●2輪ロードレース総合54(MotoGP.SBK.etc.) ●
ms今週号 表紙:ジベルナウ「大治郎は心の中に」
さようなら大治郎特集より
ファウストグレッシーニ インタビュー(全訳)
「打ち砕かれた夢」
〜美しい夢は、かくも残酷な終わり方をした〜
ウエルコム発
ファウスト グレッシーニは、南アフリカに行きたくなかった。
心の中には溢れるほどの悲しみ、そして苦悩。全く行く気が起こらなかった。
しかし、思いきって行ったのだ。加藤ならそれを望んでいただろうから。
「彼の為にここへ来る事にしたんだ。
大治郎は常に何らかの意志を持って行動し、要求してきたライダーだったからね。
彼が実現できなかったことを、これから私達がやっていく事になるだろう。」
小さな声で説明した。しかし、苦悩は隠せない。
「ボックスに戻った時、心がはりさけそうになって、思わずボックスから出てしまった。」
3年間を共に過ごした。
その3年間の出来事が、走馬灯のように繰り返しながら彼の脳裏に映し出されていった。
楽しかった出来事は、メランコリーとして今、彼の目を曇らせている。
続き
「夢は打ち砕かれてしまった。
あまりに美しすぎたストーリーは打ち砕かれてしまったんだ。
それも最悪の形で。最後に交わした言葉、最後の瞬間を思い出すにつけ、
この悲劇は私にとってあまりに生々しく感じられる。
事故後、希望の持てなかった最後の瞬間であっても生きていてもらいたかった。
奇跡のように良いニュースが届くのを待っていたんだ。
ここ3年間で私達の関係はより深まった。計画を2人で話し合った事、
そして何回私達は一緒にゴールを切っただろうか…。
私達チームは彼と共に成長を続けてきた事を感謝したい。
私達に優勝を与えてくれた。
そして…こんな形で終わりが来るなんて信じる事が出来ないんだ。」
「大治郎は内気な青年だった。
良く知っている知り合いだけには打ち解ける事が出来た。
私達もこうして仲良くなったんだ。
最初に知り合った頃は、楽しんだり、踊ったり飲んだりが好きな少年だった。
私達と遊ぶのも好きでね。日本で私達を寿司屋に連れてってくれた事があった。
正直、私達はあまり乗り気ではなかったんだ。
“これ食べてみてよ。あれも味見してみれば?”寿司を無理やり飲み込みながら、
思いっきりイヤな顔をしていた私達を見ながら、彼は笑っていた。
何度かは、彼の事を笑ってしまう事件もあったよ。
彼が洗濯機を使ってる最中に止まらなくなり泡だらけになって、
家中が水浸しになり、チェッキーニ(大治郎のチーフメカニック)を呼んだ事もあった。
続き
こんあこともあった。
大治郎は、オーダーメイドの競技用自転車に乗って勇敢にトレーニングに出掛けたんだが、
たったの25キロ走って自転車を壊してしまった。大笑いしたよ。
うっかり者だったから、何度からかった事だろう。
それに、彼はどんな所でも寝る事が出来たんだ。
寝る事…これが彼にとって1番好きなスポーツだったのさ。
しかし、仕事となると彼は申し分のないプロフェッショナルな青年だった。
2000年から私達とチームを組んで以来、大きな怪我もしなかったし。
1度指を2針、それから手を縫っただけだった。」
「最後のお別れを言う為、日本へ飛んだ時は、私は本当にやりきれない思いでいっぱいだった。
お葬式はあまりにつらく悲しすぎた。
私と私達のチームは悲しみのあまり呆然となった。
私達とは違う、伝統にのっとった葬式に少し慣れてなかったこともある。
私にとっては、彼等の方がより信心深く、その為に強ささえも与えてくれるような印象さえ持った。
私達は、一人息子を失った彼の両親、2人の子供を抱えて1人残された妻のマキコを前にして言葉も出なかった。
私達と共に人生を歩んだのに…。
今もまたそうであるように、いつもその事を考える。
3年間の間にあった色々な出来事をね。
一緒に住む為に彼女をイタリアに連れてきた。
そして結婚し、子供も1人、また1人生まれた。
レースで走り優勝した。
そんな色んな出来事が、あまりに、あまりに早過ぎた。
あっという間だった。
そしてあっという間に終わってしまった…。
今は彼に礼を言いたいんだ。
彼と過ごした間に私達にもたらしてくれた生涯の出来事についてを。」