ゲンドウ×レイの可能性を前向きに考えよう

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143俺式『秋日和』
アスカの言ったことは、正しい。でも…
「レイは、何も悪くない。何も、悪くないんだ」僕の脈絡のない呟きに、レイはこれから僕が
何を言おうとしているのか気づいたようだった。涙に濡れた紅い瞳に、恐怖が揺れる。
「悪いのは、僕だ」「シンジ、お願い……」「父さんが、生きていてくれたらって、本当に思うよ」
唇から発せられる音の一つ一つに憎悪が宿っている。それが自分でよく判る。
「僕は、父さんをずっと憎んでいた。生きていれば、この気持ちをぶつけることだって出来たのかもしれない。
でも……死んだ人間に、どうやって憎しみをぶつければいいって言うんだよ!」レイは蒼白になって、もう言葉も出ない。
その様子が、僕のうちに膨らむ憎悪を加速させる。「……父さんとレイとのことが分かって……」レイが体を震わせた。
「僕は、父さんに対して、もう、憎悪しか残っていない」レイは、膝の上に置いた僕の右手に、もう一度手を重ねようとした。
傍から見ても、彼女の手が震えていることがはっきりと判る。レイは、躊躇していた。
もう一度僕に拒まれるんじゃないか。それを恐れているのが、よく判った。
僕はレイが動作を起こす前に立ち上がった。
「レイは、何も悪くない。悪いのは、僕だ。父さんへの憎しみをどうしても乗り越えられない、僕だ」
「シンジ……お願い……」
「レイを見ているはずなのに、あの男の存在を感じてしまうんだ。レイのことを愛しているのに、真っ黒な憎悪が
沸き出して来るんだ。」「いや!シンジ!いや!」
「ごめん……僕は、憎しみと向き合いながら毎日を生きて行けるほど、強くないんだ」
「あ、あ、あ……」背後でレイが泣き崩れるのが判った。でも、僕は振り返れなかった。
引き裂かれるような胸の痛み。心を引きちぎられるような苦痛。
「父さんは……死んでからも、僕を苦しめ続けるんだね」泣き続けるレイを振り返る事なく、僕は言葉を掛けた。

「戻ろう。通夜の番もあるし、明日の告別式は、終らせなくちゃいけない」
彼女がのろのろと立ち上がるのを背中に感じながら、僕は歩き始めた。彼女は黙ってついて来る。
レイが、僕の喪服の裾をつまんだ。それを振り払うようなことはしなかったけれど、僕は立ち止まることもしなかった。
「悪いのは僕なんだ。憎んでくれていい。恨んでくれていい。僕が、父さん……」
「出来ない!」レイの悲痛な叫びが僕の言葉を遮る。
「……シンジを憎むなんて……出来ない……お願い……一人にしないで……」
でも、僕が言えた言葉は、あの頃と同じ言葉だけだった。

「……ごめん……」