もしもシンジとレイが双子だったら

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5844/4:2014/06/21(土) 00:05:25.06 ID:???
 ヒカリ「そんなことないわ。一生懸命協力してくれてるんだもの」
 アスカ「そっかな…」

机の前にしゃがんで、顔を上げたアスカと視線を合わせるヒカリ

  ヒカリ「そう! 全然、おかしくなんかない!」
 アスカ「ひ、ヒカリ? 何?」
  ヒカリ「決めたの! 私、委員長だからほんとは中立じゃなきゃいけないんだけど、
     こうなったら断然アスカさんを応援する! 絶対、皆も、その方がいい結果
     出せると思うもの」

乗り出すヒカリ
大いにとまどうアスカ

 ヒカリ「ね! だから、一緒にがんばろ!」
 アスカ「…え、んと、…うん」

笑顔になるヒカリ
つられて少し笑うアスカ
音楽室の窓に夕陽
585名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/06/24(火) 17:41:39.18 ID:???
アスカとヒカリいいね
5861/3:2014/06/27(金) 10:06:56.27 ID:???
>>585 ありがとうございます


葛城家 夕食後
エプロンつけて後片付けを始めるシンジ 足元にペンペン
手伝おうと傍に寄るレイ
振り向いて笑うシンジ

 シンジ「いいよ。今日は洗う皿も少ないし、すぐ終わるから、大丈夫。
     レイは先にシャワー浴びちゃって」
  .レイ「…、うん、わかった」

食器洗いにかかるシンジ
ふと、もう一度振り返る
まだそこに佇んでいるレイ 足元で見上げるペンペン

 シンジ「…、どうしたの?」
  .レイ「…あ」
 シンジ「何か、言い忘れたこと…?」
  .レイ「……」
 シンジ「…そうだ、…あの、本当は僕も」
  .レイ「! なに?」
 シンジ「あ、…いや、その」

黙り込んでしまう二人
お互い視線を預けていられずにうつむく

 シンジ(…言えないよな)
 シンジ(…今日、全然、弾けなかった。
     鍵盤にさわることもできなかった。ただ黙って座ってるだけなんて、…エヴァに
     乗ってる時より、ずっと悪い)
5872/3:2014/06/27(金) 10:08:30.41 ID:???
 シンジ(でもそんなこと言えない。…今さらできないなんて。それも、自分の気持ち
     ひとつ、どうにかできないっていう、理由にもならない理由で。だってレイは)
 シンジ(レイは、…僕がこんなふうに行きづまってるのわかってて、何とかしたくて、きっと
     自分から言い出したんだ。皆の前で歌うなんてこと。
     できないよ。言えない。レイが悲しそうな顔をするところを、見たくなんかない)
  .レイ(…言わなきゃ)
  .レイ(…楽譜。
     お兄ちゃんの分。預かってきてるの、渡さなきゃ。…帰ってから気になってるのに、
     まだ、カバンから出せない。
     なぜ動けないの、私。…いえ、本当はわかってる。お兄ちゃんは喜んでいないから)
  .レイ(私、また余計なことしようとしてるのかも、しれない。
     …間違ってるかもしれない。…わかってるのに、やめたいと思ってないもの。
     あんなに楽しそうだったピアノを、お兄ちゃんがまた笑って弾くところ、見たいもの)

沈黙のあと、意を決して顔を上げる二人

 両者「「…あの」」
ペンペン「! クーッ、クワッ!」
5883/3:2014/06/27(金) 10:10:33.77 ID:???
いきなりドアの開く音、続いて乱暴に玄関に上がる音
すっとんでいくペンペン
同じ表情できょとんと向き直る二人

 ..ミサト「たっだいま〜。やっと着いたー…んもう、ほんっと嫌んなるわ」
 シンジ「え、あの、ミサトさん、どうしたんですかそれ」
  .レイ「…すいか?」
 ..ミサト「そ、スイカ。加持のご自慢の。ったくもうあの馬ッ鹿、人の都合なんか全然
     考えないんだから。前に、二人がおいしいって食べてくれたから、ですって。
     だからって女にこんなでかいもん持たせるー? ああもう全身汗だく、悪いけど
     先にシャワー浴びるわ。あ、ゴメン、これ、何とか冷蔵庫に入れといて」
 シンジ「ええ?! でもあの、こんなの」
 ..ミサト「あ! 一応軽く入れてきたから、晩ご飯はいいわ。じゃ、あとよろしくねん」
 シンジ「えっ? あ、ちょっと、…もう」

取り残される二人、およびスイカ
歩み寄るレイ

  .レイ「…入る? 冷蔵庫」
 シンジ「うーんと、…とにかく、やってみないと」
  .レイ「ん。私も、手伝うから」
 シンジ「あ…うん、…あの、ありがとう」
  .レイ「…、いいの」
ペンペン「クワックワッ、クーッ! クーッ!」
  .ミサト「あっ、コラッ、ペンペン! 入ってきちゃ駄目でしょー! ちょっとッ、あーッ」
 シンジ「……」
  .レイ「……」

どちらからともなく目が合い、一緒に小さく笑い出す二人
589名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/06/27(金) 17:28:02.53 ID:???
ほのぼの
5901/7:2014/06/27(金) 22:48:31.11 ID:???
風呂上がりのミサト
リビングに入って微笑する
互いの頭をくっつけるようにして斜めの川の字に寝転がっているシンジ、レイ、ペンペン
視線に気づき、本を閉じて起き上がるレイ
振り返ってシンジを促す
はっとして目を開け、照れ顔でイヤフォン外すシンジ
もう一度にっこりするミサト

 シンジ「…あの、すみません。なんか、半分寝ちゃってたみたいで」
 ..ミサト「いいのいいの。っていや、良くないか。こんなとこでうたたねしちゃ二人とも
     風邪引くわよ。さ、眠いなら部屋に行ってー。それともお風呂?」
 シンジ「あ、はい。レイ、入ってきちゃいなよ」
  .レイ「ううん。お兄ちゃん、先に」
 シンジ「え? でも…」
  .レイ「先。眠そう、だもの」
 シンジ「う…、わかった。ごめん、じゃ、急いで入ってくるから」
 ..ミサト「はいはーい、行ってらっさい。…
     ん? レイ、どしたの?」
  .レイ「……」

いったん自室に消えるレイ
ややあって、少しきまじめな表情で戻ってくる
胸に抱えた譜面
きょとんとするミサト
5912/7:2014/06/27(金) 22:50:30.57 ID:???
カーペットの上に腰を下ろしたミサトとレイ

  ミサト「…なるほど、ね。
    合唱コンクールのソロの役を、アスカと競うって…こりゃえらいことに立候補したわね」
  レイ「…、やっぱり、おかしい、ですか」
  ミサト「ううん、違う違う。
    レイも積極的になったなって思っただけ。いいことよん。自信持ちなさい」

ミサトの太鼓判に、うつむいてほのかに微笑むレイ
自分も笑顔になるミサト
両足投げ出して大きく息をつく

  ミサト「…そっかー。
    シンジ君の伴奏で、レイが歌う、か…ここに来た頃の二人からは、ちょっと
    想像できなかったわ。けど、それもきっと、二人でだからできるのよね。
    あ、それ、楽譜? それもレイが選んだのよね。ちょっち、見せてよ」
  レイ「…、はい」
  ミサト「どれどれ…おおー、往年の名曲ぅー。なかなか堅実な選択したじゃない、レイ」
  レイ「そう…ですか」
  ミサト「そ、すっごくいい曲よん。私もね、小学生の頃なんかは学校でこれ歌ったわー。
    って言っても、もうずいぶん昔の話だけどね」
  レイ「…むかし」
  ミサト「そう。セカンドインパクトが起こる前の、平和な頃のお話。…
    ところで、これ、いいの? シンジ君より先に私に見せちゃって」
5923/7:2014/06/27(金) 22:52:14.45 ID:???
  レイ「…あ、…、お兄ちゃんには、これから」
  ミサト「そ。一番を譲ってもらっちゃったのね。ありがとね」
  レイ「…、ミサトさんには、話しておきたくて。…いつも心配かけてるって、お兄ちゃんも」

瞬間、険しい表情で息を呑むミサト
瞬きするレイ

  レイ「? あの」
 ミサト「……レイ?
    今、…あたしのこと、『ミサトさん』って呼んだ…? 呼んだわよね?」
  レイ「えっ…、!!
    …お兄ちゃんのが、移っちゃった、のかな…? ごめんなさい」
 ミサト「違う違う! うそっ! ありがとー、レイッ!」
  レイ「きゃ」

思いっきりレイを抱きしめて頬ずりするミサト
ただびっくりしているレイ
タオル片手に戻ってくるなり呆れ顔になるシンジ
放り出された楽譜に気づく
はっとするレイ が、身動きが取れない
5934/7:2014/06/27(金) 22:54:35.98 ID:???
  .レイ「あ…、それ」
 シンジ「…、よかった」
  .レイ「え?」

軽く息を吸い込んで、はにかんだ笑顔を見せるシンジ

 シンジ「この曲ならそんなに難しくないから、きっと間に合わせられると思う。…ううん、
     絶対、間に合わせるよ。練習する。
     だから、…良かったな、って」
  .レイ「…、そう」
 ..ミサト「結果オーライじゃない、レイ。シンジ君もね」
 シンジ「…はい」

ふーっと肩の力が抜けるレイ
抱きすくめて頭をぐりぐり撫でるミサト
くすぐったそうに見上げるレイ 少し笑う
二人を見つめるシンジ
ほんの少し、溜息をつく
足元で小さく鳴くペンペン
5945/7:2014/06/27(金) 22:55:57.65 ID:???
翌朝
壱中 2-Aの教室
登校するなり睨みつけるアスカ
面食らっているシンジの前に大股に近寄り、紙束を突き出す

 .アスカ「ん!」
 シンジ「…は?」
 .アスカ「…楽譜! 合唱の! 
     昨日ヒカリと残って決めたの。今朝、渡すって話だったでしょ!」
 シンジ「あ、うん…って、これ…?」

仁王立ちのアスカの後ろから顔を覗かせるヒカリ

  ヒカリ「そうなの。結局、こんなことになっちゃって…でも、碇君の負担は軽くなるし、
     いいかも、って」
 シンジ「そりゃ、僕は助かるけど…いいの? これで」
5956/7:2014/06/27(金) 22:57:03.32 ID:???
 .アスカ「何をこそこそやってんのよ。この私が自分で厳選した曲目に文句あるわけ?」
 シンジ「そうじゃなくて、…これ、レイが選んだ曲と同じなんだ」
 .アスカ「え」

ヒカリを見るアスカ
申し訳なさそうに頷くヒカリ

  ヒカリ「うん、そうなの…」
 シンジ「あ…もしかして、同じにしてくれたのかな。皆が練習しやすいようにって」
  ヒカリ「えっと…ううん、別々に決めたはずなんだけどね…」

固まっているアスカ

 トウジ「黙ってもうたな」
.ケンスケ「よっぽど自信、あったんだろうな」
 トウジ「せやろな。絶対、碇妹よりいい曲選んだろ思てたんやろ」
.ケンスケ「ま、けど無理もないさ。簡単かつ舞台栄えのする曲なんて、しょせん限られてるし」
 トウジ「かぶってもしゃあないわな。この場合、逆にラッキーやないか」
 アスカ「……うるッさいわね!!」
5967/7:2014/06/27(金) 22:58:53.57 ID:???
 .アスカ「だから何よ?! 一度決めたものを翻すほど軟弱じゃないわ! もうこれで決定、
     いいわね!!」
 シンジ「? うん」
 一同「うおーっ」「まさかの展開じゃん」「ほんとにやるんだ!」「いーねー、対決っぽい」
    「じゃ、曲これで決まりか?」「うちらも先に練習できるね」「よかったぁ」

教壇に上がって一同を見渡すケンスケ

.ケンスケ「それじゃあうちのクラス、自由曲は『翼をください』に決定っ!
    それと、音楽の先生の許可とってきた! 予定通り金曜放課後、音楽室にて
    オーディションと投票! やるぞ!!」
 一同「おー!」「いえー」「盛り上がってきたー!」
 .アスカ「…ふん、何よ、いちいち大げさね」

楽譜をシンジに押しつけ、自分の席に戻って勢いよくすわるアスカ
振り返るシンジ
少し離れたところに佇んでいるレイ


>>589 ありがとうございます
何という低速進行…どこまで行けるやら、がんばります
5971/7:2014/07/05(土) 01:32:22.91 ID:???
本部器楽室
ピアノの前に座ったシンジ
楽譜を睨んで何度も試みるが、そのたびに弾きあぐねて溜息をつく

 加持「なかなか苦戦してるみたいだな」
 シンジ「…うわっ?!」

振り向いて、大きめに息を吐くシンジ

 シンジ「…もう、おどかさないでくださいよ。いつからそうやってたんですか」
 加持「いやいや、ついさっき来たばかりだよ。
     で、どうした。久しぶりにピアノの前にいると思ったら、難しい顔して。
     …弾きたいけど、どうにも気が乗らないって様子だな」
 シンジ「…何でもお見通しなんですね、加持さんて」
 加持「そんなことないさ。ま、そう見えるとしたら、仕事柄、かな」
 シンジ「仕事って…そういえば、加持さんはここで、ネルフで何してるんですか?
     ミサトさんともリツコさんとも別行動みたいだし」
 加持「ふむ。君こそよく見てるじゃないか。他人のこと」
 シンジ「! あ…すみません、そんなつもりじゃ」
 加持「いいさ。胡散臭い存在なのは承知の上だよ。それも結構面白いもんだぞ」
 シンジ「え…、もう、何なんですか、一体。
     僕なんかかまってないで、それこそ、仕事しなくていいんですか? 大人なのに」
 加持「してるさ。これも俺の仕事のうちだからな」
 シンジ「…えっ?」
 加持「それより、どうだ? 気分転換に土いじりでも」

とまどうシンジに、手にした缶コーヒーを振ってみせる加持
5982/7:2014/07/05(土) 01:33:25.32 ID:???
ジオフロント 加持のスイカ畑
地上から集光された陽射しの下、雑草取りにいそしむ二人
息をついて額の汗をぬぐうシンジ
振り返ると同じようにしゃがんだ加持の背中

 シンジ「あの、…そう言えば、この間、ありがとうございました。スイカ、頂いて」
 加持「ん? ああ、葛城が、断りなしに外食なんて二人に悪いって気にしてたからな」
 シンジ「そうだったんですか…」
 加持「…気になるかい?」
 シンジ「えっ?」
 加持「葛城のことさ」
 シンジ「…そりゃ、そうですけど」

立ち上がりうーんと腰を伸ばす加持
振り返って笑う

 加持「俺の仕事は、特務機関ネルフの監査だ。
     なんて言えば偉そうだが、要するにいろいろ見て回るのが役目さ。それでここにいる」
5993/7:2014/07/05(土) 01:34:33.80 ID:???
 シンジ「監査…僕のことも、ですよね」
 加持「そう。葛城のこともな」
 シンジ「…、それなら、何も僕になんか頼まなくたって」
 加持「俺はしょせん外部の見物人に過ぎない。実際に何か変えられる訳じゃないさ。
     そのへんが、君や、レイや、葛城やリッちゃんと違うところだ」

うなだれて地面を見るシンジ

 加持「まだ、ここにいる自分に、実感が湧かないかい?」
 シンジ「…、たぶん」
 加持「そうだろうな。ただ、君がどう思おうと、人は君をエヴァ初号機のパイロットとして
     見ている。楽しかないだろうが、それも大事なことだ。自分が何者として周りに
     受け入れられているのかっていうのはな」
 シンジ「……」
 加持「前は…ピアノを弾けてた時は、それを忘れていられたかい?」
 シンジ「!」

反射的に強い視線を向けるシンジ
6004/7:2014/07/05(土) 01:35:33.29 ID:???
たじろがぬ加持
目を伏せてしまうシンジ
汗を拭いて畝の間にかがみこむ加持

 加持「だが、今はそれも、君の別の役割を思い出させてしまう。違うかい」
 シンジ「…役割」
 加持「碇レイの双子の兄、という役割さ」

言い返せずうつむくシンジ
土を睨む

 シンジ「…僕は別に、…加持さんもさっき言ってたじゃないですか。気が乗らないみたい
     だって。ただそれだけですよ。…やりたくないわけじゃない」
 加持「楽しくなくても?」
 シンジ「楽しいとかじゃなくて、…僕はただ、レイのためにやらなくちゃって思って」
 加持「ほら、そこだ」
 シンジ「…え?」
 加持「君の悪い癖だな。何か始める前に、それをしなくちゃならないと考えることで、結果
     自分で自分の行動の幅を狭めてしまう」
6015/7:2014/07/05(土) 01:37:05.13 ID:???
 シンジ「…しなくちゃならないこと、ばかりだから」
 加持「そうだな。だが、それならなおさら、一番身近なことを見失わないようにな」
 シンジ「…レイのこと、ですか」
 加持「いや。君自身、だよ。
     何をしなきゃならないかより、自分が何をしたいか。迷ってる時ほど、そこが大事になる」
 シンジ「…、そんなこと、考える余裕ないですよ」
 加持「それでもさ。君は、どうしたいんだ?
     それは誰も君の代わりに考えちゃくれない。自分自身のことだからこそ、自分で考え、
     自分で決めないとな。それで全てが上手く運ぶわけじゃない。だがその方が、少なくとも
     後悔はしないでいられる」
 シンジ「…後悔、ですか。
     加持さんみたいな大人は、後悔することなんかないんだろうって思ってました」
 加持「するさ。後悔だらけだよ、大人になればなるほどな。
     その代わり物事の見え方が広く深くなる。前には気づきもしなかったようなこともね」
 シンジ「…ミサトさんのこともですか」

一瞬手を止める加持
6026/7:2014/07/05(土) 01:38:24.92 ID:???
 加持「…ああ。
     今さら元には戻れないからな。ただ納得はしてる。自分が今、こういう立ち位置、こういう
     役割にいるってことに」
 シンジ「それは、…諦めるってことじゃ、ないんですか」
 加持「いや、違うよ。自分にできることとできないことの見極めがつくようになっただけさ。だから
     できる限りのことは精一杯やる。…その先は祈るしかない」
 シンジ「…だから僕に、ミサトさんを守ってくれって頼むんですか」
 加持「…そうだ。…君に頼むしか、俺にはできない」
 シンジ「……」

加持を振り返ろうとするが、結局また手元に視線を落とすシンジ
しばらく黙々と草をむしる二人

 加持「君には、君にならできる、君にしかできないことがある。何もネルフやエヴァのことだけじゃ
     ないさ。君の心から生まれる願いを叶えるのだって、君に与えられた現実の力だよ。
     君は、どうしたいんだい。今の君、それとも、今、君の周りにいる他人を」
6037/7:2014/07/05(土) 01:40:01.39 ID:???
 シンジ「…僕は、…
     …よく、わからないです。ただ、…たぶん、僕はレイに笑っていてほしい。そうすれば、
     僕も、少しは僕のことが、好きになれるかもしれないから」

笑うように口元を歪めるシンジ

 シンジ「…結局、自分のことですよね。…人のためじゃない。いつだってそうなんだ。僕は」
 加持「だが、嘘でもないさ」

かすかに目を見開くシンジ

 加持「皆そうさ。わかるのはせいぜい自分のことだけだ。だから始めるのは、そこからでいい。
     自分に正直になるのと、他人に誠実でいることは、同じことの裏表だからな。
     あとは行動するうちに、なすべきこともわかってくるさ。そういう、繰り返しだよ」

振り向くシンジ
丁寧に畝の世話をする加持の後ろ姿
目を逸らし、肩を落とし、それでも小さく頷いてみるシンジ
少しだけ顔を上げる
6041/4:2014/07/06(日) 00:56:31.75 ID:???
 日向「聞いたか? 例の歌の件」
 青葉「ああ、聞いた聞いた」
 伊吹「あの子たちが、学校の行事にそんなにちゃんと参加できるなんてね。
     何だかほっとするわ」
 青葉「考えたもんだよな、学校側も。手間や場所、準備に時間をくう文化祭や
     運動会じゃなく、校内での合唱コンクールなら、たとえ当日に使徒が来ても
     ただ延期すれば済むからな」
 伊吹「おかげで、あの子たちも欠席しなくて済むしね」
 日向「少々お手軽な気もするけどなー。
     …で、問題のオーディション、どっちが、シンジ君とのソロを勝ち取ると思う?」
 青葉「俺はアスカかな。人気投票みたいなもんで決めるんだろ、結局」
 伊吹「レイ、人前で何かすることなんてなかったものね。
     でもやっぱり、シンジ君との相性を考えると、レイじゃないかしら。私は、ちょっと
     応援したいな」
 日向「何しろ双子だもんな。…それにしてもあの二人、ほんと仲良くなったよなぁ」
 伊吹「そうよね。ここに来て初めて会ったなんて、思えないくらい」
 青葉「ま、相性が良かったんだろうさ。お互い気を遣ってるってのもある」
 伊吹「双子なのに?」
 日向「双子だって遠慮くらいするさ。いわば、近づきたい気持ちの裏返しで」
6052/4:2014/07/06(日) 00:58:19.39 ID:???
 伊吹「そうかしら…少なくともレイは、素直にシンジ君を慕ってると思えるわ。
     本当、変わったもの。レイ」
 青葉「そう、あのレイがな」
 日向「これも、実の双子の兄たるシンジ君の影響か。毎日接してるわけだし…
     たった一人の存在で、ここまで変わるなんてな」
 青葉「愛情…って、やつだろ、家族の」
 伊吹「そうね。あのレイが、ね…」

歩いてくるリツコ
三人の会話の端を耳にして顔をしかめる

 伊吹「あ、先輩! 先輩はもう聞きました? 合唱コンクールの話」
  リツコ「…聞いたわ。でも残念だけど、たぶん頓挫するわね。週末の企画は」
 伊吹「えっ?」
 日向「…? あッ、もしかして」
 青葉「…3号機」
  リツコ「そう。米国が急に方針を変えてきたそうよ」
6063/4:2014/07/06(日) 00:59:24.32 ID:???
  リツコ「議会の決定を待たずに、即日3号機を日本へ移管。既に輸送の手はずも
     整ってるらしいわ」
 青葉「…ずいぶん手回しがいいっすね」
 日向「勝手な話じゃないですか、さんざん遅らせてきたのは向こうなのに」
  リツコ「あれほどこだわってた技術情報の法的問題とやらは、一体どこへ消えたの
     かしらね」
 伊吹「…じゃあ、もしかして」
  リツコ「ええ。日本政府も先ほど通達してきたわ。機体が届きしだい、可及的速やかに
     起動実験を行うように、だそうよ。実験場は松代」

リツコが示す端末画面をのぞきこむ三人

 日向「さすがにここは使えないか…しかし、ほとんど嫌がらせですね」
  リツコ「ユーロの2号機確保と、ロシア側の動静を睨んで、今のうちに米国に貸しを
     作るつもりかもしれないわね」
 伊吹「そんな…エヴァは政治の道具じゃないのに」
 青葉「ウチを利権の塊と見てる連中にとっちゃ同じなのさ。…にしても、この日程じゃ、
     ほんとにギリギリですね。まさに嫌がらせだ」
 日向「相変わらず、全部現場任せか」
6074/4:2014/07/06(日) 01:00:40.48 ID:???
 伊吹「でもこれじゃ、本当にスケジュール、動かせませんね…
     よりによって金曜…せっかく、あの子たちが自分からやろうとしてることなのに」
  リツコ「そうね。…残念だわ」
 青葉「あくまでも、彼らはパイロットですからね」
 日向「…待てよ。何もコンクール本番ってわけじゃないんだろ?
     単に人を選ぶなら、週末じゃなく、その前、明後日辺りに前倒ししてもらえば」
 青葉「いや、それも無理だ。ほらここ、テストパイロットは前日には松代入りする
     ことになってる。ま、予備テストも全部向こうでやるから仕方ないが」
 伊吹「じゃあ…」
 日向「いくら中学生の歌って言っても、いきなり明日、発表しろってのは無理だよな」
 青葉「そういうことになるな」
 日向「…となると、それはつまり」
 伊吹「いよいよ3号機パイロットの決定、待ったなし、ですか」
  リツコ「ええ。ミサトにはさっき念押ししておいたから、遅くとも、明日中には」

沈黙する三人
一瞥を残して立ち上がるリツコ
6081/3:2014/07/10(木) 22:54:02.18 ID:???
再び本部器楽室
ピアノの前に座るシンジ
両膝を掴んだまま動かない二つの手
目の前に鍵盤
つめていた息を吐き出すシンジ

 シンジ「…何が嫌なんだろう。…やりたくないことじゃないはずなのに」
 加持(君は、どうしたいんだ?)
 シンジ(…よくわからないです。ただ、たぶん僕は、レイに笑っていてほしい)
 シンジ「…それは、本当だと思うのに」

意識して両手を持ち上げ、鍵盤上に浮かせるシンジ
が、指は下りない
また溜息

 シンジ(結局、自分のことなんです。人のためじゃない。いつだってそうなんだ)
 加持(皆そうさ。だから始めるのはそこからでいい。そういう、繰り返しだよ)
 シンジ「…そうなんだ。…そうだって、思えるのに」

深くうつむくシンジ

 シンジ「…なのになんで、動けないんだろう」
6092/3:2014/07/10(木) 22:56:40.49 ID:???
 カヲル(…動かそうとするんじゃなくて)
 シンジ「…え」
 カヲル(一緒に動こうと考えればいいのさ。
     協調の前提は、相手の呼吸をはかること。連弾と同じだよ)
 シンジ「!」
 カヲル(自分だけの時とは違うからね。力まないで、焦らず、互いの反応を感じて)

ゆっくり両目を見開くシンジ

 シンジ(ったくもうひどいよ、いくらなんでも僕とレイを間違えるなんて。…そんなに
     似てるのかな。僕らって)
 .カヲル(全然、違うよ。感じがね。僕にとっては)
 シンジ(そうなんだ…)
 シンジ「…そう、なんだ」

頭を起こしているシンジ
ピアノの鍵盤を見下ろす

 シンジ「…カヲル君は、…最初から言ってくれてたんだ。
     僕とレイは別々なんだ、って」

少しだけ微笑する

 シンジ「何やってたんだろ、僕は。
     自分一人だけでできることじゃなかったのに。…僕はただ、レイに合わせることを、
     …レイが気持ちよく歌えるにはどうすればいいのかだけを、考えれば良かったんだ」
6103/3:2014/07/10(木) 22:58:45.11 ID:???
 カヲル(僕はいつも、君が心配だよ)
  レイ(何か、したいの。お兄ちゃんに。何すれば、いい)
 シンジ「…うん。
     甘えるのも、言い訳にするのも、…やっぱり、それって変だものな」

自然に両手を鍵盤に下ろすシンジ
最初の和音が鳴る
手応えを噛みしめるシンジ
と、はたと指が止まる

 シンジ「あっ…そういえば、アスカと組むのかもしれないんだったっけ…
     けど、アスカが歌う、って…どんな…?」

考え込んでしまうシンジ
慌てて頭を振る

 シンジ「…えっと、とりあえず、曲の全体だけさらっておこう。あとは…あと、だ。うん」

楽音の響き始める器楽室
扉外の廊下に佇んでいる加持
微笑し、歩み去る
611名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/07/10(木) 23:46:38.55 ID:???
初めて覗いたけどほっとできる良スレだね
6121/5:2014/07/12(土) 12:45:17.68 ID:???
>>611 ありがとうございます、少しでも楽しんでいただけるよう、頑張ります


放課後の2-A教室
夕陽の射す中、CDデッキを傍らに練習するアスカ
と、付き添うヒカリ
いろいろ歌い方を試してくたびれた二人
近くの椅子を引いて座り込むアスカ

 .ヒカリ「今日は、ここまでにする?
    ずいぶんやったもの。明日でも明後日でも、まだ時間はあるし…」
 アスカ「駄目!って、言いたいとこだけど。
    ま、そうね。初日から飛ばしてもあとが続かないか。ごめん、付き合わせて」
 .ヒカリ「えっ?! ううん、いいの、…私はただ、ここにいただけだし、別に」
 アスカ「でも、ずっと聴いてくれてたし。
    他人がいるのといないのじゃ、張り合いが違うもの。ほんと助かった」
 .ヒカリ「うん…」
 アスカ「…けど、何で? 私なんか、普段、クラスの連中とは没交渉なのに。
    帰りに誘ってくれても断ってばかりだし。勝手にやれって放っておかれても、
    仕方ないと思ってた」
 .ヒカリ「そんなことないわよ。皆、本当は、アスカさんと仲良くなりたいんだと思う」
 アスカ「私と? なんでよ」
6132/5:2014/07/12(土) 12:46:42.78 ID:???
 .ヒカリ「え? だって、皆より全然大人っぽいし、かっこいいし! 憧れちゃうもの。
    男子みたいに騒ぐだけじゃなくて、皆言ってるわ」
 アスカ「……」
 .ヒカリ「あ…そっ、か。…うるさいし、迷惑よね、こういうの。
    でも皆、悪気があるわけじゃないと思うの、アスカさんは特別なんだから」
 アスカ「別に、迷惑とかじゃないけど。…それに、大して特別でもないし」
 .ヒカリ「え…?」
 アスカ「エヴァがなきゃ私は単なるガキってこと。間抜けよね、今頃気づくなんて」

頬杖ついて横顔を見せているアスカ
ためらうヒカリ

 .ヒカリ「…何か、あったの? アスカさん」
 アスカ「ん? 何かってほどじゃ、ないわ。いつものこと。もうルーティンになってる一種の
    心理的通過儀礼っていうか。現状への疑問提起と、自己確認っていうか」
 .ヒカリ「ずいぶん難しいこと考えてるんだ…やっぱり、私たちとは違う、わよね」
 アスカ「んーん、難しそうなコトバ使ってるだけ。やってることは、他大勢とおんなじよ。私も。
    考えても仕方ないことをぐるぐる考えて、何とか自分に折り合いつけて、ってね」

髪を払って立ち上がるアスカ
6143/5:2014/07/12(土) 12:48:47.71 ID:???
心配そうなヒカリ
見下ろして少し笑うアスカ

 アスカ「さ、帰ろっか。お腹すいちゃった」
 .ヒカリ「うん…」

片付け始める二人
教室の扉が開く
ジャージ姿の女子数人がカバンを取りに入る

 女子「あ、ヒカリ! に、式波さんじゃん! うっそー、まだいたんだ」
  .ヒカリ「うん、でももう帰るところ」
 女子「てことは今までずっとやってたの?! すごいね」
 女子「ほんとほんと。うちらの部活より、よっぽど真面目にやってるかも」
 女子「ね。うーん、私も式波さん応援組になろっかな。まじで」
 女子「それで男子と一緒に騒ぐわけ? まーいいけどさー。じゃね、ヒカリ」
  .ヒカリ「また明日ねー。
  .   …アスカさん? どうしたの?」
 .アスカ「べ、別に」
  .ヒカリ「…ねっ?」
 .アスカ「な、何?」
  .ヒカリ「さっき言ったこと。皆、アスカさんのこと気になってるのよ。そうだったでしょ?」
 .アスカ「…まあ、そうみたいだけど」
6154/5:2014/07/12(土) 12:51:02.36 ID:???
  ヒカリ「人類全体を守ってるアスカさんには、足元の私たちなんか気にしてる余裕、ない
     かもしれないけど…でもね、皆、アスカさんのこと見てたいし、応援したいのよ。
     私も、その一人」

はにかみがちに笑うヒカリ
瞬きするアスカ
怒ったようにそっぽを向く

 アスカ「…私、そういうの、あんまり好きじゃないんだけど」
 .ヒカリ「…あっ…」
 アスカ「好きじゃないし、たぶん応えられないけど、…でも、嫌ってほどでもないから。
    …まだ、よくわからないだけ」
 .ヒカリ「アスカさん…」
 アスカ「あーあ、慣れないことしたら疲れちゃった。
    もう帰ろ。途中まで、一緒に行ってもいい? 寄り道はできないけど」
 .ヒカリ「え、…いいの? でも、ネルフ本部に行くんじゃ」
 アスカ「今日は久しぶりにヒマだから、平気。あ、何か約束とかあるなら、別にいいけど」
 .ヒカリ「う、ううん、ない! 全然! 大丈夫だから!」
 アスカ「じゃ、行こ。…何よ、そこまで嬉しそうな顔しなくたって…ん?」
6165/5:2014/07/12(土) 12:52:59.75 ID:???
 .ヒカリ「どうしたの?」
 アスカ「何よー…あ、本部からの連絡。一応、すぐ確認しなきゃいけなくて」
 .ヒカリ「あっ、ごめんなさい。普通の人には秘密よね」
 アスカ「そんな大げさなもんじゃないってば。…!」

表情を険しくするアスカ
しばらくして携帯を切りカバンに突っ込む
見守るしかないヒカリ

 アスカ「ごめん、行こ。何でもなかった」
 .ヒカリ「そ、そう?」
 アスカ「そ。私にはどうでもいいこと」
 アスカ(3号機の起動実験…よりによって金曜日、か。
    ま、関係ないわ。どうせ妹が、命令されるままパイロット引き受けて、乗るんでしょ。
    馬鹿シンジは残念がるかもしれないけど、それこそ、関係ないし)

やや乱暴にカバンを持ち上げ、ヒカリと一緒に教室を出るアスカ
固く引き結んだ口元
6171/4:2014/07/14(月) 21:49:47.82 ID:???
本部技術局
リツコの検診を受け終え身じまいをするレイ
目をやるリツコ

 リツコ「どう? 歌の練習は。はかどってるの?」
  レイ「…!」
 リツコ「あら、答えられない?」
  レイ「…いえ」
 リツコ「まさか、あなたが自分から何かしようと言い出すなんてね。正直信じかねるわ。
    他人のためを思っての行動、だなんて。…ああ、他人じゃなかったわね。肉親は」
  レイ「……」
 リツコ「ごめんなさいね。不愉快だったかしら」
  レイ「…、いいえ」

まっすぐ視線を向けてくるレイ
初めて見る相手のように凝視するリツコ
目を逸らす

 リツコ「学校に家族ごっこもいいけど、あなたの本分はあくまでもエヴァのパイロットなのよ。
    使徒殲滅の任務はもちろん、エヴァの技術の向上をはかるための実験の被験者、
    テストパイロットでもあるわ。
    新しい人間関係の居心地良さに、どうも近頃、少し忘れてるようだけど」
6182/4:2014/07/14(月) 21:51:50.17 ID:???
 リツコ「そういえば、3号機の起動実験の日程、決まったわ。今週の金曜日」
  .レイ「!」
 リツコ「あなたはこのところ、体調も精神面も良好。先の使徒戦での後遺症も、目下
    認められない。何も問題ないわね、3号機のテストパイロットとして」

横目でレイを見るリツコ
感情をわずかに覗かせ訴えるような目をしているレイ
そのままうつむく

  リツコ「あなたの価値はエヴァに乗ること。そのために、ここにいるのよ。わかってるわね」
  .レイ「…はい」
  リツコ「さて、もういいわ。帰って休みなさい」
  .レイ「…はい」

立ち去るレイ
閉じた扉をしばし見守っているリツコ
ふと、自分の唇の両端が吊り上っているのに気づく
激しい自己嫌悪が全身を呑む
6193/4:2014/07/14(月) 21:54:02.28 ID:???
葛城家
風呂から上がって浴室を出るレイ
ふと鏡に目がとまる
湯気でぼやけた鏡に映る自分の姿
じっと見つめるレイ

後刻
バスタブにつかって電話中のミサト

 ..ミサト「だから、わかってるわよ。リツコからも駄目押しされたし…決定は決定よ。
     いくら不自然な点が多いからって、こっちは黙って実験を行うするしかないわ」
 加持『ま、それはそうだな』
 ..ミサト「にしても、おかしいところだらけか。今になって急に3号機をウチに押し付ける…
     これだけ無理な日程を押し通して、外交ルートも無視して。まるで…」
 加持『…今になって、起動実験そのものを急いでいるかのように。
     それも建造した米国ではなく、この本部のある日本に輸送した上で、だ』
 ..ミサト「…3号機を、日本に急ぎ移す理由があるということ…?」
 加持『それが何かまではわからないけどな。…とにかく、気をつけろよ』
 ..ミサト「わかってる。じゃ」
6204/4:2014/07/14(月) 21:55:21.29 ID:???
タオルで頭拭きながら出てくるミサト
リビングにレイとペンペン

 .ミサト「…シンジ君は?」
  レイ「さっき、部屋に」
 .ミサト「そ。もう寝るのかしらん、いつもより早いけど」
  レイ「…楽譜。見てたいって」
 .ミサト「お、そっか。はりきってるわねー、シンジ君。これはレイも負けてられないわよ」
  レイ「…あの」
 .ミサト「ん?」

まっすぐミサトを見上げているレイ

  レイ「…少し、話、いいですか」
 .ミサト「いいけど…?」
621名無しが氏んでも代わりはいるもの:2014/07/15(火) 02:00:40.14 ID:???
レイどうしたのかな?
6221/5:2014/07/18(金) 11:10:50.38 ID:???
>>621 読んでくださってありがとうございます
     レイは、ミサトさんにお願いを打ち明けたところです


自室のシンジ
机の上に広げられた『翼をください』の楽譜

 シンジ「え…じゃあ、レイの練習って、ケンスケたちが手伝ってくれてたの?!」
.ケンスケ『いやいや、俺たちは空き教室とかデッキとか、お膳立てしただけだよ。
     ホントは委員長に任せたかったんだけどさ。なんか式波の方に肩入れして、
     そっちに一生懸命になっちまってるみたいだから。いやー、いろいろと想定外…
     って、これはこっちの話。
     碇妹さ、がんばってるよ。ただし、肝心の歌声は「本番までヒミツ」だってさ』
 シンジ「そうなんだ…
     ごめん、本当は僕がやらなきゃならないことだよな」
.ケンスケ『気にするなって。俺たちだって言いだしっぺだし、せめてもの責任ってやつだよ。
     大体、シンジが手ぇ出したら式波がうるさいぞ。妹ばっかりエコヒイキ、ってさ』
 シンジ「それは…そうだけど、でも、ごめん。わざわざ」
.ケンスケ『だから、気にすんなって。それよりシンジはピアノの方、頼むぜ』
 シンジ「うん…」
.ケンスケ『んーむ、実を言うと…ちょっと困ってるんだよな』
 シンジ「えっ?!」
6232/5:2014/07/18(金) 11:12:49.64 ID:???
.ケンスケ『いや、トウジの奴がさ。やたら張り切ってるっていうか…妹連れてきて、碇妹の
     歌を見てもらおうかとか言い出してるんだよ。ありゃ、妹自慢したいのと半々だな』
 シンジ「…ええ? でも、トウジの妹さんって、確か」
.ケンスケ『そ、小学二年生のサクラちゃん。
     トウジいわく歌が大得意で、小学校の合唱クラブにも入ってるんだとさ。ま、俺らじゃ
     歌を教えるまではできないし、一応アリかもなって』
 シンジ「そっか…その、ありがとう。ほんとに」
.ケンスケ『いいって。その代わり、もし実現したら、トウジの妹自慢に付き合うの、お前も手伝って
     もらうからな。絶対長くなる気がするんだよ、ほんと』
 シンジ「はは、わかったよ」

携帯切って天井を仰ぐシンジ
ふいに真顔になる

 シンジ(みんな、レイのこと心配してくれてるんだ。ミサトさんも)
 シンジ(…僕は何ができるだろう。レイが喜んでくれるようなこと…レイが、気持ちよく
     歌えて、それで、歌うことにして良かったって思えるようなこと。何か)
 シンジ(何か…)
 シンジ「…やっぱり、…それしか、ないよな」

口元をぎゅっと引き結ぶシンジ
6243/5:2014/07/18(金) 11:13:49.03 ID:???
アスカの自室
ベッドに仰向けに寝転がって動かないアスカ
いらいらと天井を見つめている
携帯の着信音
弾けるように跳ね起き、携帯を掴むアスカ
発信者名を見て表情が元に戻る

 アスカ「はい? 何、ミサト。…べっつに、もう寝るとこ。
    えー? あーあー、聞いてるわよ。金曜、なんでしょ。もう知ってるってば…
    …は? それはミサトが決めることでしょ、私には関係な…え?」

目を見開くアスカ
うわべの倦怠が一瞬で吹き飛ぶ


葛城家リビング

 .ミサト「…ええ。とにかく、アスカには知らせておく必要があると思ったから。…今日は
    もう遅いわ、明日また、話し合いましょう。じゃ」

通話を切って視線を向けるミサト
6254/5:2014/07/18(金) 11:15:35.36 ID:???
見つめ返すレイ
優しい表情で訊ねるミサト

 .ミサト「本当に、いいの? レイ」
  レイ「…はい」
 .ミサト「あんなに楽しみにしてたのに…もしかして、シンジ君のため?」
  レイ「……」

レイの視線が少し揺らぐ
シンジの部屋の方向に頭を巡らすレイ
ほのかに微笑む

  レイ「お兄ちゃんも、だけど、…みんな。
    学校のみんな。ネルフのみんな。…皆がいてくれて、私も、ここにいられるから。
    …お兄ちゃんや皆にいてほしいから、皆を、守れるようになりたい。私」
 .ミサト「…そっか。
    わかった。レイが自分で決めたことなら、何も言わないわ。…よく決心してくれたわね、
    レイ。ありがとう」

はにかんでうつむくレイ
どこまでも優しい眼差
膝もとにぴったりくっついているペンペン
6265/5:2014/07/18(金) 11:18:26.70 ID:???
ベッドに横たわったアスカ
傍に投げ出された携帯
暗い室内

 アスカ(妹が、3号機のテストパイロットを引き受けた…? それも自分から志願して)
 アスカ(…なんでよ。
    金曜なのよ。歌えなくなる、…馬鹿シンジと、歌えなくなるじゃない。自分で始めたのに)
   レイ(たぶん、私がエヴァを降ろされることは、ないと思うから)
 アスカ(…大してエヴァに乗りたがってるわけでもないくせに)
  アスカ(封印するなら、修理中の零号機にすればいいじゃない!)
 アスカ(! まさか、2号機の封印措置を解除するために…?
    馬鹿、そんな簡単な話じゃないって、わかってるはずでしょ。…いや、違うか。
    あの子、上の命令には絶対に従うもの。それにもし考えの中にあったとしても、2号機の
    ためだけにってことはない。もっと何か、別の理由…)
   レイ(…零号機は、応用規格の少ない試作型。…私じゃなくても乗れる)
  アスカ(何言ってんのよ、あんたらしくもない)
 アスカ「!」

起き上がるアスカ
闇を睨む

 アスカ「…冗談じゃないわ」
6271/7:2014/07/20(日) 00:08:14.52 ID:???
葛城家 朝食後
キッチンで片付けと弁当の用意に忙しいシンジ
ふとベランダに目をやる
風の中で洗濯物を干しているレイ
最後の洗濯ばさみを留めて、室内に戻ってくる
とっさに手元に意識を集中するシンジ
不確かな焦り

 シンジ「…ん」

傍に来るレイ
少し硬い沈黙
急いで、いつもの顔をとりつくろうシンジ

 シンジ「…なんだよ、どうしたの?」
  .レイ「お兄ちゃん、…」

口をつぐむレイ
6282/7:2014/07/20(日) 00:10:01.96 ID:???
 .ミサト(レイの気持ち、よくわかった。でもまだ少し時間はあるわ。アスカも何か言いたい
     だろうし、今、ここだけで決めてしまうこともないと思うの。
     そうね…明日一日、夜までに、もう一度ゆっくり考えてみて。それまでシンジ君には
     まだ、このことは伏せておきましょ)

 シンジ「…レイ?」
  .レイ「…、何でもない。
     あ、お兄ちゃん、ミサトさんのお弁当。…梅干、入れ忘れ」
 シンジ「あっ…そっか。ごめん、ありがと、レイ」
  .レイ「…うん」

わずかに複雑な笑みを見せるレイ
同じためらいがちの笑顔で応えるシンジ
微妙な軋みを残し、再び流れ出す日常
6293/7:2014/07/20(日) 00:12:57.69 ID:???
授業中のシンジ
レイを気にする
いつもより背筋が伸びている感じのレイの後ろ姿

.ケンスケ(碇妹さ。がんばってるよ)
 シンジ(…うん。
     だから、僕もやるんだ。…上手く行くわけない、かもしれない。
     でも、僕がそうしたいから)

独り表情を引き締めるシンジ
そのシンジを横目で見ているアスカ

 アスカ(いつも通りぼけっとしちゃって…あの分だと、まだ知らないわね、きっと。
     …ミサト、かな。ま、こっちもその方が都合いいけど)

少し睨んで、前を向くアスカ
6304/7:2014/07/20(日) 00:17:57.78 ID:???
放課後 教室内を見回すアスカ

 .アスカ「あれ? …馬鹿シンジは?」
  ヒカリ「いないの? さっきまで、席にいたと思ったけど」
 トウジ「シンジならついさっき、帰ったで」
 .アスカ「!」

アスカの本気睨みにビビるトウジ、ケンスケ

 トウジ「な、な、何や。ワシらやないッて」
.ケンスケ「い、急ぎの用事があるんだってさ。ネルフ本部で。式波こそ聞いてないの」
 .アスカ「は? …馬鹿シンジの予定なんか、この私が把握しとく筋合いはないでしょ!」
.ケンスケ「うわッ」
 トウジ「…アホ! 何刺激しとんのや!」
.ケンスケ「う…何なんだ、いつもに増して剣呑な感じだけど」
 トウジ「やめやめ、触らぬ神に祟りなしやって」

男子二人は放置してレイの方を睨むアスカ
カバンと楽譜を持ち、別の教室へ移動しようとしているレイ
じっと譜面に目を落としている
視線を緩めるアスカ
一瞬、何とも言えない表情になる

 アスカ「…そ。
     ま、いないなら、いいんだけど。…別に」
6315/7:2014/07/20(日) 00:18:54.22 ID:???
放課後遅くの教室
ヒカリと一緒に楽譜を見直しているアスカ
心配そうなヒカリ

 .ヒカリ「さっきの…どうしたのか、聞いていい?」
 アスカ「ん?」
 .ヒカリ「碇君のこと。何か、用があったんじゃないの?」
 アスカ「ああ、さっきの…
    べっつに、大したことじゃないわ。…金曜にいきなりぶっつけ本番ってのも変だし、
    事前に一回くらい、ピアノと合わせて歌っといた方がいっかなって、思っただけ。
    あ、もちろん妹とは別でよ」
 .ヒカリ「そっか…残念ね。でも、また明日でもいいじゃない」
 アスカ「…そうね」

廊下をレイの姿が通り過ぎる
目をやるアスカ
急に楽譜を閉じる

 .ヒカリ「アスカさん?」
6326/7:2014/07/20(日) 00:19:48.78 ID:???
 アスカ「…ヒカリ。
    悪いけど、今日はここまでにしよ。あと、今日は一緒に帰れない」
 .ヒカリ「え? うん、別にいいけど…」
 アスカ「私、ちょっとやらなきゃいけないことがあるから」

急いで帰り支度して立ち上がるアスカ
ヒカリを振り返る

 アスカ「…ごめんね」
 .ヒカリ「え?」

足早に出ていくアスカ
がらんとした教室に取り残されるヒカリ
6337/7
広い夕焼け空の下の第三新東京市
長い影を曳いて歩くレイ
近づいてきた足音が背後で止まる
振り返るレイ
険しい表情で仁王立ちしているアスカ

 アスカ「…妹。ちょっと、付き合って」