【機械化】サイボーグ娘!十一人目【義体化】

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@ピンキー
サイボーグ娘に萌えるスレです。
人工皮膚系・金属外骨格系どちらも(それ以外も)OKです。
事故や病気で体を失って機械化した娘、特殊な作業に特化した体を得る為に機械化した娘、萌えるじゃないですか!
無理やり機械の体に改造されてしまった娘も、自分の機械の体で悩む娘も、能天気な機械化娘も、萌えるじゃないですか!
そんな趣旨のスレです。

アンドロイド娘とはかなり方向性が異なるので別スレにしてみました。
アンドロイド娘は完全人工な娘、サイボーグ娘は生身だったのを機械に改造した娘です。
区別の目安としては、脳味噌が生身か造り物か、という事になります。

前スレ
【機械化】サイボーグ娘!十人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1151160523/
前々スレ
【機械化】サイボーグ娘!九人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1144849034/
21の続き:2006/08/25(金) 00:26:14 ID:0Oz/3wDn0
【機械化】サイボーグ娘!八人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1134767816/
【機械化】サイボーグ娘!六人目【義体化】 (実質七人目)
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1126369982/
【機械化】サイボーグ娘!六人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1120438550/
【機械化】サイボーグ娘!五人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1115785525/
【機械化】サイボーグ娘!四人目【義体化】
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1109861097/
【機械化】サイボーグ娘!三つめのパーツ【義体化】
http://pie.bbspink.com/feti/kako/1082/10828/1082827604.html
【機械化】サイボーグ娘!二回目の手術【義体化】
http://pie.bbspink.com/feti/kako/1064/10645/1064515330.html
【機械化】サイボーグ娘!【義体化】
ttp://wow.bbspink.com/feti/kako/1062/10626/1062698217.html
サイボーグ娘スレッドSS保管庫
http://comic-ekk.homeftp.org/user/hailaer/tentestuki/tentetsuki/hokanko-index.htm
3名無しさん@ピンキー:2006/08/25(金) 01:23:19 ID:ALE4aUYh0
4日曜日をさs(ry:2006/08/25(金) 22:57:00 ID:mRaSZCR70
乙乙
5名無しさん@ピンキー:2006/08/26(土) 14:17:54 ID:MccXEAHu0
即死回避
6名無しさん@ピンキー:2006/08/26(土) 14:55:06 ID:yAcWoTiS0
冥王星なんですが、海王星以遠の天体の典型または代表格の地位を与えられましたよね。
それはそれでアメリカの誇りを守った形ではありますし、クライド・トンボーの子孫も満足とか

太陽系の果てという意味合いで海王星軌道に境界線を引くのはナンセンスなので
エッジワース=カイパー・ベルトに境界を見出すことになるんでしょう
その代表格としての冥王星はこれからも特別な存在であり続けると思いますね

脱線でした
7名無しさん@ピンキー:2006/08/26(土) 22:51:15 ID:v/dQj0pE0
遅らせながら乙
8pinksaturn:2006/08/27(日) 13:59:52 ID:c6217Ob90
(冥王星降格にもめげず、オプションパーツの続きです。)

−−(26)青の公家−−

(青の公家邸 庭園)

マサ:「引っ越しなんか手伝って貰って済みません。」

真理亜:「借り上げ官舎に居たんじゃ公家の体面が保てないんだから気にする必要はないわ。
殆ど小間使い貸しただけだもの。藻前の性格じゃ専属の小間使いを管理するのも難しいしね。
今後も家の雑用には私の小間使いを使って良いわ。それより、何なのよこの新規叙爵者研修の成績は!。
座学が苦手なのは解っちゃいたけど、合格最低ラインどんぴしゃって槍杉よ。」

マサ:「そう仰いましても、いきなり体内CPU使用禁止ですよ。生体脳で暗記物はきついですよ。
まあ、内容が内容ですから、バックアップサーバーに痕跡が残るのすらまずいのは解ります。
帝国史の暗部なんて、((((;゚Д゚)))ですし。でも、歴史の試験なんて中学卒業以来ですから。」

真理亜:「まあいいわ。藻前と一緒じゃこの先一生恥のかき通しになるのは覚悟の上だし。
ところで、明日勅許がおりたら、赴任準備にかからないとね。」

マサ:「準備ったって、いつもの出動とそう違わないんじゃないですか?。」

真理亜:「あ、そうか藻前はまだ公式発令されてないから在外公館勤務心得を持ってないのね。
体の再改造やら、衣装の準備やらで結構忙しくなるわよ。」

マサ:「宇宙に出るときだって体の整備はやりますよね。」

真理亜:「宇宙なら、最低限必要な機器交換が腹から下ばかりだから急げば1時間でしょ。
大使館勤務の時は生命維持装置の前に組み込む部品があったりで外皮の貼り替え部分が多くなるの。
ほら、この専用カタログ http://pinksaturn.fc2web.com/tokusyubuhin.htm の第3部は必須だから。」
9pinksaturn:2006/08/27(日) 14:00:31 ID:c6217Ob90
マサ:「はあ、これですか。えっ、じ、自爆装置ぃ!((((;゚Д゚)))。」

真理亜:「そんなに青ざめることはないわよ。大使館勤務のサイボーグはみんな搭載するのよ。
でも、今まで実際に自爆した娘は一人も居ないし、誤爆事故だって一度もないから安心なさい。
そこに書いてある通り、48時間孤立無援か上官の承認がないと起爆は出来ないのよ。
もちろん他人が強制的に起爆する事は不可能だから、嫌なら使わなくてもいいの。
孤立無援で脳死したときだけは、自動的に起爆するようになっているからね。」

マサ:「なんで大使館勤務でそんな物騒な部品憑けなくちゃいけないんですか。」

真理亜:「外国の工作員に拉致されて分解調査されそうになったときの用心よ。
重要機密である生命維持装置を分解されるようなら脳死も確定だから自動起爆だけでも用は足りるわ。
ただ、どうせ殺されるなら少しでも敵に被害を与えるタイミングが選べた方が尊厳が守られるでしょ。
貴族の誇りを守るために自分で起爆出来る途も残してあるのよ。初心者は無理しなくて良いわよ。
なにより、私からはぐれないようにしていることね。一緒にいる限り起爆条件が成立しないから。」

マサ:「N共和国では北米連の工作員が何か企んでいるって言うんでしょ。」

真理亜:「念のため、カタログ第2部の武装も全部組み込んだ方が良いわね。
藻前は、陛下から良いアイビーム貰ってあるから、ロケットパンチだけ憑ければ済むわね。」

マサ:「ロケットパンチですか。これが憑くとかなり戦闘サイボーグらしくなりますね。
だけど次発が1回だけで射程が巻き上げワイヤで制限されるってのはいまいちだなあ。
生身の相手には有効だけど、余程熟練しておかないと実戦で使いこなすのは難しそうですよ。
マンガみたいに飛んで帰ってくるようにするのは無理なのかしら。機銃はないんですか。」
10pinksaturn:2006/08/27(日) 14:01:15 ID:c6217Ob90
真理亜:「部品表上の設定では機銃も有るんだけど、内蔵だと弾倉が大きくできないのよ。
実用的な弾倉となると差込式の外付けになっちゃうし排気や放熱も難しい問題でしょ。
表皮が継ぎ目だらけになるから、内蔵の主目的である隠し武器としては意味無いもんねえ。
それで、受注生産になっていて、余程変わり者の貴族しか使わないのよ。
機銃まで必要な状況なら、大使館に備え付けの通常武器を使えばいいってことね。」

マサ:「大使館が敵に囲まれたりとかですか。2人じゃどうにもなりませんね。くわばらくわばら。」

真理亜:「他の大使館員は地軍武官1人以外は文官なんだから、非常時に盾になる覚悟はしなさい。
でも、物騒な話ばかりじゃなくて、楽しみもあるわよ。公式なパーティに出る機会は多いわ。
公式パーティとなると藻前の持っているコギャル服やゴスロリじゃ失礼だからドレスを揃えないとね。
燃料電池の換気に支障がないパーティドレスはオーダーメイドしか無いから引っ越しを急がせたのよ。
宙軍省借り上げ官舎のクローゼットじゃ良い服を沢山おけるようにはなってないからね。」

マサ:「仕立てですか。シルクでしょ。デブリ回収や臨時の手術で金はたまってるけど足りるかな。」

真理亜:「心配無用よ。衣装代にかかる分として外務省から相当額の支度金が出るのよ。
それから、我々は表向き特区大使の息女姉妹になるから、生活費は大使の扶養手当で賄われるわ。」

マサ:「へええ、それじゃ事件さえなければ給料丸儲けですね。」

真理亜:「但し、現地で売春なんか絶対駄目よ。どうしても我慢できないときは館員相手にね。
N共和国の人間で我々が公使級の駐在武官だと知っているのは大統領の親子3代だけなんだから。
大使館の外では正体がばれないよう言動に注意するのよ。」
11pinksaturn:2006/08/27(日) 14:03:24 ID:1oFZnME50
マサ:「通常なら宇宙に出る時期ですからね。真理亜様の愛が有れば十分です。」

真理亜:「それから、表向き18歳と16歳ということなので学校に行くことになるわ。
我々は太股の燃料電池換気が必要だから、日常ミニスカ生足でいられる身分じゃないと困るでしょ。
外では飲酒も出来ないことになるから、燃料切れにならないよう在館中はまめに補給するのよ。
我々のために外交機密費で高級ブランデーが沢山買ってあって館内では飲み放題だからね。」

マサ:「ほ、本物の女子高生になれるんですか。中卒で徴兵されたから一度やりたかったんです。」

真理亜:「喜ぶのは早いわ。入学先は北米系の国際学校なのよ。北米連工作員の拠点かもね。」

マサ:「ひょっとしたら敵のまっただ中で油断は出来なくても、女子高生はやっぱり嬉しいですね。」

真理亜:「もし予想通りなら敵に感づかれると危ないから、体育で本気なんか出さないでよ。
数学や理科が出来過ぎるのは我が国の教育水準が高いからで済むけど、体力では目立たないこと。」

マサ:「それじゃ、部活は文化部以外ダメですね。舞踊系とか、弓道、射撃の類なら良いかしら。」

真理亜:「問題は、入らない方がいいクラブに敵の組織が根を張っていた場合の潜入調査ね。」

マサ:「でも、工作員が紛れ込むなら生徒じゃなくて教職員でしょう。」

真理亜:「一番ありげなのは、政治色のある文化部で顧問に化けて現地生を反体制派に染める工作ね。
難しいパターンは、男子の格闘技系クラブで革命戦士を育てていて潜入できない場合かな。」

マサ:「そういうときは、女子高生らしく応援団に入って近づけばいいじゃないですか。」

真理亜:「なるほど。そういう手口は藻前に任せるわよ。」
12pinksaturn:2006/08/27(日) 14:04:41 ID:1oFZnME50
マサ:「ところで新規叙爵者研修で教わったのですが、外交は弥生公の黒の公家が得意ですよね。
なんで、航宙士が得意分野の我々が行くことになったんですか?。」

真理亜:「今回は航宙士としてよりも戦闘サイボーグとしての能力を期待されてね。つまり荒事。」

マサ:「要するに危ない仕事ってことですか。自爆第1号にはなりたくないなぁ。」

真理亜:「情けないこと言ってんじゃないわよ。人柱2体目の材料捕獲を目指すんだからね。
人柱の数が揃えば、カロンに恒久施設を置いて、大量の水を現地調達出来るようになるのよ。
水の搭載量が片道分で済むようになれば、高速連絡船計画が本格的に始動できるわ。
不経済なブースターに頼らず気楽に冥王星方面に行けるようになれば、航宙士の仕事も幅が拡がるのよ。」

マサ:「また敵のスパイを捕まえて人柱にするんですか。非人の確保なら国内の刑法犯でも良いのに。」

真理亜:「帝国内は生活水準が高いから強盗殺人とか滅多にないでしょう。猟奇殺人犯は男が多いし。
それに刑法犯は直接の物的証拠が乏しくて暫定終身刑にしか出来ない例が多いのよ。
そもそも強盗殺人犯なんてのは、能力や生きる意欲が足りなくて人柱に使えない香具師が殆どだしね。
スパイは条件に適合しやすいし、捕虜の扱いに関する国際法も適用されないから人柱に最適なのよ。
治外法権の大使館に不法侵入したところで現行犯逮捕なら、ただちに帝国法で極刑宣告できるでしょ。」

マサ:「でも、皇帝陛下のいる場所じゃないと最高法廷を開けないですよね。」
13pinksaturn:2006/08/27(日) 14:05:22 ID:1oFZnME50
真理亜:「特定友好国のN共和国にある大使館の中なら国内と同等のネット環境があるわよ。
つまり、リモートボディリンクで現地に居るサイボーグの体を陛下に貸せば出張法廷も出来る訳ね。
検事や国選弁護人は大使館員に有資格者が3人居るからちゃんと間に合うようになってるわ。」

マサ:「はは。もう捕まえたような気になって居るんですか?。」

真理亜:「うふふ、そのあとのサディスティックな楽しみを想像したら、体が火照ってきたわ。」

マサ:「機械化された体が火照るんですか?。」

真理亜:「やっぱりそんな感じがするのよ。藻前だって売春の時はそうでしょうが。
残忍性や淫乱さこそ私たちが人間である証なんだから、正常な現象なのよ。」
14pinksaturn:2006/08/27(日) 14:07:41 ID:Mj+6mDkv0
(宙軍地上基地内 試射場)

マサ:「右腕ロック解除、ラブラブパーンチ!。ブレーキ70%。よし掴んだ。巻き上げ...。」

真理亜:「何をやっているの?。」

マサ:「ロケットパンチを使った敵捕獲の練習ですよ。逃げようとするところ首を掴むって想定で。」

真理亜:「なるほど。適当に減速して当てないと首が折れて、生け捕りにならないわね。
どれ、私もやってみようか。両腕ロック解除、ダブルパーンチ!。減速...ふむ、難しいな。」

マサ:「両腕同時に弾道コントロールするのはきついですよ。」

真理亜:「その代わり、発射の反動が対称に来るから軸ぶれは少ないのよ。」

ハル:「あー、居た居た。へええ、ロケットパンチの実射って始めて見ましたよ。」

真理亜:「ハル、今日宇宙に上がるの?。」

ハル:「ええ、基地に来たらお二人が再改造後のテストで射場使っているのが判ったので挨拶に。
マツ、ミツ、ササにも教えたので来ると思いますよ。ほら、来た。」

ササ:「こんにちわ。いいなあ、内蔵武器。やっぱり、サイボーグはこうでなくちゃ。」

真理亜:「隠し武器による奇襲効果はともかく、威力は大したこと無いけどね。」
15pinksaturn:2006/08/27(日) 14:08:22 ID:Mj+6mDkv0
ミツ:「目からビームと手が飛ぶのは基本ですよ。シビリアン兵にも許可してくれればいいのに。」

マツ:「私はオッパイミサイル搭載したいなあ。」

マサ:「あのねえ。生命維持装置は何処に積む訳?。私たちは超合金巨大ロボットじゃないのよ。
そんないい加減なこと真顔で言われたら、もと担当素体教官として恥ずかしいわ。」

ササ:「そういえば、お二人とも胸が少し大きくなっていませんか?。」

マツ:「確かに大きくなってますね。でもミサイルじゃないとすると一体なんなんですか?。」

マサ:「自爆装置を搭載するために胸を嵩上げしなくちゃならなかったのよ。」

ハル:「じ、自爆装置ぃ!((((;゚Д゚)))。そんなあ。我が軍は特攻なんかやらないんでしょ?。」

マサ:「万が一敵の工作員に捕まって分解調査されたとき生命維持装置の機密を守るためだって。」

マツ:「さすがに外国に行くとなると厳しいですね。でも胸の嵩上げはいいなあ。」

真理亜:「あ、もうじき仕立屋が来る時間だわ。マサ、今日の試射はこれぐらいにしなさい。」

ハル:「オートクチュールのパーティドレスですか。そっちも羨ましいですね。」

マサ:「軌道警備部隊で首尾良く私らの留守を守り通したら、後で分けてあげるわよ。」

ハル:「それでわ。お二人の華麗なご活躍に期待してます。」

真理亜:「そっちもね。頭上の守りは鉄壁で頼むわよ。
本国もだけど北米連が禿しくブチ切れたらN共和国に核が飛ぶこともあるからあてにしてるのよ。」
16pinksaturn:2006/08/27(日) 14:09:39 ID:Mj+6mDkv0
(北米連 大統領官邸)

ヤブー:「小娘帝国の友好国は調べ終わったのかね。」

コメー:「確実に友好国と思われるのはこのリストの国々です。最も親密なのはN共和国でしょう。
ここは元々地球温暖化防止の主張をするためだけに国連に加盟したぐらいで政策的に近いのです。
残りの友好国も地勢的に似た条件の国ばかりです。産油国や阿弗利加の資源大国は含まれません。
ただ、一部の産油国では近年に旧P共和国との貿易量が増加していますので要注意です。
阿弗利加の場合は資源とのバーターに武器を求める国が多いためあまり奴らの進出はないようです。」

ヤブー:「貿易量だけなら我が国だって友好国になってしまうから見分けは難しいな。
とりあえず、一番情報を持っていそうなのはN共和国か。政権転覆の可能性はあるのかね?。」

コメー:「この国は歴代大統領のうち3代を現大統領の祖先が占めており、他の代も同じ党派です。
したがって、権力の恩恵にあずかれない層が固定化していて反体制派をたきつける余地があります。」

ヤブー:「酋長が大統領に衣替えしたようなものか。なんとかなりそうだな。手は打ったのか?。」

コメー:「幸いあそこは我が国と国交がありますし、関わりのある企業や学校も進出しています。
既に外交官以外にも目立たないかたちで工作員を送り込んで反体制派の支援を始めています。
気がかりな点は小娘帝国の大使館が感づいて大統領派を援助することですね。
それに、あそこは旧P共和国の軍艦がたびたび寄港しています。いざとなれば介入してくるかも。」

ヤブー:「そこまでやるかな?。奴らは武器輸出すら厳しく禁じているんだ。軍事援助は無いだろう。」
17pinksaturn:2006/08/27(日) 14:11:30 ID:bz1ja61g0
コメー:「もしも大使館員に戦闘サイボーグが紛れ込んでいたら相当な戦力になるかも知れません。
公然と軍事介入しなくても、こちらの工作員を抹殺するぐらいのことは出来るかも知れませんよ。」

ヤブー:「そうかな?。例のテレビ映像を分析した結果によると力はせいぜい常人の2倍程度だそうだ。
真空の宇宙空間で行動する能力を優先しているために、戦闘能力は低いものと推定されている。
厳しい訓練を受けた我が工作員は十分対抗できるよ。捕獲できたら、分解調査して謎を解明できるな。」

コメー:「奴らだって一応人間なのでしょう。分解調査などという言い方は寒気がしますね。
ところで大統領、愛国民兵会が小娘帝国の活動を規制するためサイボーグ志願者を募っているそうです。
こんなこと、到底民間だけで出来るとは思えません。まさか、国防総省が援助していないでしょうね?。」

ヤブー:「ああ、私のところに協力しろと言って来たが、国防長官に断念させる方策を考えさせている。」

コメー:「方策を検討ってそんな曖昧な態度じゃダメです。断固たる態度で却下して下さい。」

ヤブー:「愛国民兵会は歴史のある有力なNGOだよ。理不尽な却下で怒らせるわけにはいかないのだ。」

コメー:「人体の機械化改造なんて狂気の沙汰をやめさせることは当然です。どこが理不尽なのですか。」

ヤブー:「私だって個人的意見としては君と同じ気持ちだよ。しかし法律と宗教的道徳は別物なんだ。
愛国民兵会がやっていることは違法じゃないんだ。我々の道徳観念を一方的に押しつけることは出来ない。
確かに今のところ私には国防総省に協力を禁じる権限があるが、私は民主国家の大統領だ。皇帝じゃない。
技術的限界についてきちんと納得させたうえで断念させなければ、彼らを次の選挙で敵に回すことになる。
彼らは長年にわたり不法移民の自主的取り締まりで国民の支持を集めてきたんだ。敵にはできんのだよ。
謎の帝国が我が国をさしおいて宇宙資源を勝手に利用しているというのは十分に非常事態なんだ。
非常事態に対処するためサイボーグ民兵が必要だという彼らの主張を受け入れる国民だって多いんだ。」
18pinksaturn:2006/08/27(日) 14:12:23 ID:bz1ja61g0
コメー:「しかし、民間団体が宇宙で軍事行動を計画するなんて違法じゃないですか。」

ヤブー:「宇宙条約は宇宙における領有権は認めないが、民間の所有権を否定する条文なんて無い。
愛国民兵会は冥王星を発見した民間天文台から所有権の行使に関する委任状を貰ってきているんだ。
我が国の法は、正当な地権者が民有地から不法侵入者を追い出すために武器を使うことを認めている。
国防総省から民間への技術提供も昔から行われている。今回だけ禁ずるには相応の理由が要るんだ。
君も私の後がまを目指すなら、強硬一辺倒じゃあ民主国家の指導者を務めるのは辛いぞ。
意見の違う国民を辛抱強く説得して味方に付ける手法を学ぶべきだよ。」

コメー:「仰るような原則論は頭では理解しています。でも、今の状況は怖いですよ。」


(北米連 国防総省秘密研究施設)

案内の士官:「長官命令があるからご案内しますが、あれを見るのはお勧め出来ませんよ。」

愛国民兵会会長:「わしらは国境警備ボランティアでさんざん怖い目に遭っているんだ。」

ビル:「俺は海兵隊時代にPKOで虐殺現場を見てるんだ。むき出しの脳でも生きてれば上等だ。」

スージー:「私たちはサイボーグになるということがどういうことか、ちゃんと解って来ています。
今日はあくまでも技術的問題の確認を兼ねて、手術を受ける前の下見のつもりですからご心配なく。」

ビル:「まったくだ。別にあんたに志願しろって言う訳じゃないんだぜ。何も畏れることはない。」

案内の士官:「ビル元大尉のお噂は聞いて尊敬していますよ。でも、あれの恐ろしさは別ですよ。
ましてや、スージーさんのような美しい女性があんな恐ろしい姿に変わるなど想像したくないです。」

スージー:「お褒めにあずかり光栄ですけど、人間の価値は外見よりも人生で何を成し遂げたかです。
人間はみな一皮剥けば似たような物体です。私は宇宙飛行士の最終選考に僅差で落とされたんです。
再び宇宙を目指す機会が得られるのなら、どんな姿になろうとやり遂げるつもりなんです。」
19pinksaturn:2006/08/27(日) 14:13:03 ID:bz1ja61g0
案内の士官:「口でいくら言っても解っては貰えないようですね。では、どうぞ、ここです。」

生命維持実験体:「珍しく訪問者ですかな。」

案内の士官:「謎の帝国が冥王星を探検した事件はネットのニュースで見たでしょ。
今日はそれに関係したことで愛国民兵会の人があんたに話を聞きたがっていてね。」

生命維持実験体:「私にはネットしか外のことを知る方法がないからもちろん見ましたよ。
だけど、ここで死を待つだけの私に何の関係があるんです?。」

愛国民兵会会長:「儂ら愛国民兵会が宇宙で勝手なことをしている小娘どもを取り締まるんです。
それで、大統領に冥王星まで行けるロケットを用立ててくれと言ったら生身では無理だというんだ。
あの小娘どもは脳以外の体を機械化したサイボーグに違いないとね。つまりあんたのようにね。」

生命維持実験体:「私に与えられたのは生命維持装置だけで自由に動ける体なんて無いですよ。
その生命維持装置だって不完全なもので72時間毎に血液を交換しないと死んでしまうんです。
HLAの合う血液のストックがつきたらお終いなんですよ。私は末期ガンだったんです。
あと3ヶ月の命だと解っていたから、少しでも延命出来ればとこの実験に志願したんです。」

愛国民兵会会長:「あんたはその状態でちゃんとパソコン操作が出来ているのだろう?。
機械の操作が出来るのなら、ロボットのような体に組み込んで貰えば動けるようになるわけだな。」

生命維持実験体:「そりゃあ理屈ではね。というか、シミュレータを繋がれて試したんですよ。
でも、私は元々機械操作の得意な人間じゃなかったんでパソコンすらやっとだったんです。
実験の結果とても無理だろうと言うことになって、試作された体はお蔵入りになったんですよ。」

スージー:「あなたは何歳なの?。学歴や経歴についても教えていただけますか。」
20pinksaturn:2006/08/27(日) 14:14:27 ID:/B6nBCK+0
生命維持実験体:「59歳ですよ。高校を出て軍に入り軍曹で定年間際って時にガンになってね。
ずっと歩兵だったから機械なんて銃と車しか扱ってないのに、いきなりロボット体の操作はねえ。」

スージー:「なるほど。私ならきっとうまくできるわ。」

生命維持実験体:「まさか、貴女がサイボーグになるつもりじゃ?。やめた方が良い。後悔する。
大体ねえ、HLAの合う血液が大量に無かったらすぐに脳障害で死んでしまうそうですよ。」

ビル:「俺達にはその心配がないんだ。HLAの同じ50人の仲間が支えてくれるからな。」

生命維持実験体:「何だって!。そんなことが出来たのか。お願いだ。私にも血液を!。」

愛国民兵会会長:「今後も協力してくれるなら努力はしてみるが望みは薄いだろうな。
儂らの団体は地縁血縁の結びつきが濃いから、HLAの合う者を集めやすかったんだ。
それでもたった2人のサイボーグ志願者しか用意できなかったというわけでね。
気の毒だがあんたを長く支えてやるのは難しいだろう。あまり期待しないでくれ。」

生命維持実験体:「1日分でもいいからお願いだ。生きている限り協力する。」

スージー:「宇宙で使えるか検討したいので、試作されたという体を見せて貰えますか。
それから、この生命維持装置の設計図と素材のデータも頂けませんか。
自分の命がかかっているので、真空に耐えられるものか改良が要るか検討したいですから。」

案内の士官:「本気でやるんですか。上の指示だから協力はしますけど気が進みません。」

愛国民兵会会長:「儂らはいつだって本気だよ。さあ体の方を見せて貰おうか。」

案内の士官:「こちらです。」
21pinksaturn:2006/08/27(日) 14:15:02 ID:/B6nBCK+0
ビル:「ほう、これは頑丈そうだな。」

スージー:「かなり重そうね。こんな体でロケットに乗れるのかしら。」

案内の士官:「陸戦用を想定していたので装甲が分厚く、600キロを超えています。」

スージー:「軽量化しないとロケットの加速力に響きそうね。動力は何を使っているの?。」

案内の士官:「ガソリンエンジンで4`Wの発電機を動かし各関節をモーターで駆動します。
床の頑丈なところしか入れないし排気ガスが凄いので普通の暮らしは出来なくなりますよ。」

スージー:「国境監視の活動で砂漠の野宿は慣れっこだから暮らしの心配は要らないわ。
こんな体なら野犬やハゲタカに襲われる心配もしなくて良いから非常に楽になるわね。
それよりも電源は何とかならないかしら。ガソリンエンジンじゃ宇宙で使えないわよ。」

案内の士官:「装甲を薄くして300`台に軽量化すればプルトニウム電池が使えます。
安全上、地上での使用は許されないので、地上で活動するときはガソリンエンジンですが。」

スージー:「やればできるのね。改良機の試作はすぐにかかって貰えるのかしら?。」

案内の士官:「そこまでご協力できるかは、国防長官に伺ってみないと判りません。」

スージー:「この期に及んで全面協力は決まっていないんですか。覚悟決めてきたのに。」

ビル;「まったくだ。ぐずぐずしていると小娘帝国が宇宙資源を独占してしまうぞ。」

案内の士官:「済みません。私の一存では答えようがないんです。」

愛国民兵会会長:「わかったわかった。もういい。大統領と国防長官には儂が直談判する。
後は任せなさい。儂らには12万人の仲間と100万人の支持者がついているんだよ。
必ず許可させてみせるさ。彼らも次の選挙で引退したくはないだろうからな。」
22pinksaturn:2006/08/27(日) 14:15:38 ID:/B6nBCK+0
(経済特区 軍民共用港を出航中の大型空母)

マサ:「船旅とは新婚旅行らしい気分が出ますね。外務省が気を利かしてくれたのかな。」

真理亜:「そんなわけないでしょ。そもそも我々が旅客機使えるわけが無いじゃない。
一発で金属探知機に引っかかるわよ。チャーター機じゃあ空港で目立ちすぎるしね。
サイボーグ外交官の送迎はこの艦で近くまで行って艦載連絡機を使う規則なのよ。」

マサ:「なあんだ。いつも同じなんですか。しかし回りくどいやり方ですね。
私らの能力ならロケット機で弾道飛行して行けばあっという間なのに。」

真理亜:「そんな目立つ飛行機の操縦席から女子高生が降り立ったら大騒ぎになるわよ。
この艦の連絡機なら遊覧飛行機にしか見えないから一番目立たないのよ。」

マサ:「この艦の乗組員はみんな特区の人間でしょ。機密保持は大丈夫なんですか?。」

真理亜:「そのために普段から一般の外交官や家族の送迎もやっているのよ。
一応口の堅い者が配属されているけど、念のため今からはお姉さまと呼びなさい。
大使の話をするときは、お父さん、よ。経歴や他の家族の事はデータ見たわね?。」

マサ:「はい、お姉さま。」
23pinksaturn:2006/08/27(日) 14:17:13 ID:Y40rv64b0
(N共和国 国際学校高等部 射撃部)

北米連工作員の顧問教諭キャロル:「両手の肘を真っ直ぐ前に伸ばすのよ。
片手撃ちなんて当たりっこない格好は、映画の中だけなんだから。」

現地生:「うわあ。天井撃っちゃった。」

キャロル:「反動考えなさいよ(あーあ、ここの住民は基本的に平和ぼけしてるなあ。
こいつらの家は不満分子って事になってるけど、これじゃ革命家にはほど遠いわ。
競争も知らず、貧しいと言っても飢えの経験が有るわけじゃなし、難しいなあ。
戦闘員どころか学校の備品にでもなったほうがいいような奴ばっかりだわ。)」

校内放送:「キャロル先生お電話です。近くの内線に出て下さい。」

キャロル:「はい、...え、帝国大使の娘が入国?、それらしい転入生の予定?。
ああ、そういえば校内の会議で。ええ、マークしておきます。体の確認方法?。
ドアノブの指紋は?。調べるのが目立つか。腕じゃなく頭か胴を確認できないか?。
なるほど、なんとか抜け毛を手に入れるんですね。解りました。用心深くやります。
(サイボーグの見分け方ねえ。そんなにうまく行くかしら。)」
24pinksaturn:2006/08/27(日) 14:18:01 ID:Y40rv64b0
(在N共和国・帝国大使館内 大使公邸)

大使:「真理亜侯、マサ侯、長旅お疲れさまでした。これからよろしくお願いします。」

真理亜:「こちらこそ宜しく。お父様。」

大使:「そうでしたね。しばらく美人女子高生姉妹の父親を楽しませていただきます。
早速ですが、学校へ手続きに行かないと。」

マサ:「いよいよ女子高生ですね。ところで、かわいい制服は?。」

真理亜:「国際学校にそんなものあるわけないでしょ。人種や宗教がばらばらだし。
露出度の高いのはダメな娘もいるでしょ。藻前のコギャル服で十分通用するわ。」

マサ:「なあんだ。ちょっと期待してたのにぃ。」

大使:「ははは。マサ侯のキャラなら地で行っても怪しくないですね。
貴女がたには無駄でしょうけど、見かけ上は誘拐を警戒する素振りが必要です。
ここと学校の往復では、現地人運転手に加えて地軍武官を毎日同行させます。」

真理亜:「地軍武官との連携上は良いのですが、留守の間はここが心配だわ。」

大使:「地下室に重武装のリモートボディが5体格納されています。
公用車が居ればネット制御できるので、襲撃があったらそれで対処願います。」

真理亜:「盾になるときもそっちでだね。マサ、自爆の心配は一層少ないよ。
あと3体余るのか。リモートボディの外見は?。」

大使:「外見はダッチアンドロイドです。館員の慰安用を装っていまして。」
25pinksaturn:2006/08/27(日) 14:18:48 ID:Y40rv64b0
真理亜:「3体には受付の格好をさせて、工場衛星にいる部下に運用させます。
遅延があるから機敏な動きは出来ないけど、とろい受付嬢ならできますね。
(体内公用通信)リエ、手が空いてる者から当番を3人集めて頂戴。
ハルたちじゃ勿体ないわ。とろい娘で良いんだけど。(/体内公用通信)」

工場衛星からリエ:「急にどうしました?...ほうほう、なるほど。
遅延が難しいからあんまりとろすぎる娘じゃダメですね。受付ですか。
言葉遣いの悪すぎる娘だと国の恥になりますね。1時間以内にローテ決めます。
つないだら受付の訓練はそちらでやってくれますね。後は大使と?。了解です。
新婚のお二人は安心して女子高生の生活をエンジョイして下さい。でわでわ。」

マサ:「ところでキャラには自信ありますが、学校の健康診断は大丈夫ですか?。」

大使:「大使館の医官が出した診断書で代用できるようになっています。
宗教なんかの関係で他にも拒否する生徒が居てくれるので、怪しまれません。」
26pinksaturn:2006/08/27(日) 14:20:10 ID:5FtNt0N90
(国際学校 校長室)

校長:「この国は気候温暖なせいか現地人の生徒はみんなお気楽な子が多くてね。
すぐにお友達が出来ますよ。ところで、お二人は何故いまごろこちらに?。」

真理亜:「バレエの発表会やクラブ活動の全国大会の関係で遅れたのです。」

校長:「バレエか、お嬢様らしくて良いねえ。クラブは何をやっていたの?。」

マサ:「二人とも射撃部でしたが、うちの国ものどかなところなので下手ですよ。
あと、宇宙科学クラブにも入ってました。そっちは盛んなので自信あります。」

校長:「ここの射撃部は最近来た監督が良い先生でね。きっと腕が上がりますよ。」

真理亜:「せっかくバラエティに富んだ人の居るところに来たのでどうしようかな。
こっちで何をやるかは、色々見学して決めたいなあとも思っていますの。」

校長:「それもそうだね。実は妹さんの監督が、その顧問なんで言ってみたんだよ。
じゃあ、先生を呼びますね。...もしー、キャロル先生をここへ、うん、そう。」

キャロル:「(こいつらか。熱帯育ちにしてはずいぶん色白だな。怪しいぞ。)
こんにちは。私がマサさんの方の担任になるキャロルです。宜しく。」

マサ:「マサです。よろしくお願いします。姉の担任の先生は?。」

キャロル:「今日は在留手続きで出かけているの。それで、お姉さんの案内も私が。」

真理亜:「そうですか。よろしくお願いします。真理亜です。」
27pinksaturn:2006/08/27(日) 14:20:50 ID:5FtNt0N90
(校内廊下を移動しながら)

キャロル:「二人とも色白で良いわねえ。」

真理亜:「家系ですの。よく不思議がられますわ。」

キャロル:「そちらのお国の皇帝陛下も貴女達のように色白で綺麗な方ね。」

マサ:「私たちは一介の公務員の子女ですので、陛下に申し訳ないですわ。」

キャロル:「(いまに化けの皮ならぬ人工皮膚を剥がしてやるわよ。)
皇帝陛下って子供からも尊敬されているのねえ。怖い独裁者とは違うの?。」

真理亜:「皇太子様が決まるときは、大勢の有資格者から最適な方が選ばれます。
代々優秀な方しか皇帝にならないから私たちも良い暮らしが出来ていますの。」

キャロル:「ふーん。良くできたしくみなのね。ここがマサさんの教室よ。
席はこっちね。(椅子に髪が引っかかるように、ささくれを作ってあるのよ。
写真通りロングで良かった。あとでどうなるか楽しみだわ。ひっひっひ。)」

真理亜:「校長先生から伺いましたが、キャロル先生は射撃部の監督ですってね。
私たちも国で少しやっていたんです。下手くそで余所では通用しないですけど。」

キャロル:「(ぎくっ。探りを入れてるのか?入るなんて言い出すなよ。)
ここも下手な子ばかりよ。興味があったら後で練習を見学してね。
真理亜さんの教室はこっちよ。」
28pinksaturn:2006/08/27(日) 14:21:21 ID:5FtNt0N90
(数日後)

キャロル:「あのマサって娘の髪の毛、どうだったの?。」

電話の声:「あれは普通の人毛だね。人工物じゃないよ。」

キャロル:「そお。あの姉妹の色白さは怪しい気がしたんだけどねえ。違うか。」

電話の声:「人毛を仕入れて植毛することもあり得るだろう。断定はできんよ。」

キャロル:「あの長さじゃあ、ロングの娘を丸坊主にしないと取れないわよ。
そこまでして髪を売る人なんてそうそう居ないと思うけどなあ。」

電話の声:「世界には我々の感覚で理解できないような貧しい土地もあるのさ。
それに、小乗仏教の地域なら仏門に入るロングの娘から買う機会も多いだろ。
あれは、生来の茶髪じゃなくて、脱色して染めた黒髪のようだったぞ。」

キャロル:「ふうん。そういう事かしらねえ。一応引き続き警戒するわ。」

電話の声:「ところで、革命戦士になれそうな生徒は育っているのか。」

キャロル:「ここの土地柄じゃあ時間がかかりそうだわ。」

電話の声:「本国で何かあったらしくて当局がかなり苛立っているんだ。
早く成果を出さないとやばいことになるかも知れないぞ。」

キャロル:「努力はするけど見通しはないわね。じゃまた。」
29pinksaturn:2006/08/27(日) 14:22:54 ID:zTTleX7R0
(北米連 国防総省秘密研究施設)

技師:「300`台に収めてもご要望の武装と強度が確保できそうです。
交換用血液の搭載量は20日分になります。これ以上は重量が厳しいです。
実験体で消費量の限界を精密に割り出したので値は正確です。
血液を確保していただいて実験体がまだ生きているのが助かりますね。
おたくらが圧力かけてくれたお陰で予算も付いて宇宙用ボディーの試作は順調です。
しかし、国防長官や大統領はともかく、よく国務長官が首を縦に振りましたよね。」

愛国民兵会会長:「儂には懇意にしている宗教界の重鎮だって多いんだよ。
今度のことは非常事態だ。人事を尽くせば神も許すという解釈も引き出せるのさ。
コメー国務長官だってその筋から諭されれば素直になるって訳だ。」

スージー:「ところで、生命維持装置の耐衝撃化と真空動作試験はどうですか。
私はそれが一番の気がかりですの。減圧事故で死にたくはないですからね。
体を捨てる覚悟はしましたけど、命まで捨てる気はありませんのよ。」

技師:「ご指摘の箇所は全て対策を施し、動物脳で40日間真空に耐えています。
個人的には人間に使っても構わない完成度だと思いますよ。」

スージー:「それなら安心だわ。本番用の機材はいつ揃うのかしら。」
30pinksaturn:2006/08/27(日) 14:23:39 ID:zTTleX7R0
技師:「10日後に予備を含めて部材が整います。組立試験は15日で出来ます。
その先の最終的な確認項目は、あなた方に入って頂いた後でしか出来ません。
つまり、最短1ヶ月弱で脳摘出手術と言うことになりますが、大丈夫ですか?。」

スージー:「この体でやるべき事は全部済ませてありますからご心配なく。
それなら、なるべき早いうちに手術スタッフと会合を持っておきたいですね。
今度のことに戸惑っている人もいるでしょうから信頼関係を築きたいのです。
迷いが残ったまま手術されて、手元が狂ってはたまりませんからね。」

技師:「ごもっともです。正直言って私にもまだ迷いはありますよ。
特に貴女のような美人がその体を捨ててしまうというのは、やはり心が痛みます。」

スージー:「皆さんにそう仰っていただけるのは、決して悪い気がしませんわ。
でも、申し訳ないけど私が欲しいのは美しい体より、楽に宇宙へ行ける体なんです。」

愛国民兵会会長:「そういうことだ。なるべく彼女の望みを聞いてやってくれ。」

技師:「承知しました。一両日中に会合をセッティングします。」
31pinksaturn:2006/08/27(日) 14:24:14 ID:zTTleX7R0
(7日後 愛国民兵会本部)

愛国民兵会会長:「いよいよ検査入院だ。そして問題がなければそのまま脳摘出だ。
いまさらだが、あえてもう一度だけ聞く。お前達、後悔は無いな?。
小娘帝国の大きな活動は報告されていないから無理に急がなくても良いんだぞ。」

ビル:「大きな活動でなくても奴らは毎日宇宙資源を勝手に使ってるんでしょ。
新しい体に慣れて作戦が出来るまでには時間がかかるんだから急ぐべきだ。」

スージー:「この頭を見ていただけば、おわかりでしょう。」

ビル:「まったくだな。行く前にスキンヘッドにしてくるとは思い切ったものだ。」

スージー:「手術チームにこちらの意志を徹底するのに最適な方法を採ったのよ。
それに、念のため最初に開頭して電極を着け、精密測定するよう提案しておいたからね。
実験体がうまく体を制御できない原因は脳摘出前に採るべきデータの不足だと思うの。
本人の能力だけでなく、運動と脳の部位が出す信号のマッピング情報が足りないのよ。」

ビル:「すると意識が有るまま開頭されるわけだな。自分からそれを提案したのか。」

スージー:「当然だわ。運動能力に問題が残って宇宙で苦労したくはないでしょ。
あなたも向こうに着いたらすぐに剃髪して開頭する事になるわ。良いわね?。」

ビル:「勿論だ。ところで、美人はスキンヘッドでもよく似合うんだな。感心したよ。
その姿も、それはそれで惜しがられるだろうな。」

スージー:「新しい体でも同じ事を言わせるつもりなので宜しく。さ、行きましょ。」

愛国民兵会会長:「頼んだぞ。」
32pinksaturn:2006/08/27(日) 14:27:22 ID:xym9CfxG0
(北米連 国防総省秘密研究施設内手術室)

脳外科医:「通常の覚醒下脳手術は全麻で開頭してから必要な間だけ覚まします。
部分麻酔での開頭は経験がありません。異常を感じたらすぐ言って下さい。」

スージー:「軽い痛みぐらいは我慢しても良いですか?。」

脳外科医:「頭蓋骨を切るときの軽い痛みは異常ではありません。
その先で何か感じたときは脳に影響があるかも知れないので気を付けて下さい。
よし、始めるぞ。」

衛生兵:「wktk ((((;゚Д゚))) wktk ((((;゚Д゚)))...。」

スージー:「しっかりして頂戴。こっちは命がけなんだから。」

衛生兵:「す、済みません。もう大丈夫です。メスどうぞ。」

スージー:「まだ何も痛みは感じませんね。」

脳外科医:「表皮や筋膜には十分麻酔が効いています。」

衛生兵:「止血クリップどうぞ。」

脳外科医:「うむ、ドリルの準備も頼むぞ。」

スージー:「衛生兵さん、顔が赤くなってきていませんか。」

衛生兵:「も、申し訳有りません。全裸の女性が目の前で開頭されるのを見て...」
33pinksaturn:2006/08/27(日) 14:28:05 ID:xym9CfxG0
スージー:「あなた、スキンヘッドフェチか脳フェチなのね。」

衛生兵:「りょ、両方です。」

スージー:「正直で良いわよ。射精してすっきりさせた方が安全じゃないの?。」

脳外科医:「気を遣わせて済みません。おい、やってこい。」

衛生兵:「はっ。すぐ戻ります。」

スージー:「先生は大丈夫?。」

脳外科医:「駆け出しの頃は多少興奮したものです。今は見飽きてしまいました。
女性看護師の起用も考えたのですが、手術内容が特殊すぎますから、ちょっと。
あいつは戦場での手術も経験したタフな奴だったんですが、まさかねえ。」

スージー:「こちらから無理をお願いしたんです。気にしないで下さい。」

衛生兵:「済みません。ご迷惑をおかけしました。」

脳外科医:「うむ。ドリル用意。少し痛むと思いますが頑張って下さい。」

スージー:「うっ。なにくそ。...大丈夫、強い痛みはありません。」

脳外科医:「ノコギリ。もう少しの我慢ですので。」

衛生兵:「開きましたね。」

脳外科医:「おい大丈夫か?。」

衛生兵:「さっき出すものを出したので、平気です。綺麗な脳硬膜ですね。」
34pinksaturn:2006/08/27(日) 14:28:47 ID:xym9CfxG0
スージー:「そお?。見てみたいわ。」

脳外科医:「構いませんよ。おい、鏡だ。」

衛生兵:「はい。これで見えますか?。」

スージー:「見えたわ。ふーん。衛生兵さんの気持ちも少し解る希ガス。
下の方、濡れてきてしまいましたわ。」

脳外科医:「おい、お拭きしろ。カテーテル引っかけるなよ。」

衛生兵:「はっ。失礼します。ふきふき。できました。」

脳外科医:「もういいですか。硬膜切開にかかりますが。」

スージー:「あ、すみません。どうぞ続けて下さい。」

脳外科医:「ハサミ。それから技師に連絡して電極セットを搬入させろ。」

衛生兵:「はいどうぞ。...硬膜開きました、電極セットお願いします。」

技師:「入ります。うっ。」

スージー:「あら、顔色が悪いわよ。」

技師:「済みません。こういうのは慣れていなくて。」

脳外科医:「部品をそこに置いて、吐いてきなさい。無理は禁物だ。
取り付けをしておくから、調整までに戻ってくれれば良いよ。」

技師:「そうさせていただきます。(ダッシュ)...おえええぇぇぇ。」
35pinksaturn:2006/08/27(日) 14:31:36 ID:8zNGShx40
脳外科医:「資料や実験動物で慣れていても、実物は違いますからな。
自分のを鏡で見て顔色一つ変えない貴女は、全くたいしたものですよ。」

衛生兵:「先生、疲れは大丈夫ですか?。」

脳外科医:「これほどの電極数は初めてだ。正直しんどいかな。」

スージー:「途中休憩は出来ませんの?。私は構いませんが。」

脳外科医:「部分麻酔とはいえ延長は貴女の負荷が気になります。
テロ現場での緊急手術に比べれば、体調万全で臨んでますから大丈夫です。」

技師:「戻りました。どうにかすっきりしました。おお、進んでいますね。」

脳外科医:「間もなく左半分が終わったらカバー着くから、接続始めてくれ。」

技師:「了解です。試験器の立ち上げを始めています。」

スージー:「顔色が直ったわね。良かったわ。間に合って。」

技師:「半分でも機械に覆われてくれれば平気です。ご心配かけました。」

脳外科医:「左半分完成だ。右をやっている間に信号を点検してくれ。」

技師:「接続確認。スージーさん、右手を開いたり閉じたりして下さい。」

スージー:「こうで良いの?。」

技師:「信号は来てますね。一次マップ採るので続けて下さい。」
36pinksaturn:2006/08/27(日) 14:32:24 ID:8zNGShx40
脳外科医:「左の運動系は一応成功したかな。よし、頑張るぞ。視覚は?。」

技師:「テストパタン流します。スージーさん、何か見えますか?。」

スージー:「見えるわ。でも、何の形かしら、うーん、NUL POかな?。」

技師:「一応うまく入ってますね。傾きはどうですか?。」

スージー:「30度くらいで右上がりね。」

技師:「初回としてはうまく行っている方でしょう。調整は後にします。」

脳外科医:「右の取り付けが出来たよ。点検にかかってくれ。」

技師:「先ほどと同様にやりますので、スージーさんお願いします。」

スージー:「今度は左手ね。どうかしら?。」

技師:「結構です。視覚チェックお願いします。」

スージー:「あら、ずれて、2重に見えてしまうわ。見づらいわね。」

技師:「左右の位置合わせがまだですので。後で合わせられますから。」

脳外科医:「うむ。良いようだな。カバーを残った頭蓋骨に固定します。
少し痛むと思いますが、ご容赦願います。スクリューをくれ。」

衛生兵:「スクリューどうぞ。」

スージー:「うっ、うっ、平気平気、うっううう、うっ。ふう。」
37pinksaturn:2006/08/27(日) 14:33:10 ID:8zNGShx40
脳外科医:「固定終わりました。接合部に保護シートを接着します。」

スージー:「これで、新しい体を遠隔操作できるようになったわね。」

技師:「うまく調整すれば、ですので焦らないで下さい。」

衛生兵:「窒素、持ってきました。」

脳外科医:「外した頭皮と頭蓋骨は冷凍保存します。ご了承下さい。」

スージー:「そんなもの、取って置いてどうするの?。」

脳外科医:「現在の技術では難しいですが、一応元に戻せるように。」

スージー:「以後の手術でも外した体の部品を全部保存するつもりなの?
次は視神経や脊髄を切ってしまうのよ。無駄じゃないかしら?。」

脳外科医:「将来の復元可能性を残すように命じられています。」

スージー:「そんな気遣いは必要ないのに。」

脳外科医:「国務長官を納得させたときの条件だそうです。」

スージー:「ははは、じゃあ仕方ないわね。どうぞご自由に。」
38pinksaturn:2006/08/27(日) 14:36:51 ID:hykVn+p30
脳外科医:「もう動いて構いません。但し、入浴はできません。
体の清拭には、女性看護師をつけますのでご了承下さい。」

スージー:「脳見せた仲だから、その衛生兵さんにお願いしたいわ。」

脳外科医:「おい、興奮せずにやれる自信はあるか?。」

衛生兵:「頭皮や脳さえ見えなければ。精一杯勤めます。」

脳外科医:「結構ですよ。とりあえずお疲れさまでした。」

スージー:「こちらこそ。ご苦労様でした。次も宜しく。」
39pinksaturn:2006/08/27(日) 14:37:26 ID:hykVn+p30
(N共和国 大統領府)

秘書官:「帝国大使が令嬢姉妹を伴ってご挨拶にみえました。」

ペンタン大統領:「お通ししてくれ。しばらく人を入れるな。」

大使:「ようやく単身赴任が解消できましたよ。」

ペンタン:「美しい娘さん2人は羨ましいですな。おいくつ?。」

大使:「18と16になります。国際学校に通わせます。」

ペンタン:「息子のヘキサンも16です。国際学校にするのだったな。」

真理亜:「それは危険ですわ。最悪人質にされる恐れもあります。」

ペンタン:「あ、もう大丈夫かな。」

真理亜:「監視カメラ映像を受信しました。秘書官は指示を守っています。」

ペンタン:「さすがに素早いですね、武官殿は。息子のことは冗談です。
ところで、国際学校はやはり彼らの拠点に?。」

真理亜:「その前に改めてご挨拶を、特命全権公使・武官の真理亜大佐です。」

マサ:「特命公使・武官のマサ少佐です。」

大使:「建前は私の部下ですが、帝国本体の貴族ですから権限は上になります。」

ペンタン:「解っております。お二人は本当のご姉妹ですか?。」
40pinksaturn:2006/08/27(日) 14:39:05 ID:hykVn+p30
真理亜:「同性婚のパートナーです。旧性がヘテロなので子供は出来ますよ。」

ペンタン:「なるほど。赤の他人どうしには見えなかったので。どちらが?。」

マサ:「済みません。そういう質問には答えたくないのですが。」

真理亜:「はは。自分から白状してるじゃないの。」

ペンタン:「これは失礼。そういう方しかサイボーグになれないのでしたね。」

マサ:「よくご存じなのですね。参りましたわ。」

ペンタン:「私の家系は元々この島の酋長でした。大統領を務めた先祖もいます。
その中に、そちらの初代皇帝陛下と懇意にしていただいた者も居ります。
その関係で、昔から当家の嫡子だけがあなた方の正体を知っているのです。
私はいまさら世襲権力に執着する気はないのですが、島民の将来を案じています。
北米連の経済政策を放置したら、いずれ海面上昇で住むところが無くなります。
それを止めるには、あなた方の力に頼るしか無いのです。」

真理亜:「ええ、大統領の家系と皇家との親交は承知しております。」

ペンタン:「残念ながら世襲権力への感情的反発が国益より先という者も居ます。
どうやら、北米連の工作員につけ込まれて反政府組織が作られたようなのです。」

真理亜:「国際学校の女教師が外国の工作員であることは間違いありません。
マサの抜け毛を手に入れる細工をして、何処かで分析したようですわ。」

マサ:「えっ、まさか。あ、そういえば椅子のささくれで髪が引っかかって。」

真理亜:「油断させるために、気づかないふりをしていたのよ。」
41pinksaturn:2006/08/27(日) 14:42:59 ID:pZErppdA0
マサ:「体内通信で教えてくれたって良いのにぃ。」

真理亜:「態度に出たら警戒されちゃうでしょ。藻前は駆け引きが苦手だからね。
こういう事ではあてにしていないから、荒事になったら頑張りなさい。」

ペンタン:「大丈夫なのですか?。」

真理亜:「赴任に備えて人毛を植毛してきましたから、がっかりしている頃です。」

マサ:「この髪、高かったのになあ。あのセンコー、捕まえたら坊主にしてやる。」

真理亜:「登校したとき絶対態度に出しちゃダメよ。まだ仲間が判らないからね。
大使館に侵入してきて捕まれば非人になるから、仕返しはそれまで待ちなさい。
大統領、敵の攻撃を大使館に仕向けたいのでこちらの警備を厳重にして下さい。」

ペンタン:「精一杯やりますが、一族の者を除くと誰を信じて良いやら。
我が国の軍は陸戦装備が貧弱だし、士官は北米連留学経験者が多いのです。
もしも、抱き込まれている者が居たら警備どころか自滅です。」

真理亜:「では、ダッチアンドロイドを改造したリモートボディを配置しましょう。
工場衛星にいる部下に制御させれば、動きが鈍いけどサイボーグの力は出せます。
政府機関のアルバイト事務員とか、怪しまれないポストは用意できますか?。」

ペンタン:「公邸と大統領府の臨時警備員や食堂従業員なら、私の一存で雇えます。
事務職ですと越権行為で強引に押し込むようになるので多少問題がありますね。」

マサ:「あれを回してしまうと大使館が手薄になりますよねぇ。」
42pinksaturn:2006/08/27(日) 14:43:34 ID:pZErppdA0
真理亜:「大丈夫よ。あと5体取り寄せ中で、明日には届くからね。
警備員が増えるのが良いわね。大統領、5人雇い入れることが出来ますか?。」

ペンタン:「女性警備員ばかり5人ですか。うーん、多少怪しいかなあ。
そうだ、警備のソフト化を推進するとかなんとか理由を付ければ出来ますね。」

真理亜:「なんとかお願いします。」

ペンタン:「承知しました。しかし、マサ少佐は言葉まで女子高生になってますね。
いいなあ。永遠のコギャルか。私もそんな身分になれたらなあ。」

マサ:「正式に入学したので、今は正真正銘の女子高生です。」

真理亜:「別に努力した訳じゃなくて藻前は元からコギャル趣味でしょう。
大統領なら一代貴族として帝国の首脳に招聘される資格は十分ですよ。
引退なさった後でどうですか。女子高生になるチャンスもありますよ。」

ペンタン:「そこまで評価して頂けるのはたいへん光栄ですね。
でも、私は最後までこの島の行く末を見届けなければなりません。
さっきの呟きは妄想だと思って聞き流して下さい。」

真理亜:「それは残念。今日は、そろそろお暇します。でわまた。」

大使:「失礼します。」

マサ:「バイビー、またねぇ。」
43pinksaturn:2006/08/27(日) 14:44:23 ID:pZErppdA0
(国際学校 教職員寮 談話室)

キャロル:「大統領府の警備状況はどんな様子?。」

工作員仲間1:「最近、警備員が5人増えたぞ。感づいて用心してるかもな。」

工作員仲間2:「増えたのは女ばかりだ。単なる警備のソフト化かもしれんね。」

キャロル:「それなら良いけど、もしも帝国のサイボーグなら厄介ね。」

工作員仲間1:「革命となると我々は表面に出られないからな。
この国の反体制派だけで大統領府を占拠して大統領を捕らえるのが基本だ。
だが、反体制の連中には対サイボーグ用徹甲弾を撃てる腕前なんかまだ無い。
サイボーグが相手じゃひとたまりもないぞ。」

キャロル:「早く成果を出せと当局がうるさく言ってきているわ。
この際、反体制派はダメ元で革命騒ぎを起こさせて囮にしましょう。
帝国のサイボーグがどこに潜んでいても、そちらに引きつけられるでしょう。
放置して革命が成功してしまったら困るでしょうからね。
その隙に我々が帝国大使館を襲って大使を拉致すれば情報は手にはいるわよね。」

工作員仲間2:「大使の娘姉妹は本当に大丈夫かな。毛髪鑑定は不確実だろ。
もしも大使の護衛に投入されたサイボーグなら非常時に側をを離れないだろう。」

キャロル:「妹の方は私が担任だけど、心底ちゃらちゃらした馬鹿娘だわ。
雰囲気は大使令嬢と言うよりも頭も尻も軽い売春婦よ。芝居には見えないわね。
仮にあの娘が、サイボーグだとしても強敵とは思えないわよ。
テレビで見た皇帝や司令官とは明らかに違うからせいぜい下っ端戦闘員でしょう。
我々の徹甲爆裂弾装備が有れば簡単に倒せると思うわよ。」
44pinksaturn:2006/08/27(日) 14:48:17 ID:GfwFSxEJ0
工作員仲間1:「尻の軽いのはあの国の流儀で能力とは関係ないかもな。
サイボーグが2人と警備員や武官数人が相手だと6人は欲しいよな。」

工作員仲間2:「応援は呼べるかな。」

キャロル:「すぐに来れるのは3人ね。どうする?。」

工作員仲間1:「ちょうど6人か。当局はかなり強硬なのか?。」

キャロル:「ええ。あと2週間で重要情報が何も得られないとチーム解散ね。
そうなったら、ただクビ、で済むわけがないわよね。」

工作員仲間2:「((((;゚Д゚))) やるしかないか。」

工作員仲間1:「しかたがないな。なるべく狙撃でサイボーグを先に倒そう。
徹甲爆裂弾で首を撃ち抜けば確実にやれるだろう。」

キャロル:「良いけど当日にしてよ。事前に学校でやるのは疑われるからね。
ここは治外法権じゃないし、警察は大統領派が多いからしつこく調べられるわ。」
45pinksaturn:2006/08/27(日) 14:49:07 ID:GfwFSxEJ0
(3日後夕方 大統領府周辺)

反政府デモ隊:「世襲反対!。公共事業増やせー!。ガソリン税廃止!...」

アジテーター:「もう我慢できねえ!。力ずくだー。」

サクラ:「そうだそうだ。やっちまえ。」

アジテーター:「火炎瓶欲しいかー?」

サクラ:「くれくれ。」

反政府デモ隊:「俺も俺も。オレオレ、俺だよ...」


(深夜 帝国大使館)

大使:「デモが暴徒化してから5時間になりますが大丈夫ですかね。」

マサ:「配備したリモートボディの当直からあっちの様子を聞いています。
武器は殆どが火炎瓶や包丁で、まともな武器を持った者は殆ど居ません。
リモートの体内武器は使わずに押しとどめられそうです。
空き瓶が武器代わりの酔っぱらいなんかも混じっています。
なるべく傷つけずに規制しようとしているところです。」

真理亜:「変ねえ。北米連の差し金にしては攻撃力がなさ杉よ。
騒ぎを長引かせるのが目的で、革命を成功させる気はないみたいよ。」

マサ:「ひょっとして、騒ぎに紛れてここを襲うのかな?。」

真理亜:「リモートの娘に庭を巡回させた方が良いわね。」
46pinksaturn:2006/08/27(日) 14:51:01 ID:GfwFSxEJ0
(近くの大木から)

工作員仲間1:「むっ、二人組の娘だな。一気に両方は無理か。
まあいいや、一人減ればあとはキャロルたちがなんとかするだろう。
よーく狙って...成仏。」

リモートボディ1:「いてっ。あ、あれっ。く、首、首...。」

リモートボディ2:「狙撃!?。どこから?...とにかく報告。」

工作員仲間1:「鈍い奴だ。まともに食らったぞ。まだ立ってるな。
やや!、首を探してるぞ。生きてるのか。一体どういいう構造なんだ。
まあいい。キャロル!、一人撃って首を吹っ飛ばしたが動いている。
もう一人は物陰に引っ込んでこっちを窺っているようだ。」

キャロル:「首無しで動いているって?。脳はどこに入ってるの。
まあいいや、不自由なら何とかなりそうね。もう1人も狙えない?。」

工作員仲間1:「場所を変えてやってみる。」

キャロル:「私たちは反対側で塀を超えるから動く奴はみんな撃って!。」

工作員仲間1:「わかった。なるべく粘って、注意を引きつける。」
47pinksaturn:2006/08/27(日) 14:53:42 ID:7VGTbDnn0
(大使館内)

マサ:「強力な弾ですね。リモートの娘が錯乱して首を探してます。
自分で出なくてよかったぁ。当たったら死んじゃいますよ。」

真理亜:「衛星からのリモートは動きが鈍いからやられたのね。
油断しなければ簡単に食らうとは思わないけど気をつけなさい。
あ、反対側の塀から5人来たわよ。ごつい武器持ってるわね。
室内なら破片が跳ね返るから使いにくそうね。中で迎え撃つわよ。」

マサ:「怖いから私らもリモートボディを先に出しましょう。
リモートは武装が良いですから先手が打てますよね。
ここからなら、衛星と違って本体と大差ない反応が出来るし。」

真理亜:「そおねえ。この体は金がかかっているから傷つけたくないし。
よし、リモートボディリンク起動...。」

(庭)

キャロル:「狙撃の威力に恐れをなしたのかしら。誰も出てこないわね。
とにかくサイボーグはあっち側に居るから今のうちに侵入するわよ。」

工作員仲間3:「他にサイボーグは居ないんだろうな?。」

キャロル:「それらしい人物の入国は他にないわね。密入国は判らないが。」

工作員仲間4:「もし居たら室内じゃ爆裂弾は使えないんじゃないか?。」

キャロル:「ちと難しいけど、物陰から撃てば破片は避けられるわよ。
なにより、早く大使を捕まえる事ね。人質がいればこっちのものだわ。」

工作員仲間2:「この窓からにしよう。開けやすそうだ。」
48pinksaturn:2006/08/27(日) 14:54:43 ID:7VGTbDnn0
(廊下)

マサ・リモート:「こっちの部屋で窓を破ったようです。」

真理亜・リモート:「部屋の出口は2カ所よ。分かれて押さえましょう。」

工作員仲間5:「あっ、えっ、受付の娘?。何故こんな夜に?、動くな!。」

マサ・リモート:「ラブラブ光線、続けてハンドガン発射。」

工作員仲間5:「あちっ、ぐえっ。う、こいつもサイボーグ?...合掌。」

工作員仲間4:「くらえっ!。」

マサ・リモート:「おっと。首チョンパでトラウマはご免よ。ジャンプ!。」

工作員仲間4:「くらえっ!。くらえっ!。わああ、ぎゃああ。合掌。」

マサ・リモート:「あーあ、逆上して狭いとこでそんなもの撃つから...
こっちも破片で傷だらけorz。おまけに返り血まみれorz。血は嫌いだあ。
あ、まあいいか、本体じゃないし。真理亜様!二人片づきました。」

真理亜:「こっちも二人殺ったわ。そっちは氏んだの?。男か、要らないわ。」

マサ・リモート:「一人は弾片で自爆です。手を下していません。」

真理亜・リモート:「罪意識は要らないでしょ。あと一人探すわよ。」
49pinksaturn:2006/08/27(日) 14:55:26 ID:7VGTbDnn0
キャロル:「ちっ、みんなやられたか。天井裏から進んで正解ね。」

マサ・リモート:「微かに音がした希ガス。天井裏かしら。」

真理亜・リモート:「赤外線で見るのよ。微かな温度差に注意して。
あ、居た居た。部屋の中央に向かっているわ。生け捕りにしたいなあ。
よし、中央に来たら四隅をミサイルで撃って天井落とすわよ。場所判った?。」

マサ・リモート:「え、そんな乱暴な。まあいいか。自分の財産じゃないし。」

真理亜・リモート:「オッパイミサイルロック解除。マサ、同期取って!。」

マサ・リモート:「はぁい。オッパイミサイルロック解除。発射。」

キャロル:「な、なにぃ!。きゃああ。」

マサ・リモート:「痛てててて、こっちも瓦礫の下敷きじゃないですか。
動けなくなっちゃいましたよ。どうしますか?。」

真理亜・リモート:「なんだ。藻前もか。でも、これなら敵は脳震盪でしょう。
本体に戻って逮捕するわよ。リモート解除...」

マサ:「まだ伸びてますかね。こんなにコストかけて逃げられたら大損だな。」

真理亜:「気がついても怪我はしてるでしょ。必ず捕まえるのよ。」
50pinksaturn:2006/08/27(日) 14:58:18 ID:dWqlMaXD0
キャロル:「うう、痛い。腕が折れているわ。とにかく逃げなきゃ。あっ。」

マサ:「あら、キャロル先生じゃないですか。こんばんわ。何故ここに?。」

キャロル:「(え、さっきのはこいつじゃなかったの?。本当に普通の娘?)
助けて、変な男達にさらわれてきて天井裏に放り込まれたと思ったら...。」

真理亜:「バーカ。そんな言い訳が通じる訳無いでしょ。工作員さん。」

キャロル:「違ったか。それっ、煙幕弾。」

マサ:「ラブラブ・パーンチ、ブレーキ撃ち!。首根っこ押さえっと!。」

キャロル:「くうう。やっぱりサイボーグか。放せっ!。先生に何するの!。」

真理亜:「4時間後に本国の陛下が目覚めたらここで出張裁判にかけるのよ。
治外法権の大使館に乱入して捕まったら、こちらの法で裁かれるのは当然ね。
あなたにとって唯一つの救いは、我が国に死刑が無い事ね。」

キャロル:「わかったわ。降伏するから、せめて折れた腕を診て頂戴。」

真理亜:「腕ねえ。もうじき要らなくなるんだけど、どうしようかな。」

マサ:「まだ人権削除判決前なんだから、痛み止めくらい打ちましょう。
一応私の担任ですし、作戦成功だから良いじゃないですか?。」

真理亜:「成功ねえ。天井とリモートボディ4体破損は高いわよ。
狙撃手は逃げちゃったし、外で撃たれた娘達の本体はショックで錯乱よ。
当分安静で使えなくなったって、リエがカンカンに怒っているわ。」
51pinksaturn:2006/08/27(日) 14:59:16 ID:dWqlMaXD0
マサ:「娘達?。二人目も撃たれちゃったんですか。」

真理亜:「見事に首チョンパ。憎たらしいスナイパーだわ。
悔しいけど、あいつは今頃まっしぐらに高飛びしてるんでしょうね。」

キャロル:「見捨てて逃げやがったか。ま、私でも同じ事をしたね。
これも非情の掟か。あーあ、こんな仕事に就くんじゃなかったわ。」

真理亜:「とりあえず、地下に監禁するよ。さあ来いっ!。」


(冥王星降格にもめげず、北米連の攻勢はしつこさを増してきました。
諜報戦と民兵サイボーグの開発が重なって忙しくなりすぎましたね。
次回予告(27)民間宇宙保安官)
52名無しさん@ピンキー:2006/08/31(木) 18:50:48 ID:jHle5VNi0
保守
53名無しさん@ピンキー:2006/09/02(土) 07:07:54 ID:6u2x143U0
こっちが本スレ(新スレ)だというのにdat墜ちしそうな雰囲気ですな
こっちももっと盛り上げましょう
54pinksaturn:2006/09/02(土) 17:27:39 ID:4exokEss0
>>53 確か、前々スレは日曜ー木曜の間隔で落ちてますな
やばそうなので、オプションパーツ(27)は半分出来たところで投下します。

−−(27)民間宇宙保管官(前編)−−

(北米連 国防総省秘密研究施設内入院施設)

スージー:「あ、そこそこ、かゆいからしっかり拭いて。」

衛生兵:「こうで良いですか?。」

スージー:「ありがとう。ふう、気持ちいい。」

衛生兵:「入浴できない状態であれだけ動くのはきついでしょう。」

スージー:「まだまだこれからよ。毎日2回も清拭は大変だけど頼んだわよ。
何しろ、あらゆる体の動きをデーター化しないと次に進めないからね。
ここで手を抜いてロボットみたいな安っぽい動きしかできない体になるのはご免よ。
限られた時間で採っておかなきゃいけないパターンが非常に多いのよ。
脳の出す信号と体の動きの関係が単純でないことは予想していたけどね。」

衛生兵:「脳で考えた動きと脊髄が体に分配する信号を突合するのは大変ですよね。
脊髄を残せば調整だけでなく手術だってかなり易しくなるのではないですか?。
手術手順 http://pinksaturn.fc2web.com/noutekisyutu-hokubei.htm を見ました。
次のステップでは、超音波ギロチンで首を切断する事になっていますよね。
どうしてあんな怖い手術方法を提案なさったのです?。」
55pinksaturn:2006/09/02(土) 17:28:58 ID:4exokEss0
スージー:「もちろん脊髄を残すことだって十分に検討したわ。
脊髄が残っていると、元々かさばる生命維持装置がさらに大きくなるの。
大きくなると耐衝撃性や耐真空性を保つのに必要な重量が著しく増えるのよ。
既に300`を超える予定の体重がさらに重くなるのは困るからね。
おまけに脊髄があると生命維持装置が頭部に収まりきれなくなるのよ。
ボディーから首を外せない構造になるのは不便だし、胸部に武装が搭載出来ないわ。
さらに脊髄の分だけ貴重な補給物資である血液の消費量も増えてしまうの。
献血してくれる50人の仲間にかかる負担がきつくなるのもまずいのよ。
むしろ、延髄や小脳も除去したいくらいなんだけど脳底部は手術のリスクが大きくてね。
逆に脊髄を残すなら繋がったまま出すために体をばらばらに解体しなければならないわ。
手術時間が長くなると、その間に脳が乾燥するせいでリスクが大きくなるのよ。
首の切断なら時間がかからないし、狭い脊髄の断端を保護するのは難しくないからね。
大きい血管さえ先に人工心肺に繋いでおけば死ぬ心配がないから怖くはないわ。」

衛生兵:「なるほど。そこまでは考えつきませんでした。」

スージー:「一通りデータが集まったら実ボディとの連動試験になるわ。
今よりさらに沢山の汗をかくことになるから宜しく。」
56pinksaturn:2006/09/02(土) 17:29:40 ID:4exokEss0
(在N共和国帝国大使館 地下室)

真理亜:「出張裁判の段取りが出来たわ。検事は1等書記官、大使が弁護人ね。」

マサ:「私はまた証人ですか?。今度は年齢ばらさないで欲しいなあ。」

真理亜:「証人は、私がなるわ。藻前は陛下に体を明け渡すことになるからね。」

マサ:「へ?。リモート用のボディなら1体無傷で残っているんじゃ?。」

真理亜:「あんな安っぽいダッチアンドロイドじゃあ陛下の体面が保てないわ。
藻前の体なら外交仕様で金がかかった造りになっているから使えるでしょ。
藻前はダッチの体を制御して法廷警護を務めること。良いわね。」

マサ:「すると、私の口から人権削除刑を言い渡す事になるんですね。
ああ、恐ろしや。キャロルの恨みが私に降りかかるのか。嫌だなあ。」

真理亜:「つべこべ言わずにリモート受け入れプロトコル起動にかかりなさい。
それから、皇族用の礼服がないから、せめて最上等のドレスに着替えるのよ。
急ぎなさい。陛下は忙しいんだから待たせるんじゃないわよ。」

マサ:「はああ。スパイ捕まえるのは良いけど、毎度痛い目に遭ってるなあ。」
57pinksaturn:2006/09/02(土) 17:33:31 ID:0v6XsxL10
(会議室)

皇帝・マサ:「開廷します。代用検事、起訴状を朗読して下さい。」

1等書記官:「えー、初めに。当職は経済特区高等文官試験合格者です。
よって代用検事資格を有します。でわ、起訴状、...」

キャロル:「ちょっとぉ、なんでマサが裁判長なのよ。当事者でしょ。
これで公正な裁判なんかできっこないじゃないの。」

皇帝・マサ:「不規則発言はやめなさい。私は皇帝知子1世です。」

マサ・ダッチアンドロイド:「マサはこっちですよ、キャロル先生。
今は皇帝陛下に体を明け渡してこっちのボディを制御してるんです。
サイボーグはリモートリンクで体の貸し借りが簡単に出来るんですよ。」

皇帝・マサ:「代用検事、続けなさい。」

1等書記官:「被告人、自称キャロル、職業、自称国際学校教員、年齢不詳。
住所は不明ですが仮の居所がN共和国、国際学校教職員寮となっております。
右の者は、本日未明、帝国在N共和国大使館において、以下の不法行為を働いた。
その1、塀を乗り越えるという明確な悪意に基づく方法による不法侵入
その2、爆裂弾を発射可能な重火器の所持、
その3、窓と天井に関する現住建造物損壊
その4、煙幕弾について爆発物不法所持および使用
その5,誘拐未遂
以上につき、現行犯逮捕されております。
58pinksaturn:2006/09/02(土) 17:35:39 ID:0v6XsxL10
以上につき、現行犯逮捕されております。
また、現場において帝国武官の正当防衛射撃により死亡した共犯者の以下の行為、
その6、爆裂弾を発射可能な重火器の所持、使用
その7、傷害、殺人未遂
さらに、逃亡中のため起訴不能な共犯者による以下の行為
その8、確定殺意を有する狙撃による殺人未遂及び傷害
に関して、共謀共同正犯が成立するものと推認されます。
うち、その1は治外法権区域に対するものなので不法越境が同時に成立します。
よって、勅令・特定技術開示規制令による極刑適用の余地があります。
このため、最高法廷に対し一括して起訴いたします。」

皇帝・マサ:「被告人、罪状認否をしなさい。」

キャロル:「諜報戦に合法も非合法もないわよ。私は殺人許可証持ってるんだ。」

皇帝・マサ:「要するに犯行事実を認めるわけですね。弁護人、意見を。」

大使:「初めに。当職は経済特区高等文官試験合格者で、代用弁護人資格を有します。
被告人は、投降して逮捕されており、犯行事実も素直に認めています。
よって、証人・証拠審理の必要も無く、裁判の迅速化に協力しております。
寛大な判決を受ける余地があろうかと思料いたします。」

1等書記官:「意見。被告人らの重火器使用は、宣戦布告無き戦争行為です。
国際法に照らせば戦争犯罪に相当し、捕虜の扱いに関する権利は認められません。
特に、その8については無警告で重火器により首を撃ち抜くという残虐行為です。
被害者がサイボーグのリモート体であった偶然により殺人は避けられました。
しかし、被害者は即死に等しい衝撃により重い精神障害に苦しんでおります。
このように犯情が芳しくないことから、寛大な処置は不要であります。」
59pinksaturn:2006/09/02(土) 17:37:00 ID:0v6XsxL10
皇帝・マサ:「量刑算定は通常の基準とします。代用検察官、求刑を。」

1等書記官:「その1について禁固5年と人権削除刑を重ねて求めます。
その2からその8について、合計禁固70年を求めます。
被告人自ら諜報戦を主張したので、逃亡予防緊急措置の要件を満たします。」

皇帝・マサ:「判決。主文、被告人を人権削除刑および禁固75年に処する。
人権削除刑の執行に伴い、禁固刑の執行を停止する。
逃亡予防緊急措置は即時執行を認める。但し、執行方法は特例とする。
現在の被告人所在地に法定処刑室がないため、大使館医務室にて代用する。
執行施設の制約により、執行は経済特区大使館付き医官に外部委託する。
執行監督官には、武官・真理亜、武官・マサを指名する。以上。閉廷します。
でわ、皆さん、後始末は宜しく。リモートリンク解除。」

戻ったマサ:「ああ良かった。今回はスプラッタ免除だわ。」

真理亜:「ちゃんと聞いていたの?。執行監督官に指名されたわよ。」

マサ:「設備の都合で手足切断は医官がやって、仕上がりだけ見るんでしょ。」

真理亜:「バカ。非人が暴れて医官に危害加えたらどうするの。」

マサ:「えーっ。立ち会うんですかぁ。」
60pinksaturn:2006/09/02(土) 17:38:47 ID:qmqeRQHB0
真理亜:「当たり前でしょ。さあ医務室に連行するわよ。」

キャロル:「て、手足切断?!。な、何をする気!。」

真理亜:「ああ、陛下は説明を省略してたわね。今から逃亡予防緊急措置だ。
即ち、絶対逃げられないように藻前の手足を付け根から取り外すんだ。
人権削除刑の本執行は本国でしか実施できないから、その状態で移送する。
手足が無いとトランクに収容しやすくなって、好都合なんだな。
本国に着いたら、人権のない実験動物として飼われることになる。
藻前の使い道はもう決まっていてね。非人間型サイボーグになるんだよ。
ほら、この資料 http://pinksaturn.fc2web.com/tokusyubuhin.htm の第1部。
こいつに脳移植されて、惑星開発施設残置型制御装置の試作品になるのさ。」

キャロル:「ひっ、い、厭ぁぁぁあああぁぁぁあああ。」

マサ:「先生。一つ慰めを言うとですね。本来なら手足切断は無麻酔です。
でも、ここの医官じゃ麻酔しないとやれないでしょうから、少し楽ですよ。」

真理亜:「その通り。藻前は運がいいほうなんだよね。さあ行こうか。」
61名無しさん@ピンキー:2006/09/02(土) 17:40:09 ID:qmqeRQHB0
(北米連 国防総省秘密研究施設内格納庫)

技師:「一歩ずつ踏みしめるように前に進んで下さい。」

スージー:「10歩で良い?。はい、1,2...うん良さそうね。」

技師:「右に90度。そのまま進んで、...あ、こっち向かずに。」

スージー:「あ、ご免なさい。つい見ちゃうな、目をつぶって...」

ビル:「おっと。ぶつからないでくれ。」

スージー:「あ、失礼。どう、うまく歩けてる?。」

ビル:「大きいから同じかどうかわかりにくいが、良さそうだな。」

技師:「軽くかがんでジャンプしてみて。結構です。良いですね。
これなら、人間らしい動きと言っていいですよ。」

スージー:「うーん。足の裏の感覚がいまいち判らないのよ。
手でものを掴むときの感覚も本当にこれで合っているか自信がないわ。」

技師:「そうですか。信号モニター上では合っていそうなんですが。」

スージー:「リモートの感覚と体の感覚が重なって紛らわしいのよ。
うーん、これじゃ不安だわ。手足を切断して貰ったほうが良いかしらね。」
62pinksaturn:2006/09/02(土) 17:41:20 ID:qmqeRQHB0
ビル:「おい、何を言い出すんだ。何もそこまでしなくても。」

スージー:「だって手足の微妙な感覚が正確じゃないとあとで困るでしょ。
宇宙で機材のトラブルにあったときなんか素手の感覚が必要よ。
感覚信号が重複している今の状態でその微調整は難しいと思うのよ。
技師さん、もう、運動の等価性チェックは十分かしら?。」

技師:「99%は。ええ、あと1時間付き合っていただければ確実です。」

スージー:「衛生兵さん、手術スタッフに招集をかけて下さい。
できれば、2時間後に四肢切断手術をお願いしたいということで。
それから、脳摘出までの間は介護が大変になるけどよろしくお願いね。」

ビル:「おい、本気か?。」

技師:「仰ることはごもっともですが、もう少し調整してからでは?。」

スージー:「ビル、不安なら私がやってみて成功してからでもいいのよ。」

ビル:「悪いがそうさせて貰う。介護を受ける心構えは、まだダメだ。」

衛生兵:「本当に宜しいのでしょうか?。」

技師:「全てこの人達の意志に沿うように指示されている。構わん。」

スージー:「頼むわ。じゃあ技師さん、1時間集中してやりましょう。」
63pinksaturn:2006/09/02(土) 17:45:56 ID:HQFbDROU0
(北米連 国防総省秘密研究施設内手術室)

脳外科医:「急だったので整形の専門家でなくて済みません。
ここの施設で手足の切断は想定していなかったものですから。
それで頭蓋骨なら自信があるのですが、手足は骨髄断面管理が心配です。
できれば、関節での離断で済ませたいのですが宜しいですか?。」

スージー:「思いつきで無理をお願いして済みません。
中途半端に手足が残っているとテストがしづらくなります。
ですから、切断箇所は肩関節と股関節の離断でお願いします。」

脳外科医:「承知しました。ん、おい、お前顔が赤いぞ。まさか、今度はダルマッ娘フェチだと言い出すんじゃないだろうな。」

衛生兵:「お恥ずかしいですが、かなりその気があります。」

スージー:「脇と股間の剃毛から作業の連続だったからね。切断の話をしてしまったので、想像して萌えちゃっていたのね。
しっかり射精してすっきりしてきたら?。」

脳外科医:「部分麻酔は一人で出来るから、やってこい。」

衛生兵:「はっ。すぐ戻ります。」

脳外科医:「注射打ちます。チクッとしますがすぐ治まりますよ。
ふう、しかし、いまさらながら貴女は思いきったことをしますな。」

スージー:「間もなく用済みの体です。新しい体の方が大事でしょう。」

脳外科医:「その割り切りは凄いですよ。」

衛生兵:「戻りました。」

脳外科医:「よし、始めるぞ。右足からだ。電メス。」
64pinksaturn:2006/09/02(土) 17:47:15 ID:HQFbDROU0
(翌日、北米連 国防総省秘密研究施設内格納庫)

ビル:「スージー!。昨日切ったばかりでもう始めるのか。大丈夫か?。」

スージー:「手足の感覚を忘れない内に続けたほうが良いからね。
台車に乗ってるだけだから楽勝だわ。衛生兵さん、もうチョイ前にやって。
技師さん、ボディ起動して下さい。よし、視覚見えた。手も動くね。
周囲を見回して...安全ね。動かすわよ。お、快調快調。」

技師:「感覚の強度はどうですか?。」

スージー:「結構いけてるかな。条件変えて足裏の感触を見たいわ。
格納庫から出て良いですか?。」

技師:「扉開けます。少々お待ち下さい。...どうぞ。」

衛生兵:「追いかけなくても良いんですか?。」

スージー:「あっちの視覚で十分よ。目隠しつけて下さいな。ありがと。
よし、前進。うん、地面の凹凸は一応判るか。技師さん感度5%上げて。
うん、この踏みごたえなら、いいかな。ちょっと走ります。」

技師:「走る姿勢は見違えるくらい良くなっています。これは凄い。
しかしこれだけ走るとアナルの排気ガスが目立つなあ。気の毒に。」

スージー:「はは、地上だけの我慢だからね。速度上げますよ。」
65pinksaturn:2006/09/02(土) 17:47:51 ID:HQFbDROU0
技師:「2`以内で戻って下さい。無線の到達が心配です。
おおすごい。時速50`出ていますね。うまく止まれますか?。」

スージー:「やってみるわ。う、おっとっと。大丈夫だわ。
慣れれば、これが普通の歩行感覚に出来そうよ。帰りますね。」

技師:「見事な走行でした。」

スージー:「次は手の感覚ね。技師さん、体格に合うボールあるかな。」

技師:「用意させます。今日は、格納庫の物品で試して下さい。」

スージー:「いいわよ。ビル、うまく行ったわよ。あなたはどうする?。」

ビル:「うん。手足切断の必要性は解った。ただなあ...」

スージー:「どうしたのよ。」

ビル:「笑わないでくれ。脳摘出前に最後の自慰をする気だったんだ。」

スージー:「そんなこと!。看護師に手コキを頼めばいいでしょ。
もし断られたら、私がまだ残っている口でやってあげるわよ。」

ビル:「わかった。看護師に頼むよ。介護人憑きのフェラじゃなあ。」

衛生兵:「必要なら、私は黒子に徹してお仕えします。」
66pinksaturn:2006/09/02(土) 17:50:43 ID:pDtesQ7i0
(北米連 国防総省秘密研究施設内手術室)

脳外科医:「いよいよ最終段階ですね。」

スージー:「首チョンパよろしく。思い切ってばっさりやって下さい。
大変な手術ですけど、先生の体調はどうですか?。」

脳外科医:「はは。先に言われちゃいました。万全です。お任せ下さい。」

スージー:「衛生兵さん。さんざん無理なお願い聞いてくれてありがとう。」

衛生兵:「お手伝いできて良かったです。成功を祈ります。」

脳外科医:「手順 http://pinksaturn.fc2web.com/noutekisyutu-hokubei.htm を確認します。
現在step.2の初期状態です。最初に首の血管を人工心肺に繋ぎ換えます。
これで脳血流を確保し続けます。次に、首を切断し脊髄断端を処理します。
この段階までは、ご要望通り覚醒下で行います。宜しいですね。」

スージー:「無理言って済みません。自分の生首をその場で見てみたくて。」

脳外科医:「首を切断すると口が利けないので感想は後で言って下さい。」

スージー:「満足したらウィンクでお知らせしますわ。」

脳外科医:「その先の顔面と後頭部の解体は神経が多いので全麻に移行します。
解体作業が順調ならそこから3時間ほどで生命維持装置に収容されます。
生命維持装置が起動すれば30分ほどで覚醒できる予定です。
そこまでの間の出来事は後ほど映像でご確認下さい。
今回も除去した各部位は冷凍保存されますのでご了承下さい。」
67pinksaturn:2006/09/02(土) 17:51:24 ID:pDtesQ7i0
スージー:「承知しております。」

脳外科医:「では、首に麻酔打ちます。一瞬チクッとしますよ。
あ、おいお前、今度は生首フェチだと言うんなら、すぐ言え。」

衛生兵:「違いますよ。さすがに生首は圏外です。」

スージー:「ははは、3連勝は無理だったようね。」

脳外科医:「切開始めます。電メス。」

衛生兵:「はい。極性、電圧間違いありません。」

脳外科医:「鉗子。よしここだ。人工心肺良いか?。」

衛生兵:「起動済みです。管どうぞ。」

脳外科医:「刺し込むぞ、それっ。保護管よこせ。」

衛生兵:「はい。次、固定器ですね。」

脳外科医:「そうだ。うん、よし。これで脳血流は安心だな。」

衛生兵:「超音波ギロチンを設置します。」

脳外科医:「髄液流失を最小にするため超音波ギロチンを使います。
位置合わせさえ出来てしまえば、首の切断は一瞬で終わります。
以後は口が利けなくなるので言いたいことがあったら今の内に。」

スージー:「頑張って下さい。さあどうぞ。」
68pinksaturn:2006/09/02(土) 17:52:29 ID:pDtesQ7i0
衛生兵:「セットしました。位置合わせ完了。」

脳外科医:「脊髄断端保護材をよこしておけ。じゃあ、行きますよ。
1、2の3、よし切れたぞ。頭少し上に曳いてくれ。急げ。
よし保護材、ここだ。むん。ふう、髄液流失は最小に出来ました。」

スージー:「...(死なないとわかっていても、さすがに怖かったわ。
体に神経が繋がってたら最後の失禁をしてしまうところだったわね。)」

脳外科医:「冷凍作業班を入れろ。胴の保存急げ。」

衛生兵:「冷凍作業班、入ってくれ。」

作業員:「うっ...」

脳外科医:「早く持っていけ。ここで吐くんじゃないぞ。」

作業員:「もごもご。(胴抱えてダッシュ)...おえぇぇぇ。」

脳外科医:「あいつらにはきつかったな。首断面保護シール。
よし、これでひとまず安全確保だ。スージーさん、大丈夫ですか?。
良かったら舌出してみてください。」

スージー:「(生きてるわよ。)べろべろばあ。」

脳外科医:「頭部カバーの金具で首をつるして縦にします。
できたら鏡を出しますから鑑賞どうぞ。おい、つり上げ具だ。」

衛生兵:「はい。フックこれです。鏡取ってきます。」
69pinksaturn:2006/09/02(土) 17:55:35 ID:rIGmdsMh0
スージー:「(さすがにグロいわね。胃が無くて良かったわ。
でも、こうしてみると面白いわね。ちゃんと生きて考えてる。
人間なんて脳だけあれば十分ってことよね。)」

脳外科医:「おい、獄門台の用意だ。上下で支えながら解体します。
残りの頭蓋骨を分割して除去しながらカバーを付けていきます。
そろそろ全麻に切り替えますが宜しいですね。
スージーさん、よければ、ウィンクで合図して下さい。」

スージー:「(あ、合図しなくちゃ)ウィンクウィンク。」

脳外科医:「良いようですな。人工心肺に全麻剤を入れろ。
よし、効いてきたな。獄門台を調整して首の底面をきちんと支えろ。
ロック良いな?。うむ。顔面から解体にかかるぞ。電メス。」


(ビルの居室)

脳外科医:「スージーさんの脳摘出は無事終わりました。
10分ほどで覚醒する予定です。お会いになりますか。」

ビル:「会っておこうか。感想を聞くのはちと怖いがな。」

脳外科医:「看護師、お連れしろ。」
70pinksaturn:2006/09/02(土) 17:56:32 ID:rIGmdsMh0
(生命維持装置保管室)

スージー:「ん、ああ、無事終わったようね。あら、ビル!」

ビル:「もう感覚器官と音声は繋がっているんだな。」

スージー:「麻酔が切れる前にやってくれたようね。」

ビル:「首チョンパは、どんな感じだった?。」

スージー:「怖いのは一瞬ね。終わってみればあっけなかったわ。」

ビル:「そうか。一瞬とはいえ、トラウマになったら厭だな。
俺は全麻にして貰うよ。お前のボディ搭載はすぐ出来そうか?。」

スージー:「体の感覚がないのは気味悪いから早くして欲しいわね。
一通り点検が済めばやってくれる筈なんだけどね。
私の体が無事動いたら、あなたの番よ。最後の手コキは頼めたの?」

ビル:「恥ずかしくてまだ言えていない。こういうことは苦手でな。
それもだが、ダルマ状態での調整作業が辛くなってきた。
お前と違って、台車に立てられたとき股間が痛くてな。」

スージー:「男は大変ねえ。早く終わって、無くなった方が楽よ。」
71pinksaturn:2006/09/02(土) 17:57:55 ID:rIGmdsMh0
(北米連 南部国境砂漠地帯)

ビル:「体の慣らしを兼ねて国境警備か。ここでは様々な事が起こる。
動きの確認にはもってこいだな。」

スージー:「あ、あそこ不法越境者よ。走って反対側に回り込むわ。」

ビル:「ちっ、手術が数日早かったせいか、いつも先を越されるな。
手足切断をためらったのが悔やまれる。まあいい。今に追いつくぞ。」

スージー:「愛国民兵会だ。そこの越境者、止まれ。動くな。
逃げようとしたら撃つぞ。あ、待てっ!。」

不法越境者:「うわあ。何だあれは。ロボットが出たあ。逃げろお。
ひいい、尻から煙を吐きながら追って来るぞ。」

スージー:「くっ。素足感覚でも、この体重じゃ砂に足を取られる。
ビル、そっちに逃げたわ。取り押さえて。」

ビル:「ふん。チャンスだ。こらあ、薄汚いパニック人ども。止まれ。」

不法越境者:「あわわわ。前にももう1体立ちはだかっている。くそお。
こうなりゃ破れかぶれだ、やってやる。これでも食らえ。」

ビル:「何をする。こいつら。あっ、やっちまった。潰しちまったぞ。」

スージー:「捕まえた?。あら、ゴキブリみたいに潰れちゃったわね。」
72pinksaturn:2006/09/02(土) 18:01:12 ID:+KLVtPSc0
ビル:「バットで殴りかかってきたんで、つい昔のつもりで...。
これくらいのことで、3人も殺す必要なんか無かったのに。
薄汚いパニック人にだって、家族もあるだろう。なんてこった。」

スージー:「バットで殴りかかってきたなら完全な正当防衛だわ。
我々には視覚記録ディスクがあるから、訴えられても勝てるわよ。」

ビル:「バットぐらいでは、こっちはかすり傷にもならないんだ。
こんな、一方的な殺戮が正当防衛?。理屈は解るが割り切れん。」

スージー:「素直に止まらなかったせいよ。気にすること無いわ。」

ビル:「ろくに訓練もせず、国境警備なんてするんじゃなかった。」

スージー:「あんな犯罪者のことなんか気にしなくて良いわよ。
次からは素手でやらずに、機銃で撃つことにしましょうね。
さあ、牧場に帰りましょう。仲間が待っているわ。」
73pinksaturn:2006/09/02(土) 18:01:59 ID:+KLVtPSc0
(愛国民兵会会長の牧場)

愛国民兵会会長:「献血協力者諸君。私の牧場へようこそ。
今日は諸君にしっかり血を増やして頑張って貰うため、ご招待した。
しっかり食って、このビルとスージーを支えてやってくれ給え。」

会員達:「うおおお。やったるぞー。」

スージー:「私たちの生命維持はあなた方が頼りですので宜しくね。
ビル、あなたも挨拶しなくちゃ、ほら。」

ビル:「ああ...。」

スージー:「どうしたの?。昼間のこと、まだ気にしているの?。
あの犯罪者たちは自業自得なのよ。忘れましょう。」

愛国民兵会会長:「ん、ビル元気がないようだな。ああ、すまんな。
食事の出来なくなったお前達の前でパーティなど、目の毒だったな。」

スージー:「目の前の食べ物のことなら、遠慮は要りませんよ。
みんな、私たちのために無理をして栄養をとる必要があるんですから。
ビルが悩んでいるのはそのことではなくて、昼間...」

愛国民兵会会長:「うむ。そうか。ビルは正義感が強いからな。
わかった。明日、知り合いの精神科医に診に来て貰おう。
手遅れになって本物の鬱になったら大変だからな。お前はいいか?。
念のため、精神安定剤を貰っておいた方が良くないか。」

スージー:「私はこの体になってからむしろ頭が冴えてきていますよ。
それに、この体では薬の適正使用量を見積もるのが難しいんです。
よほどの問題がなければ薬に頼らない方が良いと思います。」
74pinksaturn:2006/09/02(土) 18:03:11 ID:+KLVtPSc0
(納屋)

スペルマン:「よお、リンダ、これからお前はどうする気だ?。
お前がビルに片思いだったのは俺も気づいていたんだぜ。
だが、ビルはお前に見向きもせず、性器のない体になっちまったな。
俺が代わりになってやっても良いんだぜ。」

リンダ:「あんたじゃダメよ。螺子の方がよっぽどましだわ。」

スペルマン:「そんなに冷たくするなよ。よお。」

リンダ:「なによ、この酔っぱらい。あ、放して、いや...」

ビル:「おい。そこで何をしているんだ。」

スペルマン:「お前が冷たいから、代わりにリンダを慰めるんだよ。」

リンダ:「助けて、いや...。」

ビル:「やめろ、このぉ、あっ...。」

スージー:「どうしたのよ?。何の騒ぎなの?。あっ。」

リンダ:「私をレイプしようとしたスペルマンを止めようとして、ビルが...」

ビル:「俺はもうお終いだ。とうとう仲間まで...。」

スージー:「スペルマンが悪いのよ。」

ビル:「そうじゃない。俺は、俺が許せない。」
75pinksaturn:2006/09/02(土) 18:05:48 ID:IQKXDw+q0
スージー:「どこに行くつもり!。あ、そっちは武器庫。ビル、やめなさい。」

ビル:「スージー、世話になったな。一人で宇宙に行かせることになってすまん。」

スージー:「どうして。やめて。正当防衛なのよ。やめて、お願い...。」

ビル:「離れろ。(ボムッ)」

愛国民兵会会長:「爆発音がしたぞ。何事だ!?。」

スージー:「ビルが、スペルマンを殺してバズーカで自殺...」

愛国民兵会会長:「なんということだ。何故こんな事に。」
76pinksaturn:2006/09/02(土) 18:06:30 ID:IQKXDw+q0
(愛国民兵会 砂漠の格納庫)

愛国民兵会会長:「スージー、たった一人でこんなところに住ませて悪いな。
全国の会員から続々と寄付が集まっているからもう少しの我慢だぞ。
お前が快適に暮らせるような家を必ず建てるから、任せておいてくれ。」

スージー:「私はここでも十分快適ですよ。」

愛国民兵会会長:「そんなことを言うな。ビル亡きいま、お前一人が頼りだ。
全国の会員達も気持ちは一つだ。出来るだけのことをさせてくれ。」

スージー:「あんまりプレッシャーをかけないで下さいね。
私はただ、宇宙に出たいという自分の目的のためにこの仕事を請けたのです。
それ以上でも、それ以下でも無いんですよ。仕事にベストは尽くします。
でも、小娘帝国に対抗できるかは、やってみなければ判りません。
用意していただいた武装は質・量とも十分だと思います。
しかし相手は大勢のサイボーグが居るのです。未知の技術も持っています。」

愛国民兵会会長:「お前ならやれるさ。敵は遠距離探査艦だ。
少々優れた技術力があっても、十分な武器を積む余裕はないだろう。
こっちは、武装と加速力に特化した戦闘専用艦なんだからな。」

スージー:「帰ってくる探査船を惑星間で捕捉するのに十分な加速力はあります。
ただ、相手の艦の装甲強度など全く判らないので止められるかどうかですね。
捕まえて臨検に乗り込めれば、体の武装ではこちらの優位が確実ですわ。
連中の体格は人間と変わらないから、重火器の搭載は絶対に不可能ですよ。
胸部の重火器で威嚇すれば、やつらは盗掘品を差し出すでしょう。」

リンダ:「会長、スージーさん、ちょっと、いいですか?。」

愛国民兵会会長:「おお、リンダ。先日は大変だったな。どうだ。元気出たか?。」
77pinksaturn:2006/09/02(土) 18:07:22 ID:IQKXDw+q0
リンダ:「あの。やっぱりスージーさん一人では危険じゃないですか?。」

スージー:「臨検に乗り込むときに船を留守にするのは多少気になるわね。
でも大丈夫よ。リモート操作が出来るようにして貰ったからね。」

リンダ:「無線が妨害される恐れだってありますよね。」

スージー:「そこまで気にしていたら何もできないわ。ビルは帰ってこないのよ。」

リンダ:「私がビルの代わりに宇宙に行きます。」

スージー:「何を言い出すの!。サイボーグなんて簡単になれるものじゃないのよ。
私はね、宇宙飛行士の夢に再挑戦するという自己実現の目標があるから出来たの。
誰かのために、というだけで一生この体で暮らすなんて耐えられないわ。
ビルのことは忘れて、自分の生きる目標をしっかり持ちなさい。」

愛国民兵会会長:「そもそも献血者が二人足りないんだ。不可能だよ。」

リンダ:「双子の弟が間もなく18歳になります。HLAは合いますよ。
もう弟たちとは話し合いました。献血に協力してくれると言っています。」

スージー:「これ http://pinksaturn.fc2web.com/noutekisyutu-hokubei.htm をご覧なさい。
こんな恐ろしい手術に、貴女みたいな普通の娘が耐えられるかしら。」

リンダ:「うっ。」

スージー:「それを良く読んで、頭を冷やしてゆっくり考え直すのよ。
私が1回目の作戦から無事に帰ったときにまだ同じ考えなら、もう一度話を聞いてあげるわ。」
78pinksaturn:2006/09/02(土) 18:10:03 ID:A1vhxn+z0
(北米連 砂漠の民間宇宙港)

スージー:「それでは行ってきます。」

愛国民兵会会長:「頼んだぞ。儂もレッドナイトで発射高度まで送っていく。
宇宙局が縄張り根性で民間有人飛行だからと発射場を使わせてくれないのは腹が立ったがな。
しかし、途中まででも一緒にいけるという点ではこっちの方が良いのかもしれんな。」

スージー:「武装ユニットや長距離エンジンの打ち上げは実績もなく結構危ないんです。
上で渡してくれる方が良いですよ。このスペースシェリフ・ワンで上がる方が安全です。」

民間宇宙港管制官:「レッド・ナイト離陸どうぞ。」

会員パイロット:「レッドナイト、テイクオフ...高度20`発射地点まで3分。」

スージー:「スペースシェリフ・ワン発進準備よし。じゃ、見送りどうも。行きます。」

会員パイロット:「無事分離しました。」

スージー:「メインエンジン、サイドブースター点火。よし、加速ついてるな。
上昇開始、高度30`、50`、80`、120`、とうとう宇宙に出たわ。
私はカモメ、なーんちゃって。さて、武装ユニット引継地点確認ね。よし、ここ。」

愛国民兵会会長:「わがサイボーグの能力は十分だな。凄い勢いで上がっていった。
儂らが着陸する頃にはもう軌道に乗っているって訳か。」

会員パイロット:「ちょっと羨ましいですね。私もHLAが合えばなあ。」

愛国民兵会会長:「お前にはこれからもスージーの送迎役を続けて貰うからな。
羨んでいないでしっかり役目を果たすんだぞ。いいな。」
79pinksaturn:2006/09/02(土) 18:10:41 ID:A1vhxn+z0
(高度200`、衛星軌道)

スージー:「こちらスペースシェリフ・ワン、宇宙局へ。引き渡し物件を捕捉した。」

宇宙局管制官:「コントロール渡します。それから、規則ですので念書に電子サインを。」

スージー:「はいはい、いまさら判りきっているのにね。
えー、宇宙局は民間人の宇宙飛行について一切の責任を持たない。全て自己責任である。
機材の性能は保障しない。不具合によりいかなる損害を受けても宇宙局に責任はない。
武器類の使用は、正当防衛の場合を除き、刑法に則り犯罪として処罰される。
ふははは、禿笑。この体で入れる刑務所なんて有ったら一度入ってみたいものだわ。
正当防衛による戦闘行為であっても、当局は民間の紛争に一切介入しない。etc...。
はいはい、結構よ。じゃあこれで良いわね。ドッキング始めるわよ。」

宇宙局管制官:「どうも。個人的心情としては精一杯応援しますので、頑張って下さい。」

スージー:「口先だけでも嬉しいわ。ありがと。よし、サイドブースター投棄。OK。
武装ユニット、相対速度1m/s、減速、ほい捕まえた。次、長距離エンジンね。
キタキタ。よーし、合体完了。メインコンピューター起動。標的の推定進路算定...。
即出た。さすが腐っても宇宙局公式品ね。さて、盗人小娘どもにお灸を据えてやるかな。」
80pinksaturn:2006/09/02(土) 18:11:15 ID:A1vhxn+z0
(在N共和国帝国大使館)

真理亜:「今日の午後、非人の引き取りが来るわよ。移送準備をしておいてね。」

マサ:「ずいぶん待たされましたね。折角の女子高生生活が毎日介護で台無しでしたよ。」

真理亜:「よく言うよ。床ずれ放置でひいひい言わせておいて。まあ非人だから良いが。」

マサ:「医官から告げ口ですか。あんなの治療してやる義務なんて無いのになあ。
特区の医師は通常なら非人なんかに接する機会もないし、条件反射みたいなものかな。
あ、ところでさっき、ハルから北米連のらしき大型衛星出現の報告がありましたね。」

真理亜:「低軌道で2基の大型衛星に有人機らしいやつが合体したって件ね。
新たな火星有人探査にしては小さいし、月に行くには大きすぎるし謎よねえ。
とりあえず、黒塗り迎撃艇を用意して密かに監視するよう命じておいたわ。」

マサ:「あと2ヶ月で、”みくら”が帰還しますよね。気になりませんか?。」

真理亜:「月で満漢がやられたような、北米宇宙局による妨害工作だというの?。
あの時とは情勢が違うのよ。世界が注目しているから秘密になんか出来ないでしょ。
地上で暗躍する工作員のように一般人に紛れてこそこそやる訳じゃないのよ。
そもそも月と違って惑星間空間では隠れる場所なんかどこにもないじゃないの。
宣戦布告も無しに政府機関がそんなことを出来るはずが無いわ。」

マサ:「厭な悪寒がするんです。キャロルが何か知らないか締め上げてみましょう。」
81pinksaturn:2006/09/02(土) 18:12:47 ID:EAl1P+LQ0
(地下室)

真理亜:「おい非人。床ずれは直ったか?。」

キャロル:「先生をこんな体にしておいて、何をいまさら。」

マサ:「貴女は無断欠勤で免職になって、代わりに新しい担任が着任しましたよ。
もう先生じゃなくて、元工作員の非人です。床ずれの治療はお情けに過ぎません。」

真理亜:「藻前の返事次第では、もう少しだけ情け深くなってやっても良いよ。
今日、早朝に、北米宇宙局が大型宇宙船を打ち上げた。何か知っているか?」

キャロル:「ああ、たぶんアレね。別に秘密ではないわ。政府の事業でもないし。」

真理亜:「知っているのか。宇宙局でないところが大型宇宙船を上げるのか?。」

キャロル:「おそらくその船は愛国民兵会の民間保安官が乗った戦闘艦よ。
藻前たちの艦が冥王星で盗掘した物資を奪回しに行くんだわ。」

真理亜:「愛国民兵会?。何だそりゃ?。それに盗掘とはどういう意味だ?。」

キャロル:「愛国民兵会は主に国境警備のボランティアをやってるNGOよ。
まあ、大がかりな自警団みたいなものね。ついでに泥棒退治だってやるわ。
宇宙でこそ泥を退治するためだとサイボーグ保安官の志願者を集めていたわね。
我が国は領有権を主張しなくても冥王星発見者の所有権は認めているからね。
つまり、お前たちが掘り出した氷は盗掘品で民間が奪回するのは自由ってこと。
愛国民兵会は気の荒い連中よ。正当防衛名目で不法越境者を撃ち殺しているわ。
お前たちの探検船がどんな目に遭うか、楽しみねえ。けけけけけ、いい気味だ。」
82pinksaturn:2006/09/02(土) 18:13:40 ID:EAl1P+LQ0
真理亜:「もういい。これでこいつに用はない。マサ、移送準備よ。
トランクをこっちに寄越しなさい。手足のチルドケースも点検しておくのよ。
それから、リエに連絡してその船を迎撃艇3隻でで追跡させなさい。
先に撃ってきたら粘着焼夷弾頭による反撃を許可するとも言っておいて。
相手はサイボーグらしいから油断しないようにとも言うのよ。」

キャロル:「ちゃんと答えてあげたのに、トランク詰め?。酷いなあ。」

真理亜:「うるさい!。最後の嫌みで帳消しだ。こうしてやる。」

キャロル:「痛いっ。わ、狭いよお、暗いよお。人でなしぃぃ。」
83pinksaturn:2006/09/02(土) 18:14:16 ID:EAl1P+LQ0
(静止軌道工場衛星 軌道警備部隊司令部)

リエ:「真理亜侯からの連絡により、監視中の宇宙船は民兵の戦闘艦と判明した。
マツ、ミツ、ササの3名は迎撃艇で追跡、攻撃の兆しがあれば反撃しなさい。
なお、相手は愛国民兵会の民間宇宙保安官と称する戦闘サイボーグらしい。
帰還中の”みくら”を襲う恐れがあるから、地球軌道離脱前に捕捉すること。
惑星間に行かれたら追いきれないから、待機軌道上でうまく挑発するのよ。」

マツ:「挑発に乗って撃ってこなかったら攻撃できないんですか?。」

ミツ:「無視して発進されてしまったらどうしますか?。」

リエ:「戦争ではないから、正規軍である我々は先制攻撃が出来ないの。
無視されたらお手上げね。そのために殿下には無線で警報を出しておいたわ。」

ササ:「そうですか。難しい任務ですね。」

リエ:「最悪でもそいつの発進時に正確な速度と方向を殿下に知らせたいわ。
監視に付いているハルの黒塗り迎撃艇が燃料切れそうだから、急いで行って。」


(北米連方式による手術の妄想で迷走したり、男のサイボーグは必ず失敗する原則を守ったりで、出撃に手間取ってしまいました。
次は引き続き(27)民間宇宙保管官(後編)の予定。)
84名無しさん@ピンキー:2006/09/03(日) 22:51:42 ID:fPyLL7tx0
pinksaturnさん、いつも楽しみにしています。
宇宙の物理現象、サイボーグ化手術、法廷どれもリアルですね。
非凡な作品です。登場人物のキャラがたっているところも素晴らしいです。
マサがよいですね。
85名無しさん@ピンキー:2006/09/03(日) 23:39:46 ID:jfIGx/Xc0
>>前スレ451 設定を一部拝借。埋め草には長くなったのでこっちに投下。4レスで完結。

「じゃあ、また来週」
「はい。先生、ありがとうございました」

病室を出て行く吉澤先生の後姿を見ながら、僕はノートPCの電源を入れる。昨日、VRでお話したジャスミンさん、今日
も会えるかな?

この病院に入院してから、もう1年半になる。最初の2、3ヶ月は友達がお見舞いに来てくれたけど、半年を過ぎた頃から
は誰も来てくれなくなった。たまに送られてくるメールも、授業の様子が少し書いてあって、最後に、”早く良くなってく
ださい。みんな待ってます”とかいう決まり文句で締めくくられている。本当に、僕が学校に戻るって思ってくれているん
だろうか? 今はもう、この病室に入ってくるのは、お父さん、お母さん、妹、看護婦さん、それに吉澤先生の5人だけ。
みんな優しくしてくれるけど、やっぱり寂しいよ……。

僕の病気は、治らない。2週間前、吉澤先生からそう言われた。痛いことや苦しいことはないけれど、少しずつ身体が動か
なくなって、少しずつ身体が弱っていって、最後には死んでしまう。今まで何回か手術を受けたり、薬を飲み続けたりして
きたけど、それももう限界だ。先月は、身体を生命維持装置に繋ぐ手術を受けた。もう僕の身体は、自分の力だけでは生き
ていけないほど弱っている。いずれは機械の助けがあっても、命を保てなくなってしまうだろう。昔だったら、このまま死
を待つしかなかった。でも、今は、全身義体化っていう手術を受ければ命だけは助かるらしい。身体を全部機械に置き換え
てしまう手術。お父さんやお母さんは、それを聞いて、僕以上にショックを受けたみたいだった。僕は、身体が機械になる
こと以外は良く分からないけど、もっと大変なことがあるんだろうか。

身体が機械になるって、どういうことだろう。身体が機械になっても、僕は人間として生きていけるんだろうか。吉澤先生
は、少し不便なことがあるかもしれないけど、ちゃんと生活することができるし、学校に通うこともできると言ってくれた。
86名無しさん@ピンキー:2006/09/03(日) 23:42:38 ID:jfIGx/Xc0
学校……。友達は、僕が機械の身体になったって知ったら、なんて思うんだろう。僕は、機械の身体の人なんて見たことが
無い。そう先生に言ったら、元の身体そっくりにできているから、見ただけでは分からないよと答えられた。じゃあ、もし
かしたら、僕の知らないうちに、機械の身体の人に会っているのかもしれない。外見だけでは分からないんだったら、みん
なには内緒にしておけば、何も変わらずに、元通りの生活に戻れるんだろうか。

でも、身体が機械だなんて大事なこと、隠したままにしておくのは、みんなに悪いような気がする。それに、好きな人がで
きた時、黙ったままでいるなんてできないし、第一、いくらそっくりにできていても、一緒に過ごしていれば、変だって思
われることが出てくるだろう。僕を好きになってくれたとしても、機械の身体の僕のことを好きなままでいてもらえるんだ
ろうか。

お父さんやお母さんは、僕がどんな身体になっても、大事な息子に変わりはないと言ってくれた。妹は、よく分からないけ
ど、でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよって言ってくれた。生まれてからずっと一緒に暮らしてきた家族なら、僕が何になっ
ても、変わらずに接してくれる。でも、他の人はどうなんだろうか。

入院してすぐ、退屈な入院生活を紛らわせるために、お父さんがノートPCを買ってくれた。病院のNWにつなぐと、外の
ネットにもアクセスできる。時間はたっぷりあるから、沢山のサイトを覗いてきた。VRっていう作り物の世界の中で、い
ろんな人と会って話ができるネットサービスを試してみたこともある。ずっと入院していると言うと、みんな、大変だねっ
て言ったきり、相手をしてくれなくなる。作り物の世界の中でまで、病人の相手をしたくはないんだろう。だから、何回か、
そういう経験をした後で、アクセスするのをやめてしまった。病人が駄目だったら、機械の身体はどうなんだろう。普通の
人と、ほとんど変わらない機械の身体。それでも、やっぱり相手にしてもらえないんだろうか?
87名無しさん@ピンキー:2006/09/03(日) 23:46:01 ID:jfIGx/Xc0
僕は病院の外に出ることができない。病室に来てくれる人も限られている。僕が機械の身体になったらどう思われるのか確
かめるために、もう一度VRにアクセスしてみるのはどうだろうか。この1週間は、ずっとそんなことを考えていた。初め
からその話題を出したら、前の時のように誰も相手をしてくれないから、話し方をちゃんと考える必要がある。なんとかし
て僕の悩みを話せる人を見つけたい。そうして昨日VRにアクセスして、ジャスミンさんという女性とお話することができ
た。

登録されたプロフィールを見ると、ジャスミンさんは大学生で、家はお金持ちらしい。有名なレストランを経営していて、
星ヶ浦に別荘がある。プロフィールだけを見ると、どう考えてもお嬢様としか思えないけど、実際に話した印象は全然違っ
ていた。どこにでもいるごく普通のお姉さんっていう感じ。僕の話も真面目に聞いてくれるし、お金持ちだとか、家が有名
だとか、そういうことが話の中にも全然出てこない。でも、本当のお嬢様って、そういうものかもしれないなあ。ベトナム
に旅行に行った話も、まるで誰か別の人から聞いた話を、そのまま僕に話しているみたいな感じだった。何度も海外旅行を
していると、見聞きすることに慣れてしまって、そういう風になるんだろうか。なにか不思議な人だった。でも、僕の話を
ちゃんと聞いてくれていることだけは、昨日の感じから確かだと思う。もう少しお話できたら、僕の悩みを切り出すことが
できるだろうか。

〜〜〜

3週間後。ジャスミンさんとは8回会ってお話できた。僕はずっと暇だったけど、ジャスミンさんはあまり時間がないみた
い。だいたい、平日のお昼の1時間くらいと夜遅く。土曜も日曜もずっと外出しているので駄目らしい。夜は僕が寝てしま
うから、お昼の1時間だけが、ジャスミンさんと会える時間ということになる。大学生って、もっと時間が自由になると思
っていたけど、結構忙しいんだなあ。ジャスミンさんみたいな素敵な人だったら、お友達が沢山いて、いろいろとやること
があるんだろう。僕がそう言ったら、ジャスミンさんは、一瞬、言葉に詰まったみたいだった。学校のことはともかく、私
生活に触れるようなことは失礼だっただろうか。
88名無しさん@ピンキー:2006/09/03(日) 23:59:52 ID:jfIGx/Xc0
自分のこともいろいろ話した。でも、今、入院していることは話せないから、家族のことや、入院する前のことに話題が限
られてしまう。あとはテレビとかネットのこととか。ジャスミンさん、テレビの娯楽番組のことはあまり好きじゃないみた
いで、なかなか話題が噛みあわない。その代わり恋愛ドラマの話なんかは、結構興味を持って聞いてくれる。僕はそういう
のはあまり興味ないけど、時間だけはあるから番組を見てその内容をお話しするのは簡単だ。ジャスミンさんの口から、
『新しい愛のカタチ』っていう、全身義体の女性の恋を扱った映画のことが出た時は、本当にびっくりした。確かに、斬新
なテーマで、まだ公開がずっと先なのにかなり話題になっている映画らしいから、ジャスミンさんが知っていても不思議じ
ゃないんだけど。自分の下心が見透かされたみたいで、ドキドキした。

映画のことは、ちょっと話して、ジャスミンさんの方から話題を変えてしまったので、あまり詳しいことは聞けなかった。
でも、ジャスミンさん、機械の身体には偏見がないみたいだった。作り物のお話の中のことじゃなくて、現実に会って話を
している相手が、機械の身体だったとしても、その考えに変わりはないんだろうか。

今度、会えたら聞いてみよう。もう一度、映画のことを話題に出して、それから、告白してみるんだ。知りたい。僕が機械
の身体になるって言ったとき、ジャスミンさんがどんな顔をするのか。どんな言葉が返ってくるのか。そして、映画みたい
に、機械の身体の人を好きになることができるのか……。
89manplus:2006/09/04(月) 01:13:48 ID:mJvarJ3Q0
瞳の年間18勝という、記録が話題の中心となったこの一年のF1のレースの全日程が終了し、その翌日、瞳は、
スーパーF1のドライバーにカテゴリーアップをする準備のために、緊急帰国をしていた。
帰国と同時に、妻川のチームのためにカンダが特別に作った、スーパーF1レースの医療サポートの基地である、
メディカルセンターの処置準備室に瞳は居た。
「瞳、本当にいいのね。」
「何言っているんですか?恵美さん。私は、この手術を受けることも含めて納得したから、
スーパーF1のカテゴリーに参戦することを決意して、恵美さんのチームのドライバーになるための契約書を交わしたんですよ。
後悔なんかありません。」
「でも、手術を受けて、トレーニングをしてからの記者会見で、新しい身体をマスコミに晒すなんて、私ならちょっと嫌だな。」
「何を言っているんですか。恵美さんが最初に私に持ちかけた話なんですよ。何を今さら・・・。
それに、私の憧れの最高峰のグランプリで、最高の車を操れるんだから、楽しみです。」
「そうね。ごめんね。変なこと言って、手術頑張ってね。」
瞳の専属のメディカルスタッフの石坂貴美香が、
「そろそろ、時間です。妻川監督。必ず、速水選手の手術は成功させます。待っていてください。」
「よろしくね。」
妻川が、短く答えると、恵美を乗せたストレッチャーが、処置室に向かって動き出した。
妻川は、そのストレッチャーが処置室に入っていくまでその場で見送った。
「瞳、絶対戻ってきてね。」
妻川は、そう呟いて、控え室に向かって踵を返した。


90manplus:2006/09/04(月) 01:14:26 ID:mJvarJ3Q0
 瞳は、処置室に運ばれるとストレッチャーから、中央の手術用ベッドに移された。
瞳は、あらかじめ手術の準備のために収容されていたメディカルセンターの病室のベッドで、
浣腸と全身弛緩剤の投与を受けているため、身体を動かすことは出来なかったが、
視覚や聴覚などの意識だけはある状態にされていた。
「速水選手。これから、処置を開始します。
今度、目覚める時は、スーパーF1の専用ドライバーとしての身体になっています。
全力を尽くしますので、ゆっくり休んでください。」
石坂の言葉を最後まで聞かずに、外置き型神経コントロールシステムにより支配された瞳の感覚システムが全ての機能を停止した。
瞳の身体は、全身麻酔を受けた状態と同様になったのだ。
「手術を開始します。四肢切断用器具を用意して。
それから、輸血の血液は、最初から、体内循環用フルオロカーボン液を用意して。」
 石坂が、アシスタントに指示を出す。そして、瞳の手術が開始されたのである。
 瞳の感覚を奪うのに使用されたシステムは、麻酔薬を使う従来の方法とは違い、神経に電極を直接繋ぐことにより、
人間の神経を直接コントロールするもので、外部からのコントロールシステムにより、人間の感覚、
意識などをコントロールできるものである。
この新しいシステムを使用して、被術者の身体を自由にコントロールできるようになり、長期間の手術において、
全身の感覚を無くして、意識を奪う一方で、呼吸器官を正常にコントロールし、
脳の機能を正常に保つような状態を作り出すことが出来、麻酔による中毒症状などの危険な症例から、
手術を受ける患者を守ることが出来るようになったのである。その為、長時間に及ぶ、身体の処置が可能になったのである。
瞳は、そのシステムにより、全身を管理されることになったのである。
91manplus:2006/09/04(月) 01:15:21 ID:mJvarJ3Q0
 石坂は、まず、栄養点滴を瞳の身体に刺し、そのつぎに、
人工血液として開発された体内循環用フルオロカーボン液の輸血を開始した。
 この体内循環用フルオロカーボン液は、酸素や栄養分の搬送量が、通常の血液に比べて数倍も高く、
二酸化炭素の吸着率も、非常に高いフルオロカーボン液に本来の人間の臓器から、
白血球や血小板などの血液の成分が作り出されたものが自然に取り入れられ、
通常の人間の血液の数倍の高性能な血液となる究極の人工血液なのである。 
スーパーF1のドライバーのように、長い時間の体力と集中力を必要とするスポーツ選手にとって通常の血液以上の
働きをする体内循環用フルオロカーボン液に体内の血液を置換することは、非常に重要なことなのである。
 手術開始の準備が整うと石坂は、四肢切断用の器具を使い、
瞳のすらりと伸びた足を股間の付け根の部分から一気に切断した。
瞳の下半身は、足がなく、V字型の状態になった。応急の止血をした後、石坂は、瞳の両腕を肩の付け根から、切断し、
足の処置と同様に、止血を施した。
次に、手足の切断面の神経組織を丁寧に情報ケーブル接続用神経組織専用コネクターとの結合処置を行った。
石坂は、アシスタントと一緒に沢山ある切断面から露出した神経にコネクターを根気よく結合させていった。
この作業が終わると、手足の切断面に神経=外部ケーブル接続コネクターを取り付けた生体親和性樹脂でできた
耐火耐熱人工皮膚製の切断面カバーで覆った。
 瞳の体から手足が消え、瞳は、ダルマのような姿になったのである。この瞬間、瞳は自分の力で移動したり、
物を持つような動作ができない体になったのであった。
瞳は、今後、少なくとも、スーパーF1のドライバーでいる限り、自分一人では、何一つできない体にされてしまったのである。
瞳にとっては、身体が痒くても身体をを掻くことも、悲しくてほほを伝う涙を拭くことも、
自分の手で好きなように物を食べることも、もちろん歩いたり、パソコンをキーボードで扱うことさえ、
他人に介助してもらわなくてはいけない人生が始まったのである。
92manplus:2006/09/04(月) 01:24:26 ID:HuRh1AUi0
もちろん、瞳は、そのように自身の体が改良されてしまったことをまだ知らないで意識を失っているのであった。
それでも、瞳は、意識が戻れば、即座にこの事実を受け入れるであろう。なぜならば、
このような身体にされてしまうことを納得して、瞳は手術を受けているからなのだ。
 石坂は、アシスタントに指示をして、毛髪から、下半身の体毛に至るまでのすべての体毛を剃り上げさせた。
その上で、消毒液を瞳の体中に掛けるように指示を出した。瞳の体は手足がない上に、
体毛の全くないツルツルの異様な姿に変わり果ててしまったのである。

 石坂は、指示した処置が終了するのを待って、腹部を切開し、腹部の処置を開始した。
まず、呼吸システムの手術を開始する。
 石坂は、瞳の呼吸システムを外置き型人工心肺システムにバイパスさせた上で、
心臓をロータリーポンプの永久設置型内臓式人工心臓に置き換え、肺の代わりに、
高密度酸素圧縮蓄積型体内据え置き型タンクに置き換え、気管との結合部に大気から、
酸素だけを吸着し圧縮してタンクに送るシステムを取り付け、タンクと人工心臓の間に、
劣化した体内循環用フルオロカーボン液の再生システムを取り付けた。
このシステムは、体内から排出された二酸化炭素を吸着し、タンクの酸素を吸着させて、
体内に送り返すためのシステムである。吸着された二酸化炭素は、気管を通じて体外に放出されるようになっていた。
瞳に与えられたこの高性能の人工ガス交換システムの機能により、瞳は、
高地トレーニングを受けた選手の十数倍のガス交換能力を持つことになる。
 このような精密機器のシステムによる呼吸システムに呼吸システムが置き換えられても、瞳は外見上、
口と鼻を使い呼吸している通常人体と同じように見える生活を維持できるのである。
しかし、実際は、この呼吸システムに肺と心臓による生体呼吸システムを置き換えたことにより、
宇宙空間のような真空状態でも、3時間程度なら生存できるような能力を持つようになったのであった。
93manplus:2006/09/04(月) 01:25:05 ID:HuRh1AUi0
 石坂は、次に瞳の消化器官を胃から大腸に至る箇所を切除し、
胃と腸に変わる養分摂取器官である人工食物消化システムを食道に直結し、
システムと直腸の間に排泄物貯蔵タンクを介して、接続した。このシステムは、通常人体が、胃と小腸、
大腸で行う消化と養分吸収を行う人工器官であり、肝臓も、肝細胞から作られた高性能人工肝臓に代えられ、
このシステムと、生体膵臓、胆嚢、脾臓と共に結合された。
このシステムを取り付けられても、瞳は、口から、今までと変わらずに固形物の食事をとり、水やジュースを飲み、
標準人体と同じように排泄行為を行うことが出来るようになっている。
もちろん、味覚を楽しむことも可能になっているのである。瞳は、サイボーグとなっても、決して、
味覚や排泄という人間の権利を奪われることはないのである。
 消化器官の切除は、養分吸収の効率化を図る目的もあるが、主な目的は、
体内にハードウエアを内蔵するためのスペースを作ことが主な目的なのである。
その目的により、腎臓も高性能で標準人体の二つ分の性能を一つで行うことが出来る人工腎臓に置き換えられ、
空いたスペースには、瞳の体内のデーターを収集したり、瞳が見たり、
聞いたり感じたりしたものをデジタルデーターで蓄積できるコンピューターシステム、
神経組織の伝達速度を上げるためのシステム、瞳の脳の働きをサポートする補助コンピューター、
体の機能を制御するコンピューター、それらのシステムをコントロールするためのシステム、そして、
瞳の体に内蔵された機械や電子機器にエネルギーを送るための水素炉、
瞳のハードウエアに蓄積されたデーターをチームのメインコンピューターに送り、メインコンピューターから、瞳が、
情報を受診するための送受信システムなどのハードウエアが取り付けられたのである。
瞳の体内に取り付けられた水素炉に供給する水素イオン燃料は、消化システムにより作り出されて、
水素炉に供給されるのである。一方、体内で発生した熱を再びエネルギーに変換するシステムも体内に納められた。
このシステムにより、瞳の体内の生体部分と機械部分で発生した熱の55%が処理され、残りの45%は、
皮膚を通して体外に放出されるのである。

94manplus:2006/09/04(月) 01:25:39 ID:HuRh1AUi0
 【技術的捕捉:皮膚での熱放出方法に関しては、人工皮膚を貼り付ける段階で、技術的解説をすることにする。】

 これらの処置を行われた上で、瞳の腹部は縫合された。
瞳のへそは、緊急時にハード部分への動力エネルギーを供給するためのケーブルを接続するソケットと
体内に蓄積されたデーターを直接取得するときに接続するケーブルのコネクターのソケットを取り付けられたのである。
そして、瞳の肛門には、接続用カプラーバルブが付いた閉鎖弁を取り付けられ閉鎖された。
瞳は、これにより、自力での排便が不可能になったのである。瞳が排便するには、このバルブに、
排泄物排出システムのパイプを接続しなくてはならないのである。
この排泄システムを一日一度接続し直腸に浣腸液を注入して刺激することにより、排泄を行うことになるのである。
瞳から排便の自由を奪ったのは、スーパーF1のレースで、ドライバーが長い時間、シートに縛り付けられるため、
急に便意を催した場合に、排便をすることが出来ないので排泄物を消化器官に残さないように、
レース前に排泄処理をしておく必要があることと、レース中にお漏らしをしないようにするためにバルブで、
肛門を閉鎖する必要からなのである。長時間、シートに据え付けられるスーパーF1のドライバーは、排尿については、
スーパーF1のドライバー専用に開発されたおむつにより、レース中の排尿は可能であるが、排便に関しては、
衛生上の問題と、レース中に不快感をドライバーに与えないようにするために、
コントロールする必要があるためなのである。
瞳の下半身で、オリジナルでなくなったのは、肛門だけであり、その他の尿道や性器は、
手をつけずに標準人体のままで残されたのである。
これらの器官が残される理由としては、あくまでも、スーパーF1マシンをドライブする専用ドライバーとしての
人体改造なので、宇宙空間や深海などの過酷な環境での活動を目的としたサイボーグや
人間兵器としてのサイボーグの手術とは違のであり、スーパーF1のドライバーは、
スーパーF1マシンの操縦ユニットとして、スーパーF1マシンに取り付けられていないときは、
人間としての生活を送る必要があるからなのである。

95manplus:2006/09/04(月) 01:34:21 ID:qsxDKF520
 更に石坂は瞳に対する頭部の処置を開始した。石坂は頭部の最初の処置として、耳の処置に入った。
鼓膜をはじめとする聴覚器官が取り除かれ、三半規管も取り除かれた上、デジタル人工聴覚システムと
ジャイロ式の人工三半規管に取り替えられた。
この人工三半規管は、デジタル式で人間本来の三半規管のように酔ったりすることがなく、
繊細な方向性を瞳に情報として与え続けられる物であり、デジタル記録と細かな音まで聞き分けられる人工聴覚とともに
瞳の聴覚神経と接合され、瞳にとっての新しい耳となったのである。 
次に処置を加えられたのは目である。眼球は引き出され、視神経と切り離された。
そして、新たに視神経に取り付けられたのは、高性能ハイビジョン式デジタル人工眼球である。
人間の生体視覚では、時速700qに迫る車を操作するのには、動体視力の限界があるのと、
ドライバーが見た視覚データーをデジタル的に保存もしくは、電送できるようにするために必要な処置なのである。
瞳の眼窩に人工眼球が戻され、瞳には、人工聴覚に続いて新しい視覚が与えられたのである。
開頭され剥き出しになった脳に何カ所にもわたって電極が差し込まれ、補助神経として機能するように、
頭蓋骨づたいに身体に下ろされ、脊髄を伝い、下腹部に取り付けられた補助コンピューターに接続された。
この処置のために再び瞳の胴体は開腹され、処置が終わると、また閉じられた。
長時間開腹された状態よりも、必要最小限度の時間で度々に開腹された方が、体力的負担が少ないためなのである。
もちろん切開した痕は残ってしまうのだが、傷跡に関しては、後から瞳の肌全体に
人工皮膚を貼り付けるので傷跡は見えなくなってしまうため関係がないのだ。
 最後に開頭された頭部が、頭膜を丁寧に戻された上、耐G用の緩衝剤がまかれた上で、頭蓋骨が生体接着剤を使い、
元通りに修復され、頭皮が縫合された。スーパーF1マシンの想像を超える速度での急加速、急減速により発生するGから脳を守るために緩衝剤は必要なのであった。
 次に瞳の喉の部分が切開され、発声に関する神経がバイパス分岐され、ケーブルが、首の中を通され、
こめかみの部分に作られたコネクターソケットにつながれた。
この処置により、首から上の処置が終了した。

96manplus:2006/09/04(月) 01:35:02 ID:qsxDKF520
 石坂は、瞳の体を横向けにして、脊髄の近くに穴を開けて、ケーブルを脊髄に接続した。このケーブルは、
瞳の骨の組織の主成分をカルシウムからもっと硬度があって柔軟性に富んだ物質に形質変換をさせるための
信号電流と薬品を脊髄の造骨組織に供給し、被験者の骨そのものに刺激を与えて形質変換を
促進するためのものであった。
被験者の骨の主成分を、チタンとケプラー繊維を主成分にした強度と柔軟性、そして、
耐熱性の優れた組織に変換していくのである。もしも、瞳に意識があったとしたら、
想像もしえないような苦痛が瞳を襲うような処置なのである。
この処置は、約10時間の時間を要して、被験者である瞳の骨の組織を完全に変えていくのである。
骨の主成分を変えるのは、ものすごいGにより、骨が砕けたり、体内の組織への影響が出ないようにするため、
そして何よりも事故の時の骨折や組織の損傷を防ぐために必要な処置であり、耐熱性に優れている特徴は、
事故の時に救出までの生命維持を目的としているのだ。
 瞳の骨は10時間以上をかけて標準人体の骨とは全く違う成分を持つ人工骨になっていった。
石坂は、この過程を注意深く、処置を行う機械のモニターで観察し続けて、瞳に万が一のことがないように備えていた。
 処置が完了したことを機械のモニターが石坂に知らせると、石坂は、次の作業に取りかかった。
ケプラー樹脂とチタン、セラミックの複合体で、セミトーランスの色をした半透明な親和性素材の人工皮膚を瞳の
体に貼り付けていくことである。
身体親和融着促進接着剤を瞳の体に万遍なく塗布することから作業が始まった。
この身体親和融着促進接着剤は、被験者の皮膚と人工皮膚をただ接合するだけではなく、親和融着といって、
人工皮膚と本来の皮膚が融合し、人工皮膚が本来の皮膚のように、
新陳代謝と再生を繰り返すことができる生体皮膚になってしまうことを促進する薬の機能も備えているのである。
97manplus:2006/09/04(月) 01:35:43 ID:qsxDKF520
また、汗腺以外の感覚などの生体皮膚の機能を人工皮膚に引き継ぐことを促進するような神経組織や
皮膚機能組織の移設促進用の薬剤の機能も兼ね備えられているのである。
この接着剤の塗布により、生体皮膚から引き継げない皮膚の機能の中には、眉毛とまつげと髪の毛以外の毛根もあった。
つまり、人工皮膚を貼り付けられることにより、髪の毛やまつげ、眉毛は再生するが、それ以外の体毛は、
すべて失うことを意味していた。胴体には、毛根が無くなり、ツルツルの作り物のような体になるのであった。
そして、もう一つ、機能を人工皮膚が引き継げないのが汗腺であった。
瞳は、一生、汗をかくことのない身体になったのである。もっとも、汗をかかなくても、瞳の新しい皮膚は、
体内で発生する熱を外部に熱交換する機能がものすごく高性能な形で、備えられているために、
汗をかくという皮膚の機能は必要なくなっているのである。
人工皮膚の色に関しては、生体皮膚の色合いを忠実に再現することができ、
被験者本人専用の完全なオーダーメイドなのである。
この人工皮膚は、体熱、耐衝撃性、耐圧能力があると同時に、体内の余剰の熱を吸収し、
被験者の皮膚温度を忠実に再現できるようになっていた。
それでも余剰になった熱は、この人工皮膚が、放熱システムの役割を果たして、体外に放出されるようになっていた。
人工皮膚がいかにも作り物のように皮膚温度が極端に低くなって、
被験者がサイボーグになったことによるコンプレックスを軽減する目的があったのである。
 石坂は、瞳の体に丁寧に人工皮膚を貼り付けていった。その色は、瞳の色白の皮膚の色を忠実に再現していて、
見ている者には、瞳が、瞳自身をかたどった着ぐるみを着させられているような錯覚に陥るほどであった。
最後に石坂は、瞳の頭皮と目の部分に発毛促進剤を塗って処置は完了した。 
発毛促進剤の働きにより、瞳の髪の毛は、10日ほどで元通りになるはずであった。
男性のスーパーF1ドライバーの髪の毛の再生は、もっと遙かに短い期間で完了するが、女性ドライバーの場合は、
元の髪の毛の長さが長いことと、髪の毛が美貌の価値観にとって重要な要素となるために、慎重に再生されるのである。
98manplus:2006/09/04(月) 01:45:44 ID:n7rtaqKq0
スーパーF1のドライバーにとって、この人工皮膚に包まれるということは、事故の時の安全を意味していた。
水素イオンエンジンの事故での最悪の事態がないような十二分な安全対策がとられているとはいえ、
もし万が一の時の爆発や補助エンジンの燃料漏れからくる火災や、ギヤボックスや電子機器の火災、
オーバーヒートによる水蒸気爆発などの不測の事態の時に、ドライバーは救出されるまでの間、
マシンの中で耐えなくてはならない。
もちろん、宇宙服を思わせるような耐火、耐衝撃性に優れたレーシングスーツを着せられるのだが、その安全性と、
人工皮膚による安全性の二重の安全性により、ドライバーの生命が維持されるのである。
スーパーF1グランプリでは、ドライバーを人体改造するということは、スーパーF1マシンの制御装置にドライバーを
するとともに、万一の安全性をドライバーに与える意味を持っているのだ。
99manplus:2006/09/04(月) 01:46:21 ID:n7rtaqKq0
 石坂は、瞳に対する最後の仕上げの処置として、後頭部に一カ所、背中の肩胛骨のすぐ下に二カ所、
腹部のへその両脇に二カ所、胸部に一カ所の点検口を作成した。
この点検口は、人工皮膚の素材を利用したパッキンで完全に覆われるため、
点検口がどこにあるのかは完全にわからないようになっていた。
点検口の下のあばら骨や頭蓋骨も、すぐに呼吸システムや脳と接続ケーブルなどをいじれるように可動式に
作り替えられた箇所もあった。
スーパーF1のドライバーの体内を点検しやすいように点検口を開けておくのは、彼らが、
レースごとに神経伝達速度や神経感度を調節したり、視覚や聴覚を調整したり、
事故の時の体内の生命維持システムの点検をしやすいようにするためなのである。
しかしながら、ピットでマシンと一緒に点検口を開けられて、神経組織や補助コンピューターや頭部をメカニックに
調整されている姿は、もう完全に人間ではなく、スーパーF1マシンの制御ユニットという印象を強く与えるものであった。
まさに、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーが作られているのである。
 石坂の瞳に対する処置、つまり、瞳をスーパーF1マシンの専用ドライバーという、
スーパーF1マシン操縦用の特殊用途サイボーグへの改造手術は完了し、瞳は、
スーパーF1マシンを走らせるためのサイボーグドライバーとして人生を送ることになったのである。
100manplus:2006/09/04(月) 01:50:49 ID:Db8v1EZZ0
こんばんは。
今日は瞳が、スーパーF1の競技に出るための特別な身体に
改造される手術のシーンをまとめて投稿します。

お約束の四肢切断が入っています。
1013の444:2006/09/04(月) 17:13:12 ID:ZjpDur4L0
>>85
85さんって前スレの439さん?
蛇足かもしれませんが、こんなオチはどうですか?

「うー、タマちゃん。これでよかったのかなあ」
私は不安げにベットの傍らにいる小さなケアサポーターさんを見上げた。
「ありがとう。八木橋さん。よくやってくれました」
タマちゃんは、そう言ってにっこり微笑んだ。

義体化手術前の男の子をVRで励ましてやって欲しいってタマちゃんに頼まれたのがことのはじまりだ。
私の役割は、ごくフツーの生身の女子大生のお姉さん役。偶然を装って、男の子に近づいて、
男の子の心を掴んで男の子から手術の告白を受ける。そして、自然な形で男の子を励まし、
勇気づけること。それが私に与えられた役割だった。
コトは、タマちゃんの筋書きどおりにすいすいコトは運び、私は男の子から、実は義体化手術を
受けるっていう告白を受け、男の子を励まし、勇気付けた。いくら身体が機械になったとしても、
心までは変わらない。あなたは決して機械なんかじゃなくて、れっきとしたニンゲンなんだって。
少なくとも私はそう思うよって。
あの子は泣いていた。ううん、VRだから涙が流れているかどうかまでは分からない。でも多分、
泣いていたと思う。そして、ジャスミンさん、ありがとう。僕、頑張るからって言ってくれた。

ごめんね。ホントは私も君と同じ機械の身体なんだ。それでね、この身体で生きていくってこと
はね、あの時私が言ったことなんかより、ずーっと厳しいことなんだ。私、嘘ついたんだ。ごめんね。
でも、本当につらくてくじけそうな時はさ、「フツーのニンゲン」でもジャスミンお姉さんみたいな
考え方の人もいるんだって思い出して、勇気を振り絞って生きて欲しいな。私は、ううん、君の
ジャスミンお姉さんは、いつだって君の相談に乗ってあげるからね。
だから、
「頑張れ!」
府南病院前の電停で思わず口をついて言葉が飛び出してしまう。それで、電車待ちの人の
注目を一身に浴びてしまう私。ちょっと、いや、かなり恥ずかしい。
ようやく来た電車の階段にかけながら後ろを振り返る。そして、病室の義体科の男の子の
部屋の窓を見つめて、もう一度、今度は心の中で繰り返す。
(頑張れ!)
102前スレ439:2006/09/04(月) 17:49:42 ID:T4odkdFs0
すいません、前スレ439です。>>85さんとは別人です。

前スレの>>439から、突然3の444さん?とのリレー小説が始まったので、うれしいやらあわてるやらで大変でした(汗
#なにせ会社で書いt・・・・ゲフゲフン

俺の中では【この続きは製品版で!w】のところで話が終わってたもので、ぶった切った終わり方ですいませんorz
そのあとなんとか1レスだけはつなげたんですが・・・

あのキャラは、
「ヤギーと同じような境遇(家族が無事な分軽いですが)から立ち直って、今はサイボーグであることを前向きにとらえている大人の男性」
をイメージして書きました。
流れのままに、即興劇のノリででっち上げていったので、やや矛盾もありますが・・・(滝汗

でもたぶん、彼の想いは片思いに終わります。
藤原君に一発パンチ入れて、
「彼女を泣かせるんじゃねえぞ・・・じゃな」
とかいって去っていくんでしょうねw


>>85さんの一連の流れでは、年齢を引き下げて書かれてますね。これはこれでいい感じです〜


では、コケシのアタマをつける作業に戻りますw
103名無しさん@ピンキー:2006/09/04(月) 23:19:32 ID:bZh4q1l60
いろんなストーリーがごっちゃになって、
頭の中では「ヤギーが冥王星でF1ドライバー」になってる…
104名無しさん@ピンキー:2006/09/04(月) 23:54:15 ID:5iuZJZj80
>>103
まとめサイトでは決して味わえない生ならではの感動…w
105pinksaturn:2006/09/05(火) 00:40:40 ID:0QmfPFqS0
>>91 いつもやっている、手慣れた手術という感じでさくっと切っちゃいましたね。
>>94 尿道、性器ありでダルマという状態は訓練途上のような期限付きでなく、10年以上続くとなるときつそうですね。
おむつの性能が命綱ですかね。
介護場面やレース中の調整、レースの表彰台場面がどうなるのか楽しみです。
>>103 ヤギーの分身だけでもなかなか追いきれなくなってきましたね。
106名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 00:56:13 ID:W8mPsoV00
>>85 僕視点で続けてみる。だがオチはない。5レス消費。
>>101 素晴らしい内容なので一部流用させていただいた。

ついに、告白した。あらかじめ考えていた通り、テレビの恋愛ドラマのことから映画に話題を移して、強引に義体のことに
繋げていった。映画の話題になったところから、ジャスミンさんが、嫌がっているのがはっきり感じられたけど、気づかな
いふりをして一方的に話を進めていった。こんなことをしたら、ジャスミンさんに嫌われてしまうかもしれない。でも、僕
はどうしてもジャスミンさんの答えを知りたかった。機械の身体に偏見を持っていないように思えたジャスミンさんが、お
話の世界ではなくて、現実の世界でもそう思ってくれるかどうかを。

病気でずっと入院していて、近いうちに機械の身体になる手術を受ける。僕の言葉を聞いた瞬間、ジャスミンさんの身体が
固まってしまった。僕のへたくそな説明でも、ジャスミンさんは、ぼくの身体が脳以外全部機械になってしまうことを、き
ちんと理解してくれたようだった。映画のことがあるにしても、普通の人が「全身義体化」なんていうことを、聞いてすぐ
に分かってくれるなんて思っていなかった。だから、ジャスミンさんの反応は、僕にとっては全くの予想外だった。

僕は、おそるおそる、機械の身体になっても今までと同じように付き合ってもらえるのか、映画のように好きになったりす
ることができるのか聞いてみた。ジャスミンさんは、固まったまま、僕の顔を見つめている。僕の言葉が届いているのかど
うかも分からない。一体、どうしちゃったんだろう。無言で僕を見つめるジャスミンさんの視線に耐えられなくなって、僕
は顔を背けてしまった。否定の言葉が返ってくるのだろうか。やっぱり、お話と現実は違うのだろうか。それにしたって、
どうしてこんなに怖い顔をして僕を見つめているんだろう。もしかして……。
107名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 00:58:30 ID:W8mPsoV00
ジャスミンさんの身近な人に、機械の身体の人がいるんだろうか。その人のことで悲しいことや辛いことがあって、僕がそ
れを思い出させてしまったんだろうか。映画に関しては、苦難の末にハッピーエンドを迎えるというストーリーが話題を呼
んでいるけれど、義体に関することは実はあまり触れられていない。だから、ジャスミンさんが、義体に関してこんなに詳
しいのは、映画以外のことで知ったからなのかもしれない。例えば家族や恋人が機械の身体だったとしたら……。僕は、も
しかして、とんでもないことを聞いてしまったんだろうか?

変なことを聞いてしまってごめんなさい。そう謝って、話題を変えようとした時、ジャスミンさんが口を開いた。僕の目を
まっすぐ見つめたままこう言った。”今すぐには答えられない。日曜日まで待ってもらえないか”と。やっぱり、聞いちゃ
いけないことだったんだろうか。今まで何回か話した印象では、ジャスミンさんは嘘をつかない人だと思っている。答えた
ら僕を傷つける。でも、こんな大事なことで嘘をつくわけにはいかない。そんなことを考えているんだろうか。

とてもそのまま話を続ける雰囲気ではなく、また会いましょうの言葉とともに接続が切れてしまった。

〜〜〜

結局、僕はジャスミンさんの答えを聞けなかった。ジャスミンさんのせいではない。金曜の夜、僕の容態が急に悪化して、
集中治療室に移されてしまったからだ。朦朧とした意識の中で、普段は温和な吉澤先生の顔が、厳しく引き締まっているの
を見たような気がする。ベッドの脇でお父さんとお母さんが泣いていたように思う。3日間、僕の意識は戻らなかった。い
わゆる、生死の境を彷徨うという状態だったらしい。その状態で、約束の日曜日が過ぎてしまっていた。目が覚めた時に見
た吉澤先生の顔は、相変わらず厳しかったけれど、おぼろげな記憶に残っているあの夜に比べれば少しだけ緩んでいるよう
な気がした。お父さん、お母さんも、沈んだ顔ではあっても、もう泣いてはいなかった。
108名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 01:01:09 ID:W8mPsoV00
容態を気遣いながら、吉澤先生が身体の状態を説明してくれた。僕の身体は限界にきてしまった。生命維持装置の力を借り
ても、もう命を保つことができなくなった。今日明日にでも、機械の身体に移らなくてはならないという。お父さんもお母
さんも、僕の身体を機械にすることに同意した。後は僕が決心するだけだった。

こんな状態でVRにアクセスすることなんてできるはずがない。ジャスミンさんの答えを聞くことはできない。僕が自分で
考えて、自分で決めなければならない。少し考えて、答えを1日だけ待ってもらうことにした。吉澤先生は、あまりいい顔
をしなかった。容態がいつ変わるか分からないのだろう。でも、すぐに答えられるものでもないだろうと了承してくれた。

機械の身体を拒むという選択肢はあるだろうか。どんなに長くても、あとせいぜい1ヶ月。この集中治療室から出ることな
く死んでいくことなんてできるだろうか。答えは初めから決まっている。機械の身体になって、どんなに辛いことや苦しい
ことが待っているとしても、生きていくことを選ぶしかない。ただ、あと少しだけ、この身体に名残を惜しむ時間が欲しか
った。ジャスミンさんの答えを聞くことができていたら、どんな気持ちでこの時を迎えていただろうか。

〜〜〜

義体化手術の後は普通の病室に移されたけど、標準義体の姿でジャスミンさんに会うわけにはいかなかった。全然違う顔、
全然違う声。お父さんやお母さんでさえ、それを僕として受け入れることはできなかったようだった。僕の顔を見ても、ど
こか他人の顔を見ているような印象がした。この後、元の身体そっくりの義体に入ったとしても、この印象が消えないので
はないかという恐怖感を拭い去ることができなかった。
109名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 01:14:51 ID:W8mPsoV00
VRは対面で会話ができるのが売りのサービスだ。でも素顔で相対するわけではない。PCに繋いだカメラが撮っている顔
の映像をコンピューターがリアルタイムに処理をして全く別な顔にして相手のモニターに映し出す。汗をかいたり、涙を流
したり、顔を赤らめるような細かい部分は再現できないけれど、喜怒哀楽の感情は元の顔以上に豊かに表現してくれる。声
の方も同様にマイクが拾った音声を加工するようになっている。こちら側にいる僕自身の外見が全く別人になってしまった
ら、相手側のモニターにも、それに応じた映像が映ることになる。IDが同じだとしても、ジャスミンさんが、標準義体の
僕を僕と認めてくれるはずがない。だからVRにアクセスするのは、元の身体そっくりの義体ができるまで待たなければな
らなかった。

やっとVRにアクセスした時は、もうそこにジャスミンさんはいなかった。会えないんじゃない。登録情報が消えていた。
ジャスミンさんはVRから去ってしまった後だった。僕のせいだろうか? 僕が変なことを言ったあげく、約束を破ったか
らだろうか? 忙しいジャスミンさんのことだから、VRをやる時間がなくなったり、VRに飽きてもっと面白いことを始
めたと思う方が自然だろう。僕のせいだなんて、思い上がりもいいところだ。でも、僕は、最後に別れた時のジャスミンさ
んの顔が忘れられなかった。あんなに真剣な顔をしたジャスミンさんを、それまで見たことがなかった。ジャスミンさんは、
どんな答えを用意していたのだろう。

がっかりして接続を切ろうとした時に、メールが1通届いていることに気がついた。VRの中でだけ使える専用のメールボッ
クスに、だ。僕のVRのメールアドレスは公開していない。知っているのはジャスミンさんだけだ。震える手で、メールを
開く。本文には、1行だけ書かれていた。
110名無しさん@ピンキー:2006/09/05(火) 01:16:10 ID:W8mPsoV00
頑張れ!

ジャスミンさんの元気な声が聞こえてくるような気がする。やっぱり、ジャスミンさんは機械の身体で生きていく辛さや苦
しさを知っていたのだろうか? そして、機械の身体になってしまう僕を励ましてくれたのだろうか? ジャスミンさんの
言葉は、いつもまっすぐだった。だから、これは言葉通りの意味なんだ。ジャスミンさんの心からのメッセージ。これから
先、辛いことや苦しいことがあったとしても、きっとこの言葉が支えてくれるだろう。

ありがとう。本当にありがとう。あなたのことは忘れません。

感謝の気持ちとともにメールを閉じる。久しぶりの笑顔が僕の顔に戻っていた。
111名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 00:28:57 ID:jpAEFqzt0
>>85 ヤギー視点を試してみよう。2レス消費。さわりだけ。

VRって知ってるかなあ。作り物の世界の中でいろいろな人とおしゃべりできるというネット上のサービスだよ。そんなの、
いくらでもあるだろうって? ふふん。それがちょっと違うんだなあ。モニターの画面の上で相手の顔を見ながらおしゃべ
りできるんだよ! でも、その顔は素顔じゃない。カメラが撮っている映像をなんたらモーフィングっていう技術で加工し
て全然違う顔に変えちゃうんだ。うーん、全然違うというわけでもないか。元の顔の印象がまったく残らないわけじゃない
からね。でも、実際に素顔の本人に会っても、すぐには分からない程度には違うんだ。できあがる顔にはいくつかのパター
ンがあって、その中から好きなものを選べるけど、部品を合成して作るわけじゃないから、同じ顔は二つとない。しかも、
ほんのちょっと素顔よりも美男美女にしてくれる。本人の喜怒哀楽の表情は、全部そのまま相手のモニター上に映された顔
に反映される。現実の世界と同じように笑ったり泣いたり怒ったり。そういう形でモニターに表示される相手と、自由にお
しゃべりできるんだ。真剣な議論でも、趣味の話でも、もちろん恋を語ることだって。どう、すごいでしょ? まあ、これ
はみんなパンフレットの受け売りなんだけどさ。

このVR、大学生協の掲示板でも、結構話題になっている。最初の5日間は無料のお試し期間という設定で、それで始めて、
もうどっぷり浸りきっちゃっている人もいるらしい。大学の方も困っているって聞いたけど、楽しいものはしょうがないよ
ね。もちろん、ゼンゼン興味がないって人も多い。佐倉井やジャスミンなんかは、そのクチだ。そりゃあ、ジャスミンみた
いに男の子にもてもてで、何をやってもうまくいく子はそう思うんだろうね。こんな作り物の世界になんか用はないだろう。
でもさ。私みたいに、どこにでもいるフツーの女の子には結構魅力的に思えるんだよ。女の子10人に会ったら、半分くら
いの子はすぐに思い出せるでしょ? でも、どうしても思い出せない印象の薄い子が1人くらいはいるもんだ。私は、いっ
つもその1人っていうことになっちゃうんだよ。
112名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 00:33:15 ID:jpAEFqzt0
現実の世界では、私の存在なんてそんなもん。じゃあ、VRの中だったらどうだろう? ジャスミンみたいに、家はお金持
ちで有名なレストランを経営していて、星ヶ浦に別荘だって持っている。美人で頭が良くてスポーツ万能。カラオケが下手
なのもご愛嬌。どう? こんな自己紹介を見たら誰だって声をかけてみたくなるじゃないか! 顔だって地味なだけで元は
そんなに悪くないんだ。一番見栄えがする顔を選べば、これでもちょっとしたものなんだよ。

ジャスミンはVRにゼンゼン興味ないと言っていた。ちょっと悪いかなって思ったけど名前を使わせてもらうことにした。
登録名が八木橋裕子とかヤギーとかじゃあ、どうしても地がでてしまいそうだし、ジャスミンさんって呼ばれれば、それだ
け演技しやすくなる。そう、演技。これは作り物の世界の中で作り物の私が演じる恋愛劇。それのどこが悪いのさ。現実の
世界でも作り物の身体の私は、恋愛なんてうまくいったためしがない。だったらいっそのこと全部作り物だとしても、それ
で楽しい思いができるんだったら、現実なんかよりよっぽどいいよ!

自己紹介の効果は絶大だった。お試し期間が終わる頃には十人以上の男の子達から声をかけられていた。これならい
ける! 確実な手ごたえを感じた私が、お試し期間の終了時に表示された有料サービスの申し込み画面のOKボタンを押し
たのは、当然のなりゆきっていうもんだ。

さあ。これからかっこいい男の子達と素敵な恋をいっぱいするんだ! 楽しみだなあ。
113名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 00:42:50 ID:DbuBQBmN0
NHKへようこそ(´・ω・`) >ヤギー




※NHK ―日本放置協会― は放置される側の団体です。
114名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 12:46:56 ID:cinxWsIG0
―アジア圏の均衡は、ついに崩れた。
否応なく戦火に巻き込まれていく日本。

・・・そして、ついに日本を舞台に、戦争が勃発する。

急速に拡大する戦線。政府は一つの決断を下す。
―すべての義体所有者の強制徴兵。
義体のメンテナンスは政府所管となり、政府に従って軍に入隊する以外、彼ら
義体所有者の生きる道は閉ざされる。

そして、八木橋裕子もまた、その犠牲の1人であった・・・・・


アナザーストーリー「戦場のヤギー」
近日公かiうわなにをする冗談だってやめ亜qwsでfrtgyふじこpl;@:「」
115名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 17:42:22 ID:IzwNApjN0
八木橋裕子:「ごめんね。藤原。会ったら別れるのがつらくなるからさ。
だから私、黙っていくことにするよ。本当にごめんね」

西田茜:「空に綺麗な花火がたくさんあがりました。ぎゃはっ!」
自衛隊員:「アッカ隊長、やりすぎではありませんか」
西田茜:「なんもなんも。戦争なんて勝ったほうが正義だっけさ」

深町香織:「戦争?球を使った人の死なない戦争なら興味あるけどね」

藤原修治:「裕子さん、どうしてこんなところに!」
八木橋裕子:「あ、あの…」
自衛隊員:「藤原。貴様、上官に向ってどんな口の聞き方をしておるのだ」

「戦場のヤギー」  近 日 公 開

なんちゃって。
116名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 20:37:38 ID:jpAEFqzt0
>>114 >>115 妄想した。こういう状況でヤギー語を使うのは難しい。2レス消費。

【!!警告!!】右肩モーター内部温度92度 − 緊急冷却 【承認】【否認】

義眼ディスプレイの片隅で、警告メッセージが瞬いている。舌打ちをして、承認の文字にカーソルを合わせ
て、ボタンを押す動作をイメージする。

【承認】冷却開始:180秒……179秒……

昔は、手も足も動かさずに、頭の中で考えるだけっていうサポートコンピューターの操作は苦手だった。一
般生活限定の義体操縦免許でさえ、取れるまでさんざん苦労したっけなあ。でも今は、身体の動きを一瞬も
止めることなく、こんな操作をすることができるんだ。慣れというのは恐ろしいよね。まあ、命がかかって
いるんだから当然か。

これで右腕はクールダウンが終わるまで使えない。残った左腕だけで、4体の敵の相手を続けなくちゃなら
なくなった。はっきり言って分が悪すぎる。かといって、このまま無理に右腕を使い続ければ、モーターが
過熱して壊れてしまう。そうなったら、即ゲームオーバーだ。修理のために基地に戻らなきゃならなくなる。
この地区にいる1級義体化兵は私だけ。もしも、私が脱落したら戦力が80%はダウンする。残りの一般兵
だけでは、この状況を持ちこたえるのは難しい。傷だらけの身体でも、だましだまし使い続けるしかないん
だよ。

こんな戦いを始めて、もう半年になるだろうか。印刷すれば、たった1枚の紙切れに収まる法律で、私達全
身義体障害者は戦闘兵器として国に徴収されてしまった。私もそうやって徴収された中の一人だ。正確に言
えば、徴収されたのは、義体の方。国の所有物なのは機械の身体だけで、私は非戦闘員のはずなんだ。理屈
だけで言えば、だよ。
117名無しさん@ピンキー:2006/09/06(水) 20:41:04 ID:jpAEFqzt0
義体化1級の私の物といえば、脳みそだけ。生きていくためには作り物の機械の身体が必要だ。それを取り
上げられてしまったら、後に残るのは干からびたタンパク質の塊だけっていうことになる。だから、私は否
応なく、私の作り物の身体と行動を伴にするしかない。たとえそれが戦場だったとしてもね。今の私は全部
のリミッターを外された、文字通りの鋼鉄の化け物だ。おもーい大砲だって軽々と運べるし、バッテリーの
電気がある限り何時間戦ったって、疲れるってことがない。一般兵達は頼りにしてくれるけど、陰では機械
女とか人形とか蔑みの目で見ているのは、ちゃーんと知ってるよ。ホント、人間って身勝手だよね。

ああ、藤原は今頃どうしているだろう。こんな時こそ、この機械の身体が役に立つっていうのにさ。配属さ
れた部隊も別々だし、戦場で顔を会わせることなんて、よほどの奇跡がない限りありえない。私にできるの
は、せいぜい空を仰いで藤原の無事を祈ることぐらいしかない。なんて役立たずなんだろうね。はは。

……痛いっ!

考え事をしていた一瞬の隙を突いて、敵の2体が肉薄して来ていた。7.62mmの機銃弾がわき腹の人工皮膚を
剥ぎ取っていく。モーターのクールダウンは15秒前に終わっている。バッテリーの残量をかき集めて全力
で反撃をしなくては。こんなところで死ぬもんか! もう一度藤原の顔を見るまでは……。

八木橋裕子 23歳。1級義体化兵としての戦いは、まだ終わらない。
118pinksaturn:2006/09/06(水) 23:24:39 ID:BwMBZNWR0
>>115 古堅部長は開発技術者の特権で徴兵を免れたのかな?。
1193の444:2006/09/07(木) 02:44:53 ID:b6cCcWmJ0
うーむ。なんとなく114さんにのせられて115を書いては見たものの・・・
私には116さんのような戦場の緊迫感みたいなものは書けそうにないなあ。

はじめ、私はただの役立たずでした。仮想空間でみっちりトレーニングを受けたとはいえやっぱり
現実の戦場はまるで勝手が違ったんです。戦場はゲームなんかじゃなくって、人と人が命のやり
取りをする場所なんです。出力リミッターを外した強靭な身体や、射撃プログラムで制御された
正確無比な銃の腕前。それらを駆使すればホントは人の命を奪うなんてカンタン。でも、
敵にも家族がいて、恋人がいて、本人にも夢があって、なんて思ったら、殺せるはずない。
こんな私を戦場に連れてくるほうが悪い。そう思っていました。今思えばとんだ甘い考えです。
でも、そんなことを考えていたら、私所属する部隊の人たちが15人死にました。
さわきさん、しらいわさん、うすいさん、きたじまさん、なかにしさん・・・
今でも名前も顔も全部思い出せます。別にサポートコンピューターにデータとして記録している
ものを呼び出しているわけじゃありません。そんなことしなくたって、一人一人の顔ははっきり
頭に焼きついています。
全部私のせいです。私が臆病者の甘ちゃんだったからです。ホントはこの人たちの誰よりも
強い身体を与えられているのに無様に逃げ回っていたから、死ななくていい命が奪われました。
あなたにとって、大事なのは誰ですか?目の前で銃を自分に向けている敵ですか?
それともともに銃を手にとって戦っている仲間ですか?敵にももちろんかけがえのない家族や
友達、恋人はいるでしょう。でもそれは味方にとっても同じことです。あなたがたが守るべきなのは
どっちですか?
以上、私が言いたいのはそれだけ。

八木橋二尉の新隊員訓示、終わり。
義体化一級部隊、一堂、敬礼!
1203の444:2006/09/07(木) 02:58:07 ID:b6cCcWmJ0
>>115
一応サイボーグ娘がテーマなんで古堅さんにはご遠慮いただきました。
ま、古堅さんのような技術者は実際に前線には出さないでしょうね。
で、徴兵が嫌で逃げ出したヤギーのメンテナンスを、ヤギーをかくまい
ながらこっそり行っているのです。でも、それがばれてしまって・・・
などと妄想。

戦争ものアナザーストーリーの妄想は実に面白そうですが、実際に文の形に
するには私には明らかにそっち系の知識とか描写力が不足しているので、
きっと読んだらげんなりするでしょう。もしやっていただけるのであれば
114さんとか116さんとか得意そうな方におまかせしてしてしまいます。
私は早く学園祭の続きを書かかなければ・・・。
121名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 10:54:46 ID:Ov1xdQPe0
大戦末期。
満天の星空の下。廃墟になったビルの屋上にて。

「もう、ここも駄目かもしれませんね」
「そ、そんなことないよう。近いうちに増援も来ることになってるじゃないか。それまでなんとしても
もちこたえなきゃ」
「増援なんてくるわけないじゃないですか。下っ端の僕にだってそんなことくらい分かりますよ。
弾薬は尽きる寸前。二尉の義体メンテナンスだってロクにできずに、もう左手は動かないんでしょ」
「あきらめてるの?」
「あきらめてるってことじゃないです。覚悟は決めましたってことです。大して変わりはないかも
しれませんが」
「…」
「八木橋二尉は恋人とかいたんですか?」
「ずいぶん昔の話をするんだね。もう…忘れちゃったよ」
「そうですか。僕は好きな子はいたんですけど勇気がなくて告白できませんでした。今思えば
しておけばよかったなあ。心残りはそのくらいですよ。父も母もとうに死んでますし、兄弟もいませんし」
「…そう」
「みんなには童貞じゃないなんて言って強がってましたけど、実は僕まだ童貞なんですよ。あーあ、
一度くらいやりたかったなあ。その子は汐音ちゃんって言うんですよ。目の大きな可愛い子でした。
今頃どうしてるんだろうなあ」
「…あのね。…私と、そのう、えっち、してみる?したことないんでしょ。してみたいんでしょ」
「え?二尉と?!」
「そんなに驚かないでよ。そりゃあ本当の人間の身体じゃないけどさ。一応ベースは一般生活用
だから、そっちの機能もちゃんとついてるよ。たぶん普通の女の子と変わらないよ」
122名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 10:55:39 ID:Ov1xdQPe0
「あ…えと」
「もちろん、あなたが好きなのは汐音ちゃんでしょ。そんなこと分かってる。私を汐音ちゃんだと
思えばいいんだ。汐音ちゃんの身体とはゼンゼン違ってて申し訳ないけど」
「はあ」
「あ、嫌ならいいんだよう。別に無理強いしてるわけじゃないからさ」
「いや、その、ものすごく嬉しいです。でも、申し訳ないです」
「申し訳ないのはお互い様。あんたが私を汐音ちゃんだって思うのと同じように、私だってさ…」
「私だって…、なんですか。よく聞えませんでした」
「ううん、なんでもない。なんでもないんだ」
「二尉っ!ふ、服を脱ぐのはいいとして、どうして眼鏡なんてかけるんですか。しかもそんな
古くてぼろぼろの」
「眼鏡なんて義体の私には必要ないって?でも、人間の私にはこれが必要なんだ。ごめんね。
ごめんね藤原…」
「藤原?藤原って誰ですか?」
「藤原、ねえ、 早く来てよ。 どうしたの」
「……。し、汐音ちゃん。すーっと好きでした。愛してました」
「ふふふ。藤原。今日は、 私がリードしてあげる。 でも今日だけだからね。 私だって恥ずかしいん
だから、 ちゃんと覚えてね…おっぱい触ってよう。 やさしくだよ」
「汐音ちゃん、汐音ちゃん」

ごめんなさい。藤原。
私、今でもあなたのこと、大好きだよ。
だけど、ごめんなさい。私のこと、許してください。
123144:2006/09/07(木) 17:24:50 ID:5wDtGu120
うわわわわ、思いつきで振ったネタがすごいことに・・・・・・

3の444さんとヤギーに「ごめんなさい」を。
そして全てのSS職人に「GJ」を。
124名無しさん@ピンキー:2006/09/07(木) 21:26:55 ID:86sCSvFi0
>>122
これって「就職活動」で初めて藤原とエッチした時のセリフじゃないですか!
切な過ぎて胸が潰れそうですよ……orz
125名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 02:09:56 ID:i2x56ial0
>>122 無理やり続ける。陳腐だろうがドリームだろうがかまうものか。

「……二尉、本当にいいんですか?」
「いいって言ってるじゃないか。早くきてよう」

暖かい手が優しく私の腰に回される。藤原、ごめんね。

キュンッ! グォォォォ ドン! ドン! ズズーーン……

突然の轟音とともにビル全体が激しく揺れる。頭上を何か巨大な物が通過する気配がしたと思ったとたん、衝撃波が私達に
襲いかかる。

「二尉!」
「つかまって!」

こんな時は120kgもある機械の身体はありがたい。屋上から吹き飛ばされないよう互いの身体をしっかりと抱きしめ合う。
漆黒の巨体と敵の航空兵器とが繰り広げる戦闘の鮮やかな閃光で、二人の影がビルの屋上をあちらこちらと踊り狂う。

「二尉、あれ、噂の決戦兵器じゃ……」

決戦兵器。ぎりぎりまで追い詰められた戦況を一気に逆転すべく密かに開発が進められているという汎用人型戦闘機。航空
機とロボット技術と、そして……義体化したニンゲンの脳を組み合わせた究極の殺戮破壊兵器。いかにも負け戦を仕掛けた
政府のお偉方が考えそうなくっだらない代物だ。何機か試作機が実戦に投入されてるって聞いてたけど……。

義眼ディスプレイ一杯に、レベル3機密チャンネルにコンタクトがあることを示す割り込みメッセージが瞬いている。大隊
司令部との通信は3日前に途絶えたまま。一体誰が……。

何重にも暗号化された通信チャンネルでさえ、もうテキストメッセージしか送れない。サポートコンピューターが暗号を解
読するわずかな時間が待ち遠しい。
126名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 02:12:27 ID:i2x56ial0
「オネエチャン、ダイジョウブ? アイエフエフキッテルカラ、サガスノクロウシタッケサ」

これは……茜ちゃんだ!

「アカネチャン、ドウシテココニ?」
「チョットヨリミチシタンダヨ。オタノシミノサイチュウ、オジャマダッタカナ?」
「ソ、ソンナコトナイヨウ!」
「ギャハ! ウワキシタコトハダマッテテアゲルカラ、アトハウマクヤルンダヨ」
「エ、エ? イッタイなに言ってるのさ……

メッセージを組み立てている途中で、コンタクトが切れたことを示すサインが浮き上がる。見上げると、既に戦闘は終わっ
たのか夜空は静けさを取り戻していた。あの中に茜ちゃんがいたんだ。何てことを……。

「二尉! あれを! 味方ですっ!!」

叫び声を聞いて慌てて下界を見下ろすと、あたり一面は火の海だった。爆撃と砲弾を浴びて崩壊したビルの群れが瓦礫の山
を築いている。凄い……。これじゃあ、敵の地上部隊は全滅だろう。今ならここを脱出できるかも。その火の海の中を、黒
い影がこちらに向かって突進してくる。あれは……永24式巡航戦車だ。折れ曲がった砲身やへこみだらけの装甲板が、そ
れがくぐり抜けてきた戦闘の激しさを物語っている。全速力でこのビル目掛けて走ってきたそれは、速度を落としきれずに
ビルの壁面に激突してようやく停止する。

「おーーい、こっちだあぁーー」

ハッチを開けてこちらを見上げる人影も、手を振り返しているようだ。あれは…あれは…。微かな機械音がして、義眼のズー
ム機構が人影を大写しにする。戦車の周辺は真っ暗だけど、私の義眼には真昼間と何の違いもない。
127名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 02:14:42 ID:i2x56ial0
藤原!

あれは、藤原だ! 生きていてくれたんだ!

『ウワキシタコトハダマッテテアゲルカラ、アトハウマクヤルンダヨ』

茜ちゃんからの最後のメッセージ。これも茜ちゃんの仕業だろうか。でも、そんなことどうでもいい! 藤原さえ生きてい
てくれれば、もう他には何もいらないよ。藤原の元気そうな顔を見ることができて、こんなに嬉しいことはない。

もう少し。もう少したてば、この戦争も終わるだろう。藤原と一緒なら、どんなことがあったって頑張れる。誰が何と言お
うとも、もう二度と離れるもんか!

藤原の胸に飛び込みながら、愛する人との再会の喜びをかみしめる。これこそが幸せというものだ。敗戦間近の日本の片隅
で繰り広げられる、もう一つの八木橋裕子の物語。二人の前途に幸あらんことを。
128名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 07:52:59 ID:uh0dIk4m0
>>127
>前途に幸あらんことを

残念だが無理(つДT)
敗戦と同時にすべての日本軍兵士は武装解除されるわけだが、
おそらく義体兵士は存在自体が兵器とみなされ、解体処分になるかと。

読者のくせに、ヤギーに対してこんな結論しか出せない自分が鬱だ。orz
129名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 08:09:18 ID:JNMvyjaf0
ハッピーエンドにつなげるには、勝ち戦か両軍疲弊のうえ終戦協定、が妥当なのかも。

上層部(戦争遂行派)の野望(兵器産業と結託して八百長戦争)が暴かれ→両軍厭戦ムード→終戦協定 とか。
130名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 11:08:39 ID:Juj1TWXK0
どのような形での終戦であれ、疲弊した国家や組織が義体のメンテナンス
環境を確保できるだろうか・・・
生命にかかわる部分のメンテナンスがシビアかつ短期サイクルだと、生き
延びられないかもしれない。
そうでなかったとしても、調子のよくない腕をかばいながら生活するヤギー
を見るのはしのびないな・・・

戦争反対。
131名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 21:13:17 ID:i2x56ial0
>>122 こんな妄想もしてみよう。2レス消費。

「……さん。裕子さん」
「もっと早く、手、動かして。胸も、下も。藤原、藤原、気持ちいいよう」
「裕子さんってば!」
うー、そんなに強く肩を掴まないでよう。女の子にはもっと優しくしなきゃ駄目でしょ。それに私は裕子じゃなくて汐音
ちゃ……ん?

……満天の星空の下。小隊のたった二人の生き残りの私達は、それぞれの愛する人を想いながら最後のひとときを過ごして
いた。もうちょっとでイクところだったのに。ここはどこ? 星空はどこにいっちゃったんだよう。どうして私は座席なん
かに座ってるのさ! 困惑してあたりを見回すと、藤原と目が合った。映画館の暗闇の中でも、私の義眼には真っ赤な顔で
もじもじしている藤原の姿がはっきりと見えてしまう。

映画館? あれ?

規則正しく並んだ座席のそこかしこから忍び笑いが漏れてくる。今日は三週間ぶりの藤原とのデートの日。話題になってい
る『戦場に咲く愛の花』を観るのが楽しみで……。

「……藤原っ!」

映画はまだ途中だったけど、私は藤原の手を強引に引っ張って映画館を後にする。

……恥ずかしい。

この三週間、藤原の仕事の都合でデートができなかった。藤原とのえっちもおあずけっていうことだ。私は藤原とのえっち
が好き。性感が私に残された数少ないニンゲンらしい感覚だということもあるけれど、好きな人と一つになれるってことが
何よりも嬉しいんだ。藤原と会えない寂しさを紛らわせるために、しろくま便で夜遅くまで働いた。今日藤原とデートだと
思ったら明け方近くまで眠れなかった。だからってデート中に居眠りするなんて一生の不覚だよう。しかもあんな夢をみて
寝言を言っていたわけだ。藤原、怒ってるだろうなあ。
132名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 21:14:32 ID:i2x56ial0
映画館を出た私達は、あてもなく二人並んで無言のまま歩き続ける。

「藤原?」

……返事がない。こっちを見ようともしてくれない。そうだよね。みんな私が悪いんだ。藤原以外の男の子とえっちする夢
なんて、よっぽど溜まっていたのかなあ。……でも、もし藤原がいなくなったら、私はどうしたらいいんだろう。他の男の
子を好きになることができるだろうか? 他の男の子に抱かれながら、藤原のことを想うんだろうか? 夢の中の私みたい
に。今まで考えたこともなかったけど、この幸せな時もいつか終わりがくるんだろうか?

そこまで考えた時、私は藤原がちゃんと私の横にいることを確かめたくて、藤原の手を握ってた。藤原の手は暖かかった。

「裕子さん……」
ぶっきらぼうな藤原の声。
「な、何? 藤原?」
握った手を振りほどかれたらどうしよう……。
「恥ずかしかった」
私、そんなに大声で寝言言ってたのか。ごめんね、藤原。
「でも……」
「でも?」
「嬉しかった」
やっとこっちを向いてくれた藤原の顔には笑顔が戻っていた。藤原の大きな手が私の手をしっかりと握り返してくる。藤原……。

胸の中に熱いものがこみ上げてくる。機械の身体でそんなわけないだろうって? でも、私は確かにそう感じるんだよ!
たとえ身体は機械でも、私に心がある限り藤原への想いは生身の身体と何も変わりはしないんだ。

嬉しさのあまり藤原の腕にしがみついて、耳元で囁いちゃった。
「今日は、いっぱいしようねっ!」
今日2度目に見る藤原の真っ赤な顔。でもとても幸せそうな顔。藤原、大好きだよう!
133名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 22:41:44 ID:eLG42xxl0
- イソジマ電工・義体サポートセンター、オペレーションルーム:PM4:15 -

「…システム、復旧しました!」
「OK、こっちも確認した!」
「……やっと落ち着いたか……ふぅっ;」

義体使用者のサポートコンピュータとの通信をつかさどる、リモートメンテナンスサーバ。
リプレイス作業で3日徹夜して、家に帰る気力もなく仮眠室で爆睡していた僕は、1時間ほど前に叩き起こされた。

状況を確認するのに10分。
倉庫にしまおうとしていた旧サーバーを引っ張り出し、バックアップからシステム復旧するのに30分。
オーバーホール手術中の義体患者を特定して機能凍結処置、これが35分。
メインサーバーからケーブルを引っこ抜き、急いで旧サーバーへ接続。これが10分。
…時間にすれば小1時間、でもこれほど長く感じたことは初めてだ。

原因はつまらないことだった。隣の開発室で構築していた、自衛隊向けVR戦闘訓練システム。
納期直前のデスマーチ寝ぼけた彼らは、テストデータの送信先を間違えた。
運の悪いことに、こちらの新サーバがバグ持ちで、本来ならブロックされるはずのシチュエーション情報を、そのまま義体使用者に送信してしまった…というわけだ。
運悪くこのサーバーにアクセスしていた義体使用者は、嫌な夢を見せられていたはずだ。…「戦場になった近未来の日本」という、作り物の悪夢を。

ラックに収めてもらえず、床に放り出された旧メインサーバーが、不機嫌そうな唸り声を上げている。

原因がわかってみれば、VR訓練システムを停めさせるだけでよかったんだけど、「法令遵守」が裏目に出て、僕たちはそういうシステムが開発されていること自体知らなかった。
…結局、見事に遠回りな仮復旧をしたわけだ。
おまけに新サーバを切り離してしまったので、バグ取りのうえ、改めて切り替え作業をしなければならない。

今夜もまた徹夜かな……はぁ。
134名無しさん@ピンキー:2006/09/08(金) 23:48:12 ID:TdF2kqD90
おおっ。なんか思いもしなかったオチがっ!www
135名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 01:01:21 ID:MXothM8X0
>>133
なんかそれはそれで救われない稀ガス…。
軍事機密が漏れた以上、ヤギーたんが消されるのは確実だし。
136名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 01:11:22 ID:Xjs2pqCu0
ヤギーのみならず、サーバーにアクセスしていた全義体使用者が同じ目にあったわけで、
すべて消すのは無理ではないかと。

VRシミュレーションデータが全部作り直しになって、ポカやらかしたシステム関係者が消されるぐらいでは(うわぁ)
137名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 01:48:56 ID:MXothM8X0
>>136
そのくらいなら「やる」でしょ。
残念ながら、今の自衛隊でも。
138pinksaturn:2006/09/09(土) 09:47:33 ID:YJ9Irkhi0
>>137 自衛隊ならそこまでやらず、イソジマに天下りした幹部の権限で裏金を使って義体使用者にあいまいな性格の”賠償金”を渡し口をつぐませるかも。
検査入院編、腕相撲編のときはそれで一件落着でしたね。
担当者は消してしまうとソフトのメンテに支障が出るし、表沙汰になったら株主から担当者に賠償請求しろと言う声が上がるから、放置しても口をつぐむでしょう。
よって表向きはおとがめ無し、後で密かに左遷というのが相場ですかね。
139名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 14:26:41 ID:/7KB6wqC0
あの戦争が終わった時、強制徴兵された義体ユーザー達は、定期的なメンテナンスの呪縛から逃れる術もなく、騒ぎがおさ
まるまで国内に隠れ潜むことすらできず、己の命を繋ぐため次々と投降していった。

150馬力で駆動される強靭な鋼の身体。正確無比な射撃管制プログラムに高度暗号通信機能。義体化兵士は存在自体が兵器
とみなされ、例外なく解体処分の決定が下されていた。しかしながら、解体処分に付されたのは義体であって義体ユーザー
ではない。鋼の鎧を剥がされれば無力でちっぽけな脳みそしか残らない義体ユーザー達は、哀れみと嫌悪の対象でこそあれ
憎悪の対象にはならなかった。

戦争はこの国から多くの人命を奪っていた。技術者とて例外ではなく、義体開発に貢献した優秀な頭脳のほとんどは、下級
兵士として徴兵され祖国の土に還っていた。産業施設はことごとく兵器生産に転用され、もはや高度な技術を要する義体製
造など望むべくもなかった。僅かばかりの基礎検討資料と生命維持装置の原型だけがこの国の義体産業が遺した全てだった。
新たな義体を用意することは連合国の誰にもできなかった。では、解体された義体の中に住んでいた義体ユーザー達はどこ
に行ったのだろう?

荒れ果てた国土の片隅にひっそりと立つ、窓一つないコンクリートの塊のような建物。中に入れば、無数のガラス容器が訪
問者を出迎える。培養液で満たされたその容器の中に浮かぶ物は……。

【631185/2022;F (O-) Yuko Yagihashi】

容器に貼られた小さなラベルの上の小さな文字。そこから、かつてこの国で静かに暮らしていた少女の姿を想像できる者は
いるだろうか? 手も足も目も耳も無く、一切の感覚から切り離され、元の1/10にも満たない余命が尽きるまで夢現の薄明
の世界を彷徨う少女の魂は、今、何を夢みているのだろう。埋め込まれた数個の電極と小さなコンピューターが、時折、夢
の片鱗を生体モニター用のディスプレイに投影する。

「… fujiwara … kyou ha ippai siyou ne … 」

せめてその夢が恋人との幸福なひと時であることを祈らずにはいられない。
140名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 15:16:27 ID:MGivMB2n0
orz
141名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 15:24:59 ID:Qci+0Vk60
>>139
もし戦争の相手国の義体産業が未熟なものであれば、義体を解体処分する
ような勿体無いことはせず、極力無傷のまま手に入れて構造を詳細に調査
研究することになるかと。
むしろ不要なのは脳のほうで…

「裕子さん!裕子さん生きていたんだね!」
「ハァ?裕子?誰それ。私はスージーよ」
ヤギー…すまん…orz
142名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 19:35:23 ID:CuynoWhC0
・・・・・・俺は今、戦場ネタを振ったことを激しく後悔しているorz
143名無しさん@ピンキー:2006/09/09(土) 23:33:41 ID:W1Ee/EMK0
盛り上がってしまいましたが...。イメージが...。orts
よって>>114-142は見ないことにしました。
(斜め読みした時点で脳味噌が拒絶反応を...。すまねぇ。)

ヤギーは平和な日常でこそ輝く存在です!
そろそろ元の世界に戻してあげてくださいな。
144名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 01:12:06 ID:3atwZ17Q0
>>103 三題噺みたいな。4年の間に決着ついているだろ、とかいうツッコミは無しの方向で。5レス消費。

水金地火木土天海冥。

え? 1つ多い? 「冥」って何だって? 冥王星だよ。昔はね、冥王星も地球と同じ惑星だったんだってさ。私が趣味で
集めている骨董品の中にある理科の教科書にもちゃーんと載っている。今世紀の初めに矮惑星の代表格ってことで、仲間は
ずれになっちゃったけどね。昔の学生はみんなこの呪文を唱えて試験に臨んでたわけだ。それが今じゃ誰もそんなこと知り
もしない。世の中、いつ何が起きて常識が非常識に変わるか分からない。ホント面白いよね。その冥王星に、私、行くこと
になった。嘘じゃないよ。

パラリンピックって知ってるかなあ。障害者のオリンピックってことで始まったんだけど、いまじゃ参加者のほとんどが義
体ユーザーで、各国の義体メーカーの企業宣伝の場になっちゃってる。特に最近は、それがどんどんエスカレートして深海
や衛星軌道や月面や、果ては火星や小惑星帯にまで特設会場を設けて、とても生身の人間じゃできないような競技まで出て
きてる。衛星軌道から地上の15メートルのターゲット目掛けて降下する(パラシュートなんかないよ、もちろん)アスト
ロダイビングとか、やっと緑化計画が始まったことを記念した火星1周トライアスロンとかね。オリンポス山の斜面を時速
150kmで駆け上がったり、氷を溶かして作った200km幅の海を泳いで渡ったりするんだよ。いろいろな意味で凄い
よね。

で、とうとう冥王星までその手が伸びたってわけ。冥王星と言えば氷。広大な氷原の上をスケートで突っ走る24時間耐久
アイスレースが次のパラリンピックの目玉なんだ。平均時速300km。F1レース並みのスピードだよ。

私が冥王星に行くってことはさ、つまり、私、そのレースに出場者するっていうことだよ。どう? 驚いた?

イソジマ電工は、私が義体になるちょっと前から、ライバルのギガテックス社と宇宙開発市場のシェアを争って、もの凄い
技術開発競争を続けている。私のCS-20型義体に使われている電合成リサイクル機構も、その成果の一つ。酸素もブドウ糖も
いままでの五分の一の消費量になるんだから、補給が難しい深海や宇宙で長時間働くにはうってつけだよね。
145名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 01:13:46 ID:3atwZ17Q0
私が入社した年には、それを売りにして、シェア拡大に向けた営業活動を会社の最重点施策とすることが決定された。そう
なるとギガテックス社も黙っちゃいない。総合性能で見れば、まだまだギガテックス社の方がずーっと上を行っているし、
脳の一部を改造するギガテックス社のBMI技術も世界的に見てトップクラスだしね。まあ、そういった経緯がいろいろあ
って、結局、実フィールドで決着をつけようってことになった。惑星開発は火星、木星、土星と、外惑星に向けて進んでい
くから、最終目標は冥王星ってことになる。じゃあ、いっそのこと冥王星で、っていうわけで、パラリンピックの運営委員
会に冥王星上のアイススケートを提案したら、これが何故か通っちゃった。それまでは、会社幹部も冗談半分で進めていた
感じがあったけど、こうなると俄然はりきりだして、全社あげてのプロジェクトをぶち上げた。

パラリンピックが、義体メーカーの技術を競う場と言っても、全部が全部技術だけで決まるわけじゃない。それだったらロ
ボットで十分だからね。機械の身体だけじゃなくて、その中にいる、私達義体ユーザも重要な要素なんだよ。だから、なる
べく素質のある人材を求めて東奔西走することになるんだ。いくら素質のある人材が欲しいって言ったって、健常者を義体
化することは法律が禁じているし、まさか、故意に事故を起こして義体化……なんてこと、できるわけがない。まあ、そう
いう都市伝説はあるけどね。それをやった義体メーカーは、他の義体メーカーの袋叩きにあって結局潰れちゃったってオチ
がついている。

それでさ、この競技、突発的に提案されたものだから、それに見合った人材をすぐに、ってわけにはいかないよね。全身義
体ユーザーの社員なんてそんなにいないしさ。人事部があれこれ調べていくうちに、私に白羽の矢が立った。私、高校の時
は陸上部だったけど、その前は、青森のおじいちゃんの影響でスケートをやってたんだ。全国大会に出るなんてレベルじゃ
ないけど、結構いい線までいってたんだよ。もう、昔のことだからすっかり忘れてた。
146名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 01:15:29 ID:3atwZ17Q0
始業時刻ぎりぎりに席について、さあ仕事っていうときに社長室から呼び出しがかかってさ。ホントびっくりした。まさか
遅刻がちょっと多いくらいで、査問委員会にかけられるわけないし、でも他に思い当たるようなポカもしてないし……。

びくびくしながら社長室へ入っていったら、いきなり社長が冥王星に行ってみないか、だって。まあ、その、正直に言うと、
社長の言葉を聞いた瞬間は、このおっさん何ぼけてんだって思ったよ。ギャクにしても、全っ然面白くないよ。だって、冥
王星だよ。太陽系の最果ての地。そんなところに新入社員の私が行って、いったい何するのさ? まさか冥王星のアメーバ
状生物にでも義体を売りつけようってこと? そんなの子供向けのアニメの中の話だよ。でも、まさか、そんなことも言え
ないしさ。しかたないから、おとなしく話だけは聞いてみた。

冥王星の氷の上にアイスリンクを作って、24時間時速300km以上で走り続ける。たったそれだけの競技なんだけど、
極低温の冥王星上でそんな長時間安定した動作をする義体を作るのは大変なことなんだって。もし、そんな義体ができるだ
けの技術があることが証明できたら、それこそ、これからの宇宙開発市場を独占できるくらいのアピールになる。……って
ことは、なにかな。途中で身体が壊れてリタイアする可能性の方が高いってことかな。そう言ったら、社長は慌てて技術部
長(古堅部長ではない)の方を助けを求めるように見たくらいだから、やっぱりそうなんだろうな。技術部長は、いろいろ
難しいことを言ったあげく、参加することに意義があるってパラリンピックの理念まで持ち出して、私を説得し始めた。な
んだろうね、まったく。いくら私が新入社員だからって、自分達にも自信のないことを、へ理屈こねて押し付けなくたって
いいじゃないか。

でも、もう体面上、降りるわけにもいかない状況になっているし、なんとか選手を1人でも送り込まないと、戦わずしてギ
ガテックス社に敗北宣言することになる。私が嫌って言ったら、即クビを言い渡されそうな雰囲気なんだよ。あーあ。
147名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 01:29:06 ID:3atwZ17Q0
冥王星までは往復7年の旅。現地で過ごす3週間を除けばずーっと宇宙船の中。それも豪華客船なんかじゃなくて、ぎりぎ
りまでスペースを削った貨物船。つまり私は、ニンゲンの八木橋裕子という船客じゃなくて、脳ユニットだけにされて貨物
の1つとして扱われるんだ。脳ユニットは最新型の全身義体障害者用仮想空間提供機に接続されるから、ニセモノとはいえ、
一応は、それなりの生活を送れることにはなっている。でも、その仮想空間にいるのは私だけ。外界との通信はできるけど、
他には誰もいない一人っきりの生活が何年も続くわけだ。フツーの人には耐えられないよね。もちろん、私だってそうだけ
ど。もう、溜息しか出ないなあ。

でもね、悪いことばかりでもないんだよ。これってさ、出張扱いになっている。7年間の宿泊出張ってことだ。出張となれ
ば交通費や宿泊費の他に日当が出る。イソジマ電工も国内だけじゃなくて、海外や、時には軌道ステーションや月面基地ま
で営業や保守に行くことがあるから、距離に応じた日当を支給する規定になっている。じゃあ、冥王星までの出張は? そ
れも7年間も。まともに計算したら莫大な金額になっちゃうから、急遽上限が設定されたけど、それでも、私から見ればと
んでもない大金が、私の懐に入ってくる計算になるんだ。

昔、お金大好きっ子とか、陰口を言われたことがある。義体の維持費用のためにバイト漬けの生活だった頃のことだ。今は、
イソジマ電工との特約で、実験に協力する代わりに全ての検査費や保守部品代をタダにしてもらっている。でも、こんな身
体だから何かと物入りでお金はいくらあっても困ることはない。私だけなら拒む理由はあまりない。私一人のことで済む頃
だったらそう思っただろう

社長室を出た私は、すぐに藤原に電話した。7年間、藤原と離れた生活になる。戻ってくる頃は、私は30代。私達に、そ
んなことが耐えられるだろうか? どこまで本気か分からないけど、嫌ならクビにする。そういう雰囲気ははっきりと伝わっ
てきた。でも、藤原が嫌だって言うなら、私はこの提案を蹴るつもりだった。またお金の心配をする生活に戻っちゃうこと
になるとしても、藤原と歩む人生の方がずーっと大切だよ。
148名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 01:32:14 ID:3atwZ17Q0
その後のことは省略させて貰おうか。とっても個人的な内容だし、興味を持たれても困るしね。結局、私は、冥王星へ行く
ことを承諾した。いろいろと条件を付けさせてもらったけど、選手を出すことができるんだったら、よほどのことがない限
り、ほとんど私の言いなりって感じだった。ありがたいね。はは。

出発までの2ヶ月間は、この競技用に特別に作られた義体への換装と、それに合わせた調整に費やされた。氷の上に立つの
も何年ぶりかって感じだったけど、それなりに感触は掴んだつもり。自分の時間はほとんどとれない中でも、なんとかやり
くりして藤原とデートもした。新しい身体には人工性器も性感機能もついていなくて、えっちはできなかった。それは帰っ
てからのお楽しみだ。3ヶ月の有給休暇が出るから藤原と楽しむ時間はたっぷりとれるだろう。

そうして冥王星へ行く準備が整った。今から搭乗手続きが始まる。脳ユニットだけにされて、貨物室の加圧タンクの中で4
年間。冥王星ってどんなところだろう。レースはどんな結果になるんだろう。あとはもう、イソジマ電工の技術陣の力を信
じて、ベストを尽くすだけ。藤原、待っててね。私、頑張るよ。
149名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 04:09:45 ID:VBatAvuG0
>>148
お見事GJ!
でも冥王星についたあと義体を組み立てるのはいったい誰?
150名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 08:04:52 ID:s+Ie6M3S0
>>149
多分、自動制御か何かではないかと。
151名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 15:52:37 ID:3atwZ17Q0
>>149 >>150 ちょっといじわるしてみた。2レスで完結。

あれから6年が経った。今は一路地球を目指す船の中。脳ユニットだけの私が全身義体障害者用仮想空間提供機に繋がれて
いるのも相変わらず。

……レースの結果はどうだったか? ああ、それね……。

私が冥王星の地に足を下ろしたのはレースの日の2日前だった。本当は3週間前から現地での調整を始めるはずだったんだ
けど、なぜか、私の身体を組み立ててくれるプログラムが予定の日時に起動しなかったんだよ。このままでは競技に参加で
きなくて、ギガテックス社との勝負は不戦敗になってしまう! 私は結構あせったんだけど、私をこんな所まで送り込んだ
張本人達の方は、4年の歳月の間に熱気がほとんど冷めちゃってて、ああそう?ってぐらいの対応だった。

それでも、プログラマーが空き時間を使って、遠隔保守コマンドでプログラムを一部を書き換えて、無理やりプログラムを
起動してくれた。それが、レースの2日前だったってわけ。プログラムの動作検証なんかできないから、まかり間違えれば
組み立て作業の方にも影響が出てたかもしてないって、作業が終わってから教えられた。もう、呆れ果てて返す言葉もなかっ
たよ。

たった2日。私に何ができるだろう。最低限の義体の調整と、試験走行が1回きり。それで本番に臨めっていうんだから、
もう無茶苦茶だと思わない? 結局、会社幹部達の冗談からでたデタラメ企画に過ぎなかったってことなんだろうね。誰も
成果に期待なんかしちゃいない。そんな物のために私は藤原との7年間を無駄にしたのかと思うと、悔しくて悔しくて、夜
も眠れないくらいだった。

でも、まあ、ここまで来てレースを放棄するわけにもいかないからさ。一応、走るだけは走ったよ。レースコースも氷の状
態も何一つ分からなくて、レギュレーションぎりぎりの最低限の速度でね。もう、何周も周回遅れになったけど、仕方がない。
152名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 15:55:16 ID:3atwZ17Q0
それが良かったのかなあ。私の無様な走りっぷりをあざ笑うかのように、スタート直後からかっ飛ばしてトップを走り続け
ていたギガテックス社の選手は、7時間目に足の関節が破損してコース脇の氷山に突っ込んで大破。当然リタイアだね。時
速300キロ。身体がバラバラになって、義体じゃなかったら、死んでいたところだよ。

他の選手達も、12時間を越したあたりから、どんどん脱落していった。結局、真ん中あたりをほどほどの速度で走ってい
たアメリカの選手と、最後尾を走っていた私の2人が完走できただけだった。後で知ったことだけど、ギガテックス社みた
いに身体が大破っていう選手がかなりいたし、破損があまりにも酷かったり、生命維持装置が故障したりして命を落とした
選手もいたらしい。

これだけの脱落者が出て死者すらいるような状況で、はたして競技として成り立つのか? そんな議論が交わされた。しば
らくの激論の末、完走者がいる以上、競技の結果は認めるけど、もう2度とこの競技はやらないって、まあ無難な線に落ち
着いた。私の銀メダルは、パラリンピック史上、この競技の唯一の銀メダルということになった。こんなものに、それだけ
の価値があるんだろうか?

イソジマ電工本社の方はと言えば、もともと成果を期待していなかった所に完走して、しかも銀メダル。掌を返したような
熱狂振り。帰ったら盛大な歓迎会をって言われたけど。帰るまでに3年間。どうせまた熱が冷めて、あれそんなこと言ったっ
け?なんてことになるのは目に見えていたから、丁重にお断りしておいた。出発前に約束してもらったことだけ守ってくれ
れば十分だよ。あとは積もりに積もった日当と、3ヶ月の有給休暇で心行くまで藤原との楽しい時間を過ごすんだ。

あと1年。その時が待ち遠しいよ。藤原、帰ったらいっぱいしようね!
153浦島裕子w:2006/09/10(日) 16:37:25 ID:MtkoVqOU0
  七年前に 裕子さんは
  上司の社命に 乗せられて
  冥王星へ 来てみれば
  起動できない 情けなさ

  プログラマーの 手伝いで
  やっとの思いで 立ち上がり
  ただせわしなく 情けなく
  調整時間も ただ二日

  一日走って 気がついて
  周りを見れば 事故だらけ
  帰る途中の 楽しみは
  みやげにもらった 銀メダル

  帰ってみれば こはいかに
  吸収合併 ギガテックス
  廊下をゆきかう 人々は
  顔も知らない 者ばかり

  心ぼそさに ふたとれば
  あけてくやしき 銀メダル
  中からぱっと 白けむり
  たちまちヤギーは・・・


「うわっ、遅刻だぁ!!!」
154名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 19:08:09 ID:s+Ie6M3S0
>>153
それ以前に、無事に帰国できるのか?という疑問もある。
一旦宇宙へ出た人間は、いかなる国も国籍の復帰・新規取得を認めない、
なんて法が出来てたりしてな。

出てった時は国の誉れ扱いだったのが、帰ってきた時には重罪人のレッテル、なんてのは
信長がローマに送った少年使節団を見るまでもなく、歴史上いくらでもある話だからな。
155名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 19:10:06 ID:96rgeojo0
なにその火の鳥望郷編?
156名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 19:52:43 ID:3atwZ17Q0
>>153 夢オチか? 夢オチなのか!?(w

課長「八木橋君本日をもって今月4回に達する遅刻の醜態に対しいかなる説明を」
ヤギー「課長すみまs」
先輩「課長お言葉ながら4回のうちの3回は3分以内の遅刻であり実質的な業務への支障は僅少である点をご考慮いただきたく」
課「本来社員たる者始業時刻の5分前には着座して神聖なる業務の開始にあたり心身ともに万全の準備をなすべきところ」
ヤ「それは私g」
先「21世紀の先端産業をになう我が社においてそのような精神論をもって社員の行動を律するはまこと旧世紀の悪弊と思う次第で」
課「そもそも遅刻が3分以内と主張するなら出立時刻を5分早めれば何の問題も生じ得ない点についてはどのように」
ヤ「そんなn
先「通勤経路上3回に及ぶ乗換えにより推定所要時間に対する誤差が社会的通念の範囲を大幅に越えるケースもありうることを」
課「その点は1万歩譲って認めるとしても本日の遅刻は実質21分の遅れでありこの点に関してはいかなる弁明もありえず」
ヤ「昨夜h
先「本日の遅刻は私が主催したビデオ鑑賞会に参加して就床時刻が深夜2時を越えた結果でありその責は私に帰するべきもので」
課「背景事情を考慮しても他の参加者が定時出社している以上唯一の遅刻者である八木橋君の自己管理能力に疑問が生じるのは明らかであり」
ヤ「先s」
先「さらに申せば先週より実施している読書大会トランプ大会じゃんけん大会等の全てに参加した事実から疲労が蓄積していたものと推定され」
課「それら全てに参加した結果己の身体にどのような現象が生じうるかを想定できない点で既に社会人としての判断力が疑わしく」
ヤ「k」
先「それはおのが身体状況と職場仲間との和を秤にかけた結果であり偶然の帰結により望ましくない側に傾いたからといってその責を問うことは」

うー、庇ってくれるのは嬉しいけど、少しは私にも喋らせてよう!
157名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 22:54:02 ID:o4PR46wM0
冥王星キター

>>154
何その日本人町?
1583の444:2006/09/10(日) 23:02:32 ID:DRNK0wfe0
>>156
前日にF1レースとフィギュアスケートを遅くまで見ているからこんなことになるのだ(笑)
しかし、このケアサポーター部の先輩は、ずいぶん面白そうな人ですね。松原さん?
159名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 23:06:13 ID:MtkoVqOU0
八木橋さん、昼間は戦争モノの映画を見てたようですよ。
正確には、寮のコミュニケーションルームで、TVを消し忘れたまま昼寝してたようです。

「サイボーグにも睡眠教育は効果があるのか」・・・面白い実験結果が取れましたよハハハ
160名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 23:08:29 ID:MtkoVqOU0
余談までに、「寮から会社まで乗り換え3回」は実在します。

寮→(バス)→千歳烏山→(京王/地下鉄)→神保町→(地下鉄)→芝公園、とかやってましたし。
1時間以上かかるんでやんの・・・orz
161名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 23:10:47 ID:yrEBhUsG0
パラレルストーリーが上手いこと纏まったなあ
162156:2006/09/10(日) 23:26:43 ID:3atwZ17Q0
>>158
これ自体はよくあるネタなんですが、言われてみれば、松原さんってこんな感じかもしれませんね。
163名無しさん@ピンキー:2006/09/10(日) 23:30:43 ID:MtkoVqOU0
>>161

うまいことまとまったといえばまとまったが、

「ヤギー=妄想癖あり」

という疑惑が残ってしまったぞとw
1643の444:2006/09/11(月) 00:15:59 ID:t255gKjv0
  お昼休みが終わりみんなが教室に戻ってくると、 いよいよ学園祭も本番。 クラスのみんなにとっては待
ちに待ったお楽しみの大イベントのはじまり。 だけど、 見世物になる私にとっては苦痛以外の何者でもない
時間のはじまり。 できるなら、 見世物になっている間は、 サポートコンピューターにあらかじめプログラムさ
れてるしょぼい補助AIに身体のコントロールを全部まかせてふて寝していたい気分だ。 でも、 そんなことで
きるわけないよ。 私は廣瀬さんの筋書きどおりに動くバラバラ死体を演じて、 お客さんに驚いてもらって、
それでお金を稼がなきゃいけないんだもの。補助AIごときにそんな器用な真似ができるはずがない。 だか
ら、 やっぱり私は起きているしかないんだ。 結局あるな達の思い描いた青写真どおりに行動するしかないっ
ていうのはとっても悔しいよ。 けど、 そうすることが私にとってもいいことで、 必要なことなんだって自分に言
い聞かせるしかないよね。

  私の見世物タイムは、 まずクラスのみんなに私のバラバラ姿をお披露目することから始まった。 いくら
義体化一級の全身義体っていっても、 私の外見はパッと見はフツーの女子高生と変わらない。 もちろん、
食事を取らないとか、 プールの授業で底に沈んだまま浮かび上がってこないとか、 目が光るとか、 そういっ
たところでなんとなく私の身体が機械だってことは分かるんだろうけど、 でも手足を外すなんていうインパクト
のある光景にはクラスのみんなにとってもそうそうお目にかかれるものじゃないからね。 ある意味、 私のこ
んな姿を見たくてお化け屋敷の企画をはじめたようなものだもんね。
  私の寝ているベットにみんなを集めたあるなは、 もったいつけてコホンと一つ咳払いをしたあと、 得意げ
に布団をめくる。 布団の下から現れた血だらけのベットの上で、 手足をバラバラにされて横たわっている私
の姿を目にしたクラスの男どもから案の定「おおっ」という喜びと驚きがないまぜになったような歓声が上が
る。
1653の444:2006/09/11(月) 00:16:46 ID:t255gKjv0
  肝心な手足の付け根から覗く義体内部の機械部分は、 セーラー服やスカートの裾に隠れて見えないの
が救い。 それでも、 好奇心にぎらつく男どもの予想以上に食い入るような視線に耐えかねて、 私は思わず
目をぎゅっと目をつぶってしまう。 その瞬間、 またどっと歓声が沸き起こる。 どうやら身体から切り離された
腕が、 無意識のうちにシーツをぎゅっとつまんでいたみたい。 身体と、 コード一本だけで結ばれただけの義
手が自在に動くのは、 彼らにとっては、 とってもフシギな光景に違いない。
「八木橋さん、 痛くないの?」
  なんて、 中には間抜けな質問を私にしてくる奴もいた。
  これには私が返事するより早く、 あるなが質問の主にご回答。
「言ったでしょ。 八木橋さんの身体はキカイなんだから、 こんなことされてもへっちゃらなんだって」
  なんてご丁寧にキカイって部分をやけに強調しながらね。
  でも、 こうして私の身体に興味深々の男どもや、 私を辱めることに生きがいを感じているように見えるあ
るなだって、 実はまだ、 私に関わろうとしてくれるだけましなんだ。 私に近寄りもせず、 かといって私が見え
ない場所にも行かず、 微妙な位置からずーっと冷たい視線を私に投げかけて、 時折気味悪そうに眉をひそ
めてはひそひそ話しをしている女の子の一団に比べればね。
  女の子たちの中にはギガテックス社の義体暴走事故リコール騒ぎの一件以来、 私に近づかなくなってし
まった子も多い。 むしろ、 今回「保健室の動くバラバラ死体」に加わってきた、 あるなとか藤永田、 変わり
者の廣瀬さん、 それからもともと陸上部の後輩だった天野さんみたいに私が義体でも平気で近づいてくるコ
のほうが少ないくらい。
  あのコたちには、 私の義体は確かに設定をいじれば150馬力の力が出せる仕組みにはなっているけど、
普段はリミッターがかかっているからどう頑張っても成人男性に毛の生えた程度の力しか出せないなんてこ
とや、 そもそも私の義体はイソジマ電工製でギガテックス社製じゃないからリコール対象外だってことをいっ
くら説明しても無駄だった。 彼女たちにとっては、 機械の身体ならみんな危険物ってことになってるらしい。
私と握手しようものなら、 手を粉々に握りつぶされかねない、 くらいに思ってるんだ。
1663の444:2006/09/11(月) 00:17:46 ID:t255gKjv0
  そういうふうに私を危険物扱いするような子たちに比べたら、 何かにつけて私を苛めておもちゃ扱いする
あるなやその取り巻きの藤永田達のほうがよっぽどましに思えてくる。 もちろん苛められるのは嫌だけど、
どうせ機械の身体なんだから肉体の苦痛とは無縁だし、 それに、 あるなが私を苛めるのは、 よく考えれば
私がニンゲンだって思っているからこそ、 だよね。 でも、 この子たちにとっては私はニンゲンですらないん
だ。 ニンゲンのふりをしている別の薄気味悪い何か、 なんだもの・・・。

「いよいよ来るよ。 八木橋さん、 準備して」
  ベットの隣のロッカーに身を隠した廣瀬さんがぼそっと私にだけ聞こえるような小声でささやく。
  隣の部屋から壁越しでもはっきり分かるくらいにこっちに響いてくる男女の笑い声。
  川崎君の時代錯誤のつりスカート、 三つ編み姿での、 大昔の戦争のとき空襲で死んだ「手鞠をつく女の
子の霊」の迷演技にお腹をかかえて涙を流さんばかりに大笑いしているカップルの姿がありありと目に浮か
ぶ。 前の部屋でギャグを入れて油断させてから、 この部屋で恐怖のどん底に突き落とす。 そういう手はず
になっている。
「あー、 笑いすぎて苦しい、 苦しい」
「今度は何が飛び出してくるんだろうね」
  何も知らずに楽しそうに笑いながら、 黒い布でつくった仕切りをめくりあげてこの部屋に入ってくる二人の
姿が逆光の中に黒いシルエットで浮かび上がる。 この部屋は、 いかにもお化け屋敷っていう雰囲気を出す
ために、 私の寝ているベットにスポットライトを当てているほかは真っ暗だからね。
  でも、 逆光でもすぐに画像補正してくれる私の機械の眼にかかれば、 男の子がさりげなく女の子の肩に
手をまわしているところも、 女の子が男の子に対して屈託のない無防備な笑顔を浮かべるのも丸分かり。
二人ともうちの高校の制服姿だけど知ってる顔じゃないから、 きっと私とは学年が違うんだろう。 こんなとこ
ろにカップルで来て、 私に見せ付けてくれちゃってさ。 ふん。 気に食わない。 全く気に食わないよ。
(せいぜい脅かしてやるんだから)
1673の444:2006/09/11(月) 00:19:01 ID:SwSSI7xz0
  私は底意地が悪い気持ちになって、 無邪気なカップルの顔を気づかれないように睨み付ける。 私だって
黙ってみんなの見世物になんかならないんだから。 こうなった以上は、 こっちだって存分に楽しませてもらう
んだから。

「痛いよう! 痛いよう!」
  私の悲鳴に誘われるように、 何も知らないカモが二人、 仲良く手を繋ぎながらのこのこ私の寝ているベ
ットのそばまでやって来る。
「あのね、 身体がとても痛いんだ。 なんとかして。 助けてよう」
  何度も廣瀬さんに指導を受けた私の迫真の演技に、 二人はお芝居ってことも忘れて真顔で顔を見合わ
せる。
「どうすればいいの?」
  男の子が私に聞いた。
「私にかかってる布団をめくってみて。 お願いだよう」
  いかにも意味ありげな私の言葉に女の子がくすりと笑った。
「今度は何が飛び出すのかなあ。 楽しみぃ。 ツヨシ君、 めくってみてよ」
  自分は一歩後ろに下がってさりげなく身の安全を確保しつつ、 男の子の肩を押す女の子。
「いようし!」
  ツヨシ君と呼ばれたは男の子は彼女の前で勇気のあるところを見せようと張り切って、 私に覆いかぶさ
っている布団に手をかけて・・・そして思いっきりめくり上げる。
「うわぁっ!」「きゃっ!」
  布団の中から現れた私の身体を見て、 二人は眼も口も鼻の穴もぽっかり大きくあけた間抜け面を顔に
張り付かせたまま固まってしまう。 そりゃそうだ。 布団をめくったら、 中から出てきたのは、 血だらけのシー
ツの上に横たわった手足バラバラのダルマさんだもん。 フツーの女の子がただ寝ているだけと思わせてお
いて、 不意打ちもいいとこだ。 ましてや、 さっきまでさんざん笑い転げて油断しきってるんだから。
「身体がすごく痛いんだよう。 手もちぎれてどこかに行っちゃったんだよう」
  二人が思いっきりドン引きしてることなんかおかまいなしに演技を続ける私。 なんとか苦痛に歪んだ表情
を作ろうとするものの、 実際には痛くもなんともないから難しい。 わざとらしくならなきゃいいんだけど。
「誰がやったんだと思う? 誰が私にこんなことをしたんだと思う?」
1683の444:2006/09/11(月) 00:19:44 ID:SwSSI7xz0
「し、 知らない知らない」
  二人は青ざめた顔で、 私の問いかけにふるふると首を横に振る。 ふふふ。 予想通りの反応だね。
  では・・・
「と ぼ け る な! お 前 た ち が やっ た ん だ!」
  唐突に私は声色を100%変えると、 さっきまでの痛々しい女の子の仮面を脱ぎ捨てて、 おどろおどろし
い調子で二人を責めたてる私。 びくっと二人が肩を震えるのが分かった。 そして、
(えいっ)
  二人の恐怖に強張った顔を義眼カメラにばっちり収めてやった。 真っ暗闇の中だから、 私の眼がいか
にも妖しげに光ったのが二人にも見えたはず。
「ひっ!」
  私を見て怯えたように二三歩後ずさりするツヨシ君。 女の子は、 ひしっとツヨシ君の背中にしがみつく。
この期に及んでまだ見せ付けてくれるなんて、 ますます気に入らない。
(とどめをさしてやれ)
  彼らが私の姿に驚いてるスキに、 私はあらかじめベットの下に隠しておいた義手を手首の力だけでで尺
取虫みたいに床を這わせてながら、 彼らの足元まで忍びよせた。 足元は真っ暗だから、 彼らは足元の異
物にゼンゼン気がついていない。
(えいっ)
  だしぬけに彼らの足首をぎゅっと掴む冷たい手。 これに驚かない人はいないはず。
「うわーっ!」
「キャー、何これ。キャー!」
  案の定二人はさっきまでより軽く一オクターブは高い金切り声を上げながら、 あわてふためいて足元を
見る。 そして自分の足首を掴んでいるのが血だらけのニンゲンの手だってことに気がついて、 また悲鳴を
上げる。 二人は足首を掴む不気味な手を振り払おうとやっきになるけど、 無駄無駄。 ちゃーんとがっちり
握ってあげてるんだ。 そうやすやすと放すわけにはいかないよ。 ふふふ。
「私 の 手 を 元 に 戻 せ!」
  追い討ちをかけるように、 私はさっきにも増しておどろおどろしい声で叫ぶ。 頃合を見て足首を掴んだ
手を離してやると、 肝を潰した二人は逃げるように出口のほうへ走り去っていった。
1693の444:2006/09/11(月) 00:20:38 ID:SwSSI7xz0
(ふん、 いい気味だ。 私の前でいちゃついた罰だよう)
  二人の後ろ姿を見送りながら息巻く私。
「いいね。 八木橋さん。 その調子、 その調子」
  ロッカーに隠れてコトの一部始終を見守っていた廣瀬さんから、 早速のお褒めの言葉。 廣瀬さんは、 私
の両手をベットの下の定位置に戻したあと、 出口のほうを睨みつけならぼそっとつぶやく。
「ああいうのって、 嫌だよね」
「ああいうのって?」
「ほら、 むやみやたらにいちゃいちゃしちゃってさ。 ああいうのって彼氏のいない身にとったら、 むかつくじ
ゃない。 だから、 八木橋さん、 よくやってくれた!」
  ぴしゃぴしゃと軽く私の頬っぺたをたたきながら、 嬉しそうな廣瀬さん。
「廣瀬さんも、 そう思った? 実は私も同じこと考えてた。 ふふふ」
  廣瀬さんにたたかれながらも、 思わず私はにっこり。
  思えば今まで、廣瀬さんとこんなふうに親しげに会話したことなんて、 なかった。 確かに、 今の私は、 こ
の人にとっては、 お化け屋敷っていう自分の芸術作品を完成させるためのモチーフでしかないのかもしれな
い。 それでも、 こうして私のことを怖がらずに、 自然に話しかけてくれるだけでも嬉しいよね。
  私だってごくフツーの女子高生。 目の前でいちゃつかれれば腹も立つし、 誉められれば素直に嬉しい。
ただ身体が機械ってだけでみんなと何も変わらないんだ。 少しづつでいい。 ちょっとしたきっかけで、 こんな
ふうに話しながら、 そのことをみんなに分かってもらえれば、 それでいいんだ。 焦らず、 ゆっくりとね。
1703の444:2006/09/11(月) 00:23:21 ID:U6cBSBKn0
みなさんすごいです…。
私も負けないように頑張らなければ。と、いうことで久々ですが学園祭の続きを投下します。
学園祭は次回投下で終わる予定です。
171名無しさん@ピンキー:2006/09/11(月) 10:35:49 ID:SDAjAGt40
ヤギー世界の人々が、サイボーグに対して悪感情を抱くのはなぜだろうと考えた。
以下、あくまで私見。

AIBOのような金属とプラの塊であっても、可愛がることができてしまうのが人間。
ヤギー世界のサイボーグは見た目人間と変わらず、「不気味の谷」を超えている。

思うに、偏見の根っこにあるのは、実は「恐れ」なんじゃないかと思う。
彼らが「本気」を出したら自分の命が脅かされる、それに対する恐れ。

ASIMOやAIBOが受け入れられているのは、自分たちに対して無力だから。
彼らは無自我であり、人間に対抗できるだけの能力(力、速さ)もない。

自分より弱いものだから、安心して可愛がることができる。
自分より強ければ、なにがしかの恐れや悪感情を抱く。
(たとえば、犬嫌いの人は小さい時に犬に襲われた経験がある)

ヤギー世界のサイボーグが、人間並みor以下の能力であったなら、悪感情を
抱かれることも少なかったんじゃないだろうか・・・とか思った。
(誰も悪感情を抱かない、とは言わないが・・・)


異論反論お待ちしてます。
172名無しさん@ピンキー:2006/09/11(月) 22:56:19 ID:vp8OV+3w0
イソジマ電工の社員に聞いてみますた。

深町香織: 「今の状態が差別?ふふふ。あなたとんだ甘ちゃんね。私が義体になったころ
はこんなもんじゃなかったわ。これでもだいぶましになったの」

松原みどり: 「外見だけじゃなく、中身も生身の身体とほとんど変わらない性能の義体が
作れれば、義体に対する差別や悪感情は自然になくなるはずですっ」

汀環: 「義体っていうだけで悪感情を抱くような人は、結局物事をうわっつらでしか
見れない人なんです。わざわざそんな人を相手にしなくたって、世の中には他に
知り合うべき人、話すべき人はたくさんいまーす。そう思わない?」
173名無しさん@ピンキー:2006/09/13(水) 16:17:35 ID:s7L0MyCW0
>環さん

世間では、そういう心ない人を相手にせざるを得ない状況もあるのですよ。
上司だったりお客だったり、近所だったり同級生だったり・・・
1743の444:2006/09/14(木) 04:06:01 ID:+cQ61wqn0
小ネタで前スレの埋め立てを図りましたが、容量オーバーしてしまいました。
申し訳ございませんが、続きはこちらに投下します。
前スレから読んでください。
1753の444:2006/09/14(木) 04:07:20 ID:5Nz/V6ti0
「・・・と、 いうわけで、 なんとかなりませんかねえ」
  いかに私が人畜無害な存在か、 ということををさまざまなエピソードに余計な尾ひれを交えて羊男に聞か
せたあとで、 ちらっと上目遣いに男を見やる先生。
「うーん」
  なおも腕組みして考え込む相手に、 片桐先生、 とどめとばかりに、 私の頭もつかんで無理やり頭を下
げさせた。
「お願いします!」

  羊男は、 私たちの視線を避けるように、 眼をつぶってしばらく腕組みして考え込んだ後、な んだか言い
にくそうに渋々口を開いた。
「一つだけ方法があります」
「どんな方法ですか!」
  許可証がなくても飛行機に乗れる! そんな方法があるなら、 許可証がどうのとつべこべ言わずに、 先
に言ってくれって感じ。 思わず身を乗り出す私と片桐先生。
  でもね。 この人の話を聞くごとに、 先生の表情は明るくなっていったけど、 逆に、 私の表情は暗く沈ん
でいった。 だって、 この人、 こんなこと言ったんだよ。
「義体の電源をお切りいただいたうえで、 所定の箱の中に入っていただきます。 旅客ではなく、 貨物扱いと
いうことであれば、 許可証なしでも運ぶことができますので。 その場合、 客室ではなく貨物室に入っていた
だきますことをご了承下さい」
  だってさ。
1763の444:2006/09/14(木) 04:08:01 ID:5Nz/V6ti0
  確かに電気で動いている義体は電源を切れば身動きのできないただの人形になっちゃうから、 少なくと
も他のお客さんから義体を載せていることに対する文句は出ないだろうね。 それに、 義体なら、 生身の身
体ならとうてい耐えられないだろう、 高度1万メートルの薄い空気の中も、 気温マイナス30度の世界もへっち
ゃら。 飛行機の貨物室に放りこまれようと、 どってことないんだ。 あくまでも義体自体は、 ね。
  でも、 その義体の中にいる私はどうなっちゃうのさ。 電源を切られるってことは、 つまり、 脳みそを生か
すための必要最低限の機能以外は全部使えなくなるってことだ。 目も見えない、 耳も聞えない、 何も感じら
れない、 底なしの真っ暗闇の中でじーっとフライトが終わるまでの2時間を過ごさなきゃいけないってことなん
だよ。 あの感覚遮断の恐怖を味わうくらいなら、 高度1万メートル、 気温マイナス30度の世界に放り出され
たほうがよっぽどましだよ。
「良かったな。 八木橋。何はともあれ、 これで、 行けるな。 良かったな」
  片桐先生、 私の気持ちなんかおかまいなしに手放しで大喜び。
  危険物扱いの次は貨物扱い。 ちっともよくなんかないのに。
  でもさ・・・電源切られて人形にならなきゃ、 飛行機に乗れないんでしょ。 修学旅行に行けないんでしょ。
だったら、 私に選択肢なんかあるはずないよね。 片桐先生、 この埋め合わせ、 どこかで必ずしてもらうか
らね。



「おーい、 みんな。 自分の荷物はちゃーんと持ったな?」
「はーい」
「よーし。 じゃあ、 摩周湖に向けて出発!」

  一つだけ、 誰からもその存在を忘れられた荷物がターンテーブルをいつまでもぐるぐるぐるぐる・・・

               おしまい
177名無しさん@ピンキー:2006/09/14(木) 12:23:22 ID:LTUmD3QnO
可哀相だが萌えたっ!
178名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 01:36:34 ID:0msCPzt+0
>>176
それ、夢オチとかでないなら多分社会問題になると思う。
人間を荷物扱いした上に忘れ去った訳だから(下手すりゃ命にも関わる)空港関係者や学校の先生は少なくとも刑務所行きは確定。
ヤギーたんに誰が修学旅行費と損害賠償を弁償するかでも大もめにもめそう。
マスコミ沙汰になるのは避けられない。
179名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 01:53:06 ID:iHi3qqOR0
>>178
マスコミ沙汰

「義体をどうやって空輸するか」の議論が収拾つかなくなる危険性

運輸族議員大打撃

マスコミに対して緘口令

政府ウマー

これでケリだと思う。
この問題に限らず、義体関連は相当な利権温床と見た。
180名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 01:57:49 ID:0msCPzt+0
口コミとか2ちゃんみたいな掲示板で広がるのは阻止できないし
181名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 09:18:07 ID:VXC/jz/g0
運んだのは人間ではなく、あくまでも義体という道具。
人間の脳は、その道具に勝手についてきただけ。勝手に貨物室にもぐりこんだ人と同じ扱い。
これが航空会社の主張だそうですw
それにヤギー自身、感覚遮断されていたわけだから、皆が口をつぐめば忘れ去られたっていう
事実にすら気がつかないのではないだろうか?
182名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 11:11:35 ID:f+r1aL0v0
「完全に感覚が遮断された世界に人間を閉じ込めると、
ほどなく(数時間とかおどろくほど短い時間で)発狂する」
という研究結果をどこかで見たことがあるんだよな・・・

ヤギーが心配だ。
183名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 16:14:13 ID:QyoPLGXp0
>>171
製造物責任法にも関係してくるけど、150キロもあるんじゃ、倒れたりしたらそれだけで事故だからね
実際そういう事故が起こったりするとまだ義体が珍しいので話題になりやすいし
184名無しさん@ピンキー:2006/09/15(金) 19:22:51 ID:0msCPzt+0
>>181
航空会社はそう言い訳するだろうが、世間は絶対認めるまい。
少なくとも「生きている人間の脳が入っている可能性を充分に予見出来る状況」があり、
それを見逃したばかりか、荷物輸送事故を起こしている、二重事故な訳だし。
185名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 01:46:39 ID:xiF5Otft0
私のサポートコンピューターにはいろいろなプログラムが入ってる。補助AIもその一つ。ロボットのAIほど高級な物じゃな
いけど、私の脳に万一の事があった時には、私に代わってこの身体を動かしてくれる。危険が付き物の特殊公務員にとって
は命綱みたいな物だよね。じゃあ、フツーの会社員の私にはあまり関係ない代物かというと、それがそうでもないんだよ。
カンタンな作業なら私が寝てても私の代わりにやってくれる。使い方を間違えなければ、とっても便利な機能なんだけどね……。


「八木橋さん、ちょっといい?」
「はい? 先輩、何でしょうか?」
「部長がね、会議室3にすぐに来てくれって」
下っ端社員の私に部長直々のお声がかりって……。
「うー、用件は何ですか?」
「さあ、私はただ八木橋さんを呼んでくるように言われただけだから」
「……」
「別に怒っているようには見えなかったわよ?」
「先輩、それじゃまるで、私がいつも怒られてるみたいじゃないですか」
「あら、違うの? うふふ、冗談よ。早く行かないと、本当に怒られても知らないわよ」

先輩、いい人なんだけど、なにかにつけて私をからかうの、なんとかならないかなあ。会社に入ったら、いじられキャラは
卒業だあ!って思ってたんだけどなあ……。あ。会議室3。ここだ。

ノックをして部屋の中に入ると、大きな会議テーブルの向こう側に部長が座ってる。
「おお、八木橋君、ご苦労様」
……部長、私、まだ何もしてないんですけど。
186名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 01:49:45 ID:xiF5Otft0
「八木橋君を見込んで、ぜひやって欲しい仕事があるんだが。引き受けてもらえるかな?」
「あの、どんな仕g」
「君にしかできない仕事だよ。どうかな、やってくれるよね?」
「私、今日中に仕上げなければならない報告s」
「ああ、それは課長に言っておくから、八木橋君はこの仕事だけやってくれればいいんだよ。どうかね?」
「……はい」
どうやら私には選択権は無いらしい。

「うん、八木橋君ならきっと引き受けてくれると思っていたよ。実はだね」
部長は、会議テーブルの反対側にある紙の山を指し示す。部屋に入ったときから、ずーっと気になってたんだけど……。
「コピー機が故障していてね。午後イチの会議に使う資料をコピーしたのはいいんだが、ソートもホチキス留めもできてい
ない。コピーが終わってから気づいたんだが、まさかこのまま配るわけにはいかないだろう?」
同意を求めるように、言葉を切って私の顔をじっと見つめる。
「……はい」
他に答えようがあるだろうか?
「うんうん。八木橋君もそう思うだろう。そこで!」
再び言葉を切って意味ありげに私の顔を見る。次に出てくる言葉は分かっているけど、私には相槌を打つしかない。

「君の仕事というのは12時までに、このコピーを資料の形に仕上げるというものだ。なに、ページ毎の山になってるから、
ページ順に揃えてホチキス留めすればいいんだよ。八木橋君の力をもってすれば12時までにできるだろう?」
部長はカンタンに言うけれど、この紙の山の高さ、半端じゃない。こんな単純作業、誰だってできるだろうけど、これじゃ
みんな嫌がるだろうなあ。
「はい。大丈夫、です」

最後に出かかった「多分」という言葉を飲み込みながら、私はできるだけ明るい声で返事をした。部長にどう思われてもか
まわないけど、嫌々やってるって自分自身で思いたくなかったんだもん。

部長は、よろしく頼むよ、なにしろ大事な会議の資料なんだ、と何度も繰り返しながら部屋を出て行った。12時ちょっと前
に秘書ができあがった資料を取りに来るとも付け加えてた。
187名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 01:51:32 ID:xiF5Otft0
会議室には紙の山と私一人。報告書作成は苦手だけど、こんな単純作業も有難くない。機械の身体の私には壊れたコピー機
の代わりぐらいがお似合いってことかなあ。確かに何時間同じことを繰り返しても疲れないし文句も言わないけどさ。

こんなことを考えていても仕方がない。時間は限られているし、この紙の山を見るとそんなに時間の余裕があるとも思えな
い。ざっと見たところ、部長の言葉通り紙の山はページ毎に分けられてページ順に並んでいるようだ。端から順に1枚ずつ
取って4隅を揃えてホチキス留めすればいいんだよね。簡単、カンタン。

でも、その簡単なところが曲者だった。10分くらい続けたところで、もううんざりしてきちゃった。身体は機械かもしれな
いけどさ。心は人間なんだ。やっぱり、こんなことを何時間も続ける気になんかなれないよ。

ん? 心は人間? じゃあ、もしも心も機械にしちゃったら?

私のサポートコンピューターには、私の脳に万一のことがあって意識をなくした場合に備えて補助AIがプログラムされてい
る。ロボットのAIみたいに物を考えることはできないしょぼい代物だけど、見たり聞いたりしたことに反応して身体を動か
すことくらいなら十分こなしてくれるはず。私がやっていることを覚えて真似してくれるから、難しいプログラムの知識な
んかいらないし。よし、試してみよう!

サポートコンピューターの設定画面から補助AIを呼び出して、【追従→代行】【自動切換】【繰返し有り】にチェックを入
れて起動する。これで私のしたことを真似して自動的に繰り返してくれるはず。

集めて、揃えて、ガチャッ
集めて、揃えて、ガチャッ
集めて、揃えて、ガチャッ

3分くらい続けてから身体を動かすのをやめてみた。私は何もしているつもりはないのに、身体が勝手に動いて作業を続け
てる。

集めて、揃えて、ガチャッ
集めて、揃えて、ガチャッ
188名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 02:04:36 ID:xiF5Otft0
うんうん、いい調子。私が自分で手足を動かそうと思ったら、身体の制御が補助AIから私の脳に自動的に切り替わる仕組み
だから、私はこのままぼーっとしてればいい。こうして勝手に身体が動いているのを見ていると、なんだか身体が乗っ取ら
れちゃったみたいな変な気分。

集めて、揃えて、ガチャッ
集めて、揃えて、ガチャッ

これならあとは補助AIに任せて私は寝ちゃってても大丈夫。補助AIがやっても間に合わないようなら、私が自分でやったっ
て間に合わないんだ。それに補助AIは飽きることなんてないし、単純ミスもしないから、むしろ私なんかよりよっぽど信用
できるはず。あれ? それじゃあ、私、機械より信用ないってこと? うー、なんか自分で言っててむかつくぞ……。

一応念のため時計機能のアラームを12時ちょっと前にセットしておこう。なるべく眠らないつもりだけどさ。することがな
くなって暇なので、資料の中身でも読んでみようかな。細かい字がびっしり詰まってるから、さっきは読む気になれなかっ
たんだよね。

えーと、なになに、”本資料は永康32年より開始される第十六次中期防衛整備計画の一環として配備予定の次期主力戦闘義
体GX-IVに関する提案を行うにあたり、第ニ開発部第三類特殊義体開発チームが本年2月から実施した技術検討の結果をまと
めたものである。なお、本検討の前提条件は、@現在開発中のCS-42型義体をベースとすること、AGX-III(開発仕様書
第10024929号)を総合戦闘力において22%以上回ること、及びB1体当たりの製造コストを12億円以下とすることの3点で
ある。”

え、えーと……。資料をよく見ると「極秘」とか「厳秘」とか、やたらあちこちに書かれてる。部長、こんなもの、平社員
の私に任せていいんですか……orz

うん、見なかった。私は中身は一切見なかった。だって私の仕事は単に紙をまとめてホチキス留めすることなんだもの。中
身なんか見なくたって、何の問題もありはしない。落丁や乱丁さえ出さなきゃいいんだよ。だから、私はなーんにも見てい
ない。……部長、信じてくれますよね……orz

中身も見れないとなったら、私がすることは何もない。もういいや。終わるまで寝ていよう。
189名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 02:05:43 ID:xiF5Otft0
集めて、揃えて、ガチャッ
集めて、そろえて、……
………
……


……サポートコンピューターからの機械的な刺激で目が覚めた。あーあ、怖い夢みちゃったなあ。さて資料、できてるかな?

テーブルの上を見ると、そこにはもう紙の山はなかった。代わりに綺麗に揃えられホチキス留めされた資料が積まれてた。
まだ少し紙が残っているけど、作業は終わったと言っていいだろう。

凄い、凄い!

私は補助AIを見直した。しょぼいなんて言っちゃったけど、ちゃんと使ってあげればこんなに頼れる奴なんだ。これからも
機会があったら使ってみよう。よろしくお願いします、補助AI君。

その時、控えめにドアをノックする音がした。慌てて自分で手を動かし始める私。やっぱり人が見ている前では補助AIで機
械的に動いているロボットって姿を晒すのは嫌だもの。たとえ見ている側には違いがわからなくてもね。

入ってきたのは私が知らない女性だった。部長が言ってた秘書の人なんだろう。確か、最近新しく来た派遣の人だと聞いた
気がする。積み上げられた資料に目をみはって、八木橋さん、本当に間に合わせてしまうなんて凄いです、さすがサイボー
グの人は違いますね、だってさ。あれ? もしかして私、信用されてなかったの? うー、無理やりこんなことを押し付け
ておいて酷いよう。でも、私だって補助AIに押し付けて居眠りしてたからおあいこか。それは置いといても、イソジマ電工
で働いているのに、サイボーグはないだろうって思うんだけど。それ差別用語なんだよ? まだ会社に来て間もないから、
そういうのも仕方ないのかなあ。

資料を台車に積み込むのを手伝って、全部積み終わったのが12時ちょうど。お昼の合図のチャイムが鳴り出した。あー、も
うこんな仕事は二度とごめんだよ。
190名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 02:08:08 ID:xiF5Otft0
部長の言葉通り、今日中に提出しなければならない報告書の分量は1/3に減っていた。午前中ずっと離席してたから、先輩達
から何か言われるかと思ったけど、あの部長から変な仕事を押し付けられて大変だったわね、という言葉をかけられただけ
だった。もしかして、部長、社内では有名人なんだろうか?

今日はノー残業デー。定時退社して藤原とデートする約束になっている。この分量なら、手の遅い私でも十分余裕をもって
終えられるはず。今時、ワープロじゃなくて手書きの報告書なんて時代遅れもはなはだしいって思うけど、担当患者を想う
気持ちを込めて書くべし、という課長のありがたい方針があるからしかたない。

さあ、頑張ろう! 気合を入れて作業を始めたんだけど。午前中、中途半端に居眠りをしたせいだろうか。1/4位まで埋め
たところで眠くなってきちゃった。ああ、駄目だよう! この報告書を書き上げないと帰れないんだ。久しぶりのデートな
んだから、絶対に仕上げて帰ら……な……きy……
Z…… z…… ……
……

今日の藤原は、なんだかとっても積極的だ。いつもだったら、こんなこと、私がしてって言っても恥ずかしがってしてくれ
ないのに。ああ、そんなに激しくしたら、いくら私の身体が機械でも、壊れちゃうよう! うん、そう、もっと優しく……。
ひあっ! そこは、駄目。駄目だって……ば……?

あれ? 藤原、どこいっちゃったの? なんで私、服を着てるんだろう? なんでこの部屋はこんなに明るいんだろう?
っていうか、なんでいつもいつもえっちの夢ばっかり見るんだよう!

もう、ボケてる場合じゃない。報告書、1/4くらいまでしか書いた記憶が無い。あと20分で終業時刻になっちゃう。間に合
わないよう! 慌ててボールペンを手にする私、なんだけど。

……えーと? もしかして全部終わってる? これ、どう見ても私の字だし、ゼンゼン筆跡が乱れてない。この間みたいに
寝ながら書いたってわけじゃなさそうだ。数値欄には数字が入ってるし、文章欄もちゃんと埋まってる。なんだ。できてる
じゃないか。きっとあんな夢をみたせいで書き上げたって記憶が飛んじゃったんだよ。うん。そうだ。きっとそうに違いな
い。だって、そうじゃないと定時退社に間に合わないんだもの。
191名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 02:23:27 ID:xiF5Otft0
課長に内容をチェックしてもらっている間、ちょっとドキドキしながら自席で待つ。時々、課長の様子をこっそりうかがう
と……あれ? なんか眉をひそめてるよう。やっぱりミスが多かったのかなあ。

「八木橋君?」
「は、はいっ!」
お呼びだ!

「この報告書だけど」
「はい」
「君の小人さんは、ずいぶん器用な芸を持ってるね」
小人さん? え、えーと? 困惑する私にかまわず課長は言葉を続ける。
「まあまあ良く書けてるよ。いつもの君らしいミスがいくつかあるけれど、それは特に問題ない」
「はい」
「ただし初めの1/4だけだ。残りの3/4がそのコピーだっていうのは、どういうことかな? 一言一句間違いなく書き写して
いるように見えるんだが? 君がミスしている箇所も含めてね。こんな報告書を見るのは初めてだよ。君にはよほど風変わ
りな小人さんがついているみたいだな」
え、……ええっ!? 私にも何がなんだか分からないよう。いくら眠ってたとしても、私、そんな器用なこ……と……あっ!

サポートコンピューターにアクセスして補助AIの設定画面を呼び出す。思ったとおり、状態表示が【動作中】になっていた。
さっき秘書の人が部屋に入ってきた時、私、慌てちゃって補助AIを止めるの忘れてた。だから、私が居眠りしている間に補
助AIが報告書を書いていたんだ。計算したり文章を考えたりすることなんかできないから、私が最初に書いた通りのことを
そっくりそのまま真似をして……。
「総務には私から残業と深夜勤務の申請を出しておいたよ。今日は、報告書の書き方についてじっくりと話し合おうじゃな
いか。異存はないね?」
「……はい」
他に答えようもない。
192名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 02:25:51 ID:xiF5Otft0
とりあえず藤原に電話して、今日のデートをキャンセルすることを伝えた。あまりにも残念そうな様子だったから、次は必
ず埋め合わせをしてあげるねって言ったら、意味ありげな含み笑いが返ってきた。きっと、コスプレショップツアーとか考
えているに違いない。藤原の趣味は分かってるけど、できればそういうのは勘弁して欲しいなあ。

結局、終電ぎりぎりまでかかって私の報告書が完成した。課長も突っ込みどころがゼンゼンないってくらいの完璧なできば
えだった。これも課長の懇切丁寧なご指導の賜物だ。……課長、手間のかかる部下でごめんなさい orz

気になったので、後で先輩に小人さんのことを聞いてみた。そしたら、にやにやしながらロッカーの中から1冊の漫画本を
取り出してきた。付箋紙を貼ってあるから帰ったら読んでみなさい、って渡された。なんでもアンドロイドの男の子が主人
公の少年漫画だっていうことだったけど。イソジマ電工の社員ならこういうのも読んでおくといいかもね、とも言われた。

翌日、漫画本を返した時の先輩の期待に満ちた顔は、当分忘れられないなあ。先輩に、よく知ってましたね、って言ったら、
課長に全巻貸したの私だから、だって。駄目だ、この先輩には私、一生からかわれ続けるかも orz

課長はどこまで知っていたんだろう。補助AIを使ったことまで知っていたんだろうか?


こびとさんへ

このあいだは、おしごとたくさんてつだってくれてありがとう。とってもたすかりました。

でもね。
こくごとかさんすうとか、にがてなことは、むりしてやらなくたっていいんだよ。
そういうのは、わたしがじぶんでやるからさ。
もしも、このつぎこんなことがあったら、えんしょしないでわたしをたたきおこしてね。おねがいだよう。

ゆうこ

(終)
193名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 10:54:16 ID:u9wMHFsn0
GJ!
194名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 14:55:39 ID:FUfX3MR+0
こびとさんが仕事をやるのはT坂センパイじゃ...
195名無しさん@ピンキー:2006/09/16(土) 15:21:56 ID:hJQajmlp0
T坂センパイは実は一級義体・・・・・・




あ〜る君はうすうす感づいてたみたいだけどね。
196無名:2006/09/16(土) 17:34:45 ID:wKy7vVMd0
  気合が入った運動会(後編)

 それから数日後。お昼休みに松原さんを呼んで、屋上で競技のことを相談する事にした。
 「どう、やってみる自信はある?」
 松原さんは少し恥ずかしい顔になって答えた。
 「でも、私が出たってみんなに反対されるのが関の山よ」
 「大丈夫さ、僕たちが明日のホームルームでみんなに相談するから」
 岡野君が松原さんの近くに寄ってきた。
 「今までの松原さんは自分の殻に閉じこもってる状態なんだ。今回の運動会は自分の殻を打ち破るチャンスなんだよ。それともこのままの方がいいかい?」
 「でも…私なんか出たら…」
 松原さんは困った顔になって顔をうずめてしまった。このままじゃ松原さんは自分の殻から出ることは出来ないかもしれない。かなは松原さんの側に来てこんな事を言った。
 「…このままでいいの?松原さんはこのままずうっと何もいえないでいるわけ?たしかに最初に言い出したのはかなだよ。でもそれは松原さんのことを思って言ったことなんだ。
出るかでないかは松原さんが決める事だけど、本当にこのままでいいのか考えてみてよ」
 松原さんは頭を伏せて少しの間考えた。そして数分後、松原さんは顔を上げて、覚悟を決めた顔になって言い放った。
 「…分かった。私やってみる!今まではなかなか言い出せなかったけど、みんなが後押ししてくれるならやってみるわ」
 よかった、これで松原さんもやる気になったみたいだ。でもかなの心の中には少し不安があった。それはみんながどう答えを出してくれるかだ。
197無名:2006/09/16(土) 17:35:51 ID:wKy7vVMd0
 そして次の日のホームルーム、かなたちは松原さんをかくし芸のメインにしようとクラスのみんなに提案した。でもみんなは反対した。
 「どうして松原がメインにならなくちゃいけないんだ?」
 「あの子は目立たないからやったって無駄じゃないの?」
 予想はしてたけど、こんなに反対するなんて思っても見なかった。これじゃあ松原さんを出す事なんて出来ないかもしれない。
 そんな時、後ろの席から手を上げた人がいた。姫宮だ。
 「わたくしは松原さんを推薦しますわ。あの松原さんでも一生懸命やれば表舞台に立つことができますもの。今回はそのチャンスでもありますのよ」
 普段はみんなの事を軽蔑したような感じで見ていた姫宮が、松原さんを推薦したのだ。こりゃあ夕立でも降るんじゃないかなぁ。
 「姫宮さん、なぜあなたはそんなに松原さんのことを推薦するの?」
 「そうだ、松原は引っ込み思案だから重要なポジションなんて無謀としか言いようがないじゃないか!」
 クラスのみんなも姫宮の発言に文句を言ってる。でも姫宮はこんな事を言ってみんなに言い聞かせたんだ。
198無名:2006/09/16(土) 17:37:01 ID:wKy7vVMd0
 「お黙りなさい!あなた達は自分がこんな立場になったとき、どうお思いですの?相手がそんな事を言いましたら自分はどうするんですの?松原さんもわたくしたちと同じ生徒、仲間ですのよ。それなのにこんな事を言いまして、何様のつもりですの?」
 す、すごい。姫宮がみんなに説得してるよ。姫宮は本気で松原さんを主役にしたいんだ。でもそれを見ていると余計何か裏があるような気がするんだけどな…。
 「わたくしだって運動会で目立つポジションに着きたいですけど、今回は松原さんに譲る事にいたしました。この種目は松原さんが適任でしょうから」
 う〜ん、何か引っかかるなあ…。どうして目立ちたがり屋の姫宮があんなこと言うんだろうか…。もしかしたら…!
 「わたくしは他の種目でがんばることにしますわ。松原さんはかくし芸こそふさわしい人ですから。おーほほほほ」
 ああ、やっぱりそうだ。姫宮は自分がかくし芸をやりたくないから松原さんを推薦したんだ。かくし芸をやるなんてあいつにとって屈辱以外の何者でもないだろうからね。
 そんな姫宮の説得によって、松原さんはかくし芸の競技に出る事になった。結果としてはかな達の思惑通りにはなったけど、結局姫宮がしたことは、松原さんをかくし芸に出場させることで自分がわざと出場しないようにすることだった。
こういう事をさらりとやってしまうのは、さすが姫宮と言っておくべきか。っていうよりは姫宮しかできないとしか言いようがない。姫宮は最初から出たくないからかな達に接近したんだろう。
まったく、人騒がせな奴だよ…。
 今回のホームルームでかくし芸競技に出るメンバーが決まった。かなと和真君、岡野君と松原さん、それに牧山くんだ。言い出した張本人のかなが出るには当たりまえだけど、立候補に岡野君と和真君、それと牧山君が手を上げてくれたおかげで何とかメンバーがそろったのだ。
逆に言えば誰も出る気がなかったってこと。
本当は姫宮も引きずりこもうと思ったけど、連係プレイが取れないのでやめた。何をやるかをみんなで話し合ったけど、
結局演劇みたいなものをやる事になった。発案者は和真君。かなのは、みんなに反対されちゃった…。
199無名:2006/09/16(土) 18:00:55 ID:wKy7vVMd0
 そしてついに運動会の朝が来た。かなと岡野君、それと松原さんは他の委員と一緒に校庭裏に集まって、運動会の進行プログラムを再確認していた。
 「というわけで、これから君達は運動会を盛り上げるために最善を尽くしてもらう事になる。スムーズに運動会が進めるように、大きな事故が起きないようにするのが君達の仕事だ。それではこれからのスケジュールを簡単に説明する」 
 進行役の先生が説明を開始した。運動会の委員の仕事はそれぞれの担当に分かれていて、入退場の誘導役や放送アナウンス役などの分担がある。かな達は道具の片付けの担当をすることになっている。
でも道具の片付けは素早くしないといけないので、結構大変な仕事だったりするのだ。
 「…以上で説明を終わりにする。各自担当の場所に戻って準備をするように」
 みんなは担当場所に戻って確認をすることにした。道具置き場に集合したかな達は、運動会の道具を再チェックすることにした。
 「それにしても結構大きいものがあるねー」
 「それに細かいものもあるからね、色々と大変だよ」
 かな達は六年の先輩達に確認をしてもらいながら道具のチェックをしていくことにした。大きい道具から小道具まで、異常がないか調べていった。
 「これで全部だね」
 「よし、やっと終わった〜。後は開会式を待つばかりだね」
 かな達は自分たちのクラスが並んでいる場所へ移動した。移動する最中、かなは松原さんにかくし芸の事を話してみた。
 「松原さん、午後のスケジュールにかくし芸やるんだけど、大丈夫?」
 「うん、上手く出来るかどうか分かんないけど、出来るだけの事はするよ」
 本番というのもあるのか、松原さんはいつもより気合が入ってる感じだ。かな達も負けちゃいられないぞ。みんなでがんばって絶対一等賞とろう!
200無名:2006/09/16(土) 18:02:28 ID:wKy7vVMd0
 開会式が終わり、次々と競技が行われる中、かな達は道具の片付けや準備に大忙しになっていた。道具は大きいものから小さいものまであるから、
つい忘れ物をしちゃったり、重くて持っていけなかったりしたけど、何とか大きなミスをしないですんだ。それにしても道具の数が多すぎるよ。
一部兼用してるのがあるとはいっても、これだけの量を運ぶにははっきり言って人手がいないと素早くなんてとても無理だ。先輩や先生達が手伝ってくれるけど、とてもきついのは変わりない。
 「は〜、道具運びって結構辛いとは思わなかったよ」
 「そりゃそうだろう、全プログラム中の半分は道具を使う種目なんだ。この仕事がきついのは当たり前だよ」
 岡野君がかなの肩を叩いた。そりゃそうだけど、辛いもんは辛いよ。もっと楽な仕事だったらよかったんだけどなあ。
 そうしてる内に、かなが最初に参加する種目の時間が来た。とりあえず出場者が集まる場所へ集まらないとね。
 「それじゃあ、かなは出ないといけないから、移動するね」
 「かなちゃん、がんばってね」
 松原さんが小さい声でかなを応援してくれた。
 「ありがとう。じゃあ行ってくるね」
 かなは猛ダッシュで道具置き場を後にした。
201無名:2006/09/16(土) 18:03:39 ID:wKy7vVMd0
 かなが最初に出るのは障害物競走。これは昔から得意な競技だったりする。だから一等賞になる自信があるんだ。
 「位置について、よーい、スタート!!」
 障害物といってもかなにとってはどうってことないものばかりなので、楽に乗り越える事が出来た。そして…。
 「やったー、トップになったぞー!」
 見事一位になったのだ。他の生徒は少し遅れてゴールイン。この競技はかなの圧勝だった。
 「やったな、かなやん」
 控え室から和真君と祐喜ちゃんがかなのもとにやってきた。
 「一等賞、すごいじゃない。こんな特技があるなんてビックリしたわ」
 「いや〜、それほどでも〜」
 「それにしてもかなやん、何で裸足になってるんだ?痛くないのか?」
 「ああ、これね。このほうがけっこう走りやすいんだ」
 本当はこのまま走っちゃうと靴の減りが早いから、わざわざ裸足になって走ってるんだけどね。でも裸足で走ると、
靴はいて走るより地面と一体になってる感じがするからこれはこれで気持ちいいんだ。
 「お前、いつもこれで走ってると裸足キャラになっちまうぞ」
 「い、いいじゃん、これで」
 和真君がこんな事いうから照れちゃったじゃないの。でも裸足キャラになってもこれはこれで良いかもね…。
 和真君たちと別れたかなは、裸足のままで道具置き場に戻ってきた。座ってるのは岡野君だけで、松原さんの姿は見当たらなかった。
 「ただいまー。あれ、松原さんは?」
 「トイレに行ってるよ。それにしてもすごいな、かなちゃん。一等賞取れるんだもんな」
 「いや〜、それほどでもないよ。日ごろから練習した結果だよ」
 かなは折りたたみ椅子にドカッと座った。
202無名:2006/09/16(土) 18:11:35 ID:wKy7vVMd0
 「…かなちゃん、どうして裸足のままなの?ケガしないの?」
 「いやね、次の競技まで靴はいてるのもめんどくさくてね、このまま裸足で通そうかと思ってるんだ」
 「ケガだけは注意するんだよ。グラウンドに針や釘でも落ちてたら大変だからね」
 「うん、気をつけるよ」
 岡野君と色々話してるうちに、松原さんが帰ってきた。
 「ごめん、トイレ結構込んでて時間がかかっちゃった」
 「ううん、気にしなくていいよ」
 「それよりかくし芸のネタ、何とかなりそう?」
 そう、これまで練習してきて成功したのがまだ二,三度しかないのだ。そのために何とか成功させようと毎日練習をしてきたのだ。
 「何とかなりそう。これまで一生懸命練習したから」
 「そうか、僕たちも成功できるようにがんばろう」
 「よ〜し、絶対みんなで高得点とろう!」
 かな達は手を合わせてかくし芸成功を誓いあった。
203無名:2006/09/16(土) 18:12:53 ID:wKy7vVMd0
 午前の部が終わり、応援に来たお兄ちゃんたちと一緒にお弁当を食べると、いよいよ午後の部がスタートした。かくし芸競争はプログラム順だと前から3番目になる。かな達は準備するため、最後の点検を始めた。
 「今日が本番だから、一生懸命やって悔いのない芸にしよう。練習では何とか成功してるから焦らなければ必ず成功する。みんな、用意はいいか?」
 「はい、小道具も準備OKです」
 「体調もバッチリです」
 「よし、それじゃみんな、最後までがんばろう!」
 というわけで、かな達は小道具の移動を開始した。かな達がやるのは勇者のドラゴン退治のネタだ。かくし芸といっても人を笑わせるだけがかくし芸じゃないから、こんなのもありだろう、と岡野君が提案したのだ。
だからドラゴンの着ぐるみや剣や鎧などの道具を用意しないといけないんだ。でもそれがけっこう時間がかかってね…。完成したのが昨日だったんだ。それまでは何も着けないで練習をしたんだよ。
つまりこの本番が道具を使う最初で最後の芸ってわけ。だからとても緊張するんだよね。
 「みんな、いよいよ出番だ。入場門へ移動しよう」
 かな達は道具と衣装を持って移動を開始した。

 「それではプログラムナンバー24番、校内かくし芸競技を行います。選手は入場してください」
 ゾロゾロと入場するかくし芸の選手達。かな達が出場するのは一番最後だった。
 「まずは4年1組の『駐車場にて』です」
 ついに始まった。1組と2組はお笑い系で勝負に出るみたいだ。そうなるとかな達3組はちょっと辛い立場になるかもしれない。それでもやらなくちゃいけないんだ、3組のためにも、そして松原さんのためにも。
 1組の芸が終わり、2組の芸も終わった。いよいよかな達の出番が来た。
204無名:2006/09/16(土) 18:22:53 ID:wKy7vVMd0
 「それでは3組のかくし芸、『ドラゴンと姫』です。どうぞ」
 かな達が入場すると、校庭の観客達が一斉に拍手をしてくれた。本番という事もあってみんな緊張してるみたいだ。そんなこと言ってるかなも少し緊張気味なんだけどね…。
 このかくし芸は連れ去られた姫と城の番人であるドラゴンの会話が中心になる。ドラゴン役は和真君と牧山君で、お姫様役は松原さん。そして助けに来る騎士役が岡野君だ。
え、かなは何の役かって?かなは…進行役、つまりナレーターだったりする。つまり物語には出ないんだよ…。言い出した本人が芸に出ないなんて何てざまだよ…。
 (国のはずれにある谷に住んでいるドラゴン兄弟はとても評判が悪く、いつも国中を暴れまわっていました。その兄弟が目に付けたのがこの国の美しいお姫様でした。
お城から連れ去られてしまったお姫様は、ドラゴン兄弟によって部屋に閉じ込められてしまい、恐怖におびえる日々を過ごしていました)
 「姫様、この部屋はお気に召しましたか?」
 「ここにはあなたが望んでいる宝物や食べ物、洋服などがいっぱいございますぞ」
 (しかしお姫様は兄弟の言う事を聞こうともしませんでした)
 「私が望むものは…家に帰してもらう事です!さあ、早くここから出して!!」
 すごい、松原さん、もうその気になってるよ。このままいけば無事に芸を終わらせる事が出来るかも。
 「それは出来ませんな。ここから出してしまうと、この部屋につれてきた意味がなくなる。おとなしくこの部屋にいれば俺達は悪いようにはしない」
 「この部屋にはあなたにとって居心地が悪いとでも言うのですか?」
 牧山ドラゴンのセリフが終わった後、少しの間周りが静まり返ってしまった。…あれ、どうしたんだろう。この場面は松原さんの番のはずなのに、黙ったままだ。もしかして松原さん、セリフ忘れたんじゃ…!
205無名:2006/09/16(土) 18:23:35 ID:wKy7vVMd0
 『おい、松原のセリフだぞ』
 『松原さん、どうしたんですか』
 ドラゴンの二人が松原さんに小声で話しかけているみたいだ。やっぱりセリフ、忘れたんだ…。
 「わ、私は…」
 松原さんがセリフをしゃべり始めた。少しつっかえた口調でゆっくり、少しずつ話していった。
 「私は一時でも早くお城に戻りたいんです。だから早くこの部屋から出してください!」
 よかった、少し台本どおりじゃないけど、何とか進めることが出来た。
 「そんなに部屋から出たいのか?だがあなたはここから出ることは出来ない。なぜならこの部屋には結界が張ってあるからだ。
諦めて俺たちの物になるがいい」
 (その直後、何者かがこの場所に入ってきた。そう、その人物は姫を救いに来た騎士であった)
 「誰だ?こんな所に紛れ込んできた向こう見ずな奴は?」
 「お前達が悪魔の申し子ならば、この私は神の使いに成らん!王宮騎士、来臨!!」
 お、岡野君、それってどこかのヒーローのセリフじゃないの。まあ進めてくれるならいいか。
 「王宮騎士だと?お前が姫を助けに来たとでも言うのか?」
 「その通り、さあドラゴンどもよ、観念するんだな!」
 「ま、待て。ここは一つゲームで勝負しようじゃないか。俺たちも無駄な争いはしたくないんだ」
 「そうやって私を騙すつもりか?」
 「いや、そのつもりはない。俺達は駆け引きをしたいだけなんだ」
 「駆け引きだと?そんなことを言って私をたぶらかすつもりだろう?」
 「馬鹿な事いうな!じゃあこれならどうだ?もしお前が勝負に勝ったら姫は返してやろう。だがもしお前が負けたときは…!」
 「人に観られないほどの格好で街を徘徊してもらうぜ!!」
 (そう言ってドラゴンの弟は、死ぬほど恥ずかしい衣装を持ってきた)
 …って、これってフリルのドレスじゃないの。どこから持ってきたんだ、こんなの。
 「…いいだろう、その勝負乗った!!」
206無名:2006/09/16(土) 18:24:37 ID:wKy7vVMd0
 (そんな訳で、ドラゴン兄弟vs王宮騎士の勝負が始まった。勝負内容は、あるものを多く借りたものが勝ちとなる『借り物競争』。
紙に書いてある品物を多くこの部屋に持ってきたものが勝ちとなるゲームである)
 このゲームの発案者は牧山君で、すこしでも芸を盛り上げようと、ちょっとしたゲームでもしてみようか、という事で付け加えたものなのだ。
 「というわけだ。さあこの箱の中から紙を引くのだ」
 まずは岡野君がくじを引いて、それからドラゴンの兄役の和真君がくじを引いた。
 「これは…一体どういうことだ?!」
 「おおっと、忘れていたがここに書いてあるものは必ずここに持ってくるのが今回のルールだ。もし時間内に持ってこなければ姫様はここから出ることは出来ないぞ」
 「わ、分かった。持って来ればいいんだな」
 「そういうことだ、それでは始めるぞ。これから5分以内で品物をここに持ってくること。いいな。それでは、よーい、スタート!!」
 (騎士とドラゴン兄は一斉に持ち物を探しに出かけた。果たして勝つのはどっちか?)
 それから2分後…、先に帰ってきたのはドラゴン兄だった。
 「どうやら勝ったのは俺のほうだな。あいつはまだ探してるぜ」
 「見つかりっこないのにな。何せその紙にはどうしても持ってこれないものが書かれてあるからな」
 (何てことでしょう。ドラゴン兄弟は姫を解放する気など最初からなかったのです。結局騎士は何も持って帰ることが出来ませんでした)
 「どうやら勝負あったようだな。約束どおりこの恥ずかしい服を着て街を歩いてもらうぞ」
 「仕方ない、約束は約束だ…」
 (しかし一部始終を見ていた姫が、ドラゴン兄弟に異議を立てました)
 「待って下さい、あの兄弟は卑怯な事をしました。だから…」
 また松原さん、セリフを忘れてるよ。なんとかしてよ、和真君たち。
 「だからなんだ?俺たちがずるをした証拠があるのかよ?」
 「この通り、あいつは負けたんだぞ。今頃言っても遅いぜ」
 (笑うドラゴン兄弟。しかし姫は勇気を振り絞って兄弟に向かって叫びました)
207無名:2006/09/16(土) 18:31:54 ID:wKy7vVMd0
 「あ、あなた達はわざと騎士さんが負けるように仕向けたのです。そんなあなた達を、私は許しておけません!」
 よし、松原さんも調子を取り戻したぞ。後はエンディングまで一直線だ。 (そのとき、姫が持っていたペンダントが光りだし、騎士の鎧に当たりました。その光は反射して、ドラゴン兄弟を照らしました)
 かなは用意していたライトをつけて、ドラゴン兄弟に当てた。
 「ぐおおっ、まぶしっ」
 「やめてくれ〜!」
 (光を浴びた兄弟はこの場にいられなくなり、遠くへ逃げてしまいました)
 「大丈夫でしたか、姫様」
 「何が大丈夫でしたよ、私の力がなかったら負けてたくせに」
 「す、すいません」
 「さ、早くここから出してよ。早くお城に帰りたいのよ」
 「は、はい」
 すごいな松原さん、吹っ切れるとここまで演じる事が出来るんだな…。感心したよ。
 (こうしてお姫様は騎士を尻目に、さっさとお城に帰っていきましたとさ。めでたしめでたし…)
 こうしてかな達のかくし芸は終了した。見てた人たちも結構受けがよかったみたいで、笑ってた人もいたくらいだった。でもこれでよかったのかなぁ…。審査員の受けもよかったのか、
結局3組が1位になったのは言うまでもない。
 
 楽しかった運動会も最終種目のリレーが終わり、ついに結果発表になった。
 『それでは、合計点数を発表します。 3位、一組、2位、二組、そして1位は、3組でした』
 湧き上がる3組サイド。もちろんかな達も喜び合った。毎日放課後残って練習した甲斐があったよ。
 「やったね松原さん、これで自信が付いたね」
 かなが松原さんのほうを振り返ると、松原さんは泣いていた。
 「…どうしたの、松原さん?」
 「私…みんなを見て嬉しくなって…。そうしたら急に涙が出ちゃったの…」
 そうか、松原さんはみんなが喜んでるのをみて感動したんだ。でもこれはみんなのがんばりだけじゃないよ、松原さんが一生懸命がんばって演技したから優勝できたんだよ。
208無名:2006/09/16(土) 18:33:27 ID:wKy7vVMd0
 二日後、かな達は運動会の道具を片付けることになった。これが進行委員会の最後の仕事だ。片づけている松原さんの顔は迷いが飛んでいった、そんな感じだった。あの芸をやったのがきっかけで吹っ切れたのかもしれない。
 「松原さーん、この荷物倉庫へ運んでくれない?」
 「分かりました、すぐに運びます」
 ほんと、見違えるように変わったよ。あんなに控えめだった松原さんが積極的に行動するようになったんだから。これはかな達も驚いたよ。
 「これでよかったのかなぁ。また元に戻らなければいいけど」
 「大丈夫だよ」
 一緒にテントをたたむお手伝いをしている岡野君が、かなのほうを見た。
 「確かに彼女は積極的に行動するようになった。でもそれは自分が変わりたいという気持ちをあの芸で知ったからじゃないかな。そのおかげで松原さんは積極的に行動できるようになった。これは引っ込み思案な彼女にとって、新しい自分を知った第一歩なんだ。
人間は変わりたいと思えば変わることは出来る。でもそれを実行できるかどうかは自分の決断しだいなんだ。松原さんは変わりたいという願望を出せないでいたのかもしれないね」
 う〜ん、よく分からないけど、引っ込み思案なところだけが変わって、他のところは前と同じというわけだね。それなら安心した。
 「かな、運動会委員やってほんとによかったと思うよ。だって岡野君や松原さんと仲良くなれたし、松原さんも明るくなったし」
 「でも一番大切なことを忘れてないかい?運動会を盛り上げてくれたのは、君なんだよ」
 テントの支柱を拾いながら、岡野君はこんな事をいった。
 「あ、そっか。かくし芸を提案したのって、かなだったっけ」
 「すべては君のおかげさ。あの時、かなちゃんがかくし芸をやろうと言わなければ、運動会はあんなに盛り上がらなかったし、松原さんも前と同じだったに違いない」
 全部の支柱を回収用のカーゴに積んだかな達は、滑り台があるところへ移動した。
 「か、かなはそんなたいしたことしてないよ。ただ、みんなが楽しく運動会をしてくれればなぁ、って思っただけだよ」
 かなは滑り台の上を駆け上がった。
 「かなちゃんらしいや」
 今回の運動会を通してかなは色々の事を学んだ気がする。それに岡野君や松原さんとも友達になれたし。今回に運動会は一生忘れられない思い出になったよ。  
209無名:2006/09/16(土) 18:51:46 ID:wKy7vVMd0
「気合が入った運動会」の後編をお送りしました。
後編を待っていた方々、お待たせしてすいませんでした。今回はなかなかはかどらなくて
掲載できないでいました。そうしているうちに前のスレがいっぱいになってしまい、少し
あせってしまいました。これからはできるだけ早く物語を完結させようと思います。
 さて次回は番外編です。久しぶりにサイボーグ関連のお話になります。その後にメンテナンス
のお話にしたいと思います。どうぞお楽しみに。
>>176
義体はあくまでも人間扱いでしょうから、荷物扱いになることはないと思います。
それ以前に義体の電源などを落として荷物の状態にするのは原則として禁止されるかもしれませんね。
それにしても荷物扱いされるのは本当にかわいそうですね・・・。
>>185 >>192
補助AIのお話ですか。確かに便利ではあるけど、それがかえってあだになってしまったのはどうしようも
ないのかもしれません。それなら忘れたほうがよかった、ということになるんでしょうか。義体はその点では
便利かも知れませんが、それだけ人間らしくなくなるということなのかもしれませんね。今回もヤギーさん、
苦労のしっぱなしですね・・・。


210pinksaturn:2006/09/17(日) 12:20:54 ID:Jnqku3BO0
(オプションパーツの続きです。)
−−(27)民間宇宙保管官(後編)−−

(高度200`の低軌道)

ハル:「あーあ、あいつこんな場所でブースター2個も投棄しやがった。
まったくもう。私らの苦労も知らないで、金持ち国はこれだからなぁ。
ほお、あんな風に3機合体で大型宇宙船になるのね。良くできてるな。
ところで、燃料やば目なんだけどササたち早く来てくれないかな。」

マツ:「おーい。お待たせ。」

ミツ:「ふーん、あいつかぁ。見た目手強そうねぇ。」

ササ:「何でもうすらでかく作るのが北米連クオリティでしょ。
サイボーグったって、所詮チンピラ民兵なんでしょ。大したこと無いわよ。」

ハル:「あいつさっき、すぐそこでブースター2個も投棄したんだ。
こんな迷惑な場所でゴミ投げ捨てるんだから、きっとガラの悪い奴だよ。
私が、とっちめてやりたいけど燃料やばいんだ、あとお願いね。
乱暴そうな奴だから一応気を付けてね。」

スージー:「ん、小型船が3機近づいてきたな。盗人小娘どもだろうな。
もう邪魔しに来たか。発進地点まで時間が無いし待機軌道は外れたくないな。
ここでこんな雑魚相手に戦うわけにはいかないのよね。とりあえず無視無視。」

ササ:「んと、外国船だから国際緊急周波のアナログね。滅多に使わないわね。
で、自動即時翻訳は英語で良いのかしら。ガラの悪い英語でも大丈夫かな?。
よし、設定終わり。んー、挑発の文句か。ゴミ投げてたからなあ...よし。
あー、そこの大型宇宙船の人!。こんな場所でゴミ捨てちゃダメじゃないの!。
ちゃんと拾って自分で始末なさい。こら、聞こえているんでしょ!。」
211pinksaturn:2006/09/17(日) 12:21:55 ID:Jnqku3BO0
スージー:「うるさいなあ。お前らに指図される筋合いなんか無いわよ。」

ササ:「(女のようね。サイボーグって話だったから当然か。)
そんな勝手な事していると次に上がってくるときあんたにぶつかるわよ。」

スージー:「私の帰還予定はずーっと先だからそれまでに大気抵抗で落ちるわよ。」

ササ:「なんて性格の悪い香具師なの。どうせ顔もブスなんでしょ。」

ミツ、マツ:「やーい、ブスブスブス...」

スージー:「(超つまらない挑発ねえ。)外見なんて気にしてないよーだ。」

ササ:「アナログ通信中止。だめだわ。全然挑発に乗ってこないよ。
仕方ないから、3隻で前方を飛び回って発進を妨害しましょう。」

ミツ:「強引に発進されたら危ないわね。」

マツ:「加速の兆候があっらら待避するしかないわね。」

スージー:「ふん。惑星間に出るのを妨害する気ね。お、あと1分か。
チキンレースなら負けないわよ。化学エンジン点火用意3,2,1,GO!。
どけー!馬鹿者ども。」

マツ、ミツ、ササ:「わあああ、待避、待避、待避。」
212pinksaturn:2006/09/17(日) 12:22:49 ID:Jnqku3BO0
ササ:「危なかったあ、あの図体で凄い加速ね。」

ミツ:「悔しいけど追いかけるのは無理ね。」

マツ:「あの炎の色は液体酸素−ケロシン系の液体燃料エンジンね。
推力はばかでかいけど、燃費が悪いから打ち上げ時以外に使う物じゃ無いのになあ。
貴重な石油じゃぶじゃぶ使いやがって、とんでもない贅沢な奴だわ。」

ササ:「とりあえず、報告しないと、リエさん...」

工場衛星からリエ:「...そう、挑発しても戦わずに振り切っていったか。
意志の固い奴だな。手強いわねえ。誰も怪我はない?。うん無事で良かったわ。
その性能でこの進路だと一旦火星軌道側に出て後ろから”みくら”を追えるわね。
こちらから殿下に通信入れておくからデブリ拾って引き揚げなさい。」

ササ:「えーっ、あいつのゴミなんか拾うのぉ。」

リエ:「冷静になりなさい。デブリの放置はこっちも困るんだから。
それに、どこのデブリだろうと拾ったら収入になるでしょ。」

マツ、ミツ、ササ:「はーい。収入収入...ぶつぶつ。」
213pinksaturn:2006/09/17(日) 12:26:24 ID:AHsU/4/e0
(”みくら”会議室)

朝子10世:「リエから報告してきた大型船がこちらに向かっているようです。
真理亜が入手した情報によると愛国民兵会という民間防衛組織の武装船です。
乗員は戦闘型のサイボーグらしく、民間宇宙保安官と自称しているとのことです。
接触した者の報告では女性で、凄まじい加速に耐えたことから事実でしょう。」

翡翠:「外務省の妨害工作によって北米連ではサイボーグ兵が作れないはずでは?。」

朝子10世:「それはあくまでも正規軍の兵士に関してです。民間は別ですよ。
あの国は民間人の武器所持を殆ど規制していないし、人体改造への法的規制も緩いのです。
無論、サイボーグや惑星間航行船ですから政府が何らかの支援をしているのでしょう。
ただ、政府が表に出なければ宗教勢力だって強硬に阻止はできないでしょう。
それに、タカ派団体のことですから一部の宗教勢力には賛同させたかも知れないわね。」

翡翠:「政府のコントロール下にない戦闘サイボーグですか、厄介ですね。」

朝子10世:「その通り。その団体は平素、不法越境者を正当防衛名目で射殺しています。
なにか言いがかりをつける理由を用意していて、攻撃してくる可能性は高いでしょう。
民事紛争に関わる実力行使という名目なら、宣戦布告は関係ないですからね。
重武装好きの北米連の民兵ですから、もしかしたらバズーカ砲とか内蔵している鴨ね。
一方この艦は、降下艇のエキシマビーム以外に重火器類を積んでいません。
攻撃された場合の対策を考えたいのですが、皆の意見はどうですか?。」

リホ:「その戦闘艦が出現したのは初めてですよね?。」
214pinksaturn:2006/09/17(日) 12:27:25 ID:AHsU/4/e0
朝子10世:「報告された範囲ではその通りよ。」

リホ:「ならば、サイボーグらしき乗員も宇宙飛行は初めてでしょう。
私もそうでしたが、サイボーグといえども宇宙での行動に慣れるまでに経験が必要です。
宇宙に不慣れなら、無重力下で投石が砲撃に匹敵することは身に付いていないでしょう。
本艦は軽量化のためくず隕石は積んでいませんが金属製の予備部品なら残っていますね。
重機のマニピュレータで金属製品を投げつければ重火器に対抗できませんか?。」

エリ:「なるほど。だけど相手の船は外見や加速からみて、かなり頑丈そうなんでしょ。
重機で外に出て投石したって速度差が大きくないと痛めつけるのは難しいでしょ。」

朝子10世:「うーん。言いがかりを付けに来るなら速度は合わせてくるわよね。
でも、我々が重武装に対抗する手段は宇宙経験の豊富さしか無いのよねえ。
そうだわ、交渉に応じる素振りで格納庫に招き入れてやっつけましょうか。
戦闘用のごついボディーだとしても船体よりは遙かに装甲が薄いでしょう。」

雀奴:「争わずに逃げちゃダメですか?。寄ってきたところでいきなり加速すれば?。」

瑪瑙:「こっちは推進剤に殆ど余裕がないのよ。あちらは飛行距離が短いから余裕でしょ。
報告通りの加速力なら、すぐ追いつかれるわ。推進剤切れで漂流なんて最悪よ。」

タラ:「格納庫でやっつけても、残りの仲間に船から攻撃されるんじゃ?。」
215pinksaturn:2006/09/17(日) 12:28:14 ID:AHsU/4/e0
朝子10世:「あちらは正規軍じゃなくて民兵よ。多数のサイボーグは作れっこ無いわ。
それに待機軌道上で目撃された合体の様子では有人部分はせいぜい3人乗りのようね。
僅か3人なら、一人を取り押さえればそいつを見捨てて攻撃するのは難しいでしょう。
とにかく迎え撃つ準備よ。不要資材を集めて重機で投げやすい砲丸に加工するのよ。」

冬子:「そういう加工作業は工場勤務で慣れています。私に指揮を任せて下さい。
素材は、使い古したエンジングリッドが重量や強度の点で適するでしょう。」

朝子10世:「そうね。冬子に頼むわ。時間はあるからなるべく投げ易くしてね。
重機操作は経験の長いリホとエリがやるように、あと降下艇のビームも使うわね。
うん、降下艇はマオとミキで操縦して。向こうが来る前に搭乗して隠れているのよ。」

冬子、リホ、エリ、マオ、ミキ:「お任せ下さい。新参サイボーグには負けません。」
216pinksaturn:2006/09/17(日) 12:31:01 ID:k6+s5ug90
(愛国民兵会戦闘艦@惑星間軌道)

スージー:「五月蠅い小蠅はあっさり振り切ったな。加速時の苦痛は全く無かったね。
宇宙酔いもないし、この体は地上のQOLはイマイチだけど、ここでは非常に快適だわ。
標的は、まだこの辺りか。しばらく邪魔も入らないだろうから15日ほど寝るかな。
寝て血液の消費を抑えておかないとね。体内20日と保管庫に40日、既に1日消費か。
身を削って献血してくれる仲間には悪いが、たった60日分では船の性能が生かせない。
火星往復にも足りないようでは、武装が良くても小娘帝国の勝手を止めきれないわね。
このお粗末な生命維持装置は、いずれ改善しないといけないがどうすれば良いのかな。
何年も宇宙に出ていられる小娘帝国の奴らの生命維持装置はどうなっているんだ?。
帝国だからって、大勢の奴隷から血を絞っているとは思えないし、HLAが合わない。
いや、クローン奴隷なら合うな。しかし、人間のクローンだって簡単じゃないわね。
それに大量の血を長期間保管するのだって難しそうだわ。保冷庫は重くて嵩張るし。
いけない、考え事してないで寝ないと。聴覚に睡眠音波入れてタイマー...zzz。」

目覚まし装置:「キーンコーンカーンコーーン...」

スージー:「おお、さわやかな目覚めだこと。これだけ寝ても背中は痛くないし。
体内タンクの血液状態はどうかしら。...しめしめ、寝たから2日分浮いたな。
余裕があるから、血液補給作業は標的捜索を済ませたあとでも十分間に合うわね。
過去のこけし船の性能情報からすると、奴らはひたすら減速を続けているはずよ。
高出力のイオンエンジンを噴かし続けているなら電磁ノイズ探知にかかる予定だけど。
どれどれ、受信データからデータベースにある恒星電波の成分をマスクして...。
ふむふむ、たぶんこれね。指向性アンテナで詳しく追いかけると、うん動いてる。
よし、この動きに対して同航できる軌道は...おお、楽勝楽勝。捕まえたね。
4日目に仕掛けられるわね。さて、血液補給にかかろうかな。腹のハッチを開放。
補給ホース接続。気泡除去確認。50人の仲間に感謝のお祈り...。よし出来た。
しばらく暇だから武装の点検でもしておくかな。」
217pinksaturn:2006/09/17(日) 12:32:00 ID:k6+s5ug90
(”みくら” 艦首口腔大エアロック)

冬子:「持ってみた感じはどうかしら?」

リホ:「バランスは良さそうですね。本気は出せませんが軽く投げてみましょう。」

エリ:「練習用ネット張り終わったわよ。危ないから絶対ネット外さないでね。」

リホ:「では慎重に、振りかぶって第一球...いかがでしょう?。」

冬子:「待って。視覚記録スローで再生してるから...ふむ真っ直ぐ飛ぶわね。
私としては満足な出来だわ。あとは、繰り返し練習して勘を掴んでね。」

リホ、エリ:「それしかないですよね。やってみます。」


(愛国民兵会戦闘艦”スペースシェリフ・ワン” vs ”みくら”)

スージー:「レーダー映像が鮮明になってきたな。そろそろ望遠で見てみるか。
お、いたいた、予想通り地球に尻向けて減速続けているわね。おかしな格好。
まさにスペースディルドね。よくあんな恥ずかしい船で宇宙飛行が出来るわね。
あいつら一体どういう神経してるのよ。同じサイボーグと思われたく無いなあ。
さて、戦闘記録を本部に自動送信するよう設定して...よし。次は...。
一応先制攻撃できない決まりだから、無線で拿捕通告か。英語通じるよね。
英語も通じない猿だったら即刻皆殺しでも、ってこないだの奴らは通じてたか。
あー、こちらは愛国民兵会の民間宇宙保安官である、そこのこけし船返答せよ。
おい聞こえているか格好悪いこけし船、エンジンを停止して臨検を受け入れよ。
これは警告だ、無視すれば直撃する。それっ、前方500mにミサイル発射。」

朝子10世:「いきなり何をするの!。こちらは”みくら”艦長の朝子10世よ。
我々は宇宙条約を遵守して活動中よ。いったい何の権利があって妨害するの?。」
218pinksaturn:2006/09/17(日) 12:32:57 ID:k6+s5ug90
スージー:「お前たちの船が積んでいると思われる冥王星の氷は盗掘品である。
こちらは冥王星の地権者から所有権行使に関する委任状を取得している。
返還に応じないならば、窃盗現行犯に対する正当防衛として実力行使する。」

朝子10世:「本艦が積載する冥王星の氷は天然物を採取し原始取得したものです。
無主物を初めに採集した者が所有権を得るというルールは万国共通ですよね。
そちらが所有権を主張するなら証拠を示して貰いましょうか。」

スージー:「エアロックを開けて臨検を受け入れなさい。謄本は持参します。」

朝子10世:「それ程言い張るならとりあえず交渉に応じましょう。
艦首の大エアロックを開けます。理美、口腔エアロック開放よ。
(体内通信)口車に乗ってきたわ。リホ、エリ、マオ、ミキ準備は良いわね?。
交渉は私がするから、いざというときまで居ないふりするのよ。(/体内通信)」

理美:「エアロック減圧します。0.1気圧,0.5、ゼロ、口開けます。」

スージー:「(素直に開けたわ。ずいぶん減圧の早いエアロックね。
ふう、一人なのが知られなくてよかった。直接対決なら絶対勝てるわ。
このオッパイバズーカで威嚇すれば、言うことを聞くに決まっている。)
操縦席減圧、生命維持装置内圧チェック...異常なし、背面推進器始動。」

理美:「あ、何じゃアレは!。モビルスーツ?。にしては小さいか。
アレがサイボーグの体なの?。でかいなあ。日常生活はどうするのかしら?。」

雀奴:「近衛大隊の重装甲ボディーならアレに近い大きさよ。あり得るわ。」

理美:「すると、あれも、着脱式なんでしょうか。」

雀奴:「さあねえ。捕まえて調べてみれば判るけど、手強そうねえ。」
219名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 12:39:42 ID:7RIBn4qK0
そろそろ支援
220pinksaturn:2006/09/17(日) 12:47:06 ID:zCAbiMjP0
(”みくら” 艦首口腔大エアロック)

スージー:「勝手にハッチを閉めるんじゃないわよ。この胸を見なさい。
これは、バズーカ砲だからね。おかしな真似したら船ごと破壊するわよ。」

マオ:「(オッパイバズーカ?。でかいから生命維持装置は頭部なのかな。
それともリモート体?。とにかく撃ったらエキシマで防がないと。
目が離せないわ。他の女の子の胸をじろじろ見る趣味は無いんだけどなあ。)」

朝子10世:「体格にものを言わせて脅すつもりですか?。
正当な権利を言い張るのなら、謄本とか言うのを見せて貰いましょうか。」

スージー:「これよ。」

朝子10世:「なになに、登記簿謄本、なるほど書式は本物ね。
所有者、パーシバルローウェル記念財団、ほお、世界的に有名な財団だわね。
で、(社)愛国民兵会を権利者として地役権を設定、目的、地下資源採取。
あのねえ、ローウェル財団は100年以上権利保全行為をしていないでしょ。
そもそも現地に行ったのは我々が人類で初めてなんだからね。
おたくの国の民法なんてよく知らないけど民事時効の国際相場は20年よ。
いくら何でも100年放置した権利をいまさら譲渡なんて出来ないわよね。」

スージー:「権利は権利よ。けちを付けるなら船体に穴を開けるわよ。」

朝子10世:「私らも遊びじゃないのよ。こんな古証文で譲れるかって。」

スージー:「そうかい。これでもなの!。オッパイバズーカ発射!。」
221pinksaturn:2006/09/17(日) 12:48:01 ID:zCAbiMjP0
朝子10世:「防いで!。投石もよ。」

マオ、ミキ:「氏ね氏ねビーム、逝け逝けビーム」

リホ、エリ:「くらえっ」

スージー:「なに、搭載艇か。このっ、オッパイ連射...あっ。」

朝子10世:「ストライクね。よくやったわ。発射口近くで爆発したわよ。
リホ、エリ、倒れている間に重機で取り押さえなさい。」

マオ:「殿下、破片は大丈夫ですか。」

朝子10世:「いくつか刺さったけど、大した被害はなかったわ。」

リホ、エリ:「推進器始動、微速前進」

スージー:「う、手足が動かない。しまった、動力ケーブル破損か。
頭部予備電源は...無事ね。この向きなら行けるわ。首ロック解放。
首緊急脱出ロケット点火!。おまえら、次は容赦しないわよ。」

ミキ:「あっ、首、首、...そんなバカな。あいつ脊髄無しかや。」

マオ:「なんなのあいつ?。口の利き方はロボットじゃなかったのに。」

朝子10世:「格納庫内は無線が届きにくいからリモートじゃないわね。
あの首は間違いなく本体でしょう。とにかく早くここを離れるわよ。
首を回収する間は攻撃してこないでしょう。理美、口閉めて、発進よ。」
222pinksaturn:2006/09/17(日) 12:49:02 ID:zCAbiMjP0
(取り残された”スペースシェリフ・ワン”)

スージー:「やれやれ、やっと帰ってきたわ。首だけで飛ぶのは難しいな。
投石にやられるなんて想定外だったわ。理屈は判っていてもまだまだね。
胴体に残っていた血液16日分が痛かったなあ。すぐ帰還するしかないか。
こんな制限さえなければ、この船なら追いつめて攻撃できるのに。
首だけで操縦できるよう改良して貰ったのに帰るしかないなんて残念だわ。
ま、あいつら投石で抵抗するくらいに武装が貧弱だと判ったのは収穫かな。
ああ、いらいらしても仕方ない。この仕返しはあとでゆっくり考えよう。
まず、船内クレーンで首を獄門台に固定しないと飢え死にしちゃうわ。
BCIメニュー、先に船内気圧確認、で船内クレーン、前へ2m。
よし掴んだわ。後ろに2m、獄門台ソケット開、下に1m、よし入った。
首ロックよし。獄門台応急血液交換装置起動。ふう、一安心ね。
さて、最短帰還航路計算、地球分離軌道まで自動操縦設定。発進。」


(”みくら”会議室)

朝子10世:「みんな、今日は被害も少なく、よくやってくれたわ。
だけど、次は今日のような奇襲が通じなくなってしまったわね。
そこで、地球帰還後直ちに対策が出来るよう工場衛星に要望を送ります。
今日の経験や自称民間宇宙保安官が残した体に関して意見を出してね。」

翡翠:「発射直後にエキシマで撃破したバズーカ弾ですがかなり強力です。
破片を調べたところ外壁に命中していたら実際穴が開いたと思います。
今後はエアロックに引き入れるという作戦はやめた方が良いでしょう。」

朝子10世:「船外で防ぐ方法が必要ね。」

瑪瑙:「本国に照会したところ、愛国民兵会が委任状集めをやっています。
各地の小惑星や矮惑星の発見者に地役権の譲渡を交渉している模様です。
天文家のブログなどで何件も似た話が出ていますので間違いないです。」
223pinksaturn:2006/09/17(日) 12:51:54 ID:ntf/J9Bc0
朝子10世:「つまり、他の資源収集艦も襲われる可能性がある訳ね。」

雀奴:「ヘッドフィギュアの眼球をエキシマ組み込みにしてはどうですか。
降下艇や迎撃艇の100倍の容積がありますので威力は上げられますよ。
私は光源の技術に詳しくないけど放熱や電源の容量は余裕ですよね。
アイビームと同じ感覚で使えるので訓練が要らないのも利点です。」

タラ:「ヘッドフィギュアには死角があります。側面砲も要りませんか。」

雀奴:「操舵員の腕の神経は操艦に使うので、別に砲手を配置しないと。
操艦と射撃が別人による場合は動きを合わせる訓練も必要になります。
眼球なら搭載してすぐ使えて重量増加も少なくて済むと思うのです。
旧型の資源収集艦だと砲塔は重量増加の影響が大きくなりますよね。」

朝子10世:「なるほど。眼球のアイビーム化は最優先課題ね。
これは私から華子に至急開発するよう直接頼んでみるわ。
砲塔の設置は増員や重量の問題もあるので本国に考えて貰いましょう。
エアロックに残された体については何か判ったかしら?。」

冬子:「自爆装置があるといけないので慎重に調べました。
だいぶ手間取りましたが、腹の点検口を開けることが出来ました。
自爆装置はありませんでした。一応、民間仕様というのは事実ですね。
首が飛び去ったことと頭部の大きさから、脊髄が無いのは確かでしょう。
脊髄が無くてあれだけ滑らかに動けるのは、私と比べて羨ましいですよ。
北米連は医療・福祉用BCI先進国なので我が国より優れているのかも。
大柄な胴体を生かしてかなり高性能の計算機が搭載されています。
その計算能力でBCIが集めた運動イメージを精密に変換するようです。」

朝子10世:「まだ推定ね。ソフトウェアの解析は難しいわよね。」
224pinksaturn:2006/09/17(日) 12:52:38 ID:ntf/J9Bc0
冬子:「データ量が多いので私がこの場でやるのは難しいです。
とりあえずデッドコピーを宙軍研究所に送付して調査依頼をしました。
あの体の変わったところとしては、大量の血液が搭載されていることです。
保冷式の大きなリザーブタンクがあり、暖めて首に送るようなのです。
体が大型な理由は武装のためよりこのタンクの容積が支配的と思います。」

朝子10世:「大量の血液か。おそらく生命維持装置の問題よねえ。
回収して保冷しておいてね。持ち帰って専門家に分析して貰うから。」

冬子:「既に保冷しました。私では鉱物が専門ですから難しいので。」

朝子10世:「手足の機構はどうかしら。」

冬子:「機構自体は外国のロボットによく見られる通常の電動式です。
我々のような超電導磁石鋼によるリニア駆動は使っていません。
ただ、巨大なので構造全般にゆとりがあり強度や力は侮れません。」

朝子10世:「ふむ、およそ全体の構造が見えてきたわね。
大きめのロボットボディーを母体に手の込んだBCIで動かしてる訳だ。
大きくなった主な原因は生命維持装置に何らかの制約がありそうだと。
そこに弱点はあるものの、ごつい体ならではの強さは見た目通りか。
近衛大隊の陸戦装備なら対抗できるけど重過ぎるから艦に積むのは無理ね。
肉弾戦になったら重機しか対抗手段は無いか。まず、近づけないことかな。
他には何か無いかしら?。無いわね。じゃあお疲れさま。」
225pinksaturn:2006/09/17(日) 12:53:57 ID:ntf/J9Bc0
(20日後、地球衛星軌道 高度1000`)

スージー:「間に合った。どうにか飢え死にせずに済みそうだわ。
武装・長距離推進ユニット保安装置起動。係留信号状態よし。
スペースシェリフ・ワン分離。姿勢制御、大気圏突入準備体勢。
次は民間航空局への着陸申請か、縄張りが色々で面倒ねえ。
ハロー、砂漠の民間宇宙港管制...早く出ろよ。もう。」

砂漠の民間宇宙港管制官:「着陸のご予約ですか。」

スージー:「こちらスペースシェリフ・ワン。お願い、急いでるのよ。
生命維持の残量ががやば目なの。」

砂漠の民間宇宙港管制官:「はいはい、でわ2時間後で良いですか?。」

スージー:「高度1000`からだから早すぎるわ。3時間後にして。」

砂漠の民間宇宙港管制官:「3時間後、ええ、なんとか空きますよ。
急ぎすぎて、大気圏突入角度深くしすぎないようご注意を。でわ。」

スージー:「わかってるって。暇なくせに勿体付けちゃって。
よし、減速開始。降下進路確認。...減速よし。姿勢変換、突入体勢。
機首冷却剤注入開始。高度120`。大気抵抗検知。機首温度400度。
主翼変形、制動開始。翼面温度300度。まだ良いわね。
翼面350度か、よし翼面冷却剤注入。うん下がってるな。
速度もう良いかな。よし、主翼変形、大気圏飛行体勢。舵効き出したわ。
一安心か。とりあえず、生還しないことには次の手が打てないからね。」

砂漠の民間宇宙港管制官:「スペースシェリフ・ワン、進路良好です。
そのまま直進で着陸どうぞ。会長が出迎えに見えてますよ。」
226pinksaturn:2006/09/17(日) 12:55:51 ID:KAs7839C0
スージー:「あ、ありがと。会長怒ってるかな。ボディ作り直しだし。
まあ仕方ないわね。滑走路視認。エアブレーキ開きます。」

砂漠の民間宇宙港管制官:「砂が舞ってますが、見えるんですか。」

スージー:「赤外線でばっちり見えてるわよ。ほい、タッチダウン。
逆噴射0.5秒。車輪制動。...よし止まった。」

愛国民兵会会長:「とにかく戻れてよかった。」

スージー:「済みません。投石で奇襲を受けて首だけしか帰れなくて。」

愛国民兵会会長:「気にするな。資金には困っておらんぞ。」

スージー:「体の再製造、お願いします。首を降ろしていただけますか。」

リンダ:「私にやらせて下さい。」

スージー:「あら、リンダも来ていたの。じゃあお願い。獄門台ロック解除。
重いから気を付けて。落とさないでね。」

リンダ:「よいしょ。大丈夫です。」

愛国民兵会会長:「すぐリムジン後席の獄門台にセットしてやってくれ。
スージー、体がなんとかなるまで獄門台での暮らしだが辛抱してくれ。」

スージー:「自業自得ですから。でも、次は失敗しませんよ。」

リンダ:「やっぱり一人じゃ難しいのではないですか?。」

スージー:「またその話をしたくてわざわざ出迎えに来たの?。
この無惨な姿を見ても?。まあ、約束だから後でよく話し合いましょう。」
227pinksaturn:2006/09/17(日) 12:56:50 ID:KAs7839C0
(静止軌道工場衛星 宇宙船ベイ)

雀奴:「ゲートくぐりました。回転運動合わせます。ゲート閉じました。
降下開始。コリオリ補正サイド噴射。やっぱり帰りは軽いわあ。
ヴァギナルハッチオープン。大股広げて係留ポールちゃんいらっしゃーい。
キター、あへあへ、ずっぽし。チョイ制動。ふう、止まったわ。
あーあ、カロンから200d補給して以来の快感かあ、長かったわ。」

朝子10世:「快感に浸っているところ悪いけど口開けて。雀奴。」

雀奴:「あ、済みません。ベイ気圧確認。0.2安定。口開けます。
搭乗橋安全確認。でわ、んべ−。リモートボディリンク切ります。」

朝子10世:「総員退艦。とりあえずお疲れサマー。」


(”みくら”口腔エアロックから伸びた舌の上)

華子:「10世!。探検成功と帰還おめでとう。でも賊が出たんだって?。
ご注文の艦載アイビームは突貫でかからせたわ。怪我しなかったの?。」

朝子10世:「かすり傷はあるけどどうでも良いわ。メンテ時期だし。
賊って言うのかな、あっちは自称保安官で私らを賊呼ばわりしたけどね。」

華子:「アイビームは次の運行に間に合わせるからもう危い事はしないで。」

朝子10世:「地上の情勢も怪しいから当面特別任務は計画出来ないわ。
アイビームの搭載はメインベルトに定期運行の資源収集艦を優先して頂戴。」
228pinksaturn:2006/09/17(日) 12:57:51 ID:KAs7839C0
ハル:「お母さんご免。軌道で見つけたのに燃料切れで止められなくて。」

冬子:「200`の低軌道だったんでしょ。無理して落ちなくて良かったわ。
私は直接戦闘に加わっていないから危ないことも全然なかったしね。
それで、お望みのカロンの天然氷も無事よ。私物枠で地上に降ろすわ。
貴女は当分任期だから、私がお店の冷凍ケースに入れておくわね。」

リホ:「直接戦ったのは私たちだけど、冬子の作った砲丸が効いたのよ。」

エリ:「そうそう、アレの出来がよかったから、撃退できたの。
丁度あいつがオッパイバズーカ撃った瞬間に発射口へストライク。
それで、胴体が自爆のようになって首だけで逃げていったのよ。」

ハル:「オッパイバズーカですか。そんな武装は無理って話だったのに。」

冬子:「あいつは脊髄無しで生命維持装置も頭部に積んでいたようなのよ。
でも、あいつがあれだけ体がよく動くって事は、私ら脊損者には光明よ。
宙軍研究所に送った身体制御ソフトの解析結果を聞くのが楽しみだわ。」

ハル:「お母さんの体が良くなったら、一緒に遊んでね。」

冬子:「はは。子供みたいな事って。そういえば、みどりは?。」

ハル:「軌道パトロールに出ているの。2時間で戻るわ。」

冬子:「そう。降下前に会えると良いけど。きわどい時間ね。」
229pinksaturn:2006/09/17(日) 12:59:39 ID:JabFJ7Gm0
(北米連 大統領官邸)

コメー:「愛国民兵会、しくじったそうですね。やはり無謀だったのです。
一人は出撃前に力を制御できずに殺人を冒した挙げ句自殺しましたね。
残る一人も宇宙では通用せず、負けて首だけになって帰った来ました。
全滅じゃないですか。人体の機械化改造なんてやってはいけなかったのです。
ハゲタカ派教会までが後押ししたので承認しましたが、もうやめましょう。」

ヤブー:「完全な失敗ではないよ。卑怯なだまし討ちにあったのだ。
たった一人で数人のサイボーグ兵を相手にして一応生還したのだよ。
もし、普通の宇宙飛行士だったら捕まるか死んでいたところだ。
小娘帝国の宇宙艦がろくに武装を持たないのが判ったのも成果と言える。
これで我々の月基地がやられる心配をせずに本国をたたけるぞ。」

コメー:「向こうが全く世界秩序に従わないなら、攻撃するのは賛成です。
でも、それには我が国の既存軍事力で十分です。サイボーグは要りません。
既に改造してしまった者の補修は仕方ないですが、戦闘はやめさせて下さい。
もちろん新たな改造手術への支援は却下しましょう。」

ヤブー:「国防長官はなんと言うかな。手術自体は成功しているんだよ。
失敗は、ろくな訓練もせずに国境警備で腕試しなんかやったことだけだ。
宇宙でのことも、一人が欠けたまま作戦を強行したせいと言うことになる。
つまり、国防総省や宇宙局は何も失敗をしていないことになるな。
愛国民兵会が補充の志願者を連れてきたら、受け入れたがるだろう。
自らリスクを冒さずにサイボーグの実戦データが手に入るんだからね。」

コメー:「正規軍にサイボーグの導入なんかできっこないのです。
そんな実戦データの追加に意味はないですよ。もう充分でしょう。」

ヤブー:「君の意向は明確に伝えるが、強制はできないよ。」

コメー:「お願いします。では失礼。」
230pinksaturn:2006/09/17(日) 13:00:50 ID:JabFJ7Gm0
(愛国民兵会会長の自宅)

愛国民兵会会長:「儂はリンダの志願については賛成・反対半々だ。
お前たちの話し合いを良く聞いて、納得するまでは決断できない。
一応、賛成反対それぞれの理由は言っておこう。
まず、スペースシェリフ・ワンの定員は本来3人だから、1人では性能が十分活かせない。
交代で休息が出来ないせいで、小娘帝国の主な活動範囲であるメインベルトに到達できない。
だから、せめてもう1人はサイボーグが居た方が良いに決まっている。
そしてHLAが適合する志願者は簡単に見つからない。これが賛成理由だ。
但し、だからといって、そのもう一人にリンダが相応しいかどうかは別だ。
リンダはまだ大学2年生だから、知識は工学博士であるスージーに遠く及ばない。
国境警備に行ったこともないし、もちろん人を撃った経験なんぞない。
まだ若いから、今後ビル以外の男を好きになる可能性も高いだろう。
もしそうなったら、サイボーグになったことを後悔するぞ。
現在の技術では体を元に戻すことは不可能なんだからな。これが反対理由だ。」

リンダ:「私はメカフェチです。ビルに惹かれたのもサイボーグになると聞いたからです。
そんな私が、普通の男性に恋をすることは到底考えられないのです。
経験不足は仰るとおりです。その代わり若い分だけ新しい体に適応し易いと思います。」

スージー:「本当なの?。ビルの件で妄想にとり憑かれていない?。」

リンダ:「両親や弟たちに確かめていただいても結構です。」

スージー:「仮に貴女がメカフェチでサイボーグの体で暮らすには支障がなくても、手術に耐えられるかしら。
貴女は、たかがこれ http://pinktower.com/pinksaturn.fc2web.com/noutekisyutu-hokubei.htm を見ただけで青ざめていたでしょ。
全身麻酔は脳に負担がかかるから、手術はなるべく部分麻酔で済ませなければいけないのよ。
その時は図面どころか、直に自分の頭皮や手足が切り取られて行くところを見ることになるわ。
耐えられずに気が狂ってしまったら、サイボーグになる前に人生が終わってしまうわ。」
231pinksaturn:2006/09/17(日) 13:02:21 ID:JabFJ7Gm0
リンダ:「貴女の手術の録画を繰り返し見て慣れます。既に1回見ましたが、ゲロは吐きませんでした。」

スージー:「そう、吐かなかったのは上出来よ。だったらいっぺん一緒に見てみましょうか。
機械体への適応力に年齢が関わるのは確かだけど、個人差の方が大きいのよ。
手術映像を見たときに受けるショックへの反応は、その面の判断にも参考にできるでしょう。」

愛国民兵会会長:「メカフェチだという話が本当か、家族に会って確かめるのは儂がやろう。
それから戦闘員に相応しいかどうかは、国境警備に連れていってみればすぐにわかる。
この2点をクリアできれば、後はスージーの判断に従うことにする。」

スージー:「ではすぐに取りかかりましょうか。ここにビデオプレーヤーを持ってきて下さい。」

愛国民兵会会長:「これで良いか?。画面が小さいから迫力が欠けるかな?。」

スージー:「今日はそれで良いですが、大きいのを用意していただいた方が確実かしら。」

愛国民兵会会長:「うむ。3日以内に持ってこさせよう。」

スージー:「じゃあ、早速手術の第一段階から見ましょうか。開頭してBCIを取り付ける場面ね。」

リンダ:「...はあ、スキンヘッドやむき出しの脳は、正直苦手です。」

スージー:「それが大好きで興奮してしまうって人もいるのにね。いい?、想像しながら見るのよ。
写っているのが他人じゃなく、自分が剃髪・開頭されていると脳内変換しなさい。」

リンダ:「こう http://pinktower.com/pinksaturn.fc2web.com/rinda-kaitou.htm かな。
最後に頭が金属で覆われてケーブルが繋がってしまえば、全然気持ち悪くないんです。
ただ、どうしてもそこに至るまでの過程には鳥肌が立ってきてしまいます。」

スージー:「これが平然と見られないようじゃ、手足や首の切断にはとても耐えられないわよ。」
232pinksaturn:2006/09/17(日) 13:04:34 ID:dFkxLxs00
リンダ:「あーあ、初めから機械体で生まれてきていれば苦労しないのに。」

スージー:「ふーん。メカフェチってそんな感覚なのか。そお。それなら方法はあるな。
スキンヘッドと脳むき出しのショックを受ける時期を分散すればリスクが下がるでしょう。
あらかじめ頭を永久脱毛して金属外皮に見えるような入れ墨をしておいたら良いわね。
それなら、切開のときは手術じゃなくメンテナンスと思って受け入れやすくなるわよ。
手足と首も金属外皮風に入れ墨しておけば切断じゃなく取り外しに感じられるかもね。」

リンダ:「やってみます。手足は例の経済特区に行けば本物のメカに換えられるそうです。
今まではお金が無くて出来なかったけど、このさいですから会長に頼んでみます。」

スージー:「なるほど。全く同じでないにしても敵の体の様子も判って良いわね。
それに、あの帝国製の手足は着脱が容易らしいからBCIの調整でも手戻りが効くわね。
やるなら、帝国に気づかれて警戒されないよう、頭よりまず手足を先にしなさい。
手足の機械化なら一部では珍しくないから、最終的に貴女が使えない事になっても困らないし。
頭の永久脱毛と入れ墨は志願が認められてサイボーグになることが決まってからにしなさい。
いくら入れ墨で外見を金属風にしても触感はスキンヘッドだから一生耐えるのはきついわよ。」
233pinksaturn:2006/09/17(日) 13:05:30 ID:dFkxLxs00
(宙軍研究所 特殊身体制御ファームウェア研究部)

冬子:「こんにちわ。でかぶつの内容は読めそうですか?。」

研究員:「あ、冬子特務大尉。帰還と昇進おめでとうございます。
例の身体制御らしきデッドコピーの中身、初めは手こずりましたがだいぶ解ってきました。
機種はメジャー品なので逆アセンブラはかかりましたが、使い慣れたCPUじゃないでしょ。
普段使っているやつならIOポート配置が大体同じだからソフトだけ見れば良いんですけどね。
余所の製品なので現物のハードを見て、配線からポート機能を割り出す必要がありました。
結局、はかどり始めたのは、あなたが降ろしてくれた実機をバラしてからでしたよ。」

冬子:「ご苦労様。面倒なの頼んじゃって悪かったわね。」

研究員:「どういたしまして。いつもお世話になっているお得意さまの依頼は最優先です。
なにせ、私共の給料の半分近くがあなたたち特例志願兵の自己負担金から出てるんですから。
それに、ポート配置が判ってしまえば、こいつはそれほど難しいソフトじゃなかったですよ。
プログラムの部分は意外と少なくて、デッドコピーの大半は運動マッピングデータでした。」

冬子:「私らの体の改良に繋がりそうかしら?。」

研究員:「健常者のBCI信号と運動パターンを対照した大量のデータは貴重なものです。
参考になることは確かです。ただ、脳の出す信号は個人差が大きいので即流用は出来ません。
仮に貴女の身体制御CPUを無理矢理大容量化してコピーを入れても同じ動作は出来ません。
それにこのデータの主は脳を上から半球状に覆うように大量の電極を付けています。
我が国で使っている局所BCI電極と比べて入力チャネル数が桁違いに多くなります。
うちの頭蓋骨形状でこれほどのチャネル数を収めるには電極素子をもっと小さくしないと。
それにCPUの内部記憶素子数が全く足りないので外部DBサーバーに繋ぐ必要があります。」

冬子:「宇宙工場の医用電子部品部門に脊損仲間が居るから電極の改良を頼んでみるかな。
外部サーバーを使う構成で、接続が切れたときには従来の動作に切り替えできるかしら?。」
234pinksaturn:2006/09/17(日) 13:06:17 ID:dFkxLxs00
研究員:「切り替え時に数秒間体の動きがぎくしゃくしても良ければ一応出来ますよ。
但し、他人の体のデータですから、それに合うように脳信号を出す訓練が必要でしょう。
難しいかも知れませんが、BCI能力が高い貴女なら克服できる気がします。
体を大型化するか、DBサーバーを入れたランドセルを背負えば切り替えは無くせます。」

冬子:「それは困るわ。私に一番必要な機能は、性感の復活なんですから。
宙軍志願のために偽装離婚したので今は内縁ですが、私にはシビリアンの夫が居ます。
家にサーバーを置けば性生活が元に戻せるならいいけど、巨体になったんじゃダメだわ。
重いランドセルを背負ってセックスするのも、夫が可哀想すぎるわ。
それに、宇宙艦操舵員免許の限定を解除して入港操作が出来るようになりたいんですよ。
入港操作では係留時に性器の鋭敏な感覚を利用するからそれにも性感が必要です。
艦なら高性能DBサーバーが元々ありますからデータ置くだけで済む方が良いのよ。」

研究員:「お気の毒ですが、あのデータの主は性器の動作データを収集していません。」

冬子:「ガーン!。そんなバカなぁ。健常者のデータなのに。なんてこと。
一生性感無しで暮らすつもりで改造手術を受けるなんて気違い沙汰だわ。」

研究員:「外国のことは知りませんが、このデータの主は修道女ってやつですかね。」

冬子:「まさかぁ。宗教関係者はたいていサイボーグに否定的って話だわ。」

研究員:「慰めになるか判りませんが、手コキならすぐに改善できますよ。」

冬子:「とりあえず、それだけでも欲しいわ。自己負担分の見積もりお願いね。」

研究員:「かしこまりました。面白いテーマなので精一杯勉強します。」
235pinksaturn:2006/09/17(日) 13:19:36 ID:dFkxLxs00
(経済特区 メタロリホスピタル)

例のだるまっ娘好き整形外科医:「どのようになさいますか?。」

リンダ:「四肢全部の機械化でお願いします。」

整形外科医:「(おお、ラッキー)かしこまりました。付ける手足の機種はどうしますか?。
腕機能併合型といって足だけ付ければ腕の役目も果たすという便利な機種もありますが。」

リンダ:「(銃が撃てないと困るのよ...)腕に銃を組み込むことは出来ませんか?。」

整形外科医:「貴女のお国では銃の所持は自由なのですね。あいにくここでは禁じられています。
また、仮にここで組み込めたとしても帰国時に武器輸出禁止法違反で捕まって死刑ですよ。」

リンダ:「そうですか。では普通の手足と同じ型にして下さい。」

整形外科医:「外装はどれになさいますか?。通常皮膚系と金属系に大別されます。
色合いはそれぞれ各種取りそろえてございます。金属系の下腿はさらに2系統に分かれています。
通常の足と同じ型の軟質メタリックと靴不要型といって硬質でピンヒールブーツ一体のものがあります。
そちらのお国では室内で靴を脱ぐ習慣がないせいか靴不要型を選ばれる方が多いですね。
予備機をお求めの方ですと室内用と外用で違う型に付け替える方もいらっしゃいます。」

リンダ:「(ピンヒールは砂漠で困るわね。)四肢ともニッケルカラーのメタリックにします。
下腿は軟質の通常足型でお願いします。」
236pinksaturn:2006/09/17(日) 13:20:26 ID:dFkxLxs00
整形外科医:「離断した手足の処理はいかが致しましょうか?。3通りの方法があります。
最も多いのは動態保存といって、人工血流装置に接続し生きたままお預かりする方法です。
後で気が変わったと言うときに、一応再接合の余地があり成功率は70%ほどです。
このため、定期的に神経刺激を与えて形状と運動能力を維持します。費用は日割り10ドルです。
次に多い方法は剥製にして記念品として持ち帰る方法です。費用はサービスです。
3番目は、冷凍保存で現在のところ再接合技術はありませんが長期保存が可能です。
費用は月額100ドルになります。保存費用はいずれも初年分を前払い願います。
なお、保存装置を買い取りされれば、持ち帰って保存されることも可能です。
但し、その後の保管状況によっては再接合を引き受けかねる場合もございます。」

リンダ:「(会長は牛を売ってお金を工面してくれたんだ。少しでも返さなくちゃ。)
最も経済的な方法は剥製ですね?。」

整形外科医:「それがそうでもないんですよ。動態保存して売却先を探すのがおおむね得なんです。
フェチ用や部分モデル用、移植用、食肉用として根強い需要がありまして、特に足は売りやすいんです。
貴女は白人だし、若い女性ですから腕の買い手だって最もつきやすい部類だと思います。
もし売却をお考えなら、最も用途の自由が利く動態保存がお勧めです。
当院で動態保存をご利用の場合はオークションの登録と決済サービスを無料で行います。」

リンダ:「(げえぇ。移植はともかく、フェチのおもちゃとか食肉って、なんて不道徳な。)
うー、少しでもお金を浮かせたいので、四肢とも売却前提で動態にして下さい。」

整形外科医:「かしこまりました。では、前払い費用の明細はこのように...」
237pinksaturn:2006/09/17(日) 13:22:33 ID:dFkxLxs00
(北米連 南部国境地帯の砂漠)

愛国民兵会会長:「リンダ、わざわざあの国に乗り込んで手足を切断し機械化してきた覚悟は良い。
だが、儂はまだ完全に認めたわけではない。実際にお前の力で犯罪者を捕らえて実力を見せろ。
それから、その服装はなんとかならんのか?。人工とはいえ太股丸出しは他の若い者に悪影響がある。
不法越境者と格闘になったらパンツまで見えてしまうし、劣情を誘って強姦される恐れもあるぞ。」

リンダ:「済みません。この足は太股が燃料電池の換気部になっていて蒸れると出力が低下します。
そのために、ズボンやロングスカートを履くと力が弱くなるという問題があるんです。
それに、この手足は輸出用の低出力型とかいうのですが、それでもかなり力は強いです。
格闘になっても、空きっ腹を抱えたパニック人ごときに強姦されてしまう恐れは無いと思います。」

愛国民兵会会長:「そうか。足の構造上やむを得ないのか。ならば服装は直さなくて良い。
儂はあの帝国の奴らが我々を愚弄する目的であんな服装ばかりしているのかと思っていた。
そんな技術的制限をきちんと守っていたのだとすると、侮ってはいけなかったな。
他の若い者には儂から良く言い聞かせておくから、今後もミニスカートで警備について宜しい。」

リンダ:「スージーさんは、ここで会長に警備参加継続を認められたら推薦してくれるそうです。
そうなったら、頭を永久脱毛して金属外皮風に入れ墨しますので劣情を招く心配も減りますよ。」

愛国民兵会会長:「一度で認めてやれるかはパニック人次第だな。よし、ジープに乗れ。」

会員の運転手:「金属外皮の手足ってのも結構エロチックなものだなあ、リンダ。」

愛国民兵会会長:「こらっ。さっき注意しただろう。余計なこと考えずに、前を見て運転せい。
そもそもだな、このリンダはメカフェチだ。お前なんか相手にされんぞ。」

会員の運転手:「それはザンネン。リンダみたいな美人とつきあえるなら俺も志願しようかな。」

愛国民兵会会長:「バカを言うな。あのビルすら失敗したのだ。お前のような軟弱者ではダメだ。」
238pinksaturn:2006/09/17(日) 13:24:13 ID:ZK3su/Ze0
会員の運転手:「済みません。でもねえ、美人ばかりが2人もサイボーグになるなんてねえ。
スージーさんといいリンダといい勿体ないじゃないですか。」

リンダ:「そう言われてもピンとこないんですよ。初めから機械の体で生まれた方が良かったので。
あっ!。右前の方にぼろを着た人影が見えましたよ。不法越境者じゃないですか?。」

愛国民兵会会長:「止まれ。儂には良く見えなかったが、確かめてみよう。リンダ、一緒に来い。」

会員の運転手:「俺も行きます。」

愛国民兵会会長:「お前は車の番をしろ。衛星携帯電話で指示されるまで絶対に動くな。」

不法越境者:「止まった。気づかれたか。逃げなくちゃ。神様、巨大ロボが出ません様に。」

愛国民兵会会長:「どうせ奴らは腹ぺこだ。武器がないか安全を確かめながらゆっくり追え。」

リンダ:「この足なら、30`で走れます。大きく先回りして物陰から武器を確かめます。
危険が無さそうでしたら、そのまま挟み撃ちにしましょう。」

愛国民兵会会長:「わかった。だが無理をするな。お前はまだサイボーグじゃないんだぞ。」

リンダ:「...砂地で走っても楽勝ね。やっぱりピンヒールはやめておいて良かったわ。
よし、先に出た。サボテンの陰から覗いて武器を確かめようか。そーっ、はは、丸腰だ。貧乏人め。
そこのあんた!。どこに行くつもり?。ここはあんたの国じゃないでしょう?。」

不法越境者:「へへ、例の自警団かとびびってみたら、ミニスカのお嬢ちゃんか。
手足を銀色に塗るのが最近のファッションなのかい。エロくいかすじゃないの。
でさ、別にあんたに迷惑をかけるようなことはしていないんだ。邪魔しないでくれよ。」
239pinksaturn:2006/09/17(日) 13:24:51 ID:ZK3su/Ze0
リンダ:「お黙り。犯罪者。私らは愛国民兵会よ。おとなしく帰らないなら捕まえるわ。」

不法越境者:「はあ?。あんたが俺を捕まえるの?。どうぞどうぞ、やってみてよ。」

リンダ:「バカめ、こうしてやる。」

不法越境者:「い、痛てててててて。そんなバカな。この嬢ちゃん本当に機械の手足?。
あう、痛あい、ゆ、許して、ご免なさい。謝るから見逃して下さい。」

リンダ:「見逃せだって。冗談じゃないわ。お前らのせいで街の景気が悪くなってるのよ。
すぐ素直に帰らなかった罰よ。不法就労が出来ないように腕の一本も折ってやろうかしら。」

愛国民兵会会長:「捕まえたか。リンダ、よくやったぞ。痛めつけるのはそれ位で良い。」

不法越境者:「お、お助け、お願い、腕は折らないで。」

愛国民兵会会長:「いいか、この国じゃ現行犯は痛めつけるどころか撃ったって良いんだ。
お前は最初の警告を素直に聞かなかったな。その時点で正当防衛って訳だ。
腕を折るのは勘弁してやるが、お前を警察に突き出す。豚箱でゆっくり反省しろ。」

リンダ:「会長、ちゃんと一人捕まえましたよ。」

愛国民兵会会長:「うむ。とりあえず明日からも警備に参加してよい。だが序の口だ。
武器を持ったやつへの対処ぐらい見てからでないと、あの話は決められんぞ。」

リンダ:「はあぃ。次は銃持った奴でも出ないかな。」

愛国民兵会会長:「調子に乗るな。サイボーグになる前に、大怪我をしないことだ。
用心深さが足りないようではスージーの足手まといになるぞ。」
240pinksaturn:2006/09/17(日) 13:25:26 ID:ZK3su/Ze0
(愛国民兵会会長の自宅)

スージー:「リンダ、どうでしたか?。」

愛国民兵会会長:「うむ、勇気や行動力はまあ良いだろう。ただ調子に乗るたちだな。
手足を機械化したくらいであの調子では、もっと大きな力を得たときが心配だ。
慎重さが足りないとお前が困ることになる。まずければ、やめさせても良いぞ。」

スージー:「改造手術を乗り切って宇宙に出るまでには相当な勇気が要ります。
私自身も、次は失敗しないように地上で十分な訓練を積むつもりでした。
基本的に素直な娘ですから、その間に欠点は直せると思います。」

愛国民兵会会長:「うむ。では、リンダが相棒で構わないんだな?。」

スージー:「総合的に見て、今得られる志願者の中ではリンダが最適でしょう。
但し、会長の仰るような心配もあります。決定を伝えるのはぎりぎりまで待ちましょう。
国防総省秘密施設の資材が整うまでには、まだ2ヶ月近くかかりそうな話ですよね。
決定を伝えて、頭皮の準備をさせるのは2週間前で十分だと見込んでいます。
それまでは、国境警備で会長に厳しく鍛えて貰うのが良いと思います。」

愛国民兵会会長:「わかった。儂がなるべく躾けておいてやろう。」
241pinksaturn:2006/09/17(日) 13:32:19 ID:ZK3su/Ze0
(静止軌道第一工場衛星 宇宙船ドック)

華子:「ご注文通り、予備艦”はちじょう”にアイビームを搭載したわよ。
それから、もう一隻分のアイビーム眼球も格納庫に積んで置いたわ。
だけど、10世といい、部下たちといい熱心ねえ。休暇中断で上がってくるなんて。」

朝子10世:「あれから3ヶ月経ったから、そろそろ奴が修理を終えたかも知れないわ。
帰還中の”だいとう”が襲われたら艦載兵器無しじゃ大変なことになるからね。
今から飛ばしていけば、絶対安全な場所で会合して交換用眼球を渡せるでしょ。
手が空いている艦長資格者って、私以外には陛下か東宮様しか居なかったのよ。
こんな世界情勢でなければ、お2人の気晴らしに丁度良い短期任務だったんだけどね。」

雀奴:「ヘッドフィギュア眼球のアイビーム化は私が強く主張しましたからね。
許されるなら、試射はぜひ自分の目でやりたかったのですよ。」

冬子:「私は、降下の時に下の娘が出撃中で会っていけなかったので便乗したのです。
それに、昔の工場仲間に直接会って詳しく相談したい件もありましたので。」

朝子10世:「空荷で全開加速して行きたいから冬子が付き合ってくれて助かったわ。
理美は帝大で学ばせたいことがあったし、高加速用操舵員がいないと危険でしょ。
心配事をさっさと片づけてからゆっくり休養しましょうね。」

華子:「推進剤の積み込みが1000dだけだから飛ばしすぎて切らさないでね。
貴女達、しばらく旧型艦に乗っていないでしょ。”みくら”ほど無理は利かないのよ。」

朝子10世:「限度は入念に計算して確かめたわ。予定会合点で2割の余裕よ。
ということで、すぐ発進するから”はちじょう”をリフトでベイに上げて頂戴。」
242pinksaturn:2006/09/17(日) 13:34:33 ID:ZK3su/Ze0
(北米連大統領官邸)

国防長官:「愛国民兵会の件ですが、破損修復と新たな改造手術の支援を許可願います。」

ヤブー:「前回同様、事前に見学させて不安があったら却下するという条件を守らせろ。」

コメー:「新たな志願者の改造はやめさせる方向でなんとか彼らを説得して下さい。」

国防長官:「国務長官が仰りたいことは解りますが、軍や宇宙局は乗り気なんです。
帝国の探検艦拿捕には失敗しましたが、奴らの戦力について貴重な情報が得られたんです。
貴女が帝国や友好国に投入した工作員は既に6人も生死不明になって成果がないでしょう。
それに比べて、愛国民兵会は自殺者が一人出ただけで情報を持ち帰ったじゃないですか。
その犠牲だって彼らの軽率な行動による事故で、国家の出した被害じゃないんですよ。」

コメー:「情報を持ち帰った成果は認めます。でも、もう充分でしょう。
とにかく体を機械に換えてしまうなんて罰当たりなことは、死ぬより始末が悪いですよ。
それに、帝国の戦力が報道の通り貧弱だと解ったのなら、通常戦力で叩けるでしょう。
言うことを聞かなければ、機動部隊を送って鉄の雨を降らせてやれば良いんです。
そのうえで海兵隊を侵攻させて首都を占領し、帝国を解体すれば良いんです。」

国防長官:「貴女の考えの方が余程過激じゃないですか。犠牲もずっと多くなります。」

コメー:「背徳的な人体改造の実験をやるよりも戦う方が軍の本来任務でしょう。
少々の犠牲だって、神に背く者達に対する見せしめのためなら仕方ありません。」
243pinksaturn:2006/09/17(日) 13:35:15 ID:ZK3su/Ze0
ヤブー:「戦争は最後の手段だ。議会でも帝国との戦争を言い出す者はまだ少数だよ。
もし愛国民兵会が小娘帝国宇宙艦の拿捕に成功すれば、小娘皇帝も弱気になるだろう。
弱気になったところで脅しをかければ、言うことを聞くようになるかもしれん。
そうやって戦争せずに勝つのが理想的なんだ。その方が色々と利点が多いんだよ。
やつらの採ってきた宇宙資源を上納させるとか、サイボーグの秘密を開示させるとか。
ここは愛国民兵会にもう一度やらせてみるのが得策だ。コメーも承認してくれ。」

コメー:「大統領のご判断には従います。でも改造はあと一人だけに制限して下さい。」

国防長官:「そんなにご心配なさらずとも、やたらに志願者なんか来ませんよ。
愛国民兵会の支援要求は1人だけです。彼らだってそれ以上は用意していません。」


(愛国民兵会本部)

愛国民兵会会長:「その頭と手足を見ればいまさらだが、最後にもう一度聞く。
リンダ、本当に一生機械の体で暮らすつもりなんだな?。後悔はしないな?。」

リンダ:「絶対に後悔なんかしませんよ。」

愛国民兵会会長:「よく解った。手術室に獄門台を置いてスージーが立ち会ってくれる。
スージーの指導に従って無事改造手術を乗り切るんだぞ。」

リンダ:「スージーさん済みません。私のために体の修復を後回しにしていただいて。」

スージー:「体を直してしまうと手術室の床が保たないせいだから気にしないで良いわ。」

愛国民兵会会長:「よし、行くぞ。スージーの首をリムジンの獄門台に移してくれ。」
244pinksaturn:2006/09/17(日) 13:38:19 ID:IxJYuMT40
(国防総省秘密研究施設 手術室)

脳外科医:「スージーさんがスキンヘッドで来たのにも驚きましたが貴女もですか。
愛国民兵会の女性は思いきりの良い方ばかりなんですかね。」

リンダ:「スキンヘッドではなくて永久脱毛です。」

スージー:「この娘はメカフェチなので、体の機械化自体は心配が少ないと思います。
ただ、こういう http://pinktower.com/pinksaturn.fc2web.com/rinda-kaitou.htm スキンヘッドや脳見せは苦手です。
それで、手術のショックを和らげるため頭に金属外皮風の入れ墨をさせたのです。」

脳外科医:「そうですか。こちらは手間が省けて助かりますよ。
女性の脳手術は準備のときに剃髪で泣き出す方が多いので、たいてい苦労するんです。
今回は、あらかじめ手足も外せるようにして来られたので一層楽ですね。
しかし、帝国製の手足は良くできていますよ。着脱できて運動もこれほど自然とはね。
同じ物を使っている傷痍軍人の協力で調べたんですが、どうしても真似できないんです。
特に、断端の神経をつなぎ込む手術がどうしてこんなに精密に出来るのか不思議です。」

リンダ:「切断を担当した医師は普通の人間のようでした。神経の接続は見ていません。
必ず全身麻酔でやる必要があると言われました。そんなものなんでしょうか?。」

脳外科医:「末梢神経の接合なら絶対に部分麻酔で出来ないと言うのはおかしいですね。
きっと何か秘密があって、外国人には接続するところを見せたくないのでしょう。
それでは、こちらに座って下さい。今日は座位での開頭ですので足は付けたままです。」
245pinksaturn:2006/09/17(日) 13:39:07 ID:IxJYuMT40
(半月後、国防総省秘密研究施設 屋外演習場)

スージー:「ここまでの調整は予想したよりも順調だったわね。さすがにメカフェチだわ。
二人ともだいぶ体に馴染んできたから今日からバズーカの実射をやるわよ。」

リンダ:「首切断はショックでしたが手術さえ済んでしまえばこっちのものですわ。
苦労の甲斐あって、今日からオッパイバズーカで標的を撃てるんですね。wktk。」

スージー:「生きた標的として戦車を用意して貰ったわ。リモコンだから遠慮は無用よ。
但し、ペイント弾だけど向こうも機銃を乱射してくるから避ける練習もすること。
この間の失敗はオッパイバズーカ発射の瞬間を狙って投石されたことだからね。
2人でカバーし合って、自分が狙われているときは撃たずに避けるのを優先すること。
それから、いくらこの体でも戦車に轢かれたらかなり壊れるから接近戦は禁止ね。
じゃ、始めようか。技師さん、リモコン動かして頂戴。」

技師:「始めます。ターゲット自動追尾開始。機銃発射はじめ。」

スージー:「まず避けろ。ぐずぐずするな。」

リンダ:「わあ、追尾早くて撃たせてくれないよお。」

スージー:「その隙にこっちは、オッパイバズーカ発射!。ち、装甲の厚いところか。」

リンダ:「敵が怯んだ隙にこっちも、オッパイバズーカ発射!。やりっ!機銃1個沈黙。」

技師:「リンダさん、なかなかやるね。よし、全速ジグザグ走行。予備機銃投入。」

リンダ:「あっ、あーあ、浴びちゃった。不意打ちはずるーい。」

スージー:「小娘帝国の奴らはもっと卑怯な手を使ってくるわよ。油断するな。」
246pinksaturn:2006/09/17(日) 13:40:56 ID:IxJYuMT40
(北米連 砂漠の民間宇宙港)

スージー:「今度こそ、奴らの船を拿捕してやりますわ。」

愛国民兵会会長:「向こうだって必死に抵抗するだろう。無理はするな。生還が最優先だ。
HLAの制限がある以上、お前たちの代わりはなかなか見つからないとことを忘れるな。」

リンダ:「抵抗したら、拿捕なんてぬるいこと言わないで破壊しちゃいましょう。」

愛国民兵会会長:「儂らは泥棒を取り押さえるための正当防衛を逸脱してはいかんのだ。
お前は調子に乗りやすいから気を付けろ。スージーの指示無しに発砲するなよ。」

リンダ:「気を付けます。」

スージー:「じゃ、行こうか。乗り込むわよ。搭乗したら、すぐ機器の点検にかかりなさい。
特に、血液の保管装置は念入りにね。仲間が身を削って供給してるってのを忘れないこと。」

愛国民兵会会長:「よし、儂らはレッドナイトの離陸準備だ。」
247pinksaturn:2006/09/17(日) 13:54:29 ID:IxJYuMT40
(”はちじょう”艦橋)

瑪瑙:「”だいとう”を長距離レーダーに捉えました。」

朝子10世:「向こうは減速体勢で頭が後ろだから進路後方に回り込んで速度を合わせて。」

冬子:「旋回します。加速度変化注意。」

朝子10世:「音声通信繋いで。”だいとう”聞こえる?。こちら”はちじょう”。」

”だいとう”から奈々:「殿下、お久しぶりです。長旅のあとなのにわざわざ済みません。」

朝子10世:「お安いご用よ。丸腰で”だいとう”が襲撃されたら高いものにつくからね。」

奈々:「こちらの進路と姿勢はどうしますか?。」

朝子10世:「こっちが回り込むから、会合までそのまま一定出力で減速を続けていて。
位置があったら指示するから、慣性航行に移行して口開けて頂戴。」

奈々:「承知しました。」

冬子:「真後ろにつきました。速度差、秒速1`強です。」

瑪瑙:「位置関係の監視は引き受けるから、バーニアで少しずつ寄せていって。」

朝子10世:「重機でロープ渡す用意をして。一応、加速度変化に注意しながらね。」

瑪瑙:「距離100`、速度差0.4キロメートル毎秒ですね。」

朝子10世:「距離0.5`で速度差ゼロに持っていって。合ったら受け渡しよ。」
248pinksaturn:2006/09/17(日) 13:57:13 ID:IxJYuMT40
(”だいとう”口腔エアロック)

奈々:「どうも。これで一安心といいたいところですが、眼球交換て、どうやるんですか?。」

朝子10世:「口腔エアロックの天井を分解して、内側から眼球を外して入れ替えるのよ。
当直以外はみんな連れてきたから、まず、手分けして天井を外しましょう。」

奈々:「こんなに大勢で、工具が足りますか?。」

朝子10世:「そのつもりで、人数以上に持ってきたわ。我々は左半分を引き受けるわね。
減速が遅れると進路が地球を外れちゃうし、奴が来るかも知れないわ。急ぎましょう。」

奈々:「わかりました。余分の道具、貰います。こっちもみんなかかって!。」
249pinksaturn:2006/09/17(日) 13:57:55 ID:IxJYuMT40
(3時間後)

奈々:「どうにか眼球は入りましたが、天井の復元は手間取りそうですね。」

朝子10世:「先日、奴がやって来た空域まで1時間しかないわ。そろそろ戻らないと。」

奈々:「とりあえず、殿下はお戻りになって迎撃準備をして下さい。後はなんとかします。」

朝子10世:「眼球の動作確認だけすぐやって頂戴。済んだら重機の娘だけ残して戻るわ。」

奈々:「操舵員、リンク繋いでみて。見えた?。アイビームのプロンプト出るかな?。」

”だいとう”操舵員:「目は見えました。プロンプトも出ています。試射はまだですよね?。」

奈々:「眼球の真下だけでも天井が塞がらないと漏れ光があったら危ないわね。」

朝子10世:「配線は問題無さそうね。じゃあ、なるべく早く撃てるようにして頂戴。
会敵したときは、速度を合わせて、死角を無くすために2隻が逆を向くようにするのよ。」

奈々:「承知しました。なるべく急ぎます。しかし、厄介なご時世になりましたね。」

朝子10世:「あの自称保安官がやっていることは我々から見たら宙賊行為なんだけどね。
北米連の法律には触れないらしいし、国連は民事に介入しないからね。」

奈々:「北米連の拒否権があるから、国連は何もしてくれないですよね。自衛しかないか。」
250pinksaturn:2006/09/17(日) 13:59:53 ID:+XLl8Sjn0
(スペースシェリフ・ワン)

スージー:「おかしいわね。3時間ほど前からこけし船のエンジンノイズが入らないわ。
奴らは、ここらではイオンエンジンで減速を続ける筈なんだけどね。故障かしら。
まだこの距離ではレーダーによく映らないし、電波を出して警戒されたくないんだけどな。」

リンダ:「電磁ノイズ探知機に恒星電波は映っているから、故障だったら標的の方ですね。」

スージー:「故障で漂流中ならチャンスだけど、探知を警戒されているとまずいわね。」

リンダ:「3時間じゃ補助エンジンを使ってもそんなに大きく進路を変えれないですよ。
とりあえず絶対に会敵出来るつもりで血液を入れ換えておきませんか?。」

スージー:「そうしておこうか。補給が済んでも見つからなかったらレーダー使おうかな。」

リンダ:「お先にどうぞ、手伝いますのでお腹のハッチ開けて下さい。へへ、もぞもぞ。」

スージー:「ん、ちょっとあんた、どこ触っているの?。余計な事しないのよ。」

リンダ:「あ、ついでにちょっと補給機構周りの拭き掃除なぞしようかと。」

スージー:「あのねえ、新品に換えたばかりの体で水垢なんか憑いているわけないでしょう。
私は貴女みたいに半分趣味でサイボーグになったんじゃないのよ。遊ばないで頂戴。」

リンダ:「済みません。ちょっとだけ、ね、ね、いいでしょ。私の触っても良いから。」

スージー:「しょうがないなあ。ま、精神不安定な相棒よりはメカフェチの方がましか。
まさか、この体になってから触りまくられるとはねえ。性感がない体で助かったわ。」
251pinksaturn:2006/09/17(日) 14:00:29 ID:+XLl8Sjn0
(”はちじょう”&”だいとう”)

瑪瑙:「怪電波を受信しました。先日の北米連戦闘艦と同じレーダー波です。」

朝子10世:「やっぱり来たわね。奈々侯、そっち工事の進捗はどうかしら?。」

奈々:「あと20分ほどで、なんとか眼球下の天井が塞がります。」

朝子10世:「なんとか撃ち合いを先に引き延ばすようにしてみるから急いで。
細かい動きが必要になるから操舵は雀奴に代わって。全員衝撃に備えるのよ。」

雀奴:「リンク引き継ぎました。迎撃方法はどうしますか?。」

朝子10世:「向こうも北米連の法律に縛られるから泥棒逮捕名目でしか動けないわ。
最初の発砲は大概警告だから船体を狙ってくることはあまりないと思って良いわよ。
なるべく言い争いで時間を稼ぐけど決裂は必至だから死角に入れないようにして。
”だいとう”がビーム撃てるようになるまでは、細かく旋回して後ろをとられないこと。
やつらは体内武器も強力だから接近されると外壁を壊して侵入される恐れもあるわよ。」

雀奴:「接近される前にビームで牽制しましょう。撃ってきたら当てて良いですか?。」

朝子10世:「船体射撃の判断は任せるから、やりとりに気を付けて、空気読むのよ。」
252pinksaturn:2006/09/17(日) 14:01:28 ID:+XLl8Sjn0
(”はちじょう”&”だいとう” vs スペースシェリフ・ワン)

スージー:「レーダーに映ったわ。あ、2隻居る。想定外だったな。」

リンダ:「会合のためにエンジン止めていたんですね。1隻が武器を運んできたのでは?。」

スージー:「急造じゃ大した武器は装備できないわよ。先に撃てない規則のようだし。」

リンダ:「想定手順では盗掘品を積んだ船に停戦を命じるんですよね。どっちかな?。」

スージー:「この状況なら共犯扱いに出来るわね。呼びかけるわよ。あー、そこの2隻。
返事しなさい。お前たちは小惑星の私有財産権を侵害し盗掘品を積んでいる疑いがある。
こちらは民間宇宙保安官である。拿捕するから、降伏してハッチを開けよ。」

朝子10世:「また来たの?。しつこいわねえ。貴女の主張は無効な古証文に依るものです。
わがほうは、あなた方の実力行使を宙賊行為と見なしています。発砲には反撃しますよ。」

スージー:「あ、お前は朝子10世!。先日はよくもやってくれたわね。2度目はないわ。
お前たちの船に、ろくな武装がないことは判っているんだ。投石なんか通用しないわよ。
これは最後通牒だ、おとなしく降伏しなさい。」

朝子10世:「宙賊行為には屈しません。」

スージー:「ならば無理矢理捕まえてやる。盗掘者ども、これでも食らえ。ミサイル発射。」

雀奴:「火あぶりビーム!。敵ミサイル溶解確認。残骸回避、右舷バーニア噴射0.5秒。」

スージー:「レーザーを積んできたか。これでどうだ。ミサイル連射。」

雀奴:「火あぶりビーム!。火あぶりビーム!。敵ミサイル2基溶解確認。
残骸回避。左舷バーニア噴射1.5秒。」
253pinksaturn:2006/09/17(日) 14:02:57 ID:X1pHC9/v0
スージー:「正確な照準ね。サイボーグの脳に直結しているのかな。」

リンダ:「ビーム砲はこけしの目玉です。接近して後ろに回れば死角でしょう。」

スージー:「加速はこっちが上だ。やってみるか。もう1隻は動かないわね。故障かな。
リンダは念のためそっちを見張っていて。エンジン全開、どうだ。」

雀奴:「後ろはとらせないわ。対角バーニア、ジャイロ連動。」

リンダ:「もう1隻に動きありません。先に動いている方を仕留めましょう。」

スージー:「旋回して頭を向ける気か。牽制だ、ミサイル発射」

雀奴:「火あぶりビーム!。ミサイル溶解。船体撃ちます。あ、追いつけない。」

スージー:「真後ろに憑いたわ。とどめだ。ミサイル発射。」

朝子10世:「メインエンジンよ!。噴流ではじくのよ。」

雀奴:「メインエンジン急速加圧、後部バーニア同時噴射。お願い、外れて!。」

スージー:「あっ、エンジン噴いたわ。負けるな、当たれ当たれ。くっ、それたか。」

リンダ:「ミサイルが残っていませんよ。」

スージー:「しまった、手間取りすぎたわ。どうしようか。」

リンダ:「側面をかすめて飛んで下さい。私が出て、侵入します。」

スージー:「危険ねえ。でもこのまま引き下がれないわ。できるの?。」
254pinksaturn:2006/09/17(日) 14:04:11 ID:X1pHC9/v0
リンダ:「来る途中で練習したとおりやりますよ。」

スージー:「わかったわ。行くわよ。」

リンダ:「助手席ハッチオープン。背面ジェット用意、3,2,1行きます。」

スージー:「こっちはバルカン砲で注意を引くわ。バルカン砲発射。」

朝子10世:「何かがぶつかっている音がするわね。」

雀奴:「あ、機関砲を乱射しているようです。効果は無いみたいですね。」

朝子10世:「傷が付くし、側面監視カメラやバーニアが壊されるかも。
振り払えないかな?。」

雀奴:「無理です。ビームの死角にぴったり憑けられています。」

リンダ:「よし、ここから、オッパイバズーカ発射。」

朝子10世:「わっ、何?、今の衝撃は。」

奈々:「こっちから見えます。一人、そちらの外壁にとり憑いて攻撃しています。」

朝子10世:「侵入されたら困るわ。”だいとう”から撃てないかな?。」

奈々:「工事があと少しです。2分待って下さい。」

朝子10世:「雀奴、船体を回転させて振り払ってみて。みんな、何かに掴まって。」

雀奴:「ジャイロ全速回転。」

瑪瑙:「外壁だけでなく居住生産区画に穴が空いたようです。物資が散乱してます。」
255pinksaturn:2006/09/17(日) 14:05:28 ID:X1pHC9/v0
リンダ:「うわっ、回転しだした。振り払う気ね。そうは行くか。穴の縁を掴んで。」

朝子10世:「奈々侯、まだとり憑いているの?。」

奈々:「まだ居ます。穴に手をかけているようです。あ、ビーム撃てます。
船体に当たるとまずいので、横に動かさないで下さい。操舵員、攻撃よ。正確にね。」

”だいとう”操舵員:「エキシマカッタービーム!。」

リンダ:「きゃあ、う、腕、スージーさん助けて。」

スージー:「どうしたの?。大丈夫?。」

リンダ:「腕をねらい撃たれました。腕が溶けてちぎれてしまい放り出されました。」

奈々:「当たりました。遠心力で離れていきます。戦闘艦も撃ってみます。」

”だいとう”操舵員:「エキシマカッタービーム!。あ、ダメですね。散乱します。」

奈々:「”はちじょう”から流出した物資か破片に当たって撃てません。」

スージー:「今のはこっちを狙ったのか。リンダも拾わないと。緊急加速。」

奈々:「戦闘艦が急速に離れていきます。本艦は工事のためにまだ急加速できません。」

朝子10世:「もういいわ。こっちも穴が空いているから無理したくないし。
お互いに死角をカバーする位置について後始末をしましょう。」
256pinksaturn:2006/09/17(日) 14:07:10 ID:tlEoIJro0
スージー:「リンダ!。生きてる?。」

リンダ:「腕以外は無事です。撃たれないように背面ジェットで離れました。」

スージー:「それでいいのよ、よくやったわ。拾いに行くからちょっと待ってね。」

リンダ:「敵艦の穴から放り出された物がいくつか近くにあります。調べましょう。」


(”はちじょう”会議室)

瑪瑙:「被害を調べました。タブレットの製造施設が破壊されていました。」

朝子10世:「短期任務だから、今は困らないわ。華子には怒られそうだけど。」

瑪瑙:「被害箇所側の側面監視映像を分析したところ気になることがあります。
振り払おうとしたとき穴から放り出された物資にタブレットの備蓄がありました。
軌道を計算したところ、飛んだ方向が敵サイボーグの逃走方向と一致しています。
もしもあれが外国人の手に落ちたら、我が国の生命維持装置の秘密が漏れます。」

朝子10世:「豚は無事だったのよね?。分析されても模倣されなければ良いけど。」

瑪瑙:「豚のタンクは無傷でした。でも時間をかけて分析されたらまずいのでは?。」

朝子10世:「タブレットは殆ど抗原・抗体反応が出ないはずだから分析し辛いのよ。
動物由来の物質だとは判っても、動物の種類が判らなければ模倣は難しいわ。
もちろん北米連の科学力は侮れないから、すぐ本国の陛下に報告を入れるけどね。」

瑪瑙:「あの重武装は脅威ですから生命維持装置の欠陥が無くなったら怖いですね。」

朝子10世:「そうならないことを願うしかないわね。」
257pinksaturn:2006/09/17(日) 14:07:54 ID:tlEoIJro0
(スペースシェリフ・ワン)

スージー:「初めての任務でここまでやれれば上出来よ。大穴を開けてやったしね。」

リンダ:「拿捕できなかったのは残念でしたね。」

スージー:「2隻居たのが計算外だわ。動かなかった方は武器が整備中だったのね。
それに、バルカン砲が殆ど効かなかったのも問題ね。敵のレーザーが欲しいわ。
でも、オッパイバズーカで外壁を破れると判ったのは収穫だったわよ。」

リンダ:「収穫といえば、散乱した物資にめぼしい物はあったのでしょうか?。
あの、小さな煎餅みたいな物って重要な物だと思いますか?。」

スージー:「まだよく判らないけど、固まった血のような色なのが気になるわね。
もしかしたら、生命維持に関わる物資かも知れないでしょ。帰ったら調べて貰うわ。」

リンダ:「もし生命維持装置の改善に繋がる物なら大収穫ですよね。
マンガのサイボーグみたいに電気と錠剤だけで生きられるようになりたいですよ。」

スージー:「貴女のメカフェチ志向は仕方がないけど、仲間との連帯も大切よ。」

リンダ:「仲間かぁ。腕の修理で迷惑かけちゃいますね。」

スージー:「腕くらいなら町工場でも作れるから、国防総省に文句言われないわよ。」

リンダ:「あ、血液補給の時間ですよ。済みませんが私の操作もお願いします。」

スージー:「お安いご用よ。終わったら真っ直ぐ帰るわよ。」
258pinksaturn:2006/09/17(日) 14:09:51 ID:tlEoIJro0
(北米連 大統領官邸)

国防長官:「愛国民兵会のサイボーグ民間宇宙保安官が帰還しました。
帝国宇宙艦の拿捕には失敗しましたが、外壁に穴を開ける被害を与えたそうです。
そこから放出された物資を持ってきたので調査中ですが、面白いことが判りました。
回収された中に動物由来と思われるペレット様の物が多数発見されています。
奴らの生命維持装置で食料というか血液補給というか、その代わりになる物でしょう。
これを分析すれば、HLAの制限に縛られないサイボーグが出来るかも知れません。」

ヤブー:「収穫物はいいが、宇宙艦が武装化していて拿捕できなかったのは問題だな。」

国防長官:「冥王星で氷の切り出しに使っていたようなレーザーを強化した物です。
急造でこけし船の目から発射するようにしたようで、死角も多いし脅威ではありません。
我が月面基地を攻撃するような能力ではないですよ。」

ヤブー:「今回の報復として月への補給船を攻撃されたら困るだろう。」

国防長官:「あくまでも民間の行為です。帝国からの抗議はありません。」

ヤブー:「それは我々が国連を牛耳っていると判っているからだ。根に持っているぞ。
しばらく奴らを刺激しない方が良い。愛国民兵会には次の行動を控えさせろ。」

コメー:「ところで、動物性のペレットといいましたよね。いったい何の?。」

国防長官:「何の動物から原料を採っているのか、なかなか判らないのです。
成分比は血漿を乾燥させた物に近いのですが、抗原・抗体反応が全くないのです。」

コメー:「抗原・抗体反応が全くないですって?。動物じゃないのでは?。」
259pinksaturn:2006/09/17(日) 14:11:43 ID:yGSNqOWz0
国防長官:「実験用のネズミとかには、抵抗力が極めて弱い動物も存在します。
人間だって、先天異常やエイズで免疫反応が無くなることがあります。
しかし、これの原料が血漿ならあらゆる動物に輸血できる血漿でしょう。
これほど完全なものは知られていません。自然界には殆どあり得ないそうです。」

コメー:「帝国は遺伝子組み替えで、とんでもない新生物を作ったのでは?。
これは人体の機械化改造を上回るとんでもない神への冒涜です。放置できません。
いずれこのことが議員に広まれば、戦争をしてでも止めろと言う話になります。」

国防長官:「これと同じ血漿があればサイボーグだけでなく一般医療にも有効です。
研究予算獲得のために議会工作をしたいのですが、まずいですかね?。」

ヤブー:「これができれば、サイボーグが献血に頼らずに済むのかね?。」

国防長官:「補給がかなり楽になるとは予想されますが、血球の補充は出来ません。
本人の骨髄を体外で培養して血球を補給する事が出来れば別ですが、難しいです。」

ヤブー:「半分は解決するのか。外惑星での行動には有効だろうな。」

コメー:「私はそんな研究に賛成できません。しかし議会に知らせるのは賛成です。
奴らの軍備が強化されないうちに攻撃すべしと主張する議員が多くなるでしょう。
遺伝子組み替えで危険な生物兵器を生産している疑いありという理由もつきます。
これで国連を説得して制裁決議を成立させられるかも知れませんよ。」

ヤブー:「議会はそういう方向を向くだろうな。それは別に構わない。
ただ、国連はそうもいかんだろう。血漿が証拠なら明らかに細菌兵器ではない。
満漢の無神論者は、我々の本音である冒涜論を意に介さないんだよ。
それどころか裏で小娘帝国と取引をする可能性だってあるぞ。」
260pinksaturn:2006/09/17(日) 14:12:34 ID:yGSNqOWz0
(愛国民兵会 サイボーグ格納庫)

愛国民兵会会長:「ここも家と言うにはまだ非人間的だが前よりはましだろう。」

リンダ:「私はこの体に合った快適な住処だと思いますよ。」

スージー:「別に不便は感じないですね。それより、次の出動は決まりましたか?。」

愛国民兵会会長:「困ったことに国防総省と宇宙局が許可してくれないんだ。
どうやら議会に根回しをしながら小娘帝国の本国に侵攻する準備をしているらしい。
そのために、当分は宇宙での小競り合いで奴らを刺激したくないようなんだ。
悔しいがミサイルや燃料の補給で支援が受けられなければお手上げだ。すまんな。」

リンダ:「もし戦争になったら、私らも宇宙で戦うことになるんですよね?。」

愛国民兵会会長:「本格的な戦争では儂らの出番はないだろう。」

スージー:「月面基地が心配です。防衛を手伝えませんか?。」

愛国民兵会会長:「月面基地の防衛施設はかなり強力だから心配ないそうだ。
むしろ、宇宙局は月との行き来が不可能になることを想定しているらしい。
それで、籠城に備えて物資を送るのが最優先なのも非協力的な原因だろう。
この様子では、お前たちが月に駐留するための血液輸送は無理だな。」

リンダ:「それなら、せめて衛星軌道で帝国の娘らに一泡吹かせたいわ。」

愛国民兵会会長:「それも我慢して欲しい。戦争なら州兵も手薄になるだろう。
それに便乗してパニック人が大量に不法越境してくるかもしれんのだ。
もしも、献血者の誰かが犯罪者に殺されたら、お前たちの命にも関わるんだ。
お前たちは献血者を危険から守ることを優先して、国境警備に加わってくれ。」
261pinksaturn:2006/09/17(日) 14:13:16 ID:yGSNqOWz0
スージー:「予備役になっている献血者が戦争に動員されることはないですか?。」

愛国民兵会会長:「そういうことは絶対に無いよう話がついているのだ。
なにしろ国防総省と宇宙局にとって、お前たちは虎の子の試作サイボーグだ。
今のところ、お前たちの代わりになれる者は一人も居ないんだからな。
お前たちの活動データが研究に必要だから、死んで貰っては困るんだよ。
先日だってろくに話も聞かずに記録ディスクをかっさらって行ったくらいだ。
だから、戦争になったらお前たちも献血者も前線から遠ざけられることになる。」

スージー:「わかりました。当分の間、地域の安全確保に専念しましょう。
仕方ないですね。2度の宇宙飛行が出来ただけでも良かったわ。」

リンダ:「弱っちいパニック人が相手じゃつまらないけど、仲間は大事よね。
そんな話じゃ、消費したオッパイバズーカの弾も補充して貰えないかしら。」

愛国民兵会会長:「ふむ、弾の補充がリンダの生き甲斐に繋がるなら交渉しよう。
しかし、使う機会は無いと思え。小娘帝国が叩きつぶされるまでは我慢だ。
宇宙での活動はあとの楽しみにとって置いてくれ。なに、すぐ片づくさ。」


(本スレ住人には反戦派も多いので嫌われるかも知れませんが、
北米連の暴挙とそれに続く世界の混乱がその先の歴史では必要悪でして。
ということで、次回予告は(28)大戦(前編)となります。
反戦派の方はスルーして下さいませ。)
262名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 17:22:29 ID:z2zDIq1U0
予想していたことがついに・・・。悲劇にならければいいのですが・・・。
263名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 19:45:19 ID:Fa49Rp3H0
愉快なアイテムを見つけたのでリンク貼ってみる
ttp://page8.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/h36850313
264名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 22:48:53 ID:yt8G0On10
私は義体化1級の障害者。この身体は、脳以外全部作り物。当然、子宮や卵巣なんてものはない。だから、女の子に付き物
の月1回の憂鬱とは無関係って思うでしょ? 確かにそっちの憂鬱はないけれど、別な憂鬱があるんだよ……。

今日は月1回の定期検査の日。そう、定期検査。別に病気じゃないよ。機械の身体が病気になるなんてことないんだもの。
検査を受けるのは私の脳みそじゃなくて、機械の身体の方なんだ。まあ、私の脳みそがまったく無関係ってわけじゃないけ
どさ。

府南病院義体科病棟。ここの検査室で、月に1度、私は吉澤先生から検査を受けている。それも、学生の私のバイトでは、
どんなに頑張って働いてもゼンゼン追いつかないくらいの、たかーい検査料を払って、だよ。毎日毎日、汗水たらして(義
体だからそんなことないけど)、一生懸命働いて稼いだお金が、たった数時間の検査で消えてしまう。それだけじゃなくて、
事故の時に貰った保険金まで食い潰している。

私だって、できればこんな検査、受けたくないよ。例えば毎月じゃなくて、せめて2ヶ月に1回とかさ。そうすればバイトも
ずいぶん楽になる。人並みに、佐倉井やジャスミンと遊ぶ事だってできるはず。

でもね。それは無理なことなんだよ。

私の身体は、機械の塊。ニンゲンの身体と違って、余裕が全然ない造りなんだ。漫画だと、サイボーグなんて、身体を動か
す電気と、生身の部分を生かすための小さな錠剤があれば生きていけたりするけどね。今の技術じゃ、そんなのは夢のまた
夢っていうことだ。

例えばさ。何かの理由でご飯が食べられなくなったとするじゃない? 生身の身体だったら、身体の中に蓄えられている栄
養分を少しずつ使ってかなりの期間は生きていくことができるでしょ。でも、私の身体はそんなことはしてくれない。私の
CS-20型義体は電合成リサイクル機構っていうのがあって、今までの義体の1/5の酸素とブドウ糖があればいいようになって
いる。それでも、毎日の栄養カプセルの摂取は必要だ。身体の中には、栄養を貯めておくための小さなタンクがあるんだけ
ど、その容量は限られている。何日間も私の脳みそを生かし続けてくれる程の量を蓄えておくようにはなっていない。だか
ら、私は毎日毎日、決まった時間に栄養カプセルを飲み続けている。
265名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 22:50:17 ID:yt8G0On10
そんな風に、私の身体は、定期的に補給をしたり点検したりすることが前提で作られているんだ。

まず、血液のこと。私の機械の身体には、もちろん血なんか流れてない。じゃあ、脳みそは?っていうと、やっぱり、生身
の時のような赤い血は流れていない。その代わりにオレンジ色をした合成血液が流れてる。合成って言うと誤解されちゃう
けど、化学物質を基にしてゼロから作り出すわけじゃない。

イソジマ電工の義体維持センターには、私の身体から取り出した造血組織が入った大きな培養槽がある。私の身体から離れ
ても、ずーっと血液を造り続けてくれている。合成血液っていうのは、この私の本物の血液を加工して造られるんだ。その
寿命は長くて2ヶ月。酸素や老廃物を運んだり、免疫機能を保ったり、その他、私のちっぽけな脳みそを生かし続けるため
に必要なありとあらゆる機能を果たしてくれる期間が僅か2ヶ月。それを過ぎたら、どんどん機能が衰えて、役に立たなく
なってしまう。だから、安全を見越して、月に1回、合成血液を交換する。

老廃物の問題もある。私の身体には、排泄器官がついてない。脳から出てくる老廃物を分解するなんて高度な機能を実現す
る機械は、私の身体よりもずーっと大きいものになる。だから、私の身体の中にあるのは、合成血液から老廃物を濾し取る
フィルターと、濾し取った老廃物をまとめて貯めておく小さなタンクの二つだけ。これも、月に1回は、フィルターを交換
して、溜まった老廃物を捨てるって作業をしてるんだ。フィルターが目詰まりしたり、タンクが満杯になったら、老廃物が
血液の中に溜まって、私の脳は死んでしまう。

その他にも、純水とか、栄養カプセルでは補いきれない栄養素とか、いろいろな物を必要に応じて補給する。この作業だけ
でも、結構時間がかかってる。
266名無しさん@ピンキー:2006/09/17(日) 22:51:32 ID:yt8G0On10
それからさ。生命維持装置の中の機械が老朽化して性能や機能が衰えたり、物によっては壊れて動かなくなったりする可能
性があるから、細かい点検が必要になる。多少の冗長性はあるけれど、生身の身体みたいに、不具合を他の部分が補ってく
れるなんてことはない。部品が1個壊れただけでも、私の命は消えちゃうんだ。それくらい大事な物だから、ほんの少しで
も不安があったら、すぐに交換してもらう。こうやって、毎回交換する部品の数は1つや2つじゃないんだよ。

もしも検査をすっぽかしたら? 2ヶ月以上検査を受けられなかったら? 余裕のない機械の身体から出てくる不都合が、
ぜーんぶ私の脳に降りかかってくる。だから、どんなに嫌でも、検査料を払うために借金をしてでも、毎月毎月、検査を受
けなきゃならないんだ。そのために、私はバイトを続けてる。友達と遊ぶ時間がなくたって、可愛い服を買うことができな
くたって、この命を保っていくことの方がずーっと大事だもん。

大変だと思うかなあ。でも、これが私の人生なんだ。あの事故にあって機械の身体になった時から、ずーっとずーっと、こ
うやって生きてきた。そして、これから先も、よほどの技術革新があって、人間の身体並みの機能を持った義体ができるか、
あるいは漫画かSFみたいに私の元の身体のクローンができたりしない限り、この生き方を続けるしかないんだよ。これはも
う、憂鬱なんてものじゃないかもね。

どう? 君は、こんな私でも、本当に付き合ってみたいって言えるかな?
267名無しさん@ピンキー:2006/09/18(月) 01:39:33 ID:O/2Ywn9x0
かなちゃん聞いてる?
昔のサイボーグはこんなに大変だったんだよ。
いい時代になったね。
268manplus:2006/09/18(月) 20:54:08 ID:WzqNerGz0
 明るい照明がまぶたを通して、瞳の人工物となってしまった視覚に届き、瞳の意識が戻った。
瞳は、ゆっくりとまぶたを開けた。人工の視覚が自動的に光量を調節して、瞳の脳と視覚神経が光に慣れやすいように、
光量を徐々に増加させていった。
補助コンピューターと人工視覚の協調による感覚調節機能が見事に働いていることを示していた。
瞳の人工物になってしまった視覚は、暗黒の闇から、灼熱の太陽がぎらつく砂漠の昼の明るさまで、
脳に負担がかからないような適切な光量を補助コンピューターの解析能力を利用して、
自動調節されたうえで視覚情報として視覚神経を経由して脳に送られるようになっていた。
瞳の人工視覚は、どのような場所においても、瞳の適切な視覚を確保するとともに、至近距離のマクロ映像から、
1000m先のものが鮮明に見える超望遠までの視覚を瞳に与えることができた。
そして、瞳の目の両脇のコネクターキャップを開けて、専用のゴーグルのコネクターを接続し、
専用ゴーグルを瞳に装着すると瞳は、瞳にとって必要な情報がゴーグル上の視野の中にマウントディスプレイされるような
構造になっていた。
 瞳は、新しい視覚システムのおかげで、すぐに周りの明るさに慣れることができた。
瞳は、ゆっくり首を動かして自分の周りを見回した。
瞳が寝かされているベッドは、その部屋の中央にあり、周りの壁いっぱいに機械やその操作パネルがはめ込まれていた。
無機質な金属と機械、樹脂製のパネルの奥に照明用の蛍光灯が仕込まれた壁や天井、
床で構成されたSF映画に出てきそうな部屋であった。
 瞳の体は首以外動かなかった。まだ体の感覚を奪われているために、
四肢が動かないのだと瞳の心の奥底で期待を込めて思う反面、
スーパーF1ドライバーとしての処置を終えた体になったのだという思いが錯綜している心を静めながら、
瞳は、できる限りの力を使って自分の体を見ようと首をあげた。
269manplus:2006/09/18(月) 20:54:47 ID:WzqNerGz0
 瞳の目に飛び込んできたのは、裸で寝かされている自分の姿だった。首から下が視界に入った。
今までの自分の目の視界よりも、広い視野になったような気がする。
瞳は、自分の体の皮膚が、今までの自分と変わらない肌の色をしているのを見て、少し、ほっとしていた。
スーパーF1のドライバーとしてのサイボーグ手術を受けるのだから、当然、
金属のような外観になっているのだとばかり思っていたからだ。
しかし、今まで慣れ親しんだ、瞳の肌がそこにあった。
しかし、『この肌は、きっと作り物に違いない。』と瞳は思った。
瞳の目には、胴体までしか映らなかった。そこまでなのである。
少し、視線をそらしてみると、肩から先がなかった。
そして、肩の付け根と股の付け根から先にあるはずの腕や脚は無くなっていた。
そして、肩の付け根と股の付け根には、手と脚の代わりにたくさんのコードがつながっていた。
そのコードは壁の機械とつながっていた。瞳が、覚悟していたとおりの四肢のない、
電子機器と繋がれた身体になった光景が視界に広がっていたのだ。
 瞳は、本当に、間違いなくスーパーF1ドライバーになっていたのだ。
手や脚が根本から無い身体、スーパーF1マシンを走らせるためだけに作りかえられた特別な身体になったのである。
瞳の肩や股の付け根に作られた接続コネクターにスーパーF1マシンから伸びるコードが接続することにより、
スーパーF1ドライバーという名のスーパーF1マシンの制御ユニットになったのだった。
 瞳は、自分の体がダルマのような形状のサイボーグになったことに悲しみはなかった。
むしろ、これから先の自分が望んだ人生を思うと嬉しさや期待感で胸がいっぱいだった。
あの、最初に東京で見たスーパーF1グランプリの興奮を今度は、自分が見せる側に回れることの喜びでいっぱいだったのだ。
そして、このときは、手脚のない体で過ごすレース以外の日常生活の不便さなど、全く想像していなかったのである。

270manplus:2006/09/18(月) 20:55:50 ID:WzqNerGz0
「早見選手、気がつきましたね。」
石坂の声が聞こえた。最初は、やけに大きく聞こえたが、すぐに適当な音量で聞こえるようになった。
瞳の聴覚は、エンジン音が脳に負担にならないように、自動的に音量を補助コンピューターが
コントロールするシステムになっていた。
それも、レース中、チームラジオや、路面の音、マシンの異常な音、周囲の音など、どんな小さな音や遠くの音も、
鮮明に拾えるようになっていて、瞳の新しい聴覚は、拾った音のどれを最優先で瞳の脳に認識させるかも、
補助コンピューターを通して、瞳自身が選択できるようになっているし、瞳の聴覚が拾った音は、視覚化されて、
ゴーグルに表示されるようになっていた。
「はい。さっき意識が戻ったばかりです。私のサイボーグ改造手術は成功したんですね。」
「成功しましたよ。早見選手も、これで、スーパーF1ドライバーの仲間入りというところですね。」
「ありがとうございます。いよいよ、スーパーF1マシンに乗れるのかと思うとわくわくします。」
「そうでもないですよ。速水選手の身体は、今までとは全く使い勝手も違うし、戸惑うことが多いと思いますよ。」
「それは手足が無いからですか?」
瞳の問いに応えたのは、石坂ではなかった。
「それだけじゃないの。あなたのスーパーF1レーサーとして作りかえられた身体の機能の習得に時間がかかるからよ。」
妻川の声であった。
「恵美さん。」
「瞳、ひとまず、手術成功してよかったね。手術を開始した日から、あなたは、
1ヶ月間意識をコントロールされていたことになるわ。
その間、あなたにとっては眠っていたと言うことになるのかしら。」
「もう、そんなに経つんですね。あの日から・・・。」
「そうよ。手術自体は、延べで、108時間ほどで終了したんだけれど、瞳の外観を元のような髪の毛のある状態に戻して、
今までと違うところが手足がないだけという状態にするまで、眠っていてもらったというわけ。」
「何でですか?」
271manplus:2006/09/18(月) 21:04:49 ID:WzqNerGz0
今度は石坂が答える。
「それは、私から説明します。人工皮膚の移植の関係で、手術中に体毛の除去、つまり、除毛をしてしまったので、
髪の毛が再び生えてきて、元通りの長さになり、元の姿になるまでの間、
手術の肉体的ダメージからの回復もかねて眠っていてもらったのです。
目覚めたときに、身体に出来るだけ違和感がないようにしようと言うことになったのです。
速水選手の髪はロングヘアだったので、通常の選手に比べて、発毛促進剤の成分濃度を濃くして、
発毛時間の短縮を図ったのですが、それでも、他の選手の平均よりも、長くかかっています。
普通は、2週間ちょっとで意識を戻すのですが、速水選手に関しては、十日以上余計に回復期間をとっていたのです。」
石坂は、そう言って、姿見を持ってきた。瞳は、自分の全身を初めてまじまじと見ることが出来た。
確かに、今まで通りの髪の長さに、ぱっちりとして、愛くるしい瞳やすっと通った鼻筋、きっちりした口角など、均整のとれ、
しかも、人好きされるかわいらしさの残る顔立ち、そして、女性があこがれるような豊満ともいえる形の好い豊かな胸、
すらりとしたスマートな胴体は、確かに自分の今まで手術を受ける前の肉体と変わりなかった。
しかし、その胴体に続くすらりと伸びた脚や腕はもう瞳の身体には無かった。それも根本から無いのである。
その代わりに、切断根が、無数のコードの束を接続するコネクターになっているのであった。
これを元通りの身体というのか、瞳は疑問に思った。
しかし、瞳のその愛くるしい目も作り物であり、その色白の皮膚さえも作り物になっているという、
事実を瞳はこのときはまだ気がついておらず、見落としているのであった。
後に、瞳の頭の中が整理されてくれば、瞳の身体は、以前と同じではなく、
ほぼ全てが作り物になったのだと思い知らされ、元通りとは程遠いのだという答えが導き出されることになるであろう。
しかし、今は、疑問を持つ程度で考えが止まっていたのである。
「どう?瞳、スーパーF1レーサーになった感想は?」
272manplus:2006/09/18(月) 21:05:29 ID:WzqNerGz0
妻川から感想を求められた瞳は、今思っている率直な気持ちを妻川に訴えた。
「何か、だるまさんになったように思います。人工の四肢を取り付けることで、日常の生活には困らないと思いますが、
レースの時にこのようなサイボーグの身体にされたという感覚が、実際にスーパーF1マシンに乗ってみないとわからないです。」
「瞳、少し勘違いしていない?」
「恵美さん、それって、私の何処が勘違いしているということなのですか?」
「瞳、今、日常生活は、人工四肢をつないでといったわよね?」
「はい。いくら何でも、日常生活は義手や義足であっても、サイボーグ技術を結集した普通の手足と変わらない人工の四肢で、
普通に手足のある生活が出来るんだと思っているんですが・・・。そうじゃないんですか?」
「何を言っているのよ。スーパーF1レーサーは、そんな甘いものじゃないのよ。日常生活も今の状態で過ごしてもらうのよ。
その為に、24時間態勢で、スーパーF1レーサー専用のライフサポートスタッフを常時つけるんだから。」
「ということは、私は一生の間、このダルマのような状態で過ごすんですか?
自分の意志を誰かに伝えて、介助してもらわないと何もすることが出来ないんですか?
身体が痒くてもかくことも出来ないし、ましてや、食事や排泄も自分で一人では不可能だし、
自分で行きたいところにもいけないんですか・・・。この身体じゃ、車いすも使えないだろうし・・・。」
「一生じゃないわ。石坂ドクター、あれを持ってきてあげてくれますか?」
「はい。わかりました。」
「あれって、何ですか?」
妻川は、瞳の質問に答えず、石坂が戻ってくるのを待った。しばらくして、石坂は、
大きなアタッシュケースのような箱をふたつ持ってきた。
そして、瞳の寝かされている処置台の上でふたを開けた。
273manplus:2006/09/18(月) 21:06:06 ID:WzqNerGz0
その箱には、脚が一対と、腕が一対、それぞれの箱に収められていた。瞳の前に現れた脚と腕の断面は、
機械装置がびっしりと詰まっていた。人工の四肢なのだろう。
「これが瞳の切断した四肢よ。新しい瞳の身体が操作しやすいように加工が加えられているわ。
瞳のオリジナルの脚と腕をサイボーグ改造したものよ。懐かしいでしょ。
しかし、本当に細いわよね。嫉妬しちゃうわ。鍛えているにも係わらず、しっかりとモデル体型だものね。
これじゃ世界中の男たちだけじゃなく、女性もあこがれるスーパースターであるはずよ。
レースが無敵で、プロポーションも抜群なんだから、嫌になるわ。」
「恵美さん。私の脚と手が作られていると言うことは、日常は取り付けてもらえると言うことなんじゃないんですか?」
「それが、そうはいかないのよ。この脚と腕が瞳の身体に、再び、繋げられるのは、瞳がスーパーF1のドライバーを引退したとき、
というか、レースドライバーから、完全に引退したときになるの。
それまでは、常に、この手脚のない身体の状態でいることになるわ。
それが、スーパーF1レーサーの宿命なのよ。それまでは、この専用ケースで、標準人体部分が、
痛まないように温度管理と、人工血液等の代謝機能を維持させ、身体部品の保護と機械部分に
ダメージがこないような衝撃保護素材で密封された状態で、保存することになるわ。
レーサー引退後は、標準人体と同じように四肢のある身体でスーパーサイボーグとして行動できるから、
スーパーウーマンとしての人生を満喫できるわよ。今の身体も、この脚や腕も、高性能だからね。石坂さん。
間違いがあるといけないから、保存室に戻しておいてください。」
「わかりました。」
石坂は、瞳のために作られた脚と手の収められたケースのふたを閉じてロックすると、ケースを持って部屋を出て行った。
「どうしてなんですか?レーサーであるうちは、どうしてこの状態で常に過ごさなくちゃいけないんですか?」
瞳のすがるような質問に、妻川は冷静な声で答えた。
274manplus:2006/09/18(月) 21:13:23 ID:WzqNerGz0
「四肢の制御の方法と、マシンの制御の方法が違うために、人工四肢を取り付けて、
日常生活をスーパーF1レーサーに送らせて、レースの時だけ、四肢をはずし、スーパーF1マシンと
接続するということは出来ないのよ。
スーパーF1マシンの制御は、四肢のそれぞれの制御しているシステムが違うって、
その違うものを同時に制御しなきゃいけないのに対して、人工四肢を動かすというのは、脚を交互に動かせばいいとか、
手の動きが、左右で少し違うだけなのよ。
たとえば、食事の時に、ナイフとフォークで食事することなど、左右での動きが少し違うけれど、
同時に左右違う動きで動かす動作は少ないし、持つという体系の動作を行っていることについては、
左右の動きが変わらないの。」
「そう言うものなんですか・・・。」
瞳は、唸るような声でつぶやいた。
「スーパーF1ドライバーは、精密機械の主制御システムとしてスーパーF1マシンに乗っていなくてはならないから、
日常は人工四肢を取り付けて、週末だけ、人工四肢を取り外して、スーパーF1マシンに据え付けると、
今までの四日間に単調な四肢の動きに慣れちゃって、急に複雑なスーパーF1マシンの制御ユニットになると
生体脳が混乱を来してしまうの。
もちろん、補助コンピューターの調整機能が働いて、生体脳の混乱を調整しようとするんだけれど、四肢を取って、
マシンと接続してということを複数回繰り返すと、人間の脳は、コンピューターのように単純じゃないから、
補助コンピューターでの調整が効かなくなって、精神的な障害を起こす可能性が高くなるの。」
「つまり、度々の環境変化に脳が耐えきれなくなって、精神異常者になってしまうって言うことですか?」
275manplus:2006/09/18(月) 21:14:03 ID:WzqNerGz0
「そうなの。精神異常者になるならまだいいけれど、生体脳が完全に壊れてしまって、
廃人同様になったケースがあったらしいの。
我がカンダは、医療チームの研究で、そのような危険性を最初から指摘していて、人工四肢を引退まで、
スーパーF1ドライバーに接続しないことが、ドライバーを守ることだと考え、
最初からドライバーの現役中は四肢を取り付けない方針を変えていないうえ、国際自動車連盟に報告して、
各チームにも四肢を引退までは取り付けないというルールを徹底して、ドライバーの保護に努めるようにという通達を
国際自動車連盟に出させたんだけれど、我が儘なドライバーの懇願に負けて、人工四肢の着脱を繰り返したワークスが、
何チームか欧州にあって、そのチームは、ことごとく、貴重で高価なスーパーF1ドライバーを廃人同様にしているの。
当初、問題を起こした各チームは、社会的な避難に晒されることを畏れて、
極秘に廃人になったドライバーをマシンのテスト走行中の事故による死亡として処分していたらしいんだけれど、
国際自動車連盟が、何チームかのドライバーに事故死が頻発することに疑問を持って、
徹底的な調査をして事件が発覚したのよ。
本人が、廃人になってもいいから、通常の日常生活を送りたいと言うことで念書まで交わした上でのこととはいっても、
人命に対することなので、国際自動車連盟は、チーム首脳会議の場で、スーパーF1ドライバーは、
マシンを降りるまで四肢をつけることをしないことをレギュレーションに準ずる内規として申し入れた上で、
どのような事情があっても、現役中の人工四肢の取り付けをスーパーF1ドライバーに行ったチームは、
自動車レース界から、追放することを申し合わせたの。
それ以来、スーパーF1ドライバーは、現役中は、ダルマ状態で過ごすことが、徹底的に守られるようになったの。
その代わり、必要なサポートスタッフに、どのような細かいことでも、スーパーF1ドライバーをサポートする体制を整えて、
スーパーF1ドライバーが日常生活において、四肢が無くて、自分では、何もすることが出来なくても、
何不自由なく四肢があった頃と同じように生活できるようにチームがサポートする体制もドライバーの基本的な
人権の立場において、チームがドライバーに保証しなくてはならないの。」
276manplus:2006/09/18(月) 21:14:40 ID:WzqNerGz0
「そう言うことなんですか・・・。でも、スーパーF1のカテゴリーでシートを失って、下のカテゴリーや、
インディーカーレースとか、ラリーとか、ドラッグレースの分野にドライバーが行くことになったらどうするんですか?
私たちは、スーパーF1マシン専用ドライバーとして、このような四肢が無くて、
その切断面がマシンとのインターフェイスになっているような特殊な姿のサイボーグに改造されてしまっているので、
他のカテゴリーのマシンには、もう、乗ることが出来ないですよね。」
「基本的にはそうよね。」
「基本的にはという表現ではなく、根本的に言って、ステアリングも握れないし、スロットルやブレーキも踏めない、
パドル(シフトチェンジ用にステアリングに取り付けられたレバー《知っているとは思いますが念のため補足します。》)
だって使えないんですよ。」
「他のカテゴリーのドライバーに戻ることを前提にしていないサイボーグドライバーとして設計されて改造手術を
受けたことにより、手足を取り去ってしまうから、当然よね。
人工四肢を取り付けて、レースに出れるようになるほど人工四肢に慣れるリハビリをしてから、
レースに送り出してもいいんだけれど、そんな事したら、日常生活に戻れるような四肢の使い方に
慣れるまでのリハビリですら時間がかかってしまうし、その上で、過去の自分のドライブ感覚を取り戻すまで
人工四肢を操れるようになる訓練に必要な期間は、気が遠くなるほどになるの。
日常生活においての公道上での量産車を運転するくらいなら、すぐに何とかなると思うけれど、
それとは比べものにならないくらいデリケートな完成度がレース用のマシンを走らせるとなったら必要な問題になるでしょ。」
「その通りだと思います。マシンの操縦は、公道の車とは、訳が違うほど、繊細な感覚が必要ですからね。
まったく違いますから。」
277manplus:2006/09/18(月) 21:26:54 ID:WzqNerGz0
「そうよね。それは、『プリンセスヒトミ』でも例外ではないわよね。
だから、何年かかるかわからないリハビリをさせるということは、プロドライバーとしての競技生活を
脅かすことになるということなの。
だから、国際自動車連盟と、スーパーF1に参戦するチームとの合意で、スーパーF1に参戦するときにドライバーとの契約で、
ドライバーの人生の保証という項目の中に、他のカテゴリーに引退せずに移籍するときの条項が加えられているの。」
「どういう条項なのですか?」
「瞳、契約書に、スーパーF1に参戦以降のドライバー生命の保証って項目があったでしょ。」
「はい。覚えています。身体のスペックを変更されても、他のカテゴリーに移る場合は、その活動をチームが
完全保証しサポートすると書いてありました。」
278munplus:2006/09/18(月) 21:28:27 ID:WzqNerGz0
「その条項がそうなんだけれど、スーパーF1のカテゴリーにドライバーを移籍させて、
スーパーF1に参戦させるときに、スーパーF1マシン専用ドライバーにサイボーグとして改造手術を
行って身体を二度と元の標準人体に戻すことができないような改造手術を施すということは、
スーパーF1のマシンのシステムとチームの事情によるもので、ドライバーの意志ではないと法的理論上規定されているの。
だから、他のカテゴリーに移るときは、そのカテゴリーのマシンをスーパーF1チームが、
スーパーF1ドライバー専用のコントロールシステムに作りかえて、提供し続けることが義務づけられているの。
つまり、プロドライバーとして現役を引退するまで、スーパーF1マシンのコントロールシステムと同様で、しかも、
そのカテゴリーのマシンにあった、瞳たちサイボーグドライバー専用の制御システムのシートにサイボーグドライバーが
取り付けられてマシンをコントロールできるように、我々が、スーパーF1ドライバー用の制御システムの改良タイプを
そのカテゴリーの契約チームに提供し続けることになるの。
これは、テストドライバーやサードドライバーの契約にも適用されるようになったから、彼らが、
このカテゴリーをあきらめて移籍するときにも、現状のサイボーグ改造手術を受けた身体でマシンを操れるように
他のカテゴリーのマシンを改造してそのチームに提供することで、現役引退まで、レーシングマシンに
乗ることが保証される訳なの。
しかも、現役を引退するまで、ドライバーの日常生活もサポートスタッフをつけたりというスーパーF1時代と
変わりのない生活の保障も義務づけられているし、引退時の人工四肢の取り付けなどのサイボーグ体の
再改造費用から、リハビリの費用までの全てを保証することが義務づけられているの。
さらにトップドライバーに対しては、瞳のように、生涯の補償をつけることが、契約上当たり前になっているのよ。
279manplus:2006/09/18(月) 21:29:21 ID:WzqNerGz0
人間をマシンと同化させるために機械と電子部品だらけで、しかも、一時的に、手脚まで奪い取ってレース用の
コントロールユニットというサイボーグに改造して、人間としての人生を変えた責任は、
チームがかぶるという原則が厳重に守られることになっているの。
だから、スーパーF1チームは、ドライバーに対する費用だけでも、莫大な費用がかかるというわけ。
参加費用が、F1の比じゃないというのは、こういう事にも費用を掛けないといけないからなの。
それが守れないチームは、スーパーF1に参戦出来ないし、履行されていないと判れば、追放されてしまうのよ。
チームにとっても厳しいルールのあるカテゴリーなのよ。」
「そうなんですか。それじゃ、私も、このような身体で、現役引退まで、不自由をしないようにはなっているんですね。
少し安心しました。手脚がないということは、何一つ自分だけではすることができないと言うことなので、
ちょっと安心しました。
でも、セックスとかはどうするんですか?衆人環視みたいにサポートスタッフに体位を変えてもらったりとか
手伝ってもらって行うんですか?」
「セックスの世話は、パートナーにしてもらえばいいじゃないの。
ただし、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、みんな、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとしての
日常生活に慣れてくるとサポートスタッフを本当に、自分の手脚の一部としてしか思わなくなるから、
セックス前のシャワーのことや、性器の洗浄などの事後処理のこともあるから、サポートスタッフが、
そばに待機していても、何も感じないみたいよ。
みんな平気でサポートスタッフとパートナーにサポートさせて、パートナーとのセックスを楽しんでいるみたいよ。
最初は、パートナーの方が戸惑うみたいだけれど、サポートスタッフは、
サポートしているサイボーグドライバーのプライベートについては、秘守の義務に忠実だから、
パートナーも安心するみたいよ。」
280munplus:2006/09/18(月) 21:36:55 ID:WzqNerGz0
「そう言うものなんですか・・・。」
「瞳も、落ち着いたら、パートナーとのセックスを楽しむ時、サポートスタッフを気にしないようになっていると思うわ。
それに、ドライバーのパートナーによっては、衆人環視の方が萌えるというパートナーもいるみたいよ。」
「はぁ・・・。」
「それに、ドライバーに聞いたけど、四肢のない相手とセックスをするほうが、異常に興奮するというパートナーが多いらしいわ。
ダルマな状態のパートナーを持ってみたかったという相手が多いみたいよ。
パートナーによっては、完全に性生活を管理できて、浮気できないから助かるし、自分の意志や思考で、
パートナーを管理できるから、四肢のない相手は最高だといわれたドライバーも多いらしいわ。
四肢がないし、サポートスタッフとチームに管理されているから、サポートスタッフに協力してもらわないと浮気はできないからね。
ただし、サポートスタッフは、倫理規定で、婚姻を結んでいるドライバーのサポートに関しては、
浮気の幇助はしてはいけないことになっているから、浮気の相手のところに運んだりすることは、原則的にできないから、
パートナーは安心だよね。」
「う〜〜〜ん。」
「それから、パートナーが、M性が強くなって、何もできないドライバーをご主人様として、徹底的にご奉仕したり、逆に、
S性が強くなって、完全に私生活を支配されて、その類のプレイで充実感を味わったなんて言うこともあるらしいわ。
その場合は、ドライバー本人もそのような特殊性癖に目覚めてしまうケースもあると聞いているわ。」
「性癖って、色々なんですね。私は、どうなるのかな?」
「瞳は、絶対にS性が強くなるわね。パートナーに徹底的に奉仕させて、背いたら、
サポートスタッフに命じてお仕置きなんて事やりかねないと思うわ。私生活も含めて、真の“女帝”になると思うわ。」
「恵美さん。ひどいですよ。私、そんなことないと思います。」
「言い切れるかしら、普段は大人しくてかわいらしいけれど、マシンに乗った時のあの気の強さを見ていると、M性よりも、
はるかにS性が強いと思わざるを得ないもの。」
281manplus:2006/09/18(月) 21:37:39 ID:WzqNerGz0
「否定できない私が怖い。恵美さんは、私のことみんな知っているからな。その人が言うと、何かそんな気に・・・。」
「そうでしょ。さて、余談はともかくとして、日常生活に関することで契約書に書いてあったと思うけれど、唯一例外的に、
スーパーF1マシン以外で、瞳が日常生活で四肢の切断断面のコネクターに接続して良い日常生活のアイテムが、
自家用車なの。瞳たちサイボーグドライバー専用の自家用車は、スーパーF1マシンと同様にコードで自動車と
接続されて、公道をスーパーF1ドライバーが運転しても良いことになっているのよ。
瞳たちスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーがスーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用に
作られた特殊自動車で、公道をドライブすることは、もうすでに、スーパーF1のカテゴリーが誕生した時に
国際自動車連盟が、ドライバーが排出されるであろう関係各国に許可を得ているから、
世界中のどこを走っても大丈夫なようになっているの。
瞳にカンダが提供する自動車自体も、公道用の水素イオンエンジン搭載車なのよ。
瞳が公道を思う存分ドライブできるようにして、瞳が普段の生活やレースでのストレスを解放できるような
ささやかなプレゼントをカンダから用意させてもらったわ。」
「恵美さん、ありがとうございます。」

282manplus:2006/09/18(月) 21:38:14 ID:WzqNerGz0
「瞳さん。手術が成功したようね。」
「あっ!溝口社長・・・。」
いつの間にか、瞳が寝かされている部屋に溝口が入ってきていた。瞳は、予期せぬ人物の来室に少しとまどいを覚えていた。
「何を戸惑っているのよ瞳さん。我がカンダのスーパーF1のワークスチームのエースドライバーの顔を見に来ちゃいけないの?」
「い、いえそんなことは・・・。」
「それに、『プリンセスヒトミ』が、うちと契約してくれたんだから、記者発表前に表敬訪問するのは当たり前です。
瞳さん、期待しています。よく、我がカンダのドライバーに残ってくれました。
そして、カンダのスーパーF1マシンをコントロールしてくれる気持ちになってくれたことに感謝しています。」
「そんな!私は、カンダに対して恩のある立場の人間です。カンダが招いてくれるなら、
何をおいてもカンダのためにドライブしようと思っているのです。
私は、カンダに、そして、溝口社長に感謝しているんです。
なんと言っても、私をスーパーF1ドライバーまで育ててくれたことに対する感謝の気持は変わりありません。
本当に感謝しているのです。だから、私がカンダのチームに貢献できることがあるのでしたら、
その与えられたカテゴリーで精一杯仕事をさせてもらうつもりです。」
溝口は、瞳のカンダへの思いに少し感極まっていた。
283manplus:2006/09/18(月) 21:47:02 ID:WzqNerGz0
「瞳さん。ありがとう。カンダを愛してくれて。私もカンダを愛する人間として、瞳さんと一緒にスーパーF1を
戦えることになってとっても嬉しいわ。
でも、さすがに、『プリンセスヒトミ』とか『音速の貴公女』なんて言われるだけあるわね。
考えが、90年代のセナそっくりなんだよね。私としては、ノスタルジックを感じるわ。
そんな瞳さんだから、なおさらモータースポーツファンにも、マスコミにも尊敬される存在なんだろうね。
私も、瞳さんを契約ドライバーとしてではなく、一ファンとしてしか見られないのよ。
だから、妻川には、絶対に、『プリンセスヒトミ』を我がカンダのスーパーF1のマシンに乗せろって、ハッパをかけていたのよ。
一時は、妻川の報告を聞いて、はらはらしていたんだから。
速水瞳が、ひょっとするとヒイラーリに乗るかもしれない、ひょっとするとトミタに乗ることになるかもしれないなんて、
脅すんだもの。」
「私、そんなこと言いましたっけ?瞳は、即決でカンダに決めてくれたと報告したんじゃ・・・。」
「よく言うわよ。瞳さんに提示する条件を打ち合わせするときに、あおるだけあおっておいて、『言いましたっけ?』はないものね。」
「私は、事実を報告したまでです。トップチームがこぞって、破格の条件を提示しているはずだから、瞳の獲得には、
それなりの覚悟がいりますよ。と報告したまでです。」
「そうだったかしら。かなりの勢いで脅してくれたんじゃなかったでしたっけ?」
「まあ、それは・・・、瞳の獲得を絶対成功したかったから・・・。それは、私も社長と同じ気持ちでしたから。」
「まあ、いいわ。ところで瞳さんには、実際に、何チームからオファーが来たの?」
「最終的には、カンダも含めて、16チームです。」
「えっ!?16チームですって!!」
「社長、声が大きいですよ。瞳は、まだ手術が終わったばかりの身体なんですから。
聴覚の音声調節機能だって、これから調整しなくちゃいけないんですから。」
284manplus:2006/09/18(月) 21:47:39 ID:WzqNerGz0
「ごめんなさい。ちょっと驚いたものだから。16チームって、全チームよ。カンダのファーストワークスを除いての。
さすがに、『女帝』がカテゴリー変更をするんだから大変なものね。まさに、ストーブリーグの中心だったわけだ。」
「『女帝』だなんて、私、そんなに凄い選手じゃ・・・。」
「いいえ、瞳さんは凄い選手なのよ。私も、妻川に、絶対瞳さんを取るように指示したんだけど、
本当に契約書を見るまでは不安で一杯だったの。
他のメーカーに出し抜かれて、瞳さんをさらわれちゃうんじゃないかってね。
一応、カンダあげての獲得作戦を確約していた手前、気が気じゃなかったわ。」
「社長。そうだったんですか?私には、速水瞳を獲得できなかったときは、
運がなかったと綺麗に忘れましょうなんて言ってませんでしたっけ。」
「そんなこと言いましたか?」
溝口は、妻川の逆襲を軽くいなした。そのうえで、
「でも、瞳さん。瞳さんは、今のカンダにとってのモーターレースのシンボルなの。
だから、決して無理なドライビングをしないでね。安全にスーパーF1グランプリを楽しんでね。
特に来シーズンは、無理をしちゃだめよ。入賞なんてしなくても、最下位完走でもいいからね。
とにかく無事にドライビングをしてほしいわ。」
「溝口社長。それは私には無理です。レーサーは、一度マシンに乗ったら、一つでも上の順位を狙うため、
ぎりぎりでマシンをコントロールするんですから。
ポデュームの中央を常に目指す。たとえダメでも、一ポイントでも多くポイントをもぎ取ることを目指すのが、
私たちの仕事です。それに、それがレーシングドライバーとしての本能なんです。
自分の可能性に一年目からチャレンジします。」
その言葉を聞いていた妻川が感傷的な声で、
285manplus:2006/09/18(月) 21:49:16 ID:WzqNerGz0
「瞳は、本当に逞しくなったわね。
女学生として、レースクイーンをやってたころから比べると発言に貫禄と実績を後ろ盾にした自信が感じられるもの。
さすがに、各カテゴリーで総合優勝をはたし続けた『プリンセスヒトミ』の称号は伊達ではないって事か・・・。
感慨深いですね、社長。」
「本当ね。」
「でも、瞳。溝口社長は、あなたには無理するなって言っているくせに、私には、『速水瞳を獲得できたんだから、
スーパーF1グランプリ参加一年目から、好成績を期待してる。』なんてプレッシャーをかけるんだよ。」
「それは、大金を投じてるんだから、経営者としては当然よ。でも、『プリンセスヒトミ』に万が一のことがあったら、
それも大変だし、私は、“ハムレット”の心境なのよ。」
瞳には、自分への期待の高さをヒシヒシと感じる溝口の言葉だった。一年目から成績を確実に残す。
それが、自分に与えられた最低限の仕事なのだと決意を新たにしたのだった。
「溝口社長の期待に添うように、精一杯のドライブをすることを約束します。」
瞳の精一杯の答えに、
「瞳さん。お願いします。大和撫子が、無敵だって言うところを見せつけてあげて。期待しています。
じゃあ、テスト走行で会いましょう。絶対にテスト走行は何があっても見させてもらうからね。」
溝口は、そう言うと瞳の答えに満足したような笑みを浮かべて帰っていった。
286manplus:2006/09/18(月) 21:57:54 ID:WzqNerGz0
ちょっと投稿が空いてしまいました。
皆さんの投稿を楽しんで読ませてもらっているうちに、
投稿の機会を見失ってしまいました。
ちょっと集中的に投稿しようかと思っています。
287かな:2006/09/19(火) 18:34:25 ID:5JsePqhO0
>>267
ゆうこおねえちゃんへ
昔のサイボーグって、けっこうたいへんだったんだね。
かなの時代はいりょう科学・・・だったかな?が進んで
昔にくらべてけっこう楽になったって、おにいちゃんが言ってました。
かなは昔のことはよくわかんないけど、これを見たことでこの時代のサイボーグの苦労がよく
わかったような気がします。
もしゆうこおねえちゃんに会うことがあったら、その時代のことをもっと教えてほしいです。
あと今まで一番よかったこととかも聞きたいなあ。
それではゆうこおねえちゃんもお元気でいてください。
和多田かな
288無名:2006/09/19(火) 18:51:56 ID:5JsePqhO0
以上、かなちゃんの裕子お姉さんに当てたお手紙でした。
このお話を見て、私もサイボーグがどれだけ苦労しているのか分かった
気がします。かなちゃんの時代ではそれほど苦労しないで生活できるのに、
裕子姉さ・・・じゃなくてヤギー姉さんの時代ではこれだけの苦労をしないと
生きていけないという現実がこの文章にのしかかってきます。もう少し時代が進めば
法律が改定されてサイボーグの生活・維持にも国(もしくはサイボーグ援助機関みたいな
もの)が負担してくれるかも知れませんが・・・。とにかく今は辛いでしょうけど、
ヤギー姉さんにはがんばってほしいです。
次のお話ですが、早ければ来週あたりに掲載できると思います。
>>pinksaturnさん
やはり戦争は避けられませんでしたか・・・。サイボーグ娘たちは直接は戦争にかかわらないみたいですが、
これからのことが心配になってきました。彼女たちに幸あらんことを・・・。
>>manplusさん
F1レーサーサイボーグというのはありそうでなかった話ですね。最速を目指す
彼女たちの行く末を見守ろうと思います。
289日曜日をさs(ry:2006/09/19(火) 23:51:54 ID:iM5/lkz50
描きかけのまま放置してた絵を突貫作業でダルマ化。
継ぎ目を入れようとするも、どんなラインを通すか思いあぐね中。
あちこち変な所があるのはご容赦・・・。

ttp://jikkensaba.ath.cx/uploader/updata/20060919234641.jpg
290名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 20:40:40 ID:H0JCfZQ90
今日は私達、府内最大級のアダルトショップに来てるんだ。私達って、もちろん、藤原と私。この間、私の不注意でデート
をキャンセルしちゃったから、その埋め合わせっていうことで、藤原が行きたいところに付き合うことになったんだ。それ
で、今日のデート場所がここになったってわけ。藤原としては、ホントはコスプレショップ巡りをしたいんだろうけど、さ
すがに私もそこまで認めるつもりはない。で、まあ、無難なところに落ち着いた。

藤原のお目当ては、もちろんコスプレ服コーナー。もう、目をキラキラ輝かしちゃって、あちらこちらと、煩悩の赴くまま
にコスプレ服を漁ってる。あれを後で着なきゃならないかと思うと気が重いよ。この趣味さえなければ、いい奴なんだけど
ね。藤原は、可愛いとか綺麗とか萌えるとか、いろいろ言ってくれるけど、着ている本人はちっとも楽しくないし、服を着
たくらいで可愛く変身できるなんて思ってるわけじゃない。

私が何を言ったって藤原は聞く耳持たずな状態だし、ここにいても仕方ないから、藤原に一声かけて店内を散策することに
した。藤原からは、ごにょごにょと返事が返ってきたけど、気にしない。

さすがに府内最大級と言うだけあって、本当にいろんな物が揃ってる。私が知っている物なんか、ごく一部だけ。使い道を
想像できない物も沢山ある。これだけの物を考え出すなんて、ニンゲンの煩悩って偉大だよね。藤原が私にコスプレさせよ
うっていうのもさ。藤原の趣味なだけじゃなくて、マンネリ防止の意味もあるのかもね。付き合い始めてから大分経つし、
その間にしたえっちの回数も、もう数え切れないほどになっている。私の体のせいで、えっちできる場所が限られちゃうし、
体位にも融通がきかない。いくらお互いが好きだからとは言え、いつまでも同じことの繰り返しじゃ、いずれは飽きてきちゃ
うかも。藤原がコスプレ服なら、私も何か刺激的な道具でも買ってみようかな。

そんなことを考えながら、店内をあちこち散策してるんだけど、途中で出会う男の人たちの反応が、いまいちよろしくない
みたい。
291名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 20:43:13 ID:H0JCfZQ90
そりゃそうだ。女の子が、こんな店にいること自体フツーじゃない。ましてや、私って、外見は高校2年の時のままなんだ
よね。義体は自然に成長したりするわけないし、外見を成長させるような処置を受けるお金もない。化粧したって大人っぽ
い服を着たって、どこからどう見ても高校生。藤原と一緒にいると、いつも藤原がロリコンだとか思われちゃう。ってこと
は、藤原が一緒にいないと、未成年ってことで、店員さんにつまみ出されちゃうかもね。まだ誰も声をかけてこないから大
丈夫かな……。

「いらっしゃませ、お嬢様」
「うわわ! ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 私、これでも、もう23歳なんです。ホントなんです。高校生みたいに見
えるかもしれないけど違うんです。信じてください。ここにいるのも、藤原がどうしてもって言うから、しかたなく来てる
んです。必要なら呼びつけますから、通報するのだけは……あれ?」

……なんだ、コスプレした店員さんかと思ったら、ロボットじゃないか。考え事してる時にいきなり声をかけてくるから、
私、びっくりして変なこと口走っちゃったじゃないか。誰も聞いてなかったよね。ああ、恥ずかしい。

ふうん。この店はこんな物も置いてるんだ。ここにあるっていうことは、つまり、その、ダッチワイフっていうやつだよね。
それもロボット技術を応用して、人間並みの反応をするっていう高級品。人形と区別するために、セクソイド・ロボットと
かセクサロイドとか言うのかな。私、初めて見るけど、ホントよくできてる。展示用に皮膚の継ぎ目が残ってたりマーキン
グがしてあるけど、これが無かったら人間と見分けがつかないよ。あれ、このマークって、私のわき腹のコンセントプラグ
の蓋についてるのと同じだよ。じゃあ、これ、イソジマ電工製なのか……。

私の身体もイソジマ電工の製品だ。私は義体化一級の障害者。本当の私は脳みそだけ。脳以外の私の身体は元の身体に似せ
た作り物。近くでよく見ても、作り物だなんてゼンゼン分からないくらい人間の身体そっくりにできている。そういう技術
を応用して、人間そっくりなセクサロイドが作られた。世間じゃそう言われている。でもね、私、知ってるんだ。それは逆
だって言うことを。本当は、こういう物を作る技術が、義体に応用されたんだ。
292名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 20:43:56 ID:H0JCfZQ90
人間そっくりな身体を作るための技術開発だって、物凄くお金がかかる。でも、国はそんなものには補助金を出しはしない。
だから、ホントは、そんな技術は生まれてくるはずがなかったんだよ。

例えば、イソジマ電工が作った汗をかく義体。 そういう機能は生きていくためには必須のものじゃないからって、保険の
対象にならなかった。みんな欲しいと思っても買えなかった。私が入社してから知ったんだけど、保険の対象にならないだ
けじゃなくて、開発の補助金も同じ理由で出なかった。せっかく作った義体が売れなくて、イソジマ電工は大損したってい
うことだ。開発の責任者だった古堅部長は、そのことでかなり嫌味を言われたらしい。義体ユーザーのQOL向上を前面に打
出している建前上、公式なペナルティはなかったけど。そんな風に、生きていくためには必須じゃない人間らしい外観って
いうのは、ぜーんぶ義体メーカーの自己責任で開発しなきゃならない状況だった。

『不気味の壁』っていう言葉がある。人形を人間に似せて作ろうとしてリアルさを追求していくと、あるところで『不気味
の壁』に突き当たる。似てるんだけど何かが違う。その些細な相違が不気味さを感じさせる。壁を乗り越えるまでは、どん
なにリアルさを加えても、不気味さが増すばかり。つまり、作った物を売って儲けたお金で開発を続けるってモデルが成り
立たないんだ。だから、どこの義体メーカーも、必要と分かっていても手を出せなかった。イソジマ電工でさえ、だよ。

イソジマ電工の技術資料室には過去のモデルの試作機が置いてある。でも、完成した形の試作機が残っているのは、ある時
期から後のモデルだけ。それ以前のモデルは、骨格や内蔵機器のサンプルしかないんだ。昔は、標準義体を作っていなかっ
たからっていうのが表向きの理由。でも、本当は、とてもじゃないけど、一般の人に見せられるような代物じゃなかったか
らなんだ。先輩から、CS-5型のビデオをこっそり見せてもらったことがある。私でさえ、その映像の中で動いている物が人
間だなんて思うことができなかった。正直言って、私だったらこんな身体で生きていくよりは死んだほうがましだって思っ
たくらい。この頃の義体ユーザーには悪いけどさ。
293名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 20:56:12 ID:H0JCfZQ90
そんな状況で、『不気味の壁』に挑んだのは義体メーカーじゃなくて、小さなセクサロイドメーカーだった。セクサロイド
をなんて、それこそ、風船人形以上の物にしようと思ったら、どうしても『不気味の壁』を乗り越えなくちゃならない。人
形愛好家っていうなら別だけど、普通の人は人間の女の子を抱いているって幻想に浸りたいもの。それで、その会社の人た
ちは、よほど思い入れがあったんだろうね。優秀な人材が揃っていたとも言われてる。借金につぐ借金で、開発費を工面し
て、ついに製品を作り上げた。今の技術とは比べられないような稚拙な物でも、とにかく『不気味の壁』は越えていたんだ。
これは凄いことだよ。物が物だけにニュースで取り上げられるなんてことはなかったけど、関係者が受けた衝撃は大変なも
のだったらしい。なにしろこんなモノを売りに出されたら市場を独占されてしまう。

結局、製品を売り出す前に資金繰りができなくなって会社は潰れてしまった。技術資料や特許なんかは、ぜーんぶ競売にか
けられて、タダ同然の安値で買い叩かれた。競売場には、沢山のメーカーが集まってたんだけどね。変だよね。どこの義体
メーカーだってこの技術は喉から手が出るほど欲しいはずだもの。でも、なぜか、ほとんど競りにはならずに、ある会社が
全ての権利を手に入れた。それは政府の外郭団体が運営する小さな会社だった。そして、競売の少し後で、その会社から、
やっぱりタダ同然の値段でその技術のライセンスが開始された。義体メーカーは、たいした開発費をかけなくても人間そっ
くりの身体を作る技術の基礎を手に入れることができたってわけ。こんな話、大きな声では言えないよね。だから世間一般
では、セクサロイドは義体技術の応用ってことになっている。

私が今、人前に出られるのも、みんなから人間だって思ってもらえるのも、藤原とえっちできるのも、元をただせば、この
セクサロイドのおかげなんだ。人間の煩悩が、私の身体を支えていると言ってもいいかもね。

「いらっしゃいませ、旦那様」
うわっ。だから考え事をしている最中に喋るなって…、あれ? 旦那様?
「裕子さん、お待たせー」
294名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 20:57:52 ID:H0JCfZQ90
……煩悩の塊が、ここにも一人いたっけか。もう用事は済んだの?って聞くまでもないなあ。その両手の大きな紙袋を見れ
ば十分だ。
「裕子さん、これって……」
「うん、セクサロイドだね。私の身体と同じイソジマ電工製らしいよ」
「へえ、よくできてるなあ」
「藤原、こういうの見るの初めて?」
「うん。噂には聞いてたけど、実物を見るのは初めてなんだ」

藤原、セクサロイドを頭の天辺から爪先までじろじろ見てる。ずいぶん熱心だなあ。なんか、私を見る目つきより、もっと
いやらしい感じがするよ。セクサロイドが珍しいだけじゃないみたい。

「裕子さん、ごめん。ちょっとこの荷物見ててね」
そう言い残して藤原は、またどこかへ行っちゃった。まさか、このセクサロイドを買おうなんてわけないけど、一体どうし
ちゃったんだろう? 一人残されて、改めてセクサロイドに目をやる私。

確かに、このセクサロイド、よくできている。顔もスタイルも、女の私が見たって、可愛いし綺麗だと思う。特に顔。私み
たいにどこにでもいる印象の薄い顔じゃないのは当然としても、絶世の美人ってわけでもない。イソジマ電工の標準義体み
たいに整いすぎていて逆に人形っぽいというのとも違う。そうだなあ、学年で5番目くらいの美人だけど、人気投票をする
とダントツ一位の女の子って感じかなあ。手が届きそうで届かない。だからそんな子が自分の方を振り向いてくれたら、一
発で参っちゃう。イソジマ電工の造形師の腕の冴えっていうやつだよね。

全身義体の外観は元の身体と同じでなければならない。これは法律で決まってる。もしそんな法律がなくて外観を自由に選
べたら……。こんなに可愛くなくても、もう少しだけでも可愛いって言ってもらえるような容姿だったら……。学生の頃、
VRの中でジャスミンを演じたことがあったけど、あれは散々な結果だった。そのおかげで、私は私だっていう、当たり前
のことを再認識したけれど、VRじゃない現実で別な私になれるとしたらどうだろう。藤原だって、こういう可愛くてセク
シーな女の子が彼女の方がいいに決まっている。これなら、ご飯を一緒に食べられなくたって、海に一緒に行けなくたって、
付き合ってみようかって気になるもん。

「いらっしゃいませ、旦那様」
295名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 20:58:37 ID:H0JCfZQ90
「裕子さん、待たせちゃってごめんね」
戻ってきた藤原の手には、大きな紙袋。
「藤原、それ……?」
「うん。この服、いいなあと思って買ってきた。服が2着になったけど、裕子さん、着てくれるよね?」
目をうるうるさせて、上目遣いで私を見る藤原。

なんだ、藤原はセクサロイドじゃなくて服を見てたのか。確かに可愛くてえっちっぽい服だけどさ。でも……。

「ねえ、藤原?」
「なに、裕子さん」
「このセクサロイド、どう思う?」
「うーん、よくできてるなあって」
「そうじゃなくて! 可愛いとかセクシーとか思わないの?」
「それは思わないこともないけど……」
藤原、何かに気づいたのか、私の方に向き直って真剣な顔で言葉を続ける。
「確かに可愛いかもしれないけど、これはただのロボットだよ? 裕子さんと比べる対象になんかならないよ」
「藤原……」
「俺にとっては、裕子さんが、この世で一番の美人なんだよ。それに、俺、裕子さんの顔や身体だけを好きになったわけじ
ゃない」
そう言って、私をそっと抱きしめる。ちょ、ちょっと、藤原、いくらアダルトショップだからって、人前でこんなことしちゃ
恥ずかしいよう。

藤原は、私の頭に手をあてて、一段と真剣な顔になる。
「俺、裕子さんの心が好きなんだ。世界でたった一人しかいない八木橋裕子さんがね」
「藤原……」
もう私には何も言えなくなった。胸が一杯になっちゃって、藤原を思いっきり抱きしめて、キスしようとする。

「いらっしゃいませ、旦那様」
……うわっ!!!
296名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 21:12:46 ID:H0JCfZQ90
慌てて藤原を突き放したのは言うまでもない。藤原はびっくりした顔をしたけれど、後ろに立っている男の人に気づいて、
まっかな顔をして荷物を引っつかむと、物凄い勢いで走りだした。私も顔を伏せながら、藤原の後を追う。ごめんね、藤原。
こんな所で恥をかかせちゃって。


その夜は、藤原が買い込んだコスプレ服を2着とも着る羽目になった。あんなことが無かったら、最初の約束通り1着だけっ
てきっぱり言うつもりだったんだけどなあ。

緑色と茶色のぐねぐねした小さな模様が散らばってる変な服。テレビで戦争関係のニュースが流れる時に兵隊が着る服みた
い。そう藤原に言ったら、『めいさいふく』だって教えてくれた。うーん、こんな服着せて楽しいの? 特に可愛いってい
う感じじゃないんだけど。藤原は、そのギャップが堪らないと言うけどさ。私には、よく分からないなあ。

もう一着は、セクサロイドが着ていた服。これは、まあ、可愛くてセクシーな服だと思うけど、着てるのが私じゃねえ。胸
の辺りもブカブカだし。なんだか、私が服を着ているというよりは、私が服に着られているって感じがする。でも、藤原は
満足らしい。大昔のファミレスで実際に使われていた衣装なんだそうだ。マニアの間では結構有名らしい。いつもいつも、
どこからそんな情報を仕入れてくるのか、感心しちゃう。

でも、藤原にとって大事なのは、服じゃなくて、それを着ている私の方。どんなに綺麗で可愛い服があったって、どんなに
マニア心をくすぐるレアな服があったって、私が着てなきゃ意味が無い。そして、どんなに綺麗で可愛い女の子がいたって、
コスプレさせたいとは思わない。藤原が好きだと言ってくれるのは、八木橋裕子っていう、この世でただ一人の存在なんだ。
もう、藤原が何を言っても、何をしても、私の心がゆらぐことは絶対にない。
297名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 21:13:40 ID:H0JCfZQ90
「裕子さん、あのね」
「何、藤原。もうしたくなっちゃった?」
「いや、あの、その……」
藤原はもじもじしながら紙袋の方を指さしている。そういえば、これで2着目なのに、まだ開けてない紙袋が残ってる。ま
さか……。
「実は、もう一着買ってあるんだ。どうしても一つに決められなくて、両方買ったんだ。裕子さん、着てくれるよね」
いつもの通り目を潤ませて、上目遣いでお願いモードを発動する藤原。

藤原……。あんたって……あんたって……。
「バカバカっ! 藤原のバカっ! このド変態! 死んでしまえっ!」
このセリフを言うのは、一体何度目だろう……。


……結局、3着目も着ましたよ、ええ。こんな藤原でも、私、大好きだよう……orz

298名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 21:45:17 ID:2uVc8MQs0
ふーじわら!
ふーじわら!
ふーじわら!
299名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 21:56:58 ID:rDSB6sei0
不気味の谷とか迷彩服とか、さりげなくスレで出た話題が盛り込んであるあたりが実に芸コマだなぁ。
しかもアンミラ?までw

・・・ところで、3着目はどんな服だったのやら。www
300manplus:2006/09/20(水) 23:27:30 ID:/oRw7pKO0
 手足のない電子機器と機械部品の詰まったサイボーグの身体に慣れるためのリハビリを瞳は、その翌日から重ねて、
二ヶ月もすると完全に新しい身体を自分のものにした。
「瞳、新年に、リハビリが間に合ったわね。よく頑張ったわね。」
「妻川監督。速水選手のサイボーグ体への適応化率は、驚異的な数値ではないでしょうか?
機械と共存するために生まれてきたような人間です。さすがにナンバーワンドライバーですね。
他のトップドライバーでも、こんなに早くはサイボーグ体に適応しないし、まして、鈴木選手は、
もう少し時間が必要な状態なのに、やっぱり速見選手は凄いです。」
「早く、サーキットに出たくてたまらなくて、必死だったからよかったんだと思うんです。」
「瞳!謙遜はいいのよ。もっと、女王陛下としての自信と誇りを持ちなさい。私だから当然という態度でいてよ。
お願いだから!」
「恵美さん。それが難しいんですよ。」
「妻川監督、その東洋的な奥ゆかしさというか、謙虚さが、速水選手のすばらしさですし、そのような振る舞いが、
この若さにして人格も兼ね備えていると他の選手やメカニックからも尊敬され、ファンやマスコミからも、
真のモータースポーツ界の女王陛下と慕われている所以なんですよ。
この性格が、万人に、『プリンセスヒトミ』という称号を認めさせいるんだと思います。」
「石坂ドクターの言うとおりかもね。これが瞳のいいところなのよね。
でも、私としては、その中でも、もう少し、威厳を持ってもらいたいんだけどね。高望みかな・・・。」
「がんばります。」
「瞳、無理はしないのよ。いいわね。ところで、今日から、瞳をマシンのドライブシミュレーターに取り付けたいのだけれど、
大丈夫かな?」
「監督。大丈夫です。私が太鼓判を押します。このメディカルサポートセンターから、退院させて、
新居に移動させてもいいくらいだと思うくらいです。」
301manplus:2006/09/20(水) 23:28:13 ID:/oRw7pKO0
「ドクターから、そこまで太鼓判を押されているなら、シミュレーターでの訓練に移っても大丈夫そうね。
新居への引っ越しは、もう少し先にしましょう。ここにいた方が、集中的なトレーニングが出来るから都合がいいと思うわ。」
「それじゃ、今日から、マシンの運転感覚を磨けるんですね。とっても嬉しいです。」
「全く、瞳は、マシンに乗ることしか頭にないようね。」
「そうですね。医師としては、押さえるのが大変です。」
「石坂ドクター。瞳の我が儘に我慢するのよ。」
「昼食までのルーティーンの訓練を終えたら、シミュレーターに取り付けさせてもらうからね。」
 この日、瞳は、スーパーF1ドライバー専用の台車に乗せられ、シミュレーター室に運ばれる事になっていた。
瞳は、四肢のない自分のようなスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの専用台車に乗せられての移動の時は
いつも、自分がスーパーF1マシン専用の制御ユニットになったのだ。
機械装置になったのだという寂寥感と、人間ではなくなってしまった事へのほんの少しの後悔を抱くのである。

 瞳の一日は、専用ベッドから抱き起こされた上、サポートスタッフによって、瞳の脚代わりのただ瞳を立たせるだけの
目的の直立スタンドか移動させることを目的とした直立スタンドに移動用の車輪の付いた専用室内用の台車に移され、
朝食をサポートスタッフに食べさせてもらい、専用の排泄システムが付いたトイレに移動し、肛門の弁に、
スーパーF1ドライバー専用排泄物除去システムから伸びる排泄ホースを接続され、排泄物貯蔵タンクと、
直腸に貯まった一日分の排泄物を洗い出すため、直腸に洗浄液の注入が行われるのである。
そして、同時に、排尿カプラーを尿道に被せられて排尿を行うのである。その後で、専用のビデで、
性器洗浄を行われたうえで、仕上げにシャワー室で万遍なく身体を洗われるのである。
302manplus:2006/09/20(水) 23:28:48 ID:/oRw7pKO0
 その後、食事を摂ることになるのだが、食事に関しては、前日の消費カロリーデーターから、
必要摂取可能カロリーを割り出され、その算出されたカロリー数に従い朝昼夜の三食に割り振られたメニューが作成され、
そのメニューに従った経口食物しか口に出来ないのである。
瞳たち、スーパーF1ドライバーは、手や脚がない四肢切断者なので、そのままの状態で何もしないで油断すれば、
カロリーを消費する手段を持たないため、カロリー摂取過多の状態になるおそれがあるのだ。
だから、摂取カロリーに関しては厳密に管理されたのである。スーパーF1ドライバーは、
たとえ10グラムの体重増加であっても、そのスーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用に作られた
スーパーF1マシンのパフォーマンスに重大な影響を与えてしまうのである。
スーパーF1マシンは、ドライバーの重量も含めた総合重量で、厳密な計算の上に作り上げられた精密機械なのである。
だから、スーパーF1ドライバーは、他のカテゴリー以上に重量に過敏でなくてはいけないのだ。
 シャワーが終わると、瞳は、着衣を着せられずに裸のまま、運動トレーニングセンターに運ばれ、
受動的強制筋肉トレーニングマシンであるEMSシステムを使用して、筋力トレーニングを行うのである。
 スーパーF1ドライバーは、四肢切断者であり、自ら動くことが出来ないため、
彼らスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーのトレーニングは、体中に電極パッドを取り付けられて、受動的、
強制的に、電流の力で筋肉を動かされることにより筋力トレーニングを行うのである。
筋肉が、電流により勝手に動くので、能動的な運動トレーニングと違い、自分自身の判断によりトレーニングを
やめることが出来ない。
その為、まるで拷問のような状態で、強制的に自分からやめることができない筋力トレーニングを受けなければならないのである。
それが、スーパーF1ドライバーの宿命なのである。後に、瞳の密着取材をした女性レポーターが、
そのトレーニングを体験した時、その凄まじい運動量に耐えきれずに泣きわめいてしまい、
その女性レポーターの訓練風景のシーンがお蔵入りになったほどである。
303名無しさん@ピンキー:2006/09/20(水) 23:37:18 ID:BqCS/E1T0
”不気味の谷現象”でウィキを検索してみて。おもしろいですよ。
サイボーグであることを隠して生身のふりをすることは、正体が
ばれた時に谷どころか断崖絶壁をつくってしまいそうです。
304manplus:2006/09/21(木) 00:03:29 ID:ZP3lnEen0
それも、たった数分、瞳と同じトレーニングを受けただけのことなのにそのようなことになってしまったのである。
ちなみに、瞳たちは、このトレーニングを1日数時間は、必ず行うことになっているのである。
瞳は、このトレーニングシステムによる過酷で凄まじいトレーニングのおかげで、標準人体のときの
すばらしいプロポーションを維持し続けられたのである。
 瞳は、この過酷で拷問のようなトレーニングにも、音を上げることなく最初から耐え続けたのである。
 さらに、この日からは、スーパーF1マシンシミュレーターによるスーパーF1マシンの制御訓練が始まったため、
EMSによる瞳の筋肉に対する電流刺激は、トレーニング時間の短縮を補うため、
密度の濃いトレーニングを実施するために、電流が強くされ、さらに過酷なものになったのである。
瞳は、電流により筋肉が勝手に痙攣したように暴れ回ることに耐え続けていくことになるのである。
 瞳は、再びトレーニングの汗を流すためにシャワーを浴させてもらい、その後で昼食を取った。
瞳は、この日に至るまで、サイボーグ手術を受けてから、服を着せてもらえなかった。全裸の状態で、
24時間管理されたのである。スーパーF1ドライバーにとっては、サイボーグ手術を受けることで
人工皮膚に覆われた身体になったため、どんな環境下でも、衣服を着なくても充分に生活できるのである。
もちろん、外気温の感覚は、生体皮膚だった頃と同じように忠実に脳に伝えられるのだが、それは、感覚というより、
外気の状況データーのようなものであった。
その為、補助コンピューターが、通常人体では寒いとか、暑いとかという感覚になることを脳に告げるだけなのである。
 最初は、恥ずかしいと思ったが、いつの間にか、慣れてしまうと、受動的強制的トレーニングマシンとの身体の
接続などを考えると、全裸の方がいいのだと思うようになっていた。

305manplus:2006/09/21(木) 00:04:14 ID:ZP3lnEen0
 この日、予定通り、昼食を摂った後、瞳は、シミュレーターの置かれている
スーパーF1マシンコントロールトレーニングルームに台車で運ばれた。
 そこには、妻川と石坂が、すでに到着して、瞳を待っていた。
「瞳、今日はいよいよマシンシュミレーターで運転感覚を養ってもらうよ。まず、ドライバースーツを着用するのよ。
サイボーグ手術を受けてから、初めて服を着てもらうからね。」
「恵美さん。何か、全裸の状態になれてしまうと、服を着せてもらうのが面倒臭いような気がします。」
「慣れは恐ろしいわね。でも、このセンターを出たら、嫌でも、社会的に適応した生活を送るために、
標準人体だった頃のように、ブラやパンティーをつけて、ファッショナブルな服を着てもらわなくちゃならないし、
レース中は、身体保護のためのレーシングスーツを着用してもらうから、服を着る感覚に徐々に慣れることね。」
「はぁ・・・。」
昔の瞳なら、服を着ていないことに強烈な違和感や羞恥心があったのだが、今の瞳にとっては、
服を着て生活することに違和感を感じてしまうのだ。
『人間の感覚なんておかしいものだわ。』
そう、瞳は思うのであった。
サポートスタッフの森田つぐみが、
「まずこれを着けてもらいます。」
といって、ちょっとごわごわした感じのパンティーを持ってきた。瞳の視線はそのパンティーに釘付けになった。
そのパンティーは、ものすごく薄いが、紛れもなく、紙おむつなのである。覚悟していたこととは言え、
瞳はこの年になって、おむつをつけられると思うと、その物に視線が行って、そこで固まってしまう。
「瞳さん大丈夫ですよ。これでも、おしっこを15回以上は吸収することが可能だし、整理用ナプキンと一緒で、逆流して、
おしりに不快感を感じることがないようになっていますから。遠慮しないでジャンジャン漏らして、使っちゃってください。」
「そうじゃないのよ。その逆で、こんなものにこの年になって、お世話になるのかと思うと、なんか複雑なんだよね。」
「でも、他のカテゴリーと違って、マシンに乗る時間が桁違いに長いから仕方ないことですし、それに、他のカテゴリーでも、
ドライバーによっては、おむつしているって言うじゃないですか。」
306manplus:2006/09/21(木) 00:05:33 ID:ZP3lnEen0
「まあ、そうなんだけどね。私も含めて、女性ドライバーは、人体の構造的に尿道が短いから、強制排尿機で、
膀胱を完全に空にしてマシンに乗るか、おむつを着けて乗るかのどちらかの対策をしているドライバーが多かったけれど、
私は、おむつのお世話になることはなかったもの。
私も、少し長くマシンを降りられないと思ったときは、おむつ着けたことあるけれど、使うことはなかったの。
今度みたいに、使用することを完全に前提にして着けるというのは、気が滅入っちゃうんだ。」
「そう言うものかもしれませんね。それでも、着けなくてはしょうがないのですから、早く着けちゃいましょうね。」
森田は、さらりと行って作業を開始した。
「さっきシャワーの時に、済ませてるからいいと思いますが、おしっこ大丈夫ですね。もう一度しときますか?」
「そう言われると、したくなっちゃうけれど、大丈夫みたいよ。」
「分かりました。それじゃ、スーパーF1ドライバー専用の排尿吸着下着を着けますね。」
おむつではないということなのか、凄いこじつけたような名前が付いている。
しかし、考えてみれば、毎日のように、マシンに乗るときは、おむつを着けられるのだから、
『おむつを着けますと言われるよりは、この名前の方が精神的にいいのかもしれない』と瞳は、思った。
特に、今までのように、自らおむつを履くのではなく、他人に着けてもらうというのが、
スーパーF1ドライバーにとっての精神的なダメージになるのだ。手足同様にサポートスタッフを思えるようになっていても、
おむつを着けられるという屈辱感は消えないものなのであった。
瞳は、自分では何もすることが出来ない、木偶人形のような存在になったことを再度思い知らされたのである。
307manplus:2006/09/21(木) 00:17:46 ID:ZP3lnEen0
 森田は、訓練された手際よさで、瞳の股間にパンティー型の紙おむつを装着した。
足の付け根のコネクター板を避けるように、パンティー型の紙おむつが、へそから下の下半身を覆った。
「女性ドライバーの場合は、排尿吸着下着の中に、生理中や、おりものがひどいときは、
タンポン型の突起が付いたタイプのものを着けるんですけれど、瞳さんの月経周期は、今安定期に入っていますから、
通常型にしたんです。ちなみに、男性ドライバーの場合は、男性器を完全に包み込む筒状の液体吸収シートで
男性器を覆い隠してから、ふんどしのような形になった横がひも状になった男性用の専用タイプを履くのです。
次はブラいきます。」
森田は、ブラジャーを瞳に着ける準備に入った。
「これじゃブラジャーと言わないですよね。いつもそう思うんですけれど・・・。」
森田がそう言って持ってきたものは、胸からあごまでを完全にカバーするコルセットだった。
さらに、後頭部までカバーするような形に後ろの部分がなっていた。
これをつけられれば、首から上の自由も完全に奪われてしまうような形であった。
もちろん瞳の体型に完全にフィットするような寸法で作られているもので、瞳の豊満な胸のふくらみを
カバーできるようになっていた。
「本当だ。医療器具のハローベストみたいだね。」
「そうよ。構造的には、ハローベストなのよ。瞳、ハローベストなんてよく知っているわね。」
妻川が、ちょっと驚いて瞳に聞いた。
「はい。F2時代の同僚ドライバーが、この前、コーナーの立ち上がりでスロットルをミスして、バリアに突っ込んじゃって、
頸椎を捻挫して、病院に担ぎ込まれたときに、お見舞いに行って彼の上半身に装着されているのを見ました。
でも、私が見たハローベストは、金属の支柱が、四本でていて、頭に孫悟空みたいな鉄の輪っかが付いているし、その上、
その輪っかと頭蓋骨がビスで取り付けられていました。それとは違いますね。」
308munplus:2006/09/21(木) 00:19:09 ID:ZP3lnEen0
「そうね。構造的には、金属の支柱はないけれど、後頭部を頭頂まで覆うカバーと、
頭頂部のところに付いているベルトを額まで回して、しめることで、ハローベストと同様に、
頸部から上を完全に固定することが出来る構造になっているの。」
妻川の説明に、瞳はちょっとムッとしながら、
「これじゃ、私は、唯一動かせる首の自由さえないじゃないですか?」
と抗議めいたことを言った。すると、石坂が理由を説明してくれた。
「速水選手。スーパーF1レースが、人間の限界を遙かに超えたものだということを思い出してください。
その為に、スーパーF1マシンを操るドライバーは、手足を根本から切断された上で、電子機器や人工器官と生体脳の
共生体であるサイボーグになるための改造手術を受けなくてはいけないのです。
完全に人権を無視した行為を甘んじて受けなくてはいけないほど、このカテゴリーのレースは、人間性無視なのです。
人間にとって過酷な世界でのレースなのです。確かに、首の部分は、サイボーグ手術により、
骨自体の組成を生体時のカルシウムからケプラー樹脂とチタン、特殊セラミック主体の組成に変換しているし、
人工皮膚自体の剛性も上げているから、標準人体と比較して、数十倍も数百倍も衝撃に対して強い頸部に
作りかえられているはずなのですが、それでも、急激な加速減速による縦横のGに耐えられるまでにはいかないのです。
ロケット打ち上げ時に乗組員にかかるGすら比較にならないほどのGをスーパーF1ドライバーは、
経験しなくちゃいけないし、だいたい、ロケットのように単方向からのGじゃなく、
複合方向からのGというものを感じなくてはいけないスーパーF1ドライバーにとっての、
唯一の弱点であると共にヒューマノイドタイプのサイボーグ体の弱点でもある反面で、
もっとも重要な部位の一つである首は、過剰なまでに保護する必要があるのです。
309manplus:2006/09/21(木) 00:20:10 ID:ZP3lnEen0
その為には、後頭部に沿って、頭頂部から、頸部までと、頸部から上半身の全てを完全に固定する器具を
レース中には補助的に装着する必要があるとスーパーF1の医療研究チームが結論を出し、開発されたものが、
この保護器具なのです。
特に女性の場合は、胸の膨らみが、その中の脂肪の移動により、体内の器官を圧迫するため、
胸の挙動も制限しなくてはいけないので、上半身が全て覆われているのです。
胸には、生命維持のための重要器官であるガス交換システムが埋め込まれていますから、
胸の脂肪の移動により圧迫されて故障の原因になるのが怖いということなのです。
それに、首が振れなくても、後方視界用の車載カメラの映像データーが、人工視覚の中にマウントディスプレイされますし、
速水選手たち、スーパーF1ドライバーの視界は、通常人体よりも視野が広くなっていますから、首を動かさなくても、
後方視界が確保されているのです。」
「つまり、首を固定された状態でも、360°のパノラマが私の視界に広がるっていうわけですね。」       
「まあ、そう言うことになるかな。瞳は、人工視覚による新しい視覚システムを練習して、調整を重ねたから、
新しい視覚システムを自分のものにしているから、冷静に考えれば分かるはずよ。」
「恵美さんの言うとおりです。でも、いざとなると昔の標準人体でいるときの基準でものを考えちゃうんです。」
「瞳さん。それはしょうがないと思います。今まで22年間生きてきた身体をこの数ヶ月で高性能の新しい身体に
変更されたのですから、今までの尺度でものを考えても仕方ないと思います。」
「速水選手、そうですよ。徐々に慣れるから大丈夫ですよ。」
森田と石坂は、優しく慰めてくれたが、妻川はさすがに手厳しかった。
「早く、自分の新しい身体になれてもらわないと、我がチームのエースドライバーが機能しないということなのよ。
自分が全く違った身体になったことに瞳は一刻も早く慣れるのが仕事だからね。
瞳も、早くスーパーF1マシンに乗りたいんでしょ?
それなら、身体が新しいものになった自覚を完全に頭にたたき込む事ね。それに、早く記者会見もしたいしね。森田さん。
早く、瞳に上半身の補強装具を装着してちょうだい。」
310manplus:2006/09/21(木) 00:34:20 ID:ZP3lnEen0
「うっ!恵美さんは厳しいな・・・。」
「当たり前よ。プロドライバーなんだから・・・。」
「でも・・・、でも・・・。」
言葉にならない文句をぶつぶつ言っている瞳の上半身に補強装具の装着作業が始まった。
森田は瞳のストレートロングのきれいな栗色の髪を後ろでポニーテールにまとめた。
耐G補強装具は、前後がまっぷたつに割れるようになっていて、背中側の装具を先ず、瞳の身体にあてがった。
後頭部の装具に開いた穴から、ポニーテールにまとめられた瞳の髪の毛が、装具の外に出された。
穴の位置にあわせて、ポニーを結う森田の感覚は、まさにサポートスタッフとしてのプロの仕事だと、
細かいところに瞳は感動した。
森田は、瞳の耐G補装具の後ろ半分が、ぴったりと合わせられているのを確認した上で、前半分を丁寧に、
瞳の身体にあてがう作業が開始された。
「瞳さん。これを噛んで。」
森田は、そう言って瞳に、瞳専用に採寸されて作られたマウスピースを噛ませた。マウスピースの歯が合わされる部分に、
何か柔らかいものが装填されていたようで、“グチャッ”というような噛み心地があった。
「瞳さん。思いっきり噛んでくださいね。」
森田に言われ、瞳は少し歯に力を込めた。
「瞳さんしっかり噛みましたね。よし、いいです。」
森田が、瞳のマウスピースの勘合状態を確認した。
「これでいいんだ・・・。」
そう言おうとして、瞳は、口が開かないことに気がついた。開こうとしても、マウスピースがそれをさせてくれないのだ。
さらに、舌さえも全く動いてくれないのだ。だから、瞳の言葉は、腹話術のようになってしまう。
311manplus:2006/09/21(木) 00:35:07 ID:ZP3lnEen0
「今入れてもらったマウスピースには、口が開かないように、ティースセメントを塗っています。
歯とマウスピースは、完全に一体化しています。
それに舌も専用の収納スペースに固定された状態になっていますから動かせないと思います。
剥離液を使わないと、マウスピースは口から取り出せません。
瞳さんはレース中は、どうせ、顎も耐G装具できめられた状態になっていますから、口を開けることは出来ないんですけれど、
万一事故の時、装具がゆるんで口を開いた状態になって、衝撃で舌を噛んだりしないように、そして、
口腔内に何らかのダメージを負わないように、スーパーF1マシンにスーパーF1ドライバーを取り付けるときは、
安全性のためにこのような処置が執られています。」
「これじゃなんにもしゃべれないよ。」
瞳は言葉にならない声でこのように抗議したつもりだった。しかし、瞳の声は、言葉になっていなかった。
「しゃべれないと言うのですね。」
瞳は、首を縦に振った。。
「スーパーF1ドライバーは、スーパーF1マシンに取り付けられている間は、肉声をだす必要がないのです。
だって、瞳さんの肉声を聞いてくれる人がマシンを操っている間、近くにいますか?」
「イニャニャ。(いないよ。)」
312manplus:2006/09/21(木) 00:35:42 ID:ZP3lnEen0
「いないですよね。チームラジオと交信するとき、声が必要だと思いますが、それは、
ゴーグルに取り付けられているヴォイスプロセッサーと瞳さんの発声神経が結合され、ヴォイスプロセッサが、
チームラジオとの交信の時には、瞳さんの話し声の変わりになってくれるのです。
瞳さんがスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに改造されるときに、発声神経の声帯に近いところに分岐節を
人工的に設けて、その人工分岐節から、こめかみに作られた接続コネクターまで人工神経が分岐延長され、
結合されています。後でスーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用のゴーグルを装着しますが、
そこからでているヴォイスプロセッサーとの結合ケーブルをこめかみのコネクターに接続することにより、
声帯への神経伝達をブォイスプロセッサー側に自動切り替えするためのコントローラーの働きで、瞳さんは話せるのです。
瞳さんが話すことが出来るのは、ヴォイスプロセッサ経由の音声回線上だけとなり、
声帯の機能も一時的に休止してしまうようになるのです。
スーパーF1マシンに瞳さんが、取り付けられている間というか、レーシングスーツ姿でいる限り、
瞳さんは声を出すことが出来ないのです。瞳さんが声を出せるのは、いわゆる、
バーチャル上のフィールドだけということになります。
もちろん、瞳さんが、他のスーパーF1ドライバーと喋りたければ、回線をそのドライバーの回線に解放すればいいだけです。
でも、レース中は、緊急時に危険行為への抗議とか、注意喚起とか特別なとき以外は、ドライバー同士会話しないから、
レースが終わっての健闘をたたえ合うときぐらいしか、ドライバー同士の回線の開放はないと思いますけどね。
だから、回線上でチームとコミュニケーションが、とれるようにしておけばいいだけなのです。
さあ、装具の前を着けますよ。」
森田は、さっさと作業を継続した。
耐G装具の前半分も瞳の身体に寸分違わず作られていて、瞳の身体に、完全に耐G装具が、合わされ、
その装着具合を確認した上で、森田は、前後の耐G補装具を結合し固定するロックをかけていった。
313manplus:2006/09/21(木) 00:45:23 ID:ZP3lnEen0
実際には、身体にぴったりに作られているために、苦しいことはないのだが、胸からあごまでの上半身を
きっちり固められたという印象が、瞳に心理的な圧迫感を与えた。
瞳が声にならないうめき声を上げた。
「首まで固められた圧迫感って凄いんですね。」
瞳はそう発音したつもりだが、他人にはうめき声にしかとられない。
「瞳さん、そのうち慣れるから我慢してね。」
瞳の文句を軽くあしらって、森田は、瞳の額で、装具のベルトを結合した。
これで、瞳の身体で瞳が自ら動かせるのは、瞼ぐらいのものになってしまった。
この瞼ですら、ゴーグルを装着すれば、瞬きをしないようにするための体内システムが作動し、
瞬きが出来なくなってしまうのである。
 瞳は、固定装具が、ものすごく薄いものであり、標準人体の頃に着けていた下着よりもかえって
薄いものであるかもしれないと思っていた。
おむつにしても、標準人体の頃に着けていた下着並みに薄いものであることを感じていたのだ。
「瞳さん、固定装具にしても、おむつにしても、ずいぶん薄いと感じているんじゃないの?」
瞳は図星を突かれて戸惑った表情を浮かべた。森田は、瞳の反応を、さも、予想していたかのように、
「固定装具は柔性合金と、内部に貼り付けられている緩衝材の技術によって、その薄さを実現しています。
でも、耐G効果は抜群だし、おむつに使われている専用の吸着素材は、市販の吸着樹脂の数十倍の機能を
実現しているから、その薄さでも安心なんですよ。」
瞳の心配しているだろう事に答えた上で、森田は作業を続けた。
 森田が次に瞳に着せたのは、首までの胴体を覆うレーシングスーツだった。身体にぴったりと密着する
ラバースーツのような素材の服で、色は、あらかじめ瞳の希望に合わせてつくられていて、メタルカラーの
淡い緑色に輝いていた。
314manplus:2006/09/21(木) 00:45:59 ID:ZP3lnEen0
四肢の切断部分のスーパーF1マシンとのインターフェイス部分は、同形状の接続用ジョイントコネクターになっていて、
スーパーF1マシン専用サイボーグと、スーパーF1マシンが、スーパーF1マシン専用サイボーグが、
服に密閉された状態でも、支障なくマシンとの接続されるような作りになっていた。
服の背中の部分にあるジッパーは、首から股の前の部分まで、全開できるようになっていて、
スーパーF1ドライバーに対し、サポートスタッフが着せやすいような構造になっていた。
服の生地は、ラバーのような伸縮性を持った耐火耐熱セラミックと耐衝撃性に優れた特殊金属といった素材を
編み込まれた温度調整機能を備えた特殊なラバー素材の複合体の生地であった。
スーパーF1ドライバーの人工皮膚に密着することにより、走行時や事故の時に、スーパーF1ドライバーの安全を
最大限に確保できるようになっていた。
スーパーF1ドライバーは、スーパーF1マシンと一体化させられるために、シートからの自力での脱出が
不可能になっているため、救助が来て、助け出されるまでの間の生命保持が必要なのである。
また、レース中に着用していて快適性が確保されることも重要な条件なのである。
森田は、瞳の身体に丁寧に、スーパーF1ドライバー専用レーシングスーツを合わせていった。
この服は、着せていくと言うよりも、貼り付けていくといった方が正しい表現なのだ。
四肢のインターフェイスと、服の接続用ジョイントコネクターが、完全に結合しているのを再度確認した後、
森田は、レーシングスーツのジッパーを首まで一気に、引き上げた。
瞳は、自分の首から下が、新たな皮膚に覆われたように感じた。
ちょうど、手足のない特注のキャットスーツを着せられたようであった。
その金属光沢を持つライトグリーンのレーシングスーツは、瞳の身体をより人工物に見せてしまうものであった。
瞳の首には、ヘルメットを接続するためのリング状のレールがはめられた。
瞳は、自分が犬になって、犬用の首輪を嵌められているような気がしていた。
315manplus:2006/09/21(木) 00:46:37 ID:ZP3lnEen0
 瞳の装具の後ろに出されていた髪の毛を、森田は丁寧に折り返して束ねた。
その上で、瞳の頭には、専用のヘルメットが被せられるのである。
このヘルメットは、フルフェイスの宇宙服のヘルメットのような構造で、首に取り付けたレールによって、
レーシングスーツと一体化して、スーパーF1ドライバーの身体を全て密閉するようになっていた。
このスーパーF1のカテゴリーのレーシングスーツは、宇宙服や防護服に近いものなのである。
瞳の頭部に、スーパーF1ドライバー専用のヘルメットが被せられる準備が始められた。まず、目の部分を完全に覆う、
専用ゴーグルが取り付けられた。
 このゴーグルは、瞳の目の部分を完全にカバーし、耳の部分のイヤーパッドも一体になっていて、固定バンドで、
頭の後ろで縛ることにより、固定するようになっていた。
スカイダイビングゴーグルのようにフレームがなく、耳のすぐ横まで透明素材で作られているこのゴーグルは、
特殊強化樹脂製で、ヘルメットのフェイスプレイトが壊れた場合でも、瞳の視界を確保でき、
保護できるようになっているのと、視界部分に、スーパーF1ドライバーが、スーパーF1マシンに搭載されているときに
必要な情報が、マウントディスプレイされるようになっていた。
また、瞳はゴーグルを装着されると瞬きが停止するようなシステムになっていた。
元々人工視覚なので瞬きをする必要はないのだ。
瞬きをすることで、一瞬の視覚の中断の方が、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーにとっての
支障になるのであった。
更に、耳の部分は、デジタル無線のレシーバーになっていて、チームラジオや、ドライバーとの交信が
出来るようになっていた。
デジタル交信回路は、使用領域が割り当てられていて、その領域にチャンネルを合わせることにより、
チームや各ドライバーとの交信が出来るようになっていた。
316manplus:2006/09/21(木) 00:57:21 ID:ZP3lnEen0
ただし、所属チーム以外のチームが使用している領域には、チャンネルを合わせられないように、
国際自動車連盟のセキュリティーシステムが付いている。
これは、他チームの戦略が分からないようにするための紳士協定なのである。
また、このイヤホンは、ヘルメットにつけられた周囲音源取得システムにより、周囲の音をスーパーF1ドライバーに
忠実に伝えることが出来ることになっている。
そして、ヴォイスプロセッサが、内蔵されていて、スーパーF1ドライバーのスーパーF1マシン搭乗中の声帯の
役割をも果たすものであった。
耳の後ろのコネクターとこめかみの部分のコネクターへゴーグルから伸びるケーブルを接続されると、ゴーグルに、
現在時刻や体温、現在位置、高度、外気温など、瞳の補助コンピューターがつかんでいる情報が、映し出された。
視界を確保した上で、いろいろな情報が見られるシステムは便利だが、使用するのには慣れが必要だと瞳は思った。
そして、気が付くと、自分が声を出せないのが分かった。瞳の声帯が一時的に機能を停止したのである。
ゴーグルに電源のコードが繋がれていなくてもゴーグルの機能が作動していることに瞳は気がついた。
これは、自分の体内の水素炉からエネルギーを供給されて作動していることも瞬時に理解できた。
瞳は、自分が周りの環境から切り離されても生きていけるマン=マシンシステムになったのだと実感していた。
しかし、実際には、水素炉の燃料水素は、瞳が口を使い食べたものが、瞳の体内の消化システムで燃料水素に変換され、
水素炉に供給されているのだから、宇宙活動を行うサイボーグのように、完全に外環境から隔絶された存在でも
生きていけるサイボーグではないのである。
まさにそれがスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーの特徴なのである。四肢がないことを除けば、
地球の環境下で生きていけるスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、環境自立型生命維持システムの
装填は必要ないのである。
環境から自立しなくてはいけないのは、せいぜいマシンからの救助を待つ間の一時間程度の間だけ外環境と
自立していればいいのであり、その程度の簡易な外環境独立型生命維持システムにすることにより、
コストの低下を実現させているのである。
317manplus:2006/09/21(木) 00:58:40 ID:ZP3lnEen0
国家予算を使える宇宙開発用サイボーグや海底開発用サイボーグと違い、
瞳たちスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、あくまでも、民間の資金を使用して
改造されるサイボーグなのであるので、そのようなチームに対するコストへの配慮が必要なのである。
また、反対に、軍事サイボーグなどのような特殊用途サイボーグのように異形の外観を持つのではなく、
四肢がないことを除いて普通に人間としての生活も楽しめるようなシステムが、
スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーに対しては、与えられたのである。
なぜなら、彼らは、社交界でも活躍をすることがあるため、標準人体とは違う生活習慣におかれてしまうことが、
彼らにとってはかなりの不都合を強いられる結果になるからである。
「瞳さん。スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー用ヘルメットを装着しますよ。」
森田はそう言うと宇宙服のヘルメットのようなものを持ってきた。
頭頂部で前後にパックリと開くようになっていて、森田は、ヘルメットの後ろ半分を瞳の後頭部に合わせた。
 首にはめられたレールとヘルメットの下の部分にあるレール受けを勘合させ、
後頭部の耐G装具にあるヘルメット装着用アタッチメントに、ヘルメットのアタッチメントを取り付けると、
ヘルメットの後部が瞳の頭部に密着し、ヘルメットが、頭部に安定して固定されることとなった。
 ヘルメットのシステムとゴーグルから伸びるケーブルが接続され、瞳の口のマウスピースには、
チューブを差し込める穴が空いていて、そこの部分にアイソトニック飲料や栄養液を口の中に送り込むためのチューブが
挿入され、鼻には、呼吸用のチューブが気管まで入れられた。
そして、それらのチューブを隠すように、鼻と口を覆うマスクが瞳に着けられ、その上で、ヘルメットの前半分が、
瞳の首から頭部にかけてをピッタリと覆った。鼻からのチューブは、酸素ボンベよりも遙かに小さい、
大気強制吸入排出機へと繋がれた。
 平たい小さなそのバックパックのような機械は、スーパーF1ドライバーにとっての必需品なのである。
時速700qの風圧にさらされるコックピット内では、通常に呼吸に必要な空気を吸うことができないため、
空気を強制的に給排気するための呼吸補助機械なのである。
318manplus:2006/09/21(木) 00:59:18 ID:ZP3lnEen0
そして、口からのチューブは、栄養液と飲料水を自動的にスーパーF1ドライバーに供給するタンクに接続された。
 ここまでで、瞳が、スーパーF1ドライバーとして、スーパーF1マシンに据え付けられる準備が整ったのである。
「瞳、聞こえる?チームラジオで話しているわ。瞳は、私の回線域がゴーグルに情報ででているから、
自分でその領域を選択する決断を下し、普通に話をすれば、私と話ができるわ。」
妻川がヘッドセットをつけて、瞳に話しかけた。瞳は妻川が言うとおりにしてみた。
「恵美さん。聞こえますか。」
「聞こえるわ、瞳。上出来よ。少しずつ複数人とマルチで会話することも覚えてね。」
「意外と簡単な反面、自分の声が通信システムなんていうことに驚いています。」
「早見選手。それが今のあなたの身体に与えられた能力です。使いこなしていくことを楽しんでください。」
石坂の声が聞こえ、石坂のつけている通信システムが回線領域に割り込んできたのが瞳のゴーグルに表示され、
瞳は、石坂に回線を開いた。
「わかりました。」
「瞳さん。スーパーF1マシンのシミュレーターに運びますよ。」
森田の声が飛び込んだ。今度は森田の回線領域を開いた。
「いよいよなんだよね。楽しみだわ。でも、ちょっと・・・。」
「瞳さん、おしっこじゃないですか?それは、おむつでしてください。安心してお漏らししてくださいね。
絶対に漏れませんから。
今日は、最初なので、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用レーシングスーツを
着るのに時間かかっちゃったし、本物のマシンに乗る前は、摂取水分量を減らしてあげるんですが、
今日は、シミュレーターですから、お昼に摂取してもらった水分が、ちょうど膀胱にたまった頃ですね。
おむつを使うことに、躊躇いがないように慣れることも重要ですから、思い切ってしちゃってください。
これも練習ですから。」
319manplus:2006/09/21(木) 01:07:47 ID:ZP3lnEen0
「つぐみさん。そうは言っても・・・。」
「今から、レーシングスーツを脱いだって、着るときぐらい手間がかかるんですから、我慢しきれないですよ。
恥ずかしいなんていう羞恥の心は、レーシングスーツ着用時は捨ててください。さあ、早く。」
瞳は、顔が熱くなったように感じた。実際には、瞳は羞恥心で顔の表面温度が上がるようなことは、
顔の皮膚が人工皮膚になってしまっているので無いのである。瞳は、意を決して、おしっこをお漏らししようとした。
しかし、恥ずかしさからかなかなかでないのだ、しかし、しばらくすると尿意に耐えきれずついに膀胱が決壊するように、
お漏らしをした。瞳は、お漏らしをする音が、とても大きく感じ、みんなに聞かれてしまったという羞恥心に苛まれた。
しかし、瞳が思うほどに音は大きくなく、部屋にいる誰も気がつかないようだった。
そして、このおむつは、防水がしっかりしているので、かなり、勢いよく排尿してしまったのだが、
横から漏れるようなこともなく、おむつの中に尿が、貯まるような感覚も無く、瞬時におむつに尿が吸い取られ、
おむつの中はサラサラ感を保持していた。瞳は、おむつの性能に安堵感を持った。
このおむつを使用しているスーパーF1マシン専用サイボーグは、おむつからの横漏れがあると、
股間の切断面のケーブルコネクターが、ショートしてしまうおそれがあるため、横漏れが絶対にしないほどの尿の
吸収力は強く、しかもその吸収力を長期間維持できるように開発されていたのだ。
その為、このおむつは、スーパーF1マシン専用サイボーグたちに絶大な信頼感を持たれているのだ。
長時間の間、スーパーF1マシンの中に取り付けられて動くことなど不可能で、
自分からは絶対に外に出ることが出来ないスーパーF1マシン専用サイボーグにとっての、マシンの中での唯一の
排尿手段なのであるから、信頼感があるように開発されているのは当然なのである。
「瞳さん。さあ、こっちです。」
森田は、そう言うと、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバー専用移動台車に瞳を置いて、
シミュレーションマシンルームに移動させ、シミュレーションのマシンのシートに抱きかかえて瞳を台車から移し替えた。
320manplus:2006/09/21(木) 01:08:37 ID:ZP3lnEen0
 スーパーF1マシンのドライバーズシートは、そのシートに座るスーパーF1ドライバーの身体や、
その背中に取り付けられた液体タンクと強制大気吸排気システムのバックパックがピッタリとフィットするように
作られているのであり、このマシンシミュレーターも瞳専用のもので、他のドライバーが使用することは出来ないのであった。
従って、瞳はシートに置かれると、身体にピッタリフィットし、包み込まれるようになっていることに気がついた。
シートに瞳を置くと、森田は、シートに頭から、胴体までの全てが、動くことが出来ないほど、
がんじがらめにたくさんのシートベルトを締めていった。
たぶん、瞳に四肢が残っていても、指一本たりとも動かすことの出来ない拘束をシートベルトが作り出しているのであった。
 待機していたメカニックが、瞳とシートの拘束具合を確かめ、瞳の四肢切断面にコネクターケーブルを付けていった。
その数は、本当に沢山であり、瞳は、よく間違うことなく取り付けられるものだと感心してしまった。
瞳専属のチーフメカニックである柴田美由が瞳に話しかけてきた。
瞳は、チーフメカニックとのコミュニケーションの回線を開いた。
「速水選手、ご自身に接続されたケーブルの多さに驚かれていると思いますが、これでも、
何本かのケーブルがまとまった複合ケーブルなんです。
実際には、もっと無数のケーブルが、速水選手にはつながれていると思ってください。
誤接続の心配をしているのなら、それは大丈夫です。私たちもプロですし、万一のことを考えて、
各ケーブルのコネクター形状が、微妙に違えてあるために、間違ったコネクターには、
絶対に接続できない仕掛けになっていますから安心してください。それよりも、シートの座り心地はどうですか?」
「座り心地といっても、取り付けられているという感覚に近い気がします。
それに、これだけスーパーF1マシンからのケーブルと繋がれると、やっぱり、スーパーF1マシンの制御ユニットとして、
スーパーF1マシンの一部になったようにしか思えないのです。
このような状態になって、改めて自分が、スーパーF1マシン専用サイボーグになったことを実感せざるを得ないですね。
それから、チーフ、私のことは、『瞳』と呼び捨てにしてくださってかまいません。気を遣わなくていいです。」
321manplus:2006/09/21(木) 01:09:13 ID:ZP3lnEen0
「分かりました。それでは“瞳さん”でいいですね。」
「はい。」
「何か、“プリンセスヒトミ”をファーストネームで呼ぶのって、抵抗あるんですよね。
私たち、モータースポーツの関係者には、ものすごく高い存在ですから。」
「でも“カンダスーパーガールズ”のチームの一員ですし、チームのドライバーと、チーフメカニックという立場ですから、
コミュニケーションが必要な関係ですし、そんなに遠慮しないでください。
私も遠慮しませんから、お互いにということでお願いします。」
「瞳らしいでしょ。もっと威張ってもいいと思うんだけれど。」
「恵美さん!私、そんな傲慢じゃないですよ。」
「監督、噂通りのドライバーです。勝つことに対して妥協はないけれど、誰とも、
フレンドリーだということを聞いていたんですけれど、こんなに取っつきやすい人柄のドライバーだとは思っていませんでした。
噂以上です。トップドライバーだと気むずかしいドライバーも多いんですが、瞳さんは違うと確信しました。」
「でも、この子、負けたりすると尋常じゃない悔しがり方するし、手が付けられないこともあるのよ。
普段は、おっとりしてて、ボーっとしてるんだけど、レースになると人が変わるんだよね。マシンに対しても妥協がないし。」
「恵美さん!余計なことまで言わないでください!」
「いえ、逆に安心しました。そうでなくちゃ“プリンセスヒトミ”と言われないですもの。
私も、瞳さんが妥協をしなければ、チーフメカニックとして、“プリンセスヒトミ”が乗るに相応しいマシンを
作れるというものです。よろしくお願いします。」
「美由さんと私も呼ばせてもらいます。」
322名無しさん@ピンキー:2006/09/21(木) 01:12:00 ID:k2nHVm0s0
地の文の文末に「なのである。」とか「のである。」が多すぎる気がする。
323manplus:2006/09/21(木) 01:21:27 ID:ZP3lnEen0
「喜んで。それでは、瞳さん、シミュレーターで、スーパーF1マシンのコントロールの仕方を学んでもらいます。
シミュレーターでスーパーF1マシンのコントロールの仕方に慣れたら、いよいよ、
実際のマシンに取り付けられることになります。
シミュレーターで瞳さんが訓練している間に、瞳さんのスーパーF1マシン専用サイボーグドライバーとしての
身体データーをとらせてもらいます。
そして、“速水瞳”という制御ユニットをフルに活用できるスーパーF1マシンのチューニングをさせてもらいます。
実機に取り付けられるときまでには、スーパーF1マシンの実機が瞳さんにピッタリフィットするようにしておきます。
細かい要求は、実機に乗ってからになりますけれどね。」
「分かりました。ところで、どうしたら、コントロールできるんでしょうか?」
「基本的には、手足で運転しているときと同じように、ステアリングを切ろうと思えば、
思った方向に手があったときの感覚で、脳が思いを描けば、マシンが曲がって行くし、加速のため、スロットルを踏んだり、
減速のためブレーキを踏んだりは、脚でそうしようと思えば、そうなります。
つまり、今までのマシンと同じに、イメージの中で運転して、瞳さんの脳が手脚に命令すれば、
マシンが手足や器具を介さなくて、動くようになっています。マシン自体が、手足になるのです。
コツは、こうしたいと思う事ですね。」
「分かりました。やってみます。」
「それじゃシミュレーターに電源を入れますよ。最初は戸惑うかもしれないですが、どんなドライバーでも、
慣れるまでにどんなに早くても、三日ぐらい掛かっていますから、焦らずゆっくりやりましょう。
やっぱり、手足を介さないで、直接マシンを動かすというか、マシンの制御システムに組み込まれると言うことは、
初めての経験でしょうから。戸惑うことが多いと思います。最初からうまくやろうなんて思わないことです。」
324manplus:2006/09/21(木) 01:22:03 ID:ZP3lnEen0
瞳は、柴田の言葉に勇気づけられて、シミュレーションマシンの電源が入るのを待った。
シミュレーションマシンの電源が入ると、実際のスーパーF1マシンの補助エンジンをかける前と同じ状態に
スーパーF1マシン専用サイボーグの瞳が置かれることになるのだ。
しばらくすると、瞳は、今まで経験したことのないような身体感覚に襲われた。
「瞳さん。今の感覚が、実際のスーパーF1マシンに取り付けられて、補助エンジンをスタートする前の感覚です。
感想はいかがですか?」
「美由さん。何か自分の今までの胴体が無くなった感覚がするの。
それで、何かもっと大きな胴体になったような気がするの。この感覚がマシンのサイズだと思うんです。」
「その通りです。」
「それから、今まで以上に沢山の情報が脳に直接送り込まれると同時にゴーグルに表示されて戸惑っています。」
「瞳さん。その情報が、マシンの細部の情報と、周囲の情報です。
脳に入る情報と同じものが確認の意味で視覚化されて、ゴーグルにマウントディスプレイされています。
マシンを動かすときに、補助コンピューターと脳が、その情報を身体データーとしてマシンを動かすために使用します。
瞳さんは、ゴーグルにマウントディスプレイされた情報を判断して、マシンを動かしてください。
脳と補助コンピューターは、瞳さんと同じ情報を神経伝達システムを介して、マシンに伝えるのです。」
「瞳。がんばってね。」
「恵美さん。頑張ってみますけれど、結構パニックに近いです。頭の中が整理できない状態です。」
「瞳。それはしょうがないよ。一気に、自分の身体情報が、増えたんだから。ただ、あまり悩まずに、
マシンのステアリングを握っているときの感覚で、次はどうすると思うと、勝手にマシンが動くようになるから、
慣れれば楽しいと思うよ。」
「恵美さんは、人ごとだけど、私は、この新しい感覚の中で、戸惑うばかりなんですから。」
325manplus:2006/09/21(木) 01:22:58 ID:ZP3lnEen0
「ぼやかないのっ!きっとそのうち楽しくて、仕方なくなるんだから、瞳は。」
「瞳さん。ところで、スーパーF1マシンの操作方法をどの程度知ってますか?」
「操作方法って、運転手順のことね。」
「はい。」
「まず、補助エンジンをスターターキットで、地上スタッフに掛けてもらって、そのまま、補助エンジンで、
フォーメーションラップを回って、その間に、メインエンジンの水素イオンエンジンのスターターキットを私が準備して、
スターティンググリッドに帰ってきたら、メインエンジンのスターターを回して、メインエンジンを起動させるんですよね。
そして、シグナルがオールゴーに変わってスタート。レースが終わったら、予備ラップ中に、
メインエンジンを冷却アイドリング状態にして、補助エンジンに切り替えて、ピットロードに戻ってくる時は、
補助エンジン走行でしたね。
そして、レース終了後のピット内では、メインエンジンは、冷却アイドリング状態のまま、
メインエンジン停止タイマーに切り替えて、エンジン停止を待つんでしたね。
その間は、スーパーF1マシン専用サイボーグドライバーは、スーパーF1マシンに取り付けられたままの状態で
待機しているんですよね。緊急の場合は、出来れば、メインエンジンを冷却アイドリング状態まで落として、
救出を待つんでしたね。レース中にピットインする時は、速度規制区間の入り口で、エンジン切り替えシステムを
起動させて、補助エンジンの駆動でピットインして、ピットアウトの時は、速度規制区間の終わりで、
再度、エンジン切り替えシステムを起動させて、メインエンジン駆動に切り替えるんでしたね。」
326munplus:2006/09/21(木) 01:36:46 ID:ZP3lnEen0
「その通りです。エンジンの切り替えを間違えないでくださいね。間違えると、メインエンジンは、超低速では、
焼けちゃうし、逆に補助エンジンでは、レーススピードまで速度がでないし、すぐに焼き切れちゃいますからね。
緊急時のシミュレーションもしますけれど、パニックになると、メインエンジンを冷却アイドリングに戻せないままで
マシンに繋がれていたり、いきなり、メインエンジンを停止させて、エンジンブローの原因を作ったりしますから、
気を付けてください。メインエンジンのエンジンブローは、燃料が燃料だけに、かなり過激ですからね。
とにかく、エンジンは冷やしてから、マシンを降りることを徹底的に意識してください。
それに、冷却アイドリングである程度冷やした状態にしておいてくれないと、瞳さんをマシンから取り外すと言うことは、
マシンの制御機能をはずすのと一緒なので、その時点で、外部コントロールシステムに繋ぎ変えないと、
突然エンジンがストールしちゃうので、オーバーヒートの危険性が高まります。F1までのカテゴリー以上にドライバーが、
マシンを降りる時の責任が重いですから、そのつもりでいてください。」
「充分に分かっているつもりです。」
「瞳さんなら、大丈夫だと思っているんですが、どんなトップドライバーでも、スーパーF1マシンに取り付けられてしばらくは、
緊急時にパニックを起こして、危機一髪の状態になるものですから。」
「気を付けます。」
「瞳、メインエンジンブローさせると、水蒸気爆発か、もしかすると水素核融合による核爆発になっちゃうからね。
核兵器を使った数少ない人間に瞳がなれるって事なんだよ。そんな名誉に預かりたくないでしょ。」
「監督。不謹慎なこと言わないでください。そんなことにならないように、何重にも、安全策が講じられているのですから!」
「瞳は、無茶するから、この位の威しをかけておかないと言うこと聞かないもんね。」
「恵美さん。私、そんなお転婆で我が儘じゃありません!」
「どうだか。」
327manplus:2006/09/21(木) 01:37:51 ID:ZP3lnEen0
「いっつも、無茶を言うのは、恵美さんなんですよ。F2の時にも、最終戦で、最終コーナーで、スリップに入ろうとしたら、
チームラジオで、『そのままぶっちぎれ、スリップにはいるなんて姑息な手を使ったら、チーム追放だ!』
なんて言ってあおるから、危うくコントロールを失って、多重クラッシュの原因作るとこだったんですよ。
運良く前車を抜けたからいいようなものだけれど、コーナーで、ブレーキが1000分の1秒遅れたら危なかったんだから。」
「抜けたんだから、文句言わないの。
F1のモナコのラスカスで、無理だって言うのに、強引に二台抜いたのは誰よ。
あのとき、マルボロとテレフォナードからの厳重抗議を冷や汗もので言い訳したこっちの身にもなってよ。
カンダのF1総監督が、大泣きしちゃって、慰めるのも大変だったのよ。」
「あれは、部外者の抗議が間違っています。コーナーのアウトから、ぎりぎりで、
直線的にコーナーの出口に駆け抜けたんですから、ラインは完全に開いていました!
あそこで膨らんだ、ミラーとロッキネンのステアリングミスですっ!!レースが終わってから、
二人からは謝罪を受けているんですから。」
ミラーとロッキネンといえば、瞳同様に来期からスーパーF1のカテゴリーに参戦することが決まっているドライバーである。
彼らは、瞳と違って、かなり以前から、スーパーF1のカテゴリーに参戦することが待たれていたドライバーであり、
現在のスーパーF1のカテゴリーに在籍するドライバーよりも、格が上であると噂されるドライバーなのである。
当然のように、参戦すれば、一年ぐらい、スーパーF1マシンに慣れれば、ポデュームに乗せられるだろうと
言われている最強のドライバー二人である。
今まで、このカテゴリーに参戦しなかったのは、彼らの宗教上の理由から、生まれ持った身体を機械で
置き換えて生きていくことに対しての抵抗感が、自身の心にあったため、それを整理するのに時間がかかったのである。
そんな二人が、自分たちのドライブミスをライバルに対し素直に認め、謝罪に来るドライバーが、目の前にいるのが、
柴田には、信じられなかった。
328manplus:2006/09/21(木) 01:38:25 ID:ZP3lnEen0
でも、それが、速水瞳の実力なのだと言うことも、充分に理解できたのである。
F1のカテゴリーでは、厳然として、速水瞳が、最高の王者だと言うことを再認識したのだ。
「監督、瞳さん、喧嘩しないでください。とにかく、シミュレーションマシンの補助エンジン掛けますから、練習開始しますよ。
二人とも大人になってください。」
「美由さん、すみません。」
「美由、ごめん。」
「まったくっ!二人ともっ!!」
柴田は、そう言いながらも、二人の信頼関係の強さを感じていた。
総監督とドライバーが一枚岩のような結束を持っていることに、このチームの将来性を強く感じたのだ。
それに加えて、瞳のドライバーとしての非凡さに驚いていた。
イエローストーンのあそこ、モナコのあそこと自分の記憶で考えてみると、事故を起こさないどころか、
抜くことが不思議なのだ。あんな場所で、自在にマシンを操れる瞳の才能に柴田は脱帽していた。
さすがに“プリンセスヒトミ”という称号を持つ正真正銘の超トップドライバーなのだということを確信したのだ。
このドライバーなら、スーパーF1グランプリの伝説を作ることになること間違いなしと柴田はこのとき確信できた。
そして、その伝説を自分が同じチームで、目の当たりに出来る名誉を思うと、武者震いが止まらなかったのである。
メカニック冥利に尽きるようなすばらしいドライバーと一緒にグランプリを戦えることの幸せとメカニックとしての充実感に
柴田は浸っていたのだった。
柴田は、補助エンジンがかかった状態にシミュレーターを作動させた。
329manplus:2006/09/21(木) 01:46:47 ID:ZP3lnEen0
「美由さん。設定は、東京特設リンクですね。」
「はい。さすが瞳さんですね。リンク情報がディスプレイにマウントされた瞬間、そのリンクがどこか分かるなんて凄いです。」
「来期から、実際に、マシンを制御して、走らせなくちゃいけないから、既存コースの情報は、補助コンピューターに取り込んで、
自分の感性との照合を進めているものですから。」
「そこまでされているのでしたら、少し余裕ができると思います。実際のグランプリ同様に走行シミュレーションを
開始しましょう。瞳さんはあまり経験のないグリッドだと思いますが、25番グリッドからのスタートになります。
下位グリッドの上位といったところでしょうか?まず、今日は、慣れることからが先決ですから、
このぐらいのグリッドシチュエーションで、気楽にスーパーF1マシンの運転感覚を楽しんでください。」
「判りました。そうさせてもらいます。といいたいのですが、まず、自分の身体になったマシンと、
脳のインターフェイスの調整が、自分の心の中でどのように整理するかを考えると、たぶん、必死でしょうね。」
「まあ、そうかもしれませんが、どんな人でも、マシンが動かせるようになるまで、二日か三日はかかりますから、
ゆっくり運転感覚を楽しみながら慣れていきましょうね。
それでは、シミュレーションを開始します。フォーメーションラップ開始、一分前です。」
「それでは、行ってきます。」
そう言って、フォーメーションラップからのシミュレーションを開始した瞳のドライバーとしての素材の凄さに、この後、
柴田も妻川も唖然とすることになるのである。
330manplus:2006/09/21(木) 01:52:49 ID:ZP3lnEen0
今日は少し、長めの投稿をさせていただきました。
最速を目指す娘たちを見守っていてください。

331名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 21:52:17 ID:i+2NoxTW0
ああ、もう、 藤原のバカっ。私、どうしてあんな奴、好きになっちゃったんだよう。

昨日の夜、都合3着のコスプレ服を着る羽目になった私。一夜明けて冷静になったら、なんだか無性に腹がたってきた。確
かに私、藤原の事が大好きだよ。でもね、それと、コスプレ服を着る事とは、やっぱり別にして欲しいと思ってるんだ。こ
んな趣味さえなければいい奴なのにって思う分、よけいに腹がたっちゃうよ。

出社しても私の機嫌は直らない。それに気づいた先輩が根掘り葉掘り、夕べのことを聞きだそうとする。私だって誰かに話
してすっきりしたいから、結局、みーんな喋っちゃった。で、その時、ついうっかりCS-5型義体に対する感想まで言っちゃっ
た。慌てて取り繕おうとしたんだけど、先輩、とっても悲しそうな顔をした。もともとCS-5型義体のビデオを見せてくれた
のだって、義体メーカーに勤めるなら、知っているべきことだからって見せてくれたんだ。決して、昔の義体の人の無様な
姿を晒そうとかいうつもりだったわけじゃない。

その時私の前にいたのは、いつもいつも私をからかう陽気な先輩じゃなかった。私以上に悲しみや辛さを経験した、ずっと
ずーっと年上の義体ユーザー。そんな感じだった。それで、私、何も言えなくなっちゃって、その後は、退社時刻まで口を
きくきっかけがつかめなかった。

翌日、先輩から、ぜひ見て欲しいと言われて1枚のビデオディスクを渡された。昨日のことがあったから先輩と顔を合わせ
るだけでも気まずかったけど、先輩の真剣な顔を見たら受け取らないわけにはいかなかった。

そのディスクには、私が以前見たCS-5型義体が映っていた。ううん、義体じゃなくて、義体ユーザーだ。人工皮膚や人工毛
髪の質感だって、こちらをじっと見つめる義眼の精巧さだって、人形の域を遥かに超えている。でも、やっぱり何か大事な
物が欠けている。滑らかな合成音声で喋るその姿を見ていると、たとえ人間の脳が入っているとわかっていても義体が人形
としか思えないと言った北崎のことを思い出す。
332名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 21:53:38 ID:i+2NoxTW0
私とこの人の違いってなんだろう。私は、ほんのちょっと、この人よりも生身の身体に近い外見をしてるだけ。本当の自分
が脳みそだけっていうのに違いはない。自分のことを人間だと思ってもらいたがってるくせに、この人のことを人間と思う
ことができないなんて、どっか間違ってるよ。

その人は自分がなぜ義体になる道を選んだか、自分がどんな境遇にいて周囲の人たちからどう見られているか、そしてそれ
を自分がどう思っているかを、切々と語ってた。私、それを聞いて、死んだほうがましなんて思ったことが恥ずかしかった。
私は本当に死を選ぶことができるだろうか。こういう身体で生きていくことの方がよほど勇気がいることじゃないだろうか。
この人は、こんな姿でも生きていけることが嬉しいと思うと言っていた。自分の姿を晒すことが、いつか他の義体ユーザー
の支えになればとも言っていた。私には、こんな風に考えることができるだろうか……。

翌日、ビデオディスクを先輩に返す時、思い切って、自分も同じようなメッセージを残したいって言ってみた。私の身体は、
外見は生身の身体そっくりなのに、未だに人形とか機械女とか言われて辛い思いをしてるんだ。それでも、私は生きていて
良かったと思ってる。それが、この先の義体障害者の人達の支えに、ううん、そんな大それたことじゃなくたって、少しで
も何かの役に立てばって思ったんだ。

先輩は、黙って頷いただけだったけど、昨日見せた暗い表情は消えていた。課長に相談したら、イソジマ電工のケアサポー
ター用の映像ライブラリーに登録してもらえることになった。ただし、今使うんじゃなくて、何年間かは封印しておくって
いう条件で。今は、こんなもの使っても仕方ないからね。もし、このビデオが役に立つようなら、っていうことだけど、私
はずーっと封印されたままでいることを願ってる。
333名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 21:54:56 ID:i+2NoxTW0
ビデオカメラの前に立つと、やっぱり緊張しちゃうなあ。別に胸がドキドキするわけでもないし、汗をかくわけでもないけ
ど、生身の頃の記憶は、いつもいつも、私がニンゲンだっていうことを思い出させてくれる。そして制約だらけの作り物の
身体だってことも、どうしても意識させられちゃう。こんな思いをしないで生きていける世の中が、いつかは来るんだろう
か?

「八木橋さん、用意はいい?」
臨時のカメラマン役の先輩の声。
「はい。始めてください」
もう覚悟は決まってる。私は、私にできる限りのことをするだけだ。



「こんにちは。私の名前は八木橋裕子。義体化1級の障害者です。私の持ち物は脳みそだけ。この身体は元の私の身体に似
せた作り物なんだよ。でも、見ただけじゃ、そんなこと分からないよね。よくできてるでしょ?

それでも世間一般では、まだまだ義体に対する風当たりが強くてね、普段は義体だっていうのは、なるべく隠すようにして
るんだ。万一、義体だってバレた時は、決まって同情と憐憫と嫌悪感が入り混じった目で見られことになる。そういうのっ
て、とってもいやーな気分だよ。私の身体は作り物だけど、人間としての心はちゃんとある。たとえ身体は冷たい機械でも、
心はあなた達と同じくらい温かいんだって叫びたくなっちゃう。まあ、そんなコトしないけどね。こんな機械の塊を自分達
と同じニンゲンだなんて思ってくれる人は、まだまだ多くはないということだよ。昔と比べれば、これでもずっと良くなっ
たって言われてるけどね。

そもそも私が義体になったのは、高2の時の事故のせい。生きているのが奇跡というくらいの重症で、意識が無いまま病院に
運び込まれ、先生の決断で全身義体化手術が施された。目が覚めたら、全身義体のサイボーグになってましたって、漫画で
もそうそうありえない状況だよね。そんなこと、16歳の女の子がカンタンに受け入れられるわけがないよ。一度は本気で死
ぬことを考えたくらいだもん。でも、手術してくれた先生やケアサポーターさんの支えがあって、なんとかこの身体で生き
ていく決心をすることができたんだ。
334名無しさん@ピンキー:2006/09/22(金) 22:09:39 ID:i+2NoxTW0
大学の時のバイト先の人達も、大学でできた親友も、みんなみんな、こんな身体で生きていかなきゃならない私を支えてく
れたんだよ。そのことは、きっとこの先も支えになってくれると思うんだ。そして私には、死んだって切れない赤い糸でしっ
かりと結ばれてる人がいる。

もしいつか、義体っていうことを隠さなくても、笑顔で暮らせるような世の中が来るんだとしたら、私はとっても嬉しいな
あ。でも、もしも、そうじゃなかったら、こんな時代を生きていて、それでも幸せと思えるようになった義体障害者の女の
子がいたってことが、少しでも何かの役にたってくれればいいなあって思うんだ。

これから話すのは、そんな女の子のお話です……」

335名無しさん@ピンキー:2006/09/23(土) 11:50:26 ID:wLk4kAxM0
ちょっと泣いた(T_T)
336名無しさん@ピンキー:2006/09/23(土) 20:12:36 ID:3uaNK4q60
なんかいきなり最終回チックな・・・
337名無しさん@ピンキー:2006/09/23(土) 21:05:24 ID:LBNrVoPW0
ヤギーのセリフだけならプロローグにも見えないでもない
338名無しさん@ピンキー:2006/09/23(土) 22:26:38 ID:Dt0tOCKl0
>>331 >>334
これは自分が生きたという証を後世に残すためのレターなのかもしれないね。
自分が義体だから、残したいメッセージがある。だからライブラリーにしたのかもしれない。
もし誰かにこのライブラリーを見る機会があるなら、イソジマ電工を通して発表されるんじゃないか、
と自分は考えてみた。
339名無しさん@ピンキー:2006/09/25(月) 17:29:13 ID:qj5Bo5lz0
>>334
なんとなく回想編に入りそうな始まり方(終わり方?)だな。
340名無しさん@ピンキー:2006/09/25(月) 17:32:26 ID:zQMHqZW/0
>>339

冒頭に持ってきたら、本編がまるまる回想編になるな。

発言者名からみて、3の444氏の作品ではなさそう(つまり二次創作)だけど。
341pinksaturn:2006/09/25(月) 21:04:03 ID:jy4g/yYR0
(オプションパーツの続きです。
<!!!警告!!!> 反戦派の方はこの回をスルーした方が宜しいでしょう。)


−−(28)大戦(前編)−−

(離宮 謁見室)

外務大臣・弥生:「例の決議案、とうとう北米連の議会を通ってしまいましたね。どうしますか。」

皇帝・知子1世:「静止軌道工場衛星が核・生物兵器の生産施設でない事を検証させろ、さもなくば攻撃す、か。
ホントに額面通りなら受け入れても良いけどね。実際、核どころか大砲だって無いんだから。
艦載アイビームや、迎撃艇のミサイルは対地攻撃能力がないからデブリ防御用で通用するわけだし。
奴らの狙いは全身サイボーグの秘密を調べることだから、農産エリアの豚だけは見せられないわ。
あれの存在が知られたら、秘密漏洩だけでなく遺伝子組み替えに対する宗教的反感も募るしね。
次は教会勢力やら動物愛護団体やらが制裁だ何だって北米連議会で騒ぎ出すに決まっているでしょ。
いつものように普通の人間が安全に入れる場所ではないから別の方法でと言うだけだわ。
国連安保理事会では北米連を除けば遠隔ロボット測定器による核施設検証に賛同しているのよ。
新たに言い出した生物兵器の疑いについて、他の国は何の証拠もないと認めているんだしね。」

外務大臣:「宣戦布告してきますかね。」

皇帝:「国連抜きで単独でってこと?。五分五分かな。いや、議決もあるし、もっと高確率か。
民事紛争の実力行使を名目にした宙賊行為を半ば公然と支援してきたくらいだからなあ。
仮に攻撃してくるとしたとき、最も気になるのは攻撃方法が戦略核か、機動部隊かよね。
核で来るなら隕石で報復で決まりだし、非難されるのは向こうだけど、機動部隊だと難しいわね。」
342pinksaturn:2006/09/25(月) 21:04:46 ID:jy4g/yYR0
外務大臣:「そうですね。通常攻撃に対して隕石じゃやりすぎになるんで、友好国の離反が心配です。
今までの例ですと、機動部隊でしつこく叩いたあとに上陸してくるのが普通の攻撃パターンです。
ただ、今までは上陸戦に際して単独主義へ批判を和らげるため、いくらか同盟国軍を伴っています。
西欧連内の諸国にある大使館からの報告では、今のところ出兵に協力しそうな国はありません。
北米連が強硬になる動機が宗教的価値観の押しつけにあるというのが見え透いていますからね。
西欧連は旧植民地出身者の人口比率が高いから、権力による宗教の押しつけが支持されないんです。
それに我が国を占領して手に入る天然資源が殆ど無いですから、協力しても実利が薄いですし。」

皇帝:「すると、上陸部隊が海兵隊の単独部隊になる可能性が高いわけね。それなら少しは楽か。
核攻撃を防ぐためには迎撃艇を乗りこなせるサイボーグを上にあげなきゃいけないでしょう。
地上で動員できるサイボーグが目一杯かき集めても1700人程度ってのが辛いところだったのよ。
おまけに重装甲を付けない限りまともに砲弾食らったら死ぬし、宇宙ほど優位性はないでしょ。
重装甲ボディは配備も訓練も近衛大隊の200人しかやってないから数で押されるときついわ。
上陸兵力が不十分なら見せかけの首都である離宮地区に集中してくるのは確実でしょう。
ここなら近衛大隊がいるから上陸後に沿岸封鎖システムで後続を断てば勝てるわ。」

外務大臣:「予想に反して本島の方に上陸されるとまずいですよね。」

皇帝:「本島の方は沿岸封鎖システムを先に発動させて上陸させないつもりよ。
あっちは3重になっているから、第一封鎖線を破壊されてもまだ後があるからね。
安全な環礁内に空母を配置すれば本島の制空権は維持できるからこっちに来るしかないのよ。
それに彼らの目的が我が国の体制破壊なら私の首を狙わないはずがないわ。」

外務大臣:「上陸部隊が孤立して追いつめられたら核を使ってきませんか?。」

皇帝:「味方のいる場所では使わないだろうけど、使われたら上からの迎撃が頼りね。
もし取りこぼしたらぎりぎりまでエキシマで防いでから地下鉄に逃げ込むわよ。」

外務大臣:「無理しないでなるべく早く逃げて下さいよ。」
343pinksaturn:2006/09/25(月) 21:06:58 ID:jy4g/yYR0
(青の公家邸)

マサ:「あーあ、疲れたなあ。いきなり呼び戻されて毎日スプラッタじゃ鬱になりますよ。
スパイ退治憑きで良いから女子高生の生活に戻りたいよぉ。せめて売春する暇ほしぃぃ。」

真理亜:「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。核が飛んで来そうなんだから。」

マサ:「だからって、季節はずれの改造手術動員なんてあんまりですよ。
第一、あの娘たちは素体訓練が半年足りないんですよ。かえって戦力化が遅れます。」

真理亜:「戦闘に使えないのは百も承知よ。核が落ちたらシビリアンは地上に出られないわ。
そのとき地上の様子を偵察に行くだけなら、放射能に耐えられれば十分役に立つでしょう。
それに、あと半年まで仕上がっている素体が運悪く核にやられて氏んだら大損でしょうが。
忙しいのはまだまだ続くわよ。この動員が済んだら上にあがって軌道防衛任務よ。」

マサ:「どうせ売春できないなら、スプラッタより宇宙で戦闘の方がましですよ。」

真理亜:「上がったらすぐに新兵器”大目付”の試射をやるのよ。」

マサ:「何ですかそりゃ?。」
344pinksaturn:2006/09/25(月) 21:08:26 ID:O1Ir7baZ0
真理亜:「資源収集艦に搭載した艦載アイビームの成績が良かったので部品を流用した砲台よ。
予備のヘッドフィギュアを原子炉と少量の推進剤を積んだ短い胴体の両端に取り付けた物ね。
工場衛星の前後に軌道維持させてリモート操作でミサイルとかデブリの防御に使うのよ。
出力が迎撃艇の10倍もあるから静止軌道から大気圏上層部の飛行物体を撃つこともできるわ。
静止軌道に固定配備だから常時本国の上空をカバーできるんだけど遠いと当然照準が難しいの。
それで、最初は射撃好きの藻前にやらせてみようかと思ったわけ。」

マサ:「射撃はいいですが、艦の姿勢制御はあんまり巧くないですよ。」

真理亜:「基本的に姿勢は固定だから。摂動修正や使用フィギュア交代は工場の管制がやるわ。」

マサ:「なるほど。標的はいつものようにデブリを狙うんですか?。大気圏内は試せませんね。」

真理亜:「晴れた日に本国の着陸場に描いた的を使うのよ。減衰はするけど当たったかは判るわ。」
345pinksaturn:2006/09/25(月) 21:09:07 ID:O1Ir7baZ0
(国連 安全保障理事会)

ヤブー:「...というわけで、あの危険な独裁国家の宇宙工場は生物兵器生産の疑いがあります。
査察要求を受け入れる気配はありません。武力制裁の決議をお願いしたい。」

西欧連F国代表:「北米連が入手したという動物血液由来物質は品種改良の証拠に過ぎませんな。
仮に遺伝子に手を加える技術を使ったとしても直ちに細菌兵器に結びつく物ではないでしょう。
我々もむやみに遺伝子をいじる行為には反対ですが、危険性がないなら禁止の強制はできません。
北米連の議会が一方的に行った決議に国連が引きずられるのはいかがなものですかな。」

周:「北米連前提意味不明。遺伝子改良何故悪?。我々希望食料消費削減型遺伝子改良人間。
現在宇宙娘々帝国輸出優良技術。機械手足実現食料消費削減。宇宙娘々帝国破壊損失甚大。
宇宙娘々帝国破壊仮定、北米連我国余剰人口移民受入?。余剰人口引受賛成条件也!。」

大東亜国首相:「あー、...でありますから、うー...北米連さんの主張ももっともで...」

スレイブ共和国連邦代表:「北米連さんがどうしてもやるというなら単独でどうぞ。
その代わり、あとで占領統治が巧く行かないからと言って我々にツケを回さないで頂きたい。
もちろん、核の先制使用なぞ言語道断ですぞ。くれぐれもとばっちりは無しにして頂きたい。」

カンガルー国首相:「我々としても、核だけは控えていただきたい。我が世論は核に敏感です。
ましてや、戦場が我が国の近くになるのでしょう。状況によっては間接的協力も難しくなります。」
346pinksaturn:2006/09/25(月) 21:09:46 ID:O1Ir7baZ0
(北米連 大統領府)

ヤブー:「もう、国連はあてにならんな。どいつもこいつも自国の都合ばかり言う。
ただ一国必ず言うことを聞くのが、所詮出兵の出来ない大東亜国ではなあ。」

コメー:「初めから判っていたことです。この際、議会の決めたとおり粛々と事を進めましょう。
仮に他国が協力したところで、どこもお義理で100人かそこらの兵を出すだけです。」

ヤブー:「君の言うことは正しいよ。だがな、やれば犠牲が出る。その責任は私の肩にかかるんだ。
コメーも、一国の責任者になってみれば、戦没者追悼式で演説するつらさが判るよ。」

コメー:「あなたはどこぞの皇帝と違って国民が選んだのです。責任は全国民にあります。
私も投票しました。だから最後まで支えます。国防長官も覚悟は良いですね?。」

国防長官:「艦隊は既に出航しました。あとは大統領のご決断を待つだけです。」

ヤブー:「国務省の最後通牒準備は良いか?。」

コメー:「ご指示通り、経済特区を除く帝国に対する最後通牒としております。
私としてはあんな神に背く者達の発表を真に受けて作戦を立てるのは不満ですが。」

国防長官:「不信感をもたれるのは判ります。しかし、今までかの皇帝の発表に嘘はありません。
本当に統帥権が分かれていて、例の経済特区が参戦しなければ、敵に大型空母が居なくなります。
向こうに大型空母が居なければ、機動部隊がやられる危険性が無くなりますから有利なんです。
旧P共和国軍はこれまで何度もPKOに加わっていますが、抑制的な行動を旨とするようです。
あの地区に被害が及ばない限り、参戦しない可能性は高いと思われるのです。
幸い、皇帝の居る首都はあの地区から最も遠い地方にありますので、被害は及びません。」

ヤブー:「これは経済界の強い意向でもあるのだ。極力外す工夫をしてくれ給え。
もしも参戦しなかったら、あそこに帝国解体後の新政府の地位を認めてやると言っても良いぞ。」
347pinksaturn:2006/09/25(月) 21:16:15 ID:O1Ir7baZ0
(太平洋上 北米連強襲揚陸艦)

海兵隊第一連隊中隊長・サターン大尉:「全く何の因果で俺たち海兵隊が小娘なんぞと戦うのか。
さっぱりワカランご時世だが、せいぜい貴様らの大砲でひいひい言わせてやるんだぞ。」

小隊長・ジュピター少尉:「噂によると奴らは売春が大好きだそうじゃないですか。
銃なんか使わんでも、札束で顔をひっぱたけば簡単に裏切るかも知れませんね。」

タイタン軍曹:「俺はあの皇帝のファンなんですよ。捕まえたら強姦したいなあ。」

アトラス伍長:「あの皇帝もサイボーグなんでしょ。淫る前に絞め殺されますよ。」

レッドストーン技術兵:「鞭でひっぱたいて奴隷にすれば良いでしょう。
奴隷にして調教してから、みんなで輪姦すればきっと大丈夫ですよ。」

サターン:「そいつはいい。性奴隷にして部隊の慰安用ペットとして飼ってやろう。」

部下たち:「げらげらげら。是非そう願いたいですなあ。」
348pinksaturn:2006/09/25(月) 21:17:16 ID:O1Ir7baZ0
(静止軌道工場衛星 軌道警備部隊本部 大目付制御室)

マサ:「ヘッドフィギュアの目で地上を見た事なんて無かったけどこんなに良く見えるんだあ。
雲で的は見えないけど、これなら地上だって撃てそうじゃないですか。」

真理亜:「そりゃあ、4万`先くらい楽に見えなかったら高速航行時に隕石よけられないわ。
それに地上は明るいから外惑星方面で隕石見つけるよりずっと易しい筈だし。」

マサ:「試射は良いけど、着陸場に被害は出ないんでしょうね?。」

真理亜:「紫外光じゃ晴れていてもオゾン層で吸収されるから、パワーで5%届くかどうかね。
的の蛍光剤が反応して計測できるのか心配なくらいだわ。晴れ間まだ出ないの?。」

マサ:「風で雲が流されてるんで待てば見えると思いますがいつ撃っても良いんですか?。」

真理亜:「計測の都合もあるから10分以内に見えなければ延期ね。」

マサ:「これじゃあ、仮にパワーが足りても低い標的は殺れませんね。」

真理亜:「巡航中のジェット機ならじっくり当てれば落とせる鴨。動いてるから難しいかな。」

マサ:「あ、的が見えました。やりますよ。ラブラブ光線!。」

真理亜:「辛うじて計測できたようね。中心から5mに着弾だって。」

マサ:「ダメですね。5mも外したんじゃ、ミサイルの弾頭は落とせないなぁ。」

真理亜:「地上だと空気の揺らぎで曲がるから5mなら大した照準精度だわ。上出来よ。
成層圏から上にいる物体ならもっと当てやすい筈だからミサイルには効くわね。
それに、実戦だったら体内アイビームと違って電力が十分だから乱射が出来るわよ。
弾頭とデコイの見分けは無理だから乱射はどのみち必要よ。よし次、2号機でやってみて。」
349pinksaturn:2006/09/25(月) 21:18:13 ID:O1Ir7baZ0
マサ:「切り替えました。あー、また雲が邪魔してます。あれ、何だあの大艦隊は?。」

真理亜:「どうしたの?」

マサ:「東の洋上を大艦隊が進んできます。大型空母が居るから北米連ですよ。」

真理亜:「とうとう攻めて来るつもりかな?。報告しておこうか。」

マサ:「雲が切れました。試射続けます。ラブラブ光線。」

真理亜:「中心から3mに着弾だって。まあまあね。え、最後通牒!。わかったわ。
マサ、地上からの話だと北米連が最後通牒を突きつけてきたわよ。2時間後に来るわ。」

マサ:「いきなり実戦ですか。大丈夫かな。私も迎撃艇で出た方が良くないですか?。」

真理亜:「大目付からなら迎撃艇の動きもよく判るから低軌道の各隊を指揮なさい。
藻前の第3小隊も含めて降下ローテーションや各軌道への配分は私がやるからね。
藻前は直接ミサイルを追っている隊に標的を割り当てて足りない分を自分で撃つのよ。」

マサ:「性に合わないやり方だけど、弾道弾の撃ち漏らしを考えると仕方ないかな。
確かにここからなら、迎撃艇が追いつけないやつがあっても撃てますからね。」

真理亜:「迎撃艇が至近距離まで追いつけるなら粘着焼夷弾の方が効果は確実だからね。
藻前は間に合わない分を狙うのよ。特に高度が上がりきらないSLBMは優先しなさい。」
350pinksaturn:2006/09/25(月) 21:20:15 ID:j/3fOUbU0
マサ:「あの艦隊をやっちゃえれば良いのになあ。」

真理亜:「出た艦載機なら高度があれば撃てるかも。弾道弾が来なければ試して良いわ。
とりあえず。2時間だけ猶予があるから、体内タイマーかけて今のうち寝ておきなさい。
私は司令席で全体の行動を指示しなきゃいけないから、大目付のことは頼むわよ。」

マサ:「大目付は2基ありますが、もう一人操作員は付かないんですか?。」

真理亜:「残念ながら藻前くらいの能力がないと迎撃艇を同士討ちする危険があるのよ。
今すぐもう一人用意するなんてとても無理だわ。藻前一人で適当に使い分けなさい。」

マサ:「リエは?。」

真理亜:「本島の海岸や工業施設に配置するリモートボディ隊を動かす娘の指揮よ。
藻前と違い大勢の指揮が得意だからね。それと大目付と両方させるのは無理だわ。」
351pinksaturn:2006/09/25(月) 21:21:14 ID:j/3fOUbU0
(経済特区大統領府)

北米連特使:「...ということで、中立を保っていただきたい。交換条件があります。
あなた方が参戦しなければ、帝国解体後はあなた方をここの新政府として承認します。」

特区大統領:「我が海軍の統帥権は、私にありますよ。皇帝からの参戦要請もない。
ここと沿岸200海里の管轄水域にあなた方が侵入しなければ戦う理由はないですね。」

北米連特使:「皇帝の要請があれば優先するんですか?。」

特区大統領:「従う義務はない。長年の義理と、ここの利益を秤に掛けることになる。
ここの利益で最優先されるのは環境破壊や地雷による2次被害が無いことです。
例えば、帝国本体側にあるジャングルや潮力ダムの破壊を避けるかどうかですな。
潮力ダムは環礁全体を使っているから、どこかが破壊されたらここにも影響がある。
もしあなた方が2次被害を省みない行動をとれば自動的に参戦することになる。
我が自治政府は住民に選挙された正当な統治者だ。あなた方の承認は重要でない。」

北米連特使:「潮力ダムの正確な位置を示す資料はありますか?。」

特区大統領:「それくらい衛星偵察で知っているんじゃないの?。まあいい、これだ。
後は行動で誠意を示していただきたい。参戦するかどうかはそれ次第です。」

北米連特使:「精々気を付けますのでよしなに。でわ失礼。」
352pinksaturn:2006/09/25(月) 21:21:54 ID:j/3fOUbU0
秘書官:「陛下からお電話です。」

特区大統領:「ええ、たった今帰りました。本当に宜しいのですか?。」

知子1世:「北米連は我が体制を理解せず、ただの独裁国家と決めつけています。
私の首を取れば帝国が解体できると簡単に考えているから狙いは”首都”だけです。
戦後の財政を考えたら経済特区が戦場になるのは損ですからね。
もちろん、そちらの管轄区域に侵攻があって反撃されるときは支援します。
北米連が本当に手を出してこないのなら、戦闘は控えて下さいな。」

特区大統領:「承知しました。潮力ダムを破壊するなと条件を付けておきました。
そちらの工業施設への爆撃がし辛くなるし、電力も必要かと思いましたので。」

知子1世:「それはどうも。参戦して貰うよりその方が遙かに効果的ですよ。
ジャングルの破壊も好ましくないので被害を離宮付近に限定したいですからね。」

特区大統領:「それではお気をつけて。」
353pinksaturn:2006/09/25(月) 21:26:50 ID:TDZstUV80
(離宮 地下の重装甲ボディ装着室)

知子1世:「あと40分くらいよ。何人できたかな?。」

マミ:「終わったのは80人です。後になるほど手足外すのを手伝える人が減ります。
このペースですと200人全部は間に合いません。」

知子1世:「侍従たちにも手伝わせましょう。侍従長、なるべく沢山連れてきて!。
マミ、ユミ、私の換装手伝って頂戴。ロック解除したから手足抜いて。よし、入れて!。」

マミ、ユミ:「せーのー。入った。リンク良いですか?。」

知子1世:「立ち上がったわ。ガスタービン始動。電圧良し。武装リンク良し。OK。」

侍従長:「遅くなりました。え、陛下も出られるのですか?。」

知子1世:「目標の首が見あたらないと、他の地域を攻撃されるわ。とにかく手伝って!。
二人一組で手足外すの手伝って、外した娘を持ち上げて重装甲ボディーに乗せて頂戴。
中央の空間に胴がぴったり収まるようになっていて、入ったら後は自力でやるから。」

侍従長:「はい、ただいま。おい、お前とお前そっちだ。お前とお前はあっちだ。
しかし、万一ということもあります。私どもも銃をとりますから陛下は地下で指揮を。」
354pinksaturn:2006/09/25(月) 21:27:30 ID:TDZstUV80
知子1世:「あなたたちが戦うのは無意味よ。周辺陣地は地軍がちゃんとやってるから。
最強の海兵隊相手に機動戦では重装甲ボディー付けられなくちゃ、ひとたまりもないわ。
それより、ここの手伝いが終わったらブッチャーを使って祝勝会の用意をしなさい。」

侍従長:「お言いつけ通りに祝勝会の準備はやっておきます。
その代わりそんな http://pinksaturn.fc2web.com/rikusenheiki-teikoku.htm 外装はおやめ下さい。
一人だけそんなに目立っていたら必ず集中攻撃を受けます。」

知子1世:「目標の首がわからなかったら、上陸部隊を集めて孤立させられないわ。
内陸部に引き入れて立ち往生させることで核を使わせない作戦なんだからね。
それに、このボディーは対戦車砲でもなかなか破れないから99%大丈夫よ。
いくら北米連でも上陸作戦で十分な重火器が持ち込めるはずが無いんだからね。
歩兵が相手なら、ぼんやり突っ立て居ない限りやられるわけがないでしょ。」
355pinksaturn:2006/09/25(月) 21:28:23 ID:TDZstUV80
(静止軌道第一工場衛星 ベイ)

管制員:「M55ロケット引き込み良し。係留しました。」

朝子10世:「管制ご苦労さん。出るわよ。」

冬子:「私なんか使い道ないから、他の娘を優先した方が良くなかったですか?。」

朝子10世:「ここの方が安全だから東宮様が冬子と理美は必ず連れて行けって。
私もその方が良いと思ったわ。高加速の核ミサイルを撃ってくる可能性もあるでしょ。
もしここが危なくなったら工場要員を”みくら”に乗せて避難させる必要があるわ。
そのときは、無理の利く操舵員が欲しいからね。二人とも艦内で待機していてね。」

みどり:「あ、お母さん。心配していたのよ。下では機動部隊が接近してるんでしょ。」

冬子:「東宮様と殿下がわざわざ私の使い道を考えて、上げてくれたのよ。」

みどり:「お父さんは大丈夫かな?。」

冬子:「研究資料が多いから私が手伝って地下鉄に避難させておいたわ。安心なさい。」

みどり:「よかった。でも本国にICBMは落とさせないわ。私が必ず捕まえるからね。」

冬子:「一人で無理しちゃダメよ。ちゃんとマサ侯の指示を守ってやるのよ。
ローテーション守ってみんなで網を張って初めて機能する防衛システムなんだからね。」

みどり:「わかってます。でも、お姉ちゃんには負けないわよ。」
356pinksaturn:2006/09/25(月) 21:31:37 ID:TDZstUV80
(北米連 主力空母)

飛行長:「開戦期限まで20分だな。クレイジーキャット隊発進せよ。
極超音速で一気に防衛圏を突破すべし。目標は宮殿の周囲にある防空施設である。
まず制空権を確保し、地上施設を破壊して皇帝を地下の防空壕に押し込めるんだ。」

攻撃隊長:「了解。クレイジーキャット射出体型、発進ロケット点火用意よし。」

射出管制員:「1番電磁カタパルト起動。3,2,1GO!。続けて2番...」

攻撃隊長:「上昇加速良好。脱落機なし。ラムジェット動作速度到達。点火成功。
燃焼室温度、圧力正常。翼前縁温度200度。冷却剤注入開始。温度安定。
よし行くぞ!。マッハ5で飛ぶ俺たちを落とす手段なぞどこにもない。」


(静止軌道工場第一衛星 軌道警備部隊本部 大目付制御室)

マサ:「あ、空母から極超音速機らしいのが飛び出しました。高度50`かな。
マッハ5くらい出てますね。地上から迎撃は難しいです。どうしますか?。」

真理亜:「やるしかないわ。但し、200海里圏に入るまで待って。間に合うわね?。」

マサ:「6機です。3分あればいけるかな。さすがに、いきなり核じゃないでしょう。
撃ち漏らしが出たらご免なさいって事でやってみます。ああじれったいなぁ。
来るとわかっていてすぐ撃てないのはむかつくなぁ。んーそろそろ入ったか。
よし、ラブラブ光線、連射連射また連射...」
357pinksaturn:2006/09/25(月) 21:32:36 ID:TDZstUV80
(クレイジーキャット隊)

攻撃隊長:「間もなく帝国の200海里圏に突入します。飛行順調。
ん?翼面温度計が...あ、折れた!。なんで?。わああぁぁぁ。」

2番機:「あ、隊長機から破片!。空中分解して落ちていきます。どうしたんだ?。
え?翼面が溶けてる!。この機も?うわあ。ガリガリ、ザー...」

母艦飛行長:「どうした?。事故か?。」

6番機:「上空が光ったように見えました。あ、3番機、4番機も落ちます。」

母艦飛行長:「宇宙からの攻撃かもしれん。高度を下げて避けるんだ。」

6番機:「この速度では無理です。あ、5番機も落ちます。」

母艦飛行長:「目標まで後少しだ。なんとか振り切れ。」

6番機:「減速し降下します、爆撃用意、あ、だめだ。やられた。助けて。うわぁ。」

母艦飛行長:「おい。返事をしろ。くそ。初っぱなからなんてこった。」
358pinksaturn:2006/09/25(月) 21:33:45 ID:W7/I8nsq0
(静止軌道工場第一衛星 軌道警備部隊本部 大目付制御室)

マサ:「間に合った。6機ともあっさり落ちたけど、あいつら、脱出は出来たかな?。」

真理亜:「仮に脱出しても、マッハ5で機外に飛び出したら衝撃波で粉々よ。」

マサ:「あーあ、氏んだのか。これで先日の工作員に続いてもう7人も。憂鬱だなあ。
この距離で、撃ったのが機体だと、やった実感が薄いのが救いですね。恨むなよぉ。
怨念が祟って、最後の奴が離宮の真ん中とかまずいところに落ちてなきゃ良いが。」

真理亜:「向こうから危害を加えにきた奴ばっかりなんだから、いちいち気にしないのよ。
瞬殺じゃ祟る暇なんか無いわよ。陛下から連絡があったわ。海に落ちるのが見えたって。
とにかく、よくやったわ。これで高高度極超音速機の使用は諦めるでしょう。
普通の戦闘機なら地軍機でも対抗できるから藻前はミサイルに注意して。」

マサ:「あ、今度は巡航ミサイルを撃ってきたようですよ。うわー、数が多いな。
おまけにあれは低いからビームが届かないよ。無人だから気楽に撃てるのにぃ。」

真理亜:「沿岸封鎖システムで阻止できるから巡航ミサイルは無視なさい。」
359pinksaturn:2006/09/25(月) 21:34:58 ID:W7/I8nsq0
(北米連機動部隊 旗艦)

司令長官:「クレイジーキャット隊が落とされたようだ。一体どうしたのだ?。」

参謀:「宇宙から光線兵器を受けたようです。高高度飛行が徒になったのです。
巡航ミサイルとステルス戦闘機なら低空で侵入できるから大丈夫です。」

司令長官:「クレイジーキャットの搭乗員はどうなったのだ?。」

参謀:「マッハ5で飛行中でしたので脱出しても衝撃波で木っ端微塵でしょう。
撃墜手段があることは想定していないので減速しないと脱出はできません。
後からやられた機の報告では主翼が溶断されて瞬時に空中分解したようです。」

司令長官:「そうか。それではやられた原因が詳しく判らないわけだ。
となると、控えのクレイジーキャットを出すことは当面無理だな。
搭載機数を減らしてまで専用カタパルトを積んだのに。こうなると、痛いな。」

参謀:「国務省からの連絡によると経済特区の参戦は回避できそうです。
敵は飛行場もないので、中型空母2隻だけの航空戦力が相手ならまだ優勢です。
巡航ミサイルを東海岸のロケット打ち上げ場と南端の宮殿に集中しましょう。
数で押せば、宇宙への兵力増強阻止と、宮殿の防空施設破壊は可能と思います。
その上で、ステルス戦闘機に支援させて上陸戦を行えば皇帝は倒せます。」
360pinksaturn:2006/09/25(月) 21:36:37 ID:W7/I8nsq0
司令長官:「敵艦船の動きは捕捉しているのか?。」

参謀:「環礁の内側に引っ込んでいるらしく、一隻も見つかりません。」

司令長官:「それなら、潜水艦は動きやすくなっているわけだな。
潜水艦も動員して目一杯巡航ミサイルを発射するんだ。」

参謀:「それが、本国からはSLBMの使用に備えて潜水艦は温存せよと。」

司令長官:「なに!。本国は戦略核まで使うつもりなのか。無茶な。」

参謀:「あくまでも上陸が不可能な場合に備えてとのことです。」

司令長官:「しかたがない。水上艦の巡航ミサイルを全部投入せよ。」


(帝都 大本営内 沿岸封鎖システム管制所)

管制員:「工場衛星から通報。巡航ミサイル多数、東海岸と離宮に同時です。
東海岸到達まで20分。目標はロケット打ち上げ場のようです。」

皇太子:「計画通り、本島は第一阻止線で阻塞網を浮上させて止めなさい。
離宮側は阻塞するなとの指示されていますので、阻塞網は出さないこと。」

管制員:「100発は向かっているようですが、良いのですか?。」

皇太子:「陛下はエキシマで適当に間引いて当てさせるおつもりです。
地軍部隊は離宮から十分離れて隠れているし近衛大隊は地下にいます。」

管制員:「なるほど。本島第一阻止線阻塞網起動します。気球ガス注入。
阻塞網浮揚しました。続けて海岸エキシマビーム砲、地表に出します。」
361pinksaturn:2006/09/25(月) 21:38:27 ID:Lqfe9BJK0
(北米連機動部隊 巡航ミサイル管制艦)

管制員1:「途中に障害となる地形はないので低空のまま侵入させます。
機載カメラ映像順調に入って、あ...海上に障害物そんなバカな!。」

指揮官:「何を言っているんだ。海上には何にも、えっ、気球で網が!。
島が囲まれている。高度を上げて回避させろ。」

管制員1:「はい、あ、ダメです。第一波引っかかりました。
第二波は一部間に合いました。あれ?。映像切れた。撃墜されたようです。」

指揮官:「しまった。障害物で高度を上げさせて撃ちやすくするのが狙いか。」

管制員2:「こちらは障害無く陸上に達しました。あ、何か紫色に光った。
あれが対空砲なんですかね。次々撃たれていますが、一部は突破できました。」

指揮官:「よかった。本命は突破できたか。地形的に仕掛けが出来ないのかな。」
362pinksaturn:2006/09/25(月) 21:39:10 ID:Lqfe9BJK0
(離宮地下 近衛大隊待避所)

知子1世:「みんな重エキシマ砲の操作リンク良いかな?。始めるわよ。」

マミ:「はい。うわ、多いなぁ。それ、落ちろ、落ちろ、よしやった、次...」

ユミ:「2機目やりっ、あ、1機逃がした。残念。」

知子1世:「目標6割だから、欲張らなくて良いのよ。お、1機やりっ、」

マミ:「あーっまた抜けられた。結構食らいましたね。ここの建物好きだったのに。
重エキシマ砲も10基ほど使用不能になりましたので、次は苦しいですよ。」

知子1世:「人間と金目の物は全部地下に降ろしたから気にしないの。
でも、離宮のエキシマ3分1がやられたのは、弾道弾を考えるとまずかったかな。」

ユミ:「本島は大部分を地軍兵が操作していたのに全部落としたそうですよ。
やはり高度を上げさせると随分違いますね。こっちも阻塞していれば良かったのに。」

知子1世:「適当に当てさせないと、海兵隊が上陸する気にならないじゃないの。
後でハシゴ外すには、こっちに沿岸封鎖システムが無いと思わせないとダメでしょ。」

マミ:「それはそうですが、勿体ない希ガス。」

知子1世:「あんまり完璧に防ぎすぎたら核が飛んでくるわよ。我慢我慢。
マミ、10人連れて、ブロワーで砲塔の埃を払って、被害箇所を調べて来なさい。
予備砲5基も持って行ってね。電源が無事な被害箇所には予備砲を設置するのよ。」
363pinksaturn:2006/09/25(月) 21:40:12 ID:Lqfe9BJK0
(北米連機動部隊 旗艦)

参謀:「ロケット打ち上げ場への攻撃は海中に隠されていた妨害施設で阻まれました。
首都の宮殿には巡航ミサイルが到達し30発以上が命中したと思われます。
標的の詳細が不明なので防空施設が破壊できた確証はありませんがどうしますか?。」

司令長官:「30発も当てればどんなに頑丈な建物でも外壁はぐちゃぐちゃだろう。
埃にまみれたら光線兵器は使えなくなっているだろうからステルス機を出そう。
水上艦の巡航ミサイルは使い果たしたからこれでダメなら補給を頼むしかないな。」

参謀:「そうですね。対空砲が再整備されないうちに空襲しながら上陸しましょう。
ロケット打ち上げ場の方は、放っておいて良いですか?。」

司令長官:「巡航ミサイルに対し宇宙からの迎撃はなかったようだ。低空なら大丈夫だ。
作戦の目的は独裁者の排除だからな。皇帝を捕らえるチャンスを逃してはいかん。
ステルス5機で上空援護させて揚陸艦部隊を首都に向かわせるんだ。」


(静止軌道工場第一衛星 軌道警備部隊本部 大目付制御室)

マサ:「今度はステルス機らしいのが30機ほど発進してます。二手に分かれました。
少ない方は上陸部隊の護衛のようですね。どっちも低いから撃てないなぁ。
頃すのは厭だけど、ただ見ているだけで手が出せないってのもむかつくなぁ。」

真理亜:「地上じゃステルスは見つけにくいから、見張ってるだけでも役に立つわ。
陛下に通報したから、ちゃんと迎え撃つ体制は整うわよ。」

マサ:「これでは退屈ですよぉ。」

真理亜:「眠そうにしていないで、迎撃艇の飛行スケジュールを確認しなさい。
向こうが不利になったら弾道弾を使ってくるかも知れないわよ。」
364pinksaturn:2006/09/25(月) 21:44:19 ID:eA/lL2/w0
(北米連強襲揚陸艦)

サターン:「上陸決行の命令が来たぞ。武器の点検をもう一度やっておけ。」

タイタン:「体内装備の大砲ならいつでもオッケーですぜ。ぐへへへへ。」

ジュピター:「ばかやろう。ふざけている場合じゃない。敵はかなり手強いぞ。
巡航ミサイルが3割しか届いていない。制空権が不十分なまま上陸するかもしれん。」

アトラス:「上陸前に船がやられたらお手上げですね。」

レッドストーン:「ステルスが頭上で頑張っているから、それは無いでしょう。
陸に上がってしまえばこっちのものですよ。所詮小娘どもが相手なんですぜ。
鉄砲よりも、札束と鞭の装備を点検して置いた方が良いんじゃないですかね。」

サターン:「札束と鞭を用意するのはかまわんが、用心は怠るな。」

(海岸洞窟内の港に潜む地軍中型空母)

飛行隊長:「こちらの20機に対して25機が向かっている。劣勢だから無理するな。
相手はステルス機だからいくらか足が遅い。一撃離脱で撃ったらすぐ逃げろ。
レーダーや赤外が反射しにくいから、空対空ミサイルは可視光図形認識モードとする。
標的が目に見えてから発射するんだ。見つからなかったら撃たずに帰ってかまわんぞ。」

搭乗員:「揚陸艦が来ているようですが、どうしますか?。」

飛行隊長:「陛下から上陸部隊の第一波は見逃すように厳命されている。
上空に別の戦闘機群もいるようだし、見つけても攻撃せずに回避しろ。」

搭乗員:「指をくわえているんですか。なんでまた?。」

飛行隊長:「核を使われにくくするためだ。我慢しろ。」
365pinksaturn:2006/09/25(月) 21:45:10 ID:eA/lL2/w0
(北米連機動部隊 旗艦)

参謀:「島影に隠れていた空母から発進した戦闘機が向かってきましたが撃退しました。
揚陸艦への攻撃は阻止できたとのことです。上陸予定地点周辺への爆撃も出来ました。
まもなく上陸にかかります。」

司令長官:「ステルスに損害は出たのか?。」

参謀:「やられたのは1機だけです。敵の攻撃は及び腰です。これなら勝てますよ。」

司令長官:「空母を叩けないかな。そいつが居なくなれば安心なんだが。」

参謀:「戦闘機を収容した後レーダーから消えました。海岸の洞窟に隠れたようです。
陸上から攻めて洞窟の基地から追い出さないと無理です。戦術核が使えれば別ですが。」

司令長官:「核はダメだ。使ったら経済特区軍が参戦してしまうから許可が下りない。
それよりも攻撃型潜水艦をそこの沖合に向かわせて待ち伏せさせるんだ。
搭載機の発着のために出てくれば沈めるチャンスがあるだろう。」

参謀:「この国の200海里内は海底聴音網が配備されているそうです。
気づかれずに待ち伏せするのは無理でしょう。」

司令長官:「それでも牽制にはなる。出て来れなければ制空権はこっちのものだ。」
366pinksaturn:2006/09/25(月) 21:46:00 ID:eA/lL2/w0
(北米連強襲揚陸艦)

サターン:「水陸両用装甲車を先陣にして、一気に海岸を確保する。発進だ。」

タイタン:「邪魔してくる気配はないですね。」

サターン:「さっきの空中戦は及び腰だったな。びびっていて来襲できんのかな。
このままおとなしく降参してくれれば楽なんだがな。まだ油断はするなよ。」

ジュピター:「陸につきました。鉄条網ひとつ無いし楽な上陸でしたね。」

サターン:「クレイジーキャットを撃墜した奴らなのに地上では随分弱いな。
そこらに潜んでいないか、偵察隊を出して探させろ。車両揚陸艦は来てるか?。」

ジュピター:「来ています。しかし道が無いから浜沿いに進むしかないですね。」

サターン:「宮殿は内陸だろ。道を造りながら戦車や装甲車を入れるのは大変だ。
戦車は上陸地点の防衛に使うことにして、オフロードバイクで攻めるんだろな。」

ジュピター:「連隊司令部からです。バイクを優先して揚陸するそうです。
連隊主力が乗れる数が揃ったら進撃せよと言っています。」
367pinksaturn:2006/09/25(月) 21:47:19 ID:9l6nMgnY0
(ジャングル下の秘密地下鉄駅)

知子1世:「上からの報告だとバイクを積んだ船を浜に付けたから、それで来るわね。
それじゃあ、東宮に連絡して40分後に袋の口を閉じさせなさい。
対戦車ロケットぐらいは持ってこれるでしょうから関節に食らわないようにね。
各班は待ち伏せ地点に移動開始よ。」

マミ:「海岸のエキシマは封鎖に投入しますか?」

知子1世:「戦車が居るから砂に沈めたままにしておくように言って。
定置雷撃装置で沖の輸送船を殲滅してしまえば、浜の戦車は日干しに出来るから。」

ユミ:「周辺陣地の地軍はどうさせますか?。」

知子1世:「要塞砲を使うと布陣がばれてステルスに空襲されるから撃たせないで。
エキシマを核ミサイル用に温存したいから空襲を呼ぶようなことは避けさせるの。
はぐれた敵兵が行った時だけ捕まえるように言っておいて。」
368pinksaturn:2006/09/25(月) 21:48:13 ID:9l6nMgnY0
(海兵隊バイク部隊)

連隊長:「ジャングルの薄いところを進んでいち早く宮殿に突入する。進め!。」

サターン:「強姦大会の始まりだ。野郎ども、行くぞお!。」

タイタン:「バイクなら宮殿まで30分くらいですかね。」

ジュピター:「あっ、先頭のバイクが火を噴きました。また!。光線兵器です。」

サターン:「バイクを狙われているぞ。降りて隠れろ。武器は全部持っていく。」

前方の兵:「ぎゃあああぁぁぁ。う、腕が。」

サターン:「どこだ?。全員ジャングルを探せ。誰か衛生兵を呼べ。」

ジュピター:「あ、あそこ。木の間にロボットみたいな奴が!。」

レッドストーン:「畜生!。これでも食らえ!」

近衛兵:「へへ。ライフルなんか効かないわよ。スペシウム光線!。」

レッドストーン:「わあ。あちち、ライフルが溶けた。」

タイタン:「おい大丈夫か?。ライフルはダメだ。対戦車ロケットを使え。」

衛生兵:「負傷者はどいつだ?。うわ、腕が焼け落ちてる。こりゃ、止血は要らんな。」
369pinksaturn:2006/09/25(月) 21:48:58 ID:9l6nMgnY0
レッドストーン:「ロボットめ!。ロケット弾でも食らえ!」

近衛兵:「きゃあ。ほっ。関節じゃないわ。まだまだ!。スペシウム光線!。
やりい、今度は腕一本いただきだわ。」

レッドストーン:「ぎゃあぁぁぁ。やられた、熱い、痛え。」

連隊長:「あっちからも来たぞ。散り散りになるな。向こうのジャングルに集まれ。
固まって対戦車ロケットで応戦しろ。」

伝令兵:「大変です。沖の揚陸艦が海中から雷撃されています。」

連隊長:「敵に潜水艦は居なかったじゃないか。どういうことだ?。」

伝令兵:「海底に仕掛けた発射装置から撃っているようです。」

連隊長:「そんなバカな。この島は珊瑚礁を外れたら急に深くなっているんだ。
そんな深海底に施設を置く工事なんか出来ないはずだぞ。」

サターン:「奴らはサイボーグです。人間に出来ないことをやってのけたんでしょう。」

連隊長:「それで物資はどうなった。」

伝令兵:「浜の陣地にかなり上がっていますので、2週間は持ちこたえられるそうです。」

連隊長:「なるべくこっちに持って来させろ。ジャングルに陣地を築いて援軍を待つ。」
370pinksaturn:2006/09/25(月) 21:55:19 ID:9l6nMgnY0
(帝都 大本営内 沿岸封鎖システム管制所)

操作員:「揚陸艦6隻と護衛艦2隻の底に大穴を開けました。他の艦は脱出しました。
護衛艦がアスロックを撃ってきましたが深すぎて効果が無かったようです。」

皇太子:「これで上陸部隊はいずれ日干しになるわね。
空から補給する動きがあったら浜の砂からエキシマ砲を浮上させて妨害するのよ。
但し、すぐ戦車にやられるから、出すときは沢山使わないで必要最低限でね。」

操作員:「戦車を片づけられると楽になるんですが何かいい手はないですか?。」

皇太子:「上空にはステルスが頑張っているから空襲は難しいわねえ。
落とすにはエキシマ上げないといけないけど、ここで消耗して核使われるとまずいわ。
地軍の秘密陣地から長距離砲撃つのも陣地がばれるし地中のエキシマが壊れるかもね。
やっぱり、日干しになるまで待つしかしかたが無いなあ。我慢して頂戴。」
371pinksaturn:2006/09/25(月) 21:56:37 ID:9l6nMgnY0
(海兵隊 ジャングルの仮設陣地)

タイタン:「敵は小娘の筈だったのになんなんですかね、あのロボットは?。」

サターン:「器用にジャングルを走り回ったり口を利いたりしていただろう。
あれはロボットじゃなくて中に小娘が入っているんだ。奴らはサイボーグだろ。
たぶん、装甲ボディーに組み込み出来るようになっているんだろう。」

タイタン:「あれじゃあ、強姦なんか出来ませんよ。話が違うなあ。
だいたい、いつまでこんなところに立てこもっていなくちゃならないんですかね。」

サターン:「食料や弾薬なら2週間は保つだろう。奴らは積極的に攻めてこない。
救援さえ来れば勝てるさ。まだ死者も出ていないんだしな。」

タイタン:「死者がいないのには気がかりなことがあります。全然殺気を感じません。
ロボットだからかと思っていたのですが、サイボーグなら意図的にそうしていますね。」

サターン:「俺もちと気になっていた。負傷者は見事に手足を狙い撃たれている。
あれだけ正確に撃てるなら、頭や胸だって狙えるのにな。まるで殺す気がないみたいだ。」

ジュピター:「奴らは人口が少ないから兵力の不足で困っていると思います。
俺たちを全員捕まえて脳改造で洗脳し、サイボーグの材料にする気なんじゃ?。」

レッドストーン:「い、厭だああ。小娘サイボーグなんかに改造されるより殺してくれえ。
強姦が出来なくなって、強姦される方になるなんて死んだ方がましだあ。うわあああん。」
372pinksaturn:2006/09/25(月) 21:57:17 ID:9l6nMgnY0
ジュピター:「おい、大丈夫か?。怪我で動転したな。おーい衛生兵、鎮静剤をくれ。」

タイタン:「けっ。腕の一本くらいで泣き叫びやがって。それじゃ、小娘がお似合いだ。」

レッドストーン:「今にみんなやられるぞ。逃げなきゃ、小娘にされちまう。ぶつぶつ。」

サターン:「おいレッドストーン、出撃前の元気はどうしたんだ。しっかりしろ。
いいか。政府はちゃんと最後通牒をしたんだ。たとえ捕虜になっても人権は守られる。
そもそもだな、敵兵を捕まえて洗脳する技術なんてあるものか。マンガじゃないんだ。」

アトラス:「謎の帝国なんですよ。捕虜の権利なんか無視するかも知れません。
もし救援が来なくても絶対に降伏なんかしないで最後まで戦いましょう。」

サターン:「ロケット弾が無くなったらどうにもならん。無駄に撃つんじゃないぞ。」

連隊長:「このままではじり貧だ。奴らの出没パターンから陣地を割り出せないか?。」

副官:「独特のタービン音がするのでやってくる大体の方角は推定できます。」

連隊長:「その方向に地下基地でもあるんだろう。もしかしたら宮殿に通じる通路もな。
弾が十分ある今のうちに攻めよう。遠くはないなら陣地を広げながら寄せられるだろう。」
373pinksaturn:2006/09/25(月) 21:59:02 ID:r/LtGo700
(北米連機動部隊 旗艦)

参謀:「揚陸艦が壊滅して後続部隊や補給物資が上げられません。困りましたね。
なんとか孤立した上陸部隊を支援しないと。対戦車ロケット弾を要求しています。
死者は出ていませんが、負傷者が多数出ている模様です。」

司令長官:「艦載ヘリで補給物資を送って負傷者を回収するんだ。」

参謀:「敵の対空兵器は大丈夫でしょうか?。」

司令長官:「上空支援中のステルスには撃ってきていない。
もし、隠れていても、撃ってきたら場所が判るから戦車で叩けるだろう。」


(ジャングル下の秘密地下鉄駅)

知子1世:「予定通り釘付けには出来たけど結構しぶといわね。被害、どうなった?。」

マミ:「対戦車ロケット砲で足の関節を狙われていますね。20人くらいやられました。
予備の足部品が僅かです。それに我々の出没方向からここの位置を推定されています。
対戦車ロケット砲をうまく使いながら少しずつこちらに向かっているようなのです。」

知子1世:「敵が弾切れになるまでの辛抱ね。無理せず程々に足止めするのよ。
いざとなったら、ここを引き払ってトンネルを移動コンクリート壁で封鎖するわ。」

ユミ:「救援部隊らしいヘリが10機ほど向かってきているそうです。
ロケット砲弾を補給されたら厄介だろうと、東宮様がご指示をお求めです。」

知子1世:「砂浜のエキシマは半数を温存するように言って。それで足りるでしょう。」
374pinksaturn:2006/09/25(月) 21:59:51 ID:r/LtGo700
(上陸地点の戦車隊陣地)

指揮官:「間もなくジャングルの連隊主力に弾を送るヘリが頭上を通るぞ。
敵に妨害の動きがないか、周囲を翼見張れ。」

歩哨:「あ、見えましたね。」

指揮官:「上を見ていないで周囲に注意しろ。」

歩哨:「ん、砂が盛り上がって???。うわあ、で、出たあ。大変です!。」

指揮官:「どうした、あっ。戦車!、こっちだ。外じゃない陣地内だ!。」

歩哨:「ヘリが、光線に。落ちてきます。」

指揮官:「戦車!。早くあれを撃て。何やってるんだ。間に合わん。わあぁ。」

戦車兵:「やりましたよ。どうです。」

指揮官:「遅い!。ヘリがやられた。一機弾薬集積所に落ちた。誘爆する。伏せろ。」

歩哨:「ひいい、お助け。」

戦車兵:「へ?。良く見えません。2基破壊したのに。ああ、弾薬が...。」
375pinksaturn:2006/09/25(月) 22:00:38 ID:r/LtGo700
(北米連 機動部隊旗艦)

参謀:「地中から出現した対空兵器で補給物資を積んだヘリが全部落とされました。
一機が砂浜の弾薬集積所に墜落し誘爆を起こしました。戦車の弾薬が残り僅かです。
重傷者も出ており、上陸地点の指揮官が撤退許可を求めています。」

司令長官:「船もヘリも近づけないのだ、撤退だって難しいぞ。」

参謀:「水陸両用車の救命ボートをかき集めて使うと言っています。
確かにゴムボートなら雷撃されにくいでしょう。どうしますか?。」

司令長官:「弾がなければ、居残っても捕まるだけだ。しかたがない。許可する。」

参謀:「これでジャングルの連隊主力がますます孤立します。困りましたね。」

司令長官:「敵地下陣地の入り口らしい地点が判って攻めているのだろう?。
首尾よく行けばまだ勝ち目があるのだから、やれるだけやらせてみよう。
もし失敗して、弾薬が尽き逃げ場もなくなったときは降伏もやむを得まい。」

参謀:「ところが部隊に変な噂が広まって頑固に降伏を厭がる者が多い様子なのです。
こんな不利な状況でも攻めに転じているのだって降伏したくない心理からのようです。
実は、こんな戦場では考えられないことですが、あの部隊に戦死者が出ていません。
どうやら、敵が兵の手足ばかり正確に狙い撃ちしていて頭や胸を撃たれていないのです。
攻撃してくるのはロボットのような装甲を付けたサイボーグ兵らしいのです。
もっばら光線兵器で撃ってくるので手足を焼き切られても弾片被害は出ません。
それで、海兵隊を全員捕虜にしてサイボーグの材料にする気だという噂が蔓延したのです。
敵の一体に非常に射撃の正確な奴が居て、派手な色の装甲に王冠風の飾りを付けています。
敵は皇帝が自ら率いる部隊で、何か特別な意図を持っていることまでは事実でしょう。
このまま追いつめられたら、前代未聞の集団自決事件になりかねません。」
376pinksaturn:2006/09/25(月) 22:02:13 ID:mE5WhA9c0
司令長官:「困ったな。しかし幾らなんでも捕虜の人権は無視しないだろう。
単に、核攻撃をおそれて上陸部隊の足止めを図っているだけではないのかね。
部隊を動かし辛くさせる目的なら、なるべく殺さずに負傷者を増やすのは定石だよ。
対人地雷以外の手段でそれをやるのは難しいとされていて、実行した例は知らんがね。」

参謀:「私もそう思います。あの国だってある程度の外交交渉には応じてきたのです。
しかし、わが軍は今までにこれほど殺意がない敵と遭遇した経験がありません。
現場が混乱しておかしな噂がはびこるのも無理からぬ事です。どうしましょう?。」

司令長官:「もはや私の手には負えないな。大統領に指示を仰ごう。」


(北米連 大統領官邸)

国防長官:「困ったことが起きました。孤立した上陸部隊でおかしな噂が広まって...」

ヤブー;「まずいな。人権のために戦ってきたわが軍で集団自決などあってはならん。」

コメー:「本当にただの噂で済むのでしょうか?。もし事実だったら大変ですよ。
あの国は兵力が不足しているから強制徴兵した者をサイボーグにしているのでしょう。
だったら、捕虜を洗脳して材料に使う事だって平気でやるかも知れないですよ。
もし、連隊規模で敵のサイボーグが増強されてしまったら、二度と侵攻出来なくなります。
手遅れになる前に弾道ミサイルを使った核攻撃を決断して下さい。」

ヤブー:「なんて事を言い出すんだね。味方の兵がいる場所に核を打ち込むなどダメだ。
捕虜をサイボーグの材料に使ったりしたら、必ず国連で制裁決議が成立する。
あの国だってそこまで無茶をやる筈はないんだ。噂で核なんか使えるか。」
377pinksaturn:2006/09/25(月) 22:03:12 ID:mE5WhA9c0
コメー:「わが国が破れたら誰が決議を実行するんです?。満漢ですか?。ス連ですか?。
今回だって制裁決議に尻込みした彼らがもっと不利なときに協力するのでしょうか。
ヒロシマの時だって捕虜になった者が巻き添えになっていますが、国民は受け入れました。」

国防長官:「コメーさん、あなたは冷酷な人だ。いっそ国防長官を兼務したらどうです?。」

コメー:「違います。私なら無理矢理サイボーグの材料にされるより死を選びます。
核攻撃は彼らを神に背いて生きるという死より酷い結末から救う、唯一の方法なんですよ。」

国防長官:「兵には少数だが異教徒や無神論者も居るんだ。貴女の価値観を強制出来ない。」

ヤブー:「うーん。敵のサイボーグが1個連隊も多くなったら、もう攻められなくなる。
確かに今が最後の機会かもしれんな。ヒロシマの前例もあるか。解った。勝負をかけよう。
上陸部隊には予告して、敵の地下施設が攻め取れるならそこに逃げ込めと伝えるんだ。
国防長官、すぐに使えるミサイルは何基だ?」

国防長官:「やるんですか?。しかたない。でも皇帝を捕らえたときは中止させて下さい。
数はあの島なら1発で十分ですよ。ICBM、SLBMどちらでやりますか?。」
378pinksaturn:2006/09/25(月) 22:03:42 ID:mE5WhA9c0
ヤブー:「極超音速機がやられたんだろう?。迎撃出来ない数で一気に片づけないとな。
失敗して警戒されたら皇帝が地下深く逃げてしまう。核を使えば経済特区も参戦するぞ。
その前に皇帝を討ち取って帝国を確実に崩壊させるなら、40基は必要だよ。
届かせるのは難しいだろうが、牽制のため何基かは工場衛星に向けるんだ。」

国防長官:「なるほど。ICBMとSLBM各20基で、40基ならなんとかなります。
それ以上では満漢やス連に向け配備されたものを切り替えるため調整が間に合いません。
工場衛星にはカラのロケットを打ち込んで牽制したらどうでしょう。」

ヤブー:「それでもいい。準備にかかる時間はどうだ?。」

国防長官:「月基地への緊急輸送用に待機しているロケットを回せばすぐ出来ます。」


(とうとうコメーの意見が通ってしまいました。
軌道警備部隊の娘たちは、40基もの核ミサイルを止めきれるのでしょうか。
次回は引き続き(28)大戦(後編)です。)
379名無しさん@ピンキー:2006/09/25(月) 22:04:20 ID:Xyv2r6vW0
支援
380名無しさん@ピンキー:2006/09/25(月) 22:05:56 ID:Xyv2r6vW0
ありゃ。w
381名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 00:17:35 ID:N5mgQHrT0
382名無しさん@ピンキー:2006/09/26(火) 01:21:07 ID:4TIxlUpH0
日本あるのかよ!
383名無しさん@ピンキー:2006/09/27(水) 21:28:38 ID:fQnCDSZE0
イソジマ電工本社ビル6階ビデオライブラリー閲覧室。一般公開されているビデオは、閲覧の申請をすれば、誰でも視聴で
きるようになっている。義体に対する差別的な意識がなくなったと言われてずいぶん経つけれど、未だに人々の心の中から
完全に消え去っているわけじゃない。だから、義体ユーザーの境遇が少しでも改善されればという目的で、所蔵ビデオを公
開しているのだそうだ。

ネットから使える検索システムでライブラリーを調べたら、義体ユーザー自身の希望で収録されたビデオが何本か見つかっ
た。概要説明によれば、その内の1本は、16歳で全身義体化手術を受けた女の子のものらしい。外見上は人間そっくり。それ
でも、人々の冷たい視線を受けざるを得ない。そんな境遇に置かれていたこの女の子は、一体何を想って日々を過ごしてい
たんだろう。1人の人間として受け入れてくれる人がいたんだろうか? 人を好きなったり、好きになってもらえたりしたん
だろうか? 僕は今、それを知りたいと思っている。閲覧申請を出したら、一昨日、許可通知のメールが来た。そして、日
曜日の今日、ようやくここに見に来ることができた。

受付で手続きをして、閲覧室の椅子に座る。モニターの中で、僕と同じ位の年頃の女の子が話始める。どんなことを聞かせ
てくれるんだろうか。

『私の持ち物は脳みそだけ。この身体は元の私の身体に似せた作り物なんだよ。でも、見ただけじゃ、そんなこと分からな
いよね。よくできてるでしょ?』

16歳くらいにしか見えないこの人は、自分の歳が23歳だって言っている。義体の外見は、元の身体と同じでなければならな
い。それは昔も今も変わっていないはずだ。もしそうだとしたら、どうして歳相応の姿にできないんだろう? 加齢処置の
料金が高額だったらしいけど、それでは「元の身体と同じ」ということと矛盾するんじゃないんだろうか? 検査に多額の
費用がかかるのも、今じゃとうてい考えられない。生きていくだけで沢山のお金が必要だなんて、それじゃ一体何のために
生きていけと言うんだろう? 自分自身のために生きていく権利を奪うなんて、そんな酷いこと、誰にも許されることじゃ
ない。
384名無しさん@ピンキー:2006/09/27(水) 21:30:30 ID:fQnCDSZE0
『でもね。世間一般では、まだまだ義体に対する風当たりが強くてね、普段は義体だっていうのは、なるべく隠すようにし
てるんだ。万一、義体だってバレた時は、決まって同情と憐憫と嫌悪感が入り混じった目で見られことになる』

ビデオの中の女の子が義体だなんて全く思えない。直接会ったとしても、そう言われなかったら分からないだろう。それで
も、やっぱり、義体っていうだけで、人々からは冷たい目で見られていたんだ。この人は、それをどう乗り越えたんだろう。

『そんな世の中でも、私を好きになってくれた人がいた。藤原っていう、私より2歳下の男の子』

そうか。この人にも、好きになってくれる人がいたんだ。

僕は今、蒼崎さんっていう全身義体の女の子と付き合っている。付き合うと言っても、手を握るのが精一杯。キスすらさせ
てくれないし、えっちなことなんて、とてもじゃないけど口に出せそうもない。はっきりとは言ってくれないけれど、自分
が義体だってことを気にしているためらしい。

僕は蒼崎さんのことが好きだ。ずっとずーっと一緒にいたいと思っている。蒼崎さんも、僕のことを嫌ってはいない、と思
う。でも、なかなか次の一歩が踏み出せない。食事に誘っても、映画に誘っても、アミューズメントパークに誘っても、手
を握るところから先に進めない。この夏は、二人っきりで泊りがけで海に行くという機会まで作ってみたけれど、それでも
やっぱり駄目だった。どうしても、友達以上恋人未満の一線を越えることができずにいる。蒼崎さんが義体だからっていう
のが理由だとしたら、昔の、もっと偏見が強かった頃の人がどんな想いを持っていたかを知ることが、役に立つんじゃない
かと思ったんだ。

『栄養カプセル以外何も口にできないし、暑とか寒さとか季節の移り変わりを肌で感じ取ることさえできやしない』

このビデオが収録されてから、義体技術も大きく進歩した。今の義体も機械でできていることに変わりはない。蒼崎さんの
身体だって、胸やお腹の中には機械が詰まっているはずだ。でも、身体の作りは違っても、できる事に関しては、生身の身
体と違いがないくらいにまで義体技術が進んでいる。
385名無しさん@ピンキー:2006/09/27(水) 21:32:18 ID:fQnCDSZE0
お昼はいつも一緒だし、食べてる物にも違いはない。お互いのお弁当のおかずを交換することはしょっちゅうだし、たまに
は蒼崎さんがお弁当を作ってくれることさえある。味も香りも舌触りも、僕のお母さんが作ってくれるものと遜色ない。

暑さ寒さに関して言えば、蒼崎さんは暑がりだし、寒がりだ。真夏は、僕の方が勘弁してって言いたくなるくらいの薄着で、
露出度の高い格好だし、冬場は炬燵の中から出ようとしない。機械の身体になっても、そういうところは全然変わらないん
だよって、笑ってた。雨に濡れれば冷たいし、花の香りは気持ちいい。何度もデートした経験から、二人が同じ世界を見て
いることに間違いはない。だとしたら、蒼崎さんは、この人のようなことでは悩んでいないっていうことだろうか。

『えっちはできるけど、子供を生み育てるっていう幸せを分かち合うのも不可能だ』

うん。こればっかりは、今の義体でも実現できていない。技術の問題というよりは、法律や倫理の問題が解決されていない
せいだ。義体は人間の身体か、それとも持ち物か? ただの持ち物に過ぎない機械の身体から、人の命が生まれてきてよい
ものか? 何年も議論が続いているけれど、一向に解決の兆しが見えそうにない。どんなに完全な義体ができても、やっぱ
り作り物の身体は作り物でしかないんだろうか? 生身の僕と、義体の蒼崎さんとの間には、越えることのできない溝が残
るんだろうか?

『こんなつまらない機械女と一緒にいて楽しいの? そう何度も聞いたけど、そのたびに、そんなの当然って感じで、明る
い笑顔を私に向けてくる』

それでも、この人には、愛してくれる人がいた。そして、その愛を受け止めることができたんだ。人を愛する心の前には、
身体の違いなんて関係ないっていうことだろうか?
386名無しさん@ピンキー:2006/09/27(水) 21:45:17 ID:fQnCDSZE0
その後も、ビデオの中では、辛かったこともあるけれど、自分を受け入れてくれる沢山の人とめぐり合うことができて幸せ
だという話が続けられた。世間の人々の偏見に晒されながら、それでも自分が幸せだって思うことができるこの人は、なん
て強い心を持っているんだろう。そして、この人を愛することができた藤原って人は、きっととても幸せだったに違いない。
ここには、悩んだり苦しんだりする日々の中で、幸せを掴んだ人の姿がある。これほど、人に勇気を与えてくれるものはな
いんじゃないだろうか。

『じゃあね。このビデオを見ているあなたが、生きていて幸せだって心から思える日々を送られる事を祈ってます』

ビデオの最後に、とびっきりの笑顔。

決めた! 今度は蒼崎さんを連れてきて、このビデオを一緒に見よう。その上で、蒼崎さんに僕の気持ちを伝えるんだ。蒼
崎さんが何て言うかは分からない。でも、この人の笑顔を見ていたら、きっと全てがうまくいく。そういう想いが心の底か
ら湧いてくる。

閲覧室を出る時に、電源が落ちて真っ暗になったモニターを振り返って、そっと呟く。

勇気をありがとう。そして、あなたが末永く幸せな日々を送れたことを心から祈ります。

387名無しさん@ピンキー:2006/09/28(木) 18:21:51 ID:kkarBvID0
うは
プロローグとエピローグが揃っちゃったジャマイカw
388名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 01:45:25 ID:EHzCtxlG0
私の機械の身体には、いろいろと便利な機能がついている。時計機能にカメラ機能。暗視にズームに補助AI。この辺は、も
うみんな知ってるよね? 今日はその他の機能の中の一つ、無線LAN機能のお話だよ。

私の身体にはコンピューターが沢山使われている。義体と脳を繋ぐサポートーコンピューターを筆頭に、体内各所に身体の
機能を補助する大小様々なコンピューターが配置されている。これはみんな義体専用に特別に設計された限られた機能しか
持っていない。でも、義体に組み込むことができるのは、こういう専用機能のものばかりじゃないんだよ。

脳ユニットにはサポートコンピューターと並んでいくつかの空きスロットが用意されている。特殊公務員になったら、火器
管制モジュールとか量子暗号化モジュールとか物騒な物を挿すことになるんだけど、そんな物ばかりじゃなくて、私みたい
にフツーの仕事をしている義体ユーザー向けのPCモジュールなんて物もある。

小さくてもちゃんとしたPCで、無線経由で社内LANに繋ぐこともできるし、サポートコンピューターと連動させれば頭で考
えるだけで文書を書いたり計算したりメールの読み書きだってできるようになる。どう、便利でしょ? まあ、一般生活限
定の義体操縦免許でさえギリギリで取った私は、こんなモノを使うより手を動かしてキーボードやマウスを使ったほうがずー
っと早いから、あっても宝の持ち腐れなんだけどね。会社からこのPCモジュールを支給するって話があった時は、特に使い
たいとは思わなかった。でも先輩からあることを教えられて、俄然使う気になったんだ。何だと思う? 先に言っとくけど、
えっちなことじゃないぞ!

我が社のビル内にはセキュリティゲートが随所にある。なにしろ21世紀の先端産業を担うわが国有数の義体メーカーだから、
情報漏洩には人一倍敏感だ。で、そのゲート。実は無線ALNにも対応してるんだ。PCモジュールに社員データを記憶させて
おけば、無線LAN経由で認証できちゃうってわけ。普通はゲートを通るとき、一度立ち止まってカードをセンサーにかざさ
なければならないんだけど、無線LANなら立ち止まる必要がゼンゼンない。
389名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 01:46:20 ID:EHzCtxlG0
特に1階入り口の義体社員専用ゲートなんか、私が全速力で走り抜けたって大丈夫なんだ。おまけにタイムカードのシステ
ムも無線LANに対応してるから、私が何の操作もしなくたって傍を通りすぎるだけで出勤時刻が記録される。

つまり無線LAN機能っていうのがさっきの答えなんだ。

あ、そこ! 笑うなよう! 朝の私は1分どころか1秒だって争うんだから。ワープロよりメールより大事な使い道なんだよ
う! 実際、このシステムを使うようになってから遅刻回数が激減したんだもん。まさに無線ALNさまさまだよ!

そう思っていたんだけど、やっぱり、いいことばかりでもなかったんだ。



「う……ん、藤原ぁ、そんなとこ舐めちゃ駄目だよう……」
pipipipipipipi...
「藤原ぁ、えっちしてる時は、携帯切ってよう……」
PiPiPiPiPiPiPi...
「携帯切ってって……え?」
PIPIPIPIPIPIPI...

「……7時52分?……ち、遅刻だあ!」

しつこく鳴り続ける目覚ましを放りだして、ベッドから飛び起きる。7時52分。目覚ましをセットした時刻から30分以上た
っている。その間ずっと目覚ましが鳴っていたのに、気づかなかった。昨日、2週間ぶりに藤原とデートして、終電の時間
ぎりぎりまでラブホでえっちしてたのがまずかったか。
390名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 01:49:10 ID:EHzCtxlG0
今日は朝イチで月例報告会があるんだよ。遅刻したら課長からなんて言われるか分からない。なんとしても遅刻することだ
けは避けなくては! パジャマを脱ぎ捨てて寝押ししてあるブラウスの袖に手を通してストッキングにスカートに上着に……。
私の人工毛髪は、いくら寝相が悪くても決して寝癖が付かないスグレモノ。歯を磨いたり顔を洗ったりする必要もない。化
粧はとりあえず最低限のことを電車の中ですればいい。サポートコンピューターにアクセスして視界の端に時計を表示させ
る。ああ、これなら間に合うかも! いや間に合う。きっと間に合う。っていうか間に合わせるしかないんだよう!

階段を3段跳びで駆け下りて玄関のドアを蹴破るようにして寮を飛び出す。寮から府電の電停まで歩いて17分。下り坂を全
力で走れば6分が今までの最高記録。今日はそれをどこまで更新できるだろうか。いつもは立ち寄って雑誌を買ったりする
コンビニの脇を通り過ぎた時点で25秒短縮してる。この調子、この調子。

Pi!

あれ? なんだろう? 目覚ましの音がまだ耳に残っているのかな? 先週、定期検査したばっかりなのに、もう義耳の調
子がおかしくなっちゃったんだろうか?

銀行の角を曲がって信号待ち。ここまでで75秒短縮。

Pi! Pi!

うーん。やっぱり変だ。会社に着いたら技術部の人に見てもらわなくちゃ。面倒くさいなあ。

信号が青になった瞬間にダッシュして電停に着いた時には90秒短縮。新記録達成だあ! うん、やればできるじゃないか。
偉いぞ、私。その勢いのまま改札を通り抜け小さなプラットホームに駆け上がる。

Pi! Pi! Pi!

ああ、もう。鬱陶しい! 一体、私の身体、どうしちゃったの?
391名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 02:05:54 ID:EHzCtxlG0
でもそんなこと、この緊急事態に考えている余裕はない。ホームに上がると、電車のドアが今まさに閉まるところ。両手で
ドアを無理やりこじ開けて、できた隙間から車内に身体を滑り込ませる。みんな何事か!?って顔をして私の方を見てるけ
ど、この電車を逃したら絶対に間に合わないんだから仕方ないよ。そうは言っても、あまりじろじろ見られるのは恥ずかし
いから、ドアにもたれかかって、外の方に体を向けて知らん顔をしていよう。

まさか、電車の中を走るわけにはいかないから(気持ち的には走りたいけど)、汐留電停に着くまではじっと立っているし
かない。何も忘れ物してないよね。朝、慌ててると、大抵何か忘れちゃう。いつだったか、デートでお財布忘れた時は難渋
したからなあ。まあ、そのおかげで藤原と出会えたんだけど。

あ、そうだ! 昨夜メールチェックした時に、イソジマ電工の社員宛の緊急メールでウィルスがどうこうっていう件名のメー
ルが来てたっけ。緊急メールは出社前に必ず読むように厳しく言われてる。昨夜はもう時間も遅かったから朝読もうと思っ
てたんだけど。どうせ機械の身体の私は病気にはならないんだ。ウィルスなんて関係ないよ。会社に着いてから読んでも大
丈夫だよね。

府電を降りた後も、至るところで同じ音を何度も何度も聞くことになったけど、もう、気にもならなくなっていた。

汐留の本社ビルに着いたのは、始業時刻の3分前。エレベーターホールまで15秒。エレベーター待ちが45秒。私の居室があ
る18階まで4回停まったとしても90秒。エレベーターの出口からタイムカードの機械まで10秒ってところかな。その間に都
合3箇所のセキュリティチェクが待っている。いちいち立ち止まる必要のない私なら、ぎりぎりで間に合うはず! ああ、
無線LAN万歳!

私が目指すのは右端の義体社員専用ゲート。いつもの通り全力で駆け抜けようとしたとたん。

ビーッ! ビーッ!

けたたましい警報音とともに出口側の障壁が勢いよく閉じる。ゲートを駆け抜けようとしていた私は、閉じた障壁に挟まっ
て身動きとれない状態に。どんなにもがいても、障壁が余計に身体に食い込んでくるだけで、意地悪な罠から逃れることは
できなかった。
392名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 02:06:37 ID:EHzCtxlG0
え? 何? 何? 一体何が起こったんだよう! 私、何かしちゃったの?

警報音を聞きつけて、黒ずくめの制服に身を包んだ警備員が駆けつける。いつもはにこやかな笑顔で挨拶してくれる警備員
達も、こんな状況では口をへの字型にひん曲げて険しい目つきで私を睨む。私、ケアサポーター部の八木橋裕子だよう!
いつも挨拶してるじゃないかよう! そんな言葉には耳も貸さず、3、4人がかりで、私を床に押し付ける。首筋のカムフ
ラージュシールが引き剥がされて、接続端子のカバーも荒々しくこじ開けられる。

嫌だ、嫌だ。一体何するんだよう!じたばたもがいても、わめいても、警備員達は無言のまま作業を続けていく。接続端子
に制御プラグが差し込まれ、義眼ディスプレイに、サポートコンピュータへの強制アクセスを示す警告マークが表示され……
身体の感覚が一切なくなった。押さえつけられた状態のまま手も足も動かない。目と耳は働いているけど、もう私は自分で
は何もできない人形になった。私が何をしたか分からないけど、いきなり機能停止だなんて、あんまりだよう。

そのまま警備員の手で大型台車に積み込まれ、何事かと集まった社員達の面前で、いずこへかと運ばれていく。
「あれ、八木橋さんじゃない?」
「ケアサポーター部の新人の?」
「今度は一体何をやらかしたんだろうなあ?」
何だよう。何だよう。私がいつも騒ぎを起こしているみたいじゃないか! 私、何もしてないよう!

エレベーターが停まったのは32階のシステムラボ。既に警備員から連絡がいっているのか、白衣の技術者達が私の周りを取
り囲む。再び首筋の接続端子にプラグが差し込まれ、集まった技術者達が一斉にディスプレイを覗き込む。誰かが大きな溜
息をつき、早く電源を切れ!と大声で叫ぶ声があがる。そのまま私は暗黒の世界の中に沈みこむ……。

2時間後。

私は課長にこってりと絞られた。原因は私の体内の無線LAN。昨日、無線LANのドライバーに脆弱性が発見され、それと同時
にその脆弱性を突くウィルスがネットにばらまかれたのだそうだ。義体ユーザーには緊急のお知らせメールを送る一方、PC
モジュールを使っている全身義体の社員に対しては対応パッチが出るまでの自宅謹慎が命じられたらしい。
393名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 02:08:24 ID:EHzCtxlG0
出社してから読めばいいと思ったメールがそれだった。ウィルスっていうのは病気を起こすウィルスじゃなくて、コンピュー
ターウィルスのことだったんだ。私が街のホットスポットを通るたびに、そこから無線ALNを経由して、私の無防備なPCモ
ジュールにウィルスが侵入していたというわけだ。あの、Pi! っていう音は、まだウィルスに対応していないセキュリティ
ソフトが出す警告音。ラボでの検査の結果では、10を越えるウィルスが検出されたと聞かされた。あのままゲートを通って
いたら、私は社内にウィルスをばら撒いていたことになる。

コンピューターのデータが壊されるならまだましなんだ。もし、社外にデータを送信するタイプのウィルスだったら? も
し、担当患者の個人データが社外に流出していたら? 普段は物静かな課長からそう怒鳴られて、改めて背筋がぞっとする
思いだった。え? 背筋なんか無かろうって? もう、それくらい大変なことだったんだよ!

その日の午後、社内向けの情報セキュリティ関係のメーリングリストには、早速、ウィルス侵入事例が報じられていた。ケ
アサポーター部のY橋さん。それ、私しかいないじゃないか。ゼンゼン伏字になってない。しかも台車で運ばれていく私の
姿を撮った写真のURLがしっかりと書かれていた。小さいけれど私だってはっきり分かる写真だよ。これじゃ、しばらく顔
を上げて社内を歩けない。ヤギー武勇伝がまた一つ増えたねって、みわちゃんが楽しそうに言ってきた。うー、武勇伝って
何だよう!

拝啓
義体ユーザー各位殿

このような事例もありますので、弊社からのお知らせメールにはきちんと目を通していただきますよう、重ねてお願い申し
上げます ○| ̄|_

新米ケアサポーター 八木橋裕子拝

394pinksaturn:2006/09/30(土) 09:01:18 ID:VIuunkmA0
 容量残りが、次回下書きサイズより小さくなったのでとりあえず準備。
次スレ
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1159573979/
395名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 14:12:03 ID:b+WF4lrM0
次スレ乙

つーかもう1ダースかyo!
早いな…。
396名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 17:10:58 ID:EHzCtxlG0
ざぶーん。ささーっ。ざざーん。ざわざわー。

青い空。エメラルドグリーンの海。純白の砂浜。眩しい陽射しの下、海風が私の髪をそっと梳いていく。水際で楽しげに水
遊びをする子供達。ビーチパラソルの日陰の下でそれを物憂げに見守る大人達。陽射しを一杯浴びながらオイルの塗りっこ
をするカップル達……。

今日は私、栄浜の海水浴場に来てるんだよ。武南電鉄の最寄駅からバスで10分強。海も砂浜も綺麗なのに、芋を洗うような
混雑というわけでもない。朝夕は無料のバスも走ってるけど、家族連れの人たちは、バスでの移動を嫌ってたいてい星ヶ浦
海岸の方に行っちゃうから、やっぱり海水浴客は少ないね。結構穴場のビーチだよ。

え? 機械の身体は水に浮かないだろうって? 海水に浸かったら身体が錆びるんじゃなかったのかって? 嫌なコト言う
なあ。そうだよ、その通り。私の身体は機械の塊。身体の何倍も大きい浮き輪でも使わない限り水に浮くなんてことはない。
海水が人工皮膚の継ぎ目から身体の中に入ったら、機械の部分が錆びることだってある。じゃあ、一体何してるのかって?
 泳ぎに来たんじゃないよ。もちろん日光浴でもない。人工皮膚は日焼けなんかしないからね。

バイトだよ、バイト。みんなが楽しく休日を過ごすリゾート地だって、ちゃーんと働いている人がいるんだよ。ライフガー
ドとか海の家とかアイスクリーム売りとかさ。じゃあ、私の仕事はって言うと……笑うなよ?

空き缶拾いだよ。え? ヤギーにぴったりだって? うー、そんなこと言われるくらいなら笑われる方がましだよう。でも、
確かにそうなんだ。泳げない、物を食べられない。そんな私が海水浴場でできる事なんて、そんなに沢山あるわけじゃない。
炎天下、直射日光に晒されて熱い砂の上を歩きながら、空き缶を拾う。いかにも人気がなさそうなバイトだよね。みんなが
日光浴やスイカ割りやビーチバレーを楽しんでいるのを横目に、ひたすら缶を探して砂を掘り返すなんて、私だってやりた
くないよ。でも、嫌われている分、それなりに実入りがいいし、集めた缶のデポジット料も入ってくる。缶を沢山集めれば
それだけお金を貰えるんだ。缶の重さなんて多少重くたって機械の身体の私には関係ない。そう考えると私には結構魅力的
なバイトだということになる。
397名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 17:12:59 ID:EHzCtxlG0
そんなわけで、この2週間、ずーっとこのバイトを続けてきた。今日が最後の日でバイト代が貰えることになっている。そ
れも現金の手渡しで。ここ何ヶ月か自転車操業なんだけど、それももう限界。明後日の定期検査で検査料を払ったらお財布
の中には小銭しか残らない。今すぐ現金が欲しい私には、これはとってもありがたい。今朝見たテレビの占いによると、射
手座は金運が最高なんだって。濡れ手で粟って言うのかな、何もしなくてもお金を手にできるみたいなことを言っていた。
缶も沢山集めたし、いくら貰えるか楽しみだなあ。

いつもの通り作業をしてお昼近くになったから、いったん事務所に戻ることにした。中に入ろうとして、建物の陰にトラク
ターみたいな機械が停まっていることに気がついた。確か、一昨日からこの海岸の空き缶拾いの作業に加わったロボットだ。
人間みたいな格好はしてないけど、AIを積んだれっきとしたロボットなんだって。誰もついていなくても、ちゃーんと人を
避けながら砂浜をくまなく走り回って空き缶を集めてくれるそうだ。本当はこのロボットが、この夏の空き缶拾いの主役の
はずなんだけど、調整に手間取ってやっと今から仕事を始めるっていうことだ。実は、私はその間の繋ぎの臨時バイトだっ
たってわけ。

近くに寄ってみると大きな円筒に錆びた釘や壜の蓋や金属製のおもちゃの破片かなにかが沢山くっつていていた。ふーん。
こんな物も拾ってくれるのか。私の足は釘なんか踏んでもへっちゃらだけど、フツーの人だったら怪我しちゃうよね。空き
缶拾いのついでなのかもしれないけど、偉い偉い。明日からは私の分も頑張ってね。

相手は人間の形すらしていないロボットなのに、同じ仕事をしている仲間だっていう気分になっていた。何気なく触ろうと
して伸ばした右手が、円筒の方にすっと引き寄せられたかと思うと。

ぴたっ

手のひらが円筒にくっついた。

え? え? どういうこと? 私の手がくっついちゃうなんて。まさか、この円筒の磁石の力に、私の機械の手が反応したっ
てこと? うわっ、どうしよう! こんなとこ、誰かに見られたら大変だよう。早く取らないと。
398名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 17:14:12 ID:EHzCtxlG0
でも、磁石の力は思いのほか強力で右手だけの力じゃ離れない。逆に私の身体の方がロボットに引き寄せられそうになる始
末。つい、左手を添えて支えにしようと思って手を伸ばしたら。

ぴたっ

……あ。馬鹿、馬鹿、私の大馬鹿者っ! 一体、何やってるんだよう。これじゃ身動きとれないじゃないか。さらに焦って
無理やり引き剥がそうとしてじたばたもがいているうちに。

ぴたっ
ぴたっ

……両手とも肘から先がくっついた。もう、こうなったら押せども引けどもびくともしない。

「八木橋さん、そろそろお昼休に……何をやってるんですか?」
事務所から出てきた斉藤さんが、ロボットの傍に立っている私の姿を見咎めて近寄ってくる。うー、まずい。まずいよう。
「機械に勝手に触っては危険……えっ!?」
私の両手が円筒にぴったりくっついていることに気がつくと、怖い顔をして駆け寄ってくる。
「なに馬鹿なことしてるの! 怪我をしないうちに離れなさい!」
斉藤さん、私がロボットに悪戯してると思ってる。そりゃそうだよね。金のがちょうじゃあるまいし、ニンゲンの身体がこ
んな物にくっつくはずがない。
「斉藤さん、私、ふざけてるんじゃないよう! 手がくっついて取れないんだ。お願いだから手伝ってよう!」
この際、斉藤さんに何て思われるかは後回しだ。とにかくこのロボットから離れなきゃ。
「八木橋さん、いいかげんになさい! いつまでもふざけていると本当に怒りますよ!」
そう言って、斉藤さん、無造作に私の手を円筒から引き離そうとする。
「えっ、何これ!?」
私の力でも離れないんだ。斉藤さんの力でどうなるものでもない。
「八木橋さん、あなた、一体……」
399名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 17:29:18 ID:EHzCtxlG0
「説明は後でするよう。だからこの手をなんとかしてよう!」
哀れっぽい声で懇願する私。でも、斉藤さんは、私を何か得体の知れないバケモノでも見るような顔をしてる。
「今、高沢さんを呼んでくるから、待ってなさい」
斉藤さん一人ではどうにもならないし、私と二人っきりというのが怖くなったみたい。急ぎ足で事務所に戻りかけたけど、
途中で振り返ってこう付け加えた。
「機械に変なことしちゃ駄目ですよ!」
斉藤さん、私のこと、ゼンゼン信用してないよ。こんな状態で、何かできるわけないじゃないか……。

斉藤さんに連れられて事務所から出て来た高沢さんは、私の姿を見ると急に険しい顔つきになる。円筒に張り付いている私
の手にちょっと触ると、何か考え込んでいる。身体のことを聞かれるだろうか? 半ば覚悟を決めていたけど、高沢さんは
黙ったまま私の手に自分の手をかけて力を込め始めた。斉藤さんも嫌そうな顔をしながら手伝ってくれて、私を含めて3人
がかりでようやく円筒から開放された。

事務所の中で、私は二人に障害者手帳を見せて身体のことを説明した。もうこうなったらごまかすことなんてできるわけが
ない。斉藤さんは、お決まりの同情と憐憫と嫌悪の表情を浮かべて私を見たけれど、高沢さんは違ってた。眉をしかめて一
層険しい顔つきになると、黙って部屋の奥の机の方に行って、どこかに電話をかけ始めたんだ。距離が離れているから、よ
く聞き取れなかったけど、サイボーグとか労災保険とか契約違反とかの言葉が出ていたようだった。

私は臨時のアルバイトだけど、何か事故があった時のために労災保険に入る義務がある。普通の人と義体の人では保険の条
件が違うから、義体の人は予め申告するのも義務付けられている。大学に入ってバイトを始めた頃はそれに従っていた。で
も、担当の人に障害者手帳を見せるたびに決まって嫌な思いをすることになるし、職場の人達にまで身体のことが漏れちゃっ
て働きづらくなったことが何度もある。だいたい、この頑丈な機械の身体が壊れることなんてまずありえないんだ。だから
悪いことだとは思いながらも、いつの頃からか義体のことは黙っているようになっていた。このバイトを始めた時も、私は
何も言ってない。
400名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 17:35:44 ID:EHzCtxlG0
高沢さん、しばらく電話で話をしていたと思ったら、急に黙り込んじゃった。電話の相手の答えを待っているらしい。3分
か5分か、高沢さんが再び話し始めるまでの間が、物凄く長く感じられた。

電話が終わると、高沢さんはFAXで送られてきたらしい紙の束を持って私の所に戻って来た。険しい顔つきは変わらなかっ
たけど、目には憐れみの色が浮かんでいた。

高沢さんの話を一言で言うと「バイト代は払えない」ということだった。高沢さんが持ってきたのは私のサインが入った契
約書。それには、私が義体障害者だった場合は事前に申し出ることが義務として書かれていた。そして、それを怠った時は
契約が無効になることになっていた。この条件に従って、私がこの2週間働いたことは初めから無かったことになってしまっ
た。細かい文字がびっしり書いてあったから、内容をろくに読まずにサインしちゃったんだ。まさかそんなことが書いてあっ
たなんて……。

高沢さんは同情してくれたみたい。でも、斉藤さんは、そんな大事なことを隠していたってとても怒ってた。サイボーグの
人は嘘をついても平気なんですか、身体が機械だと心まで冷たくなってしまうんですね、とまで言われたよ。何と言われて
も大事な決まりごとを破った私には、返す言葉がなかった。その場にいても辛いだけなので、謝罪の言葉とともに頭を下げ
て事務所を出た。高沢さんが何か言っていたみたいだったけど、立ち止まる気になれなかった。

とぼとぼと重い足取りでバス停に向かう途中で気がついた。今日貰えるはずのバイト代をあてにして、電車賃くらしか持っ
てきていない。栄浜駅までは朝夕に運行される無料のバスを使うしかない。海水浴客で物凄く混むからあまり乗りたくはな
い。とは言っても、バス代さえ無い私には他に選択肢がない。とてもじゃないけど、駅まで歩く気にはなれないよ。

海に入れるわけじゃなし。日光浴も意味がない。お金がなくちゃ何もできない。無料バスの時間まで、ぼーっとして時間を
過ごすしかないだろうなあ。防波堤の端に腰かけて足をぶらぶらさせながら、夏のリゾート地そのものの光景を眺める私。
楽しげな人々の様子を見ていても、憂鬱がつのるばかりだけどね。
401名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 17:38:19 ID:EHzCtxlG0
夕方。バス停には長い長い行列ができていた。疲れを知らない機械の身体の私は座席に座る必要はない。バスに乗れさえす
ればいい。適当に並んで、ほどほどに混んだ車内に入って手摺の前に立つ。私の120kgの重い身体で、万一よろけたりしたら
誰かに怪我をさせちゃうかもしれない。カーブや急停止した時に備えて、いつでも身体を支えられるようにしておくことが
必要なんだ。入り口の方を見ると、もう人が乗ってきそうにない。そろそろ発車するだろう。

そう思って右手で手摺を握ろうとすると、すっと手のひらが手摺に吸い寄せられるような感じがして。

ぴたっ

……これ、ただの金属製の手摺なのに……。おそるおそる右手の指に力を入れてみたけれど、指は手摺に張り付いたままぴ
くりとも動かない。まさか、あの円筒の磁石の力が私の手に移っちゃったの? そんな馬鹿な……。

さっきの二の舞になるのは嫌だから、左手で張り付いた指を剥がそうとする。その時、扉を閉めるブザーの音がしたと思っ
たらバスが急発進した。不意を突かれてよろけそうになった私の左手が、支えを求めて手近な手摺に向かって伸びていく。
あっと思ったけど、もう遅かった。

ぴたっ

見事に左手もくっついた。もうこうなったら私の力ではどうしようもない。バスが駅についたら運転手さんに事情を話して
手伝ってもらわなきゃ。

あーあ。1日に2回も障害者手帳を見せて嫌な思いをしなきゃならないんだ。今日はなんてついてないんだろう。あの朝の占
いもだよ。金運最高だなんてさ。バイトのお金、入らなかったじゃないか。おまけにこんな手摺にくっついて……。ん?
この手摺って「金」製だよね。金運の「金」って、まさかこれのこと?

……神様、冗談キツイですよう……。
402名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 17:58:49 ID:EHzCtxlG0
後日、事務所から1通の手紙が来た。差出人は高沢さん。手紙には、空き缶のデポジット料はバイトとは関係ないので為替
で送ります、と書かれていた。バイト代には及ばない額とは言え、今の私には大金だ。電話で事務所に呼びつけることだっ
てできるのに、わざわざ手間をかけて送ってくれたんだ。”決まりを破ったことを認めるわけにはいかない。でも気持ちは
分かる。手続きさえきちんとしてくれれば、働いてもらうことに何の問題もない。真面目に働く人はいつでも歓迎する。”
短い文面だったけど、体面を取り繕うためじゃない、心のこもった内容なことが感じられた。

もう引越しのバイトを見つけて、明日面接することになっている。残念だけど、お礼の返事だけを出しておこう。高沢さん、
私が義体だって分かっても、また働くよう誘ってくれた。今まで、こんな風に言われたことはない。高沢さんとはあまり話
す機会を持てなかったのに、それでも私のこと理解してくれていたんだろうか。

正直、明日の面接で身体のことを言うかどうか迷っていたんだよ。でも、高沢さんのおかげで決心することができた。きち
んと身体のことを話そうと思う。そうして、仮に職場の人達に身体のことがばれたとしても、受け入れてもらうことができ
るように頑張るんだ。

自分で努力しなくては何一つ始まらない。今までは、ずーっと嫌なことから逃げていた。それでは自分にとっても、相手に
とっても、いい結果をもたらさない。そんな風に思うことができたなら、きっと明るい明日が来るに違いないよ。

タダ働きだと思ったけど、お金なんかよりもっと大切なものを得られたのかもしれない。高沢さん、ありがとう!

403名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 23:34:12 ID:EHzCtxlG0
今日はノー残業デー。親睦を深めようということで、課のみんなとカラオケボックスに来てるんだよ。

ことの起こりは先週の飲み会の時。私の身体は物を食べられるようにはできていない。唯一口にできるのは小さな栄養カプ
セルだけ。だから、私の周りだけお酒も料理も置いていない。寂しいと言えば寂しいけど、もう、そういうのは気にしない
ことにした。アルコール入りカプセルで酔うことだってできるし、みんなと賑やかにお喋りできるのは楽しいよ。まあ、最
初のうちは目立たないように隅っこの席に座るようにしてるけどね。その日も、そんな感じで2個目のカプセルを口にした
時、先輩が隣の席にやってきた。先輩、しばらく私が歓談する様子を見た後で。

「ねえ、八木橋さん」
「はい、先輩?」
「カラオケは好きかしら?」
「はいっ、大好きですっ!」
「うふふふ、いい返事ね。次の親睦会は、カラオケボックスでやろうと思っているんだけど」
「え…?」
「たまには趣向を変えてみるのもいいわよね?」

先輩、もしかして私が飲食できないのを気にしてくれたんだろうか? 私は十分楽しんでいるつもりだけど、やっぱり、傍
から見ると気になるんだろうか? 先輩は、何かにつけて私をからかうけれど、その分、気配りもしてくれる。今は先輩の
好意に素直に甘えさせていただこう。

「じゃあいいわね。八木橋さんの歌、楽しみにしてるわよ」

その後、先輩に3次会まで付き合わされて、アルコール入りカプセル5個という新記録を樹立した。翌日、定刻出社した先輩
が、遅刻して課長に怒鳴られている私を楽しそうに眺めてた。先輩、あれだけ飲んだのに二日酔いの欠片すらも見せないっ
て、一体どんな身体してるんですか……。
404名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 23:34:49 ID:EHzCtxlG0
まあ、そんなわけで今日の親睦会の会場は、会社近くの小さなカラオケボックスということになったんだ。これなら私もみ
んなと一緒に楽しめる。先輩のためにもバリバリ歌いまくっちゃおう!

一曲目、課長がいきなり99点という神スコアをたたき出した後、先輩達も、それぞれ十八番の曲を披露する。みんなさすが
にうまいなあ。私も、そんなにヘタなわけじゃないと思うけど。

私の声は電気合成音。生身の身体みたいに声帯から出る音を、喉や口の中で共鳴させるなんて複雑な造りにはなっていない。
喉の奥にある小さなスピーカーから直接声が出てくるんだ。どんな低音でもどんな高音でも自由に出すことができるし、呼
吸とは無関係だから、ずーっと声を出し続けるのもカンタンだ。歌うのにはぴったりの仕掛けだと思うでしょ。身体を動か
すのもそうだけど、生身の身体よりも便利な機械の力を使うのって、初めのうちはなんだかずるい気がしたよ。でもね、私
の歌を聴いてみんなが楽しんでくれるなら、それでもいいかなっって考えるようになった。今日この場にいる課長や先輩達
も、私の声が作り物だって知っている。はたして、私の歌を喜んでくれるだろうか。

「八木橋さん、次はあなたの番よ」
ぼんやり考え事をしていた私に先輩が声をかける。
「あ、はい、すみません」
歌い終えた先輩が差し出すマイクを受け取って、勢い良く立ち上がる。
「八木橋、行きま〜〜〜す!」
「待ってましたあ!」
「ヤギー、がんばれー!」
みんな口々に声援を送ってくれる。そういえば、ここに来てからみんなと一緒にカラオケで歌うのは初めてなんだ。
405名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 23:35:52 ID:EHzCtxlG0
私も十八番の歌を選んでる。みんなに引けはとらないはず。生身の頃の癖で大きく息を吸い込みながら、おもむろにマイク
を構えて歌い出す。
「本当のkキイィィィィ〜〜〜〜ンッ!」
え?
「ただ涙gキイイイイィィィィィィ〜〜〜〜ンッ!!」
なんだ、なんだこの音は!? 私が口を開くたびに、異音が部屋の中に響き渡る。

みんな耳を塞いで顔をしかめてる。音はどうやら私の喉のスピーカーから出ているらしい。な、何なんだよう! 私の身体、
どうしちゃったんだよう。せっかくのカラオケなのに、これじゃ歌えないじゃないか! マイクを握り締めたまま、茫然と
立ち尽くす私。

突然の出来事に驚いた課長や先輩達が、私の周りに集まってくる。マイクを使わなければフツーに歌えるのに、マイクを持
つと駄目なんだ。今までこんなこと無かったのに……。

私とマイクを見比べていた課長と先輩が、ヘンな顔をして私を見てる。
「あ、あの、課長、先輩、何か?」
原因を思いついたんだろうか? 私の身体、どっか壊れちゃったんだろうか?

「これはアレだな」
先輩が頷く。
「ええ、アレですね」
何なんだよう。何が分かったんだよう。もったいぶらずに教えてよう!
406名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 23:41:55 ID:3Zmimzo10
支援
407名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 23:47:30 ID:EHzCtxlG0
焦る私にせかされて、課長がくらーい顔をして喋りだす。
「八木橋君。君の声は電気合成音だろう? 声は喉の奥のスピーカーから出ているね。それがカラオケのマイクとハウリン
グを起こしているんだよ」
先輩が同じ調子で後を続ける。
「そうそう、スピーカー式人工声帯の欠点ですよね。八木橋さん、学校の放送機材とかでも、こんなこと起こらなかったか
しら?」

そんな、そんな……。それじゃ、私、ここのカラオケで歌えないってこと? 私の数少ない楽しみがなくなっちゃうなんて
酷いよう! 困り果てた私は、藁にもすがる思いで二人の顔を交互に見る。ねえ、課長、先輩、何かいい知恵は……。

あれ? 二人とも真剣そうな顔をしてるけど、口元が引きつってる。必死に笑いを噛み殺しているみたい。あ、そういえば、
この間、先輩から借りた漫画本にそんなお話があったような。まさか……。

二人とも、とうとう堪えきれなくなったのか、大声で笑い出す。

「あははははっ。八木橋さんの顔ったら!」
「くっくっくっ……いや、すまん、八木橋君。だが……はははははっ」

あー、もう、二人してからかうなんて酷いよう!

もちろん、そんなハウリングが起こるなんてことはない。私の身体とカラオケの機械は繋がっていないんだから。でも、調
べてみても原因は分からない。結局、私だけマイク無しで歌うことになっちゃった。カラオケでマイク無しなんて、なんだ
かとっても味気ない。まあ、歌えるだけましなんだけどね。みんなには思った以上に好評で、特に課長も先輩も絶賛してく
れたのが、唯一の救いかなあ。
408名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 23:50:17 ID:/6chlzr00
音がマイク→スピーカ→マイク→スピーカ→・・・と循環するような配置じゃないと
ハウリングは起きないんだけどねw
409名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 23:51:33 ID:EHzCtxlG0
いつまでもこれじゃ困るので、松原さんに聞いてみた。
「八木橋さん、お知らせメール、ちゃんと読んでますか?」
……すみません。ここしばらく読んでません。
「義体の内部にある電子回路はとてもデリケートです。外部からの磁気や電磁波の影響を受けて変調をきたすことがあります」
松原さん、言ってることは間違ってないけど、その言い方って身も蓋もないよう。

「国内で製造されているカラオケ装置は、厳しい認定基準をパスしてます。他の電子機器に影響を与えるような磁気や電磁
波を出さないようにするためです。これは義体にも影響を与えないということです」
そうか、日本は義体が実用化されているから、そういう配慮もされてるんだ。じゃあ……。
「外国製のカラオケ装置には、まれに基準を満たさない製品もあります。最近、そういう装置が多くなって、トラブルの問
い合わせが増えてます」
「それって、私、あの店じゃ歌えないっていうこと?」
「問い合わせが多くなったので、シールドを強化した改良製品ができてます。旧タイプの人工声帯を使っている義体ユーザー
は、定期検査の時に希望を出せば、無償で改良製品に交換してました。お知らせメールで通知済みのことですよ」
「あの、松原さん、”してました”って……?」
「無償交換期間は、先週で終わりましたっ」
そ、そんな〜〜

なんとか無償期間を延長してもらえないかと松原さんに頼んでみたけど、八木橋さんにはいい薬だと言って、きっぱり断ら
れた。あーあ。また貯金が減っちゃうよ。会社の近くのカラオケボックスはあの店しかないし、まさか義体が変になるから
カラオケ装置を入れ替えてくださいなんて言えるわけがない。みんなと一緒にカラオケを楽しむためには、自腹を切って人
工声帯を交換するしかない。

でも、松原さん、まだ何か考え込んでいる。も、もしかして、救済策を考えてくれてるんだろうか。
410名無しさん@ピンキー:2006/09/30(土) 23:53:31 ID:EHzCtxlG0
「第1開発部のスタッフが、新型人工声帯の試作品の耐久テストをすると言ってました。それに協力したら、そのまま試作
品を使わせてくれるかもしれません」
ああ、みんなと一緒に歌えるようになるんだったら、この際多少のことは我慢するよう。
「テストベッドには身体を置くスペースはありません。必要なのは首から上だけです。その状態で48時間歌い続けてもらい
ますっ」
松原さん、言葉を切ってニヤリと笑う。
「それでもよかったら、開発スタッフに志願者有りと連絡してあげます。八木橋さん、どうしますか?」
……松原さん、あんた鬼ですか……orz



一週間後。試作品の人工声帯は、私の喉の中にある。
「八木橋さん、今日のカラオケはどうするの?」
「あ、先輩。今日は遠慮しておきます」
「そう、残念ね……。じゃあ、私達はこれで帰るから、後はお願いね」
「はい。私の分も楽しんできてください」
笑い声を交わしながら、部屋を出て行く先輩達を見送って溜息をつく私。

この間のカラオケの後、うちの課はちょっとしたカラオケブーム。毎日のように誰かしらがカラオケボックスに行っている。
私はといえば、毎回毎回、先輩のお誘いを断り続けている。だってさ、あれだけ歌い続けたら、当分歌いたくないって気分
になってもしかたないよね。せっかく新しい人工声帯に交換して、どんなカラオケ装置だってどーんと来い状態だっていう
のにさ。あー、私ってば、いったい何やってるんだろうなあ……。

拝啓
義体ユーザー各位殿

このような事例もありますので、弊社からのお知らせメールには(ry

411名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 00:34:04 ID:siSsxYkN0
セーラーウェポンとかM.I.B.さんの話が好きだったんだが、彼が書かなくなってしまってから、漏れもここから遠ざかった。セーラウェポの続きが読みたいものだ…
412名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 02:17:53 ID:isdQ5F6I0
各位の後ろの殿は不要ですよ。
413名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 08:26:18 ID:iV4cqjfd0
百年以上先の日本語だろうから、それがフツーになってるのかも。
414名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 09:17:37 ID:juOhctKO0
ヤギーワールドは「過去」だったはず。
義体技術だけが発達した並行世界で、時代的には昭和50年代・・・という説明をどっかで見たような気が。


それはさておき、最近3の444氏見ないねぇ・・・
415pinksaturn:2006/10/01(日) 09:17:59 ID:d5sjtCuj0
>>411 禿同。
メタル・ヴァルキリーが遊園地の正体ばれ寸前で止まっているのが、お預けを食らっている気分で辛い。
どこかで密かに書いているなら、是非発表していただきたいですね。
416名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 13:12:28 ID:lvsZx/kU0
>>112

そんな私の熱狂は1週間しかもたなかった。どの男の子も2、3回話しただけで、みんな私から離れていってしまうんだ。こっ
ちから話しかけようとしても、すぐにVRから落ちたりビジーサインを返してきたりする。なんで? どうして! 美人で頭
が良くてスポーツ万能のスーパー女子大生の私とお喋りしたくないなんて信じられないよ! 一番熱心に話しかけてきてく
れた男の子から、露骨な拒絶のサインをもらったのがあんまりショックだったので、その夜は一睡もできなかった。そして
一晩じっくり考えて、やっと私も理解した。

どんなに自己紹介を飾りたてても、実際に話をするのはこの私。ジャスミンじゃなくて八木橋裕子なんだ。地味な顔、地味
な声、地味な格好。10人の中で一番印象に残らない。でもそれは外見だけじゃなかったんだ。佐倉井みたいな軽妙なトーク
なんてできっこない。ジャスミンみたいに話題が豊富なわけでもない。女の子らしい美味しい食べ物や可愛い服なんて、私
には縁がないし、旅行にいった話もできやしない。私の自己紹介を見て声をかけてくる男の子達は、自己紹介通りの女の子
を相手にするつもりで、話題を振ってくるわけだ。でも、私には、そのどれにも満足に応えることができないんだ。いつも、
ジャスミンと話しているから真似をするのはカンタンだ。そうたかをくくっていた。でも違うんだ。真似できるのは上っ面
の部分だけ。だから会話も形だけのやりとりをしたらすぐに終わってしまう。

例えばさ。悠遊茶館の杏仁豆腐とカティーサークの杏仁豆腐のどっちが美味しいかなんて聞かれてさ。私、答えられるわけ
ないじゃないか。しかたがないから適当に答えるけど、それじゃ話が続くわけがない。相手の男の子達は、雑誌なんかでい
ろいろと薀蓄を仕入れてきてるけど、それが全部不発に終わっちゃう。あいまいな相槌を打つことしかできない私相手じゃ
話をしたって面白いわけがない。これがホンモノのジャスミンだったら、ふたつの味の違いを的確に表現して、どっちが好
きかはっきり言えるだろう。佐倉井だったら、男の子以上の薀蓄をたれるかもしれない。でも私には、そんなことできるは
ずがないんだよ。
417名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 13:17:45 ID:lvsZx/kU0
万事この調子。こんな会話だけで男の子の心を掴むなんてできっこない。少なくとも、ジャスミンと付き合おうなんて男の
子相手にはね。1週間経って、それがはっきりわかっちゃった。私はジャスミンになれはしない。私は八木橋裕子なんだ。

でも、おかしいよね。だって、これって私がいつも言ってることじゃないか。たとえ身体が機械でも心は私。VRの中だっ
て、どんな姿をとろうとも、自己紹介に何を書こうとも、中身は私。何も違いはないじゃないか。私、一体何を考えていた
んだろう。こんなことに気づくのに1週間もかかったんだ。馬鹿だよね。はは。

そうと分かればVRには用はない。有料サービスを申し込んだ期間が過ぎたら、もう終わりにしよう。でも……。

ジャスミン目当ての男どもなんかどうでもいいけど、1人だけ気になる男の子がいる。登録名は『隆太』君。あの事故で天
国に行ってしまった私の弟と同じ名前。最初に話しかけられた時、自己紹介を見てドキッとした。VRの力を借りて弟が私に
会いに来てくれた。そんなことを一瞬考えた。誰も信じてくれないだろうけど、事故の後で、私はもう一人の私に会ったこ
とがあるし、お父さんからの手紙も読んだ。だから、心のどこかでは、お母さんや隆太にも会えるかも知れないって、思っ
てるんじゃないだろうか。もちろん、隆太君は、顔も声も喋り方も、弟とは全然違う。それでも、弟と話しているっていう
気持ちを打ち消すことができなかった。

そんな状態で、隆太君を恋愛ゲームの相手と考えることなんてできるはずがない。ジャスミンじゃなくて、八木橋裕子とし
て弟の隆太と話す。私には他に接しようがなかった。自己紹介とは全く違う私の振る舞いに、隆太君、きっととまどってい
ただろうなあ。
418名無しさん@ピンキー
隆太君は、自己紹介によれば私より少し下。まだ高校生だ。話してくれるのは、家族のことや中学の頃の思い出や、最近見
たテレビ番組や、ネットで見つけた面白そうなサイトのこと。それから、お昼の連続恋愛ドラマには、なぜかとても詳しい
んだ。これって高校生の男の子の話題だろうか? 夜も 10時には寝てしまう。とても健康的な生活をしているってだけのこ
とかもしれないけど、もしかしたら……。もしかしたら、何かの病気で学校を休んでいるのかもしれない。そんな雰囲気を
隆太君は持っていた。

それから3週間。隆太君と何回か話をした。話の内容は相変わらず。他愛のない内容だけど、それが一層姉弟の日常会話と
いう雰囲気を強めていった。もう、私にとっては、VRを使った仮想世界での会話ゲームでさえなくなっていた。隆太君の方
はどうなんだろう。何となく、私に聞きたいことがあるような感じがする。遠慮しないで聞いてくれればいいのにと思うけ
ど、無理に聞き出すわけにもいかないし、自分から話してくれるのを待つしかない。

この間は、テレビの恋愛ドラマのことを話していたら、愛の形にもいろいろあるよねっていうことになって、私、うっかり
『新しい愛のカタチ』のことを喋っちゃった。VRの中では義体のことは話さないと決めていた。現実の世界では義体のせい
で嫌な思いばっかりしてるから、VRの中にまでそんなものを持ち込みたくなかったんだ。いくらジャスミンを演じていても、
義体って言葉を聞いたとたん、元の八木橋裕子に戻っちゃう。そう思って気をつけていた。隆太君と話をするようになって
も、それは変えないつもりだったのに。

確かに話題になっている映画だけど、高校生の男の子の隆太君が興味を持つようなものでもない。私みたいな義体ユーザー
は、義体のことがどんな風に描かれるんだろうと思って、期待半分不安半分で注目してるけどね。それで、隆太君も、こん
な話題はさらっと流してくれるかと思ったら、予想外に興味を示していろいろと聞いてこようという気配だったから、私、
慌てて話題を変えちゃった。

隆太君、義体に興味があるんだろうか? 映画みたいにフツーの人と義体の人が愛し合うなんて、私の経験からしたら奇跡
みたいなものなんだ。だけど、もしかしたら、隆太君とだったら、うまくいくのかもしれないね。