215 :
名無しさん@ピンキー:
歯医者は40ぐらいの渋いおっさんだった。
「えーと、左の上が痛むの?」
香緒里が硬く頷く。
「じゃあ椅子倒しますね、はいお口開けて」
俺の握っている左手がきつく握られるのが判った。
香緒里が口を開けると、歯医者は中を覗き込み、「ほお…」と唸った。
「これは…ずいぶん放っておきましたね。他にもたくさん虫歯になっているようだし。
あなたの歳でこれでは…ちょっと多すぎますね。
とりあえずレントゲンを撮りましょう」
容赦なく言われて真っ赤になるかと思いきや、香緒里は見て判るぐらい震えている。
今にも泣き出しそうだ。
レントゲンのため一旦ブースの外に出て戻ると、
香緒里は目の端に涙をたたえていた。
「怖い、怖い、どうしよう」
「大丈夫だって、俺がここにいるよ」
レントゲンを見ながら歯医者が戻ってきた。