◇革にほれてカバン工房 元小山市職員の重田さん
小山市犬塚4丁目の喫茶店「カフェリ・フジ」に、革製のバッグがいつも
数個置かれている。厚い牛革は素材のままの色、ステッチは太い麻糸の
手縫いだ。近づくと革のにおいがする。訪れた女性客が手にとって「すてきね。
売り物?」と尋ねると、「そうよ、作った人を呼ぼうか?」と店主の山本悦子さん。
すぐに携帯電話を取った。
呼ばれて自転車でやってきたのは重田幸俊さん(60)。肩にかけるベルトの
長さや留め金のデザインなど細かい要望を聞いた後、手製の革ケースから
携帯電話を出して、これまでに作ったバッグ類の写真をスライドで見せていく。
「気に入ったものや、形、色に希望があれば言ってください」
重田さんは元小山市職員。革細工を始めたのは13年前だ。当時はナイフや
バックル、アクセサリーなどの金属加工が趣味だった。「手製のナイフを入れる
ホルダーも自前で」と革問屋に通った。見よう見まねで作るうちに、革の手触りや
使い込むにつれて色が変化していく面白さに魅せられ、病みつきになった。
大型の旅行カバンから小銭入れまで、作ったのは約300点。手製のバッグを
自慢げに持って職場に行くと、同僚から「おれにも作ってよ」と頼まれた。
仕事柄もうけるわけにはいかず、「値段は材料代でいいよ」と引き受けてきた。
3月末に定年退職後、趣味を仕事にしようと工房「十返舎」を立ち上げた。
「東海道中膝栗毛」の作者、十返舎一九の本名は「重田貞一」。同姓の
よしみで拝借した。工房といっても、同市城東6丁目の自宅マンションの
居間が作業場だ。
すべて手づくり。カバン1個を作るのに40〜50時間はかかるが、手間賃に
見合った価格にはできないという。これまで「材料代程度」しかもらわなかったので、
急に価格を上げられない。専門店に扱ってもらおうと交渉したら、マージンを
売値の2、3割請求された。
「もうけが少ないどころか、赤字になっちゃう。商売にするのはむずかしいね」
現在は、マージンを取らない山本さんの店しか重田さんのバッグは置いていない。
「老後の楽しみでいいんだ」とは言いながら、「手製なら10万円も20万円もす
る東京の専門店が扱ってくれるものを作りたい」と意欲的だ。
退職後に作ったバッグ類は約50点。色や形、裏地まで可能な限り注文に応じ、
趣味から仕事への脱皮を目指している。
ソース(朝日新聞)
http://mytown.asahi.com/areanews/tochigi/TKY201009150419.html ▽写真
http://www.asahi.com/areanews/images/TKY201009150418.jpg