★27歳・主婦…カレーに新風──香辛料13種、独自調合/味の決め手はダシ
大阪は庶民の味の王者の1つ、カレーライスでも特徴がある。ちまたの喫茶店ではマス
ター自慢のカレーが出てくるし、ミナミでは文豪が通った有名店もある。そんな伝統あ
ふれるカレー文化に果敢に挑戦する女性がいる。お袋の味でもない、有名店の味でもな
い、独自の味で「大阪カレー界」に新風を巻き起こしている。
(中略)
●出店費は自分で
一番の名物は600円のビーフカレー。フルーツや豆乳を入れてまろやかな味を出しつつ、
13種類混ぜるという香辛料の具合も絶妙で、辛い。でも「健康に気を配った食材で作っ
ています」と中川さんはニコリ。男性客向けに「カツ丼カレー」なるメニューも用意し、人気だ。
実は中川さんは20歳までカレーが食べられなかった。そんな彼女がなぜ、カレー店を始
めたか。
大阪の高校で建築デザインを学んだ後、設計事務所に就職した。商業施設の床や柱をデ
ザインしていた。職場を転々とし、土木関連の設計もしていたが、「1日中部屋の中で
パソコンの画面を相手に図面を引く毎日がきつかった」上、朝9時から夜11時までとい
う長時間労働も苦痛になっていた。
設計の現場から飛び出して、観光地の旅館で住み込みで働いた。洋菓子店でも働いた。
大阪ドームでプロ野球選手向けに料理を作ったりもした。そんな毎日を送っていて、ふ
と思った。「一から全部、自分で作れるものはないか」
たこ焼きも考えた。しかし、香辛料や野菜、果物などを一から組み合わせて作るカレー
ではないかと思った。掛け持ちでカレー店で働いて、考えることにした。
「それは突然のことでしたよ」と、たまたま週1日店を手伝いに来ていた中川さんの母、
伸子さんは笑う。2002年10月、中川さんは母親に、物件も決めてカレー店を独立開業
することを電撃的に告げた。
出店費用は400万円ぐらい。全部自分で働いてためたお金だ。中古の厨房(ちゅうぼう
)道具をかき集めた。同年12月、店はオープンした。
大阪は街のカレー店の激戦区、とした場合、ここの売りは何ですかと聞いてみた。「飽
きられない味、また食べたくなるような味を目指しているところかな」。レシピは自分
で考えている。ちょっとずつ変えているという。
大阪の人は、カレーに対してこだわりが強い。ハウス食品が実施した「地域別カレーの
食卓に関する調査」によると、ソースをかけて食べる人の割合は全国平均の1.5倍、生
卵をかける人は同じく2倍以上いることが分かった。単なるカレーでは飽き足らない。
それが大阪の人たちだ。
(中略)
●3年かけて研究
「主婦のプロは料理のプロよ」――。3人兄弟を育て上げた中谷明子さん(56)は胸を
張る。今から11年前、大阪・大正の商店街の一角に「カレーショップA&A」をオープ
ンさせた。
夫は商店街でリフォーム店を経営していたが、無店舗経営に切り替えたのを機に、跡地
を「自分の店をつくる」という長年の夢の舞台にした。
カレーは開店前に3年間かけて研究。「うまくできなくて、泣きそうやった」時期を乗
り越えて、今の味にたどり着いた。
お袋の味、だが、むしろ「主婦の知恵」が利く。味の決め手はダシだ。なじみの鶏肉店
から教わった。「鶏の、この関節の、この部分からおいしいダシが取れる」。取ってみ
ると脂っ気が少なくサラサラしていることに驚いた。みそ汁や煮物でダシに気を配って
いる主婦ならではの発想だ。
10年の月日は長い。昔、お母さんの手に引っ張られて来店していた男の子。今では「高
校生になったから1人で来ました」と言ってくれる。多くの客は引っ越した後も遠方か
ら駆け付けてくれる。「私はみんなの『お母さん』みたいなもんやから」と笑う。不景
気のあおりで「シャッター通り」と化した商店街の活性化に貢献している。
(大阪経済部 秋山文人)
記事の引用元:
http://www.nikkei.co.jp/kansai/women/32550-frame.html