フランスでは今、第二次世界大戦前の製法で作る伝統的なパンが好まれている。
表皮はパリパリとして香ばしく、内側はクリーム色で味わい深い。
かつての製法を再現して、日本にも9店舗を構えるパン職人、エリック・カイザーさん(41)は、
その技術を日本のべーカリーに伝授している。フランスパンの回帰と、おいしい食べ方について聞いた。
フランスでは1940年代までは、空中に浮遊する野生酵母を用いた液状の種を使い、
長時間発酵させて焼いたパンが主流だった。日持ちがしたが、液種は管理が難しかった。
第二次大戦が始まると、小麦粉が不足して雑穀などを混ぜた黒いパンを食べなければならなかった。
この反動で、戦後は内側が白いパンが好まれた。カイザーさんは「嫌な時代を忘れたいがために、
人々は白くフワフワしたものを求めたのだろう。この傾向は90年代初めまで続いたが、消費者がパンから離れていった」という。
白いパンはうまみがなく、表皮が薄くて賞味期限が短かった。食生活の多様化もあって、1人当たりの1日パン消費量は、
1900年には900グラムだったが、90年には約160グラムにまで落ち込んだ。
危機感を持ったパン業界は、消費拡大キャンペーンを展開。政府に掛け合い、伝統的なパンの定義を定めた規約を93年に作らせた。
パン屋の5代目のカイザーさんは、国立製パン製菓学校教官でもあり、フランス全土を回って本来のおいしいパンを焼くための
粉や製法を、各地のパン屋に教えて歩いたという。
パン業界の努力の結果、94年からパンの消費は上向きに転じた。同じころカイザーさんは、液種を管理する機械を開発、
伝統的なパンを安定供給できるようになった。カイザーさんのベーカリー「メゾンカイザー」は欧州だけでなく、ロシア、
イスラエルなどにも広がり、世界40店舗にのぼる。
2001年に日本での1号店を東京・高輪に開いたカイザーさんは、日清製粉と共同で、かむほどにおいしい伝統の味を
再現できる業務用小麦粉を開発した。昨年8月から販売を始め、日本のベーカリー向けに技術講習会を開催している。
また、素材へのこだわりと60のレシピをまとめた「100%パン」日本語版を毎日新聞社から出版した。
カイザーさんが焼くパンは、クリーム色の内層に大小さまざまな気泡が開いている。外皮を手で押すとパリパリ音がして、
香りが立つ。「ナチュラルなものが求められる時代。どんな食事でも邪魔にならず、何もつけなくてもおいしいパンを作りたい」
とカイザーさん。
岩塩をオリーブ油で溶かして塗ったり、チーズやハム、野菜を挟んでもおいしい。1回の食事で食べきれなかったら、
ふきんに包んだり、麻袋に入れて保存するとよいそうだ。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/news/20060117ddm013100113000c.html