捨て犬から奇跡の転身−。山林で拾われ、あと数日で処分される運命だった1匹の犬が、飼い主の愛情と訓練士の
厳しいしつけを通して「災害救助犬」として“生きる道”を見つけ出した。昨年7月には長野県で発生した土石流災害の
現場に派遣されるまでに成長した。新たな使命を胸に今年も訓練に励んでいる。(星直樹)
■処分まで数日
犬の名はジェニファー。ジャーマンシェパードのメスで、推定6歳。平成14年1月に神奈川県愛川町の山中で保護され、
処分まで2、3日のところで、神奈川県藤沢市の歯科医、伊野千恵子さん(64)が引き取った。
飼い始めは苦労の連続だった。捨てられた恐怖感から、人に飛びかかったり、ちょっとした物音にもほえ、近隣から
苦情の手紙が届いたりするほどの暴れん坊だった。優しい表情を取り戻そうと、伊野さんは自らのしつけのほかに、
ドッグスクールにも預けた。ここでジェニファーは、担当訓練士の松元律子さん(34)が「捨てられていた犬とは思えない」
と驚くほどの成長をみせた。
■隠れた才能
訓練中、松元さんはジェニファーの「足場の悪い場所を全然怖がらない」という隠れた才能を発見する。震災現場などで
活動する災害救助犬に向いていると、伊野さんに勧めた。伊野さんは「危険な現場での活動は死と直面する」と一度は
躊躇(ちゅうちょ)したが、「助けられた命で、今度は人の命を救う番かもしれない」と考え直した。
■3席に入賞
16年11月、実力が試される国際救助犬の試験を受けて3席に入賞。昨年10月の同じ試験では、がれきが敷き詰められた
アパート内から人を捜し出す難度の高いテストで唯一の合格犬となった。松元さんは「人を捜し出すことに喜びを感じて
いる」と救助犬として高く評価する。
高い捜索能力と集中力が認められ、これまでに3年続けて神奈川県警の災害救助犬の嘱託を受け、今ではヘリコプターや
電車を使った訓練や河川敷での野営訓練などに参加し、万が一に備えている。昨年7月の長野県岡谷市の土石流災害の
際には松元さんと現場に駆けつけた。
「喜々とした表情で訓練している姿を見ると、本当に救助犬にしてよかった」とわが子を見るような表情で伊野さんは話す。
伊野さんのあふれる愛情を受けるジェニファーは、助けられたことにこたえるかのように新年早々、今日も訓練に励んで
いる。
Sankei WEB
http://www.sankei.co.jp/shakai/wadai/070103/wdi070103002.htm 画像:神奈川県警の災害救助犬の嘱託式に臨むジェニファー
http://www.sankei.co.jp/shakai/wadai/070103/wdi070103002-1.JPG