虫歯&銀歯の女の子   

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307名無しさん@ピンキー
歯医者につくと、もう看板の明かりは消えていた。
「・・もう閉じちゃったのかな」
俺が言うと、香緒里は心配そうに手をぎゅっと握る。
とりあえずドアを押してみると、鍵はかかってなく、すっと開いた。
「あの・・」
俺と香緒里がおそるおそる中にはいると、
「待ってたわ、大野さん」
荻原先生の声がした。
「あ、あのっ」
「ごめんなさいっ」
俺が挨拶をしようとしたら、香緒里が深々と頭を下げた。
すると先生は笑って「いいのよ、別に」と言って、薬の袋を差し出した。
会計を済ませようとすると、もう助手もみんな帰ってしまったようで、先生が会計を打った。
・・香緒里のために待っていてくれたようだ。申し訳ない。

「ちょっと話があるんだけど、いい?」
会計を済ませて、もう一度謝ってから帰ろうとすると、先生がそう言った。
「あ、はい・・」
香緒里が先生の方に歩いていったので、俺も追いかける。
「じゃ、ここに座ってよ」先生が長いすに腰掛けて、そういう。
先生、香緒里、俺、と、待合室の長いすに座った。
308名無しさん@ピンキー:04/09/06 18:47 ID:/hARO1Ts
「・・私、分かるんだよね。香緒里ちゃんの気持ち」
先生は遠い目をして語り出した。
「私も、昔は香緒里ちゃんみたいなダメ患者で・・痛くなったら痛み止め、効かなくなったら歯医者。
で、痛みが止まったら通うのやめて、また痛くなるの」
香緒里は、驚いたような目で先生を見た。俺も、先生にそんな経験があるなんて信じられなかった。
「歯が丈夫な人はさ、放っておいてもつらくなるだけだから我慢して行けって言うんだけどね、分かってても行きたくなくて・・
だって、治療痛いもんね」
そういうと先生はふっと笑った。
「でもさー・・高校2年の時だったかな・・治療した先生がさ。私にこんこんと説教してくれてねー・・今香緒里ちゃんの担当してる先生だけどね」
「えっ・・」
俺は思わず声を上げた。あの先生が・・
「意外でしょ?・・ま、そのとき必死で通って、で、歯医者になろうって決めたんだけどね」
香緒里が先生を見ると、先生は
「そんなわけで、今あなたにこんな話をしてるのよ。つらいのは分かる・・でも、ここで何とかしようよ。私も精一杯やるし」
そういって、香緒里の肩をぽんぽんと叩いた。
「・・分かりました」
香緒里は、先生の方を向いてそう言った。
「それじゃ、次の予約月曜に入れておくから」
だが、先生がそういうと、香緒里は不安そうに目を泳がせた・・。