「万博」こんな物まで没収された!!

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234EXPO'774
幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに俺を育ててくれた。
学もなく、技術もなかった母は、個人商店の手伝いみたいな仕事で生計を立てていた。
それでも当時住んでいた土地は、まだ人情が残っていたので、
何とか母子二人で質素に暮らしていけた。
娯楽をする余裕なんてなく、日曜日は母の手作りの弁当を持って、
近所の河原とかに遊びに行っていた。
給料をもらった次の日曜日には、クリームパンとコーラを買ってくれた。

ある日、母が勤め先から愛・地球博のチケットを2枚もらってきた。
俺は生まれて初めての万博に興奮し、
母はいつもより少しだけ豪華な弁当を作ってくれた。
愛・地球博の会場に着き、チケットを見せて入ろうとすると、係員に止められた。
弁当は持ち込み禁止だと言われた。
母は一瞬躊躇したが、いつもより少しだけ豪華な弁当の中身をゴミ箱に捨てた。
カトキチのエビフライ、俺の母特製の世界一美味しい卵焼き、全部をゴミ箱に捨てた。
そして、母は、お昼に3000円もするチーズと小イモ定食を1つだけ頼んでくれた。
「母ちゃん、お腹空いてないから、お前が全部食べてね」と言って水だけを飲んでいた。
「チーズと小イモ定食、美味しいかい?」と言われた俺は精一杯の笑顔を母に見せた。
「母ちゃんも食べないの?」という事は、決して口にしてはいけない事だと
いつも人の顔色をうかがう様な子供だった俺には分かっていた。

俺は母につらい思いをさせた貧乏と無学がとことん嫌になって、
一生懸命に勉強した。
親元を離れて新聞奨学生として大学まで進み、
いっぱしの社会人になり毎月少しばかりの仕送りもできた。
結婚もして、孫を見せてやることもできた。
そんな母が去年の暮れに病気で亡くなった。
死ぬ前に一度だけ目を覚まし、うわごとのように
「チーズと小イモ定食、美味しいかい?」と言った。
俺は「美味しいよ」と言おうとしたが、涙で最後まで声にならなかった。