都心のビルで、温度上昇の抑制だけでなく、土に触れて、食物を得る達成感もある「屋上菜園」の輪が広がっている。その権威が
いると聞いて訪ねた。
「相性の良い組み合わせで作物を植えましょう」「思い切った間引きで風通しをよくしてカビや病気を防ぎましょう」。東京都千代田区
神保町の区立高齢者センターの屋上で、約20人の高齢者がナスやピーマン、スイカなどを育てながら、コツを教わっていた。
4月から来年2月まで18回にわたる「野菜作り講習会」の講師を務めているのは、8年前に発足した大江戸野菜研究会理事長の
阿部義通さん(67)。NPO法人としてビル管理会社の栽培を代行したり、テナント企業の有志による農業クラブへ指導したりしている
ほか、社長を務めるミヨシフロンティア(埼玉県志木市)では屋上菜園の活用で、中古ビルの価値向上を手がける。
屋上菜園で避けて通れないのが耐震性の問題だ。建築基準法に基づくと、屋上に載せられる重さは1平方メートル当たり約60キロ。
軽量の土壌を用い、屋上の3分の1を菜園にするとしても、土壌の厚みは30センチにしかできない。
阿部さんはそれを15センチで実現するため、表面が乾かないように雑草を抜かずに切る、米ぬかで微生物を活性化して土の団粒
構造を作る−など農学的な知見を駆使。一方、「葉の表面に草木灰を振りかけると野菜が丈夫になる」「竹酢液で害虫を防ぐ」など
伝承農法も取り入れている。
都内で農薬を使用すると周囲からクレームが出るため、必然的に屋上菜園は無農薬・無化学肥料になる。害虫や病原菌と
切り離せない畑と違い、科学と経験を注ぎ込めば、素人でも可能だと説く。
ただ、計算通りにはいかないのも有機農業だ。農家の規格野菜とは対極にある。「自然のなかではどうしてもばらつきが出る。規格を
緩やかに考えましょう。あとは料理する側の腕です」
屋上菜園の普及だけでは、ビルオーナーなど一部の裕福層の趣味で終わってしまう。阿部さんが多くのビルで都会での農業体験を
伝えるのは、実は序章に過ぎない。「耕作放棄地ならたくさんある」と、農業を身近に感じた若者に、日本の農業再生を託す計画を
夢見ている。
「今度、コミュニティー・サポーティング・アグリカルチャー(CSA)を始めるため、米国へ研修旅行を考えている」。CSAは、消費者が
あらかじめ生産者に資金を投資して収穫を分配される権利を得るという制度。若者が就農に二の足を踏ませる理由の一つに、
種を作物に育てて初めて収入になるという構造的な問題があるが、CSAならば生活のベースが安定する。
「若い人の作る野菜を優先的に使うカフェで受け皿を作るなどの試みも始めている」。阿部さんが育てているのは、野菜や果物だけ
ではなかった。
ソース(MSN産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/region/news/120807/tky12080721010008-n1.htm http://sankei.jp.msn.com/region/news/120807/tky12080721010008-n2.htm 写真=屋上菜園の指導をする阿部義通さん=千代田区の区立高齢者センター
http://sankei.jp.msn.com/images/news/120807/tky12080721010008-p1.jpg 写真=ビルの屋上で房を付けるブドウ=千代田区の「ちよだプラットフォームスクウェア」
http://sankei.jp.msn.com/images/news/120807/tky12080721010008-p2.jpg