JUMP CHARACTER BATTLE ROYALE 2nd -Part.7-
765 :
OP案二つ目:
おれの名はバベンスキー。いわゆる天才犬だ。
隣にいるのは相棒の廻狂四郎。いわゆる馬鹿だ。
特技はマ……あ、ごめん。これって少年向けのネタじゃなかったな。じゃぁ、剣術にしとこう。
「って、お前は何書いとんじゃ!!」
「あ、いやぁ、何もやることなくてね」
「だからって、んな事書いてんじゃないよ全く……」
突然、おれたちの体を妙な閃光が包んだのは、数分前。
何が起こったのか、天才犬のおれにもわからねぇが、おれ達は突然、薄ら明かりのある部屋に閉じ込められたんだ。
狂四郎と2人で、部屋を見回してみたけど、どこにも出口がねぇ。
天井についてる換気扇が唯一の脱出口にも見えるが、狂四郎曰く鉄格子が外せないので無理らしい。
やれやれ、困ったもんだぜ。
「……な、なぁ……ば、バベンスキー……何アレ?」
「え? 何言って……、って何だよアレ??」
「しらねぇよ、俺も!!」
狂四郎の指差したところに、突然光球が現れる。光球は徐々に形を変え、人型へと変形する。
ただの光だった、それに徐々に色が付き、気が付けばそれは人間へと変貌していた。
「な、なんなんだ……」
狂四郎が驚くのも無理はねぇ、アレは博士が発明したタイムマシンの移動そのものだ。
何で、マシンじゃなくて人間が同じように移動するのか、俺にもわかんねぇけど、とにかく同じなんだ。
どうやら、俺たちも同じ方法でこの部屋に連れ込まれたらしいな。けど、一体何が起こるってんだ?
俺と狂四郎が驚いている間も、次々と光の束が産まれては人間が部屋に運び込まれていく。
全員、反応は似たようなものだ。
って……ちょっとまて、あの娘は……
「おい見ろ狂四郎!! あそこ」
「あ、あれは……」
突然担ぎ込まれた密室の中。
突然現れまくった光の人間。
その中に、たった一人。狂四郎が求めて止まない人間がたった一人。
「し……志乃……」
狂四郎が固まる。
無理もねぇ。北海道を目指して、何ヶ月も追い求めた妻が目の前に突然現れたんだ。
なんて言ったらいいのか、こいつもわかっちゃいねぇ。全くよぉ……
「おい、狂四郎……おい、おいったら……」
固まるだけの狂四郎。
数十メートル先、俺たちの存在に気づかず、ただキョロキョロと辺りを見渡す志乃。
「行けよ、狂四郎!! 何固まってんだ!!!」
「あ……あぁ…………」
狂四郎が志乃に向けてゆっくりと歩き始める。
これが現実か、はたまた夢か。コイツにも区別が付いちゃいねぇ。
そんな瞬間だった。
「全員、その場を動くな」
突然、銃を構えた一人の男が部屋の端から叫ぶ。
銃口を向け、俺たちに動くなと圧力をかけてくる。
(っち……狂四郎相手に銃を使って脅しって……命がいくらあっても足りねぇぞ……
志乃ちゃんの前だから自重すると思うけど、殺されたって責任もたねぇからな)
狂四郎が隣にいる限り、殺される可能性なんて全く考えちゃいないが、殺す可能性は十分注意しないとな。
夫婦が初めて会う場面が血の池地獄で、旦那が殺人鬼なんて志乃ちゃんのショックは計りしれねぇ。
(自重しろよ狂四郎、ただ志乃ちゃんを守るだけじゃ駄目なんだからな)
「とりあえず、動くな……言う通りにしよう」
殺してその場を収める事なら容易い。だけど今は不味い。
俺たちは男の言葉に耳を傾ける事にした。
「よろしい、一人もその場を動かなければ説明はすぐに終わる。
まずは自己紹介からはじめよう。私はジェネラル、ユニオン・テオーペのジェネラルだ。
今日、君たちを集めたのは殺し合いをしてもらうためだよ。フフフフ……」
な、何を馬鹿な事を言ってるんだアイツ。
俺たちを集めるタイムマシン的な技術を持ちながら、それを殺し合いに使うだと?
この場が狂四郎にとってどんな意味を持ってるのか、知ってて言ってるのか?
妻と初めて会ったんだぞ。実世界では見る事も出来なかった女と初めて……その場で殺しあえってのかよ。
「もちろん、突然の事で君たちは何のことか理解してないと思う」
「当たり前だ」
「ほう、君は天才犬バベンスキーじゃないか」
「俺の名前を知ってるとは光栄だね……だが、突然殺しあえって言われて素直に殺しあう奴がいるわけねぇだろ」
「本当に? 例えば、幼年期に差別を受け、特別な殺人訓練を積んだキリングマシーンでも?」
コイツ。俺だけじゃなく、狂四郎の素性まで知ってやがる。
「当たり前だ!! 誰がお前の言う通りにするか」
犬の体でも、噛み付く事ぐらい出来るさ。
狂四郎の手を借りるまでもねぇ。俺がこいつらを噛み殺してやる。
「犬コロの分際で、わたしに逆らうつもりか!」
「馬鹿が、犬の戦闘力は人間より高ぇんだよ!!」
小回りのきく体。圧倒的な咬合力。左手しか使えない人間なんて犬の敵じゃねぇ。
俺がこいつを押さえ込めば、狂四郎が動く理由はない。狂四郎は志乃の前で人殺しをしなくてすむ。
だから頼む。倒れろ、俺の力で倒れろ。
「思ったよりやるようだな、しかしそこまでだ……」
突然、俺の頭に冷たいモノが当てられた……
コイツ、右手がないんじゃねぇ……右手が銃になってんだ。
(引くな、引き金を引くな……引いたら俺じゃなくて、お前が……)
バツン……小さな銃声が、俺の耳に届く。
左下の床に、ほんのり黒い跡が付いている。
銃弾が外れた……外したのはもちろん…………
もちろん、狂四郎だ。
「人の相棒に手を出してんじゃねぇよ」
ま、不味い……
「君が相手をしてくれるのかね、君のようなコンチノ(豚野郎)が……」
挑発するな。相手との力量差もわかんねぇのかよ。
「コンチノ……って僕の事?」
やべ……狂四郎の奴、怒りにかられて殺人モードに入りかけてやがる。
「あんただって、犬を銃殺しようとしただろ?」
抑えろ狂四郎、ここにいるのは俺たちだけじゃないんだぞ!!
「国家反逆病患者がわたしに逆らう気か!!」
だからもう挑発するな。これ以上、狂四郎を怒らせると生きて帰れないぞ。
男が向けた銃口に、狂四郎は走りつめる。
銃が乱射されるが、狂四郎には一発も当たらない。
当たり前だ。
力の差が、子猫とライオン以上に開いている。
銃一本で埋められるものじゃねぇ……
(銃なんか捨てて、今すぐ謝れ。そして逃げろ。それがお互いのためだ。気づいてくれ2人とも)
不幸中の幸いに、志乃ちゃんはこの騒ぎから離れたところにいる。
何人かの男たちが行方を見守りつつも、女たちを騒ぎの中心から離したからだ。
だから、志乃ちゃんはここにいる男が狂四郎だと、旦那だと気づいてねぇだろう。
だが、それも時間の問題だ。いずれ気づく、こんな密室で戦ってたら、その男が誰かぐらい志乃ちゃんだって、いずれ気づく。
俺の心配をよそに、ジェネラルの銃弾は狂四郎のそばを空しく飛んでいくだけ。
その逆に、面白いほど狂四郎のパンチが、キックが、ジェネラルの体に浴びせられていく。
「やめろ、狂四郎!! もうそれ以上する必要はねぇ」
呆然とする俺が止めに入ったとき、ジェネラルは既に弾を撃ちつくし、ぼろ雑巾のように倒れていた。
(だから、言わんこっちゃない……)
戦闘の結果は、当然の予想通り。だが、問題はここからだ。
殴りすぎて昔の殺人マシーンに戻りかけてる狂四郎を、どう押さえ込むか。
止まらねーかも知れねぇ……でも、志乃ちゃんの前で殺しだけはやめとけ。頼むぞ狂四郎。
狂四郎の瞳に狂気が宿る。
親がつけた名前の通りと言えば皮肉だが、この男の本質は正に『狂』。
俺の言葉を聴いて、一瞬だけ腕を止めてはいるが、それでも敵は虫の息。
狂四郎が一発殴っただけで、決着が付いてしまう……ジェネラルの死でだ。
(このまま危険がないようなら、狂四郎も殺しはしないと思うが……)
そんな時だ。突然、目の前の壁に、もう一人別の男の姿が映し出されたんだ。
「流石だ、流石私の選んだ強者たちだよ。ジェネラルでは全く歯が立たなかったようだね……」
何が"たち"だ。たった一人の男にやられたんだぞ。
もしも、ジェネラルが狂四郎一人で勝てない相手で、集団で立ち向かっていたら志乃ちゃんにも見せられただろうか?
そんな、ありもしないifの話をほんの少し妄想している間も、ディスプレイ上の男は話を続けていく。
「私はユニオン・テオーペの長老(メイヨール)、ありていに言えば、ジェネラルの上司だ」
流石の狂四郎もディスプレイ越しに人は殺せない。
「君たちに殺し合いをしてもらうため、ジェネラルを差し向けたのだが……全く役に立たない男だよ」
相手が悪すぎただけだが、役立たずだというのには同感だ。
「しかしだ。君たちに殺しあってもらう事に変更はない」
おい、コイツも挑発するつもりか。頼むぞ、これ以上刺激しないでくれよ。
「そこでだ、君たちに自分の首を見てもらいたい」
え? 首?
メイヨールの言葉で初めて俺は自分の首に首錠が嵌められている事に気づく。
狂四郎も、そして周りの全員も同じように、今はじめて気づいたようだ。
通常のタイプの首錠と違う点は、ワイヤー製でなく全てが金属の太いパイプで出来ているという事か。
「その首輪は、君たちを束縛するために付けさせてもらった。同時に参加者の証でもあるから良く覚えておくといい。
これからジェネラルが、君たちに首輪の力を見せ付けてくれるよ」
「メ……メイ……ヨール」
上司からの意味ありげな命令を受けて、ジェネラルがその体を重々しく持ち上げてくる。
だがもう無理だ。首錠に何があるか知らねぇが、狂四郎にジェネラルは勝てねぇ。
無駄な殺しをさせるなよ、頼むから……頼むから、お願いだから……
「そうだ……メイヨールに……言われ…………るまでもない、わたしにはまだ……首輪の力がある」
首輪。首錠とは明らかに構造の違うこれが、狂四郎の命を奪うとは考えにくい。
首錠なら、一瞬で絞まって首を切り落とすが、ワイヤーじゃなくてパイプで出来ている首輪には不可能だ。
(お願いだから、もう逃げ…………って、まさか………………)
「がぁ、ぐぁ……」
ジェネラルが何かをつぶやいた瞬間、狂四郎がその場に蹲る。
苦しそうに胸を抱えながら、その場から一歩も動かない。
「これが首輪の力の一つだ。どんな屈強な男も、一瞬でただの木偶と化す」
う、嘘だろ? 狂四郎が何も出来ないで倒れるなんてありえねぇだろ!!
「はぁ……はぁ…………こ、これが……我々…………」
肩で息をしながら、弾のきれた右手で狂四郎を殴るジェネラル。
「我々…………ユニオン……テオー…………」
「何がユニオン・テオーペだ!! 首輪で押さえつけなきゃ何もできねぇ癖にいきがってんじゃねぇ!!」
やっぱり、コイツは俺が殺す。最初からそうしてりゃ良かったんだ。
そうすれば、何も問題なかった。
「バ……バベ…………貴様ごと…………き」
喋る事すら満足に出来ない男と、小型犬の対決。
狂四郎の戦闘力からすれば、ミジンコにも等しい俺たちだが、ここで決着をつけてやる。
「勇敢な犬だな君は……」
ディスプレイ越しに全てを見ている男、メイヨール。
「ジェネラルごとき殺してくれても構わんが。ついでだ、君を使って、首輪の最後の能力を見せるとしよう」
遠慮なく殺してやるよ。アンタの部下をな。
「君たちはもう、我々の開催するゲームから逃れる事は出来ない。我々の言う通り、殺しあう他はないのだよ。
見たまえ、我々に逆らった勇敢な犬の最期だよ」
え……最期って…………
突然、俺の首輪から無機質な電子音が響き渡る。
「これが首輪の能力……爆破だ…………」
無機質な電子音。
無表情なメイヨールの声。
そんな中、俺の脳に最期に届いたのは、鼓膜が破れるような空気の衝撃だった……
◆ ◇ ◆
太い首錠に、自分の力を押さえ込まれる。
生まれて初めての感覚に、狂四郎は戸惑った。
自分から見れば子猫ほどの力しか持たないジェネラルに、殴られる屈辱。
その屈辱を食らってなお、体は満足に動かない。
(ち、ちくしょう……)
バベンスキーが、小さな体を振り絞ってジェネラルに食いついている。
(バ、バベ…………、お前、そんなキャラじゃねぇだろ)
並の人間ならともかく、右手を銃に改造するような奴がまともとは思えない。
通常の大人なら、小型犬一頭で、十分勝てるだろうが、コイツは通常の大人じゃない。
怪我をして、銃弾を失っても、多分バベンスキー一頭ぐらい何とか倒せる。
(動け、動け……動けえぇええええ!!!)
体に命令を下し、何とか立ち上がろうとするが、どうしても起き上がれない。
「君たちはもう、我々の開催するゲームから逃れる事は出来ない。我々の言う通り、殺しあう他はないのだよ。
見たまえ、我々に逆らった勇敢な犬の最期だよ」
最期にはさせない。
バベンスキーは狂四郎にとって最良のパートナーだ。
志乃と連れ添っても、こいつとだけは別れない。
そう、狂四郎は誓っているのだ。
「これが首輪の能力……爆破だ…………」
メイヨールがつぶやいた瞬間、バベンスキーに付けられた首輪が怪しい光と共に爆発する。
そして、胴体から"ソレ"が切り離された……
(う、うそだろ……)
"ソレ"はゆっくりと地面に落下していく。
(ありえねぇって……)
胴体からは間欠泉のような血が噴出す。
(お前が死ぬわけねぇって!!)
コロリと地面に落ちる"ソレ"は……まさしく、バベンスキーの頭蓋だった。
「これが首輪の力だよ。さて、ゲームの詳細についてだが……」
メイヨールが何か言っているが耳に入らない。
コイツら、突然俺たちを捕まえて、突然殺しあえって、ふざけてんのかよ。
「うぁあああああ!!」
殺す。バベンスキーの敵だ。こいつらは絶対に殺す。
首輪に制限されていた肉体に鞭を打ち、何とか這い上がらせる。
標的はジェネラル。目に見えるコイツだけでも殺す。
ガンッ──
「…………時間ごとに放送が……、ん?
おや、制限されているというのに、起き上がれるのか。予想外の力だよ君は……」
首輪にかけられた制限により、肉体の1/10も力が出てない感じだ。
だが、相手も手負い。それだけ力が出れば十分。
ふらつく足で何とか体を支えながら、それでも狂四郎はパンチを繰り出す。
支えで精一杯なので、蹴りは出せない。投げ技も、体がよろめくので不可能。
使える技と言えば、パンチや関節技ぐらいか。
ジェネラルも右手の銃器を振るいながら、反撃してくる。
だが、コイツの右手には間接がろくに付いてない。
自由に曲がりきらない右手なんて、弱点以外の何物でもない。
何とかジェネラルの腕を絡め取り、そのまま立ち間接を極める。
「ハハハッ、実に素晴らしいな君は。どうせ要らぬ男だ。そのまま殺してくれ」
言われなくてもそうする。
間接を極めた左手をそのまま折る。
そして、流れるように首絞めに繋げる。
両腕の利かないこの男に、外す術はない。
「……ヒュッ…………ヒュゥ……」
首に込める力を強めるほどに、ジェネラルの呼気が弱くなる。
皮肉にも狂四郎の力を制限したために、僅かに呼吸できる程度の締めを食らっている。
外す事も出来ない、だが、いずれは死ぬ。それが明白に分かりながら、ジェネラルは朦朧とする瞳でメイヨールを見つめるだけだった。
(殺す、殺す、殺す)
既に狂四郎の頭にあるものは、その一点のみ。
どこかで見ているはずの、志乃のことも頭には上らない。
「見ていたまえ、これがこのゲームの素晴らしさだ。力ある者が、弱者を屠る。
弱肉強食の自然の掟だよ。皆にも是非、楽しんでもらいたい」
首にかかる力はどんどん強まっていき、ジェネラルは既にピクリとも動けない。
(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す)
「…………や……」
何処からともなく、か細い声が狂四郎の耳に届く。
「……や…………めろ」
何者かが、狂四郎の行為を諌めようとしている。
微かに残った理性で、それを聞きつつも、体は止めようと動かない。
聞き覚えのある、その声に耳を傾けながらも、バベンスキーの敵をとるまで止まるつもりはない。
「狂……四郎、やめるんだ」
そんなときだった、不意にバベンスキーの死体が動いたように見えた。
それはハッキリとして、しかし狂四郎にしか聞こえない幻覚。
「狂四郎、そんな奴殺しても、何にもならねぇ……やめろ……」
今度も聞こえた。間違いなく、バベンスキーの声。
「志乃ちゃんの前だろ、殺しだけはやめろ」
(バベンスキー……)
死んだはずの相棒の声。
幻聴だと分かっていても、狂四郎の手は止まった。
「そうだ、それでいい……お前が殺人鬼だって分かったら志乃ちゃんが悲しむだろ。
殺さなくてもいい、お前は志乃ちゃんと2人で……」
「バベンスキー!!」
犬の死体は黙して語らず。
聞こえる声は幻聴だと分かりきっている。だが、それでも相棒の声だ。
「どうしたのかね? 突然、あと少し力を込めるだけで、ジェネラルは死ぬというのに」
「聞き入れる必要なんかねぇ。志乃ちゃんと2人で安全な場所に行けよ、それでいいだろ?」
「で、でも……アイツ…………」
「どうして殺さない。君にはその資格があるというのに……」
「聞くな、お前は逃げるだけでいいんだ。人を殺すための人生なんて、もう必要ねぇ」
「で、でも……あいつ等はお前を殺した!!」
「俺は犬だろーーが!!」
「でも、……でもよぉ…………」
「興ざめだな……、君ならジェネラルを殺せると思っていたのだが」
ディスプレイ上の男は詰まらなさそうに、見つめている。
「もうよい、さっさとゲームを始めるとするか」
男が合図を出すと、突然密室内に妙なガスが流れ出す。
耐性を持った狂四郎さえも眠らせるガス。それがあたりに充満した頃、狂四郎の意識は既にそこになかった。
◆ ◇ ◆
狂四郎……なんだか俺、突然死んでしまったみたいだな。
まぁなんだ。
犬の人生……いや、犬生は短いモノだって最初から分かってたから特に気にしちゃいねぇよ。
それよりもな、お前が殺人を抑えられた事が、俺にとっては嬉しいんだぜ?
あぁ、それと。
妙な事件に巻き込まれたけどな、俺の予想じゃ、ここは『あの日本』とは別の世界だ。
おっかない首輪さえ無ければ、志乃ちゃんと2人で暮らす事も悪くないと思うぜ。
俺はよぉ、今回は死んじまったけど。
もし生まれ変われるんなら、2人の子供になってみたいって思ってるんだ。
だからさ、期待してるよ狂四郎。
志乃ちゃんと2人で、逃げ出せよ。殺し合いなんかするなよ、絶対にな……
んじゃ、俺はこれでサヨナラだぜ。
また、会おうな。
薄れ行く意識の中。
狂四郎はバベンスキーの最期の言葉を聞いた気がした。
【バベンスキー@狂四郎2030 死亡確認】
・バトルロワイアルが開催されました。
・主催はユニオン・テオーぺ@シティハンターです。