、場
合によっては本人にも危害が及ぶ可能性のある危険なものなので、私の話はちゃんと聞いてくださいね」
穏やかな話し方だけど、目がゼンゼン笑ってない。真面目に聞いた方がよさそうだ。

「では改めて説明します。今日からは特殊装備『B』の訓練に移ります。八木橋さん、服と下着を脱いで、上半
身裸になってください」
「……はい」
身体に組み込まれた機能を使うんだから、服を着てちゃいけないのは分かるけど、2つ目からイキナリですか……。

「どんな機能なのかなあ?」
「まずは準備してからです。多少の覚悟が必要なので、先にそれを済ませてしまいましょう。これを受け入れる
ことができれば、実際の機能の方は大したことはないですから」
「うー、そんなコト言われたら、余計不安になるじゃないか」
「胸のカムフラージュシールを剥がしてください」
タマちゃん、ゼンゼン取り合ってくれないよう。
「全部剥がしちゃうの?」
「鎖骨の所に貼ってあるものだけでいいです」
「鎖骨?」

確かに、鎖骨のちょっと下あたりに、両肩が繋がる形で平べったくなったVの字みたいな継ぎ目があるのは知っ
ている。でも、今までの検査では一度も触ったことがない。生命維持装置のメンテナンス用ハッチでもないし、
肩関節のモーターの点検用のハッチでもない。何だろうと思ってたけど、これも特殊装備のための継ぎ目だった
のか……。

私の身体には、人工皮膚の継ぎ目が無数にある。普段は特殊コーティングやカムフラージュシールで隠している
けど、それを全部取り去ったら、それこそ継ぎ目がないトコロは無いっていうくらい、縦横無尽に継ぎ目が走っ
ている。そんな姿を他人に見られるのは凄く嫌なことだ。それくらいだったら、菖蒲端の駅前で裸踊りでもする
方がマシだと思ってる。でも、特殊公務員になったら、いざという時は、こういう装備を使わなきゃならなくな
るのかもしれない。私、そんな道はゼッタイ歩みたくないよ。
272名無しさん@ピンキー:2006/11/28(火) 23:18:57 ID:5lkEggfI0
「剥がしたよ。それで?」
「じゃあ、照射準備始めます。まだ動力を繋いでないから、変形だけ。びっくりしないでね」
そう言ってタマちゃんは、パソコンのキーを押した。

カシャン、カチャカチャ、シャキーン

繋ぎ目の皮膚の部分が大きく開いて、中に折り畳まれていた部品が継ぎ目の形そのままに広がっていく。

キュン、パチパチパチッ、カチンッ

広がったそれは、平べったいV字型の真ん中が切れたような形をした薄い金属板。全面が真っ赤に塗られている。

「特殊装備『B』。通称『ブレストファイヤー』です。放熱板から照射される3万度の熱線は、どんな金属でも
一瞬で溶かします。有効距離が短いので……」

……私、コレ、知ってるよ。隆太が持ってた超合金。その胸にも、全く同じ形の物が付いていた。シンプルなデ
ザインに唯一添えられたアクセント。隆太は「そこがイイ」って言ってたけど、私にはとてもそうは思えなかっ
た。まさか、それが自分の身体に付いているなんて……orz

「……八木橋さん、聞いていますか? やっぱりショックだったかしら? 『B』の訓練は明日にして、今日の
ところは『R』のおさらいをする?」
タマちゃんが、パソコンの画面に向かったままで、私に声をかけてくる。タマちゃん、声は平静を装ってるけど、
肩がぴくぴく震えてる……。

あー、もう、こんな生活、嫌だよう!

273名無しさん@ピンキー:2006/11/28(火) 23:21:01 ID:5lkEggfI0
「『B』は、他にもアイデアがあったそうですよ?」
「え、ど、どんな?」
「『Boob Missile』」
「えーと、えーと"Missile"はミサイルだよね。"Boob"は……あっ!?」
「これなら八木橋さんもGカップくらいになったかもね。その方がよかったかな?」
「うー、今のままで、いいです……」
274名無しさん@ピンキー:2006/11/28(火) 23:38:29 ID:AWB8V2Qp0
Dはどっからどう考えてもドリルしか有り得ませんな
275名無しさん@ピンキー:2006/11/29(水) 23:14:03 ID:r85p9Ybn0
>>233

木に登っている間に本降りになっていた雨で、地面にはいくつもの水溜りができていた。その中でも一番大きな
水溜りに向かって頭から、
ベシャアアアアッ!

……訂正。顔面からもろに突っ込んだ。

「ったあああああっ」
この程度のことでどうにかなる身体じゃないけど、痛みだけは人並みにある。鼻が曲がっちゃうんじゃないかと
思うくらいしたたかに打ち付けた痛みに、しばらくの間、顔を押さえてうずくまっていた。

にゃああ。

子猫の鳴き声がしたので顔を上げてみると、すぐ近くまで寄ってきて私のことを見つめてた。一瞬、目と目があっ
たけど、子猫はすぐに身をひるがえすと茂みの中に消えていった。

やれやれ……。

何にせよ、これで子猫の方は大丈夫だろう。でも私の方は……。顔の泥は洗い落とせばいいけど、コートの汚れ
はどうしようもない。はるにれ荘まではあと少し。途中誰にも会わずにたどり着けるだろう。お年寄り達はこの
時間なら、皆眠ってる。でも、アニーは。
276名無しさん@ピンキー:2006/11/29(水) 23:17:09 ID:r85p9Ybn0
>>234 これくらいでカンベンしてください……orz
「あ、松原さん。ちょっと聞いていいかな?」
「はい、どうぞ」
「あの……皮膚の張替えって高いのかなあ?」
「人工皮膚の張替えですか? 場所と大きさによりますが。八木橋さん、どこか怪我をしたんですか?」
「え、ああ、いや、怪我って程じゃないんだけど。顔にちょこっと」
「ちょこっとって……いったい、どうしたんですか?」
「ええと、その、猫に引っ掻かれました」
「猫に? それで、どのくらいの傷なんですか?」
「両方の頬っぺたに10コくらいかなあ」
「そうですか……。大事がなくてよかったです。皮膚の張替えなんて言うから、私、てっきり大怪我をしたのか
と思ってびっくりしましたよ」
「え? あの……ごめんなさい」
「いえ、謝ることはないですよ。それくらいなら、張り替えるまでもないんじゃないですか?」
「えっ、そうなの?」
「ええ。傷の部分を皮膚と同じ素材で補填すればいいんです。動作異常は検出されていないのでしょう?」
「サポートコンピューターの?」
「そうです。大きな損傷を受けていれば、アラームがあがるはずですから」
「そうなんだ。何も出てないから大丈夫ってことだよね。それで、費用はどのくらいになるのかなあ?」
「タダです」
「え? タダなの?」
「はい。その程度の補修費用は、検査料の中に入っています。もともと、皮膚や髪の毛は損耗品ですよ」
「よ、よかった〜〜」
「用件は、それだけですか? 他に怪我をしている所はないですか?」
「うん、ないけど。どうして?」
「八木橋さんのことですから、『木に登って降りられなくなった猫を助けようとした』のかと思いまして。猫の
代わりに自分が落ちたりしていませんか?」
「うー、そ、そんなことないよう!」
「そうですか? それならいいですが。義体が頑丈だからといって、あまり無茶はしないでくださいね」
「うん、ありがとう、松原さん。じゃあ、これで。また何かあったらよろしくね」
277名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 01:53:58 ID:gpaA1Qp10
猫や犬は頭がいいから、たとえ相手が機械の塊でも、自分と同様に知能や心をもつ「者」であることはすぐに見抜くと思う。
そうは言っても、知らない動物などに初めて出会ったらまずは警戒するのは猫も犬も人間も変わらない訳だが…。
278名無しさん@ピンキー:2006/11/30(木) 23:15:01 ID:H7pfdDoe0
>>275

アニーははるにれ荘を管理するAIだ。女の子の姿をしているけど、本体は1階の管理人室に設置された大きな
コンピューターの中にいる。アニーに眠りは必要ない。アニーは、はるにれ荘の中のことなら何でも知ることが
できる。そして、アニーの好奇心は底無しだ。こんな格好をして帰ったら、何があったか根掘り葉掘り聞き出そ
うとするだろう。アニーにとって、私は『面白いこと』の塊なんだ。そして私から聞き出したことを、尾ひれを
つけて面白おかしくお年寄り達に吹聴してまわる。

須永さんの言葉を借りると、これも社会的コミュニケーション能力向上のために必要なことなんだそうだ。だか
ら大目にみてやって欲しいと言われてる。私がタダではるにれ荘に住んでいられるのも、そういう面で私がアニー
にとって必要な存在だから。とは言っても、子猫を助けようとして木から落ちました、なんて恥ずかしすぎるよ。
明日、アニーに会ったら何か聞かれる前に、石に躓いて転んだとでもなんとでも言ってごまかさなきゃ。

アニーの朝は結構早い。はるにれ荘の管理に加えて、お年寄り達の身の回りの世話も基本的には全てアニーがやっ
ている。クララベルが来てからは、ある程度分担しているみたいだけど、アニーが忙しいことに変わりはない。
アニーが自分の部屋に一人でいる時を狙おうとすると、時間帯がかなり限られてしまう。

そんなわけで、いつもより早起きして、アニーの部屋の前で筋書きを復唱しながら、ドアをノックするタイミン
グをはかっていると。

みゃああ。
にゃあ?
みゃう。
にゃ〜ん。

あれれ? 鳴き声が二つ? 一つは子猫のものとしても、もう一つは?

ノックしてドアを開けると、部屋の中央で子猫を抱いたアニーが座っていた。でも他に猫の姿はない。
279名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 23:18:52 ID:5TbK18Uq0
ざっざっざっ

落ち葉を掃き集める小気味良い音。

今日のバイトは学内清掃。大抵の大学はそうだと思うけど、星修大キャンパス内も木が多い。秋になるとそれが
一斉に葉を落とす。落ち葉の積もり具合を見ながら、週に1回くらい、バイトの学生を使ってその落ち葉を片付
けるようにしているらしい。

いつもの通りバイトを探していたんだけど、手頃なバイトっていうのはなかなか無いものだ。かといって、ぶら
ぶら遊んでいられるような気楽な身分じゃない。何か情報はないかと思って生協の掲示板を見ていたら、ちょう
どこのバイトの張り紙が目にとまった。学内で募集される学生を対象としたアルバイトは、生活の支援の意味も
あってフツーのバイトよりは気持ち高めの時給になっているものなんだけど、これはそうじゃないみたい。この
条件じゃ、普段だったらやる気にならないだろうなあ。でも、今は少しでもお金が欲しいんだ。

それで、すぐに生協の窓口に行って申し込みをした。今日張り出されたばかりだったし、あの条件じゃゼンゼン
人が集まらないんじゃないの?と思ってたのに、私で定員に達したので締め切りますと言われて驚いた。私のす
ぐ後に来た二人連れの女の子達は、それを聞いてひどく残念がっていた。こんなバイトのどこがいいって言うん
だろう? ヘンなの。まあ、人それぞれぞれ。落ち葉掃きが好きな人がいたっていいけどね。私も、女の子なの
に力仕事ばかり選んでいるから、傍から見たら変わり者なんだろうからさ。

落ち葉掃きもどちらかと言えば力仕事かなあ。一面に散った枯れ葉を竹箒で掃き集めるのは、結構力がいる作業
だよね。だから、女の子は私一人かと思ってた。ところが、当日集まった顔ぶれを見て、またびっくり。男の子
は一人もいなかった。しかも人数が定員よりちょっと多いんだ。募集の係の人が人数を間違えたんじゃなくて、
当日飛び入りのボランティアだった。世の中、不思議なこともあるもんだね。まさか、学内に『落ち葉掃き同好
会』とかいうものがある、なんてことはないよね。
280名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 23:24:01 ID:5TbK18Uq0
そんなバカ話は置いといて。ボランティアで集まるくらいだから、彼女達の力の入りようは半端じゃない。この
寒い中で、コートを脱ぎ捨てて額に汗をかいて、一心に落ち葉を集めてる。1枚たりとも逃さない。誰もがそん
な感じなんだ。落ち葉を集めるのがだーいすきー、とも思えない。学内を綺麗にすることにこんなに熱心になれ
るなんてホント感心しちゃう。私なんか、いくら掃き集めたって葉っぱはどんどん落ちてくるんだし、来週も清
掃はあるはずだし、たとえ集め損ねても土に戻るだけなんだし、とか考えてた。いや、手を抜こうってことじゃ
なくて、彼女達ほどの熱意はないってことだけど。

私の電気で動く体は、このくらいの運動量なら、モーターが暖まりさえしないだろう。たとえ体温が上がったと
しても、汗をかくなんてこともない。汗だくで働いている彼女達の姿を見ると、なんだか申し訳ない気持ちになっ
てくる。それに、彼女達はきっと身体を動かす喜びも感じているんだろう。機械の塊の身体では、そんなモノ、
感じようがない。ちょっぴり羨ましく思ちゃったよ。

お昼過ぎから2時間弱。学内の落ち葉は1枚残らず集まった、と思えるほど、落ち葉を入れた袋が沢山できあがっ
た。みんな、嬉しそうな顔をして、お互いに労をねぎらいあっている。後は、この落ち葉の袋を焼却場にもって
行くだけ。それでバイトが終わって、その場でバイト代が手に入る。久しぶりに気持ちのいい仕事ができたなあ。

でも、誰も動かない。誰一人、落ち葉の入った袋を運ぼうとはしないんだ。このまま袋をここに置いといたら、
いつまでたってもバイトが終わらないじゃないか。とうとう痺れを切らした私が袋に手をかけようとしたその時。

「みんな、お疲れさま。沢山集めたわね〜」
声の主は、生協の事務員で、窓口でこのバイトの受付をしていた人だった。名前は、えーと…。
「あ、白石さん、待ってました!」
「えへへ、すごいでしょ!」
「私、もう、くたくた〜」
「早く始めましょうよう」
白石さんを取り囲んで一斉に喋り出す。私一人、後に残されて、狐につままれたような顔をするばかり。みんな、
白石さんを待っていたみたいだけど、一体何が始まるの?
281名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 23:29:38 ID:5TbK18Uq0
「そうね。風もないみたいだから、始めましょうか」
白石さんの一声で、みんな歓声をあげて袋の方に駆け寄っていく。あっというまに、袋の中身が取り出され、枯
葉の山がそこここにできあがる。その山を前に、思い思いの姿勢で陣取る彼女達。

え? え? せっかく集めた落ち葉なのに、一体何を?

さらに、誰かが用意してきた新聞紙を丸めたものが差し込まれ、火がつけられて、やっと焚き火をしようとして
いることに気が付いた。

まあ、どうせ焼却炉で燃やすものだから、今ここで焚き火にしたっていいけどさ。風はなくてもじっとしている
と寒いだろうっていうのも想像できる。でも、小学生じゃあるまいし、たったそれだけの理由でこんなにはしゃ
いでるっていうの? 何か私には分からない別な理由があるんだろうか?

一旦、事務所に引っ込んでいた白石さんが戻ってきた時、その理由が分かっちゃった。白石さんは、両手に大き
な袋をいくつもぶら下げていた。その袋の中に入っていたのは……サツマイモ、だった。

そう。落ち葉焚きで焼き芋。食欲の秋の定番だよね。こんな身体じゃなかったら、すぐに思いついていたはずだ
よ。最後に焼き芋を食べたのはいつだろうなあ。義体になる前の冬だから、ええっと……。

手際よくアルミホイルに包まれたサツマイモが焚き火の上に並べられ、さらにその上から落ち葉がばさばさとか
けられていく。あと30分もすれば美味しい焼き芋の出来上がりだ。

「えーっと、八木橋さん、だったよね?」
私の隣にいた人が声をかけてくる。教育学部の1年上の先輩だ。新入生の歓迎コンパの時にお世話になったっけ。
「はい」
「八木橋さんは、このバイトは初めてみたいね?」
私の戸惑った様子から、そう判断したんだろう。
282名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 23:33:58 ID:5TbK18Uq0
「焼き芋のことは知らなかった?」
「ええ、ちょっと予想外でした」
「あら、そうだったの? 白石さんの焼き芋、学内の甘い物好きの間では、結構有名だと思うんだけどなあ」
佐倉井あたりも知っているんだろうか。私は、食べ物の話はあまり聞きたくなくて、大抵は話題を変えちゃうか、
適当に相槌をうって聞き流してるからなあ。

「学生アルバイトがなかなか集まらなくて、白石さんが始めた苦肉の策だったのが、今じゃほとんどの子が、こ
れを目当てにバイトを申し込んでいるみたい。競争が激しくて、毎回、ボランティアが出るくらいの人気になっ
ちゃった。世の中って面白いものね」
あの二人連れの女の子達もそうだったんだろうか。悪いコトしちゃったかなあ。
「張り紙を見てすぐに申し込んだつもりだったのに、私で締め切りと言われてびっくりしました」
「八木橋さんも、甘い物、嫌いじゃないんでしょう?」
「え? ええ、まあ……」
陸上部の練習の後でまりちゃん達と一緒に食べる焼き芋の味は格別だった。食べ過ぎるとタイムにひびくよー、
なんて冗談を言い合いながら、グランドの隅っこで車座になって皆で食べたっけ。あれは、ホントに美味しかっ
たなあ。
「八木橋さん、運がいいわね」
……運がいい? 私が? 確かにフツーに考えたらそうかもしれないね。締め切りに間に合わずにボランティア
で来ている人達から見たら、ちゃーんとバイト代を貰えて、しかもお芋も食べられる。運がよくないはずがない
よ。でもね。

でも、私にはお芋は食べられない。この身体は味気ない栄養カプセルしか口にできない機械の塊。はふはふしな
がら口一杯に頬張ったお芋の心地よい熱さも、柔らかな甘みも、香ばしい匂いも、何一つ分からない。みんなと
一緒にお芋を食べるふりをすることさえできないんだ。

駄目だ。ここにこれ以上いられないよ! お芋が焼きあがって、私一人だけ食べずにいるなんて不自然すぎる。
勧められたって、断るしかないじゃないか。白石さんに言って、ここで帰らせてもらわなきゃ。
283名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 23:39:29 ID:5TbK18Uq0
焚き火にあたりながら談笑しているところに割り込んで、白石さんに声をかける。
「あの、白石さん」
「はい、八木橋さん、でしたね? 何かしら?」
「私、用事があって、これで帰らせていただきたいんですけど……」
「え? あと少しでお芋が焼けますよ。せっかくだから、一口でも食べていきませんか?」
ちょっと驚いた顔の白石さん。そりゃそうだよね。みんな焼き芋目当てで来てるんだ。ここで帰っちゃったら、
元も子もないんだもん。
「いえ、あの、急ぎの用なので……。すみません」
「そう……。残念ね」
本当に残念そうな顔。白石さんにとっては、さほど良くない条件でも集まってくれた人達への感謝と労いの気持
ちを込めたものなんだろう。バイト代だけでは申し訳ない。そんな表情をしている。でも、私はここにいる方が
辛いんだ。
「じゃあ、バイト代をお渡ししますから事務所まで来てください」
白石さんに従って事務所の方に歩いていく。後に残った人達が、どんな会話をしているか、想像に難くない。こ
の話がクラスの女の子達に伝わったら、また陰口の材料にされるんだろうなあ。

重い足取りで家路につく。久しぶりに爽やかな気持ちでバイトを終えられると思ったのに。なんでいつもこうな
るんだろう。フツーの人にとっての幸運が、私にはその正反対になっちゃうんだ。それもこれも、みーんな作り
物の身体のせい。

あれだけ徹底して掃き集めたのに、もう地面には落ち葉が一面に敷き詰められている。さくさくと音をたてて私
の足の下で踏み砕かれていく枯れ葉達。木々は、もうすっかり葉を落として冬支度を始めてる。あらゆる命ある
ものが、こうして四季の営みを続けながら、生まれ老い死んでいく。その中で、私一人だけが永遠の16歳を繰り
返す。今年も、来年も、その先も、ずっとずーっとこの姿のまま。たとえ加齢処理を受けたとしても、この身体
が作りモノなことに変わりはない。限られた感覚とできないことだらけの機械の身体。150馬力の筋力も暗い所
でもよーく見える義眼も、私を本当の幸せに導いてくれることはないだろう。
284名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 23:45:24 ID:5TbK18Uq0
そういえば、もうすぐ私の誕生日が来る。小さい頃は、誕生日を迎えるたびに、新しい世界が開けていくような
気がしてわくわくしてた。今の私は、あの頃の気持ちを忘れてしまっている。

そうだよね。私がこんな気持ちでいたら、せっかく掴んだ幸運も不運に変わっちゃうよ! うん。今日だってバ
イト代がちゃーんと入ったんだ。何も落ち込むことはないじゃないか。白石さんの焼き芋も、佐倉井やジャスミ
ンに話したら、きっと面白がってくれるだろう。佐倉井は、もう知っているかもしれないけれど、それをネタに
楽しいお喋りができればいいんだよ。今日の出来事明日への活力。くよくよしたってしょうがない。明るく楽し
く生きていきたいよ。

八木橋裕子19歳。明日もバイト探しにがんばるぞう!

285名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 23:22:44 ID:7h1eItsn0
「あ、あれ?」
「藤原、なにきょろきょろしてるの?」
「え? 裕子さん、感じない?」
「何を?」
「いや、なんだか急に薄暗くなった気がして……」
空を見上げても雲一つない。久しぶりの快晴だ。
「身体の調子、悪いんじゃない? ここしばらく、休みとれてないでしょ? ほら、あそこのベンチで休もうよ」
「う、うん。裕子さん、ごめん」
手近なベンチに並んで腰をおろす。私の身体は疲れるなんてことないから、いつも藤原に無理させちゃう。今日だって仕事
でずっと忙しかったのに、私に合わせて時間を決めてくれたんだ。行きたい所はいっぱいあるけど、今日はこうやってゆっ
くり休んでいた方がよさそうだ。ベンチに座っても、藤原は相変わらずあたりを見回している。

「藤原?」
「うーん。さっきより、もっと暗くなったみたい。裕子さんは本当に何も感じないの?」
「少し横になって休んだら? 膝枕してあげるからさ」
「う、うん」
藤原は、まだ釈然としない様子だったけど、それでも、私の言葉に従って横になろうとする。
「変だなあ。今日、何かあったか……あっ」
小声をあげると、私の顔をちらりと見て、それっきり口をつぐんで私の膝に頭を預けて横になる。一体、どうしたっていう
んだよう。私には何がなんだか分からない。こんなにいい天気だっていうのにさ。

そう思ってあたりを見回すと、周りの様子も少し変だった。さっきの藤原みたいにきょろきょろしたり、手びさしをして空
を見上げたりしてるんだ。もしかして変なのは私の方? 藤原は私の膝に頭をを預けたまま目をつぶってじっとしている。
286名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 23:30:06 ID:7h1eItsn0
「藤原?」
……返事がない。
「藤原、教えて」
「何? 裕子さん」
「気づいているんでしょ? ヘンなのは藤原じゃなくて私の方。ねえ、何が起きてるの?」
藤原は私の顔を見つめて黙ったまま。しばらく睨めっこが続いた後、藤原がぽつんと呟く。
「今日は日食なんだ」
日食……。そうか、藤原は私の義眼のことを知っている。それで、さっきあんな顔を……。

私の目は機械の目。暗いところでも良く見える。日食で日の光が弱くなっても、自動的に光量補正されちゃって分からない。
映画館とかなら暗いって分かっているけど、まさか日食なんて思いつかなかった。生身の目だったら、きっと藤原と一緒に
空を見上げてさ、うわ、凄いねー、とか言えたのに。でも、今は、一緒にいても藤原と同じ物を見たり感じたりすることが
できない。真夏の暑さも、真冬の寒さも、春に咲く花の香りも、秋に食べる焼き芋の美味しさも。こんなに近くにいても、
藤原とは何一つ分かち合うことができないんだ。それは私が機械女だから。

藤原、こんな私と付き合っていて本当に楽しいの?

そんなことをぼんやりと考えていると、藤原の頭を撫でていた私の手を、藤原の手がそっと包み込む。
「?」
見下ろすと藤原の目が私の目をしっかりと見つめている。
「裕子さんの膝、とても温かいよ」
藤原。藤原……。私も藤原の目を見つめ返す。
「うん。藤原、ありがとう」
287名無しさん@ピンキー:2006/12/02(土) 23:35:29 ID:7h1eItsn0
藤原はいつだって私の気持ちを気遣ってくれている。私の前では決して物を食べないだけじゃない。私が身体のことで一人
で落ち込んでいる時は、いつだってこうやって私の気持ちを引き立ててくれる。だから私は自分が機械の塊じゃなくて、心
を持ったニンゲンだっていうことを思い出すことができるんだ。コスプレ好きだったり、デートコースの選択がおやじっぽ
かったりするけどさ。でも、私にとっては、かけがえのないたった一人の人なんだって最近思うようになった。

「裕子さん?」
藤原の心配そうな声。考え事をしていて手が止まってた。
「今日はどこに行こうか? いつも私に合わせてくれてるから、今日は藤原の行きたい所でいいよ」
藤原の顔がぱっと輝く。
「あ、でも、コスプレショップは勘弁ね」
とたんにかわいそうな程しょげかえる。ふふん。あんたの考えることなんてちゃーんとお見通しだよ。ホント、藤原って正
直なんだから。

眉をひそめてどこに行こうか悩んでいる藤原の顔を見て私も考える。さっきはあんなこと言ったけど、きっとまた、私が喜
びそうな場所を考えようとしてるんだ。そんなに考え込む必要なんてないんだよ。藤原と一緒なら別にどこだっていいんだ
から。このままずっとここにいるだけだってかまわない。私の傍に藤原がいてくれる。それだけで私は幸せになれるんだ。

藤原、大好きだよう!

288名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 02:27:25 ID:AraTyITG0
たとえ機械の廃熱だとしても、それが貴女の体ならば貴女のぬくもりなのです。
たとえ固い材質だとしても、それが貴女の肌ならば貴女の手触りなのです。
289名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 23:21:50 ID:MtM5Sj+l0
>>288 妄想してみた。

「あれっ? ヤギー、どうしたの? 室内で手袋なんかして?」
「うん、ちょっとね」
「ヤギーが手袋するの、初めて見るよ? どこか具合でも悪いの?」
ジャスミンはいつも私の身体のことを気遣ってくれる。ゴメンね。理由を言えなくて。
「ジャスミン、放っとけ。どうせ、また怪しげな恋のまじないでもしてるんだろうさ」
うー、そんなんじゃないよう。でも、ここで反論したら、理由を言わなきゃならなくなっちゃうよ。佐倉井に何
を言われても今は耐えるしかない。だって、手袋の下は……

昨日の定期検査が一通り終わってほっと一息ついていた時。
「八木橋さん、すみませんが、検査室に戻ってください」
「あれ、松原さん、どうしたの? もう、検査は終わったのに」
「たった今、本社の方から連絡がありまして……」
「何か悪い知らせ?」
「そうですね。義手のサブコンピュータに不具合が見つかったそうです」
「そうなんだ。それで松原さんが、それを知らせに来てくれたんだ。いつもいつもありがとうね、松原さん」
「これが仕事ですから。でも……」
松原さん、いつもと違って歯切れが悪い。

私の身体は機械の塊。病気や怪我とは関係ない。どこか壊れたって部品をちょっと取り替えればすぐに元通り。
今までだって、何度もこういう連絡を受けて部品交換をしてもらってきた。もうこんなの慣れっこだ。

「じゃあ、さっさと済ましちゃってよ」
「いえ、それが……」
290名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 23:27:05 ID:MtM5Sj+l0
「え? まだ何かあるの?」
「今回の不具合は、まだ原因が特定されていないのです」
「じゃあ、修理もナシ? それでなんで検査室に行かなきゃいけないの?」
「義手が制御不能になる恐れがありまして、全品回収修理の通知が各病院宛に送られているそうです」
「回収?」
「そうです。原因が特定できるまでは、身体から取り外して本社のラボで保管することになりました」
「取り外すって……この腕を?」
「そうです。申し訳ありませんが」
「原因はいつ分かるの?」
「さあ、明日か、来週か、来月か……」
「ええっ! じゃ、じゃあその間は……」
「代用の義手は既に届いていますので、それを代わり使っていただくようにという指示です」

イソジマ電工から送られてきたのは、旧型の標準義体の骨格に、硬質シリコンを貼り付けたロボット用の腕そっ
くりのモノだった。
「松原さん、酷いよう。私の身体にこんなモノをくっつけるなんて!」
「すみません。これも規則ですので……」

誰の目にも作り物だってはっきり分かる機械の腕。法律に反しないようにするためには、こういう「ニンゲンの
腕じゃないもの」を使わなけりゃならないんだ。

私の身体は、元の身体そっくりに作られている。それは法律で決まっているからだ。よほど特別な場合を除いて
は、義手や義足でも、違った形のものを取り付けることは認められていない。お金に余裕がある人達は、万一の
時に備えて手足のスペアを用意してるって聞いたことがある。でも、貧乏な私がそんなモノ、用意できるはずが
ない。
291名無しさん@ピンキー:2006/12/03(日) 23:36:59 ID:MtM5Sj+l0
「本来の義手が使用できない期間に応じて補償金をお支払いするとのことですので、申し訳ありませんが、これ
でしばらくの間がまんしてください」

さんざんごねてみたけれど、本社の決定を覆す力が松原さんにあるはずもなく、結局その場で、両腕ともそのロ
ボットの腕に交換されちゃった。元の身体そっくりの義体でさえ、バレないように苦労しているっていうのに、
こんなものを付けられちゃって、私、一体どうしたらいいの……。

松原さんの知恵も借りて、どうごまかそうかと考えたあげく、手袋で隠すことに決めたんだ。冬に手袋をするの
は別にヘンなことじゃない。それでも、四六時中、外さずにいるのは不自然だよね。知り合いに会ったら、いろ
いろと聞かれるかもしれないから、なるべく外出を控えるしかないよ。バイトもしばらくお休みだ。補償金が入
るとはいえ、バイトの収入がなくなるのはかなり痛いし、バイト先の人達にも迷惑かけて申し訳ないと思ってる。
とっても心苦しいよ。他にいい考えがあればなあ……。

で、とりあえず、佐倉井とジャスミンはなんとかなったけど、あと一人、一番大事な人が残ってる。

そう、藤原が。こんなロボットの腕、藤原には絶対見られたくない。でも、私がヘタな言い訳をしたら心配する
に決まってる。会いたくないなんて言ったら、もっと心配するだろう。辛いけど、藤原には、正直に話すしかな
さそうだ。

藤原、こんな機械女でごめんね。この腕を見ても、私を嫌いにならないで。お願いだよう。

292名無しさん@ピンキー:2006/12/04(月) 02:03:10 ID:MWsDi16A0
なんか藤原の事だから機械丸出しの腕と知るや新たなコスプレのネタを思いつきそうだ…orz
あんまりヤギーに嫌な思いをさせるなよ、藤原。

まあ絶対越えちゃいけない最後の一線だけはちゃんと守ると信じてるけど。
293名無しさん@ピンキー:2006/12/06(水) 20:02:59 ID:hxvuFfbx0
>>292
お前帰れ!
294名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:34:41 ID:Bxs5wilH0
「あ、藤原? ごめんね。20分くらい遅くなりそう」
「ん。OK。無理して急がなくていいからね」

今日は藤原とのデートの日。バイトのせいで遅刻しそうなので藤原に電話した。急がなくてもいいなんて言われ
たって、少しでも長く藤原と一緒にいたい私は、ゆっくりなんてしていられない。それに、藤原のヤツ。私がど
んなに遅刻したって、必ず待ち合わせ場所でずーっと私が来るのを待ってるんだ。私を待たせたくないんだろう
ね。暑くても寒くても雨が降っても風が吹いても。まったく律儀というかバカ正直というか……。だから私も急
がなきゃ。

「藤原!」
「あ、裕子さん!」
「ごめん、待ったよね?」
「ううん、俺も今来たとこだよ」
鼻の頭が真っ赤だし、唇が紫色になってるじゃないか。ヘタなウソついて、ホント藤原ってバカなんだから。私
なんかのために……。
「あれ、裕子さん、手袋買ったんだ」
「う、うん。だいぶ寒くなってきたからね」
私の手は機械の手。どんなに寒くても電気の力でいつも36度を保ってる。身体の他の部分よりも温度感覚が敏感
だけど、手袋なんか必要ない。藤原、きっと不思議に思ってるだろうなあ。

その藤原が私の手をじっと見てる。私が手袋を外すのを待ってるんだ。冬になったばかりの頃、私を待ってた藤
原が寒そうにしてたから、私、思わず藤原の手をぎゅって握っちゃったことがある。私のために寒い思いをして
いる藤原に何かしてあげたかったから。たとえ電気の力で温度を保っているだけの作り物の手でも、藤原の手を
温めてあげたかった。藤原、顔を真っ赤にしながら、それでもとっても嬉しそうだった。その時から、私が藤原
の手を握るのがデートを始める時の儀式になっている。藤原はそれを待っているんだ。でも、今日は……。
295名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:39:59 ID:Bxs5wilH0
「藤原、行こうか?」
「え? う、うん」
藤原、ポケットから出した手を所在なげにぶらぶらさせている。いつもだったら、そのまま手をつないで一緒に
歩き出すトコなんだ。それなのに、今日の私は手を握ることも腕を組むこともできずにいる。早く言わなきゃと
思っても、切り出すきっかけをつかめない。藤原、私の顔をちらっと見て、俯いたまま私の後を歩き出す。

その後、映画館でもデパートでも、私は手袋を外さなかった。会話は途切れがちになり、藤原が気遣わしげに私
の顔を見る感覚が短くなっていく。それでも私は手のことを藤原に言うことができなかった。

そして、とうとうデートの最後のメニュー、ラブホでえっちの時がきた。セーターを脱いだところで手が止まる。
手袋ははめたまま。長めの手袋だけど、肘から上は隠せない。それにどんなに長い手袋だって、肩の継ぎ目まで
は隠せっこない。人工皮膚と硬質シリコン被覆の継ぎ目はカムフラージュシールなんかでごまかせるようなモノ
じゃない。いっそこのままでえっちしようよって言っちゃおうか。もしかしたら来週のデートの時までには、腕
が直ってくるかもしれないんだし。

そう思って、藤原の顔を見てハッとした。藤原、私の顔をじっと見てた。そして、とっても悲しそうな顔をして
た。私、藤原に隠し事をしてるんだ。藤原にとっては、それが一番辛いことなんじゃないだろうか。

「藤原……」
「なに、裕子さん?」
「手袋のコト、聞かないの?」
「裕子さん、話したくないんでしょ?」
私が嫌がることはしない。私が嫌がることは聞かない。藤原は、いつだって私のことを一番に考えてくれている。
それに引き換え、私の方は……。

「藤原、あのね……」
どうしても、その先を続けることができない。
296名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:44:11 ID:Bxs5wilH0
「いいよ、裕子さん。無理しなくても。今日はそのままでやろうよ」
そう言って藤原は微笑んだ。とっても優しくて、とっても寂しそうな微笑だった。……駄目だ! このままじゃ、
藤原の気持ちを裏切っちゃう!

藤原の目を見つめながら、シャツのボタンに手をかける。
「ゆ、裕子さん!」
「いいの。藤原、私の身体、しっかり見てね」
手袋をした手ではボタンをうまく外せない。ひとつずつゆっくりとボタンを外していく。

露になった両肩には補修用のテープがべたべたと貼られている。その隙間から鉛色の超合金製の骨格や、色とり
どりのコードやチューブが覗いてる。もともと私の身体に合わせて作られたモノじゃないから、皮膚までぴった
り合わさるわけがない。肩から先は、いかにも作り物って感じの、チューブから出した絵の具そのまんまの肌色
に塗られた硬質シリコンで覆われている。点検用のハッチの継ぎ目や剥き出しの接続端子や骨格の一部が、とこ
ろどころに見えていて、ロボットの腕以外の何物でもない。

シャツをベッドに放り投げて、更に手袋を外す。形はニンゲンの手を真似ているけど、何のディテールも無い、
のっぺりとした人形みたいな手。

藤原は私の言葉をじっと待っている。
「私の腕、この間の検査の時に不具合があるからって取られたんだ。代わりにこんなおもちゃみたいな物をくっ
つけられちゃった」
藤原はまだ黙ってる。
「おかしいでしょ。私の身体、みーんなこれと同じなんだよ。ちょっとできがいいだけで、中身が機械なのは変
わらないんだ」
297名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:48:22 ID:Bxs5wilH0
藤原を心配させないよう、なるべく穏やかに話そうと思ってた。でも、ロボットの腕が目に入ったら、どんなに
取り繕っても所詮は作り物の身体だっていうことが、無性に惨めに思えてきて、つい自嘲的になっちゃった。一
度、そんな喋り方を始めたら、もう止まらない。藤原に向かって両手を突き出して、さらに棘のある言葉を吐き
出した。
「ほら、先週見た映画にも、こんな手足をしたロボットの女の子が出てきてたよね。藤原が好きそうなカッコし
てたじゃないか。今だったら、あの子そっくりなコスプレができちゃうよ? 藤原もs  うわっ」

藤原のがっしりした手が私の両肩を掴んでる。
「藤原?」
「裕子さん」
こんなに真剣な顔をして藤原、見たことない。
「俺、裕子さんがそんなコスプレするの見たくないよ」
「え?」
「俺、裕子さんがそんな顔するのも、そんなことを言うのも嫌だ」
「藤原……」

藤原が私の右手をとって自分の頬にあてる。
「裕子さんの手、温かいよ。たとえ見かけが変わっても、これは裕子さんの手だよ。俺の大事な裕子さんの手だ
よ」
藤原、もしかして泣いてるの?

そうだ。藤原は、『私』を好きになってくれたんだ。ごはんが食べられなくて、体重が120キロあって、リミッ
ターを外せば150馬力になる、そんな身体のことをいつも気にしてグチを言っては藤原を困らせてる八木橋裕子っ
ていう女の子を。私の身体が何でできていようと、外見がどうなろうと、藤原にとっては何の違いもないんだ。

私が自分に自信を持てなかったばっかりに、藤原の心を傷つけてしまった。私は自分を信じなかっただけじゃな
い。藤原の心も信じなかったんだ。これって、機械女とかお人形さんとか陰口を言うよりも、ずーっと酷いこと
だよね。ごめん。ごめんね、藤原。
298名無しさん@ピンキー:2006/12/08(金) 23:53:25 ID:Bxs5wilH0
急ごしらえのニセモノの手には温度感覚なんか付いてない。でも、私の手を包んでいる藤原の手は温かい。藤原
の心がこもっているんだもの。それを感じることができて、私、とっても嬉しいよ。

どちらからともなく顔を寄せて唇を重ねあう。いつもより、ずっと、ずーっと甘いキス。いや、藤原の涙でちょっ
ぴりしょっぱいか。おかしいよね。私、味なんか分からないはずなのにさ。

ラブホからの帰り道。私の手は藤原の手をしっかりと握ってた。もう私はこの手を離さない。藤原は私の心を優
しく、でも力強く包んでくれている。だから私もそれに応えなきゃ。藤原が私にしてくれていることに比べたら、
継ぎ目だらけの身体やロボットみたいな腕を藤原の前に晒すことなんかゼンゼン大したことないよ。

「?」
藤原が私の方を振り返る。少し手に力を入れすぎたみたい。十分に調整してもらったはずだけど、力の加減が微
妙に違う。
「ごめん。なんでもないよ」
「ん」
藤原もちょっとだけ手に力を入れてくる。

この先も、私の体のせいで、いろいろなことが起こるだろう。でも、この気持ちを忘れずにいられれば、絆が深
まることはあっても切れることは絶対にない。

藤原、大好きだよ。いつまでも、いつまでも一緒にいようね。約束だよ!

299名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 00:16:01 ID:gssxmplv0
#誕生日おめでとう。

「お疲れ様でしたー」

今日も1日よく働いた。ここのバイトを始めて1週間。職場の雰囲気は悪くない。仕事の内容も結構楽しい。この
ままずーっとここで働き続けられたらいいなあ。前のバイトは、身体のことがバレて居づらくなって辞めちゃっ
た。私が義体だという申告書を偶然職場の人が見て皆に教えて回ったらしい。普段通りにバイトに行ったら、な
んとなく雰囲気がおかしいんだ。挨拶してもぎこちない返事が返ってくるし、私の方をチラ見しながらひそひそ
話をしているし。ああ、またか、と思っていたら案の定。休み時間に、『八木橋さん、サイボーグだって噂だけ
ど、本当?』なんて、その噂を広めた本人が、さも驚いたって顔で聞いてきた。

こんなやり取りを、一体何回繰り返してきたことだろう。もうちょっと長くいたかったけど、そんな状態になっ
たら、辞めるしかないよね。法律で義務付けられていることとはいえ、申告書を出すのは考え直した方がいいか
なあ。今度、申告書のせいで身体のことがバレたら、次からはもうバカ正直に出すのは辞めようかなあ。万が一、
事故があったら後が大変だけど。保険の保護を受けるのにも、こんなことで悩まなきゃならないなんて、ホント、
義体ユーザーに優しくない世の中だよね。

さて。今日は12月9日。1週間分のバイト代が入って、懐がちょっとだけ暖かい。普通なら、美味しいモノを食べ
て、ちっちゃなケーキでも買ってお祝いを、っていうところなんだろうなあ。あ? 彼氏と一緒にバースデーイ
ベントのデート、なんて発想は出てこないのかっていうツッコミは無しね。そんなの、私にとっては、仮定の上
でさえ成り立たない、夢のまた夢だもん。家族がいた頃は、誰かの誕生日には一家揃ってレストランで食事をす
るのは当たり前のことだった。でも、栄養カプセルしか口にできない今の私には、そんなありふれた光景でさえ、
無縁のものなんだ。

はるにれ荘に着いた時には、もうだいぶ遅い時間になっていた。お年寄り達も寝てしまっているのだろう。灯り
が消えて真っ暗だ。私もアニーもクララベルも、暗くても不自由することは無い。自分の部屋に戻っても、灯り
をつける気になれずに、そのままベッドに倒れこむ。
300名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 00:22:02 ID:gssxmplv0
今日でまた、私は1つ歳をとる。加齢処理を施す余裕のない私の義体は、誕生日を迎える毎に、本来あるはずの
姿からどんどん離れていく。制度上、身体の成長が止まる16歳を目処にして義体のレンタルが打ち切られ、原則
買取に切り替わる。私の身体も買取だ。事故の保険金のかなりの額が、この買取で消えていった。残ったお金で
は月々の検査代や3年に一度の入院検査を賄うにも十分じゃない。ましてや、加齢処理なんていう贅沢は、私に
は許されていない。この先何年間か、ひょっとしたら一生、この姿のままかもしれない。一流企業に就職できな
ければ、月々の検査代にも事欠くことになるだろう。だからと言って、今更、特殊公務員の道を歩むことなんて
できないよ。今の成績では、一流企業なんてとうてい無理だと分かってる。もっと頑張って勉強しなきゃ。

年に1度の誕生日だと言うのに、頭に浮かぶのは気が滅入るようなコトばかり。いつまでも起きていても、いい
ことなんか何もない。何かすることがあったような気もするけど、思い出すのも面倒だ。もう寝てしまおう。

『コンコン』

控えめにドアをノックする音。こんな時間に誰だろう?

ドアの向こうに立っていたのはアニーだった。両手を後ろに組んで、上目遣いに私の様子をうかがっている。
「アニー、何か用?」
また何か私をからかうネタを見つけたんだろうか? 今は、あまりアニーの相手をしている気分じゃないんだけ
ど。
「ヤギーに渡したい物があるの」
ああ、郵便物か。以前は、おじいちゃんからの荷物を受け取ってもらっていたけど、今は……。そんなの明日で
もいいのに。
「んー、ありがとね」
そう言って差し出した手に、アニーはリボンをかけた小さな箱を置く。え? これって……。
「ア、アニー?」
アニーは私の問いには答えずに、低い小さい声で歌い出した。
「ハッピバースデートゥーユー……」
301名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 00:26:37 ID:gssxmplv0
一通りバースデーソングを歌い終わってから。
「山下さん達がヤギーにって。みんなで作ったケーキだよ。ずーっとヤギーの帰りを待ってたんだけど……。私
が責任を持って渡すからと言って休んでもらったの」
「ケーキ……」
「山下さん、こんな物しかあげられなくてごめんなさいって言ってた」
「ううん……そんなコト、ない……」
「ヤギー、泣きそうな顔してる。ニンゲンはこういう時は嬉しいって思うものじゃないの? やっぱり食べ物は
嫌だった?」
アニーが不安そうな顔をして聞いてくる。
「ううん。違うの。とっても嬉しいよ。これは嬉し泣き。私のためにわざわざ作ってくれたケーキが嫌なんてこ
と、あるわけないよう」
もし泣ける身体だったら、涙をポロポロ流してる。それくらい嬉しかった。あの事故の後、おじいちゃん以外の
人に何かを祝ってもらうなんて初めてなんだ。

「そうか……。よかった。ヤギー、明日も早いんでしょ? みんなには、私から、ヤギーがとっても喜んでたよっ
て言っとくね」
「うん……ありがとう」
「じゃ。おやすみ、ヤギー」
「おやすみ、アニー」

箱を開けると、アニーの言う通り小さなケーキが入ってた。はるにれ荘のお年寄り達が、私のために用意してく
れた手作りのケーキ。私は味も香りも分からないけど、そこに込められた気持ちはちゃーんと伝わってくる。お
年寄り達の心の温かさは、私の心も温めてくれる。冷たい機械の塊の中に閉じ込められ、世間の冷たい視線に晒
されて、それでも私がニンゲンの心を失わずにいられるのは、こうやって私を温かく包んでくれる人達がいるか
らだ。

ケーキには、小さなロウソクが添えられていた。ロウソクの揺らめく炎を見つめながら、この1年の間に起きた
ことに想いを巡らす私だった。
302名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 00:30:26 ID:gssxmplv0
翌日。バイト先に行く途中で大学に寄ってケーキを置いていった。私が持っていても仕方がないので、ケーキは
佐倉井とジャスミンに食べてもらうことにしたんだ。二人で食べてくれるよう机にメモを残しておいた。今日の
夕方はゼミがあるから二人とも大学に来るはずだ。後で感想を聞けるといいなあ。

夕方。バイトは予定通りに終わって、少し早めに大学に着いた。

「やあ、ヤギー、今日はめずらしく遅刻じゃないのか」
「ああ、佐倉井、酷いよう。私、そんなに遅刻なんてしてないよう」
「ヤギー、ケーキとっても美味しかったよ」
「え、ジャスミン、ほんと?」
「うむ。久しぶりに手作りケーキの世界の素晴らしさを堪能させてもらったよ」
「よかった。喜んでもらえて私も嬉しいよ!」
「しかし、ヤギーからケーキを貰うとはね。ついにダイエットの虚しさに気付いてくれたのかい?」
「えーと、その、下宿先の人から貰ったんだけど、私、食べられないから、二人に食べてもらおうと思って持っ
てきたんだよ」
「えー? ヤギー食べてないの? あんなに美味しいのに」
「いくらダイエット中とはいえ、あれを食べないとは、人生における重大な損失というものだぞ?」

そりゃあ、私だって食べたいよ。でも、この身体は栄養カプセル以外の物は駄目なんだ。この舌は飾り物に過ぎ
なくて味なんかゼンゼン分からない。それに、無理をしてケーキなんか食べちゃったら、身体が壊れるかもしれ
ないんだ。そうなったら、また、たかーい修理代をとられちゃう。いくらバイトをしてもゼンゼン追いつかない
ほどの、ね。私にはそんな贅沢をする余裕はないんだよ。

でも、二人にそんなことを言えるわけもない。両手をぎゅって握り締めて、黙って俯いているしかなかった。
303名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 00:34:31 ID:gssxmplv0
そんな私の様子に、二人は顔を見合わせ、佐倉井が改めて口を開く。

「まあ、ヤギーがそうしたいって言うなら、私らがとやかく言うことじゃないけどね。それより、ヤギー」
「ん? 何、佐倉井?」
佐倉井がジャスミンに目配せする。
「はい、これ。1日遅れになっちゃったけど」
そう言って、ジャスミンが大きな紙袋を差し出した。
「え?」
「昨日はヤギーの誕生日だったろう? 私とジャスミンで選んだんだ」
「え? え?」
「そんな顔してないで開けてみて」

紙袋の中には、厚手のフェルト地のグリーンのコートとマフラーと手袋が入っていた。
「これ……」
「コートは私の見立てなの」
「マフラーと手袋は私だよ」
生地の質感や仕立ての具合からみて、かなり高いものみたい。こんなもの貰っていいんだろうか。

「ヤギー、こんな高いものは受け取れない、なんて言わないでくれよ。ジャスミンが、昨日、半日がかりで選ん
だんだ。ユニロクで固めようという君のポリシーは尊重するが、これくらいのものはあって困ることはないだろう?」
戸惑う気持ちが表情に出たんだろうか。佐倉井がいつになく優しい声を出す。
「ヤギー、寒さには強いって言ってたけど、今年の冬は10年ぶりの記録的な寒さだっていう予報なの。だから、
私……。やっぱり、こういうの、迷惑だったかな……」
佐倉井……ジャスミン……。私の誕生日を覚えていてくれて、しかもこんな物まで用意して……。
「あ、ありがとう。ありがとう! 私、とっても嬉しいよう」
それを聞いて、二人はほっとした表情をした。
304名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 00:38:23 ID:gssxmplv0
義体には涙を流す機能はない。顔色も変わらない。嬉しい時も悲しい時も、その感情を表す手段が限られている。
今、私の身体でこの気持ちを表せるのは言葉と表情と身振り手振り。ただそれだけ。二人がしてくれたことで、
私がどんなに嬉しかったか、うまく伝えることができているんだろうか。アニーは私が義体だって知っている。
たとえ涙が出なくても、嬉し泣きだと言えば分かってくれる。でもこの二人の前では、そんなヘンなことはでき
ないよ。泣きたくても、精一杯の笑顔を作るしかない。佐倉井、ジャスミン、本当にありがとう。

「さて、そろそろゼミが始まる時間だな」
「今日はヤギーの番だったよね」
「え? ……あーっ!」
そうだ。そう言えば、今日のゼミは、私が進行役だった。やろうやろうと思っていて、直前までずるずると先延
ばしにしていて準備を何もしていない。昨夜は考え事をしていたのとケーキを貰ったのが嬉しくて、今日は二人
の感想が気になってすっかり忘れてた。何かあるとは思ってたんだけど。どうしよう。準備がなくてもできない
ことはないけど、あまり手際が悪いとみんなに迷惑がかかっちゃう!

呆然と立ち尽くす私を見て、二人とも顔を合わせて溜息をつく。
「やれやれ、その様子では、忘れていたみたいだなあ」
「ヤギー、大丈夫? 佐倉井、あなたヤギーの次でしょ? 順番、変わってあげられない?」
「うむ。できないことはないんだが……」
ジャスミン、優しいなあ。いつもありがとう。でも佐倉井は、何か考え込んでいるみたい。
「いやいや、ジャスミン。やはり、ここで甘やかすのはヤギーのためにならんと思うぞ。可哀想だが、今日のと
ころは、目一杯恥をかいてもらってだね、もう二度と忘れませーん、と思わせるのが親心というものだろう」
「でも……」
「ヤギーには、私達の年上という自覚をもってもらわんと困るしな」
うー、佐倉井のヤツ、言いたい放題言ってくれるよ。でも、私が悪いんだ。仕方がないか。
「とはいえ」
「え?」
「は?」
305名無しさん@ピンキー:2006/12/09(土) 00:43:26 ID:gssxmplv0
「ゼミが進まなくては我々も困るということも、考慮せねばなるまい。というわけで、ヤギー君。親切な私が君
と代わってあげよう。年に1度くらいは甘やかしても害はなかろう。それに」
「それに?」
「美味しいケーキをご馳走になったお礼でもある」
そう言って、佐倉井はウィンクしてみせた。
「佐倉井、初めからそのつもりだったんでしょ? 素直じゃないなあ」
「うー、酷いよう。でも、助かったよ。ありがとう、佐倉井」

また佐倉井にからかわれた。いいかげん、このいじられキャラの立場はどうにかならないかと思ってる。でも、
それだけ、二人との距離が近いっていうことだよね。いつまでこの距離を保っていられるんだろう。私の身体の
ことを知ったとき、その距離は近くなるんだろうか。それとも遠のくんだろうか。

「……ギーってば!」
「あ、ごめん。何?」
「急がないと、ゼミ、始まっちゃうよ?」
「また考えごとかい? 順番を代わるとはいえ、それなりに手伝ってもらうつもりだから、しっかりしてくれた
まえよ?」
「うー、分かってるよう!」

くよくよ考えたって仕方がない。今は、自分にできることをするだけだ。この1年、いろいろなことがあった。
来年の誕生日までには、一体どんなことが起こるだろう。いいことがたくさんあるといいなあ。できれば、素敵
な恋人も……。ま、まあ、それはともかく、この二人とは、楽しい思い出をいっぱい作るんだ!

気がつくと、二人とも、だいぶ先に行っていた。
「ほらー、ぼやっとしてると、置いてくぞー」
「あー、待ってよう!」

3063の444:2006/12/10(日) 01:33:10 ID:re4Dgs7K0
>>294
はからずも旧型義体の腕を取り付けられることになったヤギー。相変わらず不運ですね。
ただでさえ機械の身体ということにコンプレックスを持っているところにこんなおもちゃみたいな
腕を取り付けられてはたまらないでしょう。
でもそんなコンプレックスを吹き飛ばしてしまう藤原君の優しさがいいです。
>「私の身体、しっかり見てね」
というのは機械の女の子フェチにとっては堪らない萌えゼリフですねえ。ありがとうございます。
機械の腕でもぬくもりは感じるし、飾り物の舌だって味を感じることができるのです。ヤギーに心があれば。
ありがとうございました。

>>299
そう。12月9日はヤギーの誕生日です。そして私がこのスレに初めて二年前投稿した日でもあります。
覚えていてくれてありがとう。
ヤギーは食事ができません。だから、ケーキをもらっても食べることができません。
機械の身体は寒くてもへっちゃらだし寒さを感じることもできません。だからどんなに寒くたって風邪を
ひくことなんかありません。ヤギーには立派なコートなんて必要ないのです。
はるにれそ荘の人たちのプレゼントも、ジャスミンや佐倉井のプレゼントも今のヤギーにとっては本当は
必要がないものです。
なのに、何の役にも立たないそのプレゼントをもらったヤギーがこんなに嬉しそうなのはなぜでしょう。
涙を流せないから心で泣いて、それから精一杯の笑顔を見せたのはなぜでしょう。
それはヤギーが人の心を持っているからですよね。
もし、今のヤギーにとって本当に必要な、たとえば新しい義体部品だとか、年齢相応の新しい顔だとか、
そういうものをもらったとしても、こんな表情は見せてくれなかったでしょう。
まさにヤギーにふさわしい誕生日プレゼントです。本当にありがとうございます。

ところで、このコート。ネジ工場編の初詣のシーンでヤギーが着ていたコートですよね。
細かいところに本編の設定を生かしてくれて嬉しいです!
307読者その1:2006/12/10(日) 19:24:47 ID:vfILV6I80
>ところで、このコート。ネジ工場編の初詣のシーンでヤギーが着ていたコートですよね。
うぁー!すげー!! 全然気づかなかった。>>299氏に乾杯!
308pinksaturn:2006/12/10(日) 23:24:19 ID:Aa4hzEkT0
(オプションパーツの続きです。)

−−(33)金星冷却作戦−−

(帝国首都 宮殿)

真理亜:「無事戻りました。」

朝子10世:「寄り道までさせて悪かったわね。何しろ最近財部大臣がうるさいでしょ。
金星の件は財政への影響が軽微な範囲でやって欲しいと。貴女達のお陰で助かったわ。
1基目のプラットフォームが浮かんでしまえば財部省が文句を言いにくくなるからね。」

真理亜:「御意。こいつの軽い頭もたまには役に立ちました。」

朝子10世:「大気圏突入にスリップストリームを使う案はマサが考えたの?。」

マサ:「航行中に22チャンネルで見たF1ネタがヒントになりまして。」

真理亜:「なんだ、22チャンネルのネタだったのか。藻前は相変わらずね。
もうちょっと貴族らしい高尚なものを見ろといつも言ってるのにしょうがないな。」

朝子10世:「まあ良いじゃないの。作戦さえ成功すればボーナスも出るんだし。
私なんか、宇宙の任務に就けなくなったせいで年収が減っちゃって惨めなのよ。」

マサ:「えっ。東宮様ともあろう方がそんな。」

真理亜:「皇室予算って結構渋いのよ。」

朝子10世:「そうそう。名目額は大きいようでも悲田院の運営費やら行事費やら大変でね。
ところで、貴女達は今度のことで実入りも良いようだしそろそろ生殖バンクを使ったら?。」

マサ:「え、あのその...。」
309pinksaturn:2006/12/10(日) 23:25:16 ID:Aa4hzEkT0
真理亜:「陛下のご意向も?。」

朝子10世:「そういうこと。最近は宇宙艦に乗り組む幹部が不足して困っているでしょ。
金星の事業は何十世代にわたり続くから次代の貴族育成を怠っていると将来もっと困るわ。
特に貴女達は航宙士の適性が高いからしっかり子孫を残して貰わないとね。」

真理亜:「仰せの通りです。すぐにバンク使用願いを出します。マサもよいな?。」

マサ:「ええそりゃ嬉しいですけど、人の親になるなんて想像がつきません。」

朝子10世:「一般のシビリアンと違って、やることといっても電子申請書出すだけよ。
育児だって、青の公家なら執事や小間使いが皇室より充実しているくらいだから楽よね。」

マサ:「楽も良いけど、どうせなら自分のオッパイ吸わせたいですね。」

真理亜:「そうか。それは任務の時期との関係で難しい鴨ね。冥王星航路はフル運行だし。」

朝子10世:「運行スケジュールもきついけど、ちょっと考えておいて上げても良いわよ。」

真理亜:「申し訳ありません。あまりこいつの勝手な希望なんか気にしないで下さい。」

朝子10世:「地上でやって欲しい厄介な仕事もあってね。いずれまた話します。」

マサ:「(ぎくっ。厄介な任務を招いてしまったか?。)御意。」

真理亜:「(馬鹿者。藻前は一言多いんだよ。)失礼します。」
310pinksaturn:2006/12/10(日) 23:26:11 ID:Aa4hzEkT0
(ハルの店、”カロンの天然氷” 新装開店 http://pinksaturn.fc2web.com/bar.htm#haru-sinsou

みどり:「いらっしゃいませ。あ!、真理亜侯、マサ侯...えーんもう見られちゃったぁ。」

ハル:「うちはきちんと風俗営業税を納めている優良店なのよ。いつまで恥ずかしがってるの!。
宙軍の上官だってここに来たらお客様なんだから、恥ずかしがらず普通に接客しなさい。」

マサ:「みどりが降りてきたのは知っていたけどここを手伝っていたのね。」

ハル:「ええ、前の任務はカロン基地建設だけでも成功だったのに金星の件でボーナス追加でしょ。
財産もだいぶ殖えたので、店の内装を実際に見てきたカロンの風景を取り入れて改装したんですよ。
それが高級感があって良いと評判になって繁盛していまして、私一人では酒造能力が足りません。
ちょうど、みどりが金星の後作業を終えて降りてきたので早速手伝わせているんです。」

真理亜:「なるほど、暗闇に浮かぶ冥王星をバックにした氷のステージってシックで良いわね。
みどり、風俗は宇宙事業と並んで帝国の屋台骨を支える重要産業なんだから胸を張ってやりなさい。」

みどり:「建前は仰るとおりですが、尿道からグラスに注ぐのって実際やってみるときついですよ。
お姉ちゃんたら、よくこんなあきれた水商売考えついたわね。」

マサ:「呆れたとか言う割には巧くやっているじゃないの。」

みどり:「金星の件ではお姉ちゃんに敵わなかったでしょう。追いつくには基本からと言う事です。
休養期間も含めて平素から行動のしかたを見習っておけば得るものもあるかと思ったんです。」
311pinksaturn:2006/12/10(日) 23:28:04 ID:8WZjyidB0
真理亜:「スリップストリームの案を考えたのはマサよ。日常の行動は真似して欲しくないけどね。」

マサ:「そんなあ。子供が出来てもそう仰るんですか。」

ハル:「えっ!?。いよいよ生殖バンクを?。」

真理亜:「今日東宮様のところへ帰還報告に行ったら、そろそろどうかって言われちゃってね。」

みどり:「おめでとうございます。お二人の子供なら必ず良い素体になれるから楽しみですね。」

マサ:「コギャルを辞める気はないけど、自分でオッパイ吸わせてみたいし良い機会だわ。」

真理亜:「藻前がそんな勝手を言うから厄介な任務が来そうよ。相変わらず一言多いよ。」

マサ:「たかが地上任務でしょ。たいして難しくはならないでしょう。」

ハル:「ところで、艦長や副長の予定がそんなんじゃ私ら一般乗組員はどうなるんです?。」

真理亜:「さあねえ。戦争で消耗した沿岸封鎖システム整備とかで海底の仕事が入るのかな。
あとは、あの時期に休暇が未消化の娘も多いから休み延ばして辻褄合わせるかね。
特に、当時”みくら”に乗っていた娘は冥王星から帰ってすぐ戦争だったから消化率悪いし。
我が艦なんか代わりの居ない操舵員がともに該当者だからどう考えても次の出航が遅れるわ。」
312pinksaturn:2006/12/10(日) 23:28:47 ID:8WZjyidB0
(経済特区 アリババ連盟合同総領事館)

総領事:「当方の希望する規模の氷隕石が、あと3年で投下できるそうですね。」

弥生:「ええ、移動作業の方は順調でして既に行程の6割をこなしています。
それで、人工的なオアシスの形成が可能か、予定地の地質を調べておきたいのです。」

総領事:「私どもの地質学者が言うには砂の下には保水層もあるそうですが。」

弥生:「それは推測ですから、実際に現地をボーリングして確認すべきかと思います。」

総領事:「お考えは解りますが、アリババ大砂漠の真ん中で実行するのは大変です。」

弥生:「それについてですが、宙軍が新型重機の耐環境試験を兼ねてやっても良いそうです。」

総領事:「おお、そういうことでしたら大歓迎です。砂漠でなら風紀問題も起きませんし。」

弥生:「大砂漠なら現場周辺を完全に無人化出来るから我々としても都合がいいのです。
機密保護だけなら宇宙空間の方が楽ですが、今回は惑星上での使い勝手が改善項目でしてね。
それには人手が多くかかるので、サイボーグでない地上の研究員も動員することになります。
しかし、この島の限られた環境だけで試験したのでは十分な調整が出来ません。」

総領事:「戒厳令を敷いて一般人が近づかないようにしますのでお任せ下さい。」
313pinksaturn:2006/12/10(日) 23:29:23 ID:8WZjyidB0
(経済特区 酉山科学研究所)

理美:「帝国のサイボーグ体整備技術を簡単に身につけてしまうなんて、パパって凄いのね。
いくら秘密マニュアルを供与されたって体内CPUの助け無しでは難しいんだけどなぁ。
確かに真理亜様の仰るとおりだわ。もし外国にスカウトされていたら危険人物ね。」

酉山:「ここに移転してまだ2年だというのに技術供与特別許可が下りたのが嬉しくてね。
サイボーグ娘との親子の触れ合いといえば、メンテナンスは絶対はずせないからね。」

理美:「昔に比べれば規制緩和が進んだとはいえ、よく許可が下りたわね。」

酉山:「理美が任務に出ている間に東宮様がこっそりご視察に見えたのだよ。
以前私が手がけた鳥のサイボーグ化に関するデータを見て強い関心をお持ちになったんだ。
帝国が開発したい重点項目である人の小脳や脊髄の機械化にも応用できそうだというのでね。
独力であそこまでやったなら、帝国の機密技術とのレベル差も小さいと認められたんだ。
その代わり、外務省から護衛を兼ねた秘書の派遣を受け入れることになったがね。」

理美:「お陰様で気楽に整備が頼めるようになったから助かるわ。
カロンで少しスケートをやったら筋が良いアイスショウを手伝えと宙軍の先輩に誘われたんです。
でもサイボーグ用に固く氷を張ったリンクを使うので着地の衝撃でよく足が壊れるらしいのよ。」

酉山:「うむ。理美の器量ならそういう華やかな副業に相応しいじゃないか。それは良かった。
足のことは任せなさい。アイスショウのとき専用に改良した足を付けられるように検討しよう。」

理美:「先輩達はブレードが付けやすいように足を改造しているんだけどそこが壊れやすいのよ。
技をやりやりやすくするためブレード角度を制御できるように足首関節を変えているのにね。」

酉山:「運動データの集積が不十分なままで、目先の問題を解決しようとしたからじゃないかな。
身体制御CPUに送信機を取り付けて、外部サーバーに入出力の時系列データを採ってみよう。
それをじっくり解析し、体全体のバランスをとって最適な機構を設計すれば、壊れにくくなるよ。
そういうデータを積み上げれば小脳や脊髄の機械化という目標にも少しずつ接近出来るな。」
314pinksaturn:2006/12/10(日) 23:32:04 ID:elKP2MG/0
(北米連 愛国民兵会会長の牧場)

愛国民兵会会長:「スージー、リンダ仕事の依頼だぞ。」

スージー:「宇宙局からですか?。月で満漢ともめ事でも有ったのかしら?。」

愛国民兵会会長:「宇宙局からだが、紛争がらみではないな。金星周辺における監視任務だ。
小娘帝国が金星に氷隕石を落とすだろ。既に金星上層大気中に観測施設が置かれた模様だ。
実際に何が起こるか監視して欲しいのと、万一地球に酷い影響があるようなら阻止もだな。」

スージー:「なるほど。地球上に火星由来の隕石があるというくらいですからね。
衝突速度が大きすぎれば飛びだした破片がとんでもないところに到達する余地はあります。
でも、金星上に湖沼を形成するつもりなら飛び散らないよう減速して落とすでしょうね。」

愛国民兵会会長:「発表されているとおりなら今回も平穏な監視任務で済むはずだ。
しかし当局は金星開発を隠れ蓑にした我が国への攻撃を懸念しているようだな。」

リンダ:「内惑星への飛行は初めてですね。熱や放射線は大丈夫でしょうか?。」

スージー:「スペースシェリフ・ワンは装甲がしっかりしているからまず大丈夫よ。
私らの体のほうは、機構に関しては艦と同様に装甲があるから心配ないわね。
但し、体内の血液保冷庫は周囲温度が上がりすぎると弱点になり得るかな。
船外作業はなるべく避けたいわね。癪だけど小娘帝国の奴らは平気なのかな。」

リンダ:「またしても生命維持装置がネックですか。何とかしたいですね。」

愛国民兵会会長:「済まんな。宇宙局の研究が相変わらずさっぱり進んでおらん。
月で満漢の基地がどんどん拡張されているせいで月基地に金を使わざるを得ないからな。
そのために研究予算が減らされてしまっている。国の予算はエネルギー偏重だからな。
国防総省の方はヤブーの失政のお陰でぼろぼろだから全くあてにならんし困った事だ。」
315pinksaturn:2006/12/10(日) 23:32:54 ID:elKP2MG/0
(北米連 G島基地 情報部)

担当官:「ほお、するとあんたは満漢の工作員養成所で部長をしていたのか。
幹部ともあろう者が、なんでそんな姿になったんだ。」

孫:「立案した作戦が失敗して責任をとらされたんだ。代わりにお前が潜入しろとな。
その無理な命令は当然失敗して消されそうになったんで、ここに逃げてきたって訳だ。」

担当官:「ふーん。さすがに神も人権も認めない国はやることがえぐいな。」

孫:「工作員の世界はあんたらの国だって似たようなものだろう。」

担当官:「まあ、この業界は仕方がないな。しくじったら処刑か逃げてのたれ死にだ。
うちも先の戦争以後は台所事情がきつくてね。あんたをただ保護してやるのは難しいな。
新しい顔と名前を与える代わりに、こっちの仕事をやるって事でどうかね?。」

孫:「仕事の中身次第だな。あんまりきついなら一人で逃げ回る方がましだ。」

担当官:「面が割れているB王国に行けとは言わんよ。アリババでの監視任務だ。
最近アリババに小娘帝国の連中が多数入国したんで何をするか気長に観察するんだ。
身分は石油産業の関係者宅で働くメイドって事になる。荒事はしなくていいぞ。」

孫:「この足ならやって出来無くはないが、腕無しじゃメイドはおかしいだろ?。」

担当官:「ちょっと見劣りがするが北米製の能動義手で良ければ付けてやっても良いぞ。
但し、小娘帝国製の神経断端インタフェースは解析不能だから直接制御は出来ない。
その足に生えている手指でリモコンを操作してマジックハンドみたいに使うんだ。
クラスター爆弾か地雷の被害者を装えば怪しまれることはないだろう。」

孫:「わかったよ。この際、贅沢は言えないからな。」
316pinksaturn:2006/12/10(日) 23:34:28 ID:elKP2MG/0
(金星付近の惑星間軌道)

リエ:「これより、大氷隕石の軌道・速度調整と隕石移動装置の回収にとりかかる。
金星可住化の成否はこの作業の出来に大きく依存するから、全員慎重に作業せよ。
特に原子炉は絶対に落下させてはならない。軌道調整完了後速やかに撤去すること。
高温地獄を放射能地獄に変えたのでは手間暇かける意味がないからね。」

あざみ:「やっぱり5万dもの氷となると、さすがに巨大ですね。
理屈で出来ると解っても、ボタ山のように微妙なコントロールが効くか不安です。
特に今回は今までと逆で減速しながらですから、大気圏突入直後が不安定でしょ。
しっかりスピンをかけておかないと大気抵抗で軸が傾くかも知れません。
減速ができても軸ぶれで落下地点が窪地を外れてしまうと沼が出来ないし。」

リエ:「その代わり迎撃ミサイルが飛んでこない分は確実に楽になるわよ。
遙か手前から隕石移動装置を逆噴射させるしそこでスピンもかけられるわ。
移動装置撤去後のために個別に点火できる固体ブースター20基を建ててあるし。
それじゃあ、早速スピンの増速を始めるからコントロール頼んだわよ。
移動装置の底の氷が溶けて傾く心配もあってゆっくりしかできないからね。」
317pinksaturn:2006/12/10(日) 23:36:14 ID:/5oo046x0
あざみ:「はい。とにかくやってみます。リモートリンク起動。原子炉操作権取得。
出力巡航10%から14%にアップ。軸線再確認。想定金星位置に対し西0.3度。
南0.1度。修正して宜しいですか。」

リエ:「待って。母艦の光学観測班にクロスチェックさせるわ。...誤差有りか。
西には0.33度のようね。校正かけて頂戴。」

あざみ:「数値校正しました。隕石移動装置ノズルスラスタ指向。蒸気圧上昇。
旋回速度秒速0.001度。スラスタ中立に復元。スピンノズル蒸気路開放。
スピン増速率秒当たり0.0015度。このまま8日ほどかけます。」

リエ:「良いわよ。やはり貴女はこういう動きの遅い物を操作するのに向いているわ。
じれて注意を逸らさない操作姿勢がしっかりしているのね。」

あざみ:「その代わり、機敏な動きが必要な迎撃艇では散々だったんですけど。
脳のクロックが生まれつき遅くできているんじゃないですか。」

リエ:「遅くても素体採用基準は満たしていたんだから良いじゃないの。役に立ってるし。」
318pinksaturn:2006/12/10(日) 23:37:03 ID:/5oo046x0
(アリババ大砂漠 帝国地質調査部隊宿営地)

アリババ連盟群担当官:「あなた方の宿営地から50`以内は聖戦士隊が封鎖しました。
一般人が立ち入ることはありません。ただ一つ困ったことがありまして。」

真理亜:「困ったこと?。何ですの?。」

アリババ連盟軍担当官:「燃料の輸送です。我が軍には十分な輸送車がありません。
それで民間業者のタンクローリーを使いたいのですがご承知いただけますか?。」

真理亜:「民間業者ですか。外資でなければよいのですが。」

アリババ連盟群担当官:「あいにくこの国の石油業者は全て外資が入っています。
地場の業者だけで大規模な輸送は出来ません。」

真理亜:「そうですか。工作員が紛れ込まないように気を付けるしかないですね。」
319pinksaturn:2006/12/10(日) 23:37:43 ID:/5oo046x0
(アリババ大砂漠 北米系石油業者現地事務所)

聖戦士隊憲兵:「ここの駐在員の身元調査だ。全員身分証明書を出せ。
ん?、そこの女は北米人となっているが本当か?。亜細亜系のようだが?。」

所長:「この者は私が本国から連れてきたメイドです。先祖は亜細亜人ですが。」

聖戦士隊憲兵:「うむ。お前は手足を機械化しているな。北米人には珍しい。
お前達の宗教ではそういうことは忌み嫌うはずではないのか?。」

孫:「私は南瓜国の生まれです。子供の時に放置された古い地雷で手足を失いました。
それにキリステ教徒ではありませんので、機械化はあまり気にしません。」

聖戦士隊憲兵:「そうか。儂らもキリステ教徒とシオン教徒は陰険だから大嫌いだ。
対人地雷なんて最初に考えたのもあいつらだ。北米人でもそうでない者は好ましい。
ふむ、お前の身分証明書は本物だな。よかろう。でわまた。」

所長:「ふう。ものものしい警戒だ。一体何が行われるのやら。」

孫:「所長、何も心配は要りませんよ。どうせ消極的な監視だけですから。」

所長:「もめ事は絶対無しにしていただきたい。私らは商売が出来ないと困ります。」
320pinksaturn:2006/12/10(日) 23:41:34 ID:/5oo046x0
(アリババ大砂漠 人工オアシス予定地)

マサ:「うわあ。右前足が砂にめり込んだ。えーと。こういうときは...。」

真理亜:「何やってんのよ。後ろ足踏ん張るからそっと抜きなさい。」

マサ:「いやはや、地上で2人4脚の制御って想像してたより随分難しいんですね。
冥王星付近では90式重機のパワー不足で悩んだけど、足を増やして解決するのもなぁ。」

真理亜:「まあねえ。人間は昆虫みたいに六肢の生物じゃないから一人で制御できないし。
二人がかりで足を2本ずつ操作するってのも不整地じゃ思い通りに行かないわね。」

重機担当研究員:「真理亜侯、マサ侯、大丈夫ですか?。足の不調は出ていませんか?。」

真理亜:「ああ、済まないわね。機械の調子の問題じゃなくて私らの同調の問題よ。」

重機担当研究員:「さすがにこんな足元の悪い場所では貴女方でも無理でしたか。」

真理亜:「宇宙空間なら足元を気にしないから大丈夫だと思うわ。」

重機担当研究員:「予算の関係で火星からカロンまで広く使えるようにと言われています。
この場所でダメだと火星では苦しいですね。砂漠用にはガンタンク型しか無理かな。」

マサ:「外国のパワースーツみたいな予測追従を使って後ろ足を動かせないの?。」

重機担当研究員:「それも考えていますが手本になる運動データが必要でして。
2式降下艇の一人四脚運動も鈍い動きしか出来ないので参考になりませんし。
データを採取した上で時間と予算も必要です。当面のカロン地上作業には間に合いません。」

真理亜:「つまり、私らが手本になるような良い動きをやって見せないといけないのね。」
321pinksaturn:2006/12/10(日) 23:42:48 ID:/5oo046x0
マサ:「しかし、いくら私らでもケンタウロスやシャム双生児のようには行きませんよ。
精々電車ごっこかムカデ競争のレベルでしょう。」

真理亜:「シャムか!。うん、それよ。非人を使ってシャムのサイボーグを作れば良いわ。
あいつらなら、ヒマに任せて24時間365日データが取れるから慣れるんじゃないかな。
とりあえずここでのテストは歩き方よりも地質調査を優先しましょうか。」

重機担当研究員:「なるほど。では非人貸与申請を出してみます。」

真理亜:「よし、ボーリング地点に向かうよ。号令かけるからマサはその通り歩きなさい。
はい右脚から歩幅2mで、1,2,1,2...」

マサ:「こんなの学校の体育以来ですね。宙軍ではパレードといえばバレエだったし。」

真理亜:「そおねえ。宙軍は少人数の行動しかしないから行進なんて意味ないからね。
バレエで脚を揃えるときは真っ平らな舞台の上だから砂の上じゃ勝手が違うわね。
ああようやく砂丘の谷間に着いたわ。やれやれ。地質調査員、ここらで良いのかな?。」

地質担当研究員:「ええ。荷台からボーリング装置を降ろして掘削を始めて下さい。
パイプの継ぎ足しの際はエキシマビームで溶接をお願いします。」

マサ:「ここの暑さじゃプルトニウム電池がパワー出ないでしょ。溶接できるかな?。」

重機担当研究員:「弱かったら荷台の燃料電池を繋いで使います。」

真理亜:「手持ちの燃料はろくにないから、ずっと使うなら取り寄せるしかないわ。
輸送は外注業者しかできないようだから、なるべく避けたかったんだけどね。」
322pinksaturn:2006/12/10(日) 23:45:59 ID:/5oo046x0
(アリババ大砂漠 北米系石油業者現地事務所)

アリババ連盟担当官:「指示する地点までエタノール30dを搬入せよ。秘密厳守だぞ。」

所長:「契約の通りいたしますので、ご安心を。作業員は身元の確かな者だけです。」

孫:「紅茶ドゾー。」

アリババ連盟担当官:「おう、気が利くな。」

所長:「日帰り出来ない場所なら作業員の給食も要るのでこの者を同伴したいのですが。」

アリババ連盟担当官:「ああ、構わんよ。ここの者は憲兵もチェックしたしな。」

孫:「(蟻婆防諜体勢杜撰也。機会到来。)にこっ。」


(ボーリング現場付近)

タンクローリー運転手:「指示された地点ってGPSの表示だとここらですよね。」

所長:「何か見えないかな?。」

孫:「砂丘の陰じゃないの?。あ、何じゃあれは!。」

運転手:「腕が2本に脚が4本...ロボットに見えなくもないな。積み荷はあれの燃料?。」

所長:「ここで見たものは全て忘れる契約だ。とにかく積み荷を引き渡すんだ。」
323pinksaturn:2006/12/10(日) 23:47:24 ID:/5oo046x0
孫:「あ、首らしい場所の下でハッチが開いて誰か出てきたわ。女子高生みたいな奴ね。」

運転手:「え、あ、本当だ。こんな砂漠の真ん中で場違いな。アリババ人の筈がないですね。」

所長:「余計な詮索はするな。商売に差し支える。」

マサ:「エタノールを運んできた燃料業者よね。あっちに仮設タンクがあるからそこに移して。
代金は契約条件通り、黒菱銀行発行の小切手で用意したから確かめて頂戴。はい、これね。
それから、解ってるだろうけど、ここで見たものを口外したらアリババ憲兵隊に消されるわよ。」

所長:「勿論です。私らはお代さえ頂ければ言うこと無しです。ところで、もう日が暮れます。
アリババ当局から現地でキャンプする許可を貰ってあるので荷の移し替えは明朝で良いですか?。」

マサ:「許可証を見せて頂戴。ふんふん、砂漠で夜の移動も危険だから仕方ないわね。
わかったわ。それなら500m程さがったところにタンクローリーを並べて止めなさい。
停めたらタンクローリーのキーは全て預けて頂戴。小切手持ち逃げされると私の責任になるからね。」

所長:「わかりました。おい、後ろの車にトランシーバーで指示を伝えろ。」

運転手:「はい。」
324pinksaturn:2006/12/10(日) 23:48:03 ID:/5oo046x0
(ボーリング現場)

真理亜:「燃料業者に怪しいところはなかったの?。」

マサ:「見た目では。帝国製の脚を付けた亜細亜系の娘が居ましたがキャンプの料理番だそうです。
トランスポンダ番号をクリップしておいたので一応本国に照会しましょう。えーと、衛星回線...」

真理亜:「どう?。」

マサ:「あ、こいつはちと問題ですね。この番号は満漢工作員の疑いで手配されています。
まだ事件は起こしていないけど、膣に例のB王国事件で使われたのと同じ仕掛けをしているそうです。」

真理亜:「あの燃料業者は北米系よね。満漢人なんか雇うかしら。見た目も南亜風なんでしょ。」

マサ:「外国でトランスポンダを移植するのは難しいから別人ではないのでしょ?。
北米連当局が関わっているかどうかはわかりませんがどこかの工作員には違いないですね。」

真理亜:「うーん。何もしないうちはアリババの憲兵に言ってみても逮捕は出来ないわね。
試作重機の外見が漏れたって大した影響はないから、ただの監視なら目を離さずに放置かな。」

マサ:「夜のうちに何かするかも知れないので業者のテントを見回るようにします。」

真理亜:「そうして。藻前が居ると起きそうもない筈の厄介ごとがよく起きるからね。」
325pinksaturn:2006/12/10(日) 23:53:06 ID:+THcSbZS0
(深夜、燃料業者のテント)

所長:「ぐうすぴぃ...へへ、油田を掘り当てたぞ...これでオレも大富豪だ...。」

孫:「(睡眠薬紅茶効果発揮。所長、運転手爆睡中。探索遂行。帝国宇宙工事機械情報有価。)
抜き足差し足忍び足...。外の様子は...。」

マサ:「ん、テントから誰か出てきたな。暗視画像物体抽出処理...あ、やっぱりあいつだ。
下手に捕まえるとまた処刑とか厭な仕事が出来ちゃうから、捕まえたくないなあ。
そうだ、何もしないうちにちょっと脅してやろう。お、サソリが居た。こいつを拾って...」

孫:「(気配!?。警備兵?。芝居必要。放尿自然也)ああ、誰も見ていないわね。
ここで良いかしら。うう、漏れそう。じょろろーー。」

マサ:「おい、そこで何をやっている!。」

孫:「え、あ、おしっこですぅ。」

マサ:「そんなに腰を落とすと危ないわよ。ほら、ここいらにはこいつがうようよ居るんだから。」

孫:「ひい、さ、サソリ!。」

マサ:「そんな体勢じゃなくて、M字開脚体勢でやらないとお尻を刺されて氏ぬわよ。」

孫:「こ、こうですか?。うう、恥ずかしいですぅ。じょろろーー。」

マサ:「そうそう。その調子よ。終わったらすぐキャンプに戻ってテント内にも居ないか点検して。」

孫:「ひいい、サソリ怖いよぉ...(苦、是脅迫也。探索断念。)」
326pinksaturn:2006/12/10(日) 23:54:14 ID:+THcSbZS0
(翌日、ボーリング現場)

マサ:「掘削停止。パイプ溶接するよ。ラブラブ光線...やっぱこの環境じゃ弱いな。よし出来たわ。
これでパイプ100本目だから1`掘ったのか。地質調査員、結果どうなの?。」

地質担当研究員:「粘土層の厚みはそこそこ有りますね。保水力自体は十分だと思いますよ。
ただ砂が深いので保水は出来てもオアシス化はどうかな。よほど水を入れないと泉は湧きません。」

真理亜:「同じところに繰り返し氷隕石を落とさないと難しそうね。アリババの予算次第だわ。」

マサ:「落下速度を大きくして砂を吹っ飛ばしたらどうでしょう?。」

真理亜:「世界の気候に影響が出るからあんまり大きくは出来ないでしょ。あ...メールだわ。」

マサ:「私にも...あ、生殖バンク所長からだ。女の子が産まれたので3日以内に命名せよか。
3日とはえらく短いですね。考えるヒマがあるかな。」

真理亜:「皇族や貴族は公家ごとに命名規則があって決めやすいから短いのよ。
うちの場合は、まず、5世代以内に使われていないことが絶対条件ね。
それから、当然だけど藻前みたいに軽々しくて偉く無さそうなのは候補に出来ないのよ。
候補検索...。よし出た、この中から藻前が選びなさい。」
327pinksaturn:2006/12/10(日) 23:55:10 ID:+THcSbZS0
マサ:「え、そんないきなり...うーん、有栖で良いですか?。」

真理亜:「問題ないわ。よし決まり!。じゃあ、宙軍省に出生届出すからこれに電子サインして。」

マサ:「え、市役所じゃなくて宙軍省に出すんですか?。」

真理亜:「そうよ。貴族は生まれたときから公簿上素体として扱われるからね。」

マサ:「なるほど。さて、早く仕事を片づけて帰りましょうよ。オッパイあげたいなあ。
地質調査員、あとどれくらい掘ればいいの?。重機のテストとしてはもう終わりで良いんだけど。」

地質担当研究員:「今日いっぱいで掘れる範囲で十分です。」

マサ:「あ、そう。しかし氷落とすのは簡単そうだけど水面作るのって難しいんだね。
事前に予定地を調査出来る地上でこの調子じゃあ、金星なんかでやったってうまく行くのかな。」

真理亜:「あっちは核の冬をわざと起こすつもりで大きいの落とすから制御が易しいのよ。
ただ大きい氷を継続的に確保するのが経済的に厳しいってだけね。」
328pinksaturn:2006/12/10(日) 23:59:33 ID:+THcSbZS0
(金星に接近した巨大氷隕石周辺)

あざみ:「スピン加速終了します。針路金星の北緯45度に合っています。」

リエ:「金星の浮遊プラットフォームからの誘導電波はどうかしら?。」

あざみ:「周回位相はこちらの落下スケジュールとほぼ合っています。あとは微調整だけです。」

リエ:「落下速度の微調整にかかる時間は?。」

あざみ:「2時間ほどで固体ロケットによる調整が可能な範囲に目標地点を入れられます。
浮遊プラットフォームが正確に目標の窪地を指示していればですが。」

リエ:「あっちは大気圏内で直接見てるんだから信じるしかないわね。
それなら、私は移動装置の撤去班を率いて隕石に降りるから終わったらすぐ言って頂戴。」
329pinksaturn:2006/12/11(月) 00:00:10 ID:wFiGMjgR0
(監視にやってきたスペーシシェリフ・ワン)

リンダ:「あ、作業機械らしいのが隕石に降下していきますね。」

スージー:「奴らは原子炉の付いた装置を落とさないと公表してるから撤去部隊ね。
さっきまでちょこちょこと向きを変えながら小さな蒸気噴射を繰り返していたでしょ。
頻度が少なくなってきたから間もなく軌道修正が終わるのよ。」

リンダ:「この軌道と速度で地球に届く破片が飛ぶことは絶対に無いんですか?。
阻止するなら今しかチャンスはないと思いますが。」

スージー:「氷隕石の運動は逐一宇宙局に送信しているけど危険はないと言っているわ。
私は初めから当局の懸念なんて宇宙を知らない官僚や政治家の妄想だと思っていたけど。」

リンダ:「そうですか。何故、無駄と判っていて引き受けたのですか?。」

スージー:「そりゃあ金星に湖を作ろうなんて大イベントを近くで見たかったからよ。
会長には悪いけど、今回は愛国心より自分の趣味優先で行動してしまったわね。
あ、作業機から何人か出てきたわ。原子力推進器を外しにかかるわよ。」

リンダ:「眺めていてむかつきませんか?。あいつら、あんな軽装で外に出ているでしょ。
私らの方が遙かにごつい装甲なのに艦に閉じこもって観察するのが精一杯だなんて。」

スージー:「あいつらより、生命維持装置の改良予算が付かない当局にむかつくわね。
いっそ、意地を張っていないで小娘帝国から輸入してくれないかと思うこともあるわ。
あれだけ量産していたらスペーシシェリフ・ワンの打ち上げ費より安いくらいでしょうし。」

リンダ:「例え当局がその気になっても売ってくれないんでしょ。」

スージー:「前の政権があんな事をしたからほとぼりが冷めるまでは無理かな。」
330pinksaturn:2006/12/11(月) 00:00:59 ID:wFiGMjgR0
リンダ:「奴らの作業員に一人だけ金属光沢を放っているのが居ますね。ロボットかな?。」

スージー:「どれ、拡大してみようか。あら、ふーん、あれは金属外皮じゃないのね。
透明素材の外皮内に水銀でも詰めているようよ。外皮の光りかたはダイヤモンドみたいね。」

リンダ:「え、ダイヤモンド皮膜の外皮ですか!。羨ましいなあ。」

スージー:「間違いないわ。人工ダイヤ膜コートを施したスケルトンボディーなのよ。
耐環境性は抜群ね。身振りが偉そうな態度に見えるからロボットどころか奴が指揮官よ。」

リンダ:「前に遭遇した皇族とやらの艦長だって普通のコギャルみたいな外見でしたよね。
独裁帝国で一介の指揮官が皇族より贅沢な外皮にする自由なんか認めるんでしょうか?。」

スージー:「生命維持装置の予算だって民衆の要求するエネルギー確保に食われてるでしょ。
民主国家の方が自由だとは限らないわよ。実際、帝国の士官は随分高給のようだしね。」

リンダ:「はああ。私にダイヤ皮膜を貢いでくれるメカフェチの富豪が居ないかなぁ。」

スージー:「貴女がそれほどダイヤに拘るとは意外ねえ。金蒸着よりも良いの?」

リンダ:「メカフェチでも女の子がダイヤに弱いのは変わりないですよ。」

スージー:「ふーん。私らの巨体を覆ったら高く憑くわねえ。会員に大富豪は居ないわよ。」
331pinksaturn:2006/12/11(月) 00:06:24 ID:wFiGMjgR0
(G島 北米連軍事基地)

担当官:「6肢で四足歩行の土木機械らしいものを見かけたが目的は掴めなかったとな。
それで乗員は女子高生みたいな奴で、口のききかたは軍人っぽかったんだな。」

孫:「帝国のサイボーグ軍人なのは間違いない。手づかみでサソリを持ってきたんだ。
あれは明らかな脅迫だったからこっちの正体はばれていたよ。」

担当官:「他に帝国人らしい奴は見かけなかったのか?。」

孫:「一人も見ていない。あの地域周辺はアリババ聖戦士隊が厳重に封鎖していた。
石油業者の事務所も憲兵が見回りに来ていて身分証明書を毎日点検された。
幸い北米連のパスポートでも本物なら問題にならなかった。雰囲気の割には雑な防諜だ。
地元業者の輸送能力が貧弱で大がかりな燃料輸送を外資に頼っていたのが幸いだったな。」

担当官:「とれた情報はしょぼいが、荒事無しの約束だからしかたないな。一応合格だ。
とりあえずお前を外注工作員として飼っても良いぞ。基地内のアパートは使いたいか?。」

孫:「頼む。人民党の抹殺者が来るかも知れないから基地内の方が安心だ。
ところで、基地内にラーメン屋は無いよな?。」

担当官:「元部長には気の毒だが、外注に貸せるのは二等兵用の部屋だけだ。我慢しろ。
ラーメン屋も無いから食いたかったら外に出て観光街に行くしかないぞ。」

孫:「抹殺者に怯えていたら贅沢なんか意味がない。ラーメンが食いたいんじゃないよ。
前にやってきた抹殺者がラーメン屋だったから無い方が安心なんだ。」

担当官:「そうか。食堂業者を募集するときは気を付けるよう主計隊に言っておく。」
332pinksaturn:2006/12/11(月) 00:08:20 ID:VjdyDJp30
(経済特区 地底アイスワールド分園スケートリンク)

マオ:「それーっ。16回転3ひねりジャーンプ!。へへ、どうよこの高性能。」

ミキ:「足首に姑息な改造を加えたくらいで私から主役を奪うのは無理よ。」

マオ:「あら、そんなこと言って良いの?。これ http://pinksaturn.fc2web.com/miki-yuusyoukinen.htm 見てみなよ。
もう貴女はトップじゃなくなっているわ。」

ミキ:「ふん。私が整備のため休んでいる隙にすり替えたのね。すぐ取り返してやるわ。」

マオ:「ところで主役争いはおいといて、脇役の娘の確保はどうするの?。」

ミキ:「理美が来てくれるんでしょ。」

マオ:「これだけ私らのレベルが上がるとサイボーグでもついてこれる娘は少ないわ。
脱落者が出るのは必至だから筋の良い娘を集めておかないとね。」

ミキ:「そうねえ。以前やってくれたリエさんやマサさん達は任務で無理だしねえ。
ハルとみどりを引き込みたいけどこのごろ店が繁盛して忙しいと言って付き合い悪いのよね。」

マオ:「この際、元素体教官の強面で無理矢理引き込むしかないわね。」

ミキ:「イヤと言ったら店を荒らしてやるって事か。仕方がないわね。」

マオ:「そう、こうしてやる http://pinksaturn.fc2web.com/bar.htm#haru-maorannyuu ってね。」

ミキ:「そりゃ愉快だわ。あの店でなら恥はかき棄てだし。」
333pinksaturn:2006/12/11(月) 00:09:05 ID:VjdyDJp30
理美:「こんにちわ。」

マオ:「あら。練習しに来たの?。良い心がけね。出世するわよ。」

理美:「パパがスケート用の脚を試作してくれたので付け替えてテストしたいんです。」

ミキ:「酉山博士か。もう帝国のサイボーグ専用脚なんか自作できるんだ。凄いなあ。」

理美:「じゃ、リンク使いますよ。よいしょ、まず右脚ロック解除、差し替え...」

マオ:「一見シンプルそうな足首の形ねえ。」

理美:「パパが言うには、目先の技のために変則的な機構にするより全身のバランスだって。
それで身体制御CPUからサーバーに運動データを送ってテスト結果をフィードバックするんです。
全身の動きに対して最適化すれば故障も少なくできるだろうと。」

ミキ:「なるほど。理美がうまく行ったら私も頼もうかな。」

マオ:「さすがにサイボーグ娘フェチの間で伝説になっているマッドサイエンティストだわ。
やっぱり酉山博士は帝国から離れたら危険人物ね。理美、裏切らせないようにつなぎ止めるのよ。」

理美:「そのためにも、うまく行ったら先輩達も酉山科学研究所をよろしく。」
334pinksaturn:2006/12/11(月) 00:10:23 ID:VjdyDJp30
(巨大氷隕石)

リエ:「各重機、牽引ロープの張力確認、0.5dで均衡させよ。いいか?。全機発進。
隕石離脱後15秒で私の機に運動を同調させよ。...よし、このまま母艦まで曳航する。
あざみはいつでも固体ロケットを動作させられる状態で隕石に同航して。」

あざみ:「固体ロケット制御リンク掴みっぱなしにしました。」

リエ:「落下までしっかり握っておいてね。但し、一緒に落ちないよう自機の運動に注意。」

あざみ:「気を付けます。」

リエ:「それじゃあ。隕石移動装置を母艦にランデブーさせたら戻ってくるからね。」

あざみ:「解体収容の監督は良いんですか?。」

リエ:「大型移動装置の分解収容は原子炉の始末がメインだから機関長が監督してくれるわ。」
335pinksaturn:2006/12/11(月) 00:14:22 ID:VjdyDJp30
(スペースシェリフ・ワン)

リンダ:「隕石に降りていた奴らが原子力推進器を曳航して離れましたね。」

スージー:「いよいよ金星大気圏に突入するのね。ここからが見物だわ。」

リンダ:「任務抜きで夢中になっていますね。」

スージー:「そりゃあ、惑星テラフォーミングなんて宇宙飛行士には最高の夢よ。
これが北米連の事業で自分が参加できていたらよかったのになあ。」

リンダ:「あ、固体ロケットに点火しましたね。さらに減速するのか。」

スージー:「なるべく大気摩擦を減らして氷を溶かさずに落としたいのでしょうね。
そろそろ落下地点の予想精度が上がるわね。どこかな?...ふんふん。
水たまりを作るつもりでしっかり窪地を狙っているわね。お、前の方が光り出した。
大気抵抗が出てきたようだが、さすがにしつこくスピンかけていただけに安定しているな。
分厚い雲に大穴開けて落ちて行くわ。固い氷だから空中で割れることも無さそうね。
あ、激しく光った。地表に激突したんだわ。台風のような渦が発生している。
やっぱり凄いわね。これを地球でやられたら世界の終わりだわ。」

リンダ:「ぞぞっ。当局が疑心暗鬼になるのも当然ですね。」

スージー:「これに比べると奴らが戦争で使ったのは軽石みたいな隕石だったようね。
本気で怒らせないようにしないと。」
336pinksaturn:2006/12/11(月) 00:15:54 ID:VjdyDJp30
(青の公家邸)

有栖:「ばぶう。おっぱいおっぱいおっぱい。」

マサ:「はいはい。おっぱいでちゅよぉ。ああ、かわいいけど乳の補充が忙しいなぁ。
サイボーグになってから不便だと思ったことはこれが初めてだわ。」

真理亜:「所詮人工ミルクだから小間使いに任せても同じ事なのに藻前は物好きだな。
わざわざ我が儘言って地上で面倒な任務貰ったり、胸を改造したり何やってんだか。」

マサ:「面倒なのは判っていたけど、やっぱり一度はやってみたかったんです。
やってみてよかったですよ。乳首吸われるのって非常に気持ち良いですね。
それにしても有栖は言葉憶えるのが早かったなぁ。おっぱいだけだけど。」

真理亜:「そりゃあ貴族の人生はとんでもなく忙しいんだから早くないと困るわよ。
でも、どうやらこの調子なら有栖は素体適性の方も大丈夫そうね。一安心だわ。
ダメだったら藻前と別れて新しい相手を探さなきゃならないところだったからね。」

マサ:「えーっ。そんなぁ。冷たいなあ。」

真理亜:「私を誰だと思っているんだ。帝国ナンバーワンのサド女王様だよ。」

マサ:「はいはい。そうでしたね。あ、重要なお知らせのメールだ...国営放送?。」

真理亜:「つけてみようか。」
337pinksaturn:2006/12/11(月) 00:16:40 ID:VjdyDJp30
アナウンサー:「大本営発表。帝国宙軍部隊は本日正午金星に巨大氷隕石を投下せり。
当該氷隕石は照準通り標的窪地に降下、深さ1`b以上のクレーターを穿てり。
直後より金星大気圏は膨大なる塵に覆われ現在のところ地表の観測は困難なり。
落下地点付近は激しい下降気流によるらしき巨大なる渦が発生、停滞す。
されど我が浮遊プラットフォーム観測拠点は健在なれば水面形成の成否は程なく判明す。
これより氷隕石突入時の映像を放映する。帝国臣民は一大事業に感銘せよ。」

有栖:「ばぶう。だいほんにぇい。きらきら。ちゅどーん。」

マサ:「あ、有栖が新しい言葉を喋ったわ。映像に感銘を受けたのね。」

真理亜:「将来航宙士になるのにこの映像をつまらながるようじゃ困るわ。」

有栖:「だいほんにぇい。ちゅどーん。おっぱいおっぱいおっぱい。」

マサ:「はいはい。ああまた補充しないと。興奮したからのどが渇いたのかな。」

有栖:「だいほんにぇい。おっぱい。」

マサ:「局所的な寒冷化は起きたようですが、金星でも子育てが可能になるのでしょうか。」

真理亜:「いつかは出来るわ。いつになるかは今回の投下でどれだけ冷えるか次第ね。
予想より気流が激しいと氷が溶けるのも早まるから次が間に合うかも重要よ。
ま、気温や酸素比率が良くなっても硫酸の湖は残るから危なくて外で遊ばせられないけど。」
338pinksaturn:2006/12/11(月) 00:22:41 ID:CrCAcnn00
マサ:「炭酸ガスよりも硫酸は厄介ですね。減らす方法なんてあるのかな。」

真理亜:「気温が下がって安定した水面が存在し続ければ岩石と反応して明礬になるわ。
岩石の組成は地球と似たものだからいずれ自然に減っていくけど長い年月がかかるわ。」

マサ:「鉄質隕石を落とせば人工的に促進できないかな。」

真理亜:「少々じゃ効かないし酸素も吸収されちゃうわ。それより氷集めが先決よ。」

マサ:「すると、子育てもそこそこにまた冥王星通いですか。」

真理亜:「しかたないわ。出動したら次に有栖に会えるときは学習院生よ。」

マサ:「そうか。授乳は今のうちか。真理亜様はやってみなくて良いんですか?。」

真理亜:「じゃ、ちょっとだけ。へへ、実はその気でこっそり胸を改造してあるのよ。」

有栖:「だいほんにぇい。おっぱい。」

真理亜:「ほれ、いい子だからマサに似ず私に似なさい。」

マサ:「そこまで言わなくても...しかし私に似たら艦長には向かないか。それも困るね。」


(とりあえず表題通り金星に氷を落としましたが、落書きに填ったり、孫や酉山をもっと働かせたくなって寄り道したりで3週間迷走しました。
次回ですが、元々の構想では金星への入植をやって年内で本編完成の筈でした。
ところが最近フィギュアスケートGP戦のたびに新たな妄想をかき立てられたり、冬子や酉山には将来に繋がる研究成果を出して欲しくなったりで、間にもう1章入れることになりそうです。
GPファイナルの結果で内容ががらっと変わってしまうのでタイトル未定です。)
339adjust:2006/12/12(火) 20:51:55 ID:MePx4Xbs0
出来が悪い作品ですが、投下させていただきます

味覚関係ということで考えていましたが、開発の話はどうにも地味になってしまいまして、
受けそうな内容になりませんでした。サイボーグ娘出てきません。出てくるのは
サイボーク部長とサイボーグママさんがちょっと出てくるくらいです
あらかじめお詫びします。もうしわけありません。

完全に自己満足ネタなので、つまらないと思います。ご不満の件については真摯に受け止めさせていただきますので
よろしくお願いします。

340adjust:2006/12/12(火) 20:52:34 ID:MePx4Xbs0
 「中央救急1よりN市消防」
 「中央救急1、どうぞ」
 「現在、中谷救急病院搬送中、負傷者は3名、男性1名重症、女性1名重症、乳児軽症、男性は出血多量、頭部骨折、
下肢骨折、自発呼吸あり、心拍120、女性、呼吸停止、心拍微弱、胸部に激しい損傷、出血多量、危険な状態です。乳
児は打撲、呼吸あり、心拍100どうぞ」
 「N市消防、了解、搬送先の病院は受け入れ態勢準備中、どうぞ」
 「男性、女性共に救命作業実施中、以上中央救急1」
 「N市消防了解」
 救急救命士が輸液と止血を実施する。女性の心拍は微弱であり、心電図を見ても、かすかな痙攣しか認められない。
「AEDかけます」
 救急救命士が、除細動器のパッドを当てる。びくんっと筋肉が痙攣する。一度、二度、心拍の波形が出るがすぐに細
かい痙攣に変わってしまう。胸部の損傷がひどく、心臓マッサージが出来ない。それでも血みどろの胸部に手を埋め、
心臓の辺りを上下させる。全力で走っているため、最新の技術で調整されたサスペンションも路面の衝撃を吸収しきれ
ない。時折激しく突き上げがくるため、細心の注意を払って心臓を扱う。
 「あとどのくらいですか」
 「4分強ってところだ」
 はげしくハンドルを操作する運転員。サイレンを鳴らしているとはいえ、交差点では出てくる車の可能性が常にある。
そのたびにブレーキを踏み、開けられた車線で細心の注意をもって、しかし激しくアクセルを踏み込む。
 「男性に輸液をあと2本追加、乳児の状態に注意してくれ」
 「はい」
 救急救命士が他の救急隊員に指示する。女性の出血点を血の海の中から探り出し、圧迫止血する。出血量がすさまじ
いため、顔色は蒼白であり血の色が見えない。
 「よおし、到着、搬出準備」
 救急車が救急病院の搬送口に横付けされる。急停車と同時に後ろのハッチを跳ね上げ、ストレッチャーに滑り込ませ
た。救急救命士は医師に負傷者の状況を説明する。
 「渡辺先生と、小島先生は第一手術室で女性をお願いします。小児科の山田先生は乳児を、私は男性を担当します。」
 当直の医師がてきぱきと担当を分ける。
 「よし、第一だ、行って、」
 さっと状態を見ると、渡辺医師が移動を指示。ストレッチャーが手術室に運び込まれる。
 「心電図とCT、血液型は」
341adjust:2006/12/12(火) 20:55:12 ID:MePx4Xbs0
 「A型、Rh+、しかし心拍微弱、脳死の可能性があります。人工心肺は」
 小島医師が答えた。
 「そうだな、緊急手術を行う。心臓保護措置後、人工心肺の接続、全血バッグ至急」
 看護婦が手術室を飛び出した。
 「はい、胸部洗浄、心臓術野確保、心臓マッサージ」
 血でいっぱいの胸部が大量の生理食塩水で洗い流される。出血部位を確認し、クリップで抑える。
 循環器科の技術員が人工心肺の機材を起動させる。
 「凝固阻止剤、注入します」
 「心筋保護液も準備してくれ」
 「はい」
 渡辺医師は人工心肺のための回路の作成に入った。血管に専用のチューブを差込み固定する。全身からと脳からの血
管をひとつの回路にまとめ、人工心肺への道を作る。もうひとつ、人工心肺から体へ戻る回路も動脈に作成する。
 「人工心肺の準備は」
 「準備できました。」
 「よし、動脈遮断、体外循環開始」
 静かに人工心肺が動き始める。大量の輸血によって補充された血液が、酸素を得て環流を始めた。
 「血圧と脳波に注意して、小島先生は頭部の処置を」
 渡辺医師は胸部の整復に入る。
 「CT写真をください」
 小島医師が看護婦から、今撮られたCTスキャン画像を受け取った。出血箇所が数箇所、出血の箇所によっては手術が
困難になる。小島医師の顔が曇った。
 「渡辺先生」
 「はい?」
 「脳底の損傷なんですが」
 指差しながら、写真を見せる。脊髄と繋がる部分の出血はあまり大きくない。しかし脳外科の小島医師は重要な損傷
を見逃さなかった。
 「おそらく、この部分の出血は広がっていると思います。今まで、血圧がほとんどなかったため、大きい血腫になっ
ていませんが、血圧上昇と共に出血が広がるでしょうね」
 「そうだな、そうなると脳幹、小脳が問題か...」
342adjust:2006/12/12(火) 21:01:33 ID:MePx4Xbs0
 出血により、その部分の血流が阻害され脳死に至る可能性があった。ただでさえ、毛細血管の損傷により脳圧の上昇
が問題になっているのに加え、出血した血液の凝固がその部分の壊死を引き起こす。渡辺医師がため息をついた。
 「出血の確認と脳手術の準備をしておいてくれ、状態が悪ければ、別の方法を考えなければ」
 小島医師がうなずいて看護婦に指示する。
 「MRIと脳手術の準備をお願いします。患者を装置ごと検査室へ移動します」
 検査室移動後、直ちに頭部のMRI撮影が行われた。ディスプレイに脳の状態が細かく撮影される。3D表示で脳全体
の画像が表示され、出血点の映像を回転させて表示する。
 「........」
 「広がってますね」
 人工心肺により血流が復活したことで、損傷のある部分の出血が増加している。
 「小島先生の所見は?」
 「この部分の手術はかなり困難です。頭蓋底を穿孔してたまっている血を排出するのが、当面の最優先事項でしょう。
それよりも心配なのが、この損傷で、全身麻痺の状態に陥る可能性が大きいことです。」
 「そうだな、このまま様子を見るか、開頭して機能保全をするかというところだな。」
 「脳幹の機能保全は出来るかもしれませんが、患部にたどり着くまでに、神経を痛める可能性があります」
 脳幹には多くの神経が集まっている。脊髄からの神経はもちろんだが、顔面の運動神経、感覚神経、味覚神経などが
脳幹に集まる。
 「それよりももっと大きい問題が...」
 小島医師が言葉を濁す。
 「なんだ?」
 「義体化を考えた場合、神経の保全を考えないと、義体化が出来なくなる可能性があります。すでに下半身の義体化
は考慮されていると思いますが、全身義体化の適用も考えておく段階だと思います。それを前提にすると、手術のやり
方が変わってきます」
 「うん...」
 渡辺医師は考え込んだ。しばらくして、静かに看護婦に尋ねる。
 「患者の関係者は誰か来ていますか?」
 「はい、患者さんのご両親がおいでのようです」
 「よし」
343adjust:2006/12/12(火) 21:02:57 ID:MePx4Xbs0
 渡辺医師が顔を引き締めた。
 「院長に連絡してくれ、それから帝東大の脳移植チームに連絡を、義体脳移植の適用といってくれ」
 全身義体化のための脳移植のスタッフと機材を持っているところは、全国でも10ヶ所を超えない。手術により多くの
神経を再使用できる形で取り出し、それらの神経を保全。シリコンチップに接続するための機材を保有し、使いこなす
ためには多くの優秀な人員が必要である。
 「このまま、上半身を保全できるか、全身義体か、...出来るだけ生身の部分を残してやりたかったが...」
 渡辺医師はぎゅっと手を握り締める。
 「小島先生、患者のご両親に義体化の説明を行います。ついてきてください」
 「わかりました」
 小島医師は静かにうなずいた・
 
 
 「失礼します、これが今日の書類になります」
 秘書が古堅部長の机に毎日の書類を置いていく。開発部の報告書、提案書、企画部や上からの稟議書など、その中に、
ケアサポーター部からのユーザーの要望書や分析レポートなどもある。ケアサポーター部からの書類は部内で分析、選
択され、古堅部長の元に届けられる。
 開発部からの開発状況の報告書は、直ちに目を通され、それぞれの部署に適切な指示を与える。そのほかの書類は、
ざっと目を通され、それなりの処理をする。
 ユーザーの要望書や分析レポートは開発部にとって重要な情報源でもある。ケアサポーター部では独自の分析を行い、
企画部と開発についての提案を上げてくるが、ユーザーからの直接の情報やトラブル事例などは開発に役立つ情報が多
い。開発部のスタッフにも回覧させるようになっている。
 「うむ」
 あるケアサポーターから上げられたユーザーの要望書に目が留まる。
 ユーザーは古い和菓子屋の一人娘。若い職人と結婚しており、子供が一人。交通事故により全身義体となったことが
ケアサポーターの基本項目欄に記されている。
 古堅部長は要望書を読んでいった。味覚に対する要望が真剣につづられている。
344adjust:2006/12/12(火) 21:04:54 ID:MePx4Xbs0
 開発部の若い者が仮想食事体験機なるものを作ろうとしていることも知っている。基礎研究段階で雀の涙程度の予算
しか付いていないが、何度か自分が体験させられ、すさまじい味の攻撃を食らったので、開発状況についてはよくわか
っている。甘い、辛い程度の単純な味であり、加減については再考の余地があるが、とりあえず味覚を味覚として感じ
ることが出来たことは評価してやってよいと思う。加減については今後改良していけばいいことだ。
 だが、実際の食物を味覚として感じさせることは、複雑さとしては桁が違う。
 要望書には、もう永久に奪われた和菓子の味、家庭の味についての欲求が綴られていた。
 以前に古堅自身がその可能性について、開発部総動員で調査研究したことがあった。しかし、そのときの技術では不
可能に近く、個別の物質についてのセンサーはすでに存在していたが、混合物や化合物の分離が出来ず、関係の無い物
質にも反応してしまう。細胞膜を模した高分子脂質膜センサーは混合物の認識が出来たが、膜の寿命が短く毎回の取替
えと洗浄が必要であった。
 「しかし...何とかならないものか」
 古堅は考えをめぐらす。ライバル企業のギガテックス社は高性能、高出力義体の方針を打ち出して、軍や宇宙関係へ
の進出を進めている。イソジマ電工はその方針を採らず、医療器具、民生機器の方向で開発を進めている。一般の生活
者としての義体を追い求めるためには、通常人の感覚に近づけていくことが必然でもある。困難であろうとも、イソジ
マはイソジマの道を進まなければ勝ちは望めない。
 実は、ギガテックス義体と比べると、イソジマ電工の義体の体感センサの数は3倍以上多い。ギガテックス義体は作
業に必要な最小限のセンサに絞って搭載されているが、イソジマ電工義体は生活のための細やかな感覚を再現するため、
人工皮膚表面にはかなり多いセンサが組み込まれている。それでも実際の人間よりははるかに少ない数である。
345adjust:2006/12/12(火) 21:09:18 ID:MePx4Xbs0
 このセンサの数は必然的に搭載コンピュータの能力にも関係しており、生命維持のコンピュータの性能は大差ないが、
感覚系や大脳をサポートするコンピュータの性能は大幅に違っている。ギガテックス義体はどちらかといえば一世代前
のコンピュータを信頼性重視で搭載しているが、イソジマ電工義体は開発時の最高性能のコンピュータを載せるのが普
通である。というより、高性能でなければ多くの神経系の信号を処理できないのが実情である。
 味覚を実現するためには、多くの味覚センサ。嗅覚センサを搭載しなければならない。これを搭載することが出来れ
ば、ギガテックスのサポートコンピュータでは同じセンサを使用してもまず処理しきれない。ギガテックスが大幅に義
体の設計思想を変えない限り、数年間、おそらくは3年から4年程度、有利を維持できる可能性があった。そして、大
幅に設計思想と変えるということは、莫大な開発費を投資することを意味する。その有利さと味覚の開発費用、精密に
計算しなければわからないが、それだけの開発予算を計上して採算を取ることが出来るか良く考える必要があった。し
かし、今のままでは、実現可能性、開発費用、製品のコスト、そのどれもが正確に算出できないのである。
 「.....もう一度、やってみるか。」
 当時と比べれば、周辺技術も向上しており、センサ、計算機性能、アクチュエータ、どれも水準は上がっている。化
学分野は専門ではないが、味覚、嗅覚のセンサについても新たな実現の可能性はあるかもしれない。古堅部長は静かに
立ち上がると開発室へ向かった。
 
 「味覚、ですか?」
 開発部リーダーの柏木は、古堅部長の顔を見返した。いつも表情を読ませない上司は何を考えているのかわからない。
 「でも、味覚関係は時期尚早ということで、お蔵入りさせたのでは?」
 「そうだな、3年前の調査では、まだ無理だった。だが、その間の技術の向上はどのくらいあるか。義体のサポート
コンピュータの性能も上がっている。まだ無理かも知れん。だが、ギガテックスと差別化できるとすれば、かなり大き
いアドバンテージとなる。」
 「たしかに」
 柏木はうなずいた。
346adjust:2006/12/12(火) 21:13:01 ID:MePx4Xbs0
 「いきなり開発しろといっても無理なのはわかっている。しかし、いくつかの可能性となる種を見つけて、育て続け
なければ、他社に追い越されたとき、致命的なダメージを負いかねない。」
 「その種が、味覚というわけですか」
 「それだけではないぞ、義体の機械的電気的性能はわれわれで改良できるが、われわれの手に余る部分についても積
極的に研究は進めておかなければ、突然ひっくり返されることもありえる。イソジマ電工社内での研究会だけじゃなく、
外部からの情報を積極的に研究する必要がある。」
 「そうですね、公開情報は私たちも集めていますが、専門家の意見を聞きたくなることがあります」
 古堅部長はわが意を得たりとばかりに大きくうなずいた。
 「そうだろう、それでだ、その手始めとして外部の人間との研究会を始めようと思う。食品工業などで使われている
味覚センサを勉強して、その関連の専門家との情報交換をしなければならん」
 「うまくいくようなら、そこから導入するわけですね」
 「そうだ、ただ、義体用にそのまま導入できるとは限らんから、目処がついた段階でその研究を元に実用化すること
になる。」
 諏訪が横から割り込んだ。
 「そこで、目処がつけば予算が付くということですね」
 「うむ」
 「ところで、上の説得は出来るんですか」
 「そこが問題だが、何とかする。そこで君たちに上を説得するための材料を調べてもらいたい」
 「要は、味覚が実現できるかもしれないと上に思わせればいいわけですね」
 何かというと予算削減のあおりを真っ先に受ける部署である。柏木も諏訪もごまかし方についてはよく承知している。
 「そのとおりだが、これは実際に実現したい企画だ。本当に実現できることを念頭にしてやってくれ」
 「わかりました」
 柏木と諏訪は明るい声で答え、直ちにパソコンに向かった。
 
 「むー」
 さっきから、お手紙をひらひらともてあそんでいる橋本、虚空をにらみながらパタパタと仰いだり広げたり、さっき
からそのしぐさが目に入ってくる横田と三沢にとってはうっとおしいことこの上ない。
 「あー、うっとおしい、やめてくださいよ」
 「むー」
347adjust:2006/12/12(火) 21:15:07 ID:MePx4Xbs0
聞こえるのか聞こえないのか返事にもならないような声を出しては、また広げる。
 「横田君」
 「はい」
 「来週出張お願いね」
 「へ?、わたしですか」
 「そうだよ、うーん、うちら全員行きましょう。これ、かなり大物だよ」
 さっき横田と三沢に回覧させたイソジマ電工からの研究会のお知らせを示す。題名は“義体味覚機能の実現可能性に
ついて” NTLの橋本にも参加依頼があった。
 「味覚って甘いとか辛いとかの基本形だけじゃないからね。同じ甘いでも、砂糖、ブドウ糖、麦芽糖、全部甘さが違
うでしょ。合成甘味料もあれば、ピーナツバターみたいに脂肪も甘く感じるときがあるし」
 「なるほど」
 「イソジマさんはどこまでやるつもりなんだろ。限界見極めないと、泥沼に入っちゃったりしないかな」
 「義体搭載が目的でしょうから、味がわかる程度で収めるんじゃないですか」
 「開発する側としてみれば、味の感動を取り戻させたいところよねー」
 「ちょっと、それは難しいんじゃないかと」
 「現実問題として、舌に載せられるセンサがどのくらいあるかも問題だよね。今あるセンサってどのくらいの大きさな
のかな」
 「いま、ざっとネットを漁っていますけど、ベンチャー企業で出してる複合センサで、1cm四方くらいですね。厚さ
は2mmくらいかな。そもそもが食品会社の品質管理用ですから」
 「舌の上に3〜4個ってところか。きびしいなあ」
 橋本は考え込んだ。だがとりあえずは研究会で情報収集してからでも良い。
 「じゃ、横田君、三沢君、出張お願い。開けといてね。出来ればなにかお土産用意してくれるとうれしいなあ」
 この場合のお土産とは、NTL側で研究会に報告する情報のことである。
 「わかりました。何か調べておきます。」
 「ごめんね、こっちでも何かやっておくから...うちの会社でやってる人いないのかな」
 記憶を探るが、そんなテーマをやっていそうな部署が思いつかない。
 「さあて、どんな手法がいいのやら」
 なんとなく考えながら、橋本はやりかけの仕事に戻っていった。
348adjust:2006/12/12(火) 21:18:14 ID:MePx4Xbs0
 イソジマ電工本社ビル、12階第1会議室、50名ほどの参加者が集まる、古堅部長は正面に進むとマイクを握った。
 「お忙しい中、今回の研究会にご参加いただきありがとうございます。本日の研究会で司会を勤めさせていただく古
堅です。よろしくお願いします」
 古堅部長が挨拶を始める。集まった面々はイソジマ電工の開発部から手の離せない人間を除いたほぼ全員、各部の部
長、ほか数名、大学医学部の関係分野の教授数名、義体及びロボット研究者数名、食品工業用だが味覚センサメーカー
の技術者数名、NTLから橋本たち、等であった。
 「まず最初は、現在の味覚の基本概念と現在の研究状況に関して、当社の柏木からご報告させていただきます。その
後、若干の討論をお願いいたします、そのあと、ご講演を順次お願いした後で、全体の討論に入らせていただきます。
それではよろしくお願いします。」
 柏木が壇上に立ち、諏訪がプロジェクタを操作する。大きくイソジマ電工の社章のあと、題名が表示される。
 「イソジマ電工開発部の柏木です。味覚の基本概念と開発状況に関してご説明させていただきます。よろしくお願い
します。」
 「えー、まず味覚の概念についてですが、一般的に味覚は4味または5味の基本的な味があると......」
 柏木の説明が終わり、いくつか足りない部分の補足が参加者からなされる。その後、医学部の教授から、舌と咽喉の
構造についての一般的な説明が行われ、筋肉の構造やそれらの連係動作などが説明される。
 味覚センサメーカーの技術者が、センサの高分子膜の特性について説明し、使用条件などが示された。
 NTLからは直接の味覚に関する研究者がいないことを前置きした上で、国立研究組織の論文を紹介、高分子膜センサ
などではなく、ただの電極から高周波パルスを舌上の食品分子に与え、エネルギーを受けた食品分子が電磁波でエネル
ギーを放出する際の信号を取り出す手法を説明した。この電磁共振式はただの電極であるため、高密度にセンサを設置
できることが利点であったが、取り出される信号はさまざまな物質が出す信号が混ざった状態であるため、この分析に
はスーパーコンピュータ並みの演算が必要になる。すぐに実用化できるとは思わないが、補助的には使えるかもしれな
いという読みがあった。
349adjust:2006/12/12(火) 21:19:44 ID:MePx4Xbs0
 各報告が終わり、討論に入る。柏木は味覚センサメーカーの技術者に小型化と耐久性の問題について質問した。味覚
メーカーからは、電磁共振式のセンサの可能性について質問があり、橋本は計算量の見積もりを説明した。
 説明が終わったところで、古堅が司会の立場で橋本に質問を返す。
 「大変興味深いお話でした。ありがとうございました。追加で、こちらからの質問よろしいでしょうか」
 「はい、お願いします」
 「今までの討論では、高分子膜型は高精度で味を認識できることが大体わかったと思います。ただし、耐久性が無い、
センサのサイズが大きいという問題があるということだと思います。それに対して、電磁共振式は耐久性とサイズに対
しては申し分ない特性を持っているようです。しかし、」
 古堅が周りを見渡した。
 「シグナルの分析に強力な計算機が必要だということと、分析手法がまだ確立されていないという問題がありますね。
失礼ですが、この手法はまだ基礎研究段階だという認識でよろしいでしょうか」
 橋本は軽くうなずく。
 「そのとおりですね。この文献を見つけてから、簡単な追加実験を行ってみましたが、味覚成分以外の物質にも反応
すること、温度や水分そのほかの要因でシグナルの傾向が容易に変化することがわかっています。膨大なデータを抽出
して傾向をつかむことからはじめる必要があります。すぐに実用可能とは考えていません。」
 古堅はじっと橋本の目を見つめた。
 「私はこの手法はかなり大きい可能性があるように感じます。もし、実用化すると考えた場合の、実用化の可能性、
期間、予算規模などは見積もることは出来ますか?」
 「正直、今の段階ではわかりません。見積もるための時間が必要ですね。一週間あれば見積もれるかもしれません」
 古堅は嘆息した。
 「わかりました、実現すればかなり大きいメリットになると思います。ありがとうございました」
 古堅は礼をすると、新たな質問者を探す。いくつかの手が挙がったところで、古堅は次の質問に移った。
 
 会議解散後、いくつかの専門家と談笑しているところへ、古堅が橋本を呼び止める。
 「今日は、ご参加ありがとうございました。大変勉強になりました」
 「こちらこそ、たいした報告も出来ず申し訳ありません。」
350adjust:2006/12/12(火) 21:21:49 ID:MePx4Xbs0
 「いえいえ、大変興味深いお話でした。」
 ところで、と古堅は橋本に小声で話す。
 「さっきの電磁共振法、開発するお考えはありますか?」
 橋本は考え込む。
 「うちがやるかどうかという点では、なんともいえません。先ほど言われたように基礎研究段階なので、うちでやる
とすれば学術研究枠での研究になります。もし、イソジマ電工さんが弊社に開発依頼されるというのであれば、すぐ出
来ますが」
  「そうですねえ、いま、イソジマの役員連中と話しをしてきたんですが、うまくいけば役員連中を説得できそうな
んですよ。イソジマはセンサメーカと共同で、高分子膜型の小型化と耐久性の改良をやる、NTLさんのほうで電磁共振
法を実用化する。そして、おそらくは両方のセンサを使ってハイブリッド味覚センサとする。こんなことを考えている
んですが、どうでしょうか?」
「なるほど、できるかもしれませんね」
 橋本は古堅を見返した。この開発部長は真剣に考えていることがよくわかった。味覚などというものは正直雲をつか
むような話だと思っていたが、彼は真剣に実用化を模索している。橋本自身面白いテーマだとは思ったが、完成はまだ
ずっと先だという気がしていた。よく考えてみれば、いくつかの壁があるが乗り越えられない壁ではないかもしれない。
そうなると開発する側としては面白いテーマであることは間違いない。
 「わかりました。電磁共振式はこちらでやってみます。学術研究枠で希望が通れば、独自に開発することが出来ます
からこちらでやります。通らなければまたそのとき考えましょう。」
 「よろしくお願いします。」
 古堅は深々と頭を下げた。
 
 NTLの学術研究枠は、橋本が最近学術研究を行っていないこともあり、すんなり通ったといってよい。むしろ、審査
委員会の委員がかなり乗り気であり、むしろ研究規模を拡大するように薦めてきた。橋本は目処をつけるため、最初の
一ヶ月は調査に費やすことになる。そこで最初の壁にぶち当たる。
351adjust:2006/12/12(火) 21:26:28 ID:MePx4Xbs0
 初出の論文の研究者と会い状況を聞く。その研究者は信号の処理にニューロコンピュータを使用する方法をとってい
た。橋本はニューロコンピュータを使う分析手法をとらなかった。信号の数が少なければニューロコンピュータの出力
は容易に収束するが、信号が多ければ収束する結果を得ることは難しい。むしろ、スーパーコンピュータで徹底的に分
析する方法を考えていた。しかし、スーパーコンピュータの性能を発揮するためにはかなり高度なプログラミングを行
わなくてはならない。センサの数が増えれば当然演算能力も膨大になる。多少は理解できているものの橋本程度の能力
では、性能を十分発揮するのは難しい。また、その分析結果から、少ない演算で分析が出来るような手法を考案しなけ
ればならない。そうでなければ義体に搭載できないという問題がある。
 これらの問題は橋本の手には余るものであった。スーパーコンピュータ、数値計算の専門家を探す必要があった。
 「主任、こんな感じでいいんでしょうか」
 分析プログラムのソースコードを持ってくる横田。橋本はソースコードの流れを追っていきため息をつく。
 「FFTはライブラリから持ってくるだけだから何とかなるとしても、そのあとの判断条件で多分引っかかるよねー」
 「そうですね、普通はどんなテクニック使うんでしょうかね」
 スーパーコンピュータは多くの演算ユニットを同時に稼動させることで性能をたたき出す。しかし、計算結果によっ
て処理が分岐する場合、その分岐のせいでほとんどの演算ユニットが停止してしまう。出来るだけ同時に、休ませずに、
演算を続けるようにプログラムしなければ、高性能は望めない。
 「あとはコンパイラが何とかしてくれるといいけど、ま、しかたないか、横田君、NX-9500の使用願い出しといてく
れる?」
 「わかりました」
 NX-9500はNTL本社が保有するスーパーコンピュータである。NTLグループ全てで使用することが出来る。演算能力は
世界一とまでは行かないが、トップクラスの性能を持っており、実効効率が高い特性を持っている。
 
 次の日、朝のミーティングで、NX-9500の使用許可と使用アカウントが届けられた。中村室長が使用法と注意点を説
明する。
352adjust:2006/12/12(火) 21:28:21 ID:MePx4Xbs0
 「....シングルユニットのコマンドはこれを使います。マルチユニットで、フルの場合はこのコマンドで行列待ちに
入ることになります。実行に入るときにメールで連絡が来るので、これでモニターしてください。」
 「住みませんが室長、スーパーコンのプログラミングわかる人を紹介して欲しいのですが」
 橋本が上目遣いで室長に聞いた。
 「ん。スパコンのプログラミング?、行列演算ですか」
 「はい、性能を出せる自信が無いんで、だれか、高速化手法をレクチャーしてくれるとありがたいんですけど」
 「うーん、だれがいいかなあ、一応、僕もスーパーコンピュータセンターの委員をしてるけど、誰かに話をしてみよ
うか?」
 「お願いします...って委員?!」(やった、専門家いたあ!)
 「室長、スパコンわかるんですか?」
 畳み掛けるように橋本が中村室長に食って掛かる。
 「あ、ああ、一応専門は数値シミュレーションだから時々使うけど」
 怪訝な顔をする中村室長、それをものともせず尻尾を振った犬のようにまとわり付く橋本。
 「お願いします。教えてください。」(というか、この研究一緒にやって)
 お色気攻撃で落とせるならそれでもかまわないとばかりに、迫る橋本であった。
 しばらくして、はっとわれに返る。しかし、目の前の獲物を逃す橋本ではなかった。
 中村室長の目をしっかりと見据えて言った。
 「あらためて、お願いします。今やっている数値計算、室長の力が必要です。共同研究としてお手伝いいただくよう
どうかどうかお願いいたします」
 ということで、中村室長を自分の研究に引きずり込むことに成功した橋本であった。
353adjust:2006/12/12(火) 21:29:56 ID:MePx4Xbs0
 
 古堅部長の上層部への説得工作が成功し、試作品開発予算の編成がイソジマ電工で行われた。標準義体に搭載するこ
とは、コストと実用性をにらみ、その次の段階として行われる。予算はおよそ2億円、人件費や製作費用を含んだ金額
であり、それほど大きい金額というわけではない。本来であれば開発依頼の形式でNTLに発注するはずのセンサや計算
機も、NTLの学術研究枠となる自己開発という形で行われる。この部分の特許をイソジマ電工側で全て持つことが出来
れば、販売の点では非常に有利になるのであるが、この費用では無理であった。開発が進んで実用化の目処が立ったと
ころで、NTLから特許を買い取るか、一定期間の独占権の契約を行うことも考慮されている。ただし、この優先契約権
はイソジマ電工が保有している。イソジマの了解を経ない限り、他社が契約をすることは出来ない。
 予算が正式に編成されたことで、全身義体用味覚機能の開発プロジェクトは正式に動き出した。いくつかの打ち合わ
せの後、プロジェクトの役割分担が決定される。
 
 総プロジェクト責任者−古堅
 義体口腔、舌、喉部構造設計−イソジマ電工開発部、諏訪グループ
 高分子膜味覚センサ−イソジマ電工開発部、柏木グループ、新永康電子工業
 嗅覚センサ−イソジマ電工開発部、小出グループ、新永康電子工業
 動作試験、評価−イソジマ電工試作部、長瀬グループ
 計算機、センサ制御回路設計−NTL第4開発室、橋本グループ
 センサ情報分析ソフトウェア−NTL第4開発室、中村グループ
 
 この陣容で味覚開発プロジェクトはスタートした。
 
 中村室長の協力を得ることで、電磁共振式のセンサ開発のための分析は、NX-9500の性能もあって強力に進められた。
砂糖水から始まって、混合物の分析、温度や湿度、時間経過などの条件を変えてデータが取られ、分析されていく。そ
れらの傾向から変化する特性を捕らえ、莫大な物質の特性データが蓄積されていった。
354adjust:2006/12/12(火) 21:31:11 ID:MePx4Xbs0
 内蔵コンピュータではどんな高性能の計算機を使っても、全てを分析する計算能力を与えることは出来ない。蓄積デ
ータを元に、少ない計算量で分析を行う必要がある。その結果と高分子膜式のセンサとの整合性を取ることも必要であ
る。橋本は、その機能を満たす計算機とセンサアンプ、分析回路の設計が担当であった。想定される電磁共振式センサ
の数は40点程度、嗅覚に15点、舌に15点、喉口腔に10点程度である。
 
 橋本は横田と三沢を連れて、イソジマ電工の工場を訪れた。試作義体の状況を確認するためである。
 工場の守衛に訪問目的を説明し、駐車カードをもらう。守衛の指示された場所に車を止め、教えられた試作工場に向
かった。
 「NTLの橋本様ですね。うかがっております。試作部門はこの中になりますが、まず、洗浄室に入っていただいてご
案内します。」
 受付の指示で一室に通される。まもなくぶわっと風が吹き付けられ、ほこりが落とされた。そのあと、紫外線を当て
られ、殺菌工程を経て工場への立ち入りが許可される。
 「こちらです」
 案内されて、橋本は試作部門へ向かう。
 「?」
 およそ工場には似つかわしくない声が聞こえる。その声は廊下を進むごとに大きくなっていった。
 「猫?」
 三沢が頭をひねる。橋本は頭を振った。
 「ちがう、子供の声よ。赤ちゃんがどっかで泣いてる。」
 こちらです。と案内された部屋のドアが開けられた。あけたとたんに大泣きする子供の声が響き渡る。
 「こんにちは、NTLの橋本です」
 泣き声の中で、古堅と柏木が会釈する。その奥で母親に抱っこされて大声で泣き喚く赤ん坊、母親がすまなさそうに
苦笑いしながら頭を下げた。
 「すみません、何かびっくりしたみたいで泣き止まなくて」
 「ああこちらこそ、大丈夫ですよ、おーい、赤ちゃん、どしたの?なにびっくりちたの?」
 橋本が、頭をそっとなでで、ほっぺをつつく。
 なにか知らない人がいるのを、じっと見つめる子供、なくのを忘れて母親にすがりついた。
 「ああ。知らない人だからね、ごめんね」
 子供に軽く手を振って、古堅に頭を下げる。古堅は傍らの母親を紹介した。
 「わざわざ、お疲れ様です。こちらは村岡さんです。味覚開発の味覚試験をお願いしています」
355adjust:2006/12/12(火) 21:33:11 ID:MePx4Xbs0
 「はじめまして、NTLの橋本です。よろしくお願いします」
 村岡は子供を抱きかかえながら、頭を下げた。子供がじっと橋本を見詰めている。
 「村岡です。まだ、義体になってから日が浅いので、お役に立てるかわかりませんがよろしくお願いします。」
 橋本は改めて村岡を見回した。見かけは子供を抱えた若い母親である。
 「こちらの橋本さんにはセンサとコンピュータ関係の担当をお願いしています」
 橋本が頭を下げる。
 「大雑把に予定して、私たちは3ヵ月後くらいにプロトタイプの試作を終え、試験をお願いすることになろうかと思
います。」
 「え゛!!」
 たんたんと村岡に説明する古堅。その期間に橋本は度肝を抜かれる。そおっと柏木や諏訪のほうに視線を向けるが、
柏木も諏訪も静かに頭を振った。その後古堅は橋本を説得する。どう説得したのか、橋本はその説得を受け入れること
になる。そして、本来の予定である、頭部モックアップの検討が始まった。
 
 基礎研究レベルから3ヶ月で試作に持ち込むという、むちゃくちゃなタイムスケジュールは、全プロジェクトをパニ
ックに陥れた。橋本グループと中村グループが開発密度を限界まで上げたのはもちろんのことだが、イソジマ電工側で
もパニックは変わらない。ここで、他のグループの状況についてもすこし書いておく。
 
 義体頭部の機械機構、構造を担当する諏訪グループは、あごと舌の構造設計で苦吟中であった。
 「これだめ、あごの力に構造が耐えられない。力いっぱいかんだら、顎関節壊れるぞ」
 ものをかむことを前提にしていない既存義体では、物をかんだときに構造強度が持たない。しかもかむのに必要とな
る強力なアクチュエータを入れると、アクチュエータも顎構造材も大きくなるため、既存の頭のサイズに入らない。し
かも自由度が大きいため関節も小さくならない。各種機構の隙間を精密にCADで構成し、ぎりぎりの大きさを選び出す
しかない。
356adjust:2006/12/12(火) 21:34:46 ID:MePx4Xbs0
 高分子膜味覚センサ担当の柏木グループと新永康電子工業のスタッフは、センサの小型化と耐久性向上を行っていた。
 「3a膜は規定の時間で水素イオンが抜けないよ。通常の洗浄液で抜けないと次の味が知覚できない。2f膜くらいに抜
けが良くて、それより耐久性があるものじゃないと、ええと次の試作品のオレフィン膜やらなきゃ」
 いくつかの高分子膜を試して、特性がよく、耐久性のある膜を探し出さなければならない。食品工業用味覚センサの
生産実績を持つ新永康電子工業は、イソジマ電工と義体用味覚センサの開発を行っている。義体に合うセンサ用高分子
膜をさまざまな材料で試作中であった。
 
 嗅覚センサ担当の小出グループは、嗅覚の主成分である揮発性物質の検出を行うセンサの開発を行う。小出女史は匂
い物質の分子数の幅のあまりの大きさに途方にくれていた。
 「物質量が1分子から検出なんて無理よっ!、しかも上限は飽和量いっぱいなんてどんな検出するつもりよ!」
 検出物質が揮発性物質に限られるため、高分子膜式の膜耐久性に関しては、舌部分と比べてだいぶ楽になる。しかし
逆に極小量の物質を検出する必要があるため、検出範囲が異様に広くなる。微量の物質が香りのイメージを大きく左右
する。しかもその量の違いで、別の香りのように認識するから始末が悪い。香りについての研究は洋酒メーカーなどで
なされている。これらの文献を調べながら地道に積み上げていくしか方法はない。
 
 計算機、センサ制御回路設計担当の橋本は、規定の体積と電力制限の中、要求されるセンサ回路とコンピュータのシ
ステムを構成する。
 「このプロセッサじゃないと絶対足りない。でもプロセッサ間の通信速度が高すぎて安定した基板が作れない!」
 「Ghzオーダーを低レイテンシでどうやって送ればいいんですか!」
 基板設計の横田と三沢は橋本の要求に根を上げていた。通信速度が高すぎて、マルチプロセッサ群とメモリ間で安定
した通信を確保できない。しかもその通信路は速度を稼ぐため数千本にもなる。それらすべての信号を安定的に通過さ
せる通信路を、基板上に載せるのはかなり困難であった。でも何とかしてもらうしかない。
357adjust:2006/12/12(火) 21:36:32 ID:MePx4Xbs0
 とまあ、こんな具合にそれぞれの部署で開発が進められていた。そして、各グループの悲鳴が古堅のもとに届けられ、
それぞれの設計の整合性を取り調整するわけだが、開発が進むにつれて要求の調整が莫大な量になっていく。例えば、
どうにもならないと泣きつかれ、目標値を現実的な値にまで下げる。それを受ける回路は、その範囲をカバーするため
に修正をする。当然ソフトウェアも変更になる。というように互いが連鎖反応的に変化する。クリティカルな場所では
一部を変化させると全体の計画そのものが崩壊することさえありえた。その見極めをし、技術的な限界を超えないよう
にしながら、全体をうまく進めていくのは古堅の力量にかかっていた。
 
 2ヶ月を超えたところで、各部署とも何とか形がつくようにはなっていた。2ヶ月の修羅場で、それぞれの部署同士で
散々やりあった中、ゴールが見え始めるとプロジェクト内のスタッフ同士、妙な連帯感さえ芽生え始める。
 工場に各部門のスタッフが集まっていた。それぞれが持ち寄る試作品を、諏訪のグループが組み合わせる。形状、構
造、電力、発熱、配線などの問題がないかを逐次合わせていくのである。
 「わー、みんな、目のくまさんひどいね」
 「苦労しましたからね、徹夜のほうが多いくらいですから。橋本さんきれいですねえ」
 「やだあ、わたしもくまさんすごいよ、お化粧たっぷりしてきたけどねー」
 目の周りは化粧のため目立たないが、髪の手入れはあまりよくない。適当だったのか毛先は変な方向に曲がっている。
 「ところで古堅部長はいます?」
 「さあ、そういえばいませんね」
 「ここにいるぞ」
 「うわあ」
 部屋の隅の芋虫がうごめく。意外なところから声をかけられ、スタッフが凍りついた。
 「少し早めについたんで休ませてもらっていたよ」
 にこりともせずに起き出し平然と見回す。まだ表情が凍りついたままのスタッフは、何事かと固唾を呑んで見守った。
 「どうかしたかな?、さあはじめよう」
 相変わらず何を考えているのかわからない古堅部長であった。
 スタッフは組立作業作業を再開した。組み立てを進めながら、それぞれの担当者が修正すべき点をチェックする。入
るべきところに入らないものや、配線のまとめ方、組み付け工程などが確認されていった。
358adjust:2006/12/12(火) 21:37:34 ID:MePx4Xbs0
 「何とかなりそうだな。」
 古堅部長は作業を見ながら、つぶやいた。
 「来月頭には実際の義体ユーザーによる試作試験を実施したい。スケジュールが難しい人はいますか?」
 スケジュールははじめからタイトである。しかしほとんどのグループが大きい壁を乗り越えていた。後は致命的な問
題が発生しない限り間に合わせることは可能であった。ほどなくして、来月初頭の実ユーザー試作試験が決定した。
 
 「換装終了です」
 医師がほっとした顔でつぶやいた。
 胸部から上を味覚試験用に換装された村岡は、見かけ上は以前と全く変わらない。しかし、開発スタッフはわずかに
動く喉や胸の違いを観察していた。
 「よろしくお願いします。」
 村岡美由紀は静かにうなずいた。
 「体調は変わりませんか?」
 「大丈夫です。喉の感覚が今までと違いますが、これはすぐなれると思います。」
 「わかりました。よろしくお願いします」
 村岡が首の後ろのプラグをつけると、橋本たちが覗き込むモニターに各種状況が表示されていく。
 義体単体での全体試験はすでに4回を超えており、義体ユーザーによる試験は今回が初めてとなる。義体単体での分
析は行っており、どのように感じるかは予測できる。しかし実際の脳の感じ方と一緒であるとは限らない。
 村岡は、試験用食品の並ぶテーブルに着いた。
 「それでは、はじめましょう。最初は液体からになります。1番は水です。感じたことは出来るだけ詳しく書いてく
ださい。」
 水をそっと口に運んだ。ガラスの触感と冷たさが下唇に当たる。続いて上唇に当たる冷たい水。流れ込む水が舌の周
りに回り込み、ひんやりとした感触が36度に維持された体温で暖められる。2台のモニターに分けて表示されるセンサ
情報はその温度変化を映し出す。
 味覚センサ群は水に対して分析を開始する。舌の周りに配置されたセンサは水の存在を検知、若干の信号を送出する
が、味がほとんど無いため、その信号のレベルは低い。
 「よし、反応レベルは適正値内だ。」
359adjust:2006/12/12(火) 21:40:49 ID:MePx4Xbs0
 水であれば、強い味覚刺激が無いのが正常である。温度などの物理的な反応は起こっても味覚が反応してはならない。
 しばらく水を口に含み、舌の上で転がしてから、こくりと飲み込む。あご、舌、喉、食道に対応する反射手順が正常
に行われなければ、飲み込み運動は出来ない。それぞれのアクチュエータの関係がうまく組み合わされ、適正な時間を
持って仕事が行われなければスムーズな嚥下運動とはならない。しかも、それぞれの動きは半自動的に行われながらも、
脳からの明示的な動作にも対応する必要があるため、制御ソフトウェアは非常に面倒なものになる。
 「はい、OKです。知覚記録用紙の記録をお願いします。」
 村岡は鉛筆を握って記録用紙に向かう。橋本は健太郎くんを抱っこしながらその姿を見守った。小出女史が抱っこさ
れた健太郎君をあやしている。
 記録が終わり、村岡が頭を上げた。それを見て柏木が次の指示をする。
 「大丈夫ですか?次に行ってよろしいでしょうか?」
 村岡がうなずいた。
 「それでは2番に移ります。次はブドウ糖の水溶液です。砂糖水のような....」
 順に味の複雑なものに移り、項目は香りの分野にまで広がっていく。そして、この試験が終わったのは、橋本と小出
女史が健太郎君の世話でくたくたに疲れきった後であった。
 
 さらに数ヵ月後、さらに実ユーザーによる義体試験を繰り返し、一応の試作機の完成が宣言された。今の段階では開
発費に2億、義体単独で販売するとしても口や喉の部分だけで5000万はくだらない。しかも、現時点では安定的な消耗
品の確保は保証できない。改良を重ねられた試作義体はそのまま村岡に無期限貸与されている。消耗品は現時点では5
年は持つ在庫が用意されているが、それがなくなったとしても、それ以降供給し続ける保障は出来ない。今後標準義体
に搭載されることを祈って、それまで持たせるしかなかった。
360adjust:2006/12/12(火) 21:44:07 ID:MePx4Xbs0
 村岡家の朝は非常に早い。まだ暗いうちから村岡美由紀の父と夫は和菓子の仕込みに取り掛かる。朝食は美由紀の母
が用意して、父と夫を作業場へ送り出す。空が明るくなる頃に子供がおきて、母の作ってくれた離乳食を美由紀が与え
るのが毎日の日課であった。
 しかし、今日は美由紀が台所に立っていた。南瓜を出汁で煮て、わずかにしょうゆを加える。片栗粉でとろみをつけ
て、やわらかく煮込む。その煮汁をそっとスプーンですくい、わずかに舌に乗せた。
 やがて、子供がおきだして、笛のような泣き声が美由紀を呼んだ。美由紀は子供を抱き上げる。
 「おはよう、健太郎君、お腹すいたでしょ、ご飯食べる?」
 そろそろつかまり立ちから、歩き始めそうなところまで成長している子供は、テーブルに並んでいる朝ごはんを指差
して何かを伝えている。子供用のいすに乗せられ、手足をばたつかせていた子供は、取り分けて冷やしておいた南瓜が
スプーンで差し出されると、おとなしくなった。
 スプーンがそっと子供の口に差し入れられる。しばらく何の味か考えていた子供は、その味がわかると喜んで手足を
パタパタさせ、次を催促する。
 2つ目が子供の口に差し入れられた。あむっとスプーンをくわえて、にこりと笑う。
 「1歳の誕生日おめでとう。健太郎君...」
 美由紀の声が詰まった。すこし震えながら続ける。
 「健太郎君、おいしい?、これがママの味だよ」
361adjust:2006/12/12(火) 21:48:17 ID:MePx4Xbs0
このエピソードはこれでおしまいです。ありがとうございました。
味覚ということで、書いてみましたが、アイデア不足、文章力不足で
萌える文章かけませんでした。今後精進しますのでよろしくお願いします
3623の444:2006/12/14(木) 00:21:55 ID:+Wq4pI9B0
>>361
adjustさん
リクエストに応えてこんな素晴らしい話を作っていただけるなんて、感激です。
なんだかテレビのドキュメンタリーの一場面を見ているようなリアルな開発風景、
本当にすごいと思います。しかもただリアルなけじゃなく、adjustさんの世界は、
働く人が決して歯車ではなく生き生きと自分の役割を果たしていることが感じられて
働くっていいなあと改めて感じさせてくれます。前向きのオーラが作品から
ぴしぴしほとばしっていて読んだら元気が出そうな話ばかりです。
本当にありがとうございます。
次は、そうですね。
イソジマ電工にはイソジマ電工なりの義体に関する主義主張があれば、逆に
ギガテックスにはギガテックスなりの主義主張があるはずです。ギガテックス
が開発する特殊公務員用途に特化した新型義体の開発物語。そんな話もadjustさんの
筆致で読んでみたいなあ、なんて、調子に乗りすぎでしょうか。

>>275
どう完結するのか興味深深。続きの投下、待ってます。
363名無しさん@ピンキー:2006/12/14(木) 01:46:56 ID:nAroY9TS0
>>362
これだけあからさまに温度差をみせつけられて続きも何もないでしょうw
278で打ち切ります。悪しからず。
3643の444:2006/12/14(木) 10:19:35 ID:xQCEHzvn0
>>363
210,215,234の名無しカキコは私が書きました。
なのでとってつけたように362ではじめてレスしたのではないということだけは
言わせてください。
本当は作品が完結してから、きちんとした感想を書くものなのかもしれないですが、
なかなか続きが投下されなかったので、続きが気になってついつい軽い気持ちで
ちょっと遅めですが一行レスをしてしまいました。
でも362だけ読めば作者さんに「あからさまな温度差」ととられても仕方がないですね・・・。
作者さんとそれから続きを期待していた読者さんたちに申し訳ないことをしました。
すみません。
365読者その1:2006/12/14(木) 12:35:40 ID:Newl0b050
>adjust氏
御本人は萌えが足りないと仰っていますが、>>360の下りは十分に萌え要素ですよ。
ストーリー自体は技術的見地から語られているのに、イロイロな事項を決定する際の
動機が凄くヒューマニスティック! 素敵な作品をありがとうございました。

>>278
温度差って表現は不適切ではないでしょうか?
同じ作品を扱っても、二次創作する作家によって違ったものに変化(発展)して
いくものですから、雰囲気が違っていくのも当然なことだと思います。
そしてハードSFチックな話も、ハートウォーミングストーリーも許容できる
世界がヤギー世界だと思っています。どうでしょうか?
(あ、でも、戦争モンはちょっとカンベンね。)

将来はペリーローダンのように...。
複数の作家で数百タイトルまで続くシリーズになってくれたら素敵ですよね。
ヤギーとヤギー世界には、それだけの魅力があると思ってます。
366adjust:2006/12/14(木) 21:08:42 ID:pHMH0qUj0
>>308-338 pinksaturn様
氷隕石、小惑星または彗星といったほうがいいのでしょうか。実はテラフォーミングネタは大好きなので、
興味深く見させていただきました。過去に書いたことのあるSF?で自分もこのような話を書いたことが
あります。本当に書きたいのは彼女たちの姿かもしれませんが、壮大な世界を作っていくサイボーグ娘たち
と言うシチュエーションに感動します。自分の書いたものに実は宇宙ものの名残が一部残っていて、NTL.AC
(航空宇宙事業部)という部署があったりします。

>真理亜:「気温が下がって安定した水面が存在し続ければ岩石と反応して明礬になるわ。
こういう知識をひょいと入れてくるところが、只者じゃないですね

>>362 3の444様
感想ありがとうございます。味覚関係でいくつかの話が入っていたので、興味深く追っていたのですが、
途中からちょっと納得いかない方向のように感じたので、味覚について自分の考えを書かせていただきました。
もっとも、萌える方向に行かなくて、踏み外したような気もしていますが

ギガテックスは日本の会社なのか外資系の会社なのか考えています。設立背景によって、設計思想も変わって
くると思います。外資系で米国あたりの会社ならば、軍事的な経験も豊富でしょうから、現実的な設計をしてくる
でしょうね。

>>365 読者その1様
感想ありがとうございます。最後の項の意図を理解していただいてほっとしております。
好みのネタとして、機械と人が協力して何かを成し遂げる、とか、機械が人をフォローするなどがあります。
技術は人のためにあるという前提の路線は基本的に続けて生きたいと思っています。

ペリーローダンのようなシリーズですか、それぞれの個性を生かしながら八木橋ワールドを楽しんで生きたいですよね
もっとも、私なんぞは個性ありすぎではみ出されそうです。




367pinksaturn:2006/12/15(金) 01:19:14 ID:XRzKDJFT0
>>339-361
 味覚の処理にスパコンが動員されてたので処理すべき情報量はどれくらい?などと思い調べようとしたけど視覚に比べて資料が見つかりにくいですね。
いくらなんでも視覚ほどの面分解能は要らないだろうか、
一方で、閾値や飽和値が化学物質毎に違うため香辛料・調味料に騙される現象を再現するとなると物質別の入力データが凄い情報量かしら、
物質別の感度曲線データを保持するとストレージもきついかな、
などなど色々と考えさせられるネタでしたね。
また、よりによって和菓子屋の娘がorzという可哀想さは、萌えツボを突いています。

>>366
 隕石・小惑星・彗星の区別って元々曖昧なので使い分けが難しいです。冥王星はでかい彗星だという考え方もあったり。
医療・福祉用や秘密結社の拉致改造でない国家規模でのサイボーグ量産となると宇宙ネタ抜きで経済的意義を見いだすのは難しいです。
但し、あまりそれに力を入れすぎるとフェチ度が薄くなってしまうので配分が難しいですね。
なにしろ、ペリー・ローダンのように遺伝子レベルでの適応化や組織再生技術があるためサイボーグ技術は補助的にしか使われない設定はありえるから、逆は成り立たず宇宙にサイボーグは必須でないので。
368adjust:2006/12/16(土) 14:23:47 ID:F0wG8VB50
>>367 pinksaturn様
電磁共振法で、スーパーコンピュータが必要な背景ですが、実際の医療機器や科学測定機器で
MRIがあります。MRIは対象物質に強力な磁場を与え、原子または分子にエネルギーを与え、
磁場を切った後に、各物質がそのエネルギーを電波の形で放出する時の、周波数や時間を測定
することで、物質の構造や組成を調べるものです。この原理を微小なセンサとして用いたのが
電磁共振法です。
このとき、莫大な物質から、混信状態のように電波が発生します。この電波を物質ごとに分離するために
スパコンを使うという裏設定があります。

実は、本当に某研究組織でその研究をしている方がおられて、その研究を参考にさせていただきました。
お話の都合上若干改変しています。参考にさせていただいた研究員の方に感謝です。


>>但し、あまりそれに力を入れすぎるとフェチ度が薄くなってしまうので配分が難しいですね。
ぐさっ、サイボーグ娘の萌えを忘れて踏み外しそうな自分にとっては痛い言葉です。(笑)

ギガテックス話を書くとすれば、宇宙ネタもいいかなと少し思っています。ただし地球周回軌道専用ですが
技術開発ネタはドラえもんのように何でもありだと書きにくいですが、逆に前提がある程度しっかりしていると
書きやすいです。ギガテックスのような方針のほうが高価な義体に対する経済的意義を見出しやすいですね。



3693の444:2006/12/16(土) 22:42:10 ID:0UJerVTR0
>>368
adjustさん
ありがとうございます。
ギガテックス話、検討して下さるだけでも嬉しいです。
ちなみにギガテックスは、設定の上では外資ではなく日本企業ということになっております。

>>但し、あまりそれに力を入れすぎるとフェチ度が薄くなってしまうので配分が難しいですね。
> サイボーグ娘の萌えを忘れて踏み外しそうな自分にとっては痛い言葉です。
私は理系的な話には全くついていけないのですが、このスレにはサイボーグ娘萌えも技術話萌えも、
両方OKという方は多いのではないでしょうか。鉄道好きの方が妙に多いのはたぶんそういうこと
なのでしょう。
なのでこういうと語弊がありますが、読者を気にせず「自分が萌える」方向で話をガンガン進めて
いっても何の問題もないと思いますよ。今のところ充分すぎるほどの萌え話になっていますし。

とりあえずは、無茶なリクエストを検討していただけることへのお礼が言いたくてコテでレスしました。
今後の感想は名無しで書きます。
370manplus:2006/12/17(日) 11:59:23 ID:+hvltvnt0
adjustさん
私も 3の444 さんのご意見に賛成です。
技術話萌えやサイボーグ娘萌え、改造シーン萌えなど、萌えのツボは
個人によっていろいろだと思います。
自分が書きたい話を書いてください。
楽しみに待っています。
ギガテックスの宇宙ネタいいですね。期待しています。

 3の444 さん
本家ヤギーの特殊公務員ネタもそろそろ呼んでみたいのですが・・・。
リクエストしちゃいけないでしょうか・・・。

そう言えば私も、鉄道好き、飛行機好き、自動車好きなのですが・・・。
 3の444 のご指摘は私に関しては、当たっているような気が・・・。 
371無名:2006/12/17(日) 15:46:54 ID:KKko/8dn0
 思いがけない憂鬱 その2

 「今日はかなちゃんのメンテナンスの日ですよね」
 検査の準備をしている私に、宮木が手伝いに来た。
 「ああ、今回は新しい骨格に入れ替える作業をするからな。色々と準備が必要なのさ」
 宮木は搬入されてきた新しい骨格を見て少し驚いていた。
 「この骨格、いつものものと違いますね」
 「生体骨格だそうだ。最近開発された人工細胞製の骨を使用していてね、生身の骨と同じように成長したり自然に修復したり出来るらしい」
 この骨格は以前見学に来た研究所製の新素材骨格で、わざわざ和知さんが届けてくれた試作品なのだそうだ。まだ試作段階であるものの、義体基準は十分に満たしているという。
その骨格をかなに付けさせて、できるだけ人間らしい生活を送ってあげたいというのが和知さんの考えなのだそうだ。
 「他の人たちはそのことは知らされているんですか?」
 「まあな。ただし知っているのは手術を担当するチームのメンバーくらいだろう。お前を除いてな」
 「なるほど。でも何で僕にそのことを教えてくれたんです?別に手術のメンバーじゃない僕に」
 「お前がかなと親しくしてるからさ。それにリハビリの面倒見るんだろ?」
 私の言葉に、宮木は赤らめながら答えた。
372無名:2006/12/17(日) 15:48:31 ID:KKko/8dn0
 「ま、まあそうですけど…」
 「それにお前は私にとって大切な後輩だからな、これくらい言ってもいいと思ったのさ」
 「そうなんですか…、どうもありがとうございます」
 宮木は手術室を後にした。宮木を見送った後、私は骨格の最終調整に取り掛かった。
骨格の大きさをかなのサイズに合わせるのだ。もちろん多少身長を伸ばさないとと不自然なので、成長した骨格のプログラムも仕込んでおく。
そして骨格を調整液に入れて準備は完了だ。
 数時間後。麻酔で眠りについているかなが手術室に運ばれてきた。まずはパスワードを使って生体コンピュータの接続プラグを出さなければならない。助手の一人がかなの上体を起こし、背中にパスワード解除用のモジュールを押し付ける。
 「生体プラグ、アンロック」
 ロックを外すとかなの首筋からアクセス用のプラグが出現し、モジュールを通して外部コンピュータに接続された。
 「よし、次は各部ユニットの組織閉鎖だ。まずは患者を調整液のプールに入れてから分解を行う」
 モジュールに繋がれたまま、かなの義体は調整プールにゆっくりと沈んでいった。
 「体組織分解パスワード入力開始」
 別の助手が分解パスワードを入力していく。それからしばらくしてかなの義体は調整プールの中で少しずつ、ゆっくりと分解されていった。
373無名:2006/12/17(日) 15:49:42 ID:KKko/8dn0
 「組織分解率80%こえました」
 「よし、90%になったらゆっくりと義体を引き揚げてくれ」
 私は冷静に、そして淡々と指示を出した。そして分解率が90%をこえたとき…。
 「もういいだろう、義体を引き上げてくれ」
 ゆっくりとかなの義体を引き揚げていく。引き揚げられたかなの身体は皮膚組織が殆ど分解され、
人工筋肉や防菌パックに包まれた内臓、それに人工骨がむき出しになった姿になっていた。
 「これから患者の内臓と生命装置、それと脳を新しい骨格に移植する。新しい人工骨格を用意しろ」
 助手達はすかさず義体骨格を用意した。ここからが問題の移植手術の作業になる。
この作業はいつも慎重に行わなければならず、しかも相当時間がかかる作業だ。
もし失敗でもしたら患者の命が危険にさらされ、最悪死んでしまうかもしれないのだ。そのためこの作業をする医師達は相当の覚悟を決めて手術に取り掛からなければならないのだ。
 「生命維持装置を患者に取り付けました」
 「よし、患者の脳および生体部分をユニット内に一時保管する。傷つけないようにゆっくり運ぶんだぞ」
 骨格から外されたかなの生体部分は一時保管用の生体維持ユニットに入れられる。そこで義体の整備が終わるまで保管されるのだ。
 「それでは新たな骨格と人工筋肉、それと人工器官を用意しろ。出来るだけ慎重に作業をするように」
 別の部屋に保管されている人工細胞製の器官と人工筋肉が運ばれてきた。人工細胞製の器官などは隣の保管室にあらかじめ用意してあり、必要になる直前までその部屋に保管される。人工細胞はデリケートなので専用の保管室が必要なのだ。
 新骨格に器官と筋肉が少しずつ取り付けられていく。この作業は長くて5〜6時間はかかる。しかも義体そのものが精巧で出来ているので細かい作業が必要になる。私達は義体の組み立てを数時間かけて行った。
374無名:2006/12/17(日) 16:15:02 ID:KKko/8dn0
「思いがけない憂鬱」その2をお送りしました。
みなさん遅くなってしまってすいませんでした。
今の時期は忙しいので、なかなか執筆活動が進まないために
出来上がっているところまでを掲載しました。
次回の掲載は早くても年末、遅くても年始にしたいと思います。

>>339->>361 adjustさん

今回は味覚のお話ですね。
和菓子職人(調理全般)にとっては義体化するということは
その道を立たれてしまうのと同じかもしれません。
そうならないためにイソジマの研究員たちは研究に研究を重ねて
味覚を再現できるようにする・・・それを見ていて研究員たちが
どれだけ苦労したのか、身にしみてわかりました。
ただ、それがいつ一般化できるのかわからないようなラストなのが気がかりです。
もし一般化に5年、10年かかってしまったら・・・研究スタッフには何とかしてがんばってほしいですね。

>サイボーグ娘の萌えを忘れて踏み外しそうな自分にとっては痛い言葉です。
私もたまにですけどそれを忘れることがあります(笑)
でもそれは人それぞれなので、気にすることはありませんよ。
今後も様々なお話を期待しています。
375adjust:2006/12/18(月) 21:46:43 ID:7W6ERoNp0
>>369 3の444様
>ちなみにギガテックスは、設定の上では外資ではなく日本企業ということになっております。
了解しました。外資の意思決定プロセスはあまり知らないので、そのほうが楽かなと思っています。
NTLもバリバリの日本企業です。NはNipponです。語源は思いっきりベタな名前になっております

>なのでこういうと語弊がありますが、読者を気にせず「自分が萌える」方向で話をガンガン進めて
>いっても何の問題もないと思いますよ。今のところ充分すぎるほどの萌え話になっていますし。
ありがとうございます。このような意見は非常に参考になります。

>今後の感想は名無しで書きます。
自分が理由のような気もしますが、気になさらなくてもいいのではないかと思います。
278氏のお話が完結したら感想を入れようと思って待っていたのですが、同じように
一段落付くのを待っている読者の方は結構おられるのではないかと思います。
ここの方は途中で突っ込みを入れて、中断しないようにされているようですので

>>370 manplus様
>自分が書きたい話を書いてください。
>楽しみに待っています。
>ギガテックスの宇宙ネタいいですね。期待しています。
暖かいご意見ありがとうございます。ああっ、宇宙ネタが期待されてしまった。 舞台は宇宙でも
書くことはあまり変わらないので、どうなることやら...orz

374 無名様
かなちゃんの外部組織は分解、合成(おそらくは)して作るんですね。骨格が成長するならば年相応に
大きくすることが出来、大変な作業でかつ命の危険がある換装作業を少しでも減らせるということでしょうか
成長もこの世界の課題のひとつですね。

技術者の七転八倒ぶりを見ていただいてありがたいです。もっともこのレベルの開発で3ヶ月の言う期限を
切られたら、私はがんばるより上司を殴りに行くかも。(笑)
376pinksaturn:2006/12/19(火) 02:22:02 ID:D4wrOQuF0
>>375
ギガテックスは脳改造アリな設定なので、生体脳の振る舞いとソフトウェアをシンクロさせるところなどやりがいがありそうですね。
377adjust:2006/12/19(火) 20:40:45 ID:4zx7vRFc0
>>376 pinksaturn様
>ギガテックスは脳改造アリな設定なので、生体脳の振る舞いとソフトウェアをシンクロさせるところなどやりがいがありそうですね。

そうですね。開発する場合の問題点はその部分で噴出しそうです。ただし 問題はギガテックス社が
脳改造をあえてするのはなぜかという動機付けが必要ですね。
イソジマは日々の小さな幸せを追求する。ギガテックス社は完全義体でしか出来ない作業を担うと
いう誇りを追求する。ということでしょうか。その先には人間を介しない自動機械の世界もあるように思います
ギガテックスはロボットメーカーという設定があったようですから。
人→完全義体→ロボット、の流れで、ロボットよりの立場があってもいいようにも思えます。


3の444様
サイト見させていただきました。若干修正されてAnotherStoryが追加されていますね。
いくつかのお話と共に、当方のお話も掲載して頂いて感激しています。ありがとうございます
378名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 01:07:18 ID:Ffu2L9jp0
ときに、ぼちぼち新スレの季節ですが
即死困るので次に執筆する方よろしく
379名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 15:59:56 ID:W6WSbnHs0
 スレの目的とは無関係だが、事件報道で被害者「八木橋」とは。しかもカワイソさはヤギー級。
以下引用
21日午前7時15分ごろ、北海道函館市港町の函館港岸壁で、停車していたタクシーの車内に血痕があるのを、このタクシーの運転手の同僚が見つけた。通報で駆け付けた函館西署員がタクシーのトランク内で運転手が死亡しているのを発見。同署は殺人事件として捜査を始めた。
殺されたのは、北斗市のタクシー会社「しんわ交通」の運転手八木橋朋弘さん(42)=北斗市中山=とみられる。
380名無しさん@ピンキー:2006/12/21(木) 23:07:16 ID:FMtGT3U+0
>>379
青森とか北海道では八木橋姓は特に珍しい苗字じゃないから。
それはともかくいつのまにか北斗市なんていう自治体ができてたのね。
381名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 11:34:55 ID:ZvHCbTak0
殺伐としてそうな市だな。
382名無しさん@ピンキー:2006/12/24(日) 23:37:41 ID:ycQSmIg10
殺伐とした北斗市、戦いによって欠損した体を補う為にサイボーグ技術が発達し・・・
いけね、脳内補完が始まったw
383名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 00:29:58 ID:aFaDapCp0
>>382
ボルゲみたいなのを思い出してちっとも萌えねえw
384名無しさん@ピンキー:2006/12/25(月) 07:32:55 ID:4hxW64790
ジャギとかジードとかデビルリバースみたいのでしか想像出来ないとは・・・漢だな
385名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 03:51:38 ID:Omv1hukX0
>>382
その場合は、映画「サイボーグ3」が、非常に参考になる。

核戦争か何かの要因で荒野と化した世界で、
サイボーグハンターに追われるヒロイン(人工子宮に、死んだ恋人?の子供を宿した、奇跡と希望の『機体』)と
仲間達の活躍を描くB級アクション映画

・・・なのだが、この世界のサイボーグって、アンドロイドと同義っぽいんだよな・・・。
386名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 07:45:37 ID:84SqbbCg0
あの映画、身障者使ってたり個人的にはちょっと・・・
387名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 17:56:21 ID:Z+Eh9ONN0
身体障害者は映画に出てはならんだと!
シャベツニダ!
388名無しさん@ピンキー:2006/12/26(火) 22:50:36 ID:9z/wwZ+o0
>>387
韓国語は「サ」が「シャ」に訛ったりはしないぞ。
「サ」が「シャ」に訛る事もあるのは日本とその近辺の言語だとアイヌ語くらいな物だと思うが(しかも人による)。
そんな程度の知識すらない愛郷心の無さで(えらく遠回しな)韓国人差別するとは、随分カワイイ香具師ですなw
そもそも韓国語の語尾につくのは「ニダ」じゃなくて「ムニダ」なんだけどな。
もっとよく東アジアの勉強をしてから出直しておいで。
3893の444:2006/12/27(水) 01:31:18 ID:ot2M1vvE0
ヤギーの学園祭の続きを書いたのですが、スレ立てができませんでした…
と、いうことで、すみませんがどなたか次スレ立てをお願いします。
390名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 02:45:30 ID:R1Jo+hio0
【機械化】サイボーグ娘!十四人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1167154785/

スレ立てしました。
391名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 14:25:22 ID:MUIrOqO80
>>388
×もっとよく東アジアの・・・
○もっとよく特定アジアの・・・

お前はお前で、ハン板の事をもっと勉強してから出直した方が良くね?

ま、厳密に言えば、ここは2chじゃないし、そもそもがスレ違いなんだけどね。
392名無しさん@ピンキー:2006/12/27(水) 22:59:03 ID:6x0isEIv0
>>391
アイヌ語も言及されてる(=日本も含んでる)からやっぱり東アジアだと思うが。
日本語読めない人なんですか?w
393名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 02:16:42 ID:InfzzekM0
>>391
アイヌ民族と韓民族の区別もつかないのに愛国ぶるなんて百万年は早いと思うがw
やっぱお前カワイイ奴だわwww
394名無しさん@ピンキー:2006/12/28(木) 18:12:16 ID:7quvOBR40
はい民族論争終了。
395名無しさん@ピンキー:2006/12/30(土) 19:59:41 ID:qHgkLIkm0
保守
396名無しさん@ピンキー:2006/12/31(日) 02:30:34 ID:uzZpOgBS0
>>395
ご苦労様。でも、既に新スレが立っているので、保守る必要はない。
397名無しさん@ピンキー:2007/01/01(月) 11:47:41 ID:lsIJ+Tzl0
おみくじテスト
398 【大吉】 【783円】 :2007/01/01(月) 11:51:14 ID:lsIJ+Tzl0
名前欄だったのね
あけおめ。
400 【大吉】   【1891円】 :2007/01/01(月) 17:25:16 ID:mFrW9ibF0
400get!
401名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 22:36:38 ID:JjUNPc9+0
ho
402名無しさん@ピンキー:2007/01/05(金) 23:31:35 ID:VUnjCVTy0
ぬるぽ
403名無しさん@ピンキー:2007/01/06(土) 18:08:46 ID:2juzpreD0
てすと
404名無しさん@ピンキー:2007/01/07(日) 13:43:05 ID:UX+SBWJD0
404 Not found.
405高田聖矢:2007/01/08(月) 01:36:18 ID:wujsLcZN0
美少女ロボット計画
日本初の公式美少女ロボットweb

http://blog.zaq.ne.jp/copamaid/
未来技術板の「もし美少女ロボットが自作できるなら」スレにもカキコしてます。
406名無しさん@ピンキー:2007/01/13(土) 11:22:37 ID:3dkme6NH0
ho
407名無しさん@ピンキー:2007/01/17(水) 10:13:26 ID:OUpcwPrM0
syu
408名無しさん@ピンキー:2007/01/21(日) 14:51:34 ID:9gcFpyr60
ぬるぽ
409名無しさん@ピンキー:2007/01/24(水) 23:57:44 ID:9W1muqil0
ho
410名無しさん@ピンキー:2007/01/28(日) 10:02:02 ID:ey+ne0/Y0
機械化age
411名無しさん@ピンキー:2007/02/01(木) 01:16:31 ID:ZAFfn9Jd0
拉致改造
412名無しさん@ピンキー:2007/02/04(日) 09:24:24 ID:/pwBawKt0
脳見せ
413名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 10:50:19 ID:Ne1fy3aW0
414名無しさん@ピンキー:2007/02/12(月) 15:45:49 ID:zcf2KGj70
産む機械萌え
415名無しさん@ピンキー:2007/02/16(金) 13:35:42 ID:RT6lhzDk0
せくーすましーん
416名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 23:48:35 ID:lw6bOScb0
埋めた方が良くない?
417名無しさん@ピンキー:2007/02/18(日) 13:37:54 ID:IgF3P2Ty0
>>414
生むためだけの何かというより、
機械という表現が一番まずかったのかも。
418名無しさん@ピンキー:2007/02/21(水) 00:34:08 ID:FUKeYZS90
こちらは強制労働省機械化推進本部です。
国家は財政安定のため、残業手当の要らない働く機械を大量に必要としています。
働く機械を量産するためには、マザーマシンもたくさん必要です。
419名無しさん@ピンキー:2007/02/22(木) 15:24:02 ID:Zhj5byJI0
バツイチや水商売の女を連行して無理やりマザーマシンに改造(;´Д`)ハァハァ・・・
420名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 10:18:10 ID:EIVOocXj0
謝罪する機械に改造するニダ < `∀´>
421名無しさん@ピンキー:2007/02/25(日) 13:14:50 ID:pvEr0Wry0
ツマンネ
422名無しさん@ピンキー:2007/02/27(火) 23:45:21 ID:Xum3UsTq0
423名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 18:53:30 ID:NAlnBrub0
424名無しさん@ピンキー:2007/03/08(木) 06:05:59 ID:clAs4QnL0
首紛失しちゃったわ。えーん、どこなのよ。
425名無しさん@ピンキー:2007/03/11(日) 13:24:15 ID:oGHAMjQG0
産む機械故障中
426名無しさん@ピンキー:2007/03/15(木) 00:09:45 ID:dyK9awnL0
人工性器
427名無しさん@ピンキー:2007/03/18(日) 07:05:23 ID:wJLRk22G0
螺子
428名無しさん@ピンキー:2007/03/22(木) 02:07:56 ID:iyhiDax20
ゼンマイ
429名無しさん@ピンキー:2007/03/25(日) 18:01:58 ID:ww9O6OJA0
電池
430名無しさん@ピンキー:2007/03/29(木) 00:16:21 ID:Zj79d67M0
充電プラグ
431名無しさん@ピンキー:2007/04/02(月) 03:19:07 ID:6KidaE+E0
モーター
432名無しさん@ピンキー:2007/04/06(金) 19:44:56 ID:U8hWOcdW0
人工皮膚
433名無しさん@ピンキー:2007/04/10(火) 08:20:46 ID:6riTJIu90
人工クリトリス
434名無しさん@ピンキー:2007/04/12(木) 12:54:59 ID:FkGiT/9e0
人工膣
435名無しさん@ピンキー:2007/04/13(金) 00:06:29 ID:sIWdEO3o0
電子ビームアイ
436名無しさん@ピンキー:2007/04/16(月) 23:22:00 ID:xJKNFQXU0
チタン脳殻
437名無しさん@ピンキー:2007/04/17(火) 08:52:22 ID:gkzpV/8IO
ロケット パンチ
438名無しさん@ピンキー:2007/04/20(金) 18:53:34 ID:if0aE/Lm0
おっぱいマシンガン
439名無しさん@ピンキー:2007/04/23(月) 02:00:36 ID:75oBdMoa0
ハンドマシンガン
440名無しさん@ピンキー:2007/04/26(木) 22:52:36 ID:tVi9Jbz30
人工血液
441名無しさん@ピンキー:2007/04/30(月) 14:55:09 ID:gCcIY3050
磔ハンガー
442pinksaturn:2007/05/02(水) 14:27:30 ID:yUv53f+b0
デッキマンの指
443名無しさん@ピンキー:2007/05/03(木) 11:43:06 ID:DjBSF8dt0
デッキガール
ただし脳は無改造
444名無しさん@ピンキー:2007/05/04(金) 02:44:29 ID:OMDqNSQ00
ソケットガール(ツンデレ)
445名無しさん@ピンキー:2007/05/07(月) 23:40:35 ID:PyvbVbde0
>>444
作業に応じて胴体交換、しかもツンデレ
良いですね〜
446名無しさん@ピンキー:2007/05/10(木) 00:35:48 ID:VDNFEiJ90
結局十四人目の方が十三人目より先に500KBオーバーしちゃったね…。(w
447pinksaturn:2007/05/15(火) 18:20:05 ID:g6RDvc0E0
>>445 ツンデレを登場させられるかどうかはまだ判らないけど、新作では首外しを頻繁・お手軽に行う予定。
駄菓子下肢、現実界でこんなこと http://www.asahi.com/national/update/0515/TKY200705150032.html やられちゃうと落書きが発表しにくくなってしまうなぁ。
首外すのは構わないけど殺すなっちゅうに。
448名無しさん@ピンキー:2007/05/16(水) 16:31:44 ID:ApLEwjP00
冥府魔道を突き進むこのスレならメカママというのもありそうだ・・・
449名無しさん@ピンキー:2007/05/17(木) 08:21:30 ID:99saErcF0
現在の技術の延長線上で可能と推測されている部分強化型サイボーグ

バイオニックジェミーのミラクルパワー
@ミラクルイヤー:1km先の微弱音もキャッチする。
Aミラクルアーム:片手で1トンの重量物を持ち上げる。
Bミラクルラン:時速100km(100m3.6秒)で走る。
Cミラクルジャンブ:10階建て程度のビルから飛び降りたり、数メートルの壁を飛び越せる。

参考:ttp://www.youtube.com/watch?v=OzHDvgGxabw&mode=related&search=
450名無しさん@ピンキー
>>448
なにそのハッピーレッスンw