「京菓子」というものの、これが京菓子という定義があるわけではないと思う。まんじゅうも、もちも、干菓子もあめも、全国どこに
でもあるのだから。あえていえば、京都の菓子屋が京都の文化を受け継ぎつつ作る和菓子…ということだろう。この「文化」という
のがクセモノなのだ。1200余年の王朝文化や公家文化という点で。
写真=末富の「唐衣」。銘は伊勢物語の「唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ」から。
句の最初の字をひろうと「かきつはた」となり、菓子はカキツバタの花を表現したもの
http://sankei.jp.msn.com/images/news/130505/wlf13050516010019-l1.jpg ■銘は連想ゲーム?
「都の春」「竜田川」…と、なんとも優雅な銘(名前)がつくのが、京菓子の中でも重きをおかれる主菓子(おもがし、生菓子
のこと)。茶会ではメーンの菓子であるし、菓子屋にとっても最大の腕の見せ所である。
ただし、銘を聞いて菓子を見て、ピーン!とこなくてはいけない。たった3文字の後ろに意味があるのだ。
たとえば、「都の春」は、古今和歌集の「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」(素性法師)から。柳や桜の色を表現
した菓子になっていることが多いはずである。「竜田川」なら、季節は秋で、百人一首「ちはやぶる神代も聞かず竜田川から
くれなゐに水くくるとは」(在原業平=ありわらのなりひら)である。川の流れや紅葉のイメージをアレンジしたデザインになるだろう。
銘を聞いて和歌を思い浮かべるという、一種の連想ゲーム。和歌から季節の風情を感じつつ、菓子を味わうわけだ。
さらに上級者になると、菓子を見ただけで銘を言い当てることもできる(らしい)。菓子の色やかたち、時には焼き印を押すなど
して、それとなくヒントが隠されているから、そこから謎ときでもするように菓子の銘を当てるのである。そこには、たとえば茶会なら、
亭主(茶会を開く人)、客、菓子職人の3者に共通する「教養」がなければならない…。
■なぞなぞのおもしろさ
さて、ではそんな菓子を1つご紹介しよう。白い餅にうっすらと下のあんが透けてみえるたおやかな風情の末富製「唐衣
(からころも)」。銘は伊勢物語の「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」から。句の最初の字を
ひろうと「かきつはた」、つまりカキツバタとなり、初夏の代表的な花を表現したものだ。「唐衣」ときけば、「伊勢物語」そして
「カキツバタ」、さらにいえば「五月雨」や「東下り」などを連想する。ちょっと高度だが。
■京の菓子のいま
現代では、京菓子といえども甘さ控えめが主流になってきたが、そもそも「砂糖」は高級品で、菓子は朝廷や将軍家、公家など
に献上されるものだった。そこに、京都の歴史や文化が加味され、菓子屋の工夫、研鑽(けんさん)があって今の京菓子があると
思う。砂糖が自由に手に入るようになったのは戦後のことだ。
京都でも京菓子だけでなく、洋菓子業界の台頭もめざましい。和の素材を使った洋、洋の素材を使った和など、コラボレーション
も進んでいる。それはまたの機会に。
【京菓子資料館】
http://www.kyogashi.co.jp/shiryokan/ ●山上直子
産経新聞編集委員。平成3年入社、大阪新聞経済部、産経新聞京都総局、文化部を経て現在に至る。京都出身、大阪育ち、
現在は京都在住。歴史と文化、グルメ、グッズ、その他もろもろ詰め込んで、「魅力と魔力に満ちた京都」をご案内。
http://sankei.jp.msn.com/images/picture/others/o_yamagami.jpg ソース(MSN産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/130505/wlf13050516010019-n1.htm