虫歯&銀歯の女の子   

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235名無しさん@ピンキー
ちょうど215の後かな

治療台の横に、レントゲンをセットする。
大きなため息をつきながら、歯医者が椅子に座った。香緒里が固くなるのがわかる。
「えーと、大野さん、いくつ。…19か。」問診表を見ながら、歯医者が言う。
「まあ言わなくてもわかってると思うけど、ずいぶんひどいね。思ってるよりも虫歯は多いよ。」
そう言うと、レントゲンの電気のスイッチを入れた。
香緒里の口の中の様子が、ぱあっと照らされる。
歯がなくなっているところが、あの左上だろう、ということくらいしかわからない。
「はっきり言って、上の歯は、全部、虫歯だね。」
「全部・・・ですか。」
香緒里が、蚊の鳴くような声で言う。
昨日、大丈夫だと思った歯も、ダメだったか。
香緒里の手は細かく震えている。
「下の歯も、奥歯は、ほとんど全部やられてるね。ま、下の前歯しか無事じゃないってことだ。
悪い歯は全部治す、って書いてあるのは偉いけど、こりゃー大変だよ。がんばらないとな。」
236名無しさん@ピンキー:04/09/05 17:50 ID:Lp1XhoDI
歯医者はそう言うと、椅子を倒し始めた。
ふと気付くと、横に、カルテを持った助手の人が座っている。
「まず、全部の歯を見せてもらうよ。」
ライトを操作して、香緒里の口に当てる。
「はい、あー。」
香緒里は観念したように、目を閉じて、口を開けた。
歯医者はカチャカチャ、と硬い音をさせて、ミラーを取り、香緒里の口の中に入れた。
「はい、右上から。」
「7番、C2。6番、インレー、だけど・・・。」
歯医者は、ミラーを左手に持ち替え、ホースの伸びた器具を取って、香緒里の口に入れると、
「ちょっとしみるかなー」
と言いながら、しゅっ、しゅっ、と音をさせた。
「んああああっ」
香緒里が体を固くする。
風だか水を当てたらしい。
「かなり進んでるなあ。2次齲蝕だね。この、詰め物の下で虫歯が進んでるんだよ。治してからかなり経ってるでしょう」
香緒里はかすかに目を開けると、不安そうに頷いた。
237名無しさん@ピンキー:04/09/05 17:51 ID:Lp1XhoDI
「じゃ、続けます。」器械を戻して、歯医者は言った。
「5番、C2、4番・・・」今度は、針のようなものを手にとって、口の中をいじっている。
「あぅッ」香緒里の顔が歪む。
「4番、C2。3番、C1。2番、C2。1番は・・・C1、いや、ちょっと待った」
歯医者は、香緒里の唇をめくり、穴を、針でカリッ、とつついている。
「ぅぅぅ」
「1番、やっぱりC2。左に行って、1番、C2。2番、あー、こりゃひどいなあ、痛くない?」
香緒里は首を振る。歯医者は、疑わしそうな目で見て、
「でも、しみるでしょ?」とさらに聞いた。
香緒里は首を振りかけて、頷いた。さっきのをシュ、をやられると困ると思ったのだろう。
歯医者は、満足げに頷くと、作業に戻った。
238名無しさん@ピンキー:04/09/05 17:52 ID:Lp1XhoDI
「ま、いいや、2番はC3ね。3番、C2。4番、C1。5番…C2。6番、これが痛い歯だね、C4。
7番、C3。6番がこんなになってるから、痛いのはこの歯かもしれないけど。」
歯医者は、またも、ふう、とため息をついて、
「今聞いててわかったと思うけど、Cっていうのは虫歯。全部虫歯だよ。
それと、数字は、進行度。C1くらいで治療すれば、1、2回で済むんだよ。
まあ、普通、C2になると、しみることが多いから、そこで治療にくるもんだけど、
それを、C3になるまで放っておくなんて。若い女の子の口とは思えないよ。
将来が思いやられるね。」
と、言い放った。
香緒里は、目に涙をいっぱいにためている。
たしかに、C1というのはほとんどなくて、C2が多かった気がする。
ものを食べるときに痛くなかったんだろうか…
俺がもっと気をつけていれば、気付いただろうか…
239名無しさん@ピンキー:04/09/05 18:09 ID:NVu7uLIt
そう思っていると、歯医者の声がまた始まった。
「次。左下いきます。7番。」また、カリッカリッと、つついている。
「C2。6番、○。インレーです。5番、C2。4番…これは初めて、大丈夫だ。4から右3まで斜線。」
これまで、全部虫歯だったのか…
あらためて、香緒里の歯のボロボロぶりに驚く。
不思議と、不快感はなかった。むしろ、この診察で、また昨日のように少しドキドキしていた。
「右、4番、レジン、だけどこれも、2次齲蝕だなあ。5番、C2、6番、インレー、7番、C2、以上。」
カチャリ、と、歯医者はミラーと針を置いた。
240名無しさん@ピンキー:04/09/05 18:10 ID:NVu7uLIt
「どう。」と助手に尋ねる。
「多すぎて…ちょっと待って下さい」
美人だが、やや冷たい顔の助手は、カルテの文字を数える。
「要治療、19本です。C1が2本、C2が12本、C3が2本にC4が1本、2次齲蝕2本です。」
「年とおんなじだけ、虫歯があるなんて、多すぎるよ。小さい子供ならまだしも。」
歯医者は厳しい顔で言った。
「うーん、この分だと、全部治すのに、まあ半年は通ってもらうことになると思う。
とりあえず、痛いところから治していくつもりだけど、痛くなくなったからやめる、なんてことはしないように。
この分だと、どんどん痛む歯は増えるだろうしね。ちゃんと最後まで通えるね。」
念押しするように、香緒里の顔を見つめる。
ハイ、と、泣き出しそうな声で香緒里が答える。
241名無しさん@ピンキー:04/09/05 18:11 ID:NVu7uLIt
「一度に、何本か進めていかないと、終わらないから。一番痛むところと、
その奥をなんとかしようと思うけど、今日は時間ある?」
「いえ、今日は」
とっさに香緒里が首を振る。えっ、と思ったが、まあ、今日はショックもあるのだろう。
そう思い、黙っていた。このことが後で、香緒里の悲劇を生むことになろうとは…
「大野さん、あのね…」
歯医者は、呆れたような顔になり、なにか言いたそうだったが、
「ま、ここでお説教しても進まない。とりあえず、治療に入りましょう。」
香緒里の顔が、体が、また固くなった。
別の助手が、器具を並べ始め、歯医者は、レントゲンを見つめた。