男は射精行為に排泄(はいせつ)欲の充足以上を感じない−−。
しばしば冗談めかして語られることだが、著者はそこに留まらない。さらに
踏み込んで自分がそんな「感じない身体」へ強い劣等感を持っているのを認める。
そして快感で女性に勝てないと考えることから、自分の快感を求めるより女性
の快感を支配したいと思いがちな自分の傾向を分析していく。そこに劣等感から
「男の身体を抜け出したい」という気持ちが加わって、少女の身体に入りたいと
いう欲求に著者は駆られるのだという。こうして著者は自分のロリコン志向を認め、
その感覚が立ち現れるメカニズムを言語化してゆく−−。
ゴムヒモでゼリーを縛るように言葉で描こうとすると感覚は逃げてゆく。あきらめず
言葉で感覚を絡め取ろうとし続ける本書のような作品が現れて初めて他人がどう感じ
ているかに漸近(ぜんきん)でき、比較が可能になる。
たとえば筆者は「感じない男」と「身体への劣等感」までは共感できるがロリコン心理
や制服フェチは分からない。きれいごとを言うつもりはないのだが、そこはかなり自分
を厳しく問いつめてもピンと来なかった。そして「制服フェチとロリコンに関しては、
そのからくりが分かったがゆえに、そこから最終的に解放されたように思う」と著者が
最後に書くのにも違和感を覚えた。自分の性的嗜(し)好(こう)は著者と少し違う方角
を向いているようだと分かっただけで残りはブラックボックスだが、からくりがわかって
解放されるほど性の吸引力は弱くないような感じがぼんやりとしている。
いずれにせよ、他者との人間関係をより建設的なものにするために自分の性の真実を見つ
めるべきだという著者の主張には大いにうなずけるので、近いうちに少しでも闇に分け
入りたいと思った。若い女子学生も教える大学教師という身分ゆえに隠しておいた方が
処世として何かと得だろうに、ここまで性について真摯(しんし)に書いてくれた著者
の勇気に励まされた結果である。(ちくま新書・七一四円)
書評・ジャーナリスト 武田徹
ソースは
http://www.sankei.co.jp/news/050228/boo014.htm