県内有数のサーフポイント、鉾田市の旧大洋村周辺の海岸で、
同市上沢の吉田智恵子さん(65)が、サーファーたちの車を狙う不審者がいないか
目を光らせている。パトロールを始めて12年。「車を離れてもママが見ていてくれるので
安心して海に入れる」。サーファーたちには頼れる“鉾田のゴッドママ”だ。(河西大智)
東京・北区に住み、書道家として活躍していた吉田さんは
「海の見えるところでゆっくり生活したい」と、1998年に鉾田市に移住してきた。
パトロールを始めたのは冬のある日、車上荒らしに遭ったサーファーに偶然出会ったのが
きっかけだった。「電話を貸して下さい」。唇を紫色にしたサーファーが自宅を訪れてきた。
財布や携帯電話などの貴重品を盗まれていた。「せっかく茨城の海に来てくれたのに、
嫌な思いをして帰らせるのは申し訳ない」とパトロールを始めるようになった。
午前4時に起床。1日に数回、20キロ近い海岸線を車で回り、1台1台車をチェック。
ポイントに着くと車を降り、サーファー1人1人に声をかけてまわる。「怪しい車を見つけると
隣に車を止めて、何時間でも監視するんです。そうするとあきらめてどこかに行ってしまう」
と笑う。
移住後間もない頃、海岸を散歩していると車の中で窮屈そうに寝ているサーファーを
度々見かけた。「これではゆっくり休めないから家においで」と声をかけ、自宅で布団を
貸し、食事を提供するようになった。
困っている人を見ると、とことん面倒を見ないと収まらない性分。
自宅を改築し、30人ほどが宿泊できるようにした。ベッドやテーブル、イスはいらなくなった
廃材の木をもらって、手作りしたものばかりだ。当初はすべて無償。常連客から
「少しはお金をもらったら」と言われ、1泊2500円に設定した。それでも吉田さんは
「『ありがとう』の一言で十分なんです」。
「ママは神様のような存在だから」。いつの間にかゴッドママの名前が定着し、
全国はもとより海外からもサーファーがやって来るようになった。
今年3月には長年の活動に対して鉾田署から感謝状が贈られた。
2人の子どもと離れて暮らし、「自分の息子や娘のようなサーファーたちの役にたてたら」。
今年も本格的なサーフィンシーズンは間近、ゴッドママにとって一番多忙で楽しい季節が
やってくる。
YOMIURI ONLINE(読売新聞) 09/05/23
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/ibaraki/news/20090522-OYT8T01145.htm