虫歯&銀歯の女の子   

このエントリーをはてなブックマークに追加
210名無しさん@ピンキー
一夜明けて、今日は香緒里の10年ぶりの歯医者の日だ。
あれほど痛がっておきながらなお尻込みする香緒里を、
半ば連行するような形で、ようやくドアの前まで引っ張ってきた。
香緒里を見ると、すっかり青ざめてしまっていて、
もはや抵抗する力もなくなって震えている。
恥ずかしいから行きたくないと言っていたが、
それ以上に怖がっているみたいだ。
「いいね、頑張ってちゃんと治そうね」
念を押す。
「…うん」
「ドアは自分で開けなよ」
俺が開けるのは香緒里のためにならないような気がする。
「……うん」
香緒里は意を決したように、勢いよく歯医者のドアを開けた。
211名無しさん@ピンキー:04/09/05 00:45 ID:9nwAlaXl
中に入ると、歯医者独特の臭いが漂ってきた。
歯医者が苦手ではない俺でも、少し身構えてしまう。
香緒里は気丈に振る舞っているが、緊張のあまり、動きがぎこちない。
緊急の初診だと受付に告げると、問診表が手渡された。
香緒里が順に記入しているのを、横目で眺める。
『ご来院の理由…痛む歯がある』
『治療の仕方について…気になる歯だけ治す』
「…こら、見てるぞ」
「あ」
「香緒里は、こっちの『悪い歯は全て治す』だろ」
「……」
「どうせ先生に見られたら、全部治すまで許してくれないよ」
昨日素人目に見ただけでも、痛そうな歯が10本近くあったのだ。
212名無しさん@ピンキー:04/09/05 00:53 ID:9nwAlaXl
「でも…」
「でもじゃない。口開けて、あーん。」
明るい室内なので香緒里の歯を一望できる。
昨日はペンライトで少しずつだったから実感が沸かなかったが、
こうしてみると、香緒里の奥歯はぼろぼろの一言だ。
「虫歯になってない奥歯、一本だけなんだよ。」
香緒里は真っ赤になって俯き、問診表を訂正した。
「大野香緒里さーん、2番にお入りください」
問診表を書き終わると、丁度中から呼ばれた。
さっと香緒里が青ざめるのが判った。
「一人で大丈夫?」
「……付いてきて欲しい」
許可を取って一緒に入る。