JUMP CHARACTER BATTLE ROYALE 2nd -Part.7-
白い洋菓子のような雲が、薄い藍色の空に盛り付けられている。
その下には、緑と青が混ざり合った海のテーブルが添えられている。
バーンは、天守の自室からくるりとあたりを一望した。
「素晴らしい」
どこを見ても、同じ景色は二つとしてなく、深い味わいの色は、とても染料などで代用できそうもない。
この星はバーンが生まれる以前から、何物にも揺るがされず、太陽の周りを旋回し続けてきた。
「いかに余が優れていても、地球は作れぬ……そして……」
ワインを湛えたグラスを掲げる。
「この太陽も、余の力を超えている!!」
手に入れたい。この光を。陽の光届かぬ暗い地の底で、神々に虐げられた魔族に太陽を。
その信念一つを持ち続けて、既に数千年。いや、一万年を超えたか。
「永かった……」
掲げたワイングラスの中に太陽が入る。
「余はついに、太陽を手にした!!」
先日の闘いで、勇者ダイを葬った。
聖母竜マザードラゴンが彼の肉体を運ぶ姿が見えた。
もう敵はいない、あと数日のうちに地上は姿を消し、太陽の力が魔界に降り注ぐ。
バーンは、長年連れ添った部下を前にもう一度呟く。
「永かったな……ミストバーンよ」
「仰せの通りです、バーン様」
感慨深いとは正にこのこと。
大魔王を名乗ったあの日から、バーンは太陽をその手に収めることだけを考えて戦ってきた。
神々の用意した竜の騎士という障害にも邪魔をされた。
あるいは、神そのものもバーンを疎ましく思っていたかもしれない。
だが、それもあと数日で終わる。
天高く輝く太陽を支配するのは、地上の人間ではなく、魔界のバーンだ。
「……ふふふっ……水をさして悪いけど、バーン様。
ボクの占いじゃぁ、そう簡単に行かないみたいですよ」
死神が、トランプカードを回転させる。
中空を回るその中の一枚を、奴が取り出す。
「嫌なカードだ、何度やってもこのカードが出るんですよ」
スペードのエース。
死神の予言だ、きっと嫌な方にばかり当たるのだろう。
「……まだ余にたてつく分子がくすぶっていると言うのか」
「さぁ。ただ、大きな不安要素があるのは間違いないでしょう。ボクのトランプ占いはハズれた事がない」
嫌な事を言う死神だ。喉を通るワインに若干雑味が入ったのを感じる。
だが、今も昔もバーンは焦らない。
いや、今はより焦らないというべきか。
ダイ一行との闘いで手に入れたアイテムがある。
あのアイテムを使えば、その不安要素をいぶりだす事が出来る。
「……不安要素か、それを楽しむのもまた一興。そのためにあの"アイテム"を手に入れたのだからな」
そう。神々の力をその身に宿すアイテム。
アレを使えば、不安要素もたちまち余興の種と変わるだろう。
バーンは、自身も未だかつて見た事がないゲーム開催のため、そのアイテムを使おうと決めたのだ。
◆ ◆ ◆
ここはどこだ。
独逸に向かう船の中に俺はいたはずだ。それがどうして、こんな所にいる。
あたりは暗く、衣擦れの音と人の吸音が聞こえるのみの半静寂状態。
人が近くにいる事は分かるが、少なくとも親父じゃねぇ。
俺は、そばにある杖を手探りで探す……って、あれ? どこだ。
いつも持ってたはずだが、どこにもねぇ。一体、どうなってるんだ。これは夢なのか。
(ったくよぉ……どうせ夢なら明神弥彦をぶっ倒す夢でも見せろってんだ)
刹那、辺りに光が届く。
思ったとおり親父はいなかったが、予想外に多くの人間が集められている。
狭い部屋の中、色々な衣装を纏った男女が多数。ここが独逸か? 聞いてたのと随分違うじゃねぇか。
特に西欧の"でざいんせんす"とやらは、俺には理解できそうもねぇ。
着物袴ばかりが服じゃねぇ事ぐらい承知してるつもりだが、こいつらのはねぇだろ。
そんな事を考えていると、突然甲高い声が聞こえてきた。
「フフフッ、ようやく眼を覚ましたようだねえ。ボクの名前はキルバーン、君たちを楽しいゲームに招待した者さ」
奇妙な一つ目の小人を肩に乗せた真っ黒い男が、鎌を抱えて台の上に立っている。
"すぴーかー"も通してない奴の声は、それでも十分俺の耳に届く。
変わった奴だ、肩に乗せた鎌は絶妙な位置で均整を保ってる。
あれが西欧の"まじしゃん"って奴か? だとしたら、この夢も悪くなさそうだな。
「……さてと、突然で悪いけど君たちにはこれから……」
男が鎌を両手に取り、クルクルと回転させながら一呼吸入れる。
「これから、殺しあってもらうよ!!」
突然の男の一言に、周囲が唖然となる。
何言ってんだアイツ? 夢にしたって悪趣味すぎんだろーが!! 殺しあえって、一体何の事だよ。
「君たちは神々のゲームに選ばれたのさ。光栄な事だよ。
古の昔、神が真の強者を決めるために作ったゲーム。その名も『バトルロワイアル』」
は? "ばとるろわいある"?
何の話だよ一体。殺しあえとか、真の強者とか、突然言われても意味わからねぇ。
「おい、突然何の真似だよ、この三文死神が!!」
派手な衣装と、鉢巻に身を包んだ男が憤りを見せる。そりゃそうだ、誰だって意味がわからねぇ。
って、アイツ空飛んでんじゃねーか。何なんだよ、この夢は。
「おや、生きてたのかい? バーンパレスから落ちたのに、しぶといんだねぇ……流石だよ魔法使いクン」
「んなことより、質問に答えやがれ、てめぇら一体何やってやがるんだ!!」
「聞いてなかったのかい? コ・ロ・シ・ア・イだよ」
「ふざけんな!! はいそうですかって、殺しあうわけねェだろーが!!」
「……フフッ、威勢がいいのは結構だけど、言う事を聞いた方がいいと思うよ?」
「何企んでるか知らねぇが、バーンがいねーなら好都合だ。三文死神は消えちまいな!!」
突然、空飛ぶ男の両手が光りだす。そして、右手には炎。左手には氷が現れる。
何なんだよ一体。ちょっと俺、変な願望でもあるのか。夢にしたっておかしすぎだろ。
男の作り出した炎と氷は、何時の間にか光に変わる。
そして、あたかも弓矢のように両手に構えられる。
「メドローアはボクにも厄介な呪文だねぇ……で・も・さ」
黒衣装の男がパチンッと指を鳴らすと、突然空を飛んだ男が地面に叩きつけられる。
「言っただろ? 言う事を聞けって」
「て、てめぇ……」
作られた光の弓矢は既に消えて、地面を這いずるように男は黒衣装に近づいていく。
「あぁそうそう、ここにいる皆も見たほうがいいよ。君たちには首輪がはめられている。
ボクに逆らうと、こいつみたいに力を奪われるのさ」
黒衣装が鎌の柄で男を殴る。あの野郎、嬲り殺すつもりかよ!!
「ゲームのルールを説明するよ。君たちはこれから、小さな島にバラバラになって配置される。
そのとき、二日分の食料と島の地図などが渡されるから確認した方がいいよ。
あぁ、そうそうここに誰がいるかっていう名簿は渡されないから、その点は注意してね。
誰が参加してるか、最初から分かってると緊張感がないだろう?」
な、なんだよこれ? "げぇむ"だとか、殺し合いだとか。
本当に、これ夢なのかよ。
「それとね、支給品の中にはランダムで武器になるモノも入ってるよ。有効活用することだね。
あと、細かい事だけど……」
ガッ── 突然、俺の体が動いた。
目の前で、男が嬲られてる。夢だからどうしたってんだ!!
これを助けないで、何が男だ!!
「驚いたねぇ……まさか、君みたいな小さな子が助けてくるなんて」
「誰が小さい子だ!! 東京府士族、塚山由太郎。腐っても、弱いもの虐めを見過ごすような真似はできねぇ!!」
利きの鈍い右手は防御にしか使えない。
鎌の柄を防ぎつつ、左手で渾身の一打を決めてやる。
武器がなくても、俺には士族の魂がある。
「勇敢なのもいいけど、力が伴ってないと、それは単なる無謀さ。
分を弁えたほうがいいよ、少年剣士クン?」
「うるせぇ!!」
少年だろうが、なんだろうが。魂に違いはねぇ。こいつは殴る。
パチンッ!! 再び男が指を鳴らす。
それに併せて、俺以外の全員が倒れこむ。コイツ、一体何をしてやがるんだ。
「いい機会だ……、皆も見ておくといいよ。ボクに逆らった者がどうなるかをね……
君たちはもうゲームから逃れられないのさ」
男の攻撃をかわしながら、俺は反撃の機会をうかがう。
コイツぐらいに勝てなきゃ、明神弥彦にだって勝てやしねぇ。
だが……そんな俺の意識に反して、体が突然鉛のように重くなった。
「だから言ったろう? 勇敢と無謀は違うのさ。ボ・ウ・ヤ」
「…………な、い……いったい……」
体に力が入らない。首にある何かが、俺の力を吸い取ってる感じだ。
両の足で大地を踏みしめる事さえ難しくなったとき、黒衣装が鎌を振りかぶったのが見えた。
俺が最期に見たのは、振り下ろされる鎌が自分の頭にぶち当たった光景だった……
【一日目 12:00(昼) / 場所不明】
【塚山由太郎@るろうに剣心 死亡確認】
【バトルロワイアル開催】
参加者たちが島のあちこちに飛ばされました。
[備考]
バーン、ミストバーン、キルバーン、ポップは単行本23巻のバーン戦直後の出場です。
バーンは23巻の闘いでゴメちゃんを手に入れています。バトルロワイアルはその力を無理やり使って開催しました。