「悟、その格好で、ラジオ体操をやって見せて」
唐突にお姉ちゃんが言った。その目は何かをすごく期待しているようなまなざしになっている。何だかブキミだ。
「♪タンターラタタタタ タンターラタタタタ タラタタタタタタ タラタタタン ハイ!」
僕の意思などお構いなしに、お姉ちゃんはラジオ体操のメロディーを口ずさみだした。
(誰が乗せられるか !)ところが、小学校時代6年間、皆勤賞のプリンとゼリーの詰め合せが欲しくて夏休みは毎朝欠かさずラジオ体操に参加していた僕は、悲しい習性かな、このイントロが終わった途端、条件反射のように体を動かし始めてしまったのだ。
やがて第1体操が終わり、第2体操の2番目にはいったその時、お姉ちゃんの瞳がひときわ輝きを放った。やっとお姉ちゃんの魂胆が読めた。ガッツポーズをして脚を開く、まともな服を着ていてもやりたくないポーズの定番。
ブルマーを初めて買った時、ブルマーを包んでいたビニール袋に刷り込まれていたブルマー姿のガニ股少年のイラストのことを僕は思い出していた。あのイラストのポーズを僕自身が今、地でいっているのだ。
でも僕の体は今、体操にブレーキをかけられないノンストップな体になってしまっている。股を広げるように脚をクッ、クッ、と曲げるたびに、ブルマーが食い込む。
なんでこんなことになってしまったんだろう、と血の気がやや引き気味の頭でぼぉーっと考えていた。大口を開けて笑っているお姉ちゃんの期待に応える以外の選択肢を思いつく余裕は、今の僕にはなかった。
やっとラジオ体操がひととおり終わったとき、僕は安心のあまり、食い込んだブルマーの裾を無意識に指でつまんでキュッと引っ張った。これが大失敗だった。
「さ、さとる! そんなお約束な癖、あんたいつの間に身につけたのー!?」お姉ちゃんは大爆笑でもうヒイヒイ言っている。
「姉がブルマー着用経験ゼロなのに、弟が現役でブルマーはいてるような姉弟って、日本広しといえども、私たち姉弟くらいのもんじゃなーい?」
それは真実かも知れなかった。だとしたら、お姉ちゃんは日本一ラッキーな姉で、そんなシアワセな女性を姉に持つ僕は日本一アンラッキーな弟だ。
そんなことを考えながら、僕はブルマー姿のまま居間を出て階段を上がり、まだ新築独特の溶剤の匂いが残る自分の部屋に戻った。
「新しい家を買うと、もれなくブルマがついてくる!」そんなキャッチフレーズがふと頭に浮かんだ。こんなすてきなオマケに僕はどこまで苦悩すればいいんだろう。