お母さんは正義のヒロイン

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873退魔戦士 有子
                
                エピソード2  『一也』

小学校へ行き貴裕の担任と会ってきた有子だったが、有効な情報を得ることができたとは
言えなかった。
転校した生徒の中に一也という名の少年がいたかも、と訊いてみたのだが、担任教師はこ
の四月から赴任したばかりで、それ以前のことはあまりよくわからないようだ。
とりあえず、昨年貴裕くんの担任だった先生に訊いてみます。とは言ってくれたのだが、
あまり期待は持てない気がした。

夕食を取りもう一度考えてみる。
「一也くんの方面から探るのが難しいなら、やっぱり“例の幽霊屋敷”を探すしか……」
有子はふと思いついた。“例の”幽霊屋敷……
そうだ、“例の”と言っている以上、七月二十一日以前にその話題があったということだ。
有子は慌ててPCを開きもう一度FDをスロットに差し込んでいった。

『日記10』から『日記14』この中にきっと書いてあるはず……
有子はまずは『日記14』をクリックしフォルダを開いていった。
七月一日から二十日までが記入されている。一也が登場するのは一回、幽霊屋敷に関しては
書かれていなかった。

有子は日記13、12と次々にクリックしていく。
11まで読み終えた。『日記12』に初めて幽霊屋敷のことが書かれており、13に一回記
入されている。一也に関しては各日記に大体一回か二回書かれていたのだが、誰なのかを特
定するような記述は皆無であった。
874退魔戦士 有子:2005/07/02(土) 23:51:15 ID:npUlMS+T

「このFDでは最後ね」
有子はそう言って『日記10』をクリックする。
10は三月二十一日、つまり春休みの最初の日から書かれていた。
「あっ……これ…」
有子が知りたかった名前。

野本一也。

これが一也のフルネームのようだ。ただ、少し妙な内容が書かれている。意味がよくわか
らなかった。
このフォルダにはそれ以上は一也のことは書かれていなかった。他は他愛のない内容ばか
りだ。夕飯がどうだったとか、テレビの番組がおもしろくなかったとか……

『日記10』から『日記14』までに、この少年についての記述があったのは合計六回。
そのうち幽霊屋敷については二回書かれてある。
有子はとりあえず、その六日間の内容をコピーすることにした。
875退魔戦士 有子:2005/07/02(土) 23:53:18 ID:npUlMS+T

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『日記10』        三月二十一日(月)
昨日書いた野本一也のことは本当なんだ。たぶん誰も信用はしないと思うけど……
今日ママにそのことを軽く聞いたけど、難しくてよくわからなかった。
まぁ、いいか……

『日記11』        四月十三日(水)

学校から帰って来てから一也と遊んだ。
ふたりでサッカーしたけど、一也のやつすごくうまい。
一也が「僕みたいにうまくなりたい?」と聞くので「そりゃなりたいよ」と答えた。
一也は笑ってるだけだった。

『日記11』        四月二十日(火)

今日一也が来て一緒に家で遊んだ。ゲームをしてたら急に「悪魔とか幽霊とか信じる?」
と一也が聞いてきた。ママに魔物のこととか聞いてたから「悪魔とかは信じるよ」と答え
た。もちろんママが退魔戦士だとは言ってないけど。
876退魔戦士 有子:2005/07/02(土) 23:55:03 ID:npUlMS+T

『日記12』        五月十九日(木)

一也が来て「おもしろい所を見つけたから今度一緒に行こう」と言ってきた。
なんか幽霊屋敷を見つけたとか言ってた。「どこ?」と聞いたけど教えてくれなかった。
当日までのお楽しみだそうだ。六月の第一日曜に行くことになった。

『日記13』         六月五日(日)

一也に連れられて幽霊屋敷に行ってきた。普通の道を歩いてたと思ったけど、いつの間に
か細い山道みたいなところを歩いていた。少しモヤかかかってて気持ち悪かったけど、そ
こを抜けたら、普通になった。
今日は遠目で見ただけ。夏休みになったら探検に行こうということにして帰ってきた。

『日記14』         七月一日(金)

久しぶりに一也と会った。一也が「もうすぐ夏休みだね。どこかに遊びに行くの?」と聞
いてきた。僕は「ママが忙しいからあまりどこにも行けないと思う。皐月さんのところく
らいかな」と答えた。一也は「皐月さん?」と聞くので、おばあちゃんだよ、と答えた。
「あと、百合恵さんのところにも行くかも」と言ったけど百合恵さんの事は聞いてこなか
った。

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877退魔戦士 有子:2005/07/02(土) 23:59:30 ID:npUlMS+T

有子は特に三月二十一日の記述が気になった。この時貴裕はわたしに何を訊いてきたのだ
ったか?確かになにか尋ねられたような記憶はあるのだが、なんといっても半年も前の話
だ、詳しくは覚えていなかった。
もう一枚あるはずのFDになにかヒントになることが書かれているはずだ。もう一度探して
みるか……

部屋の時計を見るといつのまにか夜の11時を過ぎている。明日の朝小学校の方に一也の
フルネームが「野本一也」であることを伝えることにしよう。
勤務先(高校)の方には明日から三日ほど、妹の看病の為に休ませてもらう旨連絡を入れ
ている。
「明日一日かけてでも探そう……」

さすがに今日は疲れた。シャワーを浴びて休むことにしよう。
そう思って浴室の方へ向かう有子の耳に、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る音が聞こえ
た。こんな夜中に誰……
「どちらさま?」
インターホン越しに話す有子に男の声が聞こえてきた。

「夜分、申し訳ない……有子さん、隆二です。今到着しました……」