虫歯&銀歯の女の子   

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254名無しさん@ピンキー
俺はなんだか興奮して眠れなかった。
俺の前ではいつもしっかり者の香緒里が、
小さな歯に出来た虫歯一つで、あんなに弱くなってしまうなんて…。
動悸は一晩中おさまらなかった。

8時頃、香緒里が暗い顔をして起きてきた。
「やっぱり痛いの…ずいぶんましにはなったんだけど…」
「薬は?」
「今飲んだとこ。駄目ぇ、痛いよぅ…」
まだ次の予約までは日があったが、もう、少しも待てない。
痛い痛いと泣く香緒里をなぐさめつつ、昨日の歯医者に来た。
今日は香緒里も恐怖より痛みを取って欲しい気持ちが強いようで、
中の様子をうかがったりしている。
中には誰もいないようだ。
診療開始までまだ1時間近くある。どうしよう、他を当たるか…
255名無しさん@ピンキー:04/09/05 21:52 ID:lIahtgwm
「どうしました?」
突然、声をかけられた。振り向くと、香緒里の担当の先生だ。
「おや…大野さん」
若くて虫歯だらけの香緒里は先生にも印象的だったのだろうか。
先生は名前を覚えていた。
「どこか痛むのかい?」
「あい、おくらあ、いらくて」
香緒里は頬をアイスノンで押さえていて口が回っていない。
首をかしげる先生に、俺は叫んだ。
「昨日、歯磨きで虫歯が欠けちゃって、夜中からすごく痛がってるんです。
 薬もあまり効かないみたいで…」
「…入りなさい。とりあえず麻酔を打ってあげよう」
よかった…膝から力が抜けそうになる。


少しといいつつ長くなっちゃったよ〜
リアルタイムでコメント下さった方、ありがとう。
256名無しさん@ピンキー:04/09/05 22:20 ID:5BF5cM/n
続けちゃっていいですかね

鍵を開けて、中に入れてくれると、そのまま診察室に通された。
「着替えてくるから、ちょっと待ってて。」
奥の部屋に消えた歯医者は、白衣を着て出てきた。
「で、どうしたって?」
「昨日、俺が歯磨きして、一番奥の歯が、欠けちゃって大きい穴があいちゃったんです。」
必死に訴えた。
「ほう、じゃ、見せてごらん。」
椅子を倒し、ライトを当てる。
冷たく光るミラーが香緒里の口に入れられる。
「あー、こりゃいかんな」
すぅっと血の気が引いた。
「俺が!乱暴にやりすぎちゃって!」
叫ぶ俺を軽く制して、歯医者は顔を上げて言った。
「いや、君は悪くないよ。」
257名無しさん@ピンキー:04/09/05 22:28 ID:5BF5cM/n
「でも・・・」
「どうせ、あの部分は削るわけだし、欠けても特に問題はないんだよ。」
「そうなんですか。」
「この歯が痛み出すのは時間の問題だったんだ。もしかすると痛いのはこっちかもしれない、と
昨日も言っただろう。」
「そういえば・・」
「昨日、隣の歯を治療したので、神経が刺激されて、急に痛みが強くなったかもしれないね。
だから、昨日のうちに、まとめてやっておけばよかったんだが・・・」
香緒里が、しゅん、となった。
258名無しさん@ピンキー:04/09/05 22:43 ID:5BF5cM/n
「じゃあ、いかん、っていうのは・・」
「ああ、この歯は隣と違って、まだ神経が一応、生きてるんだ。だから、痛みを止めるのに、
麻酔を打つわけ。」
「はい。」
「ただ、今見たところ、神経がかなり充血してしまっているんだ。
こういうときは、麻酔がほとんど効かないんだよ。」
「えっ・・・」
香緒里も、しゃくり上げながら、青ざめている。
「じゃあ・・神経を取っちゃえばいいんじゃないですか?」
俺は必死に抵抗を試みた。
「たしかに、神経は取らないといけないけど、麻酔せずに神経に触るなんて、拷問だよ。」
そうか・・・香緒里を見ると、ほとんど真っ白になってしまっている。
259名無しさん@ピンキー:04/09/05 22:56 ID:5BF5cM/n
「他には?神経を殺すとか」
「君、鋭いね。神経を殺す薬を入れて、穴に蓋をして殺す、っていう方法もあるんだ。
ただね、それは、きちんと虫歯の部分を取って、きれいにしないとできないよ。
このまま蓋をしたら、歯や神経が腐って、ガスがたまるから、余計に痛むんだ」
「どうすれば・・・」
「とりあえず、できるだけのことはやってみよう。まず、麻酔を打って。強めの痛み止めと、
炎症をおさえる薬をあげるから、それを飲んで、おとなしくしてなさい」
「どのくらい、でおさまるんしょうか」
「2、3日といったところかな」
2、3日。数時間でも耐えがたかっただろうに、数日とは。
260名無しさん@ピンキー:04/09/05 23:10 ID:5BF5cM/n
「それで治療してもらえるんですか」
「できるようになるよ。ただ、私は明日から1週間ほど出張なんだ。
でも、もう一人の先生に頼んでおくから大丈夫。美人の女医さんだ。
ちょっときついところもあるけど、腕は確かだよ。」
そう言い残して、歯医者は席を立ち、注射器を手に戻ってきた。
「はい、大野さん、あーん」
「あぁ」
「ちくっとするよー、まあ、歯の痛みに比べたらどうってことない。我慢してねー」
注射器を口の中に入れる。
「あ」
香緒里の脚が、ぴん、と伸びる。
注射器を持つ親指が、ゆっくりと押し込まれていった。