大相撲で関取(幕内、十両)の頭を彩る大銀杏(いちょう)。それを結う専門職を床山と呼ぶ。
床山会会長を務める特等床山の床邦(とこくに)(64)=本名・渡辺邦雄、春日野部屋=は、
この道49年のベテランだ。7月の定年(65歳)を控え、最後の春場所(大阪府立体育会館)
で連日、日本の伝統美を土俵に送り出している。
午後1時50分。支度部屋で、床邦の手がしなり始めた。調髪用の髷棒(まげぼう)は、畳針に
自ら手を加えた愛用の道具。鋭い先端がきらめき、髪が典雅な膨らみを帯びていく。
大たぶさが生まれ、髷の先が銀杏の形にパラリと開き…。「きれいか? 自負があるからね」。
鬢(びん)つけ油の香りを放つ芸術品が、ここに生まれる。
大銀杏は「作品」という。若手のころ、頭を手がけた関取を花道まで見送った。「髷がグラグラ
していないか心配で」。髷が下につけば負け。勝負の一端を担う職責の重さを両肩に感じてきた。
入門は昭和34年5月。栃錦、初代若乃花の両横綱が画した「栃若時代」は円熟期にあった。
大銀杏を任されるまでに約10年。「技は見て盗め」といわれ、兄弟子の妙技に目をこらした。
顔、頭、髪の三者が折り合う美の均衡点をいかに探すか。「試行錯誤の繰り返し。すべて自分の
感性だ」。理想に近い作品を結えるようにはなったが、完璧(かんぺき)と思えた作品は
ひとつもない。
髪の一筋一筋には、常に心胆を練り込む。「気持ちと金は、たらいの水」−長く側につかえた
先々代春日野親方(元横綱栃錦、故人)の教えだった。「使えば使った分だけ、脇から新たに
入ってくる、という意味」(床邦)。大銀杏を結う度に、その言葉を思う。
3年前、床山会会長に就任。昨年9月には床山の研修会制度を立ち上げ、若手への技術指導の
場を設けた。今年初場所には、特等床山の名が初めて番付表に載った。「若い世代の励みに
なるものを残したい」。床邦の訴えに、日本相撲協会が応えた。いずれも後進への置きみやげだ。
協会は「土俵の美化」を高らかにうたう。横綱の品格はもとより、美の象徴である大銀杏が果たす
役割は大きい。「床山は黒衣でも、大銀杏は表舞台。後輩にはプライドを持って仕事をして
ほしい」。残り4カ月、床邦の髷棒は動き続ける。
床邦の略歴 昭和18年7月8日、栃木県鹿沼市生まれ。同34年5月に春日野部屋に入門。
平成17年1月に床山会会長に就任した。床山は江戸時代に歌舞伎役者の特殊な髪を結う専属の
調髪師の総称。床(髪の毛)をたくさん(山)扱う人の意味がある。日本相撲協会では特等
(2人)と1〜5級の6階級に分けられ、特等の床邦を筆頭に計51人の床山がいる。
ソースは
http://sankei.jp.msn.com/sports/martialarts/080322/mrt0803221216000-n1.htm http://sankei.jp.msn.com/sports/martialarts/080322/mrt0803221216000-n2.htm 支度部屋で大銀杏を結う床邦
http://sankei.jp.msn.com/photos/sports/martialarts/080322/mrt0803221216000-p1.jpg 依頼を受けてたてました。