GTS(喰い系)スレッド

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762756より続き
 ひと塊となって伊奈子に飲み込まれた38人よりも先に食道を滑り落ちて、力強く開閉を繰り返す噴門から
胃の中へ送り込まれた倫佳は、その余りの広大さに愕然とするより他は無かった。
 周囲には酸っぱい香気が充満しており、頭上からはドクン、ドクンと心臓が規則正しく全身に血液を送り出す
音が鳴り響いている。そして、不気味にうねる胃壁の襞からは胃液が染み出して、シャワシャワと小川のような
せせらぎを形作っている。
「そんな……」
 いくらクラス替えで疎遠になったとは言え、倫佳にとって「美少女」と言えば真っ先に伊奈子が思い浮かぶ
ことは今もって変わりが無かった。実際、4年まで同じクラスだった間は2人とも相思相愛とは言わないまでも
まんざらでもない仲だったのだ。
 その伊奈子が自分を食べてしまうなんて。
 それにも増して目前に拡がる光景は、倫佳にとってこれ以上は無いと言うほど残酷な現実を見せつける
ものであった。
 倫佳は伊奈子の長くて艶やかな髪、つぶらな瞳、小さくかわいらしい口、白くてすらっとした指のどれもが
まさしく「美少女」と呼ぶにふさわしいパーツだと思っていた。しかし、あのかわいらしい口から時おりチラッと
見える歯がつい今しがた、自分を情け容赦無く噛み潰そうとした。それ以上に目の前の光景と来たら!
この大ざっぱにうねり、酸っぱい香気を漂わせているピンク色の襞が伊奈子の体を形作っているとはとても
信じられない。しかし、信じようが信じまいがこれだけが倫佳を取り巻く現実なのだ。その時、
 ビュクッ

 大きな音を立てて噴門が開き、唾液まみれの38人がひと塊となって胃の中へなだれ込んで来た。

(つづく)
763762より続き:02/12/05 04:15 ID:4oGKYn9f
「いててて……」
「あーん、もうやだぁ〜」
 数人の生徒は噴門から勢いよく放出され、胃底部に叩き付けられて全身を強打したらしく芋虫のように
うずくまってピクピクと痙攣するのが精一杯のようだった。
「……俺たち、あそこからここまで落ちて来たんだ」
 ある生徒が後ろを振り返り、はるか高くに小さく見える噴門を凝視しながら呟いた。
「どうしよう、早くここから脱出しないとあたしたち、きっと胃液で溶かされちゃう」
「心配しないで、先生が付いてるから」
「じゃあ先生、みんなで協力して噴門まで登りましょう」
 眼鏡をかけた秀才肌の生徒が提案する。
「噴門を一斉に刺激すれば清田さんが嘔吐を催して外に出られるかも知れません」
「そんなこと言ってお前、失敗したらどうすんだよ」
「このままオロオロしていたらドロドロに消化されるだけですよ?」
「えーっ、そんなのやだよぅ」
「じゃあ、手伝ってください」
 こうして数人の生徒が先遣隊となって断崖絶壁のような胃壁を噴門に向かって登り始めた。
 しかし、倫佳は必死になって生き残ろうとあがく生徒たちを冷めた目で見つめるだけだった。
「紫由くんも手伝ってくれない?」
「……嫌です」
「どうして? お家に帰りたいでしょ?」
「別に帰りたくありません。こんな目に遭って助かる訳無いんですから」
「何か事情があるの? 先生にだけ、話してくれないかな」
 担任としての務めを果たそうと躍起になっている麗の行動にさえ、倫佳は心を開こうとはしなかった。
「もう、放っといてくださいよ!」
「あっ、待って!」
 倫佳は麗の制止を振り切り、小さな胃液溜まりがいくつか出来ている胃底部へ駆け出して行った。
「そっちは危ないから戻って……きゃっ!」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
764763より続き:02/12/05 04:15 ID:4oGKYn9f
 突然、胃の中を激しい振動が襲った。消化活動が始まったのだ。
 噴門へよじ登ろうとしていた生徒たちは必死に胃壁の襞を掴んで踏ん張ったが、ある者は振り落とされ、
またある者は噴出した胃液に肌を灼かれながら胃液溜まりへ押し流された。
「……ふぅ、どうやら収まったみたいですね」
 しかし、今の蠕動で胃液が大量に分泌されたせいでさっきは水溜まり程度だった胃底部の胃液溜まりは
今や湖のような大きさになってしまっている。さっき胃液溜まりへ振り落とされた何人かは火傷を負いながら
自力で湖岸に這い上がり、どうにか生き延びたようだったが噴門から飛び出した時に全身を打ち付け、
胃底部でうずくまっていた者たちは――彼らがうずくまっていたあたりの湖面からは、コポコポと気泡が
立っているだけだった。
「あわわわわ……」
「残念だけどあの子たちのことは諦めましょう。運が無かったのよ……」
 麗は言っている自分の冷酷さに嫌気が差していたが、だからと言って無理に助けようとすると犠牲者が
増えるだけなのは誰の目にも明らかだった。
 しかし、 伊奈子の胃壁は原始的かつ動物的本能の赴くまま、友を失った悲しみと無力感に打ちひしがれる
生徒たちに情け容赦無く、内なる獲物を逃すまいと、そして彼らを確実に自らの血肉にせんと縦横無尽に
暴れ回った。
 嵐のように振動を繰り返す胃壁からは瀑布のように胃液が噴出し、6年3組の生徒たちは抵抗する術も無く
次々と強酸の激流に呑み込まれ、押し流された。
「あぢぃ!」
「いでぇよぉー」
 倫佳は既に最期の瞬間を覚悟していた。あの虫も殺せなさそうな美少女が体の中で無意識のうちに、
こうやって獰猛に自分のクラスメートたちを次々と死の淵に追い立てている。素晴らしいじゃないか。
これほど美しいギャップがこの世に存在するだろうか。やはり自分の最愛の異性は伊奈子以外には
考えられない。倫佳はそう確信した。
765764より続き:02/12/05 04:15 ID:4oGKYn9f
 伊奈子の胃の中で大量かつ小規模なジェノサイドが繰り広げられている頃、伊奈子は下校の準備を
していた。
「ねぇ、清田さんも『あれ』食べたんでしょ?」
「えっ、朋ちゃんなんで知ってるの?」
 伊奈子はクラスメートの小尾朋絵が唐突に昼食の話題を振って来たことに驚いた。そう言えば朋絵は
伊奈子が教室へ戻って来た後で入れ替わるように家庭科室へ行っていたんだっけ。
「実はあたしもさっき『あれ』食べたんだよね」
 朋絵はペロッと舌を出しながら悪戯っぽく呟いた。
「なんか呑み込む瞬間が癖になりそうだと思わない?」
「う、うん」
 自分で決断して呑み込んだ直後はともかく、自分だけのささやかな優越感だと思っていたことを他人に
同意するよう求められても、伊奈子は返答に窮するより他は無かった。
「だけどさぁ、先生から『絶対に噛むな』って言われてたけどついうっかり噛み潰しちゃったんだよね。
『プチッ』って音しちゃったけどその時、先生がトイレに行ってたから気付かれなかったわ」
「ふーん」
「ほら、清田さんもこうやってお腹に手を当ててみて。モゾモゾ動いてるのがわかるでしょ?」
 伊奈子は恐る恐るシャツをめくり上げ、自分のお腹に手を当ててみた。
「わっ、ほんとだー」
「なんか妊婦さんみたいだね」
「……そうかなー」
「あーっ、もうすぐ塾始まっちゃう。んじゃ」
「バイバーイ」
 朋絵と別れた伊奈子は6年2組と3組の教室に全く人の気配が感じられず、シーンと静まりかえって
いることを妙に思ったが校門をくぐると、そんな疑念も霧のようにどこかへ消えてしまった。

(つづく)