杏奈はその日、夢を見た。大好きな片桐の書斎に飾られるセックスドールとして、一生を送る自分がそこにいた。
動くことが出来ない代わりに、片桐の愛情を一身に受けることの出来る存在になっていた。
そして、片桐のセックスシンボルを受け止めようとした時に、アクティブパートの知らせが身体中を駆けめぐり、
夢から醒めたのであった。
杏奈は昨日のことを思い出して、久しぶりに感じた性的快感、そして、
何度も訪れたオーガニズムの絶頂に気を失う程の快感を覚えた瞬間を思い出して、充実感にひたっていた。
杏奈は、自分が、片桐にだけ愛されるような仕打ちを受けたことを後悔していない自分がいることに気が付いた。
しかし、絶頂で気を失いかけると意識を戻すように体内のコンピューターに制御されたのには、困ったことであった。
その瞬間、自分が、スペースフィットスーツを脱いだ姿での状態は、性処理のための人形でしかない現実を
噛みしめないといけなかったのである。
一方、そのような制御装置が搭載されているからこそ、いつ果てるともしれない性的絶頂を可能な限り持続できる
自分を幸せに思えたのであった。
杏奈はスペースフィットスーツ装着者専用調整ベッドの脇にある拘束ベルトリリースボタンを押して、
杏奈の身体の拘束を解き、スペースフィットスーツ装着者専用調整ベッドから起きあがった。
そして、キッチンへ行って、片桐の朝食の準備をした。準備だけをして、調理は片桐の朝のお世話を
終えてからでも間に合う状態にすることから、片桐の生活パートナーとして、秘書としての一日が始まるのであった。
杏奈は、片桐の寝室に移動して、ベットで寝ている片桐を起こした。
「伸二さん。時間です。そろそろ起きませんと、会社に間に合いません。」
杏奈がそう声をかけると、片桐は、嬉しそうな表情で起きあがった。
「杏奈、ありがとう。杏奈が声をかけてくれる朝は最高だ。」
私がそう言うと、杏奈は、
「嬉しいです。伸二さん。それではサニタリースペースに移動してください。」
杏奈はそう言うと、起きあがった私の手を引いて、サニタリースペースに私を誘導していった。
まず。私の肛門のアタッチメントバルブに洗腸機を取りつけた。
私の腸内に残る汚物を全て排泄する作業が終わると、尿道のバルブに排尿チューブを接続し、
私の膀胱内の残留液を全て空にしてくれた。そして、バスルームに私を連れて行って、
私の身体の隅々まで洗ってくれて、少し熱めのお湯をはってあるバスタブに私を導き入れてくれた。
私の身体を温めながら、シェーバーで、私の顔を丁寧に剃ってくれた。そこまでが終わると、杏奈は、
歯ブラシに歯磨き粉をつけたものと水の入ったコップを持ってきてくれて、バスタブ内の私に手渡した。
私は、歯をその場で磨いて、口を濯ぎ、杏奈に空のコップと使用済みの歯ブラシを渡して、再び顔をお湯で洗った。
湯船から私が出るのを見計らって、杏奈は、バスタオルを持ってきてくれて、私の身体をくま無く丁寧に拭いてくれ、
傍らにあるバスローブを私に着せてくれた。
「伸二さん。リビングの室温は適温になっています。朝食までおくつろぎください。」
杏奈に言われるままに、私は、リビングに移動し、用意されている朝刊に目を通していると、杏奈から、
「伸二さん、朝食の準備が出来ましたのでこちらにおいでください。」
という声が聞こえた。私は、その声に誘われてダイニングテーブルに座った。テーブルのうえには、
私の好きな堅焼きになっている目玉焼きとベーコン、トースト、サラダ、紅茶が並んでいた。
そして、向かいの杏奈が座れるような特注の専用椅子に、杏奈が座っていて、
「どうぞお召し上がりください。朝のお料理は、味加減がビジュアルで分かりますから、
私が作っても大丈夫なものになっているはずです。ご安心ください。
せめて、味が分かるようなセンサーが付いていればいいのにと思うのですが、私にとってそれは適わないことなので、
味が分からなくて申し訳ありません。」
杏奈は、そのように謝罪するが、スペースフィットスーツを着るためそして、私のセックスドールとして
作りかえられた身体の杏奈にそのような機能をつける必要はないので、杏奈があやまる必要は何もないのだが、
私というご主人への忠誠心から出ている言葉なので、私は、杏奈に対して愛おしさの感情が芽生えてしまうのであった。
「杏奈、気にするな。」
私は、そう言う言葉しか杏奈にかける言葉が見つからなかった。
「伸二さん、ありがとうございます。でも、私は、伸二さんのお側に使えるものとして、伸二さんが喜べないものが
あるということが情けないのです。お許しください。」
杏奈は、私にさらに謝罪の言葉を言ってきた。私は、その杏奈の言葉を制するように、
「誰だって不得意があるんだ。それが人間なんだ。それに杏奈は料理をするために創られたサイボーグじゃないんだ。
私の完璧な秘書業務と私の性癖を受け入れられるような処置を施したパートナーと
スペースフィットスーツという最高で最新の商品の着用サンプルとしての使命を完璧にこなすためのサイボーグなんだ。
だから、料理のことを悩まないでくれ。私は、今の状態の杏奈がいればそれが一番幸せだ。」
「伸二さん。本当にありがとうございます。そのお言葉に甘えさせていただきます。
あっ、そうだ。そろそろ、お召し上がりにならないと迎えの車が来てしまいます。
新聞の方は、私が要点整理したものを今朝のニュース映像と共に処理して、
社長車のディスプレイでご覧に入れます。」
私は、杏奈が作ってくれた朝食を頬張りながら、杏奈の言葉を聞いていた。
杏奈は、秘書としての完璧主義のため、非人間的なところもあるが、任務に忠実で、手を抜かないし、
仕えた重役に対して忠誠を誓う、秘書としての限りなく完璧に近いアビリティーを持っているという評価が
人間であった時にされていたが、サイボーグになっても、その性格は変わらないものだと、
私は、変な感心を心の中でしていた。もっとも、それは当たり前のことなのだ。
何故なら、彼女は、サイボーグであり、ロボットにされたわけではないのだから、生体脳は完璧に残っていて、
いくら、体内のサブコンピューターと協調関係にあっても、生体脳が身体全体を支配し、
感情を司っている存在なのだから、当たり前のことなのだ。私は、一人で、思い出し笑いをしてしまった。
「伸二さん。なにか楽しそうですね。」
「杏奈のことを思っていたら、幸せになってしまった。」
「そうですか。ありがとうございます。光栄です。あっ。早く着替えをしていただかないと迎えの車が来てしまいます。」
杏奈は、そう言うと、食べ終わった食器を食洗機の中に入れて、私をクローゼットに誘導し、
私の着替えを手伝ってくれた。
着替えが終わり、私たちが再びリビングに戻ってくると、玄関のチャイムが鳴り、迎えの車の到着を知らせた。
私の杏奈から、私専用秘書杏奈に切り替わる時を迎えたのであった。
杏奈にとって、スペースフィットスーツを装着すると外からの刺激は直接触れられたという感触を
感じない世界に閉じこめられるということであり、秘書としては、このような外部刺激を感じないということは、
たとえば、なにかを持っていても、持っているという事実を視覚で確認しているだけで、触覚としての情報が
杏奈の脳に届かないという奇妙でアンバランスな世界にいるのであった。
しかし、それが、片桐の杏奈に対して狙って望んだものであり、杏奈を片桐だけのものにするための処置なのだから、
杏奈はそのことを甘んじて受け入れなければならなかった。
杏奈は、そのアンバランスに最初は苦しんだが、今は楽しんでさえいたのであった。
私と杏奈は、専用エレベーターで、専用玄関の車寄せに降り立つと、杏奈は、私を車に誘導し、私を乗せた後、
自分も乗り込み、秘書サイボーグ専用シートに座り、自らを車の一部にするために、シートに固定して、
バックパックにある接続コネクターと車の接続システムを接続した。
「片桐社長。おはようございます。本社到着まで、今朝のニュースと朝刊のダイジェスト番を
ディスプレイに流しますのでお楽しみください。本社までの予定所要時間は、約20分です。」
そして、私の専用車のナビシステムに、自分の身体のラン回線を通じて得た渋滞情報を入力し、
最適ルートを決定して、運転手への指示を開始した。
私は、その光景を見て、杏奈が機械として、秘書サイボーグとして機能する瞬間を感じ、
性衝動コントロール装置がなかったら、性的興奮から、ペニスが勃起して大変なことになっているのだろうと考えて、
クスリと一人笑いをした。
こんばんは。manplusです。
皆さん、色々なご意見ありがとうございます。
私のSS支持していただいた方、ありがとうございます。
皆様の期待に応えられる投稿をしていきます。
指摘をして下さった方の指摘は大事にして参ります。
今後ともよろしくお願いします。
色々なご意見がでるのは、このテーマが少しダラダラと
長くなったことも原因かと思います。
このテーマのエンディングを考えつきましたので、
もう少し、杏奈の物語に付き合って下さい。
お願いします。
いろいろと自分が飽きないように他のテーマのSSの
書きかけもあるものですから、それらを載せるための
ホームページを作り始めました。
その関係もあって、続きの投稿が久しぶりになりました。
GJ!!
流れが止まってる・・・
保守
>>427=
>>429 現れたなこのドロボー鮮人めが!!!!!!!!!!
サイボーグ厨共が執拗にアンドロイドスレに粘着して荒らしまりやがって、たまりかねてローテクの中の人が書いた絵だぞ。
しかもあの後お前らサイボーグ厨共はますます騒いで荒らし回ってたな。
結局ローテクの中の人もサイボーグ厨共に追い出されたしな。
それを
>>429スレに貼られてたんで転載だあ???ふざけんじゃねえバカヤロウが!!!!!
お 前 が かってに貼ったんだろ?泥棒チョンめが!!!!!!
それを白々しくもよそからの転載だと!!
これだからチョンは共産的民族=劣等民族なんだよ。
おまえら全員北チョンに帰れやゴルァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
431 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/24(土) 00:14:52 ID:KuXui8yL0
やれやれ・・・ネタがなくてスレが落ちるから、永久追放されたスレから絵を泥棒してまで保守ですか・・・。
ホントにこのスレの連中は人間のクズばかりですね。
とても21歳以上の人間の発言には見えません。 問題の真偽、正当不当以前の問題です。
理由は、頭に血が上っているか、空気を悪くするための挑発のいずれかと思われます。
後者の可能性がある以上、一切意見も反論もしないのが、賢明であり、本掲示板の
ルールにも沿うものであると思われます。
433 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/24(土) 00:18:47 ID:KuXui8yL0
>>432 泥棒のあなたが言っても全く説得力ありませんが?
434 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/24(土) 01:12:25 ID:S2MhPPVa0
リンク貼っただけで泥棒呼ばわりか。
荒らしは放置していきましょう。
まことに申し訳ありませんが、小学生・・・じゃなくて小生にもわかるように
状況説明していただけませんか?
え? 大人の事情? ならば小学生・・・じゃなくて小生の預かり知らぬところですな。
一応解説しておくが
>>427の初出は虹のアンドロイドスレで
あほが暴れてた時にローテク絵師の人がアンドロイドとサイボーグの
共存を願って描いてくれた物である。
>結局ローテクの中の人もサイボーグ厨共に追い出されたしな。
今現在でもたまにエロ絵を投下してくれてますが何かw
とまぁこのように
>>430自らアンドロイドスレすらもロクに見てない事を自白してるわけで。
基本的にはアンドロイドスレ住人を装った荒し「ぼうえいシステム」なので、
単なる寝言ととして聞き流すがよろし。
ちなみに「ローテクの中の人もサイボーグ厨共に追い出された」ってのはコイツの常套句(当然捏造)。
コレと「サイボーグ厨は屑」しか攻撃手段を持ってないので、大した脅威はないかと。
いけね忘れてた「ローテクの中の人はアンドロイド住人を装ったサイボーグ厨」ってのもあったっけな。
なんにせよ苦しい言い分だな。
そして毎回こんな奴の攻撃材料に使われるローテクの中の人カワイソス。
本人はアンドロイド&サイボーグで仲良くやりたくてあの絵描いただけなのに・・・。
まったくだよな。
なんでアンドロイドとサイボーグが反目しあわなきゃいかんのだ・・・
荒らしているやつはスレがつぶれるのを楽しんでいるのかもしれないな・・・
443 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:04:06 ID:GZdOe/Sc0
(ちと荒れ気味のようですが、構わずにオプションパーツの続き投下しまつ)
−−(18)バレエパレード−−
(宮殿・東宮御所)
真理亜:「お召しにより参上しました。お久しぶりでございます、東宮様。」
皇太子・朝子8世:「建国100年祭を盛り上げるため、やって欲しいことがあります。」
真理亜:「私どもが100年祭でですか、はて?。」
皇太子:「100年祭の目的は、帝国の歩みを振り返り、これまでの政策の妥当性を臣民に浸透させることです。
即ち、宇宙資源の利用によって地上におけるエネルギー消費を回避し、島嶼諸国住民の生存権を守るという建国の理念を訴える場となります。
そのために、この理念を提唱し小惑星資源開発を陣頭指揮された初代陛下の業績を再認識させる展示やイベントを色々企画しているところです。
ただ、人間の持つ興味は様々ですから、わが臣民といえども宇宙開発やその経済効果に関心の薄い者だっています。
有史以来多くの独裁体制が陥ってきた誤りの一つが熱狂的な支持者ばかり重んじ、関心の薄い多数者の取り込みを軽んじたことです。
内政に関して衆議院を通じた民意反映の仕組みがあるとはいえ、最重要事項を勅令に頼る我らも独裁制のリスクを無視できないのです。
無関心層の興味を引くため、純粋に祭りとしての行事もやらなければなりません。
そこで、初代様のご趣味であったバレエに関して巨大なイベントを企画したいのです。」
真理亜:「それに素体を使うおつもりですか?。」
皇太子:「宮殿外周壁上を1周する動く歩道全体を舞台にして白鳥の湖のパレードをやりたいのです。群舞の王道ですからね。
それをやるだけのまとまった人数でバレリーナを確保するとしたら素体を動員するしかないでしょ。
2年次から4年次までかき集めれば320人ですからね。さすがに新入生や改造直前の5年次を出せとは言いませんが。」
真理亜:「早期修了休暇の者を除き素体を養成所の外に出してはならぬとの勅令は、この際宜しいのですね?。」
444 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:04:54 ID:GZdOe/Sc0
皇太子:「100年祭の主催者は陛下ですから問題ありません。」
真理亜:「どの程度踊れれば宜しいのですか?。準備期間は3ヶ月ですしこればかりやらせるわけにも行きませんが。」
皇太子:「群舞だけでもいいです。パ・ド・キャトルに使える者がいたら十分ですが。
オデットやオディールは学習院の貴族素体クラスで上級者を用意させますので。」
真理亜:「ジークフリート王子はどうするのですか?。」
皇太子:「こればかりは素体で賄えないので、シビリアンのプロを手配しています。」
真理亜:「曲はスピーカーを設置して流すのですね。」
皇太子:「それでは芸術祭にならないので、東西南北の門前公園に野外音楽堂を建てて4組のオーケストラを配置します。
2組は地軍の軍楽隊、あとは学習院と民間のクラブで。指揮者には貴族の有志があたるので体内通信でシンクロ可能です。」
真理亜:「なるほど。様子は判りました。本格的な舞台なので多少不安はありますが善処します。」
皇太子:「宜しく。軍事や経済が嫌いな者には、我が国を芸術大国として納得させないといけませんから。」
445 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:06:36 ID:GZdOe/Sc0
(素体養成所 教官室)
真理亜:「...ということで、向こう3ヶ月間は身体訓練の内容を100年祭の準備に切り替える。」
マオ:「半日群舞が保つようならポワントの数値目標は自然達成ですね。単調な訓練より張り合いがあって良いですよ。」
マサ:「私たちは出られないんですか?。私もやりたいなあ。」
真理亜:「スケルトンじゃ無理ね。監督に徹しなさい。」
マサ:「100年祭じゃないですか!。この際換装しちゃっても...。」
真理亜:「しょうがないわね。じゃあ、藻前の班全員が整備を早期修了見込み、そうね4週間の進みになっていたら許可するわ。」
マサ:「4週ですね。よーしやったるぞぉ。」
真理亜:「無理して体罰で死人を出さないようにしなさい。」
446 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:18:45 ID:GZdOe/Sc0
(3年目の第2週初日 整備実習室脇の倉庫)
マサ:「こっそりおまいらを呼んだのは、腕前を見込んで頼みたいことがあるからなのよ。」
ミツ:「えーっ!。」
マツ:「うっそー!。」
ササ:「ホントー!。」
マサ:「実はさ、3ヶ月以内に、この班の整備実習消化率を全員4週の進みにしたいのよ。」
ミツ:「つまり13週分の課題を9週でこなせと、私は自信ありますがぁ。」
マツ:「そりゃ私らなら。でも、遅延しないだけで精一杯の下手な娘もいるしぃ。」
ササ:「何か作戦はあるんすかぁ?。」
マサ:「おまいらの実力なら規定時間だけでやっても4週進みは楽勝だよね。
さらに、夜もやりゃ、あと2週稼げるでしょ。それで、後ろの2週間は遅い娘を助けて欲しいのよ。」
ミツ:「助けてもらうのって禁止じゃ?。」
マサ:「機構操作は素体番号タグで識別するから助けられないけど、外皮の仕上げは記録残らないのよ。」
マツ:「なるほど、遅い娘の多くは不器用で継ぎ目のやり直しで手間取ってるから効果ありますね。」
ササ:「でも、しごく側の立場の教官がそんなこといっていいんですかぁ。」
マサ:「安全に関わる機構のことで手抜きなんかしないわよ。外皮は改造後に練習したって良いじゃない。」
447 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:19:57 ID:GZdOe/Sc0
ミツ:「なるほど。しかしそうまでして急ぐって、何のためです?。」
マツ:「そうそう、なに企んでるんですかぁ?。」
マサ:「こんどの100年祭のバレエパレードにみんな動員されてるでしょ。私も出たいのよ。」
ササ:「それと整備実習の進みとは一体どういう関係なんですか?。」
マサ:「それは、真理亜様がね、整備実習が全員4週進みなら私の外装換装を許してくれるからなの。
実習楽勝ならスケルトンの教官は要らないだろってことで。この体じゃ、舞台に立てないからねえ。」
ミツ:「なるほど。しかし、えらい拘りようですね。」
マツ:「まあ、コギャルの一員としてお気持ちは判りますが成功するかどうかは判りませんよ。」
ササ:「うまくいったときのご褒美がおいしいと、気合いが違ってきますが。」
マサ:「宮殿南門前のロイヤル飯店が期間限定でやる、100年祭記念・満漢全席でどうよ。
おまいらなら早期修了休暇取れるのは間違いないだろ。
改造後はすぐ宇宙に出されちゃうから、こういう楽しみは今のうちだよ。」
ミツ、マツ、ササ:「いただきます!。」
448 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:27:24 ID:GZdOe/Sc0
(3年目の第5週初日 第2身体訓練室)
マオ:「ここまで白鳥の湖のの独特な部分、手を繋いだままの群舞を集中的に練習してきたけど、そろそろ全般の振り付けにかかるよ。
ところで、みんな白鳥の湖の筋は、 知ってるよね。」
2班1番・ハル:「魔女の仕業で白鳥にされたオデットが月の光に照らされたときだけ人間に戻るんでしたっけ。
そのとき王子に見初められて舞踏会に呼ばれるんだけど、魔女の娘オディールが化けてやってきてとかですか。
そういう主役級の話は、百年祭ガイドブック
http://pinksaturn.fc2web.com/hyakunensai.htm のリンクで見たんですけど、肝心な群舞の意味は出てないですね。」
マオ:「そういえば、あんまり群舞の解説って無いわね。私もアイスショーでは主役しかやってないからなぁ。情景ってことで良いのかな。
とにかくいっぺん通しでやってみながら考えようよ。」
2班5番:「今までパ・ド・キャトルしかやってないんですがソロの部分どうしますか?。」
マオ:「オデットは私がと言いたいところだけどこの姿じゃねえ...。
手本見せるからハルやって。本番でやる訳じゃないからいい加減で良いわよ。ジークフリートを私がやるわ。」
ハル:「はあぁ。みどりには見られたく無いなあ。この衣装って股間デザインが思いっ切り恥ずかしいし。」
マオ:「そういえば1年次に入ってきてたのね。じゃ、いずれ週末に練習見せようよ。
それまでにしっかり練習してうまくなって、恥ずかしくなくするのよ。」
ハル:「うまい下手の問題では...」
449 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:28:37 ID:GZdOe/Sc0
(翌々日)
ミキ:「ほらもっとしっかり!。4人繋がってるからって頼りあったら一気に倒れるわ。
本番は動く歩道上なんだから。ここで一寸でもふらつくようじゃ必ずこけるわよ。
足だけに頼らず体全体で引き上げるの。この姿勢が将来ジャイロ付いてからも重要なのよ。」
2班の素体たち:「足痛ぁい。死にそぉ。」「地獄じゃ。」「3ヶ月これが続くのぉ。もうだめぽ。」
ミキ:「うーん。こりゃ、いっぺん本物の動く歩道で試さないと危ないな。乗り降りもあるし。
そうだわ。(体内通信)真理亜様、練習用に動く歩道を買って良いですかぁ?。」
真理亜:「(体内通信)東宮様から道具代沢山もらってるからいいわよ。設置場所は考えた?。」
ミキ:「(体内通信)今思いついたので。うーん、ここと整備実習室をつなぐ渡り廊下なら十分長そうですが。」
真理亜:「(体内通信)それでいいわ。将来の重力区画移乗に備えた訓練にもなるし。すぐ手配なさい。
あと、予算は十分あるから、今後は衣装も本番と同じのでやるのよ。チュチュの幅に慣れさせないとね。」
ミキ:「(体内通信)了解。よし業者にメール...。」
450 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:30:43 ID:GZdOe/Sc0
(2週間後、廊下の動く歩道)
ミキ:「さあ、今日からはパ・ド・キャトルのままこれに乗って端まで踊り続けそのまま降りる練習よ。
乗り降りの時は、上手く歩幅を調整するのよ。手本見せるからよく見てなさい。さささ..っと、ね。」
2班の素体たち:「将棋倒しになりそうな希ガス。」「手が塞がってて手すり掴めないし。」「転んだら痛そう。」
ミキ:「じゃ、1番から4人ずついくのよ。」
2班1から4番:「せーの、立って、ヨコヨコ..とと、わわわ、乗れたか...。」
ミキ:「ほらほら、乗り降りに気を取られてリズム乱すな!。体で立って、足はリズムのまま!。」
(週末、廊下の動く歩道)
ミキ:「だいぶ慣れたね。今日は自主トレだから楽しくやりましょ。観客も呼んであるし。」
ハル:「観客って...、やっぱり、新入りのことですか。」
マオ:「観客連れてきたよー。」
みどり:「あ−、お姉ちゃんだ。チュチュかわいい!。私もやりたかったなあ。」
ハル:「あのなあ。これってめちゃくちゃ辛いんだよ。乗り降り難しいし。」
ミキ:「ぶつぶつ言ってないで始めっ!。はい、タンタンタンタンタッタララッタ...」
みどり:「おお、お見事!。お姉ちゃん頑張ってー!。」
マオ:「どお?。なかなか大したものでしょ。貴女達もあれくらい出来るようになれないと素体失格よ。」
1年次素体たち:「うーん、見るのは良いけど、難しそう。」「でもチュチュかわいいからやってみたいな。」
451 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:38:05 ID:GZdOe/Sc0
(あっという間に、100年祭・巨大バレエパレード本番@宮殿外周壁上回廊の動く歩道、夕暮れ)
素体たち:「手すりは内側だけかぁ、こけたら落ちるかも。」「4時間も保つかなぁ。」「衣装の股間デザインが恥ずかしいよぉ。」
マサ:「間に合った、間に合った。うれしー。」
ミツ:「満漢全席よろぴく。しかし、教官は足痛くならないから良いですね。」
マツ:「あれっ?。よく見たら教官だけ素足じゃないですか。」
マサ:「太股から燃料電池の換気してるからタイツ履けないのよ。そのために特注で思い切り色白の外皮にしてるの。」
ササ:「そういえば、そうでしたね。するとレオタードの股間デザインもそのため?。」
マサ:「そういうこと。群舞なんで一人だけって訳にいかないから、マオに頼んで全員分をこれに合わせたのよ。」
ハル:「えええーーーっ!。マサさん一人のためにみんながこんな恥ずかしい衣装になっちゃったのぉ。ひどぉい。」
ミツ:「良いじゃないの。私はこのデザイン好きだわ。」
マツ、ササ:「うんうん。いいよ、これ。」
マサ:「おまいらも改造後はパンティやレオタードってこういう股間デザインのしか着れなくなるんだから、慣れときなさい。」
ハル:「とほほ。ああ、お母さんたちまで見に来てる。ますます恥ずかしいよぉ。」
マサ:「前奏始まったね。月も昇ってきたし、さあやるぞー!。」
452 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:40:33 ID:GZdOe/Sc0
(外周壁の前)
民衆:「100年祭ガイドブック
http://pinksaturn.fc2web.com/hyakunensai.htm によると大胆な衣装がみれるとなってまつ。早く見たいな。」
「お、ぞろぞろでてきた。これは!。あの衣装、萌えー。」「ひゅーひゅー。」
「ちょっと舞台暗いなぁ。ちゅちゅの影でよく見えないよ。」「スポットライト点いたな。お、お、おおお。」
「背中舐めたい。」「バカ、あの主役の娘は皇族様だぞ。不敬罪で捕まるぜ。」
冬子:「あ、見て見て、あそこハルだよ。」
夏夫:「かわいい。やっぱり子供は娘に限るな。」
リエ:「どうよ。見事なものでしょ。私らの教育が良いからね。」
キョウ:「リエが出てないと萌えないなあ。」
リエ:「この姿で白鳥はちょっと無理ね。今夜は教え子の応援よろしくね。」
(南門前 貴賓席)
皇太子:「よくやってくれました。この調子なら民衆の受けもいいようね。」
真理亜:「御意。」
皇帝:「動く歩道上ですからね。ジャイロ無しでこれだけ出来れば将来心強いわね。」
真理亜:「ご予算を十分頂きましたので、実物を設置して練習させました。」
外務大臣:「これならボリショイに勝てますわ。発表できないのが惜しいですね。」
皇太子:「機密に触れない範囲にビデオを編集して、友好国の市場に出してみましょうか。」
453 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:42:20 ID:GZdOe/Sc0
(翌日、ロイヤル飯店)
マサ:「おまいら、良くやってくれたね。今日はとことん喰ってね。生身で豪勢な飯はこれが最後かもよ。」
ミツ:「満漢全席かぁ。満漢人民共和国の奴らはいつもこんな良いもの喰ってるのか。」
マサ:「まさか。権力者の宴会だけでしょ。人口過剰で民衆は飢えてるっていう噂よ。」
マツ:「へええ。宇宙の覇権争いなんてやってるくせにしょぼいですね。」
マサ:「今のところ宇宙で利益出せてるのはうちらだけよ。」
ササ:「月の開発って儲からないのかな。」
マサ:「水が少ないでしょ。核融合炉の燃料だけ採っても推進剤が地上から持ち出しじゃ儲かるわけ無いわ。
そもそも実用的な融合炉だって持っているのか怪しいものよ。北米連への対抗心から無理してるだけだったりして。」
ミツ:「なんで小惑星帯に来ないのかな。」
マサ:「乗組員がサイボーグじゃないからよ。よほど巨大な宇宙船で大量の酸素と食料を運ばないと乗員が保たないわ。
艦載原子炉だって乗員が生身だとうちみたいに放射能じゃじゃ漏れってわけにいかないから重くなるし。
たぶん1万d級の艦じゃないとダメね。いくら大国でもそこまでやるのは難しいわよ。」
マツ:「満漢なら中央集権だしサイボーグぐらい出来そうですが。」
マサ:「サイボーグは一人当たりのコストが大きいから人海戦術の文化に合わないのかな。
でも、あそこは宗教の束縛が無いからいずれやるかもね。そうなったら厄介なライバルになるわよ。素体が無尽蔵なんだから。」
ササ:「あ、前菜5品目来ましたね。」
454 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:50:06 ID:GZdOe/Sc0
(3年目の終わり 素体養成所 教官室)
真理亜:「とうとう落第出さずに任期が終わったわね。次の任期入り前には2階級特進の発令があるわよ。」
マオ:「特務士官かあ。実感無いですね。終わってみれば楽な素体に当たってラッキーって感じで。」
ミキ:「私らの得意分野が訓練で重視されてたから楽に感じたのかも知れませんね。」
真理亜:「宙軍は人少ないせいで元から上等兵とか準尉が飛ばされてるしね。これから増えてくると昇進も渋くなる鴨よ。」
マサ:「甘くもなかったですよ。スケルトンで、はらわた晒してなきゃいけなかったし。」
真理亜:「藻前は100年祭に便乗してちゃっかり半年以上早く換装したでしょ!。」
マサ:「そりゃまあ努力の成果ってことで。ところで真理亜様はこれで将官ですか。」
真理亜:「佐官級の人事はそこまで甘くないわ。これくらいじゃ特別な功績とはいえないのよ。
それに、艦長か同等の部隊司令を経験することも条件だしね。ところで、マサは前の特進の猶予分とか宿題済んだのかな。」
マサ:「猶予分も真理亜様の宿題もばっちり。おかげさまで宇宙にいるよりは時間とれましたね。」
455 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 18:51:32 ID:GZdOe/Sc0
真理亜:「そう。じゃ、この休養期間は副業として改造手術の助手出来るわね。」
マサ:「あれ、やっぱりやらなきゃダメですか。」
真理亜:「一代貴族目指すのやめる?。」
マサ:「やります。」
リエ:「シビリアンの方が気楽で良いのに。マサも拘るねえ。」
真理亜:「じゃ、マサ以外は換装室逝って良いわよ。あ、リエはパスかな。」
リエ:「そりゃ、私はこれが基本スタイルですから。」
真理亜:「マサは明日から早速私の手伝いね。場所はここの地続きよ。今から教えるからついて来なさい。」
(大イベントが割り込みましたが無事に素体訓練第一教程終了です。
次回予告(19)ドクター・マサ)
456 :
pinksaturn:2006/06/24(土) 21:28:11 ID:GZdOe/Sc0
荒れ気味でしたが、かいくぐって連投しちゃいました。
>>417 無名様
サイボーグの導入によって軍隊のありかたも変わるという前提で考えております。
所詮、軍隊なんて変わらないというものの見かたもありますけど、
歴史的には、弓矢の時代=プロの武士中心、鉄砲の伝来=雑兵の活躍など、
新技術でがらっと変わった例もあるのでこういう想定にしてみました。
>>424 manplus様
遠慮なく特定テーマを執拗に追求するのも良いと思いますよ。
457 :
3の444:2006/06/24(土) 22:40:21 ID:yW4iVfXM0
タマちゃんに連れてこられたのは、 義体科の一角にあるイソジマ電工ケアサポータールーム。
タマちゃんは私専属のケアサポーターってわけじゃなくて、 私の他にも多くの担当患者を抱えている。 で
も、 身体がたくさんあるわけじゃなし、 一度に何人もの義体患者と会えるわけじゃない。 だから、 常に何人
かいる義体科の入院患者とか、 月ごとに定期検査に来る患者の人たちの義体状態を同時に把握するに
は、 直接会うよりケアサポータールームの義体モニター画面を見ていたほうが都合がいいことも多いんだっ
て。 そんなわけで、 タマちゃんは病院に来ているときには、 このケアサポータールームにいることのほうが
多い。
私たち義体患者にかかってくる電話を取り次ぐのも彼女の仕事の一つ。 特に義体手術をしたばかりの
患者は身体感覚が生身のころとすっかり変わっちゃって、 精神的不安定な場合も多いから、 患者宛に掛か
ってきた電話を患者につなぐかつながないかは、 患者の状態をよーく把握しているケアサポーターの判断に
委ねられるんだそうだ。
そういう意味じゃ、 私は、 もう友達からの電話をとっても精神的には問題ないってタマちゃんは判断して
いるのかもしれないけど・・・。
「八木橋さん。 私もそばについていたほうがいい? それとも、 一人で話せる?」
タマちゃんは、 この期に及んでケアサポータールームの入り口でもじもじしている私を勇気づけるように、
そっと私の背中を押して部屋に導き入れながら、 そんなことを言った。
「うー、 大丈夫です。 一人で話せます」
「電話の取り方は知ってるね?」
私は黙ってうなずいた。 おじいちゃんからの電話なら何度かとったことがある。
「じゃあ私は外してるから、 久しぶりのお友達との会話、 楽しんでね」
タマちゃんは、 私に向かって軽く手を振った後、 静かにドアを閉めた。
458 :
3の444:2006/06/24(土) 22:41:03 ID:yW4iVfXM0
まるでテレビ局の中継室みたいにデスクの上に置かれたコンピューターのモニター画面がいくつも並んだ
小部屋。 それぞれのモニターには、 ご丁寧に患者の顔写真入りの札が下がってるから、 あんまり意識しな
くてもどのモニター画面が私の義体を指してるか嫌でも分かっちゃう。
ケアサポータールームに入ってすぐのデスクの上に置いてある「八木橋裕子」の義体専用モニターの中
で、 ぐるぐる目まぐるしく数値が動いてる。 それから、 いろんな表やグラフが現れては消えている。
私はため息交じりに頭のてっぺんに取り付けられた髪の毛に似せて作られた針金みたいな感触のアン
テナをいじくった。
モニター画面の映し出される数字やグラフの意味はよく分からないけど、 このアンテナから発信される情
報が、 この画面に反映されてるってことくらいは知ってる。 私が、 見たり聞いたりしたことや、 嬉しいとか悲
しいっていう感情さえも、 ただの数値になって、 このモニターに伝わってるんだよね。
で、 そのときのデータをもとにお医者さんと相談しながら、 脳内物質の分泌量が最適になるよう調整した
りするっていう。 だから、 私に唯一残された人間としての心だって、 結局は機械にコントロールされている
だけなのかもしれない。 自分で決めたと思っていることも、 結局はただ機械にそう決めるよう誘導されてい
るだけなのかもしれない。 そう、 今まるちゃんからの電話を取るように決心した、 そのことさえも・・・。
(駄目駄目。 余計なことを考えちゃ、 駄目だ)
私はあわてて義体のモニター画面から目をそらして、 部屋の奥にある一際大きなタマちゃんのデスクに
向かった。 タマちゃんの性格を現すように、 きちっと患者毎に整理されたファイルが立てかけられているそ
の机の上で、 電話機が保留中を示す赤いランプがピカピカ点滅してる。
(私は八木橋裕子だ。 私の心は何も変わっていない。 変わっていない)
私は何度も自分にそう言い聞かせながら受話器を取り上げて、 通話ボタンを押した。
459 :
3の444:2006/06/24(土) 22:41:49 ID:yW4iVfXM0
「もしもし」
「おー! ヤギー、 お久しぶりぃ!」
電話の受話器から聞こえたのは、 受話器からセリフが飛び出てくるんじゃないかと思うくらい元気いっぱ
いのまりちゃんの声。
久しぶりに聞く友達の声が引き金になって、 私の脳裏に学校での様々な想い出が鮮やかに蘇った。
私のいなかったこの三ヶ月、 まりちゃんは、 武田は、 クラスの友達は、 先生は、 みんなどんなふうに過
ごしてきたんだろう。 どんな出来事があったんだろう。 聞きたいことがありすぎて、 うまく言葉が出てこない。
「ねえ、 ちょっと、 あんた、 ヤギーなんでしょ。 ちゃんと返事くらいしてよ」
電話越しに聞こえる、 彼女のちょっと苛立ったような口ぶり。
そういえば、 あんたクラス委員だったっよね。 クラス会でも、 そんなふうに自分のペースでどんどん話を
進めたがって、 みんなの顰蹙をかってたっけか。
久々に聞く友達の口調が昔のままなのは、 何もかも変わってしまった私にとっては何とも心強いことだっ
た。 まりちゃんの声を聞いていたら、 なんだか私も事故で身体を失う前の、 二人で夜遅くまで練習していた
頃のヤギーに戻ったような気がしてくるよ。
「うん。 まりちゃん。 私だよ。 久しぶりだね。 ふふふっ」
そう。 私だよ。 ごく普通の、 どこにでもいる16歳の女子高校生のヤギーだよ。
まりちゃんの声を聞いた私は、 久しぶりに昔のままの笑顔を取り戻せたような気がした。
「もう、 身体の具合はいいの? 怪我は治ったの?」
交わす挨拶もそこそこに、 せっかちなまりちゃんは心配そうに声を潜めながらも、 早速本題に入ってく
る。
「あ・・・うん」
まりちゃんの問いかけに、 私の右手が受話器を握り締めたまま強張った。 自分に戻ったみたい、 なん
ていう生易しい幻想は一瞬で消え失せた。
私が義体化手術を受けたってことは知らないにしても、 事故に遭って入院しているってことくらい、 まりち
ゃんの耳にだって届いているはずなんだ。 だから、 こんな質問をされることだって予想済み。 でも、 やっぱ
り身体のことを聞かれるとぎくりとしてしまう。
460 :
3の444:2006/06/24(土) 22:43:42 ID:QTcjoKLQ0
「もう、 すっかり治ったよ。 もう少しで退院できるんじゃないかなあ」
私は、 ふぅっと軽く一呼吸して自分の気持ちを落ち着かせたあと、 内心の動揺を悟られないよう、つとめ
て明るい声色を使って言った。
すっかり治ったなんて大嘘。 治るどころか、 今の私は脳みそ以外何もかも失った義体化一級の障害
者じゃないか。 でも、 そんなこと、 たとえ親友のまりちゃんにだって言えるわけがない。
「事故でひどい大怪我をしたって聞かされていたから 、私、 心配してたんだよ。 無事でいてくれてよかっ
た・・・」
電話の向こう側で、 まりちゃんがグスンと鼻をすするのが聞こえた。 気の強いまりちゃんが泣くなんて滅
多にないことだ。 まりちゃんは本気で私のこと心配してくれていた。 そして、 私が無事だって思い込んでくれ
ている。 そんなまりちゃんに、 私はこれからずーっと嘘をつき続けなければならないんだと思うと良心がちく
りと痛んだ。
「ところで、 どうして、 私がここにいるってことが分かったのさ?」
このまま怪我のことを深く突っ込まれて、 嘘をつき続ける羽目に陥るのが嫌だった私は、 話題を変える
ことにした。 私がこの病院に入院してるってことは、 少なくとも私の友達は誰も知らないはずなんだ。 だか
ら、 まるちゃんが一体誰から私の入院先を聞いたのかは、 私にとってはとても気になることだった。
「青ガエルから聞いたの? それともペコちゃんから?」
私は恐る恐る担任や陸上部の顧問の先生のあだ名を挙げてみた。 学校の先生だったら、 私がここに
いるのを知っていてもおかしくない。 おかしくないけど、 もしそうだとしたら、 少なくとも先生達は私の身体の
ことを知っているってことになる。
「ううん。 違うよ。 みんなでヤギーのお見舞いに行こうって話してたのに、 どの先生に聞いてもヤギーの入
院先、 知らなかったんだ。 そんなんだから、 ヤギーが無事なのかどうか、 余計心配しちゃうじゃん」
時折鼻をすすりながら訥々と語るまりちゃんの話を私は安堵のため息混じりに聞いていた。
どうやら、 この様子だと先生にも私の身体のこと、 ばれてないみたいだ。 でも、 じゃあ、 いったい誰か
ら私の入院先を聞いたんだろう?
461 :
3の444:2006/06/24(土) 22:47:30 ID:QTcjoKLQ0
「だからね」
私の疑問に答えるようにまりちゃんは続けた。
「心配でたまらないから、 私、 ヤギーのおじいさんの電話番号調べて直接電話して、 ヤギーの連絡先、 聞
いちゃった」
――おじいさんから聞いちゃった――おじいさんから聞いちゃった――おじいさんから聞いちゃった
まりちゃんの声が、頭の中で何度も繰り返される。
確かに私、 友達に会いたい、 話がしたい、 一人ぼっちで寂しいってお見舞いに来てくれたおじいちゃん
に愚痴をこぼしたこともあるよ。 でも、 だからって、 私の許可もなく、 まりちゃんに私の連絡先を教えるなん
て、 おじいちゃん、 ひどいじゃないかっ!
「ヤギー、 どうかしたの?」
私の心の動揺を敏感に察知したのか、まりちゃんが、 心配そうに私に聞いた。
「うー、 なんでもない、 です」
うろたえた私は、 そう答えるのがやっと。
「ヤギー、 府南病院ってとこに入院してるんでしょ」
「う・・・うん」
今更嘘をついたってしょうがない。 観念したようにうなずく私。
「じゃ、 さ、 私、 クラスを代表して早速今からお見舞いに行くから」
「ちょ、 ちょっと今から来って、 何なのさ!」
「あと一時間くらいでそっちにつくから。 積もる話はそれからってことで、 バイバイ」
「ちょ・・・ま・・・」
ガチャン。 ツー、ツー、ツー。
私に返事を与える隙を与えずに切れる電話。
私は受話器を切るのも忘れて頭を抱えて机に突っ伏した。
ほら、 こう、 なったじゃないか。 おじいちゃんのバカっ、 バカっ! なんで電話番号なんて教えるのさ。
こっちの都合もおかまいなしに、 いきなりお見舞いに来るだなんてまるちゃんも相変わらずせっかちだ。
今、 私が入院してるのは、 義体科の病室なんだ。 こんなところに来られたら、 どんな間抜けだって、 私の
身に何が起こったか分かっちゃうよ。 よりによって、 一番知られたくないまりちゃんに、 私の身体のこと、
知られちゃうじゃないかっ!
どうしよう、 どうしよう、 どうしよう。
462 :
3の444:2006/06/24(土) 22:50:19 ID:QTcjoKLQ0
「八木橋さん?」
後ろから急に声をかけられて、 びっくりした私は背中をひくつかせる。
ゆっくり後ろを振り向いた私の目の前に、 いたずらっぽい笑みを浮かべるタマちゃんの姿があった。
「ごめんね。 ちょっと心配だったから、 ついつい、 途中から八木橋さんの話聞いちゃいましたー」
タマちゃんはバツ悪そうに指で頬っぺたをかいた。
「ど、 どうしよう、 タマちゃん。 今から友達がこっちに来るんだって。 私、 どうしたらいいんだよう」
私はすがるような目で、 タマちゃんを見つめた。 内緒で私の話を聞いていたタマちゃんを咎める気なん
かない。 このピンチを切り抜けるこは、 頭脳明晰なタマちゃんのアイディアが必要なんだ。
でも、 タマちゃん、 私の気も知らず
「八木橋さんに、 おじいさんから贈り物が届いてまーす。 題して、 裕子に勇気を与える魔法のプレゼント、
だって」
のんきな調子でそんなことを言って、 手に持っていたお土産用のお菓子箱くらいの大きさの小包を机の
上に置いた。
「タマちゃん、 昨日ポリー・ハッターでのビデオでも見すぎたの? そんな冗談、 ちっとも面白くないよう」
私は、 小包をチラりと見ただけで、 不満げに口を尖らせる。
タマちゃんもタマちゃんなら、 おじいちゃんもおじいちゃんだよ。 私の居場所をばらしといて、 物でつって
許してもらおうたって、 そうはいかないんだからね。
「あら、 私、 冗談なんて言ってないよ。ほら」
タマちゃんが、 指で指し示したのは、 宛名書きのラベル。 そこには、 病院の住所と私の名前のほか
に、 『裕子に勇気を与える魔法のプレゼント』っていう文字が、 ちゃーんと赤いボールペンで書いてあった。
「あなたのおじいさんも、 案外茶目っ気があるのね」
タマちゃん、 宛名書きを見ながら、 可笑しそうにくすくす笑う。
(それにしても・・・)
私は腕組みをしながら考え込んだ。
「勇気を与える魔法のプレゼント」っていったいなんだろう。
463 :
3の444:2006/06/24(土) 23:00:43 ID:QTcjoKLQ0
今日はここまでです。
いつの間にか、スレ容量がやばい状態に。今回は消化が早かったですね。
どなたか、次スレ立てお願いします。
そのときは、保管庫のアドレスも忘れないでくださいね。
manplusさん。
ホームページ出来上がりましたら、ぜひリンクさせてください。
よろしくお願いします。
464 :
名無しさん@ピンキー:2006/06/24(土) 23:51:03 ID:GZdOe/Sc0
465 :
pinksaturn:2006/06/28(水) 00:49:29 ID:3zDyiZMl0
お詫びと訂正
スレ更新を機会に9人目スレの自作品を読み返してみたところ誤りを見つけました。
保守を兼ねて正誤表を投下します。
まだまだ見落としはあるでしょうけど、とりあえず気付いた範囲で前スレの恥は前スレでかき捨てておきます。
正誤表
>>129 2行目に入るべきタイトルが欠落。
誤
(オプションパーツの続きです。)
(宙軍地上基地内、搭乗員待機室)
マサ:「ああ、やれやれ。また3年間飯抜きで仕事かあ。」
...
正
(オプションパーツの続きです。)
−−(12)出動準備−−
(宙軍地上基地内、搭乗員待機室)
マサ:「ああ、やれやれ。また3年間飯抜きで仕事かあ。」
...
>>368 G(加速度の単位=9.78 m/s/s)、g(重力加速度=星毎の定数、地球の赤道上では1G)の用法誤り。
誤
また、1gもの重力があるとジャイロスタビライザーの助けも完全にはあてに出来ないのです。
正
また、1Gもの重力があるとジャイロスタビライザーの助けも完全にはあてに出来ないのです。
466 :
pinksaturn:2006/06/28(水) 00:51:49 ID:3zDyiZMl0
正誤表続き
>>387 368と同様。
誤
そのために、耐g能力の良いサイボーグが欲しいのよ。
...
打ち上げと違って何日も連続するgでじわじわと来るダメージには特にね。
...
貴女は脊髄がないから耐gは有利なの。
正
そのために、耐G能力の良いサイボーグが欲しいのよ。
...
打ち上げと違って何日も連続するGでじわじわと来るダメージには特にね。
...
貴女は脊髄がないから耐Gは有利なの。
>>395 368と同様。
誤
それに、化学エンジン併用なんでgのきつさとか、燃料残りの計算が複雑だとか色々あって。
正
それに、化学エンジン併用なんでGのきつさとか、燃料残りの計算が複雑だとか色々あって。
>>452 変換漏れ
誤
「ちょっと舞台暗いなぁ。ちゅちゅの影でよく見えないよ。」
正
「ちょっと舞台暗いなぁ。チュチュの影でよく見えないよ。」
とりあえず、以上正誤表でした。
ほっしゅ
468 :
3の444: