GCの大本命「マリオサンシャイン」2面

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296なまえをいれてください
「まったく未知なものに触れる体験をした奴は幸せだな」

 時々、こんなことを思うことがある。たとえば、携帯電話。たとえば、インター
ネット。ある発明(大げさだな)の登場「以前/以後」ではその感動も、驚きも、
生活への影響も格段に違う。歴史的にも自動車の以前/以後、テレビの以前/以後
などはもっとも劇的な変化が世界に起きてきたはずである。

 本題に入ろう。
 『スーパーマリオ64』は従来の2D横スクロールのアクションゲームから完全に飛躍
した、3Dアクションゲームだ。当時、スーパーファミコンに代わる任天堂の次世代機
として登場したのがNINTENDO64。その性能を最初からフルに生かし、まったく新しい
マリオを作る、これがクリエイター宮本茂さんの挑戦だった。
 このゲームに触れたときのショックはいまでも覚えている。3Dスティックといわれ
るピンのようなコントローラをぐりぐり動かすと、マリオは画面の奥のほうへ走って
いく。その後、振り返って手前に戻ってくると、マリオは大きくなる。壁の向こうに
行けば隠れるし、橋から飛び降りれば水中を潜り、くねくねと曲がる滑り台を無理や
りショートカットすると、あっという間に谷底へ落ちる。とにかく想像を絶する「新
しさ」がある。

297なまえをいれてください:02/02/16 13:04
「見たこともない!」

 まさに経験したことのない、箱庭の中にいるような衝撃だった。しかし、本当の
衝撃は、ここから始まる。僕は当時、とあるゲーム雑誌の編集部で働いていて、この
『スーパーマリオ64』の攻略記事を担当した。あまり攻略記事をやらないそのゲーム
雑誌で、いったいどんなことができるのか、あれこれ悩んでもいた。最大の難関は、
3Dがゆえの立体的なマップ、をどう扱うかだった。それまでのゲーム雑誌の攻略とい
えば、みなデータの表組みか2Dの平面マップがお決まりだった。自分もファミコン時
代にはドラクエのダンジョンマップをノートに書いたりしていた。けれども、今回は
格が違う。ある意味、宮本さんからの有象無象のゲーム編集者に対する「挑戦」でも
あったのかもしれない。「スーパーマリオ64、攻略できるならしてごらん」そんな声
が聞こえて来そうだった。
 
僕はいつも、そのゲームに出会った感動をエネルギーに記事を作っている。少なく
ともゲームソフトそのものを解析するのも仕事だが、それだけでは内にこもってしま
い、広がりのある面白い記事は書けない。そこで企画や切り口が必要になるのだが、
今回僕らが取った行動は、なんと「マップを立体造形で作る」というものだ。『スー
パーマリオ64』のそれぞれのステージマップは異常ともいえるほどの完成度を持って
いた。「テレサのホラーハウス」という洋館を舞台にしたステージなどは従来のよう
に上から見た見取り図イラストを用意すれば済むのだが、「さむいさむいマウンテン」
「たかいたかいマウンテン」などの山型のステージは上から見ようが、横から見よう
が、完全なマップとはならない。
 
いったい誰がこの立体造形を安価で作ってくれるのか。
 これも偶然の産物かもしれないが、たまたま東京に出てきてまさにこれから修行し
ようとしていたとある粘土クリエイターと出会ったことで光明が差し、編集者、ライ
ター、粘土クリエイター一丸となって(しかも会社の会議室を一週間借り切って)
この『スーパーマリオ64』の攻略に挑んだのであった。
 まったく未知の世界を解析していくのは、楽しくも地獄の日々だった。夏の暑い
深夜にもかかわらず、会社のエアコンは切れてしまう。その猛暑の部屋で攻略班は
2名3チームで入れ替わり立ち代り、マップを分解していく。たとえば壁の高さはマリ
オ何人分だとか、歩幅が何歩だったからここは何cmだとか、高いところから飛び降り
て引っかかる部分は山際でも飛び出しているだとか、ステージの測量とゲームの謎を
同時に解く、という離れ業をやってのけた。ちなみにこの測量時に使われたマリオの
単位はメンバーの中で「1マリオ」とか「5マリオ」とか言われていた。「そこ、あ
と4マリオ分あるよ」とか、そういう感じで使うのだ。
 
そして、編集が手書きで図面にしたマップを立体化するのが、粘土クリエイターの
仕事だった。彼は僕らのリクエストに見事に応えてくれて、土管や高台や宝箱、ピラ
ミッドや敵キャラなどを制作し、絶妙な仕事をこなした。クリエイター自身も、あの
マリオのメルヘンチックな世界を立体化するのが楽しくてしょうがない、という状態
だった。
 部屋が臭くなるほど詰め込み作業を行った僕らは、6ステージ分の立体造形を完成
させた。それがユーザーにとって本当にわかりやすかったかは、判断がつかない。け
れども見たことのないゲームに対して見たことのない記事で応えていく…それが僕ら
のやり方だ。

 
301なまえをいれてください:02/02/16 13:05
それから数ヶ月して、宮本さんと直接お話する機会があった。
 「あの攻略は面白かった。よくやれたよねぇ」
 ゲーム制作者本人に「攻略記事が面白い」と言われることなんて、いままでにあっ
ただろうか?
 いまでこそ、3Dゲームは当たり前の世界になっている。むしろ2Dゲームを探すの
が難しいくらいだ。けれども、僕は知っている。『スーパーマリオ64』以前/以後の
世界がどれほど違うものなのかを。