お母さんは正義のヒロイン

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序章1「発端」
月が不気味に赤い、蒸し暑い夜のことだった。
郊外の住宅地までの道を歩く者は、彼女一人だけだった。前にも後ろにも人影がないのは当然のことだろう。
あの終電から降りたのは、自分だけだったから。
細く長い道の左手には真っ黒い森が広がり、右手にはからっぽの小学校。
残業をうまくかわせなかったことを後悔しつつ、彼女は足を早めた。
何度も振り返って見たが、当然ながら人影はない。
ズシャッ、と重い音が聞こえたような気がした。
(気のせいよ……)
彼女は振り向くのをやめ、ひたすらに足を前に運びつづけた。
ザッ、ザッ、ザッ……
地面をえぐりながら迫ってくる足音は錯覚などではなかった。
獣のような息遣いと熱いしずくを首すじに感じ、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
彼女がしぼり出した悲鳴は、暗い森に吸い込まれていった。
894879:2005/07/04(月) 01:20:03 ID:MYwYU0XM
序章2「おぞましいもの」
ものすごい力で腕をねじりあげられ、彼女は地面に組み伏せられていた。
恐怖で振り向くことさえできないが、腕をねじる手も首を押さえこんでいる手も毛むくじゃらだということだけが分かった。
時おり首すじに滴り落ちる熱く生臭いしずくは、涎だろうか?
「そいつ」は彼女をうつ伏せに押さえつけたまま、ブラウスの背中をたやすく引き裂いた。
しっかりした生地のスカートもバリバリと引き裂かれていく。
彼女の首は毛むくじゃらの腕で握られたままだった。「そいつ」は片手で服を破っているのだろうか?
そうではなかった。
荒い鼻息と、濡れた牙らしきものが太ももに当たったときに彼女は理解した。
(服を歯で裂いてる……!?)
ばけもの、という言葉が浮かんだが、その瞬間、彼女は絶句してしまう。
肩をつかまれて仰向けに転がされた彼女は、そんな単語が意味を失ってしまうほどにおぞましい姿を目にしていた。
赤い月を背にした巨大な毛むくじゃらの獣の股間にそそり立つ肉棒と、彼女の体を見下ろすぎらつき濁った双眸。
猪のように突き出した鼻面に、額には何本も角らしきものが生えている。
(あ、悪魔……)