昭和30年代まで漁業のまち御前崎を支えた手づくりのかつお節「手火山(てびやま)」。時間をかけて上質の
味と香りを引き出すこの職人芸を継承し、スローフードと水産業を結びつけたブルーツーリズムに生かそう、
と地元のNPO法人が動き出した。20日には新たなB級グルメ、手火山だしの「御前崎カレー」を発表した。
手火山とは、電気や機械をいっさい使わないで、直火でいぶしてかつお節をつくる手法(焙乾(ばい・かん))。
薪の種類、火の焚(た)き方、空気の量や湿度、かつお節の色などを見極めながら勘と経験で仕上げる。
先月31日には、このNPO法人「手火山」=川口博康理事長(69)=が、市内で手火山を守る吉村孫俊さん
(66)の工場で体験学習会を開いた。約40人が参加し、吉村さんらの指導で、カツオ約120匹を解体。
三枚におろし、さらに身割りした。釜で1時間以上煮た節を引き揚げて水抜きし、ピンセットで骨抜きをした。
そして、吉村さんが節が並んだせいろを積み上げていぶす「一番火」の焙乾の様子を見学した。
川口理事長によると、御前崎のかつお節は江戸時代の19世紀前半、有力者が土佐のかつお節職人を招いて
手火山を伝授してもらったのが始まりという。以後、「遠州節」として声価を高め、1950(昭和25)年ごろには、
業者は50軒を数えた。が、60年代から「焼津式」と呼ばれる機械化による効率的な大量生産方式が普及
し始めると、品質はよくても経済的には太刀打ちできなくなった。100%の手火山をつくるのはいまでは
御前崎で3軒、全国でも10軒もないという。
風前の灯(ともしび)となった手火山に危機感を持った川口さんら10人が07年、「地域の資産である
伝統技法を学び伝え、健康によいかつお節のすばらしさを広めていこう」とNPO法人を設立。大学教員や
食品研究家らを講師に招いて08年度からセミナーと体験学習会を開いている。東京の卸業者ら業界の
関係者らも出席している。会員は95人に増えた。
インドではカレーにかつお節が使われており、これが「御前崎カレー」のヒントになった。手火山と地元の
野菜やシーフードを使うこと、これが約束事だ。20日に市内のなぶら館で発表したのを手始めとして、
B級グルメの一品に定着させたいという。
川口理事長は「手火山のかつお節は地産地消、スローフードの精神にぴったり。必ず見直される時がくる」と話し、
「インドネシアなど海外のかつお節の産地と交流して技術指導も始めている」と国際貢献にも意欲を見せている。
◆画像
耐火れんが製の焙乾室に積まれたせいろ。これを下から薪でいぶす=御前崎市御前崎
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http://www.asahi.com/)2009年06月25日