アントレプレナーシップ。日本語では「起業家精神」と訳される。企業を起こすのに必要なチャレンジ精神や創造力、
独立心などの意味を含む言葉だ。近年、学校教育の世界でこうした資質を身につけさせる取り組みが本格化している。
取材してみると、起業家育成というより、仕事を通じて前向きに生きることの大切さを再確認する試みだった。
「女子高生のストレスは? 恋、ダイエット、人間関係、校則、勉強…。それをどう発散するか? カラオケ、寝る、食べる、ライブ…」
尼崎市南塚口町の園田学園高で三年生のプレゼンテーション(発表)が続いている。テーマは、ネスレコンフェクショナリー(神戸市)の
チョコレート「キットカット」のブランドイメージを高めるCMの制作だ。
視聴対象に想定しているのは同世代の女子高生。「ストレスをキットカットで癒やしているイメージを出してみました」。自作CMの上映が始まった。
準備に費やしたのは約十カ月。市場調査やパッケージ製作で基礎知識を学んだ後、三年生の一学期からグループに分かれ、絵コンテを書き、
実際に撮影・編集してきた。発表された五作品はどれも相当なレベル。審査したネスレの担当者も舌を巻く出来栄えだった。
グランプリを受賞したグループの三人は「こんな仕事を将来やってみたい」「カメラに興味を持った」と口をそろえた。
この取り組みは近畿経済産業局が関西三地域で展開する「キャリア教育プロジェクト」の一つ。
二〇〇二年度から始めたアントレプレナーシップ教育を大幅に拡充。対象を広げ、学校との連携を強化した。
大阪府堺市では地場産業の自転車業界がテーマ。小中の五校で「こんな自転車欲しかってん!」と銘打って新商品開発の企画書づくりなどに
取り組んでいる。
兵庫では園田学園高を含む四高が対象。自校や地場産業のPRを通じて足元を見詰め直すきっかけづくりを狙う。
近畿経産局は「長期にわたって、受身ではなく自ら提案するところに意義がある」という。
地域活性化の役割を担うこともある。池田市では地元中学が恒例の職業体験をまちづくりにつなげようと、
今年二月、新聞「街NAVi(ナビ)」五千部を発行した。
空洞化の進む中心商店街。生徒が商店で五日間、職業体験する間に各店を取材。紙面には店主の笑顔と紹介文を添えた。
「なんだなんだこの安さ!」などと見出しも一工夫。評判は上々で、市内各所に置かれ、商業活性化に貢献している。
「商店街に教育力あり」。一九九七年に三田市の老舗商店街に街角研究室を立ち上げた関西学院大の片寄俊秀教授のゼミ。学生たちは
街の真ん中に腰を据え、商店主らと触れ合い、祭りやイベントに参加してきた。「商業の奥深さ、中心市街地の役割を自然と見いだした」と片寄教授はいう。
そこで鍛えられた数人の卒業生らは都市計画のコンサルタントやコーディネーターになり活躍している。片寄教授は言う。
「現場は温かで知的刺激に富んだ素晴らしい“学びの場”だ」
現場力。アントレプレナーシップ教育の狙いはそこにある。今、その大前提となる地域のものづくりや商いが揺らいでいる。
教育現場の知恵を再生に生かしたい―。両者の実のあるマッチングが求められている。
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http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/kz/01000397kz300510021200.shtml