首筋に寒気が走ったかと思うと、俺はいつものように、うんざりとするいつもの場所へ飛ばされる事となる。
体が少しずつ消えていく。グロテスクな移動の仕方だが、苦痛は全く感じない。
慣れてしまえばどうという事はないんだ。
視界が開け、いつもの部屋が見えた。真中に黒い球体の置かれた、どこにでもあるような部屋。
俺達の人生を大きく変えた部屋。
「あれ?」
俺は部屋を見るなり、違和感を感じた。いつもとは違う奇妙な空気。
どうしてこんなにいるんだよ……
ざっと数えて50人かそこら。大人数が狭い部屋で窮屈そうに体を捻じらせている。
……妙に変な人間が多い。コスプレなのだろうか?
あんだよ……オタクがどっかで大量死したのか……?
その時、玄野に電流走る。頭によぎった、忘れたい思い出。
泉の手によって行われた新宿大虐殺である。
まさか、また泉が……? いや、奴にはもうそんな事する意味なんてない。
だったら……泉みたいな奴が他に……?
「まーはっはっはっはっはっはっはっ」
突如、部屋にくぐもった声が響いた。玄野は勿論、部屋にいる全ての人間がある一点を凝視した。
ガンツに呼ばれた人間には決して出る事の出来ないベランダに、コスプレをした巨漢が立っていた。
まるで漫画に出てくる小悪党のような雰囲気である。
「お前達はこのワポル様に呼ばれた訳だが……」
窓の向こうでワポルという男は大儀そうに話しながら、ナイフに刺さった肉を食べた。
生肉……? 牛肉……? とにかく大きくて丸い肉だった。
「お前達にしてもらいたい事がある……まあゲームだなゲーム……あーん」
肉に食いつき噛みちぎる。二、三回口を動かすと、また肉を口の中に入れる。
あっという間に肉は無くなってしまった。なんて食欲だ……
「優勝者には褒美をやろう……何でも一つだけ願い事を叶えてやる。本当だぞ?」
ワポルは肉の無くなったナイフを残念そうに見つめた。
頭が、追いつかない。明らかに今までとは違う。あんな存在は今までいなかった。
これもガンツの仕業なのか?
「ワポルとかいうヤツ!!」
ワポルの話を遮るように、一人のコスプレ男が叫んだ。玄野の知る不良共よりも遥かに屈強な体つきである。
「これはいったい何のつもりだ!私にはしなくてはならない事がある!
こんなところで油を売っている場合ではない!」
「まーはっはっはっはっはっ! カバじゃな〜い! そういきり立ったところで同じ事だダイアー。お前には何も解決できんよ」
ワポルはダイアーという男を意気揚揚に蔑み、下品な笑い声を上げた。
「我々に何をさせるつもりだ!」
ダイアーが質問する。その一言にワポルは目の色を変える。
ますますにやついた表情になり、ダイアーを含め、部屋にいる全ての人間を冷酷な瞳でせせら笑った。
「さっさと言え!」
「ダイアー、殺し合いだ。 ここにいる俺様以外の人間で、最後の一人になるまで殺し合って貰う。
さっきも言ったように最後の一人、優勝者には願いを一つだけ叶えてやらん事もない」
支援
ワポルはそう言い、肉のついていない裸のナイフを噛み、食した。
バリバリという金属を噛み砕く怪音が窓越しに聞こえてくる。
ワポルの異常な行動とその言葉によって、部屋にいる全ての人間は大きく揺さぶられた。
呆然とする者、辺りを睨みつける者、恐怖する者。衝撃を受けたのは玄野とて例外ではない。
今までのガンツとは明らかに違う……仲間通しでの殺し合い……
はあ!意味分かんねえし!何なんだよあのワポルって奴……!
「そんな悪行、このダイアーが許すとでも思っているのか!」
「まーはっはっはっはっこのカバが! お前に許す許さんの権限なんぞ最初からない。王様だぞ俺は、あーん」
ナイフの柄の部分まで口に放り込む。人間の出来る業じゃない。
こいつは星人なのか……?
「お前らの足元にデイパックが転がっているだろ? その中に入ってる武器で殺し合ってくれたら、俺様としてはなかなか嬉しいな。
……そうそう、今までに何回かこの部屋に来た事のある連中がいるだろう? 今回はガンツスーツとかもそのデイパックの中に入れてある。
ま、どのデイパックに入っているかは知らんがな。いつものように着れると思ってたか?
まーはっはっはっはっはっはっはっカッバじゃなぁ〜〜〜い!!」
憎たらしい声が部屋に響く。ダイアーを見ると、彼は顔を真っ赤にさせて怒り狂っていた。
「我々が貴様の思惑通り殺し合いをするとでも思っているのか!?」
その言葉を聞き、ワポルは思い出したかのように笑みをピタリと止めた。
「そうだ忘れてた。お前らの中にはもう気づいている奴もいるだろ?首を見てみろ」
俺は驚愕する。首輪が巻かれていた。いつの間にか、知らないうちに。
ふざけんな……なんだよこれ……あのやろぉ
玄野と同じように部屋にいる者は動揺し始める。
「その首輪の中には爆弾が仕込まれているのだ。24時間誰も死ななかった場合は勝手に爆発するから注意するんだな。
あと、6時間毎の定期放送で、禁止エリアという奴が発表される。その禁止エリアに入った奴はもれなく首輪が爆発する。
ま、気をつけるんだな……んー、ちと小腹が……」
玄野の脳裏にワポルの言葉が反復する。爆発、首輪が爆発。逃れられない殺し合い。
ふざけんなよ!ちくしょうあの豚野郎……!!一人しか生き残れないってマジかよ!?
「いっ!?」
玄野を含めた何人かが驚きの声を上げる。
部屋にコンクリートが破壊される音が響いた。ワポルがベランダの壁を噛み砕いたのだ。
「おお、この家はなかなかウマい」
そして美味しそうに顎を運動させて、コンクリートを食した。
星人だ……あいつ間違いなく人間じゃない。
「怪物めッ!」
ダイアーが身を乗り出し、窓の正面に立つ。
「このダイアーがワポルを地獄の淵に沈めてやる!」
ワポルはそんなダイアーをどうでもよさそうに見つめ、ポケットから取り出したボタンを押した。
それと同時に、ダイアーの首輪が電子音を発し始める。
「こ、これは!?」
「まーはっはっはっはっはっ! ダイアー、お前はドラム王国、国王ワポル様に偉そうな口をきいた刑で死刑とする!
首輪の実験もかねてな。まーはっはっはっはっはっ」
ダイアーの近くにいる人間はワポルの言葉でダイアーの首輪が爆発すると気づき、雪崩のように彼の傍から逃げだす。
「ぬううう……だが爆発する前に貴様を倒せばいいだけの事!こんな窓ガラス一枚、このダイアーにとって何の意味もない!
くらえい稲妻十字空烈刃!!」
ダイアーが股を開いた姿勢で、ワポルに向かって飛んでいく。
あ、やばい……
「まーはっはっはっはっはっはっ!カバじゃなぁい!!さっさと死ねダイアー!」
ダイアーの技が窓ガラスを割ろうとした瞬間、ダイアーの体は窓ガラスによって弾かれた。
部屋自体には決して触れられない。玄野は知っていた。
「こ、これは……!?」
次の瞬間、ダイアーの首輪が爆発した。部屋に轟音、そして様々な人間の悲鳴が響く。
「王様の命令は絶対だ!頑張って殺し合え」
ワポルのふざけた台詞を聞きながら、俺は、否、俺達は一斉にいつものような方法で舞台へと飛んだ。
これも、ガンツの仕業なのか……それとも……
【ダイアー@ジョジョの奇妙な冒険 死亡確認】
────バトルロワイアル開幕────