【妄想】SIREN(サイレン)2の予想スレ【専用】

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923申そうか?:2007/01/29(月) 00:08:00 ID:oxaIOVXL
                    ――2008年 8月2日――
             赤錆びた鏡面を打ち破り、巨躯の白蛇(ハクジャ)が現れる。
      此の世のすべての命が母へと回帰し、彼の世のすべての魂が無に帰すとき――
                     世界は終焉を迎える。

                        00:00:00
                    ――天地に轟く咆哮――

                 人類最期の足掻きが今、始まる――。

                        (大袈裟)
924申そうか?:2007/01/29(月) 20:25:00 ID:hMrf0Qmq

『失踪』

八奈 美夏/ヤナ ハルカ

呪灰町/県道88号線沿道 2008年 7月31日/18時42分33秒
県道88号線 ・双縄呪灰線 :双縄町(ソウジョウマチ)と呪灰町を結ぶ地方主要道

――朽ノ畝(クチノセ)
そこは道幅4メートルの舗装道路が東西に走る、双縄町と呪灰町のちょうど中間地点。
道路の北側には深閑の山林が連なり、南側には肥沃な田畑が広がる農村地帯である。
夏の盛りのこの時期、新緑に溢れる朽ノ畝は、それはそれは美しい田園風景をつくりあげる。
眼球を刺激する日差しの眩さも、煌く青葉の前では不思議と心地よく、水田に敷き詰められた緑の絨毯は
目に見えぬはずの薫風の姿を写し取り、道行く人々を楽しませてくれる。
唯一、山林の地肌に張られた落石防止用のネットが見苦しい印象を与えるが、それもまた一興であろう。
925なまえをいれてください:2007/01/30(火) 21:37:02 ID:G78gW7eN
遂に創作も佳境に来た訳ですな。
終了の暁にはサイレンマニアックス外伝として刊行しましょ。
926なまえをいれてください:2007/01/31(水) 19:30:30 ID:IIa+mAyC
( ;´_ゝ`)

こそばゆい御言葉ありがとうごさいます。でも期待は無用ですよ。これから先大いに裏切る事になりますので。
妄想が字に起こせなくて既に行き詰まってますから……
927なまえをいれてください:2007/01/31(水) 20:40:58 ID:RTcUWUoJ
むむぅ。スランプに陥ったわけですか。
妄想を再燃させるには今一度サイレンをプレイしてみることを
お勧めしますよ。
攻略本やマニアクスには詳細や語られなかった部分がありますが、
インスピレーションはあの空気感に触れることで湧いてくるはずですよ。
928申そうか?:2007/02/02(金) 22:28:16 ID:gwYIapOx

『失踪』 −A−

だが、そんな自然の風趣に富んだ美しい朽ノ畝には、もうひとつの顔――おぞましき過去が隠されていた。
それは県道88号線の北側、濃緑の雑木が生い茂る朽ノ畝の山中に、忌まわしき名と共に封じられている。
朽ノ畝が隠したおぞましき過去……朽ノ畝が封じた忌まわしき名……それは――

―― 消  神  村 ――

……昭和51年 8月 3日、消神村朽ノ畝は多くの警察官と報道陣でごった返し、早朝から異様な雰囲気に
包まれていた。 消神村全22集落のうち、最南端に位置する1集落(朽ノ畝)をのぞいた、山間部すべての
集落で村民の大量虐殺・大量失踪事件が発生したのだ。
警察・消防に通報があったのは 3日明け方の午前4時過ぎ。消神村の隣村、母渡子村の猟師からだった。
猟師は消神村の山中から何本もの白煙が立ち上っているのを発見し、同村の集落(火輿里)へ駆けつけ
そこで惨憺たる光景を目にした……
929申そうか?:2007/02/02(金) 22:53:57 ID:gwYIapOx
>927
色んな意味でありがとうございます。やる気でました。

妄想は溢れるほどあるんですけど、文章にする能力が欠けているので時間掛かってしょうがないんですよ。
何度も書き直しているうちに、だんだんと飽きてきちゃうんですよねぇ。

なので、ちょっと書き方をかえて、もっと簡潔にしてみようと思います。これから仕切り直しです。

『失踪』はここで強制終了させます。
930なまえをいれてください:2007/02/05(月) 15:36:12 ID:cP+yrLd9
sdfh
931否、妄想家!:2007/02/05(月) 18:44:38 ID:VRaU6VC+
sdfh? なんかよくわからんが、いい意味じゃない気がする。

妄想の世界観を伝えるのに良い物を見つけました。

【3Dメガネ・赤青メガネ】
レンズ部分が透明のものではなく、よく付録なんかでついてくる赤と青のものです。
仮に「赤=常世」、「青=現世」、「赤青=異界」としましょう。

・正常な世界は「片目で見た世界(常世/現世)」です。
ふたつの世界は決して交わることはありません。赤と青の2色が、それぞれ独立した世界を
つくりあげています。(単色世界×2)
しかし、ふたつの世界に存在するものは共通です。(角度は違えど、両目には同じものが映るように……)
932否、妄想家!:2007/02/05(月) 18:49:22 ID:VRaU6VC+
・異常な世界は「両目で見た世界(異界)」です。
赤と青が交じり合った不快な世界です。(目がちかちかするように……)
ここで重要なのは赤と青、ふたつの世界を同時に見ても決して「紫」とはならない点です。
赤があったり、青があったり、それはなんとも言えない不思議な混ざり方です。
つまり、夏があったり、冬があったり……、生者がいたり、死者がいたり……、って事です。

更に言えば、「瞼=消神湖」、「開閉=ハハカミ」、「闇=黄泉(無)」となります。
・「片目で見た世界」には必ず暗い部分――「闇」があります。
これは左右どちらも同じです。片目を瞑れば、片目では絶対に見えない部分――「闇」は必ず現れます。
つまり、ふたつの世界には少なからず、常に「闇」が存在しているという事になります。
933否、妄想家!:2007/02/05(月) 18:54:59 ID:VRaU6VC+
ハハカミ(母神・蛇神)の目的は下記のようになります。
1、両目の「瞼=消神湖」を徐々に開けて、「赤=常世」と「青=現世」融合させます。
2、両目の「瞼=消神湖」を完全に開き、「赤青=異界」を誕生させます。
3、最後に「瞼=消神湖」を閉じて、世界を完全な「闇=黄泉(無)」に帰します。

おわかり頂けたでしょうか。

【足掻き】
妄想での“足掻き”は、2008年7月31日、8月1日、8月2日の3日間で展開します。
7月31日、「赤(常世)/青(現世)」
8月 1日、「赤〜青(異界化)」
8月 2日、「赤青(異界)」+「ハハカミ出現」+「ループ」

舞台も3世界です。
「現世」屍人・屍霊・蛇堕児の現世への出現。
「常世」現世の人間が常世へ堕ち、屍化する。
「異界」ちゃんぽん。

次からは妄想話です。
934否、妄想家!:2007/02/05(月) 19:08:43 ID:VRaU6VC+

楠井早枝子(クスイサエコ)   呪灰町/朽ノ畝/『現世』/ 7月31日/19:08:42

                       −@−
――県道88号線上、
楠井早枝子は朽ノ畝にある自宅を目指し、人気のない夜道をひとり寂しく歩いていた。

県道88号線は双縄町と呪灰町を結ぶ道だが、この道を利用する町民はほとんどおらず、
車の往来も皆無に等しかった。
町民の大多数が朽ノ畝の南にある国道666号線を利用するためだった。

そんな既に廃道と化したような道を、早枝子は通学路として利用している。
早枝子は双縄町にある「母渡子農林高等学校」の1年生だ。
高校までは県道88号線を通るだけで辿り着き、自転車で片道およそ30分の距離だった。

現在、高校は夏期休暇中であるが、早枝子は毎日のように高校に通い詰めていた。
早枝子の所属する吹奏楽部が8月のコンクールに向けて猛特訓を開始したためだ。
935否、妄想家!:2007/02/05(月) 19:13:01 ID:VRaU6VC+

                       −A−
――朽ノ畝西部、
早枝子は校門を出てから1時間以上も歩き続けていたが、自宅へは未だ辿り着けずにいた。

(あ゛ぁぁ、もう!)
部活の練習に加え、歩き続けた疲労が蓄積したのか、早枝子は機嫌が悪かった。
(……何でバスが走らないのよ、ほんと、腹立つ。)
疲労は愚痴となってあふれ出す。
(ハルカはひとりでさっさと帰っちゃうしさぁ、ひどいよ……。)
早枝子の愚痴は親友の八奈美夏(ヤナハルカ)へと飛火した。

――八奈美夏は早枝子と同校の1年生で、クラスも部活も一緒だった。
自宅は朽ノ畝の東方、呪灰町の三頭にあり、片道1時間を掛けて高校まで通っている。
毎朝定時に早枝子宅を訪れ、早枝子と並んで登校することが日課となっていた。
美夏は父親と二人暮しであるが、ふたりに血の繋がりはない。
父親は呪灰町の歴史民俗資料館の職員である。
936否、妄想家!:2007/02/05(月) 19:18:00 ID:VRaU6VC+

                       −B−
早枝子は美夏のことが大好きだった。
毎朝きっかり同じ時間に迎えに来てくれて、登下校を共にしてくれることへの感謝もあるが、
何より美夏自身に大いに心惹かれるのだ。
決して楽とは言えない境遇にあって、それをおくびにも出さず、美夏はいつも微笑んでいる。
清楚で優しく、落ち着いていて、まるで母のような慈愛にあふれ、傍にいると心が安らいだ。
本当に同い年かと疑うほどの豊かな母性の持ち主なのである。

――可笑しな話、早枝子は美夏と目が合うと時々気を失いそうになる。
それは自分の体に美夏が入り込み、心の内を見透かされるような不思議な感覚だった。

―――朽ノ畝水田地帯、
早枝子は美夏のことを考えていた。
本当なら今この瞬間、この暗い夜道には、ふたりの明るい笑顔が花開いているはずなのだ。
(……ハルカ、どうしてるかなぁ……。)
早枝子は美夏の今までにない意外で唐突な言動を思い返していた。
937否、妄想家!:2007/02/05(月) 19:23:30 ID:VRaU6VC+

                       −C−
―――――遡ること数時間前―――――

――早枝子は音楽室にいた。
部活の練習が終了したのはぴったり16時。
解散後はそれぞれが思い思いに過ごし、帰宅する者、遊びに行く者、居残る者と様々だった。
早枝子は美夏と共にそのまま音楽室に残り、部活の仲間と一緒に談笑に耽っていた。

会話の主導権はほとんど早枝子が握り、音楽室には早枝子の笑い声が一際大きく響いていた。
美夏は終始聞き役に徹し、早枝子の楽しそうな様子を見つめながら、嬉しそうに微笑んでいた。

そんな中、1時間ほどが過ぎた頃であろうか、美夏の目付きが一変した――。
一体何を捉えたいのか、目の焦点が全く定まらなくなり、眼球が小刻みに震えだしたのだ。
だが、美夏は取り乱すことなくゆっくり瞼を閉じると、痙攣が治まるまでじっと待ち続けた。

この時、美夏に起きている異変に気付いた者は、早枝子を含め誰ひとりとしていなかった。
938否、妄想家!:2007/02/05(月) 19:28:00 ID:VRaU6VC+

                       −D−
――と、今まで沈黙を守っていた美夏が突然に言葉を発した。

「……わたし、帰る。」

「え?」
早枝子は美夏が口を開いたことに驚き、そして、その言葉の主張の強さに戸惑った。

「ハルカ? どうして……。」
美夏は早枝子が理由を尋ねる隙も与えず、あっという間に帰り支度を整えると、

「みんな、ごめんね。」
皆に一言謝り、

「……サエちゃん、ごめんね…………、バイバイ!」
早枝子に別れを告げて、音楽室の廊下へと消えていった――。
939否、妄想家!:2007/02/05(月) 19:32:00 ID:VRaU6VC+

                       −E−
早枝子は美夏らしからぬ、その余りに唐突な言動に呆然となり、
風のように去ってゆく美夏の後ろ姿を、ただただ黙って見つめるしかなかった。

「……うん、じゃぁ……ね。」
別れの言葉が無意識のうちに口から零れた。

引き止める理由もないし、恐らく引き止めても無駄だろう――そう思った。
早枝子は美夏の後ろ姿に強い意志を感じ、美夏という確かな“個”を初めて見た気がした。

――美夏は大空を漂う真っ白な雲だった。
ふんわり柔らかく、ゆったり穏やかで、いつも気持ちよさそうに宙を泳いでいる。
そこにいるけど、そこにいない……、目に見えるけど、触れられない……、
触れようと手を伸ばせば、そのまま突き抜けてしまいそうな……そんな感覚――。

     ――バイバイ!――

早枝子は大空から真っ白な雲が消えた気がした……。
940否、妄想家!:2007/02/06(火) 20:43:30 ID:WIUcLZYm
                       −F−
―――――再び、県道88号線上―――――

――朽ノ畝水田地帯、
早枝子は美夏に電話しようかどうか思い悩んでいた。

(……やっぱり考えすぎかなぁ。)
美夏が音楽室を去った後、その場にいた部活の仲間は口々に心配ないと早枝子に告げた。
――明日また会えるから――と。

(でもなぁ…………。)
早枝子は携帯電話を取り出すと、アドレス帳から美夏の名前を抜き出した。
画面には教室で撮った美夏の笑顔と、「10桁」の番号が映し出された。
画面に映る番号は携帯の番号ではなく、三頭にある美夏の自宅の番号だった。

「ねぇ、ハルカ、携帯持たないの?」
早枝子は美夏に何度この台詞を吐いたことか。

「――うん。」
美夏の答えは一言、いつも一緒だった。
941否、妄想家!:2007/02/06(火) 20:48:00 ID:WIUcLZYm
                       −G−
画面に映る美夏の笑顔を見ているうちに早枝子の頬が緩んできた。
(……よし、1回だけ。)
早枝子は意を決したように[発信]ボタンを押した。

――プップップップップッ、ピィ―――――――――――
(あれ?)
早枝子の携帯電話から聞き慣れない音が聞こえてきた。
[終了]ボタンを押し、もう一度初めから掛け直す。

――プップップッ、ブブブブブブブブブブブ………
(……だめだ、何で?)
アンテナの受信状況を見たが、3本の線がしっかり表示されていて問題はなかった。
※(やっぱり壊れちゃったのかな……。)

早枝子は美夏へ電話を掛けることを諦めた。
(そうだよね、明日また会えるし……。)
そう自分に言い聞かせると、携帯電話と共に美夏の笑顔を胸にしまいこんだ。

※ 別話:「怪音」
942否、妄想家!:2007/02/06(火) 20:51:00 ID:WIUcLZYm
                       −H−
――朽ノ畝水田地帯・六地蔵前、
早枝子が校門を出てから1時間半が過ぎようとしていた。

(あぁ、ようやくお地蔵さんの前だ……。)
早枝子の前に六体の地蔵が現れた。
六体の地蔵は地元民から六呂地蔵(ロクロジゾウ/六音地蔵・抜首地蔵)などと呼ばれ、
朽ノ畝に伝わる七不思議のひとつとして数えられていた。
夜な夜な歩き回っては不思議な六音(十二律のうちの陰音・呂)を奏でる――だとか、
首が伸びては外れ、蛇(ろくろ首)のように地面を這いだす――などの噂があるのだ。

県道88号線はこの六地蔵から大きなS字を繰り返し、やがて呪灰町の中心へと続いてゆく。
早枝子の自宅はそのS字の途中にあった。

目標地点に近づき、やっと終わりが見えたことで、早枝子の足取りには力強さが戻ってきた。

(――おし!)
早枝子はひとつ気合を入れると、蛇のようにうねる道を軽快に歩き出した――。

                      −前説 終−
943否、妄想家!:2007/02/06(火) 20:55:15 ID:WIUcLZYm

−補足−
・楠井早枝子と八奈美夏が『現世』で出会うことは二度とありません。
・本当は8月1日から8月3日まで部活休暇、翌4日からは夏合宿の設定でした。

・楠井早枝子が歩いている理由は自転車のパンクです。
うまいこと差し込めなかったので別話:「怪音」に書きます。
「怪音」は文章をかなり削りました。行間を読んでください。
944なまえをいれてください:2007/02/06(火) 20:59:48 ID:2qwjI7Mz
妄想ちゃん名前変えたのか。
4月下旬に2のBESTが発売されるようですな。
1のベスト版を探しているんだが取り扱う店が少ないんだよね。

売れてるんだか入荷が少ないんだか・・。
945否、妄想家!:2007/02/06(火) 22:18:11 ID:WIUcLZYm
>944
スレの終わりの方でもう一度だけ変わります。この名前はお遊びなので。

そうねぇ、1のベスト版かぁ。
ベスト版には一度も手を出したことがないから、注意深くは見てないけど、
最近見た記憶はないですね。やっぱり、入荷が少ないんじゃないでしょうか。
946否、妄想家!:2007/02/06(火) 22:21:30 ID:WIUcLZYm

楠井早枝子(クスイサエコ)  双縄町/母渡子高校/『現世』/ 7月31日/17:54:21

                      『怪音』


                        一、

――母渡子農林高等学校・校庭、
楠井早枝子が帰宅の途に就く頃には、時計の針は18時を回ろうとしていた。

「わたし、そろそろ帰ろうかな……。」
誰かが発したその一言がきっかけで、音楽室に残っていた全員が帰宅することとなった。
音楽室を後にし、昇降口で互いに別れを告げると、それぞれの家路へと向かって歩き出す。

早枝子は自転車置場へと向かいながら、夕陽の様子を窺っていた。

(……うん、何とか間に合いそうだ。)
自転車を飛ばせば明るいうちに帰宅できる――早枝子はそう判断した。

だが、早枝子の判断は校門をくぐる前に脆くも崩れ去ってしまう。
947否、妄想家!:2007/02/06(火) 22:24:30 ID:WIUcLZYm

                        二、

自転車置場から自転車を引き出し、サドルに跨り、いざ出発――

――ガクン!

(え?)
尾骨から進入した衝撃が脳天を突き抜けた。
(うそぉ……。)
原因はすぐに分かった。その何ともいえない妙な感覚は今までにも何度か経験している。
早枝子は自転車から降ると、後輪の前に屈みこんだ。
(……あぁ、やっぱり。)

――パンクだ。

(どうしよう……。)
早枝子はパンクした後輪を見つめながら、訳もわからず自転車を前後に動かし始めた。
(学校には置いて行けないし、修理するには駅まで行かないとだめだし……、うぅん……。)
色々と思案した挙句、自分で押して帰ることを決意した。
948否、妄想家!:2007/02/06(火) 22:33:00 ID:WIUcLZYm

                        三、

                                        ――17:58:45…
(とりあえず、家には連絡しておこう。)
早枝子はバックから携帯電話を取り出すと、アドレス帳から自宅の番号を抜き出した。

No.001[****‐***‐****]・[発信]

――プップップッ………、プルルルルルル………、プルルルルルル……、プッ――

「……ぁい、もしもし、クスイです。」
電話口に出たのは早枝子の母親だった。
                                        ――17:59:04…
「あ、お母さん? サエコだけど……。」
「え? あ、サエコ、どうしたの?」

「うん、これから帰るんだけどさぁ、自転車がパンクしちゃって……。」
「パンク? あらぁ、たいへんねぇ。」
本当に心配してくれているのだろうが、母親の物言いが何故か早枝子の気に障った。
949否、妄想家!:2007/02/06(火) 22:37:30 ID:WIUcLZYm

                        四、

「……うん、でさぁ、ちょっと遅れるから。 何時になるかわからないけど……。」
「え、危ないんじゃないの? お父さんに迎えに行ってもらう?」
――先ほどの決意が早くも揺らぎ始めた。
                                        ――17:59:27…
「ちょっと、お母さん。 わたし高校生だよ、平気だって。」
(……平気じゃない。)

「でも、ほらぁ、あの道は夜になると真っ暗になるし、怖いでしょ?」
「だからぁ、大丈夫だって。」
(……大丈夫じゃない。)

「お父さん、お祭りに出掛ける準備しているけど、まだ家にいるからお願いしようか?」
「え、お祭り!?」

すっかり忘れていた――。
今日から8月2日までの3日間、呪灰町の止衰神社で「止衰祭り」が開かれるのだ。
妹の瓜之子(カノコ)がこの日をどれほど待ち焦がれていたことか。
950否、妄想家!:2007/02/06(火) 22:42:31 ID:WIUcLZYm

                        五、

                                        ――17:59:40…
「あぁ、そっかぁ。 お祭りかぁ……、お祭りねぇ……、お祭り……。」
(迎えに来てもらったついでに、お祭りに行ってもいいなぁ。 どうしよっか……。)

「……ぅん、でも、いいや、歩いて帰る。」
(何だ!? わたしのこの頑ななまでの意地は……。)
                                        ――18:00:00…
「そぉ、じゃぁ、気をつけぇ―――――――――――――――」
「…………ゥゥゥォォォォォ―――――――――――――――」
(――ん?)
母親の音声が間延びした状態で固まった。

「もしもし、お母さん? もしもし?」

(あれ? 電波が悪いのかな……。)
早枝子は携帯電話のアンテナを何度も伸縮させた。
951否、妄想家!:2007/02/06(火) 22:47:30 ID:WIUcLZYm

                        六、

「もしもし、お母さぁん、もしも――し。」
(……だめだ、何でだろう。)
今度は携帯電話を激しく上下に振りだした。

「もしも――し、お母さ――ん。 お――い。」
(あれぇ? 切れてるわけじゃないし……、まさか、壊れた?)
早枝子は携帯電話を叩き始めた。
                                        ――18:00:31…
「――――――――――ぇて帰ってきなさいね。 わかった?」
「――――――――――ォォォ………………………………… 」
「もし……、あぇ?」
(あれ? つながった……。)

 
「……もしもし、サエコ? もしもし、聞いてるの?」
「あ……、うん、聞いて……る。」
(……いまのは何?)
952否、妄想家!:2007/02/06(火) 23:00:00 ID:WIUcLZYm

                        七、

――音声は30秒近く止まったままだった。
それにもかかわらず、電話が再び繋がるのと同時に母親の言葉も繋がった……。
(……どういうこと?)

「ねぇ、お母さん。いま何か……、電話おかしくなかった?」
「え? そぉかしら。 どうして? 普通じゃないの?」

「うそ、いま変だったよ。 1回電話切れたじゃん。」
「えぇ? 切れてないでしょ。 こうして話しているじゃないの。 おかしなこというわねぇ。」
(……うん。そうだ、確かに……。)

早枝子はだんだんと頭が混乱してきた。
(でも、1回切れ……、あ、そういえば……。)

「ねぇ、お母さん、何か後ろで変な音してなかった?」
「……変な音? あぁ、何か聞こえたけど。 何だろう、犬じゃないかしら。」
(……いぬぅ?)
953否、妄想家!:2007/02/07(水) 21:29:30 ID:JRmmaGTx

                        八、

「何だか今日はパトカーがよく走ってるみたいだから、どこかの犬が吠えたんじゃないの?」
(……あぁ、そういうことか……、確かに遠吠えのようだった……。)

「とにかく、本当に気をつけなきゃだめよ。 外も騒がしいみたいだし……。」
「はいはい。 わかりました。」

「お母さんとお爺ちゃんは家にいるから、何かあったらすぐ電話しなさいね。わかった?」
「……わかったから!」
早枝子は母親の心配ぶりに煩わしさを覚え語気が荒くなった。

「じゃぁ、いい? 切るからね。」
「はい、じゃぁ。」

ピッ――

早枝子は携帯電話を切った。
(ほんと、しつこいんだから。 カノコならまだしも、わたしはもう子供じゃないっての。)
954否、妄想家!:2007/02/07(水) 21:33:16 ID:JRmmaGTx

                        九、

早枝子は母親に対する苛立で、先ほどの不可解な電話のことなどどうでもよくなった。

(……さて、歩いても1時間は掛からないだろうし、そろそろ行きますか。)
早枝子は夕陽に映える真っ赤な校舎を後にし、足下から伸びる漆黒の影法師を追い掛けながら、
県道88号線へと消えて行った――。

……早枝子は知らない。

自分に救いの手を差し伸べてくれる者がいることの有難さを……。

自分のことを気遣い、心配してくれる者がいることの喜びを……。

心から助けを求めたとき、己の命を投げ出してでも自分を救ってくれる者がいるということを……。

無償の愛を持って自分を守ってくれる者がいるということを……。

――そして、その者が既にこの世から消えようとしていることを……。

子供の早枝子は何も知らない……。

                     −『怪音』終−
955否、妄想家!:2007/02/07(水) 21:35:30 ID:JRmmaGTx
ちょっと文章を削り過ぎたため、投げ遣りな感じになってしまいました。

−補足−
・楠井早枝子の妹、楠井瓜之子は >>831-839 の『わたあめ』に登場済みです。
姉妹だけに仕舞い(終わり部分)は同じような文体にしました。
・18:00:00の怪音は“何か”の鳴き声です。サイレンではありません。
・家族構成は、父・母・祖父・サエコ・妹、の五人家族です。
・次は本編です。まだまだ妄想は尽きませんが、それで終わりにしようと思います。
956否、妄想家!:2007/02/08(木) 19:30:00 ID:AknIBeco

                         楠井 早枝子

               呪灰町/朽ノ畝/2008年 7月31日/19:30:00


                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

――朽ノ畝水田地帯・常夜燈付近、

(……何か、おかしい……。)
楠井早枝子は六呂地蔵を過ぎた辺りから、ある違和感を覚えていた。
眼前に伸びる道を歩き進むほどに、周囲空間の闇がどんどんと濃くなってゆく気がするのだ。
沿道に立ち並ぶ電灯はどれもが弱々しく明滅し、灯下には大量の虫が無音で飛交っている。
先程まで聞こえていた蛙の合唱も、今はまったく耳に届いてこない。
まるで闇という化物が音を呑み込みながら大きく成長しているようだった。

――と、早枝子が何かに気付いた。
(……うわぁ……。)
歪んだ表情からうめき声が漏れ、思わず身体が後退る。
道の先、山林側の沿道に立つ常夜燈、そのすぐ傍の電灯の灯下に巨大な黒影が聳えていた。
957なまえをいれてください:2007/02/09(金) 17:57:30 ID:DtlpNFhn

                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の弐

(……うそでしょ、あんなに……。)
巨大な黒影は陽炎のようにゆらゆらと揺らめき、竜巻のようにぐるぐると渦巻いていた。
電灯の前に停滞しながら分裂と融合を繰り返し、その姿をどんどんと膨張させている。
まるで影という1つの生命体が光を喰らいながら大きく成長しているようだった。

(やだ、どうしよう……。)
早枝子の歩みが完全に止まった。
その巨大な黒影の正体が分かっているだけに、足がまったく前に進まない。
早枝子の足を止めたもの、微光の中で不気味に蠢動する巨影、それは――

――大量の揺蚊(ユスリカ)だった。

極小の揺蚊が群れ固まって、巨大な蚊柱(カバシラ)を作りあげていたのである。
朽ノ畝の水田や用水路などで一斉に羽化したのだろうが、早枝子はこれほど大量に飛交う揺蚊を、
今まで一度も見たことがなかった。
958なまえをいれてください:2007/02/09(金) 20:37:01 ID:DtlpNFhn

                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の参
(……うぅ、気持ちわるいよぉ……。)
早枝子は不気味に蠢く蚊柱を見つめながら電灯の向かい側――、水田側の沿道へと移動した。
なんとなく後ろを振り返り、しばらく考え込んだかと思うと、前を向いて溜め息をつく。

(はぁ……、あるわけないか……。)
巨大な蚊柱を何とか回避できないかと、別の道を探してはみたが、そんな道などあるはずなかった。
自宅に通ずる道は眼前に伸びる県道88号線、ただ1本なのである。
他に進むべき道がないことを改めて認識し、早枝子は歩み出す覚悟を決めた。

――ふと、早枝子は妙なことに気がついた。
再び後方を振り向くと何かを確認する仕草をとり、今度は前方へ向き直って首をかしげる。

(……何で、あそこだけなんだろう……。)
不思議なことに、巨大な蚊柱は常夜燈のすぐ傍の電灯にしか立っておらず、
来た道、行く道、いずれの灯下にもそれほどまでに巨大なものは存在しなかったのである
959なまえをいれてください:2007/02/09(金) 22:40:00 ID:DtlpNFhn

                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の四
(まぁ、いいか……、そんなこと……。)
早枝子はポケットからハンカチを取り出し、そのハンカチで口と鼻を包み隠すように押さえると、
巨大な蚊柱に向かってゆっくりと歩き始めた。

一歩一歩と近づくにつれ、その全貌が次第に明らかになってくる――。

(――ひゃぁ、すごい、あんなのありえない……。)
その異常なまでの大きさを目の当たりにし、早枝子は次第に恐怖を感じ、吐き気を催してきた。
蚊柱は早枝子の身長を優に超える高さを持ち、近づいた人間を一瞬で喰らい尽くすかのような――、
そんな殺気を帯びている。
早枝子は蚊柱を凝視しつつ、いつでも駆け抜けられる体勢を取りながら徐々に間合いを詰めてゆく。

.......50メートル.......45メートル.......40.....35.....30...

しかし、蚊柱との距離が縮まるほどに早枝子の体は強張り、足はどんどんと竦んでいった
960なまえをいれてください:2007/02/10(土) 17:40:45 ID:eJFJoApY

                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の伍
.....29.....28.....27...26...25...

(……え!?)

25メートルほどの距離に近づいた所で、早枝子の足がピタッと止まった。
早枝子の目が蚊柱とは別の“何か”を捉えた。
(……な……に、あれ……。)

蚊柱が聳える電灯の奥――、ちょうど常夜燈の辺りの空間が不自然に揺れ動いている。
まるで炎熱が充満しているかの如く、そこ一帯の空気がゆらゆらと揺らめいているのだ。

(……よく……見えない……。)
早枝子は目を細め、一生懸命にそれが“何か”を探ろうと試みるが、一向に見えてこない。
何度もまばたきを繰り返すが、それでもやはり見えてこない。
空間の中の景色が歪んでいるせいか、次第に異世界を見ているような奇妙な感覚に囚われてきた。
961なまえをいれてください:2007/02/10(土) 17:44:15 ID:eJFJoApY

                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の六
(――あ。)
常夜燈の辺りで揺らめいていた“何か”が突然動き出した。

早枝子は慌ててその場にしゃがみ込むと、不安定に揺れ動く自転車を左手1本で必死に支えながら、
“何か”の様子を息を凝らして見つめ始めた。

(……もしかして……幽……霊?)
早枝子は心霊・霊魂といった非現実的な存在を信じたことはないし、今までに見たこともなかった。
だが、眼前で揺らめく“何か”を見て、幽霊だと思い込んだ途端、言い知れぬ恐怖が襲ってきた。
全身の毛は一瞬で逆立ち、顔はみるみるうちに青ざめてゆく。

早枝子の目は“何か”に完全に釘付けになり、巨大な蚊柱のことなど、もはや眼中になかった。

“何か”は常夜燈の背後の茂みから溢れるように路上へ飛び出すと、すぐ傍にある電灯に近づき、
そこに聳える巨大な蚊柱を“何か”で包み込んだ。
962なまえをいれてください:2007/02/11(日) 00:45:01 ID:u9BGGBmM
もうすぐ終わりか・・・。
種子島沖で漁船が行方不明だってね。
なんとなくサイレン2を連想してしまいます。
963なまえをいれてください:2007/02/11(日) 10:41:30 ID:zCbijsig

なんか……飽きてきた……。

“何か”の妄想バレ= >>902-905


終了条件:「蛇墜児」を「朽ノ畝の水田」に誘き出す。(という妄想もありました)

・「蛇墜児(ミズチ)」の姿は肉眼ではほとんど見えませんので、水稲が揺れる水田地帯に誘い込み、
その姿を水田に映しこませないと倒せません。目が退化しているので「幻視」も無効です。
・蛇がもつピット(赤外線探知器官)のような器官で、相手の体温を感じ取ります。
・全身から「冷気」と「熱気」を放出します。使い分けて「蜃気楼」を作り出します。
964なまえをいれてください:2007/02/11(日) 10:43:30 ID:zCbijsig

・「蛇墜児」は恒温動物と変温動物が融合した「超温動物(造語)」です。
・「蜃気楼」作り出して姿を隠し、「冷熱変化」と「ピット」を使って襲い掛かります。
・「クセ(化物)」と「辰谷弥々子(人間)」の子供ですので人間的な一面も持っています。

妄想の中では3日目――「現世」と「常世」が融合した「異界(真紅に染まった世界)」の水田で
「須田」や「永井」のような奴とドンパチやっているんですけどねぇ。(唯一のアクションステージ)

関連妄想:「絶死」・「忘れ形見」(書けませんけど……)
965なまえをいれてください:2007/02/11(日) 10:52:00 ID:zCbijsig

                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の七
――と、次の瞬間、今までそこに聳えていたはずの巨大な蚊柱が跡形もなく消え失せた。

一瞬の出来事に、早枝子は一体何が起きたのか理解できなかった。

早枝子は未だそこに居る“何か”を捉えつつ、周囲の状況を窺う。
すると蚊柱があった電灯の下、薄明りに照らされたコンクリートの道路上に1つの黒山ができていた。

(……え、うそ……。)
早枝子は理解した。
先ほどまで、あれだけ勢いよく飛び交っていた揺蚊が、“何か”に触れた途端に死滅してしまったのだ。
早枝子は口と鼻を覆っていたハンカチを隙間なく、そしてより強い力で押さえつけた。
火山ガスのような毒性を持った気体かもしれないと考えたからだ。

しばらくすると、電灯の前に居た“何か”が再び動き出し、水田に向かって道路を横断し始めた。
早枝子の眼球が“何か”に釣られるように、左から右へとゆっくり動いてゆく。
966なまえをいれてください:2007/02/11(日) 11:00:00 ID:zCbijsig

                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の八
(……さ、さむ……い。)
早枝子は“何か”の姿を目で追ううちに、寒さで体がぶるぶると震えてきた。
それは恐怖という感情からくる寒さではなく、気温の低下からくる本物の寒さだった。
“何か”が早枝子の前で揺らめくたびに、とてつもない冷気が早枝子の体を吹き抜けてゆくのだ。

(は、はやく……はやく……。)
早枝子の手足はみるみるうちに冷たくなり、ハンカチで押さえた口と鼻からも冷気が進入してくる。
“何か”が道路を完全に横断しきるまでには数十秒を要した。

“何か”が水田へと消えてゆき、周囲の温度が上昇しても、早枝子の体はがたがたと震えたままだった。

(……な、何なのよ……、い、意味わか、わかん……な……い。)
早枝子は小さな体をより小さく縮こませ、その場に10分近くへたりこんでいた。
目の前で起きたことが頭の中で整理つかず、ついには放心してしまったのだ。
967なまえをいれてください:2007/02/11(日) 11:06:30 ID:zCbijsig

                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の九
10分後、早枝子はようやっとのことで立ち上がると、県道88号線を自宅へ向かって再び歩き出した。
しかし、その足取りは鉛のように重く、全身はとてつもない疲労感に包まれていた。

早枝子は恐怖が蘇らないよう、“何か”が居た常夜燈付近から目を逸らし、俯きながら進んでいった。

――と、早枝子の視界の左端に赤いものが映った。
反射的に視線がそちらに引っ張られ、早枝子は思わず顔を上げてしまった。

(――うわぁ!)
早枝子は視界に飛び込んできたものに衝撃を受け、驚きの余り自転車のハンドルを放し、
沿道の草地に片足を突っ込んでしまった。

――ガシャァァァァァン!!!

自転車は激しい音を立てながら転倒すると、籠の中の荷物を道路上にぶちまけた。
968なまえをいれてください:2007/02/12(月) 17:43:22 ID:x/EoQkAV
                 終了条件1:「止衰神社への道」へ到達。

                            其の十
――早枝子の目の前に真紅の道が現れた。
常夜燈の横には今は使われなくなった山道があり、その道が血の色に染まっていたのだ。

(……血……かな……。)
早枝子はゆっくりと自転車を起こし、散らかった荷物を拾いながら、その色が何なのか見定めようと、常夜燈に近づいていった。

(……何だろう、この……匂い……。)
仄かに甘い匂いが早枝子の鼻腔をくすぐった。
山道の奥から吹きぬける風と共に、何ともいえない心地よい香りが漂ってくる。

(あ……これ、花だ……。)
山道を真紅に染め上げていたもの、それは一面に咲いた真っ赤な花だった。
何かがその上を摺り歩いたのだろうか……、真っ赤な花はほとんどが潰れされていた。
969なまえをいれてください:2007/02/12(月) 17:45:37 ID:x/EoQkAV
(こんな花、昨日まで見なかったけど……。)
早枝子は初めて見る花に興味津々の様子で、潰れた花の中から、形の崩れていない花を探し始めた。
(……あ、あった。)

◎ 拾う 『蛇血ノ華(カガチノハナ)』を手に入れた。(>>896-898

早枝子は真紅にそまった山道を眺めながら、その道がどこまで続いているのか気になった。
道があることは以前から知っていたし、今は利用されなくなった廃道だということも分かっていた。
親からはその道には熊が出るから絶対に足を踏み入れてはいけないと教えられている。
(……この先、何があるんだろう……。)
早枝子は山道を覗き込むが暗闇の中では何も見えない。
――ゥゥゥゥゥン。
(うわっ!)
突然、早枝子を大量の虫が襲った。手で必死に払いながら後方へ飛び退く。
(また、あの虫だ……。)
早枝子を襲ったのは先ほどの揺蚊だった。
山道の奥から再び大量に押し寄せてきたらしい。
970なまえをいれてください:2007/02/12(月) 17:48:18 ID:x/EoQkAV
揺蚊といい、花といい、そしてあの“何か”といい、すべてが山道から現れる。
早枝子はその先に何があるのか気になりつつも、早いとこ退散した方がようさそうだと考え、
常夜燈を後にし、家路を急いだ。
早枝子の手には8枚の花弁をつけた真紅の華が握られ、県道には甘い残り香がいつまでも漂っていた。


……朽ノ畝の廃道、
県道88号線とぶつかるように、また同線を起点とした廃道が朽ノ畝には2本ある。
1本は山の起伏に沿って走る山道である。沿道には常夜燈が立てられ、夜間の通行も可能であった。
1本は山に穴を開けたトンネル道である。車一台分が通れる程の幅と高さしかない。
2本は旧消神村の平野部と山間部の集落を繋ぐ重要な交通網であったが、いずれも1976年に閉鎖された。


早枝子は自宅まで後300メートル程の距離までやってきた。
左手には杉林があるのだが、カーブを曲がりきるとその杉林の陰から自宅がひょっこり顔を出す。
971なまえをいれてください:2007/02/12(月) 17:51:06 ID:x/EoQkAV
楠井家は朽ノ畝の旧家であり、代々この土地を守ってきた由緒ある家柄である。
居宅は朽ノ畝の水田の中にあり、県道88号線からは水田を突っ切る形で私道が走っている。
沿道に建てられた楠井家含めた4件の家がその道を利用している。
私道はそのまま真っ直ぐ突き進むと、やがて国道666号線へとぶつかる。

カーブを曲がりきった早枝子の目の前に自宅が姿を現した……
(……あれ、見えない……。)
道が開け、広大な水田の中に現れるはずの早枝子の家が見えない。
(え……、どうして……。)
普段であれば玄関には明りが灯り、居間の光も外に漏れているはずなのだ。
ひと目で自宅がそこにあると分かり、早枝子はその光に導かれるようして自宅に向かうのだ。
しかし、今日は玄関の明りも灯っていなければ、居間の光も外に漏れていない。
しかも早枝子の家だけならまだしも、隣家3件すべてが真っ暗なのだ。
972もう、よそうか……。
やべぇ、マジで苦痛だ。