339 :
番外編・萩原先生:
「まだ18歳だし、歯を抜かないといけないのは、つらいだろうけど・・・」
紺野が静かに言う。
「抜かなきゃいけなくなったのは、しょうがないんだ。きっちり治すから。佳奈子ちゃんも頑張ろう。」
佳奈子は、こくり、と頷いた。
「何か、聞きたいことはない?」
「抜いた後・・歯抜けにはならないですよね?」
「ああ、そりゃ、気になるよね。」紺野は笑った。
「大丈夫、仮の歯を作ってはめるから。案外、よくできてるよ。ぱっと見わからないくらい。」
「両端の歯って、右の1番と、左の2番ですか。右の1番は、なんともないんですけど・・」
紺野の顔から、微笑が消えた。
「うん、それはしょうがないんだ。なんともない歯を削るのは悲しいだろうけど、
ブリッジの端の歯には、真ん中の歯の分も力がかかるから、負担がかかる。
右の1番はしっかりしてるから、その点、大丈夫。」
一瞬、佳奈子の顔に浮かんだ不安をさえぎるように、紺野が続ける。
340 :
番外編・萩原先生:04/09/06 21:56 ID:7moe7J+I
「問題は、左の2番なんだけどね。
差し歯になるはずだったから、削ってかぶせるのに抵抗が少ないだろうけど、
もともと、2番もかなり虫歯が進行してるからね。自分だけならいいけれど、
たぶん、隣の歯を支えるのは、負担が大きいと思う。」
「だけど、根はあるんですよね」
佳奈子は、自分の頭に浮かんだ考えが、間違っていますように、と祈った。
「うん、ある。でも、隣の歯を支えるほどの力はないんだよ。」
「・・・」
「2番はブリッジの端にはなれない。だから、ブリッジの支えは、右の1番と、左の3番にしようと思ってる。」
「それじゃあ、2番は・・・」
どくん、どくん、どくん、どくん、
佳奈子の心臓は、激しく打っていた。
341 :
番外編・萩原先生:04/09/06 21:57 ID:7moe7J+I
「・・・残念だけど、抜くことになるね。」
鼓動は強く感じられるのに、頭からは血の気が引いていく感じだった。
歯を2本も抜くなんて。
さらに、そのために、虫歯じゃない歯を2本も削らないといけない。
どうしてすぐに、歯医者に行かなかったんだろう。
「大丈夫?」
紺野がハンカチを差し出し、顔を覗き込む。
佳奈子の頬には、涙が流れていた。
「落ち着いたら、歯を抜くよ。・・もちろん、次回でもいいけれど。」
呆然としたまま、佳奈子が頷く。
「その後は、仮の歯を入れて、しばらく抜いたところを落ち着かせる。で、口の中の型を取って、
両端の歯を削って、そこの型を取って、ブリッジを作って、終わり。ただ、前歯だから、
最終的にはめる前に、一度、色あわせとかしようね。大丈夫。ちゃんと、綺麗になるから。」
紺野が、ゆっくりと説明する。
佳奈子は、黙って頷いていたが、目をつぶって深呼吸すると、ぱちっと目を開け、
「よろしくお願いします。」
と頭を下げた。
342 :
番外編・萩原先生:04/09/06 22:02 ID:7moe7J+I
その後、佳奈子の左上1番2番は抜歯され、右上1番から左上3番の、4連ブリッジとなった。
紺野が言ったように、前からの見た目は、他の歯とほとんど見分けがつかないくらいだったが、
歯の裏は・・・
佳奈子は、大学時代、舌が裏側の金属に当たるたびに、あのときの後悔を、思い出していた。
最近、どうも、右下の6番が、痛いような気がする・・・
「肩こりかな。そろそろ、30だし」
佳奈子は、なぜか、あのときの後悔を忘れ始めていた・・・
以上です。長々とすみませんでした。
ホントは、萩原先生虫歯が痛くて美人助手にいじめられる、っていうストーリーを考えてたんだが、
前振りのつもりの前歯編で、つい、力が入って・・・
差し歯好きなんだよ〜